(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】導光部材および虚像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20240319BHJP
G02B 6/00 20060101ALI20240319BHJP
H04N 5/64 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B6/00 331
H04N5/64 511A
G02B6/00 301
(21)【出願番号】P 2020127360
(22)【出願日】2020-07-28
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【氏名又は名称】工藤 修一
(72)【発明者】
【氏名】門馬 進
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】須藤 芳文
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 駿
(72)【発明者】
【氏名】平野 成伸
(72)【発明者】
【氏名】片野 泰男
(72)【発明者】
【氏名】亀山 健司
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 規和
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 愛乃
(72)【発明者】
【氏名】山田 正道
(72)【発明者】
【氏名】牧 隆史
【審査官】河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-142406(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035517(WO,A1)
【文献】特開2017-120305(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106125194(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/00、27/01-27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像光を内部に取り込む光入射部と、該光入射部から取り込まれた画像光を反射して外部へ射出させる画像光取り出し部と、前記画像光を前記光入射部から前記画像光取り出し部へ向かって導光する導光部とを有し、
前記導光部は、互いに平行に対向し、前記画像光を反射により前記画像光取り出し部へ向かって導光する第1反射面および第2反射面を備え、
前記画像光取り出し部は、前記導光部により導光された画像光を外部へ射出する射出面部と、取り出すべき前記画像光を前記射出面部へ向ける取り出し用構造部とを有し、
前記射出面部は、前記第1反射面と平行で、前記導光部の導光方向側に形成され、
前記取り出し用構造部は、導光用反射面部と傾斜反射面部と連結部とを有する構造単位を前記導光方向へ繰り返して有し、
前記導光用反射面部は前記射出面部と平行であって、前記射出面部との間隔が、前記導光方向に向かって隣接する構造単位ごとに小さくなるように形成され、
前記傾斜反射面部は、前記導光方向に向かって前記射出面部との間隔が狭くなるように傾斜し、
前記連結部は、前記傾斜反射面部の前記導光方向側の端部と、前記導光方向側に隣接する前記構造単位の前記導光用反射面部とを連結するように、前記傾斜反射面部よりも前記射出面部側に形成され、反射防止処理を施されている、導光部材。
【請求項2】
請求項1記載の導光部材であって、
前記導光用反射面部の法線と、前記傾斜反射面部とが角:θ(<∠R)をなし、
前記連結部は、
前記傾斜反射面部の前記導光方向側の端部と前記導光方向側に隣接する前記構造単位の前記導光用反射面部とを連結する面であり、
前記導光用反射面部と角:β(∠R-θ<β≦∠R)をなす、導光部材。
【請求項3】
請求項1または2記載の導光部材であって、
前記導光用反射面部の法線と、前記傾斜反射面部とがなす角:θ(<∠R)、
前記各構造単位において、
前記傾斜反射面部の前記第2反射面への正射影の前記導光方向の幅:Gと、前記連結部の前記第2反射面への正射影の前記導光方向の幅との和:W、および、前記隣接する構造単位における導光用反射面部の面法線方向の面間隔である距離:dが、条件:
(1) W
<d・tanθ
を満足する、導光部材。
【請求項4】
請求項3記載の導光部材であって、
前記傾斜反射面部の前記第1反射面への垂直射影の前記導光方向の幅:Gと前記和:Wが、条件:
(2) G≦W
を満足する、導光部材。
【請求項5】
請求項3または4の何れか1項に記載の導光部材であって、
前記画像光が前記第2反射面に入射する入射角:φが、φ1≦φ≦φ2の範囲にあり、
前記角:φ1は、前記角:θよりも小さく、
前記和:W、
前記距離:d、
前記角:φ1が、条件:
(3) W≦d×tanφ1
を満足する導光部材。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか1項に記載の導光部材であって、
前記連結部に施された反射防止処理は、反射防止部材もしくは光吸収部材である、導光部材。
【請求項7】
請求項3ないし5の何れか1項に記載の導光部材であって、
前記連結部は、第1反射面の法線と角:ψをなす平面形状であり、
前記画像光は、前記第2反射面への入射角
:φがφ1≦φ≦φ2の範囲にあり、
前記和:W、前記導光方向の幅:G、角:ψ(=∠R-β)、角:θ、角:φ1および角:φ2が、条件:
(4) ψ>φ2-2θ
(5) W=G・tanφ1(tanψ-tanθ)
/(tanθ(tanψ-tanφ1))
を満足する、導光部材。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか1項に記載の導光部材であって、
均一な屈折率を有する透明媒体で形成され、前記画像光の導光は、前記第1反射面および前記第2反射面、前記導光用反射面部との全反射により行われる、導光部材。
【請求項9】
請求項8記載の導光部材と、
この導光部材における第2反射面の側に設けられる透明部材と、を有し、
前記透明部材は、前記導光部材と同一もしくは略等しい屈折率を有し、前記第2反射面と、前記導光用反射面部、前記傾斜反射面部に対して空気間隙を隔して近接し、前記連結部に接合されて、
前記連結部における反射防止処理を構成する、導光部材。
【請求項10】
請求項9記載の導光部材であって、
前記透明部材と前記連結部の接合は接着である、導光部材。
【請求項11】
請求項1ないし10の何れか1項に記載の導光部材であって、
