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特許7455720マルチ荷電粒子ビーム照射装置およびマルチ荷電粒子ビーム照射方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】マルチ荷電粒子ビーム照射装置およびマルチ荷電粒子ビーム照射方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20240318BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20240318BHJP
   H01J 37/09 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
H01L21/30 541B
H01L21/30 541W
H01J37/305 B
H01J37/09 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020164005
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022056154
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100120385
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】岡澤 光弘
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-102452(JP,A)
【文献】特開2020-136289(JP,A)
【文献】特開2019-121730(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03671803(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0258716(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0214218(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
複数の第1開口が設けられ、前記複数の第1開口で前記荷電粒子ビームを部分的に通過させてマルチビームを形成する成形アパーチャアレイ基板と、
前記マルチビームのうちの対応するビームを通過させる複数の第2開口が設けられ、各第2開口に前記ビームのブランキング偏向を行うブランカが配置された複数のブランキングアパーチャアレイ基板と、
前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板を光軸に沿った第1方向に直交する第2方向に間隔を開けて搭載し、前記第2方向に移動して前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板のうちの1つを前記光軸上に位置させる可動テーブルと、
前記光軸上に位置された1つのブランキングアパーチャアレイ基板と前記成形アパーチャアレイ基板とのアライメント調整を行うアライメント機構と、
前記可動テーブルを駆動するアクチュエータと、を備え
前記アクチュエータは、前記第1方向および前記第2方向の双方に直交する第3方向において前記光軸と重なる位置に配置されていマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項2】
前記光軸上に位置された1つのブランキングアパーチャアレイ基板のブランカを駆動するように前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板のブランカのうちのいずれを駆動するかを切り替える制御回路を更に備える、請求項1に記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項3】
前記アライメント機構は、前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板の間で共通である、請求項1または2に記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項4】
前記可動テーブルは、前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板の間に前記マルチビームの全ビームが通過可能な大きさの開口が設けられており、前記光軸上に前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板のいずれも位置させない状態でのビーム調整を許容するために、前記開口が前記全ビームを通過させる位置まで移動可能である、請求項1~3のいずれか1項に記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項5】
前記可動テーブルは、
前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板のうちの一部のブランキングアパーチャアレイ基板を搭載する第1可動テーブルと、
前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板のうちの他の一部のブランキングアパーチャアレイ基板を搭載する第2可動テーブルと、を有し、
前記第1可動テーブルおよび前記第2可動テーブルは、前記光軸上に前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板のいずれも位置させない状態でのビーム調整を許容するために、前記第1可動テーブルと前記第2可動テーブルとの間に前記マルチビームの全ビームが通過する大きさの間隙が形成される位置まで移動可能である、請求項1~3のいずれか1項に記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項6】
前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板のうちの少なくとも1つのブランキングアパーチャアレイ基板上に配置され、前記成形アパーチャアレイ基板の前記第1開口よりも小さい第3開口が設けられた第2の成形アパーチャアレイ基板を更に備える、請求項1~のいずれか1項に記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項7】
前記成形アパーチャアレイ基板は、複数備えられており、
前記マルチ荷電粒子ビーム照射装置は、
前記複数の成形アパーチャアレイ基板を前記第2方向に間隔を開けて搭載し、前記第2方向に移動して前記複数の成形アパーチャアレイ基板のうちの1つを前記光軸上に位置させる第2の可動テーブルを更に備える、請求項1~のいずれか1項に記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項8】
