(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】環状化合物の分離または精製方法、環状化合物の製造方法、分離材、および分離器具
(51)【国際特許分類】
B01J 20/28 20060101AFI20240319BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20240319BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B01J20/28 Z
B01J20/22 Z
B01D15/00 K
(21)【出願番号】P 2020035291
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2023-03-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(72)【発明者】
【氏名】細野 暢彦
(72)【発明者】
【氏名】植村 卓史
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-136105(JP,A)
【文献】特公昭47-005749(JP,B1)
【文献】特表2019-515787(JP,A)
【文献】特開2013-107826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
B01D 15/00-15/42
C08G 65/00-67/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状化合物および線状化合物を含む混合物から前記環状化合物を分離または精製する分離または精製方法であって、
前記混合物を多孔性チャネル材料に接触させる
ことを含み、
前記多孔性チャネル材料が、遷移金属イオンおよび前記遷移金属に連結する有機架橋配位子を有する多孔性金属錯体、共有結合性有機構造体、または有機ケージ化合物である、分離または精製方法。
【請求項2】
前記線状化合物の最大太さに対する前記多孔性チャネル材料の細孔径の比が、0.5以上2.0以下である、請求項1に記載の分離または精製方法。
【請求項3】
前記環状化合物および前記線状化合物がそれぞれ高分子化合物である、請求項1
または2に記載の分離または精製方法。
【請求項4】
前記環状化合物が、一般式(1)で表されるポリマー化合物であり、
【化1】
一般式(1)中、X
1はポリマー主鎖を表し、
前記線状化合物が、一般式(2)で表されるポリマー化合物であり、
【化2】
一般式(2)中、X
2はポリマー主鎖を表し、Y
1およびY
2は互い同一または互いに異なっていてもよい末端基を表し、
X
1およびX
2が同一である、請求項1ないし
3のいずれか一項に記載の分離または精製方法。
【請求項5】
X
1およびX
2が、それぞれ繰り返し単位からなる、請求項
4に記載の分離または精製方法。
【請求項6】
環状化合物の製造方法であって、
線状化合物を環状化して、環状化合物および前記線状化合物を含む混合物を得る工程と、
請求項1ないし
5のいずれか一項に記載の分離または精製方法によって前記混合物から前記環状化合物を分離または精製する工程と
を備える、環状化合物の製造方法。
【請求項7】
環状化合物および線状化合物を含む混合物から前記環状化合物を分離する分離材であって、
前記分離材が、多孔性チャネル材料からな
り、
前記多孔性チャネル材料が、遷移金属イオンおよび前記遷移金属に連結する有機架橋配位子を有する多孔性金属錯体、共有結合性有機構造体、または有機ケージ化合物である、分離材。
【請求項8】
前記線状化合物の最大太さに対する前記多孔性チャネル材料の細孔径の比が、0.5以上2.0以下である、請求項
7に記載の分離材。
【請求項9】
前記環状化合物および前記線状化合物がそれぞれ高分子化合物である、請求項
7または8に記載の分離材。
【請求項10】
前記環状化合物および前記線状化合物がそれぞれ繰り返し単位を含み、前記環状化合物の前記繰返し単位と前記線状化合物の前記繰り返し単位が同一である、請求項
7ないし
9のいずれか一項に記載の分離材。
【請求項11】
環状化合物および線状化合物を含む混合物から前記環状化合物を分離する分離器具であって、
導入口および排出口を有する筐体と、
前記筐体内に充填された請求項
7ないし
10のいずれか一項に記載の分離材と
を備える、分離器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状化合物の分離または精製方法、環状化合物の製造方法、分離材、および分離器具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、線状化合物とは異なる特異的性質を示すことにより様々な用途に適用可能であることから、環状化合物が注目されている。化合物の形状は、化合物の物性や機能に影響を与える最も重要な要素の一つであるが、環状化合物は末端を有さないということから、ほぼ同一分子量および同一組成の線状化合物と比較して、低粘度、小さい流体力学体積、および高いガラス転移温度など、様々な特異的性質を示すことが知れている。
【0003】
一般に、環状化合物は線状化合物の環化反応によって合成される。ここで、環化反応においては、線状化合物の全てが環状化合物となるのではなく、未反応物である線状化合物やこの反応時に生じる線状副生成物も存在する。したがって、環化反応後においては、環状化合物と線状化合物の混合物の状態となっているので、環状化合物のみを取り出すためには、環状化合物と線状化合物を分離する必要がある。
【0004】
従来においては、再沈殿法(例えば、非特許文献1参照)やゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いた分離法等によって環状化合物と線状化合物を分離または精製することも検討されてきた。再沈殿法は、貧溶媒を用いて沈殿物を採取することによって分離する方法である。GPCを用いた分離法は、環状化合物の方が、線状化合物よりもサイズが若干小さいので、このサイズの差を利用して環状化合物と線状化合物を分離する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】J. Cooke, K. Viras, G. E. Yu, T. Sun, T. Yonemitsu, A. J. Ryan, C. Price and C. Booth, Macromolecules, 1998, 31, 3030-3039.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、再沈殿法においては、分離効率が低く、何度も行う必要がある。また、GPCを用いた分離法においては、環状化合物および線状化合物のサイズが大きくなるほど、環状化合物と線状化合物のサイズの差が小さくなるので、分離がより一層困難になってしまう。したがって、未だ分離または精製効率が高く、かつ環状化合物のサイズに依存せずに環状化合物を分離または精製する方法が開発されていないのが現状である。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものである。すなわち、分離または精製効率が高く、かつ環状化合物のサイズに依存せずに環状化合物を分離または精製可能な環状化合物の分離または精製方法、この分離方法を用いた環状化合物の製造方法、分離材、およびこれを備えた分離器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]環状化合物および線状化合物を含む混合物から前記環状化合物を分離または精製する分離または精製方法であって、前記混合物を多孔性チャネル材料に接触させる、分離または精製方法。
【0009】
[2]前記線状化合物の最大太さに対する前記多孔性チャネル材料の細孔径の比が、0.5以上2.0以下である、上記[1]に記載の分離または精製方法。
【0010】
[3]前記多孔性チャネル材料が、多孔性金属錯体、共有結合性有機構造体、または有機ケージ化合物である、上記[1]または[2]に記載の分離または精製方法。
【0011】
[4]前記環状化合物および前記線状化合物がそれぞれ高分子化合物である、上記[1]ないし[3]のいずれか一項に記載の分離または精製方法。
【0012】
[5]前記環状化合物が、一般式(1)で表されるポリマー化合物であり、
【化1】
一般式(1)中、X
1はポリマー主鎖を表し、
前記線状化合物が、一般式(2)で表されるポリマー化合物であり、
【化2】
一般式(2)中、X
2はポリマー主鎖を表し、Y
1およびY
2は互いに同一または互いに異なっていてもよい末端基を表し、
X
1およびX
2が同一である、上記[1]ないし[4]のいずれか一項に記載の分離または精製方法。
【0013】
[6]X1およびX2が、それぞれ繰り返し単位からなる、上記[5]に記載の分離または精製方法。
【0014】
[7]環状化合物の製造方法であって、線状化合物を環状化して、環状化合物および前記線状化合物を含む混合物を得る工程と、上記[1]ないし[6]のいずれか一項に記載の分離方法によって前記混合物から前記環状化合物を分離または精製する工程とを備える、環状化合物の製造方法。
【0015】
[8]環状化合物および線状化合物を含む混合物から前記環状化合物を分離する分離材であって、前記分離材が、多孔性チャネル材料からなる、分離材。
【0016】
[9]前記線状化合物の最大太さに対する前記多孔性チャネル材料の細孔径の比が、0.5以上2.0以下である、上記[8]に記載の分離材。
【0017】
[10]前記多孔性チャネル材料が、多孔性金属錯体、共有結合性有機構造体、または有機ケージ化合物である、上記[8]または[9]に記載の分離材。
【0018】
[11]前記環状化合物および前記線状化合物がそれぞれ高分子化合物である、上記[8]ないし[10]のいずれか一項に記載の分離材。
