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特許7455750円筒形スパッタリングターゲット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】円筒形スパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
C23C14/34 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020549174
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2019037135
(87)【国際公開番号】W WO2020066956
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2018180531
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】正能 大起
(72)【発明者】
【氏名】村田 周平
(72)【発明者】
【氏名】岡部 岳夫
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-307906(JP,A)
【文献】国際公開第2009/107763(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/111373(WO,A1)
【文献】特表2008-506852(JP,A)
【文献】特開平07-228966(JP,A)
【文献】国際公開第2010/035718(WO,A1)
【文献】特開2013-133490(JP,A)
【文献】特開2015-206089(JP,A)
【文献】特開2014-105383(JP,A)
【文献】特開2015-120975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形スパッタリングターゲットであって、
前記円筒形スパッタリングターゲットは、ターゲット材を少なくとも備え、
前記ターゲット材の材質は、Ti、Nb、Ta、Cu、Co、Ti合金、Nb合金、Ta合金、Cu合金又はCo合金であり、
結晶粒径が9.6μm以下であり、
接合部位は少なくとも1つ存在し、前記接合部位は、ターゲット材の部分同士が接合された部位であり、以下の(1)及び/又は(2)を満たし、
前記接合部位の幅は、1mm~15mmである、該円筒形スパッタリングターゲット。
(1)接合部位が、前記円筒形スパッタリングターゲットの長手方向に沿って存在する。
(2)接合部位が、前記円筒形スパッタリングターゲットの円周方向に沿って存在する。
【請求項2】
請求項1の円筒形スパッタリングターゲットであって、前記ターゲット材の材質がTiである、該円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項3】
請求項1又は2の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法であって、
1枚又は複数枚の平板材料を曲げ加工する工程と、
前記曲げ加工した材料の端部同士を溶接する工程と、
を含む方法。
【請求項4】
請求項3の方法であって、
前記曲げ加工する工程が、1枚の平板材料を曲げ加工することで円筒形を形成することを含む、該方法。
【請求項5】
請求項3の方法であって、
前記曲げ加工する工程が、複数枚の平板材料を曲げ加工することで複数の円弧状材料を形成することを含み、及び
前記溶接する工程が、前記複数の円弧状材料を溶接して円筒形を形成することを含む、該方法。
【請求項6】
請求項3~5いずれか1項の方法であって、複数の円筒形材料を、長手方向に溶接する工程を更に含む、該方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。より具体的には、本開示は、円筒形スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの分野では、より高いレベルでの集積化及び小型化が要求されている。例えば、半導体デバイスを製造する際に、各種薄膜を形成する。薄膜の材料としては、モリブデン、タングステン、チタン等が挙げられる。そして、薄膜の形成方法として、スパッタリングが用いられる。
【0003】
スパッタリングの原理は以下の通りである。まず、真空中で不活性ガス(例えば、Arガス)を導入しながら基板とスパッタリングターゲットとの間に高電圧を印加する。そして、イオン化したAr+などのイオンをスパッタリングターゲットに衝突させる。この衝突エネルギーでスパッタリングターゲット中の原子を放出させて基板上に堆積させる。これにより、薄膜を形成することができる。
【0004】
