(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】多孔質金属酸化物粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
(21)【出願番号】P 2020092225
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】吉村 典子
(72)【発明者】
【氏名】福寿 忠弘
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-177620(JP,A)
【文献】特開2015-113277(JP,A)
【文献】特開2014-088307(JP,A)
【文献】特開2019-085368(JP,A)
【文献】特開2019-019017(JP,A)
【文献】国際公開第2008/126477(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
B01J 13/00
A61K 8/04-8/25
A61Q 1/00-1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特性を有することを特徴とする多孔質球状金属酸化物粉末。
(1)BET法により測定される比表面積が400m
2/g以上1000m
2/g以下
(2)BJH法により測定される細孔容積(V:ml/g)が2ml/g以上8ml/g以下
(3)吸油量が(90V+150)ml/100g以下
(4)レーザー回折式測定による粒度分布におけるメジアン径が2μm以上、200μm以下
(5)金属酸化物が、シリカ又はシリカを主成分とする複合酸化物である
【請求項2】
表面に疎水性無機微粉末が付着した請求項
1記載の多孔質球状金属酸化物粉末。
【請求項3】
疎水性無機微粉末が疎水性シリカ微粉末である請求項
2に記載の多孔質球状金属酸化物粉末。
【請求項4】
シリカ又はシリカを主成分とする複合酸化物である金属酸化物
の水性ゾル、有機溶媒及び疎水性無機微粉末を混合して、金属酸化物
の水性ゾルが有機溶媒に分散したW/Oピッカリングエマルジョンを形成した後に、金属酸化物
の水性ゾルをゲル化させ、次いで、親水性有機溶媒と水を添加して解乳することを特徴とする多孔質球状金属酸化物粉末の製造方法。
【請求項5】
疎水性無機微粉末が、M値が30~45に疎水化された、平均粒径0.5μm以下の無機微粉末である請求項
4に記載の多孔質球状金属酸化物粉末の製造方法。
【請求項6】
無機微粉末がシリカ微粉末である請求項
4又は5に記載の多孔質球状金属酸化物粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な多孔質金属酸化物粉末とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
界面活性剤を使用して金属酸化物ゾルからなるW相を有機溶媒相に分散させW/Oエマルションを形成後、球状のW相をゲル化させる方法により得られる多孔質球状金属酸化物粉末は、円形度が高い粒子より構成され、一次粒子によって形成された大容量の細孔を上記粒子内部に形成させることが可能である(特許文献1、2参照)。そのため、上記多孔質球状金属酸化物は、樹脂に添加することにより、上記細孔内に存在する空気による断熱作用により、得られる樹脂組成物に極めて高い断熱性を付与できることが期待される。
【0003】
ところが、前記多孔質球状金属酸化物粉末を樹脂と混合した場合、得られた樹脂組成物は期待するほどの断熱性を発揮しないことが本発明者らの実験により確認された。また、この現象は、多孔質球状金属酸化物粉末と液状樹脂とを混合後、液状樹脂を硬化させる、樹脂組成物の製造工程において、液状樹脂が多孔質球状金属酸化物粉末の細孔内に浸入することにより、細孔内の空気が減少することにより起こることが判明した。
【0004】
従来、多孔質粒子における前記樹脂の浸透を防止する技術として、多孔質粒子に対して樹脂コーティングを行う方法が提案されている(特許文献3、4参照)。しかしながら、この方法を前記多孔質球状金属酸化物粉末に適用した場合、樹脂コーティングする際に既に細孔内にコーティング用の樹脂が細孔内に浸入し細孔を埋める結果、得られる樹脂組成物の断熱性が低下するという問題が生じる。また、上記浸入を防止するために、コーティング樹脂の粘度を上げると、均等にかつ確実にコーティングすることが困難となる。即ち、高い粘度のコーティング樹脂は、粒子表面を均一にコーティングできないばかりでなく、数百μmの粒子径を有する多孔質球状金属酸化物粉末の凝集粒子間に浸透し難く、凝集状態でコーティングされる機会が多くなり、コーティング処理後にこれを解すと、粒子表面に未処理部分が不規則に存在するようになる。そして、このような多孔質球状金属酸化物粉末を使用して樹脂組成物を構成すると、かかる未処理部分からの液状樹脂の浸入が起こり安定した断熱性能を発揮できなくなるという問題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-143228号公報
【文献】特許第4960534号公報
【文献】特許第5544074号公報
【文献】特許第5249037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、液状樹脂との混合において、粒子細孔内への上記液状樹脂の浸入を抑制し、一次粒子によって形成された粒子由来の大容量の細孔を維持することができ、上記混合によって得られる樹脂組成物に高い断熱性を付与することが可能な多孔質金属酸化物粉末とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねてきた。その結果、前記多孔質球状金属酸化物粉末の製造工程において、疎水性無機微粉末を使用して金属酸化物ゾルのW/Oエマルジョンの形成を行う、ピッカリングエマルションの技術を適用することにより、多孔質球状金属酸化物粉末の粒子内部に存在する特徴的な細孔構造を維持したまま、液状樹脂の浸入を抑制する程度にその表面の細孔を減径することができ、前記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の特性を有することを特徴とする多孔質球状金属酸化物粉末である。
