(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】光ファイバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/036 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
G02B6/036
(21)【出願番号】P 2021022308
(22)【出願日】2021-02-16
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2020076680
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小島 大輝
(72)【発明者】
【氏名】井上 大
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-511751(JP,A)
【文献】特開2014-010412(JP,A)
【文献】特表2019-530005(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142878(WO,A1)
【文献】特開2011-107672(JP,A)
【文献】特開2010-271448(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0293885(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02 - 6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部に半径r1のコア、該コアに半径位置r1で隣接してその外周を覆い最外半径r2の第一クラッド層、該第一クラッド層に半径位置r2で隣接してその外周を覆い最外半径r3の第二クラッド層、及び該第二クラッド層に半径位置r3で隣接してその外周を覆う第三クラッド層からなる光ファイバにおいて、
前記光ファイバの外径をrfとしたとき1/2rf~rfの平均屈折率をn0としたときに、半径位置r3は、半径位置r2から外側に向かって最初に屈折率がn0となる半径位置であり、半径位置r1は中心から外側に向かって最初に屈折率がn0となる半径位置であり、
前記第一クラッド層の屈折率が、内側から外側に向かって連続的
に低下して半径位置r1で最大値をとり、半径位置r2で最小値をとり、且つ、
前記第二クラッド層の屈折率が、内側から外側に向かって連続的
に上昇して半径位置r2で最小値をとり、半径位置r3で最大値をと
り、
rが0~r1の範囲で|dΔ(r)/dr|≦0.3%/μmが成り立ち、かつrがr1~r2の範囲で|dΔ(r)/dr|≦0.05%/μmが成り立ち、かつrがr2~r3の範囲で|dΔ(r)/dr|≦0.1%/μmが成り立つことを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記コアは最大比屈折率差Δ1maxを有し、前記第一クラッド層は半径位置r1において比屈折率差Δ2及び半径位置r2において最小比屈折率差Δ3minを有し、前記第二クラッド層は半径位置r3において比屈折率差Δ4を有し、
Δ1max>Δ2、Δ2>Δ3min、Δ4>Δ3min、Δ2=Δ4
であることを特徴とする請求項
1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記第一クラッド層と前記第二クラッド層とが接する半径位置r2付近において、屈折率分布形状曲線の傾きが負から正に変化することを特徴とする請求項1
または2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記コアに添加した正のドーパントは半径方向に濃度分布を持ち、その最大値は、第三クラッドの平均屈折率を基準とした比屈折率差が0.30~0.50%となるように添加されていることを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記第一クラッド層および第二クラッド層に添加した負のドーパントは、第三クラッドの平均屈折率を基準とした
半径位置r2における比屈折率差が-0.20~-0.03%となるように添加されていることを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記コアに添加した正のドーパントは半径方向に濃度分布を持ち、その最大値は、第三クラッドの平均屈折率を基準とした比屈折率差が0.30~0.50%となるように添加されており、
