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特許7456343レシプロエンジンまたはトランスミッション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】レシプロエンジンまたはトランスミッション
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/00 20120101AFI20240319BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240319BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20240319BHJP
【FI】
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550C
F16H57/04 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020159267
(22)【出願日】2020-09-24
(62)【分割の表示】P 2019230213の分割
【原出願日】2019-12-20
(65)【公開番号】P2021098265
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100108187
【弁理士】
【氏名又は名称】横山 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】門田 隆二
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-146036(JP,A)
【文献】特開2005-223278(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0382618(US,A1)
【文献】特開2005-320475(JP,A)
【文献】国際公開第2015/001939(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0130409(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00 - 37/34
H01L 21/304
C09K 3/14
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動部を有し、
前記摺動部にフラーレン及びその溶媒を含む研磨剤組成物が付加されており、
前記摺動部が摺動すると、下記研磨方法1または下記研磨方法2による研磨が行われ、前記研磨が終了した後、前記研磨剤組成物が前記摺動部の潤滑油として使用される、状態になっている、レシプロエンジンまたはトランスミッション。
研磨方法1:前記フラーレン及びその溶媒を含む研磨剤組成物を、前記レシプロエンジンまたは前記トランスミッションの前記摺動部に付加した状態で、前記摺動部を摺動させることによりフラーレン凝集粒を生成させ、前記摺動部を研磨し、
前記研磨剤組成物は、前記研磨中に、前記摺動部の面粗さが、目標値より大きい場合に前記フラーレンの凝集粒が生成し、目標値以下である場合に前記フラーレンの凝集粒が生成しないように、前記フラーレンの濃度が調整されている。
研磨方法2:前記フラーレン及びその溶媒を含む研磨剤組成物を、前記レシプロエンジンまたは前記トランスミッションの前記摺動部に付加した状態で、前記摺動部を摺動させることによりフラーレン凝集粒を生成させ、前記摺動部を研磨し、
前記研磨を開始した後、前記研磨剤組成物中に前記フラーレン凝集粒が生成しなくなるまで前記研磨を行う。
【請求項2】
前記溶媒は、鉱油または化学合成油である、請求項1に記載のレシプロエンジンまたはトランスミッション。
【請求項3】
前記研磨剤組成物中の前記フラーレンの濃度は、飽和溶解度の1/50~1倍である、請求項1または2に記載のレシプロエンジンまたはトランスミッション。
【請求項4】
前記研磨剤組成物は、前記研磨を開始する前に前記フラーレン凝集粒を含まない、請求項1~3のいずれかに記載のレシプロエンジンまたはトランスミッション。
【請求項5】
前記摺動部に付加した研磨剤組成物を、希釈溶媒で希釈し、前記フラーレンの濃度を下げることにより、前記研磨を終了する、請求項1~4のいずれかに記載のレシプロエンジンまたはトランスミッション。
【請求項6】