スパッタリングターゲットの形状として、平板又は円筒形等が挙げられる。特許文献1では、アルミニウム、銀、銅、チタンおよびモリブデンからなる群より選択される少なくとも1種の金属からなる円筒型スパッタリングターゲットを開示している。更に特許文献1は、円筒型スパッタリングターゲットの製造工程を開示している。具体的には、金属系のスパッタリングターゲットの場合は、円柱状のスパッタリングターゲットの材料を押出加工に供したり、中心部をくり貫いたりして円筒形状に加工すること、又は、鋳造によって円筒形状に成型することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-053366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、半導体デバイスの分野では、より高いレベルでの集積化及び小型化が要求されている。スパッタリングを行う際にパーティクルが発生すると、製品に対して様々な不具合をもたらすため望ましくない。そこで、本開示は、金属材料の円筒形スパッタリングターゲットであって、パーティクルを低減させたスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らが鋭意検討したところ、別のアプローチで円筒形スパッタリングターゲットを製造することに成功した。より具体的には、金属板を曲げ加工することで、複数の円弧状の材料を形成し、更に、これらを溶接することで、円筒形を形成することができた。こうした方法だと、余分な熱処理が発生しない。従って、円筒形に加工した後のスパッタリングターゲットにおいて、粗大な結晶粒の量を低減することができる。
【0008】
上記知見に基づいて完成された発明は、一側面において、以下の発明を包含する。
(発明1)
円筒形スパッタリングターゲットであって、
前記スパッタリングターゲットは、ターゲット材を少なくとも備え、
前記ターゲット材は、1又は複数の金属元素からなり、
結晶粒径が10μm以下である、該スパッタリングターゲット。
(発明2)
発明1のスパッタリングターゲットであって、接合部位が少なくとも1つ存在する、該スパッタリングターゲット。
(発明3)
発明2のスパッタリングターゲットであって、前記接合部位が、ターゲットの長手方向に沿って存在する、該スパッタリングターゲット。
(発明4)
発明2又は3のスパッタリングターゲットであって、前記接合部位が、円周方向に沿って存在する、該スパッタリングターゲット。
(発明5)
発明1~4いずれか1項のスパッタリングターゲットであって、前記金属元素がチタンである、該スパッタリングターゲット。
(発明6)
発明1~5いずれか1項のスパッタリングターゲットの製造方法であって、
1枚又は複数枚の平板材料を曲げ加工する工程と、
前記曲げ加工した材料の端部同士を溶接する工程と、
を含む方法。
(発明7)
発明6の方法であって、
前記曲げ加工する工程が、1枚の平板材料を曲げ加工することで円筒形を形成することを含む、該方法。
(発明8)
発明6の方法であって、
前記曲げ加工する工程が、複数枚の平板材料を曲げ加工することで複数の円弧状材料を形成することを含み、及び
前記溶接する工程が、前記複数の円弧状材料を溶接して円筒形を形成することを含む、該方法。
(発明9)
発明6~8いずれか1項の方法であって、複数の円筒形材料を、長手方向に溶接する工程を更に含む、該方法。
【発明の効果】
【0009】
一側面において、本開示のスパッタリングターゲットは、結晶粒径が10μm以下である。これにより、スパッタリングの際のパーティクルの発生を、抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態における円筒形スパッタリングターゲットの製造工程の一部を示す。
図2】一実施形態における円筒形スパッタリングターゲットの製造工程の一部を示す。
図3】一実施形態における円筒形スパッタリングターゲットの組織を示す。
図4】一実施形態における円筒形スパッタリングターゲットの組織を示す。
図5】一実施形態における円筒形スパッタリングターゲットの組織を示す。
図6】一実施形態における円筒形スパッタリングターゲットの組織を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、本開示の発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0012】
1.スパッタリングターゲット
1-1.構造
一実施形態において、本開示の発明は、スパッタリングターゲットに関する。スパッタリングターゲットは、ターゲット材を少なくとも備え、該ターゲット材は、直接スパッタされる部位である。また、スパッタリングターゲットは、基材(バッキングチューブ)を更に備えてもよい。そして、必要に応じて、基材とターゲット材の間には、更にボンディング層を設けてもよい。基材及びボンディング層については、公知の材料を使用することができる。
【0013】
一実施形態において、スパッタリングターゲット(及びターゲット材)の形状は円筒形である。大きさは特に限定されない。
【0014】
1-2.ターゲット材の構成元素
