(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】熱伝導シート及び熱伝導シートを備えた装置
(51)【国際特許分類】
H01L 23/373 20060101AFI20240319BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20240319BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H01L23/36 M
H01L23/36 D
H05K7/20 F
(21)【出願番号】P 2022541089
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2020030463
(87)【国際公開番号】W WO2022030012
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】小舩 美香
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 倫明
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/039560(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/159340(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/373
H01L 23/36
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状粒子、楕円体状粒子、及び棒状粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む黒鉛粒子(A)を含有し、
前記黒鉛粒子(A)が、厚み方向に配向しており、
厚みの圧縮率が、温度150℃及び圧縮応力0.14MPaにおいて、24%以上であ
り、
厚みの圧縮弾性率が、温度150℃及び圧縮応力0.03MPaにおいて、0.60MPa以下である、熱伝導シート。
【請求項2】
表面の算術平均粗さが、8.0μm以下である、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
鱗片状粒子、楕円体状粒子、及び棒状粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む黒鉛粒子(A)を含有し、
前記黒鉛粒子(A)が、厚み方向に配向しており、
前記黒鉛粒子(A)の平均粒径が、厚みの50~75%であ
り、
厚みの圧縮弾性率が、温度150℃及び圧縮応力0.03MPaにおいて、0.60MPa以下である、熱伝導シート。
【請求項4】
厚みが、320μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
25℃で液状であるポリマー(B)を更に含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項6】
前記ポリマー(B)が、ポリブテンを含む、請求項5に記載の熱伝導シート。
【請求項7】
ガラス転移温度が20℃以下であるポリマー(C)を更に含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項8】
前記ポリマー(C)が、(メタ)アクリルポリマーを含む、請求項7に記載の熱伝導シート。
【請求項9】
前記黒鉛粒子(A)が、鱗片状粒子を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項10】
発熱体、放熱体、及び、前記発熱体と前記放熱体とに接する請求項1~9のいずれか1項に記載の熱伝導シートを含む、装置。
【請求項11】
前記発熱体が、半導体チップ及び半導体装置からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
発熱体と放熱体との間に請求項1~9のいずれか1項に記載の熱伝導シートを配置し、前記発熱体、前記放熱体、及び、前記発熱体と前記放熱体とに接する前記熱伝導シートを含む複合体を得ること、及び
前記複合体に、前記熱伝導シートの厚み方向の圧力を加え、前記発熱体と前記放熱体とを前記熱伝導シートを介して接着させること、
を含む、装置の製造方法。
【請求項13】
前記発熱体が、半導体チップ及び半導体装置からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱伝導シート、熱伝導シートを備えた装置、及び熱伝導シートを備えた装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高密度化及び薄型化に伴い、半導体素子、半導体装置等の電子部品は、放熱性が良好であること、すなわち、発生する熱を効率よく放熱できることが必要とされている。例えば、半導体装置は、半導体素子等の発熱体と、アルミニウム、銅等の放熱体との間に、熱伝導シートを挟んで密着させることによって、発熱体から放熱体へと熱が伝わる仕組みを有している。
【0003】
特許文献1には、黒鉛粒子を含有し、150℃における圧縮応力が0.1MPaのときの弾性率が1.4MPa以下であり、25℃におけるタック力が5.0N・mm以上である熱伝導シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子機器の更なる高密度化及び薄型化が進んでいることから、発熱体と放熱体の厚みも薄くなる傾向がある。これらを接着する熱伝導シートには、発熱体と放熱体とを低い圧力で接着した場合であっても、良好な熱伝導性を示すことが望まれている。
【0006】
そこで、本開示は、熱伝導性が向上した熱伝導シートを提供する。また、本開示は、熱伝導性が向上した熱伝導シートを備えた装置を提供する。さらに、本開示は、熱伝導性が向上した熱伝導シートを備えた装置の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明には様々な実施形態が含まれる。実施形態の例を以下に列挙する。本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0008】
一実施形態は、鱗片状粒子、楕円体状粒子、及び棒状粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む黒鉛粒子(A)を含有し、前記黒鉛粒子(A)が、厚み方向に配向しており、厚みの圧縮率が、温度150℃及び圧縮応力0.14MPaにおいて、24%以上である、熱伝導シートに関する。
【0009】
他の一実施形態は、鱗片状粒子、楕円体状粒子、及び棒状粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む黒鉛粒子(A)を含有し、前記黒鉛粒子(A)が、厚み方向に配向しており、前記黒鉛粒子(A)の平均粒径が、厚みの50~75%である、熱伝導シートに関する。
【0010】
他の一実施形態は、発熱体、放熱体、及び、前記発熱体と前記放熱体とに接する上記いずれかの実施形態の熱伝導シートを含む、装置に関する。
【0011】
他の一実施形態は、発熱体と放熱体との間に上記いずれかの実施形態の熱伝導シートを配置し、前記発熱体、前記放熱体、及び、前記発熱体と前記放熱体とに接する前記熱伝導シートを含む複合体を得ること;及び、前記複合体に、前記熱伝導シートの厚み方向の圧力を加え、前記発熱体と前記放熱体とを前記熱伝導シートを介して接着させること、を含む、装置の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、熱伝導性が向上した熱伝導シートが提供される。また、本開示によれば、熱伝導性が向上した熱伝導シートを備えた装置が提供される。さらに、本開示によれば、熱伝導性が向上した熱伝導シートを備えた装置の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されない。以下の実施形態は、単独で又は組み合わせて実施することが可能である。
