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特許7456295スクアリリウム化合物、光学フィルタ、撮像装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】スクアリリウム化合物、光学フィルタ、撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20240319BHJP
   C09B 57/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G02B5/22
C09B57/00 X CSP
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020095610
(22)【出願日】2020-06-01
(65)【公開番号】P2021189340
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 悟史
(72)【発明者】
【氏名】田原 慎哉
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-074922(JP,A)
【文献】特開2001-342364(JP,A)
【文献】特開2000-265077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
C09B 57/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)で表されるスクアリリウム化合物。
【化1】
[上記式における各記号の意味は下記のとおりである。
およびRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよく、炭素-炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、脂環もしくは芳香環を含んでもよい、炭素数1~20のアルキル基である。
は、非共有電子対を有する原子を含む炭素数1~12の1価有機基である。
は、水素原子、または炭素数1~12のアルキル基である。
は、水素原子、または炭素数1~12のアルキル基である。
とR、RとR、RとRは、互いに連結して環を形成してもよい。
は、C=O、C=S、またはSOである。]
【請求項2】
前記Rにおける非共有電子対を有する原子が、N、SまたはOである、請求項1に記載のスクアリリウム化合物。
【請求項3】
前記式(A)におけるRが、NH-Y31-R31、SH、またはOHであり、Y31は単結合または炭素数0~3の2価有機基であり、R31は、置換基を有してもよく、炭素-炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、脂環もしくは芳香環を含んでもよい、炭素数1~12のアルキル基である、請求項1または2に記載のスクアリリウム化合物。
【請求項4】
前記式(A)で表されるスクアリリウム化合物が、下記式(A1)で表されるスクアリリウム化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【化2】
[上記式における各記号の意味は下記のとおりである。
~Rの定義は請求項1と同様である。]
【請求項5】
近赤外線吸収色素と樹脂とを含有する吸収層を備える光学フィルタであって、
前記近赤外線吸収色素として請求項1~4のいずれか1項に記載のスクアリリウム化合物を含む、光学フィルタ。
【請求項6】
さらに誘電体多層膜を含む反射層を有する請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
さらに透明基板を有し、前記透明基板上に前記吸収層を備える請求項5または6に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
前記透明基板は、ガラスにより構成される請求項7に記載の光学フィルタ。
【請求項9】
前記ガラスは、近赤外線吸収ガラスである、請求項8に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
前記透明基板は、樹脂により構成される請求項7に記載の光学フィルタ。
【請求項11】
固体撮像素子と、撮像レンズと、請求項5~10のいずれか1項に記載の光学フィルタとを備えた撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規スクアリリウム化合物、近赤外線吸収色素として該化合物を含む光学フィルタ、該光学フィルタを備えた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子を用いた撮像装置には、色調を良好に再現し鮮明な画像を得るため、可視域の光(以下「可視光」ともいう)を透過し近赤外域の光(以下「近赤外光」ともいう)を遮蔽する近赤外カットフィルタが用いられる。近赤外カットフィルタにおいては、樹脂中に近赤外線吸収色素を分散させた吸収層や、近赤外光を反射する誘電体多層膜からなる反射層により近赤外光の遮蔽が行われる。
【0003】
特に近赤外光の多重反射によるゴーストやフレアを抑制する観点からは、800nm以上の長波長領域に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素が好ましいとされる。ここで、特許文献1~3には、800nm付近に最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/151344号
【文献】特開2019-078816号公報
【文献】特開2019-164269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1~3に記載の近赤外線吸収色素は、吸収領域が広域であるため可視光の透過率を損なうおそれがあった。
本発明は、近赤外光の遮光性、特に800nm以上の長波長領域の遮光性に優れ、かつ、可視光領域の透過性に優れた新規スクアリリウム化合物、当該化合物を近赤外線吸収色素として含む光学フィルタおよび撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記スクアリリウム化合物等に関する。
〔1〕下記式(A)で表されるスクアリリウム化合物。
【0007】
【化1】
【0008】