前記取り出し用構造部の、導光用反射面部と傾斜反射面部とはミラー面である、導光部材。
【請求項12】
請求項1ないし10の何れか1項に記載の導光部材であって、
前記取り出し用構造部の、導光用反射面部と傾斜反射面部とはハーフミラー面である、導光部材。
【請求項13】
請求項1ないし10の何れか1項に記載の導光部材であって、
第2反射面はミラー面もしくはハーフミラー面である導光部材。
【請求項14】
請求項1ないし13の何れか1項に記載の導光部材と、
前記導光部材の前記光入射部に前記画像光を入射させる画像光入射手段と、を有する虚像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、導光部材および虚像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2次元画像を虚像光学系により拡大し、拡大された虚像を観察する装置として知られるヘッドマウントディスプレイ(以下「HMD」と称する。)のうちで、虚像を構成する画像光を「導光部材」により導光するものが知られ(例えば、特許文献1、2)、近来、商品化されつつある(例えば「Googleglass(登録商標 Google LTD.)」)。
導光部材は、光入射部と、導光部と、画像光取り出し部とを有し、光入射部から取り込まれた画像光を導光部により導光して、画像光取り出し部から観察用画像光として射出させ、拡大虚像の観察に供する。
このような導光部材を用いるHMDには、透過型と非透過型のものがある。
透過型のものは所謂シースルータイプで、導光部材を透して「現実の情景と、画像光による拡大虚像と」を重ね合わせた状態で観察でき、例えば、情報端末と組み合わせてAR(Augmented Reality:拡張現実)等の用途に用いることができる。
非透過型の導光部材を用いるHMDは、映画やゲーム等の動画の鑑賞やVR(Virtual Reality:仮想現実)等の用途に用いることができる。
【0003】
このようなHMDでは、表示する虚像の視野角すなわち画角を大きくする場合に、画像光の迷光や輝度ぬけによる画像のフレアや輝度ムラに改善の余地があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、画像光における迷光や輝度ぬけを低減できる新規な導光部材の実現を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の導光部材は、画像光を内部に取り込む光入射部と、該光入射部から取り込まれた画像光を反射して外部へ射出させる画像光取り出し部と、前記画像光を前記光入射部から前記画像光取り出し部へ向かって導光する導光部とを有し、前記導光部は、互いに平行に対向し、前記画像光を反射により前記画像光取り出し部へ向かって導光する第1反射面および第2反射面を備え、前記画像光取り出し部は、前記導光部により導光された画像光を外部へ射出する射出面部と、取り出すべき前記画像光を前記射出面部へ向ける取り出し用構造部とを有し、前記射出面部は、前記第1反射面と平行で、前記導光部の導光方向側に形成され、前記取り出し用構造部は、導光用反射面部と傾斜反射面部と連結部とを有する構造単位を前記導光方向へ繰り返して有し、前記導光用反射面部は前記射出面部と平行であって、前記射出面部との間隔が、前記導光方向に向かって隣接する構造単位ごとに小さくなるように形成され、前記傾斜反射面部は、前記導光方向に向かって前記射出面部との間隔が狭くなるように傾斜し、前記連結部は、前記傾斜反射面部の前記導光方向側の端部と、前記導光方向側に隣接する前記構造単位の前記導光用反射面部とを連結するように、前記傾斜反射面部よりも前記射出面部側に形成され、反射防止処理を施されている。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、画像光における迷光や輝度ぬけを低減できる新規な導光部材を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】導光部材の実施の形態の特徴部を説明するための図である。
【
図2】導光部材の取り出し用構造部の1例を説明するための図である。
【
図3】導光部材の取り出し用構造部の別例を説明するための図である。
【
図4】導光部材の実施の別形態(導光ユニット)を説明するための図である。
【
図5】
図4に示す導光部材(導光ユニット)を用いる虚像表示装置の1実施例を説明するための図である。
【
図6】虚像表示装置の従来例を説明するための図である。
【
図7】
図6に示す導光部材における「迷光と抜け」の問題を説明するための図である。
【
図8】導光部材の取り出し用構造部の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して説明する。
図6は、導光部材を用いる虚像表示装置の従来例を説明図的に示す図である。この発明の導光部材や虚像表示装置の説明に先立って、
図6の例に即して用語や虚像表示の仕組み等を説明する。
図6(a)において、符号10は導光部材、符号12は画像光発生部、符号14は「観察者の目」を示している。
図の如く、X方向(図の横方向)、Y方向(図の上下方向)を定め、図面に直交する方向をZ方向とする。
画像光発生部12は、画像表示部121とコリメートレンズ122とを有する。
画像表示部121は、例えば、DMD(デジタルマイクロミラーデバイス)であり、微小な反射面が「画素」として2次元的にアレイ配列した画像表示領域を持ち、その表面を、図示を省略された半導体レーザ等からのレーザ光で照射されている。
図示を省略されている画像情報発生部により、表示すべき画像に応じて、画像表示領域における微小な反射面を傾けて画像を表示する。画像表示領域のサイズは、1例として3mm×4mmであり、画素数は略1万画素である。
画像表示部121に表示された画像により反射された光L0は、コリメートレンズ122によりコリメートされ、画像光LIとなる。
【0009】
導光部材10は「XY面内において図の如き断面形状」を有し、Z方向においては、導光部材としての機能を果たす部分においては図の断面形状が一様に続いている。
導光部材10は、3つの部分、即ち、光入射部10A、導光部10B、画像光取り出し部10Cを有する。
画像光発生部12からの画像光LIは、導光部材10の光入射部10Aから導光部材内に取り込まれ、導光部10Bを導光画像光LPとなって「導光方向」、即ち、X軸の右方向へ導光され、画像光取り出し部10Cから観察用画像光LTとして射出する。観察用画像光LTが観察者の目14の水晶体レンズ14Aに入射すると、水晶体レンズ14Aの結像作用により網膜上に2次元画像として結像し、観察者は2次元の拡大画像を観察できる。観察者が観察する拡大画像は「虚像」である。
