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特許7456416環境雰囲気中のアルカリイオン濃度の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】環境雰囲気中のアルカリイオン濃度の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20240319BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20240319BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G01N21/17 B
G01N30/02 B
G01N30/88 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021077042
(22)【出願日】2021-04-30
(65)【公開番号】P2022170818
(43)【公開日】2022-11-11
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】荒木 健司
【審査官】三宅 克馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-350342(JP,A)
【文献】特開平08-306651(JP,A)
【文献】特開2006-005261(JP,A)
【文献】特開平07-221148(JP,A)
【文献】特開平10-090240(JP,A)
【文献】特開平11-142381(JP,A)
【文献】国際公開第2005/103098(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/17
G01N 30/02
G01N 30/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境雰囲気中のアルカリイオン濃度を評価する評価方法であって、
予め、SPM洗浄を行った予備試験用ウェーハを環境雰囲気に暴露してウェーハ表面にアルカリイオンによる汚染量を振って汚染させた後に、該予備試験用ウェーハのウェーハ表面のアルカリイオン濃度とウェーハ表面の反射強度を測定し、前記ウェーハ表面のアルカリイオン濃度と前記ウェーハ表面の反射強度の相関関係を取得しておく相関関係取得工程と、
SPM洗浄を行った本試験用ウェーハを被評価環境雰囲気に所定時間暴露させた後に、該本試験用ウェーハのウェーハ表面の反射強度を測定し、該ウェーハ表面の反射強度の測定結果から、前記相関関係取得工程で取得した前記相関関係を用いて前記本試験用ウェーハのウェーハ表面のアルカリイオン濃度を推定し、該推定したウェーハ表面のアルカリイオン濃度から前記被評価環境雰囲気中のアルカリイオン濃度を評価するアルカリイオン濃度評価工程と、を含むことを特徴とする環境雰囲気中のアルカリイオン濃度の評価方法。
【請求項2】
前記予備試験用ウェーハをウェーハ表面にアルカリイオンによる汚染量を振って汚染させるとき、同一環境雰囲気で暴露時間を振るか、異なる環境雰囲気で暴露時間を同一にすることによって行うことを特徴とする請求項1に記載の環境雰囲気中のアルカリイオン濃度の評価方法。
【請求項3】
前記ウェーハ表面のアルカリイオン濃度の測定を、キャピラリー電気泳動装置を用いて行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の環境雰囲気中のアルカリイオン濃度の評価方法。
【請求項4】
前記ウェーハ表面のアルカリイオン濃度の測定を、アンモニア、メチルアミン類、およびエタノールアミン類のうちの1つ以上について行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の環境雰囲気中のアルカリイオン濃度の評価方法。
【請求項5】