[上記式における各記号の意味は下記のとおりである。
およびRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよく、炭素-炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、脂環もしくは芳香環を含んでもよい、炭素数1~20のアルキル基である。
は、非共有電子対を有する原子を含む炭素数1~12の1価有機基である。
は、水素原子、または炭素数1~12のアルキル基である。
は、水素原子、または炭素数1~12のアルキル基である。
とR、RとR、RとRは、互いに連結して環を形成してもよい。
は、C=O、C=S、またはSOである。]
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るスクアリリウム化合物は、ドナー部位に芳香環骨格を有さないことで、800nm以上の長波長領域の光を吸収し、かつ、周辺領域での透過率が低下しにくい特性を有する。
かかるスクアリリウム化合物によれば、長波長近赤外光の遮蔽性に優れ、かつ可視光領域の透過性に優れる近赤外線吸収色素を提供できる。さらに、本発明によれば、該色素を用いた光学フィルタ、および該光学フィルタを用いた色再現性に優れる撮像装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
図2図2は実施形態の光学フィルタの別の一例を概略的に示す断面図である。
図3図3は実施形態の光学フィルタの別の一例を概略的に示す断面図である。
図4図4は実施形態の光学フィルタの別の一例を概略的に示す断面図である。
図5図5は、例1のスクアリリウム化合物A11-1の、ジクロロメタン中における分光透過率曲線を示す図である。
図6図6は、例2のスクアリリウム化合物A11-2の、ジクロロメタン中における分光透過率曲線を示す図である。
図7図7は、例3のスクアリリウム化合物A11-3の、ジクロロメタン中における分光透過率曲線を示す図である。
図8図8は、例4のスクアリリウム化合物A11-4の、ジクロロメタン中における分光透過率曲線を示す図である。
図9図9は、例5のスクアリリウム化合物A12-1の、ジクロロメタン中における分光透過率曲線を示す図である。
図10図10は、例6のスクアリリウム化合物A13-1の、ジクロロメタン中における分光透過率曲線を示す図である。
図11図11は、例7のスクアリリウム化合物A14-1の、ジクロロメタン中における分光透過率曲線を示す図である。
図12図12は、例8のスクアリリウム化合物A15-1の、ジクロロメタン中における分光透過率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本明細書において、近赤外線吸収色素を「NIR色素」、紫外線吸収色素を「UV色素」と略記することもある。
本明細書において、式(A1)で示される化合物を化合物(A1)という。他の式で表される化合物も同様である。化合物(A1)からなるNIR色素をNIR色素(A1)ともいい、他の色素についても同様である。また、例えば、式(1a)で表される基を基(1a)とも記し、他の式で表される基も同様である。
本明細書において、内部透過率とは、{実測透過率/(100-反射率)}×100の式で示される、実測透過率から界面反射の影響を引いて得られる透過率である。本明細書において、樹脂基材の透過率、吸収層等の色素が透明樹脂に含有されて測定される層の透過率の分光は、「透過率」と記載されている場合も全て「内部透過率」である。一方、色素をジクロロメタン等の溶媒に溶解して測定される透過率、誘電体多層膜を有する光学フィルタの透過率は、実測透過率である。
本明細書において、数値範囲を表す「~」では、上下限を含む。
【0012】
本明細書において、特に断りのない限り、アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状またはこれらの構造を組み合わせた構造でもよい。
ハロゲン原子としては、特に断りのない限り、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子が好ましい。
本明細書において、特に断りのない限り、アリール基は芳香族化合物が有する芳香環、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル等を構成する炭素原子を介して結合する基をいう。また、ヘテロアリール基は、ヘテロ原子を有する芳香族化合物が有する芳香環、例えば、フラン環、チオフェン環、ピロール環等を構成する炭素原子あるいはヘテロ原子を介して結合する基をいう。
【0013】
本明細書において、スクアリリウム化合物とは、構造式において下記式(S2)で表す共鳴構造をとり得る下記式(S1)で表されるスクアリリウム骨格を有する化合物をいう。本明細書において、スクアリリウム骨格は式(S1)または式(S2)のいずれかで示される。
【0014】
【化2】
【0015】
<スクアリリウム化合物>
本発明は、式(A)に示されるスクアリリウム化合物(A)を提供する。
本発明のスクアリリウム化合物(A)は、分子構造の中央にスクアリリウム骨格を有し、スクアリリウム骨格の左右に各1個の不飽和炭素環が結合した構造を有する。これにより、スクアリリウム化合物(A)は近赤外光を遮蔽する光学特性に優れる。さらに不飽和炭素環のスクアリリウム骨格との結合位置の反対側には、アルキル基を2個有するアミノ基が結合している。これによりスクアリリウム化合物(A)は可視光の透過性に優れる。
【0016】
以下、スクアリリウム化合物(A)について詳細に説明する。スクアリリウム化合物(A)は、以下の式(A)で示される。
【0017】
【化3】
【0018】
およびRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよく、炭素-炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、脂環もしくは芳香環を含んでよい、炭素数1~20のアルキル基である。
式(A)中の2つのRは、スクアリリウム骨格の左右で異なってもよいが、製造容易性の観点から左右が同一であることが好ましい。R、R、R、R、Xについても同様である。また、これ以降の記号についても同様である。すなわち化学式中における2つの記号はスクアリリウム骨格の左右で異なってもよいが、製造容易性の観点から左右が同一であることが好ましい。
【0019】
