(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】改善された温度安定な軟磁性粉末
(51)【国際特許分類】
H01F 1/33 20060101AFI20240318BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20240318BHJP
H01F 1/36 20060101ALI20240318BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20240318BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240318BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240318BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240318BHJP
【FI】
H01F1/33
H01F1/24
H01F1/36
B22F1/14 650
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
C22C38/00 303S
(21)【出願番号】P 2021500880
(86)(22)【出願日】2019-07-09
(86)【国際出願番号】 EP2019068392
(87)【国際公開番号】W WO2020011779
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-07-05
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(72)【発明者】
【氏名】ケーニヒ,レネ
(72)【発明者】
【氏名】ヨクシモヴィッチ,ラストコ
(72)【発明者】
【氏名】ミュンスター,インゴ
(72)【発明者】
【氏名】クロック,フォルカー
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ジェ ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】エーレンシュタイン,モーリツ
(72)【発明者】
【氏名】フーペ,アイケ
(72)【発明者】
【氏名】ニルゲス,ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】リープシャー,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】キーブルク,クリストファー
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-538720(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02871646(EP,A1)
【文献】特開2009-117471(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0266861(US,A1)
【文献】特開2017-188680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/33
H01F 1/24
B22F 1/16
B22F 1/00
B22F 3/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末をコーティングするための方法であって、コーティングが、式(I):Si
1-0.75cM
cO
2-0.5cF
d (I)
(式中、
cは0.01~0.5の範囲であり、
dは0.04~2の範囲であり、
MはBまたはAlである)
の組成物を含む少なくとも1種のフッ素含有組成物を含み、
前記軟磁性粉末を、少なくとも1種の可溶性フッ素化剤を含むケイ素系溶液と混合し、前記少なくとも1種の可溶性フッ素化剤が、式(II)
[Q][MF
4] (II)
(式中、
MはBまたはAlであり;
Qは、H
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+、または[NR
1
4]
+から選択されるカチオン性基であり、
ここで、R
1は、-H、-C
1~12-アルキル、-C
2~12-アルケニル、および-C
6~18-アリールからなる群から独立して選択され、これらのそれぞれは、式-OR
2によって表される少なくとも1個の基で置換されてもよく、ここで、R
2は、-H、-C
1~12-アルキル、-C
2~12-アルケニル、および-C
1~18-アリールから独立して選択される)
の化合物である、方法。
【請求項2】
前記軟磁性粉末を、ケイ素系溶液と混合し、前記軟磁性粉末を前記ケイ素系溶液により少なくとも部分的に処理した後、前記少なくとも1種の可溶性フッ素化剤を加える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種の可溶性フッ素化剤が、式(II)
[Q][MF
4] (II)
(式中、
MはBから選択され、
Qは、H
+または[NR
1
4]
+から選択されるカチオン性基であり、
ここで、R
1は、-H、-C
1~12-アルキル、-C
2~12-アルケニル、および-C
6~18-アリールからなる群から独立して選択され、それぞれが、式-OR
2によって表される少なくとも1個の基で置換されてもよく、ここで、R
2は、-H、-C
1~12-アルキル、-C
2~12-アルケニル、および-C
1~18-アリールから独立して選択される)
の化合物である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記可溶性フッ素化剤が、HBF
4、[NH
4][BF
4]、および[(R
4-O-R
3)
x-NH
3-x][BF
4]
(式中、
R
3は、式-(C
nH
2n+p)-の基を表し;
nは、1から6までの整数であり、
pは、0および-2から選択される整数であり、
R
4は、-Hまたは-(C
mH
2m+q)-CH
3から選択され、
m=0の場合はq=0であるという条件で、
mは、0から6までの整数であり、
qは、0および-2から選択される整数であり、
xは、1~3から選択される整数である)
からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
軟磁性粉末1kgあたり0.1~10mmolのフッ素化剤を、前記ケイ素系溶液に加える、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ケイ素系コーティングでコーティングされた軟磁性粉末であって、前記ケイ素系コーティングが、式(I)
Si
1-0.75cM
cO
2-0.5cF
d (I)
(式中、
cは0.01~0.5の範囲であり、
dは0.04~2の範囲であり、
添え字cと添え字dとは、以下の関係を有し:d=4c、
MはBまたはAlである)
の少なくとも1種のフッ素含有組成物を含む、軟磁性粉末。
【請求項7】
式(I)(式中、MはBである)の少なくとも1種のフッ素含有組成物を含む、請求項
6に記載の軟磁性粉末。
【請求項8】
前記ケイ素系コーティングが、>5~45質量%、好ましくは10~40質量%、特に20~35質量%の式(I)の少なくとも1種のフッ素含有組成物を含む、請求項6または
7に記載の軟磁性粉末。
【請求項9】
前記フッ素含有組成物のフッ素成分が、SiO
