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特許7455974付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物、及び剥離紙並びに剥離フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物、及び剥離紙並びに剥離フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20240318BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20240318BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
D21H27/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022530515
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2021021153
(87)【国際公開番号】W WO2021251255
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2020102033
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】井原 俊明
(72)【発明者】
【氏名】木村 恒雄
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-118453(JP,A)
【文献】特開2018-188583(JP,A)
【文献】国際公開第2019/084397(WO,A1)
【文献】特開2005-343974(JP,A)
【文献】特開平09-077979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(C)成分を含有する、付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物
(A)ケイ素原子結合アルケニル基を1分子中に2個以上有し、且つ(メタ)アクリル基を平均して0.01~2.9個有し、重量平均分子量3,000~30万を有するオルガノポリシロキサン
(B)ケイ素原子結合水素原子(Si-H基)を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(A)成分中のアルケニル基の個数に対する、該(B)成分中のSi-H基の個数の比が1~5となる量、及び
(C)白金族金属系触媒:前記組成物の総質量に対する白金族金属含有量が1~100質量ppmとなる量。
【請求項2】
さらに(D)反応制御剤を前記(A)成分100質量部に対して0.01~5質量部含有する、請求項1記載の付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が前記(メタ)アクリル基を側鎖に有する、請求項1又は2記載の付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
前記(C)成分の量が、組成物の総質量に対する白金族金属含有量が5~40質量ppmとなる量である、請求項1~のいずれか1項記載の付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
剥離紙又は剥離フィルム用である、請求項1~のいずれか1項記載の付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項記載の付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化物からなる皮膜を有する剥離紙。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項記載の付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化物からなる皮膜を有する剥離フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少ない白金触媒量で硬化を行うことができる付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物に関する。より詳細には、剥離紙及び剥離フィルム用の硬化皮膜を与える付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙やプラスチック等のシート状基材と粘着材料との接着、固着を防止するために、基材表面にオルガノポリシロキサン組成物の硬化皮膜を形成して剥離特性を付与している。基材面にオルガノポリシロキサン硬化皮膜を形成する方法として、下記特許文献1~3に記載の方法が知られている。
(1)白金系化合物を触媒として、アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを付加反応させて剥離性皮膜を形成する方法(特許文献1:特開昭47-32072号公報)
(2)有機金属塩を触媒として、水酸基やアルコキシ基といった官能基を有するオルガノポリシロキサンを縮合反応させて剥離性皮膜を形成する方法(特許文献2:特公昭35-13709号公報)
(3)紫外線や電子線を用いて、アクリル基を含有するオルガノポリシロキサンと光反応開始剤とをラジカル重合させて剥離性皮膜を形成する方法(特許文献3:特開昭54-162787号公報)
上記の中でも(1)特許文献1に記載されるような白金系触媒は硬化性に優れ、低速剥離から高速剥離でのさまざまな剥離特性の要求に対して対応可能である。そのため白金触媒は、付加反応による剥離性皮膜形成方法に広く用いられている。
【0003】
従来、剥離紙又は剥離フィルム用のオルガノポリシロキサン組成物に含まれる白金族金属系触媒の量は、白金族金属濃度として60~400質量ppmである場合が多い。白金濃度が上記下限値未満であると、硬化反応が十分に進まず硬化皮膜が柔らかくなる。また、残存するSi-H基量が多くなり剥離力が高くなる。更には、未反応の原料オルガノポリシロキサンが存在して移行成分となるため、剥離紙に貼り合わせる粘着剤面にオルガノポリシロキサンが移行し、粘着力の低下を起こす恐れがある。
【0004】
さらに白金族金属は希少な貴金属であるため価格が高く、剥離紙又は剥離フィルム製造の原価の中に占める白金触媒の割合は大きい。このため白金族金属系触媒を減らすことが低価格化につながる。加えて、基材の中には窒素化合物、イオウ化合物、リン化合物等の白金族金属系触媒の触媒毒となる成分を含むものもあり、触媒毒成分が白金族金属と結合することにより付加反応による硬化が進まなくなることがある。