前記希釈溶媒は、前記研磨剤組成物に含まれる溶媒と同一である、請求項5に記載のレシプロエンジンまたはトランスミッション。
【請求項7】
前記摺動部の材質が樹脂を含む、請求項1~6のいずれかに記載のレシプロエンジンまたはトランスミッション。
【請求項8】
前記摺動部の材質が金属を含む、請求項1~7のいずれかに記載のレシプロエンジンまたはトランスミッション
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レシプロエンジンまたはトランスミッション及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラーレンは、研磨剤成分として用いられることもあれば、潤滑剤成分として用いられることもある。
【0003】
例えば、特許文献1では、水と、フラーレンまたはフラーレン誘導体とを含有し、フラーレンまたはフラーレン誘導体の粒径が100nm未満であることを特徴とする導体または金属の研磨に用いられる研磨スラリーが開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、基油とフラーレンとを含み、10mlあたりの長径1μm以上の粒子が1個未満である潤滑油組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2007/020939号
【文献】特開2018-168356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、フラーレンは研磨剤にも潤滑剤にも用いられる。研磨剤成分としてのフラーレンは、通常、硬い凝集粒の状態が好ましいが、溶媒中で凝集粒として存在するフラーレンは、その状態が継時的に変化するために、研磨剤に適した凝集粒を安定に保つことは難しかった。
【0007】
本発明の目的は、摺動部を有するレシプロエンジンまたはトランスミッションの前記摺動部を安定に研磨するレシプロエンジンまたはトランスミッション及びそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
[1]摺動部を有し、前記摺動部にフラーレン及びその溶媒を含む研磨剤組成物が付加されており、前記摺動部が摺動すると、下記研磨方法1または下記研磨方法2による研磨が行われ、前記研磨が終了した後、前記研磨剤組成物が前記摺動部の潤滑油として使用される、状態になっている、レシプロエンジンまたはトランスミッション。研磨方法1:前記フラーレン及びその溶媒を含む研磨剤組成物を、前記レシプロエンジンまたは前記トランスミッションの前記摺動部に付加した状態で、前記摺動部を摺動させることによりフラーレン凝集粒を生成させ、前記摺動部を研磨し、前記研磨剤組成物は、前記研磨中に、前記摺動部の面粗さが、目標値より大きい場合に前記フラーレンの凝集粒が生成し、目標値以下である場合に前記フラーレンの凝集粒が生成しないように、前記フラーレンの濃度が調整されている。研磨方法2:前記フラーレン及びその溶媒を含む研磨剤組成物を、前記レシプロエンジンまたは前記トランスミッションの前記摺動部に付加した状態で、前記摺動部を摺動させることによりフラーレン凝集粒を生成させ、前記摺動部を研磨し、前記研磨を開始した後、前記研磨剤組成物中に前記フラーレン凝集粒が生成しなくなるまで前記研磨を行う。
[2]前記溶媒は、鉱油または化学合成油である、前項[1]に記載のレシプロエンジンまたはトランスミッション。
[3]前記研磨剤組成物中の前記フラーレンの濃度は、飽和溶解度の1/50~1倍である、前項[1]または[2]に記載のレシプロエンジンまたはトランスミッション。
[4]前記研磨剤組成物は、前記研磨を開始する前に前記フラーレン凝集粒を含まない、前項[1]~[3]のいずれかに記載のレシプロエンジンまたはトランスミッション。
[5]前記摺動部に付加した研磨剤組成物を、希釈溶媒で希釈し、前記フラーレンの濃度を下げることにより、前記研磨を終了する、前項[1]~[4]のいずれかに記載のレシプロエンジンまたはトランスミッション。
[6]前記希釈溶媒は、前記研磨剤組成物に含まれる溶媒と同一である、前項[5]に記載のレシプロエンジンまたはトランスミッション。
[7]前記摺動部の材質が樹脂を含む、前項[1]~[6]のいずれかに記載のレシプロエンジンまたはトランスミッション。
[8]前記摺動部の材質が金属を含む、前項[1]~[7]のいずれかに記載のレシプロエンジンまたはトランスミッション。