【0014】
<熱伝導シート>
熱伝導シートは、鱗片状粒子、楕円体状粒子、及び棒状粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む黒鉛粒子(A)を含有する。熱伝導シートにおいて、黒鉛粒子(A)は、熱伝導シートの厚み方向に配向している。
【0015】
いくつかの実施形態において、熱伝導シートは、熱伝導シートの厚みの圧縮率が、温度150℃及び圧縮応力0.14MPaにおいて、24%以上である。又は、いくつかの実施形態において、熱伝導シートは、発熱体と放熱体とを熱伝導シートを介して接着させるために使用され、発熱体と放熱体とを熱伝導シートを介して接着させるときの温度及び圧縮応力において、圧縮率が24%以上である。
【0016】
いくつかの実施形態において、熱伝導シートは、黒鉛粒子(A)の平均粒径の比率が、熱伝導シートの厚みに対し50~75%である。
【0017】
[成分]
熱伝導シートは、黒鉛粒子(A)を少なくとも含有する。熱伝導シートは、樹脂等の任意の成分を更に含有してよい。
【0018】
(黒鉛粒子(A))
黒鉛粒子(A)は、鱗片状粒子、楕円体状粒子、及び棒状粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む。黒鉛粒子(A)は、熱伝導性の向上の観点から、鱗片状粒子を含むことが好ましい。鱗片状粒子は、熱伝導シート中で、所期の方向へ容易に配向しやすい傾向がある。黒鉛粒子(A)は、結晶化度が高いという観点から、シートの形状にした膨張黒鉛を粉砕して得られる、鱗片状の膨張黒鉛粒子を含むことが好ましい。
【0019】
熱伝導シートにおいて、黒鉛粒子(A)は、熱伝導シートの厚み方向に配向している。「黒鉛粒子(A)が熱伝導シートの厚み方向に配向している。」とは、好ましくは、黒鉛粒子(A)と熱伝導シートの表面(主面)とのなす角度が、60°以上である状態をいう。本開示において、この角度を「配向角度」という場合がある。配向角度は、80°以上、85°以上、又は88°以上であってよい。配向角度は、例えば以下の方法で測定できる。
【0020】
熱伝導シートを切断し、切断面を得る。熱伝導シートは、配向角度を測定できるように切断する。例えば、熱伝導シートに鱗片状粒子が含まれる場合、熱伝導シートの断面に、鱗片状粒子の面方向に対して垂直(又はほぼ垂直)な断面が含まれるように熱伝導シートを切断する。次いで、熱伝導シートの断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の黒鉛粒子(A)について、配向角度を測定する。熱伝導シートの1つの断面から合計50個の黒鉛粒子(A)を選択しても、又は、熱伝導シートの2つ以上の断面から合計50個の黒鉛粒子(A)を選択してもよい。鱗片状粒子の場合は、鱗片状粒子の面の熱伝導シート厚み方向(すなわち、鱗片状粒子の断面の長手方向)と熱伝導シートの表面とのなす角度、楕円体状粒子の場合は、楕円体状粒子の長軸方向と熱伝導シートの表面とのなす角度、棒状粒子の場合は、棒状粒子の長軸方向と熱伝導シートの表面とのなす角度を、それぞれ測定する。得られた測定値(50個)の算術平均値を、黒鉛粒子(A)の配向角度とする。
【0021】
黒鉛粒子(A)の平均粒径は、例えば、50μm以上、60μm以上、70μm以上、又は80μm以上である。黒鉛粒子(A)の平均粒径は、例えば、300μm以下、200μm以下、又は180μm以下である。黒鉛粒子の平均粒径は、例えば以下の方法で測定できる。
【0022】
熱伝導シートに含まれる黒鉛粒子(A)以外の成分を、有機溶剤に溶解させることによって除去し、黒鉛粒子(A)を回収する。回収した黒鉛粒子(A)を、有機溶剤を用いて洗浄した後、十分に乾燥させる。SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、黒鉛粒子(A)から任意の200個の粒子を選び、各粒子の粒径を測定する。鱗片状粒子の場合は面の長径、楕円体状粒子の場合は長軸、棒状粒子の場合は長軸を、それぞれ測定する。得られた測定値(200個)の算術平均値を、黒鉛粒子(A)の平均粒径とする。
【0023】
黒鉛粒子(A)の結晶中の六員環は、六員環の面方向が、黒鉛粒子(A)が鱗片状粒子の場合には面方向、楕円体状粒子の場合には長軸方向、又は棒状粒子の場合には長軸方向と同じ方向になるように配向していることが好ましい。六員環の面とは、六方晶系において六員環を含む面であり、(0001)結晶面を意味する。
【0024】
黒鉛粒子(A)の結晶中の六員環が上記のように配向しているかどうかは、X線回折測定により確認することができる。具体的には以下の方法で確認できる。以下では、黒鉛粒子(A)が鱗片状粒子である場合を例に説明する。
【0025】
まず、鱗片状粒子を含有し、鱗片状粒子が、その面方向がシートの面方向と同じ方向になるように配向している測定用サンプルシートを作製する。測定用サンプルシートの作製方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
【0026】
樹脂と、樹脂の体積に対して10体積%以上の量の鱗片状粒子(黒鉛粒子(A))との混合物を調製し、混合物を用いてシートを作製する。ここで用いる「樹脂」とは、X線回折測定の妨げになるピークが現れない材料であって、かつ、シートを形成可能な材料であれば特に制限されない。具体的には、アクリルゴム、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、SIBS(スチレン-イソブチレン-スチレン共重合体)等のバインダーとしての凝集力を有する非晶質樹脂を使用することができる。
【0027】
混合物のシートを、元の厚みの1/10以下となるようにプレスし、プレスしたシートの複数枚を積層して積層体を形成する。積層体を更に1/10以下まで押し潰す。これらの操作を3回以上繰り返して測定用サンプルシートを得る。得られた測定用サンプルシート中では、鱗片状粒子の面方向が、測定用サンプルシートの面方向と同じ方向であるといえる状態になる。
【0028】
その後、測定用サンプルシートの表面に対してX線回折測定を行う。2θ=77°付近に現れる黒鉛の(110)面に対応するピークの高さH1と、2θ=27°付近に現れる黒鉛の(002)面に対応するピークの高さH2とを測定する。H1をH2で除して得られる値(H1/H2)が0~0.02である場合、六員環の面方向が、鱗片状粒子の面方向と同じ方向を向いていると判断する。X線源には、CuKαを使用できる。
【0029】
楕円体状粒子の六員環、及び、棒状粒子の六員環についても、「鱗片状粒子の面方向」を「楕円体状粒子の長軸方向」又は「棒状粒子の長軸方向」に変える以外は、上記の説明と同様にして確認できる。
【0030】
以上より、「黒鉛粒子(A)の結晶中の六員環が、六員環の面方向が、黒鉛粒子(A)が鱗片状粒子の場合には面方向、楕円体状粒子の場合には長軸方向、又は棒状粒子の場合には長軸方向と同じ方向になるように配向している」とは、好ましくは、黒鉛粒子(A)を含有する測定用サンプルシートの表面に対し、X線回折測定を行い、2θ=77°付近に現れる黒鉛粒子(A)の(110)面に対応するピークの高さを、2θ=27°付近に現れる黒鉛粒子(A)の(002)面に対応するピークの高さで割った値が0~0.02となる状態をいう。
【0031】
本開示において、X線回折測定は、例えば以下の条件で行うことができる。
装置:ブルカー・エイエックスエス株式会社製「D8DISCOVER」