【0019】
[12]前記環状化合物および前記線状化合物がそれぞれ繰り返し単位を含み、前記環状化合物の前記繰返し単位と前記線状化合物の前記繰り返し単位が同一である、上記[8]ないし[11]のいずれか一項に記載の分離材。
【0020】
[13]環状化合物および線状化合物を含む混合物から前記環状化合物を分離する分離器具であって、導入口および排出口を有する筐体と、前記筐体内に充填された上記[8]ないし[12]のいずれか一項に記載の分離材とを備える、分離器具。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る環状化合物の分離または精製方法、環状化合物の製造方法、分離材、および分離器具によれば、分離または精製効率が高く、かつ環状化合物のサイズに依存せずに環状化合物を分離または精製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施例1で用いた粗生成物のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すグラフである。
【
図2】
図2(A)および
図2(B)は、実施例1で用いたMOF1の構造を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例1で合成したMOF1の粉末X線回折(XRPD)による分析結果を示すグラフである。
【
図4】
図4(A)は、線状PEGとMOF1の複合体の示差走査熱量計(DSC)による分析結果を示すグラフであり、
図4(B)は、環状PEGとMOF1の複合体の示差走査熱量計(DSC)による分析結果を示すグラフである。
【
図5】
図5(A)は、MOF1に対する線状PEGの導入シミュレーションを表す図であり、
図5(B)は、MOF1に対する環状PEGの導入シミュレーションを表す図である。
【
図6】
図6は、MOF1を充填したカラムを用いた高速液体クロマトグラフ(HPLC)による分子量1000、2000、3000、10000の線状PEGおよび環状PEGの分析結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、グラジエント溶離のプログラムを表すグラフである。
【
図8】
図8(A)は、フラクション1の成分の炭素13核磁気共鳴(
13C-NMR)分光法による分析結果を表すグラフであり、
図8(B)は、フラクション2の成分の炭素13核磁気共鳴(
13C-NMR)分光法による分析結果を表すグラフである。
【
図9】
図9は、粗生成物、フラクション1の成分およびフラクション2の成分のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すグラフである。
【
図10】
図10(A)は、フラクション1の成分のマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF-MS)による分析結果を示すグラフであり、
図10(B)は、
図10(A)における2000m/z付近の拡大図であり、
図10(C)は、
図10(A)における4000m/z付近の拡大図である。
【
図11】
図11(A)は、フラクション2の成分のマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF-MS)による分析結果を示すグラフであり、
図11(B)は、
図11(A)における2000m/z付近の拡大図である。
【
図12】
図12は、比較例1で得られた化合物Aのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すグラフである。
【
図13】
図13は、化合物Aの炭素13核磁気共鳴(
13C-NMR)分光法による分析結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係る環状化合物の分離または精製方法、環状化合物の製造方法、分離材および分離器具について、説明する。本明細書における「環状化合物」とは、環状構造を有する化合物を意味し、「線状化合物」とは、線状構造を有する化合物を意味する。
【0024】
<<環状化合物の分離または精製方法および製造方法>>
まず、環状化合物および線状化合物の混合物を得る。上記したように線状化合物の環化反応によって、環状化合物を得ようとした場合には、環状化合物の他に、未反応の線状化合物や線状副生成物も存在する。したがって、環状化合物および線状化合物の混合物は、線状化合物の環化反応によって得ることが可能である。
【0025】
例えば、環状ポリエチレングリコール(以下、ポリエチレングリコールを「PEG」と称することもある。)を得ようとした場合、環状PEGは、線状PEGを原料とし、上記非特許文献1に記載されている環化反応によって合成することができるので、環状PEGと線状PEGの混合物はこの方法によって得ることができる。この方法においては、線状のPEGの末端のヒドロキシ基がトシル化され、このトシル化された炭素原子をPEG末端のアルコキシドが求核攻撃すると、SN2反応によって-OTsが脱離して、環状PEGが合成される。トシル化された線状PEGは末端から6つ離れた酸素原子による求核置換反応を受けやすく、結果として線状PEGから、1,4-ジオキサンと、2つのエチレンオキサイド単位だけ短くなった環状PEGが生じる。
【0026】
環状化合物は、環状の低分子化合物および高分子化合物のいずれであってもよく、また線状化合物は、線状の低分子化合物および高分子化合物のいずれであってもよい。ただし、GPCを用いた分離法では、サイズが大きくなると、サイズの差が小さくなり、分離しにくいので、本発明の方法は、高分子化合物において特に有効である。本明細書における「低分子化合物」とは、分子量が600未満の化合物を意味し、「高分子化合物」とは、分子量が600以上の化合物を意味する。本明細書では、特記しない限り、「分子量」は、重量平均分子量を意味するものとする。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定したポリエチレングリコール換算値である。
【0027】
環状化合物および線状化合物がいずれも低分子化合物である場合、分子量の下限は、特に限定されないが、分離効率向上の観点から、100以上、125以上、150以上、175以上、200以上、225以上、または250以上であってもよい。
【0028】
環状化合物および線状化合物がいずれも高分子化合物である場合、分子量の下限は、特に限定されないが、分離効率向上の観点から、1250以上、1500以上、1750以上、2000以上、2250以上、2500以上、2750以上、3000以上、3250以上、3500以上、3750以上、4000以上、5000以上、または6000以上であってもよい。また、この分子量の上限は、特に限定されないが、分離効率向上および入手しやすい観点から、8000000以下、4000000以下、200000以下、50000以下、20000以下、10000以下、または5000以下であってもよい。
【0029】
環状化合物は、径方向においては、必ず環状化合物を構成する線状部分が2本存在するので、環状化合物の直径は、一様でないとしても、例えば、線状化合物の後述する最大太さの2倍以上となっていることが好ましい。環状化合物の直径は、例えば、環状化合物の全長を円周率で割ることによって求められる。
【0030】
線状化合物の最大太さは、特に限定されないが、例えば、2.0Å(0.20nm)以上20Å(2.0nm)以下であってもよい。線状化合物の最大太さの下限は、2.5Å(0.25nm)以上、または3.0Å(0.30nm)以上であってもよく、また上限は、15.0Å(1.5nm)以下、10.0Å(1.0nm)以下、または5.0Å(0.5nm)以下であってもよい。線状化合物の最大太さは、市販の分子シミュレーションソフトウェア(例えば、製品名「BIOVIA Material Studio」、ダッソー・システムズ・バイオビア社製)を用いてユニバーサル力場を用いた共役勾配法による計算によって、分子構造モデルの構造最適化計算を行い、構造最適化された線状化合物について、ファン・デル・ワールス半径を計算することによって求められる。
【0031】
線状化合物の長さは、特に限定されないが、例えば、0.8nm以上40μm以下であってもよい。線状化合物の長さの下限は、1nm以上、2nm以上、4nm以上、6nm以上、または8nm以上であってもよく、また上限は、20μm以下、1μm以下、または100nm以下であってもよい。線状化合物の長さは、線状化合物の分子量および化学構造から結合距離および結合角を考慮して理論的に計算することができる。
【0032】
線状化合物の末端基が小さい基もしくは極性の低い基(例えば、ハロゲン原子、H、CH3、OCH3、OCOCH3、COOCH3など)は細孔内に進入しやすい。
【0033】
環状化合物は、一般式(1)で表されるポリマー化合物であってもよい。
【化3】
一般式(1)中、X
1はポリマー主鎖を表す。X
1が炭素原子を含む場合、X
1の炭素数の下限は、特に限定されないが、例えば、6以上、8以上、または12以上であってもよく、またX
1の炭素数の上限は、550000以下、10000以下、または300以下であってもよい。
【0034】
線状化合物が、一般式(2)で表されるポリマー化合物であってもよい。
【化4】
一般式(2)中、X
2はポリマー主鎖を表し、Y
1およびY
2は互いに同一または互いに異なっていてもよい末端基を表す。X
2が炭素原子を含む場合、X
2の炭素数の下限は、特に限定されないが、例えば、6以上、8以上、または12以上であってもよく、またX
2の炭素数の上限は、550000以下、10000以下、または300以下であってもよい。
【0035】
