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特許7455166ITO粒子、分散液及びITO膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】ITO粒子、分散液及びITO膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 19/00 20060101AFI20240315BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
C01G19/00 A
H01B1/20 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022126777
(22)【出願日】2022-08-09
(62)【分割の表示】P 2019564328の分割
【原出願日】2018-11-27
(65)【公開番号】P2022166134
(43)【公開日】2022-11-01
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2018004226
(32)【優先日】2018-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】弁理士法人湘洋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村松 淳司
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 澄志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼子
(72)【発明者】
【氏名】西 康孝
(72)【発明者】
【氏名】中積 誠
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/186573(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/046572(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/064438(WO,A1)
【文献】特開2011-126746(JP,A)
【文献】特開2013-087027(JP,A)
【文献】特開2008-115025(JP,A)
【文献】特開2012-091953(JP,A)
【文献】特開2017-117632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 19/00
H01B 1/20
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される関係を満たし、粒子内部において結晶方位がそろっている、ITO粒子。
16×S/P≦0.330 ・・・(1)
(式中、Sは、TEM撮像写真における1つの粒子の粒子面積を表し、Pは、当該1つの粒子の外周長さを表す。)
【請求項2】
Inの含有量に対するSnの含有量のモル比(Sn/In)が3.5~24である、請求項1に記載のITO粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載のITO粒子が分散媒に分散されてなる分散液。
【請求項4】
前記分散媒は、水を含む、請求項に記載の分散液。
【請求項5】
下記式(1)で表される関係を満たすITO粒子が水を含む分散媒に分散されてなる分散液。
16×S/P ≦0.330 ・・・(1)
(式中、Sは、TEM撮像写真における1つの粒子の粒子面積を表し、Pは、当該1つの粒子の外周長さを表す。)
【請求項6】
前記ITO粒子の、Inの含有量に対するSnの含有量のモル比(Sn/In)が3.5~24である請求項5に記載の分散液。
【請求項7】
前記分散液は、界面活性剤を含まない、請求項3~6のいずれか一項に記載の分散液。
【請求項8】
前記分散媒の体積に対する前記ITO粒子の体積の割合が、40%以下である、請求項のいずれか一項に記載の分散液。
【請求項9】
請求項~8のいずれか一項に記載の分散液をミスト化するミスト化工程と、
ミスト化された前記分散液を、基板に接触させる接触工程と、
前記接触工程後、前記基板上に存在する前記分散液を乾燥させる乾燥工程と、