(1)BET法により測定される比表面積が400m2/g以上1000m2/g以下
(2)BJH法により測定される細孔容積(V:ml/g)が2ml/g以上8ml/g以下
(3)吸油量が(90V+150)ml/100g以下
(4)レーザー回折式測定による粒度分布におけるメジアン径が2μm以上、200μm以下
また、上記多孔質球状金属酸化物粉末は、金属酸化物水性ゾル、有機溶媒及び疎水性無機微粉末を混合して、金属酸化物水性ゾルが有機溶媒に分散したW/Oピッカリングエマルションを形成した後に、金属酸化物水性ゾルをゲル化させ、次いで、親水性有機溶媒と水を添加して解乳することにより製造することが可能である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末は、前記高い比表面積と細孔容積とで示されるように、粒子内に一次粒子によって形成された大容量の細孔を維持しながら、前記低い吸油量で示されるように、粒子表面のみの細孔が選択的に減径されているため、液状樹脂との混合において、細孔からの液状樹脂の浸入が起こり難く、これにより、得られる樹脂組成物に高い断熱性を再現性良く付与することが可能となる。
【0010】
また、本発明の製造方法によれば、疎水性無機微粉末を使用してピッカリングエマルジョンを作製するという、極めて簡便な手法により多孔質球状金属酸化物粉末を得ることができる。また、ビッカリングエマルジョンを経ることにより、疎水性無機微粉末を粒子表面のみに選択的に存在せしめることができるため、粒子表面の細孔が極めて均一に減径され、前記特性を有する多孔質球状金属酸化物粉末を安定して製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明がこれらの形態に限定されるものではない。
【0012】
<多孔質球状金属酸化物粉末>
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末は、球状の形状を成した多孔質の金属酸化物粒子により構成される。
【0013】
上記金属酸化物を構成する金属元素は特に限定されることなく、常温・常圧、大気中で安定な酸化物を構成する金属元素であればよい。このような金属酸化物を具体的に例示すると、シリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア(MgO)、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化錫、酸化タングステン、酸化バナジウム等の単独酸化物、及びこれらのうちの2種以上の金属元素を含む複合酸化物、例えばシリカ-アルミナ、シリカ-チタニア複合酸化物、シリカ-チタニア-ジルコニア複合酸化物等が挙げられる。また複合酸化物の場合、単独酸化物が水分に対して比較的敏感なナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属やカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属を構成金属元素として含むことも可能である。
【0014】
本発明において使用可能な金属酸化物の中でも、軽量なため嵩密度をより小さくできる点、及び安価で入手しやすい点から、シリカ、又はシリカを主成分とする複合酸化物が好ましい。ある複合酸化物が「シリカを主成分とする」とは、前記複合酸化物が含む金属元素に占めるケイ素(Si)のモル比率が50%以上100%未満であることを意味する。前記モル比率は好ましくは65%以上であり、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上である。
【0015】
シリカを主成分とする複合酸化物を用いる場合、ケイ素以外に含有される金属元素として好ましいものとしては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の周期律表第II族金属;アルミニウム、イットリウム、インジウム、ホウ素、ランタン等の周期律表第III族金属(なお、ホウ素は金属元素として扱うものとする。);及び、チタニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ等の周期律表第IV族金属等を例示でき、これらの中でも、Al、Ti、及びZrを特に好ましく採用できる。シリカを主成分とする複合酸化物は、ケイ素以外に2種以上の金属元素を含有していてもよい。
【0016】
本発明の球状多孔質金属酸化物において、BET法により測定される比表面積(以下、「BET比表面積」ともいう)は、球状金属酸化物の独立粒子(二次粒子)の多孔質構造(網目構造)を構成する一次粒子の粒子径が小さいことを示し、その値が大きいほど大容量の内部細孔を形成することができる。本発明の多孔質球状金属酸化物粉末は、かかるBET比表面積が400~1000m2/gであり、好ましくは、400~850m2/gである。上記BET比表面積が400m2/gより小さい場合、粒子内に十分な細孔を確保できる多孔質構造を構成することが困難である。一方、1000m2/gを超えて大きいものを得ることは技術的に困難である。
【0017】
なお、上記BET比表面積は、測定対象のサンプルを、1kPa以下の真空下において、150℃の温度で30分以上乾燥させ、その後、液体窒素温度における窒素の吸着側のみの吸着等温線を取得し、BET法により解析して求めた値である。
【0018】
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末において、BJH法による細孔容積(以下、「BJH細孔容積」ともいう)は、粉末を構成する粒子内の細孔の多さを示すものであり、大きいほど樹脂との混合により得られる樹脂組成物の軽量化を図ることができる。なお、BJH細孔容積は、多孔質の中空粒子においても高い値を有するが、かかる中空粒子は、BET比表面積は前記範囲より遥かに小さい値を示す。