およびRにおける置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、アミノ基、N-置換アミノ基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、N-置換カルバモイル基、イミド基、炭素数1~20のアルコキシ基が挙げられる。
【0020】
およびRにおける置換基としては、さらに、環状のアルキル基またはアリール基が挙げられる。アリール基としては、1~5個の置換基を有してもよいフェニル基または、1~7個の置換基を有してもよいナフチル基が好ましい。フェニル基およびナフチル基の水素原子を置換してもよい置換基としては、炭素-炭素原子間に不飽和結合または酸素原子を含んでよい炭素数1~12のアルキル基、もしくはアルコキシ基、またはアルキルアミノ基(アルキル基の炭素数は1~12)が挙げられる。フェニル基およびナフチル基は、非置換または、水素原子が1~3個置換されているのが好ましく、置換基としては、メチル基、t-ブチル基、ジメチルアミノ基、メトキシ基等が好ましい。
【0021】
およびRが、主鎖または側鎖に脂環または芳香環を含む場合、耐熱性や、NIR吸収波長の長波長化の点で好ましい。RおよびRが、主鎖または側鎖に脂環または芳香環を有しない場合、耐光性や、製造容易性や、樹脂および溶媒への溶解性の点で好ましい。脂環の炭素数としては3~10が好ましい。芳香環の炭素数は4~14が好ましい。
【0022】
およびRの炭素数としては1~20が挙げられる。RおよびRの炭素数は、直鎖状の場合2~20が好ましく、3~16がより好ましく、4~12がさらに好ましい。RおよびRの炭素数は、分岐鎖状の場合、3~20が好ましく、4~16がより好ましく、8~10がさらに好ましい。
およびRが置換基を有する場合、および主鎖または側鎖に脂環または芳香環を含む場合、上記炭素数には置換基、脂環、芳香環の炭素数は含まれない。
【0023】
およびRは同一であっても異なってもよいが、製造容易性の点から同一であるのが好ましい。RおよびRは、樹脂および溶媒への溶解性の観点からは、いずれか一方が分岐鎖状であるのが好ましく、両方が分岐鎖状であるのがより好ましい。
【0024】
およびRが分岐鎖状の場合、分岐の数は特に制限されない。分岐の数は1~5が好ましく、1~3がより好ましい。樹脂および溶媒への溶解性および製造容易性の両観点から、分岐の位置は、β位が好ましい。また、一つの炭素原子から2つに分岐していてもよく3つに分岐していてもよい。
【0025】
およびRは、例えば、基(1b)~(5b)、(1c)、(2c)から選ばれる基がさらに好ましい。
-CH(C2n+1 …(1b)
-C(C2n+1 …(1c)
-CH-CH(C2n+1 …(2b)
-CH-C(C2n+1 …(2c)
-(CH-CH(C2n+1 …(3b)
-(CH-CH(C2n+1 …(4b)
-(CH-CH …(5b)
【0026】
ただし、式(1b)~(4b)、(1c)、(2c)においてnは1~10の整数であり、2~8が好ましく、2~4がより好ましい。式(1b)~(4b)、(1c)、(2c)における2個または3個のC2n+1は直鎖であっても分岐鎖であってもよく、同一であっても異なってもよい。式(5b)においてmは0~19の整数であり、1~19が好ましく、2~15がより好ましく、3~11がさらに好ましい。さらに、基(1b)~(5b)、(1c)、(2c)は炭素-炭素原子間に酸素原子を有してもよい。
【0027】
は、非共有電子対を有する原子を含む1価有機基である。スクアリリウム骨格に最も近い炭素原子に非共有電子対を有する基が結合することで、不飽和炭素環の電子密度が高まり、色素の生成(スクアリン酸との反応)において非共有電子対を有する原子が必要となる。かかる観点から、Rにおける非共有電子対を有する原子は、Rが結合する不飽和炭素環の炭素原子と直接結合することが好ましい。
非共有電子対を有する原子は、N、SまたはOであることが好ましい。
【0028】
としては、NH-Y31-R31、SH、またはOHが好ましい。
NH-Y31-R31において、Y31は単結合または炭素数0~3の2価有機基であり、好ましくは-CO-、―COO-、-CONH-、-SO-である。
としては、NH―R31、NH―CO-R31、NH―COO-R31、NH-CONH-R31、NH-SO-R31、SH、またはOHが好ましい。
【0029】
NH-Y31-R31において、R31は置換基を有してもよく、炭素-炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、脂環もしくは芳香環を含んでもよい、炭素数1~12のアルキル基である。
【0030】
31における置換基としては、RおよびRにおける置換基と同様の基が挙げられる。
【0031】
31の炭素数としては、直鎖状の場合、1~12が好ましく、2~10がより好ましく、2~8が特に好ましく、また、分岐鎖状の場合、3~12が好ましく、3~10がより好ましく、4~8が特に好ましい。
31が置換基を有する場合、および主鎖または側鎖に脂環または芳香環を含む場合、上記炭素数には置換基、脂環、芳香環の炭素数は含まれない。
【0032】
31は樹脂および溶媒への溶解性の観点からは、分岐鎖状であるのが好ましい。
31が分岐鎖状の場合、分岐の数は特に制限されない。分岐の数は1~5が好ましく、1~3がより好ましい。樹脂および溶媒への溶解性および製造容易性の両観点から、分岐の位置は、β位が好ましい。また、一つの炭素原子から2つに分岐していてもよく3つに分岐していてもよい。
【0033】
31としては、RおよびRにおいて好ましい態様として記載した、基(1b)~(5b)、(1c)、(2c)から選ばれる基がさらに好ましい。
【0034】
は、水素原子、または炭素数1~12のアルキル基である。
【0035】
アルキル基の炭素数としては、1~8が好ましく、2~8がより好ましい。
アルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよいが、樹脂および溶媒への溶解性の観点からは、分岐鎖状であるのが好ましい。
【0036】
が炭素数1~12のアルキル基の場合、例えば、基(11b)~(15b)、(11c)、(12c)から選ばれる基がさらに好ましい。
-CH(C2n+1 …(11b)
-C(C2n+1 …(11c)
-CH-CH(C2n+1 …(12b)
-CH-C(C2n+1 …(12c)