前記ウェーハ表面の反射強度を測定するとき、ウェーハ膜厚測定器を用い、前記ウェーハ表面に光を垂直入射して得られる反射光の分光波長400-500nmの最大反射強度とバックグラウンド強度の差分を測定し、環境雰囲気に暴露していないウェーハを基準とした値を前記ウェーハ表面の反射強度として求めることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の環境雰囲気中のアルカリイオン濃度の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境雰囲気中に含まれるアルカリイオン濃度の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの進化に伴い、基板表面の清浄度は非常に厳しい要求が課せられている。特に表面汚染は金属汚染、有機物汚染、アルカリ汚染等があり、デバイス特性を劣化させる要因となるため、表面汚染レベルの低下が必須となっている。特に、アルカリ汚染では、化学増幅型レジストにおけるリソグラフ工程で、パターン不良が発生すること、アンモニアイオンやアミン類イオンの存在下で硫酸イオンが存在すると、硫酸アンモニウム塩や硫酸アミン塩が生成され、ウェーハにクモリが発生することが知られており、環境大気中の成分制御や捕集方法が重要となっている。
【0003】
環境雰囲気中のアルカリイオン類には、アンモニアやアミン類があり、それらの成分の評価方法には、例えば、図11に示す、環境雰囲気をエアーポンプ等で純水等の入ったインピンジャーにバブリングし、純水中に成分を溶解させ、イオンクロマトグラフで測定する方法がある。また、図12に示す、環境雰囲気をTENAX等の吸着剤を充填した吸収管を通してエアーポンプ等で吸引し、吸収管を加熱することで脱離した成分をガスクロマトグラフやガスクロマトグラフ質量分析装置で測定する方法がある。また、図13に示す、環境雰囲気中の成分を拡散スクラバー法により捕集し、イオンクロマトグラフ等で分析する方法がある。また、図14に示す、酸またはアルカリ溶液を塗布し、乾燥させたシリコンウェーハ等を環境雰囲気中に暴露して吸着させ、熱水抽出後にイオンクロマトグラフで分析する方法がある。また、図15に示す、硫酸過水、塩酸過水、硝酸における浸漬後に水洗、乾燥した表面状態においてウェーハを環境雰囲気中に暴露し、ウェーハ表面に吸着した成分を熱水抽出し、イオンクロマトグラフで分析する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-142381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インピンジャー法は、アンモニアやアミン類等のアルカリイオン類は吸収率が低い問題があり、吸収管捕集法は、有機物分析に効果的な方法ではあるが、アルカリイオン類には熱分解等の影響があり、不向きである。拡散スクラバー法は、アルカリイオン類の吸収率が高いが、イオンクロマトグラフ分析では成分分離が困難であり、アミン類の検出感度が低い。これらの方法は、環境雰囲気中の成分を直接溶媒中に取り込み、溶媒を分析することで環境雰囲気中の成分濃度を分析する方法である。
また、特許文献1に記載のウェーハ暴露法(選択的捕集法を含む)は、環境雰囲気中の成分がウェーハに物理吸着、あるいは化学吸着する現象を利用した、環境雰囲気中の成分濃度を間接的に分析する方法である。何れの方法も、環境雰囲気中の濃度に着目した評価法である。
【0006】
他方、環境雰囲気中のアルカリガス濃度が高いとパターン不良やクモリの発生が多いという経験則はあるが、アルカリガス濃度とクモリとの関係が定量的に示されておらず、経験的に環境雰囲気中の許容濃度を設定しているのが現状である。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、環境雰囲気中のアルカリイオン濃度を評価することができる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、環境雰囲気中のアルカリイオン濃度を評価する評価方法であって、
