(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】水系の金属防食処理方法
(51)【国際特許分類】
C23F 11/12 20060101AFI20240319BHJP
C23F 11/173 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C23F11/12 101
C23F11/12 102
C23F11/173
(21)【出願番号】P 2022575244
(86)(22)【出願日】2022-12-05
(86)【国際出願番号】 JP2022044725
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】吉野 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢哉
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 周平
(72)【発明者】
【氏名】ディスシ ドゥイグ
(72)【発明者】
【氏名】ストッベ カーステン
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ フロリアン
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-507627(JP,A)
【文献】特開2009-138226(JP,A)
【文献】特開昭60-059080(JP,A)
【文献】特開平06-240477(JP,A)
【文献】特開昭62-095200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/12
C23F 11/173
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、
有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物と、
ジカルボン酸系重合体と、を、
使用
し、
前記防食性有機酸化合物は、カルボン酸基及び水酸基を有する有機酸化合物である、
金属塩化合物を0.1mg/L以上添加しない、水系の金属防食処理方法。
【請求項2】
前記防食性有機酸化合物が、イミノジリンゴ酸である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記ジカルボン酸系重合体が、マレイン酸系重合体、及びポリエポキシコハク酸から選択される1種又は2種以上である、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項4】
水系に接する金属の腐食を抑制するための水系の防食方法である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
(A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、
(B)ジカルボン酸系重合体と、
(C)有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物と、を、含有
し、
前記防食性有機酸化合物が、カルボン酸基及び水酸基を有する有機酸化合物である、
水系に金属塩化合物を0.1mg/L以上使用しない、水系の金属防食処理剤。
【請求項6】
(A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体、
(B)ジカルボン酸系重合体、又は、
(C)有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物
であり、当該防食性有機酸化合物はカルボン酸基及び水酸基を有する有機酸化合物、
のいずれかを少なくとも含有する水処理剤であり、
水系の金属防食処理に使用する際に、前記(A)
、前記(B)及び前記(C)の組み合わせにて使用
し、かつ、水系に金属塩化合物を0.1mg/L以上使用しない、水処理剤。
【請求項7】
水系に金属塩化合物を0.1mg/L以上使用せずに、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体及びジカルボン酸系重合体による水系の金属防食処理を向上させるために用いる水処理剤
であり、
有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物を含有し、当該防食性有機酸化合物はカルボン酸基及び水酸基を有する有機酸化合物である、前記水系の金属防食処理を向上させるために用いる水処理剤。
【請求項8】
水系に金属塩化合物を0.1mg/L以上添加せずに、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体及びジカルボン酸系重合体による水系の金属防食処理を向上させる方法
であり、
有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物を使用し、当該防食性有機酸化合物はカルボン酸基及び水酸基を有する有機酸化合物である、前記水系の金属防食処理を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系の金属防食処理方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水系等の水系では、装置や流路等に金属部材がよく使用されている。水系に設けられた金属部材において水と接触する部分は腐食を受けやすく、例えば、炭素鋼、銅、亜鉛メッキ鋼、亜鉛、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼等又は銅合金製等の熱交換器や反応釜、配管等は、冷却水と接触することにより腐食を受ける。この腐食を防止するために、一般に、水系に設けられた金属部材、特に水と接触する部分には、例えば、運転中の水系への薬剤添加等による防食処理が施されている。
【0003】
例えば、炭素鋼製の熱交換器、反応釜や配管の腐食を抑制するために、従来、オルトリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸塩、ホスホノブタントリカルボン酸塩等から選択される少なくとも1種の防食用のリン化合物が、冷却水系等の水系に添加されている。しかし、これらのリン化合物の使用は、水環境における富栄養化の原因物質であるため、各国や地域において水系外又は自然環境へのリンの排出を規制する制度がある。そのため、リン化合物の取り扱いや排水処理に多大な注意と費用が必要になる。
【0004】
このような環境問題をできるだけ引き起こすことなく金属の腐食を効果的に抑制する方法が、例えば、特許文献1及び特許文献2において、提案されている。
【0005】
特許文献1には、開放循環冷却水系において、冷却水の濃縮度を上げることにより、ランジエリア指数が1.5以上で、かつ[SiO2]×[CaH]≧2000[ただし、[SiO2]は水中のSiO2濃度(mg/L)、[CaH]は水中のCaCO3としてのカルシウム硬度(mg/L)]となるように水質を調整し、次いで、分子量1000~20000のマレイン酸、無水マレイン酸及びこれらの水溶性塩から選ばれる1種以上とイソブチレンとの共重合体を添加することを特徴とする金属の腐食抑制方法が提案されている。
【0006】
特許文献2には、水溶液系と接触する金属の腐食を抑制する方法であって、水溶液系に(A)多価金属イオンと(B)腐食防止又は付着抑制剤(DCA)化合物を添加することを含む方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公平04-033868号公報
【文献】WO2010/062461
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で提案されている方法では、カルシウム硬度とシリカ濃度がともに高い水質のみに適用が限定されるなど、適用できる水質範囲が狭いという防食面での課題があった。また、特許文献2で提案されている方法では、良好な防食効果を示すものの、アルミニウムなどの金属塩を少量添加する必要があるなど、さらなる水環境への負荷の低減が求められるものであった。
【0009】
そこで、本発明は、富栄養化又は水性毒性といった水環境への負荷となるリン化合物又は金属塩化合物をできるだけ利用しなくてもよく、できるだけ幅広い水質範囲においても適用できる、水系における金属防食処理技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、水系において、有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物と、ポリマーとを併用することにより、富栄養化又は水性毒性といった水環境への負荷となるリン化合物又は金属塩化合物をできるだけ利用しなくてもよく、できるだけ幅広い水質範囲において適用できる、水系における金属防食処理の技術を提供できることを見出した。これにより、本発明を以下のように完成させた。
【0011】
本発明は、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、 有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物と、を、使用する、水系の金属防食処理方法を提供することができる。
【0012】
また、本発明は、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、 有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物と、を、含有する、水系の金属防食処理剤を提供することもできる。
【0013】
また、本発明は、 (A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、 (B)ジカルボン酸系重合体と、 (C)有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物と、を、含有する、水系の金属防食処理剤を提供することもできる。
【0014】
また、本発明は、(A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体、 (B)ジカルボン酸系重合体、又は、 (C)有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物、のいずれかを少なくとも含有する水処理剤であり、 水系の金属防食処理に使用する際に、(i)前記(A)及び前記(C)の組み合わせ、又は(ii)前記(A)~(C)の組み合わせにて、使用するための、水処理剤を提供することもできる。
【0015】
有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物を含有する、(i)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体による、又は、(ii)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体及びジカルボン酸系重合体による、水系の金属防食処理を向上させるために用いる、水処理剤を提供することもできる。
【0016】
また、本発明は、有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物の使用による、 (i)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体による、又は、(ii)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体及びジカルボン酸系重合体による、水系の金属防食処理を向上させる方法を提供することもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、富栄養化又は水性毒性といった水環境への負荷となるリン化合物又は金属塩化合物をできるだけ利用しなくてもよく、できるだけ幅広い水質範囲においても適用できる、水系における金属防食処理技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態の方法に使用される水系の一例、例えば、冷却塔を有する循環冷却水系の一例、を示す概略図であり、本発明はこれに限定されない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。また、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である(質量/質量%)。また、各数値範囲(~)の上限値(以下)と下限値(以上)は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0020】
1.本実施形態に係る水系の金属防食処理剤
【0021】
本実施形態は、水系における金属防食処理の技術を提供することができる。本実施形態は、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物(以下、「防食性有機酸化合物」ともいう)とを、使用する、水系の金属防食処理方法を提供することができる。本実施形態は、より好適な態様として、水系におけるより相乗的な優れた金属防食効果を発揮させる観点から、上記(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、ジカルボン酸系重合体と、前記防食性有機酸化合物と、を組み合わせたこれら3成分を使用することが、好適である。また、本実施形態は、前記2成分又は前記3成分を、それぞれ5mg/L以上、水系に添加することが好適である。
【0022】
また、本実施形態の別の側面として、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、ジカルボン酸系重合体と、有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物とを、使用する、水系の金属防食処理方法を提供することができる。
【0023】