2マトリックス内に埋め込まれ、および/またはSiO
2コーティングの表面に結合している、請求項6から
8のいずれか一項に記載の軟磁性粉末。
【請求項10】
前記ケイ素系コーティングが、2~100nmの平均厚さを有する、請求項6から
9のいずれか一項に記載の軟磁性粉末。
【請求項11】
前記軟磁性粉末の総質量に対して、0.1~10質量%の前記ケイ素系コーティングを含む、請求項6から
10のいずれか一項に記載の軟磁性粉末。
【請求項12】
電子部品を製造するために、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法から得られた軟磁性粉末、または請求項6から
11のいずれか一項に記載の軟磁性粉末を使用する方法。
【請求項13】
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法から得られた軟磁性粉末、または請求項6から
11のいずれか一項に記載の軟磁性粉末を含む、電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性粉末、および軟磁性粉末をコーティングする方法に関する。本発明はさらに、そのような軟磁性粉末を使用する方法、およびそのような軟磁性粉末を含む電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
軟磁性粉末の一般的な用途は、磁気コア部品であり、それは、電気的、電気機械的、および磁気的デバイス、例として、電磁石、変圧器、電気モーター、インダクタ、および磁気アセンブリにおいて、磁場を閉じ込めて、誘導するために使用される、高透磁率を有する磁性材料片として役立つ。これらの部品は、通常、高圧下の金型内で軟磁性粉末を成形することによって、さまざまな形状、およびサイズで製造される。
【0003】
電子的な用途、特に交流(AC)の用途において、磁気コア部品の2つの重要な特性は、透磁率およびコア損失特性である。これに関連して、材料の透磁率は、磁化される材料の能力、または磁束を流す材料の能力を示す。透磁率は、誘導される磁束の、磁化力または磁界の強さに対する比率として定義される。磁性材料が急速に変化する磁場にさらされると、ヒステリシス損および/または渦電流損の発生により、コアの総エネルギーが減少する。ヒステリシス損は、コア部品内で、保磁力に打ち勝つために必要な消費エネルギーによって起こる。渦電流損は、AC条件によって起こる磁束の変化によりコア部品内で電流が発生することによって起こり、基本的には、抵抗損をもたらす。
【0004】
一般に、高周波用途のデバイスはコア損失に敏感であり、渦電流による損失を低減するために、軟磁性粉末粒子の良好な絶縁が望まれる。これを実現する最も単純な方法は、各粒子の絶縁層を厚くすることである。しかしながら。絶縁層が厚いほど、軟磁性粒子のコア密度が低くなり、磁束密度が低下する。したがって、最適で重要な特性を有する軟磁性粉末コアを製造するためには、コアの抵抗率と密度を同時に増加させる必要がある。
【0005】
絶縁の別の側面は、絶縁層の温度性能および耐久性に関する。特に、高温によって、渦電流損を促進する亀裂が発生することにより、絶縁層の劣化がもたらされる可能性がある。したがって、温度安定性は、最適な特性を備えた軟磁性粉末コアを製造するためのさらなる必要条件である。理想的には、粒子は、安定な温度性能を有しながら、高い抵抗率および高密度をもたらす薄い絶縁層でコーティングされるであろう。
【0006】
磁性粒子上に絶縁層を形成するための公知の方法は、典型的には、重要な特性の1つ、すなわち、密度または抵抗率に取り組んでいる。しかし、絶縁層でコーティングされた粒子が120℃を超える、好ましくは150℃を超える温度に数時間さらされると、絶縁層に亀裂が発生し、渦電流が大きくなり、抵抗値が低くなる可能性がある。
【0007】
EP2871646A1は、温度安定性および抵抗率に関して良好な性質を呈するケイ素系コーティングでコーティングされた軟磁性粉末を提供する。これは、ある特定の量のフッ素を含む特定のケイ素系コーティングによって達成される。EP2871646A1は、コーティング軟磁性粉末を製造するための方法をさらに開示している。しかし、特に熱安定性に関して、コーティング軟磁性粉末に対する需要の高まりを考慮して、そのような粉末から製造される磁気コア部品に対して、最適な結果を達成するために、軟磁性粉末の絶縁層をさらに改善することが当技術分野において依然として必要とされている。さらに、軟磁性粉末をコーティングするための方法の改善が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、改善されたコーティング軟磁性粉末、ならびに軟磁性粉末をコーティングするための対応する方法であって、これにより磁気コア部品において利用される場合に、良好な温度安定性、高抵抗率および高透磁率を達成することが容易になる方法を提供することである。さらに、本発明の目的は、単純で費用対効果が高く、複雑にせずに前述の目標を達成することが可能となる方法を提供することである。本発明の別の目的は、良好な温度安定性、高抵抗率、および高透磁率を備えた軟磁性粉末を含む電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの目的は、ケイ素系コーティングでコーティングされた軟磁性粉末によって達成され、ケイ素系コーティングは、式(I):
Si1-0.75cMcO2-0.5cFd (I)
(式中、
cは0.01~0.5の範囲であり、
dは0.04~2の範囲であり、
MはBまたはAlである)
の少なくとも1種のフッ素含有組成物を含む。
【0011】
本発明はさらに、軟磁性粉末をコーティングするための方法であって、軟磁性粉末を、可溶性フッ素化剤を含むケイ素系溶液と混合する、方法に関する。本発明はさらに、コーティングするための方法によって得られる軟磁性粉末、または方法に従ってコーティングされる軟磁性粉末に関する。本発明はまた、電子部品、特に磁気コア部品、ならびに電子部品、特にコーティング軟磁性粉末を含む磁気コア部品を製造するためのコーティング軟磁性粉末を使用する方法に関する。
【0012】
以下の説明は、本発明によって提案された、コーティング軟磁性粉末、ならびに軟磁性粉末をコーティングするための方法に関する。特に、軟磁性粉末、フッ素含有組成物および可溶性フッ素化剤の実施形態は、コーティング軟磁性粉末、軟磁性粉末をコーティングするための方法、およびその方法によって得られたコーティング軟磁性コンパウンドに同様に適用される。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、軟磁性粉末をコーティングするための方法および電子部品の製造に最適に好適な対応するコーティング粉末を提供する。特に、本発明に従ってコーティングされた軟磁性粉末が磁気コア部品などの電子部品の製造に使用される場合に、この軟磁性粉末によって、高温耐久性、高抵抗率、および高透磁率を達成することが可能になる。さらに、提案された方法の単純で複雑でない様式により、バッチ間の高い一貫性を達成することができ、これによってまた、電子部品の製造の信頼性を高めることができる。全体として、本発明に従ってコーティングされた軟磁性粉末によって、独自の電磁性能特性、および特に>120℃、好ましくは>150℃、例えば>175℃の温度に対して高温耐久性を有する電子部品の製造が容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に関して、フッ素含有組成物の個々の成分、例えば、Si、O、およびFは、ケイ素系コーティング全体に均一に分布し得る。この場合、本明細書で明記されたフッ素含有組成物は、均質なケイ素系コーティングの組成を示す。あるいは、ケイ素系コーティングは、不均質であってもよい。そのような場合、本明細書で明記されたフッ素含有組成物の個々の成分は、コーティング全体でケイ素系コーティングの組成の平均を示す。例えば、ケイ素系コーティングは、二酸化ケイ素(SiO2)の1層または複数層、およびフッ素成分をさらに含む1層または複数層を含み得る。次に、本明細書で明記されたフッ素含有組成物は、層状または不均質なケイ素系コーティングの平均組成を示す。