予め、SPM洗浄を行った予備試験用ウェーハを環境雰囲気に暴露してウェーハ表面にアルカリイオンによる汚染量を振って汚染させた後に、該予備試験用ウェーハのウェーハ表面のアルカリイオン濃度とウェーハ表面の反射強度を測定し、前記ウェーハ表面のアルカリイオン濃度と前記ウェーハ表面の反射強度の相関関係を取得しておく相関関係取得工程と、
SPM洗浄を行った本試験用ウェーハを被評価環境雰囲気に所定時間暴露させた後に、該本試験用ウェーハのウェーハ表面の反射強度を測定し、該ウェーハ表面の反射強度の測定結果から、前記相関関係取得工程で取得した前記相関関係を用いて前記本試験用ウェーハのウェーハ表面のアルカリイオン濃度を推定し、該推定したウェーハ表面のアルカリイオン濃度から前記被評価環境雰囲気中のアルカリイオン濃度を評価するアルカリイオン濃度評価工程と、を含むことを特徴とする環境雰囲気中のアルカリイオン濃度の評価方法を提供する。
【0009】
このような本発明の評価方法であれば、環境雰囲気中のアルカリイオン濃度の評価を精度良く行うことができる。ひいては、リソグラフ工程でのパターン不良やウェーハ表面のクモリの発生の防止に役立てることができる。
また、被評価環境雰囲気に暴露した本試験用ウェーハのウェーハ表面の反射強度の測定を行うものの、そのアルカリイオン濃度を実測することなく評価を行うことができるので、従来に比べて簡便である。
【0010】
そして、前記予備試験用ウェーハをウェーハ表面にアルカリイオンによる汚染量を振って汚染させるとき、同一環境雰囲気で暴露時間を振るか、異なる環境雰囲気で暴露時間を同一にすることによって行うことができる。
【0011】
このようにすれば、簡便に、予備試験用ウェーハを種々の汚染量で汚染することができる。
【0012】
また、前記ウェーハ表面のアルカリイオン濃度の測定を、キャピラリー電気泳動装置を用いて行うことができる。
【0013】
このようにすれば、予備試験用ウェーハにおけるウェーハ表面のアルカリイオン濃度をより簡便に測定することができる。
【0014】
また、前記ウェーハ表面のアルカリイオン濃度の測定を、アンモニア、メチルアミン類、およびエタノールアミン類のうちの1つ以上について行うことができる。
【0015】
このようにすれば、リソグラフ工程でのパターン不良やウェーハ表面のクモリなどの発生に特に影響を与えるものについて評価を行うことができる。
【0016】
また、前記ウェーハ表面の反射強度を測定するとき、ウェーハ膜厚測定器を用い、前記ウェーハ表面に光を垂直入射して得られる反射光の分光波長400-500nmの最大反射強度とバックグラウンド強度の差分を測定し、環境雰囲気に暴露していないウェーハを基準とした値を前記ウェーハ表面の反射強度として求めることができる。
【0017】
このようにして求めたウェーハ表面の反射強度を用いれば、ウェーハ表面のアルカリイオン濃度との間での相関がより良く、そのため、より精度の良い評価を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の環境雰囲気中のアルカリイオン濃度の評価方法であれば、精度よく、従来よりも簡便にその評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の環境雰囲気中のアルカリイオン濃度の評価方法の工程の一例を示すフローチャートである。
図2】本発明における予備試験である相関関係取得工程(条件出し工程)の一例を示す説明図である。
図3】本発明における本試験であるアルカリイオン濃度評価工程(本工程)の一例を示す説明図である。
図4】実験例1における全アルカリイオン類濃度と反射強度の相関関係を示すグラフである。
図5】実験例1におけるウェーハ暴露時間と反射強度の関係を示すグラフである。
図6】実験例2における全アルカリイオン類濃度と反射強度の相関関係を示すグラフである。
図7】実験例2におけるアンモニア濃度と反射強度の相関関係を示すグラフである。
図8】実験例2におけるメチルアミン類濃度と反射強度の相関関係を示すグラフである。
図9】実験例2におけるエタノールアミン類濃度と反射強度の相関関係を示すグラフである。
