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特許7456938ホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの製造方法
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  • 特許-ホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】ホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/18 20060101AFI20240319BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20240319BHJP
   B29C 48/154 20190101ALI20240319BHJP
   B29C 48/30 20190101ALI20240319BHJP
   B29C 48/305 20190101ALI20240319BHJP
   B29C 48/345 20190101ALI20240319BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240319BHJP
   B29K 101/10 20060101ALN20240319BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
B29C55/18
B29C48/08
B29C48/154
B29C48/30
B29C48/305
B29C48/345
B32B27/00 101
B29K101:10
B29L9:00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020562488
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051391
(87)【国際公開番号】W WO2020138408
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2018245658
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019167832
(32)【優先日】2019-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今泉 徹
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 弘一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 亮介
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-274007(JP,A)
【文献】特開2007-231039(JP,A)
【文献】特表2009-503133(JP,A)
【文献】特表2013-523482(JP,A)
【文献】特表2018-519369(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030287(WO,A1)
【文献】米国特許第06177506(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第103849149(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/82
13/02
B29C 48/00 - 48/96
55/00 - 55/30
B32B 1/00 - 43/00
C08L 83/04
C09J 1/00 - 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を備えることを特徴とする、ホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの製造方法。
工程1:オルガノポリシロキサン樹脂微粒子、硬化剤および機能性フィラーを、該オルガノポリシロキサン樹脂微粒子の軟化点以下で共に粉体混合する工程
工程2:工程1で得た混合物を、当該混合物の軟化点以上の温度かつ120℃以下の温度で加熱溶融しながら混練する工程
工程3:工程2で得た加熱溶融後の混合物を、少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に連続的に積層する工程
工程4:工程3で得た積層体をロール間で延伸し、特定の膜厚を有する硬化性シリコーンシートを成型する工程
【請求項2】
工程2で得た加熱溶融後の混合物の150℃での高化式フローテスターにより測定される溶融粘度が1~1,000Pasの範囲であり、
工程3において、当該加熱溶融後の混合物を少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層する工程が、当該加熱溶融後の混合物をダイ及びノズルを用いてフィルム状または紐状に成型しながら吐出して、少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層する工程であり、
さらに、工程4の前工程としてまたは工程4において、工程3で得た積層体全体を冷却または80~120℃の間で温度調整する工程を含む、
請求項1に記載のホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの製造方法。
【請求項3】
工程3において、当該加熱溶融後の混合物を少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層する工程が、当該加熱溶融後の混合物を固体状のまま吐出し、少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層する工程である、
請求項1に記載のホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの製造方法。
【請求項4】
工程2~4が連続した工程であり、工程2の開始から工程4の終了までの時間が30分以内であることを特徴とする請求項1に記載のホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの製造方法。
【請求項5】
さらに、工程4で得た硬化性シリコーンシートを含む積層体を裁断する工程を含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載のホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの製造方法。
【請求項6】
工程3において、工程2で得た加熱溶融後の混合物を、少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層する工程が、当該加熱溶融後の混合物をT型ダイおよびストランドダイから選ばれるダイ、及びシングルノズルおよびマルチノズルから選ばれるノズルを用いてフィルム状または紐状に成型しながら吐出して、少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層する工程である、請求項1~5のいずれか1項に記載のホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの製造方法。
【請求項7】
工程1におけるオルガノポリシロキサン樹脂微粒子が、RSiO3/2またはSiO4/2で表されるシロキサン単位(Rはアリール基)を全シロキサン単位の少なくとも20モル%以上含有するオルガノポリシロキサン樹脂微粒子である、
請求項1~6のいずれか1項に記載のホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの製造方法。
【請求項8】
工程2により得られる混合物が、硬化により、
25℃における貯蔵弾性率(G')の値が2000MPa以下であり、
150℃における貯蔵弾性率(G')の値が100MPa以下であり、
周波数1.0Hzにおける貯蔵弾性率/損失弾性率(G’/G’’)で表される損失正接(tanδ)のピーク値が0.40以上である硬化物を与えることを特徴とする、
請求項1~7のいずれか1項に記載のホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの製造方法。
【請求項9】
工程1におけるホットメルト性を有するオルガノポリシロキサン樹脂微粒子、硬化剤および機能性フィラーの混合物が、硬化により、
室温から200℃までの成型温度におけるMDR(Moving Die Rheom eter)により測定される(1)最大トルク値が50dN・m未満であり、(2)最大トルク値に到達したときに、貯蔵トルク値/損失トルク値の比で表される損失正接(tanδ)の値が0.2未満である硬化物を与えることを特徴とする、
請求項1~8のいずれか1項に記載のホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの製造方法。
【請求項10】
硬化性シリコーンシートが、コンプレッション成型用、プレス成型用、または真空ラミネーション用の硬化性シリコーンシートである、請求項1~9のいずれか1項に記載のホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの製造方法。
【請求項11】
硬化性シリコーンシートが、ホットメルト性フィルム接着剤である、請求項1~9のいずれか1項に記載のホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの製造方法。
【請求項12】
硬化性シリコーンシートが、平坦な、厚さ10~2000μmの硬化性シリコーンシートである、請求項1~9のいずれか1項に記載のホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便であり、平坦性と均一性に優れるホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートを得ることができる製造方法、および、当該製造方法によって得ることができる、ホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートが少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層された構造を備えた積層体に関連する。
【背景技術】
【0002】
硬化性シリコーン組成物は、硬化して、優れた耐熱性、耐寒性、電気絶縁性、耐候性、撥水性、透明性を有する硬化物を形成することから、幅広い産業分野で利用されている。こうした硬化性シリコーン組成物の硬化物は、一般に、他の有機材料と比較し変色しにくく、また、物理的物性の低下が小さいため、光学材料および半導体装置の封止剤としても適している。
【0003】
本出願人は、特許文献1および特許文献2において、成型用のホットメルト性の硬化性粒状シリコーン組成物および反応性シリコーン組成物を提案している。これらのシリコーン組成物はいわゆるフェニルシリコーン樹脂からなり、メチルシリコーン樹脂と比較するとホットメルト性に優れ、かつ、硬化物の硬さや強度に優れるという利点を有するものである。
【0004】
さらに、本件出願人らは、特許文献3~5において、粗大粒子を含まない無機フィラーを硬化性粒状シリコーン組成物に使用することで、特に高温における強靭性や耐久性、溶融時のギャップフィル性、光反射率等を改善できることを提案している。
【0005】
一方、これらの硬化性粒状シリコーン組成物は、パワー半導体を含む様々な半導体用途への適用が求められるにあたり、これらの硬化性粒状シリコーン組成物を均一なホットメルト性の硬化性シリコーンシートとして利用することが求められる場合がある。しかしながら、硬化性粒状シリコーン組成物を通常の方法でシート状に成型しようとした場合、硬化性シリコーンシートの破損や欠陥を生じやすく、簡便な方法で、平坦性と均一性に優れるホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートを得る手段が求められていた。
【0006】
一方、特許文献6にはシリコーン樹脂、オルガノポリシロキサン、シラン架橋剤、触媒および溶媒を含む成分を組み合わせること、揮発物を取り除くためにこの組合せを押出し装置に供給して縮合硬化型のホットメルトシリコーン接着剤組成物を得る方法および当該組成物を剥離ライナー間で成型する方法が記載されているが、特に熱硬化型のホットメルトシリコーン組成物や硬化性粒状シリコーン組成物については何ら記載されておらず、当該方法で熱硬化性シリコーン組成物等をシート状に成型しようとした場合、硬化性シリコーンシートの破損や欠陥を生じる場合がある。さらに、高温で当該製造方法を適用した場合、特に熱硬化型のホットメルトシリコーン組成物は硬化反応が進行してしまい、ホットメルト性を有するシート材料を得ることができない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2016/136243号パンフレット
【文献】特開2014-009322号公報
【文献】国際公開第2018/030286号パンフレット
【文献】国際公開第2018/030287号パンフレット
【文献】国際公開第2018/030288号パンフレット
【文献】特表2011-525444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ホットメルト性を有し、取扱い作業性および硬化特性に優れ、かつ、平坦性と均一性に優れる硬化性シリコーンシートを効率よく製造する方法を提供することにある。さらに、本発明は、当該硬化性シリコーンシートを含む積層体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