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
複数の第1開口が設けられ、前記複数の第1開口で前記荷電粒子ビームを部分的に通過させてマルチビームを形成する成形アパーチャアレイ基板と、
前記マルチビームのうちの対応するビームを通過させる複数の第2開口が設けられ、各第2開口に前記ビームのブランキング偏向を行うブランカが配置された複数のブランキングアパーチャアレイ基板と、
前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板を光軸に沿った第1方向に直交する第2方向に間隔を開けて搭載し、前記第2方向に移動して前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板のうちの1つを前記光軸上に位置させる可動テーブルと、
前記光軸上に位置された1つのブランキングアパーチャアレイ基板と前記成形アパーチャアレイ基板とのアライメント調整を行うアライメント機構とを備え、
前記可動テーブルは、移動ガイド部材によってガイドされる、マルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項9】
前記移動ガイド部材は、前記可動テーブルの底面に固定されたガイドブロックと、前記ガイドブロックを前記第2方向に摺動自在に支持するガイドレールとを有する、請求項8に記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項10】
前記光軸上に位置された1つのブランキングアパーチャアレイ基板のブランカを駆動するように前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板のブランカのうちのいずれを駆動するかを切り替える制御回路を更に備える、請求項8または9に記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項11】
前記アライメント機構は、前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板の間で共通である、請求項8~10のいずれか1項に記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項12】
前記可動テーブルは、前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板の間に前記マルチビームの全ビームが通過可能な大きさの開口が設けられており、前記光軸上に前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板のいずれも位置させない状態でのビーム調整を許容するために、前記開口が前記全ビームを通過させる位置まで移動可能である、請求項8~11のいずれか1項に記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項13】
前記可動テーブルは、
前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板のうちの一部のブランキングアパーチャアレイ基板を搭載する第1可動テーブルと、
前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板のうちの他の一部のブランキングアパーチャアレイ基板を搭載する第2可動テーブルと、を有し、
前記第1可動テーブルおよび前記第2可動テーブルは、前記光軸上に前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板のいずれも位置させない状態でのビーム調整を許容するために、前記第1可動テーブルと前記第2可動テーブルとの間に前記マルチビームの全ビームが通過する大きさの間隙が形成される位置まで移動可能である、請求項8~11のいずれか1項に記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項14】
複数の第2開口および前記第2開口毎のブランカが設けられた複数のブランキングアパーチャアレイ基板が光軸に沿った第1方向に直交する第2方向に間隔を開けて搭載された可動テーブルを前記第2方向に移動させて、前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板のうちの1つを前記光軸上に位置させる工程と、
前記光軸上に位置された1つのブランキングアパーチャアレイ基板と複数の第1開口が設けられた成形アパーチャアレイ基板とのアライメント調整を行う工程と、
荷電粒子ビームを放出する工程と、
前記成形アパーチャアレイ基板を用いて、前記複数の第1開口で前記荷電粒子ビームを部分的に通過させてマルチビームを形成する工程と、
前記光軸上に位置された1つのブランキングアパーチャアレイ基板のブランカを用いて、前記マルチビームのうちの対応するビームのブランキング偏向を行う工程と、を備え
前記可動テーブルは、アクチュエータにより駆動され、
前記アクチュエータは、前記第1方向および前記第2方向の双方に直交する第3方向において前記光軸と重なる位置に配置されていマルチ荷電粒子ビーム照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチ荷電粒子ビーム照射装置およびマルチ荷電粒子ビーム照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターン(マスク、或いは特にステッパやスキャナで用いられるものはレチクルともいう。)をウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンは、電子ビーム描画装置によって描画され、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