図10】環境雰囲気中の全アルカリイオン類濃度(実測値)とウェーハ表面のヘイズ値の関係を示すグラフである。
図11】インピンジャー法を用いた環境雰囲気中の成分濃度の評価方法を示す説明図である。
図12】吸収管捕集法を用いた環境雰囲気中の成分濃度の評価方法を示す説明図である。
図13】拡散スクラバー法を用いた環境雰囲気中の成分濃度の評価方法を示す説明図である。
図14】ウェーハ暴露法を用いた環境雰囲気中の成分濃度の評価方法を示す説明図である。
図15】ウェーハ暴露法(選択的捕集法)を用いた環境雰囲気中の成分濃度の評価方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上述したように、環境雰囲気中のアルカリイオン濃度を評価することができる方法が求められていた。本発明者が鋭意研究を行ったところ、環境雰囲気中に放置して暴露したウェーハの表面の反射強度とウェーハ表面に吸着した環境雰囲気中のアルカリイオン濃度との間に相関関係があることを見出した。そして、被評価対象の環境雰囲気中に放置して暴露したウェーハ表面の反射強度を測定するとともに上記相関関係を用いることで、ウェーハ表面のアルカリイオン濃度の推定、ひいては環境雰囲気中のアルカリイオン濃度を、精度良く、かつ、従来よりも簡便に評価できることを見出し、本発明を完成させた。
【0021】
以下、本発明について図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明による環境雰囲気中のアルカリイオン濃度の評価方法の実施形態を説明する。図1に本発明の工程の一例であるフローチャートを示す。大きく分けて、予備試験である相関関係取得工程(条件出し工程とも言う)と本試験であるアルカリイオン濃度評価工程(本工程とも言う)とからなっている。また、図2は、予備試験の説明図であり、環境雰囲気中でのウェーハ暴露による、ウェーハ表面のアルカリイオン濃度とウェーハ表面の反射強度の測定の手順の説明図である。図3は、本試験の説明図であり、被評価環境雰囲気中でのウェーハ暴露による、ウェーハ表面の反射強度(ウェーハ反射強度とも言う)からのウェーハ表面のアルカリイオン濃度の推定・被評価環境雰囲気中のアルカリイオン濃度の評価の手順の説明図である。
【0022】
尚、本発明において、予備試験や本試験で使用するウェーハ(予備試験用ウェーハ、本試験用ウェーハ)のサイズには特に制限はなく、ウェーハ1枚そのままでも良いし、ウェーハから切り出したウェーハ片でも適用可能である。また、ウェーハ表面の反射強度を測定するために表面はPWウェーハと同等の平滑性が求められる。他方、ウェーハの材質は、シリコンウェーハが適しているが、例えばガラス基板のように、平滑性を有し、硫酸イオンやアルカリイオン類と相互作用を及ぼさない基板であれば、使用することができる。条件を同一にするため、予備試験用ウェーハと本試験用ウェーハは同様のものを用いるのが良い。
【0023】
(相関関係取得工程)
予備試験の相関関係取得工程では、まず、準備した予備試験用ウェーハを硫酸過酸化水素水(SPM)で洗浄する。SPM洗浄の仕方としては、例えば、96%硫酸と35%過酸化水素水を1:1の液組成にて、水槽内で、120℃で10分間浸漬することで行うことができる。
その後、水洗し、予備試験用ウェーハを乾燥する。
そして、その予備試験用ウェーハを測定したい環境雰囲気中に2枚放置して暴露する。
一定時間暴露後に、上記2枚のうち1枚の予備試験用ウェーハは、その表面のアルカリイオン濃度を測定する。例えば、ポリプロピレン製の袋に抽出液と一緒に封入し、ウェーハ表面に吸着した成分の抽出を行い、キャピラリー電気泳動装置でアルカリイオン濃度の測定を行うことができる。もう1枚の予備試験用ウェーハは、ウェーハ表面の反射強度を測定する。
【0024】
上記の環境雰囲気に暴露する手順のとき、ウェーハ表面にアルカリイオンによる汚染量を振って汚染させる。例えば、同一環境雰囲気で暴露時間を振る(暴露時間を変える)、あるいは、異なる環境雰囲気で暴露時間を同一にする(暴露環境雰囲気を変える)ことで行うことができる。このようにすれば、簡便に種々の汚染量で汚染させることができる。ただし、種々の汚染量に振ることができればよく、振り方はこれに限定されない。