線状化合物の環化反応によって環状化合物を得る場合であれば、混合物中の環状化合物のX1と線状化合物のX2は同一となる。従来の方法では、上記X1およびX2が同一である場合には、分離や精製が難しいので、本発明の分離または精製方法は、X1およびX2が同一の場合に特に有効である。
【0036】
X1およびX2が同一の場合である場合、X1およびX2はそれぞれ繰り返し単位からなっていてもよい。具体的には、繰り返し単位を含む環状化合物は下記一般式(3)で表され、繰り返し単位を含む線状化合物は下記一般式(4)で表される。
【0037】
【化5】
一般式(3)中、A
1は繰返し単位を表し、mは2以上の整数を表す。mは、特に限定されないが、例えば、2以上20000以下、または4以上15000以下であってもよい。
【0038】
【化6】
一般式(4)中、A
2は繰返し単位を表し、nは2以上の整数を表し、nは、特に限定されないが、例えば、2以上20000以下、4以上15000以下であってもよい。なお、環状化合物の繰り返し単位の数mと、線状化合物の繰り返し単位の数nは、同一である必要はない。
【0039】
上記X
1、X
2、A
1およびA
2としては、特に限定されないが、例えば、-(CH
2CH
2O)-、-(CH
2CH
2CH
2O)-、-(CH
2CH
2CH
2CH
2O)-、-(CH
2CH(CH
3)O)-、-OCH(CH
3)CO-、-OCH
2CO-、-(OCH
2CH
2CH
2CH
2OCOCH
2CH
2CO)-、-(OCH
2CH
2CH
2CH
2OCOCH
2CH
2CH
2CH
2CO)-、-(OCH
2CH
2OCOC
6H
4CO)-、-(OCH
2CH
2CH
2CH
2OCOC
6H
4CO)-、-(OCH
2CH
2OCOCH
2CH
2CO)-、-(OCH
2CH
2OCOCH
2CH
2CH
2CH
2CO)-、-(NHCH
2CH
2CO)-、-(NHCH
2CH
2CH
2CO)-、-(NHCH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CO)-、-(CO(CH
2)
4CONH(CH
2)
6NH)-、-(CO(CH
2)
8CONH(CH
2)
6NH)-、-(NH(CH
2)
10CO)-、-(NH(CH
2)
11CO)-、-(COC
6H
4CONHC
6H
4NH)-、-(CH
2CH
2)-、-(CH
2CH
2CH
2)-、-(CH
2CH(CH
3))-、-(CH2CH(C6H5))-、-(CH
2C(CH
3)(COOCH
3)-、-(CH
2CH(OCOCH
3)-、-(CH2CH(OH))-、-(OSi(CH
3)
2)-、-CH=CH-、-CH=N-、-N=N-、-C≡C-、1,4-フェニレン基、1,4-シクロへキシレン基、-CO-CHR
a-NH-(R
aは20種のアミノ酸の側鎖である)、-6-β-D-Glup-1-、-4-β-D-Glup-1-、-6-β-D-Galp-1-、-4-β-D-Galp-1-、-6-β-D-Manp-1-、-4-β-D-Manp-1-、-6-β-D-GlupNAc-1-、-4-β-D-GlupNAc-1-、-6-β-D-GalpNAc-1-、-4-β-D-GalpNAc-1-、-6-β-D-Fluf-1-、-4-β-D-Fluf-1-、
【化7】
(式中、R
bはアデニン、グアニン、シトシン、チミン又はウラシルを示し、Zは、H又はOH基を示す。)などが挙げられるが、これに限定されない。ここで、「-6-β-D-Glup-1-」は、β-D-グルコピラノースの6位と1位で結合する繰り返し単位、「-4-β-D-Glup-1-」は、β-D-グルコピラノースの4位と1位で結合する繰り返し単位、「-6-β-D-Galp-1-」は、β-D-ガラクトピラノースの6位と1位で結合する繰り返し単位、「-4-β-D-Galp-1-」は、β-D-ガラクトピラノースの4位と1位で結合する繰り返し単位、「-6-β-D-Manp-1-」は、β-D-マンノピラノースの6位と1位で結合する繰り返し単位、「-4-β-D-Manp-1-」は、β-D-マンノピラノースの4位と1位で結合する繰り返し単位、「-6-β-D-GlupNAc-1-」は、β-D-N-アセチルグルコサミンの6位と1位で結合する繰り返し単位、「-4-β-D-GlupNAc-1-」は、β-D-N-アセチルグルコサミンの4位と1位で結合する繰り返し単位、「-6-β-D-GalpNAc-1-」は、β-D-N-アセチルガラクトサミンの6位と1位で結合する繰り返し単位、「-4-β-D-GalpNAc-1-」は、β-D-N-アセチルガラクトサミンの4位と1位で結合する繰り返し単位、「-6-β-D-Fluf-1-」は、β-D-フルクトフラノースの6位と1位で結合する繰り返し単位、「-4-β-D-Fluf-1-」は、β-D-フルクトフラノースの4位と1位で結合する繰り返し単位を各々示す。
【0040】
Y1およびY2としては、水素原子、1価の炭化水素基、または1価のヘテロ原子含有基を示す。1価の炭化水素基としては、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、直鎖状または分岐鎖状のアルケニル基、あるいは直鎖状または分岐鎖状のアルキニル基等が挙げられる。アルキル基、アルケニル基、またはアルキル基の炭素数は、特に限定されないが、例えば、1以上150以下が挙げられる。
【0041】
直鎖状のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。分岐鎖状のアルキル基の具体例としては、メチルプロピル基、メチルブチル基、メチルペンチル基、ジメチルブチル基、エチルプロピル基、エチルブチル基等が挙げられる。
【0042】
アルケニル基としては、上記直鎖状アルキル基、および分岐状アルキル基の構造中に1つ以上の炭素-炭素二重結合をもつ構造のものであれば特に制限はないが、具体例としては、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等が挙げられる。
【0043】
アルキニル基としては、上記直鎖状アルキル基、および分岐状アルキル基の構造中に1つ以上の炭素-炭素三重結合をもつ構造のものであれば特に制限はないが、具体例としては、エニチル基等が挙げられる。
【0044】
上記1価のヘテロ原子含有基としては、例えば、OH基、SH基、NH2基、NO2基、COOH基、N3基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アラルキルチオ基、スクシンイミジルオキシ基、マレイミジルオキシ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、保護アミノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アラルキルオキシカルボニルオキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アラルキルオキシカルボニルアミノ基、カルバモイル基、モノアルキルカルバモイル基、ジアルキルカルバモイル基などが挙げられる。ヘテロ原子含有基がヘテロ原子以外に炭素原子を含む場合には、炭素数は、特に限定されないが、例えば、1以上150以下が挙げられる。
【0045】
環状化合物および線状化合物としては、例えば、特に限定されないが、アルキレングリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールのブロック共重合体、エチレングリコールとブチレングリコールのブロック共重合体など)、ポリグリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル(ポリ酢酸ビニルなど)、ポリエステル(ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、芳香族ビニル(ポリスチレンなど)、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレートなど)、ポリアミド(ポリグリシン、ポリ(βアラニン)、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12、芳香族ポリアミド)、ポリシラン(ジメチルポリシラン、メチルフェニルポリシラン、ジフェニルポリシランなど)、ポリシロキサン(ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサンなど)、ポリウレタン、オリゴペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質、核酸(DNA、RNA)、糖鎖などが挙げられる。
【0046】
次いで、この混合物を、混合物から環状化合物を分離または精製するための多孔性チャネル材料からなる分離材に接触させる。上記混合物と多孔性チャネル材料の接触は無溶媒で行ってもよいが、無溶媒で行う場合、多孔性チャネル材料に線状化合物を吸着させた後、多孔性チャネル材料外に存在する環状化合物を何らかの方法で洗い出し、回収する必要がある。その場合、多少でも線状化合物が多孔性チャネル材料から流れ出る可能性があり、結果として分離性能の低下または回収効率の低下に繋がるおそれがある。このため、上記混合物と多孔性チャネル材料の接触は溶媒中で行うことが好ましい。
【0047】
分離または精製工程が溶媒中で行われる場合、溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノールなどの低級アルコール、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、酢酸エチルなどのエステル類、塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロルエタンなどの塩素化炭化水素、トルエン、キシレン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらの溶媒は、単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0048】