X線源:波長1.5406nmのCuKα、40kV、40mA
ステップ(測定刻み幅):0.01°
ステップタイム:720sec
【0032】
熱伝導シート中の黒鉛粒子(A)の含有量は、例えば、熱伝導性と密着性とのバランスの観点から、15~50体積%であることが好ましく、20~45体積%であることがより好ましく、25~40体積%であることが更に好ましい。黒鉛粒子(A)の含有量が15体積%以上であると、熱伝導性が向上する傾向にある。また、黒鉛粒子(A)の含有量が50体積%以下であると、粘着性及び密着性の低下を抑制できる傾向にある。
【0033】
黒鉛粒子(A)の含有量(体積%)は、例えば次式により求めることができる。熱伝導シートに含まれる黒鉛粒子(A)以外の成分についても、同様の方法で含有量(体積%)を求めることができる。
【0034】
黒鉛粒子(A)の含有量(体積%)=[(Aw/Ad)/{(Aw/Ad)+(Bw/Bd)+(Cw/Cd)+(Dw/Dd)+(Ew/Ed)+(Xw/Xd)}]×100
Aw:黒鉛粒子(A)の質量組成(質量%)
Bw:25℃で液状であるポリマー(B)の質量組成(質量%)
Cw:ガラス転移温度が20℃以下であるポリマー(C)の質量組成(質量%)
Dw:ホットメルト剤(D)の質量組成(質量%)
Ew:酸化防止剤(E)の質量組成(質量%)
Xw:他の任意成分の質量組成(質量%)
Ad:黒鉛粒子(A)の密度(g/cm3)(本開示においてAdは2.1g/cm3とする。)
Bd:25℃で液状であるポリマー(B)の密度(g/cm3)
Cd:ガラス転移温度が20℃以下であるポリマー(C)の密度(g/cm3)
Dd:ホットメルト剤(D)の密度(g/cm3)
Ed:酸化防止剤(E)の密度(g/cm3)
Xd:他の任意成分の密度(g/cm3)
なお、質量組成は、熱伝導シートに含まれる全成分の合計質量を基準とする質量百分率(質量%)である。また、熱伝導シートが2種以上の「他の任意成分」を含有する場合は、それぞれの成分について「Xw/Xd」を算出し、それらの全てを分母に加える。
【0035】
黒鉛粒子(A)は、鱗片状粒子、楕円体状粒子及び棒状粒子以外の黒鉛粒子を含んでもよい。鱗片状粒子、楕円体状粒子及び棒状粒子以外の黒鉛粒子として、例えば、球状黒鉛粒子、人造黒鉛粒子、薄片化黒鉛粒子、酸処理黒鉛粒子、膨張黒鉛粒子、炭素繊維フレーク等が挙げられる。
【0036】
(樹脂等の任意の成分)
熱伝導シートは、樹脂等の任意の成分を含有してよい。熱伝導シートは、1種又は2種以上の樹脂を含有してよい。樹脂は、例えば、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む。樹脂は、具体的には、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリロニトリル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、ポリオレフィン、共役ジエンポリマー、シリコーン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、及び、ポリサルファイドからなる群から選択される少なくとも1種を含んでよい。石油樹脂は、例えば、芳香族系石油樹脂及び水添芳香族系石油樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む。樹脂は、バインダー樹脂を少なくとも含有し、黒鉛粒子(A)はバインダー樹脂中に分散していてよい。
【0037】
熱伝導シートは、ポリオレフィンを含有することが好ましい。ポリオレフィンは、バインダー樹脂として機能することができる。例えば、ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、及びエチレン・α-オレフィン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種を含む。例えば、熱伝導シートは、ポリブテンを含有する。
【0038】
熱伝導シートは、アクリル樹脂を含有することが好ましい。アクリル樹脂は、バインダー樹脂として機能することができる。例えば、熱伝導シートは、(メタ)アクリルポリマーを含有する。本開示において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の総称であり、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの総称である。
【0039】
熱伝導シートは、バインダー樹脂として、ポリオレフィンとアクリル樹脂とを含有してよく、ポリブテンと(メタ)アクリルポリマーとを含有してよい。バインダー樹脂がポリオレフィンを含む場合、ポリブテンの含有量は、良好な熱伝導性を得る観点から、例えば、ポリオレフィンの質量を基準として、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は100質量%である。バインダー樹脂がポリブテンと(メタ)アクリルポリマーとを含む場合、バインダー樹脂に含まれるポリブテンと(メタ)アクリルポリマーとの合計の含有量は、良好な熱伝導性を得る観点から、例えば、バインダー樹脂の質量を基準として、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は100質量%である。
【0040】
熱伝導シートは、樹脂以外の任意の成分を更に含有してよい。熱伝導シートは、1種又は2種以上の任意の成分を含有してよい。任意の成分として、例えば、ホットメルト剤、酸化防止剤、難燃剤、靭性改良剤、吸湿剤、カップリング剤、界面活性剤、イオントラップ剤等が挙げられる。
【0041】
バインダー樹脂は、例えば、25℃で液状であるポリマー(B)、及び/又は、ガラス転移温度が20℃以下であるポリマー(C)を含む。バインダー樹脂は、例えば、25℃で液状であるポリマー(B)、及び、ガラス転移温度が20℃以下であるポリマー(C)を含む。
【0042】
いくつかの実施形態において、熱伝導シートは、黒鉛粒子(A)、25℃で液状であるポリマー(B)、及び、ガラス転移温度が20℃以下であるポリマー(C)を含有する。いくつかの実施形態において、熱伝導シートは、黒鉛粒子(A)、25℃で液状であるポリマー(B)、ガラス転移温度が20℃以下であるポリマー(C)、並びに、ホットメルト剤(D)及び/又は酸化防止剤(E)を含有する。熱伝導シートは、更に難燃剤を含有してもよい。
【0043】
(25℃で液状であるポリマー(B))
熱伝導シートは、25℃で液状であるポリマー(B)(以下、単に「ポリマー(B)」という場合がある。)を含有してもよい。熱伝導シートがポリマー(B)を含有する場合、熱伝導シートの柔軟性が向上し、熱伝導シートの接触熱抵抗を小さくできる傾向がある。熱伝導シートがポリマー(B)とホットメルト剤(D)とを含有する場合は、凝集力及び加熱時の流動性をより高めることができる傾向がある。
【0044】
本開示において「25℃で液状であるポリマー」は、25℃において流動性を有するポリマーである。「25℃で液状であるポリマー」は、25℃において粘性を有するポリマーであってよく、例えば、粘性を示す尺度である粘度が、25℃において0.0001~10,000Pa・sである。本開示において、粘度は、25℃でレオメーターを用いて5.0s-1のせん断速度で測定することができる。粘度は、例えば、せん断粘度として、コーンプレート(直径40mm、コーン角0°)を装着した回転式のせん断粘度計を用いて、温度25℃で測定できる。ポリマー(B)の25℃における粘度は、例えば、0.0001Pa・s以上、0.001Pa・s以上、又は0.01Pa・s以上である。ポリマー(B)の25℃における粘度は、例えば、10,000Pa・s以下、1,000Pa・s以下、又は100Pa・s以下である。
