(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】13族窒化物結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20240319BHJP
C30B 19/02 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B19/02
(21)【出願番号】P 2020088816
(22)【出願日】2020-05-21
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】三好 直哉
(72)【発明者】
【氏名】村上 明繁
(72)【発明者】
【氏名】皿山 正二
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-207676(JP,A)
【文献】特開2013-173648(JP,A)
【文献】特開2017-222545(JP,A)
【文献】国際公開第2015/025931(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属、13族金属および炭素、を含む原料を、反応容器内に配置する工程と、
前記アルカリ金属と前記13族金属とが溶融した混合融液に、少なくとも窒素を含む雰囲気で前記反応容器内を加熱し、前記炭素と前記窒素とがシアンイオンまたはシアン化物の少なくとも一方の態様で溶解したCN溶液を得る工程と、
前記CN溶液を固化させる工程と、
前記CN溶液を得た後に、13族窒化物結晶からなる種結晶を前記反応容器内に配置する工程と、
前記CN溶液中で前記種結晶上に13族窒化物結晶を成長させる工程と、を有
し、
前記種結晶を前記反応容器内に配置する工程では、前記CN溶液を固化させる工程を行った後に、前記CN溶液を固化させた状態で、前記種結晶を前記反応容器内に配置する13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
前記種結晶を前記反応容器内に配置する工程では、前記種結晶を有する下地基板を、固化させた前記CN溶液の直上に配置し、
前記13族窒化物結晶を成長させる工程では、前記CN溶液を再融解することにより、前記下地基板を前記CN溶液に浸漬させる請求項
1に記載の13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
前記CN溶液を得る工程では、前記CN溶液の温度を、前記13族窒化物結晶を成長させる工程における前記CN溶液の温度よりも高くする請求項1
または請求項2に記載の13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項4】
前記CN溶液を得る工程では、前記反応容器内の圧力を、前記13族窒化物結晶を成長させる工程における前記反応容器内の圧力よりも高くする請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項5】
前記CN溶液を得る工程では、前記炭素を前記CN溶液の気液界面近傍に保持しながら前記炭素を溶解する請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項6】
前記種結晶を前記反応容器内に配置する工程では、4インチ以上の直径を有する前記種結晶を前記反応容器内に配置する請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項7】
前記種結晶を前記反応容器内に配置する工程では、前記種結晶を有する下地基板を前記CN溶液に接触させるように配置し、
前記13族窒化物結晶を成長させる工程では、前記CN溶液に前記種結晶の全体を浸漬させたまま前記13族窒化物結晶を成長させる請求項1に記載の13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項8】
前記13族窒化物結晶を成長させる工程では、前記CN溶液中で前記種結晶上に前記13族窒化物結晶を2次元成長させる請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項9】
外部容器内に複数の前記反応容器を配置し、前記13族窒化物結晶を成長させる工程と、前記CN溶液を得る工程とを同時に行う請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の13族窒化物結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、13族窒化物結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)等の13族窒化物結晶を成長させる方法として、アルカリ金属と13族金属とを溶融させた混合融液中で13族窒化物結晶を成長させるフラックス法が知られている。例えば、特許文献1には、アルカリ金属としてナトリウムを用いたGaN結晶の成長方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、13族窒化物結晶の異常成長を抑制できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
アルカリ金属、13族金属および炭素、を含む原料を、反応容器内に配置する工程と、
前記アルカリ金属と前記13族金属とが溶融した混合融液に、少なくとも窒素を含む雰囲気で前記反応容器内を加熱し、前記炭素と前記窒素とがシアンイオンまたはシアン化物の少なくとも一方の態様で溶解したCN溶液を得る工程と、
前記CN溶液を得た後に、13族窒化物結晶からなる種結晶を前記反応容器内に配置する工程と、
前記CN溶液中で前記種結晶上に13族窒化物結晶を成長させる工程と、を有する13族窒化物結晶の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、13族窒化物結晶の異常成長を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る13族窒化物結晶製造装置10の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態に係る13族窒化物結晶の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3(a)は、本発明の第1実施形態に係る原料配置工程S101における反応容器24内の様子を示す概略図である。
図3(b)は、本発明の第1実施形態に係る溶融・溶解工程S102における反応容器24内の様子を示す概略図である。
図3(c)は、本発明の第1実施形態に係る固化工程S103における反応容器24内の様子を示す概略図である。
図3(d)および
図3(e)は、本発明の第1実施形態に係る種結晶配置工程S104における反応容器24内の様子を示す概略図である。