-(CH-CH(C2n+1 …(13b)
-(CH-CH(C2n+1 …(14b)
-(CH-CH …(15b)
【0037】
ただし、式(11b)~(14b)、(11c)、(12c)においてnは1~3の整数である。式(11b)~(14b)、(11c)、(12c)における2個または3個のC2n+1は直鎖であっても分岐鎖であってもよく、同一であっても異なってもよい。式(15b)においてmは0~11の整数であり、1~11が好ましく、2~7がより好ましく、3~7がさらに好ましい。さらに、基(11b)~(15b)、(11c)、(12c)は炭素-炭素原子間に酸素原子を有してもよい。
立体障害の観点から、Rは水素原子が好ましい。
【0038】
は、水素原子、または炭素数1~12のアルキル基である。
立体障害の観点から、Rは水素原子が好ましい。
【0039】
とR、RとR、RとRは、互いに連結して環を形成してもよい。
環としてはRとR、RとRは員数3~6の脂環、RとRは員数3~6の脂環または芳香環が好ましい。また、該環は置換基を有していてもよい。置換基としてはRおよびRにおける置換基と同様の基が挙げられる。
【0040】
は、C=O、C=S、またはSOである。
【0041】
スクアリリウム化合物(A)としては、下記式(A1)で表されるスクアリリウム化合物(A1)が好ましい。
【0042】
【化4】
【0043】
~Rは式(A)におけるR~Rと好ましい態様を含めて同様である。
【0044】
スクアリリウム化合物(A1)としては、RがNH-CO-R31である、下記スクアリリウム化合物(A11)、RがNH-SO-R31である、下記スクアリリウム化合物(A12)、RがNH-CONH-R31である、下記スクアリリウム化合物(A13)、RがNH-COO-R31である、下記スクアリリウム化合物(A14)、RがOHである、下記スクアリリウム化合物(A15)が好ましい。
【0045】
【化5】
【0046】
【化6】
【0047】
スクアリリウム化合物(A11)~(A15)としては、より具体的には、R、R、R31、Rが、以下の表1に示される化合物(表1には、そのスクアリリウム化合物(A11)~(A15)としての略号を併せて示す。)が挙げられる。表1において、R、R、R31、Rは、式が示された基である場合、式の記号を示す。表1に示す全ての化合物において、R、R、R31、Rは式の左右で全て同一である。
【0048】
【表1】
【0049】
スクアリリウム化合物(A)は、ジクロロメタン溶液中での最大吸収波長λmax(A)が、概ね780~1000nmの範囲にある。
最大吸収波長λmax(A)がかかる範囲にあることで近赤外領域の中でも長波長化領域である600~1100nmの近赤外光を吸収することが可能である。
また、スクアリリウム化合物(A1)は、ジクロロメタン溶液中での最大吸収波長λmax(A1)が、概ね780~880nmの範囲にある。
【0050】
本発明のスクアリリウム化合物(A)は、近赤外線吸収色素として有用である。
【0051】
<スクアリリウム化合物の製造方法>
スクアリリウム化合物(A)の製造方法について、スクアリリウム化合物(A11)の製造方法を用いて説明するが、スクアリリウム化合物(A)の製造方法はこれらに限定されない。
スクアリリウム化合物(A11)を得る方法をスキーム(F-A11)に示す。
【0052】
【化7】
【0053】
(1)公知化合物である出発原料(pA11-1)に対し、ジイソプロピルエチルアミン(CHCHN(CH(CH)と無水酢酸を反応させ、アミノ基を保護した化合物(pA11-2)を得る。
(2)ニトロ化反応により化合物(pA11-3)を得る。
(3)アミノ基の脱保護により化合物(pA11-4)を得る。
(4)N alkylation(ハロゲン化アルキルと塩基を用いるS2反応または、アルデヒドと還元剤を用いる還元的アミノ化反応)により化合物(pA11-5)を得る。
(5)ニトロ基の還元により化合物(pA11-6)を得る。
(6)化合物(pA11-6)とアルカノイルクロライド(R31-C(=O)-Cl)とを反応させることにより化合物(pA11-7)を得る。
(7)メトキシ基の脱保護により化合物(pA11-8)を得る。
(8)化合物(pA11-8)とスクアリン酸とを反応させることにより化合物(A11)を得る。
【0054】
スクアリリウム化合物(A12)は、上記工程(6)におけるアルカノイルクロライド(R31-C(=O)-Cl)を、R31SOClに変更することで製造できる。
スクアリリウム化合物(A13)は、上記工程(6)においてカルボニルジイミダゾールを反応させた後にR31NHを反応させることで製造できる。
スクアリリウム化合物(A14)は、上記工程(6)におけるアルカノイルクロライド(R31-C(=O)-Cl)を、R31O-C(=O)-Clに変更することで製造できる。
【0055】
<光学フィルタ>
本発明の一実施形態の光学フィルタ(以下、「本フィルタ」とも記載する。)は、近赤外線吸収色素と樹脂とを含有する吸収層を備え、近赤外線吸収色素として本発明のスクアリリウム化合物(A)を含む。以下、スクアリリウム化合物(A)からなる近赤外線吸収色素を「NIR色素(A)」とも記載する。
【0056】
本フィルタは、上記吸収層に加えて、誘電体多層膜からなる反射層をさらに有してもよい。以下の、説明において「反射層」は、誘電体多層膜からなる反射層を指す。
【0057】
本フィルタは、透明基板をさらに有してもよい。この場合、吸収層は透明基板の主面上に設けられる。本フィルタが透明基板と吸収層および反射層を有する場合、吸収層および反射層は、透明基板の主面上に設けられる。本フィルタは、吸収層と反射層を、透明基板の同一主面上に有してもよく、異なる主面上に有してもよい。吸収層と反射層を同一主面上に有する場合、これらの積層順は特に限定されない。
【0058】
本フィルタは、また他の機能層を有してもよい。他の機能層としては、例えば可視光の透過率損失を抑制する反射防止層が挙げられる。特に、吸収層が最表面の構成をとる場合には、吸収層と空気との界面で反射による可視光透過率損失が発生するため、吸収層上に反射防止層を設けるとよい。
【0059】
次に、図面を用いて本フィルタの構成例について説明する。
図1は、吸収層11からなる光学フィルタ10Aを示す断面図である。吸収層11は、NIR色素(A)と樹脂とを含有する層で構成できる。光学フィルタ10Aにおいて、吸収層11はフィルムや基板の形態を取り得る。
【0060】
