(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240319BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240319BHJP
H01L 21/56 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/00 L
H01L21/56 R
(21)【出願番号】P 2020019006
(22)【出願日】2020-02-06
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄三
(72)【発明者】
【氏名】棟 泰人
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-148008(JP,A)
【文献】特開2006-264136(JP,A)
【文献】国際公開第2012/077571(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/168008(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/032683(WO,A1)
【文献】特開2006-326902(JP,A)
【文献】特開2016-030378(JP,A)
【文献】製品情報 サンワックス 151-P,2023年06月19日,https://www.sanyo-chemical.co.jp/products/184/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H01L 21/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの表面に塗布層を備え、塗布層がワックスを含有する塗布液から形成されてなり、塗布液中の全不揮発成分に占める割合として、前記ワックスの含有量が1質量%以上40質量%以下であり、前記ワックスの軟化点が90℃以上である積層ポリエステルフィルムであって、
前記塗布層側表面の平均表面粗さ(Ra)が0.2μm以上であり、半導体のモールド工程用フィルムとして用いる、積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記塗布液中に架橋剤が含有される請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記塗布液中の全不揮発成分に占める割合として、前記架橋剤の含有量が20質量%以上70質量%以下である請求項2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記架橋剤がメラミン化合物、オキサゾリン化合物及びエポキシ化合物から選択される少なくとも1種である請求項2又は3に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記塗布層の膜厚が0.002μm以上1.0μm以下である請求項1~4のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記積層ポリエステルフィルムの前記塗布層が設けられた面とは反対側の面に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート80質量部、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート20質量部、光重合開始剤(商品名:イルガキュア184、チバスペシャルティケミカルズ株式会社製)5質量部、及びメチルエチルケトン200質量部からなる混合塗液を乾燥後の厚さが3μmになるように塗布して乾燥させ、かつ紫外線を照射して硬化させハードコート層を形成して試料フィルムとし、
この試料フィルムの、窒素雰囲気下、150℃、90分間の加熱処理前後における塗布層側のフィルムヘーズ変化量が1.5%以下である請求項1~5のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記ポリエステルフィルムが粒子含有層A、基材層及び粒子含有層Bをこの順に備え、前記塗布層をポリエステルフィルムの粒子含有層A側表面に備える請求項1~6のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記ポリエステルフィルムの厚さに対する基材層の厚さの割合((基材層の厚さ)/(ポリエステルフィルムの厚さ))が、0.60以上0.99以下である請求項7に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルムを離型フィルムとして用い、
リードフレーム上に配置した半導体チップを、一方の金型Aの半導体パッケージ成形用空間部に挿合させた後、前記離型フィルム及びもう一方の金型Bを順次位置させ、
次いで、前記離型フィルムがリードフレーム表面に密着されるよう金型Aと金型Bとをクランプさせた後、溶融されたモールド樹脂を前記半導体パッケージ成形用空間部内に充填させて硬化させることを特徴とする、半導体パッケージの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムの表面に塗布層を備える積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、機械的強度、寸法安定性、平坦性、耐熱性、耐薬品性、光学特性等に優れた特性を有し、コストパフォーマンスに優れるため、各種用途に使用されている。
【0003】
近年、ポリエステルフィルムの用途の多様化によって上記以外の特性も求められるようになってきており、例えば半導体のモールド工程用としてポリエステルフィルムが用いられる場合には、前記の特性に加えて、金型との剥離性の向上や、ポリエステルフィルムに含まれるオリゴマー成分(エステル環状三量体成分)の金型への転着を抑えることが求められる場合がある。
【0004】
前記要求に対し、例えば特許文献1には、粒子とオリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルを用いて得られる、表面光沢度が低いポリエステルフィルムが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に架橋剤及び離型剤を含有する塗布層を備える積層ポリエステルフィルムであり、フィルム表面のオリゴマー成分の析出を抑え、適度な撥水性を有するフィルムが開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のポリエステルフィルムは固有粘度が高いポリエステルを用いることから押出成形が困難になり、生産効率の悪化が懸念される。また、半導体のモールド工程においてポリエステルフィルムが直接金型と接触することになるため、剥離性やオリゴマー成分の金型への転着抑制が十分でないことも懸念される。
また、特許文献2に記載の積層ポリエステルフィルムは、フィルム表面のオリゴマー成分の析出は抑えることができるものの、オリゴマー成分の金型への転着抑制が十分でないことが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-179334号公報
【文献】特開2016-30378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、例えば半導体のモールド工程に用いる積層ポリエステルフィルムに関し、オリゴマー成分による汚染が抑制される積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、特定の構成からなる積層ポリエステルフィルムを用いれば、上記の課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面に塗布層を備え、塗布層がワックスを含有する塗布液から形成されてなり、塗布液中の全不揮発成分に占める割合として、ワックスが1質量%以上40質量%以下であり、ワックスの軟化点が90℃以上であることを特徴とする積層ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば半導体のモールド工程用の離型フィルムとして用いた場合に、オリゴマー成分による汚染が抑制される積層ポリエステルフィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。ただし、本発明は次に説明する実施形態例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0013】