を含むITO膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ITO粒子、これを分散してなる分散液及びITO膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ITO(酸化インジウムスズ)粒子について、特許文献1には、第四級アンモニウムイオンの水酸化物が還元性有機溶媒に溶解してなる溶液に、インジウム源及びスズ源を添加し反応を行い、次いでオートクレーブ内において加熱して自生圧力下に熟成を行うことで得られるITO粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5706797号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明の第一の態様は、下記式(1)で表される関係を満たし、粒子内部において結晶方位がそろっている、ITO粒子である。16×S/P≦0.330・・・(1)(式中、Sは、TEM撮像写真における1つの粒子の粒子面積を表し、Pは、当該1つの粒子の外周長さを表す。)
【0005】
本発明の第二の態様は、上述したITO粒子が溶媒に分散されてなる分散液である。また、下記式(1)で表される関係を満たすITO粒子が水を含む分散媒に分散されてなる分散液である。16×S/P ≦0.330・・・(1)(式中、Sは、TEM撮像写真における1つの粒子の粒子面積を表し、Pは、当該1つの粒子の外周長さを表す。)
【0006】
本発明の第三の態様は、上述した分散液をミスト化するミスト化工程と、ミスト化された分散液を、基板に接触させる接触工程と、接触工程後、基板上に存在する分散液を乾燥させる乾燥工程と、を含むITO膜の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態におけるミスト法を用いた成膜装置の一例を示す概念図である。
図2】実施例1の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
図3】実施例1と参考例1のゼータ電位の測定結果をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。なお、図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0009】
<ITO粒子>
本実施形態に係るITO粒子は、下記式(1)で表される関係を満たすものである。
16×S/P≦0.330 ・・・(1)
(式中、Sは、TEM撮像写真における粒子面積を表し、Pは、当該粒子の外周長さを表す。)
【0010】
式(1)の粒子面積S及び外周長さPは、TEM撮像写真における粒子の面積及び外周長さであるが、後述する実施例に記載の方法に準拠して求めることができる。粒子面積Sの値は、特に限定されず、例えば、100~4500nmとしてよく、200~4300nmとしてもよい。また、Pの値は、特に限定されず、例えば、100~1200nmとしてよく、120~1000nmとしてもよい。
【0011】
式(1)の左辺の値の上限は、0.330以下であればよいが、0.300以下であることが好ましく、0.280以下であることがより好ましく、0.260以下であることが更に好ましく、0.250以下であることがより更に好ましい。かかる範囲であることで、その粒子形状を略直方体形状から大きく変形した粒子形状とすることができる。また、式(1)の左辺の値の下限は、特に限定されず、0より大きければよく、例えば、0.040以上としてよく、0.060以上としてよく、0.070以上としてよく、0.100以上としてもよい。
【0012】
本実施形態に係るITO粒子は、均一な微粒子化、高い分散性が可能であり、低抵抗化、高透過率、低濁度(ヘイズ)といった各種透明電極等の材料としての要求にも応え得る。
【0013】
従来のITO粒子は、ゲル-ゾル法等で合成されており、その粒子形状は略直方体形状である。ゲル-ゾル法ではゲルネットワーク内で核生成・成長反応が起こることから、ゲル-ゾル法で作製されたITO粒子は、その結晶相を反映した直方体の形状をしており高い結晶性を有している。
【0014】
従来の略直方体形状を有するITO粒子を用いてITO膜を製造する場合、ITO粒子の面同士が接触する配列をとれば、理論上は膜の充填率が100%となる。よって、ITO粒子については直方体形状の単結晶構造に近づけることが好ましいと考えられていた。しかし、発明者らが鋭意研究した結果、実際にはそのようなことは起こらず、ランダムに粒子が充填されて粒子同士は点あるいは線での接触状態をとっていると考えた。このような配列になると透明導電膜として用いる場合には導電パスが少なくなり、抵抗値が大きくなってしまう。また、分散性が低いと凝集粒子により充填率の低下や膜の平滑性が失われる。本発明者らは、かかる点で従来のITO粒子は改善の余地があると考えた。
【0015】