【0005】
従って、少ない白金量で剥離性皮膜を形成する方法が要求されている。例えば特許文献4及び5には以下の組成物が記載されている。
(4)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子当たりに少なくとも2個有するポリオルガノシロキサンと、末端と側鎖にSiH基を有する水素化オルガノシロキサンと、粘着性調節系としてMDViQレジン及びヒドロシリル化抑制剤とを含むシリコーン組成物(前記において、MはRSiO1/2であり、DViはRPSiO2/2であり、QはSiO4/2であり、Rはそれぞれ独立に脂肪族不飽和結合を有さない炭素原子数1~12の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、Pは-(CH-CH=CH(nは0~6の整数)で表されるアルケニル基である)(特許文献4:特許4221300号公報)
(5)アルケニル官能化ポリシロキサン、シリコンヒドリド官能化ポリシロキサン、及び白金族金属を含み、アルケニル官能化ポリシロキサンがホスファゼン塩基触媒を使用して作られたものである、解離コーティング組成物。(特許文献5:特表2009-513740号公報)
しかし上記特許文献4及び5に記載の組成物は、以下の通り硬化が不十分である。
【0006】
例えば、特許文献4記載の組成物は、反応性の良い末端SiH基と、皮膜形成性MDViQレジンとを使うことが特徴であり、実施例では60ppmの白金濃度で、組成物を150℃、1.8秒加熱することにより硬化しているが、60ppm以下の白金量で硬化する方法は記載されていない。また、白金濃度60ppmで硬化した硬化皮膜における抽出分(未反応シロキサンの量)は5.8~6.5%と多く、未硬化のシロキサンが多く存在しており、硬化は十分ではない。また、特許文献4は、剥離特性に関する記載はない。
【0007】
特許文献5に記載の組成物は、アルケニル官能化ポリシロキサンがMDQ単位を有する分岐シロキサンであることを特徴とする。末端ビニル基を有する分岐鎖により架橋皮膜を作る確率を高めていると記載している。特許文献5記載の実施例では、テトラジメチルビニルシロキシシランをホスファゼン触媒で反応させてアルケニル基含有分岐シロキサンを合成し、次いで、シリコンヒドリド官能化ポリシロキサンと白金触媒を、白金濃度40ppmとなる量で配合して、100℃15秒及び115℃20秒の条件にて、組成物を硬化させている。特許文献5は、該組成物の硬化状態について、硬化物をメチルイソブチルケトンで抽出して評価している。抽出された未反応シロキサンの割合は6.4~25.2%といずれも多く、硬化は十分ではない。また、剥離特性等、他の評価は行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭47-32072号公報
【文献】特公昭35-13709号公報
【文献】特開昭54-162787号公報
【文献】特許4221300号公報
【文献】特表2009-513740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
硬化が十分進行した皮膜では、一般に、未反応シロキサンの抽出量は少なくとも5%以下、好ましくは3%以下であるのが好ましい。上記特許文献4及び5記載のように、硬化皮膜に未反応シロキサンが5%以上存在すると、糊の表面にシロキサンが移行し、残留接着率が大幅に低下する。また、残存SiH基が多く残るため、十分硬化した場合に比べて剥離力が高くなる。従って、少ない白金触媒量にて硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物が要求されるが、白金濃度60質量ppm以下で十分な硬化皮膜を得られる付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物は未だ知られていない。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、少ない白金族金属系触媒量であっても十分に硬化して良好な密着性を発揮し、従来と同等の剥離力を有する硬化皮膜を形成することができ、且つ、触媒毒成分を含む基材においても付加反応硬化が十分に進行し、シリコーンゴムや剥離紙又は剥離フィルム用の剥離皮膜を提供するのに適する付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討し、付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物において、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンが、ケイ素原子結合アルケニル基を1分子中に2個以上有し、且つ(メタ)アクリル基を平均して0.01~2.9個有することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を成すに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は、下記(A)~(C)成分を含有する、付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物を提供する。
(A)ケイ素原子結合アルケニル基を1分子中に2個以上有し、且つ(メタ)アクリル基を平均して0.01~2.9個有する、オルガノポリシロキサン
(B)ケイ素原子結合水素原子(Si-H基)を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(A)成分中のアルケニル基の個数に対する、該(B)成分中のSi-H基の個数の比が1~5となる量、及び
(C)白金族金属系触媒:前記組成物の総質量に対する白金族金属含有量が1~100質量ppmとなる量。
【発明の効果】
【0013】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、白金族金属系触媒量が少ないが十分に硬化し、従来の付加型組成物と同等の剥離力を有する硬化皮膜を形成することができる。本発明のオルガノポリシロキサン組成物は従来硬化が困難であった条件においても硬化が可能であり、白金族金属触媒量が少ないため製造原価を大幅に安くすることができる。また、触媒毒を含有する基材に対しても付加反応による硬化が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
[(A)成分]