図3(f)は、本発明の第1実施形態に係る成長工程S105における反応容器24内の様子を示す概略図である。
図3(g)は、本発明の第1実施形態に係る後工程S106における反応容器24内の様子を示す概略図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1実施形態の変形例1に係る13族窒化物結晶製造装置60の概略構成図である。
【
図5】
図5は、本発明の第1実施形態の変形例1に係る13族窒化物結晶の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の実施例に係る、未溶解の炭素の有無を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<発明者の得た知見>
まず、発明者が得た知見について説明する。
【0009】
GaN等の13族窒化物結晶を成長させる方法として、アルカリ金属と13族金属とを溶融させた混合融液中で13族窒化物結晶を成長させるフラックス法が知られている。ナトリウムを用いたフラックス法では、比較的低温(例えば、800℃以上900℃以下)かつ低圧(例えば、2MPa以上10MPa以下)でGaN結晶を成長させることができる。
【0010】
フラックス法では、種結晶以外の核が混合融液中に発生し、雑結晶(以下、本明細書では雑晶と呼ぶ)が発生しやすいという問題があった。そのため、フラックス法では、雑晶の発生を抑制するため、一定量の炭素を添加していた。炭素は、混合融液の気液界面近傍で窒素と反応し、シアンイオン(CN-)を生成するため、ガリウムと窒素との結合を阻害し、雑晶の発生を抑制することができる。また、シアンイオンは、種結晶に窒素を供給する役割を果たす。
【0011】
しかしながら、ウエハの大口径化が進み、例えば、種結晶の径が4インチ以上になると、混合融液中に溶け残った未溶解の炭素が種結晶の主面に接触しやすくなるため、該炭素によって結晶が異常成長をする可能性があることが、本願発明者の検討によりわかった。本明細書において、結晶が異常成長をするとは、結晶の成長面において正常に成長しない領域が存在し、結晶が面内均一に成長しないことを意味する。すなわち、シアンイオンにならずに混合融液中を遊離する炭素が種結晶の主面近傍に存在すると、GaN結晶から窒素を奪い、窒素不足の領域が発生するため、該領域では結晶成長しない、若しくは成長が途中で停止する可能性がある。一方、過剰なシアンイオンが種結晶の主面近傍に存在すると、窒素の供給が過剰となる領域が発生するため、該領域では結晶が多結晶化する可能性がある。これらを総称して本明細書では異常成長と呼ぶ事とする。
【0012】
本願発明者は、上述のような事象に対して鋭意研究を行った。その結果、GaN結晶を面内均一に成長させるためには、種結晶の主面全域にわたって窒素濃度が均一である必要があるという知見を得た。また、シアンイオンを用いることにより、混合融液中の窒素濃度を均一にしやすいという知見を得た。
【0013】
本願発明者の鋭意研究の結果、坩堝等の反応容器内に種結晶を入れない状態で、混合融液に炭素と窒素とがシアンイオンまたはシアン化物の少なくとも一方の態様で溶解したCN溶液を得ることで、未溶解の炭素を低減できることを見出した。その後、種結晶を反応容器内に配置し、CN溶液中で種結晶上に結晶成長させることで、GaN結晶の異常成長を抑制することができる。
【0014】
[本発明の実施形態の詳細]
次に、本発明の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0015】
<本発明の第1実施形態>
(1)13族窒化物結晶製造装置10の構成
まず、本実施形態の13族窒化物結晶製造装置10の構成について説明する。
【0016】
図1は、本実施形態の13族窒化物結晶製造装置10の概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態の13族窒化物結晶製造装置10は、例えば、外部容器20と、制御部30と、を有している。
【0017】
外部容器20は、例えば、ステンレス製であり、外部容器20内を10MPa以下の圧力に保つことができるように構成されている。外部容器20内には、例えば、内部容器21と、ヒータ22と、回転部23と、が設けられている。
【0018】
内部容器21は、例えば、ステンレス製であり、内部容器21内の圧力は、外部容器20内の圧力と等しくなるように構成されている。また、内部容器21は、外部容器20から着脱可能なように構成されている。内部容器21内には、例えば、反応容器24が設けられている。
【0019】
反応容器24は、外部容器20および内部容器21による二重構造の内側に配置されており、反応容器24内の圧力は、外部容器20内の圧力と等しくなるように構成されている。反応容器24は、例えば、アルミナ、窒化ホウ素(BN)、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)、炭化ケイ素(SiC)等からなる坩堝である。反応容器24の内径は、例えば、100mm以上200mm以下である。反応容器24は、原料または混合融液40(またはCN溶液41)を収容するように構成されている。ここで、原料とは、少なくともアルカリ金属、13族金属および炭素、を含んでいる。混合融液40とは、アルカリ金属と13族金属とが溶融したものである。CN溶液41とは、混合融液40に炭素と窒素とがシアンイオンまたはシアン化物の少なくとも一方の態様で溶解したものである。また、反応容器24は、種結晶50を保持し、種結晶50を混合融液40等の中に浸漬させることができるように構成されている。なお、本明細書において、「混合融液40等」とは、混合融液40またはCN溶液41の少なくとも一方を意味するものとする。種結晶50については、詳細を後述する。
【0020】
ヒータ22は、例えば、内部容器21の外周に沿って配置され、内部容器21内を1000℃以下の温度に加熱することできるように構成されている。これにより、反応容器24内の原料または混合融液40等を所定の温度に加熱することができる。なお、ヒータ22は、内部容器21の上面や底面に配置してもよい。
【0021】
回転部23は、例えば、内部容器21の下方に配置され、内部容器21および反応容器24を回転させることができるように構成されている。回転部23は、例えば、反応容器24内に保持された種結晶50の主面に垂直な方向が回転軸となるように構成されていることが好ましい。これにより、反応容器24内の種結晶50を安定的に保持しながら、混合融液40等を撹拌することができる。なお、回転部23の一部(例えば、駆動部等)は、ヒータ22との距離を確保し、駆動部等への熱による影響を低減するため、外部容器20の外部に設けられていてもよい。
【0022】