また、本実施形態は、前記防食性有機酸化合物と、(メタ)アクリル酸単量体由来の構成単位とスルホン酸を持つ単量体由来の構成単位とを有する重合体及び/又はジカルボン酸系重合体を用いること(より好適はこれら重合体の組み合わせ)によって、水系において、よりさらに優れた防食作用効果を発揮させる方法を提供することもできる。
【0024】
本実施形態によれば、富栄養化又は水性毒性といった水環境への負荷となるリン化合物又は金属塩化合物の使用量を大幅に低減することができ、当該リン化合物又は金属塩化合物をできるだけ利用しなくてもよく、できるだけ幅広い水質範囲において適用できる。さらに、本実施形態は、前記防食性有機酸化合物と併用するポリマーとして、スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及び/又はジカルボン酸系ポリマーを用いることで、水系におけるスケール抑制又はスケール防止を実現することができ、伝熱面を含む水系における防食剤の濃度維持に寄与することが期待できる。
【0025】
本実施形態における方法は、水系の金属防食方法であってもよく、また、水系のスケール防止方法であってもよく、水系における金属防食かつスケール防止方法であってもよい。また、当該水系の金属防食処理方法は、水系の運転方法でもよく、これにより、リン化合物又は金属塩化合物の使用を大幅に低減できる水系の安定運転を実施することができ、又は、リン化合物又は金属塩化合物の使用による環境汚染問題をできるだけ引き起こすことのない水系の安定運転を実施することもできる。また、当該水系の金属防食処理方法は、リン化合物又は金属塩化合物を用いなくとも優れた防食効果を発揮するため、非リン処理又は非金属塩化合物処理を行う水系に適用することができ、当該水系においてリン処理又は金属塩化合物処理を行わなくともよい。このように、環境汚染問題をできるだけ引き起こすことなく、水系の金属腐食を効果的に抑制することが可能であり、このため、水系の安定運転に寄与することができる。
【0026】
以下、本実施形態について、詳述する。
【0027】
1-1.水系における金属防食の対象
本実施形態において、防食の対象となるのは、特に限定されないが、金属材料であり、当該金属材料として、例えば、炭素鋼、銅、亜鉛メッキ鋼、亜鉛、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼等及びこれら合金製等から選択される1種又は2種以上が挙げられる。さらに金属材料のうち、鉄系の材料が好適であり、当該鉄系の材料として、例えば、鉄材料全般(例えば、純鉄、炭素鋼、鋳鉄等)等が挙げられ、より好適には、例えば、ボイラや熱交換器用の炭素鋼管(例えばSTB鋼管)等によく使用されている炭素鋼材料である。なお、炭素鋼材料は、JIS G 0203において、炭素鋼の範囲は炭素含有量が0.02質量%~約2質量%の範囲といわれており、より具体的には炭素鋼のうち、炭素含有量が0.25質量%以下を低炭素鋼、0.25~0.6質量%を中炭素鋼、0.6質量%以上を高炭素鋼といわれ、低炭素鋼~中炭素鋼は広く使用されていることから0.6質量%以下の炭素鋼を普通鋼ともいわれている。また、鋳鉄は炭素含有量が2質量%より多いものといわれている。本実施形態では、このうち、普通鋼、低炭素鋼、及び中炭素鋼、さらに好適には低炭素鋼において、より良好に防食効果を発揮しうる。
【0028】
本実施形態を好適に適用する防食処理の対象は、水と接触する金属材料又は水と接触する金属材料を使用する金属部材であることが好適である。
水系において金属材料又は金属部材を使用している箇所又は装置として、例えば、送水配管等の各種配管やパイプ、ポンプ、流路、熱交換器、冷凍機、反応釜、コンプレッサー等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上でもよい。より具体的には、これら又はこれらが有する金属製部品又は部分が、本実施形態を好適に適用する防食処理の対象となる。
【0029】
1-2.ポリマー
本実施形態に用いるポリマーは、特に限定されないが、水系に使用できる有機系高分子化合物が好適である。本実施形態に用いるポリマーは、同じ単量体から得られる重合体であっても、異なる単量体を使用して得られる共重合体であってもよい。本実施形態に用いるポリマーは、有機溶媒系重合方法又は水系重合方法など公知の製造方法を適宜採用して得てもよく、また、市販品を用いてもよい。なお、ポリマーの塩の形態は、特に限定されず、単量体や重合体を水溶性塩にできる塩が好適であり、ナトリウム、カリウム等によるアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等によるアルカリ土類金属塩、及びアンモニウムや第1~3級アミンなどによるアンモニウム塩等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
本実施形態に用いるポリマーは、後述する防食性有機酸化合物と併用することにより、併用前よりも防食効果がさらに向上するポリマーが好適である。本実施形態に用いる好適なポリマーを判定する指標として、例えば、腐食速度(mm/y)を用いることができ、当該腐食速度(mm/y)が、好ましくは0.11未満、より好ましくは0.10以下、さらに好ましくは0.08以下、より好ましくは0.06以下である。これにより、防食性有機酸化合物との併用において、より良好な防食作用を得ることができる。
【0031】
前記ポリマーは、例えば、(メタ)アクリル酸系ポリマー(例えば、スルホン基を有する(メタ)アクリル酸系ポリマー)、ジカルボン酸系ポリマー(例えば、マレイン酸系ポリマー)などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。当該ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸系ポリマー(好適にはスルホン基を有する(メタ)アクリル酸系ポリマー)、及び/又は、ジカルボン酸系ポリマー(好適にはマレイン酸系ポリマー、エポキシコハク酸系ポリマー)が好ましく、さらに好ましくは(メタ)アクリル酸系ポリマー及びジカルボン酸系ポリマーの組み合わせであり、2種の併用することにより、より良好な防食効果を発揮することができる。これにより、防食性有機酸化合物との併用において、より良好な防食作用を得ることができる。また、スルホン基を有する(メタ)アクリル酸系ポリマー(より好適には、スルホン基を有するアクリル酸系ポリマー)が、防食性有機酸化合物との併用及び/又は異なるポリマーとの併用において、伝熱面におけるスケール抑制作用をより良好に発揮することができ、また水系中の水の濁りもより良好に低減できる。
【0032】
1-2-1.(メタ)アクリル酸系ポリマー
本実施形態に用いるポリマーは、好ましくは(メタ)アクリル酸系ポリマーであり、より好ましくは(メタ)アクリル酸系共重合体であり、より具体的には、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン基含有単量体との共重合体であることが好適であり、さらに好ましくは、(メタ)アクリル酸単量体と、アミド基及びスルホン基含有単量体との共重合体及び/又は(メタ)アクリル酸単量体と、ヒドロキシ基及びスルホン基含有単量体との共重合体である。これにより、防食性有機酸化合物との併用において、より良好な防食作用を得ることができる。前記(メタ)アクリル酸系共重合体における(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン基含有単量体とのモノマー比率(モル比率(モル%))は、好ましくは99~1:1~99である。前記(メタ)アクリル酸系共重合体は、低分子量であることが好適である。なお、(メタ)アクリル酸系ポリマーは、水溶性塩であってもよく、当該塩は、上記ポリマーで説明した塩を適宜採用することができる。
【0033】
<(メタ)アクリル酸単量体>
前記(メタ)アクリル酸単量体は、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸及びその塩等が挙げられ、これら群から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。本実施形態において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」からなる群から選ばれる少なくとも1種を意味する。このうち、アクリル酸又はその塩が好適である。なお、本実施形態に用いる(メタ)アクリル酸単量体において、スルホン基を含む場合には後述する<スルホン酸単量体>として用いることが好適であり、この場合、前記(メタ)アクリル酸単量体は、「スルホン基を含む(メタ)アクリル酸単量体」以外の(メタ)アクリル酸単量体が、望ましい。
【0034】
<スルホン酸単量体>
前記スルホン酸単量体としては、特に限定されないが、スルホン基を含む単量体が、より良好な防食効果発揮の観点から、好適であり、当該単量体は不飽和の単量体が、さらに好ましい。前記スルホン酸単量体として、例えば、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体等が挙げられるが、これに限定されず、また、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体は塩(例えばNa塩)の形態であってもよい。
【0035】
前記スルホン酸単量体として、例えば、アミド基とスルホン基を有する単量体(好適には炭素数6~9のもの)、ヒドロキシ基とスルホン基を有する単量体(好適には炭素数6~9のもの)、脂肪族共役ジエンのスルホン化物(好適には炭素数4~15のもの)及びそれらの塩等が挙げられ、これら群から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。このうち、アミド基とスルホン基を有する単量体(好適には炭素数6~9のもの)、及び/又は、ヒドロキシ基とスルホン基を有する単量体(好適には炭素数6~9のもの)が好適である。また、当該単量体の「スルホン基」は、置換基を有してもよいスルホン基であってもよく、例えば、アルキルスルホン基が挙げられ、当該アルキルスルホン基の「アルキル」の炭素数は1~8が好適であり、メチルプロパンスルホン基(tert-ブチルスルホン基ともいう)がより好適である。これにより、防食性有機酸化合物との併用において、より良好な防食作用及びより良好なスケール防止作用を得ることができる。
【0036】
前記アミド基とスルホン基を有する単量体として、例えば、(メタ)アクリルアミドアルキルプロパンスルホン酸、クロトンアミドアルキルプロパンスルホン酸等が挙げられ、より具体的には、例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、3-アクリルアミド-3,3-ジメチルプロパンスルホン酸等及びこれらの塩等が挙げられ、これら群から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0037】
前記ヒドロキシ基とスルホン基を有する単量体として、例えば、3-アリロキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸(HAPS)、3-メタクリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、3-メタクロキシ-1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸等及びこれらの塩等が挙げられ、これら群から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0038】
前記脂肪族共役ジエンのスルホン化物として、例えば、1,3-ブタジエンのスルホン化物、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンのスルホン化物等が挙げられ、これら群から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0039】
より好適なスルホン酸単量体として、(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、及び2-スルホエチルメタクリレート等のスルホン基含有の不飽和単量体、及びそれらの塩等が挙げられ、これら群から選択される1種又は2種以上を用いることができる。このうち、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(HAPS)から選択される少なくとも1種の単量体が好適であり、AMPS及び/又はHAPSがより好適である。これにより、防食性有機酸化合物との併用において、より良好な防食作用及びより良好なスケール防止作用を得ることができる。
【0040】
上記のその他の単量体としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルホルムアミド、N-ビニル-メチルアセトアミド、N-ビニルオキサゾリドン等のN-ビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、t-ブチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド等の窒素含有ノニオン性不飽和単量体、3-(メタ)-アリルオキシ-1,2-ジヒドロキシプロパン、(メタ)アリルアルコール、イソプレノール等の水酸基含有不飽和単量体;(メタ)アリルアルコールにエチレンオキサイドを1~200モル程度付加させた化合物等のポリオキシエチレン基含有不飽和単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル;ジカルボン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸単量体;スチレン等の芳香族不飽和単量体等が挙げられ、これら群から選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0041】
<好適な(メタ)アクリル酸系ポリマー>