(A)成分は、1分子中に2個以上、好ましくは2~50個のケイ素原子結合アルケニル基を有し、(メタ)アクリル基を平均して0.01~2.9個、好ましくは0.03~2.7個、より好ましくは0.05~2.5個有することを特徴とする。該オルガノポリシロキサンは従来公知のものであってよく、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせてもよい。アルケニル基含有オルガノポリシロキサンが(メタ)アクリル基を上記範囲内で有することにより、少ない触媒量であっても良好に硬化することができる。(A)成分は例えば、下記平均式(1)で表すことができる。
【化1】
(1)
式(1)において、Rは、互いに独立に、脂肪族不飽和結合を有さない炭素原子数1~12の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、Pは-(CH-CH=CH(nは0又は0~6の正数)で表されるアルケニル基であり、AはCH=CRCOR-で表される(メタ)アクリル基含有基であり、Rは水素原子もしくはメチル基であり、RはORもしくはRである2価の基であり、Rは炭素原子数1~20の2価有機基であり、分岐や環状構造を有していてもよく、エポキシ基、エステル結合、ウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート結合、又は水酸基を含んでいても良い。a、b、c、e、h、i及びfは、互いに独立に0又は正の数である。b、e、及びnは同時に0になることはなく、2≦b+e+h≦300である。dは50~4,000の正数であり、gは0又は0~50の正数であり、jは0又は0~50の正数であり、c、f、及びiが同時に0になることはなく、0.01≦c+f+i≦2.9である。好ましくは0.03≦c+f+i≦2.7、より好ましくは0.05≦c+f+i≦2.5である。
【0015】
上記式(1)において、Rは互いに独立に、脂肪族不飽和結合を有さない炭素原子数1~12の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、好ましくは炭素原子数1~10であり、より好ましくは炭素原子数1~8である。より詳細には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;これらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部をハロゲン原子、エポキシ基、アミノ基、ポリエーテル基、シアノ基、水酸基等で置換したものが挙げられる。これらの中でも、硬化性、得られる硬化物の剥離力を低くする観点から、Rの総数の80モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0016】
Pは-(CH-CH=CH(nは0~6の整数)で表されるアルケニル基である。例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、プロペニル基、5-ヘキセニル基、オクテニル基、及びデセニル基等が挙げられ、中でもビニル基が好ましい。
【0017】
AはCH=CRCOR-で表される(メタ)アクリル基含有基である。Rは水素原子もしくはメチル基であり、水素原子が好ましい。RはORもしくはRで示される2価の基であり、Rは炭素原子数1~20の2価有機基であり、分岐や環状構造を有していてもよく、エポキシ基、エステル結合、ウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート結合、及び水酸基を含んでいてもよい。Rとして、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、及びデシレン基等の、直鎖状のアルキレン基、メチルエチレン基、メチルプロピレン基等の分岐状アルキレン基、シクロヘキシレン基等の環状アルキレン基、プロペニレン基等のアルケニレン基、フェニレン基等のアリーレン基、メチレンフェニレン基、及びメチレンフェニレンメチレン基等のアラルキレン基等の2価炭化水素基が例示される。該2価炭化水素基に、エステル結合、ウレタン結合、エーテル結合、及びイソシアネート結合を介在していてもよく、これらを組み合わせて用いることもできる。更に、これらの2価炭化水素基の水素原子の一部又は全部がエポキシ基や水酸基で置換されていてもよい。これらの中でもRとしては、プロピレン基が好ましい。
【0018】
式(1)におけるa、b、c、e、及びhは、互いに独立に、0又は正の数である。b、e、hが同時に0になることはなく、2≦b+e+h≦300であり、2≦b+e+h≦10が好ましく、さらに好ましい範囲は2≦b+e+h≦4である。aは0又は1~4の正数であることが好ましい。特には、アルケニル基はM単位またはD単位のケイ素原子に結合しているのが好ましく、bは1~6の正数であることが好ましく、a+bは2~10の正数であることが好ましい。eは0又は1~10の正数であることが好ましく、hは0又は1~5の正数であることが好ましい。
【0019】
式(1)におけるc、f、及びiは、互いに独立に0又は正の数である。c、f、及びiが同時に0になることはなく、好ましい範囲は0.01≦c+f+i≦2.9である。好ましくは0.03≦c+f+i≦2.7、より好ましくは0.05≦c+f+i≦2.5である。特には(メタ)アクリル基はD単位のケイ素原子に結合しているのが好ましく、c及びiは0であることが好ましく、fは0.01~2.9の正の数であることが好ましい。
【0020】
式(1)において、RSiO2/2単位の数を示すdは、50~4,000の正数であり、好ましくは60~1,000の正数であり、さらに好ましくは70~300の正数である。dが上記下限値未満の場合、塗工速度が200m/min以上になるとミスト発生量が増大し、オルガノポリシロキサン組成物の塗工表面が荒れるおそれがある。またdが上記上限値を超えると、オルガノポリシロキサン組成物の動粘度が高くなりすぎて、塗工性が低下するため平滑性が悪くなり、場所により塗工量の差が大きくなるおそれがある。
【0021】
式(1)においてRSiO3/2単位の数を示すgは0又は0~50の正数であり、0又は0~10の正数が好ましく、0又は0~5の正数がより好ましい。SiO4/2単位の数を示すjは0又は0~50の正数であり、0又は0~10の正数が好ましく、0又は0~5の正数がより好ましい。
【0022】
(A)成分は、ビニル価0.0001~0.7mol/100gを有することが好ましく、より好ましくは0.005~0.5mol/100gであり、さらに好ましくは0.01~0.3mol/100gである。ビニル価が上記下限値未満であると、反応点が少なくなりすぎて硬化不良が起こる場合がある。ビニル価が上記上限値を超えると、架橋密度が高くなりすぎて低速剥離力が高くなりすぎ、剥がれにくくなる場合がある。