前記第一クラッド層および第二クラッド層に添加した負のドーパントは、第三クラッドの平均屈折率を基準とした半径位置r2における比屈折率差が-0.20~-0.03%となるように添加されており、
前記正のドーパントがゲルマニウムおよび/または塩素であり、
前記負のドーパントがフッ素であることを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項7】
1550nmの波長で約0.1845dB/km未満の減衰を有することを特徴とする請求項1から
6のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項8】
半径10mmの曲げを与えた際の波長1550nmにおける曲げ損失が0.5dB/turn以下であることを特徴とする請求項1から
7のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項9】
零分散波長が1300~1324nmであることを特徴とする請求項1から
8のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項10】
1310nmにおけるモードフィールド直径が8.8~9.6μmであることを特徴とする請求項1から
9のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項11】
22mのファイバ長で測定したカットオフ波長が1260nm以下である請求項1から1
0のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信用の光ファイバに関し、特に、従来のシングルモード光ファイバと同等のカットオフ波長、モードフィールド直径、零分散波長などの伝送特性を有しつつ、曲げによる伝送損失が小さく、かつ各波長での伝送損失を低減した光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシングルモード光ファイバは、信号光が光ファイバのコア部を伝搬し、光ファイバが多少曲がった状態でも信号を伝送することが可能であるという特徴がある。一般にシングルモード光ファイバでは、その曲げ半径が小さくなるにつれ、伝搬しきれずにコアから漏洩する光の割合が指数関数的に増大し、伝送損失増となって現れる。これが曲げ損失である。近年、光ファイバは曲率半径15mm以下~10mm程度で曲げた状態で用いられる可能性がある一方で、より低損失な光ファイバが求められる。
【0003】
曲げ損失を低減するには、コアの屈折率を高めて光をよりコアに集束させるのが効果的である。これはモードフィールド直径(MFD)を小さくすることによって改善される。このため、従来は、約8.2~8.8μmのMFDの光ファイバが用いられることが多い。こうすることによって、例えば、r10mmのマンドレル(円筒)に光ファイバを巻きつけた際の曲げ損失で、波長1550nmにおいて0.5dB/turn以下が実現されている。
【0004】
ところが、長距離系の光通信で一般的に用いられているITU-TG.652.D規格の光ファイバのMFDは、8.8~9.6μm程度であるため、上述のような曲げ損失を低減した光ファイバと規格に則った光ファイバとを接続する場合にMFDの違いによる接続損失が大きくなるという問題がある。
【0005】
この問題を解決すべく、特許文献1には、トレンチ型光ファイバを用いることにより、MFDを大きく設計しつつ曲げ損失を低減できることが開示されている。これは古くから知られた公知技術であるが、近年、その優秀な曲げ損失特性が着目されている。
【0006】
ところが、トレンチ型の屈折率分布を有する光ファイバの場合、ガラス組成が大きく変化する界面が存在するため、屈折率が大きく変化する領域において残留応力が発生し、伝送損失増加の要因となる。この伝送損失は波長依存性が小さいことから特定の不純物に起因する吸収損失ではなく、一般に構造不整損失と呼ばれる。
【0007】
特許文献2には、トレンチのクラッド部の傾きを規定し、構造不整損失を低減する試みが開示されている。しかし、特許文献2に記載の手法では、クラッドの一部しか規定されておらず、構造不整損失を十分低減するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第4852968号