外部容器20には、例えば、ガス供給管25が接続されている。ガス供給管25は、例えば、ガスボンベ(図示せず)等と接続されており、外部容器20内に窒素ガス等を供給できるように構成されている。ガス供給管25には、例えば、上流側から順に、圧力制御部26と、バルブ27と、が設けられている。圧力制御部26は、外部容器20内を所定の圧力に制御できるように構成されている。なお、外部容器20には、外部容器20内の圧力が所定の値を超えた際に外部容器20内の気体を排出する安全弁(図示せず)が設けられていることが好ましい。
【0023】
制御部30は、例えば、外部容器20の外部に配置され、13族窒化物結晶製造装置10が有する各部材と電気的に接続されている。制御部30としては、例えば、所定のプログラムを必要に応じて実行するコンピュータを用いることができる。制御部30は、13族窒化物結晶製造装置10の処理手順や処理条件を制御できるように構成されている。
【0024】
(2)13族窒化物結晶の製造方法
次に、本実施形態の13族窒化物結晶の製造方法について説明する。本実施形態では、13族窒化物結晶製造装置10を用いて、GaN結晶を製造する場合について説明する。
【0025】
図2は、本実施形態の13族窒化物結晶の製造方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態の13族窒化物結晶の製造方法は、例えば、原料配置工程S101と、溶融・溶解工程S102と、固化工程S103と、種結晶配置工程S104と、成長工程S105と、後工程S106と、を有する。
【0026】
図3(a)は、本実施形態の原料配置工程S101における反応容器24内の様子を示す概略図である。
図3(b)は、本実施形態の溶融・溶解工程S102における反応容器24内の様子を示す概略図である。
図3(c)は、本実施形態の固化工程S103における反応容器24内の様子を示す概略図である。
図3(d)および
図3(e)は、本実施形態の種結晶配置工程S104における反応容器24内の様子を示す概略図である。
図3(f)は、本実施形態の成長工程S105における反応容器24内の様子を示す概略図である。
図3(g)は、本実施形態の後工程S106における反応容器24内の様子を示す概略図である。以下、図面を参照しながら各工程の詳細について説明する。
【0027】
(原料配置工程S101)
原料配置工程S101では、
図3(a)に示すように、アルカリ金属としてのナトリウムと、13族金属としてのガリウムと、炭素とを含む原料を反応容器24内に配置する。従来法では、原料と一緒に種結晶50を反応容器24内に配置していたが、本工程では、種結晶50は配置しない。
【0028】
原料配置工程S101は、例えば、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気としたグローブボックス内で行うことが好ましい。この場合、内部容器21ごと、反応容器24をグローブボックス内に入れて作業を行ってもよい。これにより、原料の酸化および水酸化を抑制することができる。
【0029】
原料として配置するアルカリ金属としては、純度99.95%以上のナトリウムを用いることが好ましい。これにより、混合融液40等に雑晶が生じることを抑制することができる。また、13族窒化物結晶の結晶成長速度の低下を抑制することができる。なお、アルカリ金属として、ナトリウムの代わりにリチウムやカリウム等の他のアルカリ金属を用いてもよい。また、アルカリ金属にアルカリ土類金属を加えたものを用いてもよい。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、またはこれらの混合物が例示される。
【0030】
原料に含まれるナトリウムとガリウムとの総モル数に対する、ナトリウムのモル数の比率は、40%以上95%以下とすることが好ましい。これにより、比較的低温で混合融液40等を得ることができる。
【0031】
原料として配置する炭素のモル数は、例えば、原料に含まれるナトリウムとガリウムとの総モル数に対して、0.1%以上5%以下の比率とすることが好ましい。炭素の比率が0.1%未満では、雑晶の発生を抑制する効果が得られ難い。これに対し、炭素の比率を0.1%以上とすることで、雑晶の発生を抑制することができる。一方、炭素の比率が5%を超えると、後述する溶融・溶解工程S102において、全ての炭素が溶解せず、混合融液40等に固体のままの炭素が残存する可能性がある。固体のままの炭素が残存すると、後述する成長工程S105において、結晶の異常成長が起こる可能性がある。これに対し、炭素の比率を5%以下とすることで、炭素を完全に溶解することができる。また、CN溶液41中のシアンイオン濃度が適切な値となるため、結晶の異常成長を抑制することができる。なお、本明細書において、混合融液40等に炭素が完全に溶解するとは、例えば、原料として配置した炭素の全量が窒素と反応し、シアンイオンまたはシアン化物の少なくとも一方として存在することを意味する。
【0032】
原料として配置する炭素としては、混合融液40中で浮力が働きやすい形状、例えば、シート状の炭素を用いることが好ましい。これにより、後述する溶融・溶解工程S102にて、混合融液40等の気液界面近傍に炭素を保持することが容易になる。なお、本願明細書において、混合融液40等の気液界面近傍とは、例えば、混合融液40等の液面から深さ5mm以内の領域を意味する。
【0033】
なお、添加物として、例えば、チタン、ニオブ、クロム、鉄、ニッケル、亜鉛、ゲルマニウム、錫、アンチモンおよびビスマスのうちの1つ、または、これらを組み合わせたものを原料と一緒に反応容器24内に配置してもよい。
【0034】
原料を反応容器24内に配置したら、例えば、内部容器21ごと、反応容器24を外部容器20内に配置する。
【0035】
(溶融・溶解工程S102)
溶融・溶解工程S102では、まず、外部容器20内に窒素ガスを供給する。窒素ガスと一緒に、例えば、アルゴンガス等の希釈ガスを供給してもよい。そして、少なくとも窒素ガスを含む雰囲気で、例えば、ヒータ22を用いて反応容器24内を加熱することにより、反応容器24内のナトリウムとガリウムとを溶融し、混合融液40を得る。さらに、混合融液40に炭素と窒素とをシアンイオンまたはシアン化物としてのシアン化ナトリウム(NaCN)の少なくとも一方の態様で溶解させた溶液(ここではCN溶液41と呼ぶ)を得る。
【0036】
原料に含まれる炭素は、混合融液40等の気液界面近傍で窒素と結合し、シアンイオンを生成する。つまり、CN溶液41は、
図3(b)に示すように、シアンイオンを少なくとも含んでいる。溶融・溶解工程S102では、CN溶液41中のシアンイオンの濃度が均一になるように、かつ、炭素が完全に溶解するように、CN溶液41を得ることが好ましい。これにより、後述する成長工程S105にて、結晶の異常成長を抑制することができる。また、炭素を溶解することで、混合融液40等の反応容器24との接触角(濡れ性)が変わり、混合融液40等が反応容器24に濡れ難くなる。その結果、混合融液40等に雑晶が生じることを抑制することができる。また、高純度炭素と高純度窒素とを反応させてシアンイオンを生成することで、市販のシアン化合物を添加する場合に比べて、より高純度なCN溶液41を得ることができる。さらに、この場合、CN溶液41中のシアンイオンの濃度を均一にしやすい。そのため、より高品質な結晶を均一に成長させることが可能となる。