【0023】
(A)成分は重量平均分子量3,000~30万を有することが好ましく、好ましくは5,000~10万であり、さらに好ましくは7,000~3万であり、特に好ましくは9,000~2万であるのがよい。(A)成分の重量平均分子量が上記下限値未満であると、基材への塗工量が不十分になる場合がある。また、上記上限値を超えると、作業性が低下する場合がある。なお、本発明において、重量平均分子量は、例えば29Si-NMR測定(測定溶媒:重クロロホルム)や、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)分析(溶媒:トルエン)によるポリスチレン換算の重量平均分子量により測定できる(以下、同様)。
【0024】
(A)成分は、回転粘度計により測定した25℃における粘度10mPa・s以上を有し、且つ30質量%トルエン溶解粘度(オルガノポリシロキサンをトルエン中に30質量%溶解した溶液の粘度)70,000mPa・s以下を有することが好ましく、50mPa・s以上30質量%トルエン溶解粘度60,000mPa・s以下を有することがより好ましい。粘度が10mPa・s未満の場合、塗工量が不十分になるおそれがある。また30質量%トルエン溶解粘度70,000mPa・sを超える場合は、作業性が低下するおそれがある。
【0025】
本発明の(A)オルガノポリシロキサンにおいて、アルケニル基及び(メタ)アクリル基の結合箇所は分子鎖末端及び側鎖のいずれであってもよいが、(メタ)アクリル基は側鎖にあるのが好ましく、特にはD単位のケイ素原子に直接もしくは炭化水素を介して結合しているのがよい。特には(メタ)アクリル基は側鎖のみにあるのが好ましい。アルケニル基は、M単位またはD単位のケイ素原子に結合しているのが好ましい。該(A)成分としては、例えば、両末端アルケニル基及び側鎖(メタ)アクリル基含有シロキサン、側鎖アルケニル基及び側鎖(メタ)アクリル基含有シロキサン、片末端及び側鎖アルケニル基及び側鎖(メタ)アクリル基含有シロキサン、両末端及び側鎖アルケニル基及び側鎖(メタ)アクリル基含有シロキサン、及び分岐型末端アルケニル基及び側鎖(メタ)アクリル基含有シロキサンを挙げることができる。
【0026】
より詳細には下記構造のシロキサンが挙げられる。
Vi
Vi
Vi
Vi
Vi Vi
Vi Vi
Vi 、及び
Vi 等。
さらに詳細には、下記構造のシロキサンが挙げられる。
Vi 100 0.01
Vi 150 0.05
Vi 200 0.1
Vi 300 2.5
Vi 200 0.1、及び
Vi 200 0.5等。
上記において、MはRSiO1/2であり、MViはRPSiO1/2であり、DはRSiO2/2であり、DViはRPSiO2/2であり、DはRASiO2/2であり、TはRSiO3/2であり、QはSiO4/2である。R、A及びPは上述した通りである。
【0027】
[(B)成分]
(B)成分は、1分子中に2個以上のケイ素原子結合水素原子(Si-H基)を有し、(メタ)アクリル基を有さないオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンのSi-H基と、(A)成分のアルケニル基とが付加反応することにより、オルガノポリシロキサン架橋物が形成される。
【0028】
(B)成分はケイ素原子結合水素原子(Si-H基)を1分子中に3~100個有することが好ましく、10~100個有することがより好ましい。また、Si-H基含有量は、0.001~3.5mol/100gが好ましく、0.01~2.5mol/100gがより好ましく、0.02~2.0mol/100gがさらに好ましい。Si-H基含有量が少なすぎると、組成物の硬化性や密着性が悪くなる恐れがある。多すぎると剥離力が重くなる場合がある。
【0029】
(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、好ましくは下記式(2)で表される。
【化2】
(2)
式(2)中、R’は、互いに独立に脂肪族不飽和結合を有さない炭素原子数1~12の非置換又は置換の一価炭化水素基である。m、n、o、及びqは、互いに独立に0又は正の数であり、pは0~100の正数であり、rは0~10の正数であり、sは0~10の正数であり、n、p、rが同時に0になることはなく、2≦n+p+r≦100である。
【0030】
上記式(2)において、R’は互いに独立に、脂肪族不飽和結合を有さない炭素原子数1~12の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、炭素原子数1~10のものが好ましく、炭素原子数1~8のものがより好ましい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、及びドデシル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;これらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部をハロゲン原子、エポキシ基、アミノ基、ポリエーテル基、シアノ基、水酸基等で置換したものが挙げられる。中でも、硬化性、得られる硬化物の剥離力を低くする観点より、R’の総数の80モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0031】
式(2)においてm、n、o、及びqは、互いに独立に0又は正の数であり、mは0又は1~10の正数であることが好ましく、nは0又は1~10の正数であることが好ましく、m+nは2~12の正数であることが好ましい。oは0又は1~100の正数であることが好ましく、qは0又は1~10の正数であることが好ましい。また、pは0~100の正数であり、2~100の正数が好ましく、10~80の正数がより好ましい。rは0~10の正数、好ましくは0又は1~5の正数であり、sは0~10の正数、好ましくは0又は1~5の正数である。また、n、p、rは同時に0になることはなく、n+p+rは3~100の正数であり、10~80の正数であることが好ましい。
【0032】
(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、例えば、両末端ハイドロジェンシリル基含有シロキサン、側鎖ハイドロジェンシリル基含有シロキサン、片末端及び側鎖ハイドロジェンシリル基含有シロキサン、両末端及び側鎖ハイドロジェンシリル基含有シロキサン等を挙げることができる。
