(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】ポリアミドコートされたフィルター膜、フィルターおよび方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/56 20060101AFI20240318BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240318BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240318BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20240318BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20240318BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
B01D71/56
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/26
B32B5/18
B32B27/34
(21)【出願番号】P 2020560840
(86)(22)【出願日】2019-04-10
(86)【国際出願番号】 US2019026697
(87)【国際公開番号】W WO2019212707
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2021-01-12
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-29
(32)【優先日】2018-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505307471
【氏名又は名称】インテグリス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジェイバー, ジャド アリ
(72)【発明者】
【氏名】チェン, クウォク‐シュン
(72)【発明者】
【氏名】リー, サクサータ
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】松井 裕典
【審判官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-213500(JP,A)
【文献】特開平7-238181(JP,A)
【文献】特表2017-536232(JP,A)
【文献】特表2007-519522(JP,A)
【文献】国際公開第2017/205722(WO,A1)
【文献】特開昭60-99314(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0291843(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00-71/92
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質ポリマーフィルター層、
多孔質フィルター層の表面の非多孔質架橋ポリアミドフィルムコーティング、及び
残余のフリーラジカル供給源材料
を含むコートされたフィルター膜であって、
多孔質ポリマーフィルター層が0.001~10ミクロンの範囲の孔径を有
し、少なくとも50パーセントの多孔度を有する、フィルター膜。
【請求項2】
ポリアミドが環状結合を有する骨格を含む、請求項1に記載のコートされたフィルター膜。
【請求項3】
環状結合がジシクロヘキセニル結合である、請求項2に記載のコートされたフィルター膜。
【請求項4】
ポリアミドが
、ヘキサメチレンジアミンアジペート、
及び環状反応性化合
物から選択される非直鎖モノマーに由来する、請求項1に記載のコートされたフィルター膜。
【請求項5】
ポリアミドがカプロラクタムに由来する、請求項1に記載のコートされたフィルター膜。
【請求項6】
ポリアミドが、二環式反応性化合物から選択される非直鎖モノマーに由来する、請求項1に記載のコートされたフィルター膜。
【請求項7】
多孔質ポリマーフィルター層が5~100ミクロンの範囲の厚さを有する、請求項1に記載のコートされたフィルター膜。
【請求項8】
多孔質ポリマーフィルター層が、ポリエチレン及びポリプロピレンから選択されるポリマーを含む、請求項1に記載のコートされたフィルター膜。
【請求項9】
多孔質ポリマーフィルター層が超高分子量ポリエチレンである、請求項1に記載のコートされたフィルター膜。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか一項に記載のコートされたフィルター膜を含むフィルター。
【請求項11】
ポリアミドポリマー、溶媒及びフリーラジカル供給源材料を含むポリマー溶液を多孔質ポリマーフィルター層の表面上にコーティングすることと;
ポリマー溶液のポリアミドを表面で凝固させることと;
ポリアミドを架橋することと
を含む、コートされたフィルター膜を調製する方法であって、
コートされたフィルター膜が、
多孔質ポリマーフィルター層、
多孔質フィルター層の表面の非多孔質架橋ポリアミドフィルムコーティング、及び
残余のフリーラジカル供給源材料
を含み、
多孔質ポリマーフィルター層が0.001~10ミクロンの範囲の孔径を有
し、少なくとも50パーセントの多孔度を有する、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の記載は、架橋ポリアミドポリマーを含有する層でコーティングされた多孔質ポリマーフィルター層を含むフィルター膜;コートされたフィルター膜、フィルター構成要素およびフィルターを作製する方法;ならびにコートされたフィルター膜、フィルター構成要素およびフィルターを使用して、液体化学物質などの流体を濾過し、流体から不要物質を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有用な流体の流れから不要物質を除去するために使用されるフィルター膜およびフィルター製品は、現代産業の必須ツールである。フィルターを使用して処理される有用な流体には、水、液体産業溶媒および加工流体、製造または加工(例えば、半導体製作における)に使用される産業ガス、ならびに医療または薬学的用途を有する液体が含まれる。流体から除去される不要物質には、粒子、微生物および溶解した化学種などの不純物および夾雑物が含まれる。フィルター用途の特定の例には、製薬産業において治療液から粒子および細菌を除去するため、マイクロエレクトロニクスおよび半導体加工に使用される、および水精製方法のための超高純度水溶液および有機溶媒溶液を処理するための使用が含まれる。
【0003】
濾過機能を発揮するために、フィルター製品は、不要物質の除去を担うフィルター膜を含む。フィルター膜は、必要に応じて、巻回されていても(例えば、螺旋状に)、プリーツ加工などがされていてもよい平坦なシートの形態であってもよい。代替的に、フィルター膜は、中空糸の形態であってもよい。フィルター膜は、濾過される流体がフィルターの入口から入り、フィルターの出口を通過する前にフィルター膜を通過する必要があるように、ハウジングに収容されてもよい。
【0004】
フィルター膜は、フィルターの用途、すなわち、フィルターによって行われる濾過の種類に基づいて選択できる平均孔径を有する、多孔質構造体から構築されてもよい。典型的な孔径は、約0.001ミクロン~約10ミクロンなどのミクロンまたはサブミクロンの範囲である。平均孔径が約0.001~約0.05ミクロンである膜は、一般的に限外濾過膜に分類される。孔径が約0.05~10ミクロンの間である膜は、一般的に微多孔質膜に分類される。
【0005】
種々のフルオロポリマー、ポリオレフィン、ならびにナイロン6およびナイロン66などのナイロン材料から作製されるものを含む多孔質ポリマーフィルムは、フィルター膜の一般的な種類である。ナイロンフィルターは、半導体製作のためのフォトリソグラフィー方法用の溶媒材料を濾過するために、商業的に使用される。これらの方法は、極めて高レベルの純度を有する溶媒を必要とするため、極めて高い有効性を有する濾過システムを使用して濾過されなければならない。これらの用途に有効な場合がある、制御された小さな孔径を有するナイロンから作製されるフィルターが調製可能である。しかし、マイクロエレクトロニクスおよび半導体加工に使用される液体は、酸性である可能性がある。さらに、一部のナイロンは、マグネシウムなどの金属触媒を使用して重合される。フィルター膜のそのような種類のナイロンが酸性の液体に曝露されると、金属(例えば、マグネシウム)が、ナイロンから濾過される酸性の流体へと抽出されやすくなり、その場合金属は夾雑物とみなされる。さらに、不活性かつ溶媒耐性であるように設計されるナイロンは、必ずしも幅広い選択範囲の溶媒に可溶型であるわけではない。このため、ナイロンフィルター膜またはフィルター膜コーティングを調製するための選択肢が少なくなる。少なくともこれらの理由から、濾過分野において、ナイロンを含有するフィルターを含む、新規の向上したフィルターに対する継続的な必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