マルチビームを使った描画装置は、1本の電子ビームで描画する場合に比べて、一度に多くのビームを照射できるので、スループットを大幅に向上させることができる。マルチビーム描画装置の一形態であるブランキングアパーチャアレイ基板を使ったマルチビーム描画装置では、例えば、複数の開口が設けられた成形アパーチャアレイ基板をステージに搭載し、ステージを移動させることで、成形アパーチャアレイ基板と、複数の開口および開口毎のブランカ(電極対)が設けられたブランキングアパーチャアレイ基板とのアライメント調整を行う(例えば、特許文献1参照)。アライメント後の描画工程においては、1つの電子銃から放出された電子ビームを成形アパーチャアレイ基板に通してマルチビーム(複数の電子ビーム)を形成し、形成されたマルチビームの各ビームをブランキングアパーチャアレイ基板の対応する開口に通すとともに、対応する開口に配置されたブランカでビーム毎に個別に偏向の有無を選択する。ブランカで偏向された電子ビームは遮蔽され、偏向されなかった電子ビームは試料上に照射されて描画に用いられる。電子ビームと空気中の分子との衝突による電子ビームの位置精度への影響を回避するため、電子ビームの照射はマルチビーム描画装置の電子鏡筒内を真空に保持した状態で行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-98429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現状のマルチビーム描画装置では、性能が劣化したブランキングアパーチャアレイ基板を交換する場合に、装置の大気化、分解および再組立が必要であったため、装置の稼働率が悪化してしまっていた。
【0006】
本発明の目的は、稼働率の悪化を抑制しつつブランキングアパーチャアレイ基板を適切に交換することができるマルチ荷電粒子ビーム照射装置およびマルチ荷電粒子ビーム照射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様であるマルチ荷電粒子ビーム照射装置は、荷電粒子ビームを放出する放出部と、複数の第1開口が設けられ、複数の第1開口で荷電粒子ビームを部分的に通過させてマルチビームを形成する成形アパーチャアレイ基板と、マルチビームのうちの対応するビームを通過させる複数の第2開口が設けられ、各第2開口にビームのブランキング偏向を行うブランカが配置された複数のブランキングアパーチャアレイ基板と、複数のブランキングアパーチャアレイ基板を光軸に沿った第1方向に直交する第2方向に間隔を開けて搭載し、第2方向に移動して複数のブランキングアパーチャアレイ基板のうちの1つを光軸上に位置させる可動テーブルと、光軸上に位置された1つのブランキングアパーチャアレイ基板と成形アパーチャアレイ基板とのアライメント調整を行うアライメント機構と、を備える。
【0008】
上述のマルチ荷電粒子ビーム照射装置において、光軸上に位置された1つのブランキングアパーチャアレイ基板のブランカを駆動するように複数のブランキングアパーチャアレイ基板のブランカのうちのいずれを駆動するかを切り替える制御回路を更に備えてもよい。
【0009】
上述のマルチ荷電粒子ビーム照射装置において、アライメント機構は、複数のブランキングアパーチャアレイ基板の間で共通であってもよい。
【0010】
上述のマルチ荷電粒子ビーム照射装置において、可動テーブルは、複数のブランキングアパーチャアレイ基板の間にマルチビームの全ビームが通過可能な大きさの開口が設けられており、光軸上に複数のブランキングアパーチャアレイ基板のいずれも位置させない状態でのビーム調整を許容するために、開口が全ビームを通過させる位置まで移動可能であってもよい。
【0011】
上述のマルチ荷電粒子ビーム照射装置において、可動テーブルは、複数のブランキングアパーチャアレイ基板のうちの一部のブランキングアパーチャアレイ基板を搭載する第1可動テーブルと、複数のブランキングアパーチャアレイ基板のうちの他の一部のブランキングアパーチャアレイ基板を搭載する第2可動テーブルと、を有し、第1可動テーブルおよび第2可動テーブルは、光軸上に複数のブランキングアパーチャアレイ基板のいずれも位置させない状態でのビーム調整を許容するために、第1可動テーブルと第2可動テーブルとの間にマルチビームの全ビームが通過する大きさの間隙が形成される位置まで移動可能であってもよい。
【0012】
上述のマルチ荷電粒子ビーム照射装置において、可動テーブルを駆動するアクチュエータを更に備え、アクチュエータは、第1方向および第2方向の双方に直交する第3方向において光軸と重なる位置に配置されていてもよい。
【0013】
上述のマルチ荷電粒子ビーム照射装置において、前記複数のブランキングアパーチャアレイ基板のうちの少なくとも1つのブランキングアパーチャアレイ基板上に配置され、前記成形アパーチャアレイ基板の前記第1開口よりも小さい第3開口が設けられた第2の成形アパーチャアレイ基板を更に備えていてもよい。
【0014】
上述のマルチ荷電粒子ビーム照射装置において、成形アパーチャアレイ基板は、複数備えられており、マルチ荷電粒子ビーム照射装置は、複数の成形アパーチャアレイ基板を第2方向に間隔を開けて搭載し、第2方向に移動して複数の成形アパーチャアレイ基板のうちの1つを光軸上に位置させる第2の可動テーブルを更に備えてもよい。
【0015】
本発明の一態様であるマルチ荷電粒子ビーム照射方法は、複数の第2開口および第2開口毎のブランカが設けられた複数のブランキングアパーチャアレイ基板が光軸に沿った第1方向に直交する第2方向に間隔を開けて搭載された可動テーブルを第2方向に移動させて、複数のブランキングアパーチャアレイ基板のうちの1つを光軸上に位置させる工程と、光軸上に位置された1つのブランキングアパーチャアレイ基板と複数の第1開口が設けられた成形アパーチャアレイ基板とのアライメント調整を行う工程と、荷電粒子ビームを放出する工程と、成形アパーチャアレイ基板を用いて、複数の第1開口で荷電粒子ビームを部分的に通過させてマルチビームを形成する工程と、光軸上に位置された1つのブランキングアパーチャアレイ基板のブランカを用いて、マルチビームのうちの対応するビームのブランキング偏向を行う工程と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、稼働率の悪化を抑制しつつブランキングアパーチャアレイ基板を適切に交換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置を示す全体図である。
図2】本実施形態によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す断面図である。
図3】本実施形態によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す平面図である。
図4】成形アパーチャアレイ基板を示す平面図である。
図5】本実施形態によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の動作例を示す平面図である。
図6】本実施形態によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の他の動作例を示す平面図である。
図7】第1の変形例によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す断面図である。
図8】第2の変形例によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す平面図である。