[9]前記研磨方法1または前記研磨方法2で研磨する工程を含む、前項[1]~[8]のいずれかに記載のレシプロエンジンまたはトランスミッションの製造方法。

【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、摺動部を有する機械装置の前記摺動部を安定に研磨することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例で用いた摩擦摩耗試験機を説明する図である。
図2】振動試験で用いたアコースティックエミッション装置から取り込んだ信号の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0012】
(研磨方法)
本実施形態の研磨方法は、フラーレン及びその溶媒を含む研磨剤組成物を、摺動部を有する機械装置の前記摺動部に付加した状態で、前記摺動部を摺動させることによりフラーレン凝集粒を生成させ、前記摺動部を研磨する。
【0013】
(フラーレン凝集粒)
摺動させることにより、前記研磨剤組成物中に研磨剤粒子になりうるフラーレン凝集粒が生じる。これは、前記摺動部の対向する2つの面間に圧力がかかると前記研磨剤組成物中のフラーレンが圧力晶析するためフラーレン凝集粒が生成したと考えられる。前記研磨剤組成物中のフラーレン濃度が飽和溶解度未満であれば、生成した凝集粒はやがて再溶解し消滅する。これらのことは、後述する参考例でも確認された。
【0014】
前記フラーレン凝集粒は、摺動部にかかる圧力が高いほど、また、摺動部の圧力のかかる部分が多いほど、圧力晶析により生成しやすくなり、さらに、前記研磨剤組成物中のフラーレン濃度が高いほど圧力晶析されやすく再溶解しにくくなり、前記研磨剤組成物中に高含有量に維持されやすい。またそれらが逆の場合は、低含有量となる。フラーレン凝集粒の含有量が多いと早く研磨が進み、少ないとゆっくりと研磨が進行する。
【0015】
一般に研磨剤粒子は使用中に崩壊するなどして研磨性能は失われていく。しかし、本実施形態では、前述の通りフラーレン凝集粒は生成と消滅を繰り返すため、常に新しい研磨剤粒子で研磨することが可能であり、そのため安定に研磨ができる。
【0016】
(研磨剤組成物)
前記研磨剤組成物は、フラーレン及びその溶媒を含む。前記研磨剤組成物中のフラーレン濃度は、前記圧力晶析でフラーレン凝集粒が得られる濃度であればよく、好ましくは所望する研磨が可能な量のフラーレン凝集粒が得られる濃度である。
【0017】
例えば、摺動部の材質が金属の場合など、摺動部にかかる圧力が高い場合は前記研磨剤組成物中のフラーレン濃度が飽和溶解度の1/50であってもラーレン凝集粒が生じることがある(後述する参考例2参照)。また、摺動部の材質が樹脂の場合など、摺動部にかかる圧力が低い場合でも、フラーレン濃度が飽和溶解度近くであればフラーレン凝集粒が生じる(後述する参考例1参照)。すなわち、フラーレン凝集粒が生じる前記研磨剤組成物中のフラーレン濃度は、通常、飽和溶解度の1/50~1倍濃度の範囲を目安にすればよい。なお、飽和溶解度の測定は後述する実施例の方法で行う。
【0018】
摺動部にかかる圧力を目安に前記研磨剤組成物中のフラーレン濃度を調整すればよいが、より一般的な機械装置での前記フラーレン濃度の目安としては、好ましくは飽和溶解度の1/40~1/2倍濃度、より好ましくは飽和溶解度の1/30~1/5倍濃度である。
【0019】
なお、前記研磨剤組成物中のフラーレン濃度が十分高ければ(例えば、飽和濃度)、摺動部にかかる圧力が低くても高くてもフラーレン凝集粒が得られる。ただし、精密に研磨を制御するならば、制御しやすい研磨速度で研磨することが好ましく、研磨の目的に合わせてフラーレン濃度を調整すること等によりフラーレン凝集粒の前記研磨剤組成物中の含有量を調整することが好ましい。
【0020】
前記研磨剤組成物は、上記のように生成させたフラーレン凝集粒以外の研磨材粒子を含んでもよい。該研磨材粒子としては、例えば、フラーレン以外の研磨材粒子の方が前記生成させたフラーレン凝集粒子を巻き込んで粒子成長しにくい。すなわち、前記研磨剤組成物は、前記研磨開始前にフラーレン凝集粒を含まないことが好ましい。なお、前記研磨剤組成物10gを孔径0.1μmメンブランフィルターでろ過したとき、該メンブランフィルタフ上にフラーレン凝集粒が観察されなければ、フラーレン凝集粒を含まないとみなせる。
【0021】
(フラーレン)