マイクロエレクトロニクスデバイス加工の分野では、加工材料の着実な向上、およびマイクロエレクトロニクスデバイスの性能(例えば、スピードおよび信頼性)の並行した着実な向上を維持するための方法が必要とされる。マイクロエレクトロニクスデバイス製作を向上させるための機会は、液体材料を濾過するための方法およびシステムを含む、製造方法のあらゆる態様に存在する。
【0007】
マイクロエレクトロニクスデバイス加工では、処理溶媒、洗浄剤および他の加工溶液として、幅広い範囲の異なる種類の液体材料が使用される。これらの材料のほとんどでなくとも多くは、極めて高レベルの純度で使用される。例として、マイクロエレクトロニクスデバイスのフォトリソグラフィー加工に使用される液体材料(例えば、溶媒)は、極めて高純度のものでなければならない。マイクロエレクトロニクスデバイス加工に使用される液体の特定の例として、スピンオングラス(SOG)技術、裏面反射防止膜(BARC)法、およびフォトリソグラフィー用の処理溶液が挙げられる。これらの液体材料の一部は酸性である。これらの液体材料を、マイクロエレクトロニクスデバイス加工で使用するために高レベルの純度で提供するには、フィルタリングシステムは、液体から種々の夾雑物および不純物を除去するのに非常に有効でなくてはならず、かつ濾過される液体材料(例えば、酸性材料)の存在下で安定(すなわち、劣化しないまたは夾雑物を導入しない)でなければならない。
【0008】
マイクロエレクトロニクス加工用などの難解な用途において、ますます増大する有効性をもつフィルターシステムの提供を可能とするためには、多くの重要な考慮事項が考慮される。ナイロン材料(一般的に、ポリアミド)は、多孔質フィルター膜として、多孔質フィルター膜のコーティングとして、またはその両方として使用されている。ナイロンは、マイクロエレクトロニクスデバイス製作に関与する種々の液体材料を濾過するためのフィルター膜に使用されているが、マイクロエレクトロニクスデバイス加工法は絶えず進化しているため、向上しなければ有効でなくなる、または最適ではなくなる。
【0009】
例として、ある特定の種類のナイロン材料の調製には金属イオンが触媒として使用され、完成ナイロンフィルター材料に極めて少ない量で存在することがある。ナイロンフィルター中のそのような低レベルの金属でも、マイクロエレクトロニクスデバイス加工でフィルターを使用する際に問題となることがあり、これは金属が、酸性液体によってナイロンフィルター材料から抽出される可能性があるためである。抽出された金属は、液体中で夾雑物になる。これとは別に、ナイロンは、フィルター膜へと加工される能力に変動がある。ナイロンは安定かつ化学物質に耐性であるように設計されるが、これは、ナイロンが広範囲の溶媒に可溶型でない可能性があることを意味する。一部のナイロンは、酸溶媒(例えば、ギ酸)およびイオン性溶媒(例えば、塩化カルシウム)などのある特定の種類の溶媒に可溶型である。しかし、これらの溶媒にはそれぞれ欠点がある。ギ酸は取扱いが困難な場合があり、塩化カルシウムは、先端ノードのマイクロエレクトロニクスデバイス加工用フィルターとしてナイロンを使用するのに許容されない量の不純物をナイロンコーティングに残す場合がある。
【0010】
本明細書で記載されるように、本出願人は、ある特定の種類のポリアミドを多孔質ポリマーフィルター層上に有効にコーティングし、液体流体から夾雑物または不純物を濾過する際に有用または有利な濾過性能を発揮するコートされたフィルター膜を生産できることを決定した。例えば、コートされたフィルター膜は、マイクロエレクトロニクスデバイス加工に使用される、酸性液体を含む液体材料から夾雑物を除去し、極めて高レベルの純度を有する濾過された液体材料を生産するために使用できる。
【0011】
処理された液体の純度レベル、およびフィルター膜の関連する性能は、多様な異なる技術を使用して測定することができる。定量的測定の1つでは、濾過材の有効性は、金などの溶解した金属または金属粒子であってもよい既知の種類と量の物質、例えば、「課題」物質を除去するための濾過材の有効性を試験することによって評価できる。本明細書に記載のコートされたフィルター膜は、これらの種類の課題粒子を除去するのに極めて有効である、例えば、これらの試験に基づいて、現行または先行のフィルター膜と少なくとも同程度に有効である可能性がある。
【0012】
別の測定では、フィルター膜の有効性は、マイクロエレクトロニクスまたは半導体デバイスの加工に使用される流体を濾過するためなどの特定の用途における性能に関して測定されてもよく、フィルター膜の有効性は、流体を使用して調製されるマイクロエレクトロニクスまたは半導体デバイスに存在する欠陥のレベルを測定することなどによって、性能に関して測定される。一例として、フィルター膜の有効性は、フィルター膜を使用して処理(すなわち、濾過)される液体処理溶液を使用して調製されるマイクロエレクトロニクスまたは半導体デバイスに存在する欠陥、例えば「ブリッジ欠陥」の数を計数することによって評価できる。デバイスの欠陥が少ないほど、フィルター膜の有効性のレベルが高いことが示される。
【0013】
ポリアミドは、マイクロエレクトロニクスデバイス加工で使用されるフィルターのナイロンコーティングの処理に使用するのにそれぞれ最適でない、ギ酸と異なり塩化カルシウムと異なる溶媒を使用して、溶媒からフィルター層上にコーティングされてもよい。溶媒(ギ酸でも塩化カルシウムでもない)は、非酸性、非イオン性、ならびに、好ましくは従来の方法によって取り扱いおよび処理できるものであってもよい。産業用途で一般的かつ常套的に取り扱われるプロパノールは、記載される例示的なポリアミドを溶解するために使用できる溶媒の1つの例である。プロパノールは非酸性であり、コーティングされたポリアミドに、ポリアミドがマイクロエレクトロニクスデバイス用途に有用でなくなるレベルの夾雑物を導入しない。
【0014】
ポリアミドは、浸漬沈殿法などの任意の有用な方法によってコーティングでき、ポリアミドの溶媒耐性を増大させるために、コーティング後に架橋されてもよい。
【0015】
一態様では、本発明は、多孔質ポリマーフィルター層、および多孔質フィルター層の表面の非多孔質架橋ポリアミドフィルムコーティングを含むコートされたフィルター膜に関する。
【0016】
別の態様では、本発明は、コートされたフィルター膜を調製する方法に関する。方法は、ポリマー溶液を多孔質フィルター膜の表面上にコーティングすることであって、ポリマー溶液が、ポリアミドポリマー、溶媒およびフリーラジカル供給源材料を含む、ポリマー溶液を多孔質フィルター膜の表面にコーティングすることと;ポリマー溶液のポリアミドを表面で凝固させることと;ポリアミドを架橋することとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】種々の
フィルター膜の色素結合能を示すグラフである。
【
図2】種々の
フィルター膜の色素結合能を示すグラフである。
【
図3】種々の
フィルター膜の色素結合能を示すグラフである。
【
図4】種々の
フィルター膜の色素結合能を示すグラフである。
【
図5】
フィルター膜から抽出された金属の量に関するデータを示す図である。
【
図6】低pH有機溶媒への曝露後のポリアミドコーティングの安定性に関するデータを示す図である。
【
図7】一般的なフォトレジスト溶媒への曝露後のポリアミドコーティングの安定性に関するデータを示す図である。
【
図8】変動する量の光開始剤を用いたコーティングに関するデータを示す図である。
【
図9】異なる
フィルター膜の欠損の計数に関するデータを示す図である。
【
図10】異なる
フィルター膜の金属除去効率のデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の記載は、コートされたフィルター膜と、コートされたフィルター膜、コートされたフィルター膜を含有するフィルター構成要素およびフィルターなどの製品を作製する方法と、コートされたフィルター膜、フィルター構成要素またはフィルターを使用する方法とに関する。
【0019】