本発明の積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムは、単層構造であっても多層構造であってもよい。多層構造の場合、2層構造、3層構造などでもよいし、本発明の要旨を逸脱しない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、層数は特に限定されない。また、ポリエステルフィルムは二軸延伸ポリエステルフィルムが好ましい。
【0014】
使用するポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。
ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が例示される。
一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸及びオキシカルボン酸等の1種または2種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、4-シクロヘキサンジメタノール及びネオペンチルグリコール等の1種または2種以上が挙げられる。効果的にポリエステルフィルムの表面粗さを大きくするという観点から、含有される第三成分がイソフタル酸であることが好ましい。
共重合ポリエステルは、含有される第三成分は30モル%以下であるのが好ましく、中でも5モル%以上30モル%以下、その中でも25モル%以下、その中でも特に7モル%以上22モル%以下であるのがさらに好ましい。この範囲にあることにより、製膜安定性を維持しつつ、効果的にポリエステルフィルムの表面粗さを大きくすることができる。
【0015】
代表的なポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)等を例示することができる。
【0016】
ポリエステルの重合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えばチタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物等が挙げられる。その中でも、チタン化合物及びゲルマニウム化合物は触媒活性が高く、少量で重合を行うことが可能である。そのため、フィルム中に残留する金属量が少ないことから、積層ポリエステルフィルムを透過する光の吸収が抑制され、積層ポリエステルフィルムの輝度が高くなる。さらに、ゲルマニウム化合物は高価であることから、チタン化合物を用いることがより好ましい。
【0017】
チタン化合物を用いたポリエステルの場合、ポリエステルフィルムにおけるチタン元素含有量は、好ましくは50ppm以下、より好ましくは1~20ppm、さらに好ましくは2~10ppmの範囲である。なお、チタン元素含有量は、ポリエステルフィルムが多層である場合には、各層におけるチタン元素含有量が上記範囲内となるとよい。チタン化合物の含有量を上記上限値以下とすることで、ポリエステルを溶融押出する工程でポリエステルの劣化が防止され黄色味が強いフィルムとなることを防止できる。また、含有量を上記下限値以上とすると、重合効率が良好となって、コストが低くなり、また十分な強度を有するフィルムを得やすくなる。
【0018】
チタン化合物を含有するポリエステルを用いる場合、溶融押出する工程での劣化抑制の目的で、チタン化合物の活性を下げるためにリン化合物をポリエステルに配合することが好ましい。リン化合物としては、ポリエステルの生産性や熱安定性を考慮すると、正リン酸、エチルアシッドフォスフェートなどのアルキルアシッドフォスフェートが好ましい。
ポリエステルフィルムにおけるリン元素含有量は、好ましくは1~300ppm、より好ましくは3~200ppm、さらに好ましくは5~100ppmの範囲である。リン化合物の含有量を上記上限値以下とすることで、リン化合物がゲル化や異物の原因となることを防止できる。また、上記下限値以上とすることで、チタン化合物の活性を十分に下げることができ、黄色味のあるフィルムとなることを防止できる。
なお、リン元素含有量は、ポリエステルフィルムが多層である場合には、チタン元素を含有する層におけるリン元素含有量が上記範囲内となるとよい。
【0019】
本発明においては、オリゴマー成分の析出量を抑えるために、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルを原料としてフィルムを製造してもよい。オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルの製造方法としては、種々公知の方法を用いることができ、例えばポリエステル製造後に固相重合する方法等が挙げられる。
また、ポリエステルフィルムを3層以上の構成とし、ポリエステルフィルムの最外層を、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステル原料を用いた層とすることで、オリゴマー成分の析出量を抑えてもよい。
また、ポリエスエルは、エステル化もしくはエステル交換反応をした後に、さらに反応温度を高くして減圧下で溶融重縮合して得てもよい。
【0020】
本発明の積層ポリエステルフィルムを半導体のモールド工程用の離型フィルムとして用いた場合、金型からの離型性を向上させるために、ポリエステルフィルムは粒子含有層Aを備えることが好ましい。
本発明におけるポリエステルフィルムが粒子含有層Aを備える場合、ポリエステルフィルムの構成としては、粒子含有層Aのみからなるものであってもよいし、基材層の片面側又は両面側に粒子含有層Aを備えたものであってもよい。後者の具体例としては、例えば基材層の両面側に粒子含有層Aを備えたものであってもよいし、基材層の一面側に粒子含有層Aを備え、基材層の他面側には粒子含有層Aとは異なる粒子含有層Bを形成したものであってもよいし、基材層の一面側に粒子含有層Aを備え、基材層の他面側には層を形成しないものであってもよいし、また、基材層の一面側に粒子含有層Aを備え、基材層の他面側には粒子を含有しない層を形成したものであってもよい。
中でも、ポリエステルフィルムは、基材層の一面側に粒子含有層Aを備え、基材層の他面側には粒子含有層Aとは異なる粒子含有層Bを形成した構成、すなわち、粒子含有層A、基材層及び粒子含有層Bをこの順に備える構成が、フィルムのカールが抑制され、且つハンドリング性が良好であるため好ましい。
【0021】
上記粒子含有層Aや、粒子含有層B、基材層及び粒子を含有しない層は、ポリエステルを主成分樹脂とする層であるのが好ましい。
ここで、「主成分樹脂」とは、各層を構成する樹脂成分のうちで最も含有割合の多い樹脂の意味である。
各層で使用するポリエステルは、上述したポリエステルを用いることができる。
【0022】
粒子含有層Aは層中に粒子を含有する層である。
【0023】
粒子含有層Aが含有する粒子の平均粒径は2.0μm以上であることが好ましい。粒子含有層Aが平均粒径2.0μm以上の粒子を含有することにより、ポリエステルフィルムの粒子含有層A側表面を粗面化することができ、マット調とすることができる。但し、粒子の平均粒径が大き過ぎると、フィルム製造時のポリエステル押出工程におけるフィルターの圧力上昇が大きくなり生産性が低下する可能性がある。よって、粒子の平均粒径は2.0μm以上であるのが好ましく、中でも10.0μm以下、その中でも3.0μm以上9.0μm以下、その中でも4.0μm以上8.0μm以下であるのがさらに好ましい。
【0024】
粒子の平均粒径は、粒子が粉体の場合には、遠心沈降式粒度分布測定装置(例えば株式会社島津製作所社製、SA-CP3型)を用いて粉体を測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒径(d50)を平均粒径とすることができる。フィルム又は層中の粒子の平均粒径については、10個以上の粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)観察して粒子の直径を測定し、その平均値として求めることができる。その際、非球状粒子の場合は、最長径と最短径の平均値を各粒子の直径として測定することができる。後述する粒子についても同様である。