【0033】
より詳細には下記構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。
、M



、及び
等。
さらに詳細には、下記構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。
10
100
80
27
97
26
25
24
96
95
100
100
97 1、
95
93
30、 60等。
上記各式において、MはR’SiO1/2であり、MはR’HSiO1/2であり、DはR’SiO2/2であり、DはR’HSiO2/2であり、TはR’SiO3/2であり、TはHSiO3/2である。R’は上記の通りである。
【0034】
(B)成分は重量平均分子量194~10,000を有することが好ましく、より好ましくは874~5,000を有するのがよい。重量平均分子量が上記下限値未満では組成物の密着性が大幅に悪化する場合がある。重量平均分子量が上記上限値超えであると反応性が悪くなり硬化性が低下し、残留接着率の低下や硬化不足による剥離力の上昇が見られる恐れがある。
【0035】
(B)成分のオストワルド型粘度計により測定した25℃における動粘度は、2~500mm/sが好ましく、2~300mm/sがより好ましく、5~200mm/sがさらに好ましい。25℃における動粘度が2mm/s未満であると、分子量が小さいため反応性は良いが、基材との密着性が悪化する場合がある。また、500mm/sを超えると、反応性が悪くなりキュアー性が低下し、残留接着率の低下やキュアー不足による剥離力の上昇が見られる場合がある。
【0036】
(B)成分の配合量は、(A)成分中のアルケニル基の個数に対する(B)成分中のSi-H基の個数の比が1~5であり、好ましくは1.2~3に相当する量が好ましい。(B)成分が少なすぎると、組成物の硬化性と密着性が不十分となる。多すぎると残存するSi-H基量が増えるため、剥離力が高くなり、経時でSi-H基が減少するため、経時で剥離力が大きく変化する。
【0037】
[(C)成分]
(C)白金族金属系触媒は、付加反応触媒として用いられる公知のものが使用できる。該白金族金属系触媒としては、例えば、白金系、パラジウム系、ロジウム系、及びルテニウム系等の触媒が挙げられる。中でも特に白金系触媒が好ましい。白金系触媒としては、例えば、白金シリカ・アルミナ、白金アルミナ・ハロゲン、白金ロジウム等の白金系化合物、白金とビニルシロキサン等との錯体、塩化白金酸のアルコール溶液又はアルデヒド溶液、塩化白金酸と各種オレフィン類との錯塩、塩化白金酸とビニルシロキサン等との錯体等が挙げられる。
【0038】
(C)成分の配合量は、触媒量であり、剥離紙又は剥離フィルム用の硬化皮膜を与えるための白金族金属濃度は、通常、オルガノポリシロキサン組成物中60~500質量ppmである。これに対し、本発明における白金族金属系触媒の配合量は、組成物の全質量に対し、白金族金属質量換算で1~100質量ppmである。好ましくは、3~60質量ppm、さらに好ましくは5~40質量ppm、最も好ましくは10~30質量ppmである。本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、このように白金族金属触媒量が少なくても十分に硬化し、良好な物性を有する硬化皮膜を与えることができる。触媒量が上記下限値未満では付加反応は進行せず、反応しない官能基が多く残るため十分な硬化皮膜が形成されない。また上記上限値超では、水分や制御剤と反応したり、可使時間が短くなり作業中に硬化する場合がある。
【0039】
[(D)成分]
本発明のオルガノポリシロキサン組成物は必要に応じて(D)付加反応制御剤を含有してもよい。付加反応制御剤は、白金族金属系触媒の触媒活性を制御するものであり、従来公知のものであってよい。例えば、有機窒素化合物、有機リン化合物、アセチレン系化合物、オキシム化合物、及び有機クロロ化合物等が挙げられる。より詳細には、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、2-フェニル-3-ブチン-2-オール等のアセチレン系アルコール、3-メチル-3-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等のアセチレン系化合物、1,1-ジメチルプロピニルオキシトリメチルシラン等のアセチレン系化合物とアルコキシシランもしくはシロキサン又はハイドロジェンシランとの反応物、テトラメチルビニルシロキサン環状体等のビニルシロキサン、ベンゾトリアゾール等の有機窒素化合物及びその他の有機リン化合物、オキシム化合物、マレイン酸ジアリルなどのマレイン酸化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。
【0040】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.01~5質量部が好ましく、0.1~3質量部がより好ましい。当該範囲で配合することにより付加硬化反応を良好に制御することができる。配合する場合、少なすぎると可使時間が短くなり作業中に硬化が起こるおそれ、多すぎると付加反応が進行しないため硬化皮膜が形成されないおそれがある。
【0041】
[その他の成分]
本発明のオルガノポリシロキサン組成物には、上記(A)~(D)成分以外に、従来の剥離紙又は剥離フィルム用付加反応硬化型組成物に配合するその他の成分を、本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。例えば、有機溶剤、及び、滑り性を与える目的で(A)~(C)成分以外の高分子量直鎖型オルガノポリシロキサン、剥離力を調節する目的で(A)~(C)成分以外のアリール基を有するシリコーン樹脂、シリコーンレジン、シリカ等が挙げられる。
【0042】
有機溶剤としては、トルエン、ヘキサン、キシレン、メチルエチルケトン(別名:2-ブタノン)等のオルガノポリシロキサンに可溶な有機溶剤(シロキサン溶剤を含まない)や、オクタメチルテトラシロキサン、デカメチルペンタシロキサン等の低粘度の環状シロキサン、M(M、Dは上記式(1)と同じ。tは0~200、好ましくは1~50の数である。)等の直鎖シロキサン、M2+u(M、D、Tは上記式(1)と同じ。tは0~200、好ましくは1~50であり、uは1~10、好ましくは1~3である。)等の分岐鎖シロキサン等のオルガノポリシロキサン(シロキサン溶剤)を用いるのが好ましい。
【0043】
有機溶剤の量は、(A)成分と(B)成分の合計質量の3~50倍であることが好ましく、8~30倍であることがより好ましい。