【0019】
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末は、上記BJH細孔容積が2~8mL/gであり、下限値の好ましい範囲は、2.5mL/g、更には3mL/g上である。また、上限値は6mL/gであることが好ましい。上記BJH細孔容積が2mL/gより小さい場合、樹脂に混合して得られる樹脂組成物の断熱性を十分発揮することができない。また、8mL/gを超えて大きなものを得ることは、技術的に困難である。
【0020】
本発明において、BJH細孔容積の測定は、上記のBET比表面積測定の際と同様に吸着等温線を取得し、BJH法(Barrett,E.P.;Joyner,L.G.;Halenda,P.P.,J.Am.Chem.Soc.73,373(1951)により解析して得られたものである。上記方法により測定される細孔は、半径1~100nmの細孔であり、この範囲の細孔の容積の積算値が本発明における細孔容積となる。
【0021】
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末は、樹脂との混合を考慮すると、その粒径は、レーザー回折式測定による粒度分布におけるメジアン径で、2~200μmが適当であり、好ましくは、20~200μm、さらに好ましくは、20~150μmが好ましい。
【0022】
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末の最大の特徴は、前記BET比表面積とBJH細孔容積を有しながら、吸油量が(90V+150)ml/g以下と少ない点にある。かかる吸油量は、多孔質球状金属酸化物粉末を構成する粒子表面の細孔からの液状樹脂の浸入のし易さを示す指標であり、かかる吸油量が大きい場合は粒子表面に減径されていない、径が大きい細孔が存在し、液状樹脂との混合の際、液状樹脂が粒子内部の細孔に浸入し易くなり、本発明の目的を達成することが困難となる。本発明の多孔質球状金属酸化物粉末は、粒子内部の細孔容積を保持し、粒子表面の細孔のみの径が小さくすることにより、前記各条件を満足したものである。
【0023】
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末において、粒子表面の細孔のみ、径を小さくして前記低い吸油量を達成する態様としては、粒子表面の細孔が、後述する本発明の多孔質球状金属酸化物粉末の製造方法において例示される疎水性無機微粉末の付着により減径されている態様が挙げられる。即ち、後で詳述する製造方法によれば、多孔質球状金属酸化物粉末を合成中に疎水性無機微粉末を粒子表面のみに選択的に存在させることが可能であり、かかる疎水性無機微粒子の細孔周辺への付着によって粒子表面の細孔のみ、径を小さくすることができる。
【0024】
また、本発明の多孔質球状金属酸化物粉末において、上記粒子表面の細孔の減径は合成工程において行われるため、均一な処理が可能である。このことは、多孔質球状金属酸化物粉末より複数のサンプルを採取して吸油量のばらつきを見ることによって確認することができる。本発明の多孔質球状金属酸化物粉末は、ばらつきが殆ど無いという特徴をも有する。
【0025】
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末は、疎水化されていることが好ましい。本発明の多孔質球状金属酸化物粉末が疎水化されている場合、経時劣化の原因となる水分の吸着が少ないため、極めて有用である。本発明の球状金属酸化物が疎水化されている態様の具体例としては、シリル化剤により処理されていることにより、表面に有機シリル基が導入された態様を挙げることができる。
【0026】
<多孔質球状金属酸化物粉末の製造方法>
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末を製造する方法は特に限定されないが、以下に示す方法により好適に製造することができる。
【0027】
即ち、金属酸化物水性ゾル、有機溶媒及び疎水性無機微粉末を混合して、金属酸化物水性ゾルが有機溶媒に分散したW/Oピッカリングエマルジョンを形成した後に、金属酸化物水性ゾルをゲル化させ、次いで、親水性有機溶媒と水を添加して解乳することにより、多孔質球状金属酸化物粉末を製造する方法が挙げられる。
(金属酸化物水性ゾル)
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末の製造において、金属酸化物水性ゾルは、前記した金属酸化物の水性ゾルであれば特に制限されず、目的とする多孔質球状金属酸化物粉末に応じて適宜選択される。
【0028】
その製造方法も特に限定されるものではなく、公知の方法により製造することができる。例えば、金属酸化物ゾル作成の原料としては、金属アルコキシド;ケイ酸アルカリ金属塩等の金属オキソ酸アルカリ金属塩;無機酸又は有機酸の水溶性塩等の各種水溶性金属塩;等を使用することができる。
【0029】
好ましく使用可能な前記金属アルコキシドを具体的に例示すると、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム等が挙げられる。
【0030】
また、好ましく使用可能な前記金属オキソ酸アルカリ金属塩の一例としては、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム等のケイ酸アルカリ金属塩が挙げられ、化学式は、下記の式(1)で示される。
【0031】
m(M2O)・n(SiO2) (1)
[ 式(1)中、m及びnはそれぞれ独立に正の整数を表し、Mはアルカリ金属原子を示す。]
さらに、好ましく使用可能な前記金属オキソ酸アルカリ金属塩としては、アルミン酸、バナジン酸、チタン酸、タングステン酸等の金属オキソ酸のアルカリ金属塩、好ましくはナトリウム塩、及びカリウム塩が挙げられる。
【0032】