鋭意検討の結果、本発明者らは、以下の工程を備えることを特徴とする、ホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの製造方法により上記課題を解決できる事を見出し、本発明に到達した。
工程1:オルガノポリシロキサン樹脂微粒子、硬化剤および機能性フィラーを混合する工程
工程2:工程1で得た混合物を、120℃以下の温度で加熱溶融しながら混練する工程。
工程3:工程2で得た加熱溶融後の混合物を、少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層する工程
工程4:工程3で得た積層体をロール間で延伸し、特定の膜厚を有する硬化性シリコーンシートを成型する工程
【0010】
上記の硬化性シリコーンシートの製造方法において、
工程2で得た加熱溶融後の混合物の150℃での高化式フローテスターにより測定される溶融粘度が1~1,000Pasの範囲であり、
工程3において、当該加熱溶融後の混合物を少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層する工程が、当該加熱溶融後の混合物をダイ及びノズルを用いてフィルム状または紐状に成型しながら吐出して、少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層する工程であり、
さらに、工程4の前工程としてまたは工程4において、工程3で得た積層体全体を冷却または80-120℃の間で温度調節する工程を含む製造方法が好ましい。特に、当該製造方法は、加熱溶融後の混合物の溶融粘度が低い場合、ダイにより当該混合物を仮成型できる点で有用である。
【0011】
上記の硬化性シリコーンシートの製造方法において、
工程2で得た混合物全体の軟化点が200℃以下であり、
工程2が、工程1で得た混合物全体を当該混合物の軟化点以上の温度に加熱する工程であり、
工程3において、当該加熱溶融後の混合物を少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層する工程が、当該加熱溶融後の混合物を固体状のまま吐出し、少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層する工程である製造方法が好ましい。
なお、固体状のまま吐出した混合物を含む積層体について、工程4で膜厚調整を行う場合、膜厚調整ロールは、さらに、温度調節機能を備えることが好ましく、当該温度調節機能を備えたロール延伸により、得られる硬化性シリコーンシートの膜厚を安定させる製造方法が好ましい。特に、当該製造方法は、加熱溶融後の混合物の溶融粘度が高い場合、仮成型を行うことなくシート状に成型できる点で有用である。
【0012】
上記の硬化性シリコーンシートの製造方法において、工程2~4が連続した工程であり、工程2の開始から工程4の終了までの時間が30分以内であってよい。特に、工程3および工程4は連続的かつ一体化した工程であってよく、例えば、工程2で得た加熱溶融後の混合物は、ロール間の直下において、少なくとも1の剥離面を備えた二つのフィルム間に吐出乃至塗布されることで積層され、それと同時にロール間の間隙調整により、特定の膜厚に延伸成型されていてもよい。 このように、工程3および工程4が実質的に統合された工程を有する製造方法は、上記の製造方法の範囲内に含まれる。
【0013】
上記の硬化性シリコーンシートの製造方法において、さらに、工程4で得た硬化性シリコーンシートを含む積層体を裁断する工程を含んでもよい。
【0014】
上記の硬化性シリコーンシートの製造方法において、工程3において、工程2で得た加熱溶融後の混合物を、少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層する工程が、当該加熱溶融後の混合物をT型ダイおよびストランドダイから選ばれるダイ、及びシングルノズルおよびマルチノズルから選ばれるノズルを用いてフィルム状または紐状に成型しながら吐出して、少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層する工程であってよい。
【0015】
上記の硬化性シリコーンシートの製造方法において、工程1におけるオルガノポリシロキサン樹脂微粒子、硬化剤および機能性フィラーの混合物において、
オルガノポリシロキサン樹脂微粒子が、RSiO3/2またはSiO4/2で表されるシロキサン単位(Rはアリール基)を全シロキサン単位の少なくとも20モル%以上含有するオルガノポリシロキサン樹脂微粒子であってよい。
【0016】
上記の硬化性シリコーンシートの製造方法において、工程2により得られるオルガノポリシロキサン樹脂微粒子、硬化剤および機能性フィラーの混合物が、硬化により、
25℃における貯蔵弾性率(G')の値が2000MPa以下であり、
150℃における貯蔵弾性率(G')の値が100MPa以下であり、
周波数1.0Hzにおける貯蔵弾性率/損失弾性率(G'/G'')で表される損失正接(tanδ)のピーク値が0.40以上である硬化物を与えることが好ましい。
【0017】
上記の硬化性シリコーンシートの製造方法において、
工程1におけるオルガノポリシロキサン樹脂微粒子、硬化剤および機能性フィラーの混合物が、硬化により、
室温から200℃までの成型温度におけるMDR(Moving Die Rheom eter)により測定される(1)最大トルク値が50dN・m未満であり、(2)最大トルク値に到達したときに、貯蔵トルク値/損失トルク値の比で表される損失正接(tanδ)の値が0.2未満である硬化物を与えることが好ましい。
【0018】
上記の硬化性シリコーンシートの製造方法において、硬化性シリコーンシートは、コンプレッション成型用、または真空ラミネーション用プレス成型用の硬化性シリコーンシートであってよく、特に、コンプレッション成型用または真空ラミネーション用の硬化性シリコーンシートであることが好ましい。
【0019】
上記の硬化性シリコーンシートの製造方法において、硬化性シリコーンシートは、ホットメルト性フィルム接着剤であってよい。
【0020】
上記の硬化性シリコーンシートの製造方法において、硬化性シリコーンシートは、実質的に平坦な、厚さ10~2000μmの硬化性シリコーンシートであってよい。
【0021】
また、本発明の課題は、オルガノポリシロキサン樹脂微粒子、硬化剤および機能性フィラーからなり、実質的に平坦な、厚さ10~2000μmのホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートが、少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層された構造を備える、積層体によって、解決される。当該フィルムは、共に剥離面を備えてもよく、かつ、好ましい。
【0022】
上記積層体は、その剥離面が、1分子中にケイ素原子に結合した含フッ素置換基を有する1種類以上のオルガノポリシロキサンを含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化することにより得られる剥離コーティング層であり、当該剥離面を備えたフィルムの少なくとも一方の厚みが50μm以上であることが好ましい。当該フッ素置換基は、フルオロアルキル基およびパーフルオロポリエーテル基から選ばれる1種類以上の含フッ素置換基であることが好ましい。また、硬化性オルガノポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子に結合した含フッ素置換基および硬化反応性の官能基を含む1種類以上のオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0023】
上記積層体の製造方法は、その工程において、上記の硬化性シリコーンシートの製造方法を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、平坦性と均一性に優れる硬化性シリコーンシートを効率よく製造する方法を提供することができる。当該、硬化性シリコーンシートは、硬化性粒状シリコーン組成物からなり、ホットメルト性を有し、取扱い作業性および硬化特性に優れると共に、好ましくは、溶融時のギャップフィル性に優れ、応力緩和に優れた柔軟な硬化物を形成することができる。さらに、本発明の硬化性シリコーンシートは、硬化性粒状シリコーン組成物中の機能性無機フィラーの種類を変更することにより、硬化物に低線膨張率化、熱伝導率の付与、光反射性などを付与することができる。さらに、本発明により、ホットメルト性フィルム接着剤を含む剥離性積層体等の、当該硬化性シリコーンシートを含む積層体およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1の硬化性シリコーンシートの製造装置の構成を表す図である。
図2】実施例2の硬化性シリコーンシートの製造装置の構成を表す図である。
図3】実施例3の硬化性シリコーンシートの製造装置の構成を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[硬化性シリコーンシートの製造方法]
本発明にかかる硬化性シリコーンシートは、ホットメルト性を有するものであり、オルガノポリシロキサン樹脂微粒子、硬化剤および機能性フィラーを含む硬化性粒状シリコーン組成物からなり、必要に応じて直鎖状のオルガノポリシロキサンを含んでもよい。本発明の製造方法は、以下の工程1~4を含むものである。
工程1:オルガノポリシロキサン樹脂微粒子、硬化剤および機能性フィラーを混合する工程
工程2:工程1で得た混合物を、120℃以下の温度で加熱溶融しながら混練する工程。
工程3:工程2で得た加熱溶融後の混合物を、少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層する工程
工程4:工程3で得た積層体をロール間で延伸し、特定の膜厚を有する硬化性シリコーンシートを成型する工程
【0027】
ここで、「ホットメルト性を有する」とは軟化点が50℃~200℃の範囲内であり、加熱により軟化ないし流動する性質を有することをいう。また、本発明にかかる硬化性シリコーンシートは、その構成成分であるオルガノポリシロキサン樹脂微粒子のホットメルト性に関わらず、混合物としてホットメルト性を有すればよい。
【0028】
[工程1]
上記の工程1はオルガノポリシロキサン樹脂微粒子、硬化剤および機能性フィラーを含む硬化性粒状シリコーン組成物の混合工程である。これら各成分については、後述する。また、本工程1においては、上記成分以外の任意成分(例えば、直鎖状のオルガノポリシロキサン、硬化遅延剤その他の添加剤等)を特に制限なく混合してよく、当該混合により硬化性粒状シリコーン組成物を得ることができる。
【0029】
工程1により与えられる混合物は、硬化性粒状シリコーン組成物であり、混合物全体として、ホットメルト性を有する。一方、当該混合物は、25℃において非流動性である。ここで、非流動性とは、無負荷の状態で変形・流動しないことを意味し、好適には、ペレットまたはタブレット等に成型した場合に、25℃かつ無負荷の状態で変形・流動しないものである。このような非流動性は、例えば、25℃のホットプレート上に成型した本組成物を置き、無負荷または一定の加重をかけても、実質的に変形・流動しないことにより評価可能である。25℃において非流動性であると、該温度での形状保持性が良好で、表面粘着性が低いからである。
【0030】
工程1により与えられる混合物の軟化点は200℃以下であり、150℃以下であることが好ましい。このような軟化点は、ホットプレート上で、100グラム重の荷重で上から10秒間押し続け、荷重を取り除いた後、組成物の変形量を測定した場合、高さ方向の変形量が1mm以上となる温度を意味する。
【0031】
工程1により与えられる混合物の軟化点が200℃以下であり、後述する工程2において混合物全体を当該混合物の軟化点以上の温度に加熱することにより、混合物を加熱溶融して一定の流動性を与えることができる。当該軟化物または溶融物を成型することで硬化性粒状シリコーン組成物からなり、ホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートを得ることができる。
【0032】
オルガノポリシロキサン樹脂微粒子、硬化剤および機能性フィラー、さらにその他任意の成分(例えば、直鎖状のオルガノポリシロキサンを使用してもよい)を、混合する工程は、特に制限されるものではないが、混合物全体、好適には、オルガノポリシロキサン樹脂微粒子の軟化点未満の温度で粉体混合することにより製造することができる。本製造方法で用いる粉体混合機は限定されず、一軸または二軸の連続混合機、二本ロール、ロスミキサー、ホバートミキサー、デンタルミキサー、プラネタリミキサー、ニーダーミキサー、ラボミルサー、小型粉砕機、ヘンシェルミキサーが例示され、好ましくは、ラボミルサー、小型粉砕機、ヘンシェルミキサーである。
【0033】
[オルガノポリシロキサン樹脂成分から低分子量成分を除去する工程]
なお、本製造方法に得られる硬化性シリコーンシートの硬化物の強度および物理的特性の改善の見地から、次に述べる工程2に入る前の段階で、オルガノポリシロキサン樹脂微粒子等のオルガノポリシロキサン樹脂成分から、低分子量成分を可能な限り除去しておくことが好ましい。その詳細については、本発明に係るオルガノポリシロキサン樹脂微粒子に関する説明の項目において、詳述する。
【0034】
[工程2]