【0025】
粒子含有層Aが含有する粒子の形状は任意である。例えば球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれでもよい。但し、均一なマット面を得られるという観点から、球状であるのが好ましい。
粒子の硬度、比重、色等については特に制限はないし、種類の異なる2種類以上を併用してもよい。
【0026】
粒子含有層Aが含有する粒子は、ポリエステルフィルムの粒子含有層A側表面を粗面化可能な粒子であれば特に限定されるものではない。例えば無機粒子であっても、有機粒子であっても、架橋高分子粒子であってもよい。
無機粒子は、延伸した際にフィルムにボイドを形成することがあり、より粗面化できやすいという観点から好ましく、有機粒子はボイドが生じにくいためにフィルムの強度が下がらないという観点で好ましい。
【0027】
無機粒子としては、例えばシリカ、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト及び硫化モリブデンなどを挙げることができる。 なお、上記シリカ粒子は、二酸化ケイ素(SiO2)の他にも、例えば含水二酸化ケイ素などを含んでいてもよい。
【0028】
有機粒子としては、例えばアクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及びベンゾグアナミン樹脂等を挙げることができる。
中でも、メタクリル酸メチル又はスチレン又は両方を共重合成分とする樹脂からなる粒子は、特にポリエステルフィルムとの相性が良いため、好ましい。
【0029】
架橋高分子粒子としては、例えばジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、及びアクリル酸またはメタクリル酸のビニル系モノマーの単独または共重合体が挙げられる。その他ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂などの有機粒子を用いてもよい。
【0030】
粒子含有層Aにおける粒子の含有量は、ポリエステルフィルムの粒子含有層A側表面を好適に粗面化することができ、しかも、フィルム延伸時に破断等が生じないようにするなどの観点から、0.1~20質量%であるのが好ましく、その中でも1質量%以上18質量%以下、その中でも2質量%以上15質量%以下、その中でも3質量%以上10質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0031】
粒子含有層Aの厚さは、1.0~20μmであるのが好ましく、中でも2.0μm以上20μm以下、その中でも3.0μm以上20μm以下、その中でも特に4.0μm以上15μm以下であるのがさらに好ましい。
粒子含有層Aの厚さを1.0μm以上とすることにより、効果的に表面の粗面化することができる。また、粒子含有層Aの厚さが20μm以下とすることにより、表面粗面化の効果を確保することができる。
【0032】
粒子含有層Aの厚さと粒子含有層Aが含有する粒子の平均粒径の関係は、ポリエステルフィルムの粒子含有層A側表面の粗面化及び粒子の脱落抑制の観点から、(粒子の平均粒径)/(粒子含有層Aの厚さ)が0.1以上5.0以下が好ましく、0.3以上4.0以下がより好ましく、0.5以上3.0以下が特に好ましい。
【0033】
基材層は、一方の面に粒子含有層Aを備える層である。
基材層は、ポリエステルフィルムを構成する各層の中でも最も厚い層であり、上記ポリエステルを主成分樹脂としていれば、その組成は任意である。
【0034】
基材層は、粒子を含有する層であってもよいし、粒子を含有しない層であってもよい。但し、コストの観点から、後述する有機粒子、無機粒子などの粒子を含有しない層であるのが好ましい。
【0035】
基材層の厚さは、積層ポリエステルフィルムのカールを防止するという観点から、ポリエステルフィルム厚さの60~99%であるのが好ましく、中でも65%以上99%以下、その中でも70%以上99%以下であるのがさらに好ましい。この範囲にあることにより、基材層自体にコシが出るために積層ポリエステルフィルムのカールが発生しにくくなる。
【0036】
粒子含有層Bは、粒子含有層Aを一面側に備える基材層の他面側に積層される層である。
粒子含有層Bは、ハンドリング性及びポリエステルフィルム全体のカールを防ぐことができる点で、平均粒径2.0μm以上の粒子を含有することが好ましく、その平均表面粗さ(Ra)が0.02μm以上であることが好ましい。
【0037】
粒子含有層Bに用いられる粒子は、例えば粒子含有層Aに用いられるものと同様の形状、種類のものが挙げられる。
【0038】
粒子含有層Bにおける粒子の含有量は、ハンドリング性及びポリエステルフィルム全体のカールを防ぐことができる点で、0.05~10質量%であるのが好ましく、その中でも0.1質量%~18質量%であることがさらに好ましい。
【0039】
また、粒子含有層Bに用いられる粒子の含有量は、粒子含有層Aが含有する粒子の含有量の0.1~100質量%とするのが好ましく、中でも1質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
本発明におけるポリエステルフィルム中にはフィルムの耐候性の向上、液晶などの劣化防止のために、紫外線吸収剤を含有させることも可能である。紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する化合物で、ポリエステルフィルムの製造工程で付加される熱に耐えうるものであれば特に限定されない。
【0041】
紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤と無機系紫外線吸収剤があるが、透明性の観点から有機系紫外線吸収剤が好ましい。有機系紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば環状イミノエステル系、ベンゾトリアゾール系及びベンゾフェノン系などが挙げられる。耐久性の観点からは環状イミノエステル系、ベンゾトリアゾール系がより好ましい。また、紫外線吸収剤を2種類以上併用して用いることも可能である。
【0042】
ポリエステル層中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化もしくはエステル交換反応終了後、添加するのが良い。
【0043】
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常10~350μm、好ましくは25~250μmの範囲である。
【0044】
次に本発明におけるポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。すなわち、先に述べたポリエステル原料を乾燥したペレットを、押出機を用いてダイから溶融シートとして押し出し、冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法及び/または液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70~120℃、好ましくは80~110℃であり、延伸倍率は通常2.5~7倍、好ましくは3.0~6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70~170℃であり、延伸倍率は通常3.0~7倍、好ましくは3.5~6倍である。そして、引き続き180~270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0045】
また、ポリエステルフィルムの製造に同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70~120℃、好ましくは80~110℃で温度コントロールされた状態で機械方向及び幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4~50倍、好ましくは7~35倍、さらに好ましくは10~25倍である。そして、引き続き、170~250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式及びリニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0046】