コリメートレンズ122と観察者の眼球14の水晶体レンズ14Aとは「リレーレンズ系」を構成する。
【0010】
導光部材10は「樹脂等の透明な光学材料」で形成され、導光部10Bおよび画像光取り出し部10Cにおける導光画像光LPの導光は「全反射」により行われる。
導光部10Bの「図で下方の面」である平面101は、XZ面に平行で、光入射部10A、導光部10B、画像光取り出し部10Cに共通な面である。
平面101は、光入射部10Aにおいては「画像光LIの入射面部」をなし、画像光取り出し部10Cにおいては「観察用画像光LTの射出面部」をなしている。
光入射部10Aの平面101に対する面は、X方向に対して傾いた反射面103となっている。また、導光部10Bにおいて、平面101に対向する平面102は、平面101と平行である。
【0011】
画像光取り出し部10Cは、取り出し用構造部104と平面101とにより構成され、XY面内の断面形状が、導光方向へ向かって「楔状に狭まる形状」となっている。
取り出し用構造部104は、
図6(c)に示すように、2種の平面部分104Aと104Bとを有する。平面部分104Aは平面101に平行(即ち、平面102にも平行)で、図の右方へ向かい「ステップ状に下降」しており、平面部分104Bは「隣接する平面部分104Aを連結する」ようにして、図の右方へ向かって下がるように傾斜している。
平面部分104A、104Bは何れも「画像光を反射する機能」を持つ。平面部分104Aは、平面101と共に、導光部10Bにより導光されてきた画像光を、図の右方へ向かってさらに導光する。
平面部分104Bは、画像光取り出し部10Cを導光される導光画像光LPのうち、平面部分104Bに入射する画像光部分を平面101の側に反射する。このように反射された画像光部分が、観察用画像光LTとして平面101から射出する。
【0012】
画像表示部121の画像表示領域のX方向における両端部を、
図6(b-1)のように、端部B、C、中央部分を中央部Aとする。中央部A、端部B、Cは、コリメートレンズ122の光軸を含みXY面に平行な面内にあるものとする。
この状態で、中央部A、端部B、Cにある画素から出た光線の中で、コリメートレンズ122の中心を通る光線を光線La、Lb、Lcとする。このとき、光線Laはコリメートレンズ122の光軸と合致する。
図6(b-2)は、端部Bにある画素からの光がコリメートレンズ122により平行光束化される様子を示している。以下、端部Bにある画素からコリメートレンズ122に入射して「平行光束化された光束」を画素光束LBと呼び、(b-1)に示す光線La、Lcを含む光束についても、平行光束化されたものを画素光束LA、LCと呼ぶ。
このとき、画素光束LA、LB、LCの光軸光線(
図6(b-1)を示す光線La、Lb、Lcと、コリメートレンズ122の光軸とのなす角を「画素光束LA、LB、LCの画角」と言い、画角ξA、ξB、ξC等と呼ぶ。
図6(b-2)には、画素光束LBの画角ξBを示す。
【0013】
上の説明から明らかなように、導光部材10の光入射部10Aに入射する画像光LIは
画像表示部121の画像表示領域内の「画像を構成する各画素からの光が平行光束化された画素光束」の集合である。
画像光LIを構成する各画素光束は「その出発点となる画素」に応じた画角を有する。上に挙げた画角ξA等はその例である。
導光部材10は、上述の如く、Z方向には「XY面内の断面形状」が一様に続いており、導光部材10に入射した画像光を構成する各画素光束に対する光学作用はZ方向から見ると、XY面内においては同一となる。従って、以下においては、XY面のうちでコリメートレンズ122の光軸を含む面を考え、この面内での光学作用を考える。
【0014】
図6(a)に示すように、導光部材10の光入射部10Aに入射した画像光LIは、反射面103により反射されて導光画像光LPとなり、その導光は、前述の如く全反射により行われる。すなわち、導光部10Bおよび画像光取り出し部10Cにおける導光は、平面101と平面102、平面101と平面部分104Aによる全反射により行われる。
【0015】
従って、平面101、102、平面部分104Aに入射する導光画像光LP(を構成する各画素光束)の入射角は、全反射が成り立つ臨界角以上である。
導光体1における全反射の臨界角:γは、導光体1を構成する透明な光学材料の屈折率:nにより、
sinγ=1/n
から、
γ=sin-1(1/n)
で与えられる。
【0016】
画像光LIを構成する画素光束の画角は、画素の位置に応じて、画角ξBから画角ξCの間で変化する。画角ξBをもって導光部材10に入射する画素光束LBが反射面103で反射されて平面101、102、平面部分104Aに入射する入射角が一番小さい。また、画角ξCで導光部材10に入射する画素光束LCが反射面103で反射された画素光束LCが平面101、102、平面部分104Aに入射する入射角が一番大きい。
そこで、便宜的に、画素光束LBが平面101、102、平面部分104Aに入射する入射角を「最小入射角」と呼び、同様に画素光束LCの平面101等への入射角を「最大入射角」と呼ぶ。
画像光LIは画素光束の集合で、各画素光束はその出発点となる画素に応じた画角をもつ平行光束である。従って、各画素からの画素光束が導光部材10内を導光されるとき、互いに平行な平面101、102、平面部分104Aに入射する入射角は、画素ごとに決まっており導光の過程で変化しない。
上記「入射角」は勿論「反射角」に等しい。
【0017】
コリメートレンズ122について付言すると、上の説明におけるコリメートレンズ122は、説明のために単純化したものである。実際には、コリメートレンズは複数枚のレンズにより構成され、図において、光線La、Lb、Lcはレンズ内で交差しているが、実際には、レンズ系の外部で交差することもある。
【0018】
上に説明したタイプの導光部材には、以下のような問題が考えられる。
図7を参照して説明する。
問題の第1は「迷光(フレア光)」である。
図7(a)を参照する。
図7(a)は、
図6(c)において説明した取り出し用構造部104の一部を拡大して示している。この図において、平面部分104Aに入射角(=反射角):ξをもって入射する入射光線L1、L2を考える。入射光線L1、L2は「同一画素」からの光が平行光束となった「同一の画素光束」を構成する光線のうちの2本である。
平面部分104Aとこれに連接する平面部分104Bの連接部分において、平面部分104Aに「幅:Δの微小領域」を考える。入射光線L1は、微小領域の「図で左側の端部」に入射して反射されるが、反射された反射光線RL1が平面部分104Bに入射することはない。
しかし、微小領域内に入射した入射光線L2は、平面部分104Aで反射されたのち、傾斜面をなす平面部分104Bに入射して反射され、正規の反射光以外の迷光(フレア光)RL2となる。
