(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】排ガスの冷却装置、フラーレンの製造装置及びフラーレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/154 20170101AFI20240319BHJP
【FI】
C01B32/154
(21)【出願番号】P 2019237631
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】末國 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】飯野 匡
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-008456(JP,A)
【文献】特開2005-170695(JP,A)
【文献】特開2005-060196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B01F 21/00-25/90
B01F 35/00-35/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼法によるフラーレンの生成に用いられる反応炉から排出される排ガスを冷却する冷却装置であって、
前記冷却装置は、
筒状の形状を有する冷却装置本体と、
不活性ガスを前記冷却装置本体
内に流入させる不活性ガス流入手段と
、
を有し、
前記冷却装置本体は、
前記反応炉の下部の排出部に直接接続された排ガス流入口と、
排ガス流出口と、
前記排ガス流入口及び前記排ガス流出口を形成する側壁と
、
を備え、
前記側壁には
二ケ所以上の不活性ガス流入口が設けられており、
前記二ケ所以上の不活性ガス流入口が、前記排ガスの流れる方向に対して垂直である同一断面上に設けられ、
前記不活性ガス流入手段は、前記反応炉から排出される排ガスの流れの中心に向かわない方向に、前記
二ケ所以上の不活性ガス流入口から不活性ガスを流入させる、排ガスの冷却装置。
【請求項2】
前記不活性ガス流入手段は、前記不活性ガス流入口に接続された不活性ガス流入管を備える、請求項1に記載の排ガスの冷却装置。
【請求項3】
前記排ガスの流れる方向において、前記不活性ガスを流入させる方向と、前記排ガスの流れる方向とのなす角度が、40~110°である、請求項1
又は2に記載の排ガスの冷却装置。
【請求項4】
前記不活性ガスが冷却されている、請求項1~
3のいずれか一項に記載の排ガスの冷却装置。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の排ガスの冷却装置を有する、フラーレンの製造装置。
【請求項6】
反応炉において燃焼法によ
りフラーレンを生成するフラーレンの製造方法であって、
前記反応炉から排出される排ガスを冷却装置で冷却する工程を含み、
前記冷却装置は、
筒状の形状を有する冷却装置本体と、
不活性ガスを前記冷却装置本体内に流入させる不活性ガス流入手段と、
を有し、
前記冷却装置本体は、
前記反応炉の下部の排出部に直接接続された排ガス流入口と、
排ガス流出口と、
前記排ガス流入口及び前記排ガス流出口を形成する側壁と、
を備え、
前記側壁には二ケ所以上の不活性ガス流入口が設けられており、
前記二ケ所以上の不活性ガス流入口が、前記排ガスの流れる方向に対して垂直である同一断面上に設けられ、
前記冷却する工程は、前記不活性ガス流入手段により、前記反応炉から排出される
前記排ガスの流れの中心に向かわない方向に
、前記二ケ所以上の不活性ガス流入口から不活性ガスを
前記冷却装置本体内に流
入させ、前記排ガスを前記不活性ガスで冷却する工程を含む、フラーレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレンの生成に用いられる反応炉から排出される排ガスを冷却する排ガスの冷却装置、当該排ガスの冷却装置を備えるフラーレンの製造装置及びフラーレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラーレンを安価に効率よく大量に製造する方法として、炭素化合物を反応炉内で不完全燃焼させてフラーレンを製造する燃焼法が知られている(例えば、特許文献1参照)。生成したフラーレンは主に煤状物質に含まれる。