【文献】特許第5799903号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の従来技術に鑑み、本発明は、構造不整の少ない屈折率分布形状を有する光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様における光ファイバは、中心部に半径r1のコア、該コアに半径位置r1で隣接してその外周を覆い最外半径r2の第一クラッド層、該第一クラッド層に半径位置r2で隣接してその外周を覆い最外半径r3の第二クラッド層、及び該第二クラッド層に半径位置r3で隣接してその外周を覆う第三クラッド層からなる。前記第一クラッド層の屈折率は、内側から外側に向かって連続的になだらかに低下して半径位置r1で最大値をとり、半径位置r2で最小値をとる。前記第二クラッド層の屈折率は、内側から外側に向かって連続的になだらかに上昇して半径位置r2で最小値をとり、半径位置r3で最大値をとる。
【0011】
本発明では、rが0~r1の範囲で|dΔ(r)/dr|≦0.3%/μmが成り立ち、かつrがr1~r2の範囲で|dΔ(r)/dr|≦0.05%/μmが成り立ち、かつrがr2~r3の範囲で|dΔ(r)/dr|≦0.1%/μmが成り立つとよい。
【0012】
本発明では、前記コアは最大比屈折率差Δ1maxを有し、前記第一クラッド層は半径位置r1において比屈折率差Δ2及び半径位置r2において最小比屈折率差Δ3minを有し、前記第二クラッド層は半径位置r3において比屈折率差Δ4を有し、Δ1max>Δ2、Δ2>Δ3min、Δ4>Δ3min、Δ2=Δ4であるとよい。
【0013】
本発明では、前記第一クラッド層と前記第二クラッド層とが接する半径位置r2付近において、屈折率分布形状曲線の傾きが負から正に変化するとよい。
【0014】
本発明では、前記コアに添加した正のドーパントは半径方向に濃度分布を持ち、その最大値は、第三クラッドの平均屈折率を基準とした比屈折率差が0.30~0.50%となるように添加されているとよい。
【0015】
本発明では、前記第一クラッド層および第二クラッド層に添加した負のドーパントは、第三クラッドの平均屈折率を基準とした比屈折率差が-0.20~-0.03%となるように添加されているとよい。
【0016】
本発明では、前記正のドーパントがゲルマニウムおよび/または塩素であり、負のドーパントがフッ素であるとよい。
【0017】
本発明では、光ファイバは、1550nmの波長で約0.1845dB/km未満の減衰を有するとよい。また、光ファイバは、半径10mmの曲げを与えた際の波長1550nmにおける曲げ損失が0.5dB/turn以下であるとよい。また、光ファイバは、零分散波長が1300~1324nmであるとよい。また、光ファイバは、1310nmにおけるモードフィールド直径が8.8~9.6μmであるとよい。また、光ファイバは、22mのファイバ長で測定したカットオフ波長が1260nm以下であるとよい。
【0018】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、伝送損失が低く、MFDを8.8~9.6μmを保ちつつも曲げ損失を小さい光ファイバを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る光ファイバ1の断面構造を示す。
【
図2】本実施形態に係る光ファイバ1の屈折率分布構造の一例を示す。
【
図3】
図2の屈折率分布構造から計算した|dΔ(r)/dr|を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係る光ファイバ1の断面構造を示す。また、
図2は、本実施形態に係る光ファイバ1の屈折率分布構造の一例を示す。本実施形態に係る光ファイバは、従来のシングルモード光ファイバと同等以上の低損失な伝送特性および曲げ損失を備える。
【0023】
図1に示すように、光ファイバ1は、三層クラッド構造を有するトレンチ型の屈折率分布構造を有している。すなわち、光ファイバ1は、中心部に半径r1のコア2、該コア2に半径位置r1で隣接してその外周を覆い最外半径r2を有する第一クラッド層3、該第一クラッド層3に半径位置r2で隣接してその外周を覆い最外半径r3を有する第二クラッド層4、及び該第二クラッド層4に半径位置r3で隣接してその外周を覆う第三クラッド層5からなる。第三クラッド層5は、半径位置rfがその外周となる。第三クラッド層5の外周は光ファイバ1の最外表面となる。