次に本発明の積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層の形成について説明する。塗布層の形成方法は特に限定されないが、ポリエステルフィルムの製膜工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより形成されるのが好ましい。
【0047】
インラインコーティングは、ポリエステルフィルム製造の工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押し出ししてから延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融、急冷して得られる未延伸シート、延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルム、熱固定後で巻き上げ前のフィルムの何れかにコーティングする。以下に限定するものではないが、例えば逐次二軸延伸においては、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムにコーティングした後に横方向に延伸する方法が優れている。かかる方法によれば、製膜と塗布層形成を同時に行うことができるため製造コスト上のメリットがあり、また。コーティング後に延伸を行うために、塗布層の厚みを延伸倍率により変化させることもでき、オフラインコーティングフィルムに比べ、薄膜コーティングをより容易に行うことができる。また、延伸前にフィルム上に塗布層を設けることにより、塗布層をポリエステルフィルムと共に延伸することができ、それにより塗布層をポリエステルフィルムに強固に密着させることができる。さらに、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造において、クリップ等によりフィルム端部を把持しつつ延伸することで、フィルムを縦及び横方向に拘束することができ、熱固定工程において、しわ等が入らず平面性を維持したまま高温をかけることができる。それゆえ、塗布後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温とすることができるために、塗布層の造膜性が向上し、塗布層とポリエステルフィルムをより強固に密着させることができ、さらには、強固な塗布層とすることができ、塗布層上に形成され得る各種の機能層との密着性や耐湿熱性等の性能を向上させることができる。
【0048】
次に、本発明における塗布層について述べる。本発明においては、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面に塗布層を備え、塗布層がワックスを含有する塗布液から形成されてなり、塗布液中の全不揮発成分に占める割合として、ワックスが1質量%以上40質量%以下であり、ワックスの軟化点が90℃以上であることを必須の要件とする。
【0049】
本発明におけるポリエステルフィルムの表面に設けられる塗布層は、加熱によってポリエステルフィルムから析出するオリゴマー成分による汚染を抑制できるものであり、オリゴマー成分による汚染抑制層とも言い換えることができるものである。本発明の積層ポリエステルフィルムは、例えば工程用の保護フィルムとして好適に用いることができる。
【0050】
本発明におけるポリエステルフィルムが粒子含有層Aを備える場合は、粒子含有層A側表面に塗布層を備える構成が好ましく、ポリエステルフィルムが粒子含有層Aのみからなる場合や基材層の両面側に粒子含有層Aを備える構成の場合は、少なくとも一方の粒子含有層A側表面に塗布層を備える構成が好ましい。
より好ましい構成としては、粒子含有層A、基材層及び粒子含有層Bをこの順に備える構成のポリエステルフィルムの粒子含有層A側表面に塗布層を備える構成である。
上記構成の積層ポリエステルフィルムを半導体のモールド工程用の離型フィルムとして用いた場合、金型からの離型性を向上させることが出来るとともに、金型へのオリゴマー成分の転着を防ぎ、工程汚染を抑制できるためである。
【0051】
なお、本発明におけるオリゴマー成分とは、加熱によりポリエステルフィルム表面に析出するポリエステルの低分子量成分であり、エステル環状三量体成分のことを指す。
【0052】
ワックスとは、天然ワックス、合成ワックス、それらの配合したワックスの中から選ばれたワックスである。
【0053】
上記天然ワックスとは、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス及び石油ワックスである。植物系ワックスとしては、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ロウ及びホホバ油を挙げることができる。動物系ワックスとしては、みつろう、ラノリン及び鯨ロウを挙げることができる。鉱物系ワックスとしてはモンタンワックス、オゾケライト及びセレシンを挙げることができる。石油ワックスとしてはパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス及びペトロラタムを挙げることができる。
【0054】
上記合成ワックスとしては、合成炭化水素、変性ワックス、水素化ワックス、脂肪酸、酸アミド、アミン類、イミド類、エステルワックス及びケトン類を挙げることができる。
【0055】
合成炭化水素として、具体的には、フィッシャー・トロプシュワックス(別名サゾワールワックス)、ポリエチレンワックスが有名であるが、このほかに低分子量の高分子(具体的には粘度数平均分子量500から20000の高分子)である以下のポリマーも含まれる。すなわち、ポリプロピレン、エチレン・アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロックまたはグラフト結合体がある。
【0056】
変性ワックスとして、具体的には、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体及びマイクロクリスタリンワックス誘導体を挙げることができる。ここでの誘導体とは、精製、酸化、エステル化及びケン化のいずれかの処理、またはそれらの組み合わせによって得られる化合物である。
【0057】
水素化ワックスとして、具体的には、硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体を挙げることができる。
【0058】
これらのワックスの中でも安定した性能が得られ、入手が容易であるという観点から合成炭化水素系が好ましい。またオリゴマー成分による汚染を効果的に抑制できることから、ポリエチレンワックス、ポリプロプレンワックス、酸化ポリエチレンワックス及び酸化ポリプロピレンワックスがより好ましく、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックスが特に好ましい。
【0059】
本発明におけるワックスの軟化点は、90℃以上170℃以下であることが好ましく、100℃以上160℃以下であることがより好ましく、120℃以上150℃以下であることがさらに好ましい。この範囲の軟化点のワックスを用いることで、例えば工程用の保護フィルムとして用いた場合の剥離性の向上や、ポリエステルフィルムに含まれるオリゴマー成分による工程汚染を抑制することができる。
オリゴマー成分の析出を抑制し、オリゴマー成分による工程汚染を抑制する観点から、特に好ましいのは、軟化点が90℃以上のポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックスである。
ワックスの軟化点は、JIS-K2207に準拠して測定し、算出することができる。
【0060】
ワックスを用いることでポリエステルフィルムに含まれるオリゴマー成分のよる汚染が抑制される機構は以下のように考えている。ポリエステルフィルムはガラス転移点以上に加熱することでオリゴマー成分がその表面に析出してくるが、表面に析出する途中でワックスを含有する塗布層を通過する際、ワックスとオリゴマー成分との親和性が高く、オリゴマー成分の表面がワックスによりコーティングされる。これによりオリゴマー成分の結晶化が妨げられ、オリゴマー成分の析出が抑制されることに加え、表面のワックスによって金型などの加工装置への接着性が下がることで、工程汚染が抑制されると推測している。