煤状物質が排ガスと共に、反応炉から排出されて、フラーレン回収装置で回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたフラーレンの製造装置を用いて、燃焼法でフラーレンを製造すると、フラーレンの収率は高くない。その原因の一つは、フラーレン回収装置に到達した時点のフラーレン含有煤状物質を含む排ガスの温度が高く、フラーレン回収装置でフラーレンが分解又は昇華してしまうことだと考えられる。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、フラーレンの収率を向上させることができる、排ガスの冷却装置(以下、「冷却装置」ともいう)、当該冷却装置を備えたフラーレンの製造装置及びフラーレンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、上記課題を解決する、排ガスの冷却装置、当該冷却装置を備えたフラーレンの製造装置及びフラーレンの製造方法を見出した。具体的には以下のとおりである。
(1) 燃焼法によるフラーレンの生成に用いられる反応炉から排出される排ガスを冷却する冷却装置であって、前記冷却装置は、冷却装置本体と、不活性ガスを前記冷却装置本体に流入させる不活性ガス流入手段とを有し、前記冷却装置本体は、排ガス流入口と、排ガス流出口と、前記排ガス流入口及び前記排ガス流出口を形成する側壁とを備え、前記側壁には不活性ガス流入口が設けられており、前記不活性ガス流入手段は、前記反応炉から排出される排ガスの流れの中心に向かわない方向に、前記不活性ガス流入口から不活性ガスを流入させる、排ガスの冷却装置。
(2) 前記不活性ガス流入手段は、前記不活性ガス流入口に接続された不活性ガス流入管を備える、(1)に記載の排ガスの冷却装置。
(3) 前記不活性ガス流入口が、前記側壁に二ケ所以上設けられている、(1)または(2)に記載の排ガスの冷却装置。
(4) 前記二ケ所以上の不活性ガス流入口が、前記排ガスの流れる方向に対して垂直である同一断面上に設けられている、(3)に記載の排ガスの冷却装置。
(5) 前記排ガスの流れる方向において、前記不活性ガスを流入させる方向と、前記排ガスの流れる方向とのなす角度が、40~110°である、(1)~(4)のいずれか一項に記載の排ガスの冷却装置。
(6) 前記不活性ガスが冷却されている、(1)~(5)のいずれか一項に記載の排ガスの冷却装置。
(7) (1)~(6)のいずれか一項に記載の排ガスの冷却装置を有する、フラーレンの製造装置。
(8) 燃焼法によるフラーレンの製造方法であって、反応炉から排出される排ガスの流れの中心に向かわない方向に不活性ガスを流す工程を含む、フラーレンの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フラーレンの収率を向上させることができる、排ガスの冷却装置、当該冷却装置を備えたフラーレンの製造装置及びフラーレンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態のフラーレンの製造装置10の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態の冷却装置31の一例を示す図である。
【
図3】本実施形態の一実施形態である、不活性ガス流入口36から流入させる不活性ガスの流れ方向を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施例で用いた不活性ガス流入口36の配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が同一であるとは限らない。
【0010】
図1に、本実施形態に関する、燃焼法によるフラーレンの製造装置の一例を示す。
【0011】
本実施形態に関するフラーレンの製造装置10は、
図1に示すように、燃焼法によるフラーレンの生成に用いられる反応炉11と、フラーレン反応炉11の下部のガス排出部12に接続され、フラーレン反応炉11内からフラーレンを含む高温のガスを通過させる冷却装置31及び配管41と、排ガスが流入して排ガス中からフラーレンを含有する煤状物質を捕集するフラーレン回収装置16と、フラーレン回収装置16から流出する、フラーレンを含有する煤状物質が取り除かれたガスを冷却するガス冷却器17と、ガス冷却器17によって降温されたガスを吸引する真空ポンプからなる減圧装置18と、を備える。