更にまた、好ましく使用可能な前記無機酸又は有機酸の水溶性金属塩としては、塩化鉄(III)、塩化亜鉛、塩化錫(II又はIV)、塩化マグネシウム、塩化銅(II)、硝酸マグネシウム、硝酸亜鉛、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸ストロンチウム、硝酸鉄(III)、硝酸銅(II)、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、塩化バナジウム(IV)等が挙げられる。
【0033】
上記の金属酸化物ゾルを製造するための原料のうち、安価な点でケイ酸アルカリ金属塩を好適に用いることができ、特に、入手が容易であるケイ酸ナトリウムが好適である。
【0034】
以下、金属酸化物ゾル作成の原料としてケイ酸ナトリウムを用い、金属酸化物としてシリカを製造する形態を代表例として説明するが、他の金属源を用いた場合でも、公知の方法で水性ゾルの作成及びゲル化を行うことにより、同様にして本発明の球状金属酸化物を得ることができる。
【0035】
ケイ酸ナトリウム等のケイ酸アルカリ金属塩を用いる場合には、塩酸、硫酸等の鉱酸で中和する方法や、あるいは対イオンが水素イオン(H+)とされている陽イオン交換樹脂(以下、「酸型陽イオン交換樹脂」ということがある。)を用いる方法によって、ケイ酸アルカリ金属塩中のアルカリ金属原子を水素原子で置換することで、シリカゾルを調製することができる。
【0036】
上記の酸により中和することによってシリカゾルを調製する方法としては、酸の水溶液に対して、該水溶液を撹拌しながらケイ酸アルカリ金属塩の水溶液を添加する方法や、酸の水溶液とケイ酸アルカリ金属塩の水溶液とを配管内で衝突混合させる方法が挙げられる(例えば特公平4-54619号公報参照)。用いる酸の量は、ケイ酸アルカリ金属塩のアルカリ金属分に対する水素イオンのモル比として、1.05~1.2とすることが望ましい。酸の量をこの範囲にした場合には調製したシリカゾルのpHは、1~3程度となる。
【0037】
上記の酸型陽イオン交換樹脂を用いてシリカゾルを調製する方法は、公知の方法により行うことができる。例えば、酸型陽イオン交換樹脂を充填した充填層に適切な濃度のケイ酸アルカリ金属塩の水溶液を通過させる手法、あるいは、ケイ酸アルカリ金属塩の水溶液に、酸型陽イオン交換樹脂を添加及び混合し、アルカリ金属イオンを陽イオン交換樹脂に化学吸着させて溶液中から除去した後に濾別するなどして酸型陽イオン交換樹脂を分離する手法等が挙げられる。その際に、用いる酸型陽イオン交換樹脂の量は、溶液に含まれるアルカリ金属を交換可能な量以上とする必要がある。
【0038】
上記の酸型陽イオン交換樹脂としては、公知のものを特に制限なく使用することができる。例えば、スチレン系、アクリル系、メタクリル系等のイオン交換樹脂であって、イオン交換性基としてスルフォン酸基やカルボキシル基を有するものを用いることができる。
このうち、スルフォン酸基を有する、いわゆる強酸型の陽イオン交換樹脂を好適に用いることができる。
【0039】
なお、上記の酸型陽イオン交換樹脂は、アルカリ金属の交換に使用した後に、公知の方法、例えば硫酸や塩酸を接触させることで再生処理を行うことができる。再生に用いる酸の量は、通常は、イオン交換樹脂の交換容量に対して2~10倍の量が用いられる。
【0040】
本発明において、前記方法により得ることができるシリカゾルを代表とする水性ゾルの濃度としては、ゲル化が比較的短時間で完了し、また粒子の骨格構造の形成を十分なものとして乾燥時の収縮を抑制するためには、金属酸化物(シリカゾルにおいてはSiO2)として50g/L以上とすることが好ましい。その一方で、シリカ粒子の密度を相対的に小さくして、単位重量当たりの細孔容量を大きくするためには、160g/L以下とすることが好ましく、100g/L以下とすることがより好ましい。
(有機溶媒)
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末の製造方法において使用する有機溶媒としては、金属酸化物ゾルとエマルションを形成でき、かつ疎水性無機微粉末を分散し得る程度の疎水性を有した溶媒であれば良い。そのような溶媒としては、例えば、炭化水素類やハロゲン化炭化水素類等の有機溶媒を使用することが可能である。より具体的にはヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロプロパン等の疎水性有機溶媒が挙げられる。これらの中でも、適度な粘度を有するヘキサン、ヘプタンを好適に用いることができる。なお必要に応じて、複数の溶媒を混合して用いてもよい。
また水性シリカゾルとエマルションを形成でき、かつ疎水性無機微粉末を分散し得るものであれば、低級アルコール類などの親水性溶媒を併用する(混合溶媒として使用する)ことも可能である。
【0041】
(疎水性無機微粉末)
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末を製造するために使用される疎水性無機微粉末としては、市販されている疎水化無機微粉末を使用することもできるが、親水性無機微粉末を疎水化処理して使用することもできる。親水性無機微粉末の疎水化処理は、疎水化剤を使用して容易に行うことができる。
【0042】
上記無機微粉末を疎水化処理する場合に用いる疎水化剤としては、一般的にはシリル化剤と呼ばれるものを好適に用いることができる。かかるシリル化剤を具体的に示せば、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、トリクロロメチルシラン等のクロロシラン類、モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン類、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン等のシラザン類、ヘキサメチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン等のシロキサン類、シロキサンオクタメチルシクロテトラシラザン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等の環状シロキサンなどが挙げられる。そのうち、反応性が良好である点で、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、トリクロロメチルシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサンが特に好ましい。