図9】第3の変形例によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す平面図である。
図10】第4の変形例によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す平面図である。
図11】第5の変形例によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す平面図である。
図12】第6の変形例によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。実施形態は、本発明を限定するものではない。また、実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0019】
以下の実施形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限るものでなく、イオンビーム等でもよい。また、以下の実施形態では、マルチ荷電粒子ビーム照射装置の一例として、マルチビーム描画装置について説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態によるマルチビーム描画装置1は、内部が真空状態に保持され、マスクやウェーハ等の試料に電子ビームを照射して所望のパターンを描画する描画部2と、描画部2による描画動作を制御する制御部3とを備える。描画部2は、電子ビーム鏡筒21及び描画室22を有する。
【0021】
図1に示すように、電子ビーム鏡筒21内には、放出部の一例である電子銃23と、照明レンズ24と、成形アパーチャアレイ基板25と、複数のブランキングアパーチャアレイ基板の一例である第1ブランキングアパーチャアレイ基板261および第2ブランキングアパーチャアレイ基板262と、可動テーブル27と、歪調整レンズ28と、制限アパーチャ基板29と、偏向器201と、対物レンズ210とが配置されている。照明レンズ24、歪調整レンズ28および対物レンズ210は、電磁レンズおよび静電レンズの少なくとも一方で構成されている。描画室22内には、XYステージ211が配置されている。XYステージ211上には、描画対象の基板4であるマスクブランクが載置されている。描画対象の基板4には、例えば、ウェーハや、ウェーハにエキシマレーザを光源としたステッパやスキャナ等の縮小投影型露光装置や極端紫外線露光装置を用いてパターンを転写する露光用のマスクが含まれる。また、描画対象基板には、既にパターンが形成されているマスクも含まれる。例えば、レベンソン型マスクは2回の描画を必要とするため、1度描画されマスクに加工された物に2度目のパターンを描画することもある。
【0022】
また、図2および図3に示すように、電子ビーム鏡筒21内には、更に、アクチュエータの一例である第1モータ212および第2モータ213と、移動ガイド部材214と、アライメント機構の一例であるXYZθステージ215とが配置されている。
【0023】
成形アパーチャアレイ基板25は、複数の第1開口が設けられ、複数の第1開口で荷電粒子ビームを部分的に通過させてマルチビームを形成する部材である。具体的には、図4に示すように、成形アパーチャアレイ基板25には、Y方向(第3方向)にm列(m≧1)、X方向(第2方向)にn列(n≧2)の開口(第1開口)A1が所定の配列ピッチで形成されている。各開口A1は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。開口A1の形状は、円形であっても構わない。これらの複数の開口A1を電子ビームBが部分的に通過することで、マルチビームMBが形成される。
【0024】
第1ブランキングアパーチャアレイ基板261および第2ブランキングアパーチャアレイ基板262は、成形アパーチャアレイ基板25の下方すなわちビームの出射側に配置されている。第1ブランキングアパーチャアレイ基板261および第2ブランキングアパーチャアレイ基板262のうちのいずれか一方が、後述する可動テーブル27の水平方向(X方向,Y方向)への移動によって図3の光軸OA上に位置することができる。
【0025】
第1ブランキングアパーチャアレイ基板261および第2ブランキングアパーチャアレイ基板262は、マルチビームのうちの対応するビームを通過させる複数の第2開口が設けられ、各第2開口にビームのブランキング偏向を行うブランカが配置された部材である。より具体的には、図3に示すように、第1ブランキングアパーチャアレイ基板261および第2ブランキングアパーチャアレイ基板262のそれぞれには、成形アパーチャアレイ基板25の各開口A1に対応する開口(第2開口)A2が形成されている。ブランキングアパーチャアレイ基板261,262の開口A2の配列方向は、成形アパーチャアレイ基板25の開口A1の配列方向と同様に、X方向およびY方向である。開口A2の配列ピッチは、開口A1の配列ピッチよりも狭くなっている。第1ブランキングアパーチャアレイ基板261と第2ブランキングアパーチャアレイ基板262との間で、開口A2の配列ピッチは一致している。各開口A2には、対となる2つの電極の組からなるブランカ(図示略)が配置されている。ブランカを構成する電極対の一方はグラウンド電位で固定されており、他方はグラウンド電位と別の電位に切り替えられる。各開口A2は、成形アパーチャアレイ基板25の複数の開口A1を電子ビームBが通過することで形成されたマルチビームMBのうちの対応するビームを通過させる。各開口A2を通過する電子ビームは、ブランカに印加される電圧によってそれぞれ独立に偏向される。このようにして、各ブランカは、対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0026】
可動テーブル27は、複数のブランキングアパーチャアレイ基板261,262を光軸OAに沿ったZ方向(第1方向)に直交するX方向(第2方向)に間隔を開けて搭載し、X方向に移動して複数のブランキングアパーチャアレイ基板261,262のうちの1つを光軸OA上に位置させる部材である。より具体的には、図3に示すように、可動テーブル27は、第1可動テーブル271と、第2可動テーブル272とを有する。第1可動テーブル271は、第1ブランキングアパーチャアレイ基板261を搭載する。第2可動テーブル272は、第2ブランキングアパーチャアレイ基板262を搭載する。第1可動テーブル271には、第1ブランキングアパーチャアレイ基板261を通過したマルチビームMBを通過させるための開口(図示略)が設けられている。第2可動テーブル272には、第2ブランキングアパーチャアレイ基板262を通過したマルチビームMBを通過させるための開口(図示略)が設けられている。図3に示すように、第1可動テーブル271は、第1モータ212によって駆動されてX方向に移動する。第2可動テーブル272は、第2モータ213によって駆動されて第1可動テーブル271と独立してX方向に移動することができる。第1モータ212の駆動によるX方向への第1可動テーブル271の移動および第2モータ213の駆動によるX方向への第2可動テーブル272の移動は、第1可動テーブル271および第2可動テーブル272とで共通の2組の移動ガイド部材214によってガイドされる。移動ガイド部材214は、第1可動テーブル271および第2可動テーブル272のそれぞれの底面に固定されたガイドブロック216と、X方向に延び、ガイドブロック216を摺動自在に支持するガイドレール217とを有する。第1モータ212および第2モータ213は、Z方向(第1方向)およびX方向(第2方向)の双方に直交するY方向(第3方向)において光軸OAと重なる位置に配置されている。第1モータ212および第2モータ213の具体的な態様は特に限定されず、例えば、超音波モータやピエゾモータ等であってもよい。