記載されるコートされたフィルター膜は、多孔質ポリマーフィルター層、および多孔質ポリマーフィルター層の1つまたは複数の表面のポリマーフィルムコーティングを含む。ポリマーフィルムコーティングは、架橋ポリアミドポリマーを含むフィルムコーティングである。ポリアミドは、架橋前に、ナイロンから溶液を形成するためにしばしば使用されるが、取扱いが困難な場合がある(ギ酸)、または得られたナイロンがマイクロエレクトロニクスデバイス加工用フィルターに使用される場合に、許容されないレベルの残留物もしくは夾雑物を生成する場合がある(塩化カルシウム)、ギ酸および塩化カルシウムとは異なる、少なくとも1種の溶媒に溶解されてもよい。一部の実施形態では、ポリマーフィルムコーティングは多孔質であってもよく、他の実施形態では、ポリマーフィルムコーティングは非多孔質であってもよい。
【0020】
ポリアミドフィルムコーティングは、多孔質ポリマーフィルター層の表面に設けられる、ポリアミドを含有するフィルムの連続または半連続層であってもよい。好ましいコーティングは、「フィルム」として実質的に薄いとみなされる。一部の実施形態では、ポリアミドは多孔質であってもよく、他の実施形態では、ポリアミドフィルムは、非多孔質または実質的に非多孔質であってもよい(例えば、実質的な量の空隙空間を含有しない)。フィルムは、多孔質ポリマーフィルム層の1つまたは複数の表面の全部にわたって連続してもよく、半連続であってもよい、つまり、フィルムは、途切れてもよいが、多孔質ポリマーフィルム層の実質的な部分を覆ってもよい。
【0021】
架橋ポリアミドを含有するポリマーフィルムコーティングは、ポリアミドポリマー(架橋されていない)を含むポリマー溶液を調製し、ポリマー溶液を多孔質ポリマーフィルター層の表面上に配置し、ポリアミドを架橋することによって調製できる。ポリマー溶液は、例えば、沈殿コーティングによって、多孔質ポリマーフィルター層の外面および内面に所望の有用な量のポリアミドを配置するのに有効な様式で、ポリマーフィルター層の表面上に配置されてもよい。その後、ポリアミドポリマーは、任意の有効な方法によって架橋されてもよい。架橋ポリアミドは、連続または半連続の多孔質または非多孔質フィルムコーティングがフィルター層の表面に留まるように乾燥されてもよく、フィルムコーティングは、架橋ポリアミドポリマーを含有する(含む、それからなる、またはそれから本質的になる)。フィルムコーティングは、多孔質ポリマーフィルター層の細孔の内面のかなりの部分に存在し、かつ多孔質ポリマーフィルター層の外(巨視的)面に存在してもよい。
【0022】
フィルムコーティングは架橋ポリアミド以外の材料を含有してもよいが、フィルムコーティングの有用な好ましい例は、いかなる他の材料も必要としない。塗布され、架橋され、かつ乾燥された後の記載されるポリアミドを含むフィルムコーティングは、乾燥されたフィルムコーティングの総重量に対して、少なくとも50、70、85、90または95重量パーセントの架橋ポリアミドを含有してもよい。架橋ポリアミドコーティングから本質的になるフィルムコーティングは、5、2、1または0.5重量パーセント以下の架橋ポリアミド以外の材料を含有するフィルムコーティングである。
【0023】
コートされたフィルター膜は、液体を濾過して、液体から所望されない物質(例えば、夾雑物または不純物)を除去し、産業プロセスの材料として使用できる高純度の液体を生産するために有用であってもよい。産業プロセスは、投入材料として高純度の液体材料を必要とするいずれのものであってもよく、そのようなプロセスの非限定的な例として、マイクロエレクトロニクスまたは半導体デバイスを調製するプロセスが挙げられ、そのプロセスの特定の例は、半導体フォトリソグラフィーに使用される液体処理材料(例えば、溶媒または溶媒を含有する液体)を濾過する方法である。マイクロエレクトロニクスまたは半導体デバイスを調製するために使用される処理液体または溶媒に存在する夾雑物の例として、液体に溶解した金属イオン、液体に懸濁した固体微粒子、および液体に存在するゲル化または凝固材料(例えば、フォトリソグラフィー中に生成される)を挙げることができる。
【0024】
コートされたフィルター膜は、コートされたフィルター膜を流れるようにされる液体から、ふるい機構または非ふるい機構のいずれかによって、好ましくは非ふるい機構とふるい機構との両方の組合せによって、溶解または懸濁した夾雑物または不純物(など)を除去するために有用であり得る。ふるい機構は、フィルター膜の表面に粒子を機械的に保持することによって液体の流れから粒子を除去する濾過の方式であり、フィルター膜は、粒子の移動に機械的に干渉して粒子をフィルター内に保持し、粒子がフィルターを流れるのを機械的に妨げるように働く。典型的に、粒子は、フィルターの細孔より大きい場合がある。「非ふるい」濾過機構は、フィルター膜が、フィルター膜を流れる液体に含有される懸濁した粒子または溶解した物質を、例えば、静電的機構を含む機械的に限らない様式で保持する濾過の方式である。
【0025】
記載される例示的なコートされたフィルター膜では、多孔質ポリマーフィルター層は、コートされたフィルター膜を通過する液体の流れからふるい機構によって物質を除去するように働いてもよく、ポリアミドポリマーを含むポリマーフィルムコーティングは、液体の流れから非ふるい機構によって物質を除去するように働いてもよい。
【0026】
コートされたフィルター膜の多孔質ポリマーフィルター層は、高純度液体を濾過する用途に使用され、有用である一般的な範囲および種類の多孔質ポリマーフィルター材料のいずれであってもよい。多孔質ポリマーフィルター層は、数ある物理的特色および性能特色の中でも、その化学的構成、一般的形状、ならびに孔径、多孔度、バブルポイントおよび厚さのうちの1つまたは複数によって特徴付けられてもよい。
【0027】
形状は、長さ寸法および幅寸法に延伸し、厚さによって第3の寸法に離れた2つの対向する主面を画定する平面シートであってもよい。シートは、好ましくは、長さ寸法および幅寸法にわたって比較的均一な厚さを有してもよい。代替的な形状は、長さ、および内径と外径との間に延伸する実質的に均一な厚さを含んでもよい中空糸であってもよい。
【0028】
多孔質ポリマーフィルター層(例えば、膜)を形成するために、多様な異なるポリマーが利用可能であり、ある特定の例として、ポリオレフィン、ポリハロオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネートなどの非フッ素化ポリマーだけでなく、フルオロポリマー、ならびに他の一般的および特定の種類の有用なポリマーが挙げられる。
【0029】
好適なポリオレフィンとして、例えば、ポリエチレン(例えば、超高分子量ポリエチレン(UPE))、ポリプロピレン、アルファ-ポリオレフィン、ポリ-3-メチル-1-ブテン、ポリ-4-メチル-1-ブテン、およびエチレン、プロピレン、3-メチル-1-ブテンもしくは4-メチル-1-ブテンと、互いとの、または微量の他のオレフィンとの共重合体が挙げられ;例示的なポリハロオレフィンとして、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ならびにこれらと他のフッ素化または非フッ素化モノマーとの共重合体が挙げられる。例示的なポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート、ならびに関連する共重合体が挙げられる。
【0030】
一部の実施形態では、多孔質ポリマーフィルター層は、フッ素化またはペルフルオロ化される必要はなく、非フッ素化モノマーから本質的に作製される非フッ素化ポリマーのみを含有してもよい。例示的なフィルター層は、ポリエチレン(例えば、UPE)などのポリオレフィンを含んでもよく、それからなってもよく、またはそれから本質的になってもよい。本発明で好ましいポリマーフィルター層は、非フッ素化ポリマー材料を含有し、それからなり、またはそれから本質的になる。非フッ素化材料から本質的になる多孔質ポリマーフィルター層は、0.5、0.1または0.01重量パーセント未満のフッ素を含有してもよい。ポリオレフィン、例えばポリエチレンから本質的になる多孔質ポリマーフィルター層は、少なくとも99、99.5または99.0重量パーセントのポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)モノマーを含むモノマーに由来してもよい。
【0031】
任意の組成物の多孔質ポリマーフィルターは、接着またはフィルタリング特性を増強するために、任意選択で処理、例えばプラズマ処理されてもよい。
【0032】