図2に示されるように、光ファイバ1の屈折率分布は、コア2、第1クラッド層3および第2クラッド層4で急激な屈折率変化領域がない。すなわち急激な組成変化領域がない。
【0024】
本明細書において、各層の半径は以下のように定義される。ファイバ中の任意の位置(中心からの距離)rにおける屈折率をn(r)とする。r2は屈折率分布において最低屈折率となる位置である。ファイバの外径をrfとしたとき1/2rf~rfの平均屈折率をn0とする。r3は屈折率分布において、r2から外側に向かって最初にn(r)=n0となるrとする。r1は屈折率分布の中心から外側に向かって最初にn(r)=n0となるrとする。
【0025】
図2に示されるように、前記第一クラッド層の屈折率は、内側から外側に向かって連続的になだらかに低下して半径位置r1で最大値をとり、半径位置r2で最小値をとる。前記第二クラッド層の屈折率は、内側から外側に向かって連続的になだらかに上昇して半径位置r2で最小値をとり、半径位置r3で最大値をとる。つまり、第一クラッド層と第二クラッド層とが接する半径位置r2付近において、屈折率分布形状曲線の傾きが負から正に変化する。
【0026】
また、各層の比屈折率差は、以下のように定義される。rにおける比屈折率差Δ(r)=100×(n(r)-n0)/n(r)とする。Δ1maxはプロファイル内の最大比屈折率差とする。また、Δ2=Δ(r1)、Δ3min=Δ(r2)、Δ0はΔ(1/2rf)~Δ(rf)の平均比屈折率差とする。
【0027】
ITU-TG.652.Dの規定MFD内となるようにコアの比屈折率差を調整すべく、コアの比屈折率差は0.30~0.50%とすることが望ましい。比屈折率差が0.3%未満となると、クラッドとの屈折率差が小さくなり、所定の曲げ損失(たとえば半径10mmの曲げを与えた際の波長1550nmにおける曲げ損失が0.5dB/turn以下)が得られなくなる。また、0.5%以上となると、コア部におけるドーパント濃度が高くなり、レイリー散乱の増加による伝送損失の悪化が懸念される。
【0028】
第一クラッド層および第二クラッド層の比屈折率差は-0.20~-0.03%とすることが望ましい。比屈折率差が-0.03%より大きくなると、コアとの屈折率差が小さくなり、所定の曲げ損失(たとえば半径10mmの曲げを与えた際の波長1550nmにおける曲げ損失が0.5dB/turn以下)が得られなくなる。また、比屈折率差が-0.20%未満となると、クラッドにおける負のドーパント濃度が高くなり、レイリー散乱の増加による伝送損失の悪化が懸念される。
【0029】
次に、本発明に係るシングルモード光ファイバの製造方法について説明する。まず、VAD法により、コアおよび中間層からなる多孔質ガラス母材を一体合成する。その際、コアには屈折率を上昇させるためのゲルマニウムをドープする。
【0030】
このとき、スート堆積温度を制御することにより、ガラス微粒子(スート)の嵩密度を調節することができる。嵩密度が高いほど後工程であるフッ素雰囲気中での焼結工程においてフッ素ドープ量を抑制することができる。
【0031】
次に、以下の手順で当該スート母材を焼結する。まず、スート母材の脱OH処理およびフッ素ドープ処理として、炉内ガスAr=20L/min、Cl2=0.5L/min、SiF4=0.1L/minの混合ガス雰囲気で、焼結温度1200℃、引き下げ速度10mm/minで、スート母材全長を加熱処理する。次に、透明ガラス化処理として、炉内ガスHe=20L/minのガス雰囲気で、焼結温度1500℃、送り速度5mm/minで、スート母材全長を加熱処理する。
【0032】
このようにして得た透明ガラスコア母材を、ガラス旋盤にて所定径に延伸して長手方向の外径を揃える。このとき、ガラス旋盤の酸水素火炎の影響で母材の表面にOH基が取り込まれるが、この透明ガラスコア母材をフッ化水素酸水溶液に浸漬して表面を溶かすことによってこれを除去する。なお、ガラス旋盤で延伸する際、その加熱源にプラズマ火炎を用いてもよい。その場合は、コア母材の表面にOH基が混入しないため、フッ化水素酸による処理を省略することができる。
【0033】
こうして作製した透明コア母材をターゲットとしてOVDを実施して多孔質母材を得る。そして、得られた多孔質母材を焼結して、透明ガラス化することにより光ファイバ母材を作製する。得られた光ファイバ母材を約2100℃に加熱し紡糸することによって、直径125μmの光ファイバを得ることができる。