尚、暴露時間は特に限定されないが、ウェーハ表面のアルカリイオン濃度に影響を与える暴露時間と、反射強度とによる相関関係をより確実に取得するためには、暴露時間は3~48時間が好ましく、暴露環境を変えて評価する場合は、清浄度の高い環境雰囲気中の暴露ウェーハ測定を考慮すると、暴露時間は24時間程度で行うことがより好ましい。
【0025】
ここで、ウェーハ表面のアルカリイオン濃度の測定や反射強度の測定について説明する。
まず、アルカリイオン濃度の測定は特に限定されず、ウェーハ表面のアルカリイオン類についてその濃度を測定することができれば良い。イオンクロマトグラフなどの他の方法を用いることもできるが、ここでは一例としてキャピラリー電気泳動装置を用いて行う例について説明する。キャピラリー電気泳動装置は、石英製の中空キャピラリーに高電圧を印加し、試料溶液を流すことで成分の移動度の差から成分が分離する現象を利用したもので、UV検出器が用いられる。得られたクロマトグラム(エレクトロフェログラム)の移動時間と検出強度から、成分と濃度を、検量線をもとに算出する方法である。これにより、簡便に算出可能である。
【0026】
また、ウェーハ反射強度の測定は特に限定されず、ウェーハ表面の反射強度を測定することができれば良い。例えばウェーハ膜厚測定器を用いて測定することができる。ウェーハ表面に対して光を垂直に入射し、得られる反射光強度を測定する方法である。光学定数や積算時間、バックグラウンドの条件を一定とし、反射光の分光波長400nm~500nmの最大反射強度を測定する。この最大反射強度とバックグラウンド強度の差分を得る。そしてここでは、環境雰囲気に暴露していないウェーハ(暴露無しウェーハ)の表面の反射強度を基準とした値を、アルカリイオン濃度の測定値との相関を取得する際に用いるウェーハ表面の反射強度の測定値として用いることができる。より具体的な例で説明すると、暴露無しウェーハを基準とする場合、暴露無しウェーハによる反射強度と暴露したウェーハによる反射強度の差異(減少値)を算出する。そして、便宜上、暴露無しウェーハの状態を10000と仮定し、上記減少値を10000から差し引いた値をウェーハ表面の反射強度として用いることができる。
このようにして測定した反射強度は、ウェーハ表面のアルカリイオン濃度と相関性が一層高い反射強度データとなる。すなわち、より良い相関関係を得ることができ、より高精度の評価を得ることができる。
なお、測定に用いる分光波長の数値などは特に限定されず、使用するウェーハの種類などに応じて適宜決定することができる。
【0027】
上記のようにして、種々の汚染量(暴露環境雰囲気・暴露時間を変えた、種々の暴露条件)の予備試験用ウェーハについて測定し、ウェーハ表面に吸着したアルカリイオン成分の濃度とその濃度におけるウェーハ表面の反射強度を得て、ウェーハ表面のアルカリイオン濃度とウェーハ表面の反射強度の相関関係を取得する。なお、暴露条件のパターン数や測定する件数については特に限定されず、適宜決定することができる。
【0028】
(アルカリイオン濃度評価工程)
つぎに、本試験のアルカリイオン濃度評価工程では、相関関係取得工程と同様にして、準備した本試験用ウェーハをSPM洗浄、水洗、乾燥する。
そして、その本試験用ウェーハを、未知であり、評価したい環境雰囲気(被評価環境雰囲気)に所定時間暴露させた後に、ウェーハ表面の反射強度を測定する。
なお、この暴露時間の長さは特に限定されないが、例えば、相関関係取得工程のときと同様の暴露時間とすることができる。同じ長さとすることで、より高精度な評価が可能になる。
【0029】
この反射強度の測定結果と、相関関係取得工程で予め求めた、ウェーハ表面のアルカリイオン濃度とウェーハ表面の反射強度の相関関係を用いて、被評価環境雰囲気に暴露した本試験用ウェーハのウェーハ表面のアルカリイオン濃度を推定する。