【0027】
XYZθステージ215は、光軸OA上に位置された1つのブランキングアパーチャアレイ基板261または262と、成形アパーチャアレイ基板25とのアライメント調整を行う部材である。XYZθステージ215は、第1ブランキングアパーチャアレイ基板261および第2ブランキングアパーチャアレイ基板262の間で共通の構成である。すなわち、XYZθステージ215は、第1ブランキングアパーチャアレイ基板261と成形アパーチャアレイ基板25とのアライメント、および第2ブランキングアパーチャアレイ基板262と成形アパーチャアレイ基板25とのアライメントの双方に用いられる。より具体的には、図2に示されるXYZθステージ215は、ブランキングアパーチャアレイ基板261,262の下方(すなわち、ビームの出射側)に位置し、移動ガイド部材214のガイドレール217を下方から支持している。そして、既述したように、ガイドレール217にはガイドブロック216が摺動自在に支持され、ガイドブロック216には可動テーブル27が固定され、可動テーブル27にはブランキングアパーチャアレイ基板261,262が搭載されている。したがって、XYZθステージ215が動き、この動きがガイドレール217、ガイドブロック216および可動テーブル27を介して光軸OA上のブランキングアパーチャアレイ基板261,262に伝達されることで、光軸OA上のブランキングアパーチャアレイ基板261,262をXYZθステージ215と同じ方向に動かすことができる。これによって、光軸OA上のブランキングアパーチャアレイ基板261,262と成形アパーチャアレイ基板25とのアライメント調整を行うことができる。なお、XYZθステージ215では、光軸OA上のブランキングアパーチャアレイ基板261,262をX方向、Y方向、Z方向およびθ方向の少なくとも一方に動かしてアライメント調整を行うことができる。XYZθステージ215は、例えば、ピエゾステージであってもよい。アライメント機構として、XYZθステージ215の代わりにYZθステージを採用してもよい。
【0028】
電子ビームBに晒される成形アパーチャアレイ基板25が電子ビームBの熱で膨張して開口ピッチが変化するのを抑制し、また、ブランキングアパーチャアレイ基板261,262の自身の電気回路(ブランカに接続された回路)による発熱を冷却するため、描画部2は、更に、成形アパーチャアレイ基板25およびブランキングアパーチャアレイ基板261,262の冷却構造を備えている。冷却構造は、冷却水が循環するように構成された冷却流路218と、冷却流路218と成形アパーチャアレイ基板25またはブランキングアパーチャアレイ基板261,262との間の電子ビーム鏡筒21の熱伝導経路220とを有する。成形アパーチャアレイ基板25は、成形アパーチャアレイ基板25と冷却流路218との間の熱伝導経路220を介した冷却流路218との熱交換によって冷却される。ブランキングアパーチャアレイ基板261,262は、可動テーブル27、移動ガイド部材214、XYZθステージ215および熱伝導経路220を介した冷却流路218との熱交換によって冷却される。ビーム軌道に影響を与えずかつ成形アパーチャアレイ基板25およびブランキングアパーチャアレイ基板261,262の冷却を効率的に行うため、熱伝導経路220は非磁性の純銅で構成されていることが好ましい。
【0029】
一方、図1に示すように、制御部3は、制御計算機31と、制御回路の一例である偏向制御回路32と、移動制御回路33と、レンズ制御回路34とを有している。偏向制御回路32は、第1ブランキングアパーチャアレイ基板261、第2ブランキングアパーチャアレイ基板262および偏向器201に接続されている。移動制御回路33は、図3の第1モータ212、第2モータ213および図2のXYZθステージ215に接続されている。レンズ制御回路34は、照明レンズ24、歪調整レンズ28および対物レンズ210に接続されている。
【0030】
以上の構成を有するマルチビーム描画装置1において、ポンプ等の排気手段によって装置1内が真空に保持された状態で、電子銃23から放出された電子ビームBは、制限アパーチャ基板29に形成された中心の穴でクロスオーバーを形成するように、レンズ制御回路34で励磁された照明レンズ24によって収束され、成形アパーチャアレイ基板25全体を照明する。
【0031】
電子ビームBが成形アパーチャアレイ基板25の複数の開口A1を通過することによって、マルチビームMBが形成される。マルチビームMBは、光軸OA上に位置された1つのブランキングアパーチャアレイ基板(図1では第1ブランキングアパーチャアレイ基板261)の、マルチビームMBに対応する開口A2内を通過する。マルチビームMBの各ビームは、制限アパーチャ基板29に形成された中心の穴に向かって角度を持って進む。従って、マルチビームMB全体のビーム径及びマルチビームMBのビームピッチは、成形アパーチャアレイ基板25を通過時から徐々に小さくなっていく。
【0032】
マルチビームMBは、成形アパーチャアレイ基板25によって形成されたビームピッチよりも狭くなったピッチで光軸OA上の第1ブランキングアパーチャアレイ基板261を通過する。光軸OA上の第1ブランキングアパーチャアレイ基板261を通過したマルチビームMBは、制限アパーチャ基板29に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、偏向制御回路32は、光軸OA上の第1ブランキングアパーチャアレイ基板261のブランカを電圧の印加によって駆動し、一方、光軸OA上から退避された第2ブランキングアパーチャアレイ基板262のブランカは電圧を印加しない(駆動しない)。このとき、制御計算機31は、図示しない記憶装置からパターンの描画データを読み出し、この読み出された描画データに対して複数段のデータ変換処理を行って装置固有のショットデータを生成する。ショットデータには、各ショットの照射量および照射位置座標等が定義されている。制御計算機31は、ショットデータに基づいて各ショットの照射量を偏向制御回路32に出力する。偏向制御回路32は、入力された照射量を電流密度で除することで照射時間を求める。そして、偏向制御回路32は、この求めた照射時間だけ光軸OA上の第1ブランキングアパーチャアレイ基板261のブランカがビームを通過させるように、対応するブランカに電圧を印加する。また、このとき、制御計算機31は、ショットデータが示す位置(座標)に各ビームが偏向されるように、偏向位置データを偏向制御回路32に出力する。偏向制御回路32は、偏向量を演算し、歪調整レンズ28に偏向電圧を印加する。これにより、その回にショットされるマルチビームMBがまとめて偏向される。