【0015】
本発明に関して、質量%(質量(wt)%)での仕様は、特に明記しない限り、軟磁性粉末の総質量に対する分率を指す。例えば、軟磁性粉末をコーティングするための溶液は、上記の可溶性フッ素化剤、および任意に溶媒などのさらなる成分を含む。ここで、質量%は、特に明記しない限り、溶液で処理される軟磁性粉末の総質量に対する分率を指す。したがって、質量%での表示は、例えば溶液から他の成分を除いた軟磁性粉末の総質量に対するものである。
【0016】
本発明の軟磁性粉末は、軟磁性材料からなる複数個の粒子を含む。そのような粉末は、平均径が0.5~250μmの間、好ましくは2~150μmの間、より好ましくは2~10μmの間の粒子を含む。これらの粒子は、形状が異なる場合がある。形状に関して、当業者に知られている多くの変形が可能である。粉末粒子の形状は、例えば、針状、円筒形状、板状、涙滴状、平板状、または球状であってもよい。種々の粒子形状を有する軟磁性粒子が市販されている。好ましくは、球状であり、そのような粒子は、より容易にコーティングすることができ、実際に電流に対してより効果的な絶縁をもたらす。
【0017】
軟磁性材料として、元素状金属、合金、または1種もしくは複数の元素状金属と1種もしくは複数の合金との混合物を使用してもよい。典型的な元素状金属には、Fe、Co、およびNiが含まれる。合金としては、Fe基合金、例として、Fe-Si合金、Fe-Si-Cr合金、Fe-Si-Ni-Cr合金、Fe-Al合金、Fe-N合金、Fe-Ni合金、Fe-C合金、Fe-B合金、Fe-Co合金、Fe-P合金、Fe-Ni-Co合金、Fe-Cr合金、Fe-Mn合金、Fe-Al-Si合金、およびフェライト、または希土類基合金、特に、希土類Fe基合金、例として、Nd-Fe-B合金、Sn-Fe-N合金、またはSm-Co-Fe-Cu-Zr合金、もしくはSr-フェライト、もしくはSm-Co合金を挙げてもよい。好ましい実施形態では、Fe、またはFe基合金、例として、Fe-Si-Cr、Fe-SiまたはFe-Al-Siが軟磁性材料として役立つ。
【0018】
特に好ましい実施形態では、Feは軟磁性材料として役立ち、軟磁性粉末は、カルボニル鉄粉(本明細書ではCIPとも呼ばれる)である。カルボニル鉄は、例えば、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、第5版、A14巻、599頁、またはDE3428121もしくはDE3940347に記載されているように、気相での鉄ペンタカルボニルの熱分解により、公知の方法に従って得ることができ、特に純粋な金属鉄を含む。
【0019】
カルボニル鉄粉は、二次成分の含有量が少なく、平均粒径が最大10μmの球状粒子から本質的になる灰色の金属鉄の微粉末である。これに関連して、好ましい非還元カルボニル鉄粉は、>97質量%の鉄含有量(ここでは粉末の総質量に対する)、<1.5質量%の炭素含有量、<1.5質量%の窒素含有量、および<1.5質量%の酸素含有量を有する。本発明の方法において特に好ましい還元カルボニル鉄粉は、>99.5質量%の鉄含有量(ここでは粉末の総質量に対する)、<0.1質量%の炭素含有量、<0.01質量%の窒素含有量、および<0.5質量%の酸素含有量を有する。粉末粒子の平均直径は好ましくは1~10μmであり、それらの比表面積(粉末粒子のBET)は、好ましくは0.1~2.5mm2/gである。
【0020】
一実施形態では、ケイ素系コーティングは、式(I):
Si1-0.75cMcO2-0.5cFd (I)
のフッ素含有組成物を含む。
【0021】
式(I)において、MはBまたはAl、好ましくはBである。
【0022】
式(I)のフッ素含有組成物において、添え字cは、0.01~0.5の範囲、好ましくは0.05~0.3の範囲、特に好ましくは0.085~0.2の範囲の数である。
【0023】
添え字dは、0.04~2の範囲、好ましくは0.2~1.2の範囲、特に好ましくは0.34~0.8の数である。
【0024】
好ましくは、添え字cと添え字dとは、以下の関係を有する:d=4c。
【0025】
ケイ素系コーティングは、ケイ素系コーティングの総質量に対して、好ましくは>5~45質量%、より好ましくは10~40質量%、および特に好ましくは20~35質量%の式(I)の少なくとも1種のフッ素含有組成物を含み得る。
【0026】
上記のケイ素系コーティング以外に、コーティングは、金属酸化物、例えば酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、または酸化チタン(TiO2、TiO、Ti2O3)に基づくこともできよう。このようなコーティングは、金属アルコキシドの分解によって製造することができる。金属アルコキシドは、典型的には式M2(OR’)(OR’’)…(ORn)によって与えられ、M2は、金属であり、nは、金属の原子価である。R’、R’’、Rnは、同じかまたは異なる有機残基を示す。例えば、rは、直鎖もしくは分岐鎖アルキル、または置換もしくは非置換アリールを示す。ここで、rは、C1~C8アルキル、例として、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチルもしくはtert-ブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、またはC6~C12アリール、例として、フェニル、2-、3-、もしくは4-メチルフェニル、2,4,6-トリメチルフェニル、もしくはナフチルを示す。好ましいのは、メチル、エチルおよびイソプロピルである。軟磁性粉末を金属酸化物、特にSiO2でコーティングする方法に関するさらなる詳細を、以下に記載する。
【0027】
さらに、フッ素含有組成物のフッ素成分を、SiO2マトリックス内に埋め込むことができ、および/またはSiO2コーティングの表面に結合させることができる。フッ素含有組成物のフッ素成分を、SiO2マトリックス内に、均質にまたは不均質に分布させることができる。例えば、ケイ素系コーティングは、SiO2コーティングの1層または複数層およびフッ素含有SiO2コーティングの1層または複数層を含むことができる。代替的にまたは追加的に、フッ素含有組成物のフッ素成分を、軟磁性粉末粒子を取り囲むSiO2コーティングの表面に結合させることができ、SiO2コーティングはまた、フッ素含有組成物のフッ素成分を含むことができる。
【0028】
さらなる実施形態では、ケイ素系コーティングは、2~100nm、好ましくは5~70nm、特に好ましくは10~50nmの平均厚さを有する。加えて、ケイ素系コーティングの軟磁性材料に対する比は、0.1以下、好ましくは0.02以下であり、好ましくは、軟磁性粉末は、軟磁性粉末の総質量に対して、0.1~10質量%、より好ましくは0.2~3.0質量%、特に0.3~1.8質量%のケイ素系コーティングを含む。したがって、軟磁性粉末を成形することによって得られる磁気コアの磁束密度の大幅な低下を防ぐことができる。