【0045】
ポリマー(B)として、前述の樹脂の例から、25℃で液状である樹脂を選択して使用することができる。ポリマー(B)は、例えば、ポリブテン、ポリイソプレン、ポリサルファイド、シリコーン、(メタ)アクリロニトリルポリマー、(メタ)アクリルポリマー、テルペン樹脂、及び石油樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む。熱伝導シートを半導体装置に使用する場合、ポリマー(B)は、ポリブテン及びポリイソプレンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。特に、熱伝導シートの接触熱抵抗を抑える観点から、ポリマー(B)は、ポリブテンを含むことが好ましい。熱伝導シートが25℃で液状であるポリブテンを含有する場合、熱伝導シートの粘着性と、応力緩和性とが向上する傾向がある。ポリマー(B)は、1種又は2種以上のポリマーを含んでよい。
【0046】
ポリブテンは、イソブテン及び/又はノルマルブテンを含む単量体を重合して得られるポリマーである。ポリブテンは、イソブテン又はノルマルブテンを重合して得られるホモポリマー;イソブテン及びノルマルブテンを共重合して得られるコポリマー;又は、イソブテン及び/又はノルマルブテンと、他の単量体とを含む単量体を重合して得られるコポリマーであってよい。他の単量体として、エチレン、プロピレン、スチレン等のα-オレフィンが挙げられる。共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0047】
ポリブテンは、-[CH2-C(CH3)2]-で表される構造単位、及び、-[CH2-CH(CH2CH3)]-で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1種の構造単位を含むポリマーである。ポリブテンは、任意の構造単位を更に含んでよい。ポリブテンは、ポリブチレンと称されることもある。
【0048】
ポリブテンとしては、例えば、日油株式会社の「日油ポリブテン」、JXTGエネルギー株式会社の「日石ポリブテン」、JXTGエネルギー株式会社の「テトラックス」、JXTGエネルギー株式会社の「ハイモール」、巴工業株式会社の「ポリイソブチレン」等が挙げられる。
【0049】
熱伝導シート中のポリマー(B)の含有量は、例えば、熱伝導シートの体積を基準として、10体積%以上、15体積%以上、又は20体積%以上である。ポリマー(B)の含有量が10体積%以上である場合、熱伝導シートの柔軟性、粘着性、及び密着性がより向上する傾向がある。熱伝導シート中のポリマー(B)の含有量は、例えば、熱伝導シートの体積を基準として、55体積%以下、50体積%以下、又は45体積%以下である。ポリマー(B)の含有量が55体積%以下である場合、熱伝導シートが十分な強度及び熱伝導性を有する傾向がある。ポリマー(B)の含有量は、粘着力、密着性、シート強度、耐加水分解性等を高める観点からも、上記範囲内にあることが好ましい。
【0050】
(ガラス転移温度が20℃以下であるポリマー(C))
熱伝導シートは、ガラス転移温度が20℃以下であるポリマー(C)(以下、単に「ポリマー(C)」という場合がある。)を含有してもよい。熱伝導シートがポリマー(C)を含有する場合、熱伝導シートの柔軟性が向上し、熱伝導シートの接触熱抵抗を小さくできる傾向がある。ポリマー(C)は、25℃で液状であるポリマー(B)には該当しないポリマーである。すなわち、ポリマー(C)は、ガラス転移温度が20℃以下であり、かつ、25℃で液状ではないポリマーである。
【0051】
ポリマー(C)のガラス転移温度(Tg)は、例えば、20℃以下、0℃以下、又は-20℃以下である。ガラス転移温度が20℃以下である場合、熱伝導シートの柔軟性及び粘着性が向上する傾向がある。ポリマー(C)のガラス転移温度(Tg)は、例えば、-70℃以上、-50℃以上、又は-30℃以上である。本開示において、ガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性測定(引張)により測定したtanδより求めることができる。tanδのピーク温度をガラス転移温度(Tg)とできる。
【0052】
ポリマー(C)の重量平均分子量は、例えば、100,000以上、250,000以上、又は400,000以上である。重量平均分子量が100,000以上である場合、熱伝導シートの膜強度が向上する傾向がある。ポリマー(C)の重量平均分子量は、例えば、1,000,000以下、700,000以下、又は600,000以下である。重量平均分子量が1,000,000以下である場合、熱伝導シートの柔軟性が向上する傾向にある。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
【0053】
ポリマー(C)として、前述の樹脂の例から、ガラス転移温度が20℃以下である樹脂を選択して使用することができる。ポリマー(C)は、例えば、(メタ)アクリルポリマー、シリコーン、及び共役ジエンポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含んでよく、(メタ)アクリルポリマーを含むことが好ましい。共役ジエンポリマーとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン等が挙げられる。(メタ)アクリルポリマーは、(メタ)アクリルモノマーを含む単量体を重合して得られるポリマーである。(メタ)アクリルモノマーは、分子内に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有する。好ましくは、(メタ)アクリルモノマーは、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマーを少なくとも含む。本開示において、「(メタ)アクリルモノマー」はアクリルモノマー及びメタクリルモノマーの総称であり、「(メタ)アクリロイル基」はアクリロイル基及びメタクリロイル基の総称である。熱伝導シートがガラス転移温度が20℃以下である(メタ)アクリルポリマーを含有する場合、熱伝導シートの粘着性と、反りに追従するために厚みが復元するような弾性とが向上する傾向がある。ポリマー(C)は、1種又は2種以上のポリマーを含有してよい。
【0054】
(メタ)アクリルモノマーの例として、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸;2-ヒドロキシ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。(メタ)アクリルポリマーは、ホモポリマーであっても、コポリマーであってもよい。(メタ)アクリルポリマーは、コポリマーであることが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリロニトリルとのコポリマーであってよい。(メタ)アクリルポリマーとして、例えば、アクリルゴムとして知られている(メタ)アクリルポリマーを使用することができる。
【0055】
熱伝導シート中のポリマー(C)の含有量は、例えば、熱伝導シートの体積を基準として、5体積%以上、8体積%以上、又は10体積%以上である。ポリマー(C)の含有量が5体積%以上である場合、熱伝導シートの柔軟性、粘着性、及び密着性がより向上する傾向がある。熱伝導シート中のポリマー(C)の含有量は、例えば、熱伝導シートの体積を基準として、55体積%以下、50体積%以下、45体積%以下、30体積%以下、又は20体積%以下である。ポリマー(C)の含有量が55体積%以下である場合、熱伝導シートが十分な強度及び熱伝導性を有する傾向がある。ポリマー(C)の含有量は、粘着力、密着性、シート強度、耐加水分解性等を高める観点からも、上記範囲内にあることが好ましい。