本発明者らは、さらに検討を進めて、ITO粒子の場合のマクロな状態にも着目した。その際、意外にも、式(1)の関係を満たすITO粒子が、上述したような効果を発揮できることを見出し、本実施形態に係るITO粒子を開発した。その作用効果は定かではないが、高結晶性を維持したまま最大接触面積が小さくなり、その結果、分散液とした際に液中で良好な分散性を示すからだと考えられる(但し、本実施形態に係る作用効果は、これらに限定されない。)。
【0016】
本実施形態に係るITO粒子は、粒子内部において結晶方位がそろっていることが好ましい。ここでいう「結晶方位がそろっている」とは、1つの粒子全体の電子線回折像においてスポットパターンが確認されることを意味する。
【0017】
ITO粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、3~50nmであることが好ましく、5~40nmであることがより好ましい。平均粒子径が、かかる範囲であることにより、ITO粒子の分散性を一層向上させることができる。
【0018】
ITO粒子のBET比表面積は、特に限定されないが、25~49cm/gであることが好ましい。なお、ここでいう「BET比表面積」とは、BETガス吸着測定により測定される。なお、分散液とした際の分散性の観点から、ITO粒子は、上述した平均粒子径の範囲を満たし、かつ、BET比表面積の範囲を満たすことが好ましい。これを満たす粒子は、より高い分散性を発現できる。
【0019】
ITO粒子の成分組成について、Inの含有量に対するSnの含有量のモル比(Sn/In)は、特に限定されないが、結晶合成及び導電性の観点から、3.5~24であることが好ましく、3.7~23.5であることがより好ましく、4~23であることが更に好ましい。
【0020】
<ITO粒子の製造方法>
本実施形態に係るITO粒子は、ゲル-ゾル法ではなく、以下の方法により製造されることが好ましい。すなわち、(1)0.09~0.9M(M=mol/L)のIn塩と、0.01~0.2M(M=mol/L)のSn塩と、塩基性化合物と、溶媒と、を含む溶液中で、190~200℃で、12時間~120時間反応させて、ITO粒子を得る反応工程と、(2)ITO粒子を洗浄する工程と、を含む製造方法であることが好ましい。
【0021】
反応溶液中のIn塩の濃度は、0.09~0.9Mであることが好ましく、0.09~0.45Mであることがより好ましい。そして、反応溶液中のSn塩の濃度は、0.01~0.2Mであることが好ましく、0.01~0.05Mであることがより好ましい。
【0022】
In塩の濃度は、モル基準で、Sn塩の濃度の4.5~9倍であることが好ましく、5~9倍であることがより好ましい。このような金属ソース濃度で粒子合成反応を行うことにより、本実施形態に係るITO粒子をワンポットでより簡便に合成することができる。
【0023】
In塩としては、特に限定されず、ITOの原料として公知のものを使用することができる。例えば、InCl等の金属塩、In(C、In(NO、In(SO及びこれらの水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、無水塩や金属塩が好ましく、金属塩がより好ましく、InClが更に好ましい。
【0024】
Sn塩としては、特に限定されず、ITOの原料として公知のものを使用することができる。例えば、SnCl、SnCl、Sn(C、Sn(NO、SnSO、InCl等の金属塩、In(C、In(NO、In(SO及びこれらの水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、無水塩や金属塩が好ましく、金属塩がより好ましく、SnCl、SnClが更に好ましい。
【0025】
塩基性化合物としては、特に限定されず、反応溶液を中和して、In-Snの沈殿水酸化物を析出(中和共沈)可能なものであればよい。塩基性化合物としては、公知のものを使用できる。例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0026】
反応溶液中の塩基性化合物の濃度としては、特に限定されないが、粒子合成の観点から、1~2Mであることが好ましく、1.5~1.7Mであることがより好ましい。
【0027】
溶媒としては、In塩、Sn塩、塩基性化合物及び必要に応じて使用されるその他添加剤を溶解可能なものであればよい。溶媒としては、公知のものを使用でき、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類が好ましい。
【0028】
(1)反応工程において、本実施形態の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて他の添加剤を加えてもよい。