前記(メタ)アクリル酸系ポリマーは、より好ましくは分子中にスルホン基を含む(メタ)アクリル酸系ポリマー、さらに好ましくは分子中にスルホン酸基を含む(メタ)アクリル酸系ポリマーであり、より好ましくは(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体である。当該スルホン酸単量体は、スルホン酸基含有不飽和単量体が好適である。より好適な具体例として、(メタ)アクリル酸(好適にはアクリル酸(AA));2-ヒドロキシ-3-(アリルオキシ)-1-プロパンスルホン酸(HAPS)、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS);などからなる群から選択される1種又は2種以上のモノマーが重合又は共重合した、ホモポリマー又はコポリマー(共重合体)が挙げられる。
【0042】
<(メタ)アクリル酸系共重合体の製造例>
前記(メタ)アクリル酸系共重合体は、公知の製造方法により製造することができる。好適な共重合体は、(i)(メタ)アクリル酸単量体と、(ii)アミド基とスルホン基を有する単量体、ヒドロキシ基とスルホン基を有する単量体等から選択されるスルホン酸単量体とを、所定の質量使用割合で、共重合させてなる重合体である。なお、本発明の効果を損なわない範囲内にて、任意の単量体を使用してもよい。
【0043】
より好適な(メタ)アクリル酸系共重合体は、(i)アクリル酸単量体と、(ii)2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及び3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸等から選択される少なくとも1種のスルホン酸単量体とを、所定の質量使用割合で、共重合させてなる重合体である。
さらにより好適な(メタ)アクリル酸系共重合体は、アクリル酸(AA)単量体と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)単量体との共重合体、アクリル酸(AA)単量体と3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(HAPS)単量体との共重合体等からなる群から選択される1種又は2種以上である。好適な(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との所定モル比率は例えば1~99:99~1であり、当該モル比率は後述する<前記(メタ)アクリル酸系共重合体における前記モル比率(モル%)>を適宜採用することができる。
【0044】
<前記(メタ)アクリル酸単量体と前記スルホン酸単量体とのモル比率(モル%)>
前記(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体における(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体とのモル比率(モル%:合計量100)は、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸単量体の好適な下限値として、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、より好ましくは70以上、より好ましくは75以上、より好ましくは80以上であり、また、(メタ)アクリル酸単量体の好適な上限値として、好ましくは99以下、より好ましくは98以下、さらに好ましくは97以下、より好ましくは95以下、よりさらに好ましくは90以下である。アクリル酸単量体とスルホン酸単量体とのモル比率のより好適な数値範囲として、アクリル酸単量体:スルホン酸単量体が、より好ましくは75:25~93:7、さらに好ましくは80:20~90:10である。前記(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体を当該モル比率にすることにより、より良好な防食効果及びより良好なスケール防止効果を発揮させることができる。なお、当該モル比率は、後述するAA/AMPS系ポリマー、AA/HAPS系ポリマー等の共重合体を構成するための(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体とのそれぞれのモル比率(%)に、適宜採用してもよい。
【0045】
前記(メタ)アクリル酸系共重合体におけるモル比率のより好適な態様として、(メタ)アクリル酸単量体と、アミド基及び/又は水酸基を含むスルホン酸単量体との共重合体における(メタ)アクリル酸単量体と、当該アミド基・ヒドロキシ基を含むスルホン酸単量体とのモル比率(モル%)は、より好ましくは75:25~93:7、さらに好ましくは80:20~90:10であり、当該モル比率にすることにより、より良好な防食効果を発揮させることができる。なお、当該モル比率は、上述した<前記(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体におけるモル比率>の好適な下限値及び好適な上限値を適宜採用することができる。
【0046】
また、前記(メタ)アクリル酸系共重合体におけるモル比率のより好適な態様として、AA/AMPS系ポリマー、AA/HAPS系ポリマーの場合、AA/AMPS比、AA/HAPS比(モル%)(AA:AMPS又はHAPS)は、より好ましくは75:25~93:7、さらに好ましくは80:20~90:10である。当該モル比率にすることにより、より良好な防食効果を発揮させることができる。なお、当該モル比率は、上述した<前記(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体におけるモル比率>の好適な下限値及び好適な上限値を適宜採用することができる。
【0047】
<(メタ)アクリル酸系共重合体の重量平均分子量>
(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体のGPC法による重量平均分子量は、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは500以上、より好ましくは1,000以上、さらに好ましくは2,000以上、より好ましくは3,000以上、さらに好ましくは4,000以上であり、また、その好適な上限値として、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、さらに好ましくは40,000以下、より好ましくは30,000以下、より好ましくは20,000以下である。(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体の好適な数値範囲として、より好ましくは3,000~30,000であり、望ましくは4,000~20,000である。また、AA/AMPS系ポリマー及びAA/HAPS系ポリマーの好適な重量平均分子量は、上述の好適な下限値及び上限値を適宜採用できるが、当該好適な数値範囲として、好ましくは3,000~30,000であり、より好ましくは4,000~20,000である。当該重量平均分子量に調整することにより、より良好な防食効果及びスケール防止効果を発揮させることができる。
本明細書におけるポリマーの重量平均分子量は、標準物質を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC分析)により得ることができる。なお、ポリアクリル酸ナトリウムを標準物質とした場合には、ポリアクリル酸ナトリウム換算での値で表すことができる。
【0048】
1-2-2.ジカルボン酸系ポリマー
本実施形態に用いるポリマーは、好ましくはジカルボン酸系ポリマーであり、より好ましくはマレイン酸系重合体であり、より具体的には、マレイン酸単量体の重合体、マレイン酸単量体とその他単量体(例えば、芳香族不飽和単量体、不飽和炭化水素単量体等)との共重合体であることが好適であり、さらに好ましくはマレイン酸単量体の重合体、マレイン酸単量体と不飽和炭化水素単量体(好適にはイソブチレン単量体)との共重合体である。これにより、防食性有機酸化合物との併用において、より良好な防食作用及びスケール防止作用を得ることができる。
【0049】
<ジカルボン酸系重合体及びその製造例>
前記ジカルボン酸系重合体(ホモポリマー又はコポリマー)は、公知の製造方法により製造することができる。好適な共重合体は、(i)マレイン酸単量体と、(ii)スチレン等の芳香族不飽和単量体、イソブチレン等の不飽和炭化水素単量体等から選択される不飽和結合を持つ単量体とを、所定の質量使用割合で、重合させてなる重合体である。なお、本発明の効果を損なわない範囲内にて、任意の単量体を使用してもよい。
【0050】
ジカルボン酸系重合体としては、例えば、(無水)マレイン酸、エポキシコハク酸、イタコン酸などから1種又は2種以上のジカルボン酸単量体を含む水溶液中で、これら単量体を重合した重合体(ホモポリマー、コポリマー);ジカルボン酸単量体以外に、不飽和結合を持つ単量体が水溶液中に含まれていてもよく、カルボン酸単量体及びこれ以外の不飽和結合を持つ単量体とを重合した重合体(コポリマー)等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0051】
前記ジカルボン酸単量体として、特に限定されないが、例えば、マレイン酸系単量体、エポキシコハク酸単量体、イタコン酸単量体などの有機酸系単量体及びこれらのエステル類単量体などが挙げられる。また不飽和有機酸系単量体及びこのエステル類が好適である。これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0052】
前記ジカルボン酸単量体以外の不飽和結合を持つ単量体として、特に限定されないが、例えば、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルホルムアミド、N-ビニル-メチルアセトアミド、N-ビニルオキサゾリドン等のN-ビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、t-ブチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド等の窒素含有ノニオン性不飽和単量体、3-(メタ)-アリルオキシ-1,2-ジヒドロキシプロパン、(メタ)アリルアルコール、イソプレノール等の水酸基含有不飽和単量体;(メタ)アリルアルコールにエチレンオキサイドを1~200モル程度付加させた化合物等のポリオキシエチレン基含有不飽和単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸単量体;スチレン等の芳香族不飽和単量体;イソブチレン等の不飽和炭化水素等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0053】
前記ジカルボン酸系ポリマーとして、より好ましくは、マレイン酸系ポリマー、エポキシコハク酸系ポリマー(好適にはエポキシコハク酸ホモポリマー)、イタコン酸系ポリマーから選択される1種又は2種以上であり、さらに好ましくはマレイン酸系ポリマー及び/又はエポキシコハク酸系ポリマーであり、よりさらに好ましくは、マレイン酸系ポリマーである。
【0054】
前記ジカルボン酸系ポリマーの重量平均分子量は、特に限定されないが、より具体的には、より好ましくは250又は500~10,000、より好ましくは500~5,000、より好ましくは500~3,000、より好ましくは500~2,000である。本明細書におけるポリマーの重量平均分子量は、標準物質を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC分析)により得ることができる。なお、ポリアクリル酸ナトリウムを標準物質とした場合には、ポリアクリル酸ナトリウム換算での値で表すことができる。
【0055】
1-2-2-1.マレイン酸系重合体
前記ジカルボン酸系ポリマーのうち、マレイン酸系重合体が、好適である。当該マレイン酸系重合体は、マレイン酸系単量体を構成単位として含む重合体であることが好適であり、当該マレイン酸系重合体は、ホモポリマー又はコポリマーのいずれでもよい。ホモポリマーとして、マレイン酸系単量体にて重合した、例えばマレイン酸単量体から成るポリマレイン酸等が挙げられる。また、コポリマーとして、特に限定されないが、マレイン酸系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体(不飽和単量体)との共重合体が挙げられる。なお、マレイン酸系ポリマーは、水溶性塩であってもよく、当該塩は、上記ポリマーで説明した塩を適宜採用することができる。
【0056】
<マレイン酸系単量体>
前記マレイン酸系単量体は、特に限定されないが、マレイン酸単量体(例えば、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸塩等)、マレイン酸エステル単量体等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
前記マレイン酸系単量体のうち、好ましくはマレイン酸単量体であり、また、無水マレイン酸系単量体には、無水マレイン酸、無水マレイン酸の加水分解物(マレイン酸)が含まれる。
マレイン酸エステルとして、例えば、メタノール、エタノール等の飽和炭化水素のアルコール、アリルアルコール、メタリルアルコール等の不飽和炭化水素のアルコール、ポリアルキレンアルコール、ポリオキシアルキレンモノメチルエーテル、ポリオキシアルキレンモノアリルエーテル等のポリアルキレングリコール誘導体とのエステル化物等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0057】
<マレイン酸系単量体以外の共重合可能な単量体>
マレイン酸系単量体以外の共重合可能な単量体として、特に限定されないが、上述した「ジカルボン酸単量体以外の不飽和結合を持つ単量体」で説明した化合物等の例を適宜採用することができる。前記マレイン酸系単量体と共重合可能な単量体のうち、不飽和炭化水素単量体(好適にはエチレン性不飽和炭化水素単量体)が好ましく、不飽和炭化水素単量体は、鎖状又は環状の何れでもよく、またモノエチレン性不飽和炭化水素単量体であることが好ましく、また、炭素数4~6のものが好適である。当該共重合可能な単量体のうち、鎖状のモノエチレン性不飽和炭化水素単量体が好ましく、さらに鎖状のモノエチレン性不飽和炭化水素単量体のうち、ブチレン(ブテン)単量体がより好ましく、このうちイソブチレン単量体がさらに好ましい。これにより、防食性有機酸化合物との併用において、より良好な防食作用を得ることができる。