【0037】
溶融・溶解工程S102では、炭素を混合融液40等の気液界面近傍に保持しながら炭素を溶解することが好ましい。例えば、シート状の炭素を用いることで、浮力によって炭素を混合融液40等の気液界面近傍に保持しやすくなる。これにより、炭素と窒素との反応が促進され、速やかに炭素を溶解することができる。その結果、混合融液40等に雑晶が生じることを抑制することができる。
【0038】
また、溶融・溶解工程S102では、例えば、回転部23を用いて混合融液40等を撹拌することが好ましい。これにより、速やかに炭素を溶解することができる。
【0039】
溶融・溶解工程S102における混合融液40等の温度は、後述する成長工程S105におけるCN溶液41の温度より高くすることが好ましい。これにより、速やかに炭素を溶解することができる。具体的には、溶融・溶解工程S102における混合融液40等の温度は、例えば、800℃以上900℃以下とすることが好ましい。混合融液40等の温度が800℃未満では、炭素の溶解が進みにくく、混合融液40中に結晶が析出する可能性がある。これに対し、混合融液40等の温度を800℃以上とすることで、速やかに炭素を溶解することができる。一方、混合融液40等の温度が900℃を超えると、ナトリウムの蒸気圧が大きくなり、ナトリウムが蒸発してしまう可能性がある。これに対し、混合融液40等の温度を900℃以下とすることで、ナトリウムの蒸発を抑制することができる。
【0040】
溶融・溶解工程S102における混合融液40等の昇温速度は、後述する成長工程S105におけるCN溶液41の昇温速度より速くすることが好ましい。これにより、速やかに炭素を溶解することができる。具体的には、溶融・溶解工程S102における混合融液40等の昇温速度は、例えば、100℃/時間以上とすることが好ましい。混合融液40等の昇温速度が100℃/時間未満では、昇温中に雑晶が発生する可能性がある。これに対し、混合融液40等の昇温速度を100℃/時間以上とすることで、速やかに炭素を溶解し、雑晶の発生を抑制することができる。なお、混合融液40等の昇温速度の上限は、特に限定されないが300℃/時間以下であることが例示される。
【0041】
溶融・溶解工程S102における反応容器24内の圧力は、後述する成長工程S105における反応容器24内の圧力より高くすることが好ましい。これにより、速やかに炭素を溶解することができる。具体的には、溶融・溶解工程S102における反応容器24内の圧力は、例えば、3MPa以上10MPa以下とすることが好ましい。反応容器24内の圧力が3MPa未満では、シアンイオンが生成し難く、炭素の溶解が進みにくく、未溶解の炭素が生じる可能性がある。これに対し、反応容器24内の圧力を3MPa以上とすることで、シアンイオンが生成しやすくなり、速やかに炭素を溶解することができる。一方、反応容器24内の圧力が10MPaを超えると、混合融液40等に雑晶が発生する可能性がある。これに対し、反応容器24内の圧力を10MPa以下とすることで、雑晶の発生を抑制することができる。
【0042】
溶融・溶解工程S102を行う時間(以下、溶融・溶解時間という)は、例えば、10時間以上100時間以下が好ましい。溶融・溶解時間が10時間未満では、炭素が完全に溶解しない可能性がある。これに対し、溶融・溶解時間を10時間以上とすることで、炭素を完全に溶解することができる。一方、溶融・溶解時間が100時間を超えると、混合融液40等に雑晶が発生する可能性がある。これに対し、溶融・溶解時間を100時間以下とすることで、雑晶の発生を抑制することができる。
【0043】
原料として配置する炭素の量、混合融液40等の温度、反応容器24内の圧力等によって、炭素を完全に溶解するための溶融・溶解時間は異なる。したがって、溶融・溶解工程S102では、CN溶液41に炭素が完全に溶解するように、溶融・溶解時間を適切に制御することが好ましい。これにより、CN溶液41中の未溶解の炭素を低減することができる。なお、特定の条件において、炭素が完全に溶解しているかどうかを確認するには、後述する固化工程S103にて、CN溶液41を固化させてから目視で確認すればよい。
【0044】
(固化工程S103)
固化工程S103では、
図3(c)に示すように、例えば、ヒータ22による加熱を停止し、CN溶液41の温度を室温程度まで降温させることで、CN溶液41を固化させる。本明細書において、CN溶液41を固化させたものをCN溶液固化物42とも呼ぶ。CN溶液41を固化させることで、シアンイオンとナトリウムとが結合したシアン化ナトリウムをCN溶液固化物42中に保持することができる。また、CN溶液41を固化させることで、ナトリウムとガリウムとの金属間化合物(例えば、Na
5Ga
8)をCN溶液固化物42中に均一に存在させることができる。これにより、後述する成長工程S105にて、CN溶液固化物42を再融解させた際に、種結晶50に窒素をより均一に供給することが可能となる。
【0045】
CN溶液41を固化させたら、例えば、内部容器21ごと反応容器24を外部容器20の外に取り出す。この際、CN溶液固化物42を目視で確認することが好ましい。これにより、例えば、CN溶液固化物42中に未溶解の炭素が存在していないかどうかを確認することができる。CN溶液固化物42中に未溶解の炭素が存在している場合、例えば、未溶解の炭素が存在する不良な部分を除去してもよいし、CN溶液固化物42を再融解することで、再度炭素を溶かしてもよい。
【0046】
固化工程S103におけるCN溶液41の降温速度は、後述する成長工程S105におけるCN溶液41の昇温速度より速くすることが好ましい。これにより、雑晶の発生を抑制することができる。具体的には、固化工程S103のCN溶液41の降温速度は、例えば、100℃/時間以上とすることが好ましい。CN溶液41の降温速度が100℃/時間未満では、降温中に雑晶が発生する可能性がある。これに対し、混合融液40等の降温速度を100℃/時間以上とすることで、雑晶の発生を抑制することができる。なお、CN溶液41の降温速度の上限は、特に限定されないが300℃/時間以下であることが例示される。
【0047】
また、固化工程S103では、CN溶液固化物42を再融解し、その後に再び固化させてもよい。つまり、CN溶液41の固化と融解とを複数回繰り返し行ってもよい。これにより、例えば、ナトリウムとガリウムとの金属間化合物をCN溶液固化物42中により均一に存在させることができる。
【0048】
(種結晶配置工程S104)