工程2は、工程1で得た混合物を、120℃以下の温度で加熱溶融しながら混練する工程であり、加熱溶融性を有する混合物をその軟化点以上の温度、好適には、80℃~120℃の温度範囲で加熱混練することで、組成物全体が溶融乃至軟化し、オルガノポリシロキサン樹脂微粒子、硬化剤および機能性フィラーを全体に均一分散することができる。当該混合物を、工程3を経て工程4において、当該混合物をシート状に加圧成型した場合、一回の加圧で均一な薄層状の成型シートを形成することができ、成型不良やシート自体の亀裂を回避できる実益がある。一方、温度が前記下限未満では、軟化が不十分となって、機械力を用いても各成分が全体に均一分散した溶融乃至軟化した混合物を得ることが困難となる場合があり、このような混合物を工程3を経て工程4において、当該混合物をシート状に加圧成型しても、均一な薄層状の成型シートを形成できず、シートの破損・亀裂の原因となる場合がある。逆に、温度が前記上限を超えると、硬化剤が混合時に反応して、全体が著しい増粘又は硬化してホットメルト性を失い、硬化物を形成してしまう場合があり、本発明の目的を達成できない。すなわち、工程2において、温度を上記範囲に管理することは本発明の必須の構成である。
【0035】
また、本工程では粉状の混合物を加熱溶融させながら混錬するため、混合時に空気を巻き込んでしまい、工程3以降で生産するシートに泡となって表れ、ホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートの品質および加熱溶融特性に悪影響を及ぼす可能性が高いため、脱気しながら混錬することが好ましい。脱気の程度は混錬時の空気の巻き込み(すなわち、気泡の量)により適宜調整可能であるが、1気圧未満に減圧脱気することが好ましい。
【0036】
工程1で得た混合物の加熱溶融粘度が低く、流動性に富む場合、後述する工程3において事前に仮成型を行った後に剥離フィルム上に積層することができ、かつ好ましい、具体的には、工程2―Aで得た加熱溶融後の混合物の150℃での高化式フローテスターにより測定される溶融粘度が1~1,000Pasの範囲であれば、工程3において、仮成型を行うことができる。
【0037】
一方、工程1で得た混合物の加熱溶融粘度が高く、流動性に乏しい場合、工程2において、工程1で得た混合物を、その軟化点以上の温度で溶融混練して、均一な組成物の形態を得た後、仮成型を行うことなく、工程3において剥離フィルム上に積層してよい。
【0038】
工程2における混合装置は限定されず、加熱・冷却機能を備えたニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー、2ロールミル、3ロールミル、ロスミキサー、ラボプラストミル等の回分(バッチ)式、加熱・冷却機能を備えた単軸押出機、2軸押出機、連続式ニーダー等の連続式の加熱混練装置であればよく、特に限定されないが、処理時間の効率とせん断発熱の制御能力に応じて選択される。処理時間の点で考えると、単軸押出機、2軸押出機等連続式の加熱混練装置であってもよく、ラボプラストミル等のバッチ式の混合機であってもよい。ただし、硬化性シリコーンシートの生産効率の見地から、単軸押出機、2軸押出機等連続式の加熱混練装置が好ましく使用される。
【0039】
[工程3]
工程3は、工程2で得た加熱溶融後の混合物を、少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層する工程であり、工程4において加圧成型するための予備工程である。このため、工程3およびその後工程である工程4は統合することが可能であり、必要に応じ、実質的に工程3および工程4を同時に行うこともできる。工程2で得た混合物をフィルム間に挟み込んだ積層体を形成することで当該フィルム上からロール延伸による加圧成型を行って、シート状の成型物を得ることができ、かつ、成型後には剥離面を利用して当該シート状の成型物からフィルムのみを除去することができる。
【0040】
工程2で得た加熱溶融後の混合物は2枚のフィルム間に積層する。得られる硬化性シリコーンシートの使用形態によるが、2枚のフィルムは共に剥離面を有することが好ましく、工程3において、工程2で得た混合物は各々のフィルムの剥離面の間に積層されることが特に好ましい。このような積層形態をとる事で、工程4における加圧成型、その後の任意の裁断を経て、薄層状の硬化性シリコーンシートが剥離性フィルム間に挟持された、両面から剥離可能な積層シートを得ることができ、使用時には、形成した硬化性シリコーンシートを破損する懸念なく、両面のフィルムを引き剥がして硬化性シリコーンシートのみを露出させることができる。
【0041】
工程3で使用するフィルムの基材は特には限定されるものではなく、板紙,ダンボール紙,クレーコート紙,ポリオレフィンラミネート紙,特にはポリエチレンラミネート紙,合成樹脂フィルム・シート,天然繊維布,合成繊維布,人工皮革布,金属箔が例示される。特に、合成樹脂フィルム・シートが好ましく、合成樹脂として、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンが例示される。特に耐熱性が要求される場合には、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルフォン等の耐熱性合成樹脂のフィルムが好適である。一方、表示デバイス等視認性が求められる用途においては、透明基材、具体的にはポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、PEN等の透明材料が好適である。
【0042】
フィルムの厚さは特に制限されないが、得られる溶融混錬物の溶融粘度が高い場合、工程4でのロールによる延伸工程において、フィルムは高温状態で相当に圧力にさらされるため、高い耐熱性を持つフィルムを用いていない場合、フィルムが薄すぎると延伸時に皺等が発生することがあるため、フィルム厚は50μm以上、好ましくは75μm以上であり、好適には75~300μm、より好ましくは75~200μmであることが好ましい。
【0043】
フィルムは少なくとも1つの剥離層を備えており、当該剥離層が工程2で得た混合物と接触していることが好ましい。これにより、工程3および工程4を経て、加圧成型されたホットメルト性の硬化性シリコーンシートをフィルムから容易に剥離することができる。剥離層は剥離ライナー、セパレーター、離型層或いは剥離コーティング層と呼ばれることもあり、好適には、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、アルキド系剥離剤、又は、フルオロシリコーン系剥離剤等の剥離コーティング能を有する剥離層、基材表面に物理的に微細な凹凸を形成させたり、本発明にかかるホットメルト性の硬化性シリコーンシートと付着しにくい基材それ自体であってもよい。
【0044】
後述の通り、本発明に係る、ホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートは2枚のフィルム間に積層される。シリコーンシートを使用する時に、通常は2枚のフィルムともに剥がして使用するが、1枚のフィルムのみを剥がして、片側のフィルムを残したまま、シリコーンシートを硬化させても良い。この場合、フィルムはシリコーンシートが硬化した後でも容易に剥がせるものを選択することが好ましい。
【0045】
フィルム上の剥離面は、硬化性シリコーンシートに対する剥離性の見地からフルオロシリコーン系の剥離剤により得られる剥離コーティング層であることが好ましい。ここで、フルオロシリコーン系の剥離剤とは、1分子中にケイ素原子に結合した含フッ素置換基を有する1種類以上のオルガノポリシロキサンを含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物
であり、特に、分子内にフルオロアルキル基およびパーフルオロポリエーテル基から選ばれる1種類以上の含フッ素置換基を含むオルガノポリシロキサンを含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物の使用が好ましい。なお、含フッ素置換基を含むオルガノポリシロキサンは、さらに、同一分子内にアルケニル基等の硬化反応性基を有してもよく、二種類以上の異なる含フッ素置換基を含むオルガノポリシロキサンを組み合わせて、特定の混合比で使用してもよい。
【0046】
例えば、本発明で使用できるフルオロシリコーン系の剥離剤により得られる剥離コーティング層は、以下の(i)~(iv)の組成物を硬化させてなる剥離コーティング層であってよい。
(i)互いに異なるフルオロアルキル基を有し、かつ、分子内に硬化反応性基を有する、2種類以上のオルガノポリシロキサンを含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物
(ii)互いに異なるパーフルオロポリエーテル基を有し、かつ、分子内に硬化反応性基を有する、2種類以上のオルガノポリシロキサンを含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物
(iii)分子内にフルオロアルキル基および硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサン、および、分子内にパーフルオロポリエーテル基および硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサンを含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物
(iv)分子内にフルオロアルキル基およびパーフルオロポリエーテル基から選ばれる1種類以上の含フッ素置換基を含み、硬化反応性基を有さず、他の硬化反応性の成分と混和する性質を有するオルガノポリシロキサンを含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物
【0047】
本発明において、実用上、フィルム上の剥離面はフルオロシリコーン系の剥離剤により得られる剥離コーティング層であり、具体的にはパーフルオロブチルエチル基を含有するフルオロシリコーン系のコーティングが好ましい。この様な剥離コーティング処理が施されたフィルム製品としては例えば、タカラインコーポレーションのFL1-01、FL1-02、FL1-03、FL2-01、ニッパ株式会社のFSA6、FSB6、FSC6、アイム株式会社のFB、FEなどが例示される。なお、パーフルオロブチルエチル基等の含フッ素置換基を側鎖または末端に有するオルガノポリシロキサンを含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物を用いるフルオロシリコーン系のコーティングは、架橋構造・架橋密度の選択および剥離層の厚みにより、所望の剥離特性を設計することができ、本発明の実施においては、上記の市販品から適切な剥離力を有する剥離コーティングフィルムを選択してもよく、所望の剥離特性を与えるようなフィルムを適宜設計して用いてもよい。
【0048】
工程3において、工程2で得た混合物を、2枚のフィルム間に積層される。その工程は特に制限されるものではないが、 (i) 剥離面を備えた第一のフィルム上に加熱溶融後の混合物を吐出乃至塗布した後、同混合物に対して第二のフィルムを接触させて第一のフィルムと第二のフィルム間に加熱溶融後の混合物を積層する工程であってもよく、(ii) 剥離面を備えた第一のフィルムおよび第二のフィルム間に加熱溶融後の混合物を吐出乃至塗布することで、両フィルム間に加熱溶融後の混合物を積層する工程であってもよい。これらの工程は、連続的な工程であることが特に好ましい。
【0049】
工程2で得た混合物は、一方のフィルムの剥離層上に吐出乃至塗布されることで供給され、当該混合物上から、他方のフィルムの剥離層を貼り合わせることで積層体が形成されてもよく、当該混合物を二つのフィルム間に連続的に吐出乃至塗布されることで供給することで積層体が形成されてもよい。この際、連続的な硬化性シリコーンシートの製造工程において、各フィルムは回転式のロールを介して工程2の混合物の供給位置に運搬され、フィルム間への積層操作が行われる。回転式のロール径および幅は、特に制限されないが、幅方向に均一に加圧できる構造であることが望ましい。加圧方法は特に制限されないが、エアーシリンダーまたは油圧式が好ましい。
【0050】
工程3における工程2で得た混合物のフィルム間への供給量は、その製造速度、スケールに応じて設計することができる。一例として、1~10kg/時間の供給量で、工程2で得た混合物のフィルム間に供給することができるが、いうまでもなく、これに限定されるものではない。ただし、工程3において、工程2で得た混合物をフィルム間に積層する量は、工程4において設計している硬化性シリコーンシートの平均厚みに応じて決定する必要があり、かつ、工程4において圧延加工が可能な厚みであることが必要である。
【0051】
工程1で得た混合物の加熱溶融粘度が低く、流動性に富む場合、工程3において、工程2で得た加熱溶融後の混合物は、ダイおよびノズルを用いてフィルム状または紐状(細口径の孔部から吐出される棒状成型物を含む)に成型しながら吐出され、フィルム間に積層されることが好ましい。ここで、ダイは当該混合物を仮成型するために使用され、その種類や仮成型時の厚みは特に制限されるものではないが、加熱できる構造を備えたT型ダイまたはストランドダイを用いて、100~2000μm(=2mm)の範囲の厚みを有する略シート状となるように仮成型することができ、かつ、好ましい。さらに、必要に応じて、これらのT型ダイまたはストランドダイの吐出口を吐出面(水平方向)について扁平状に変形させたダイを用いてもよい
【0052】
工程2で得た混合物の加熱溶融粘度が低く、流動性に富む場合、上記の仮成型後に、工程4の前工程としてまたは工程4において、工程3で得た積層体全体を冷却または温度調節する工程を含むことが好ましい。これは、加熱溶融物を冷却して固体状にすることで、工程4における加圧成型を効果的に行うためである。当該冷却工程は特に制限されるものではないが、冷却ロール、冷風等によりフィルム上に供給乃至積層された混合物を空冷あるいは冷却溶媒等の冷却手段を用いて-50℃~室温の範囲内で冷却することで行うことができる。
【0053】