一実施形態において、ターゲット材は、1又は複数の金属元素から構成される。金属元素の例としては、Ti、Nb、Ta、Cu、Co、Mo、及びW等が挙げられるがこれらに限定されない。また、1金属元素に限定されず、ターゲット材は、複数の金属元素の合金から構成されてもよい。合金の例としては、Ti合金、Nb合金、Ta合金、Cu合金、Co合金、Mo合金、及びW合金等が挙げられるがこれらに限定されない。Ti合金の例としては、TiAl合金、及びTiNb合金等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0015】
ターゲット材が1金属元素から構成される場合(例えばTi)、純度は、3N(99.9質量%)以上、好ましくは4N(99.99質量%)以上、より好ましくは4N5(99.995質量%)以上、さらに好ましくは5N(99.999質量%)以上、最も好ましくは5N5(99.9995質量%)以上である。上限値は特に限定されないが、8N以下である。上記の純度については、グロー放電質量分析法(GDMS)にて組成分析して得られる数値を意味する。例えば、4N以上の場合、チタン以外の元素(例えば、Na、Al、Si、K、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zrなど)の合計量が0.01質量%(100質量ppm)未満であることを意味する。
【0016】
ターゲット材は、不可避的不純物を含んでもよい。不可避的不純物の例として、O、C等が挙げられる。含有量は特に限定されないが、Oの場合、例えば、1000質量ppm以下であってもよく、好ましくは250質量ppm以下であってもよく、最も好ましくは100質量ppm以下であってもよい。Cの場合、例えば、20質量ppm以下であってもよい。
【0017】
本開示のターゲット材において、上記のような不純物濃度を達成できる理由として、粉末焼結(原料粉末を型に入れて、プレスし、焼結する)によってターゲット材を製造しておらず、溶解法によって得られたインゴットを用いてターゲット材を製造していることが挙げられる。粉末の形態では表面積が大きくなり、表面酸化によって、より多くの酸素が原料粉末中に取り込まれる。このため、一般に、原料粉末中の酸素濃度は高く、1000質量ppmを超える場合が多い。従って、粉末焼結によって形成されたターゲット材は、酸素濃度が高くなる。また、原料粉末中の酸素濃度が低かったとしても、粉砕等の工程により酸素濃度が上昇し、1000質量ppmを超える蓋然性が高い。しかし、本開示のターゲット材は、粉末焼結による方法ではなく、圧延板を曲げ加工し、その後溶接するという方法を採用しているため、酸素濃度が高くなることを回避できる。
【0018】
1-3.ターゲット材の結晶粒径
一実施形態において、ターゲット材を構成する金属は、特定の結晶粒径を有する。より具体的には、前記結晶粒径が10μm以下である。好ましくは、前記結晶粒径が5μm以下、より好ましくは1μm以下である。下限値は特に限定されないが、典型的には、0.2μm以上である。結晶粒径が10μm以下であることにより、即ち、結晶粒径が微細であることにより、パーティクルの発生を抑制することができる。
【0019】
なお、ここで述べる結晶粒径は、以下の手順で測定して得られる。JIS G0551:2013の切断法に準拠し、スパッタリングターゲットの表面(スパッタリング面)において結晶粒内を横切る試験線の1結晶粒当たりの平均線分長から求める。この方法における結晶粒の観察には、光学顕微鏡(領域200μm×200μm)などを用いることができる。
【0020】
本開示のターゲット材において、上記のような結晶粒径を達成できる理由として、粉末焼結によってターゲット材を製造しておらず、溶解法によって得られたインゴットを用いてターゲット材を製造していることが挙げられる。粉末焼結すると、原料粉末と同等の結晶粒径が、熱処理によりそれ以上の結晶粒径に成長する。しかし、本開示のターゲット材は、粉末焼結による方法ではなく、圧延板を曲げ加工し、その後溶接するという方法を採用しているため、結晶粒径が大きくなることを回避できる。
【0021】
また、本開示のターゲット材において、上記のような結晶粒径を達成できる別の理由として、金属材料を押し出し法によって成型してターゲット材を製造しておらず、溶解法によって得られたインゴットを用いてターゲット材を製造していることが挙げられる。押し出し法の場合、金属材料を溶融させる必要がある等の理由で、材料に対して熱処理が行われる。これにより、材料内の結晶粒が粗大化してしまう(例えば、材料がTiの場合、押し出し加工の温度は1000℃程度になり、結晶粒は数百μmになる)。しかしながら、押し出し法によって成型する場合、熱処理が不可避である。本開示のターゲット材は、押し出し法による方法ではなく、圧延板を曲げ加工し、その後溶接するという方法を採用しているため、結晶粒径が大きくなることを回避できる。仮に溶接部分で結晶粒径が大きくなったとしても、その影響は局所的なものとすることができる。
【0022】
1-4.ターゲット材の接合部位