種結晶配置工程S104では、溶融・溶解工程S102にて予めCN溶液41を得た後に、13族窒化物結晶としてのGaN結晶からなる種結晶50を反応容器24内に配置する。本実施形態では、上述の固化工程S103を行った後に、種結晶配置工程S104を行う。つまり、
図3(d)に示すように、CN溶液固化物42の状態のまま、種結晶50を反応容器24内に配置する。
【0049】
種結晶配置工程S104で用いる種結晶50は、例えば、円板状の自立基板であり、4インチ以上の直径を有することが好ましい。これにより、面内均一に成長した大口径のGaN結晶を得ることができる。種結晶50の主面は、例えば、C面で構成されており、結晶成長の下地面となる。種結晶50の厚さは、自立可能な厚さ以上であれば、特に限定されない。また、種結晶50の製造方法は特に限定されるものではない。種結晶50は、例えば、HVPE法(ハイドライド気相成長法、Hydride Vapor Phase Epitaxy)または本願と同様のフラックス法により製造することができる。
【0050】
種結晶配置工程S104では、例えば、種結晶50の主面を上向きとした状態で、CN溶液固化物42の直上に種結晶50を配置する。つまり、種結晶50を、CN溶液固化物42に接触させるように配置する。これにより、後述する成長工程S105にてCN溶液固化物42を再融解し、種結晶50をCN溶液41中に沈ませることにより、種結晶50をCN溶液41に浸漬させることができる。つまり、CN溶液固化物42は、種結晶50を保持し、CN溶液41中に移動させる役割も果たしている。なお、種結晶配置工程S104では、反応容器24内に種結晶50を配置し、種結晶50の主面上にCN溶液固化物42を配置してもよい。
【0051】
種結晶配置工程S104では、例えば、反応容器24内に、種結晶50を保持し、かつ、上下に昇降させるような昇降機構を設け、該昇降機構に種結晶50を配置してもよい。この場合、後述する成長工程S105では、該昇降機構によって種結晶50をCN溶液41中に浸漬させることができる。しかしながら、反応容器24内は、アルカリ蒸気および窒素が存在する高温雰囲気であるため、昇降機構等の部材は窒化して脆くなる可能性がある。そのため、装置のメンテナンスを簡便にし、安定的に実施をするという観点からは、上述のようにCN溶液固化物42の直上に種結晶50を配置することが好ましい。
【0052】
また、種結晶配置工程S104では、
図3(e)に示すように、種結晶50を有する下地基板52を、CN溶液固化物42の直上に配置してもよい。下地基板52は、例えば、種結晶50と、サファイア基板51とを有している。種結晶50は、例えば、サファイア基板51の上に載せた状態で、CN溶液固化物42の上に配置する。この場合、サファイア基板51が重りとなるため、後述する成長工程S105にてCN溶液固化物42を再融解させた際に、種結晶50(または下地基板52)をCN溶液41中に沈ませやすくすることができる。なお、下地基板52は、サファイア基板51の上に自立基板である種結晶50を載せたものでもよいし、サファイア基板51の上に種結晶50をヘテロエピタキシャル成長させたものでもよい。また、サファイア基板51の代わりにアルミナ板、YAG板、イットリア板等の当該結晶材料とは異なる材質の基板を用いてもよい。
【0053】
種結晶配置工程S104は、例えば、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気としたグローブボックス内で行うことが好ましい。この場合、内部容器21ごと、反応容器24をグローブボックス内に入れて作業を行ってもよい。これにより、CN溶液固化物42の酸化および水酸化を抑制することができる。
【0054】
種結晶50を反応容器24内に配置したら、例えば、内部容器21ごと、反応容器24を外部容器20内に配置する。
【0055】
(成長工程S105)
成長工程S105では、CN溶液41中で種結晶50上に13族窒化物結晶としてのGaN結晶を成長させる。まず、例えば、ヒータ22を用いて反応容器24内を加熱することにより、CN溶液固化物42を再融解する。
図3(f)に示すように、CN溶液固化物42を再融解することで、種結晶50をCN溶液41中に沈ませることにより、種結晶50をCN溶液41に浸漬させる。種結晶50をCN溶液41に浸漬させたら、CN溶液41を所定の成長温度に維持する。また、外部容器20内に窒素ガスを供給することにより、反応容器24内を所定の成長圧力に維持する。窒素ガスと一緒に、例えば、アルゴンガス等の希釈ガスを供給してもよい。そして、成長工程S105は、CN溶液41に種結晶50の全体を浸漬させたまま、所定の成長時間継続する。以上により、種結晶50上にGaN結晶を成長させることができる。
【0056】
上述の溶融・溶解工程S102にて、予めCN溶液41を得ているため、成長工程S105では、CN溶液41中の未溶解の炭素が低減されている。これにより、結晶の異常成長を抑制することができる。また、CN溶液41中のシアンイオンの濃度が均一になっているため、種結晶50の主面上に窒素を均一に供給することができる。その結果、GaN結晶を面内均一に成長させることが可能となる。なお、本明細書において、GaN結晶が面内均一に成長するとは、例えば、GaN結晶の成長面の80%以上の面積の領域において、結晶が異常成長する領域がないことを意味する。
【0057】
また、上述の固化工程S103にて、CN溶液41を一度固化させているため、溶融・溶解工程S102にて、CN溶液41中に未溶解の炭素が存在していたとしても、CN溶液固化物42を再融解することで、未溶解の炭素を溶解することができる。
【0058】
また、成長工程S105では、CN溶液41中で種結晶50上にGaN結晶を2次元成長させる。本明細書において、GaN結晶を2次元成長させるとは、例えば、成長面を平坦に保ったまま、C面方向にGaN結晶を成長させることを意味する。上述のように、本実施形態では、CN溶液41中のシアンイオンの濃度を均一にしているため、成長工程S105の最初から最後までGaN結晶を2次元成長させることができる。これにより、表面が平坦なGaN結晶を容易に得ることが可能となる。
【0059】
成長工程S105では、例えば、回転部23を用いてCN溶液41を撹拌することが好ましい。これにより、例えば、CN溶液41の温度を均一に保ち、結晶成長を安定化させることができる。
【0060】
なお、成長工程S105における処理条件としては、以下が例示される。
成長温度(CN溶液41の温度):700℃以上900℃以下
昇温速度(CN溶液41を昇温する速度):100℃/時間以上200℃/時間以下
成長圧力(反応容器24内の圧力):2MPa以上8MPa以下
成長時間(成長工程S105を行う時間):1時間以上1000時間以下
【0061】
(後工程S106)
成長工程S105を所定の成長時間継続したら、後工程S106を行うことが好ましい。後工程S106では、例えば、ヒータ22を停止することにより、CN溶液41の温度を室温程度まで降温させる。後工程S106では、