【0029】
(1)反応工程における反応時間は、12時間~120時間であることが好ましく、24~72時間であることがより好ましい。
【0030】
(1)反応工程における反応温度は、190~200℃であることが好ましい。
【0031】
(1)反応工程では、開放系で行ってもよいが、オートクレーブを用いることが好ましい。これにより、反応系において生成した水酸化インジウム-水酸化スズの共沈物の生成を促進させることができる。
【0032】
本実施形態に係るITO粒子が上述した製造方法によって得られるメカニズムは定かではないが、反応系中の金属塩の濃度制御(M=mol/L)、反応温度、反応時間等が影響しているのではないかと考えられる。単分散粒子の形状制御は、系中における生成核数と、そこに存在する物質量によって制御されうるが、ゲルネットワーク中に保持したままその上からさらに不均一核生成をさせる必要があると考えられる。そのため金属ソースの濃度を高くし、その金属ソースに対して塩基の量は少ないことがよいと考えられる。これにより、核生成できる金属酸化物前駆体濃度を長時間維持し得る。上述した条件の組み合わせをとることで、本実施形態に係るITO粒子を合成できると考えられる。(但し、本実施形態に係る作用効果はこれらに限定されない。)。
【0033】
本実施形態に係るITO粒子を製造するには、金属ソースの濃度を高くし、金属ソースに対して相対的に少ない塩基濃度にすることが好ましい。これにより、初期の核生成反応後に粒子成長させるのではなく、生成した核の上にさらに不均一核生成を進行させることが可能となり、その結果、本実施形態に係るITO粒子を合成することができる。
【0034】
本実施形態では、(1)反応工程と(2)洗浄工程の間に、遠心分離工程を行うことが好ましい。遠心分離工程としては、14000rpmで10分間行うことが好ましい。
【0035】
(2)ITO粒子を洗浄する工程では、水、エタノール等のアルコール類等を用いて洗浄することが好ましい。水で洗浄する場合は、蒸留水、又はイオン交換水(IEW;Ion Exchanged Water)等の純水を用いることが好ましい。また、超音波洗浄機で分散液を処理して洗浄することが好ましい。
【0036】
なお、従来では、反応工程後に、凍結乾燥工程、還元焼成工程を行うが、本実施形態では、これを行わなくてもよい。かかる観点から、特に、(2)工程の後に、焼成工程を行わないことが好ましい。これにより、ITO粒子の凝集を防ぎ、分散媒中での単分散状態を維持できる。
【0037】
<分散液>
本実施形態に係るITO粒子は、これを溶媒に分散させることで分散液とすることができる。
【0038】
溶媒としては、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類これらの混合溶媒等が挙げられる。これらの中でも、水、アルコール類が好ましく、水がより好ましい。すなわち、本実施形態に係る分散液は、水分散液として好適に用いることができる。
【0039】
分散液は、必要に応じて他の添加材等を配合してもよい。
【0040】
通常のITO粒子を長時間溶媒に分散させる場合、ITO粒子の凝集を防ぐために界面活性剤が必要であるところ、本実施形態に係る分散液は、界面活性剤を添加せずとも、ITO粒子が長時間分散可能な分散液とすることができる。よって、本実施形態に係る分散液は、実質的に界面活性剤を含まないもの、すなわち界面活性剤フリーな分散液とすることができる。
【0041】
ここでいう界面活性剤とは、粒子表面に吸着し粒子を分散媒に分散可能とする機能を有するものをいい、具体例としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0042】
本実施形態に係る分散液において、溶媒に対するITO粒子の割合(体積比)は、特に限定されないが、40%以下であることが好ましい。かかる範囲とすることで、長期にわたり安定に単分散できる。
【0043】
<分散液の製造方法>
分散液の製造方法としては、本実施形態に係るITO粒子を溶媒に分散させる方法が挙げられる。
【0044】
分散液の製造方法としては、特に限定されないが、(1)0.09~0.9MのIn塩と、0.01~0.2MのSn塩と、塩基性化合物と、溶媒と、を含む溶液中で、190~200℃で、12時間~120時間反応させ、ITO粒子を得る反応工程と、(2)ITO粒子を洗浄する工程と、(3)洗浄したITO粒子を溶媒に分散させる工程と、を含む方法が好ましい。
【0045】
(1)工程及び(2)工程については、ITO粒子の製造方法として既に説明した(1)工程及び(2)工程と同様にして行うことができる。
【0046】