【0029】
軟磁性粉末をコーティングするための方法において使用される可溶性フッ素化剤は、0℃にて、エタノール中での溶解度が15質量%超、好ましくは20質量%超、特に好ましくは25質量%超のフッ素化剤である。あるいは、フッ素化剤は、20℃にて25質量%より大きい、好ましくは30質量%超、特に好ましくは35質量%超の水中での非常に高い溶解度によって示すことができる。溶液を事前に製造し、周囲温度で保存すると、溶解度がより低いフッ素化剤が溶液から沈殿しやすいことが見出された。このことは、典型的には、BF3・NH2-CH2-Phにおいて観察され、BF3・NH2-CH2-Phは、0℃にてエタノール中で約10質量%の溶解度を有することが見出された。エタノール中で十分な溶解度を有するフッ素化剤は、典型的にはイオン性フッ素化剤である。代替的にまたは追加的に、フッ素化剤が室温で液体である場合、および/または室温で液体である成分から製造し得る場合もまた、特に好ましい。
【0030】
特定の好ましい実施形態では、エタノール中の可溶性フッ素化剤の溶液は、0~10、好ましくは6~9の範囲のpHを有する。コーティングプロセス中に製造のために使用される機器(すなわち、反応器)の潜在的な腐食を考慮して、6~9、好ましくは7~9の範囲のpHが好ましい。さらに、この好ましいpH範囲によって、軟磁性粉末のコーティングのための穏やかな条件が可能になる。
【0031】
好ましくは、少なくとも1種のフッ素化剤は式(II):
[Q][MF4] (II)
(式中、
MはBまたはAlであり;
Qは、H+、Na+、K+、Rb+、Cs+、または[NR1
4]+から選択されるカチオン性基であり、ここで、R1は、-H、-C1~12-アルキル、-C2~12-アルケニル、および-C6~18-アリールからなる群から独立して選択され、それぞれが、式-OR2によって表される少なくとも1個の基で置換されてもよく、ここで、R2は、-H、-C1~12-アルキル、-C2~12-アルケニル、および-C1~18-アリールから独立して選択される)
のものである。
【0032】
本発明の好ましい実施形態では、式(II)において、MはBから選択される。
【0033】
さらに、好ましい実施形態は、H+または[NR1
4]+から選択されるカチオン性基Qを含み、R1は、上記に定義した通りである。
【0034】
一実施形態では、少なくとも1個の置換基R1は、-C1~12-アルキル、-C2~12-アルケニル、および-C6~18-アリール(すなわち、-Hを除く上記に定義した基)からなる群から選択され、それぞれが、式-OR2によって表される少なくとも1個の基で置換されてもよく、R2は、上記に定義した通りである。代替的実施形態では、少なくとも2個の置換基R1は、-C1~12-アルキル、-C2~12-アルケニル、および-C6~18-アリール(すなわち、-H以外)からなる群から選択され、それぞれが、式-OR2によって表される少なくとも1個の基で置換されてもよく、R2は、上記に定義した通りである。代替的実施形態では、少なくとも3個の置換基R1は、-C1~12-アルキル、-C2~12-アルケニル、および-C6~18-アリール(すなわち、-H以外)からなる群から選択され、それぞれが、式-OR2によって表される少なくとも1個の基で置換されてもよく、R2は、上記に定義した通りである。
【0035】
さらに好ましい実施形態では、式(II)の少なくとも1種のフッ素化剤は、HBF4、[NH4][BF4]、および[(R4-O-R3)x-NH3-x][BF4](式中、R3は、式-(CnH2n+p)-[ここで、nは、1から6までの整数であり、pは、0および-2から選択される整数である]、の基を表し、
R4は、-Hまたは-(CmH2m+q)-CH3[ここで、m=0の場合はq=0であるという条件で、mは0から6までの整数であり、qは0および-2から選択された整数である]、から選択され、
xは、1から3までの整数である)
からなる群から選択される。
【0036】
1つの好ましい実施形態では、nは1から3までの整数である。
【0037】
代替の好ましい実施形態では、pは0である。
【0038】
さらなる代替の好ましい実施形態では、mは、0~2から選択される整数である。
【0039】
さらなる代替の好ましい実施形態では、qは0である。
【0040】
一実施形態では、R3は、-(CH2)-、-(C2H4)-、-(C3H6)-、-(CH3-CH(CH3))-から選択される基を表し、好ましくは-(C2H4)-を表す。
【0041】
一実施形態では、R4は、-Hおよび-CH3から選択される基を表し、好ましくは-Hを表す。
【0042】
特定の好ましい実施形態では、式(II)の少なくとも1種のフッ素化剤は、式[(R4-O-R3)x-NH3-x][BF4](式中、R3は、式-(CnH2n+p)-[ここで、nは、1から3までの整数であり、pは0である]の基を表し;R4は-Hである)
によって表される。
【0043】
さらに特定の好ましい実施形態では、式(II)の少なくとも1種のフッ素化剤は、式[(R4-O-R3)x-NH3-x][BF4](式中、R3は、-(CH2)-、-(C2H4)-、-(C3H6)-、-(CH3-CH(CH3))-から選択される基を表し、好ましくは-(C2H4)-を表し、R4は-Hである)
によって表される。
【0044】
さらなる実施形態では、xは、1および2から選択される整数であり、特定の好ましい実施形態では、xは1を表す。
【0045】
特に好ましくは、可溶性フッ素化剤は、HBF4、[NH4][BF4]、[HOCH2-NH3][BF4]、[HOC2H4-NH3][BF4]、[HOC3H6-NH3][BF4]、[HOC4H8-NH3][BF4]、[HOC5H10-NH3][BF4]、および[HOC6H12-NH3][BF4]からなる群から選択される。特に、[HOC2H4-NH3][BF4]は、可溶性フッ素化剤として好ましくは使用される。これらのフッ素化剤は、エタノール中での溶解度、溶液中での安定性、入手しやすさおよびフッ素化剤としての性能、ならびにそれによって得られるケイ素系コーティングの性能に関して優れた性質を兼ね備えている。さらに、これらのフッ素化剤は、EP2871646A1から知られているH2SiF6などのフッ素化剤と比較して、毒性が低いことを特徴とする。
【0046】
式[(R4-O-R3)x-NH3-x][BF4]の化合物は、室温にて適切な溶媒(例えばエタノール)中において、1:0.5~1:4、好ましくは1:0.8~1:3、より好ましくは1:0.9~1:2、特に1:1~1:1.5の比率で、HBF4とR4-O-R3-NH2とを混合することによって容易に製造し得る。得られた溶液は、典型的には、室温にて安定であり、劣化や沈降なしに保存することができる。
【0047】
本発明による可溶性フッ素化剤は、特に、エタノール中での良好な溶解度を有する化合物であることを特徴とする。1つの好ましい実施形態では、可溶性フッ素化剤は、好ましくは液体化合物であるか、または液体化合物からその場で製造されるため、容易に管理できる。このようにして得られた溶液は、腐食に敏感な材料(例えば、反応器表面)とよく適合する。
【0048】