図3(g)に示すように、種結晶50と成長したGaN結晶とをCN溶液41に浸漬させたまま、CN溶液41を固化させる。
【0062】
CN溶液41を固化させたら、例えば、内部容器21ごと反応容器24を外部容器20の外に取り出す。反応容器24内には、種結晶50上に成長したGaN結晶の他に、CN溶液固化物42等が残留物として存在している。そのため、例えば、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気としたグローブボックス内でCN溶液固化物42を加熱することにより、CN溶液固化物42を除去することが好ましい。
【0063】
以上の工程により、13族窒化物結晶としてのGaN結晶を得ることができる。
【0064】
(3)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0065】
(a)本実施形態では、溶融・溶解工程S102にて、CN溶液41を予め得ている。そのため、その後の成長工程S105において、CN溶液41中の未溶解の炭素が低減されている。これにより、結晶の異常成長を抑制することができる。
【0066】
一方、従来法では、原料と一緒に種結晶を反応容器内に配置していた。そのため、例えば、混合融液中に存在する未溶解の炭素が結晶の異常成長を引き起こす可能性があった。これは、種結晶が大口径(例えば、4インチ以上)の際に、特に顕著に現れる問題である。しかしながら、結晶成長中に反応容器内の原料の態様を調べることは困難であるため、異常成長の原因を特定することができず、問題の解決は非常に困難であった。
【0067】
本願発明者の鋭意研究の結果、上述の問題を解決できる技術が実現された。本実施形態では、種結晶50を反応容器24内に配置せずに、原料を反応容器24内に配置し、適切な条件で原料を溶融させ、CN溶液41を予め得ている。その後、種結晶50を反応容器24内に配置し、結晶成長を開始する。これにより、CN溶液41中のシアンイオンの濃度が均一になるため、種結晶50の主面上に窒素を均一に供給することができ、結晶の異常成長を抑制することができる。その結果、13族窒化物結晶としてのGaN結晶を面内均一に成長させることが可能となる。
【0068】
(b)本実施形態では、固化工程S103にてCN溶液41を固化させた後に、種結晶配置工程S104にてCN溶液41を固化させた状態のまま(つまり、CN溶液固化物42の状態のまま)、種結晶50を反応容器24内に配置する。CN溶液41を固化させることで、シアンイオンとナトリウムとが結合したシアン化ナトリウムをCN溶液固化物42中に保持することができる。また、CN溶液41を固化させることで、ナトリウムとガリウムとの金属間化合物(例えば、Na5Ga8)をCN溶液固化物42中に均一に存在させることができる。これにより、成長工程S105にて、CN溶液固化物42を再融解させた際に、種結晶50に窒素をより均一に供給することが可能となる。さらに、CN溶液41を一旦固化させることで、CN溶液固化物42を目視で確認し、例えば、未溶解の炭素が存在していないかどうかを確認することができる。
【0069】
(c)本実施形態の種結晶配置工程S104では、種結晶50を有する下地基板52をCN溶液固化物42の直上に配置してもよい。また、本実施形態の成長工程S105では、CN溶液固化物42を再融解することで、種結晶50(または下地基板52)をCN溶液41中に沈ませることにより、種結晶50をCN溶液41に浸漬させる。これらにより、CN溶液41に種結晶50(または下地基板52)を浸漬させることができる。また、例えば、サファイア基板51が重りとなるため、種結晶50(または下地基板52)をCN溶液41中に沈ませやすくすることができる。
【0070】
(d)本実施形態の溶融・溶解工程S102では、混合融液40等の温度は、成長工程S105におけるCN溶液41の温度(成長温度)より高くする。また、本実施形態の溶融・溶解工程S102では、反応容器24内の圧力は、成長工程S105における反応容器24内の圧力(成長圧力)より高くする。これらにより、速やかに炭素を溶解することができる。速やかに炭素を溶解することで、混合融液40等の反応容器24との接触角(濡れ性)が変わり、混合融液40等が反応容器24に濡れ難くなる。その結果、混合融液40等に雑晶が生じることを抑制することができる。また、短時間でCN溶液41を得ることができ、生産性を向上させることができる。
【0071】
(e)本実施形態の溶融・溶解工程S102では、炭素を混合融液40等の気液界面近傍に保持しながら炭素を溶解する。例えば、シート状の炭素を用いることで、浮力によって炭素を混合融液40等の気液界面近傍に保持しやすくなる。これにより、炭素と窒素との反応が促進され、速やかに炭素を溶解することができる。その結果、混合融液40等に雑晶が生じることを抑制することができる。また、短時間でCN溶液41を得ることができ、生産性を向上させることができる。
【0072】
(f)本実施形態の種結晶配置工程S104では、4インチ以上の直径を有する種結晶50を反応容器24内に配置する。これにより、面内均一に成長した大口径のGaN結晶を得ることができる。従来法では、例えば、未溶解の炭素が種結晶50の主面に接触することを抑制するため、種結晶50と炭素とを充分離して配置する等の工夫をしていた。しかしながら、種結晶50の径が4インチ以上の場合、従来法の工夫では未溶解の炭素が種結晶50の主面に接触することを抑制しきれない可能性があるため、面内均一に成長した大口径のGaN結晶を得ることは非常に困難であった。すなわち、本発明により、フラックス法で初めて、面内均一に成長した4インチ以上のGaN結晶を得ることが可能となった。
【0073】
(4)第1実施形態の変形例
上述の実施形態は、必要に応じて、以下に示す変形例のように変更することができる。以下、上述の実施形態と異なる要素についてのみ説明し、上述の実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0074】
(4-1)第1実施形態の変形例1
図4は、本変形例の13族窒化物結晶製造装置60の概略構成図である。
図4に示すように、本変形例の13族窒化物結晶製造装置60は、例えば、外部容器20内に内部容器21と、反応容器24とが2つずつ設けられている。本変形例では、例えば、一方の反応容器24aには、種結晶50が配置され、他方の反応容器24bには種結晶50が配置されていない。反応容器24aと反応容器24bとには、混合融液40等がそれぞれ収容されている。なお、本変形例の回転部23は、2つの反応容器24を同時に回転させることができるように構成されていてもよいし、別々に制御して回転させることができるように構成されていてもよい。
【0075】
図5は、本変形例の13族窒化物結晶の製造方法の一例を示すフローチャートである。図中の左側のフローは反応容器24aにおける工程を示し、図中の右側のフローは反応容器24bにおける工程を示している。また、左右に隣り合う工程は、同時に行うことができることを示している。