迷光RL2の発生は、光線L2と平面部分104Aとがなす角:∠R-ξが、平面部分104Bの傾斜角:ωよりも小さいことに起因する。即ち、迷光は、平面部分104Aへの入射角:ξが大きい光線による光束、換言すれば「最大入射角に近い入射角」をもつ光束で生じる。
微小領域の幅:Δは、上記傾斜角:ω、入射角:ξ、平面部分104BのXZ面への正射影のX方向の幅:Lにより、以下のように与えられる。
【0019】
Δ=L(tanω-tan(∠R-ξ))/tan(∠R-ξ) 。
【0020】
迷光RL2は、先に説明した観察用画像光LT(
図6(a))に対するノイズ成分となり、観察される拡大虚像の像質を低下させる原因となる。
【0021】
問題の第2は「輝度抜け」と呼ばれるものである。
上に説明したように、導光部材10内における、導光部10Bおよび画像光取り出し部10Cにおける導光は、平面101と平面102、平面101と平面部分104Aによる反射により行われる。
図7(b)は、入射角:ηをもって平面部分104Aに入射する画素光束の一部を示している。
入射光線L11、L14は平面部分104Aに入射し、反射光線RL11、RL14となって平面101に入射して反射され、さらに図の右方へ導光されていく。光線L12、L13は、平面部104Bの両端部に入射し、反射されて反射光線RL12、RL13となり平面101に反射されて、さらに図の右方へ導光されていく。
【0022】
一方、光線L12とL13とに挟まれた「画素光束部分」は、平面部104Bに入射すると反射されて反射光束LT0となる。反射光束LT0は平面101に入射するが、平面101への入射角は臨界角以下で、平面101から導光部材側へ射出する。即ち、反射光束LT0は「観察用画像光LTの一部」となって観察者に観察される。
【0023】
すると、平面101に入射する反射光線RL12とRL13により挟まれた領域101Nでは、反射光束LT0により光エネルギが取り去られ、光エネルギが0もしくは「0に近い状態」、即ち、輝度が減衰した状態となる。
領域101Nのように輝度が減衰した状態を「輝度抜け」と称する。
【0024】
画像光取り出し部における画素光束の導光は、互いに平行な平面部104Aと平面101との間の全反射が導光方向へ繰り返されて行われるので、導光の途上で画素光束に「輝度抜け」が生じると、輝度抜けの生じた画素光束は「光束幅が痩せた状態」となる。光束幅の痩せた画素光束では、後続の平面部分104Bの全域が照射されず、画像光取り出し部10Cから射出する観察用画像光LTにより観察される虚像の「解像度むらや輝度むら」の原因となる。
「輝度抜け」の生じた領域101Nの幅:Nは、(b)において、平面部104Bの傾斜角を、
図7(a)と同様に「ω」、平面部104Aの法線と平面部104BがXY面内でなす角を角:θとし、隣り合う平面部104Aの面法線方向(Y方向)の距離(面間隔)を図の如くδとすると、以下のように与えられる。
【0025】
N=δ(tanθ―tanη)
従って、「輝度抜け」の生じる領域の幅:Nは、平面部104Aに入射する「入射光線L11、L12で例示される画素光束」の入射角:ηが小さくなるほど大きくなる。即ち、「輝度抜け」は、平面部分104Aへの入射角:ηが小さい画素光束で生じやすい。逆に、入射角:ηが大きくなり、η=θになると抜けの幅:Nは0となり、輝度抜けの問題は解消されるが、η>θになると、上述の迷光の問題が生じる。
【0026】
説明中の例のように、画像形成にレーザ光が用いられる場合、レーザ光はガウスビームであり、レンズにより集光させると、集光径は「ビームウエスト径」に等しくなる。
図7(c)左図に示すように、水晶体レンズ14Aに入射する光束LT2の幅が十分大きければ、網膜14Bにおける「ビームウエスト径」は小さくなるが、右図のように光束LT2の幅が痩せて小さいと、網膜14Bにおけるビームウエスト径が大きくなる。
観察用画像光LTを構成する光束の幅が不揃いだと、観察される拡大虚像に「解像度のむらや輝度のむら」が発生し、観察される拡大虚像の像質が低下する。
【0027】
前述の「迷光」や「輝度抜け」の問題は、画像光の最大入射角:ξがより大きく、最小入射角:ηがより小さくなる場合に顕著に発生することが分かる。換言するとξとηの差が大きい、即ち「画像光の入射角度の範囲が大きいほど」発生しやすいことが分かる。
従って、このような導光部材を用いて虚像表示装置を構成した場合、入射角度範囲の広い、即ち「画角の大きい画像」において、「迷光」や「輝度抜け」の問題により、フレアや輝度ムラといった画像が悪化する問題が発生する。
【0028】
この発明の導光部材を用いることにより、以下に説明するように、上記「迷光」や「輝度抜け」の問題を、軽減もしくは解消できる。従って、大きい画角の画像でもフレア、輝度ムラ、解像ムラが発生し難い虚像表示装置を構成することができる。
以下、導光部材の実施の形態を説明する。
図1は、この発明の導光部材の実施の形態例を説明するための図である。
図1(a)において、導光部材1は、光入射部1Aと、導光部1Bと、画像光取り出し部1Cとを有する。
図1におけると同様、X方向、Y方向を図の如く定め、図面に直交する方向をZ方向とする。「導光方向」は、X軸の右側へ向かう方向である。
図6に示した導光部材10と同様に、
図1に示す導光部材1は「樹脂等の透明な光学材料」で形成され、導光部1Bおよび画像光取り出し部1Cにおける導光は「全反射」により行われる。導光部材1は、XY面内において図の如き断面形状を有し、Z方向においては、導光部材としての機能を果たす部分は図の断面形状が一様に続いている。
従って、
図6、
図7と同様、以下においても、XY面のうちで、画像光LIの中心光線を含む面内での光学作用を考える。
【0029】
光入射部1Aは、画像光LIを内部に取り込む部分であり、この実施の形態では、画像光LIが入射する側に透明プリズム130を有する。透明プリズム130は、画像光LIの入射角を調整して、光入射部1Aの反射面13への反射角の調整に用いられる。
画像光取り出し部1Cは、光入射部1Aから取り込まれた画像光LIを反射して観察用画像光LTとして外部へ射出させる部分である。
導光部1Bは、画像光LIを光入射部1Aから画像光取り出し部1Cへ向かって導光する部分である。
導光部1Bは、互いに平行に対向する第1反射面111及び第2反射面112を備え、導光部材1に入射した画像光LIを、反射の繰り返しにより画像光取り出し部1Cへ向かって導光する。
画像光取り出し部1Cは、導光部1Bにより導光された画像光を外部へ観察用画像光LTとして射出する「射出面部」と、取り出すべき観察用画像光を射出面部へ向ける取り出し用構造部14と、を有する。
「射出面部」は、第1反射面111が「導光部1Bによる導光の導光方向側(図の右方)へ延在した部分」として形成されている。
【0030】