軟磁性粉末を二酸化ケイ素(SiO2)でコーティングするために、ケイ素系溶液は、好ましくは、ケイ素アルコキシドを含み、ケイ素アルコキシドを、1または複数の工程でケイ素系溶液に加える。好適なケイ素アルコキシドは、例えば、テトラメチルオルトシリケート(TMOS)、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、テトラプロピルオルトシリケート、およびテトライソプロピルオルトシリケート、またはそれらの混合物である。このようなケイ素アルコキシドは、水もヒドロキシ基も含まない可溶性形態のケイ素をもたらす。したがって、制御された加水分解ケイ素生成物が達成可能である。ケイ素アルコキシドとして、TEOSが好ましい。また、好適なのは、2個または3個のO-Rn基(式中、Rnは、上記のような残基である)、およびそれぞれ直接シランに結合する2個または1個のX1基(ここで、X1は、H、メチル、エチル、C3~C18、またはプロピルアミンなどの残基である)を有するシラン、または、(3-グリシジルオキシプロピル)トリエトキシシランなどのさらに複雑な例、ならびにそれらの混合物であって、上述のシリコンアルコキシドのいずれかとさらに混合することができるもの、である。
【0049】
軟磁性粉末をケイ素系溶液と混合することが好ましく、軟磁性粉末をケイ素系溶液により少なくとも部分的に処理した後、可溶性フッ素化剤を加える。例えば、可溶性フッ素化剤を、ケイ素系溶液による処理中、および/またはケイ素系溶液による処理の直後に加える。ここで、ケイ素系溶液による処理の直後とは、ケイ素系溶液での処理の最後の工程のすぐ後に続く工程を指す。ケイ素系溶液による処理の最後の工程は、典型的には、蒸留する工程およびコーティング軟磁性粉末を乾燥させる工程を含む、またはそれからなり、このようにして乾燥コーティング軟磁性粉末をもたらす。ケイ素系溶液による処理の直後の工程において、フッ素化剤を含む溶媒をコーティング軟磁性粉末に加え、本明細書で明記されたフッ素含有組成物のうちの1種を含むケイ素系コーティングでコーティングされた軟磁性粉末をもたらす。
【0050】
原理的に、溶液は、軟磁性粉末を金属酸化物でコーティングするために、他の金属にも基づいて、対応する金属アルコキシドを含むことができよう。例えば、溶液は、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)または酸化チタン(TiO2、TiO、Ti2O3)コーティングを製造するために、チタン、マグネシウム(Mg)またはアルミニウムに基づくことができよう。さらに、溶液は、混合コーティングを達成するために、Si、Al、MgまたはTiなどの金属の混合物に基づいて、対応する金属アルコキシドの混合物を含むことができよう。好ましくは、金属アルコキシドの分解は、加水分解によって行われる。加水分解のために、金属系溶液は、不活性懸濁剤、水、および場合により触媒をさらに含む。
【0051】
軟磁性粉末、金属系溶液、および任意にフッ素化剤を含む反応混合物は、1または複数の工程において段階的に、または徐々に製造することができる。好ましくは、反応混合物は、段階的に製造される。これに関連して、段階的とは、加水分解中の1または複数の工程において、反応混合物の少なくとも1種の成分を加えることを指し、段階的添加はまた、示された時間範囲にわたる、ある速度での添加を含み得る。したがって、成分を、1工程において一度に加えることができる。あるいは、成分を少なくとも2工程で規則または不規則間隔で加えることができる。徐々にとは、成分を、加水分解中に一定の速度で、または規則的間隔で、例えば、毎分または毎秒加えることを意味する。好ましくは、金属アルコキシドおよび/またはフッ素化剤は、段階的に加える。
【0052】
第1のプロセス工程において、軟磁性粉末は、水および/または有機溶媒などの不活性懸濁剤と混合することができる。好適な有機溶媒は、プロトン性溶媒、好ましくは、1価もしくは2価アルコール、例として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、グリコール、ジエチレングリコール、もしくはトリエチレングリコール、または非プロトン性溶媒、好ましくは、ケトン、例として、アセトン、ジケトン、エーテル、例えば、グリコール、ジエチレングリコールもしくはトリエチレングリコールのジエチルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジメチルエーテル、または窒素系溶媒、例として、ピリジン、ピペリジン、n-メチルピロリジン、もしくはアミノエタノールである。好ましくは、有機溶媒は、水と混和し得る。懸濁剤は、有機溶媒または水と混合した有機溶媒でもよい。好ましい有機溶媒は、アセトン、イソプロパノールおよびエタノールである。特に好ましくは、エタノールである。金属系溶液中の不活性懸濁剤の含有量は、最大で70質量%に及ぶ可能性がある。好ましくは、不活性懸濁剤の含有量は、10~50質量%の間にある。
【0053】
軟磁性粉末と懸濁剤の混合物は、混和性溶液が得られるように選択される。体積および時間あたりの収量を増加させるためには、固形分率が高いことが好ましい。最適な固形分率は、定型的に行われる実験を通して容易に得られ、これにより反応混合物にとって最適なその分率を見出すことができる。さらに、機械式撹拌機またはポンプ/ノズル装置を使用して、固形分率を増加させることができる。
【0054】
第2のプロセス工程において、金属アルコキシドを混合物に加えることができる。金属アルコキシドは、それ自体で反応混合物に加えるか、または有機溶媒中に溶解することができる。有機溶媒が用いられる場合、有機溶媒は、10~90質量%、好ましくは50~80質量%の金属アルコキシドを含む。金属アルコキシドを、段階的にまたは徐々に加えることができる。金属アルコキシドを2工程以上、好ましくは2工程で段階的に加えることが好ましい。例えば、加水分解に必要な金属アルコキシドの総量の最大90%、最大50%または最大20%を、最初に反応混合物に加え、プロセスの後段階で残りの量を加える。
【0055】
金属系溶液に加えられる金属アルコキシドの総量は、コーティングの所望の厚さに依存する。粒径分布に応じて、粒子のプロファイル(針状または球状)および比表面積全体に加えられた粉末粒子の量を、容易に測定することができる。あるいは、BET法などの公知の方法を使用して、比表面積を測定することができる。コーティングの所望の厚さおよび金属酸化物の密度から、金属酸化物の必要量を計算することができる。次に、金属アルコキシドの必要総量を、反応の化学量論によって決定することができる。
【0056】
金属アルコキシドを加えた後に、第3の工程において、水を反応混合物に加えるとすぐに、加水分解が自動的に起こる。好ましくは、水の総量は、金属アルコキシドの加水分解に必要な化学量論量の少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも5倍に相当する。一般に、水の総量は、必要な化学量論量の100倍以下、好ましくは20倍以下である。第3の工程では、水の量の一部が加えられ、これは、第2のプロセス工程において反応混合物に加えられた一部の金属アルコキシドに相当する。
【0057】
加水分解をさらに加速するために、アルカリ性または酸性触媒などの触媒を反応混合物に加えることができる。加えられる触媒の量はまた、第2のプロセス工程において反応混合物に加えられた一部の金属アルコキシドに調整することができる。好適な酸性触媒は、例えば、希鉱酸、例として、硫酸、塩酸、硝酸であり、好適なアルカリ性触媒は、例えば、希アルカリ液、例として、苛性ソーダである。希アンモニア水溶液を使用して、触媒および水を1工程で同時に加えるのが好ましい。