【0058】
前記マレイン酸系単量体と共重合可能な単量体のうちの炭素数4~6のモノエチレン性不飽和炭化水素としては、例えば、ブチレン(イソブチレン(イソブテン)、α-ブチレン(1-ブテン)、cis-β-ブチレン(cis-2-ブテン)、trans-β-ブチレン(trans-2-ブテン))、1-ペンテン、2-ペンテン、メチルブテン、メチルペンテン、及びヘキセン等の鎖状のモノエチレン性不飽和炭化水素;シクロペンテン、メチルシクロペンテン、及びシクロヘキセン等の環状のモノエチレン性不飽和炭化水素;等が挙げられ、これらからなる群から選択される1種又は2種以上を用いることができる。これにより、防食性有機酸化合物との併用において、より良好な防食作用を得ることができる。
【0059】
<好適なマレイン酸系ポリマー>
好適なマレイン酸系重合体は、マレイン酸単量体とモノエチレン性不飽和炭化水素単量体(好適にはイソブチレン単量体)との共重合体、及び/又は、ポリマレイン酸(好適にはマレイン酸単量体のホモポリマー)が好適である。これにより、防食性有機酸化合物との併用において、より良好な防食作用を得ることができる。
【0060】
<前記マレイン酸単量体とこれ以外の単量体とのモル比率(モル%)>
前記マレイン酸系重合体における、マレイン酸単量体と、これ以外の単量体とのモル比率(モル%:合計量100)は、特に限定されないが、マレイン酸単量体の好適な下限値として、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。
【0061】
前記マレイン酸系共重合体におけるモル比率のより好適な態様として、マレイン酸単量体と、モノエチレン性不飽和炭化水素(好適には炭素数4~6)単量体とのモル比率(モル%:合計量100)は、特に限定されないが、マレイン酸単量体の好適な下限値として、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、より好ましくは70以上である。
【0062】
<マレイン酸系重合体の重量平均分子量>
前記マレイン酸系重合体のGPC法による重量平均分子量は、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは250以上、より好ましくは500以上、また、その好適な上限値として、好ましくは10,000以下、より好ましくは8,000以下、さらに好ましくは5,000以下、より好ましくは3,000以下、当該好適な数値範囲として、好ましくは500~5,000、より好ましくは500~3,000である。これにより、防食性有機酸化合物との併用において、より良好な防食作用及びより良好なスケール防止作用を得ることができる。
【0063】
1-3.防食性有機酸化合物
本実施形態に用いる防食性有機酸化合物は、特に限定されないが、水と接触する金属材料に対して防食作用を有する有機酸化合物であることが好適である。
【0064】
本実施形態に用いる防食性有機酸化合物の有機酸の防食効果を示す指数(以下、「有機酸防食効果指数」ともいう)として、より好適な下限値として、より良好な防食作用の発揮の観点から、好ましくは4以上、より好ましくは4.5以上、さらに好ましくは5以上であり、また、より好適な上限値として、特に限定されないが、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、さらに好ましくは15以下、より好ましくは14以下であり、当該好適な数値範囲として、より好ましくは4~15である。これにより、ポリマーとの併用において、より良好な防食作用を得ることができる。当該有機酸防食効果指数は、後記〔実施例〕に示す<有機酸防食効果指数>の式にて求めることができる。
【0065】
防食性有機酸化合物において、例えば、有機酸及びポリマーを含む試験水の腐食速度が、遅いほど又は設定の数値範囲内に該当することを考慮して、防食効果を発揮し得る有機酸防食効果指数であるかどうかを、判定することが好適である。
より好適には、後記〔実施例〕における試験例1に記載の<手法>及び腐食速度(mm/y)の計算式を用いて、防食効果を発揮し得る有機酸防食効果指数であるかどうかを判定できる。防食効果を発揮し得ると判定できる腐食速度(mm/y)は、好ましくは0.10未満であり、より好ましくは0.08以下、さらに好ましくは0.05以下、より好ましくは0.03以下であり、例えば、腐食速度0.03以下の範囲にある防食性有機酸化合物の有機酸防食効果指数を、防食効果が得られる指数とすることができる。
【0066】
前記防食性有機酸化合物は、官能基として、水酸基及び/又はカルボン酸基を有することが好適であり、より好ましくは水酸基及びカルボン酸基を有することである。
前記防食性有機酸化合物が有する水酸基の数は、特に限定されず、単数又は複数のいずれでもよいが、その好適な下限値として、好ましくは0又は1以上であり、これにより、ポリマーとの併用において、より良好な防食作用を得ることができる。また、前記防食性有機酸化合物が有するカルボン酸基の数は、特に限定されず、単数又は複数のいずれでもよいが、その好適な下限値として、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、これにより、ポリマーとの併用において、より良好な防食作用を得ることができる。少なくともカルボン酸基が1つ以上あることが重要であるが、水酸基及びカルボン酸基の数が多い方が、本実施形態の効果を発揮する上で良好であると考える。前記防食性有機化合物は、少なくとも一つ以上のカルボン酸を有し、カルボン酸基と水酸基の数の和が、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上である。前記防食性有機酸化物が有する分子中のカルボン酸基及び/又は水酸基の数の上限値は特に限定されないが、分子量によって制限されるであろう。
【0067】
前記防食性有機酸化合物の分子量(M.W.)は、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは100以上、より好ましくは125以上、さらに好ましくは150以上であり、また、その好適な上限値として、特に限定されないが、好ましくは300以下、より好ましくは290以下である。これにより、ポリマーとの併用において、より良好な防食作用を得ることができる。
【0068】
前記防食性有機酸化合物として、例えば、クエン酸、酒石酸、ムチン酸、グルコヘプトン酸、ブタンテトラカルボン酸、イミノジリンゴ酸、3-ヒドロキシ-2,2’-イミノジコハク酸などが挙げられるが、これらに限定されない。これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。これにより、ポリマーとの併用において、より良好な防食作用を得ることができる。このうち、ポリマーとの併用によるより良好な防食作用、より良好なスケール防止作用の観点から、より好ましくは、イミノジリンゴ酸である。
【0069】
1-4.前記ポリマー及び前記防食性有機酸化合物の併用、各成分の好適な使用量及び好適な使用割合
【0070】
本実施形態では、水系に接触する金属の腐食を抑制するための水系の防食処理方法において、前記ポリマー及び前記防食性有機酸化合物を使用して、水系中にこれら成分を存在させることにより、より良好な金属防食効果を発揮させることができる。以下に、各成分における、より好適な水系に対する使用量、又は薬剤中の含有割合や配合比等を説明する。
【0071】
また、本実施形態の別の側面において、前記ポリマー及び前記防食性有機酸化合物を水系に併用することにより、水系に存在する前記ポリマーによる金属防食効果を強化させる、向上させる、又は改善させる技術を提供することもでき、以下に、より良好な質量使用割合又は薬剤中の質量含有割合を説明する。
【0072】
<前記ポリマー、前記防食性有機酸化合物の好適な使用量又は添加量>
水系に対する前記ポリマーの使用量又は添加量(mg solid/L、以下「mg/L」とする)は、特に限定されないが、好適な下限値として、好ましくは1mg/L以上、さらに好ましくは2mg/L以上、より好ましくは3mg又は4mg/L以上、より好ましくは5mg/L以上、より好ましくは6mg/L以上、より好ましくは7mg/L以上、より好ましくは8mg/L以上であり、また、好適な上限値として、特に限定されないが、環境負荷及びコスト低減の観点から、好ましくは100mg/L以下、より好ましくは50mg/L以下、さらに好ましくは40mg/L以下、より好ましくは30mg/L以下、さらに好ましくは20mg/L以下である。
【0073】
水系に対する前記(メタ)アクリル酸系ポリマーの使用量又は添加量(mg solid/L、以下「mg/L」とする)は、特に限定されないが、好適な下限値として、好ましくは1mg/L以上、さらに好ましくは2mg/L以上、より好ましくは3mg又は4mg/L以上、より好ましくは5mg/L以上、より好ましくは6mg/L以上、より好ましくは7mg/L以上、より好ましくは8mg/L以上であり、また、好適な上限値として、特に限定されないが、環境負荷及びコスト低減の観点から、好ましくは100mg/L以下、より好ましくは50mg/L以下、さらに好ましくは40mg/L以下、より好ましくは30mg/L以下、さらに好ましくは20mg/L以下である。
【0074】
さらにより好適な態様として、水系に対するスルホン基を含む(メタ)アクリル酸系ポリマーの使用量又は添加量(mg solid/L)は、上述した前記(メタ)アクリル酸系ポリマーの使用量等の好適な下限値及び上限値を適宜採用することができるが、より好適な数値範囲として、より好ましくは3~50mg/L、さらに好ましくは5~20mg/Lである。さらに、より好適な態様として、水系に対する前記AA/AMPS系ポリマー及び/又は前記AA/HAPS系ポリマーの使用量(mg solid/L)は、上述した前記(メタ)アクリル酸系ポリマーの使用量の好適な下限値及び上限値を適宜採用することができるが、より好適な数値範囲として、より好ましくは3~50mg/L、さらに好ましくは5~20mg/Lである。
【0075】
水系に対する前記ジカルボン酸系ポリマーの使用量又は添加量(mg solid/L、以下「mg/L」とする)は、特に限定されないが、好適な下限値として、好ましくは1mg/L以上、さらに好ましくは2mg/L以上、より好ましくは3mg又は4mg/L以上、より好ましくは5mg/L以上、より好ましくは6mg/L以上、より好ましくは7mg/L以上、より好ましくは8mg/L以上であり、また、好適な上限値として、特に限定されないが、環境負荷及びコスト低減の観点から、好ましくは100mg/L以下、より好ましくは50mg/L以下、さらに好ましくは40mg/L以下、より好ましくは30mg/L以下、さらに好ましくは20mg/L以下である。
【0076】
さらにより好適な態様として、水系に対するマレイン酸系ポリマーの使用量又は添加量(mg solid/L)は、上述した前記マレイン酸系ポリマーの使用量等の好適な下限値及び上限値を適宜採用することができるが、より好適な数値範囲として、より好ましくは3~50mg/L、さらに好ましくは5~20mg/Lである。さらに、より好適な態様として、水系に対するMA系モノポリマー及び/又はMA/IB系ポリマーの使用量(mg solid/L)は、上述した前記マレイン酸系ポリマーの使用量の好適な下限値及び上限値を適宜採用することができるが、より好適な数値範囲として、より好ましくは3~50mg/L、さらに好ましくは5~20mg/Lである。
【0077】
本実施形態において、水系に対して異なる系統のポリマーを使用する場合、例えば、スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及びジカルボン酸系ポリマーを併用する場合には、上述した前記ポリマーの使用量等を、それぞれの使用量とすることができる。このような異なる系統のポリマーを複数使用する場合には、前記ポリマーの合計使用量又は合計添加量は、特に限定されないが、好適な下限値として、好ましくは6mg/L以上、より好ましくは8mg/L以上、さらに好ましくは10mg/L以上、より好ましくは12mg/L以上、より好ましくは14mg/L以上、より好ましくは16mg/L以上であり、また、好適な上限値として、特に限定されないが、環境負荷及びコスト低減の観点から、好ましくは200mg/L以下、より好ましくは100mg/L以下、さらに好ましくは80mg/L、60mg/L又は40mg/L以下である。
【0078】
本実施形態において、水系に対してスルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及びジカルボン酸系ポリマーを併用する場合には、これらの水系への使用割合又は薬剤中への配合比は、特に限定されないが、上述したそれぞれの水系への使用量又は添加量(mg/L)を適宜組み合わせて、求めてもよい。当該使用割合又は配合比の好適な範囲は、好ましくは3~50:30~3、より好ましくは5~20:20~5である。当該組み合わせの例として、例えば、前記AA/AMPS系ポリマー及び/又は前記AA/HAPS系ポリマーと、MA系モノポリマー及び/又はMA/IB系ポリマーとの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
水系に対する前記防食性有機酸化合物の使用量又は添加量(mg solid/L、以下「mg/L」とする)は、特に限定されないが、好適な下限値として、好ましくは1mg/L以上、より好ましくは2mg/L以上、さらに好ましくは3mg又は4mg/L以上、より好ましくは5mg/L以上、より好ましくは6mg/L以上、より好ましくは7mg/L以上、より好ましくは8mg/L以上であり、また、好適な上限値として、特に限定されないが、環境負荷及びコスト低減の観点から、好ましくは100mg/L以下、より好ましくは50mg/L以下、さらに好ましくは40mg/L以下、より好ましくは30mg/L以下、さらに好ましくは20mg/L以下である。
【0080】