【0034】
ここで、光ファイバの中では、中心で多くの光が通過し、中心から外れるにしたがい、光の通過量は少なくなる。しかし、伝搬光の一部がクラッド領域にも漏れる。コア、クラッド領域での屈折率変化を小さくすることにより構造不整損失の低減が可能である。本願では、屈折率変化を|dΔ(r)/dr|、すなわち、比屈折率差Δ(r)の半径方向の微分値の大きさで定義して規格化するとともに、各部位での|dΔ(r)/dr|の適切な値の範囲を明らかにした。
【0035】
図3は、
図2の屈折率分布構造から計算した|dΔ(r)/dr|を示す。屈折率分布構造は、直径125μmの光ファイバを用意して0.15μmピッチで比屈折率差Δ(r)を求めてこれをプロットすることで得られる。そして、比屈折率差の径分布Δ(r)を微分することでdΔ(r)/drを求めることができる。そして、変化の方向(増加か減少か)は無視しつつ屈折率変化の急峻さのみに着目するためにdΔ(r)/drの絶対値である|dΔ(r)/dr|を得る。
【0036】
以下、各部位における|dΔ(r)/dr|の適切な値の範囲と、それを実現するための製造方法上の留意点について説明する。
まず、|dΔ(r)/dr|(0~r1)は、0.3%/μm以下とすることが好ましい。急激な屈折率変化がないすなわちガラス組成の大きな変化を抑制することで構造不整損失の低減が可能である。
【0037】
|dΔ(r)/dr|(0~r1)を低減するには、焼結時の引き下げ速度を調整するとよい。具体的には引き下げ速度を遅くすることで、中心のGeのクラッドへの拡散を促し、|dΔ(r)/dr|(0~r1)を低減することができる。また、脱水時の塩素濃度を上げることでも|dΔ(r)/dr|(0~r1)を低減することができる。
【0038】
|dΔ(r)/dr|(r1~r2)は、0.05%/μm以下とすることが好ましい。|dΔ(r)/dr|(r1~r2)が0.05より大きくなると、急激な屈折率変化のため構造不整損失が増加する。
【0039】
|dΔ(r)/dr|(r1~r2)を低減するには、焼結時の引き下げ速度を調整するとよい。具体的には引き下げ速度を遅くすることで、中心のGeのクラッドへの拡散を促し、|dΔ(r)/dr|(r1~r2)を低減することができる。また、脱水時の塩素濃度を上げることでも|dΔ(r)/dr|(r1~r2)を低減することができる。また、脱水時の四フッ化ケイ素の濃度を調整することでも|dΔ(r)/dr|(r1~r2)を低減することができる。また、脱水工程とフッ素ドープ工程を分けることでも|dΔ(r)/dr|(r1~r2)を低減することができる。
【0040】
|dΔ(r)/dr|(r2~r3)は、0.1%/μm以下とすることが好ましい。|dΔ(r)/dr|(r2~r3)が0.1より大きくなると、急激な屈折率変化のため構造不整損失が増加する。
【0041】
|dΔ(r)/dr|(r2~r3)を低減するには、脱水工程とガラス化工程間に多孔質ガラス母材表面のフッ素を抜く工程を挟むとよい。
【実施例】
【0042】
[実施例1-1]
まず、VAD法により、コアおよび中間層からなる多孔質ガラス母材を一体合成した。コアには屈折率を上昇させるためのゲルマニウムをドープした。この多孔質ガラス母材を、塩素ガスを毎分1リットルと四フッ化シランガスを毎分0.1リットルとArガスを毎分20リットルの混合ガス流雰囲気中にて約1200℃に加熱し、多孔質ガラス母材を10mm/minで引き下げ、脱水およびフッ素ドープを行った。続いて、約1500℃に加熱し、中実な透明ガラスコア母材とした。なお、四フッ化シランガスに代えて、四フッ化メタンや六フッ化エタンなどを使用してもよい。
【0043】
この透明ガラスコア母材をガラス旋盤にて所定径に延伸して長手方向の外径を揃えた。このとき、ガラス旋盤の酸水素火炎の影響で表面にOH基が取り込まれるが、この透明ガラスコア母材をフッ化水素酸水溶液に浸漬して表面を溶かすことによってこれを除去した。なお、ガラス旋盤で延伸する際、その加熱源にアルゴンプラズマ火炎を用いてもよい。その場合は、コア母材の表面にOH基が混入しないため、フッ化水素酸による処理を省略することができる。
【0044】
こうして作製した、コア、第一クラッド層、第二クラッド層からなる透明コア母材をターゲットとしてOVDを実施した。こうして得られた多孔質母材を焼結して、透明ガラス化することにより光ファイバ母材を作製した。得られた母材を約2100℃に加熱し紡糸することによって、直径125μmの光ファイバを得た。