図5に示すように、本変形例では、例えば、後工程S106の後に再び原料配置工程S101を行ってもよい。つまり、原料配置工程S101から後工程S106を繰り返し行ってもよい。これにより、GaN結晶を連続して複数回成長させることができる。
【0076】
図5に示すように、本変形例では、例えば、反応容器24aにおいて成長工程S105を行う際に、反応容器24bにおいて溶融・溶解工程S102を同時に行う。また、例えば、反応容器24aにおいて溶融・溶解工程S102を行う際に、反応容器24bにおいて成長工程S105を同時に行う。つまり、一方の反応容器24(種結晶50が配置されている方)において成長工程S105を行う際に、他方の反応容器24(種結晶50が配置されていない方)において溶融・溶解工程S102を同時に行う。これにより、一方の反応容器24内でGaN結晶を成長させながら、他方の反応容器24内でCN溶液41を得ることができる。その結果、例えば、GaN結晶を連続して複数回成長させる場合、第1実施形態より短時間で実施をすることが可能となる。
【0077】
また、本変形例の13族窒化物結晶製造装置60は、2つの反応容器24内の温度と圧力とを、別々に制御できるように構成されていてもよい。これにより、溶融・溶解工程S102を行う反応容器24内の温度を、成長工程S105を行う反応容器24内の温度より高くすることができる。また、溶融・溶解工程S102を行う反応容器24内の圧力を、成長工程S105を行う反応容器24内の圧力より高くすることができる。その結果、一方の反応容器24内の種結晶50上にGaN結晶を成長させながら、他方の反応容器24内で速やかに炭素を溶解することができる。
【0078】
なお、本変形例において、反応容器24は3つ以上設けられていてもよい。外部容器20内に複数の反応容器24を設けることで、GaN結晶の時間当たりの製造量を増加させることができる。
【0079】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0080】
例えば、上述の実施形態では、原料に含まれる炭素として炭素単体を用いる場合について説明したが、原料として用いる炭素は、炭素単体に限定されず、炭素を含む化合物または炭素と窒素とを含む化合物の少なくとも一方でもよい。炭素を含む化合物としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン等が例示される。炭素と窒素とを含む化合物としては、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、アセトニトリル等が例示される。
【0081】
また、例えば、上述の実施形態では、13族窒化物結晶としてGaN結晶を製造する場合について説明したが、本発明によって製造される13族窒化物結晶は、GaN結晶に限定されない。本発明によって製造される13族窒化物結晶は、例えば、窒化アルミニウム、窒化インジウム、または窒化ガリウムとこれらの混晶であってもよい。
【0082】
また、例えば、上述の実施形態では、固化工程S103にてCN溶液41を固化させた後に、種結晶配置工程S104にて種結晶50を反応容器24内に配置する場合について説明したが、固化工程S103を行わずに種結晶配置工程S104を行う態様でもよい。
【0083】
この場合、溶融・溶解工程S102にて予めCN溶液41を得た後に、種結晶配置工程S104にてCN溶液41が溶融したままの状態(つまり、固化させない状態)で、種結晶50を反応容器24内に配置する。具体的には、本態様の種結晶配置工程S104では、種結晶50をCN溶液41中に沈めることにより、種結晶50をCN溶液41に接触させるように配置する。
【0084】
そして、成長工程S105では、CN溶液41に種結晶50の全体を浸漬させたままGaN結晶を成長させる。また、後工程S106では、種結晶50と成長したGaN結晶とをCN溶液41に浸漬させたまま、CN溶液41を固化させる。その後、CN溶液固化物42を除去することで、本態様においても面内均一に成長したGaN結晶を得ることができる。
【実施例】
【0085】
次に、本発明に係る実施例を説明する。これらの実施例は本発明の一例であって、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0086】
(1)原料配置工程S101
まず、内径140mmの反応容器24を複数準備し、原料として、ナトリウム115g、ガリウム150gを複数の反応容器24内にそれぞれ配置した。つまり、原料に含まれるナトリウムとガリウムとの総モル数に対する、ナトリウムのモル数の比率を70%とした。さらに、原料として、所定量の炭素を複数の反応容器24内にそれぞれ配置し、サンプル1~8とした。原料として配置した炭素の質量(炭素量)は、以下の通りである。なお、括弧内は、原料に含まれるナトリウムとガリウムとの総モル数に対する炭素のモル数の比率である。
サンプル1:0.1g(0.12%)
サンプル2:0.5g(0.58%)
サンプル3:0.75g(0.87%)
サンプル4:1g(1.15%)
サンプル5:1.5g(1.72%)
サンプル6:2g(2.27%)
サンプル7:3g(3.37%)
サンプル8:4g(4.45%)
【0087】
(2)溶融・溶解工程S102
次に、外部容器20内に窒素ガスを供給し、反応容器24内の圧力を3.5MPaとした。また、ヒータ22を用いて反応容器24内を加熱し、混合融液40等の温度を880℃とした。以上の条件で溶融・溶解工程S102を所定の時間行い、上記各サンプルについてCN溶液41をそれぞれ得た。
【0088】
(3)固化工程S103
上記(2)で得たCN溶液41の温度を室温程度まで降温させることで、CN溶液41を固化させた。その後、反応容器24を外部容器20の外に取り出し、CN溶液固化物42を目視で確認することにより、CN溶液固化物42中に未溶解の炭素が存在していないかどうかを確認した。その結果を
図6に示す。
図6中の〇は、CN溶液固化物42中に未溶解の炭素が存在していないことを示し、
図6中の×は、CN溶液固化物42中に未溶解の炭素が存在していることを示す。
【0089】
図6からわかるように、炭素量を0.1gとしたサンプル1では、溶融・溶解時間が5時間だと未溶解の炭素が存在したが、溶融・溶解時間を10時間とすることで、未溶解の炭素をなくすことができた。
【0090】
また、炭素量を0.5gとしたサンプル2では、溶融・溶解時間が5時間だと未溶解の炭素が存在したが、溶融・溶解時間を10時間または15時間とすることで、未溶解の炭素をなくすことができた。
【0091】
また、炭素量を0.75gとしたサンプル3では、溶融・溶解時間が5時間だと未溶解の炭素が存在したが、溶融・溶解時間を15時間または20時間とすることで、未溶解の炭素をなくすことができた。
【0092】