水系に対するイミノジリンゴ酸の使用量又は添加量(mg solid/L、以下「mg/L」とする)は、特に限定されず、上述した前記防食性有機酸化合物の使用量等の好適な下限値及び上限値を適宜採用することができるが、より好適な数値範囲として、より好ましくは3~50mg/L、さらに好ましくは5~20mg/Lである。
【0081】
水系に対する前記ポリマー及び前記防食性有機酸化合物を併用する場合、これらの水系への使用割合又は薬剤中への配合比は、特に限定されないが、上述した前記ポリマー及び前記防食性有機酸化合物のそれぞれの水系への使用量又は添加量(mg/L)を適宜組み合わせて、求めてもよい。当該使用割合又は配合比の好適な範囲は、好ましくは3~50:30~3、より好ましくは3~20:20~3、さらに好ましくは3~10:10~3である。このような好適な使用割合又は配合比が適用できる前記ポリマーと前記防食性有機酸化合物との組み合わせの例は特に限定されないが、好適な組み合わせとして、スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー(好適には前記AA/AMPS系ポリマー及び/又は前記AA/HAPS系ポリマー)と防食性有機酸化合物(好適にはイミノジリンゴ酸)との組み合わせ;マレイン酸系ポリマー(好適には、MA系モノポリマー及び/又はMA/IB系ポリマー)と防食性有機酸化合物(好適にはイミノジリンゴ酸)との組み合わせが挙げられる。
【0082】
水系に対する前記(メタ)アクリル酸系ポリマー、前記ジカルボン酸系ポリマー及び前記防食性有機酸化合物を併用する場合、これらの水系への使用割合又は薬剤中への配合比は、特に限定されないが、上述した前記(メタ)アクリル酸系ポリマー:前記ジカルボン酸系ポリマー:前記防食性有機酸化合物のそれぞれの水系への使用量又は添加量(mg/L)を適宜組み合わせて、求めてもよい。当該使用割合又は配合比の好適な範囲は、好ましくは3~50:3~50:3~50、より好ましくは3~20:3~20:3~20、さらに好ましくは3~10:3~10:3~10である。このような好適な使用割合又は配合比が適用できるこれらの組み合わせの例は特に限定されないが、好適な組み合わせとして、スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー(好適には前記AA/AMPS系ポリマー及び/又は前記AA/HAPS系ポリマー):マレイン酸系ポリマー(好適には、MA系モノポリマー及び/又はMA/IB系ポリマー):防食性有機酸化合物(好適にはイミノジリンゴ酸)との組み合わせが挙げられる。
【0083】
<任意成分>
本実施形態では、上述した前記ポリマー及び前記防食性有機酸化合物以外に、本発明の効果を損なわない範囲内で、適宜、任意成分を、水系に使用したり、薬剤中に含ませてもよい。当該任意成分として、特に限定されないが、例えば、pH調整剤、消泡剤、防食剤、スケール防止剤、殺菌剤、殺藻剤等から選択される1種又は2種以上を用いてもよい。
【0084】
本実施形態では、水系において、上述した前記ポリマー及び前記防食性有機酸化合物との併用に加えて、これら以外の又は使用していない防食剤を更に用いてもよい。このような防食剤として、例えば、有機酸化合物、(メタ)アクリル酸系重合体及びその塩、ジカルボン酸系重合体及びその塩、ポリアスパラギン酸及びその塩、ポリイタコン酸及びその塩、アミン化合物、及びアミノ酸化合物等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。なお、本実施形態では、環境負荷の低減の観点から、リン化合物及び/又は金属塩化合物(mg solid/L)を、水系に薬剤成分として添加しないことが望ましく、例えば、好適には1mg/L以上添加しない、より好適には0.5mg/L以上添加しない、さらに好適には実質的に添加しない、例えば、0.1又は0.05mg/L以上添加しない、より好適には0mg/L以上添加しない(すなわち、薬剤成分として全く添加しない)ことが望ましく、さらに水系中にリン化合物及び/又は金属塩化合物が含まれない又は検出されないようにすること(非リン系及び/又は非金属系)が、環境負荷軽減の観点から、非常に望ましい。なお、リン濃度の求め方は、モリブデン青(アスコルビン酸還元)法を用いて測定することができる(JIS K 0102 46.1.1)。金属塩化合物は、IPC分析にて測定することができる。
【0085】
本実施形態では、水系において、上述した前記ポリマー及び前記防食性有機酸化合物との併用に加えて、これら以外の又は使用していないスケール防止剤を更に存在させてもよい。当該スケール防止剤として、(メタ)アクリル酸系重合体及びその塩、ジカルボン酸系重合体及びその塩、ポリアスパラギン酸及びその塩等が挙げられ、これらから1種又は2種以上を用いることができる。
【0086】
また、本実施形態では、水系において、上述した前記ポリマー及び前記防食性有機酸化合物との併用に加えて、これら以外の又は使用していないスライムコントロール剤を更に存在させてもよい。当該スライムコントロール剤として、特に限定されないが、次亜塩素酸及びその塩、塩素ガス、次亜臭素酸及びその塩、結合ハロゲン化合物(安定化塩素、安定化臭素等)、有機系殺菌剤等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0087】
1-5.水系の金属防食方法
本実施形態における水系の金属防食処理方法は、上述したように、前記ポリマーと、前記防食性有機酸化合物とを組み合わせて使用することができ、水系中にこれら2成分又は3成分が同時期に存在することが好適である。このときの前記ポリマーとして、好適にはスルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー、より好適にはスルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及びジカルボン酸系ポリマーの組み合わせである。
【0088】
また、本実施形態は、これら各成分を連続的に又は断続的に水系に添加してもよい。本実施形態は、これら各成分を、同時期に又は別々の時期に水系に添加することができる。水系には、水系に薬剤(成分)を添加するための薬注装置を単数又は複数備えてもよい。当該薬注装置は、水系に対して、水系中にこれら2成分又は3成分が同時期に存在するように、単独成分ごと、2成分の混合物とこれ以外の成分、又は3成分の混合物を同時期に又は別々の時期に添加してもよい。また、本実施形態は、これら各成分を混合する場所として、水系の流路(例えば、循環水路)や配管内など、水系に備えうる薬剤貯留槽又は薬剤混合槽等の槽(例えばピットなど)などが挙げられるが、これらに限定されない。また、水系には、水系中の各薬剤濃度(各成分濃度)が測定可能な測定装置、及び水系の水質が測定可能な測定装置等を適宜備えてもよい。本実施形態では、これらの測定結果は制御部等に送信されてもよく、また、当該制御部等にて本実施形態の方法又はそのステップや動作等を制御や管理してもよい。
【0089】
本実施形態の水系の金属防食方法は、上述したように、前記ポリマー(好適には、スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー)及び前記防食性有機酸化合物を、又は、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及び前記ジカルボン酸系ポリマー並びに前記防食性有機酸化合物を、所定の質量使用割合又は質量含有割合にて、水系に存在させることが好適である。
【0090】
本実施形態では、前記ポリマー(好適には、スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー)及び前記防食性有機酸化合物を、又は、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及び前記ジカルボン酸系ポリマー並びに前記防食性有機酸化合物を、一液型薬剤として又は多液型薬剤として、水系に添加することができる。
【0091】
本実施形態の別の側面として、前記ポリマー(好適には、スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー)又は前記防食性有機酸化合物のうちのいずれか1つを少なくとも含有する水処理剤を水系に添加することで、水系に前記ポリマー(好適には、スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー)及び前記防食性有機酸化合物とを存在させて、水系の防食方法を提供することもできる。
【0092】
本実施形態の別の側面において、より好適な態様として、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー又は前記ジカルボン酸系ポリマー又は前記防食性有機酸化合物のうちのいずれか1つを少なくとも含有する水処理剤を水系に添加することで、水系に、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマーと前記ジカルボン酸系ポリマーと前記防食性有機酸化合物との3成分を存在させて、水系の防食技術を提供することもできる。
【0093】
また、水系に対して、前記ポリマー(好適には、スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー)及び前記防食性有機酸化合物の併用、又は、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及び前記ジカルボン酸系ポリマー並びに前記防食性有機酸化合物の併用として、これら2成分又は3成分が水系中に存在できるように、これら2成分又は3成分を同時期又は別々の時期に添加してもよく、これら2成分又は3成分の添加は、それぞれ、連続的又は断続的の何れであってもよい。
【0094】
本実施形態では、より好適な態様として、下記の(i)金属防食処理剤、(ii)水処理剤、又は(iii)金属防食用の水処理剤若しくは水処理剤用組合せ(コンビネーション)製品を使用する、水系の金属防食処理方法を提供することもできる。本明細書における組合せ製品は、セット製品又はキット製品であってもよい。
【0095】
(i)前記ポリマー(好適には、スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー)及び前記防食性有機酸化合物と、を含む、金属防食剤。当該金属防食剤は、ジカルボン酸系ポリマーを更に含むことが好適である。
【0096】
(ii)前記ポリマー(好適には、スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー)、及び/又は、前記防食性有機酸化合物、を少なくとも含有する水処理剤であり、
水系に使用する際に、前記ポリマー(好適には、スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー)、及び、前記防食性有機酸化合物を少なくとも併用して、前記ポリマーによる金属防食を強化、向上若しくは改善させるために用いる、水処理剤。
【0097】
(iii)前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー、前記ジカルボン酸系ポリマー、又は、前記防食性有機酸化合物の少なくともいずれかを含有する水処理剤であり、
水系の金属防食に使用する際に、水系に対して、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマーと前記ジカルボン酸系ポリマーと前記防食性有機酸化合物とを組み合わせて使用するための、金属防食用の水処理剤。当該水処理剤は、当該スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマーを含む第一水処理剤、当該ジカルボン酸系ポリマーを含む第二水処理剤、及び当該防食性有機酸化合物を含む第三水処理剤から選択される1種又は2種又は3種で少なくとも構成される水処理剤用組合せ製品でもよい。本明細書における組合せ製品は、セット製品又はキット製品であってもよい。
【0098】
本実施形態を適用する水系は、特に限定されず、例えば、冷却水系、温水系、膜水系(例えば逆浸透膜(RO)水系)、紙パルプ工程水系、スクラバー水系等が挙げられる。本実施形態では、一般的な水系(好適には、冷却水系)の水質であれば、防食効果が十分に発揮されうる。
【0099】
本実施形態は、高硬度~低硬度と幅広い硬度の水質に対して適用できるという優れた特徴を有する。本実施形態では、一般的な冷却水系の水質であれば、防食効果が十分に発揮される。
また、本実施形態では、リン化合物を金属防食剤として使用しなくとも防食効果が十分に発揮されるため、各国のリン濃度の排水基準にも適用することができ、例えば、上記リン化合物の添加量で説明したリン濃度を適宜採用することができ、例えば、水系の水質の条件としてリン濃度が、好ましくは0.5mg/L as P以下、より好ましくは0.1mg/L as P以下でもよい。
【0100】
水系の水質の条件としてカルシウム硬度(mg/L as CaCO3、以下「mg/L」ともいう)は特に限定されず、本実施形態であれば高硬度のみならず低硬度であっても防食効果を得ることができ、好適な上限値としては特に限定されないが、例えば1000mg/L以下、好ましくは800mg/L以下、より好ましくは700mg/L以下、より好ましくは600mg/L以下であり、また、好適な下限値として、好ましくは25mg/L以上、より好ましくは50mg/L以上、さらに好ましくは80mg/L以上、より好ましくは100mg/L以上、より好ましくは130又は150mg/L以上であり、好適な数値範囲として、好ましくは50~1000mg/Lである。カルシウム硬度の求め方は、JIS K0101 工業用水試験法に準じて行うことができる。
【0101】
水系の水質の条件としてMアルカリ度(酸消費量(pH4.8):(mg/L as CaCO3、以下「mg/L」ともいう)は特に限定されず、好ましくは10~1000mg/L、より好ましくは25~500mg/L、さらに好ましくは50~300mg/Lである。酸消費量(PH4.8)の求め方は、JIS K0101 工業用水試験法に準じて行うことができる。
【0102】