前記研磨剤組成物中のフラーレンは、種々のものを用いることができる。フラーレンとしては、例えば、比較的入手しやすいC60やC70、さらに高次のフラーレン、あるいはそれらの混合物が挙げられる。フラーレンの中でも、基油への溶解性や入手性の観点からC60及びC70が好ましく、基油への着色が少なく得られる研磨剤組成物の劣化を色で判断しやすい観点からC60がより好ましい。混合物の場合は、C60が50質量%以上に含まれることが好ましい。
【0022】
(溶媒)
前記溶媒は、フラーレンの溶媒であり、すなわち、フラーレンを溶解可能なものであればよい。前記溶媒は、機械装置の摺動部に用いる観点から、潤滑油またはその基油が好ましく、例えば、鉱油や化学合成油が挙げられる。より具体的には、鉱油としては、パラフィン系油、ナフテン系油等が挙げられ、合成油としては、合成炭化水素油、エーテル油、エステル油等が挙げられ、より好ましくは、フラーレンの溶解性の観点から、ナフテン系油、エーテル油、エステル油が好ましい。これら溶媒は、1種を単独で用いてもよく、これらの中から選ばれる2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0023】
(研磨の制御)
前述の通りフラーレン凝集粒の生成は種々の条件で制御できる。例えば、研磨中はフラーレン凝集粒を生成させ、研磨終了後はフラーレン凝集粒を生成させないようにする。この場合、研磨終了後にフラーレン凝集粒が生成しないので、研磨剤組成物をそのまま、あるいは溶媒(以下「希釈溶媒」ということがある。)で希釈した状態で、潤滑剤として使用することもできる。なお、希釈溶媒としては、前述した研磨剤組成物に用いる溶媒と同種のものが好ましい。前記潤滑剤として使用する場合、研磨組成物中の溶媒及び希釈溶媒は、良好な潤滑特性を得る観点から、前述の潤滑油またはその基油であることが好ましい。より詳細な例示を以下に挙る。
【0024】
(面粗さによる研磨終了)
摺動面の面粗さが荒いほど、摺動中に高い圧力のかかる部分が多くなるので、圧力晶析でフラーレン凝集粒が生じやすく、研磨速度は速くなる。一方、滑らかな摺動面であると、前記と逆の理由からフラーレン凝集粒を生じさせることなく、前記研磨剤組成物を潤滑油として使用することもできる。
【0025】
例えば、前記研磨中、前記摺動部の面粗さが、目標値より荒い場合にはフラーレンの凝集粒が生成し、目標値またはそれより滑らかな場合にはフラーレンの凝集粒が生成しないように、前記研磨剤組成物中のフラーレン濃度を調整することが好ましい。フラーレン凝集粒生成の確認は、研磨剤組成物10gを孔径0.1μmメンブランフィルターでろ過したとき、前記メンブランフィルター上に残ったフラーレン粒子の有無または個数を数えることで行える。
【0026】
前記研磨開始後、前記研磨剤組成物中にフラーレン凝集粒が生成しなくなるまで研磨を行うと、前記目標値の面粗さを得やすい。
【0027】
(希釈による研磨終了)
前記摺動部に付加した研磨剤組成物を、希釈溶媒で希釈し、得られる希釈物中のフラーレン濃度をフラーレン凝集粒が生じない程度まで下げ(例えば、飽和溶解度の1/50未満)とし、研磨を終了させる。なお、フラーレン濃度を飽和溶解度を基準に表す場合、前記研磨剤組成物中の濃度であれば該研磨剤組成物における飽和溶解度を1とし、前記希釈物中の濃度であれば該希釈物における飽和溶解度を1とする。
前記希釈溶媒は、前記研磨組成物中の溶媒と同成分であると、希釈倍率に比例して飽和溶解度に対するフラーレン濃度を下げられるので好ましい。前記希釈溶媒として、前記研磨組成物中の溶媒と異なるものを用いる場合は、前記希釈溶媒の溶解性が、前記研磨剤組成物中の溶媒の溶解性と同じまたはそれ以上であれば、希釈倍率に相当する比率以上に飽和溶解度に対するフラーレン濃度を下げられるので好ましい。
【0028】
(機械装置の製造方法)
摺動部を有する機械装置の製造工程において、上述の研磨方法は前記摺動部の研磨に好ましく適用できる。
【0029】
(機械装置)
本実施形態の機械装置は、摺動部を有し、フラーレン及びその溶媒を含む研磨剤組成物が前記摺動部に付加されている。前記機械装置は、前記摺動部が摺動すると研磨が行われる。この研磨は、前述の「面粗さによる研磨終了」で述べたように、研磨を続けると自動的に研磨が終了し、研磨終了後は前記研磨剤組成物が前記摺動部の潤滑剤として使用される状態としてもよい。例えば、研磨前の前記状態で出荷し、ユーザーが使用開始後、前記摺動部の研磨が完了し、本来の性能の機械装置として完成するようにしてもよい。