【0043】
疎水化処理は、無機微粉末に疎水化剤を滴下することによって、容易に行うことができる。具体的には疎水化する無機微粉末をスターラー等で攪拌しながら、疎水化剤を滴下し、疎水化剤を無機微粉末に対して均一に混合する。その後、150℃で真空脱気しながら加熱・乾燥し、疎水化処理によって生じる副生成物を除去する等の手法が挙げられる。
【0044】
上記疎水化処理は、疎水化処理剤の滴下量により、得られる無機微粉末の疎水度を調整することができる。
【0045】
前記疎水性無機微粉末の疎水度は、エマルションの安定性を高めるためには、疎水度の指標であるM値が30~45の範囲にあることが好ましい。
【0046】
本明細書において、測定対象となる試料粉末のM値は、疎水化金属酸化物エアロゲル粉体は水には浮遊するが、メタノールには完全に懸濁することを利用し、以下の方法によって測定されるものである。
即ち、試料粉末0.2gを容量250mLのビーカー中の50mLの水に添加した。メタノールをビュレットからシリカの全量が懸濁するまで滴下した。この際、メタノールが直接試料粉末に触れないようにチューブを用いて液の中に導き、ビーカー内の溶液をマグネティックスターラーで常時攪拌し、試料粉末の全量が溶液中に懸濁された時点を終点とし、終点におけるビーカーの液体混合物のメタノールの容量百分率の値をM値とした。
【0047】
また、前記疎水性を付与される無機微粉末は、使用条件下で溶解等の変質を起こさない無機微粉末であれば特に制限されない。具体的には、金属塩化物の火炎燃焼法などの乾式法で得られる金属酸化物微粉末が好適に使用され、とりわけ、四塩化ケイ素を火炎中で分解して得られる乾式シリカが好適に使用される。上記無機微粉末の粒径は、後で詳述する金属ゾルのピッカリングエマルジョンの形成において、形成されるマルションの粒径に対して十分に小さく、エマルション表面を覆うことができる程度の粒径であればよい。好ましい粒径の範囲は、エマルションの粒径に対して1/20倍以下であり、1/100倍以下であることはさらに好ましい。
【0048】
尚、使用する疎水性無機微粉末は、粉末同士の凝集がなく、O相となる有機溶媒に均一に分散されていることが好ましいが、粉末同士が凝集して生じる二次粒子の粒径が上記の範囲内であれば、この限りではない。
【0049】
疎水性を付与される無機微粉末の比表面積は特に限定されないが、BET比表面積が50~500m2/gの範囲にあるものを好適に使用することができる。
【0050】
(W/Oピッカリングエマルションの形成工程)
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末の製造方法は、前記金属酸化物水性ゾル、有機溶媒及び疎水性無機微粉末を混合して、金属酸化物水性ゾルが有機溶媒に分散したW/Oピッカリングエマルジョンを形成させる工程を含む。
【0051】
上記混合においては、使用する有機溶媒中に界面活性物質として疎水性無機微粉末をあらかじめ分散させておくことが好ましい。疎水性無機微粉末を有機溶媒中に分散させる方法としては、公知の方法が一般に使用される。具体的な例を挙げると、攪拌翼のミキサー等で混合することができる。混合の程度は特に制限されないが、有機溶媒への疎水性無機微粉末の均一な分散が達成できる程度であればよい。
また、使用する有機溶媒の量は、エマルションがW/O型となる程度の量であれば特に限定されることはない。ただし、一般的には、水性シリカゾル1体積部に対して有機溶媒が1~10体積部程度となる量を使用することが好ましい。
【0052】
前記金属酸化物水性ゾル、有機溶媒及び疎水性無機微粉末を混合する方法としては、有機溶媒中で無機微粉末が凝縮なく分散する程度に攪拌する手法であればよく、W/Oエマルションの公知の形成方法を採用することができる。工業的な製造の容易性などの観点からは、機械乳化によるエマルション形成が好ましく、具体的には、ミキサー、ホモジナイザー等を使用する方法を例示できる。好適には、ホモジナイザーを用いることができる。分散している金属酸化物ゾル液滴の粒径が、球状金属酸化物の粒径と関係するため、目的の粒径になるように、ゾルの液滴の粒径を調整することが好ましい。
【0053】
上記混合により、有機溶媒中に疎水性無機微粉末によって囲まれた金属酸化物水性ゾルの球状体が分散した、ピッカリングエマルジョン(以下、W/Oピッカリングエマルションともいう)が得られる。このように、上記疎水性無機微粉末が金属酸化物水性ゾルの球状体よりなる分散質の表面に存在することにより、後述の金属酸化物水性ゾルのゲル化により生成する多孔質球状金属酸化物粒子の表面のみに疎水性無機微粉末が付着し、表面の細孔の均一な減径を行うことができる。しかも、上記減径の作用は、多孔質球状金属酸化物粉末の内部は、高い比表面積および細孔容積に影響を与えることはない。
【0054】
(ゲル化工程)
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末の製造方法において、W/Oピッカリングエマルションの形成後、W相である金属酸化物の水性ゾルのゲル化を行う。該ゲル化は公知の方法で行うことができる。例えば高温に加熱する手法や、或いは金属酸化物ゾル、若しくは金属オキソ酸アルカリ金属塩のpHを弱酸性ないし塩基性に調整する手法により容易にゲル化を起こさせることができる。
【0055】
加熱によってゲル化を起こさせる手法は、その反応を主体的に制御できる点で好ましい。上記のゲル化にかかる時間は、W相の種類や温度等にもよるが、W相にシリカゾルを用い、pH2.9、シリカゾル中のシリカ濃度(SiO2換算)が90g/L、温度70℃の場合には、1時間程度でゲル化が起こる。
【0056】
なお、ゲル化後は分散質が液体状から固体(ゲル)状へと変化するため、系はW/Oエマルションではなく、固体(ゲル化体)が有機溶媒中に分散した分散液(サスペンション)となる。