この発明の導光部材は、取り出し用構造部14の構造に特徴を有する。
取り出し用構造部14は、導光用反射面部と傾斜反射面部と連結部とを有する。
「連結部」は単一の面でも、複数の面を用いた複合面や曲面で合ってもよいが、以下の記載では連結部を「単一の面」で構成した場合を例として説明する。
「単一の面で構成した連結部」を、以下の説明において「連結面部」と呼ぶ。
【0031】
取り出し用構造部14の2例を、
図1(b)および(c)に示す。
図1(b)、(c)において、符号14Aは「導光用反射面部」、符号14Bは「傾斜反射面部」を示し、符号14Cおよび符号14C1は「連結面部」を示す。
図1(b)に示す例では、導光用反射面部14A、傾斜反射面部14Bと連結面部14Cは、X方向に「一定の幅:Hを持つ構造単位14U」を成すように組み合わせられ、この構造単位14Uが導光方向へ繰り返されるように形成されている。
【0032】
同様に、
図1(c)に示す例では、導光用反射面部14A、傾斜反射面部14Bと連結面部14C1は、X方向に「一定の幅:Hを持つ構造単位14U1」を成すように組み合わせられ、この構造単位14U1が導光方向へ、幅:Hを周期として繰り返されるように形成されている。
隣接する構造単位14U、14U1において「隣接する導光用反射面部14Aの面法線方向の面間隔」を図の如く「d」とする。即ち、導光用反射面部14Aは、導光方向に1構造単位進むごとに距離:dをもった「段差」をなして第1反射面111に近づいていく。
【0033】
距離:d、即ち「段差」は、ここでは一定であるとして説明する。
即ち、各構造単位14U、14U1における導光用反射面部14Aは、第2反射面部112と平行であるが、隣接する構造単位において、導光方向側の構造単位における「導光用反射面部14Aと第1反射面111との間隔」が、一定の段差分の距離:dだけ小さくなる。
即ち、導光用反射面部14Aは、導光方向へ向かって、1構造単位ごとに距離:dずつ第1反射面111へ近づいていく。
【0034】
導光用反射面部14Aと第2反射面112とは互いに平行であり、画像光は画像光取り出し部1Cにおいても、第1反射面111と導光用反射面部14Aとの間の全反射により導光される。
傾斜反射面部14Bは、各構造単位14U、14U1内において、導光用反射面部14Aの導光方向側に接続し、第1反射面111側へ傾斜角:ωで傾斜するように形成されている。
【0035】
傾斜角:ωに対して∠R-ωとなる角を「θ」とする。即ち、角:θは、導光用反射面14Aの法線と、傾斜反射面部14BとがXY面内でなす角であり、
図7(b)に即して説明したものと同じである。
即ち、各傾斜反射面部14Bは、導光用反射面14Aの法線に対して角:θ(<∠R)をもって、第1反射面111側へ傾斜している。
連結面部14C、14C1は、各構造単位14U、14U1内において、傾斜反射面部14Bの導光方向側端部と「導光方向側における隣接構造単位の導光用反射面部14A」とを連結し、第2反射面112と傾斜角:β(β>∠R-θ)を有するように形成される。そしてこの連結面部14C、14C1は「反射防止処理ARF」を施されている。
【0036】
図1(b)、(c)の右の図は、連結面部と同一面に施された反射防止処理ARFと傾斜角:βとの関係を示している。
図1(b)の右図では傾斜角:βは90度であり、
図1(c)の右図では傾斜角:βは(∠R―θ)度よりも大きい。なお、角;∠R-θは傾斜角:ωに等しいから、「連結面部の傾斜角」は傾斜反射面部14Bの傾斜角よりも大きい。
反射防止処理ARFは、種々の方法で施すことができる。例えば、反射防止膜を連結面部に成膜してもよいし、光吸収膜を成膜してもよい。さらには、後述する実施の形態において説明するように、導光部材の光学材料と同一材料、もしくは、光学材料と略等しい屈折率を持つ材料を連結面部に接着等により接合することにより反射防止処理ARFとすることもできる。
【0037】
以下に、取り出し用構造部14の作用を説明する。
図2は
図1(b)に示すタイプ、即ち、連結面部14Cの傾斜角:βが∠Rであるものの説明図であり、X方向、Y方向、Z方向は、
図2(a)ないし(d)に共通である。
取り出し用構造部14の各部に関わる量を、
図2(a)に即して説明する。
導光用反射面部につき、導光方向(X軸の右方向)において、左側のものを導光用反射面部14Aとし、これと区別するため、導光方向において右側のものを導光用反射面部14A1とする。導光用反射面部14A1は導光用反射面部14Aに対し、導光方向において隣接している。
導光用反射面部14Aと14A1とのY方向における距離(段差)を前述の如く「d」とする。導光用反射面部14Aの法線と傾斜反射面部14BとがXY面内でなす角は「θ」である。また、傾斜反射面部14BのXZ面(第1反射面111、第2反射面112に平行な面)への正射影の導光方向(X方向)の幅を「G」とする。
さらに「連結面部14CのXZ面への正射影の導光方向の幅」と前記幅:Gとの和を
「W」とする。
図2の例では、連結面部14Cの傾斜角:βは90度であるので、そのXZ面への正射影のX方向の
幅は0であり、従って、和:W=幅:Gである。
【0038】
また、傾斜反射面部14BのY方向の高さを「d1」、同じく連結面部14CのY方向の高さを「d2」とする。すると「d=d1+d2」である。
傾斜反射面部14Bの延長と導光用反射面部14A1とのXY面内での交点pと、傾斜反射面部14Bの左端部との「X方向における距離」は「d・tanθ」である。
図2(a)に即した上記説明によれば、
図1(b)に示したタイプの導光部材では、上記、幅:G、和;W、距離:d、角:θが以下の関係を満足している。
(1) G=W<d・tanθ
上記の如く、d=d1+d2であるが、ここで、高さ:d2を小さくしていくと(1)式の右辺は小さくなり、d2=0の極限では「G=W=d1・tanθ」となり、これは、
図7(b)で説明した場合に相当する。
【0039】
以下の説明において、導光部材1の導光部1Bを導光される画像光において、第2反射面112に入射する画像光の画角:Aの範囲を、便宜的に画角:A1≦A≦A2とする。そして、この画角範囲において、第2反射面112に入射する入射角:φの範囲が、以下の如くであるとする。
φ1≦φ≦<φ2
即ち、φ1は「最小入射角」、φ2は「最大入射角」である。
図2(b)において、符号L11、L12は導光用反射面部14Aに入射する入射光線、符号L13は傾斜反射面部14Bに入射する入射光線を示す。符号L14は連結面部14Cに入射する入射光線示し、符号L15は導光用反射面部14A1に入射する入射光線を示している。これら入射光線L11、L12、L13、L14、L15は互いに平行であり、画角はA2で導光用反射面部14Aへの入射角は「φ2」であるとする。
【0040】