一部の実施形態では、フィルター層は、ポリオレフィン、例えば、ポリエチレン、例えば、超高分子量ポリエチレン(UPE)などの非ナイロンポリマーから作製される。ナイロンは、多くの場合マグネシウムなどの金属触媒を使用して調製される。フィルター層に存在するマグネシウムは、酸性液体などのある特定の種類の液体の濾過における使用時に潜在的に抽出される可能性がある。一部の実施形態では、フィルター層は、そのような抽出可能な金属の存在を回避するために、非ナイロンポリマーから作製されてもよい。本発明の有用な例によると、コートされたフィルター膜は、記載される架橋ポリアミドでコーティングされた非ナイロン多孔質ポリマーフィルター層(例えば、ポリオレフィン、例えば、UPEフィルター膜)を含んでもよい(include)(含んでもよい(comprise)、それからなってもよい、またはそれから本質的になってもよい)。ポリアミドでコーティングされた非ナイロン(例えば、UPE)多孔質ポリマーフィルター層の金属(例えば、マグネシウム)含有量は、同等のナイロンフィルター層の金属(例えば、マグネシウム)含有量より実質的に低い。多孔質ポリマーフィルター層(例えば、ポリオレフィン、例えば、UPEフィルター膜)は、非ナイロンポリマーからなってもよく、またはそれから本質的になってもよい;非ナイロンポリマーから本質的になる多孔質ポリマーフィルター層は、フィルター膜の総重量に対して、5、2、1または0.5重量パーセント以下のナイロンを含有する、例えば、多孔質ポリマーフィルター層の総重量に対して、少なくとも95、98、99または99.5重量パーセントのポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、UPEなど)などの非ナイロンポリマーを含有するフィルター膜である。
【0033】
例示的な多孔質ポリマーフィルター層は、微多孔質フィルター膜または限外濾過膜のいずれかとみなされるサイズ(平均孔径)の細孔を有してもよい。微多孔質膜は、約0.05ミクロン~約10ミクロンの範囲の平均孔径を有してもよく、孔径は、除去される不純物の粒径または種類、圧力および圧力降下要件、ならびにフィルターによって処理される液体の粘度要件を含む、1つまたは複数の因子に基づいて選択される。限外濾過膜は、0.001ミクロン~約0.05ミクロンの範囲の平均孔径を有してもよい。孔径は、多くの場合、多孔質材料の平均孔径として報告され、これは、水銀ポロシメトリー(MP)、走査電子顕微鏡(SEM)、液体置換法(LLDP)または原子間力顕微鏡(AFM)などの公知の技術によって測定できる。
【0034】
バブルポイントもまた、多孔質膜の公知の特色である。バブルポイント試験法では、多孔質ポリマーフィルター層の試料を表面張力が既知である液体に浸漬して湿らせ、ガス圧を試料の片側に加える。ガス圧を漸増させる。ガスが試料を流れた最小圧力がバブルポイントと呼ばれる。本明細書によると有用な、または好ましい多孔質ポリマーフィルター層の有用なバブルポイントの例は、20~25℃の温度でHFE7200を使用して測定して2~400psiの範囲、例えば、20~200psiの範囲であってもよい。
【0035】
記載される多孔質ポリマーフィルター層は、液体の流れを濾過して高純度の濾過された液体材料を生産するために、多孔質ポリマーフィルター層が本明細書で記載されるように有効であることが可能になる任意の多孔度を有してもよい。例示的な多孔質ポリマーフィルター層は、比較的高い多孔度、例えば、少なくとも50、60、70、80、85、90、95または98パーセントの多孔度、例えば、50、60、70、80または85~90、95または98パーセントの範囲の多孔度を有してもよい。本明細書で使用する場合、および多孔質体の分野では、多孔質体の「多孔度」(空隙率と称されることもある)は、物体の総体積パーセントとしての物体の空隙(すなわち、「空」)空間の尺度であり、物体の総体積に対する物体の空隙の体積分率として計算される。ゼロパーセントの多孔度を有する物体は、完全に固体である。
【0036】
記載される多孔質ポリマーフィルター層は、任意の有用な厚さ、例えば、5~100ミクロン、例えば、20~50ミクロンの範囲の厚さを有するシートまたは中空糸の形態であってもよい。
【0037】
本明細書によると、コートされたフィルター膜の物理的特色は、多孔質ポリマーフィルター層の対応する物理的特色によって実質的に決定され、かつそれと同等であるかまたはほぼ等しい。多孔質ポリマーフィルター層は、バブルポイント、多孔度、孔径および厚さを含む物理的特色に基づいて選択されてもよい。記載されるように架橋ポリアミドポリマーを含む非多孔質フィルムコーティングでコーティングされた後、これらの物理的特色は、コートされたフィルター膜について依然として実質的に同じであるかまたはほぼ同じであってもよい。
【0038】
コートされたフィルター膜は、記載されるポリアミドフィルムコーティング、例えば、多孔質ポリマーフィルター層の表面の連続または半連続フィルムコーティングを含む。ポリアミドフィルムコーティングは、コートされたフィルター膜のフィルタリング構成要素として有効であり、非ふるい濾材として働くことにより、コートされたフィルター膜のフィルタリング性能(例えば、フィルタリング有効性または保持)を向上させる架橋ポリアミドを含む。ポリアミドは、そのフィルタリング有効性のため、またその加工性のために選択されてもよい。加工性に関して、好ましいポリアミドは、架橋前に有用なコーティング方法によって多孔質ポリマーフィルター層の表面に有効に(および好ましくは効率的に)配置でき、その後架橋され、ポリアミドの溶媒耐性を向上させるものである。
【0039】
所望の加工性をもたらすために、好ましいポリアミドは、溶媒に溶解し、所望の量で多孔質ポリマーフィルター層の表面上にコーティングされてもよいポリマー溶液を形成し、その後ポリマー溶液から多孔質ポリマーフィルター層の表面上に沈殿することが可能である、すなわち、好ましいポリアミドは、溶媒に溶解し、多孔質ポリマーフィルター層の表面上に沈殿コーティングすることができる。表面上にコーティングされるポリアミド材料の量および配置は、ポリアミドが多孔質ポリマーフィルター膜のフィルタリング性能を向上させるのを可能とするのに十分であるべきであるが、多孔質ポリマーフィルター膜の流れまたはフィルタリング特性に関していかなる許容されない有害作用をもたらして、例えば、フィルターとしての使用時に、液体が多孔質ポリマーフィルター膜を流れる能力を著しく低減させるべきではない。
【0040】
架橋ポリアミドは、本明細書に記載の濾過材として働くのに有効なものであってもよく、好ましくは、有用なコーティング技術によって、例えば、好ましくは、ポリアミドが(架橋前に)本明細書に記載の溶媒に溶解した共重合体溶液からの沈殿コーティングによって、多孔質ポリマーフィルムコーティングのコーティングとして提供され得る架橋前形態のものである。
【0041】
ポリアミドは、ナイロンを含む周知のポリマーのクラスである。ポリアミドは、繰り返しアミド結合によって分離される複数の繰り返し炭素系有機ポリマー骨格単位を含むポリマーであると化学的にみなされる。「ポリアミド」という用語は、繰り返し出現するアミド基を有する2つ以上の反応性モノマー化合物に由来するもの(例えば、ポリアミド「共重合体」および「三元共重合体」)を含むポリマー、ならびに2つ以上の異なるそのようなポリアミドのブレンドを指す。
【0042】
ポリアミドは、組み合わせることができる官能基を含むモノマーまたは反応性原料を反応させ、繰り返しアミド結合を有するポリマー骨格を形成することによって調製できる。したがって、ポリアミドを調製するために有用なモノマーおよび反応性材料の例として、ジアミンモノマーおよびジカルボン酸モノマーが挙げられる。例示的なポリアミドとして、2つまたは3つのジアミンおよびジカルボン酸モノマーの組合せを重合することによって調製される共重合体および三元共重合体が挙げられる。
【0043】
ジアミンまたはジカルボン酸などの有用なモノマーは、飽和直鎖炭化水素化合物と2つの官能基、例えば、2つのアミンまたは2つのカルボン酸基とを含む直鎖状であってもよい。これらの化合物は、反応してポリアミド骨格の直鎖(例えば、脂肪族)単位を形成する。他の有用なモノマーは、芳香族化合物または飽和環状もしくは二環式化合物などの非直鎖化合物に結合した2つの官能基(例えば、アミンまたはカルボン酸基)を含む化合物であってもよい。これらの化合物は、反応して、ポリアミド骨格の非直鎖単位、例えば、環状または多環式単位を形成する。
【0044】
一部の実施形態では、コートされたフィルター膜のフィルムコーティングに有用な本明細書のポリアミドは、直鎖および非直鎖骨格単位を含んでもよい、例えば、直鎖モノマーおよび非直鎖モノマーを反応させることによって導出され、直鎖骨格単位および非直鎖骨格単位を含む骨格単位を有するポリアミドが生産されてもよい。非直鎖骨格単位は、好ましくは、非架橋状態のポリアミドが所望の溶媒に溶解し、記載されるポリマー溶液を形成する能力を増大させるのに有効であってもよい。
【0045】