水系の水質の条件としてマグネシウム硬度は特に限定されず、好適な上限値として、好ましくは500mg/L以下、より好ましくは400mg/L以下、さらに好ましくは350mg/L以下、より好ましくは300mg/L以下である。マグネシウム硬度の求め方は、JIS K0101 工業用水試験法に準じて行うことができる。
【0103】
また、水系の水質の条件として塩化物イオン濃度は特に限定されず、好ましくは800mg/L以下、より好ましくは600mg/L以下、さらに好ましくは500mg/L以下、より好ましくは300mg/L以下、より好ましくは100mg/L以下である。塩化物イオン濃度の求め方は、JIS K0101 工業用水試験法に準じて行うことができる。
【0104】
また、水系の水質の条件として硫酸イオン濃度は特に限定されず、好ましくは800mg/L以下、より好ましくは600mg/L以下、さらに好ましくは500mg/L以下、より好ましくは300mg/L以下、より好ましくは100mg/L以下である。硫酸イオン濃度の求め方は、JIS K0101 工業用水試験法に準じて行うことができる。
【0105】
また、水系の水質の条件としてシリカ濃度は特に限定されず、好ましくは5~250mg/L、より好ましくは10~150mg/L、さらに好ましくは15~100m/Lである。シリカ濃度の求め方は、JIS K0101 工業用水試験法に準じて行うことができる。
【0106】
水系の水質の条件として好ましいpHは、好ましくは6~11、より好ましくは6.5~10、さらに好ましくは7~9である。また、水系の水温は、特に限定されないが、好ましくは0~100℃、より好ましくは5~80℃、さらに好ましくは10~60℃、さらに好ましくは10~40℃である。また、水系の水温の下限値として、好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上であり、また、本実施形態では、後記〔実施例〕に示すように、熱交換器や熱交換装置及びこれに備えられた配管など水系が局所的に高温状態になる場所が存在していても、その高温状態の箇所又は場所でもスケール抑制又は防止できるという優れた利点がある。このとき良好に対応可能な高温状態として、特に限定されないが、好適な上限値として、例えば150℃以下、好ましくは130℃以下、さらに好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下、さらに好ましくは40℃以下である。
【0107】
本実施形態の好適な態様として、水により腐食されやすい金属材料を様々な箇所(例えば、熱交換器、配管等)で使用している水系に適用することが好適である。
また、本実施形態の好適な態様として、伝熱面(熱交換器、熱交換のための流路や配管、これらなどを含む熱交換機構)におけるスケール防止の実現し伝熱面を含む水系における防食剤の濃度維持に寄与することが期待できることから、伝熱面を含む水系に適用することが望ましい。本実施形態のより好適な態様として、より好適には冷却水系であり、さらに循環冷却水系に好適に適用できる。本実施形態によれば、本実施形態の防食処理方法による防食効果が十分に発揮されうる。
【0108】
本実施形態の方法を、上述した金属防食処理や後述する冷却水系等を管理するための装置(例えば、コンピュータ、PLC、サーバ、クラウドサービス等)におけるCPU等を含む制御部によって実現させることも可能である。また、本実施形態の方法を、記録媒体(不揮発性メモリ(USBメモリ等)、SSD、HDD、CD、DVD、ブルーレイ等)等を備えるハードウェア資源にプログラムとして格納し、前記制御部によって実現させることも可能である。当該記録媒体は、コンピュータが可読可能な記録媒体であることが好適である。当該制御部によって、水系に薬剤を添加するように制御する金属防食処理システム等、当該制御部若しくは当該システムを備える装置を提供することも可能である。また、当該管理装置には、コンピュータの構成要素として、CPUを少なくとも備え、キーボード等の入力部、ネットワーク等の通信部、ディスプレイ等の表示部、HDD等の記憶部、ROMやRAM等が挙げられ、これらから1種又は2種以上を選択することができる。このうちRAM、記憶部、表示部及び入力部を備えることが好適であり、選択されたそれぞれの構成要素は、例えばデータの伝送路としてのバスで接続されている。
【0109】
<冷却水系>
本実施形態に適用する冷却水系として、特に限定されないが、ビルや地域施設等の空調設備、及びプラント等において、熱交換器等の運転のために用いられる冷却水が通水される系が好適である。また、前記冷却水系は、一過式、開放循環式又は密閉循環式の何れでもよい。
【0110】
本実施形態では、循環冷却水系に適用することで、当該循環冷却水系において優れた防食効果を発揮し得る。
循環冷却水系は、特に限定されず、例えば、空調、石油化学コンビナート、一般工場等に設置されている冷却塔を系内に備える水系であることが好適である。当該循環冷却水系は、これら空調、一般工場等で発生する熱源を間接的に冷却するように構成されていることが好適であり、熱交換器、循環水路、冷却塔を含むように構成されている一般的な水系であってもよい。
【0111】
循環冷却水系のタイプは特に限定されないが、開放循環冷却水系又は密閉循環冷却水系の何れでもよく、開放循環冷却水系は、開放式で冷却水が循環できるような構成を有することが好適であり、密閉循環冷却水系は、密閉式で冷却水が循環できるような構成を有することが好適である。
【0112】
また、本実施形態における冷却水系の金属防食処理方法(より具体的には、冷却水系内の金属部材に対する金属防食処理方法)は、冷却水系内に、前記ポリマー、前記防食性有機酸化合物のそれぞれを添加して前記金属部材と接触させる工程を少なくとも有することが好適である。なお、このとき、(i)前記ポリマー及び前記防食性有機酸化合物、又は、(ii)前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー、前記ジカルボン酸系ポリマー及び前記防食性有機酸化合物は、一液型薬剤である金属防食処理剤での添加であってもよく、多液型薬剤である金属防食処理剤用組合せ製品での添加であってもよい。なお、冷却水系に対する、前記ポリマーの単数又は複数、前記防食性有機酸化合物のそれぞれを、同時期に又は別々の時期に、添加してもよく、これら2成分又は3成分以上が一緒に水系に存在するように添加することが好適であり、これら2成分又は3成分以上が一緒に水系に存在する期間は、特に限定されず、連続的又は断続的の何れでもよい。
また、薬剤の添加の場所は、特に限定されず、冷却水系の何れの場所でもよく、例えば、散水手段、ピット、補給水供給手段、薬剤注入手段、循環水路、移送ポンプ、熱交換器等が挙げられ、好適には、補給水供給手段、薬剤注入手段、循環水路、移送ポンプ等であり、これらから選択される1種又は2種以上の場所で添加することができる。これら2成分又は3成分以上が、水系のいずれかの場所で存在できるように添加することで、その下流では水に接する金属材料に対するより良好な防食効果を得ることができる。また、水系の全部又は一部が循環する場合には、水系が循環することにより、これら2成分又は3成分以上が混合されて、水系の水に接する金属材料に対するより良好な防食効果を得ることができる。
【0113】
このように、本実施形態の金属防食処理方法によれば、水に接する金属部材に対して優れた防食効果を付与することができる。
【0114】
本実施形態の一例である開放循環冷却水系1に対する金属防食処理方法について、
図1を参照して説明するが、本実施形態はこれに限定されない。以下、上述した前記ポリマー及び前記防食性有機酸化合物を用いる金属防食処理について説明するが、これら成分の好適な態様として、上述したように、例えば、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー、前記ジカルボン酸系ポリマー及び前記防食性有機酸化合物が挙げられる。
【0115】
開放循環冷却水系1において、前記ポリマーの単数又は複数、前記防食性有機酸化合物を含む水は、ピット15から移送ポンプ21にて循環水路20で熱交換器30に移送され、熱交換器30を経て循環水路20で開放式冷却塔10に戻る。当該冷却塔10内で、前記ポリマー及び前記防食性有機酸化合物を含む水は、散水手段12、充填材領域13を経て、ピット15に貯留され、再びポンプ21にて循環水路20に移送される。本実施形態であれば、この循環中において、冷却水系に対して防食効果を維持し続けることができる。この循環によって、水系中の水に存在する、前記ポリマーの単数又は複数と前記防食性有機酸化合物が、金属部材と接触することができ、当該金属部材に対して防食効果を発揮することができる。なお、前記ポリマーの単数又は複数、前記防食性有機酸化合物を、それぞれ又はこれら2成分又は3成分以上の混合物を添加できる薬注装置にて、水系に添加し、これら2成分又は3成分以上を水系に一緒に存在させるようにすることが好適であり、また、これら各成分が、水系中、各所定の濃度範囲になるように、各成分の添加量を調整してもよい。
【0116】
前記ポリマーの単数又は複数と前記防食性有機酸化合物は、単数又は複数の薬剤注入手段17にて、同時期又は別々の時期に、ピット15に移送され、この移送時の配管内で両者が混合されてもよいし、ピット15内にて両者が混合されてもよい。また、薬剤注入手段17は、単数又は複数備えてもよく、例えば、前記ポリマーの単数又は複数と前記防食性有機酸化合物とを使用するためにそれぞれ別々の薬剤注入手段を複数備えていてもよいし、これらを含む一液型薬剤を水系に添加するために又はこれら成分を混合するための薬剤注入手段を単数備えてもよい。蒸散等により不足した水は、必要に応じて補給水供給手段16によってピット15に供給され、この補給水をピット15に供給する流路は、薬剤注入手段17からの単数又は複数の薬剤を添加できるように構成されていてもよい。なお、冷却のための空気は、送風手段11による外気排出により、ルーパ18から13、12を経て、11から排出される。
【0117】
なお、上述した本実施形態に係る水系の金属防食処理方法等の例の説明において、後述の内容(例えば「2.」~「3.」等)等と同じ又は重複する、前記ポリマー(例えば、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー、前記ジカルボン酸系ポリマー)、前記防食性有機酸化合物、これらの使用濃度や使用割合、及び、水系の金属防食処理、水系の金属防食処理管理、水系の金属防食システム、水系の金属防食処理方法などの各技術的特徴、各構成、各定義、各用語、各処理方法、各種手段などの説明については適宜省略するが、「1.」~「3.」等の説明が、各実施形態の何れにも当てはまり、各実施形態に適宜採用することができる。
【0118】
2.本実施形態に係る金属防食剤等
本実施形態に係る金属防食剤、水処理剤、水処理剤用組合せ製品等の例の説明において、上述の内容(例えば、「1.」)及び後述の内容(例えば「3.」等)等と同じ又は重複する、前記ポリマー(例えば、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー、前記ジカルボン酸系ポリマー)、前記防食性有機酸化合物、これらの使用濃度や使用割合、及び、水系の金属防食処理、水系の金属防食処理管理、水系の金属防食システム、水系の金属防食処理方法などの各技術的特徴、各構成、各定義、各用語、各処理方法、各種手段などの説明については適宜省略するが、「1.」~「3.」等の説明が、各実施形態の何れにも当てはまり、各実施形態に適宜採用することができる。
【0119】
本実施形態は、水系に対し、前記ポリマー(好適には、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及び/又は前記ジカルボン酸系ポリマー)と、前記防食性有機酸化合物とを使用することで、水系において水と接触する金属に対して非常に優れた防食作用を発揮し得る。すなわち、前記ポリマーと、前記防食性有機酸化合物との組み合わせは、水系の防食用の組成物、水系の金属防食剤、水処理剤、薬剤などの有効成分として含有させること又はこれら組成物等に使用することができる。なお、本実施形態において、当該組成物は、剤であってもよいし、剤は、組成物であってもよい。
【0120】
本実施形態は、上述した前記ポリマー(好適には、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及び/又は前記ジカルボン酸系ポリマー)及び前記防食性有機酸化合物、又はこれらの混合物は、組成物や上述した水系の金属防食剤や水処理剤用組合せ製品等を製造するために使用することができる。
また、本実施形態は、上述した水系の金属防食などのための又は使用のための、上述した前記ポリマー(好適には、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及び/又は前記ジカルボン酸系ポリマー)及び前記防食性有機酸化合物、又はこれら混合物又はその使用を提供することもできる。
また、本実施形態は、前記ポリマー(好適には、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及び/又は前記ジカルボン酸系ポリマー)及び前記防食性有機酸化合物、若しくは当該混合物、又は水系の金属防食剤、水処理剤、水処理剤用組合せ製品等を用いる水系の金属防食方法、水系の金属防食処理方法を提供することも可能である。
【0121】
また、本実施形態は、前記ポリマー(好適には、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及び/又は前記ジカルボン酸系ポリマー)と、前記防食性有機酸化合物と、を含む、金属防食剤を提供することができる。
【0122】
また、本実施形態は、前記ポリマー(好適には、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及び/又は前記ジカルボン酸系ポリマー)、又は、前記防食性有機酸化合物の少なくともいずれかを含有する水処理剤であり、 水系の金属防食に使用する際に、水系に対して、前記ポリマー(好適には、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及び/又は前記ジカルボン酸系ポリマー)と、前記防食性有機酸化合物とを組み合わせて使用するための、金属防食用の水処理剤を提供することもできる。当該水処理剤は、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマーを含む第一水処理剤、前記ジカルボン酸系ポリマーを含む第二水処理剤、及び前記防食性有機酸化合物を含む第三水処理剤から選択される1種又は2種又は3種で少なくとも構成される水処理剤用組合せ製品でもよい。