溶媒の種類によって多孔性チャネル材料に対する線状化合物の吸着力が異なる。例えば、溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドやクロロホルムを用いた場合、多孔性チャネル材料に対する線状化合物の吸着力が低いので、線状化合物が多孔性チャネル材料に吸着するが、その後に溶出する。したがって、この場合には、混合物を多孔性チャネル材料に接触させると、環状化合物が多孔性チャネル材料から溶出した後に、線状化合物が多孔性チャネル材料から溶出する。
【0049】
また、溶媒としてエタノールを用いると、多孔性チャネル材料に対する線状化合物の吸着力が高いので、線状化合物が多孔性チャネル材料に吸着した後は溶出しない。したがって、この場合には、混合物を多孔性チャネル材料に接触させると、環状化合物は多孔性チャネル材料から溶出するが、線状化合物が多孔性チャネル材料からあまり溶出しない。
【0050】
このため、多孔性チャネル材料から線状化合物を溶出させたい場合には、N,N-ジメチルホルムアミドやクロロホルムが好ましく、多孔性チャネル材料で線状化合物を分取したい場合には、エタノールが好ましい。なお、線状化合物が多孔性チャネル材料の細孔に吸着して、溶出しない場合には、多孔性チャネル材料を破壊することで、またはN,N-ジメチルホルムアミドやクロロホルムで多孔性チャネル材料を洗浄することで、線状化合物を回収できる。洗浄することにより線状化合物を回収できれば、多孔性チャネル材料は再利用することができる。
【0051】
溶媒を使用して環状化合物を分離または精製する場合、分離または精製工程の温度は室温(23℃)以上溶媒の沸点以下の温度が挙げられる。この場合の温度の上限は、使用する溶媒にも依るが、分離または精製しやすい観点から、例えば220℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは80℃以下である。この分離または精製工程を液体クロマトグラフィーで行う場合には、ピーク形状が綺麗に現れる観点から40℃以上80℃以下の温度で分離または精製工程を行うことも好ましい。
【0052】
無溶媒で環状化合物を分離または精製する場合、分離または精製工程の温度は多孔性チャネル材料が分解しない温度、例えば500℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。分離または精製工程の温度が高くなると粘度が下がり、分離を短時間で行えるメリットがある。
【0053】
無溶媒で環状化合物を分離または精製する場合であって、環状化合物および線状化合物が室温で液体の場合、これらを混合することにより多孔性チャネル材料により分離または精製することができる。無溶媒で分離または精製する環状化合物および線状化合物が室温で固体の場合、加熱により環状化合物を融解することで多孔性チャネル材料により分離または精製することができる。
【0054】
溶媒を使用して環状化合物を分離または精製する場合、溶媒は、混合物100質量部に対して0.1質量部以上用いることが好ましい。溶媒が0.1質量部以上であれば、分離性能の低下または回収効率の低下を抑制できる。溶媒の使用量の上限は、分離コストの低減を図る観点から20質量部以下であってもよい。
【0055】
分離性能は混合物の組成に依存する。例えば、混合物が大量の線状化合物と少量の環状化合物を含む場合(例えば、混合物中における環状化合物の重量比率が0.2以下の場合)、線状化合物が多いので、混合物を多孔性チャネル材料に接触させると、多孔性チャネル材料の細孔が線状化合物で詰まってしまい、分離性能が低下するおそれがある。このため、このような場合においては、分離性能を高めるために、例えば、溶媒で混合物の濃度を100mg/mL以下に薄くすること、または多孔性チャネル材料の量を増やして、多孔性チャネル材料に対する線状化合物の重量比率(線状化合物/多孔性チャネル材料)を0.4以下にすることが好ましい。
【0056】
多孔性チャネル材料の複数の細孔は規則的に配置されていることが好ましい。細孔は、線状化合物が長さ方向に沿って内部に進入するために直線状であることが好ましい。また、多孔性チャネル材料は、細孔径、形状、内部の官能基などの特性を適切に制御するように設計できるものが好ましい。
【0057】
線状化合物の最大太さに対する多孔性チャネル材料の細孔径の比(多孔性チャネル材料の細孔径/線状化合物の最大太さ)は、0.5以上2.0以下であることが好ましい。この比が0.5以上であれば、多孔性チャネル材料の細孔内に線状化合物が進入しやすく、またこの比が2.0以下であれば、この細孔内に環状化合物がより進入しにくい。ここで、本明細書における「多孔性チャネル材料の細孔内に線状化合物が進入する」とは、線状化合物全体が細孔内に進入することのみならず、線状化合物の一部のみが細孔内に進入することも含む。このため、線状化合物の最大太さの部分が細孔内に入り込んでいなくても、線状化合物の最大太さ以外の部分が細孔内に入り込んでいれば進入していると判断する。したがって、多孔性チャネル材料の細孔径が線状化合物の最大太さよりも小さい場合であっても、線状化合物が細孔内に進入することはある。上記比の下限は、0.7以上、0.9以上、または1.1以上であることがより好ましい。この比の上限は、1.8以下、1.6以下、または1.4以下であることがより好ましい。
【0058】
多孔性チャネル材料は、細孔径が実質的に変化しないものもあれば、線状化合物との関係で細孔径が変化するものもある。このような細孔径が変化する多孔性チャネル材料の細孔径は、線状化合物の進入によって広がる。このため、細孔径が変化する多孔性チャネル材料においては、「細孔径」とは、線状化合物の進入前の多孔質チャネル材料の細孔径と線状化合物の進入後の多孔質チャネル材料の細孔径の平均値を意味するものとする。なお、このような細孔径が変化するフレキシブルな多孔性チャネル材料としては、例えば、相互嵌入型の多孔性金属錯体が挙げられる。
【0059】
多孔性チャネル材料の細孔径は、例えば、以下のように求めることができる。まず、過去の論文に報告されている多孔性チャネル材料の構造情報(単結晶X線構造解析データ)を基づいて、分子シミュレーションソフトウェア(例えば、製品名「BIOVIA Material Studio」、ダッソー・システムズ・バイオビア社製)を用いて一つの細孔骨格を形成する原子のファン・デル・ワールス半径から細孔表面構造をConnoly Surface法によって計算する。そして、得られた細孔表面構造から細孔断面の細孔径を求める。なお、細孔径が変化する多孔性チャネル材料である場合には、上記方法によれば、細孔径が変化する前の結晶構造情報と、細孔径が変化した後の結晶構造情報を別々に得ることができるので、細孔径が変化する前の状態の細孔径と、細孔径が変化した後の状態の細孔径を別々に得ることができ、これらから細孔径の平均値を求めることができる。
【0060】
環状化合物の直径に対する多孔性チャネル材料の細孔径の比(多孔性チャネル材料の細孔径/環状化合物の直径)は、1.0未満であることが好ましい。この比が1.0以下であれば、この細孔内に環状化合物がより進入しにくい。この比の上限は、0.9以下、0.8以下であることがより好ましい。
【0061】
多孔性チャネル材料の細孔径は、細孔内に進入させたい線状化合物の最大太さにも依るので、特に限定されないが、2Å(0.2nm)以上100Å(10nm)以下であってもよい。細孔径の下限は、2.5Å(0.25nm)以上、3.0Å(0.3nm)以上または3.5Å(0.35nm)以上であってもよく、細孔径の上限は、80Å(8nm)以下、50Å(5nm)以下、30Å(3nm)以下、または25Å(2.5nm)以下であってもよい。
【0062】
多孔性チャネル材料の形状は、特に限定されないが、分離効率向上の観点から、粉末状であることが好ましい。この場合の平均粒子径は、1μm以上50μm以下であることが好ましい。この平均粒子径が1μm以上であれば、多孔性チャネル材料をカラムに充填した場合、混合物を流すために必要となる圧力が高くなりすぎることを抑制でき、また50μm以下であれば、分離性能の低下を抑制できる。平均粒子径の下限は、2μm以上、3μm以上、または4μm以上であることがより好ましく、また上限は、40μm以下、30μm以下、または20μm以下であることがより好ましい。平均粒子径は、粒度分布測定器によって測定することができる。
【0063】
分離または精製工程における多孔性チャネル材料に対する混合物の重量比率(混合物/多孔性チャネル材料)は、0.05以上300以下や0.1以上100以下であってもよい。
【0064】
多孔性チャネル材料としては、多孔性金属錯体、共有結合性有機構造体(COF)、有機ケージ化合物が挙げられる。多孔性チャネル材料は、線状化合物が進入するが、環状化合物が進入しない大きさの複数の細孔を有している。
【0065】
多孔性金属錯体は、遷移金属イオンとそれを連結する有機架橋配位子によって多孔性3次元構造を有する金属錯体であり、好ましくは、遷移金属カチオンと第1有機架橋配位子から構成される2次元シートが層をなし、2座配位可能な第2有機架橋配位子が各層に存在する遷移金属カチオンに配位することで隣接するシートとシートを連結させ、その間に細孔が形成されている構造を有する配位ポリマー、相互嵌入型の配位ポリマーなどが挙げられる。多孔性金属錯体は、MOF、PCPなどとして知られている多孔性金属錯体を広く包含する。多孔性金属錯体の細孔は、1次元細孔、2次元細孔、3次元細孔のいずれでもよいが、分離性能向上の観点から、1次元細孔が好ましい。
【0066】