そして、その推定値から被評価環境雰囲気中のアルカリイオン濃度を評価する。
【0030】
このような本発明の評価方法であれば、精度良く環境雰囲気中のアルカリイオン濃度を評価することができ、少なくとも従来の評価方法と同程度に良好な精度で評価することができる。そしてアルカリイオン類を起因としてリソグラフ工程でのパターン不良やウェーハ表面のクモリなどの対策に利用することができる。
特に、前述したアルカリイオン濃度の測定において、アンモニア、メチルアミン類、およびエタノールアミン類のうちの1つ以上について行えば、これらは上記問題に特に影響を与えるものであるので極めて有効である。これら全てについて測定し、合計した濃度(全アルカリイオン類濃度)を用いるとより好ましい。
【0031】
また、例えば図15の従来のウェーハ暴露法などの評価方法では、被評価環境に暴露したウェーハに対し、毎回、イオンクロマトグラフ測定を行ってウェーハ表面に吸着した成分の測定を行う必要があり煩雑であった。しかしながら、本発明では本試験のアルカリイオン濃度評価工程においてそのような成分測定(アルカリイオン濃度の測定)は不要であり、上記相関関係を用いてウェーハ表面の反射強度の測定値から推定できるので実に簡便である。
【実施例
【0032】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
本発明における相関関係取得工程(予備試験)として、後述する実験例1では、同一環境雰囲気で異なる暴露時間の場合で取得した相関関係を取得する。また実験例2では異なる環境雰囲気で暴露時間が同一の場合で取得した相関関係を取得する。そして、アルカリイオン濃度評価工程(本試験)として、実験例1、2のいずれかの相関関係を用いて本発明の評価方法を実施する(ここでは実験例2の相関関係を使用)。
【0033】
初めに、使用する予備試験用ウェーハや本試験用ウェーハ、また、ウェーハ表面におけるアルカリイオン濃度や反射強度の測定方法についてまとめて説明する。
環境雰囲気中の暴露に用いるウェーハは、直径200mmのCZシリコン単結晶のPWとした。ウェーハ表面状態に特に制約はなく、平滑な面状態であればベアSi面でもSiO面でも良い。ここではベアSi面とした。
【0034】
これに96%硫酸と35%過酸化水素水を1:1の液組成にて、120℃で10分間のSPM(硫酸過酸化水素水)洗浄を行い、その後、超純水によるリンスを10分間行った。水洗後、スピン乾燥を行った。
このSPM洗浄ウェーハ2枚を、垂直に立たせるように保持しながら環境雰囲気に暴露することで、ウェーハの両面を吸着面として利用した。
【0035】
暴露終了後は、暴露ウェーハ1枚を、ポリプロピレン製の袋に超純水20mLとともに封入し、ウォーターバス中で80℃に加温しながら20分間、ウェーハ表面に吸着している成分を抽出した。抽出した溶液は、キャピラリー電気泳動装置(Agilent7100)でアンモニア、アミン類についてその濃度を測定した。
【0036】
暴露ウェーハの残りの1枚は、ウェーハ膜厚測定器(フィルメトリクス社製F20)を用い、膜構造をSiO(自然酸化膜)として光学定数を固定し、入射光強度を任意値に一定としたときの、分光波長400nm~500nmの最大反射強度とバックグラウンド強度の差分をウェーハ表面の反射強度として測定した。なお、この反射強度に関して、暴露していないウェーハの表面の反射強度を基準値とするため、便宜上、基準となる暴露無しウェーハの表面の反射強度の数値を10000と仮定した。
また、より具体的に、入射光はタングステンハロゲン光で波長375nm~3000nmの連続光であり、反射強度測定に用いた反射光の分光波長は420nm~430nmとした。
【0037】
<実験例1>
つぎに、実験例1として、予備試験用ウェーハを用いて、環境雰囲気を同一とし暴露時間を変化させた場合の、暴露ウェーハの表面の反射強度、および、アルカリイオン類の総量(全アルカリイオン類濃度)の相関関係を取得する工程について記す。