【0123】
本実施形態の別の側面として、前記ポリマー(好適には、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及び/又は前記ジカルボン酸系ポリマー)、及び/又は、前記防食性有機酸化合物、を含有する水処理剤であり、 水系に使用する際に、前記ポリマー(好適には、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及び/又は前記ジカルボン酸系ポリマー)及び前記防食性有機酸化合物を併用して、前記ポリマーによる金属防食を強化、向上若しくは改善させるために用いる、水処理剤を提供することもできる。
【0124】
また、本実施形態の別の側面として、前記剤等の製造における、前記剤等を製造するための又は製造するために使用する又は使用するための、前記ポリマー(好適には、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及び/又は前記ジカルボン酸系ポリマー)、及び、前記防食性有機酸化合物、若しくはこれらの単独又は複数での使用を提供することもできる。
【0125】
また、本実施形態の別の側面として、前記剤等を使用する、水に接する金属の腐食を抑制するための水系の防食方法を提供することもできる。
【0126】
前記ポリマーは、水溶性の有機系ポリマー、より好適には、前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及び/又は前記ジカルボン酸系ポリマーであることが好適である。前記スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマーのうち、より好ましくは(メタ)アクリル酸単量体とスルホン基含有単量体との共重合体であり、さらに好ましくは(メタ)アクリル酸単量体と、アミド基又は水酸基とスルホン基とを含む単量体との共重合体である。前記ジカルボン酸系ポリマーのうち、より好ましくはマレイン酸系ポリマーであり、さらに好ましくは、ポリマレイン酸、マレイン酸系共重合体である。
【0127】
前記(メタ)アクリル酸系ポリマーは、スルホン基を含む(メタ)アクリル酸系ポリマーが好適であり、当該ポリマーの(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体とのモル比は、好ましくは75:25~93:7である。前記(メタ)アクリル酸系ポリマーのうち、好ましくは、AA/AMPS系ポリマー及び/又はAA/HAPS系ポリマーである。
【0128】
前記ジカルボン酸系ポリマーは、マレイン酸系ポリマーが好適であり、マレイン酸単量体とこれ以外の不飽和結合を持つ単量体とのモル比は、好ましくは50以上:50未満である。前記マレイン酸系ポリマーのうち、ポリマレイン酸及び/又はMA/ブテン(好適にはIB)系ポリマーである。
【0129】
前記防食性有機酸化合物は、好ましくはクエン酸、酒石酸、ムチン酸、グルコヘプトン酸、ブタンテトラカルボン酸、イミノジリンゴ酸、3-ヒドロキシ-2,2’-イミノジコハク酸から選択される1種又は2種以上であり、このうち、イミノジリンゴ酸が好適である。
【0130】
前記ポリマー(好適にはスルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及び/又はジカルボン酸系ポリマー)及び前記防食性有機酸化合物の水系への使用割合又は薬剤中への配合比は、好ましくは3~50:3~50である。また、スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマー及びジカルボン酸系ポリマーの水系への使用割合又は薬剤中への配合比は、好ましくは3~50:3~50である。また、水系に対する前記(メタ)アクリル酸系ポリマー:前記ジカルボン酸系ポリマー:前記防食性有機酸化合物の使用割合又は薬剤中への配合比は、好ましくは3~50:3~50:3~50である。
【0131】
3.本技術は、以下の技術的特徴、構成又は別の側面を採用することもできる。
・〔1〕 (メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、
有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物と、を、
使用する、水系の金属防食処理方法。
・〔2〕 さらに、ジカルボン酸系重合体を、使用する、前記〔1〕に記載の水系の方法。
・〔3〕 (メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、ジカルボン酸系重合体と、有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物と、を、
使用する、水系の金属防食処理方法。
・〔4〕 水系に接する金属の腐食を抑制するための水系の防食方法である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の方法。
【0132】
・〔5〕 (メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、 有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物と、を、含有する、水系の金属防食処理剤。
・〔6〕 (A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、 (B)ジカルボン酸系重合体と、 (C)有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物と、を、含有する、水系の金属防食処理剤。
・〔7〕 (A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体、 (B)ジカルボン酸系重合体、又は、 (C)有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物、のいずれかを少なくとも含有する水処理剤であり、 水系の金属防食処理に使用する際に、(i)前記(A)及び前記(C)の組み合わせ、又は、(ii)前記(B)及び前記(C)の組み合わせ、又は(iii)前記(A)~(C)の組み合わせにて、使用する、水処理剤。
・〔8〕 有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物を含有し、
前記防食性有機酸化合物により、(i)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体による、又は、(ii)ジカルボン酸系重合体による、又は、(iii)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体及びジカルボン酸系重合体による、水系の金属防食処理を向上させるために用いる、水処理剤。
【0133】
・〔9〕 有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物の使用による、 (A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体による、又は、(B)ジカルボン酸系重合体による、又は、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体及び(B)ジカルボン酸系重合体による、水系の金属防食処理を向上させる方法。
【0134】
・〔10〕 前記〔5〕~〔8〕のいずれか1項に記載の剤の製造における、又は、当該剤を製造するため若しくは製造するために用いる、(A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体、(B)ジカルボン酸系重合体、(C)有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物から選択される1種又は2種の組み合わせ又は3種の組み合わせの成分、又はこれらの単独又は複数の使用。
・〔11〕 水系の金属防食処理のための又は水系の金属防食処理に用いるための、(A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体、(B)ジカルボン酸系重合体、(C)有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物から選択される1種又は2種の組み合わせ又は3種の組み合わせの成分、又はこれらの単独又は複数の使用。
・〔12〕 (A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体、(B)ジカルボン酸系重合体、(C)有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物から選択される1種又は2種の組み合わせ又は3種の組み合わせの成分を水系に使用スル又は水系に添加する、水系の金属防食処理方法。
・〔13〕 有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物を使用することによる、(i)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体による、又は、(ii)ジカルボン酸系重合体による、又は、(iii)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体及びジカルボン酸系重合体による、水系の金属防食処理を強化、向上若しくは改善させる方法。
・〔14〕 (i)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体による、又は、(ii)ジカルボン酸系重合体による、又は、(iii)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体及びジカルボン酸系重合体による、水系の金属防食処理を強化、向上若しくは改善させるために用いる、有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物又はその使用。
【0135】
・〔15〕 前記〔1〕~〔14〕のいずれか1つに記載の(メタ)アクリル酸単量体(好適にはアクリル酸単量体)とスルホン酸含有単量体との共重合体は、(メタ)アクリル酸単量体とモノエチレン性不飽和スルホン酸単量体が好適であり、又は、前記スルホン酸単量体は、アミド基とスルホン基を有する単量体、及び/又は、ヒドロキシ基とスルホン基を有する単量体が好適である。当該(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体は、AA/AMPSポリマー、AA/HAPSポリマーからなる群から選択される1種又は2種以上が、さらに好適である。
【0136】
・〔16〕 前記〔1〕~〔15〕のいずれか1つに記載のジカルボン酸系重合体は、マレイン酸系重合体、及びポリエポキシコハク酸からなる群から選択される1種又は2種以上が好適である。当該マレイン酸系重合体は、マレイン酸単量体のホモポリマー(ポリマレイン酸)、マレイン酸単量体と不飽和炭化水素単量体(好適にはイソブチレン単量体)との共重合体からなる群から選択される1種又は2種以上が、さらに好適である。当該ジカルボン酸系重合体は、MAポリマー(ポリマレイン酸)、MA/ブテン(好適にはIB)ポリマーからなる群から選択される1種又は2種以上が、よりさらに好適である。
【0137】
・〔17〕 前記〔1〕~〔16〕のいずれか1つに記載の防食性有機酸化合物は、カルボン酸基を有する有機酸化合物であるが好適である。当該防食性有機酸化合物が、カルボン酸基及び水酸基を有する有機酸化合物であることがより好適である。当該防食性有機酸化合物は、クエン酸、酒石酸、ムチン酸、グルコヘプトン酸、ブタンテトラカルボン酸、イミノジリンゴ酸、3-ヒドロキシ-2,2’-イミノジコハク酸からなる群から選択される1種又は2種以上であり、このうち好ましくはイミノジリンゴ酸であることが、さらに好適である。
【0138】
・〔18〕 前記〔1〕~〔17〕における、前記(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体の水系への添加量は、5mg/L以上が好適であり、及び/又は、前記ジカルボン酸系重合体の水系への添加量は、5mg/L以上が好適であり、及び/又は、前記防食性有機酸化合物の水系への添加量は、5mg/L以上が好適である。
・〔19〕 前記〔1〕~〔18〕における、前記(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、前記防食性有機酸化合物との使用割合又は配合比は、5~50:5~50が好適である。
・〔20〕 前記〔1〕~〔19〕における、前記(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、前記ジカルボン酸系重合体と、前記防食性有機酸化合物との使用割合又は配合比は、5~50:5~50:5~50が好適である。
【実施例】
【0139】
以下の実施例及び比較例等を挙げて、本発明の実施形態等について説明をする。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0140】
<素材>
試験には表1、2に示すポリマーを用いた。
【0141】
【0142】
【0143】
<試験例1>
<手法>
良好な防食効果を示す有機酸を探索するために、腐食試験を実施した。運転条件は、水温30℃、試験期間3日間、回転数150rpmである。具体的には、「K0100:工業用腐食性試験方法」を参考にし、撹拌子を底面に配置したビーカーに、下記の水質条件に調整された試験水を入れ、さらに、吊り下げた縦長の短冊状のテストピースを、この試験水に完全に浸漬し、撹拌子に接触しないように、ビーカーの中心付近に配置し、腐食試験を実施した。
【0144】