【0061】
本発明における塗布層には、ポリエステルフィルムとの密着性の向上や、塗膜を強固にするために架橋剤が併用されることが好ましい。架橋剤としては、メラミン化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物及びイソシアネート化合物が挙げられる。これらの中でもポリエステルフィルムに含まれるオリゴマー成分による汚染をより抑制できることから、メラミン化合物、オキサゾリン化合物及びエポキシ化合物が好ましく、メラミン化合物、オキサゾリン化合物がより好ましい。
【0062】
メラミン化合物とは、化合物中にメラミン骨格を有する化合物のことであり、例えばアルキロール化メラミン誘導体、アルキロール化メラミン誘導体にアルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、及びこれらの混合物を用いることができる。エーテル化に用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール及びイソブタノール等が好適に用いられる。また、メラミン化合物としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。さらに、メラミンの一部に尿素等を共縮合したものも使用できるし、メラミン化合物の反応性を上げるために触媒を使用することも可能である。
【0063】
オキサゾリン化合物とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物であり、特にオキサゾリン基を含有する重合体が好ましく、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン及び2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限なく、例えばアルキル(メタ)アクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基及びシクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド及びN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の含ハロゲンα,β-不飽和モノマー類;スチレン、α-メチルスチレン等のα,β-不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。密着性向上の観点から、オキサゾリン化合物のオキサゾリン基量は、好ましくは0.5~10mmol/g、より好ましくは1~9mmol/g、さらに好ましくは3~8mmol/g、特に好ましくは4~6mmol/gの範囲である。
【0064】
エポキシ化合物とは、分子内にエポキシ基を有する化合物であり、例えばエピクロロヒドリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン及びビスフェノールA等の水酸基やアミノ基との縮合物や、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物並びにグリシジルアミン化合物等がある。ポリエポキシ化合物としては、例えばソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル及びトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジエポキシ化合物としては、例えばネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル及びポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、モノエポキシ化合物としては、例えばアリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル及びフェニルグリシジルエーテル、グリシジルアミン化合物としてはN,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン等が挙げられる。密着性向上の観点から、ポリエーテル系のエポキシ化合物が好ましい。また、エポキシ基の量としては、2官能より、3官能以上の多官能であるポリエポキシ化合物が好ましい。
【0065】
カルボジイミド化合物とは、カルボジイミド構造を有する化合物のことであり、分子内にカルボジイミド構造を1つ以上有する化合物であるが、より良好な密着性等のために、分子内に2つ以上有するポリカルボジイミド系化合物がより好ましい。
【0066】
カルボジイミド化合物は従来公知の技術で合成することができ、一般的には、ジイソシアネート化合物の縮合反応が用いられる。ジイソシアネート化合物としては、特に限定されるものではなく、芳香族系、脂肪族系いずれも使用することができ、具体的には、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネート及びジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0067】
カルボジイミド化合物に含有されるカルボジイミド基の含有量は、カルボジイミド当量(カルボジイミド基1molを与えるためのカルボジイミド化合物の重さ[g])で、通常100~1000、好ましくは250~800、より好ましくは300~700の範囲である。上記範囲で使用することで、塗膜の耐久性が向上する。
【0068】
さらに本発明の効果を消失させない範囲において、ポリカルボジイミド化合物の水溶性や水分散性を向上するために、界面活性剤を添加することや、ポリアルキレンオキシド、ジアルキルアミノアルコールの四級アンモニウム塩及びヒドロキシアルキルスルホン酸塩などの親水性モノマーを添加して用いてもよい。
【0069】
イソシアネート化合物とは、イソシアネート、あるいはブロックイソシアネートに代表されるイソシアネート誘導体構造を有する化合物のことである。イソシアネートとしては、例えばトリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート及びナフタレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族イソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)及びイソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族イソシアネート等が例示される。また、これらイソシアネートのビュレット化物、イソシアヌレート化物、ウレトジオン化物及びカルボジイミド変性体等の重合体や誘導体も挙げられる。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。上記イソシアネートの中でも、紫外線による黄変を避けるために、芳香族イソシアネートよりも脂肪族イソシアネートまたは脂環族イソシアネートがより好ましい。
【0070】
ブロックイソシアネートの状態で使用する場合、そのブロック剤としては、例えば重亜硫酸塩類、フェノール、クレゾール及びエチルフェノールなどのフェノール系化合物、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ベンジルアルコール、メタノール及びエタノールなどのアルコール系化合物、イソブタノイル酢酸メチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル及びアセチルアセトンなどの活性メチレン系化合物、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン系化合物、ε‐カプロラクタム、δ‐バレロラクタムなどのラクタム系化合物、ジフェニルアニリン、アニリン及びエチレンイミンなどのアミン系化合物、アセトアニリド、酢酸アミドの酸アミド化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム及びシクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物が挙げられ、これらは単独でも2種以上の併用であってもよい。
【0071】