本明細書に記載されるポリアミドを調製するのに有用であり得る直鎖化合物(モノマー)のある特定の詳細な非限定的な例として、カプロラクタム、ヘキサメチレンジアミンアジペートおよびこれらの組合せが挙げられる。記載されるポリアミドを調製するのに有用であり得る非直鎖化合物(モノマー)の詳細な非限定的な例は、4,4-ジアミノ-ジシクロヘキシルメタンアジペートである。これらの例示的なモノマーは、本明細書の有用なポリアミドを調製するために使用できるモノマーまたは反応性材料の種類を限定すると解釈されるべきではない。他の直鎖モノマー(例えば、直鎖ジアミンおよび直鎖ジカルボン酸基)もまた、記載されるポリアミドを調製するために有用であり、他の非直鎖モノマー(例えば、環式6員飽和環構造(例えば、二価シクロアルキレン残基)または2つの連結した環式6員飽和環構造(例えば、二価ジシクロアルキレン残基)を含むジアミンおよびジカルボン酸化合物)も同様である。
【0046】
記載されるポリアミドは、好ましくは、ポリアミドをギ酸および塩化カルシウムと異なる記載される所望の溶媒中で溶媒処理可能にする、またはそれを可能とする直鎖骨格単位と非直鎖骨格単位の組合せによって分離される、繰り返しアミド基から作製されてもよい。ポリアミドは、ポリアミドが、架橋前に溶媒に溶解し、コーティングとして多孔質ポリマーフィルター層に塗布されてもよいポリマー溶液を形成できる場合に、溶媒処理可能とみなされる。ポリアミドは、好ましくは、ポリアミドが、コーティングに有益な、例えば、浸漬沈殿によるコーティングに有益なポリマー溶液を形成できるのに十分な量で、溶媒に完全に可溶型である。
【0047】
ポリアミドは、ある特定のポリアミドおよびナイロンと同様、溶融処理可能、例えば熱可塑性である必要はなく、これは、ポリアミドが、実質的に劣化することなく、液化(溶融化)状態と固体状態との間を、例えば繰り返し、行き来できることを意味する。
【0048】
種々のポリアミドが、一部の酸性溶媒(例えば、ギ酸)およびある特定のイオン性溶媒(例えば、塩化カルシウム)などのある特定の種類の溶媒を使用して溶媒処理可能であることが公知である。例えば、一部のナイロン、例えばナイロン66は、ギ酸および塩化カルシウムに可溶型であるが、他の有機材料には一般的に可溶型でない。しかし、ギ酸は取扱いが困難なことがある。また、塩化カルシウムは、塩化カルシウムからコーティングされるナイロン材料に結果的に許容されないレベルの不純物が存在するため、半導体加工に使用されるものなどの、高純度の液体を濾過するのに使用されるフィルター用のナイロン材料の調製に使用するのに好ましい溶媒ではない。
【0049】
本明細書の好ましい非架橋ポリアミド材料は、ギ酸と異なり、塩化カルシウムと異なる溶媒で溶媒処理可能であってもよい。より一般的には、ある特定の有用な好ましい非架橋ポリアミドは、ギ酸および塩化カルシウムと異なり、ギ酸と比べて取扱いが容易であり、高純度の材料を処理するためのフィルターで使用する、コーティングされたポリアミドに、所望されない残留物を結果的に存在させない種々の非酸性溶媒、例えば、有機溶媒(任意選択で水成分を含む)に可溶型であってもよい。
【0050】
本明細書の有用または好ましい非架橋ポリアミドは、少なくとも1つの代替的な溶媒、すなわち、ギ酸と異なり塩化カルシウムと異なり、かつ好ましくは、ギ酸または塩化カルシウムを含まない溶媒のみから作製されてもよい(例えば、それからなってもよい、またはそれから本質的になってもよい)溶媒に可溶型であってもよい。ギ酸および塩化カルシウムと異なる溶媒から本質的になる溶媒は、ギ酸および塩化カルシウムと異なる溶媒の1つまたは組合せ、およびに必要に応じた水と、5、2、1または0.5重量パーセント以下のギ酸または塩化カルシウムを含有する溶媒を指す。
【0051】
代替的な溶媒の例として、種々の産業および商業的プロセスで一般的に使用、取扱いおよび処理され、かつ非架橋ポリアミドを溶解し、許容されない量の溶媒に由来する残留物を含まないポリアミドのコーティングを形成するために使用できる多様な有機、非酸性、非イオン性溶媒が挙げられる。溶媒は、溶媒が、浸漬沈殿コーティング法によって、所望の量の非架橋ポリアミドを基板上に、例えば多孔質ポリマーフィルター層上にコーティングするためのビヒクルになることを可能とするのに有用かつ十分な量で、非架橋ポリアミドを溶解するものである。
【0052】
ギ酸と異なり塩化カルシウムと異なる溶媒の本発明で好ましい例として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノールなどの低級脂肪族アルコール(例えば、C1~C3、C4、C5またはC6脂肪族アルコール)、および塩素化炭化水素が挙げられる。本明細書の有用または好ましい非架橋ポリアミドは、必要に応じて水と組み合わせたこれらの溶媒の1つまたは組合せに、非架橋ポリアミドが、本明細書に記載されるように溶媒から多孔質ポリマーフィルター層上にコーティングされ得る程度まで可溶型である。ある特定の本発明で好ましい非架橋ポリアミドは、プロパノールおよび任意選択の水からなる、またはそれから本質的になる、例えば、任意選択で、溶媒の総重量に対して20重量パーセント以下の水と組み合わせたプロパノールのみから作製される溶媒に溶解可能である。
【0053】
したがって、有用または好ましい溶媒は、さらに任意選択である量の水と組み合わせた、以下の1つまたは組合せを含む溶媒を含んでもよく、それからなってもよく、またはそれから本質的になってもよい:メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノールなどの低級脂肪族アルコール;および1種または複数の塩素化炭化水素。溶媒は、ある量の水、例えば、最大約20、10または5パーセントの水を任意選択で含んでもよい。
【0054】
特定の溶媒または溶媒の組合せ(必要に応じた量の水を含む)から本質的になる溶媒は、特定の溶媒または溶媒の組合せ、および5、2、1または0.5重量パーセント以下の、特定の1つまたは複数の溶媒と異なる材料(例えば、溶媒)を含有する溶媒である。任意選択の水を含む、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノールなどの低級脂肪族アルコール、塩素化炭化水素、もしくはこれらの組合せの1つまたは組合せから本質的になる溶媒は、これらの溶媒の1つまたは組合せ、および任意選択の水と、5、2、1または0.5重量パーセント以下の任意の他の材料を含有する溶媒である。
【0055】
溶媒に応じて、非架橋ポリアミドの溶媒への溶解を可能にする、または促進するために加熱が使用されてもよい。例えば、加熱の非存在下では、非架橋ポリアミドは、記載されるように溶媒に完全に溶解するまで長時間または数日かかる場合がある。例えば、60~80℃の範囲の温度まで溶媒を加熱することにより、時間が短くなる。好ましくは、加熱によって、記載される非架橋ポリアミドは、数時間(例えば、2、4または6時間)またはそれ未満(例えば、40、30、20または10分未満)で溶媒に完全に溶解できる。
【0056】
本明細書のポリアミドおよび方法の一部の実施形態によると、ポリアミドは溶媒に溶解し、浸漬沈殿法によって多孔質ポリマーフィルター層に塗布されてもよいポリマー溶液を形成することができ、その後ポリアミドを架橋する工程が続く。一般的な方法は、フリーラジカル供給源材料とともに溶媒(任意選択の量の水を含む、本明細書に記載のギ酸不含および塩化カルシウム不含溶媒)に溶解した非架橋ポリアミドを含むポリマー溶液を形成する、または別様に提供する工程;ポリマー溶液を多孔質ポリマーフィルター層に塗布する工程;ポリマー溶液のポリアミドを、溶液から多孔質ポリマーフィルター層上に沈殿させる(凝固させる)工程;多孔質ポリマーフィルター層上にコーティングされたポリアミドを架橋する工程;およびポリアミドを乾燥する工程を含む、1つまたは複数の工程を含む。
【0057】
浸漬沈殿または転相としても公知の、ポリマーをポリマー溶液からフィルター層上に沈殿させる工程は、ポリマーフィルムを基板上に配置する一般的に公知の方法である。この技術では、本明細書のポリアミドおよびポリマー溶液に適用された場合、ポリアミドを含有するポリマー溶液が多孔質ポリマーフィルター層上にコーティングされ、ポリマー溶液でコーティングされたフィルター層を、水性液体などの非溶媒を含有する凝固液と接触させることにより(例えば、コートされたフィルター層を凝固浴に浸漬することによって)、ポリマー溶液のポリアミドが、ポリマー溶液から多孔質ポリマーフィルター層上に沈殿してもよい。ポリマー溶液が凝固液に曝露されたときに生じる溶媒と非溶媒との交換に起因して、ポリマー(すなわち、非架橋ポリアミド)が、ポリマー溶液からポリマー溶液がコーティングされているフィルム層の表面上に沈殿する。ポリマーは、ポリマー溶液の溶媒に可溶型でなくてはならず、かつ凝固液の非溶媒(例えば、水性液体)と接触した際に沈殿または凝固しなくてはならない。