(3)分散工程については、洗浄直後のITO粒子に水を添加し、粒子と分散媒を均一に混合することで行われる。分散手法としては、特に限定されず、スターラー等による攪拌方法、超音波バス等による超音波分散方法を用いることができ、これらを併用してもよい。これらの中でも、超音波バスを用いることが好ましい。
【0047】
<ITO膜>
本実施形態に係る分散液は、これを用いてITO膜を作製することができる。かかるITO膜の製造方法は、具体的には、(i)本実施形態に係る分散液をミスト化するミスト化工程と、(ii)ミスト化された分散液を、基板に接触させる接触工程と、(iii)接触工程後、基板上に存在する分散液を乾燥させる乾燥工程と、を含む製造方法であることが好ましい。
【0048】
ITO膜は、高い導電性と透明性を有する素材であり、透明導電材料として汎用されている。ITO膜の製造方法の1つとして、スパッタリング法やレーザー蒸着法といった手法があるが、これらの技術ではフレキシブルな基板上に均一な薄膜を形成することが困難であり、優れた表面特性を有するITOの性能を活かしきれていない。また、蒸着工程等において大掛かりな設備構成とする必要があり、かかる点についても改善の余地がある。
【0049】
この点、本実施形態に係る分散液は成分が沈降することがなく、高い分散性を有するため、基板上にITO薄膜を形成する際に簡便なミスト技術を用いることも可能である。また、基板の材質に関する制限を緩和することができ、上述したようなフレキシブルタイプの基板に対しても膜形成が可能である。さらに、本実施形態によれば、ナノレベルのITO粒子(ITOナノ粒子)とした場合であっても高い結晶性や単分散性を安定的に維持できるため、薄膜としての導電性や透明性といった表面特性も高いレベルで制御できる。
【0050】
(i)ミスト化工程としては、分散液をミスト(霧)状にする手法であればよい。ミストの発生手法としては、公知の手法を採用することができ、例えば、加圧式、回転ディスク式、超音波式、静電式、オリフィス振動式、スチーム式等を採用することができる。本実施形態では、ITO粒子の分散液であることから、物理的にミスト化する手法が好ましい。これにより、液体の温度制御や液滴のサイズ制御が容易となる。また、分散液をミストとして扱うことで、高い制御性を有し、液体供給を行うゾル-ゲル法等が抱える薄膜形成時のゆがみといった不具合が生じない。
【0051】
ミスト化工程では、キャリアガスを用いることで、続く接触工程まで分散液のミストを運ぶことができる。キャリアガスとしては、例えば、アルゴン、ヘリウム、窒素等の不活性ガスを用いることができる。
【0052】
また、(i)工程と(ii)工程の間に、ミストトラップによるミストを均一化させる工程や、ミストの滞留期間(滞留部)を設ける滞留工程を行ってもよい。
【0053】
(ii)接触工程としては、ミストを基板に接触させる手法であれば特に限定されず、公知の技術を採用することができる。例えば、ミスト法によりミスト化工程で得られた微小液滴を基板上に噴霧する方法が挙げられる。ミスト法としては、例えば、超音波噴霧、ミストCVD法、ソニアソース式、ホットウォール式等が挙げられる。これらの手法は、基板上に形成させるITO膜の膜厚、噴霧する液滴のサイズ等を考慮して、選択することができる。
【0054】
接触工程では、大気圧下、減圧下、真空下のいずれであってもよいが、簡便性の観点から大気圧下であることが好ましい。
【0055】
また、ミスト化した分散液をマスキングされた基板上に塗布することで、微細なパターン形成が可能となる。特に、ITOナノ粒子を基板上に薄膜形成する場合等には好適である。これにより、高い精度で寸法制御ができる。
【0056】
分散液の溶媒として水を使用する場合であれば、マスキング材料として撥水性のマスキング材料(撥水膜)を用いることが好ましい。これにより、一層高い精度でのパターン形成が可能となる。
【0057】
さらに、基材に対する材料の制約が緩和されるため、基材として、薄く、かつ、高いフレキシビリティを有するフィルム基材(シート基材と呼ばれることもある)を使用することもできる。さらには、ロール・ツー・ロール(Roll to Roll)といった連続生産も可能となる。
【0058】
基材としては、例えば、公知の材料を用いることができる。例えば、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等が挙げられる。
【0059】
(iii)乾燥工程としては、基板に噴霧された分散液の溶媒を除去する。例えば、赤外線等の光照射や加熱等によって、溶媒を気化させることによって、基板の表面上にITO膜を形成させる。加熱温度は、溶媒の沸点、基板の軟化点、その他ITO膜の物性に与える影響等を考慮して、設定することができる。ここでいう基板の軟化点とは、基板を加熱した場合に、基板が軟化して、変形を起こし始める温度をいい、例えば、JIS K7191-1に準じた試験方法により求めることができる。