【0044】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、上記(A)~(C)成分及び必要に応じて(D)成分や任意成分のそれぞれの所定量を混合することによって得られる。得られたオルガノポリシロキサン組成物は、オストワルド型粘度計により測定される25℃における動粘度10~2000mm/sを有することが好ましく、より好ましくは15~1000mm/sを有する。
【0045】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、各種基材上に塗工し、硬化することにより剥離紙及び剥離フィルムなどを提供する。例えば、紙、プラスチックフィルム等のシート状基材に塗工ロール(3本ロール、5本ロール、グラビアロール、オフセットグラビアロール等)により塗布した後、常法によって加熱硬化することにより、シート状基材の片面にシリコーン硬化皮膜が形成され、剥離紙及び剥離シート等が得られる。
【0046】
紙基材としては、例えば、グラシン紙、ポリエチレンラミネート紙、ポリビニルアルコール樹脂コート紙、クレーコート紙等が挙げられる。プラスチックフィルム基材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル等のフィルムが挙げられる。
【0047】
基材へのオルガノポリシロキサン組成物の塗布量は、シート状基材表面にシリコーン硬化皮膜を形成するのに十分な量であればよく、例えば0.1~5.0g/m程度である。多すぎる量の塗布は逆に剥離性能の低下を招く場合がある。加熱硬化条件は、基材の種類や塗工量によって異なるが、80~200℃、好ましくは100~180℃で、1~60秒間、好ましくは2~30秒間加熱することにより、基材上に硬化皮膜を形成させることができる。
【実施例
【0048】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、下記に挙げる重量平均分子量は29Si-NMR(測定溶媒:重クロロホルム)により求め、粘度は25℃において回転粘度計を用いて測定した値(mPa・s)であり、動粘度はいずれも25℃においてオストワルド型粘度計を用いて測定した値(mm/s)である。
【0049】
実施例及び比較例で用いた各成分は以下の通りである。
(A)成分
下記において、MはRSiO1/2であり、MViはRPSiO1/2であり、DはRSiO2/2であり、DViはRPSiO2/2であり、DはRASiO2/2であり、TはRSiO3/2である。Rはメチル基であり、Pはビニル基である。

1)下記平均式で表される、一分子中にビニル基を2個有し、アクリル基を平均0.05個有するメチルポリシロキサン(1)
Vi 150 0.05
式中AはCH=CHCO(CH-であり、ビニル価は0.0177mol/100gであり、粘度は413mPa・sである。重量平均分子量は11294.6である。
2)下記平均式で表される、一分子中にビニル基を2個有し、アクリル基を平均0.1個有するメチルポリシロキサン(2)
Vi 150 0.1
式中AはCH=CHCO(CH-であり、ビニル価は0.0177mol/100gであり、粘度は415mPa・sである。重量平均分子量は11303.2である。
3)下記平均式で表される、一分子中にビニル基を2個有し、アクリル基を平均2.5個有するメチルポリシロキサン(3)
Vi 220 2.5
式中AはCH=CHCO(CH-であり、ビニル価は0.0118mol/100gであり、粘度は1082mPa・sである。重量平均分子量は16896である。
4)下記平均式で表される、一分子中にビニル基を2個有し、アクリル基を平均1個有するメチルポリシロキサン(4)
Vi 150
式中AはCH=CHCO(CH-であり、ビニル価は0.0258mol/100gであり、粘度は258mPa・sである。重量平均分子量は11618である。
5)下記平均式で表される、ビニル基を側鎖に2個有し、アクリル基を平均0.1個有するメチルポリシロキサン(5)
Vi 148 0.1
式中AはCH=CHCO(CH-であり、ビニル価は0.0174mol/100gであり、粘度は418mPa・sである。重量平均分子量は11303.2である。
6)下記平均式で表される、一分子中にビニル基を2個有し、メタアクリル基を平均0.1個有するメチルポリシロキサン(6)
Vi 150A’ 0.1
式中A’はCH=C(CH)CO(CH-であり、ビニル価は0.0177mol/100gであり、粘度は416mPa・sである。重量平均分子量は11304.6である。
【0050】
(B)成分
下記平均式で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン(7)
100
上記においてMはR’SiO1/2であり、DはR’HSiO2/2である。R’はメチル基であり、分子鎖両末端にトリメチルシロキシ基を有する。Si-H基含有量は1.62mol/100gであり、動粘度は35mm/sである。重量平均分子量は6162である。
【0051】
その他の添加成分(比較例)
1)下記平均式で表される、両末端にビニル基を有し、(メタ)アクリル基を有さないメチルポリシロキサン(8)
Vi 150
式中MViはRPSiO1/2であり、DはRSiO2/2であり、Rはメチル基であり、PはCH=CH-であり、ビニル価は0.0177mol/100gであり、粘度は405mPa・sである。重量平均分子量は11286である。
2)下記平均式で表される、一分子中にビニル基を2個有し、アクリル基を平均10個有するメチルポリシロキサン(9)
Vi 150 10
式中MViはRPSiO1/2であり、DはRSiO2/2であり、DはRASiO2/2であり、Rはメチル基であり、AはCH=CHCO(CH-であり、PはCH=CH-であり、ビニル価は0.0154mol/100gであり、粘度は427mPa・sである。重量平均分子量は13006である。
3)下記平均式で表される、両末端アクリル基を有するメチルポリシロキサン(10)

式中MはRASiO1/2であり、DはRSiO2/2であり、Rはメチル基であり、AはCH=CHCO(CH-であり、粘度が7mPa・sである。重量平均分子量728である。
【0052】
[実施例1]
下記表1に記載の配合にて各成分を混合して付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物を調製した。