ここで、連結面部14Cは「反射防止処理」を施されている。反射防止処理は、種々の方法で施すことができるが、導光部材の光学材料と同一材料を連結面部14Cに接着等により接合することにより反射防止処理としたものを挙げる。
入射光線L11、L12は導光用反射面部14Aに入射し、反射されると反射光線RL11、RL12となる。反射光線RL12は連結面部14Cに入射する。
図2において、入射光線L11よりも右側で導光用反射面部14Aに入射するものは全て、導光用反射面部14Aにより反射されたのち、直接、あるいは傾斜反射面部14Bで反射されて、連結面部14Cに入射する。
また、入射光線L13は傾斜反射面部14Bに入射し、反射光線RL13となる。反射光線RL13は、図示を省略されている第1反射面から「観察用画像光の一部」として射出する。入射光線L11~L15は何れも、図示を省略されている第1反射面により反射された光線である。
入射光線L14は、連結面部14Cに入射する。入射光線L15は導光用反射面部14A1の連結面部14Cとの連接部に入射し、反射されて反射光線RL15となる。
【0041】
図2(b)において、連結面部14Cに入射する光線L14および反射光線RL12、および、図示を省略されているが、導光用反射面部14Aに入射して反射されたのち、傾斜反射面部14Bで反射されて連結面部14Cに入射する光線は、何れも迷光(フレア光)である。これらのフレア光の扱いにつては後述する。
図2(c)は、
図2(b)を補足するものであって、傾斜反射面部14Bの「連結面部14Cとの境界部近傍」に入射する入射光線L16が、傾斜反射面部14Bに反射された反射光線RL16を示している。
連結面部14Cは、導光部材の光学材料と同一材料を連結面部14Cに接着等により接合することにより反射防止処理としたものであるから、連結面部14Cは反射光線RL16を反射することなくそのまま通過させる。この反射光線RL16の扱いについても後述するが、反射光線RL16は迷光とはならない。
【0042】
図2(d)には、画角:A1の画素光束をなす光線のうち、傾斜反射面部14Bとの境界部に近接した導光用反射面部14Aに入射する入射光線L21、傾斜反射面部14Bに入射する入射光線L22、傾斜反射面部14Bとの境界部に近接した導光用反射面部14A1に入射する入射光線L23が示されている。
入射光線L21は導光用反射面部14Aにより反射されて反射光線RL21となる。入射光線L23は導光用反射面部14A1で反射されて反射光線RL23となる。これら入射光線L21、L23の導光用反射面部14A、14A1への入射角はφ1である。
反射光線RL23は、図示を省略されている第1反射面から「観察用画像光の一部」として射出する。
図2(d)の場合においては「迷光」は発生しない。
【0043】
「輝度抜け」についてみると、
図2(b)に示す「画角:A2、入射角:φ2の場合」は、反射光線RL11と反射光線RL15とが実質的に重なり合うので、画角:A2、入射角:φ2の画素光束については「輝度抜け」は発生しないことがわかる。入射角:φ2について「φ2>θ」であるから、図から明らかなように、
d・tanφ2>d・tanθ>G=W
が満足されている。
図2(d)に示す「画角:A1、入射角:φ1の場合」は、反射光線RL21と反射光線RL23とが実質的に重なり合うので、画角:A1、入射角:φ1の画素光束については「輝度抜け」は発生しないことがわかる。入射角:φ1について「φ1<θ」であるから、図から明らかなように、
d・tanθ>d・tanφ1=G=W
が満足されている。
従って、入射角:φの範囲:φ1≦φ≦φ2の画像光について「輝度抜け」は発生しない。また、角:φ2に近い入射角を持つ画素光束については「迷光」が発生しても、連結面部14Cを介して導光部材から出てしまうので、これを適切に処理することにより迷光の問題を解消することができる。
【0044】
ここで、
図2の場合について、連結面部14CのY方向の高さ:d2を小さくした場合を考えると、
図2(d)において、導光用反射面部14A1の位置がY方向(図の上方)へずれる。このため、入射光線L23が導光用反射面部14A1の端部近傍に入射する位置が「図で上方へ」ずれ、反射光線RL21とRL2とが乖離することになり、「輝度抜け」が発生する。
【0045】
この場合発生する「輝度抜け」は、高さ:d2の大きさの調整により、実際問題として無視できる程度に抑えることができる。
一方、高さ:d2が小さくなると、
図2(b)にける入射光線L14のように、連結面部14Cに直接入射して「迷光として失われる光線部分」を小さくできる。
連結面部14Cに直接入射して「迷光として失われる光線部分」は、観察される拡大虚像の明るさを減少させる原因となる。高さ:d2を小さくすることで、このような「連結面部14Cに直接入射して失われる光線部分」の量を抑制することにより、拡大虚像の明るさの減少を抑制することができる。
【0046】
従って、連結面部14Cの高さ:d2は、「輝度抜け」の発生と「拡大虚像の明るさ」とのバランスにより適宜に定めることができる。
【0047】
図3は、
図1(c)に即して説明した場合、即ち、連結面部14C1が、∠R-θよりも大きくかつ90度より小さい傾斜角:βを有する場合を説明するための図である。
【0048】
図3(a)に示す如く、取り出し用構造部14の各部と、これに関わる量を、
図2(a)に倣って、以下の如くにする。
導光用反射面部につき、導光方向において、左側のものを導光用反射面部14Aとし、これと区別するためX方向において右側のものを導光用反射面部14A1とする。導光用反射面部14A1は導光用反射面部14Aに対し、導光方向において隣接している。
導光用反射面部14Aと14A1とのY方向(面法線方向)における距離(段差)を「d」とする。導光用反射面部14Aの法線と傾斜反射面部14AとがXY面内でなす角は「θ」である。傾斜反射面部14BのXZ面(第1反射面111、第2反射面112に平行な面)への正射影の導光方向の幅を「G」とする。
連結面部14C1がY方向となす角を「ψ」とする。
図1に即して説明した「傾斜角:β」を用いれば、角:ψは「∠R-β」と表すことができる。
さらに、「連結面部14CのXZ面への正射影の導光方向の幅」と前記幅:Gとの和を「W」とする。連結面部14C1が、Y方向において角:ψを有しているので、そのXZ面への正射影のX方向の幅は0でなく、和:W>幅:Gである。
傾斜反射面部14BのY方向の高さを「d1」、同じく連結面部14CのY方向の高さを「d2」とする。「d=d1+d2」である。
【0049】
図2(a)に即して説明したように、
図1(c)に示したタイプの導光部材では、上記、幅:G、和;W、距離(段差):d、角:θが以下の関係を満足している。
(1) G<W<d・tanθ