【0058】
触媒の金属アルコキシドに対する、特にアンモニアのケイ素アルコキシドに対する好ましいモル比は、1:1~1:2、好ましくは1:1.1~1:1.8である。この比率により、良好な性質を有するコーティングの形成が可能になる。
【0059】
第4のプロセス工程において、金属アルコキシド、好ましくはケイ素アルコキシドの分解を、製造された反応混合物を熱的に加熱することによってさらに促進させることができる。反応混合物は、沸点直下の温度にまたは反応混合物が還流する温度まで加熱することができる。エタノールの場合には、例えば、温度は80℃未満、例えば、約60℃に保たれる。反応混合物を、数時間、例えば、3時間、還流下にて高温で保つことができる。典型的には、反応混合物を、機械式撹拌機によって分散させる。さらに、分散剤、例として、アニオン性もしくはイオン性界面活性剤、アクリル樹脂、顔料分散剤、または高級アルコール、例として、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、もしくはドデカノールを、反応混合物に加えることができる。
【0060】
金属アルコキシドを2以上の工程で段階的に加える場合、反応混合物を高温に保ちながら、金属アルコキシド、水、および触媒の残りの一部ずつを1または複数の工程において加えることができる。金属アルコキシドの2工程添加が好ましく、反応混合物を高温に保ちながら、金属アルコキシド、水、および触媒の残りの一部ずつを1工程において加える。
【0061】
加水分解後、反応混合物を、第5および第6のプロセス工程において蒸留し乾燥させる。加水分解が終了する時点は、還流中の水分含有量の減少を検出することによって検出することができる。水含有量が十分に低い場合には、混合物を蒸留し、乾燥させて、SiO2でコーティングされた軟磁性粉末を残すことができる。これに関連して、水含有量のレベルは、定型的な実験によって容易に測定することができる。
【0062】
方法の一実施形態では、可溶性フッ素化剤を、ケイ素系溶液による処理中に加える。したがって、可溶性フッ素化剤を、ケイ素系溶液による処理が完了する前に、すなわち、反応混合物を蒸留し、乾燥させる前に加える。
【0063】
さらなる実施形態では、軟磁性粉末の総量に対して1.0×10-2~5.5×10-2mol%のフッ素化剤を、ケイ素系溶液に加える。好ましくは、1.5×10-2~3.5×10-2mol%のフッ素化剤、特に1.7×10-2~2.7×10-2mol%のフッ素化剤を使用する。
【0064】
さらなる実施形態では、軟磁性粉末1kgあたり0.1~10mmolのフッ素化剤を、ケイ素系溶液に加える。好ましくは、軟磁性粉末1kgあたり1~7mmolのフッ素化剤、特に3~5mmolのフッ素化剤を使用する。
【0065】
さらなる実施形態では、ケイ素系溶液中のSiの総量に対して0.25~5mol%のフッ素化剤を、ケイ素系溶液に加える。好ましくは、1~4.5mol%のフッ素化剤、特に1.5~3.5mol%のフッ素化剤を使用する。
【0066】
フッ素化剤は、固体としてまたは溶液で加えることができる。好ましくは、フッ素化剤の溶液は、約5~30質量%、特に10~20質量%の濃度を有する。典型的には、溶媒は、水、エタノール、または前述の不活性懸濁剤である。特定の好ましい実施形態では、溶液は、少なくとも1種のフッ素化剤および少なくともエタノールを含む。
【0067】
さらなる好ましい実施形態では、ケイ素アルコキシドの一部のみをフッ素化剤と一緒に加える。例えば、鉄粉上に1~2質量%のSiO2を形成するために必要な100%のケイ素アルコキシドのうちの25%、50%、または75%を、フッ素化剤と一緒に加える。
【0068】
可溶性フッ素化剤中の加えられたフッ素原子の、加えられたケイ素アルコキシド中のケイ素に対する好ましいモル比(モル比F:Si)は、1:3~1:18、好ましくは1:5~1:15、および特に、1:8~1:13であり、モル比は、コーティング全体にわたる比率を指す。モル比F:Siは、例えば、1:9.1でもよい。この比率によって、コーティングは、コーティングの厚さによる高い透磁率および良好な温度安定性をもたらすように適合することができる。
【0069】
さらに、可溶性フッ素化剤を、ケイ素系溶液による処理中に1または複数の工程において段階的に加えることができる。好ましくは、可溶性フッ素化剤を1工程で加える。可溶性フッ素化剤を加える時点は、第2のプロセス工程の後、すなわち金属アルコキシドを添加した後、ならびに第5のプロセス工程の前、すなわち蒸留および乾燥の前のどこかで選択することができる。好ましくは、反応混合物を高温に保ちながら、可溶性フッ素化剤を加える。特に好ましくは、反応混合物を高温に保ちながら、金属アルコキシドの残りの一部を加える前に、可溶性フッ素化剤を加える。したがって、可溶性フッ素化剤は、加水分解のための反応剤、例えば、金属アルコキシドのうちの少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、特に好ましくは少なくとも70%を加えた後に、加えることができる。
【0070】
上記の方法は、好ましい実施形態である。しかし、プロセス工程の順序は異なる可能性がある。金属アルコキシドを、例えば、軟磁性粉末、不活性懸濁剤、水および触媒を含む反応混合物に、同時に加えることができ、または水および金属アルコキシドを同時に加えることができる。しかし、そのような実施形態では、金属アルコキシドを2以上の工程で段階的に加えることが好ましく、可溶性フッ素化剤は、上記のように一度に加える。
【0071】
代替的または追加的に、可溶性フッ素化剤を、ケイ素系溶液による処理の直後に加える。可溶性フッ素化剤を、ケイ素系溶液による処理の直後に加える場合、軟磁性粉末を、可溶性フッ素剤を含むかまたは含まないケイ素系溶液によって処理する。コーティング軟磁性粉末は、アルコキシドコーティングプロセスに続くプロセス工程で、エタノールなどの溶媒および可溶性フッ素化剤と混合することができる。
【0072】
上記のプロセスに従ってコーティングされた軟磁性粉末および明記されたコーティング軟磁性粉末は、EP2871646A1で開示された従来技術の材料と比較して、変化していないかまたはさらに改善された温度安定性と組み合わせて改善された透磁率を有することを特徴とする。
【0073】
上記のプロセスに従ってコーティングされた軟磁性粉末および上記のコーティング軟磁性粉末は、電子部品の製造に特に好適である。磁気コアなどの電子部品は、例えば、コーティング軟磁性粉末をプレス成形または射出成形することによって得ることができる。そのような電子部品を製造するために、コーティング軟磁性粉末は、1種または複数種の樹脂、例として、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、シリコン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ノルボルネン樹脂、スチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、シリコン樹脂、ポリシロキサン樹脂、フルオロ樹脂、ポリブタジエン樹脂、ビニルエーテル樹脂、ポリビニルクロリド樹脂、またはビニルエステル樹脂に、典型的に組み込まれる。これらの成分を混合する方法は、限定されず、混合工程は、ミキサー、例えば、リボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、もしくはスーパーミキサー、または混練機、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、パドルミキサー、遊星ミキサー、または単軸もしくは2軸押出機によって行ってもよい。