【0056】
(ホットメルト剤(D))
熱伝導シートは、ホットメルト剤(D)を含有してもよい。熱伝導シートがホットメルト剤(D)を含有する場合、熱伝導シートの強度及び加熱時の流動性が向上する傾向がある。
【0057】
ホットメルト剤(D)は、例えば、芳香族系石油樹脂、水添芳香族系石油樹脂、テルペンフェノール樹脂、水添テルペンフェノール樹脂、及びシクロペンタジエン系石油樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含んでよい。熱伝導シートは、1種又は2種以上のホットメルト剤(D)を含有してよい。特に、熱伝導シートがポリブテンを含むポリマー(B)とホットメルト剤(D)とを含有する場合、ホットメルト剤(D)は、水素化芳香族系石油樹脂及び水素化テルペンフェノール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。水素化芳香族系石油樹脂及び水素化テルペンフェノール樹脂は、安定性が高く、かつポリブテンとの相溶性に優れるため、より優れた熱伝導性、柔軟性、及びハンドリング性を達成できる傾向がある。
【0058】
水素化芳香族系石油樹脂としては、例えば、荒川化学工業株式会社の「アルコン」、出光興産株式会社の「アイマーブ」等が挙げられる。また、水素化テルペンフェノール樹脂としては、例えば、ヤスハラケミカル株式会社の「クリアロン」等が挙げられる。また、シクロペンタジエン系石油樹脂としては、例えば、日本ゼオン株式会社の「クイントン」、丸善石油化学株式会社の「マルカレッツ」等が挙げられる。
【0059】
ホットメルト剤(D)は、25℃で固形であり、軟化温度が40℃~150℃であってよい。ホットメルト剤(D)が熱可塑性樹脂を含む場合、熱圧着時の流動性が向上する結果、密着性が向上する傾向がある。軟化温度が40℃以上である場合、室温付近での凝集力を保つことができるため、十分なシート強度が得られやすくなり、取扱い性が優れる傾向がある。軟化温度が150℃以下である場合、熱圧着時の流動性が高くなるため、密着性が向上する傾向がある。軟化温度は、60℃~120℃であることがより好ましい。軟化温度は、環球法(JIS K 2207:1996)に従い測定できる。
【0060】
熱伝導シート中のホットメルト剤(D)の含有量は、粘着力、密着性、シート強度等を高める観点から、例えば、熱伝導シートの体積を基準として、3~25体積%、5~20体積%、又は5~15体積%である。ホットメルト剤(D)の含有量が3体積%以上であると、粘着力、加熱時の流動性、シート強度等が十分となる傾向がある。ホットメルト剤(D)の含有量が25体積%以下である場合、柔軟性が十分となるため、ハンドリング性及び耐サーマルサイクル性が優れる傾向がある。
【0061】
(酸化防止剤(E))
熱伝導シートは、酸化防止剤(E)を含有してもよい。熱伝導シートが酸化防止剤(E)を含有する場合、高温時の熱安定性が向上する傾向がある。
【0062】
酸化防止剤(E)は、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ヒドラジン系酸化防止剤、及びアミド系酸化防止剤からなる群から選択される少なくとも1種を含んでよい。熱伝導シートは、1種又は2種以上の酸化防止剤(E)を含有してよい。酸化防止剤(E)は、使用される温度条件等により適宜選択することができる。酸化防止剤(E)は、例えば、フェノール系酸化防止剤を含む。フェノール系酸化防止剤は、一例としてヒンダードフェノール系酸化防止剤を含み得る。
【0063】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、株式会社ADEKAの「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」、「アデカスタブAO-80」等が挙げられる。
【0064】
熱伝導シート中の酸化防止剤(E)の含有量は、例えば、熱伝導シートの体積を基準として、0.1~5体積%、0.2~3体積%、又は0.3~1体積%である。酸化防止剤(E)の含有量が0.1体積%以上である場合、酸化防止効果が十分に得られる傾向がある。酸化防止剤(E)の含有量が5体積%以下である場合、熱伝導シートの十分な強度が得られる傾向がある。
【0065】
(難燃剤)
例えば、熱伝導シートは、難燃性の観点から、難燃剤を含有してもよい。難燃剤は、特に限定されず、通常用いられる難燃剤から適宜選択することができる。難燃剤として、例えば、赤りん系難燃剤、りん酸エステル系難燃剤等が挙げられる。安全性に優れ、可塑化効果により密着性が向上する観点から、りん酸エステル系難燃剤が好ましい。
【0066】
りん酸エステル系難燃剤としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート等の脂肪族リン酸エステル;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等の芳香族リン酸エステル;レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビスジキシレニルホスフェート等の芳香族縮合リン酸エステル等が挙げられる。
【0067】
熱伝導シート中の難燃剤の含有量は、例えば、熱伝導シートの体積を基準として、30体積%以下であり、難燃剤成分が熱伝導シートの表面に染み出すことを防止する観点から、20体積%以下であってよい。
【0068】
[厚み]
熱伝導シートの厚みは、用途に応じて選択できる。熱伝導シートの厚みは、例えば、500μm以下、400μm以下、320μm以下、300μm以下、280μm以下、250μm以下、230μm以下、200μm以下、180μm以下、150μm以下、又は130μm以下である。熱伝導シートの厚みが小さい場合、バルクの熱抵抗を抑えることができ、熱伝導性の向上効果が得られやすい傾向がある。熱伝導シートの厚みは、取り扱い性の観点から、例えば、50μm以上、80μm以上、100μm以上、110μm以上、又は120μm以上である。熱伝導シートの厚みが280μm以下である場合に、特に熱伝導性の高い向上効果が得られる傾向がある。熱伝導シートの厚みは、室温(25℃)にてマイクロメータを用いて熱伝導シートの任意の3箇所の厚みを測定し、得られた測定値の算術平均値として求めることができる。
【0069】
[圧縮率]
熱伝導シートの厚みの圧縮率は、例えば、24%以上である。いくつかの実施形態において、熱伝導シートの圧縮率は、温度150℃及び圧縮応力0.14MPaにおいて測定される。又は、いくつかの実施形態において、熱伝導シートの圧縮率は、発熱体と放熱体とを熱伝導シートを介して接着させるときの温度及び圧縮応力において測定される。発熱体と放熱体とを熱伝導シートを介して接着させるときの温度及び圧縮応力については後述する。本開示において、「圧縮率」は、圧力を加える前の熱伝導シートの厚み(μm)に対する圧縮量(μm)の比率(百分率(%))である(圧縮率(%)=圧縮量(μm)/圧力を加える前の熱伝導シートの厚み(μm)×100)。圧力を加える前の熱伝導シートの厚みは、前述のマイクロメータを用いる方法により求められる室温(25℃)における厚みである。
【0070】
熱伝導シートの圧縮率は、例えば、24%以上、25%以上、28%以上、30%以上、35%以上、40%以上、43%以上、又は44%以上である。熱伝導シートの圧縮率が大きい場合、接触熱抵抗を抑えることができ、熱伝導性の向上効果が得られやすい傾向がある。この効果は、熱伝導シートの厚みが小さいほど、及び/又は、接着時の圧力が小さいほど、顕著である。熱伝導シートの圧縮率は、取り扱い性の観点から、例えば、60%以下、55%以下、又は50%以下である。熱伝導シートの圧縮率が24%以上である場合に、特に熱伝導性の高い向上効果が得られる傾向がある。