また、本発明におけるイソシアネート系化合物は単体で用いてもよいし、各種ポリマーとの混合物や結合物として用いてもよい。イソシアネート系化合物の分散性や架橋性を向上させるという意味において、ポリエステル樹脂やウレタン樹脂との混合物や結合物を使用することが好ましい。
【0072】
塗布層の形成には、塗布外観や透明性の向上等のために、バインダーとして従来公知の各種のポリマー、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等を併用することも可能である。また、本発明の主旨を損なわない範囲において、ブロッキング性や滑り性改良等を目的として粒子を併用することも可能である。
【0073】
本発明における塗布層中には、塗布液中の各種化合物の未反応物、反応後の化合物、あるいはそれらの混合物が存在しているものと推測できる。
【0074】
本発明における塗布液中の全不揮発成分に占める割合として、ワックスは通常1質量%以上40質量%以下、好ましくは10質量%以上35質量%以下の範囲である。1質量%を下回ると金型との剥離性や、ポリエステルフィルムに含まれるオリゴマー成分による汚染が悪化する懸念がある。また40質量%を上回るとワックスとオリゴマー成分との親和性が高いため、ポリエステルフィルムからのオリゴマー成分の析出量自体が増加することで汚染が悪化したり、塗布層の外観や塗膜強度が悪化したりする懸念がある。
【0075】
本発明における塗布液中の全不揮発成分に占める割合として、架橋剤は20質量%以上70質量%以下が好ましく、30質量%以上60質量%以下がより好ましく、30質量%以上50質量%以下がさらに好ましい。上記の範囲内の場合、塗膜強度及びポリエステルフィルムとの密着性の両立が可能となる。
本願発明においては、オリゴマー成分の析出抑制や、塗膜強度及びポリエステルフィルムとの密着性の観点から、塗布液中の全不揮発成分に占める割合として、架橋剤が20質量%以上70質量%以下であり、当該架橋剤がメラミン化合物、又はオキサゾリン化合物であることが好ましい。
【0076】
インラインコーティングによって塗布層を設ける場合は、上述の一連の化合物を水溶液または水分散体として、固形分濃度が0.1~50質量%程度を目安に調整した塗布液をポリエステルフィルム上に塗布する要領にて積層ポリエステルフィルムを製造するのが好ましい。
【0077】
塗布層の膜厚は、好ましくは0.002μm以上1.0μm以下より好ましくは0.005μm以上0.50μm以下、さらに好ましくは0.01μm以上0.20μm、特に好ましくは0.03μm以上0.08μm以下である。
膜厚が上記の範囲内であれば、オリゴマー成分の析出を抑制し、オリゴマー成分の転着による汚染を抑制することが可能である。
なお、塗布層の厚さについて、粒子含有層A側表面の凹凸構造が存在する場合は、凹部の平坦な部分で測定する値である。
【0078】
本発明におけるポリエステルフィルムは、非塗布層側表面に例えばハードコート層や粘着層、易接着層を設けてもよいし、フィルムの両面に塗布層を設けてもよい。
例えば本発明の積層ポリエステルフィルムを半導体パッケージのモールド工程用離型フィルムとして用いる場合には、リードフレーム等の基板を固定するために粘着層を設ける構成が好ましく、具体的には、ポリエステルフィルムの片面に塗布層を備え、もう一方の面に粘着層を設ける構成が好ましい。
また、上記構成において、ポリエステルフィルムと粘着層との密着性を高めるために、粘着層とポリエステルフィルムとの間に易接着層を設ける構成も好ましい。
さらに、上述したように、ポリエステルフィルムは、基材層の一面側に粒子含有層Aを備え、基材層の他面側には粒子含有層Aとは異なる粒子含有層Bを形成した構成、すなわち、粒子含有層A、基材層及び粒子含有層Bをこの順に備える構成が好ましいため、例えば本発明の積層ポリエステルフィルムを半導体パッケージのモールド工程用離型フィルムとして用いる場合に好ましい構成としては、塗布層/粒子含有層A/基材層/粒子含有層B/粘着層や、塗布層/粒子含有層A/基材層/粒子含有層B/易接着層/粘着層が挙げられる。
【0079】
粘着層は、例えば半導体パッケージのモールド工程においてリードフレーム等の基板を固定するために設けられるものである。また、フィルムの目的を達成した後は、工程用離型フィルムと同時に粘着層も除去されるものであるため、粘着層はリードフレーム等の基板から剥がすことが可能であり、剥離後に糊残りや表面汚染性がないものであることが好ましい。
【0080】
粘着層は粘着剤組成物を含有するものである。粘着剤組成物とは粘着性を付与できるものであれば特に限定なく使用でき、例えばアクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤及びシリコーン系粘着剤などが挙げられる。これらの中でも粘着特性の調整を行いやすく、透明性にも優れるという観点から、アクリル系粘着剤が好ましい。また、粘着剤の形成方法として、例えば熱硬化型、活性エネルギー線硬化型及びホットメルト型などが挙げられる。
【0081】
粘着層の形成方法としては、例えばトルエンや酢酸エチル等の適宜な溶剤の単独物又は混合物からなる溶媒に粘着性物質ないしその組成物を溶解又は分散させて10~40重量%程度の粘着剤液を調製し、それを保護フィルム上に塗工、加熱乾燥して粘着層を形成し、セパレータを貼り合わせる方式、あるいはセパレータ上に塗工、加熱乾燥して粘着層を形成し、保護フィルムを貼り合わせる方式などがあげられる。
【0082】
粘着剤液の塗工方法としては、公知の方法が用いられる。具体的には、塗布層の塗工方法として上述した方法が挙げられる。
【0083】
粘着層の厚みは好ましくは1~500μm、より好ましくは5~200μm、さらに好ましくは10~100μmの範囲である。上記範囲内であれば、十分な粘着力が得られると共に剥離が容易となる可能性がある。
【0084】
易接着層は、ポリエステルフィルム表面と他の層との密着性を向上させる層である。
【0085】
易接着層は、従来公知の各種の方法、コーティング、転写及びラミネート等で設けることが可能である。それらの中でもコーティングにより設けることが製造のしやすさの観点から好ましい。インラインコーティングにより設けられてもよく、オフラインコーティングにより設けられてもよいが、製造コストやフィルムの製造工程中の熱処理による易接着層層の強度やフィルムとの密着性向上の観点から、インラインコーティングが好ましく用いられる。
【0086】
易接着層に含有する樹脂としては従来公知の樹脂を使用することができ、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びポリビニル樹脂(ポリビニルアルコール、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等)等が挙げられる。その中でも、ポリエステルフィルムとの密着性という観点から、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂及びウレタン樹脂が好ましく、粘着層との密着性という観点からは、特にアクリル樹脂が好ましい。
【0087】
また、易接着層の強度を高くするために、架橋剤を併用することが好ましい。架橋剤としては、種々公知の架橋剤が使用でき、例えばオキサゾリン化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物及びシランカップリング化合物等を挙げることができる。
その中でも、密着性の観点からは、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物及びカルボジイミド系化合物、特にオキサゾリン化合物やイソシアネート系化合物がより好ましく、易接着層の強度を高くするという観点からは、メラミン化合物が好ましい。
【0088】
コーティングにより易接着層を形成する際、その塗布液には、上記樹脂以外にも、例えば、その他のバインダー、界面活性剤、粒子、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料及び顔料等を含有してもよい。
また、コーティング前にポリエステルフィルム表面に化学処理やコロナ放電処理、プラズマ処理等を施してもよい。
【0089】
易接着層の厚みは好ましくは0.001~1μm、より好ましくは0.01~0.5μm、さらに好ましくは0.02~0.2μmの範囲である。易接着層の厚みを上記範囲で使用することにより、他の層との密着性が良好なものとなる。