【0057】
(WO相分離工程)
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末の製造方法において、ゲル化に引き続き、WO相分離が行われることが好ましい。WO相分離とは、前記分散溶媒をO相とW相の2層に分離するものであり、一般的には解乳とも呼ばれている操作である。ここで前記ゲル化工程により得られたゲル化体は分離したW相側に存在している。
【0058】
前記W相分離方法としては、解乳において通常使用される一定量の水溶性有機溶媒をエマルション中に加えてO相とW相に分離することにより行う。この工程を経ると、一般に、上層がO相(有機溶媒層)、下層がW相(水性有機溶媒層)となる。
【0059】
上記の水溶性有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、イソプロピルアルコールは、後述のシリル化処理の際にも、処理の効率を高める上で効果があるため、好適に用いることができる。
【0060】
例えば、O相の合計量に対して質量で1/6~1/2倍程度の水溶性有機溶媒を加え、必要に応じて攪拌後、静置することにより、好適に解乳を行うことができる。
【0061】
本発明に用いられる疎水性無機微粉末は、W/Oピッカリングエマルション形成工程において、その多くは界面活性物質として作用するが、ピッカリングエマルション界面に配置されなかった疎水性無機微粉末はO相に分散しており、適切に除去されなければ、完成した多孔質球状金属酸化物粉末の不純物となり得る。したがって、本発明の多孔質球状金属酸化物粉末を製造するためには、W相の分離に引き続き、余分な疎水性無機微粉末の抽出除去を行うことが好ましい。
【0062】
前記WO相分離工程において、余分な疎水性微粉末はO相側に移行(抽出)されるため、後述のW相回収工程において、O相を除去することにより、疎水性微粉末による不純物が混合していない多孔質球状金属酸化物粉末を得ることができる。
【0063】
また、前記WO相分離工程において、水溶性有機溶媒の添加量は、疎水性微粉末の抽出を行う際の効率に影響を与えるため、効率良く疎水性微粉末の抽出できるような適切な添加量に調整することが好ましい。前記抽出を効率良く行うためには、O相の合計量に対して1/6~1/4倍程度の水溶性有機溶媒を加えることが好ましい。
【0064】
水溶性有機溶媒に添加後、シリカゾル同士の凝集を防ぐために、攪拌しながら均一に加熱されることが好ましい。攪拌は公知の方法が一般に使用されるが、具体的に例を挙げると、攪拌翼のついたミキサーを使用することができる。混合の程度は特に制限されないが、攪拌によって液面が回転する程度であればよく、ミキサーによる攪拌を例として挙げると、0.1~3.0kW/m3、好ましくは0.5~1.5kW/m3である。また、攪拌時間としては0.5~24時間、好ましくは0.5~1時間程度が適当である。
【0065】
また、前記WO相分離工程においては、本発明の多孔質球状金属酸化物粉末を構成する粒子を高強度にする目的で行われる、熟成(エージング(aging))を同時に進行させることが好ましい。この熟成により、ゲル化反応(脱水縮合反応)をさらに進行させることは、細孔容積の大きな多孔質球状金属酸化物粉末を得る上で、好ましい。なお熟成を進行させる条件としては、W相の種類や温度等にもよるが、W相にシリカゾルを用いた場合には、酸や塩基の添加によってpH7程度に中和し、70℃の温度で1時間程度加熱することが好ましい。
【0066】
(W相回収工程)
本発明の球状金属酸化物の製造方法において、上記界面活性剤の抽出除去工程の後に、ゲル化体を含んだ前記W相の回収を行う。具体的にはデカンテーション等により、O相(上層)を分離除去することができる。
【0067】
(ゲル化体回収工程-1)
前記W相に含まれるゲルを、ろ過等により固液分離して回収し、必要な場合には水洗により硫酸塩、炭酸塩等の塩類の除去を行った後に、乾燥をすることで、本発明の球状金属酸化物を得ることができる。
【0068】
(疎水化処理工程)
また、前記のWO相分離工程、熟成操作を行った後に、必要に応じて、ゲル化体回収工程の前に疎水化剤による処理を行うことができる。前記疎水化剤による処理を行った場合には、乾燥時に生じる収縮を抑制することが可能となるため、細孔容量の大きな多孔質球状金属酸化物粉末を得ることができる。また、製造された多孔質球状金属酸化物粉末は、疎水性となるため、経時劣化の原因となる水分の吸着が少なく、疎水性の樹脂等への馴染みが良いものとなる。
【0069】
上記の疎水化剤による処理を行う場合には、前記処理に先立ち前記W相の回収(O相の除去)を行うことにより、効率的に疎水化剤による処理を行うことができる。なおここで、W相とO相は100%分離される必要はないが、除去後に回収液に残存するO相の量としては、30wt%以下が好ましく、さらに好ましくは20wt%以下である。
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末の製造方法において、疎水化処理する場合に用いる疎水化剤としては、一般的にはシリル化剤と呼ばれるものを好適に用いることができる。具体的には、無機微粉末の疎水化処理工程で示したシリル化剤を適用することができる。
【0070】
上記のシリル化処理の際に使用する処理剤の量としては、処理剤の種類にもよるが、例えば金属酸化物がシリカであり、ジメチルジクロロシランを処理剤として用いる場合には、金属酸化物(シリカ)100重量部に対して30~150重量部が好適である。
上記の疎水化処理の条件は、分離したW相に対して、疎水化処理剤を加え、一定時間反応させることにより行うことができる。例えば金属酸化物がシリカであり、シリル化処理剤としてヘキサメチルジシロキサンやヘキサメチルジシラザンを用い、処理温度を60℃とした場合には、4~12時間程度以上保持することで行うことができる。このとき、塩酸を添加することで溶液のpHを0.3~1.0とすることが、反応の効率を高める上で好ましい。
【0071】