【0071】
本開示において、「圧縮量」は、熱伝導シートの厚み方向に圧力を加えることにより求められる熱伝導シートの圧縮量である。圧縮量は、次の方法により測定することができる。熱伝導シートを150℃に加熱し、厚み方向に対して0.1mm/minの変位速度で荷重を加え、変位(mm)と荷重(N)を測定する。応力が0.14MPaであるときの変位(mm)を圧縮量(μm)とする。
【0072】
熱伝導シートの圧縮量は、例えば、30μm以上、40μm以上、45μm以上、又は50μm以上である。熱伝導シートの圧縮量が大きい場合、熱伝導性の向上効果が得られやすい傾向がある。熱伝導シートの圧縮量は、取り扱い性の観点及び熱伝導性向上の観点から、例えば、100μm以下、90μm以下、80μm以下、70μm以下、又は60μm以下、又は55μm以下である。例えば、熱伝導シートの厚みが280μm以下である場合、圧縮量は45μm以上であることが好ましい。
【0073】
圧縮率は、後述する黒鉛粒子(A)の平均粒径の比率、熱伝導シートの成分等を変化させることによって調整できる。例えば、平均粒径の比率が75%以下である場合、大きい圧縮率が得られる傾向がある。例えば、熱伝導シートが、バインダーとしてポリマー(B)とポリマー(C)とを含有する場合、大きい圧縮率が得られる傾向がある。
【0074】
[厚みに対する黒鉛粒子(A)の平均粒径の比率]
熱伝導シートにおいて、黒鉛粒子(A)の平均粒径は、例えば、熱伝導シートの厚みに対し50~75%である。本開示において、熱伝導シートの厚み(μm)に対する黒鉛粒子(A)の平均粒径(μm)の比率(百分率(%))を、単に「平均粒径の比率」と記載する場合がある(平均粒径の比率(%)=黒鉛粒子(A)の平均粒径(μm)/熱伝導シートの厚み(μm)×100)。
【0075】
平均粒径の比率は、例えば、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、又は68%以上である。平均粒径の比率が50%以上である場合、バルク熱抵抗を抑えることができ、熱伝導性の向上効果が得られやすい傾向がある。平均粒径の比率は、例えば、75%以下、73%以下、又は70%以下である。平均粒径の比率が75%以下である場合、接触熱抵抗を抑えることができ、熱伝導性の向上効果が得られやすい傾向がある。この効果は、熱伝導シートの厚みが小さいほど、及び/又は、接着時の圧力が小さいほど、顕著である。
【0076】
[表面粗さ(Ra)]
熱伝導シートの表面の算術平均粗さ(Ra)は、例えば、8.0μm以下である。本開示において、表面の算術平均粗さ(Ra)は、次の方法により測定することができる。まず、熱伝導シートの表面から任意の5箇所を選択する。それぞれの箇所で、40mm×30mmの長方形の2本の対角線に沿って表面を解析し、算術平均粗さ(Ra)を測定する。得られた10個(5箇所×2本の対角線)の測定値から求められる算術平均値を、熱伝導シートの表面の算術平均粗さ(Ra)とする。各対角線における算術平均粗さ(Ra)は、3D形状測定機(例えば、倍率12倍)を用いて測定することができる。
【0077】
算術平均粗さ(Ra)は、例えば、8.0μm以下、7.5μm以下、7.0μm以下、又は6.5μm以下である。算術平均粗さ(Ra)が8.0μm以下である場合、接触熱抵抗を抑えることができ、熱伝導性の向上効果が得られやすい傾向がある。算術平均粗さ(Ra)の下限は特に限定されない。算術平均粗さ(Ra)は、例えば、1.0μm以上、2.0μm以上、又は3.0μm以上である。
【0078】
算術平均粗さ(Ra)は、黒鉛粒子(A)の平均粒径、黒鉛粒子(A)の平均粒径の比率等を変化させることによって調整できる。例えば、平均粒径が小さいほど、算術平均粗さ(Ra)は小さくなる傾向がある。例えば、平均粒径の比率が75%以下である場合、小さい算術平均粗さ(Ra)が得られる傾向がある。
【0079】
[弾性率]
熱伝導シートの厚みの弾性率(圧縮弾性率)は、例えば、温度150℃及び圧縮応力0.03MPaにおいて、0.60MPa以下である。本開示において、弾性率は、次の方法により測定することができる。熱伝導シートを150℃に加熱し、厚み方向に対して0.1mm/minの変位速度で荷重を加え、変位(mm)と荷重(N)を測定する。変位(mm)/厚み(mm)で求められる歪み(無次元)を横軸に、荷重(N)/面積(mm2)で求められる応力(MPa)を縦軸に示し、応力が0.03MPaのときの傾きを弾性率(MPa)とする。測定には、圧縮試験装置を使用できる。
【0080】
弾性率は、例えば、0.60MPa以下、0.55MPa以下、0.50MPa以下、0.40MPa以下、又は0.35MPa以下である。弾性率が0.60MPa以下である場合、接触熱抵抗を抑えることができ、熱伝導性の向上効果が得られやすい傾向がある。弾性率の下限は特に限定されない。弾性率は、取り扱い性の観点から、例えば、0.10MPa以上、0.20MPa以上、又は0.25MPa以上である。
【0081】
弾性率は、熱伝導シートの厚み、黒鉛粒子(A)の平均粒径の比率等を変化させることによって調整できる。例えば、熱伝導シートの厚みが小さいほど、弾性率が小さくなる傾向がある。例えば、熱伝導シートの厚みが同程度である場合、黒鉛粒子(A)の平均粒径の比率が小さいほど、弾性率が小さくなる傾向がある。
【0082】
[保護フィルム]
熱伝導シートは、少なくとも一方の面、又は、両方の面が保護フィルムにより保護されていてもよい。保護フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルナフタレート、メチルペンテン等の樹脂フィルム;アルミニウム等の金属箔;コート紙;コート布等が挙げられる。保護フィルムは、単層フィルムであっても、又は、多層フィルムであってもよい。保護フィルムは、シリコーン系、シリカ系等の離型剤などで表面処理されていてもよい。
【0083】
[製造方法]
熱伝導シートの製造方法は、特に制限されない。熱伝導シートの製造方法は、例えば、黒鉛粒子(A)と任意の成分を含有する組成物を準備すること;前記組成物を用いてシートを作製すること;前記シートの複数枚を積層し、積層体を作製すること;前記積層体の側端面をスライスして熱伝導シートを得ること、を含む。熱伝導シートの製造方法は、スライスして得られた熱伝導シートに保護フィルムを貼り付けること、を更に含んでよい。この製造方法によれば、黒鉛粒子(A)が厚み方向に配向した熱伝導シートを容易に製造することができる。
【0084】
組成物を準備することは、黒鉛粒子(A)と、樹脂等の任意の成分とを混合して組成物を得ることであってよい。混合前の黒鉛粒子(A)の平均粒径は、良好な熱伝導性を得る観点から、例えば、100μm以上、150μm以上、又は200μm以上である。混合前の黒鉛粒子(A)の平均粒径は、500μm以下、400μm以下、又は300μm以下である。黒鉛粒子(A)は、粒径が1,000μm未満であること、すなわち、黒鉛粒子(A)は、粒径が1,000μm以上の粒子を含まないことが好ましい。
【0085】
混合前の黒鉛粒子(A)の平均粒径は、ふるい分け法によって測定することができる。ふるい分けには、公称目開き1,000μm、850μm、710μm、600μm、500μm、425μm、300μm、212μm、及び106μmのふるいを使用する。はじめに、全ての黒鉛粒子(A)が公称目開き1,000μmのふるいを通過し、公称目開き1,000μmのふるいに得られる分級物は0gであることを確認する。その後は順に、公称目開き850μmから106μmのふるいを用いて、ふるい分けを行った後、分級物の合計に対する各分級物の質量百分率(%)と、各分級物の粒径とから、混合前の黒鉛粒子(A)の平均粒径を算出する。例えば公称目開き850μmのふるいに残った分級物の粒径は、925μm((1,000+850)/2)とする。公称目開き710~212μmのふるいに残った分級物についても、同様の方法で求めた粒径を使用する。公称目開き106μmを通過した分級物の粒径は、53μm((106+0)/2)とする。混合前の黒鉛粒子(A)の平均粒径は、それぞれの分級物について、分級物の粒径(μm)×該分級物の質量百分率(%)を算出し、得られた値を合計することにより求めることができる。