一実施形態において、ターゲット材は、1つ又は複数の接合部位を有する。ここで、「接合部位」とは、複数のターゲット材同士が接合された痕跡部分を指す。より具体的には、エッチング後に組織を観察したときに、例えば、溶接などにより結晶粒が粗大化して、材料全体の結晶粒径より20%以上大きくなった部位を、「接合部位」と呼ぶ。ここで、接合部位の粒径の測定方法は、上記材料全体の結晶粒径の測定方法と同様である。また、接合部位の存在を検証する際には、ターゲット材の表面ではなく、内部(例えば、深さ2mmより深い位置)にて、組織を観察することによって行うことが好ましい。理由として、ターゲット材を表面加工することにより(例えば研削することにより)、ターゲット材表面上に観察される接合部位を消すことができるからである。その点、ターゲット材内部の組織であれば、表面加工によって、接合部位が消失することはないので、正確な判定が可能となる。
【0023】
更なる一実施形態において、前記接合部位は、ターゲット材の長手方向に沿って存在してもよい。接合部位が長手方向に存在するということは、図1に示すように、1つ又は複数の平板材料を曲げ加工することで円筒形が形成されたことを示す。長手方向に存在する接合部位が1つの場合には、1枚の平板を曲げ加工することで円筒が形成されたことを示す。長手方向に存在する接合部位が複数の場合には、その数に対応する枚数の平板を曲げ加工し、複数の円弧状材料が形成されたことを示す。例えば、長手方向に存在する接合部位が3つの場合には、3枚の120°の円弧状材料を接合して形成されたことを示す。好ましくは、長手方向に存在する接合部位は2つ存在し、この理由は、最も製造が簡単であることが挙げられる。
【0024】
更なる別の一実施形態において、前記接合部位は、ターゲット材の円周方向に沿って存在してもよい。接合部位が円周方向に存在するということは、図2に示すように、複数の円筒形材料が長手方向に連結されたことを示す。例えば、円周方向に存在する接合部位が1つの場合には、2つの円筒形材料が長手方向に沿って連結されたことを示す。無論、こうした接合を行わない場合、接合部位が円周方向に存在しなくてもよい。
【0025】
接合部位の幅は、円周方向及び長手方向とも、特に限定されず、1mm~15mmであってもよい。幅の上限値は、好ましくは、10mm以下、更に好ましくは5mm以下であってもよい。幅の下限値は、好ましくは、2mm以上、更に好ましくは3mm以上であってもよい。幅が10mm以下であることで、粗大な結晶粒による悪影響を極力小さなものとすることができる。また、幅が1mm以上であることで、接着強度を確保すること、及び/又は内部ポアを回避することが可能となる。
【0026】
2.製造方法
一実施形態において、本開示の発明は、スパッタリングターゲットの製造方法に関する。前記方法は、少なくとも以下の工程を含む。
1つ又は複数の平板材料を曲げ加工することで円筒形を形成する工程、及び、
前記材料の端部同士を溶接する工程。
以下、詳細に説明する。
【0027】
2-1.平板材料
以下ではチタンを例に説明する。まず、溶解法によってチタンインゴットを準備する。チタンインゴットの純度は、3N(99.9質量%)以上、好ましくは4N(99.99質量%)以上、より好ましくは4N5(99.995質量%)以上、さらに好ましくは5N(99.999質量%)以上、最も好ましくは5N5(99.9995質量%)以上である。
【0028】
次に、インゴットを締め鍛造してビレットを作製し、このビレットを切断して平板材料を作製する。或いは、インゴットを締め鍛造せずにインゴットを切断して平板材料を作製してもよい。そして、平板材料を、室温~400℃(例えば300℃)で冷間圧延して、所望の厚さに加工する。冷間圧延の条件としては、圧延率30%~95%、好ましくは、50%以上、更に好ましくは70%以上である。上限値として、好ましくは、90%以下、更に好ましくは、85%以下である。また、圧延時の温度は、後述するその後の熱処理の温度よりも低くすることが好ましい。
【0029】
冷間圧延後は、熱処理を行う。圧延板を熱処理した場合、熱処理温度が低いほど、結晶粒径が微細化する傾向にある。熱処理条件として、温度は、200℃~550℃であり、好ましくは、350℃以上、更に好ましくは400℃以上である。上限値として、好ましくは、550℃以下、更に好ましくは、500℃以下である。熱処理時間として、0.25h~3h、好ましくは、0.25h以上、更に好ましくは0.5h以上である。上限値として、好ましくは、2h以下、更に好ましくは、1h以下である。上記の条件で熱処理することで、所望の結晶粒を有する平板材料が得られる。
【0030】
2-2.曲げ加工
上記平板材料は、適宜切断を行うことで矩形(図1 10)に仕上げることができる。その後、平板材料を円弧状に曲げ加工をする(図1 20)。加工手段としては、円柱状の金型を用いたプレス加工など、公知の手段を用いることができる。
【0031】
また、溶接する際他の端部と隙間なく接合できるようにするため、曲げ加工を行う前、及び/又は後で、平板の端部を適宜研削してもよい。
【0032】
円弧状に曲げ加工する際の角度は特に限定されない。しかし、半円形状(即ち180°)が好ましい。この理由として、他の角度で曲げ加工された場合と比べて、組み立てが行いやすいこと、及び後述する接合が行いやすいことが挙げられる。