多孔性チャネル材料による環状化合物と線状化合物の分離または精製は、多孔性チャネル材料の細孔と環状化合物および線状化合物の相互作用により行われる。より具体的には、混合物は、多孔性チャネル材料の細孔内に進入する線状化合物と多孔性チャネル材料の細孔内に進入できない環状化合物に分離される。
【0067】
環状化合物の分離または精製は、環状化合物の大きさ(嵩高さ)、線状化合物の最大太さと多孔性チャネル材料の細孔径の関係が重要であるが、細孔の内側を適当な官能基で修飾することにより、線状化合物の細孔内への進入しやすさおよび速度を調節することができる。細孔の内側の修飾は、例えばMOFの場合、配位子に適当な置換基を導入することにより実現することができ、MOF以外の多孔性チャネル材料の場合にも同様に構成要素への置換基の導入により実現できる。
【0068】
環状化合物の分離または精製には、線状化合物および多孔性チャネル材料の親水性又は疎水性の相互作用も寄与するので、このような相互作用も多孔性チャネル材料と線状化合物の選択/組み合わせを決定する因子の1つになる。
【0069】
多孔性金属錯体は、第1有機架橋配位子とともに単座有機配位子を含んでいてもよい。単座有機配位子を加えることで、錯体結晶のサイズを調節することができる。
【0070】
多孔性金属錯体を構成する遷移金属イオンとしては、周期表の1~12族に属する金属の金属イオン、具体的には、金、白金、銀、銅、ルテニウム、スズ、パラジウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、ニッケル、コバルト、亜鉛、鉄、イットリウム、マグネシウム、マンガン、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、カルシウム、カドミウム、バナジウム、クロム、モリブデン、スカンジウムなどのイオンが挙げられ、マグネシウム、カルシウム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅、亜鉛、カドミウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、白金、モリブデン、ジルコニウム、スカンジウムなどのイオンが好ましく、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウムなどの金属のイオンが挙げられる。
【0071】
有機架橋配位子のうち、第1有機架橋配位子としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、インダン、インデン、ピレン、1,4-ジヒドロナフタレン、テトラリン、ビフェニレン、トリフェニレン、アセナフチレン、アセナフテンなどの芳香環に2個、3個又は4個のカルボキシル基が結合した化合物(前記有機配位子は、F,Cl、Br,Iなどのハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、アセチルアミノ基などのアシルアミノ基、シアノ基、水酸基、メチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基、メトキシ基、エトキシ基などの直鎖又は分岐を有する炭素数1~4のアルコキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、tert-ブチル基、イソブチル基などの直鎖又は分岐を有する炭素数1~4のアルキル基、SH基、トリフルオロメチル基、スルホン酸基、カルバモイル基、メチルアミノ基などのアルキルアミノ基、ジメチルアミノ基などのジアルキルアミノ基などの置換基で1,2又は3置換されていてもよい)、炭素数5~12個の環状飽和脂肪族多価カルボン酸化合物(例えば、1,2-シス-シクロプロパンジカルボン酸、1,2-トランス-シクロプロパンジカルボン酸、1,3-シス-シクロブタンジカルボン酸、1,3-トランス-シクロブタンジカルボン酸、1,4-シス-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-トランス-シクロヘキサンジカルボン酸および1,3-アダマンタンジカルボン酸など)、(1α,2α,4α)-1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸などの不飽和2価カルボン酸などが挙げられ、好ましくは、イソフタル酸、5-メトキシイソフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-フルオロイソフタル酸、5-クロロイソフタル酸、5-ブロモイソフタル酸、5-ヨードイソフタル酸、5-ニトロイソフタル酸および5-シアノイソフタル酸、テレフタル酸(tp)、2-メチルテレフタル酸、2-メトキシテレフタル酸、2-ニトロテレフタル酸、ジヒドロシクロブタ[1,2-b]テレフタル酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルスルホン、2,6-ナフタレンジカルボン酸、9,10-アントラセンジカルボン酸、2,3-ピラジンジカルボン酸(pzdc)、テトラフルオロテレフタル酸、4,4’-ビ安息香酸、オクタフルオロ-4,4’-ビ安息香酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、2,7-フルオレンジカルボン酸、2,7-ピレンジカルボン酸、4,5,9,10-テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、アセチレンジガルボン酸等のジカルボン酸類が挙げられる。
【0072】
錯体には、第1有機架橋配位子と組み合わせて単座有機配位子、例えば、モノカルボン酸をさらに有していてもよい。モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、乳酸、ピルビン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、シクロヘキサンカルボン酸などが挙げられる。単座配位子を使用することで多孔性金属錯体のサイズを小さくし、細孔の長さを短くすることができる。
【0073】
有機架橋配位子のうち、第2有機架橋配位子としては、例えば、ピラジン、トランス-1,2-ビス(4-ピリジル)エチレン、1,4-ジシアノベンゼン、4,4’-ジシアノビフェニル、1,2-ジシアノエチレン、1,4-ビス(4-ピリジル)ベンゼン、トリエチレンジアミン(ted)、4,4’-ビピリジル(bpy)、ジアザピレン、2,5-ジメチルピラジン、2,2’-ジメチル-4,4’-ビピリジン、1,2-ビス(4-ピリジル)エチン、1,4-ビス(4-ピリジル)ブタジイン、1,4-ビス(4-ピリジル)ベンゼン、3,6-ジ(4-ピリジル)-1,2,4,5-テトラジン、2,2’-ビ-1,6-ナフチリジン、フェナジン、2,6-ジ(4-ピリジル)-ベンゾ[1,2-c:4,5-c’]ジピロール-1,3,5,7(2H,6H)-テトロン、N,N’-ジ(4-ピリジル)-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボキシジイミド、トランス-1,2-ビス(4-ピリジル)エテン、4,4’-アゾピリジン、1,2-ビス(4-ピリジル)エタン、4,4’-ジピリジルスルフィド、1,3-ビス(4-ピリジル)プロパン、1,2-ビス(4-ピリジル)-グリコール、N-(4-ピリジル)イソニコチンアミド等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
多孔性金属錯体は、例えば以下の文献、総説(Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 2334-2375.;Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 2-14.;Chem. Soc. Rev., 2008, 37, 191-214.;PNAS, 2006, 103, 10186-10191.;Chem.Rev.,2011, 111, 688-764.;Nature, 2003, 423, 705-714.)などに記載されているが、これらに限定されず、公知の多孔性金属錯体あるいは今後製造され得る多孔性金属錯体を広く使用することができる。多孔性金属錯体としては、特に限定されないが、例えば、CD-MOF-1、CD-MOF-2、CD-MOF-3、CPM-13、FJI-1、FMOF-1、HKUST-1、IRMOF-1、IRMOF-2、IRMOF-3、IRMOF-6、IRMOF-8、IRMOF-9、IRMOF-13、IRMOF-20、JUC-48、JUC-62、MIL-101、MIL-100、MIL-125、MIL-53、MIL-88(MIL-88A、MIL-88B、MIL-88C、MIL-88Dシリース゛を含む)、MOF-5、MOF-74、MOF-177、MOF-210、MOF-200、MOF-205、MOF-505、MOROF-2、MOROF-1、NOTT-100、NOTT-101、NOTT-102、NOTT-103、NOTT-105、NOTT-106、NOTT-107、NOTT-109、NOTT-110、NOTT-111、NOTT-112、NOTT-113、NOTT-114、NOTT-140、NU-100、rho-ZMOF、PCN-6、PCN-6'、PCN9、PCN10、PCN12、PCN12'、PCN14、PCN16、PCN-17、PCN-21、PCN46、PCN66、PCN68、PMOF-2(Cu)、PMOF-3、SNU-5、SNU-15'、SNU-21S、SNU-21H、SNU-50、SNU-77H、UiO-66、UiO-67、soc-MOF、sod-ZMOF、TUDMOF-1、UMCM-2、UMCM-150、UTSA-20、ZIF-2、ZIF-3、ZIF-4、ZIF-8、ZIF-9、ZIF-10、ZIF-11、ZIF-12、ZIF-14、ZIF-20、ZIF-21、ZIF-23、ZIF-60、ZIF-61、ZIF-62、ZIF-64、ZIF-65、ZIF-67、ZIF-68、ZIF-69、ZIF-70、ZIF-71、ZIF-72、ZIF-73、ZIF-74、ZIF-75、ZIF-76、ZIF-77又はZIF-90等が挙げられる。