【0060】
(iii)工程の後、必要に応じて、ITO膜が形成された基板を徐冷する工程(徐冷工程)や、親水性付与といった基材の改質を行う目的でUV照射工程等を行ってもよい。
【0061】
ここで、成膜装置について、図1は本実施形態におけるミスト法を用いた成膜装置の一例を示す概念図である。成膜装置1は、微粒子を含むミストを発生させる第1槽、ミストを均一化させるミストトラップである第2槽、基板10に対してミストを噴霧する第3槽を有する。
【0062】
第1槽には、上述した分散液が原料溶液Sとして格納される。分散液中の粒子は、上述したものを使用できるが、ナノ微粒子であることが好ましい。ここでは粒子としてITO微粒子を用いるものとして説明する。
【0063】
第1槽には、ミストの流路を形成するためのエアー20がフローされている。
【0064】
第1槽には、超音波振動子30が格納される。超音波振動子30により、ITO微粒子を含む分散液がミスト化される。ミストの粒径は、特に限定されないが、10μm以下(例えば1~10μm)であることが好ましい。第1槽で生成されたミストは、第1層に設けられた管を経由して第2槽に搬送される。第2槽では、余分なミストが槽の下部に溜まり、粒子径がより均一化されたミストが第2槽に設けられた管を経由して第3層に搬送される。第2槽から第3槽へは、5μm以下(例えば1~5μm)の粒子径のミストが搬送されるよう構成されることが好ましい。
【0065】
第3槽には基板10が配置され、第2槽から搬送されたミストが基板に噴霧される。第3槽では所定時間、基板10に対してミストが噴霧される。そして、基板10に付着したミストの分散媒が気化することによって、基板10の表面にITO膜が形成される。なお、噴霧後一定時間が経過すると、ミストが気化するよりも先に新たなミストが基板10上に付着することにより、液滴化した分散液が流れ落ち、基板10上に均一なITO膜が形成されなくなる。基板10に対してミストの噴霧を停止する時間は、ITO微粒子を含むミストが液化して基板10から流れ落ちる時点であってもよいし、所望する膜厚のITO膜が基板10上に形成された時点であってもよい。
【0066】
第3槽において、基板10を過度に加熱すると、軟化により変形してしまう可能性がある。そのため、第3槽では、基板の軟化点より低い温度の下でミストが噴霧され、ITO膜が形成されることが好ましい。また、ミスト噴霧時に基板10を所定温度以上に加熱すると、基板10に付着したITO微粒子が凝集する。その結果、膜の均一性が悪化するとともに、粒子同士の導電ネットワークを阻害するため、高い抵抗値を有するITO膜が形成される。このため、さらに好ましくは、40℃以下(例えば10~40℃)の温度下でミストが噴霧され、ITO膜が形成されるよう構成する。
【0067】
基板10に対し選択的に金属酸化膜を形成する場合、予め基板10に対して選択的に撥水膜を形成することにより、親水部にミストを付着させる。この際、基板10が水平に配置されていると、撥水部に付着した分散液が撥水されず、選択的に金属酸化膜を形成させることができない。このため、第3槽では、水平面に対して傾斜した基板10に対してミストを噴霧させることが好ましい。
【0068】
同様に、第3槽では、ミストの噴霧方向に直交する面に対して傾斜した基板10に対してミストが噴霧されることが好ましい。ミストの噴霧の勢いで、撥水部に付着した余分なITO微粒子を除去するためである。
【0069】
なお、成膜装置は、第2槽のミストトラップを省略してもよい。そうすることで、比較的大きな液滴をフィルタリングすることができ、基板上の親撥水パターンが微細であっても精度よくITO膜を成膜することができる。
【0070】
また、ミストの発生方法については、上述の超音波振動子30を用いて発生させるほか、液滴を噴霧する細管に直接電圧をかけてミストを発生させる静電式、圧力を加え流速を増加させたガスを液体と衝突させることによって、発生したミストを飛散させる加圧式、高速回転しているディスク上に液滴を滴下し、発生したミストを遠心力によって飛散させる回転ディスク式、マイクロサイズの孔を有するオリフィス板に液滴を通すが、その際に圧電素子等によって振動を加えることによって液滴を切断することで、マイクロサイズの液滴を発生させるオリフィス振動式等を用いることができる。ミストの発生方法については、コストやパフォーマンス等に応じて適宜これらの方法を選択する。当然、複数の方法を組み合わせてミストを発生させてもよい。
【実施例