【0030】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形あるいは変更が可能である。
【実施例
【0031】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
測定方法:
(フラーレンの濃度の測定)
高速液体クロマトグラフ(アジレント・テクノロジー株式会社製 1200シリーズ)を用い、以下の条件で、研磨剤組成物等の試料中のフラーレンの量を定量した。
カラム:株式会社ワイエムシィ製 YMC-Pack ODS-AM(150mm×4.6mm)
展開溶媒:トルエンとメタノールの1:1(体積比)混合物
検出:吸光度(波長309nm)
なお、試料中に固形分が含まれる場合は、あらかじめ孔径0.1μmのメンブランフィルターでろ過し固形分を除去した。また、検量線は、試料作製に用いたフラーレンにより作成した。
【0033】
(飽和溶解度の測定)
飽和溶解度を測定するフラーレン及び液体試料を用意し、前記液体試料10gに、前記フラーレンを混合し、室温にて、マグネチックスターラーを用いて36時間撹拌した。続いて、この混合液を孔径0.1μmのメンブレンフィルターで濾過し、濾液を得た。この濾液中のフラーレン濃度を測定した。この測定を、異なるフラーレンの混合量で数点実施した。
【0034】
前記フラーレンの混合量は、予想される飽和溶解度になる量及びその数倍の量を目安とした。例えば、後述する実施例1で用いたフラーレンと鉱油の場合、前記フラーレンの混合量は、0.03g、0.06g、0.12gの各混合量とした。
【0035】
フラーレンの混合量を増やしても、濾液中のフラーレン濃度が高くならない場合、この濃度を飽和溶解度とした。
【0036】
なお、後述する実施例はすべて室温(約20℃)で行われたので、上記操作もすべて室温で行った。機械装置に用いる時の研磨剤組成物の温度が判明している場合は、その温度で上記測定をする方が得られる飽和溶解度の誤差が少なくなり好ましい。
【0037】
(表面平滑度の測定)
触針式表面荒さ計Alpha-Step D-500を用いて、測定長さ1mmでのRz(最大高さ粗さ)を、測定面内の任意の5個所で計測し、合計5回の測定値の算術平均値を表面平滑度とした。
【0038】
(フラーレン凝集粒の確認)
試料10gを孔径0.1μmメンブランフィルターで濾過し、該メンブランフィルター上に残るフラーレン凝集粒の個数を数えた。
なお、試料中のフラーレン濃度が飽和溶解度以下の場合、経時的にフラーレン凝集粒は減少するので、可能な限り前記濾過までの操作を素早く行った。そのようにしても、得られる数値の精度は高くないので各表中には桁数を示した。
【0039】
参考例1:(圧力晶析によるフラーレン凝集体の確認1)
溶媒として鉱油(出光興産社製、ダイアナフレシアP-46)100gに、フラーレン(C60、フロンティアカーボン社製、nanom purple ST)1gを混合し、室温にて、スターラーを用いて36時間撹拌した。続いて、孔径0.1μmのメンブレンフィルターでろ過し、飽和溶液を調製した。飽和溶液中のフラーレン濃度は、0.3%であった。
試料として前記飽和溶液を充填した圧力セルをシンテック製アンビルに設置した。圧力を加える前は、顕微鏡画像には、固形物は確認できなかった。次にわずかに圧力(<0.01GPa)を加えると、固形物が確認された。次に、圧力を下げ、常圧にまで戻すと、固形物は徐々に消失し10分後には無くなった。
【0040】
参考例2:(圧力晶析によるフラーレン凝集体の確認2)
試料として前記飽和溶液の1質量部と前記鉱油の49質量部との混合物を得た。この試料中のフラーレン濃度は飽和溶解度の1/50である。前記試料を充填した圧力セルをシンテック製アンビルに設置した。圧力を加える前は、顕微鏡画像には、固形物は確認できなかった。次に圧力徐々に加えたところ、約1GPaで固形物が確認された。次に、圧力を下げ、常圧にまで戻すと、固形物は直ちに消失した。
【0041】
実施例1~5:
(研磨剤組成物の作製)
溶媒として鉱油(出光興産社製、ダイアナフレシアP-46)100gに、フラーレン(C60、フロンティアカーボン社製、NP-ST)0.07gを混合し、室温にて、マグネチックスターラーを用いて24時間撹拌した。続いて、この混合物を孔径0.1μmのメンブレンフィルターで濾過し、濾液を得た。
前記濾液中のフラーレン濃度は、0.06質量%であった。また、前記鉱油に対する前記フラーレンの飽和溶解度は0.3%であったので、前記濾液中のフラーレン濃度は、飽和溶解度の1/5に相当する。