前記シリル化処理工程においては、W相中への処理剤の溶解度を高めて、反応の効率を高める目的で、水溶性有機溶媒を加えることが好ましい。この水溶性有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、イソプロピルアルコールを好適に用いることができる。
【0072】
上記水溶性有機溶媒は、W相中の濃度が、20~80wt%程度になるように加えることが好ましい。前期のW相分離工程を行う際に、水溶性有機溶媒を加えた場合には、疎水化処理の際にもそのまま使用することができ、好適な濃度になるように更に水溶性有機溶媒を追加することもできる。
【0073】
(ゲル化体抽出工程)
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末の製造方法において、上記方法で疎水化処理を行った場合には、球状金属酸化物は水性溶媒に分散した状態になっている。この分散液から本発明の球状金属酸化物を回収するには、そのまま濾過してもよいが、好ましくはゲル化体を一旦疎水性有機溶媒に抽出し、その後に濾過することが好ましい。このように一旦疎水性有機溶媒に抽出することで、得られる多孔質球状金属酸化物粉末は凝集の少ないものとなる。即ち、レーザー回折式測定による粒度分布における粒子径が、メジアン径の10倍以上である粒子が少ないものを極めて容易に得ることができる。
ゲル化体抽出に用いる疎水性有機溶媒のとしては、後の乾燥工程の際、乾燥収縮を起こさないために表面張力が小さなものが好ましい。具体的にはヘキサン、ヘプタン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、トルエン等を用いることができ、好適にはヘキサン、ヘプタン、トルエンを用いることが出来る。
具体的には、疎水化処理を行ったゲル化体の水性分散液に上記疎水性有機溶媒を加え、攪拌を行うことにより疎水化されたゲル化体が疎水性有機溶媒側に抽出されてくる。用いる疎水性有機溶媒の量は、再度、O相とW相の2層に分離する程度であれば良いが、一般的に、水性分散液100体積部に対して100~200体積部程度である。
上記の疎水性有機溶媒への抽出を行った後に、ゲル化体に含まれる塩分や、疎水性有機溶媒中に含まれる硫酸塩等を除去するために、前記有機溶媒を水或いはアルコールの水溶液で洗浄を行うことが好ましい。この洗浄操作は、公知の方法で行うことができる。洗浄効率を上げる上では、数十wt%程度のイソプロピルアルコールの水溶液を用いることが好ましい。また、疎水性有機溶媒の沸点を超えない範囲で、高温にすることが洗浄効率を高める上では好ましい。通常は、50~70℃の範囲で行うことができる。
【0074】
(ゲル化体回収工程-2)
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末の製造方法において、上記のゲル化体抽出工程を行った場合には、引き続きゲル化体回収工程を行うことができる。すなわち、疎水性有機溶媒に分散しているゲルを濾別等により分離回収し、疎水性有機溶媒を除去(乾燥)する。乾燥する際の温度は、溶媒の沸点以上で、表面処理剤の分解温度以下であることが好ましく、圧力は常圧ないし減圧下で行うことが好ましい。
【0075】
本発明に関する上記説明では、金属酸化物がシリカである場合の球状金属酸化物の製造方法を主に例示したが、本発明は前記形態に限定されるものではない。
例えば、前述した金属アルコキサイドを原料として用いる方法でシリカ-チタニア複合酸化物からなる本発明の金属酸化物を得ようとする場合には、テトラエトキシシラン等のアルコキシシランとテトラブトキシチタン等のアルコキシチタンとを所望のモル比で混合、酸性条件下で加水分解して水性ゾルを得、これをW相として上記と同様の手順により製造することが出来る。
【0076】
また上述の金属酸化物ゾル調整工程において、例えば、ケイ酸ナトリウムとアルミン酸ナトリウムとを混合したものに酸を作用させて混合ゾルを調製する、あるいは、ケイ酸ナトリウムに酸を作用させることにより得たシリカゾルと、アルミニウムトリエトキシドの加水分解により得たアルミナゾルとを混合することによって混合ゾルを調製する手順の後、該混合ゾルを上記エマルション形成工程以降の工程に供することにより、金属酸化物がシリカ-アルミナ複合酸化物である形態の本発明の球状金属酸化物を製造する形態とすることも可能である。
【0077】
また、金属酸化物がシリカ-アルミナ複合酸化物以外の複合金属酸化物である形態の本発明の球状金属酸化物も、例えば、上記公知の手法によって個別に調製した複数の金属水酸化物ゾルを適当な混合比で混合することによって所望の金属組成比を有する混合ゾルを調製し、該混合ゾルを上記エマルション形成工程以降の工程に供することにより、製造することが可能である。
【0078】
(樹脂組成物)
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末は、公知の液状樹脂と混合して樹脂組成物を構成することができる。上記液状樹脂は特に限定されないが、熱硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂等を用いることができる。具体的に例を示せば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
上記混合の割合としては、液状樹脂100質量部に対して、多孔質球状金属酸化物粉末20~60体積部が好適である。そして、混合後、液状樹脂の硬化処理を行うことにより樹脂成形体が得られる。
【0079】
本発明の多孔質球状金属酸化物粉末を使用して得られる上記樹脂成形体は、液状樹脂が多孔質球状金属酸化物粉末を構成する粒子細孔内に浸入し難く、多孔質球状金属酸化物粉末が本来有する大きい比表面積により付与される強度と、高い細孔容積により内部の空孔が維持される結果、高い断熱性を発揮することが可能である。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を具体的に説明するため、実施例を示す。ただし本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。