場所Aにおける環境雰囲気中で暴露時間を3~48時間の間で振った2枚1組のウェーハを複数組準備し、上記のように、各組のうち一方は、ウェーハの吸着している成分を抽出し、キャピラリー電気泳動装置で測定した。また各組のうちのもう一方は、ウェーハ膜厚測定器によるウェーハ表面の反射強度を測定した。これらの測定結果について、アルカリイオン類の総量に対するウェーハ表面の反射強度の相関関係を図4に示す。またウェーハの暴露時間に対するウェーハ表面の反射強度の関係を図5に示す。
また、各暴露時間におけるアンモニア、メチルアミン類、エタノールアミン類の濃度とこれらの合計値(全アルカリイオン類濃度)、ウェーハ表面の反射強度を表1にそれぞれ示す。
【0038】
【表1】
【0039】
環境雰囲気への暴露によるウェーハ表面における全アルカリイオン類濃度と反射強度の間には強い相関が見られ、暴露時間が長いほど、反射強度が減少し、全アルカリイオン類濃度が増加するほど、反射強度は減少する。これは、SPM洗浄により、ウェーハ表面に硫酸イオンが多く分布しており、それが、環境雰囲気中のアンモニアやアミン類と結合することで硫化物塩となりウェーハ表面に析出し、暴露時間に依存してその析出量が増加するため、クモリが発生し、ウェーハ表面の反射強度が減少するものと考えられる。
【0040】
<実験例2>
つぎに、実験例2として、予備試験用ウェーハを用いて、24時間の暴露によって、予めアンモニア、メチルアミン類、エタノールアミン類、および、全アルカリイオン類濃度とウェーハ表面の反射強度との相関関係を取得する工程について記す。
異なる5か所(場所A~E)の環境雰囲気について、それぞれ、実験例1と同様の方法でウェーハを24時間暴露し、各組のうち一方は、ウェーハの吸着している成分を抽出し、キャピラリー電気泳動装置で測定した。また各組のうちのもう一方は、ウェーハ膜厚測定器によるウェーハ表面の反射強度を測定した。これらの測定結果について、全アルカリイオン類の濃度に対するウェーハ表面の反射強度の関係を図6に示す。またアンモニア濃度に対するウェーハ表面の反射強度の関係を図7に示す。またメチルアミン類の濃度に対するウェーハ表面の反射強度の関係を図8に示す。またエタノールアミン類の濃度に対するウェーハ表面の反射強度の関係を図9に示す。
また、場所A~Eについて、24時間の暴露時間におけるアンモニア、メチルアミン類、エタノールアミン類、全アルカリイオン類、ウェーハの反射強度を表2にそれぞれ示す。
【0041】
【表2】
【0042】
ウェーハ表面のアンモニア濃度、メチルアミン類濃度、エタノールアミン類濃度、全アルカリイオン類濃度と、ウェーハ表面の反射強度とのそれぞれの相関係数(決定係数)より分かるように、全アルカリイオン類濃度とウェーハ反射強度との相関係数の方がより直線に近く、より優れた相関を示している。
【0043】
これらの結果から、SPM洗浄して暴露したウェーハにおける、アルカリイオン濃度(各種のアルカリイオンの濃度や全アルカリイオン類濃度)と、ウェーハ表面の反射強度との間には相関関係が見られる(特には、全アルカリイオン類濃度とウェーハ表面の反射強度との間)。したがって、このようなアルカリイオン濃度と、暴露ウェーハの反射強度による相関関係(検量線)から、当該検量線を用いて未知の環境雰囲気に暴露したウェーハの反射強度から、暴露ウェーハの表面のアルカリイオン濃度を推定することができ、ひいては、未知の環境雰囲気中のアルカリイオン濃度を評価することができる。
【0044】
そこで、実際に未知の環境雰囲気に関して評価を以下のようにして行った。
本試験用ウェーハを準備し、5か所の未知の環境雰囲気(場所F~J)について、SPM洗浄後のウェーハを実験例2と同様の方法で24時間暴露し、暴露後にウェーハ表面の反射強度を実験例2と同一条件で実施した。
次に、予め求めておいた検量線(実験例2での全アルカリイオン類濃度と反射強度との相関関係)を基に、暴露後のウェーハの表面の反射強度から、ウェーハ表面の全アルカリイオン類濃度を推定した。そして、未知の環境雰囲気中の全アルカリイオン類濃度を評価した結果を表3に示す。