水質条件は、カルシウム硬度 500mg/L as CaCO3、酸消費量(pH4.8) 200mg/L as CaCO3、マグネシウム硬度 250mg/L、塩化物イオン濃度 350mg/L、硫酸イオン濃度 500mg/L、アクリル酸系ポリマー1(Sを含むAA系ポリマー) 10mg/L、ジカルボン酸系ポリマー1(MA系ポリマー1) 5mg/L、有機酸 50mg/L、pH8.6に調整した。当該有機酸は、下記表3に示す各有機酸を用いた。
【0145】
試験に使用した材料は、SPCC製のテストピース(横30mm×縦50mm×厚み1mm)である。1Lの試験水に対し、1枚のテストピースを浸漬した。試験結果の評価は、テストピースの試験前後における重量差から腐食減量を求め、以下の式(ただし、比重は7.87g/cm3)に基づき腐食速度(mm/y)を算出して行った。なお、SPCC(Steel Plate Cold Commercial:冷間圧延鋼板の一種)の材質は、炭素量0.15%以下の低炭素鋼である。
【式1】
【0146】
【0147】
また、有機酸の防食効果を示す指標として、<有機酸防食効果指数>を以下の式で定めた。有機酸の分子量(M.W.)は、分子中に含まれる原子量の総和にて算出したものである。
【0148】
有機酸防食効果指数 = (分子中の酸素原子量の合計/分子量)×(分子中のCOOH基数)×(分子中のCOOH基とOH基の数の和)
【0149】
<結果>
有機酸防食効果指数が4未満の場合は腐食速度が大きく、4以上の場合は腐食速度が小さいことから、有機酸防食効果指数4を境にそれより大きな有機酸防食効果指数を持つ分子は良好な防食剤であることが分かった。これら有機酸防食効果指数4以上の有機酸グループを、防食性有機酸化合物とした。そして、試験例1で使用した有機酸のうち、有機酸防食効果指数が4以上は、グルコヘプトン酸、酒石酸、クエン酸、ムチン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、イミノジリンゴ酸が認められ、これらは腐食速度0.05以下と優れた防食効果が認められた。さらにこれら有機酸防食効果指数4以上の有機酸化合物の腐食速度0.01~0.02と非常に良好であった。これらから選択される1種又は2種以上を、防食性有機酸化合物として、採用することが好ましいことが分かった。
【0150】
また、防食性有機酸化合物のうちで有機酸防食効果指数は14が最大となっているが、有機酸防食効果指数の上限値は特に限定されず、腐食速度0.02以下に抑えることができるであろう。また、本発明者らは、水酸基(OH基)及びカルボン酸基(COOH基)を有する有機酸が良好な防食効果を発揮すると考えた。また、防食性有機酸化合物は、水酸基(OH基)及びカルボン酸基(COOH基)を有することが好ましいことが分かった。
【0151】
【0152】
<試験例2>
<手法>
試験例1で良好な防食効果を示した有機酸のうちイミノジリンゴ酸を用いて、(メタ)アクリル酸系ポリマー、ジカルボン酸系ポリマーとの組み合わせについて検討した。運転条件は、水温40℃、試験期間3日間、回転数150rpmである。試験水の水質条件は、カルシウム硬度 150mg/L as CaCO3、酸消費量(pH4.8) 65mg/L as CaCO3、マグネシウム硬度 50mg/L as CaCO3、塩化物イオン濃度 75mg/L、硫酸イオン濃度 75mg/L、pH 7.9に調整した。
試験に使用した材料は、上記試験例1と同様なSPCC製のテストピース(30mm×50mm×1mm)である。1Lの試験水に対し、1枚のテストピースを浸漬し、上記試験例1と同様な腐食試験を行った。試験結果の評価は、テストピースの試験前後における重量差から腐食減量を求め、上記<試験例1>の腐食速度(mm/y)を求めたときの式(ただし、比重は7.87 g/cm3)に基づき、腐食速度(mm/y)を算出して行った。
【0153】
<結果>
AA系ポリマー1、MA系ポリマー1、イミノジリンゴ酸単独で用いた場合は良好な防食効果が得られなかったのに対し(比較例2)、AA系ポリマー1とイミノジリンゴ酸とを併用した場合は防食効果の改善が見られた(実施例1)。さらに、MA系ポリマー1を加えて3つの剤を併用した際の防食効果は最も優れていた(実施例2)。この結果は、スルホン基をもつ(メタ)アクリル酸系ポリマー(好適にはスルホン基をもつアクリル酸系ポリマー)と防食性有機酸化合物との組み合わせ、ジカルボン酸系ポリマーと防食性有機酸化合物との組み合わせにより、より良好な防食効果を発揮することができると考えた。さらに、これら3成分、スルホン基をもつ(メタ)アクリル酸系ポリマーと、ジカルボン酸系ポリマーと、防食性有機酸化合物との組み合わせにより、さらに非常に優れた防食効果を発揮することができると考えた。
【0154】
【0155】
<試験例3>
<手法>
試験例2の水質条件とは異なる水質条件において、(メタ)アクリル酸系ポリマー、ジカルボン酸系ポリマー、有機酸の組み合わせの防食効果を評価した。試験例3において、上記試験例1と同様な腐食試験を行った。
運転条件は、水温30℃、試験期間3日間、回転数150rpmである。水質条件は、カルシウム硬度 530 mg/L as CaCO3、酸消費量(pH4.8) 225mg/L as CaCO3、マグネシウム硬度 165mg/L as CaCO3、塩化物イオン濃度 260mg/L、硫酸イオン濃度 270mg/L、pH 8.6に調整した。試験に使用した材料は、上記試験例1と同様なSPCC製のテストピース(30mm×50mm×1mm)である。1Lの試験水に対し、1枚のテストピースを浸漬し、上記試験例1と同様な腐食試験を行った。試験結果の評価は、テストピースの試験前後における重量差から腐食減量を求め、上記<試験例1>の腐食速度(mm/y)を求めたときの式(ただし、比重は7.87 g/cm3)に基づき、腐食速度(mm/y)を算出して行った。
【0156】
<結果>
試験例2と比較すると全体的に腐食速度が低い傾向であったことから、水質自体が防食的であると考えられた。その中でも、AA系ポリマー1、MA系ポリマー1またはMA系ポリマー2、イミノジリンゴ酸の3種類(3成分)の組み合わせは特に良好な防食効果を示した。この結果は、ジカルボン酸系ポリマーの種類が変わっても良好な防食効果を発揮することを意味している。そして、スルホン基をもつ(メタ)アクリル酸系ポリマー(好適にはアクリル酸系ポリマー)と、防食性有機酸化合物と、ジカルボン酸系ポリマー(好適にはマレイン酸系ポリマー)との組み合わせが、より良好な防食効果を発揮すると考える。
【0157】
【0158】
<試験例4>
<手法>
(メタ)アクリル酸系ポリマー、ジカルボン酸系ポリマー、防食性有機酸化合物の組み合わせにおいて、(メタ)アクリル酸系ポリマーは分散剤として水質を維持しスケール防止に寄与することが考えられる。そこで、(メタ)アクリル酸系ポリマーの種類が試験水の析出防止に与える影響について評価した。試験水の水質はカルシウム硬度 300 mg/L as CaCO3、pH 8.5に調整し、90℃の湯浴に1時間浸漬した。試験後の水溶液の濁りを確認した。
【0159】
<結果>
スルホン基をもつ(メタ)アクリル酸系ポリマーを用いることで、試験水の析出を抑制することを確認した。このころから、スルホン基を持つ(メタ)アクリル酸系ポリマーを用いることで、伝熱面におけるスケール防止を実現し、伝熱面を含む水系における防食剤の濃度維持に寄与することが期待できる。この結果は、スルホン基をもつ(メタ)アクリル酸系ポリマーと防食性有機酸化合物との組み合わせにより、より良好な防食効果を発揮するとともにより良好なスケール防止効果も発揮できると考えた。さらに、これら3成分、スルホン基をもつ(メタ)アクリル酸系ポリマーと、ジカルボン酸系ポリマー(好適にはマレイン酸系ポリマー)と、防食性有機酸化合物との組み合わせによって、さらに非常に優れた防食効果を発揮することができるとともにより良好なスケール防止効果も発揮できると考えた。
【0160】
【0161】
以上の結果より、また、水系に接する金属材料等を備える水系において、前記所定以上の有機酸防食指数を有する防食性有機酸化合物と、ポリマー(特に(メタ)アクリル酸とスルホン酸を単量体として有する重合体の1種のポリマー、又は、(メタ)アクリル酸とスルホン酸を単量体として有する重合体及びジカルボン酸系重合体の異なる2種以上のポリマー)とを、併用することで、これらの2成分又は3成分により相乗的により優れた防食作用効果を発揮させることができることを見出した。
すなわち、水系に接する金属材料等を備える水系に、(メタ)アクリル酸とスルホン酸を単量体として有する重合体と、有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物との2成分を少なくとも併用することにより、より良好な水系の金属防食処理作用を発揮でき、かつ、より良好なスケール防止作用も発揮できることを見出した。さらに、(メタ)アクリル酸とスルホン酸を単量体として有する重合体、ジカルボン酸系重合体、及び有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物の3成分を併用することにより、非常に優れた水系の金属防食処理作用を発揮でき、かつ、より優れたスケール防止作用も発揮できることを見出した。
【0162】
また、前記所定以上の有機酸防食指数を有する防食性有機酸化合物を、ポリマー(特に(メタ)アクリル酸とスルホン酸を単量体として有する重合体の1種のポリマー、又は、(メタ)アクリル酸とスルホン酸を単量体として有する重合体及びジカルボン酸系重合体の異なる2種以上のポリマー)とに対して、使用することで、ポリマーが有する防食作用効果を、相乗的により優れた防食作用効果に向上又は改善させることができることも見出した。
【0163】
また、本実施形態による防食の作用機構(仮説)について、本発明者らは、以下の仮説を想定しているが、依然不明な点が多く、この作用機構についてはさらに鋭意検討している。発明者らは、前記防食性有機酸化合物は、鉄などのイオンに作用することで防食的な錆の形成に寄与し、腐食反応における金属の溶出反応を抑制すると、考える。発明者らは、スルホン化(メタ)アクリル酸系ポリマーは、カルシウムの結合物がスケール化しないように適度に分散状態を保ち防食効果を維持していると、考える。発明者らは、ジカルボン酸系ポリマーは、カルシウムと結合し、金属表面に皮膜を形成することにより、腐食反応における酸素の還元反応を抑制すると、考える。発明者らは、さらに、スルホン化(メタ)アクリル酸系ポリマーとジカルボン酸系ポリマーとを併用した場合には、スルホン化(メタ)アクリル酸系ポリマーによって、ジカルボン酸系ポリマーとカルシウムとの結合物がスケール化しないように適度に分散状態を保ちより良好な防食効果を維持していると、考える。
【0164】
以上のように、本発明者らは、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物とを使用し、より好適にはジカルボン酸系重合体を更に使用する、水系の金属防食処理方法を提供することができた。また、本発明者らは、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、ジカルボン酸系重合体と、有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物とを、使用する、水系の金属防食処理方法又は水系の金属防食剤を提供することができた。
【0165】
さらに、上述したこれら2成分又は3成分は、リン化合物及び/又は金属塩化合物を利用していないため、本方法又は本剤は、リン化合物及び/又は金属塩化合物による富栄養化及び水性毒性といった水環境への負荷がなく、水環境全体としての負荷も大幅に低減することができる。さらに、上述したこれら2成分又は3成分は、試験水の水質条件にて良好な防食作用効果を発揮していることから、当該試験水の水質条件を考慮すると、本方法又は本剤は、幅広い水質範囲においても適用できる。
すなわち、本発明者らは、富栄養化及び水性毒性といった水環境への負荷となるリン化合物及び/又は金属塩化合物を利用しなくても水系の金属防食効果を発揮できるとともに、幅広い水質範囲においても適用できる、水系の金属防食処理方法及び水系の金属防食剤等を提供するという目的を達成することもできた。なお、本方法又は本剤は、水環境への負荷の低減を考慮しつつ、水系にリン化合物及び/又は金属塩化合物を利用してもよい。
【0166】
なお、本明細書において、「第1、第2、第3…」、「A、B、C…」、「1次、2次、3次…」などと数字やアルファベット等を付して、便宜上説明することがあるが、これにより、本発明が、順序など狭義に限定解釈されることはなく、任意に順序を変更してもよい。また、本明細書において、例えば「管理する(こと)」等の「する(こと)」を、方法、工程、手段又はステップなどとしてもよく、これら用語を適宜置き換えてもよく、例えば、「ステップ」を、「する(こと)」、方法、工程、又は手段等としてもよし、「工程」を、「する(こと)」、方法、ステップ、又は手段等としてもよし、「手段」を、「する(こと)」、方法、工程又はステップ等としてもよい。また、本明細書において、「システム(系)」は、機構、装置、手段又は部としてもよく、「機構」は、システム(系)、装置、手段又は部としてもよく、「装置」は、システム(系)、機構、手段又は部にしてもよく、「手段」は、機構、システム(系)、装置又は部としてもよく、「部」は、機構、手段、装置又はシステム(系)、又はこれらに備えるための機構、手段又は装置等としてもよい。組合せ製品は、組合せであってもよい。
【符号の説明】
【0167】
1 開放循環冷却水系、10 開放式冷却塔、11 送風手段、12 散水手段、13 充填材領域、14 空間、15 ピット、16 補給水供給手段、17 薬剤注入手段、18 ルーパ、20 循環水路、21 移送ポンプ、30 熱交換器
【要約】
富栄養化又は水性毒性といった水環境への負荷となるリン化合物又は金属塩化合物をできるだけ利用しなくてもよく、できるだけ幅広い水質範囲において適用できる、水系における金属防食処理方法を提供すること。
本発明は、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸含有単量体との共重合体と、 有機酸防食効果指数が4以上の防食性有機酸化合物と、を、使用する、水系の金属防食処理方法、を提供する。