【0058】
ポリマー溶液は、溶媒、溶解したポリアミドおよびフリーラジカル供給源材料のそれぞれの任意の有効量を含有する。例示的なポリマー溶液は、ポリマー溶液の総重量に対して、最大約10または20、例えば、0.5~8または0.5~5もしくは3重量パーセントのポリアミド、最大約5、例えば、0.5~6または1~5重量パーセントのフリーラジカル供給源材料を含有してもよく、残部は溶媒(例えば、任意選択である量の水と組み合わせた、本明細書に記載される有機溶媒)である。
【0059】
例示的なポリマー溶液は、ギ酸などの酸性溶媒および塩化カルシウムなどのイオン性溶媒を必要とせず、これらを排除してもよい。好ましい溶媒は、任意選択の水を含むプロパノールであってもよいが、非酸性、非塩基性および非イオン性の、本明細書に記載される例示的な溶媒を含む他の溶媒が単独で、またはプロパノールとの組合せで使用されてもよい。
【0060】
ポリマー溶液は、ポリアミド、フリーラジカル供給源材料および溶媒(例えば、本明細書に記載および例証される)を含んでもよく、それからなってもよく、またはそれから本質的になってもよい。ポリアミド、フリーラジカル供給源材料および溶媒(例えば、本明細書に記載および例証される)から本質的になるポリマー溶液は、少なくとも95、98、99または99.5重量パーセントのポリアミド、フリーラジカル供給源材料および溶媒(例えば、本明細書に記載および例証される)、ならびに0.5、1、2または5重量パーセント以下の任意の他の材料を含有するポリマー溶液を指す。
【0061】
ポリアミドがフィルター層の表面上に沈殿した後、ポリアミドを架橋し、ポリアミドの溶媒耐性を増大させてもよい。架橋されるポリアミドは、ポリアミド組成物(例えば、コーティングされ、沈殿したポリアミド)のポリマー鎖が互いと化学的に交差連結し;したがって、少なくとも1つのポリアミド鎖が、少なくとも1つの他のポリアミド鎖と少なくとも1つの位置で交差連結(化学的に結合)し、ここで、任意選択で1つの単一ポリアミド鎖と、1つ、2つまたはそれよりも多くの他のポリアミド鎖との間に複数の結合が存在するポリアミドを指す。
【0062】
架橋は、任意の有用な機構によって生じさせることができ、好ましい方法は、コーティングされたポリアミド材料をフリーラジカル供給源材料、および紫外線(UV)放射などの放射線源に露光することである。フリーラジカル供給源材料の有用な例は周知であり、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾフェノン、ベンゾフェノン誘導体、ミヒラーケトン、アルファヒドロキシケトン(alplhahydroxyketone)、ベンジルジメチルケタール、イソプロピルチオキサンタン、ジエトキシアセトフェノンなどのジアルコキシアセトフェノン(dialkoxyacetophelnones)、アセトフェノン、ベンジル、過酸化物および他の誘導体(置換形態)などの置換ベンゾイン、ならびにこれらの混合物などの光開始剤が挙げられる。好ましいフリーラジカル供給源材料の例は、ベンゾフェノンである。この、または別のフリーラジカル供給源材料は、組合せで使用されてもよい。
【0063】
任意選択で、所望であれば、ポリマー溶液は、ポリマー溶液のポリアミド鎖間の架橋レベルを増大させる1つまたは複数の追加の多官能、例えば、ポリ官能化合物を含んでもよい。架橋剤は必要ではなく、例示的なポリマー溶液は、ポリアミドポリマーに加えて多官能架橋剤の存在を必要とせず、これを排除してもよい。
【0064】
ポリアミドの架橋を引き起こすのに使用させる方法は、非架橋ポリアミドに比べて溶媒への耐性が増大した架橋ポリアミドをもたらすのに有用な任意の方法であってもよい。UV放射およびフリーラジカル供給源の使用以外の方法、例えば、e-ビーム放射の使用による方法が有用である場合がある。
【0065】
コートされたフィルター膜の一部として多孔質ポリマーフィルター上にコーティングされる、記載される架橋ポリマーは、架橋ポリマーの色素結合能に関して特徴付けることができる。詳細には、架橋ポリマーの表面に荷電色素を結合させてもよい。架橋ポリマーに結合できる色素の量を、架橋ポリアミドの塗布前後に得た、色素の吸収周波数における測定された膜の吸収の読み取り値の差に基づいて、分光法によって定量的に測定してもよい。色素結合能は、負に荷電した色素を使用して評価してもよく、正に荷電した色素を使用して評価してもよい。
【0066】
一部の実施形態では、架橋ポリアミドでコーティングされるフィルター膜は、正に荷電した色素に対して、負に荷電した色素に対して、またはその両方に対して、同じ実施または試験条件を使用して評価した場合、ナイロン6またはナイロン66などの、ある特定の以前使用されたポリアミドから作製またはそれによってコーティングされる同等のフィルターより大きい色素結合能を有してもよい。記載されるコートされたフィルター膜は、フィルター膜1ミリグラムあたり少なくとも0.2マイクログラム(μg/mg)、例えば、0.5または1.0μg/mgより大きいメチレンブルー色素に対する色素結合能を有してもよい;代替的にまたはさらに、記載されるコートされたフィルター膜は、フィルター膜1ミリグラムあたり少なくとも0.2マイクログラム(μg/mg)、例えば、0.05、0.25、0.5または0.6μg/mgより大きいポンソーS色素に対する色素結合能を有してもよい。
【0067】
一部の実施形態では、本明細書で開示される架橋ポリアミドでコーティングされたフィルター膜は、直径47mmおよび厚さ55ミクロンを有する膜の試料から、試料が15mlの0.1N HCl溶液(塩酸)に24時間浸される場合に、抽出されるマグネシウム(Mg)を、1.0ng/cm2(ナノグラム/平方センチメートル)、0.9ng/cm2、0.8ng/cm2、0.7ng/cm2、0.6ng/cm2、0.5ng/cm2または0.4ng/cm2未満有する。Mgの量は、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)によって測定される。多孔質ポリマーフィルター上の架橋ポリアミドフィルムコーティングは、フィルタリング特性を増強させるために、任意選択で処理されてもよい、例えば、プラズマ処理されてもよい。
【0068】
ポリアミドの所望のコーティング特性の一部として、架橋および乾燥されたポリアミドフィルムコーティングは、多孔質フィルム層の細孔を許容されないほど高度に閉鎖すべきではない、例えば、コートされたフィルター膜の多孔質ポリマーフィルター層の流れ特性に許容されない変化をもたらすべきではない。コートされたフィルム膜(すなわち、ポリアミドフィルムコーティングを多孔質ポリマーフィルム層上に配置した後の多孔質ポリマーフィルムコーティング)を通る液体の流量および流速は、コートされたフィルム膜が商業的フィルター膜として機能できるのに十分であり、許容されるものであるべきである。記載されるコーティングを提供することができる方法の好適な例では、ポリアミドは、好ましくは、溶媒に溶解した(非架橋)ポリアミドを含有するポリマー溶液を多孔質ポリマーフィルター層の表面上に塗布し、(非架橋)ポリアミドをポリマー溶液からフィルター層の表面上に沈殿(凝固)させることにより、多孔質ポリマーフィルター層上にコーティングされてもよい。沈殿した(非架橋)ポリアミドは、コーティングされたポリアミドが、架橋および乾燥後に、多孔質フィルター膜の開口を顕著に閉塞することなく、すなわち、膜を通る流れを30、20、10または5パーセント(流速に基づいて、または流れ時間の5、10、20または30パーセントの増加として測定される)より大きく低減させることなく、非ふるい濾材として有効に機能する量で、多孔質ポリマーフィルター層の表面を覆う。
【0069】
本明細書に記載されるフィルター膜、またはフィルター膜を含有するフィルターもしくはフィルター構成要素は、液体化学材料を濾過して、液体化学材料から不要物質を精製または除去する、特に、極めて高レベルの純度を有する化学材料の投入を必要とする産業プロセスに有用である、極めて純粋な液体化学材料を生産する方法に有用であってもよい。一般的に、液体化学材料は、種々の有用な商業的材料のいずれかのものであってもよく、任意の産業または商業的使用のための任意の用途に有用または使用される液体化学材料であってもよい。記載されるフィルターの特定の例は、半導体またはマイクロエレクトロニクス製作用途に使用される、または有用な液体化学材料を精製するため、例えば、半導体フォトリソグラフィーの方法に使用される液体溶媒または他の処理液を濾過するために使用されてもよい。記載されるフィルター膜を使用して濾過されてもよい溶媒の一部の特定の非限定的な例として、酢酸n-ブチル(nBA)、イソプロピルアルコール(IPA)、酢酸2-エトキシエチル(2EEA)、キシレン、シクロヘキサノン、乳酸エチル、メチルイソブチルカルビノール(MIBC)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸イソアミル、ウンデカン、プロピレングリコールメチルエーテル(PGME)およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)が挙げられる。