なお、ここでは、簡便のため、推定した暴露ウェーハのウェーハ表面の全アルカリイオン類濃度の数値を、環境雰囲気中の全アルカリイオン類濃度として評価している。
また表3において、全アルカリイオン類濃度の推定値と、各アルカリイオンの濃度の推定値の合計は一致していないが、これは図6-9で求めた検量線に基づき反射強度から濃度を換算(推定)しているためであり、全アルカリイオン類濃度の推定値は各アルカリイオンの濃度の推定値を合計したものではないからである。
【0045】
【表3】
【0046】
(比較例)
つぎに、比較例として、特許文献1の評価方法(従来のウェーハ暴露法(選択的捕集法))を用いた評価を行った。
環境雰囲気中の暴露に用いるウェーハは、実施例と同様に直径200mmのCZシリコン単結晶のPWとした。ウェーハの酸処理はSPM(硫酸過酸化水素水)洗浄とし、純水によるリンスを行った。ウェーハを乾燥後、実施例と同じ環境雰囲気(場所F~J)に24時間暴露し、暴露後のウェーハをポリプロピレン製の袋に超純水とともに封入し、加熱抽出し、その抽出液をイオンクロマトグラフ(ダイオネクス社製DX-500)で測定した(実測値)。測定結果を表4に示す。
なお、表4の場所Fにおいて、全アルカリイオン類濃度が各アルカリイオンの濃度の合計値から0.1ng/cmずれているのは四捨五入における表示上の問題にすぎない。
【0047】
【表4】
【0048】
(実施例と比較例の結果比較)
実施例(表3の全アルカリイオン類推定値の項目)と比較例(表4の全アルカリイオン類の項目)の比較により、両者は概ね同等の数値を示すことがわかる。すなわち、本発明により、従来法と同程度に精度良く評価を行うことができることがわかる。
また、比較例では、環境雰囲気中の濃度を評価する場合は、毎回、イオンクロマトグラフ測定の工程を行ってアルカリイオン濃度を実測する必要があり、非常に煩雑である。一方で本発明では、本試験においてウェーハ表面のアルカリイオン濃度を測定する必要がなく、比較的簡便な光の反射強度の測定からアルカリイオン濃度を推定し、環境雰囲気中のアルカリイオン濃度を評価できるので実に有利である。
【0049】
(ヘイズ値との関係)
また、ウェーハ表面のクモリはヘイズとして検出することが可能であるため、KLA TENCOL社製SP3ウェーハ表面検査装置を用いて、ウェーハ表面を測定した。そして表面ヘイズマップから得られる検査値について、SPM洗浄後に暴露を行っていないウェーハの数値を基準に、実験例2での5か所の環境雰囲気(場所A~E)、および、5か所の上記未知の環境雰囲気(場所F~J)の数値を規格化した。
そのうえで、それぞれの環境雰囲気において暴露したウェーハによる全アルカリイオン類濃度の実測値(比較例の数値ではあるが、前述したように、本発明での実施例の推定値と同程度)、ヘイズ値、集光灯下における目視によるクモリの有無の結果を表5、および図10に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
環境雰囲気中の全アルカリイオン類濃度の増加に伴い、ヘイズ値も増加するが、目視でクモリとして顕在化するのは、環境雰囲気中の全アルカリイオン類濃度が概ね100ng/cm以上である(より正確には、場所Jの98.8ng/cm以上)。
つまり、24時間の暴露による環境雰囲気中の全アルカリイオン類濃度を概ね100ng/cm未満(より正確には98.8ng/cm未満)に抑えれば、ウェーハ表面にクモリは発生しないことを示唆するものである。なお、場所Aの80.6ng/cm以下に抑えると、より確実にクモリの発生を防ぐことができると考えられる。
なお、ここでは比較例の実測値を用いて説明したが、代わりに、対応する本発明における予備試験での測定値や本試験での推定値を用い、評価した環境雰囲気を選択することによって、クモリの発生を防いだり、あるいは、クモリの発生の予測をしたりすることができる。
【0052】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
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