【0090】
本発明の積層ポリエステルフィルムにおける塗布層側表面の平均表面粗さ(Ra)は0.2μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましい。上限は特に制限されないが、通常は3.0μm以下である。
塗布層側表面の平均表面粗さ(Ra)が0.2μm以上であることにより、本発明の積層ポリエステルフィルムを半導体のモールド工程用の離型フィルムとして用いた場合、金型からの離型性を向上させることが出来る。
塗布層側表面の平均表面粗さ(Ra)が0.2μm以上とする方法としては、塗布層に粒子を添加したり、上述した粒子含有層Aを備えるポリエステルフィルムを用いたりする方法が挙げられる。
【0091】
本発明の積層ポリエステルフィルムの非塗布層側表面の平均表面粗さ(Ra)は、該表面に所望の層を積層しやすくすることができるという観点から、塗布層側表面の平均表面粗さ(Ra)よりも小さいことが好ましく、具体的には、平均表面粗さ(Ra)が0.20μm未満であることが好ましい。一方、下限は、フィルムの加工性や易滑性・耐ブロッキング防止の観点から、0.020μm以上であることが好ましく、0.025μm以上であることがより好ましい。
【0092】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、熱処理(150℃、90分間)前後におけるフィルムヘーズ変化量(ΔH)が1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。ポリエステルフィルムは、熱処理によるフィルム表面へのオリゴマー成分の析出によりフィルムヘーズが大きくなることが知られており、ΔHは熱処理前後におけるフィルム表面へのオリゴマー成分の析出を示す指標である。
フィルムヘーズ変化量(ΔH)が1.5%以下である場合には、オリゴマー成分の析出による汚染を抑制できる可能性がある。
【0093】
塗布層を設ける方法はリバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。
【0094】
ポリエステルフィルム上に塗布層を形成する際の乾燥及び硬化条件に関しては、特に限定されるわけではなく、例えばオフラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、80~200℃で3~40秒間、好ましくは100~180℃で3~40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0095】
一方、インラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、70~280℃で3~200秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0096】
また、オフラインコーティングあるいはインラインコーティングに係わらず、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。本発明の積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムにはあらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0097】
塗布層中の各種成分の分析は、例えばTOF-SIMS、ESCA、蛍光X線等の分析によって行うことができる。
【0098】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、各種加工工程の保護フィルムや離型フィルムが用途として挙げられるが、中でも、半導体のモールド工程用の離型フィルムに好適に用いることができる。
半導体パッケージの製造方法の一例を説明する。
先ず、リードフレーム上に配置した複数の半導体チップを、一方の金型Aの各半導体パッケージ成形用空間部に挿合させた後、離型フィルム及びもう一方の金型Bを順次位置させる。
次いで、離型フィルムがリードフレーム表面に密着されるよう金型Aと金型Bとを所定圧力でクランプさせた後、溶融されたモールド樹脂を各半導体パッケージ成形用空間部内に充填させ所定時間硬化させて、各半導体パッケージ成形用空間部当り1個の半導体パッケージを成形する。
次いで、金型Aと金型Bを半導体パッケージから脱着させると、リードフレーム上に半導体パッケージが形成される。この後、リードフレームを切断して個々の半導体パッケージになる。
使用された離型フィルムは金型Aと金型Bを半導体パッケージから脱着させる際に除去され、成形のサイクル毎に供給されるようになっている。
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムから析出するオリゴマー成分による汚染を抑制するものであり、例えば本発明の積層ポリエステルフィルムを半導体パッケージのモールド工程用離型フィルム、詳しくは、半導体チップを設置したリードフレームと金型との間配置され、金型内にモールド樹脂を充填する半導体パッケージの製造方法に用いられる半導体パッケージのモールド工程用離型フィルムとして用いた場合、オリゴマー成分による金型の汚染を防ぐことができるため、当該用途に好適に用いることができる。
ただし、本発明の積層ポリエステルフィルムは上述した用途に限られるものではなく、例えばマット調外観を転写できる転写フィルム、インサート成形やインモールド成形等の金型成形用フィルムとして好適に用いることもできる。
【実施例】
【0099】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない範囲において、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法及び評価方法は次の通りである。
【0100】
(1)ポリエステルの固有粘度
ポリエステルに非相溶な成分を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0101】
(2)粒子の平均粒径
株式会社島津製作所製の遠心沈降式粒度分布測定装置(SA-CP3型)を用いて粉体からなる粒子の等価球形分布を測定し、各粒径の範囲の積算体積分率を求めた。また、粒子を測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒径を平均粒径とした。
【0102】
(3)平均表面粗さ(Ra)
株式会社小坂研究所社製表面粗さ測定機(SE-3500)を用いて次のようにして求めた。すなわち、フィルム断面曲線からその平均線の方向に基準長さL(2.5mm)の部分を抜き取り、この抜き取り部分の平均線をx軸、縦倍率の方向をy軸として粗さ曲線 y=f(x)で表わしたとき、次の式で与えられた値を〔nm〕で表わす。平均表面粗さは、試料フィルム表面から10本の粗さ曲線を求め、これらの粗さ曲線から求めた抜き取り部分の平均表面粗さの平均値で表わした。なお、触針の先端半径は2μm、荷重は30mgとし、カットオフ値は0.08mmとした。
Ra=(1/L)∫L0|f(x)|dx
【0103】
(4)塗布層の膜厚
塗布層の表面をRuO4で染色し、エポキシ樹脂中に包埋した。その後、超薄切片法により作成した切片をRuO4染色し、塗布層断面を透過型電子顕微鏡(TEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、H-7650、加速電圧100kV)を用いて測定した。
【0104】
(5)ワックスの軟化点
ワックスの軟化点はJIS-K2207に準拠して測定した。
【0105】
(6)フィルムの熱処理
各実施例、比較例で得られた積層ポリエステルフィルムの塗布層側表面がむき出しとなる状態で、フィルムとケント紙と重ねて固定し、窒素雰囲気下で、150℃で90分間放置して熱処理を行った。ただし、比較例6では、塗布層が設けられないので、ポリエステルフィルムの粒子含有層A側表面がむき出しとなる状態でケント紙を重ねた。
【0106】
(7)フィルムヘーズ
試料フィルムをJIS-K-7136に準じ、株式会社村上色彩技術研究所製ヘーズメーター(HM-150)により、フィルムヘーズを測定した。
【0107】
(8)加熱処理によるフィルムヘーズ変化量