図1では、反応炉11は鉛直方向に配置され、上方から燃料ガスが流入するが、水平方向でも斜め方向でも構わない。反応炉11は、反応炉11内で生成した煤状物の滞留の影響が少ない鉛直方向が好ましく、燃料ガスは上方から流入させるのが好ましい。
【0012】
反応炉11は円筒形状であり、例えば、ジルコニア、モリブデン、タンタル、白金、チタン、窒化チタン、アルミナ等の耐熱材料で構成され、その外側の一部又は全部には、例えばアルミナ質の耐火煉瓦やアルミナ質の不定形耐火材等の断熱材14がライニングされている。
反応炉11の上方には、燃料ガスと酸素含有ガスを供給するバーナー13が設けられている。バーナー13は、燃料ガスを供給する燃料ガス供給配管20と、燃料ガス中の原料炭化水素ガスの燃焼に必要な酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給配管21が接続されている。さらにバーナー13は、供給された燃料ガス及び酸素含有ガスから混合ガスを作製する混合室と、得られた混合ガスを所定の圧力(例えば、50~200トール、好ましくは、100~150トール)で保持する蓄圧室と、混合ガスが吐出する複数の吐出口が設けられた吐出部を備える。吐出部としては、種々の形態のものを用いることができるが、良好なガス流を得るためには、口径が小さい吐出口が多数集合した形態のものが好ましく、例えば、口径が0.1~5mmの吐出口を多数設ける場合には、吐出口の開口面積の合計は、吐出口が分布している領域の横断面積に対して、10~95%、好ましくは50~95%である。なお、バーナー13は混合室を設けず、燃料ガスと酸素含有ガスをそれぞれ独立にフラーレン反応炉11内に導入してもよい。
【0013】
反応炉11で、バーナー13を用いて、燃料ガスを酸素含有ガスの下で燃焼させることにより、フラーレンの生成と共に、煤状物質、一酸化炭素ガス、水蒸気等が発生する。生成したフラーレンは主に煤状物質中に含有されている。排ガスには、フラーレンを含む煤状物質が存在し、排ガスは、反応炉11の排出部12から排出されて冷却装置31を通過する。反応炉11から排出される排ガスの温度は、通常1300℃~1900℃である。
【0014】
燃料ガスとしては、例えば、ガス状又はガス化させたトルエン、ベンゼン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6~15の芳香族炭化水素、クレオソート油、カルボン酸油等の石炭系炭化水素、アセチレン系不飽和炭化水素、エチレン系炭化水素、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族飽和炭化水素等が挙げられ、二種以上が併用されてもよい。これらの中でも、芳香族炭化水素が好ましい。なお、燃料ガスは、必要に応じて、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスで希釈されていてもよい。
【0015】
酸素含有ガスとしては、例えば、酸素ガス、空気等が挙げられる。なお、酸素ガスは、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスで希釈されていてもよい。
【0016】
冷却装置31は、
図2に示すように、冷却装置本体34と不活性ガスを流入させる不活性ガス流入手段により構成され、冷却装置本体34は排ガス流入口32と、排ガス流出口33と、前記排ガス流入口32及び前記排ガス流出口33を形成させる側壁37とを備える。反応炉11の下部の排出部12が冷却装置31の排ガス流入口32と接続する。冷却装置31の排ガス流出口33は配管41と接続する。冷却装置本体34は、円筒状であり、ステンレス鋼等の耐熱鋼で構成されている。不活性ガス流入口36が側壁37に設けられている。また、冷却装置本体34の外側に水冷ジャケット等の冷却手段が設けられていてもよい。
【0017】
不活性ガス流入手段は、不活性ガス流入口36から排ガスの流れの中心に向わない方向に不活性ガスを流入させる。「排ガスの流れ」とは、実際のガスの流れではなく、反応炉11から排出され、冷却装置本体34及び配管41を通り、フラーレン回収装置16に向かう流れを指す(後述する中心軸Bに沿った流れ)。本実施形態において、排ガスの流れの中心に向かわない方向とは、
図3(a)に示すように、不活性ガス流入口36の中心Gを含み、冷却装置本体34の中心軸Bに対して垂直である断面Hにおいて、不活性ガスの流れる方向GKの断面Hへの投影GK