一方で、工程2で得た混合物の加熱溶融粘度が高く、流動性が低い場合、工程3にて積層体全体を冷却してしまうと、混合物の粘度が高くなりすぎて膜厚の制御が困難となるため、工程4の前工程または工程4として、前記の積層体全体を80~120℃の間で温度調節する工程を含むことが好ましい。なお、温度調節の詳細については、工程4において説明する。他方、工程1で得た混合物の加熱溶融粘度が高く、流動性に乏しい場合、工程3において、半固体状の混合物を、仮成型を行うことなく、フィルム上に供給し、積層してよい。
【0054】
[工程4]
工程4は、上記の工程3で得た積層体をロール間で延伸し、特定の膜厚を有する硬化性シリコーンシートを成型する工程であり、フィルム上から工程2で得た混合物を加圧延伸し、均一な硬化性シリコーンシートの形態に成型する工程である。圧延ロールの組数は単一であっても複数であっても良い。
【0055】
工程4における圧延加工は、工程3で得た積層体に対して、ロール圧延等の公知の圧延方法を用いて行うことができる。特に、ロール圧延の場合、ロール間の隙間を調整することで、所望の厚さの硬化性シリコーンシートを設計することができる利点があり、例えば、平均厚みが10~2000μmの範囲でロール間の隙間を一定に調整して圧延することで、平坦性に優れ、かつ、上記のシート表面およびシート内部における欠陥の極めて少ない硬化性シリコーンシートを得ることができる。より詳細には、ロール圧延の場合、目的とするオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの平均厚みに対して1.5~4.0倍の範囲でロール間の隙間が調整されていることが特に好ましい。
【0056】
工程4により延伸を行うことにより、実質的に平坦な、厚さ10~2000μmの硬化性シリコーンシートを得ることができる。工程2における加熱溶融後の混合物を、工程3により剥離性フィルム間に積層した形態でロール延伸することにより、低欠陥かつ剥離による取扱作業性に優れる、ホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートを含む剥離性積層体を得ることができる。また膜厚計を取り付けることで、工程3で得た積層体に対して膜厚測定が可能となり、膜厚調整が容易となり、また膜厚の管理が管理できる。
【0057】
[工程4における温度調節]
工程4において、工程3で得た積層体をロール間で延伸する場合、当該ロールがさらに、温度調節機能を備え、ロール圧延時に積層体全体の温度調節、必要に応じて加熱または冷却を行うことが好ましい。当該温度調節により、ロール間の間隙を安定して保ち、得られるホットメルト性の硬化性シリコーンシートの平坦性および均一性(膜厚の均一性)を改善できる実益がある。具体的な温度調節の範囲は、フィルムの耐熱性や硬化性シリコーンシートの厚さ(設計厚み)、その反応性等に応じて適宜設計可能であるが、概ね、5~120℃の範囲内である。
【0058】
工程2で得た加熱溶融後の混合物の溶融粘度が高い場合、ロールにより積層する時点で混合物の温度が著しく下がってしまっていると混合物の粘度が高くなりすぎて、膜厚の制御が難しくなることがある。これを避けるために、混合物の加熱溶融粘度が高い場合は、混合物の温度を落とすことなく、回転式のロールに供給する必要がある。ロール自体を80~120℃の温度範囲に加熱しておくことや2軸押出機等の連続式の加熱混練装置の出口であるダイとロールとの距離を可能な限り狭める等の処置を施すことにより、加熱混練装置の出口温度とほぼ同じ温度で混合物を回転式ロールへと供給することができ、粘度が上昇することを防ぐことが可能である。
【0059】
他方、混合物の温度やロール自体の温度が120℃を著しく超えてしまうと、加熱硬化性の混合物の反応が進んでしまう懸念や使用するフィルムの耐熱性が低い場合、延伸中にフィルムに皺が入ってしまう等の懸念があるため、このステップでは精密な温度制御が必要となる。
【0060】
[工程2開始から工程4終了までの時間の制御]
前記工程2から工程4まで工業的に量産するという観点から連続工程であることが好ましいが、ホットメルト性の組成物として熱硬化性のものを取り扱う場合、工程1で硬化性シリコーン組成物が混合されるため、工程2開始から高温に長時間晒されると、組成物の硬化反応が進行しうる状態となり、最終的に得られるホットメルト性の硬化性シリコーンシートの硬化性に悪影響が及ぶ場合がある。これを防ぐために前述の混錬中の温度管理が重要となるが、さらに、工程2から工程4が終了し、得られたシリコーンシートの冷却が始まるまでの時間は短時間、具体的には、30分以内であることが好ましく、好ましくは15分以内、さらに好ましくは5分以内である。製造工程において、高温にさらされる時間が前記範囲内であると、熱硬化性の組成物からなるシリコーンシートを生産しても、反応が進むことなく、ホットメルト性に優れたシートを製造することが可能である。
【0061】
[工程3および工程4の統合]
なお、上記の製造方法において、工程3および工程4は連続的かつ一体化した工程であってよく、例えば、工程2で得た加熱溶融後の混合物は、ロール間の直下において、少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に吐出乃至塗布されることで積層され、それと同時にロール間の間隙調整により、特定の膜厚に延伸成型されてもよい。このように、工程3および工程4が実質的に統合された工程を有する製造方法も、上記の製造方法の範囲内に含まれる。
すなわち、工程3及び工程4は、工程2で得た混合物を2枚の剥離フィルムの間へ吐出乃至塗布して2枚の剥離フィルム間、例えば2枚の長尺の剥離フィルム間に前記の混合物を挟む工程と、それによって得られる2枚の剥離フィルム及びそれらの間に介装された前記の混合物からなる積層体を続けてロール間に通して剥離フィルム間の混合物を延伸成型し、所定の膜厚に調節して、目的とする積層体を得る工程とを連続して一体的に行ってもよい。このような工程3と工程4を一体的に行う方法も上述した製造方法に含まれる。
【0062】
[裁断工程]
工程4により、剥離性フィルム間にホットメルト性の硬化性シリコーンシートが介装された剥離性積層体を得ることができるが、任意により、当該硬化性シリコーンシートを含む積層体を裁断する工程を有してよい。これにより、所望のサイズのホットメルト性の硬化性シリコーンシートを含む剥離性積層体を得ることができる。裁断する装置は限定されないが、幅方向、および長さ方向を連続的に裁断できる装置が好ましく、ラインスピードが調整できる事が望ましい。ソルテック工業株式会社製のシートカッターを用いると連続で裁断できる。裁断する装置には、異物検査機を有すると裁断する前に異物を検知しマーキングし除去できる。
【0063】
[回転式ロール以降のパスライン]
また、工程4により、剥離性フィルム間にホットメルト性の硬化性シリコーンシートが介装された剥離性積層体の状態となるが、剥離性フィルムにフルオロシリコーン系のコーティング処理が施されたものを使用すると、シリコーンシートとの密着力が非常に弱くなる傾向があり、工程4以降のパスラインによってはフィルムがシリコーンシートから剥がれてしまう可能性がある。極端なU字のパスラインが存在するとそこでフィルムがシリコーンシートから剥がれやすいので、パスラインとしては延伸する回転式のロール以降は直線的であることが好ましい。この理由から裁断工程の前に巻き取り装置などで巻き取るのは避けた方が良く、連続的に裁断工程にて所望のサイズにカットしていくことが好ましい。
【0064】
[品質管理等を目的とする任意の工程]
工程4により、剥離性フィルム間にホットメルト性の硬化性シリコーンシートが介装された剥離性積層体の状態となるが、その後、実用上、品質管理を目的とする工程(例えば、特性値の計測や異物の有無を管理する工程)を含んでもよく、かつ、好ましい。当該工程は、カメラやビデオ等の光学的測定手段を備えた異物検知装置によって行われることが好ましい。
【0065】
[積層体]
以上の工程により得られる積層体は、オルガノポリシロキサン樹脂微粒子、硬化剤および機能性フィラーから少なくともなり、任意で、さらに、直鎖状のオルガノポリシロキサンその他の成分を含んでもよい、実質的に平坦な、厚さ10~2000μmのホットメルト性を有する硬化性シリコーンシートが、少なくとも1の剥離面を備えたフィルム間に積層された構造を備える、積層体である。なお、当該フィルムは、共に剥離面を備えてもよく、かつ、好ましい。
【0066】
[硬化性シリコーンシート]
本発明の製造方法により得られる硬化性シリコーンシートは、オルガノポリシロキサン樹脂微粒子、硬化剤および機能性フィラーを少なくとも含み、任意で、さらに、直鎖状のオルガノポリシロキサンその他の成分を含有する硬化性シリコーン組成物であり、ホットメルト性を有し、加熱溶融性の粘着材として使用することができ、硬化により、耐熱性や応力緩和に優れるシリコーン硬化物を形成する。特に、当該硬化性シリコーンシートは、成形性、ギャップフィル性及び接着力/粘着力に優れ、ダイアタッチフィルムやフィルム接着剤として使用することができる。また、コンプレッション成型、プレス成型、または真空ラミネーションにより封止層を形成する硬化性シリコーンシートとしても好適に使用することができる。どの用途に使用するにしても、当該硬化性シリコーンシートは、ホットメルト性を有するシート状製品であるので、大面積の接着や封止に好適に適用できる。
【0067】
具体的には、本発明の製造法により得られた硬化性シリコーンシートは、剥離性フィルムから引き剥がした後に、半導体等の所望の部位に配置し、凹凸や間隙に対するギャップフィル性を生かしたフィルム接着層を被着体に形成して、被着体間の仮固定、配置、及び、貼り合わせを行い、さらに、当該硬化性シリコーンシートを150℃以上に加熱して、被着体間に当該硬化性シリコーンシートの硬化物により接着させてもよい。なお、剥離性フィルムは、硬化性シリコーンシートを加熱して硬化物を形成させてから剥離してもよく、半導体等の基盤を封止する層として使用する場合にはこの様な使用が好ましい。当該硬化性シリコーンシートの用途および使用方法に応じて剥離のタイミングを選択してよい。
【0068】
当該硬化性シリコーンシートはホットメルト性のため、最終硬化前に、当該シートを加熱することで、柔軟化乃至流動化し、例えば、被着体の被着面に凹凸があっても、隙間なく凹凸や間隙を充填して、接着面を形成することができる。当該硬化性シリコーンシートの加熱手段としては、例えば各種の恒温槽や、ホットプレート、電磁加熱装置、加熱ロール等を用いることができる。より効率的に貼合と加熱を行うためには、例えば電熱プレス機や、ダイアフラム方式のラミネータ、ロールラミネータなどが好ましく用いられる。
【0069】
本発明にかかる硬化性シリコーンシートは、上記のとおり、溶融時のギャップフィル性、硬化物の室温~高温における柔軟性に優れることから、硬化物により、光半導体を含む半導体素子のオーバーモールド及びアンダーフィルを一度に行う被覆工程(いわゆる、モールドアンダーフィル法)を含む成型方法に極めて好適に用いることができる。さらに、本組成物は、上記の特性により、単独又は複数の半導体素子を搭載した半導体ウエハ基板の表面を覆い、かつ、半導体素子の間隙が当該硬化物により充填されるようにオーバーモールド成型する被覆工程(いわゆる、ウェハモールディング)を含む成型方法に好適に用いることができる。
【0070】
上記工程において、コンプレッション成型機、インジェクション成型機、補助ラム式成型機、スライド式成型器、二重ラム式成型機、または低圧封入用成型機、熱プレス、真空ラミネーター等を用いることができる。特に、本発明にかかる硬化性シリコーンシートは、プレス成型、コンプレッション成型、および真空ラミネーションにより硬化物を得る目的で好適に利用できる。
【0071】
硬化性シリコーンシートを熱硬化させる条件としてはその硬化系に応じて最適な温度を選択できる。ヒドロシリル化反応の場合は150℃以上が好ましく、有機過酸化物硬化の場合は170℃以上であることが好ましい。
【0072】
半導体等の保護部材として好適であることから、本発明にかかる硬化性シリコーンシートを硬化して得られる硬化物の25℃におけるタイプDデュロメータ硬さが20以上であることが好ましい。なお、このタイプDデュロメータ硬さは、JIS K 6253-1997「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」に準じてタイプDデュロメータによって求められる。
【0073】
さらに、柔軟性を要求されるフレキシブル用途の半導体の封止材として好適であることから、JIS K 6911-1995「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に規定の方法により測定した硬化物の曲げ伸び率は2%以上、あるいは4%以上であることが好ましい。
【0074】
[本発明にかかる硬化性シリコーンシートの用途]
本発明にかかる硬化性シリコーンシートは、ホットメルト性を有し、溶融(ホットメルト)時のギャップフィル性、取扱い作業性および硬化性が優れているので、半導体用の封止剤やアンダーフィル剤;SiC、GaN等のパワー半導体用の封止剤やアンダーフィル剤;発光ダイオード、フォトダイオード、フォトトランジスタ、レーザーダイオード等の光半導体用の封止剤や光反射材;電気・電子用の接着剤、ポッティング剤、保護剤、コーティング剤として好適である。また、本組成物は、ホットメルト性を有するので、プレス成型、コンプレッション成型、あるいは真空ラミネーションによる成形用の材料としても好適である。特に、成型時にモールドアンダーフィル法やウェハモールディング法を用いる半導体用の封止剤として用いることが好適である。
【0075】
特に、本発明にかかる硬化性シリコーンシートは、半導体基板(ウェハや光半導体基板含む)の大面積封止に利用できる。さらに、本発明の硬化性粒状シリコーン組成物をシート状に成型してなるシートは、ダイアタッチフィルム、フレキシブルデバイスの封止、二つの違う基材を接着する応力緩和層等に使用することができる。