図2は、透明基板と吸収層と反射層を有する実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。光学フィルタ10Dは、透明基板13と透明基板13の一方の主面上に配置された吸収層11と透明基板13の他方の主面上に設けられた反射層12を有する。なお、「透明基板13の一方の主面(上)に、吸収層11を備える」とは、透明基板13に接触して吸収層11が備わる場合に限らず、透明基板13と吸収層11との間に、別の機能層が備わる場合も含み、以下の構成も同様である。
【0061】
図3は、透明基板13の両主面に吸収層11aおよび11bを備え、さらに吸収層11aおよび11bの主面上に、反射層12aおよび12bを備えた光学フィルタ10Fの構成例である。
【0062】
図4は、図2に示す光学フィルタ10Dの吸収層11の主面上に反射防止層14を備えた光学フィルタ10Gの構成例である。反射防止層14は、吸収層11の最表面だけでなく、吸収層11の側面全体も覆う構成でもよい。その場合、吸収層11の防湿の効果を高められる。
【0063】
以下、吸収層、反射層、透明基板および反射防止層について説明する。
【0064】
(吸収層)
吸収層はNIR色素(A)を含有する。吸収層は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、さらにNIR色素(A)以外のNIR色素(以下、その他のNIR色素という。)を含有してよい。
【0065】
吸収層中におけるNIR色素(A)の含有量は、NIR色素(A)とその他のNIR色素との合計量で樹脂100質量部に対して、0.1~30質量部が好ましい。0.1質量部以上で所望の近赤外線吸収能が得られ、30質量部以下で、近赤外線吸収能の低下やヘイズ値の上昇等が抑制される。また、NIR色素(A)とその他のNIR色素の合計の含有量は、0.5~25質量部がより好ましく、1~20質量部がさらに好ましい。
【0066】
その他のNIR色素としては、その最大吸収波長が660~1100nmの範囲にあり、該最大吸収波長とNIR色素(A)の最大吸収波長λmax(A))との間に所定の差があるものが好ましい。両者の最大吸収波長の差は、30nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましく、80nm以上がさらに好ましく、100nm以上が特に好ましい。
【0067】
その他のNIR色素としては、シアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物、ジイモニウム系化合物、ポリメチン系化合物、フタリド化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、インドフェノール系化合物、およびNIR色素(A)以外のスクアリリウム系化合物が挙げられる。その他のNIR色素は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0068】
吸収層は、NIR色素(A)と樹脂を含有し、典型的には、樹脂中にNIR色素(A)が均一に溶解または分散した層または(樹脂)基板である。樹脂は、通常、透明樹脂であり、吸収層は、NIR色素(A)以外にその他のNIR色素を含有してもよい。さらに、吸収層は、NIR色素以外の色素、特にはUV色素を含有してもよい。
【0069】
UV色素は、具体例に、オキサゾール系、メロシアニン系、シアニン系、ナフタルイミド系、オキサジアゾール系、オキサジン系、オキサゾリジン系、ナフタル酸系、スチリル系、アントラセン系、環状カルボニル系、トリアゾール系等の色素が挙げられる。この中でも、オキサゾール系、メロシアニン系の色素が好ましい。また、UV色素は、吸収層に1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
透明樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、およびポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0071】
上記透明樹脂は、透明性、NIR色素(A)の溶解性、ならびに耐熱性の観点からは、ガラス転移点(Tg)の高い樹脂が好ましい。具体的には、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、およびエポキシ樹脂から選ばれる1種以上が好ましく、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0072】
吸収層は、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、密着性付与剤、色調補正色素、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等の任意成分を有してもよい。
【0073】
吸収層は、例えば、NIR色素(A)を含む色素と、樹脂または樹脂の原料成分と、必要に応じて配合される各成分とを、溶媒に溶解または分散させて塗工液を調製し、これを基材に塗工し乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させて形成できる。上記基材は、本フィルタに任意に含まれる透明基板でもよいし、吸収層を形成する際にのみ使用する剥離性の基材でもよい。また、溶媒は、安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であればよい。
【0074】
また、塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。さらに、塗工液の塗工には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、またはスピンコート法等を使用できる。上記塗工液を基材上に塗工後、乾燥させることにより吸収層が形成される。また、塗工液が樹脂の原料成分を含有する場合、さらに熱硬化、光硬化等の硬化処理を行う。
【0075】
また、吸収層は、押出成形によりフィルム状に製造可能でもあり、このフィルムを他の部材に積層し熱圧着等により一体化させてもよい。例えば、本フィルタが透明基板を含む場合、このフィルムを透明基板上に貼着してもよい。
【0076】