1と、不活性ガス流入口36の中心Gから断面Hの中心L(冷却装置本体34の中心軸Bと断面Hとの交点)に向かう方向GLとのなす角θ
1の角度が20°~90°(-20°~-90°)である場合をいう。
「不活性ガスを流入させる」とは、不活性ガスを不活性ガス流入口から冷却装置31内に移動させることをいい、不活性ガスを不活性ガス流入口から冷却装置31内に流出させるともいい、不活性ガスを冷却装置31内に流すともいう。
不活性ガス流入口36から排ガスの流れの中心に向かわない方向に不活性ガスを流入させることにより、排ガスの冷却効果を向上することができ、ひいてはフラーレンの収率を向上させることができる。
【0018】
不活性ガス流入口36から不活性ガスを流入させる方向は、排ガスの流れる方向において、不活性ガスを流入させる方向と排ガスの流れる方向とのなす角θ
2の角度は40°~110°であることが好ましい。「排ガスの流れる方向」とは、冷却設備31及び配管41の中の実際のガスの流れではなく、反応炉11から排出され、冷却装置31の冷却装置本体34及び配管41を通り、フラーレン回収装置16に向かって、流れる方向を指す(中心軸Bに沿う方向)。本実施形態において、具体的には、
図3(b)に示すように、不活性ガス流入口36の中心Gと冷却装置31の冷却装置本体34の中心軸Bを通る断面Mにおいて、不活性ガスの流れる方向GKの断面Mへの投影GK
2と、冷却装置本体34の中心軸Bとのなす角θ
2の角度は40°~110°であることが好ましい。θ
2がこの角度の範囲内であれば、不活性ガスが反応炉11内の燃料ガスの流れを乱す影響が少なくなるため、燃料ガスの燃焼火炎を安定させることが出来ることに加えて、冷却装置31における排ガスの滞留時間が長くなり、その結果、排ガスの冷却効果が高まる。
【0019】
なお、不活性ガス流入口36は二ケ所以上備えられていることが好ましい。二ケ所以上の不活性ガス流入口36が、排ガスの流れる方向に対して垂直である同一断面上に設けられていることがより好ましい。二ケ所以上の不活性ガス流入口が同一断面の円周上に均等に配置されていることがさらに好ましい。二ケ所以上の不活性ガス流入口36から不活性ガスを流入させると、排ガスを均一に冷却することができ、排ガスの冷却効果を向上させることができる。
【0020】
不活性ガス流入手段は不活性ガス流入口36と接続される不活性ガス流入管35を備える。不活性ガス流入管35としては、例えばステンレス鋼製の配管が例としてあげられる。通常、不活性ガス流入口36を起点とする、不活性ガス流入管35の冷却装置本体34の内部への延長方向が、不活性ガス流入口36から不活性ガスを流入させる方向になる。
【0021】
不活性ガスを冷却装置31内に流入させる方法としては、不活性ガスを、例えば不活性ガスボンベにより供給する方法があげられるが、これに限定されない。流入させる不活性ガスの流量は排ガス流量の0.5~10倍が好ましい。流入させる不活性ガスの流量が排ガス流量の0.5倍以上であれば、冷却効果が得られる。流入させる不活性ガスの流量が排ガス流量の10倍以下であれば、減圧装置18の真空ポンプに大きな負荷をかけずに冷却をすることができる。
【0022】
不活性ガスとしては、排ガスと反応しないガスであれば特に限定されない。例えば、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガス等があげられる。不活性ガスの温度は、200℃以下であることが好ましく、室温の不活性ガスを用いることがより好ましい。なお、不活性ガスは、室温より低い温度に冷却されていてもよい。この場合は、排ガスの冷却効果がより高まる。
【0023】
本発明の一実施形態に関する冷却装置31によれば、反応炉11から排出される1300℃~1900℃のフラーレン含有煤状物質を含有する排ガスを400℃~1000℃まで冷却することができる。
【0024】
冷却装置31の排ガス流出口33は配管41と接続する。配管41は、例えば、ステンレス鋼管を用いることができる。冷却装置31を通過した排ガスをさらに冷却するため、配管41の全部または少なくとも一部に冷却手段を設けること好ましい。冷却手段としては、例えば、配管41の外側に水冷ジャケット42を設けることができる。また、配管41を通過する排ガスの流速は、反応炉11内から落下した付着物が配管41内に堆積しないようにするために、通常、15~200m/秒であり、35~70m/秒であることが好ましい。冷却装置34及び配管41を通過した排ガスは、250℃以下まで冷却される。