【0076】
[本発明にかかる硬化性シリコーンシートの硬化物の用途]
本発明の硬化物の用途は特に制限されるものではないが、本発明組成物がホットメルト性を有し、成形性、ギャップフィル特性に優れ、かつ、硬化物は上記の室温における柔軟性、高い応力緩和特性、曲げ伸び率等を有する。このため、本組成物を硬化してなる硬化物は、半導体装置用部材として好適に利用することができ、光半導体を含む半導体素子やICチップ等の封止材、光半導体装置の光反射材、半導体装置の接着剤・結合部材として好適に用いることができる。
【0077】
上記硬化物からな部材を備えた半導体装置は特に制限されるものではないが、特に、パワー半導体装置、光半導体装置およびフレキシブル回路基盤に搭載された半導体装置であることが好ましい。
【0078】
[硬化性粒状シリコーン組成物]
本発明の硬化性シリコーンシートは、(A)オルガノポリシロキサン樹脂微粒子、(B)機能性無機フィラー、および(C)硬化剤を含有する硬化性粒状シリコーン組成物からなって良い。以下、当該組成物の各成分および任意成分について説明する。なお、本発明において、「平均粒子径」とは別に定義しない限り、粒子の一次平均粒子径を意味するものとする。また、平均粒子径10.0μm以上の機能性無機フィラーについて、「粗大粒子」と表記することがある。
【0079】
(A)成分は、本組成物の主剤であり、(C)硬化剤により硬化する、オルガノポリシロキサン樹脂微粒子である。ここで、(A)成分は、硬化反応性の官能基を有することが好ましく、縮合反応性基、ヒドロシリル化反応性基、ラジカル反応性基および過酸化物硬化性基から選ばれる1種類以上の官能基であるが、ヒドロシリル化反応性基およびラジカル反応性基が好ましく、特に、炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性の官能基であることが好ましい。
【0080】
(A)成分中のヒドロシリル化反応性基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基、およびケイ素原子結合水素原子が例示される。このヒドロシリル化反応性基としては、アルケニル基が好ましい。このアルケニル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、好ましくは、ビニル基、ヘキセニル基である。(A)成分は、一分子中に少なくとも2個のヒドロシリル化反応性基を有することが好ましい。
【0081】
(A)成分中のヒドロシリル化反応性基以外のケイ素原子に結合する基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン置換アルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン置換アリール基、炭素数7~20のアラルキル基、アルコキシ基、および水酸基が例示される。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ピレニル基等のアリール基;フェネチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;およびこれらの基に結合している水素原子の一部または全部を塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換した基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基が例示される。特に、フェニル基、水酸基が好ましい。
【0082】
また、(A)成分中のラジカル反応性基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等の炭素数1~20のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基;3-アクリロキシプロピル基、4-アクリロキシブチル基等のアクリル含有基;3-メタクリロキシプロピル基、4-メタクリロキシブチル基等のメタクリル含有基;およびケイ素原子結合水素原子が例示される。このラジカル反応性基としては、アルケニル基が好ましい。このアルケニル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、好ましくは、ビニル基、ヘキセニル基である。(A)成分は、一分子中に少なくとも2個のラジカル反応性基を有することが好ましい。
【0083】
(A)成分中のラジカル反応性基以外のケイ素原子に結合する基としては、炭素数1~20のハロゲン置換アルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン置換アリール基、炭素数7~20のアラルキル基、アルコキシ基、および水酸基が例示され、前記と同様の基が例示される。特に、フェニル基、水酸基が好ましい。特に、(A)成分は、分子中の全有機基の10モル%以上がアリール基、特に、フェニル基であることが好ましい。
【0084】
本発明において、(A)成分は、好適には、硬化反応性の官能基を有するオルガノポリシロキサン樹脂微粒子を含むものであるが、当該オルガノポリシロキサン樹脂微粒子は、分子全体としてホットメルト性であってもよく、分子全体としてホットメルト性を有しないオルガノポリシロキサン樹脂微粒子を含んでも。なお、当該オルガノポリシロキサン樹脂微粒子がホットメルト性を有しない場合、直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンとの混合物であることが好ましい。さらに、硬化反応性の官能基を有さず、分子全体としてホットメルト性を有しないオルガノポリシロキサン樹脂微粒子を併用してもよく、かつ、好ましい。
【0085】
すなわち、(A)成分の少なくとも一部または全部が、
(A1-1)軟化点が30℃以上であり、分子内に少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性の官能基を有するホットメルト性のオルガノポリシロキサン樹脂微粒子
であってもよい。
【0086】
一方、(A)成分であるオルガノポリシロキサン樹脂はそれ自体ホットメルト性を有しないオルガノポリシロキサン樹脂であってよく、
(A1-2-1)分子全体としてホットメルト性を有さず、分子内に炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性の官能基を有さず、かつ、SiO4/2で表されるシロキサン単位を全シロキサン単位の少なくとも20モル%以上含有するオルガノポリシロキサン樹脂微粒子、および
(A1-2-2)分子全体としてホットメルト性を有さず、分子内に少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性の官能基を有し、かつ、SiO4/2で表されるシロキサン単位を全シロキサン単位の少なくとも20モル%以上含有するオルガノポリシロキサン樹脂微粒子
から選ばれる1種類以上、またはこれらの混合物であることが特に好ましい。ただし、これらのオルガノポリシロキサン樹脂はそれ自体ではホットメルト性を有しないので、
(A2)25℃において液状または可塑度を有する半固体状の直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンであって、分子内に少なくとも2個の炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性の官能基を有するもの
との混合物である必要がある。
【0087】
特に好適には、(A)成分であるオルガノポリシロキサン樹脂微粒子は、(A1-2-1)成分、(A1-2-2)成分および(A2)成分の混合物からなり、混合物全体がホットメルト性を有する固形分からなる微粒子である。
以下、これらの成分について説明する。
【0088】
[(A1)成分]
(A1)成分は、それ自体がホットメルト性を有し、分子内に少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性の官能基を有するため、後述する(C)硬化剤により硬化する。このような(A1)成分は、
(A)樹脂状オルガノポリシロキサン、
(A)少なくとも1種のオルガノポリシロキサンを架橋してなるオルガノポリシロキサン架橋物、
(A)樹脂状オルガノシロキサンブロックと鎖状オルガノシロキサンブロックからなるブロックコポリマー、
またはこれらの少なくとも2種の混合物
からなるオルガノポリシロキサン樹脂微粒子が好ましい。
【0089】
(A)成分はヒドロシリル化反応性基および/またはラジカル反応性基を有する樹脂状オルガノポリシロキサンであり、T単位又はQ単位を多く有し、アリール基を有するホットメルト性の樹脂状オルガノポリシロキサンであることが好ましい。このような(A)成分としては、トリオルガノシロキシ単位(M単位)(オルガノ基はメチル基のみ、メチル基とビニル基またはフェニル基である。)、ジオルガノシロキシ単位(D単位)(オルガノ基はメチル基のみ、メチル基とビニル基またはフェニル基である。)、モノオルガノシロキシ単位(T単位)(オルガノ基はメチル基、ビニル基、またはフェニル基である。)及びシロキシ単位(Q単位)の任意の組み合わせからなるMQ樹脂、MDQ樹脂、MTQ樹脂、MDTQ樹脂、TD樹脂、TQ樹脂、TDQ樹脂が例示される。なお、(A)成分は、分子中に少なくとも2個のヒドロシリル化反応性基および/またはラジカル反応性基を有し、分子中の全有機基の10モル%以上がアリール基、特に、フェニル基であることが好ましい。
【0090】
(A)成分は、少なくとも1種のオルガノポリシロキサンを架橋してなるので、(C)硬化剤により硬化する際にクラックが発生しにくく、硬化収縮を小さくすることができる。ここで、「架橋」とは、原料であるオルガノポリシロキサンをヒドロシリル化反応、縮合反応、ラジカル反応、高エネルギー線反応等により、前記オルガノポリシロキサンを連結することである。このヒドロシリル化反応性基やラジカル反応性基(高エネルギー線反応性基を含む)としては、前記と同様の基が例示され、縮合反応性基としては、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アシルオキシ基が例示される。
【0091】
(A)成分を構成する単位は限定されず、シロキサン単位、シルアルキレン基含有シロキサン単位が例示され、また、得られる硬化物に十分な硬度と機械的強度を付与することから、同一分子内に樹脂状ポリシロキサン単位と鎖状ポリシロキサン単位を有することが好ましい。すなわち、(A)成分は、樹脂状(レジン状)オルガノポリシロキサンと鎖状(直鎖状または分岐鎖状を含む)オルガノポリシロキサンとの架橋物であることが好ましい。(A)成分中に、樹脂状オルガノポリシロキサン構造-鎖状オルガノポリシロキサン構造を導入することで、(A)成分は良好なホットメルト性を示すと共に、(C)硬化剤により、良好な硬化性を示す。
【0092】
(A)成分は、
(1)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと一分子中にケイ素原子結合水素原子を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンのヒドロシリル化反応を経て、分子中に樹脂状オルガノポリシロキサン構造-鎖状オルガノポリシロキサン構造をアルキレン結合により連結したもの
(2)一分子中に少なくとも2個のラジカル反応性基を有する少なくとも2種のオルガノポリシロキサンの有機過酸化物によるラジカル反応を経て、分子中に樹脂状オルガノポリシロキサン構造-鎖状オルガノポリシロキサン構造をシロキサン結合またはアルキレン結合により連結したもの
(3)少なくとも2種のオルガノポリシロキサンの縮合反応を経て、分子中に樹脂状オルガノポリシロキサン構造-鎖状オルガノポリシロキサン構造をシロキサン(-Si-O-Si-)結合により連結したもの
のいずれかである。このような(A)成分は、樹脂構造-鎖状構造のオルガノポリシロキサン部分がアルキレン基または新たなシロキサン結合により連結された構造を有するので、ホットメルト性が著しく改善される。
【0093】
上記(1)および(2)において、(A)成分中に含まれるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等の炭素数2~20のアルケニル基が例示され、これらは直鎖状でも分岐鎖状でもよく、好ましくは、エチレン基、ヘキシレン基である。
【0094】
樹脂状オルガノポリシロキサンと鎖状(直鎖状または分岐鎖状を含む)オルガノポリシロキサンの架橋物は、例えば、以下のシロキサン単位およびシルアルキレン基含有シロキサン単位により構成される。
M単位:R SiO1/2で表されるシロキサン単位、
D単位:RSiO2/2で表されるシロキサン単位、
M/RD単位:R 1/2 SiO1/2で表されるシルアルキレン基含有シロキサン単位およびR 1/2SiO2/2で表されるシルアルキレン基含有シロキサン単位から選ばれる少なくとも1種のシロキサン単位、ならびに
T/Q単位:RSiO3/2で表されるシロキサン単位およびSiO4/2で表されるシロキサン単位から選ばれる少なくとも1種のシロキサン単位
【0095】
式中、Rは、各々独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン置換アルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン置換アリール基、または炭素数7~20のアラルキル基であり、前記と同様の基が例示される。Rは、メチル基、ビニル基、フェニル基が好ましい。ただし、全シロキサン単位のうち、少なくとも2個のRはアルケニル基であることが好ましい。
【0096】