すなわち(A)上記メチルポリシロキサン(1)100質量部、(B)上記メチルハイドロジェンポリシロキサン(7)1.97質量部、及び(D)1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.3質量部を加え、均一になるまで攪拌した後、(C)白金とビニルシロキサンとの錯体を、組成物の全質量に対して白金原子質量換算で20質量ppmとなる量で加え、均一になるまで攪拌した。得られた生成物は、動粘度393mm/sを有するオルガノポリシロキサン組成物であった。H/Vi((A)成分中のアルケニル基の個数に対する(B)成分中のSi-H基の個数比(以下、同様。))は1.8であった。
【0053】
[実施例2]
下記表1に記載の通り(A)成分として上記メチルポリシロキサン(2)100質量部を用いた他は実施例1を繰り返して、動粘度395mm/sを有し、H/Vi=1.8であるオルガノポリシロキサン組成物を得た。
【0054】
[実施例3]
下記表1に記載の通り(A)成分として上記メチルポリシロキサン(3)100質量部を用い、(B)成分として上記メチルハイドロジェンポリシロキサン(7)を1.97質量部用いた他は、実施例1を繰り返して、動粘度1035mm/sを有し、H/Vi=1.8であるオルガノポリシロキサン組成物を得た。
【0055】
[実施例4]
下記表1に記載の通り(A)成分として上記メチルポリシロキサン(4)100質量部を用い、(B)成分として上記メチルハイドロジェンポリシロキサン(7)を2.87質量部用いた他は、実施例1を繰り返して、動粘度244mm/sを有し、H/Vi=1.8であるオルガノポリシロキサン組成物を得た。
【0056】
[実施例5]
下記表1に記載の通り(A)成分として上記メチルポリシロキサン(5)を100質量部用い、(B)成分として上記メチルハイドロジェンポリシロキサン(7)を1.639質量部用いた他は、実施例1を繰り返して、動粘度398mm/sを有し、H/Vi=1.8であるオルガノポリシロキサン組成物を得た。
【0057】
[実施例6]
下記表1に記載の通り(A)成分として上記メチルポリシロキサン(3)を50質量部と上記メチルポリシロキサン(8)を50質量部用い、(B)成分として上記メチルハイドロジェンポリシロキサン(7)を1.51質量部用いた他は実施例1を繰り返して、動粘度646mm/sを有し、H/Vi=1.8であるオルガノポリシロキサン組成物を調製した。
【0058】
[実施例7]
下記表1に記載の通り(A)成分として上記メチルポリシロキサン(6)を100質量部用いた他は、実施例1を繰り返して、動粘度396mm/sを有し、H/Vi=1.8であるオルガノポリシロキサン組成物を調製した。
【0059】
[実施例8]
下記表に記載の通り(C)白金とビニルシロキサンとの錯体を組成物の全質量に対して白金原子質量換算で15質量ppm用いた他は、実施例1を繰り返して動粘度395mm/sを有し、H/Vi=1.8であるオルガノポリシロキサン組成物を得た。
【0060】
[比較例1]
下記表1に記載の通り、上記(A)成分に替えて、上記両末端ビニル基含有メチルポリシロキサン(8)を100質量部用いた他は実施例1を繰り返して、動粘度386mm/sを有し、H/Vi=1.8であるオルガノポリシロキサン組成物を得た。
【0061】
[比較例2]
下記表2に記載の通り、上記(A)成分に替えて、両末端ビニル基側鎖アクリル基含有メチルポリシロキサン(9)を100質量部用い、上記(B)メチルハイドロジェンポリシロキサン(7)の量を1.71質量部とした他は、実施例1を繰り返して、動粘度408mm/sを有し、H/Vi=1.8であるオルガノポリシロキサン組成物を得た。
【0062】
[比較例3]
下記表2に記載の通り、上記比較例1の組成にさらに、両末端にアクリル基を有するオルガノポリシロキサンM (10)を1質量部加えた他は比較例1を繰り返して、動粘度388mm/sを有し、H/Vi=1.8であるオルガノポリシロキサン組成物を得た。
【0063】
[比較例4]
下記表2に記載の通り、上記比較例1の組成にさらにアクリル酸(11)1質量部を加えた他は比較例1を繰り返して、動粘度393mm/sを有し、H/Vi=1.8であるオルガノポリシロキサン組成物を得た。
【0064】
[参考例1]
下記表2に記載の通り、比較例1と同じく両末端ビニル基含有メチルポリシロキサン(8)100質量部、(B)メチルハイドロジェンポリシロキサン(7)1.97質量部(H/Vi=1.8)、(D)成分として1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.3質量部を加え、均一になるまで攪拌した後、(C)白金とビニルシロキサンとの錯体を、組成物の全質量に対して白金原子質量換算で100質量ppmになるように加え、均一になるまで攪拌した。
得られた生成物は、動粘度387mm/sを有するオルガノポリシロキサン組成物であった。
【0065】
上記で得られた各オルガノポリシロキサン組成物について、下記に示す各評価を行った。結果を表1~4に示す。
【0066】
〔剥離力〕
オルガノポリシロキサン組成物をRIテスター(株式会社IHI機械システム社製)の金属ロール上に塗布し、2本のロールを45秒間回転させ、均一に引き延ばした。その後、ゴムロールからグラシン紙ASP(Ahlstrom-munksjo社製、触媒毒含有)へ組成物を転写した。組成物を転写したグラシン紙を、120℃の熱風式乾燥機中で30秒間加熱して、厚さ0.9~1.1g/mの硬化皮膜を有する剥離紙を得た。この状態で、25℃で24時間エージング後、この剥離紙の硬化皮膜表面(ゴムロールからの転写面側)に、TESA-7475テープ(tesa UK Ltd)を貼り合わせ、2.5cm×18cmの大きさに切断した。これをガラス板に挟み、25℃で70g/cmの荷重下、及び70℃で20g/cmの荷重下、室温で24時間エージングした。エージング後、該試験片の一端を剥がし、テープの基材端部をグラシン紙に対して180度の角度の方向に剥離速度0.3m/minで引っ張った。その際、テープを剥離するのに要する力(即ち、「剥離力」)(N/25mm)を、引張試験機(株式会社島津製作所AGS-50G型)を用いて測定した。
【0067】
〔残留接着率〕
上記剥離力測定後のTESA-7475テープをポリエステルフィルムに貼り合わせ、2kgローラーを1回往復させて荷重を加えた。30分放置後、TESA-7475テープの一端を剥がし、その端部をポリエステルフィルムに対して180度の角度の方向に引っ張った。テープを剥離速度0.3m/minで剥がした際に要する力(以下「剥離力A」という、N/25mm)を測定した。
ブランクとして、ポリエステルフィルムに未使用のTESA-7475テープを貼り、上記と同様に2kgのローラーを1回往復させて荷重を加えた。30分放置後、TESA-7475テープの一端を剥がし、その端部をポリエステルフィルムに対して180度の角度の方向に引っ張った。テープを剥離速度0.3m/minで剥がした際に要する力(以下「剥離力B」という、N/25mm)を測定した。