【0033】
これにより、偏向制御回路32によって駆動された光軸OA上の第1ブランキングアパーチャアレイ基板261のブランカによって電子ビームが偏向され、この偏向された電子ビームは、制限アパーチャ基板29の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ基板29によって遮蔽される。一方、光軸OA上の第1ブランキングアパーチャアレイ基板261のブランカによって偏向されなかった電子ビームは、制限アパーチャ基板29の中心の穴を通過する。
【0034】
このように、制限アパーチャ基板29は、光軸OA上の第1ブランキングアパーチャアレイ基板261のブランカによってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに制限アパーチャ基板29を通過したビームが、1回分のショットのビームとなる。
【0035】
制限アパーチャ基板29を通過したマルチビームMBは、レンズ制御回路34で励磁された対物レンズ210により、成形アパーチャアレイ基板25の開口A1に対する所望の縮小倍率のアパーチャ像となり、基板4上に焦点調整される。そして、偏向器201によって制限アパーチャ基板29を通過したマルチビームMBが同方向にまとめて偏向され、基板4上の各ビームの照射位置に照射される。これにより、基板4へのパターンの描画が行われる。
【0036】
ここで、光軸OA上のブランキングアパーチャアレイ基板は、マルチビームMBの影響によって性能が劣化する。性能が劣化したブランキングアパーチャアレイ基板を新たなブランキングアパーチャアレイ基板と交換する場合、従来は、装置1を大気化および分解する必要があった。これに対して、本実施形態では、装置1を大気化および分解せずにブランキングアパーチャアレイ基板を交換することができる。
【0037】
具体的には、光軸OA上の第1ブランキングアパーチャアレイ基板261を光軸OA上から退避された第2ブランキングアパーチャアレイ基板262と交換する場合、移動制御回路33は、第1ブランキングアパーチャアレイ基板261が光軸OA上から退避するまで第1可動テーブル271を移動させるように第1モータ212の駆動を制御する。また、移動制御回路33は、第2ブランキングアパーチャアレイ基板262が光軸OA上に位置するまで第2可動テーブル272を移動させるように第2モータ213の駆動を制御する。
【0038】
これにより、図5に示すように、装置1内が真空状態に保持されたまま、第1ブランキングアパーチャアレイ基板261が光軸OA上から退避され、第2ブランキングアパーチャアレイ基板262が光軸OA上に位置される。
【0039】
第2ブランキングアパーチャアレイ基板262が光軸OA上に位置されると、偏向制御回路32は、新たに光軸OA上に位置された第2ブランキングアパーチャアレイ基板262のブランカを電圧の印加によって駆動し、一方、光軸OA上から退避された第2ブランキングアパーチャアレイ基板261のブランカは電圧を印加しない(駆動しない)。このように偏向制御回路32は、光軸OA上に位置された方のブランキングアパーチャアレイ基板のブランカを電圧の印加によって駆動するよう切り替える。
【0040】
また、第2ブランキングアパーチャアレイ基板262が光軸OA上に位置されると、XYZθステージ215は、第2ブランキングアパーチャアレイ基板262と成形アパーチャアレイ基板25とのアライメント調整を行う。アライメント調整においては、例えば、XYステージ211上にファラデーカップ等の電流ビームの検出器230を設けておき、マルチビームのうち一部のビームをONにした状態で、XYZθステージ215によって第2ブランキングアパーチャアレイ基板262を走査し、検出器230によるビーム電流の検出結果と第2ブランキングアパーチャアレイ基板262の位置とに基づいて、ONにしたビームの電流量の分布を示す電流量マップを作成する。さらに、ONにするビームを切り替え、ONビーム毎に電流量マップを作成する。そして、ONビーム毎の電流量マップに基づいて、ブランキングアパーチャアレイ基板の位置をXYZθステージ215によって調整する。このような電流量マップに基づいたアライメント調整の詳細な方法としては、例えば、本出願人によって開示された特開2019-121730号公報に記載の方法を用いてもよい。
【0041】
アライメント調整の後は、成形アパーチャアレイ基板25で形成されたマルチビームMBの各ビームBに対して、光軸OA上に位置された第2ブランキングアパーチャアレイ基板262によるブランキング偏向を行う。
【0042】
なお、マルチビーム描画装置1は、光軸OA上にいずれのブランキングアパーチャアレイ基板261,262も位置させない状態でのビーム調整を行ってもよい。この場合、移動制御回路33は、光軸OA上にいずれのブランキングアパーチャアレイ基板261,262も位置させない状態でのビーム調整を許容するために、第1可動テーブル271と第2可動テーブル272との間にマルチビームMBの全ビームが通過する大きさの間隙が形成される位置まで第1可動テーブル271および第2可動テーブル272が移動するように第1モータ212および第2モータ213の駆動を制御する。
【0043】
これにより、図6に示すように、第1可動テーブル271と第2可動テーブル272との間に、全ビームが通過可能な間隙Gが形成される。間隙Gが形成されたうえで、レンズ制御回路34による照明レンズ24および歪調整レンズ28の制御により、歪調整レンズ28を用いてアパーチャ像の結像歪み量を調整する工程と、照明レンズ24を用いてマルチビームMBがクロスオーバーを形成する位置を制御してアパーチャ像の結像歪み量を調整する工程と、を結像歪み量が所定値以下になるまで交互に繰り返し行う。アパーチャ像の取得には、検出器240による反射電子の検出結果を使用する。このようなアパーチャ像の結像歪み量に基づくビーム調整のより詳細な方法としては、例えば、本出願人によって開示された特開2019-212680号公報に記載された方法を用いてもよい。
【0044】