また、式中、Rは、各々独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン置換アルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン置換アリール基、または炭素数7~20のアラルキル基であり、前記Rと同様の基が例示される。Rは、メチル基、フェニル基が好ましい。
【0097】
また、式中、Rは他のシロキサン単位中のケイ素原子に結合した、直鎖状または分岐鎖状の炭素数2~20のアルキレン基である。アルキレン基としては、前記と同様の基が例示され、エチレン基、ヘキシレン基が好ましい。
【0098】
M単位は(A)成分の末端を構成するシロキサン単位であり、D単位は直鎖状のポリシロキサン構造を構成するシロキサン単位である。なお、これらのM単位またはD単位、特に、M単位上にアルケニル基があることが好ましい。一方、RM単位およびRD単位はシルアルキレン結合を介して他のシロキサン単位中のケイ素原子に結合し、かつ、酸素原子を介して他のシロキサン単位中のケイ素原子に結合するシロキサン単位である。T/Q単位はポリシロキサンに樹脂状の構造を与える分岐のシロキサン単位であり、(A)成分がRSiO3/2で表されるシロキサン単位および/またはSiO4/2で表されるシロキサン単位を含むことが好ましい。特に、(A)成分のホットメルト性を向上させ、(A)成分中のアリール基の含有量を調整することから、(A)成分はRSiO3/2で表されるシロキサン単位を含むことが好ましく、特に、Rがフェニル基であるシロキサン単位を含むことが好ましい。
【0099】
M/RD単位は、(A)成分の特徴的な構造の1つであり、Rのアルキレン基を介して、ケイ素原子間が架橋された構造を表す。具体的には、R 1/2 SiO1/2で表されるアルキレン基含有シロキサン単位およびR 1/2SiO2/2で表されるアルキレン基含有シロキサン単位から選ばれる少なくとも1種のシロキサン単位であり、(A)成分を構成する全シロキサン単位の少なくとも二つはこれらのアルキレン基含有シロキサン単位であることが好ましい。Rのアルキレン基を有するシロキサン単位間の好適な結合形態は前記の通りであり、二つのアルキレン基含有シロキサン単位間のRの数は、M単位における酸素等と同様に結合価「1/2」として表現している。仮にRの数を1とすれば、[O1/2 SiRSiR 1/2]、[O1/2 SiRSiR2/2]および[O2/2SiRSiR2/2]で表されるシロキサンの構造単位から選ばれる少なくとも1以上が(A)成分中に含まれ、各酸素原子(O)は、前記のM,D,T/Q単位に含まれるケイ素原子に結合する。かかる構造を有することで、(A)成分は、D単位からなる鎖状ポリシロキサン構造、T/Q単位を含む樹脂状ポリシロキサン構造を分子内に有する構造を比較的容易に設計可能であり、その物理的物性において著しく優れたものである。
【0100】
上記(1)において、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと一分子中にケイ素原子結合水素原子を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンとを、[アルケニル基のモル数]/[ケイ素原子結合水素原子のモル数]>1となる反応比でヒドロシリル化反応させることにより得ることができる。
【0101】
上記(2)において、一分子中に少なくとも2個のラジカル反応性基を有する少なくとも2種のオルガノポリシロキサンを、系中の全てのラジカル反応性基が反応するには足りない量の有機過酸化物によるラジカル反応させることにより得ることができる。
【0102】
上記(1)および(2)において、(A)成分は、樹脂状シロキサン構造を有するオルガノポリシロキサンと、鎖状シロキサン構造を有するオルガノポリシロキサンをヒドロシリル化反応またはラジカル反応したものである。
【0103】
例えば、(A)成分は、
(A)分子中にRSiO3/2(式中、Rは、前記と同様の基である。)で表されるシロキサン単位および/またはSiO4/2で表されるシロキサン単位を含有し、かつ、炭素数2~20のアルケニル基またはケイ素原子結合水素原子あるいはラジカル反応性の基を有する、少なくとも1種の樹脂状オルガノポリシロキサン、および
(A)分子中にR SiO2/2で表されるシロキサン単位(式中、Rは、前記と同様の基である。)を含有し、かつ、前記の(A)成分とヒドロシリル化反応またはラジカル反応可能な基であって、炭素数2~20のアルケニル基またはケイ素原子結合水素原子を有する少なくとも1種の鎖状オルガノポリシロキサンを、
(A)成分または(A)成分中のヒドロシリル化反応性基および/またはラジカル反応性基が反応後に残存するように設計された比率で反応させて得たオルガノポリシロキサンである。
【0104】
上記(1)において、(A)成分の少なくとも一部が、炭素数2~20のアルケニル基を有する樹脂状オルガノポリシロキサンである場合、(A)成分の少なくとも一部はケイ素原子結合水素原子を有する鎖状オルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0105】
同様に、(A)成分の少なくとも一部が、ケイ素原子結合水素原子を有する樹脂状オルガノポリシロキサンである場合、(A)成分の少なくとも一部は炭素数2~20のアルケニル基を有する鎖状オルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0106】
このような(A)成分は、
(a)成分:下記(a1-1)成分および/または下記(a1-2)成分からなる分子中に炭素数2~20のアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンを有機過酸化物でラジカル反応させたもの、または
(a)成分と、
(a)オルガノハイドロジェンポリシロキサンを、
ヒドロシリル化反応用触媒の存在下において、上記(a)成分に含まれる炭素原子数2~20のアルケニル基に対して、上記(a)成分中のケイ素原子結合水素原子のモル比が0.2~0.7モルとなる量でヒドロシリル化反応させたものが好ましい。
【0107】
(a1-1)成分は、分岐単位の量が比較的多いポリシロキサンであり、平均単位式:
(R SiO1/2)(R SiO2/2)(RSiO3/2)(SiO4/2)(R1/2)
で表される一分子中にアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンである。式中、Rは、各々独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン置換アルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン置換アリール基、または炭素数7~20のアラルキル基であり、前記Rと同様の基が例示される。Rは、メチル基、ビニル基、またはフェニル基であることが好ましい。ただし、Rの少なくとも2個はアルケニル基である。また、ホットメルト性が良好であることから、全Rの10モル%以上、あるいは20モル%以上がフェニル基であることが好ましい。また、式中、Rは水素原子または炭素数1~6のアルキル基であり、前記と同様のアルキル基が例示される。
【0108】
また、式中、aは0~0.7の範囲内の数、bは0~0.7の範囲内の数、cは0~0.9の範囲内の数、dは0~0.7の範囲内の数、eは0~0.1の範囲内の数、かつ、c+dは0.3~0.9の範囲内の数、a+b+c+dは1であり、好ましくは、aは0~0.6の範囲内の数、bは0~0.6の範囲内の数、cは0~0.9の範囲内の数、dは0~0.5の範囲内の数、eは0~0.05の範囲内の数、かつ、c+dは0.4~0.9の範囲内の数、a+b+c+dは1である。これは、a、b、およびc+dがそれぞれ上記範囲内の数であると、得られる硬化物の硬度や機械的強度が優れたものとなるからである。
【0109】
このような(a1-1)成分としては、次のオルガノポリシロキサンが例示される。式中、Me、Ph、Viはそれぞれメチル基、フェニル基、ビニル基を表す。
(ViMeSiO1/2)0.25(PhSiO3/2)0.75(HO1/2)0.02
(ViMeSiO1/2)0.25(PhSiO3/2)0.75
(ViMeSiO1/2)0.20(PhSiO3/2)0.80
(ViMeSiO1/2)0.15(MeSiO1/2)0.38(SiO4/2)0.47(HO1/2)0.01
(ViMeSiO1/2)0.13(MeSiO1/2)0.45(SiO4/2)0.42(HO1/2)0.01
(ViMeSiO1/2)0.15(PhSiO3/2)0.85(HO1/2)0.01
(MeSiO2/2)0.15(MeViSiO2/2)0.10(PhSiO3/2)0.75(HO1/2)0.04
(MeViPhSiO1/2)0.20(PhSiO3/2)0.80(HO1/2)0.05
(ViMeSiO1/2)0.15(PhSiO3/2)0.75(SiO4/2)0.10(HO1/2)0.02
(PhSiO2/2)0.25(MeViSiO2/2)0.30(PhSiO3/2)0.45(HO1/2)0.04
(MeSiO1/2)0.20(ViMePhSiO1/2)0.40(SiO4/2)0.40(HO1/2)0.08
【0110】
(a1-2)成分は、鎖状シロキサン単位の量が比較的多いポリシロキサンであり、平均単位式:
(R SiO1/2)a'(R SiO2/2)b'(RSiO3/2)c'(SiO4/2)d'(R1/2)e'
で表される、一分子中に炭素数2~20のアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンである。式中、RおよびRは前記と同様の基である。
【0111】
また、式中、a'は0.01~0.3の範囲内の数、b'は0.4~0.99の範囲内の数、c'は0~0.2の範囲内の数、d'は0~0.2の範囲内の数、e'は0~0.1の範囲内の数、かつ、c'+d'は0~0.2の範囲内の数、a'+b'+c'+d'は1であり、好ましくは、a'は0.02~0.20の範囲内の数、b'は0.6~0.99の範囲内の数、c'は0~0.1の範囲内の数、d'は0~0.1の範囲内の数、j'は0~0.05の範囲内の数、かつ、c'+d'は0~0.1の範囲内の数、a'+b'+c'+d'は1である。これは、a'、b'、c'、d'がそれぞれ上記範囲内の数であると、得られる硬化物に強靭性を付与できるからである。
【0112】
このような(a1-2)成分としては、次のオルガノポリシロキサンが例示される。式中、Me、Ph、Viはそれぞれメチル基、フェニル基、ビニル基を表す。
ViMeSiO(MePhSiO)18SiMeVi、すなわち、(ViMeSiO1/2)0.10(MePhSiO2/2)0.90
ViMeSiO(MePhSiO)30SiMeVi、すなわち、(ViMeSiO1/2)0.063(MePhSiO2/2)0.937
ViMeSiO(MePhSiO)150SiMeVi、すなわち、(ViMeSiO1/2)0.013(MePhSiO2/2)0.987
ViMeSiO(MeSiO)18SiMeVi、すなわち、(ViMeSiO1/2)0.10(MeSiO2/2)0.90
ViMeSiO(MeSiO)30SiMeVi、すなわち、(ViMeSiO1/2)0.063(MeSiO2/2)0.937
ViMeSiO(MeSiO)35(MePhSiO)13SiMeVi、すなわち、(ViMeSiO1/2)0.04(MeSiO2/2)0.70(MePhSiO2/2)0.26
ViMeSiO(MeSiO)10SiMeVi、すなわち、(ViMeSiO1/2)0.17(MeSiO2/2)0.83
(ViMeSiO1/2)0.10(MePhSiO2/2)0.80(PhSiO3/2)0.10(HO1/2)0.02
(ViMeSiO1/2)0.20(MePhSiO2/2)0.70(SiO4/2)0.10(HO1/2)0.01
HOMeSiO(MeViSiO)20SiMeOH
MeViSiO(MePhSiO)30SiMeVi
MeViSiO(MeSiO)150SiMeVi
【0113】
(a1-1)成分は得られる硬化物に硬度と機械的強度を付与するという観点から好ましく用いられる。(a1-2)成分は得られる硬化物に強靭性を付与できるという観点から任意成分として添加できるが、以下の(a)成分で鎖状シロキサン単位を多く有する架橋剤を用いる場合はそちらで代用してもよい。いずれの場合においても、分岐状シロキサン単位を多く有する成分と鎖状シロキサン単位を多く有する成分の質量比が50:50~100:0の範囲内、あるいは60:40~100:0の範囲内であることが好ましい。これは、分岐状シロキサン単位を多く有する成分と鎖状シロキサン単位を多く有する成分との質量比が上記範囲内の値であると、得られる硬化物の硬度ならびに機械的強度が良好となるからである。
【0114】
なお、(a)成分を、有機過酸化物によるラジカル反応する場合、(a1-1)成分と(a1-2)成分を10:90~90:10の範囲内で反応させ、(a)成分を用いなくてもよい。
【0115】
(a)成分は、ヒドロシリル化反応において、(a1-1)成分および/または(a1-2)成分を架橋するための成分であり、一分子中にケイ素原子結合水素原子を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサンである。(a)成分中の水素原子以外のケイ素原子に結合する基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン置換アルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン置換アリール基、炭素数7~20のアラルキル基、アルコキシ基、エポキシ基含有基、または水酸基が例示され、前記と同様の基が例示される。
【0116】
このような(a)成分は限定されないが、好ましくは、平均組成式:
SiO(4-k-m)/2