【0075】
多孔性金属錯体の例とその細孔径および細孔断面積を以下に示す。
IRMOF-1:Zn4O(BDC)3、BDC=1,4-benzenedicarboxylate、細孔径=15.0Å、細孔断面積=15.0×15.0Å2
MOF-69C:Zn3(OH)2(BDC)2、細孔径=6.5Å、細孔断面積=6.5×6.5Å2、
MOF-74:M2(DOBDC)、DOBDC=2,5-dihydroxyterephthalate、M=Zn、Co、Ni、Mg、細孔径=11.0Å、細孔断面積=11.0×11.0Å2、
HKUST-1:Cu3(BTC)2、BTC=1,3,5-benzenetricarboxylate、細孔径=9.0Å、細孔断面積=9.0×9.0Å2、
MOF-177:Zn4O(BTB)2、BTB=4,4',4"-benzene-1,3,5-triyl-tribenzoate、細孔径=11.8Å、細孔断面積=11.8×11.8Å2、
MOF-508:Zn(BDC)(bipy)0.5、細孔径=4.0Å、細孔断面積=4.0×4.0Å2、
Zn-BDC-DABCO:Zn2(BDC)2(DABCO)、DABCO=1,4-diazabicyclo[2.2.2]-octane、細孔径=7.5Å、細孔断面積=7.5×7.5Å2、
Cr-MIL-101:Cr3F(H2O)2O(BDC)3、細孔径=29.0Å、細孔断面積=29.0×29.0Å2、
Al-MIL-110:Al8(OH)12[(OH)3(H2O)3][BTC]3、細孔径=16.0Å、細孔断面積=16.0×16.0Å2、
MIL-103:M(BTB)、M=light rare-earth elements [La-Ho]、細孔径=10.7Å、細孔断面積=10.7×10.7Å2、
Al-MIL-53:Al(OH)[BDC]、細孔径=8.5Å、細孔断面積=8.5×8.5Å2、
ZIF-8:Zn(MeIM)2、MeIM=2-methylimidazole、細孔径=12.0Å、細孔断面積=12.0×12.0Å2、
MIL-88B:Cr3OF(O2C-C6H4-CO2)3、細孔径=15.6Å、細孔断面積=15.6×15.6 Å2、
MIL-88C:Fe3O(O2C-C10H6-CO2)3、細孔径=18.7Å、細孔断面積=18.7×18.7Å2、
MIL-88D:Cr3OF(O2C-C12H8-CO2)3、細孔径=20.5Å、細孔断面積=20.5×20.5Å2、
CID-1[Zn2(ip)2(bpy)2]n、ip=isophthalic acid、bpy=4,4'-bipyridine、細孔径=5.0Å、細孔断面積=5.0×6.0Å2、
[ZrO(bpdc)]n、bpdc=4,4'-biphenyl dicarboxylate、細孔径=6.4Å、細孔断面積=6.4×6.4Å2、
[Zn2(ndc)2(dabco)]n、ndc=1,4-naphthalene dicarboxylate、細孔径=5.7Å、細孔断面積=5.7×5.7Å2
[Al(OH)(ndc)]n、ndc=2,6-naphthalene dicarboxylate、細孔径=8.5Å、細孔断面積=8.5×8.5Å2
【0076】
共有結合性有機構造体(COF)としては、例えば、ジボロン酸、ヘキサヒドロキシトリフェニレン、ジシアノベンゼン、C9H4BO2などの誘導体を縮合させることによって得られるもの、ならびに、ベンゼン-1,4-ジボロン酸(BDBA)、2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシルトリフェニレン(HHTP)、テトラキス(4-ブロモフェニル)メタン、テトラキス(4-エチニルフェニル)メタン(TEPM)、1,3,5,7-テトラキス(4-エチニルフェニル)アダマンチン(TEPA)、1,3,5,7-テトラキス(4-ブロモフェニル)アダマンチン(TBPA)から得られるものなどが挙げられる。本開示の好ましい実施態様において、共有結合性有機構造体(COF)としては、COF-1(細孔径=9.0Å、細孔断面積=9.0×9.0Å2)、COF-2、COF-5(細孔径=27.0Å、細孔断面積=27.0×27.0Å2)、COF-6(細孔径=9.0Å、細孔断面積=9.0×9.0Å2)、COF-8(細孔径=16.0Å、細孔断面積=16.0×16.0Å2)、COF-10(細孔径=32.0Å、細孔断面積=32.0×32.0Å2)、COF-11(細孔径=11.0Å、細孔断面積=11.0×11.0Å2)、COF-14(細孔径=14.0Å、細孔断面積=14.0×14.0Å2)、COF-16(細孔径=16.0Å、細孔断面積=16.0×16.0Å2)、COF-18(細孔径=18.0Å、細孔断面積=18.0×18.0Å2)、COF-42(細孔径=23.0Å、細孔断面積=23.0×23.0Å2)、COF-43(細孔径=38.0Å、細孔断面積=38.0×38.0Å2)、COF-66(細孔径=23.0Å、細孔断面積=23.0×23.0Å2)、COF-102(細孔径=12.0Å、細孔断面積=12.0×12.0Å2)、COF-103(細孔径=12.0Å、細孔断面積=12.0×12.0Å2)、COF-105(細孔径=10.3Å、細孔断面積=10.3×10.3Å2)、COF-108(細孔径=15.5Å、細孔断面積=15.5×15.5Å2)、COF-202(細孔径=11.0Å、細孔断面積=11.0×11.0Å2)、COF-300(細孔径=7.2Å、細孔断面積=7.2×7.2Å2)、COF-366(細孔径=20.0Å、細孔断面積=20.0×20.0Å2)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
有機ケージ化合物としては、Cooperら、J. Am. Chem. Soc., 134, 588 (2012)に記載された1,3,5-トリホルミルベンゼンと各種ジアミン化合物との縮合反応物、固体状態で多孔性を示すかご状イミン(Tozawa, T. et al., Porous organic cages. Nat. Mater. 8, 973-978 (2009))、室温で液状の多孔性材料(James, S. L. and coworker, Chem. Sci. 2012, 3, 2153)、多孔性有機分子結晶(Jones, J. T. A.ら、Nature 474, 367-371 (2011))、ループ状に閉じたクラウンエーテルを置換基に用いた化合物(Giri, N.ら、Nature 2015, 527, 216)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
分離材は、分離器具内に充填して用いてもよい。分離器具は、分離装置に組み込まれて使用することが可能である。
【0079】
<分離器具および分離装置>
分離器具は、導入口および排出口を有する筐体と、筐体内に充填された上記分離材とを備えている。筐体の導入口は、筐体の長手方向の一方の端部に設けられ、また筐体の排出口は、筐体の長手方向の他方の端部に設けられていてもよい。
【0080】
分離器具によって環状化合物を分離する際には、導入口から上記混合物を筐体内に導入し、排出口から排出される環状化合物を採取する。環状化合物は、多孔性チャネル材料内に進入できないので、線状化合物よりも早く溶出する。分離器具としては、カラムが挙げられ、分離装置としては、液体クロマトグラフが挙げられる。
【0081】
多孔性チャネル材料に上記混合物を接触させると、線状化合物は多孔性チャネル材料の細孔に進入し、吸着される。一方で、環状化合物は線状化合物よりも嵩高いので、線状化合物よりも多孔性チャネル材料の細孔に進入しにくい。これは、線状化合物の場合には、細孔に1本進入すればよいが、環状化合物の場合には、同時に2本進入しなければならないからであると考えられる。このため、環状化合物は、多孔性チャネル材料の細孔に進入されずに、多孔性チャネル材料の外側に存在する。したがって、例えば、上記分離器具を用いた場合には、環状化合物は線状化合物に比べて早く溶出される。これにより、混合物から環状化合物を分離または精製することができる。多孔性チャネル材料の細孔径は、有機架橋配位子等の長さを変えることによって自由に設計可能であるので、細孔径を、線状化合物は進入するとともに環状化合物は進入できないまたは進入しにくい大きさに調整すれば、環状化合物のサイズに関係なく、様々な環状化合物を分離または精製できる。これにより、分離効率が高く、かつ環状化合物のサイズに依存せずに環状化合物を分離または精製することができる。
【0082】
再沈殿法は、複雑な工程を必要とする。これに対し、本発明の分離または精製方法は、多孔性チャネル材料を用意すれば良いので、再沈殿法に比べて極めて簡便な方法である。
【実施例】
【0083】
本発明を詳細に説明するために、以下に実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの記載に限定されない。
図1は、実施例1で用いた粗生成物のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すグラフであり、
図2(A)および
図2(B)は、実施例1で用いたMOF1の構造を示す図であり、
図3は、実施例1で合成したMOF1の粉末X線回折(XRPD)による分析結果を示すグラフである。
図4(A)は、線状PEGとMOF1の複合体の示差走査熱量計(DSC)による分析結果を示すグラフであり、
図4(B)は、環状PEGとMOF1の複合体の示差走査熱量計(DSC)による分析結果を示すグラフであり、