実施例1では、得られた前記濾液を研磨剤組成物とし、次の研磨工程で使用した。
また、実施例2~5では、前記濾液を前記鉱油で希釈し、表1に示すフラーレン濃度としたものを研磨剤組成物とし、次の研磨工程で使用した。
得られた研磨剤組成物中のフラーレン凝集粒を確認したところ、実施例1~5のいずれでも0個であった。この結果を表1に示した。
【0042】
(研磨工程)
次に、図1に示すように、摩擦摩耗試験機1(Anton Paar社製、製品名:ボールオンディスクトライボメーター)を用いて、円筒形の金属ピン2(材質SUJ、直径2mm、長さ20mm)の端面を、金属基板4(材質SUJ2、直径25mm、厚さ5mm)に押し当て、両者の接触面を摺動面3とした。摩擦試験装置1に取り付けられたシャーレ5の中に金属基板4が取り付けられている。
あらかじめ、金属基板4の接触面となる部分の研磨前の表面平滑度を測定した。結果を表1に示した。
次に、シャーレ5に研磨剤組成物6を50g入れた。この状態では、金属基板4は研磨剤組成物6中に沈んでいる。これは、機械装置の摺動部分に研磨剤組成物を付加した状態に相当する。
【0043】
次いで、金属基板4の一主面上にて、金属ピン2が同心円状の軌道を描くように、金属基板4を回転させた。金属基板4の一主面上における金属ピン2の速度を1cm/秒、金属ピン2による金属基板4の一主面に対する荷重を5N、摺動距離を1メートルとした。この状態は、機械装置の摺動部の摺動面が擦れあい研磨される状態に相当する。
【0044】
金属基板4の停止直後に研磨剤組成物6中のフラーレン凝集粒の確認を行った。結果を表1に示した。
また、摩擦摩耗試験機装置1から取り出した金属基板4の前記摺動面の研磨後の表面平滑度を測定した。結果を表1に示した。
【0045】
(振動試験)
次に、シャーレ5内の研磨剤組成物6を、5g残してスポイトを用いて取り除いた。次に、金属基板4を、摩擦摩耗試験機1のシャーレ5内に再度取り付けた。
【0046】
シャーレ5に希釈溶媒として鉱油(出光興産社製、ダイアナフレシアP-46)を45g添加し混合した。この状態で、残留する研磨剤組成物5gは、鉱油45gで1/10に希釈されたことになる。この希釈物6中のフラーレン濃度を表1に示した。
【0047】
次いで、研磨工程と同様にして、金属基板4の一主面上にて、金属ピン2が同心円状の軌道を描くように、金属基板4を回転させた。この際、金属ピン2は、金属基板4の研磨工程で摺動部分と同じ部分を摺動させた。また、金属ピン2による金属基板4の一主面に対する荷重を10Nとした。そして、アコースティックエミッション(AE)装置(日本フィジカルアコースティクス社製、PocketAE)を用いて、AE装置の検出部7をピンに接触させることで、摺動面が発する振動を計測した。具体的には、摺動距離が5~15メートルの範囲でのAEから取り込んだ信号(例えば図2)の平均振幅を測定した。平均振幅の値は、比較例1で得られた平均振幅に対する相対値とした。その測定結果を表1に示した。
【0048】
比較例1:
フラーレン濃度0の研磨剤組成物、すなわち鉱油(出光興産社製、ダイアナフレシアP-46)を研磨剤組成物として用いたことを除き、実施例1と同様に操作及び測定を行った。結果を表1に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
表1の結果から、研磨中にフラーレン凝集粒が生成したが、研磨剤組成物を希釈しフラーレン濃度を下げることによりフラーレン凝集粒が消失し(実施例2~5)研磨を終了できることが分かった。
実施例1では、希釈後もフラーレン凝集粒が残っていたために、実施例2よりも平均振幅が若干大きくなったものと考えられる。ただし、希釈倍率以上にフラーレン凝集粒は減少した。また、このように残存するフラーレン凝集粒であっても、後述する実施例11で示したように消失させることもできる。
研磨剤組成物または希釈物は、フラーレン凝集粒を含まなくなれば、潤滑剤として作用することになる。
【0051】
実施例6~8
(研磨剤組成物の作製)
溶媒としてポリオキシエチレン(日油株式会社製、ポリオールエステル型、ユニスターH-334R)100gに、フラーレン(C60,C70及びより高次のフラーレンを含む混合物、フロンティアカーボン社製、nanom mix ST)0.3gを混合し、室温にて、マグネチックスターラーを用いて24時間撹拌した。続いて、この混合物を孔径0.1μmのメンブレンフィルターで濾過し、濾液を得た。