【0070】
液体化学材料、例えば溶媒の濾過に有用であるために、記載される架橋ポリアミドは、濾過される液体化学材料に耐性でなければならない、例えば、これらの液体の存在下で劣化に実質的に耐性でなければならない。好ましい架橋ポリアミド材料は、濾過される液体化学材料(例えば、溶媒または酸)に耐性であり、濾過によって液体化学材料を処理して、極めて低レベルの溶解した金属などの不純物、および極めて低レベルの懸濁した粒子または他の不純物もしくは夾雑物を有する液体化学材料を生産するのに有効である。
【0071】
コートされたフィルター膜は、フィルタリングシステムに使用されるフィルターまたはフィルターカートリッジなどのより大きなフィルター構造体内に含有されてもよい。フィルタリングシステムは、例えば、フィルターまたはフィルターカートリッジの一部として、コートされたフィルター膜を液体化学材料の流路に配置し、コートされたフィルター膜が液体化学材料から不純物および夾雑物を除去できるように、液体化学材料にコートされたフィルター膜を流れさせる。フィルターまたはフィルターカートリッジの構造体は、コートされたフィルター膜をフィルター内で支持し、流体がフィルターの入口からコートされた膜を通ってフィルターの出口へと流れ、それによってフィルターを通過する際にコートされたフィルター膜を通過するようにさせる種々の追加材料および構造体のうちの1つまたは複数を含んでもよい。フィルター構造体によって支持されるコートされたフィルター膜は、任意の有用な形状、例えば、数ある中でも、プリーツ加工された円筒、円筒状パッド、1つまたは複数のプリーツ加工されていない(平坦な)円筒状シート、プリーツ加工されたシートであってもよい。
【0072】
プリーツ加工された円筒の形態のコートされたフィルター膜を含むフィルター構造体の一例は、いずれもフィルター構築物に含まれてもよいが必須でなくともよい以下の構成部品を含むよう調製することができる:プリーツ加工された円筒状のコートされたフィルター膜の内部開口で、プリーツ加工された円筒状のコートされたフィルター膜を支持する剛性または半剛性コア;フィルター膜の外部で、プリーツ加工された円筒状のコートされたフィルター膜の外部を支持するまたは囲む剛性または半剛性ケージ;プリーツ加工された円筒状のコートされたフィルター膜の2つの対向する末端のそれぞれに位置する、任意選択の先端部または「パック」;ならびに入口および出口を含むフィルターハウジング。フィルターハウジングは、任意の有用な所望のサイズ、形状および材料のものであってもよく、好ましくは、好適なポリマー材料から作製されてもよい。
【実施例】
【0073】
ポロシメトリーバブルポイント
ポロシメトリーバブルポイント試験法は、膜の湿った細孔に空気を押し通すのに必要とされる圧力を測定する。バブルポイント試験は、膜の孔径を決定するための周知の方法である。
【0074】
流速測定
膜を47mmの円板に切断してIPAで湿らせた後、IPAの体積を保持するためのリザーバを備えたフィルターホルダーに円板を配置することによって、イソプロパノール(IPA)の流速を決定した。リザーバは、圧力調整器に接続される。IPAを、14.2psi(ポンド/平方インチ)の差圧下で膜に流した。平衡が達成された後、10mlのIPAが膜を流れるのに要した時間を記録した。
【0075】
実施例1
本実施例は、14wt%のポリアミドストック溶液の調製について記載する。撹拌棒およびコンデンサーを備えた丸底フラスコに、14グラムのUltramid1C(BASF)樹脂を86gの1-プロパノール(Sigma)/DI水の混合物に添加した。混合物は、20mlのDI水と80mlの1-プロパノールを混合することによって調製した。混合物を、すべての樹脂が溶解するまで10時間還流下で加熱した。得られた溶液は澄明であり、未溶解固体を含まない。
【0076】
実施例2
本実施例は、ポリアミドコーティング溶液の調製について記載する。
【0077】
2gのベンゾフェノン(Sigma)、28.57gの実施例1で調製されたストック溶液および69.43gのプロパノール:水の混合物溶液(80:20Vol%)を含有する溶液を作製した。30分間混合を続けると、ベンゾフェノンが完全に溶解した。
【0078】
実施例3
本実施例は、ポリアミドによるUPE膜のコーティングを実証する。
【0079】
47mmのUPE円板(平均HFEバブルポイント99psi)を、実施例2に記載のコーティング溶液で10秒間湿らせた。膜円板を取り出し、1ミルのポリエチレンシートの間に配置した。ゴムローラーを、テーブルに平らに置いたポリエチレン/膜円板/ポリエチレンサンドイッチ上で転がし、過剰な溶液を除去した。UPE膜をサンドイッチから取り出し、すぐに脱イオン(DI)水に入れ、2分間旋回させて洗浄し、多孔質膜円板の表面にコーティング溶液を沈殿させた。膜円板を取り出し、再び1ミルのポリエチレンシートの間に配置した。ゴムローラーを、テーブルに平らに置いたポリエチレン/膜円板/ポリエチレンサンドイッチ上で転がし、過剰な水を除去した。次に、ポリエチレンサンドイッチを移送装置にテープで固定し、装置によって、このアセンブリを200nm~600nmの波長で発光するFusion Systems広帯域UV露光実験装置内に搬送した。露光時間は、アセンブリがUV装置を移動する速度によって制御する。本実施例では、アセンブリは1分あたり8フィートでUVチャンバを移動した。UV装置を出た後、膜をサンドイッチから取り出し、すぐに2.5wt%のHClを含有する60wt%イソプロパノール溶液に入れ、12時間旋回させて洗浄した。コートされた膜円板を、100%イソプロパノール溶液中でさらに1時間旋回させて洗浄した。この洗浄手順に続き、膜を50℃で動作するオーブン中、ホルダー上で10分間乾燥した。
【0080】
6つのコートされた膜円板試料のイソプロパノールの平均流速は5.1ml/分であった。試験した3つの未コートの膜試料の平均流速は6.2ml/分であった。6つのコートされた膜円板試料の平均HFEバブルポイントは96psiであった。
【0081】
実施例4
本実施例は、実施例3に記載の様式で調製されたUPE円板のメチレンブルー色素結合能を実証する。本実施例はさらに、実施例2のコーティング溶液を用いて実施した場合、実施例3のプロセスにより、正に荷電した色素に結合可能なUPE膜が得られることを実証する。
【0082】
実施例3の3つの水で湿った47mmコートされた円板膜を、10Mの水酸化ナトリウムでpH10に調整した50mlの0.00075wt%のメチレンブルー色素(Sigma)を含有するビーカーに入れた。ビーカーに蓋をし、室温で継続的に混合してコートされた膜円板を2時間浸した。その後、円板を取り出し、色素溶液の吸光度を、664nmで動作するCary分光光度計(Agilent Technologies)を使用して測定した。膜を水ですすぎ、50mlの100%イソプロパノールに30分間浸した。この工程により、膜表面に非特異的に結合した色素分子をすべて脱着する。非特異的吸着は、コートされた膜表面に静電相互作用によって結合しない色素分子を指す。次に、膜円板を取り出し、イソプロパノール溶液の吸光度を、656nmで動作するCary分光光度計(Agilent Technologies)を使用して測定した。
【0083】
図1および2に示される較正曲線の勾配を使用して、膜を浸す前後の色素溶液の吸光度データおよびイソプロパノール溶液の吸光度データを、膜の単位質量あたりの膜に結合したメチレンブルー色素の質量に変換した。色素はカチオン性であり、ポリアミドコーティングによって膜に付与された負に荷電した基に、1.4μg/mgの平均色素結合能で結合した。対照的に、未コートのUPE膜の平均色素結合能は、同様の実験条件下で0.1μg/mgであった。
【0084】
実施例5
本実施例は、実施例3に記載の様式で調製されたUPE円板のポンソーS色素結合能を実証する。本実施例はさらに、実施例2のコーティング溶液を用いて実施した場合、実施例3のプロセスにより、負に荷電した色素に結合可能なUPE膜が得られることを実証する。
【0085】