本フィルタは、吸収層を2層以上有してもよい。吸収層が2層以上で構成される場合、各層は同じでも異なってもよい。吸収層が2層以上の構成の場合、一方の層が、NIR色素を含む樹脂からなる近赤外線吸収層、もう一方の層が、UV色素を含む樹脂からなる紫外線吸収層とする例が挙げられる。また、吸収層は、それそのものが基板(樹脂基板)であってもよい。
【0077】
本フィルタにおいて、吸収層の厚さは、0.1~100μmが好ましい。吸収層が複数層からなる場合、各層の合計の厚さは、0.1~100μmが好ましい。厚さが0.1μm未満では、所望の光学特性を十分に発現できないおそれがあり、厚さが100μm超では、層の平坦性が低下し、吸収率の面内バラツキが生じるおそれがある。吸収層の厚さは、0.3~50μmがより好ましい。また、反射層や、反射防止層等の他の機能層を備えた場合、その材質によっては、吸収層が厚すぎると割れ等が生ずるおそれがある。そのため、吸収層の厚さは、0.3~10μmがより好ましい。
【0078】
(透明基板)
本フィルタにおいて透明基板は任意の構成要素である。本フィルタが透明基板を備える場合、該透明基板の厚さは、0.03~5mmが好ましく、薄型化の点から、0.05~1mmがより好ましい。透明基板の材料としては、可視光を透過するものであれば、ガラスや(複屈折性)結晶、樹脂が利用できる。
【0079】
透明基板用のガラスとしては、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等にCuO等を添加した吸収型のガラス(近赤外線吸収ガラス基材)、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。なお、「リン酸塩ガラス」には、ガラスの骨格の一部がSiOで構成されるケイリン酸塩ガラスも含むものとする。
【0080】
透明基板がフツリン酸塩系ガラスの場合、具体的にカチオン%表示で、P5+:20~45%、Al3+:1~25%、R:1~30%(但し、Rは、Li、Na、Kのうち少なくとも1つであって、左記の値は、それぞれの含有割合を合計した値である)、Cu2+:1~20%、R2+:1~50%(但し、R2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+のうち少なくとも1つであって、左記の値は、それぞれの含有割合を合計した値である)を含有するとともに、アニオン%表示で、F:10~65%、O2-:35~90%を含有していることが好ましい。
【0081】
また、透明基板がリン酸塩系ガラスの場合、質量%表示で、P:30~80%、Al:1~20%、RO:0.5~30%、(但し、ROは、LiO、NaO、KOのうちの少なくとも1つであって、左記の値は、それぞれの含有割合を合計した値である。)、CuO:1~12%、RO:0.5~40%(但し、ROは、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOのうちの少なくとも1つであって、左記の値は、それぞれの含有割合を合計した値である)を含有することが好ましい。
【0082】
上記したCuO含有ガラスは、金属酸化物をさらに含有してもよい。金属酸化物として、例えば、Fe、MoO、WO、CeO、Sb、V等の1種または2種以上を含有すると、CuO含有ガラスは紫外線吸収特性を有する。これらの金属酸化物の含有量は、上記CuO含有ガラス100質量部に対して、Fe、MoO、WOおよびCeOからなる群から選択される少なくとも1種を、Fe:0.6~5質量部、MoO:0.5~5質量部、WO:1~6質量部、CeO:2.5~6質量部、またはFeとSbの2種をFe:0.6~5質量部+Sb:0.1~5質量部、もしくはVとCeOの2種をV:0.01~0.5質量部+CeO:1~6質量部とすることが好ましい。
【0083】
透明基板用の透明樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、およびポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0084】
(反射層)
本フィルタにおいて反射層は任意の構成要素である。反射層は、誘電体多層膜からなり、特定の波長域の光を遮蔽する機能を有する。反射層としては、例えば、可視光を透過し、吸収層の遮光域以外の波長の光を主に反射する波長選択性を有するものが挙げられる。この場合、反射層の反射領域は、吸収層の近赤外域における遮光領域を含んでもよい。反射層は、上記特性に限らず、所定の波長域の光を遮蔽する仕様に合わせて適宜設計してよい。
【0085】
本フィルタにおいて反射層を備える場合、NIR色素(A)の最大吸収波長λmax(A)の光における透過率が1%以下の反射特性を有するとよい。これにより、本フィルタは、NIR色素(A)の最大吸収波長λmax(A)において、相乗的に、高い遮光性(高OD値)が得られる。
【0086】
本フィルタは反射層を1層有してもよく、2層以上有してもよい。反射層が2層以上で構成される場合、各層は同じでも異なってもよい。反射層が2層以上の構成の場合、一方の層が、少なくとも近赤外光を遮蔽する、特には、上記反射特性を有する近赤外線遮蔽層、もう一方の層が、少なくとも紫外光を遮蔽する紫外線遮蔽層とする組合せでもよい。
【0087】
反射層は、低屈折率の誘電体膜(低屈折率膜)と高屈折率の誘電体膜(高屈折率膜)とを交互に積層した誘電体多層膜から構成される。高屈折率膜の材料としては、Ta、TiO、Nbが挙げられる。このうち、成膜性、屈折率等における再現性、安定性等の点から、TiOが好ましい。低屈折率膜の材料としては、SiO、SiO等が挙げられる。成膜性における再現性、安定性、経済性等の点から、SiOが好ましい。また、反射層の膜厚は、2~10μmが好ましい。
【0088】
(反射防止層)
反射防止層としては、誘電体多層膜や中間屈折率媒体、屈折率が漸次的に変化するモスアイ構造等が挙げられる。中でも高い光利用効率、生産性の観点から誘電体多層膜の使用が好ましい。
【0089】
本フィルタは、NIR色素(A)を含有する吸収層を有することで、近赤外光に対して優れた遮光性を実現できるとともに、高い可視光透過性を実現できる。本フィルタは、例えば、デジタルスチルカメラ等の撮像装置や環境光センサー等に使用できる。
【0090】
本フィルタを用いた撮像装置は、固体撮像素子と、撮像レンズと、本フィルタとを備える。本フィルタは、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間に配置されたり、撮像装置の固体撮像素子、撮像レンズ等に粘着剤層を介して直接貼着されたりして使用できる。