【0033】
2-3.接合方法
上記の方法で、円弧状に曲げ加工された材料を得られた後は、当該材料を複数用意して、円筒形に組み立てる。例えば、半円状に曲げ加工された2枚の材料を、円筒形に組み立てる(図1 30)。
【0034】
その後、材料の端部同士を溶接することにより、一体化された円筒形に仕上げることができる(図1 40)。溶接の手段としては、電子ビーム溶接、レーザービーム溶接、プラズマ溶接等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい溶接手段は、電子ビーム溶接である。この理由としては、溶接の際に材料に熱が付与されることになるものの、熱の影響を受ける範囲を小さくできるからである。そして、熱の影響を受ける範囲を小さくできることで、結晶粒が粗大化した範囲を小さくすることができる。電子ビーム溶接の条件については、特に限定されず、公知の条件で溶接することができる。
【0035】
また、留意されたい点として、円筒形に組み立てるために、平板材料は必ずしも複数用意する必要はない。例えば、1枚の平板材料であっても、円筒形の金型の周囲を1周するように曲げ加工することにより(そして、端部を溶接することにより)、円筒形に加工することができる。
【0036】
以上の工程で、ターゲット材が得られる。当該ターゲット材は、元々平板として存在していた材料の端部同士を一体化させているため、接合部位が円筒形の長手方向に沿って直線状に存在することとなる。そして、平板材料の枚数に応じた数の接合部位が存在する(例えば、2枚の平板材料から形成された場合には2本の接合部位)。
【0037】
2-4.長手方向の組み立て
上記曲げ加工工程及び溶接工程を繰り返すことで、複数の円筒形ターゲット材が得られる。複数の円筒形ターゲット材(図2 50)を、長手方向に沿って接合させて溶接してもよい。これにより、長手方向にサイズが拡大した円筒形ターゲット材が得られる(図2 60)。また、このように溶接した場合、円周方向に沿って接合部位が形成される。
【0038】
2-5.基材、及びボンディング層
上述したターゲット材は、基材(バッキングチューブ)と接合させてもよい。これにより、基材とターゲット材を備えるスパッタリングターゲットを得ることができる。また、ろう材等を用いて接合することにより、基材とターゲット材との間にボンディング層が形成されてもよい。
【0039】
3.スパッタリングターゲットの利用
上述したスパッタリングターゲットは、薄膜形成に利用することができる。薄膜形成の手段としてスパッタリングが用いられるが、スパッタリングの条件は特に限定されず、当分野で設定される条件でスパッタすることができる。
【実施例
【0040】
(実施例1)
純度4N5以上のチタンからなる平板を2枚準備した(酸素含有量は180質量ppmであった)。これらの平板の粒径を光学顕微鏡で観察して測定したところいずれも8μmであった。
【0041】
次に、これらの平板を半円状に曲げ加工を行った。そして、端部同士を電子ビーム溶接により溶接させ、円筒形になるようにした。
【0042】
その後、溶接部分と非溶接部分の結晶組織を光学顕微鏡で観察した。まず、図3に非溶接部分の結晶組織を示す。非溶接部分においては、厚みの外側(Top)、中央(Mid)、及び内側(Btm)のいずれにおいても、同様の結晶組織を有していた。結晶粒径(G.S)についても、曲げ加工前と同じ8μmであった。即ち、曲げ加工以降の工程による影響は見られなかった。
【0043】
次に、図4に、溶接部分の結晶組織を示す。微細粒部分(Fine grain part)と、電子ビーム溶接部分(EB Welding part)との間に明瞭な境界が生じていた。そして、溶接部分は、微細組織と比べて、結晶粒が粗大化していた。
【0044】
(実施例2)
鍛造及び圧延の条件を適宜変更したことを除いて、実施例1と同様にして曲げ加工及び溶接を行い、これを円筒形に形成した。なおこの平板は、実質的に平均粒径のみが実施例1のものと異なる。
その後、非溶接部分の結晶組織を光学顕微鏡で観察した。その結晶組織を図5に示す。非溶接部分の結晶粒径を、先述したように光学顕微鏡(領域200μm×200μm)のよる観察で切断法により測定したところ、結晶粒径は曲げ加工前と同じ9.6μmであった。
【0045】
(実施例3)
鍛造及び圧延の条件を適宜変更したことを除いて、実施例1と同様にして曲げ加工及び溶接を行い、これを円筒形に形成した。なおこの平板は、実質的に平均粒径のみが実施例1のものと異なる。
その後、非溶接部分の結晶組織を光学顕微鏡で観察した。その結晶組織を図6に示す。非溶接部分の結晶粒径を、先述したように光学顕微鏡(領域200μm×200μm)のよる観察で切断法により測定したところ、結晶粒径は曲げ加工前と同じ4.1μmであった。
【0046】
以上、本開示の発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に適用することができる。また、特記しない限り、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6