【0071】
以下の実施例及び比較例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0072】
<測定方法>
・XRD測定:
測定装置として多目的X線回折装置(リガク社製「Ultima-IV」)を使用し、線源はCuKα、出力は40kV、40mA、検出器は「D/teX Ultra」の条件で測定した。
【0073】
・ICP測定:
測定装置としてICP発光分光分析装置(パーキンエルマー社製「Optima 3300」)を使用した。
【0074】
・TEM測定:
測定装置として透過型電子顕微鏡(TEM;日立製作所社製「JEM-2100」)を使用し、120kの倍率条件で測定した。
【0075】
・ITO粒子の形状評価:
ITO粒子のTEM撮像写真を、画像処理ソフトウェア「imageJ 1.5K」を用いて画像処理した。具体的には、初めに対象の画像を取り込んで8-bitのグレースケールに変換し、次いで、1ピクセルのスケールを実際の画像と対応させるために、「Set Scale」で1ピクセル当たり何nmであるかを設定した。
【0076】
続いて、粒子の形状を明確にするために、「Enhance Contrast」を用いてSaturated Pixelsを20~40%程度に設定した。この値は画像全体のコントラストにも影響するため、適宜調整しなければならないが、粒子の輪郭が明確になる程度を基準とした。さらに、「Threshold」にて粒子の形状とそれ以外とで分離するために2値化を行った。この際、閾値の設定は「Moments」と呼ばれるアルゴリズムを使用した。
【0077】
そして、最後に、「Analyze Particles」を選択して粒子の形状測定を行った。測定時の設定では「Size(Pixels^2)」を1000-Infinityとすることでコンタミネーションやバックグラウンドのノイズを消去することができる。得られた結果のうち「Area」と「Perim.」に注目し、それぞれをTEM撮像写真における粒子面積S、粒子の外周長さPとした。
【0078】
そして、下記式(1)の関係を満たすかどうかを計算した。なお、当該撮像写真に2粒子以上の粒子が撮像された場合は、各粒子について「16×S/P」の値を算出し、各値の算術平均を求め、その値が0.330以下であるかどうかを確認した。また、当該撮像写真に粒子の一部のみが撮像された場合、当該粒子は対象外とし、粒子の全体が撮像されたものの粒子面積と外周長さを採用した。
16×S/P≦0.330 ・・・(1)
(式中、Sは、TEM撮像写真における粒子面積を表し、Pは、当該粒子の外周長さを表す。)
【0079】
なお、ここで用いた「16×S/P」の値は、画像解析のshape factorとして知られる真円度(Circularity)「4π×(円の面積)/(円周) 」に類似する観点で定義したものである。真円度の場合は、形状が真円であれば値が1となり、形状が真円からかけ離れるにしたがって値が0に近づく。すなわち、「16×S/P 」場合は、TEM画像の粒子形状が正方形の場合にその値は1となり、TEM画像の粒子形状が正方形からかけ離れるにしたがって0に近づく。従来のITO粒子は略直方体形状として得られるため、TEM画像では正方形に近い形状として観察され、「16×S/P」の値は1に近似するが、本実施形態のITO粒子の「16×S/P」の値は0.330以下である。これは、本実施形態のITO粒子が、従来の略直方体形状とは異なる粒子形状を有しており、TEM画像で観察した場合の粒子の輪郭に凹凸が形成されていることが主な要因であると考えられた。
【0080】
<実施例1>
(ITO粒子及び分散液の調製)
反応容器に、溶媒としてメタノール7.5mL、塩基性触媒として水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を1.6Mとなるよう仕込んだ。そして、反応溶液中のIn濃度が0.36M、Sn濃度が0.04M(反応溶液中のIn/Sn=9)となるよう、メタノール溶液を作製した。これを上述のTMAHメタノール溶液中に加え、10分間攪拌したのち、190℃で1日間加熱して反応を進行させた。その後、14000rpmで10分間遠心分離を行った。続いて、エタノールで2回、イオン交換水で2回洗浄して、ITO粒子を得た。得られたITO粒子の外観は青色であった。
【0081】
(ITO粒子の測定結果)
XRDによれば、ITOと同じ結晶構造を持つ酸化インジウム(In)に帰属可能な回折パターンが得られた。これによりITOが合成されたことが確認された。ICPにより、ITO粒子のSn/In(モル比)=12.3であることが確認された。
【0082】
(分散液の調製)