【実施例
【0091】
次に、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
なお、例1~例8は実施例であり、例9は比較例である。
【0092】
<例1:スクアリリウム化合物(A11-1)の合成>
下記に示す工程に従い、スクアリリウム化合物(A11-1)を合成した。
【0093】
【化8】
【0094】
(工程1):化合物(1)(東京化成製3-アミノ-2-メトキシピリジン)(2.5g)をジクロロメタン(60ml)に溶解し、ジイソプロピルエチルアミン(2.8g)と無水酢酸(2.25g)を加え、室温で3時間攪拌した。生成物はシリカゲルカラムクロマトグラフィー法で精製し、化合物(2)を得た(収率94%)。
(工程2):化合物(2)(2.5g)に無水トリフルオロ酢酸(7.5ml)を0℃で添加し30分攪拌した後、1.1当量の硝酸(1.1g)と無水トリフルオロ酢酸(12g)の混合溶液を0℃で滴下した。室温で12時間攪拌後、水酸化ナトリウム水溶液で中和して現れた化合物(3)の固体2.4gを回収した(収率76%)。
(工程3):化合物(3)(1.9g)をメタノール(50ml)に溶解し、1Mの塩酸(18ml)を添加して60℃で12時間攪拌した。メタノールを除去後、中和して化合物(4)の固体1.47gを濾別した(収率96%)。
(工程4):化合物(4)(5.1g)をジクロロメタン(80ml)に溶解し、プロピオンアルデヒド(42ml)(20当量)、トリアセトキシボロハイドライド(25g)(4当量)、酢酸(0.2ml)を添加し、室温で4時間攪拌した。アルカリをpH7まで添加後ジクロロメタン/水で分液し、濃縮した有機層をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、化合物(5)(5.9g)を得た(収率78%)。
(工程5):化合物(5)(5.9g)をメタノールに溶解し、パラジウム炭素(3g)を添加して水素雰囲気下で5時間攪拌した。水を添加してセライト濾過でパラジウムを除去し、メタノールを除去後に酢酸エチル/水で分液して目的の化合物(6)(3.7g)を得た(収率71%)。
(工程6):化合物(6)(3.7g)をジクロロメタン(50ml)に溶解し、ジイソプロピルエチルアミン(2.36g)を添加した。溶液を0℃に冷却して2-エチルヘキサノイルクロライド(2.7g)を添加し、室温で12時間攪拌した。反応終了後ジクロロメタン/水で分液し、有機層を濃縮した後にカラムクロマトグラフィー法で精製して目的物の化合物(7)を得た(収率88%)。
(工程7):化合物7(5.8g)を150mlのアセトニトリルに溶解し、TMS-Cl(5.4g)とヨウ化ナトリウム(7.5g)を各3当量添加した。80℃で3時間反応させた後、濃縮しカラムクロマトグラフィーで精製したところ、目的の化合物(8)(2g)を得た(収率35%)。
(工程8):化合物(8)および0.6当量の3,4-ジヒドロキシ-3-シクロブテン-1,2-ジオンを添加し、1-ブタノール中110℃で16時間反応させた。反応終了後は溶媒を全て除去しカラムで精製、酢酸/メタノール溶液で抽出し、スクアリリウム化合物(A11-1)を35%の収率で得た。スクアリリウム化合物(A11-1)のジクロロメタン溶液中での最大吸収波長(λmax)は859nmであった。
【0095】
<例2:スクアリリウム化合物(A11-2)の合成>
例1の(工程4)におけるプロピオンアルデヒドをホルムアルデヒドに変更した以外は、例1と同様にして、スクアリリウム化合物(A11-2)を得た。スクアリリウム化合物(A11-2)のジクロロメタン溶液中での最大吸収波長(λmax)は847nmであった。
【0096】
【化9】
【0097】
<例3:スクアリリウム化合物(A11-3)の合成>
例1の(工程4)におけるプロピオンアルデヒドをホルムアルデヒドに変更し、(工程6)における2-エチルヘキサノイルクロライドをヘプタノイルクロライドに変更した以外は、例1と同様にして、スクアリリウム化合物(A11-3)を得た。スクアリリウム化合物(A11-3)のジクロロメタン溶液中での最大吸収波長(λmax)は844nmであった。
【0098】
【化10】
【0099】
<例4:スクアリリウム化合物(A11-4)の合成>
例1の(工程4)におけるプロピオンアルデヒドをイソブチルアルデヒドに変更した以外は、例1と同様にして、スクアリリウム化合物(A11-4)を得た。スクアリリウム化合物(A11-4)のジクロロメタン溶液中での最大吸収波長(λmax)は865nmであった。
【0100】
【化11】
【0101】
<例5:スクアリリウム化合物(A12-1)の合成>
例1の(工程4)におけるプロピオンアルデヒドを2-エチルヘキシルアルデヒドに変更し、(工程6)における2-エチルヘキサノイルクロライドをオクタンスルフォニルクロライドに変更した以外は、例1と同様にして、スクアリリウム化合物(A12-1)を得た。スクアリリウム化合物(A12-1)のジクロロメタン溶液中での最大吸収波長(λmax)は857nmであった。
【0102】
【化12】
【0103】
<例6:スクアリリウム化合物(A13-1)の合成>
例1の(工程4)におけるプロピオンアルデヒドをイソブチルアルデヒドに変更し、(工程6)を下記に変更した以外は、例1と同様にして、スクアリリウム化合物(A13-1)を得た。スクアリリウム化合物(A13-1)のジクロロメタン溶液中での最大吸収波長(λmax)は854nmであった。
(工程6):化合物(6-6)(2.7g)をアセトニトリル(50ml)に溶解し、カルボニルジイミダゾール(2.11g)を添加した。室温で30分間撹拌後、2-エチルヘキシルアミン(2.1ml)を添加し、室温で1時間攪拌した後、反応溶液を濃縮した。ヘキサン/酢酸エチル=3/2の溶液(50ml)とシリカゲル(14g)を加え、ヘキサン/酢酸エチル=3/2の溶液(100ml)で洗浄しながら濾過し、濾液を濃縮して目的物の化合物(7-6)を得た。
【0104】
【化13】
【0105】
<例7:スクアリリウム化合物(A14-1)の合成>
例1の(工程4)におけるプロピオンアルデヒドを2-エチルヘキシルアルデヒドに変更し、(工程6)における2-エチルヘキサノイルクロライドをクロロギ酸イソブチルに変更した以外は、例1と同様にして、スクアリリウム化合物(A14-1)を得た。スクアリリウム化合物(A14-1)のジクロロメタン溶液中での最大吸収波長(λmax)は857nmであった。