以上述べたように、本実施形態によるマルチビーム描画装置1によれば、第1ブランキングアパーチャアレイ基板261および第2ブランキングアパーチャアレイ基板262を搭載した可動テーブル27の移動によって、光軸OA上から今まで使用していた一方のブランキングアパーチャアレイ基板を退避させ、光軸OA上に新たに使用する他方のブランキングアパーチャアレイ基板を位置させることができる。そして、駆動されるブランカを、今まで使用していたブランキングアパーチャアレイ基板のブランカから新たに使用するブランキングアパーチャアレイ基板のブランカに切り替え、また、新たに使用するブランキングアパーチャアレイ基板と成形アパーチャアレイ基板とのアライメント調整を行うことができる。これにより、装置1内を真空状態に保持しながら、第1ブランキングアパーチャアレイ基板261と第2ブランキングアパーチャアレイ基板262とを適切に交換することができる。したがって、本実施形態によれば、稼働率の悪化を抑制しつつブランキングアパーチャアレイ基板を適切に交換することができる。本実施形態のように第1ブランキングアパーチャアレイ基板261と第2ブランキングアパーチャアレイ基板262とが同一構成であれば、第1ブランキングアパーチャアレイ基板261と第2ブランキングアパーチャアレイ基板262との交換によって稼働率の悪化を抑制しながら実質的に装置寿命を延ばすことができる。
【0045】
また、本実施形態によるマルチビーム描画装置1によれば、光軸OA上にいずれのブランキングアパーチャアレイ基板261,262も位置させない状態でのビーム調整を行うことで、ブランキングアパーチャアレイ基板261,262によって発生するアパーチャ像の結像歪が無い状態でのビーム調整を先に完了させたうえで、ブランキングアパーチャアレイ基板261,262による結像歪を調整することができる。また、ブランキングアパーチャアレイ基板261,262以外の光学系のビーム調整が不完全なことによってブランキングアパーチャアレイ基板261,262に開口A2を通過しないビームがブランキングアパーチャアレイ基板261,262に照射され、ブランキングアパーチャアレイ基板261,262がダメージを受けることを抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態によるマルチビーム描画装置1によれば、第1モータ212および第2モータ213をY方向において光軸OAと重なる位置に配置することで、可動テーブル27の熱膨張の中心位置に第1モータ212および第2モータ213を配置することができる。これにより、可動テーブル27の熱膨張に起因するモータ212,213と可動テーブル27との位置ずれを最小限に抑えることができ、モータ212,213による可動テーブル27の駆動の信頼性を向上させることができる。
【0047】
上述した実施形態は、マルチビーム描画装置1の好ましい一例を示したものである。しかしながら、マルチビーム描画装置1は、上述した実施形態に限定されず、以下に示される種々の変形例を適用することができる。
【0048】
(第1の変形例)
これまでは、第1ブランキングアパーチャアレイ基板261と第2ブランキングアパーチャアレイ基板262とが同一構成である例について説明した。これに対して、図7に示すように、複数のブランキングアパーチャアレイ基板261,262のうちの1つのブランキングアパーチャアレイ基板262上、マルチビームMBの入射側に、成形アパーチャアレイ基板25の開口A1よりも小さい開口A3(第3開口)が設けられた第2の成形アパーチャアレイ基板25-2を配置してもよい。
【0049】
第2の成形アパーチャアレイ基板25-2の開口A3は、ブランキングアパーチャアレイ基板262の開口A2よりも小さい。第2の成形アパーチャアレイ基板25-2は、例えば、接着剤などの接合材によってブランキングアパーチャアレイ基板262に貼り合わされている。第2の成形アパーチャアレイ基板25-2は、アクチュエータによってブランキングアパーチャアレイ基板262に対して水平方向に移動可能に構成されていてもよい。
【0050】
このような構成によれば、第2の成形アパーチャアレイ基板25-2が設けられたブランキングアパーチャアレイ基板262は、第2の成形アパーチャアレイ基板25-2によって1本1本のビームサイズが縮小されたマルチビームMBをブランキング偏向する。したがって、ブランキングアパーチャアレイ基板261,262の切り替えによって、求められる描画精度および描画速度に応じた好適なビームサイズを選択することができる。
【0051】
(第2の変形例)
これまでは、可動テーブル27が第1可動テーブル271と第2可動テーブル272とで構成された例について説明した。これに対して、図8に示すように、可動テーブル27は、単一の構成であってもよい。
【0052】
図8に示される例において、可動テーブル27は、単一の構成によって第1ブランキングアパーチャアレイ基板261および第2ブランキングアパーチャアレイ基板262の双方を搭載している。可動テーブル27は、第1ブランキングアパーチャアレイ基板261と第2ブランキングアパーチャアレイ基板262との間に、マルチビームの全ビームが通過可能な大きさの開口Aが設けられている。
【0053】
可動テーブル27は、光軸OA上にいずれのブランキングアパーチャアレイ基板261,262も位置させない状態でのビーム調整を許容するために、開口Aが全ビームを通過させる位置まで移動可能である。可動テーブル27の移動は、単一のモータ212によって行われる。
【0054】
このような構成によれば、モータの個数を少なくすることができるので、コストを削減することができる。
【0055】
(第3の変形例)
これまでは、光軸OA上のブランキングアパーチャアレイ基板261,262と成形アパーチャアレイ基板25とのアライメント調整を行うXYZθステージ215を、ブランキングアパーチャアレイ基板261,262側に配置した例について説明した。これに対して、図9に示すように、XYZθステージ215を成形アパーチャアレイ基板25側に配置してもよい。すなわち、アライメント機構(図2および図9の例ではXYZθステージ215であるが、YZθステージであってもよい)は、図2に示したようにブランキングアパーチャアレイ基板261,262側に設けても良いし、図9に示すように成形アパーチャアレイ基板25側に設けても良い。このように、ブランキングアパーチャアレイ基板261,262側および成形アパーチャアレイ基板25側のいずれに設けられたアライメント機構も、本願請求項で定義されるアライメント機構に該当する。
【0056】
このような構成によれば、XYZθステージ215が動き、この動きがXYZθステージ215に支持された成形アパーチャアレイ基板25に伝達されることで、成形アパーチャアレイ基板25をXYZθステージ215と同じ方向に動かすことができる。これによって、成形アパーチャアレイ基板25と光軸OA上のブランキングアパーチャアレイ基板261,262とのアライメント調整を行うことができる。
【0057】
(第4の変形例)