【0086】
混合前の黒鉛粒子(A)の平均粒径は、例えば、熱伝導シートの厚みの2.5倍以下、2.3倍以下、又は2.1倍以下である。黒鉛粒子(A)の平均粒径は、例えば、熱伝導シートの厚みの0.6倍以上、0.7倍以上、又は0.8倍以上である。
【0087】
シートの作製は、例えば、圧延、プレス、押出、及び塗工からなる群から選択される少なくとも1つの成形方法を用いて実施することができる。積層体は、例えば、独立した複数枚のシートを順に重ね合わせて作製してもよく、1枚のシートを折り畳んで作製してもよく、1枚のシートを捲回して作製してもよい。
【0088】
スライスには、スライサー、ナイフ等の切断具を使用できる。好ましくは、積層体の側端面を、積層体の主面から出る法線に対して0°~30°の角度で、所期の厚さの熱伝導シートが得られるようにスライスする。
【0089】
<発熱体と放熱体とを備えた装置>
前述の熱伝導シートは、発熱体と放熱体とを備えた装置に使用することができる。例えば、装置は、発熱体及び放熱体と、前記発熱体と前記放熱体とに接する熱伝導シートを含む。装置は、発熱体と、熱伝導シートと、放熱体とを含む積層体であってよい。熱伝導シートによって、発熱体からの熱を放熱体に効率よく伝えることができる。効率よく熱伝導することができると、装置の寿命が向上し、長期使用においても装置を安定して機能させることができる。熱伝導シートを特に好適に使用できる温度範囲は、例えば、-10~150℃である。
【0090】
発熱体としては、例えば、半導体チップ、半導体装置、ディスプレイ、LED、LED装置、電灯、半導体モジュール、自動車用パワーモジュール、産業用パワーモジュール等が挙げられる。発熱体は、例えば、半導体チップ及び半導体装置からなる群から選択される少なくとも1種を含んでよい。
【0091】
放熱体としては、例えば、アルミニウム又は銅のヒートスプレッダ;アルミニウム又は銅のフィン、板等を利用したヒートシンク;ヒートパイプに接続されているアルミニウム又は銅のブロック;内部に冷却液体をポンプで循環させているアルミニウム又は銅のブロック;ペルチェ素子及びこれを備えたアルミニウム又は銅のブロック等が挙げられる。
【0092】
装置の製造方法は、特に限定されない。装置の製造方法は、例えば、発熱体と放熱体との間に前述の熱伝導シートを配置し、前記発熱体、前記放熱体、及び、前記発熱体と前記放熱体とに接する前記熱伝導シートを含む複合体を得ること;前記複合体に、前記熱伝導シートの厚み方向の圧力を加え、前記発熱体と前記放熱体とを前記熱伝導シートを介して接着させること、を含む。複合体に加える圧力は、例えば、0.05MPa以上、0.10MPa以上、又は、0.12MPa以上である。複合体に加える圧力は、例えば、0.30MPa以下、0.20MPa以下、又は0.15MPa以下である。加圧には、固定具、プレス機等を使用することができる。前述の熱伝導シートは、低い圧力で接着した場合であっても、良好な熱伝導性を発揮できる。
【0093】
加圧時には、複合体を加熱することが好ましい。加熱は、発熱体を発熱させるか、又はオーブン、プレス機等を用いることによって、行うことができる。加熱温度は、例えば、80℃以上、100℃以上、又は120℃以上である。加熱温度は、例えば、180℃以下、170℃以下、又は160℃以下である。
【0094】
接着のための条件として、例えば、圧力0.05~0.30MPa、かつ、温度80~160℃;圧力0.10~0.20MPa、かつ、温度100~170℃;又は、圧力0.12~0.15MPa、かつ、温度120~160℃等が挙げられる。
【0095】
発熱体と放熱体とを備えた装置としては、例えば、半導体装置、ディスプレイ、LED装置、電灯、半導体モジュール、自動車用パワーモジュール、産業用パワーモジュール等が挙げられる。
【0096】
<実施形態の例>
本発明の実施形態の好ましい例を以下に挙げる。本発明の実施形態は以下の例に限定されない。
【0097】
(1)鱗片状粒子、楕円体状粒子、及び棒状粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む黒鉛粒子(A)を含有し、前記黒鉛粒子(A)が、厚み方向に配向しており、厚みの圧縮率が、温度150℃及び圧縮応力0.14MPaにおいて、24%以上である、熱伝導シート。
(2)鱗片状粒子、楕円体状粒子、及び棒状粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む黒鉛粒子(A)を含有し、前記黒鉛粒子(A)が、厚み方向に配向しており、前記黒鉛粒子(A)の平均粒径が、厚みの50~75%である、熱伝導シート。
(3)前記黒鉛粒子(A)の平均粒径が、前記熱伝導シートの厚みの50~75%である、上記(1)に記載の熱伝導シート。
(4)表面の算術平均粗さが、8.0μm以下である、上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
(5)厚みが、320μm以下である、上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
(6)25℃で液状であるポリマー(B)を更に含有する、上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
(7)前記ポリマー(B)が、ポリブテンを含む、上記(6)に記載の熱伝導シート。
(8)ガラス転移温度が20℃以下であるポリマー(C)を更に含有する、上記(1)~(7)のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
(9)前記ポリマー(C)が、(メタ)アクリルポリマーを含む、上記(8)に記載の熱伝導シート。
(10)前記黒鉛粒子(A)が、鱗片状粒子を含む、上記(1)~(9)のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【0098】
(11)発熱体、放熱体、及び、前記発熱体と前記放熱体とに接する上記(1)~(10)のいずれか1項に記載の熱伝導シートを含む、装置。
(12)前記発熱体が、半導体チップ及び半導体装置からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記(11)に記載の装置。
(13)発熱体と放熱体との間に上記(1)~(10)のいずれか1項に記載の熱伝導シートを配置し、前記発熱体、前記放熱体、及び、前記発熱体と前記放熱体とに接する前記熱伝導シートを含む複合体を得ること;及び、前記複合体に、前記熱伝導シートの厚み方向の圧力を加え、前記発熱体と前記放熱体とを前記熱伝導シートを介して接着させること、を含む、装置の製造方法。
(14)前記発熱体が、半導体チップ及び半導体装置からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記(13)に記載の製造方法。
【実施例】
【0099】
本発明の実施形態について実施例により具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例に限定されない。
【0100】
<熱伝導シートの作製>
[実施例1]