実施例3の3つの水で湿った47mmコートされた円板膜を、50mlの0.002wt%のポンソーS色素(Sigma)溶液を含有するビーカーに入れた。ビーカーに蓋をし、室温で継続的に混合してコートされた膜円板を2時間浸した。その後、円板を取り出し、色素溶液の吸光度を、518nmで動作するCary分光光度計(Agilent Technologies)を使用して測定した。膜を水ですすぎ、50mlの100%イソプロパノールに30分間浸した。この工程により、膜表面に非特異的に結合した色素分子を全て脱着する。次に、膜円板を取り出し、イソプロパノール溶液の吸光度を、501nmで動作するCary分光光度計(Agilent Technologies)を使用して測定した。
【0086】
図3および4に示される較正曲線の勾配を使用して、膜を浸す前後の色素溶液の吸光度データおよびイソプロパノール溶液の吸光度データを、膜の単位質量あたりの膜に結合した色素の質量に変換した。色素はアニオン性であり、ポリアミドコーティングによって膜に付与された正に荷電した基に、0.75μg/mgの平均色素結合能で結合した。対照的に、未コート
のUPE膜の平均色素結合能は、同様の実験条件下で0.05μg/mgであった。
【0087】
実施例6
本実施例は、ナイロン6,6膜のメチレンブルーおよびポンソーS色素結合能を実証する。
【0088】
平均HFEバブルポイントが100psiより大きいナイロン6,6膜の、1つの水で湿った47mm切片を、実施例4および5に記載の50mlのメチレンブルーまたはポンソーS色素溶液に浸した。膜は5.4μg/mgの平均色素結合能でメチレンブルーに結合し、4.3μg/mgの平均色素結合能でポンソーSに結合した。
【0089】
実施例7
本実施例は、ナイロン6膜のメチレンブルーおよびポンソーS色素結合能を実証する。
【0090】
平均HFEバブルポイントが62psiであるナイロン6膜の、1つの水で湿った47mm切片を、実施例4および5に記載の50mlのメチレンブルーまたはポンソーS色素溶液に浸した。膜は1.4μg/mgの平均色素結合能でメチレンブルーに結合し、10.7μg/mgの平均色素結合能でポンソーSに結合した。
【0091】
実施例8
本実施例は、ポリアミドコートされたUPE膜が、低pH溶液で抽出可能な金属に関して、ナイロン6膜より清潔であることを実証する。
【0092】
ナイロン6膜の47mm円板および実施例3で調製された膜の47mm円板を、0.1NのHClで抽出した。ICP-MSを使用して、抽出された金属の量を定量した。
図5に示されるように、ポリアミドコート
されたUPE膜から0.4ng/cm2のMgが抽出されたのに比べ、ナイロン6膜からは40ng/cm2のMgが抽出された。ナイロン6およびポリアミドコート
されたUPE膜から抽出された総金属は、それぞれ90ng/cm2および33ng/cm2であった。
【0093】
実施例9
本実施例は、ポリアミドコートされたUPE膜が低pH有機溶媒中で安定であることを実証する。
【0094】
UPEコートされたポリアミド膜試料を、3.5wt%のHClを含有する60wt%のイソプロパノール溶液に9日間浸した。時間0における、および低pH有機溶媒に浸した後の膜表面上のポリアミドの量を、ATR-FTIR(「ATR」)分光法によってピーク比の形態で決定した。ゲルマニウム結晶を収容するATRアセンブリを装着したBruker Tensor27FTIRを用いてATR測定を実施した。すべてのスペクトルは、分解能4cm-1で32回スキャンして記録した。バックグラウンドは裸の結晶であった。1713および/または1496cm-1のピーク面積(アミド伸縮に対応する)をOPUSデータ収集プログラムを使用して得て、合計を2918および2850cm-1の総ピーク面積(UHMWPE伸縮に対応する)で除し、UHMWPE(超高分子量ポリエチレン)表面上にグラフトされたアクリルアミドモノマーの量を得た。UHMWPEシグナルを従来の内標準として使用し、膜円板間の改質レベルの変動に起因する可能性があるアミドピークの絶対吸光度強度の差を正規化する。
【0095】
図6に示されるように、膜表面にコーティングされたポリアミドの量は、低pH有機溶媒への曝露後に減少しなかった。これは、ポリアミドコーティングが、酸性であるBARC、ITCおよびSOGなどの光応用において安定であることを示唆する。
【0096】
実施例10
本実施例は、ポリアミドコートされたUPE膜が、一般的なフォトレジスト溶媒中で安定であることを実証する。
【0097】
UPEコート
されたポリアミド膜試料を、シクロヘキサノン、OK73およびArFシンナー(PGMEA45~55%、HBM35~45%、EL5~15%)に5日間浸した。時間0における、および5日間有機溶媒に浸した後の膜表面上のポリアミドの量を、実施例8に記載のように、ATR-FTIR(「ATR」)分光法によってピーク比の形態で決定した。
図7に示されるように、膜表面にコーティングされたポリアミドの量は、浸す前後で本質的に同じであった。
【0098】
実施例11
本実施例では、コーティング配合物のベンゾフェノンの濃度を比較する。
【0099】
UPE膜の47mm切片(平均HFEバブルポイント80psi)を、3wt%のUltramid1Cおよび0.5、1または2wt%のベンゾフェノンの濃度を使用して、実施例3に記載のプロセスに従ってポリアミドでコーティングした。UV装置を出た後、膜切片をポリエチレンシートサンドイッチから取り出し、すぐに100%イソプロパノールを含有するソックスレー抽出器に入れた。24時間かけて抽出を行った。時間0における、およびイソプロパノールでの抽出後の膜表面上のポリアミドの量を、実施例8に記載のように、ATR-FTIR(「ATR」)分光法によってピーク比の形態で決定した。
図8に示されるように、膜表面にコーティングされたポリアミドの量は、0.5、1および2wt%のそれぞれのベンゾフェノンの濃度で、約45、12および2%減少した。
【0100】
実施例12
本実施例は、実施例3に記載のプロセスに従ってコーティングされた膜(UPE、平均HFEバブルポイント100psi)を含む濾過デバイスでリソグラフィ溶液を濾過したとき、得られたウエハー欠陥の計数が低減したことを実証する。
【0101】
フィルターデバイスをTOK OK73溶媒(PGME:PGMEA 70:30)で満たし、6リットルの溶媒でフラッシュした。リソグラフィ加工物は、1.35NAのASML 1970iおよびTEL LITHIUS Pro-Zi trackコーティング現像システムで実行した。欠陥性試験には、L45P100パターンのみのマスクをフルフィールド露光とともに使用した。パターン欠陥試験には、ARC-29SR-309(BSI)上にコーティングされたPT-CAR AIM5484(JSR)材料を使用した。裸のシリコンウエハーを、ARC(ARC-29SR-309)上のPT-CAR(AIM5484)レジストでコーティングする。ウエハーに、フルフィールド露光でマスク特性L45P100パターンを露光した。パターン付きウエハーを、標準レシピを使用してKLA2925で測定した。KLA eDR-7100を用いて欠陥を再確認して分類した。
【0102】
図9に示されるように、ポリアミドでコーティングされたUPE膜は、ナイロン6(平均HFEバブルポイント60psi)およびUPE膜(平均HFEバブルポイント100psi)のそれぞれ9±1および20±1に比べ、6±1で最低欠陥計数(最良性能)を示した。
【0103】
実施例13
金属夾雑物除去に対する溶媒濾過の実施例
UPE膜(平均HFEバブルポイント80psi)を、実施例3に記載のプロセスに従ってポリアミドでコーティングし、47mm膜切片へと切断した。これらの膜切片を、10%HClで数回洗浄した後10%HClに終夜浸し、脱イオン水で平衡化することによって調整した。各試料につき1つの47mm膜切片を、清潔なPFA47mm Single Stage Filter Assembly(Savillex)に固定した。膜とフィルターアセンブリとをIPA、続いて塗布溶媒でフラッシュした。塗布溶媒はPGMEAであった。塗布溶媒に、CONOSTAN Oil Analysis Standard S-21(SCP Science)を各金属5ppbの目標濃度でスパイクした。濾過の金属除去効率を決定するために、金属がスパイクされた塗布溶媒に、各フィルターを含有する対応する47mmフィルターアセンブリを10mL/分で通過させ、濾液を100mL、150mLおよび200mLの清潔なPFAジャーに収集した。金属がスパイクされた塗布溶媒および各濾液試料の金属濃度を、ICP-MSを使用して決定した。
【0104】
結果は、表
1の総金属除去(%)および
図10の200mL濾過における個々の金属の除去%(PGMEA)において、ナイロン6膜(平均HFEバブルポイント62psi、0.35%HClで調整)と比較して示す。ポリアミドコーティングされたUPE膜は、ナイロン6膜と同等の金属除去効率を有する。しかし、ポリアミドでコーティングされたUPE膜は、ナイロン6膜と比較した場合、少なくともAl、Ti、Cr、Mn、Fe、NiおよびSnに対する個々の金属の除去の向上を示す。