【0106】
【化14】
【0107】
<例8:スクアリリウム化合物(A15-1)の合成>
下記に示す工程に従い、スクアリリウム化合物(A15-1)を合成した。
【0108】
【化15】
【0109】
(工程1):化合物(11)(東京化成製5-ブロモ-2-クロロ-3-ニトロピリジン)(25.0g)をメタノール(100ml)とテトラヒドロフラン(30ml)に溶解し、5Mのナトリウムメトキシドのメタノール溶液(25ml)を加え、室温で30分間攪拌した。析出物を濾過、水洗で除去し、化合物(12)を得た(収率96%)。
(工程2):還元鉄(12.4g)にエタノール(60ml)を加え、濃塩酸(2ml)を滴下した。60℃で30分攪拌した後、25%塩化アンモニウム水溶液(36g)と化合物(12)(10.3g)のエタノール溶液(160ml)を加え、再び60℃で1時間撹拌した。室温に戻した後、濾過で固体を除去し濾液を濃縮、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧除去し、未精製の化合物(13)を得た。
(工程3):未精製の化合物(13)(8.8g)と2-エチルヘキシルアルデヒド(53.9g)を氷冷下で酢酸(250ml)に溶解し、トリアセトキシボロハイドライド(90.5g)を加え、室温で24時間攪拌した。水(36g)を加えた後、濾過し濾液を濃縮、1M水酸化ナトリウム水溶液とヘキサン/酢酸エチルの混合溶媒を加え抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧除去した。これをヘキサン/酢酸エチル(24:1、容量比)を展開液としたカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(14)を15.2g得た(収率80%)。
(工程4):化合物(14)(3.0g)をテトラヒドロフラン(20ml)に溶解し、-15℃で1.57Mのn-ブチルリチウム(5.2ml)を加え、30分間撹拌した。ホウ酸トリエチル(1.9ml)を加え、室温に戻して2時間撹拌後、氷冷下で30%過酸化水素水(1.1g)を加え、再び室温で1時間撹拌した。反応終了後、氷冷下で1M水酸化ナトリウム水溶液(12ml)と22%亜硫酸水素ナトリウム水溶液を加え、ヘキサン/酢酸エチルの混合溶媒で抽出した。22%亜硫酸水素ナトリウム水溶液で有機層を洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧除去した。これをヘキサン/酢酸エチル(3:1、容量比)を展開液としたカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(15)を1.5g得た(収率59%)。
(工程5):ヨウ化ナトリウム(0.23g)をアセトニトリル(3ml)に溶解し、窒素雰囲気中、氷冷下でクロロトリメチルシラン(0.2ml)を滴下し、室温で30分間撹拌した。このアセトニトリル溶液を化合物(15)(0.16g)をテトラヒドロフラン(0.4ml)に溶解した溶液に、窒素雰囲気中、氷冷下で滴下し、60℃で2時間撹拌した。反応終了後、この反応溶液をアセトニトリル/テトラヒドロフラン(1:1、容量比)を展開液としたオクタデシルシリル基を化学修飾したシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(16)を0.03g得た(収率23%)。
(工程6):化合物(16)(0.03g)および3,4-ジヒドロキシ-3-シクロブテン-1,2-ジオン(0.02g)を1-プロパノール(3ml)に溶解し、オルトぎ酸トリメチル(0.1g)を添加し、窒素雰囲気下、90℃で1時間反応させた。反応終了後、この反応溶液を、エタノールを展開液としたオクタデシルシリル基を化学修飾したシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(A15-1)を得た。スクアリリウム化合物(A15-1)のジクロロメタン溶液中での最大吸収波長(λmax)は798nmであった。
【0110】
<例9:シアニン化合物の合成>
国際公開第2019/151348号の記載を参考に、下記シアニン化合物(Acf5)を合成した。
【0111】
【化16】
【0112】
例1~8で合成した各化合物の、ジクロロメタン中における分光透過率曲線を図5~12に示す。
図5~12に示すように、本発明のスクアリリウム化合物は、可視光域、特に波長500nm~700nmの領域の透過率が高く、かつ、近赤外光領域のなかでも波長800nm以降の長波長領域を吸収に優れることが分かる。
【0113】
また、例4、例9で合成した各化合物の、樹脂中における分光内部透過率曲線を下記方法により測定した。
ポリイミド樹脂溶液(三菱ガス化学社製、商品名:C3G30)をシクロヘキサノンに希釈させ、NIR色素として例4、9で合成した各化合物を樹脂に対して5wt%溶解させた。得られた調合液をSCHOTT製D263ガラスにスピンコートしておよそ膜厚1μmになるようにスピン成膜し、吸収層を形成した。得られた各吸収層を分光光度計で波長350nm~1200nmの波長範囲で入射方向に対してサンプルを5度に傾けて透過率と反射率を測定した。
樹脂中の分光特性は、空気界面とガラス界面での反射の影響を回避するため、内部透過率で評価した。
各化合物の、λmaxの透過率を10%に規格化したときの各波長領域における平均透過率を以下の表に示す。
【0114】
【表2】
【0115】
上記のとおり、本発明のスクアリリウム化合物は、溶液中においても樹脂中においても、可視光域の透過性に優れることが分かる。
一方、比較例のシアニン化合物は、樹脂中において可視光域の透過性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明のスクアリリウム化合物は、近赤外光のなかでも長波長領域の光に対して優れた遮光性を実現できることから、近赤外線吸収色素として有用であり、近赤外光を遮蔽する光学フィルタに適用可能である。本発明の光学フィルタは撮像装置に適用できる。
【符号の説明】
【0117】
10A,10D,10F,10G…光学フィルタ、11,11a,11b…吸収層、12,12a,12b…反射層、13…透明基板、14…反射防止層。
図1
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