下記の黒鉛粒子(A)-1、ポリマー(B)-1、ポリマー(B)-2、ポリマー(C)、ホットメルト剤(D)、及び酸化防止剤(E)を、これらの合計に対する体積分率がそれぞれ、32.3体積%、29.0体積%、13.4体積%、10.2体積%、14.6体積%、及び0.5体積%となるように、ニーダー混練機(株式会社モリヤマ製「DS3-SGHM-E型加圧双腕型ニーダー」)に投入し、温度150℃で混練し、組成物を得た。体積分率は、下記の比重(密度)を使用し、前述の含有量(体積%)の算出方法に従って求めた。
【0101】
黒鉛粒子(A)-1:
鱗片状の膨張黒鉛粒子(日立化成株式会社製、比重2.1、平均粒径241μm)
ポリマー(B)-1:
イソブテン・ノルマルブテン共重合体(日油株式会社製「日油ポリブテン、グレード30N」、比重0.90、25℃において液体)
ポリマー(B)-2:
イソブテンの単独重合体(新日本石油株式会社製「テトラックス6T」、比重0.92、25℃において液体)
ポリマー(C):
アクリル酸エステル共重合樹脂(ナガセケムテックス株式会社製、アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、重量平均分子量:53万、Tg=-39℃、比重1.06)
ホットメルト剤(D):
水素化石油樹脂(荒川化学工業株式会社製「アルコンP90」、比重0.99)
酸化防止剤(E):
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(株式会社ADEKA製「アデカスタブAO-60」、比重1.15)
【0102】
黒鉛粒子(A)-1について、前述のX線回折測定を用いた方法により、膨張黒鉛粒子の結晶中の六員環面が、鱗片状粒子の面方向に配向していることを確認した。
【0103】
黒鉛粒子(A)-1の平均粒径は前述の方法に従い測定した。具体的には、1.7gの黒鉛粒子(A)-1を、公称目開き1,000μm、850μm、710μm、600μm、500μm、425μm、300μm、212μm、及び106μmのふるいを使用して分級した。各ふるいに残った分級物の質量を測定した。公称目開き1,000μmには分級物が得られなかった(0質量%)。各ふるいに残った分級物の粒径を、それぞれ、925μm、780μm、655μm、550μm、462μm、362μm、256μm、159μm、及び53μmとして、黒鉛粒子(A)-1の平均粒径を求めた。
【0104】
次いで、混練して得た組成物を押し出し成形機(株式会社パーカー製「HKS40-15型押し出し機」)に入れ、幅20cm、厚み1.5~1.6mmの平板形状に押出してシートを得た。得られたシートを、40mm×150mmの型刃を用いてプレス打ち抜きし、打ち抜いたシート61枚を積層し、高さ80mmのスペーサを挟んで積層方向に90℃で30分間にわたり圧力を加え、40mm×150mm×80mmの積層体を得た。積層体に含まれる黒鉛粒子(A)の平均粒径は、177μmであった。その後、この積層体の80mm×150mmの側端面を木工用スライサーでスライスし、熱伝導シートを得た。
【0105】
熱伝導シートの厚みは、122μmであった。厚みは、前述の方法に従い任意の3箇所の厚みをマイクロメータ(株式会社ミツトヨ製「406-250-30」)を用いて測定し、算術平均することにより求めた。
【0106】
黒鉛粒子(A)-1は、熱伝導シートの厚み方向に配向しており、配向角度は82°であった。配向方向の確認及び配向角度の測定は、前述のSEM(株式会社日立ハイテク製「SU5000」)を用いる方法に従って行った。
【0107】
熱伝導シートに含まれる黒鉛粒子(A)-1の平均粒径は84μmであり、平均粒径の比率は69%であった。黒鉛粒子(A)-1の平均粒径は、前述の方法に従い測定した。具体的には、アセトンと酢酸ブチルとを用いて熱伝導シートの溶解と洗浄を繰り返し、熱伝導シートから黒鉛粒子(A)-1以外の成分を取り除き、黒鉛粒子(A)-1を得た。次いで、黒鉛粒子(A)-1を150℃のオーブンで十分に乾燥させた。走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製「SU5000」)を用いて、得られた黒鉛粒子(A)-1からランダムに200個の粒子を選定し、各粒子の面を観察して長径を計測した。得られた200個の粒子の長径から求められる算術平均値を、黒鉛粒子(A)-1の平均粒径とした。また、得られた200個の粒子の長径から個数基準のメジアン径(D50)を求めた。なお、上記の積層体に含まれる黒鉛粒子(A)-1の平均粒径も同様の方法で測定した。圧縮前の熱伝導シートの厚み(μm)と黒鉛粒子(A)-1の平均粒径(μm)とから、平均粒径の比率(%)を算出した。
【0108】
熱伝導シートの圧縮率は44%であり、弾性率は0.32であった。弾性率の測定には、恒温槽が付属している圧縮試験装置(INSTRON 5948 Micro Tester (INSTRON社))を用いた。熱伝導シートを直径14mmの円型に切り抜いて試験に用いた。熱伝導シートを0.1mm厚の紙(離型紙)に挟み、恒温槽の温度150℃において、熱伝導シートの厚み方向に対して0.1mm/minの変位速度で荷重を加え、変位(mm)と荷重(N)とを測定した。変位(mm)/厚み(mm)で求められる歪み(無次元)を横軸に、荷重(N)/面積(mm2)で求められる応力(MPa)を縦軸に示し、応力が0.03MPaのときの傾きを弾性率(MPa)とした。また、応力0.14MPaまで圧縮した時の変位を圧縮量(μm)とした。圧縮前の熱伝導シートの厚み(μm)と圧縮量(μm)とから、圧縮率(%)を算出した。
【0109】
熱伝導シートの表面の算術平均粗さ(Ra)は、5.0μmであった。算術平均粗さ(Ra)は、前述の方法に従い任意の5箇所のRaを3D形状測定機(株式会社キーエンス製「VR-3200」)を用いて測定し、得られた10個の測定値を算術平均することにより求めた。
【0110】
[実施例2及び実施例3]
熱伝導シートの厚みを変えた以外は実施例1と同様にして、熱伝導シートを作製した。実施例2では厚みを204μmとし、実施例3では厚みを303μmとした。得られた熱伝導シートについて、実施例1と同様の方法により、厚み、配向角度等を測定した。測定結果を表1に示す。
【0111】
[比較例1~比較例3]
黒鉛粒子(A)-1に変えて黒鉛粒子(A)-2(鱗片状の膨張黒鉛粒子(日立化成株式会社製、比重:2.1、平均粒径:568μm、粒径1,000μmのふるいに残った分級物の質量:0質量%))を用いる以外は、実施例1~実施例3と同様の方法により熱伝導シートを作製した。得られた熱伝導シートについて、実施例1と同様の方法により、厚み、配向角度等を測定した。測定結果を表1に示す。
【0112】
<熱伝導シートの評価>
[熱抵抗の測定]
熱伝導シートを10mm角に切り抜き、発熱体であるトランジスタ(2SC2233)と放熱体である銅ブロックとの間に挟み、トランジスタを80℃、0.14MPaの圧力で押し付けながら電流を通じた際のトランジスタの温度T1(℃)及び銅ブロックの温度T2(℃)を測定し、測定値と印加電力W1(W)から、単位面積(1cm2)当たりの熱抵抗値X(K・cm2/W)を以下の式により算出した。結果を表1に示す。
X=(T1-T2)×1/W1
【0113】
【0114】
表1に示すとおり、実施例1~3の熱伝導シートは、比較例1~3の熱伝導シートと比べ、熱抵抗が小さく、良好な熱伝導性を示した。実施例1~3の熱伝導シートでは、圧縮率が24%以上であること、平均粒径の比率(熱伝導シート中の黒鉛粒子(A)の平均粒径/熱伝導シートの厚み×100)が50~75%であること、又は、表面の算術平均粗さ(Ra)が8.0μm以下であることなどによって、0.14MPaという低い圧力で接着させた場合であっても、接触熱抵抗を低減することができたと考えられる。また、実施例1の熱伝導シートは、特に優れた熱伝導性を示した。実施例1の熱伝導シートは、厚みが小さいことから、バルクの熱抵抗も低減されていると考えられる。