これまでは、複数のブランキングアパーチャアレイ基板として第1ブランキングアパーチャアレイ基板261と第2ブランキングアパーチャアレイ基板262とを可動テーブル27に搭載した例について説明した。しかしながら、ブランキングアパーチャアレイ基板の個数は2個に限定されない。例えば、図10に示すように、ビーム調整用の開口Aが設けられた単一構成の可動テーブル27に、第1ブランキングアパーチャアレイ基板261、第2ブランキングアパーチャアレイ基板262、第3ブランキングアパーチャアレイ基板263および第4ブランキングアパーチャアレイ基板264の4つのブランキングアパーチャアレイ基板261~264を搭載してもよい。
【0058】
なお、図10に示される例において、ブランキングアパーチャアレイ基板261~264は、実装基板219上に実装されている。ブランキングアパーチャアレイ基板261~264のそれぞれのブランカは、実装基板219、実装基板219に一端が接続された配線222および配線222の他端に接続されたフィードスルー端子部221を介して、電子ビーム鏡筒21の外部の偏向制御回路32に接続されている。このような構成は、他の実施形態にも適用することができる。
【0059】
このような構成によれば、ブランキングアパーチャアレイ基板261~264の搭載数を増やすことができるので、実質的な装置寿命をさらに伸ばすことができる。
【0060】
(第5の変形例)
図10では、単一構成の可動テーブル27に4つのブランキングアパーチャアレイ基板261~264を搭載した例について説明した。これに対して、図11に示すように、第1可動テーブル271と第2可動テーブル272とで構成される可動テーブル27に、4つのブランキングアパーチャアレイ基板261~264を分散して配置してもよい。
【0061】
図11に示される例において、第1可動テーブル271には、第1ブランキングアパーチャアレイ基板261と第2ブランキングアパーチャアレイ基板262とが搭載されている。第2可動テーブル272には、第3ブランキングアパーチャアレイ基板263と第4ブランキングアパーチャアレイ基板264とが搭載されている。
【0062】
このような構成によれば、図10と同様に、ブランキングアパーチャアレイ基板261~264の搭載数を増やすことができるので、実質的な装置寿命をさらに伸ばすことができる。
(第6の変形例)
これまでは、ブランキングアパーチャアレイ基板を交換可能な例について説明した。これに対して、図12に示すように、ブランキングアパーチャアレイ基板だけでなく、成形アパーチャアレイ基板も交換可能に構成してもよい。
【0063】
具体的には、図12に示される例において、マルチビーム描画装置1は、第1成形アパーチャアレイ基板251と、第2成形アパーチャアレイ基板252との2つの成形アパーチャアレイ基板251,252を備える。また、マルチビーム描画装置1は、図2の構成に加えて、更に、第2の可動テーブル202と、第2の移動ガイド部材203とを備える。
【0064】
第2の可動テーブル202は、複数の成形アパーチャアレイ基板251,252をX方向(第2方向)に間隔を開けて搭載し、X方向に移動して複数の成形アパーチャアレイ基板251,252のうちの1つを光軸OA上に位置させる部材である。より具体的には、第2の可動テーブル202は、第1成形アパーチャアレイ基板251を搭載する第1可動テーブル2021と、第2成形アパーチャアレイ基板252を搭載する第2可動テーブル2022とを有する。これらの成形アパーチャアレイ基板251,252用の第1可動テーブル2021および第2可動テーブル2022の具体的な構成は、ブランキングアパーチャアレイ基板261,262用の第1可動テーブル271および第2可動テーブル272の構成と同様である。また、ブランキングアパーチャアレイ基板261,262用の第1可動テーブル271および第2可動テーブル272と同様に、成形アパーチャアレイ基板251,252用の第1可動テーブル2021および第2可動テーブル2022は、それぞれが異なるモータ(図示せず)によって駆動されてX方向に移動する。モータの駆動は図1の移動制御回路33によって制御される。第1可動テーブル2021および第2可動テーブル2022のX方向への移動は、第1可動テーブル2021および第2可動テーブル2022とで共通の2組の第2の移動ガイド部材203によってガイドされる。第2の移動ガイド部材203は、ブランキングアパーチャアレイ基板261,262用の移動ガイド部材214と同様に、第1可動テーブル2021および第2可動テーブル2022のそれぞれの底面に固定されたガイドブロック216と、X方向に延び、ガイドブロック216を摺動自在に支持するガイドレール217とを有する。なお、上述したブランキングアパーチャアレイ基板261,262用の可動テーブル27についての各種の変形例は、成形アパーチャアレイ基板251,252用の第2の可動テーブル202にも適用することができる。また、複数の成形アパーチャアレイ基板251,252のうちの1つに、成形アパーチャアレイ基板251,252の開口よりも小さい開口(第3開口)が設けられた第3の成形アパーチャアレイ基板を搭載してもよい。これにより、成形アパーチャアレイ基板251,252の切り替えにともなって真空中でビームサイズを切り替えることができる。
【0065】
図12の構成によれば、第1成形アパーチャアレイ基板251および第2成形アパーチャアレイ基板252を搭載した第2の可動テーブル202の移動によって、光軸OA上から今まで使用していた一方の成形アパーチャアレイ基板を退避させ、光軸OA上に新たに使用する他方の成形アパーチャアレイ基板を位置させることができる。これにより、装置1内を真空状態に保持しながら、第1ブランキングアパーチャアレイ基板261と第2ブランキングアパーチャアレイ基板262との交換だけでなく、第1成形アパーチャアレイ基板251と第2成形アパーチャアレイ基板252との交換も行うことができる。これにより、稼働率の悪化を抑制しながら実質的な装置寿命を更に延ばすことができる。
【0066】
マルチビーム描画装置1の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、マルチビーム描画装置1の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0067】
上述の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0068】
1 マルチビーム描画装置
23 電子銃
25 成形アパーチャアレイ基板
261 第1ブランキングアパーチャアレイ基板
262 第2ブランキングアパーチャアレイ基板
27 可動テーブル
215 XYZθステージ
32 偏向制御回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12