【0081】
<評価方法>
実施例1~4及び比較例1、2で製造した多孔質球状金属酸化物粉末に対して、以下の項目について試験を行った。
【0082】
(レーザー回折による粒度分布、メジアン径の測定)
40mlのイソプロピルアルコールに対して前記多孔質球状金属酸化物粉末を0.1g添加し、株式会社エスエヌディ製のUS―1を用いて、出力80wで5分間分散させた。その分散液の粒度分布をベックマン・コールター株式会社社製LS 13 320を用いて測定を行った。溶媒の屈折率は1.374とし、粒子の屈折率は1.46とした。得られた粒度分布から、体積分布に対するメジアン径を評価した。
【0083】
(BET比表面積、BJH細孔容積の測定)
BET比表面積及びBJH細孔容積の測定は、前述の定義に従って日本ベル株式会社製BELSORP-maxにより行った。
【0084】
(吸油量の測定)
前記多孔質球状金属酸化物粉末0.4gをガラス板上に置き、ヘラでなじませながら少量ずつオレイン酸を添加した。多孔質球状金属酸化物粉末がオレイン酸を吸収して一つにまとまり、ヘラで伸ばせるようになった時点でのオレイン酸の添加量を用いて、吸油量を算出した。吸油量の算出には式(2)を使用した。
吸油量=((オレイン酸の添加量g)×100)/((多孔質球状金属酸化物粉末の添加量g)×0.895) (2)
(樹脂組成物の比重)
前記多孔質球状金属酸化物粉末0.1gをエポキシ樹脂(東都化学工業製、ベストンPM4)に混合して振動脱泡を30分行った。エポキシ樹脂は主剤と硬化剤を2:1の割合で混合して調整した。調整したエポキシ樹脂20gに多孔質球状金属酸化物粉末0.1gを混合し、振動脱泡を 30分行った。その後 樹脂を硬化させるために70℃で30分加熱した。 得られた樹脂を5つの樹脂片に切り分け、それぞれ比重を測定した。比重測定はアルファ―ミラージュ製SD―200Lにより行った。樹脂の比重を1.62g/mlとし、多孔質球状金属酸化物粉末を単位質量混合した場合の樹脂片の比重と樹脂の比重を比較し、その差を算出した。
【0085】
実施例1
(金属酸化物ゾル生成工程)
3号ケイ酸ソーダの溶液を希釈し、SiO2:190g/L、Na2O:62g/L の濃度に調整した。また、88g/L に濃度調整した硫酸を準備した。硫酸100mlに対して、撹拌しながらpHが2.9になるまでケイ酸ソーダを加え、シリカゾルを作成した。
(W/Oピッカリングエマルション形成工程)
シリカゾル139gを分取し、疎水性無機微粉末として、M値が40になるように調整したレオロシールQS-40(商品名:株式会社トクヤマ製)7.5gを分散した136.5gのヘプタンを添加して、ホモジナイザー(IKA製、T25BS1)を用いて、18000回転/分の条件で2.5分間攪拌することにより、W/Oピッカリングエマルションを得た。
【0086】
(ゲル化工程)
得られたW/Oピッカリングエマルションを翼径60mm、翼幅20mm、斜角45度の4枚パドル翼を用い、300rpmの条件で撹拌しながら、70℃のウォーターバスで1時間保持することにより、ゲル化を行った。
【0087】
(WO相分離工程)
イソプロピルアルコール77gと水52gを加えて攪拌羽で攪拌した。その後、静置することによりO相を上層、W相を下層とする2層に分離した。解乳後、0.5mol/L NaOH aq.を4.83g加えて、70℃で1時間熟成を行った。
【0088】
(W相回収工程)
デカンテーションにより、O相とW相を分離し、W相のみを回収した。
【0089】
(疎水化処理工程)
ヘキサメチルジシラザン7.7gと塩酸1.5gを添加し、攪拌しながら60℃ のウォーターバスで4時間保持することにより、疎水化処理を行った。
【0090】
(ゲル化体抽出工程)
疎水化処理工程後、塩酸を3.5g添加し、60℃で30分間保持することで、中和を行った。中和後、ヘプタンを90g加え、O相にゲル化体を抽出した。O相とW相が分離後、O相のみを回収し、イソプロピルアルコール77gと水52gを加えて洗浄を行った。洗浄は合わせて2回行った。
【0091】
各工程は攪拌翼によって攪拌しながら行い、60℃で30分間保持することによって行った。
【0092】
(ゲル化体回収工程-2)
得られたゲル化体を吸引濾過機により濾別した。ゲル化体を回収し、150℃の条件で12時間、真空乾燥器により乾燥した。このようにして得られた多孔質球状金属酸化物粉末は、粒子表面に疎水性無機微粉末が付着していることを走査型電子顕微鏡により確認した。また、その物性は表1に示す通りであった。
【0093】
実施例2
W/Oピッカリングエマルション形成工程において、ホモジナイザーの回転数を12000回転/分とした以外は、実施例1と同様に操作を行った。得られた多孔質球状金属酸化物粉末は、粒子表面に疎水性無機微粉末が付着していることを走査型電子顕微鏡により確認した。また、その物性は表1に示す通りであった。
【0094】
実施例3
W/Oピッカリングエマルション形成工程において、使用する疎水性無機微粉末(レオロシールQS-40、株式会社トクヤマ製)のM値を58に調整した以外は、実施例1と同様に操作を行った。得られた多孔質球状金属酸化物粉末は、粒子表面に疎水性無機微粉末が付着していることを走査型電子顕微鏡により確認した。また、その物性は表1に示す通りであった。
【0095】
比較例1
W/Oエマルション形成工程において、無機微粉末を使用する代わりに界面活性剤(レオドールSP-010V、花王株式会社製)0.8gを使用し、シリカゾルを108g、ヘプタンを160gに変更し、ホモジナイザーの回転数を600回転/分としてW/Oエマルション形成した以外は、実施例1と同様に操作を行った。得られた多孔質球状金属酸化物粉末の物性を表1に示す。
比較例2
比較例1と同様の方法で多孔質球状金属酸化物粉末を製造し、得られた多孔質球状金属酸化物粉末0.3gにアクリル樹脂(ニッペアクリル(商品名)、日本ペイント製)5gを噴霧により付着せしめ、80℃で乾燥した後、解砕することにより、アクリル樹脂によって表面をコーティングした多孔質球状金属酸化物粉末を得た。得られた多孔質球状金属酸化物粉末の物性を表1に示す。
【0096】