で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。式中、Rは、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン置換アルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン置換アリール基、または炭素数7~20のアラルキル基であり、前記Rと同様の基が例示され、好ましくは、メチル基、またはフェニル基である。
【0117】
また、式中、kは1.0~2.5の範囲の数、好ましくは、1.2~2.3の範囲の数であり、mは0.01~0.9の範囲の数、好ましくは、0.05~0.8の範囲の数であり、かつ、k+mは1.5~3.0の範囲の数、好ましくは、2.0~2.7の範囲の数である。
【0118】
(a)成分は、分岐状シロキサン単位を多く有する樹脂状オルガノハイドロジェンポリシロキサンであってもよく、鎖状シロキサン単位を多く有する鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンであってもよい。具体的には、(a)成分は、下記(a2-1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、下記(a2-2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、またはこれらの混合物が例示される。
【0119】
(a2-1)成分は、平均単位式:
[R SiO1/2][R SiO2/2][RSiO3/2][SiO4/2](R1/2)
で表されるケイ素原子結合水素原子を有する樹脂状オルガノハイドロジェンポリシロキサンである。式中、Rは、各々独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン置換アルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン置換アリール基、炭素数7~20のアラルキル基、または水素原子であり、前記Rと同様の基が例示される。また、式中、Rは水素原子または炭素数1~6のアルキル基であり、前記と同様の基が例示される。
【0120】
また、式中、fは0~0.7の範囲内の数、gは0~0.7の範囲内の数、hは0~0.9の範囲内の数、iは0~0.7の範囲内の数、jは0~0.1の範囲内の数、かつ、h+iは0.3~0.9の範囲内の数、f+g+h+iは1であり、好ましくは、fは0~0.6の範囲内の数、gは0~0.6の範囲内の数、hは0~0.9の範囲内の数、iは0~0.5の範囲内の数、jは0~0.05の範囲内の数、かつ、h+iは0.4~0.9の範囲内の数、f+g+h+iは1である。
【0121】
(a2-2)成分は、平均単位式:
(R SiO1/2)f'(R SiO2/2)g'(RSiO3/2)h'(SiO4/2)i'(R1/2)j'
で表される、一分子中にケイ素原子結合水素原子を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンである。式中、RおよびRは前記と同様の基である。
【0122】
また、式中、f'は0.01~0.3の範囲内の数、g'は0.4~0.99の範囲内の数、h'は0~0.2の範囲内の数、i'は0~0.2の範囲内の数、j'は0~0.1の範囲内の数、かつ、h'+i'は0~0.2の範囲内の数、f'+g'+h'+i'は1であり、好ましくは、f'は0.02~0.20の範囲内の数、g'は0.6~0.99の範囲内の数、h'は0~0.1の範囲内の数、i'は0~0.1の範囲内の数、j'は0~0.05の範囲内の数、かつ、h'+i'は0~0.1の範囲内の数、f'+g'+h'+i'は1である。
【0123】
上記のとおり、(a)成分において、分岐状シロキサン単位を多く有するレジン状のオルガノポリシロキサンは、硬化物に硬度と機械的強度を付与し、鎖状シロキサン単位を多く有する得られるオルガノポリシロキサンは、硬化物に強靭性を付与するものであるので、(a)成分として(a2-1)成分と(a2-2)成分を適宜用いることが好ましい。具体的には、(a)成分中に分岐状シロキサン単位が少ない場合には、(a)成分として(a2-1)成分を主に用いることが好ましく、(a)成分中に鎖状シロキサン単位が少ない場合には、(a2-2)成分を主に用いることが好ましい。(a)成分は、(a2-1)成分と(a2-2)成分の質量比が50:50~100:0の範囲内、あるいは60:40~100:0の範囲内であることが好ましい。
【0124】
このような(a)成分としては、次のオルガノポリシロキサンが例示される。式中、Me、Phはそれぞれメチル基、フェニル基を表す。
PhSi(OSiMeH)、すなわち、Ph0.67Me1.330.67SiO0.67
HMeSiO(MeSiO)20SiMeH、すなわち、Me2.000.09SiO0.95
HMeSiO(MeSiO)55SiMeH、すなわち、Me2.000.04SiO0.98
PhSi(OSiMeH)、すなわち、Ph0.25Me1.500.75SiO0.75
(HMeSiO1/2)0.6(PhSiO3/2)0.4、すなわち、Ph0.40Me1.200.60SiO0.90
【0125】
(a)成分の添加量は、(a)成分中のアルケニル基に対して、(a)成分中のケイ素原子結合水素原子のモル比が0.2~0.7となる量であり、好ましくは、0.3~0.6となる量である。これは、(a)成分の添加量が上記範囲内であると、得られる硬化物の初期の硬度および機械的強度が良好となるためである。
【0126】
(a)成分をラジカル反応するために用いる有機過酸化物は限定されず、下記(C)成分で例示する有機過酸化物を用いることができる。ラジカル反応する際、(a)成分は、(a1-1)成分と(a1-2)成分の質量比が10:90~90:10の範囲内の混合物であることが好ましい。なお、有機過酸化物の添加量は限定されないが、(a)成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲内、0.2~3質量部の範囲内、あるいは0.2~1.5質量部の範囲内であることが好ましい。
【0127】
また、(a)成分と(a)成分とをヒドロシリル化反応するために用いるヒドロシリル化反応用触媒は限定されず、下記(C)成分で例示するヒドロシリル化反応用触媒を用いることができる。なお、ヒドロシリル化反応用触媒の添加量は、(a)成分と(a)成分の合計量に対して、ヒドロシリル化反応用触媒中の白金系金属原子が質量単位で、0.01~500ppmの範囲内、0.01~100ppmの範囲内、あるいは0.01~50ppmの範囲内となる量であることが好ましい。
【0128】
上記(A)は、下記(a)成分および下記(a)成分を、縮合反応用触媒により縮合反応させたものである。
【0129】
(a)成分は、平均単位式:
(R SiO1/2)(R SiO2/2)(RSiO3/2)(SiO4/2)(R1/2)
で表される縮合反応性のオルガノポリシロキサンである。式中、Rは、各々独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン置換アルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン置換アリール基、または炭素数7~20のアラルキル基であり、前記と同様の基が例示される。また、式中のRは水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数2~5のアシル基であり、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;アシルオキシ基が例示される。(a)成分は、一分子中に少なくとも1個のケイ素原子結合水酸基、ケイ素原子結合アルコキシ基、またはケイ素原子結合アシロキシ基を有する。また、一分子中、少なくとも2個のRはアルケニル基であり、全Rの10モル%以上、または20モル%以上がフェニル基であることが好ましい。
【0130】
式中、pは0~0.7の範囲内の数、qは0~0.7の範囲内の数、rは0~0.9の範囲内の数、sは0~0.7の範囲内の数、tは0.01~0.10の範囲内の数、かつ、r+sは0.3~0.9の範囲内の数、p+q+r+sは1であり、好ましくは、pは0~0.6の範囲内の数、qは0~0.6の範囲内の数、rは0~0.9の範囲内の数、sは0~0.5の範囲内の数、tは0.01~0.05の範囲内の数、かつ、r+sは0.4~0.9の範囲内の数である。これは、p、q、およびr+sがそれぞれ上記範囲内の数であると、25℃において柔軟性を持ちつつも、非流動性で、表面粘着性が低く、高温での溶融粘度が十分に低いホットメルト性のシリコーンが得られるからである。
【0131】
(a)成分は、平均単位式:
(R SiO1/2)p'(R SiO2/2)q'(RSiO3/2)r'(SiO4/2)s'(R1/2)t'
で表される縮合反応性のオルガノポリシロキサンである。式中、RおよびRは前記と同様の基である。(a)成分は、一分子中に少なくとも1個のケイ素原子結合水酸基、ケイ素原子結合アルコキシ基、またはケイ素原子結合アシロキシ基を有する。また、式中、p'は0.01~0.3の範囲内の数、q'は0.4~0.99の範囲内の数、r'は0~0.2の範囲内の数、s'は0~0.2の範囲内の数、t'は0~0.1の範囲内の数、かつ、r'+s'は0~0.2の範囲内の数、p'+q'+r'+s'は1であり、好ましくは、p'は0.02~0.20の範囲内の数、q'は0.6~0.99の範囲内の数、r'は0~0.1の範囲内の数、s'は0~0.1の範囲内の数、t'は0~0.05の範囲内の数、かつ、r'+s'は0~0.1の範囲内の数である。これは、p'、q'、r'、s'がそれぞれ上記範囲内の数であると、25℃において柔軟性を持ちつつも、非流動性で、表面粘着性が低く、高温での溶融粘度が十分に低いホットメルト性のシリコーンが得られるからである。
【0132】
(a)成分と(a)成分を縮合反応するための縮合反応用触媒は限定されず、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、オクテン酸錫、ジブチル錫ジオクテート、ラウリン酸錫等の有機錫化合物;テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート、ジブトキシビス(エチルアセトアセテート)等の有機チタン化合物;その他、塩酸、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の酸性化合物;アンモニア、水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン(DBU)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)等のアミン系化合物が例示され、好ましくは、有機錫化合物、有機チタン化合物である。
【0133】
また、(A)成分は、樹脂状オルガノシロキサンブロックと鎖状オルガノシロキサンブロックからなるブロックコポリマーである。このような(A)成分は、好ましくは、40~90モル%の式[R SiO2/2]のジシロキシ単位、10~60モル%の式[RSiO3/2]のトリシロキシ単位からなり、0.5~35モル%のシラノール基[≡SiOH]を含むことが好ましい。ここで、Rは、各々独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン置換アルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン置換アリール基、または炭素数7~20のアラルキル基であり、前記と同様の基が例示される。一分子中、少なくとも2個のRはアルケニル基である。また、前記ジシロキシ単位[R SiO2/2]は、1つの直鎖ブロック当たりに平均して100~300個のジシロキシ単位を有する直鎖ブロックを形成し、前記トリシロキシ単位[RSiO3/2]は、少なくとも500g/モルの分子量を有する非直鎖ブロックを形成し、少なくとも30%の非直鎖ブロックが互いに結合しており、各直鎖ブロックは、少なくとも1つの非直鎖ブロックと-Si-O-Si-結合を介して結合しており、少なくとも20000g/モルの質量平均分子量を有し、0.5~4.5モル%の少なくとも1つのアルケニル基を含む、樹脂状オルガノシロキサンブロック共重合体である。
【0134】
(A)成分は、(a)樹脂状オルガノシロキサンまたは樹脂状オルガノシロキサンブロック共重合体と、(a)鎖状オルガノシロキサン、さらに必要に応じて(a)シロキサン化合物を縮合反応して調製される。
【0135】
(a)成分は、平均単位式:
[R SiO1/2][RSiO2/2]ii[RSiO3/2]iii[RSiO3/2]iv[SiO4/2]
で表される樹脂状オルガノシロキサンである。式中、Rは、各々独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン置換アルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン置換アリール基、または炭素数7~20のアラルキル基であり、前記と同様の基が例示される。また、式中、Rは、各々独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン置換アルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のハロゲン置換アリール基、または炭素数7~20のアラルキル基であり、前記Rと同様の基が例示される。
【0136】
また、式中、i、ii、iii、iv、およびvは、各シロキシ単位のモル分率を表し、iは0~0.6の数であり、iiは0~0.6の数であり、iiiは0~1の数であり、ivは0~1の数であり、vは0~0.6の数であり、ただし、ii+iii+iv+v>0であり、かつ、i+ii+iii+iv+v≦1である。また、(a)成分は、一分子中に0~35モル%のシラノール基[≡SiOH]を含むことが好ましい。