残留接着率(%)を(剥離力Aの値)/(剥離力Bの値)×100により求めた。
【0068】
〔硬化性〕
各オルガノポリシロキサン組成物をテスターの金属ロール上に塗布した。金属ロールとゴムロールからなる2本のロールを45秒間接触回転させ、均一にオルガノポリシロキサン組成物を引き延ばした後、ゴムロールから韓国製グラシン紙へ組成物を転写した。オルガノポリシロキサン組成物を転写したポリエチレンラミネート紙を120℃の熱風式乾燥機中で30秒間加熱して、厚さ0.9~1.1g/mの硬化皮膜を有する剥離紙を得た。乾燥機から該剥離紙を取り出して、直ちに硬化皮膜面を人差し指で10回強く擦り、赤マジックインキを塗布して、インキの濃さや硬化皮膜状態を観察した。
結果を以下の指標に基づき評価し、表2~4に示した。
・指痕が濃く見える場合は「×」
・指痕が薄く見える場合は「△」
・指痕がほとんど見られない場合は「○」
【0069】
剥離力測定の場合と同様にしてグラシン紙表面に形成されたオルガノポリシロキサン組成物の硬化皮膜の表面に、厚さ36μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを重ね、室温で0.98MPaの加圧下で20時間圧着した後、ポリエチレンテレフタレートフィルムを硬化皮膜から外した。該ポリエチレンテレフタレートフィルムの硬化皮膜と接していた表面に、油性のインキ(商品名:マジックインキ、寺西化学工業株式会社製)を塗り、そのハジキ具合により、シリコーン移行性を評価した。
結果を以下の指標に基づき評価し、表2~4に示した。
インキのハジキなし(シリコーン移行性なし又はかなり少ない)は「○」
インキのハジキあり(シリコーンの移行性が多い)は「×」
【0070】
[密着性]
前述の硬化性の評価方法と同じ方法でグラシン紙にオルガノポリシロキサン組成物を転写し120℃の熱風式乾燥機中で30秒間加熱して剥離紙を得た。この剥離紙を60℃90%RHの恒温恒湿機中に1日保存後、硬化性と同様の方法で、硬化皮膜面を人差し指で10回強く擦り、赤マジックインキを塗布して、インキの濃さや硬化皮膜状態を観察した。
結果を以下の指標に基づき評価し、表2~4に示した。
・指痕が濃く見える場合は「×」
・指痕が薄く見える場合は「△」
・指痕がほとんど見られない場合は「○」
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
上記表1に示す通り参考例1は、従来の付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物であり(C)触媒の白金濃度が100質量ppmと多い。該組成物は、硬化反応が十分に進むため、硬化性、シリコーン移行性及び密着性は良好であり、剥離力が低く、残留接着率は高く、良好な剥離特性を有する。
比較例1は、該参考例1の組成において(C)触媒の白金濃度を20質量ppmにした組成である。この場合、120℃×30秒の加熱処理にてオルガノポリシロキサン組成物は硬化せず、オイル状となった。すなわち、硬化が不十分であった。また、25℃にて1日セパエージングした後でも、硬化が不十分であり塗工面を擦ると指痕がはっきり付いた。さらに移行量が多いため、硬化性及びシリコーン移行性に劣った。
【0074】
また表2に示す通り、比較例3及び4は、比較例1の組成物に、両末端にアクリル基を有するシロキサン(10)又はアクリル酸を1質量部配合した組成物である。該組成物は、アクリル基含有シロキサン又はアクリル酸を含有するが、硬化性及び密着性に劣り、シリコーン移行性は比較例1と同等に劣る。また、剥離力は参考例1に比べて高く、残留接着率も低い。比較例2は、両末端にビニル基を有し、側鎖アクリル基有するメチルポリシロキサン(9)を100質量部配合した組成物である。該シロキサンはアクリル基を1分子中に平均10個有する。該組成物は、ビニル基及びアクリル基含有シロキサンを含有しているが、硬化性及び密着性に劣り、シリコーン移行性は比較例1と同等に劣る。また、剥離力は参考例1に比べて高く、残留接着率も低い。
【0075】
これに対し、表1に示す通り、実施例1~8は、両末端にビニル基を有し、側鎖にアクリル基を特定量有するメチルポリシロキサンを含むオルガノポリシロキサン組成物である。これら実施例1~8は、(A)成分として、特定量のアクリル基又はメタアクリル基を有するビニル基含有オルガノポリシロキサンにより、(C)触媒の白金濃度が少ないにも関わらず、十分に硬化した。従って、硬化皮膜の塗工面を擦っても指痕はほとんどつかず、シリコーン移行量も少ない。また剥離力と残留接着率は、参考例1と同等である。従って、本願の(A)成分を含有することにより、組成物の硬化性が高まり、少ない白金濃度で付加反応を進行させることができた。
【0076】
特に実施例3で用いたメチルポリシロキサン(3)はD単位の数が220であり、アクリル基を有するシロキサン単位を2.5個含有する。また、実施例5で用いたメチルポリシロキサン(5)は、分子量はメチルポリシロキサン(2)と同じであり、側鎖にビニル基を2つ有する。このようなメチルポリシロキサンを含む組成であっても硬化性及び密着性は良好であった。また、実施例6の組成物は、アクリル基及びビニル基を有するメチルポリシロキサン(3)とアクリル基を有さずビニル基を有するメチルポリシロキサン(8)を併用した組成である。該組成物においても、硬化性は良好であり、シリコーン移行量も少ない。また、剥離力及び残留接着率は参考例1と同等であった。従って、従来のビニル基含有オルガノポリシロキサンを含有する組成であっても、本願の(A)成分を含むことにより、少ない白金触媒にて十分に付加反応が促進する。
【0077】
すなわち、本発明の(A)成分を配合することにより、(C)白金族金属系触媒が100質量ppm未満という低い白金濃度であっても、組成物は十分に硬化することができ、100質量ppmで硬化させた場合と同等の剥離特性を得ることができる。
【0078】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、白金族金属系触媒量が少ないが十分に硬化し、従来の付加型組成物と同等の剥離力を有する硬化皮膜を形成することができ剥離紙及び剥離フィルム用の硬化皮膜を与える組成物として好適である。本発明のオルガノポリシロキサン組成物は従来硬化が困難であった条件においても硬化が可能であり、白金族金属触媒量が少ないため製造原価を大幅に安くすることができる。また、触媒毒を含有する基材に対しても付加反応による硬化が可能となる。