【0045】
[実施例1-2]
まず、VAD法により、コアおよび中間層からなる多孔質ガラス母材を一体合成した。コアには屈折率を上昇させるためのゲルマニウムをドープした。この多孔質ガラス母材を、塩素ガスを毎分1.5リットルと四フッ化シランガスを毎分0.12リットルとArガスを毎分20リットルの混合ガス流雰囲気中にて約1200℃に加熱し、多孔質ガラス母材を10mm/minで引き下げ、脱水およびフッ素ドープを行った。その後、表面のフッ素を抜く工程として1300℃で1時間多孔質ガラス母材を加熱する工程を加えた。その際、Heを毎分20リットル流した。続いて、約1500℃に加熱し、中実な透明ガラスコア母材とした。その後は実施例1-1と同様の方法で光ファイバを得た。
【0046】
[実施例1-3]
まず、VAD法により、コアおよび中間層からなる多孔質ガラス母材を一体合成した。コアには屈折率を上昇させるためのゲルマニウムをドープした。この多孔質ガラス母材を、塩素ガスを毎分2.0リットルと四フッ化シランガスを毎分0.14リットルとArガスを毎分20リットルの混合ガス流雰囲気中にて約1200℃に加熱し、多孔質ガラス母材を10mm/minで引き下げ、脱水およびフッ素ドープを行った。その後、表面のフッ素を抜く工程として1300℃で4時間多孔質ガラス母材を加熱する工程を加えた。その際、Heを毎分20リットル流した。続いて、約1500℃に加熱し、中実な透明ガラスコア母材とした。その後は実施例1-1と同様の方法で光ファイバを得た。
【0047】
[比較例1-1]
まず、VAD法により、コアおよび中間層からなる多孔質ガラス母材を一体合成した。コアには屈折率を上昇させるためのゲルマニウムをドープした。この多孔質ガラス母材を、塩素ガスを毎分0.5リットルと四フッ化シランガスを毎分0.1リットルとArガスを毎分20リットルの混合ガス流雰囲気中にて約1200℃に加熱し、多孔質ガラス母材を10mm/minで引き下げ、脱水およびフッ素ドープを行った。続いて、約1500℃に加熱し、中実な透明ガラスコア母材とした。その後は実施例1-1と同様の方法で光ファイバを得た。
【0048】
表1に実施例、比較例によって得た光ファイバ1の各種パラメータを示す。
【0049】
【0050】
実施例1-1では、波長1550nmでの伝送損失が0.1842dB/km、R10×1turn(曲げ半径10mmで1巻き)の曲げ損失が0.27dBと十分低い値となった。Geが第一クラッドに拡散し、ガラス化時に表面からフッ素が抜けることでdΔ(r)/drが低減した。
【0051】
実施例1-2では、波長1550nmでの伝送損失が0.1832dB/km、R10×1turnの曲げ損失が0.31dBと実施例1-1よりも低い値となった。脱水時の塩素濃度を上げることで、Geの第一クラッドへの拡散が促進されたため、|dΔ(r)/dr|(0~r1)および|dΔ(r)/dr|(r1~r2)が低減した。また、フッ素の拡散工程を設けることで|dΔ(r)/dr|(r2~r3)が低減した。これらにより構造不整損失が低下し、波長1550nmでの伝送損失が低くなった。
【0052】
実施例1-3では、波長1550nmでの伝送損失が0.1820dB/km、R10×1turnの曲げ損失が0.22dBと実施例1-2よりも低い値となった。脱水時の塩素濃度を上げることで、Geの第一クラッドへの拡散が促進されたため、|dΔ(r)/dr|(0~r1)、|dΔ(r)/dr|(r1~r2)が低減した。また、フッ素の拡散工程時間を延ばすことで|dΔ(r)/dr|(r2~r3)が低減した。これらにより構造不整損失が低下し、波長1550nmでの伝送損失が低くなった。
【0053】
上記の実施例1-1~1-3のいずれにおいても、零分散波長λ0が1300~1324nmでの範囲に入った。また、1310nmにおけるモードフィールド直径が8.8~9.6μmの範囲に入った。また、22mのファイバ長で測定したカットオフ波長λccが1260nm以下となった。これらの各特性は、ITU-T G.652.D勧告に準拠したものである。
【0054】
比較例1では、波長1550nmでの伝送損失が0.1868dB/km、R10×1turnの曲げ損失が0.25dBと各実施例よりも高い値となった。
【符号の説明】
【0055】
1 光ファイバ
2 コア
3 第一クラッド層
4 第二クラッド層
5 第三クラッド層