【0025】
配管41の下流側端部は、
図1に示した通り、フラーレン回収装置16の上部周壁に接線方向に接続されている。フラーレン回収装置16は、排ガス中のフラーレンを含む煤状物質とガスを分離する高温耐熱フィルター22を備える。高温耐熱フィルター22は、排ガス中の未反応の燃料ガス、一酸化炭素ガス、水蒸気等のガスを通過させて、フラーレンを含む煤状物質を回収する。
【0026】
高温耐熱フィルター22は、通常の集塵機等に使用されるバッグフィルター構造で構成されることが好ましい。高温耐熱フィルター22の耐熱温度は、200℃~600℃のフィルターが好ましい。高温耐熱フィルター22に用いられる物質としては、PTFE(ポリテトラフロロエチレン)、アラミド繊維、PPS(ポリフェニレンスルフィド)等の樹脂があげられる。また、高温耐熱フィルター22は汎用されているものを用いることができ、市販品としては、例えば、焼結金属フィルター(日本ポール製)、焼結金属フィルター(富士フィルター製)等があげられる。
【0027】
本実施形態では、反応炉11から排出される排ガスは、フラーレン回収装置16に至るまでに、400℃以下、好ましくは250℃以下まで冷却されるため、高温耐熱フィルター22の劣化を防ぎ、耐用時間を長くすることができる。これにより、フラーレンをより安定して製造することができる。
【0028】
図1ではフラーレン回収装置16の上部に、付着したフラーレンを含む煤状物質を落下させる逆洗浄機構23が設けられている。逆洗浄機構23は、高圧の不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス)等を貯留するタンク24と、電磁弁25と、排出弁26を有する。電磁弁25を定期的に短時間開けることにより、高温耐熱フィルター22内に不活性ガスを入れ、高温耐熱フィルター22に付着したフラーレンを含む煤状物質を落下させ、排出弁26を開けて、フラーレンを含む煤状物質を外部に排出する。このように、フラーレンを含む煤状物質は、非酸化性雰囲気で保持されている。
【0029】
フラーレン回収装置16は、配管27を介して、ガス冷却器17と接続されている。ガス冷却器17は、通常の熱交換器と同一又は類似の構造であり、ガス冷却器内17のガスの温度を低下させて真空ポンプ18に流入することにより、ガスを減容すると共に、真空ポンプ18の負荷を低減させる。また、ガス冷却器17は、ガス中の未反応の燃料ガス、水蒸気を液化させ、ガス冷却器17の下部のドレーン28から排出させる。
【0030】
本発明において、冷却装置31を用いて、燃焼法によるフラーレンの製造方法が供される。具体的に、反応炉11から排出される排ガスの流れの中心に向かわない方向に不活性ガスを流す工程を含む、フラーレンの製造方法が供される。
【0031】
以下の実施例及び比較例により、本実施形態の効果をより明らかなものとする。なお、本実施形態は、実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【実施例】
【0032】
実施例1~11では、
図1のフラーレンの製造装置10を用いて、フラーレンを生成した。比較例1では、
図1の冷却装置31を有しないフラーレンの製造装置(すなわち、ガス排出部12が配管41と直接接続する)を用いて、フラーレンを生成した。回収した煤状物質中のフラーレンの含有率を測定して、フラーレンの収率を算出した。
【0033】
実施例及び比較例で用いた反応炉11はジルコニア製で、長さは1500mm、内径は54mmであった。運転の際、反応炉11の炉内圧力は5.33kPaであった。反応炉11内のバーナーの吐出部は、外径が52mmの円板状の多孔質のセラミック焼結体で構成されており、このセラミック焼結体には直径1~2mmほどの孔が吐出口として約450~700個形成されている。
【0034】
実施例及び比較例ともに燃料ガスとしてガス状にしたトルエンを用い、酸素含有ガスとして純酸素を用い、両者の混合ガスを作製して、130℃でバーナーに供給した。冷却用の不活性ガスとして25℃の窒素ガスを用い、窒素ガスボンベにより供給した。窒素ガスの流量は、マスフローメーターでコントロールすることにより調整した。
【0035】
冷却装置31の冷却装置本体34は耐熱ステンレス鋼製の円筒で、長さは150mm、内径は54mmである。冷却装置31の側壁37には、ステンレス鋼製の内径は6mm、長さは150mmの不活性ガス流入管35が備わっている。不活性ガス流入口36の内径は6mmであった。