前記濾液中のフラーレン濃度は、0.1質量%であった。また、前記ポリオキシエチレン(以下、「POE」ということがある。)に対する前記フラーレンの飽和溶解度は0.1質量%であった。
【0052】
実施例6では、得られた前記濾液を研磨剤組成物とし、次の研磨工程で使用した。また、実施例7及び8では、前記濾液を前記POEで希釈し、表2に示すフラーレン濃度としたものを研磨剤組成物とし、次の研磨工程で使用した。
得られた研磨剤組成物中のフラーレン凝集粒を確認したところ、いずれの実施例でも0個であった。この結果を表2に示した。
【0053】
(研磨工程)
次に、実施例1と同様の操作及び測定で研磨工程を行った。結果を表2に示した。
【0054】
(振動試験)
次に、希釈溶媒として鉱油に代えてポリ-α-オレフィン(以下「PAO」ということがある。)(JX日鋼日石株式会社製)を用いたことを除き、実施例1と同様の操作及び測定で振動試験を行った。また、POE1質量部及びPAO9質量部の混合物に対する前記フラーレンの飽和溶解度は0.2質量%であった。結果を表2に示した。
【0055】
比較例2:
フラーレン濃度0の研磨剤組成物、すなわちポリオキシエチレン(日油株式会社製、ポリオールエステル型、ユニスターH-334R)を研磨剤組成物として用いたことを除き、実施例6と同様に操作及び測定を行った。結果を表2に示した。
【0056】
【表2】
【0057】
表1,2より、溶媒が異なっても結果は同様の傾向を示した。
【0058】
実施例9:
実施例2で、円筒形の金属ピン2の材質をSUJ2に代えてアルミニウムAC8としたことを除き、実施例2と同様に操作及び測定を行った。結果を表3に示した。
【0059】
比較例3:
フラーレン濃度0の研磨剤組成物、すなわち前記鉱油を研磨剤組成物として用いたことを除き、実施例9と同様に操作及び測定を行った。結果を表3に示した。
【0060】
【表3】
【0061】
実施例10:
実施例2で、円筒形の金属ピン2の材質をSUJ2に代えてテフロン(登録商標)としたこと、及び、金属基板4の材質をSUJ2に代えてチタンとしたこと、を除き実施例2と同様に操作及び測定を行った。結果を表4に示した。
【0062】
比較例4:
フラーレン濃度0の研磨剤組成物、すなわち前記溶媒を研磨剤組成物として用いたことを除き、実施例10と同様に操作及び測定を行った。結果を表4に示した。
【0063】
【表4】
【0064】
表1,3及び4より、本実施形態の研磨組成物を用いた場合、摺動部の材質が異なっても、良好に研磨可能であり、希釈によりフラーレン凝集粒の生成を抑えて研磨を終了させることができた。
【0065】
実施例11:
振動試験で測定する摺動距離の範囲を表5に示した範囲としたことを除き、実施例1と同様に振動試験を行った。結果を表5に示した。
【0066】
【表5】
【0067】
表5に示したように、振動試験において、初期にフラーレン凝集粒が残っていても(実施例1)、継続することによりフラーレン凝集粒は消失(実施例11)することがわかった。
【0068】
実施例12:
研磨工程から振動試験に移る際に、研磨剤組成物を希釈せずにそのまま振動試験を行ったこと、及び、振動試験で測定する摺動距離の範囲を表6に示した範囲としたこと、を除き実施例4と同様に振動試験を行った。すなわち、実施例12の振動試験では、実質的に研磨工程が継続されたことになる。結果を表6に示した。
【0069】
【表6】
【0070】
表6より、摺動面の研磨が進み表面が滑らかになると(平均振幅が小さくなると)、研磨剤組成物を希釈しなくてもフラーレン凝集粒が生成しなくなった。すなわち、研磨剤組成物中のフラーレン濃度を調整することにより、目標とする面粗さとなったときに研磨を終了することができる。
逆に、目標とする面粗さとなっていない限り、フラーレン凝集粒は生成し続けるので、その間、安定に研磨ができる。なお、研磨終了後の研磨剤組成物は、前述の通り潤滑剤として作用することになる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、部品間に摺動部を有する機械装置、例えば、工業製品、産業機械、産業機器等に有用であり、特に、レシプロエンジンなど大きな摺動部を有する機械装置や、多くの歯車から構成されるトランスミッションなど摺動部の多い機械装置などに有用に適用できる。
【符号の説明】
【0072】
1 摩擦摩耗試験機
2 金属ピン
3 摺動面
4 金属基板
5 シャーレ
6 研磨剤組成物または希釈物
7 アコースティックエミッション装置の検出部
図1
図2