図2に即して説明した場合と同様、導光部材1の導光部1Bを導光される画像光において、第2反射面112に入射する画像光の画角:Aの範囲を画角:A1≦A≦A2とし、この画角範囲で、第2反射面112に入射する入射角:φの範囲が、以下の如くであるとする。
φ1≦φ≦<φ2
図3(b)において、符号L13は、傾斜反射面部14Bに入射角:φ2で入射する入射光線を示す。符号RL13は入射光線L13が傾斜反射面部14Bにより反射された反射光線を示す。この反射光線RL13がY方向となす角を角:Jとする。また、図中の角:Iは角:θに等しく、角:Jは{(φ2―θ)-θ}即ち、φ2―2θである。
【0050】
連結面部14C1とY方向とがなす角:ψよりも角:J=φ2-2θが小さければ、入射角:φ2を持つ入射光線L13が、たとえ「傾斜反射面部14Bの連結面部14C1との境界部近傍に入射して反射され」ても、反射光線(RL13に平行である。)は、連結面部14C1に入射することがない。
また、
図3(b)において、符号L21は、入射角:φ1をもって、導光用反射面部14A部の傾斜用反射面部14Bとの境界近傍に入射する入射光線であり、反射されると、反射光線RL21になる。この図のようになっていれば、入射角:φ1を持つ画素光束には「抜け」は生じない。
【0051】
このように「輝度抜け」が発生しないようにするには、前記幅:G、和:W、入射角:φ1、角:θ、ψが以下の条件を満足するようにすればよい。
【0052】
図3(a)に示すところに従えば、先ず、幅:Gは、
G=d1・tanθ
であり、これから、高さ:d1は、
d1=G/tanθ
となる。
また、高さ:d2は、角:ψを用いて、
W-G=d2・tanψ
であり、これから、高さ:d2は、
d2=(W-G)/tanψ
となる。
また、高さ:d=d1+d2は、和:Wと入射角:φ1を用いて、
d=W/tanφ1
で与えられる。d=d1+d2であるから、
W/tanφ1=G/tanθ+(W-G)/tanψ
となる。この式を和:Wについて解けば、
W=G・tanφ1(tanψ―tanθ)/tanθ(tanψ―tanφ1)
となる。
【0053】
即ち、傾斜反射面部14B、連結面部14C1、入射角:φ1、φ2が以下の条件:
(4) ψ>φ2―2θ
(5) W=G・tanφ1(tanψ―tanθ)
/(tanθ(tanψ-tanφ1))
を満足すれば、入射角:φ1で傾斜反射面部14Bに入射して反射された反射光線が連結面部14C1に入射することはなく、また画角範囲:A1≦A≦A2の画像光の反射光束における「輝度抜け」が生じることもない。
勿論、条件(4)、(5)が厳密に満たされなくても、これらを近似的に満足させるようにして実際上問題の無い「取り出し用構造部」とすることが可能である。
【0054】
上記
図3に示す実施の形態例の場合において、和:W、幅;G、距離(段差):d、角:θ、入射角:φ1、φ2の好適な例として以下の値の2例を挙げることができる。
「例1」
W=0.175mm、G=0.174mm、d=0.196mm、θ=63°、φ1=42.11°、φ2=66.4°
「例2」
W=0.213mm、G=0.179mm、φ1=42.1°、φ2=66.4°、θ=63°、ψ=12.4°
「例1」において、W≒Gであるから、この例は
図2に示した場合(
図1(b)の場合)の実施例である。また「例2」は
図3に示した場合(
図1(c)の場合)の例である。
【0055】
以下、導光部材の実施の別形態と、この実施形態における迷光(フレア光)の処理について説明する。
図4(a)は、この実施の形態の構成の1例を示している。
即ち、この形態例の導光部材LGは、上に説明した導光部材1に、透明部材20を一体的に組み合わせた構成のものである。導光部材1と透明部材20とを一体としたものは、これも「導光部材の形態」の1例であるが、混同を避けるため以下において「導光ユニットLG」と呼ぶことにする。
透明部材20は、導光部材1と同一の光学材料、もしくは「導光部材1と略等しい屈折率を有する光学材料」からなり「板状」であって、導光部材1の第2反射面112の側に設けられる。透明部材20の第2反射面112から離れた側の面201は平面で、第1反射面111、第2反射面112と平行である。
透明部材20は、導光部材1の第2反射面112の側に以下の如くに設けられる。
即ち、第2反射面112と、導光用反射面部14Aおよび傾斜反射面部14Bに対して空気間隙を隔して近接し、連結面部に接合されて「連結面部における反射防止処理」を構成する。
【0056】
図4(b)に示す例は、導光部材1の「取り出し用構造部」の連結面部が、
図1(b)に示す傾斜角:β=∠Rを有する連結面部14Cである場合を示し、この連結面部14Cが、透明部材20の側の面20Cと接合されている。
図4(c)に示す例では、
図1(c)に示す傾斜角:β(≧R―θ)をもった連結面部14C1の場合を示し、連結面部14C1は、透明部材20の側の面20C1と接合されている。
この接合は、例えば、UV効果樹脂などの接着材を用いた接着で行われている。導光部材1、透明部材20、前記接着材は、屈折率が「ほぼ等価」のものを使用され、接合部でのフレネル反射はほぼゼロである。
透明部材20と第2反射面112との間、透明部材20と導光用反射面部14A(14A1)との間、傾斜反射面部14Bとの間には「空気層ARL」が介在している。
図4(b)、(c)において、透明部材20の導光用反射面部14Aに対して、透明部材20の面20Aが空気層ARLを介して近接している。同様に、傾斜反射面部14Bに対しては面20Bが空気層ARLを介して近接している。
【0057】
図4(b)においては、光線L14が導光部材1の側から、直接的に連結面部14Cに入射し、また、反射光線RL12が、傾斜反射面部14Bで反射されて連結面部14Cに入射する。さらに、
図2(c)に即して説明した、傾斜反射面部14Bの「連結面部14Cとの境界部近傍」で傾斜反射面部14Bに反射された反射光線RL16が、連結面部14Cから透明部材20に入射する。
先ず、反射光線RL16についてみると、反射光線RL16は、透明部材20の導光用反射面部14A1に近接する面20A1に入射するが、入射角が臨界角より小さいので反射されずに透明部材20から射出する。そして導光部材1の導光用反射面部14A1に入射し、導光部材1をそのまま透過し、観察用画像光の一部として射出する。従って、前述の如く反射光線RL16は「迷光」とはならない。
一方、光線L14、反射光線RL12は、透明部材20の導光用反射面部14A1に空気層ARLを介して近接する面20A1、およびこれと対向する面201により全反射され、透明部材20中を図の右方へ導光されて、透明部材20の外部へ放射されるか、透明部材20の導光方向端部に設けた吸収体(図示を省略されている。)により吸収される。
【0058】
図4(c)に示す例おいては、連結面部14C1が前述の条件(4)を満足する角:ψを有しているから、