また、炭素量を1gとしたサンプル4では、溶融・溶解時間が10時間だと未溶解の炭素が存在したが、溶融・溶解時間を15時間または20時間とすることで、未溶解の炭素をなくすことができた。
【0093】
また、炭素量を1.5gとしたサンプル5では、溶融・溶解時間が15時間だと未溶解の炭素が存在したが、溶融・溶解時間を25時間とすることで、未溶解の炭素をなくすことができた。
【0094】
また、炭素量を2gとしたサンプル6では、溶融・溶解時間が20時間だと未溶解の炭素が存在したが、溶融・溶解時間を30時間とすることで、未溶解の炭素をなくすことができた。
【0095】
また、炭素量を3gとしたサンプル7では、溶融・溶解時間が30時間だと未溶解の炭素が存在したが、溶融・溶解時間を40時間とすることで、未溶解の炭素をなくすことができた。
【0096】
また、炭素量を4gとしたサンプル8では、溶融・溶解時間が40時間だと未溶解の炭素が存在したが、溶融・溶解時間を50時間とすることで、未溶解の炭素をなくすことができた。
【0097】
以上より、例えば、溶融・溶解時間を適切に制御することにより、CN溶液41中の未溶解の炭素を低減できることを確認した。
【0098】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様を付記する。
【0099】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
アルカリ金属、13族金属および炭素、を含む原料を、反応容器内に配置する工程と、
前記アルカリ金属と前記13族金属とが溶融した混合融液に、少なくとも窒素を含む雰囲気で前記反応容器内を加熱し、前記炭素と前記窒素とがシアンイオンまたはシアン化物の少なくとも一方の態様で溶解したCN溶液を得る工程と、
前記CN溶液を得た後に、13族窒化物結晶からなる種結晶を前記反応容器内に配置する工程と、
前記CN溶液中で前記種結晶上に13族窒化物結晶を成長させる工程と、を有する13族窒化物結晶の製造方法が提供される。
好ましくは、前記原料に含まれる前記炭素のモル数は、前記原料に含まれる前記アルカリ金属と前記13族金属との総モル数に対して、0.1%以上5%以下の比率である。
【0100】
(付記2)
付記1に記載の13族窒化物結晶の製造方法であって、
前記CN溶液を固化させる工程をさらに有し、
前記種結晶を前記反応容器内に配置する工程では、前記CN溶液を固化させる工程を行った後に、前記CN溶液を固化させた状態で、前記種結晶を前記反応容器内に配置する。
【0101】
(付記3)
付記2に記載の13族窒化物結晶の製造方法であって、
前記種結晶を前記反応容器内に配置する工程では、前記種結晶を有する下地基板を、固化させた前記CN溶液の直上に配置し、
前記13族窒化物結晶を成長させる工程では、前記CN溶液を再融解することにより、前記下地基板を前記CN溶液に浸漬させる。
【0102】
(付記4)
付記2または付記3に記載の13族窒化物結晶の製造方法であって、
前記CN溶液を固化させる工程では、前記CN溶液の降温速度を、前記13族窒化物結晶を成長させる工程における前記CN溶液の昇温速度よりも速くする。
好ましくは、前記CN溶液の降温速度を、100℃/時間以上にする。
【0103】
(付記5)
付記2から付記4のいずれか1つに記載の13族窒化物結晶の製造方法であって、
前記種結晶を前記反応容器内に配置する工程は、不活性ガス雰囲気で行う。
【0104】
(付記6)
付記1から付記5のいずれか1つに記載の13族窒化物結晶の製造方法であって、
前記CN溶液を得る工程では、前記CN溶液の温度を、前記13族窒化物結晶を成長させる工程における前記CN溶液の温度よりも高くする。
好ましくは、前記CN溶液の温度を、800℃以上900℃以下にする。
【0105】
(付記7)
付記1から付記6のいずれか1つに記載の13族窒化物結晶の製造方法であって、
前記CN溶液を得る工程では、前記反応容器内の圧力を、前記13族窒化物結晶を成長させる工程における前記反応容器内の圧力よりも高くする。
好ましくは、前記反応容器内の圧力を、3MPa以上10MPa以下にする。
【0106】
(付記8)
付記2から付記5のいずれか1つに記載の13族窒化物結晶の製造方法であって、
前記CN溶液を得る工程では、前記CN溶液の昇温速度を、前記13族窒化物結晶を成長させる工程における前記CN溶液の昇温速度よりも速くする。
好ましくは、前記CN溶液の昇温速度を、100℃/時間以上にする。
【0107】
(付記9)
付記1から付記8のいずれか1つに記載の13族窒化物結晶の製造方法であって、
前記CN溶液を得る工程を行う時間は、10時間以上100時間以下とする。
好ましくは、前記CN溶液に前記炭素が完全に溶解するように、前記CN溶液を得る工程を行う時間を制御する。
【0108】
(付記10)
付記1から付記9のいずれか1つに記載の13族窒化物結晶の製造方法であって、
前記CN溶液を得る工程では、前記炭素を前記CN溶液の気液界面近傍に保持しながら前記炭素を溶解する。
【0109】
(付記11)
付記1から付記10のいずれか1つに記載の13族窒化物結晶の製造方法であって、
前記種結晶を前記反応容器内に配置する工程では、4インチ以上の直径を有する前記種結晶を前記反応容器内に配置する。
好ましくは、前記種結晶は、自立基板である。
【0110】
(付記12)
付記1に記載の13族窒化物結晶の製造方法であって、
前記種結晶を前記反応容器内に配置する工程では、前記CN溶液が溶融したままの状態で、前記種結晶を有する下地基板を前記CN溶液に接触させるように配置し、
前記13族窒化物結晶を成長させる工程では、前記CN溶液に前記種結晶の全体を浸漬させたまま前記13族窒化物結晶を成長させる。
好ましくは、前記種結晶と成長した前記13族窒化物結晶とを前記CN溶液に浸漬させたまま、前記CN溶液を固化させ、固化させた前記CN溶液を除去する工程をさらに有する。
【0111】
(付記13)
付記1から付記12のいずれか1つに記載の13族窒化物結晶の製造方法であって、
前記13族窒化物結晶を成長させる工程では、前記CN溶液中で前記種結晶上に前記13族窒化物結晶を2次元成長させる。
【0112】
(付記14)
付記1から付記13のいずれか1つに記載の13族窒化物結晶の製造方法であって、
外部容器内に複数の前記反応容器を配置し、前記13族窒化物結晶を成長させる工程と、前記CN溶液を得る工程とを同時に行う。
【符号の説明】
【0113】
10 13族窒化物結晶製造装置
20 外部容器
21 内部容器
22 ヒータ
23 回転部
24、24a、24b 反応容器
25 ガス供給管
26 圧力制御部
27 バルブ
30 制御部
40 混合融液
41 CN溶液
42 CN溶液固化物
50 種結晶
51 サファイア基板
52 下地基板
60 13族窒化物結晶製造装置
S101 原料配置工程
S102 溶融・溶解工程
S103 固化工程
S104 種結晶配置工程
S105 成長工程
S106 後工程