図5(A)は、MOF1に対する線状PEGの導入シミュレーションを表す図であり、
図5(B)は、MOF1に対する環状PEGの導入シミュレーションを表す図である。
図6は、MOF1を充填したカラムを用いた高速液体クロマトグラフ(HPLC)による分子量1000、2000、3000、10000の線状PEGおよび環状PEGの分析結果を示すグラフである。
図7は、グラジエント溶離のプログラムを表すグラフである。
図8(A)は、フラクション1の成分の炭素13核磁気共鳴(
13C-NMR)による分析結果を表すグラフであり、
図8(B)は、フラクション2の成分の炭素13核磁気共鳴(
13C-NMR)による分析結果を表すグラフである。
図9は、粗生成物、フラクション1の成分およびフラクション2の成分のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すグラフであり、
図10(A)は、フラクション1の成分のマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF-MS)による分析結果を示すグラフであり、
図10(B)は、
図10(A)における2000m/z付近の拡大図であり、
図10(C)は、
図10(A)における4000m/z付近の拡大図である。
図11(A)は、フラクション2の成分のマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF-MS)による分析結果を示すグラフであり、
図11(B)は、
図11(A)における2000m/z付近の拡大図である。
図12は、比較例1で得られた化合物Aのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分析結果を示すグラフであり、
図13は、化合物Aの炭素13核磁気共鳴(13C-NMR)による分析結果を表すグラフである。
【0084】
<実施例1>
まず、以下のようにして環状PEGおよびMOFの合成を行った。
(環状PEGの合成)
まず、J. Cooke, K. Viras, G. E. Yu, T. Sun, T. Yonemitsu, A. J. Ryan, C. Price and C. Booth, Macromolecules, 1998, 31, 3030-3039.に記載されている方法にしたがって線状PEGを原料とした環化反応を行い、環状PEGを合成した。
【0085】
具体的には、まず、撹拌子を入れた丸底フラスコをセプタムで密封し、真空ポンプでこのフラスコ中の空気を抜きながら窒素で満たした。このフラスコ中で、よく粉砕した水酸化カリウム(2.2g、33.3mmol)を、テトラヒドロフランとヘプタンを体積比3:1で混合した100mLの溶媒に分散させ、40℃の窒素雰囲気下で攪拌した。貧溶媒であるヘプタンは、線状PEG分子内の末端同士の距離を近づけて環の形成を容易にするために添加した。分子量2050の線状PEG(6.83g、3.33mmol)と塩化パラトルエンスルホニル(635mg、3.33mmol)を別のフラスコで100mLのテトラヒドロフランに溶解した。PEGは、最大太さが3.7Åのものであった。PEGの最大太さは、計算化学的手法で得られた最安定構造に基づく計算によって求められた。具体的には、まず、分子シミュレーションソフトウェア(製品名「BIOVIA Material Studio」、ダッソー・システムズ・バイオビア社製)を用いてユニバーサル力場を用いた共役勾配法による計算によって、PEGの分子構造モデルの構造最適化計算を行った。そして、構造最適化されたPEGの末端に存在する原子を含む1繰り返し単位分の分子構造について、ファン・デル・ワールス半径を計算し、その最大断面径(最大太さ)を求めた。
【0086】
この溶液を水酸化カリウム分散液にシリンジポンプを用いて48時間にわたって滴下した。さらに24時間攪拌した後、混合物をろ過し、溶媒はロータリーエバポレーターと真空ポンプによって除去した。
【0087】
得られた混合物を約100mLの水に溶解し、過剰の水酸化カリウムを塩酸によって中和した。その溶液をロータリーエバポレーターで約50mLに濃縮し、ジクロロメタン50mLを加えて分液漏斗でPEGと塩などの不純物を分離した。シリンジを用いてジクロロメタン溶液をジエチルエーテルに少しずつ滴下したところ、PEGの沈殿が生じた。ろ過と真空ポンプで溶媒を除き、粗生成物を得た。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって分析したところ、この粗生成物は、未反応の線状PEG、および線状PEGが直列に縮合した線状高分子量化合物、および環状PEGの混合物であることが確認された(
図1)。線状PEGの最大太さが3.7Åであるので、環状PEGの直径は7.4Å以上であると推測される。
【0088】
(MOF1の合成)
[Zn
2(ndc)
2(dabco)]
n(以下、この化合物をMOF1と称する)の合成を行った。MOF1の構造を
図2に示す。このMOF1は過去の文献に基づいて合成した。使用した試薬は以下の通りである。
・硝酸亜鉛四水和物
・1,4-ナフタレンジカルボン酸
・1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)
・N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)
【0089】
硝酸亜鉛四水和物、DABCO、DMFは富士フイルム和光純薬株式会社から購入し、1,4-ナフタレンジカルボン酸(1,4-ndc)は東京化成工業株式会社から購入した。
【0090】
まず、通常の合成法である合成法1について述べる。硝酸亜鉛四水和物4mmol、1,4-ナフタレンジカルボン酸4mmol、DABCO2mmolをDMF40mLに溶解し、100mLのテフロン(登録商標)製耐熱容器に移し、この耐熱容器にステンレスジャケットを装着してオーブンでこの溶液を120℃、48時間加熱した。反応後、遠心分離によって白色粉末を回収し、DMFで数回洗浄した。洗浄後、白色粉末を120℃で加熱しながら12時間真空乾燥して、MOF1を得た。
【0091】
後述するMOFカラムの作成にあたって、より粒子サイズが小さく均一なMOFが大量に必要であった。そこで次のような方法(合成法2)で大量合成を行った。1Lのガラス製耐熱容器中で、硝酸亜鉛四水和物40mmol、1,4-ナフタレンジカルボン酸40mmol、DABCO20mmolをDMF600mLに溶解した。そして、この溶液を攪拌しながらオイルバスで120℃、48時間加熱した。その後の処理は合成法1と同様に行った。得られたMOF1の粒子径は3~10μm程度であった。
【0092】
合成法1および合成法2によって合成されたMOF1の粉末X線回折(XRPD)パターンが、予め報告されている単結晶構造を基にしたシミュレーションパターンと一致したことから、目的とした構造が得られたことが確認された(
図3参照)。
【0093】
MOF1の細孔径および細孔断面積を求めたところ、細孔径が5.7Åであり、細孔断面積が5.7×5.7Å2であった。細孔径および細孔断面積は、単位結晶構造に基づいた計算によって求められた。具体的には、過去の論文に報告されているMOF1の構造情報(単結晶X線構造解析データ)を基づいて、分子シミュレーションソフトウェア(製品名「BIOVIA Material Studio」、ダッソー・システムズ・バイオビア社製)を用いて一つの細孔骨格を形成する原子のファン・デル・ワールス半径から細孔表面構造をConnoly Surface法によって計算した。そして、得られた細孔表面構造から細孔断面の細孔径と細孔断面積を求めた。
【0094】
そして、上記MOF1を用いて、3種類の試験を行った。
(1)MOF1へのPEG導入試験
線状PEGおよび環状PEGが、MOF1の細孔内へ吸着されるかどうかについて検証した。過去の論文(Le Ouay, B. et al. Nat Communs. 9, 3635 (2018).)に掲載されていた方法に従ってMOF1と分子量1000、2000の線状PEGおよび環状PEGの複合体を作成した。具体的には、MOF1とPEGをアセトニトリル2mLに懸濁させて溶解させ、真空ポンプによって減圧下(0.3kPa)でアセトニトリルを蒸発させた。その後、70℃の減圧下で12時間加熱した。使用したMOFおよびPEGの質量は表1の通りである。MOF1に対してPEGが6~10質量%程度になるように調整した。なお、表1のMWは、分子量である。
【表1】
【0095】
調製したMOF1-PEG複合体について、PEGがMOFの外部に存在するのかどうかを示差走査熱量計(DSC、製品名「DSC7020」、株式会社日立ハイテクサイエンス製)によって調べた。通常、PEGについてDSC測定を行うと、PEGの融点で吸熱ピークが観測される。しかし、MOF1の細孔内へPEGが吸着されると、PEG鎖は単分子に近い状態で細孔へ閉じ込められ、結果として融点が変化することが知られている(Uemura, T. et al. Nat Commun. 1, 83 (2010))。この現象を利用すると、PEGがMOF1の細孔内へ導入されたか否かを、複合体のDSC測定によって判断することができる。今回の測定では、15℃~55℃の温度領域に注目して、MOF1-PEG複合体のDSC測定を行った。
【0096】
PEGがMOF1の細孔内へ吸着されない場合、PEGはMOF結晶外部へ取り残される。そのため、複合体のDSCを測定すると、バルクPEG(本来のPEG)の融点付近に、吸熱ピークが観測される。一方、PEGがMOF1細孔内へ完全に吸着されると、融点ピークは大きく低温へ移動するため、今回の温度領域では融点が観測されなくなる。
【0097】
分子量2000の線状PEGとMOF1との複合体についてDSCを測定したところ、