【0074】
成形品を製造するために、軟磁性粉末を1種または複数種の樹脂と混合して、成形用粉末、またはプレス加工可能な粉末をもたらすことができる。成形用粉末の場合、コーティング軟磁性粉末と樹脂との混合物を、樹脂、好ましくは熱可塑性樹脂の融点で加熱および溶融し、次に、所望の形状の磁気コアなどの電子部品に形成することができる。好ましくは、混合物を金型内で圧縮して、磁性または着磁性成形品を与える。圧縮により、高強度および良好な温度安定性を有する成形品が製造される。
【0075】
成形品を製造するための別の方法は、樹脂でコーティングされたコーティング軟磁性粉末を含む、プレス加工可能な粉末をさらに含む。このようなプレス加工可能な粉末は、加熱しながら、または加熱しないで最大1000MPa、好ましくは最大500MPaの圧力にて金型内でプレス加工することができる。圧縮後、成形品を放置して硬化させる。軟磁性粉末を樹脂によりコーティングする方法は、例えば、溶媒中で樹脂、例えばエポキシ樹脂を溶解する工程、混合物に軟磁性粉末を加える工程、混合物から溶媒を除去して乾燥生成物を与える工程、および乾燥生成物を粉砕して粉末を与える工程、を含む。プレス加工可能な粉末を使用して、磁性または着磁性成形物を製造する。
【0076】
粉末射出成形により、複雑な金属部品を費用対効果が高く、効率的に製造することができる。粉末射出成形は、典型的には、軟磁性粉末を接着剤としてのポリマーと一緒に所望の形状に成形する工程を含み、次に接着剤を除去し、粉末を焼結段階で圧縮して固体金属部品にする。これは、球状の鉄粒子を非常に密に詰めることができるため、カルボニル鉄粉において特に良好に作用する。
【0077】
上記のプロセスに従って処理された、または上記のようなフッ素含有組成物を含むケイ素系コーティングを含む軟磁性粉末は、電子部品に使用してもよい。特にこの種の成形品は、電気工学において使用されるコイルコアまたは巻型として使用することができる。コイルは、対応するコイルコア、または巻型とともに、例えば、電磁石として、また発電機、変圧器、インダクタ、ラップトップコンピュータ、ネットブック、携帯電話、電気自動車、ACインバータ、自動車産業における電子部品、玩具、および磁場集中器において使用される。電子部品は、特に、電気的、電気機械的、および磁気的デバイス、例として、電磁石、変圧器、電気モーター、インダクタ、および磁気アセンブリにおいて使用されるような磁気コア部品である。コーティング軟磁性粉末のさらなる使用は、無線周波数識別(RFID)タグ、および電磁波を反射し、または電磁波を遮蔽する要素を製造することを含む。自動で物体の位置を特定し、または物体を識別するための米粒サイズのラベルであるRFIDタグの製造において、RFID構造をプリントするときに軟磁性粉末を使用してもよい。最後に、軟磁性粉末から製造された電子部品を、電子デバイスを保護するために使用してもよい。そのような用途において、放射線の交流磁場により、粉末粒子が連続的に再配列する。結果として生じる摩擦により、粉末粒子は電磁波のエネルギーを熱に変換する。
【実施例】
【0078】
金属粉末のコーティング-一般手順A(遊星ミキサーを使用した製造)
加熱可能な遊星ミキサーには、例えばBASFから入手可能な、100gあたり99.5gの鉄含有量である純度、および4.5~5μmの間の平均粒径d50を有する2700kgのカルボニル鉄粉を加える。ミキサーに冷却管を装着し、アルゴンでフラッシングして不活性雰囲気を得る。撹拌しながら、480gのエタノールを加える。続いて、TEOSの総量のうちの75質量%を加える(各実験で使用したTEOSの総量を、以下の表1~6に示す)。次に、NH3濃度が5質量%のNH3水溶液の総量のうちの80質量%を加える(各実験で使用したNH3水溶液の総量を、以下の表1~6に示す)。ここで、撹拌しながら温度を60℃に上昇させる。この温度で約2時間撹拌した後、フッ素化剤を、濃度が約10~15質量%のエタノール溶液の形態で反応混合物に加える。残りの25質量%のTEOSおよび残りの20質量%のNH3溶液を、約1時間にわたって加えながら、温度を維持する。混合物を、さらに45分間撹拌する。冷却管を外し、生成物をさらに1時間撹拌する。その時間中に、不活性ガス流を600l/hに増加させ、すでに一部の溶媒が除去されている。1時間後、温度を90℃に上昇させ、生成物を、増加した不活性ガス流下で、乾燥するまで撹拌する。コーティングカルボニル鉄粉を、灰色の粉末として得る。
【0079】
金属粉末のコーティング-一般手順B(フラスコでの製造)
ホモジナイザー(Polytron(登録商標)から入手可能なロータ/ステータホモジナイザー)および冷却管を装着したフラスコに、355gのエタノールを加え、アルゴンでフラッシングして不活性雰囲気を得る。ホモジナイザーを、2000rpmに設定する。撹拌しながら、例えばBASFから入手可能な、100gあたり99.5gの鉄含有量である純度、および4.5~5μmの間の平均粒径d50を有する500gのカルボニル鉄粉を加える。ホモジナイザーの速度を、6000rpmに上げる。続いて、TEOSの総量のうちの68質量%を加える(各実験で使用したTEOSの総量を、以下の表7に示す)。次に、NH3濃度が2.5質量%のNH3水溶液の総量の100質量%を加える(各実験で使用したNH3水溶液の総量を、以下の表7に示す)。ここで、撹拌しながら、温度を20分間で45℃に、次に20分間で55℃に、最後に20分間で65℃上昇させる。この温度でさらに約1時間撹拌した後、フッ素化剤を、濃度が約10~15質量%のエタノール溶液の形態で反応混合物に加える。残りの32質量%のTEOSを素早く加えながら、温度を維持する。混合物を、さらに1時間撹拌する。生成物を、溶媒が除去されるまで、600l/hの不活性ガス流下および遊星ミキサー内で47rpmにて95℃で約3時間撹拌する。乾燥コーティングカルボニル鉄粉を、灰色の粉末として得る。
【0080】
エポキシ樹脂との混合
100gのコーティングカルボニル鉄粉(CIP)を、エポキシ樹脂、例えば、Momentiveから入手可能なEpikote(商標)1004と混合し、混合は、2.8gのエポキシ樹脂を15~20mLの溶媒(メチルエチルケトンまたはアセトン)中に溶解し、硬化剤として0.14gのジシアンジアミド、例えば、Alzchemから入手可能なDyhard(登録商標)100SHを加えることによって行った。ガラスビーカー内で、コーティングCIPを、1000R/分でディゾルバー式ミキサーを使用して、エポキシ配合物と一緒に撹拌する。混合した後、スラリーをアルミニウムプレートに注ぎ、次に、ドラフト内に8時間置く。得られた乾燥CIPエポキシプレートをナイフミルで10秒間粉砕して、プレス加工可能な粉末を得る。この粉末には、2.8質量%のエポキシ樹脂が含まれる。
【0081】
成形、およびリングコアの配線
6.8g(±0.1g)のプレス加工可能な粉末を、外径が20.1mm、内径が12.5mmであり、結果として高さがおよそ5~6mmになるリング型の鋼金型内に入れる。プレス加工可能な粉末を、数秒間、440MPaで成形する。そのリングの正確な質量および高さから、リングコアの密度を計算する。透磁率、および抵抗率を測定するために、リングコアを、絶縁した0.85mmの銅線、例えば、Isodrahtから入手可能なMultogan 2000MH62)を20回巻いて配線した。