図4(b)の反射光線RL16のような光線は存在しない。連結面部14C1に入射するのは、
図4(b)に示したと同様の光線L14および反射光線RL12であり、これらは上記の如く、透明部材20内部を全反射により導光され、透明部材20の外部へ放射されるか、透明部材20の端部に設けた吸収体により吸収される。
【0059】
図5に、
図4に即して説明した導光部材(導光ユニット)LGを用いる虚像表示装置の実施の形態を
図6に倣って示す。煩雑を避けるため、混同の恐れが無いと思われるものについては、
図6におけると同一の符号を付した。
【0060】
図5(a)に示すように、画像光発生部12からの画像光LIは、導光ユニットLGの導光部材1の光入射部のプリズム130から導光部材1内に取り込まれ、導光部を導光され、画像光取り出し部から観察用画像光LTとして取り出され、観察者の目14の水晶体レンズ14Aの作用により網膜上に結像する。
【0061】
図5(b)は、導光用反射面部へ最小入射角:φ1で入射する画素光束LI1が、導光部材1により導光画像光LPとなって導光され、観察用画像光LT1として射出し、迷光FLが透明部材20により導光されて処理される状態を示している。
【0062】
図5(b)は、導光用反射面部へ最大入射角:φ2で入射する画素光束LI2が、導光部材1により導光画像光LPとなって導光され、観察用画像光LT2として射出し、迷光FLが透明部材20により導光されて処理される状態を示している。
【0063】
観察用画像光LT1、LT2を含む観察用画像光LTの取出される範囲が所謂「アイボックス」である。
【0064】
以上に、この発明の導光部材および虚像表示装置の実施の形態例を説明した。
上に説明したように、この発明の導光部材によれば、迷光の発生が軽減もしくは防止され、また「輝度抜け」の有効な軽減もしくは防止を実現できる。
従って、この発明の導光部材を用いる虚像表示装置では、観察される「拡大虚像」における「迷光による像質の劣化」や「輝度抜けに起因する拡大虚像の解像度むら、輝度むら」を有効に軽減し、もしくは解消することができる。
【0065】
勿論、この発明は上述した特定の実施形態に限定されるものではない。
例えば、上に説明した例では、連結面部における反射防止処理として、導光部材1と同一の光学材料、もしくは「導光部材1と略等しい屈折率を有する光学材料」を接着により接合し、これらの境界面で「フレネル反射」が生じないようにする場合を説明した。
反射防止処理は、このような例に限らない。例えば、連結面部に「光吸収膜等の光吸収手段」を形成し、連結面部に入射する光線を全て吸収するようにしても、迷光の発生を防止できる。この場合、透明部材のように迷光を導光して除去するものを必要としない。
【0066】
迷光の防止は連結部における反射をなくせばよいから、連結部に反射防止部材を設けるなどしても迷光の発生を防止できる。
また、取り出し用構造部の、導光用反射面部と傾斜反射面部とをミラー面とすることができる。例えば、
図2(d)に示す入射光線L22などは、傾斜反射面14Bへの入射角が小さいので、反射光線RL22の反射率が小さく、観察用画像光の明るさが減少する。
【0067】
このような場合には、取り出し用構造部の、導光用反射面部と傾斜反射面部とをハーフミラー面とすることが好ましい。この部分をハーフミラーとしても導光部材のシースルー性は担保できる。
また、導光部を構成する第2反射面もハーフミラーとすることもできる。
さらに、導光部材が「非透過型」である場合には、第2反射面の側を含む取り出し用構造部全体にもミラー面とすることができる。
さらに、
図1に即して上に説明した例では、導光用反射面部14A、傾斜反射面部14Bと連結面部14Cが、X方向に「一定の幅:Hを持つ構造単位14U」を成すように組み合わせられ、この構造単位14Uが導光方向へ周期:Hで繰り返されるように形成されている場合を説明した。
また、隣接する構造単位14U、14U1において「隣接する導光用反射面部14Aの面法線方向の面間隔」である距離(段差):dも一定である場合を説明した。
【0068】
上記説明は、取り出し用構造部の構成の1例であり、取り出し用構造部の構成は、これに限らない。
図8を参照すると、
図8に示す例では、導光用反射面部14Ai(i=0~3)、傾斜反射面部14Bi(i=0~3)、連結面部14Ci(i=0~3)により構成される構造単位のX方向の幅:Hi(i=0~3)は、同一ではなく、互いに異なっている。
【0069】
同様に、「隣接する導光用反射面部14Aiの面法線方向の面間隔」である距離(段差):di(i=0~3)も同一ではなく、互いに異なっている。
【0070】
この発明の導光部材は「導光用反射面部、傾斜反射面部、連結面部14Ciにより構成される個々の構造単位」が、所定の構成を有することにより、「迷光や抜け」の問題を解消もしくは軽減でき、従って、取り出し用構造部の各構造単位を特徴づける幅:Hや距離(段差):dが「構造単位ごとに同一」である必要はない。
【0071】
例えば、導光方向(
図1等のX方向右側)に向かって、導光用反射面部の「X方向の幅:Hを構造単位ごとに短くしていく」構成にすることもできる。
画像光取り出し部を導光される導光画像光LPの光量は「導光距離の増大とともに減少する」ので、幅:H、距離:dを
図1のX方向の右側へ行くほど小さくするなど、導光光量に応じて構造単位ごとに「最適な幅:H、距離:dを設計」することも可能である。
上に説明したこの発明の虚像表示装置は、眼鏡タイプ等のHMDとして実施できることは当然である。
【0072】
また上には、「射出面部」として、第1反射面111が「導光部1Bによる導光の導光方向側(図の右方)へ延在した部分」として形成されている場合を説明したが、射出面部と第1反射面は「同一面」である必要はなく、互いに平行であれば、相互に「段差」を有していてもよい。
【0073】
以上、発明の好ましい実施の形態について説明したが、この発明は上述した特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
この発明の実施の形態に記載された効果は、発明から生じる好適な効果を列挙したに過ぎず、発明による効果は「実施の形態に記載されたもの」に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0074】
1 導光部材
LI 画像光
1A 光入射部
1B 導光部
1C 画像光取り出し部
111 第1反射面
112 第2反射面
14 取り出し用構造部
14A 導光用反射面部
14B 傾斜反射面部
14C 連結面部(連結部)
LT 観察用画像光
【先行技術文献】
【特許文献】
【0075】
【文献】特許第5421285号公報
【文献】特許第5703875号公報