【0036】
実施例1~11の不活性ガス流入口36は、
図4で示すように、以下のパターンA~Bで設置された。
【0037】
パターンA:
図4(a)に示すような、a-1~a-4四ケ所に不活性ガス流入口36が設置された。ここで、四ケ所の不活性ガス流入口36の中心は、冷却装置本体34の中心軸に対して垂直な同一断面に位置するように配置した。前記断面と、冷却装置31の排ガス流入口32との垂直距離は30mmであった。
【0038】
パターンB:
図4(b)に示すように、
図4(a)に加えて、さらにb-1~b-4の四ケ所にも不活性ガス流入口36を設置した。b-1~b-4の四ケ所の位置は、
図4(b)に示すように、r1:r2=1:2となるようにした。ここで、a-1~a-4とb-1~b-4の計八ケ所の各々の不活性ガス流入口36の中心が、冷却装置本体34の中心軸に対して垂直である同一断面上に位置していた。また、前記断面と、冷却装置31の排ガス流入口32との垂直距離は30mmであった。
【0039】
実施例1~11の不活性ガス流入口36の設置パターン、及び不活性ガスを流入させる方向を表1に示す。
実施例1~7において、a-1~a-4の四ケ所の不活性ガス流入口36から流入させた不活性ガスの流量は、いずれも同量とした。実施例8~11において、a-1~a-4とb-1~b-4の八ケ所についても、不活性ガスの流量はいずれも同量とした。
【0040】
配管41は、ステンレス鋼製のパイプであり、内径は80mm、長さは5000mmであった。配管の外側には水冷ジャケット42を設け、この水冷ジャケットに室温(約23℃)の水を流して配管を水冷した。水の流量は2.4m3/時間であった。
【0041】
排ガス温度は、排出部12にて測定した。
実施例1~11では、冷却装置31を通過した排ガス温度(以下、「冷却後排ガス温度1」という)は、不活性ガス流入口の中心位置から、フラーレン回収装置16に向かう方向の50mmの位置で測定された。
フラーレン回収装置に到達する時点の排ガス温度(以下、「冷却後排ガス温度2」という)はフラーレン回収装置16と配管41の接続部で測定された。
【0042】
また、以下の表2に、排ガス温度、燃料ガス流量、酸素ガス流量、窒素ガス総流量を示す。
【0043】
〔フラーレン収率の算出〕
フラーレン回収装置16で回収した煤状物に含まれるフラーレン(FLN)の含有率の測定は、JIS Z 8981に準拠して、以下のように行った。それぞれの実施例及び比較例で回収した煤状物0.05gに対して、15gの1,2,3,5-テトラメチルベンゼン(TMB)を添加し、15分間超音波処理をした。得られた懸濁液を孔径0.5μmメンブランフイルターで濾過した。得られた抽出液を高速液体クロマトグラフ(HPLC)で分析して、煤状物質に含まれるフラーレン(C60、C70)を定量し、フラーレン含有率(得られた煤状物に対するフラーレン量(質量%))を算出した。フラーレンは、あらかじめ既知濃度のフラーレンを用いて検量線を作成しておき、定量した。
HPLCの測定条件は以下のとおりであった。
装置:Infinity1260(Agilent製)
試料液の注入量: 5μL
溶離液の流量 47体積比(vol%)トルエン/メタノール 1mL/分
カラム:YMC-Pack ODS-AM 100*4.6mmID S-3μm,12nm
測定温度: 40℃
ディテクタ:UV 325nm(JIS)
得られたFLN含有率からフラーレン(FLN)収率を以下のように算出して、得られた結果を表2に示す。
FLN収率(%)=(煤状物質回収量(g)/燃料消費量(g))×FLN含有率(%)
【0044】
【0045】
表2に、実施例1~11並びに比較例1の冷却後排ガス温度1、冷却後排ガス温度2及びFLNの収率をそれぞれ示す。
表2によれば、冷却装置31を用いて不活性ガスを流入させることにより、フラーレン回収装置16に到達した時の排ガス温度(冷却後排ガス温度2)を260℃以下まで冷却することができた。フラーレン収率は、比較例と比較すると、有意に向上していることが示された。
【符号の説明】
【0046】
10 フラーレンの製造装置
11 反応炉
12 排出部
16 フラーレン回収装置
31 冷却装置
32 排ガス流入口
33 排ガス流出口
34 冷却装置本体
35 不活性ガス流入管
36 不活性ガス流入口
37 側壁
41 配管
42 水冷ジャケット
a-1~a-4 不活性ガス流入口配置位置
b-1~b-4 不活性ガス流入口配置位置