【0082】
透磁率および抵抗率の測定
LRCメータを使用して、リングコアの透磁率を測定した。すべての測定を、0VのDCバイアスによって100kHzで行った。10mAの試験AC電流を、リングコアに印加した。
【0083】
プレス加工部品の抵抗率を測定するために、電源を、電圧計と試料に直列に接続した。マルチメータに298ボルトを印加し、試料を直列に接続した。マルチメータの電圧読み取り値を使用して、以下の等式を使用して試料の抵抗を推定した。
【0084】
Rsample=Rmeter×(VPS-Vmeter)/Vmeter
(式中、Rsampleは、シリンダーの抵抗であり、Rmeterは、メータの内部抵抗であり、VPSは、電源からの印加電圧(=298V)であり、Vmeterは、電圧計からの読み取り値である)。
【0085】
温度安定性
温度安定性試験が開始できる前に、樹脂を硬化させる。これを、70℃に設定したオーブンにリングコアを入れることによって行う。2時間後、リングコアを、155°Cに設定した第2のオーブンに入れる。2時間後、リングコアを、抵抗率試験のために取り出す。
【0086】
次に、リングコアを、ある時間量の間180°Cに設定したオーブンに再び入れる。24時間後の温度安定性を、例えば、180℃で温度処理をしたさらに24時間後に測定する。測定電圧が180°Cで24時間後に約0V、および180°Cで48時間後に≦30V、好ましくは≦25V、および特に≦20Vである場合に、リングコアを、温度安定性があると分類する。さらに好ましい実施形態では、180℃で120時間後、測定電圧は、好ましくは≦70V、より好ましくは≦30V、特に≦10Vである。
【0087】
試験結果
上記のように圧縮した試料を温度処理した後に、透磁率および抵抗率を測定した。その結果を表1~7に示す。腐食試験を、表8にまとめる。
【0088】
表1に、実施例E-1~E-3、および比較例C-1およびC-2をまとめる。実施例および比較例により、他の点では同一の条件下でさまざまなフッ素化剤を使用したコーティングカルボニル鉄粉(CIP)の比較ができる。結果からわかるように、すべての化合物は、示された時間の経過後、透磁率および耐熱性に関して良好~優秀な性質を呈する。
【0089】
表2に示された実施例E-4~E-8によって実証されるように、本発明によるフッ素化剤によって、抵抗率において優秀な結果を達成するために使用される量をかなり削減することが可能になる。HBF4を使用する場合、EP2871646A1で典型的に使用された量であるCIP1kgあたり9.6mmolのフッ素化剤から始めて、熱安定性に悪影響を与えることなく、フッ素化剤の量を約30%削減して6.70mmol/kgにすることができる。実際、この削減により、48時間後の抵抗率がわずかに改善される。
【0090】
表3は、製品の性質に影響を与える可能性のあるTEOS、アンモニア、およびフッ素化剤のさまざまな比率によるさまざまな反応条件を実証する。見てわかるように、アンモニアのTEOSに対するモル比が1:1.1~1:1.8の範囲内にある場合、抵抗率および透磁率に関して、特に良好な性質が達成される。
【0091】
表4の実施例E-16~E-19は、[NH3EtOH][BF4]を使用する場合、BF3・NH2-CH2-Phと比較して(比較例CE-4を参照)、フッ素化剤の量が大幅に削減される可能性があることを実証する。
【0092】
表5は、[NH3EtOH][BF4]をフッ素化剤として使用すると、BF3・NH2-CH2-Phと比較して、SiO2およびフッ素化剤の使用量をさらに削減できることを示す。特に、[NH3EtOH][BF4]を使用する場合、BF3・NH2-CH2-Phと比較して、製品の性質を大幅に低下させることなく、フッ素化剤の量を約65mol%削減することができ、TEOSの量を10mol%削減することができ、NH3溶液の量を20質量%削減することができる。
【0093】
表6は、実施例の対であるCE-6/E25、CE-7/E26、CE-8/E-7、およびCE-9/E8において、フッ素原子の量をほぼ一定に保ちながら、フッ素化剤としての[NH3EtOH][BF4]と、公知のフッ素化剤BF3・NH2-CH2-Phのさまざまな組合せでの使用を、SiO2およびNH3溶液の量に関して比較する。これらの実施例および比較例からわかるように、BF3・NH2-CH2-Phを使用した比較例では、典型的には、製造したリングコアを高温にさらした後、電圧がより高くなる(つまり、抵抗率がより高くなる)。他方、BF3・NH2-CH2-Phを使用した試験片は、多くの場合、低い透磁率を呈する。対照的に、[NH3EtOH][BF4]を使用する本発明による実施例は、高温にさらされた後、比較的高い透磁率と低い抵抗率(すなわち、測定された電圧)の独自の組合せを呈する。例えば、約17(+/-0.05)の透磁率を呈する実施例(すなわち、実施例E-26、CE-8およびCE-9)を比較することにより、本発明によれば、同様の透磁率が達成されるが、一方、抵抗率は、180℃で48時間後には明らかにより低くなる(E-26の場合は15V、CE-8の場合は143V、CE-9の場合は105V)ことは明らかである。
【0094】
表7は、どちらも180℃に120時間さらされた2つの実施例E-29およびE-30の試験結果を示す。どちらの実施例も、透磁率ならびに抵抗率に関して優秀な結果を示している。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
腐食試験
さまざまなステンレス鋼材料の腐食を、ステンレス鋼材料(DIN EN 10027-2:1.4541、1.4571、1.4462、1.0425に従う試験材料を含む)の試料(寸法:50×20×2mm)を、T=60℃で4x7日間、それぞれの添加液(additive solution)にさらすことによって試験し、溶液を、毎週未使用の溶液に交換する。試験は、装備されたPTFE容器中で実施した。試験結果を、表8にまとめる。
【0103】
【0104】
見てわかるように、HBF4の溶液は、使用された溶媒に応じて、ステンレス鋼材料の腐食をほとんど引き起こさない~強く引き起こす。対照的に、BF3・NH2-CH2-Ph(エタノール中15質量%)および[NH3EtOH][BF4](エタノール中15質量%)は、実質的に腐食を示さないか、またはほとんど腐食を示さない。したがって、製品純度の観点から、軟磁性粉末をコーティングする方法において、HBF4と比較して、NH3EtOH][BF4]およびBF3・NH2-CH2-Phが好ましい。しかし、HBF4は、低濃度で使用することができる(つまり、エタノール中3質量%)。
【0105】
上記のことから、本発明の利点は以下のようにまとめることができる。式(I)の組成物を含む少なくとも1種のフッ素含有組成物を含むコーティングで、軟磁性粉末をコーティングする方法において式(II)によるフッ素化剤を使用することにより、公知のフッ素化剤と比較して、同等の抵抗率でより高い透磁率を有するコーティング軟磁性粉末を得ることができる。他方で、同等の透磁率でより高い抵抗率も達成することができる。さらに、本発明によるフッ素化剤は、溶液中でより安定であり、溶液から沈殿する傾向が少なく(すなわち、より高い溶解度を有する)、材料適合性の改善(特に腐食に関して)および管理容易性の向上を示す。