図4(A)に示されるように、参照1のようなバルクPEG由来の融点ピークは観測されなかった。これは、線状PEGが細孔内に完全に導入され、吸着されたことを示している。一方、環状PEGとの複合体では、
図4(B)に示されるように、融点ピークが観測され、環状PEGの一部がMOF1結晶の外に残されている(すなわち吸着されていない)ことが示された。すなわち、MOF1を用いると、線状PEGが選択的に細孔へ吸着されるため、残された環状PEGを洗浄操作により回収することで、分離または精製が可能であることが明らかとなった。
【0098】
また、分子動力学シミュレーションを行い、PEGがMOF1細孔に取り込まれるかどうかを検証した。
図5は分子量1000の線状PEGおよび環状PEGをモデルとして用い、MOF1への導入過程をシミュレーションした結果である。線状PEGでは、細孔間の狭い孔を頻繁に貫通する三次元的拡散であるのに対し、環状PEGの場合は細孔に沿った移動のみの一次元的拡散である。細孔内へ拡散し、侵入してゆく速度は、線状PEGの方が速いことが確認された。すなわち、線状と環状PEGにおいては、細孔内へ侵入し吸着される速度が異なることが明らかとなった。
【0099】
(2)MOFカラムクロマトグラフィーによる環状PEGの分離
(MOFを充填したHPLC用カラムの作成)
合成したMOF1の粉末0.8gをGLサイエンス社製ステンレス空カラム(内径4mm、長さ150mm)にタッピング法により充填し、MOF1を充填したカラムを作製した。
【0100】
(線状PEGおよび環状PEGのHPLC分析)
上記で作製したカラムを島津製作所製Prominence HPLCシステムへ接続し、標品として高純度の線状PEGおよび環状PEG(分子量1000、2000、3000、10000)をそれぞれ分析した。分析条件は以下の通りである。
[HPLC分析条件]
・カラム固定相:2
・溶離液:DMF
・カラム温度:80℃
・カラム圧力:2.6MPa
・サンプル濃度:5.0mg/mL
・流速:1.0mL/分
・注入量:1.0μL
【0101】
図6に示されるように、環状PEGは分子量によらずカラムへの保持がほとんどなく、1.4分で溶出した。一方で、線状PEGは分子量に依存した保持が見られ、それぞれ2.0分(分子量1000)、2.6分(分子量2000)、4.2分(分子量3000)で溶出した。分子量10000の線状PEGに関してはカラムへの保持が強く、溶出していない。線状PEGの場合は分子量が大きくなるにつれてカラムへの保持時間が長くなり、かつピーク形状がブロードになる傾向がみられた。これは、分子量が大きくなるにつれて固定相への吸着が強くなるためであると考えられる。この結果より、MOF1を充填したカラムを用いることで、環状PEGおよび線状PEGが分離可能であることが確認された。
【0102】
(3)中圧分取カラムによる環状PEGの分離
まず、中圧分取カラムを作製した。具体的には、撹拌しながら大量合成しDMFに浸漬した状態のMOF1の粉末を、株式会社KYOSHIN製ガラスカラム(内径20mm、長さ150mm)へ湿式で充填した。充填物(MOF1とDMF)の重量は54g、カラム体積は47mLであった。湿式充填の際は、充填剤が密にパッキングするまでDMFを流速15mL/分で流して行った。
【0103】
そして、上記粗生成物を上記で作製した中圧分取カラムによって精製することを試みた。中圧分取カラムクロマトグラフィーには、Biotage社製フラッシュ自動精製装置Isoleraを使用した。流速は3.0mL/分とした。
【0104】
粗生成物0.050gを2mLのDMFに溶解したものを、カラム上部にシリンジで注入し、
図7に示すプログラムで、グラジエント溶離を行った。本プログラムは、はじめに3カラムボリューム(CV)のDMFを流し環状PEGを先に溶出させ、その後、3CVかけてクロロホルムへと溶離液を切り替え、最後に3CVのクロロホルムを流すことでカラム内部に吸着された線状PEGを洗い出すように設定されていた。
【0105】
溶出してきた溶液は、それぞれDMF100%で溶出した成分をフラクション1、クロロホルム100%で溶出した部分をフラクション2として回収した。それぞれのフラクションの溶媒をロータリーエバポレーターで除去し、得られた化合物のGPC測定、13C-NMR測定、およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF-MS)による測定を行うことで成分を分析した。
【0106】
また、
13C-NMR測定の結果を
図8に示す。
図8(A)に示されるようにフラクション1の成分からはPEG主鎖のメチレン炭素に由来するピークが70.6ppmに一本しか観測されなかったことから、フラクション1には環状PEGのみが存在することが確認された。一方、
図8(B)に示されるようにフラクション2の成分からは、線状PEGに特徴的な末端炭素の由来のピークが62ppm付近と73ppm付近に確認されたことから、フラクション2には線状PEGが存在することが確認された。
【0107】
フラクション1およびフラクション2に含まれる成分を分析するため、それぞれをGPCにより分析した。結果を
図9に示す。
図9に示されるように、フラクション1のGPCクロマトグラムでは複数のピークが観測され、最も大きいピーク(20分)の保持時間は環状PEG(分子量2000)の標品サンプルと同じであることから、この化合物が環状PEGであると同定できる。さらに分子量の大きな環状二量体や環状三量体のピークも観測された。
【0108】
一方、
図9に示されるように、フラクション2は高分子量成分を多く含んでいた。19.6分に溶出している最も低分子量の成分は、保持時間が線状PEG(分子量2000)と同じであったことから、原料の線状PEGであると同定される。原料の線状PEGが直列に縮合した分子量4000、6000等といった高分子量成分も観測された。
【0109】
さらに、フラクション1の成分のMALDI-TOF-MS測定の結果を
図10に示す。
図10(A)に示されるようにフラクション1には2000m/z、4000m/z、6000m/z付近にシグナルの分布が見られた。2000m/z、4000m/z付近を拡大すると、PEGの繰り返し単位(-CH
2CH
2O-)の分子量に相当する44m/zおきにシグナルが観察されることが理解できる(
図10(B)および
図10(C)参照)。そのシグナルの一つは、2004.8m/zであった(
図10(B)の▼の位置)。これを基に計算をすると、このピークは44.0×n(PEGの重合度=45)+23(Na+付加体イオン)=2003に対応していると考えられる。もし末端が存在する場合は、H
2Oに相当する分子量18だけ全てのピークがシフトするはずである。したがって、この測定結果から、フラクション1には環状PEGのみが存在することが明らかとなった。さらに、高分子量側には4000m/z、6000m/zに環化二量体、環化三量体のシグナルも観測された。すなわち、MOF1のカラムによって、分子量によらず環状PEGのみが選別され、フラクション1に溶出したと結論付けられる。
【0110】
一方、フラクション2の成分のMALDI-TOF-MS測定の結果を
図11に示す。なお、
図11(B)の左側▼の位置のピークは、2004.8m/z(n=45、環状PEG由来のNa
+付加体イオン)であり、右側▼の位置のピークは、2022.9m/z(n=45、線状PEG由来のNa
+付加体イオン)である。
図11(A)に示されるように、フラクション2には、分子量2000を中心に、44×n+23+18に対応するピーク群が観測された。これらは線状PEGに対応するピークである。フラクション2には、環状PEGに由来するピークも僅かながら検出されたため(
図11(B))、少量の環化体が混在していると考えられるが、フラクション2の成分のGPC分析結果(
図9)では環状単量体に由来するピークは見られないため、フラクション2への環状PEGの混入量はごく僅かであることが理解できる。
【0111】
<比較例1>
比較例1においては、再沈殿法によって、粗生成物から環状PEGのみを分離し、精製することを試みた。この方法においては、環状PEGが線状PEGよりもわずかだけ有機溶媒への溶解性が高いことを利用し、トルエン(PEGの良溶媒)とヘプタン(PEGの貧溶媒)の混合溶液へ粗生成物を加熱溶解させ、冷却過程で先に沈殿してきた物質(線状PEGが主成分)を除去し分離した。結果的に残った溶液中には環状PEGが多く存在する。
【0112】
まず、実施例1に記載した方法で得た粗生成物(環状PEGおよび線状PEGの混合物)を250mLのトルエンに溶解した。この溶液を25℃で攪拌しながら、溶液が濁るまでヘプタンをゆっくりと加えた。これを濁りが消えるまで加熱し、静かに攪拌しながら25℃までゆっくりと冷却した。生じた沈殿を遠心分離で取り除き、残った上澄み溶液からロータリーエバポレーターと真空ポンプによって溶媒を除去し、少量の固体を得た(化合物A)。得た固体の重量は、精製に用いた粗生成物の重量の1割であった。
【0113】
得られた固体化合物(化合物A)のGPC(
図12)、
13C-NMR(
図13)の結果を以下に示す。GPCのクロマトグラムでは、二種類のピークが観測され、先に溶出した化合物が線状PEG(未反応物)、および後に溶出した化合物が環状PEGに対応した。すなわち、再沈殿方で精製し、得られた固体は、両者の混合物であることが確認された。高分子量の線状副生成物は本手法で完全に取り除くことが出来たが、一方、未反応の線状PEGと環状PEGを分離することはできなかった。
【0114】
また、化合物Aの
13C-NMRを測定したところ、61.8ppmと72.5ppmに末端炭素に由来するシグナルが観測され、この化合物Aは線状PEGを含んでいることが確認された(
図13)。なお、67.5ppm付近のピークは、副生成物の1,4-ジオキサンによるものであると考えられる。これらの結果から、比較例1に係る方法では環状PEGと線状PEGを完全に分離することは極めて困難であることが理解できる。