続いて、得られたITO粒子から分散液を調製した。具体的には、ITO粒子1gに、純水40mL(界面活性剤は不添加)を混合した。そして、超音波バス内で粒子と純水を混合することで、分散液を得た。
【0083】
(分散液の分散性評価)
得られた分散液を、20℃で、100日間静置した。その結果、目視では沈殿物の発生は確認できなかった。これらのことから、実施例1の分散液は、高い安定性を有し、かつ、分散性に優れることが少なくとも確認された。
【0084】
<実施例2~10>
InとSnの仕込みの濃度を変更して実験を行った。表1及び表2に示す条件にてITO粒子を作製した点以外は、実施例1と同様にして、ITO粒子及びその分散液を作製し、その物性を評価した。なお、図2に、実施例1の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を示す。
【0085】
実施例1~10の分散液の作製条件及び評価結果を表1及び表2に示す。なお、「結晶方位」の項目において、電子線回折法によりスポットパターンが確認されたものは「〇」と記載し、そうでなかったものは「×」と記載した。「分散液の分散性」の項目については、分散性評価において目視で沈殿物の発生が確認できなかったものは「〇」と記載し、沈殿物の発生が確認できたものは「×」と記載した。また、いずれの実施例についても、1つの粒子全体の電子線回折像においてスポットパターンが確認された。
【0086】
(ゼータ電位の測定)
ここで、分散性を粒子の化学的状態の観点から評価する指標として、実施例1のITO粒子のゼータ電位を測定した。ゼータ電位は、ゼータ電位測定装置(大塚電子社製「ELSZ-2」)を用いて、1×10-2M NaOH及び1×10=2M HClO水溶液を用い,イオン強度が1×10-2となる条件で測定した。
【0087】
なお、参考例1として、Chem. Lett., 42, 738 (2013)に記載の方法に準拠して製造したITO粒子(粒子の形状が略直方体形状)のゼータ電位を、同様の条件で測定した。その結果、実施例1のITO粒子の等電点(pH0)は10.27であり、参考例1の等電点(pH0)は9.73であった。図3は、実施例1と参考例1のゼータ電位の測定結果を示すグラフである。
【0088】
図3に示すように、実施例1のITO粒子のゼータ電位は、参考例1のITO粒子のゼータ電位と同程度であった。このことから、実施例1と参考例1の粒子の化学的状態に、大きな差はないといえる。したがって、実施例1のITO粒子は、参考例1のITO粒子と粒子表面の化学的状態に大きな差異はないにもかかわらず、優れた分散性を有しているといえる。このことは、実施例1のITO粒子が特定の形状を有することにより、溶液中における粒子間の接触面積が小さくなり、凝集が抑制され、その結果優れた分散性を発揮できたといえる。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
<実施例11~16>
実施例1を基準にして、反応工程の反応時間を変更して実験を行った。表3に示す条件にてITO粒子を作製した点以外は、実施例1と同様にして、ITO粒子及びその分散液を作製した。なお、いずれの実施例についても、1つの粒子全体の電子線回折像においてスポットパターンが確認された。
【0092】
【表3】
【0093】
<実施例17>
実施例1を基準にして、反応工程の反応温度を変更して実験を行った。表4に示す条件にてITO粒子を作製した点以外は、実施例1と同様にして、ITO粒子及びその分散液を作製した。なお、実施例17について、1つの粒子全体の電子線回折像においてスポットパターンが確認された
【0094】
【表4】
【0095】
<実施例18~21>
実施例1を基準に、Snドープ量を変更して実験を行った。表5に示す条件にてITO粒子を作製した点以外は、実施例1と同様にして、ITO粒子及びその分散液を作製した。なお、いずれの実施例についても、1つの粒子全体の電子線回折像においてスポットパターンが確認された。
【0096】
【表5】
【0097】
<比較例1>
In濃度が0.18M、Sn濃度が0.02M(反応溶液中のIn/Sn=9)となるよう条件を変更した点以外は、実施例1と同様の条件でITO粒子を作製した。このITO粒子については、外周長さP=257.889nm、粒子面積S=1420.468nmであった。すなわち、このITO粒子は、16×S/P=0.342であり、式(1)の関係を満たさないITO粒子である。このITO粒子の分散性評価を行ったところ、目視で沈殿物の発生が確認され、「×」であった。
【符号の説明】
【0098】
1・・・成膜装置、10・・・基板、20・・・エアー、30・・・超音波振動子、S・・・原料溶液
図1
図2
図3