各実施例、比較例で得られた積層ポリエステルフィルムの塗布層が設けられた面とは反対側の面に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート80質量部、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート20質量部、光重合開始剤(商品名:イルガキュア184、チバスペシャルティケミカルズ株式会社製)5質量部、及びメチルエチルケトン200質量部からなる混合塗液を乾燥後の厚さが3μmになるように塗布して乾燥させ、かつ紫外線を照射して硬化させハードコート層を形成した。なお、比較例6では、ポリエステルフィルムに塗布層が設けられず、ポリエステルフィルムの粒子含有層B側表面にハードコート層を形成した。ハードコート層を有する積層ポリエステルフィルムのフィルムヘーズを、(7)の方法で非ハードコート層側から測定した。次いで(6)の方法で加熱した後、(7)の方法で熱処理後のフィルムヘーズを測定した。熱処理後のヘーズと熱処理前のフィルムヘーズの差を計算し、フィルムヘーズ変化量とした。フィルムヘーズ変化量が低いほど、熱処理によるオリゴマー成分(エステル環状三量体成分)の析出が少ないことを示し、良好である。
【0108】
(9)オリゴマー成分の転着
積層ポリエステルフィルムと厚み0.5mmのステンレス板(商品名:HS0543)を10cm×5cmに切り出し、フィルムの粒子含有層A側表面とステンレス板を重ね合わせ、熱プレス機で180℃、20MPaの圧力で5分間プレスしてサンプルを作成した。
サンプルを作成した直後に、フィルムを上側にしてフィルムとステンレス板との積層体を水平に置いた状態から、フィルムを垂直に持ち上げて剥離した後、ステンレス板のフィルム側表面を観察し、ステンレス板のフィルム側表面の面積に対する汚染(オリゴマー成分の転着物)の面積割合を評価した。汚染が確認できず良好なものを〇(very good)、汚染部の面積割合がステンレス板に対し5%以下であり実用上問題のないものを△(good)、5%を超えて汚染が目立ち、実用上問題があるものを×(bad)とした。
【0109】
ポリエステルフィルムの組成物として以下を用いた。
ポリエステル(I):ポリエチレンテレフタレートからなるポリエステル樹脂組成物(固有粘度:0.63dl/g)。
ポリエステル(II):平均粒径が4.5μmのメタクリル酸アルキル-スチレン共重合体粒子を10質量%配合したポリエチレンテレフタレート組成物(固有粘度:0.61dl/g)。
ポリエステル(III):平均粒径が2.7μmのシリカ粒子を0.7質量%配合したポリエチレンテレフタレート組成物(固有粘度:0.61dl/g)。
ポリエステル(IV)平均粒径が2.0μmのシリカ粒子を0.3質量%配合したポリエチレンテレフタレート組成物(固有粘度:0.62dl/g)。
【0110】
塗布液の組成物として以下を用いた。
ワックス1(W1):軟化点130℃の酸化ポリエチレンワックス。
ワックス2(W2):軟化点138℃のポリエチレンワックス
ワックス3(W3):軟化点110℃のポリエチレンワックス
ワックス4(W4):軟化点60℃のポリエチレンワックス
ワックス5(W5):軟化点65℃のパラフィンワックス
ワックス6(W6):軟化点85℃のカルナバワックス
【0111】
メラミン化合物(C1):ヘキサメトキシメチロールメラミン
【0112】
オキサゾリン化合物(C2):オキサゾリン基及びポリアルキレンオキシド鎖を有する アクリルポリマー 製品名「エポクロス」(オキサゾリン基量=7.7mmol/g、株式会社日本触媒製)
【0113】
エポキシ化合物(C3):水溶性ポリグリセロールポリグリシジルエーテル
【0114】
ポリエステル樹脂(B1):(酸成分)イソフタル酸//(ジオール成分)ジエチレングリコール/ネオペンチルグリコール=100//70/30(mol%)から形成されるポリエステル樹脂42質量部とポリメタクリル酸メチル58質量部から形成されるアクリル変性ポリエステル樹脂の水分散体
【0115】
[実施例1]
ポリエステル(I)、(II)をそれぞれ50質量%、50質量%の割合で混合したものを粒子含有層Aの原料とし、ポリエステル(I)を基材層の原料とし、ポリエステル(I)、(III)をそれぞれ70質量%、30質量%の割合で混合した混合原料を粒子含有層Bの原料として、3台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、3種3層(粒子含有層A/基材層/粒子含有層B=5:30:3の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後、この縦延伸フィルムの粒子含有層Aの表面に下記表1に示す塗布液1を塗布したのちテンターに導き、横方向に110℃で4.0倍延伸し、225℃で熱処理を行ったのち、横方向に2%弛緩し、塗布層の膜厚(乾燥後)が0.05μmである厚さ38μm(粒子含有層A/基材層/粒子含有層B=5μm/30μm/3μm)の積層ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層ポリエステルフィルムの粒子含有層A側表面の平均表面粗さ(Ra)は0.33μm、粒子含有層B側表面の平均表面粗さ(Ra)は0.025μmであり、加熱処理によるフィルムフィルムヘーズ上昇(ΔH)は0.2%であり、オリゴマー成分の転着による汚染部の面積割合はステンレス板に対し5%以下で良好な結果であった。このフィルムの特性を下記表2に示す。
【0116】
[実施例2~10]
塗布液の組成を表1に示す組成に変更する以外は実施例1と同様に実施して、積層ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムは表2に示すとおり、加熱処理によるフィルムヘーズ上昇(ΔH)、及びオリゴマー成分の転着の結果は良好であった。
【0117】
[実施例11]
ポリエステル(I)、(IV)をそれぞれ94質量%、6質量%の割合で混合したものを粒子含有層Aの原料とし、ポリエステル(I)を基材層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(粒子含有層A/基材層/粒子含有層A=4:30:4の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面に下記表1に示す塗布液3を塗布したのちテンターに導き、横方向に110℃で4.0倍延伸し、225℃で熱処理を行ったのち、横方向に2%弛緩し、塗布層の膜厚(乾燥後)が0.05μmである厚さ38μm(粒子含有層A/基材層/粒子含有層A=4μm/30μm/4μm)の積層ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層ポリエステルフィルムの粒子含有層A側表面の平均表面粗さ(Ra)は0.010μmであり、得られた積層ポリエステルフィルムは表2に示すとおり、加熱処理によるフィルムヘーズ上昇(ΔH)、及びオリゴマー成分の転着の結果は良好であった。
【0118】
[比較例1~5]
塗布液の組成を表1に示す組成に変更する以外は実施例1と同様に実施して、積層ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムは表2に示すとおり、オリゴマー成分の転着の結果が汚染部の面積割合はステンレス板に対し5%を超える結果となった。
【0119】
[比較例6]
塗布層を設けなかったこと以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
得られたポリエステルフィルムは表2に示すとおり、加熱処理によるフィルムヘーズ上昇(ΔH)は1.8%であり、汚染部の面積割合はステンレス板に対し5%を超える結果となった。
【0120】
【0121】
【0122】
上記実施例・比較例の結果及び本発明者がこれまでに行ってきた試験結果から、軟化点が90℃以上のワックスを用い、全不揮発成分に占める割合としてワックスが1質量%以上40質量%以下である塗布液から形成した塗布層を備える積層ポリエステルフィルムであれば、オリゴマー成分の転着を抑制することができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、加工工程の汚染防止に優れ、例えば工程保護用途のフィルムや、半導体パッケージのモールド工程用離型フィルムとして好適用いることができる。