【0137】
(a)成分は、一般式:
3-α(X)αSiO(R SiO)βSi(X)α 3-α
で表される直鎖状のオルガノシロキサンである。式中、Rは前記と同じであり、前記と同様の基が例示される。また、式中、Xは、-OR、F、Cl、Br、I、-OC(O)R、-N(R、または-ON=CR (ここで、Rは水素原子または炭素数1~6のアルキル基である。)から選択される加水分解性基である。また、式中、αは、各々独立して、1、2、または3であり、βは50~300の整数である。
【0138】
(a)成分は、一般式:
SiX
で表されるシロキサン化合物である。式中、R、R、およびXは前記と同様の基である。
【0139】
(a)成分と(a)成分および/または(a)成分を縮合反応するための縮合反応用触媒は限定されず、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、オクテン酸錫、ジブチル錫ジオクテート、ラウリン酸錫等の有機錫化合物;テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート、ジブトキシビス(エチルアセトアセテート)等の有機チタン化合物;その他、塩酸、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の酸性化合物;アンモニア、水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン(DBU)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)等のアミン系化合物が例示される。
【0140】
[(A1-2-1)成分]
本発明の、(A1-2-1)成分は、分子内に炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性の官能基を有しない非ホットメルト性のオルガノポリシロキサン樹脂である。当該成分は有機溶媒に可溶であり、工業的には有機溶媒中で合成される。
【0141】
(A1-2-1)成分は分子全体としてホットメルト性を有さず、分子内に炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性の官能基を有さず、かつ、SiO4/2で表されるシロキサン単位を全シロキサン単位の少なくとも20モル%以上含有するオルガノポリシロキサン樹脂微粒子であり、本成分を、(A1)成分の一部として、(A2)成分である直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンと所定の量的範囲で併用することで、組成物全体としてのホットメルト性を実現する成分である。
【0142】
(A1-2-1)成分は、分子全体としてホットメルト性を有さず、無溶媒の状態で固体状のオルガノポリシロキサン樹脂である。ここで、ホットメルト性を有しないとは、(A1-2-1)成分である樹脂がそれ単独では加熱溶融挙動を示さないことであり、具体的には、軟化点および溶融粘度を有さないことを意味する。
【0143】
好適には、(A1-2-1)成分中のケイ素原子に結合した官能基は、メチル基であり、全てのケイ素原子に結合した官能基の70モル%以上がメチル基であることが好ましく、80モル%以上がメチル基あることがより好ましく、88モル%以上がメチル基であることが特に好ましい。かかる範囲において、(A1-2-1)成分はホットメルト性ではなく、その硬化物の高温下における耐着色性等に特に優れる成分として設計可能である。なお、当該(A)成分中には、少量の水酸基またはアルコキシ基を含んでもよい。
【0144】
(A1-2-1)成分は、分子内に炭素-炭素二重結合を有する硬化反応性基を有しないので、それ自体では、硬化物を形成しないが、組成物全体としてのホットメルト性の改善や硬化物に対する補強効果を有する。
【0145】
(A1-2-1)成分は、無溶媒の状態で固体状のオルガノポリシロキサン樹脂微粒子であり、分子内に分岐シロキサン単位であるSiO4/2で表されるシロキサン単位を全シロキサン単位の少なくとも20モル%以上含有することを特徴とする。好適には、当該シロキサン単位は、全シロキサン単位の少なくとも40モル%以上であり、50モル%以上、特に、50~65モル%の範囲であることが特に好ましい。
【0146】
好適には、(A1-2-1)成分は、下記平均単位式:
(R SiO1/2(R SiO2/2(RSiO3/2(SiO4/2(R1/2)e
(式中、各Rは独立して1~10個の炭素原子を有し、炭素-炭素二重結合を含まない一価炭化水素基;各Rは水素原子又は1~10個の炭素原子を有するアルキル基であり;a、b、c、d及びeは、以下を満たす数である:0.10≦a≦0.60、0≦b≦0.70、0≦c≦0.80、0.20≦d≦0.65、0≦e≦0.05、かつa+b+c+d=1)
で表される非ホットメルト性のオルガノポリシロキサン樹脂である。
【0147】
上記の平均単位式において、各Rは独立して1~10個の炭素原子を有し、炭素-炭素二重結合を含まない一価炭化水素基、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、又は類似のアルキル基;フェニル、トリル、キシリル、又は類似のアリール基;ベンジル、フェネチル、又は類似のアラルキル基;及びクロロメチル、3-クロロプロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、又は類似のハロゲン化アルキル基等である。ここで、1分子中の全Rの70モル%以上がメチル基等の炭素原子数1~10のアルキル基であることが好ましく、88モル%以上がメチル基であることが、工業生産上および発明の技術的効果の見地から、特に好ましい。一方、Rはフェニル基等のアリール基を実質的に含まないことが好ましい。フェニル基等のアリール基を大量に含む場合、(A1-2-1)成分自体がホットメルト性となって、硬化物の高温下での耐着色性が悪化する場合がある。
【0148】
式中、Rは水素原子又は1~10個の炭素原子を有するアルキル基である。Rのアルキル基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル又はヘキシルで例示される。当該Rを含む官能基R1/2は、(A2-1-1)成分中の水酸基又はアルコキシ基に該当する。
【0149】
式中、aは、一般式:R SiO1/2のシロキサン単位の割合を示す数である。この数は、0.1≦a≦0.60、好ましくは0.15≦a≦0.55を満たす。aが前記範囲の下限以上であれば、本成分を含む組成物が、組成物全体として良好なホットメルト性能を実現できる。他方、aが前記範囲の上限以下であれば、得られる硬化物の機械的強度(硬度等)が低くなりすぎない。
【0150】
式中、bは、一般式:R SiO2/2のシロキサン単位の割合を示す数である。この数は、0≦b≦0.70、好ましくは0≦b≦0.60を満たす。bが範囲の上限以下であれば、本成分を含む組成物が、組成物全体として良好なホットメルト性能を実現でき、かつ室温にてべたつきの少ない粒状組成物を得ることができる。本発明において、bは0であってよく、かつ好ましい。
【0151】
式中、cは、一般式:RSiO3/2のシロキサン単位の割合を示す数である。この数は、0≦c≦0.70、好ましくは0≦c≦0.60を満たす。cが範囲の上限以下であれば、本成分を含む組成物が、組成物全体として良好なホットメルト性能を実現でき、かつ室温にてべたつきの少ない粒状組成物を得ることができる。本発明において、cは0であってよく、かつ好ましい。
【0152】
式中、dは、SiO4/2のシロキサン単位の割合を示す数であり、0.20≦d≦0.65であることが必要であり、0.40≦d≦0.65であることが好ましく、0.50≦d≦0.65であることが特に好ましい。当該数値範囲内において、本成分を含む組成物が、組成物全体として良好なホットメルト性能でき、得られる硬化物の機械的強度に優れ、かつ、組成物全体としてべたつきのない、取扱作業性の良好な組成物が実現できる。
【0153】
式中、eは一般式:R1/2の単位の割合を示す数であり、同単位はオルガノポリシロキサン樹脂中に含まれうるケイ素原子に結合した水酸基またはアルコキシ基を意味する。この数は、0≦e≦0.05、好ましくは0≦e≦0.03を満たす。eが範囲の上限以下であれば、組成物全体として良好なホットメルト性能を実現する材料を得ることができる。なお、最終的には、各シロキサン単位の総和であるa、b、c及びdの合計は1に等しい。
【0154】
(A1-2-1)成分は、上記の特徴を有するオルガノポリシロキサン樹脂であり、取り扱い性の観点から、好適には、レーザー回折・散乱法等を用いて測定される平均一次粒子径が1~20μmの真球状のオルガノポリシロキサン樹脂微粒子である。かかる微粒子成分を用いることで、本組成物を取り扱い作業性およびホットメルト性に優れた硬化性粒状組成物として調製ないし生産することができる。ここで、(A1-2-1)成分を製造する方法は前述の通りである。
【0155】
[(A1-2-2)成分]
本発明の(A1-2-2)成分は、分子全体としてホットメルト性を有さず、分子内に少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性の官能基を有し、かつ、SiO4/2で表されるシロキサン単位を全シロキサン単位の少なくとも20モル%以上含有するオルガノポリシロキサン樹脂微粒子である。当該成分は有機溶媒に可溶であり、工業的には有機溶媒中で合成される。
【0156】
(A1-2-1)成分と異なり、(A1-2-2)成分は、分子内に少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性の官能基を有し、アルケニル基を有することが特に好ましい。(A1-2-2)成分はそれ自体が、硬化剤と共に硬化反応に関与し、硬化物を形成する。
【0157】
(A1-2-2)成分は、無溶媒の状態で固体状のオルガノポリシロキサン樹脂であり、分子内に分岐シロキサン単位であるSiO4/2で表されるシロキサン単位を全シロキサン単位の少なくとも20モル%以上含有することを特徴とする。好適には、当該シロキサン単位は、全シロキサン単位の少なくとも40モル%以上であり、50モル%以上、特に、50~65モル%の範囲であることが特に好ましい。分子内に硬化反応性の官能基を有すること以外の点では、(A1-2-2)成分の構造は、概ね(A1-2-1)成分と同様である。
【0158】
(A1-2-2)成分は、上記の特徴を有するオルガノポリシロキサン樹脂であり、取り扱い性の観点から、好適には、レーザー回折・散乱法等を用いて測定される平均一次粒子径が1~20μmの真球状のオルガノポリシロキサン樹脂微粒子である。かかる微粒子成分を用いることで、本組成物を取り扱い作業性およびホットメルト性に優れた硬化性粒状組成物として調製ないし生産することができる。ここで、(A1-2-1)成分と(A1-2-2)成分の両方を用いる場合、これら2成分を有機溶剤中で混合物としてから、混合オルガノポリシロキサン樹脂微粒子として良い。
【0159】
好適には、本発明の(A1)成分は、
(A1-2-1)分子全体としてホットメルト性を有さず、分子内に炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性の官能基を有さず、かつ、SiO4/2で表されるシロキサン単位を全シロキサン単位の少なくとも20モル%以上含有するオルガノポリシロキサン樹脂微粒子 100質量部、および
(A2-2-2)分子全体としてホットメルト性を有さず、分子内に少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性の官能基を有し、かつ、SiO4/2で表されるシロキサン単位を全シロキサン単位の少なくとも20モル%以上含有するオルガノポリシロキサン樹脂微粒子 0~600質量部
の混合物であることが特に好ましい。
【0160】
[(A2)成分]
(A2)成分は、(A1)成分と共に使用される本組成物の主剤の一つであり、25℃において液状または可塑度を有する半固体状の直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンであって、分子内に少なくとも2個の炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性の官能基を有するものである。このような硬化反応性の鎖状オルガノポリシロキサンは、特に、前述の固体状オルガノポリシロキサン樹脂であって、(A1-2-1)成分または(A1-2-2)成分と混合することで、混合物全体としてホットメルト特性を発現する。
【0161】
(A2)成分は、分子内に炭素-炭素二重結合を有する硬化反応性基を有することが好ましく、このような硬化反応性基は、ヒドロシリル化反応性、ラジカル反応性または有機過酸化物硬化性の官能基であり、他の成分との架橋反応によって、硬化物を形成する。このような硬化反応性基は、アルケニル基またはアクリル基であり、前記同様の基が例示され、特にビニル基またはヘキセニル基であることが好ましい。
【0162】
(A2)成分は、25℃(室温)において液状または可塑度を有する半固体状の直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンであり、室温で固体状の(A1)成分と混合することで、組成物全体としてホットメルト特性を発現する。その構造は、少数の分岐のシロキサン単位(例えば、一般式:RSiO3/2で表されるT単位(Rは独立して1~10個の炭素原子を有する一価炭化水素基)またはSiO4/2で表されるQ単位)を有する分岐鎖状のオルガノポリシロキサンであってもよいが、好適には、
(A2-1)下記構造式:
SiO(SiR O)SiR
(式中、各Rは独立して1~10個の炭素原子を有する一価炭化水素基であり、但し1分子中のRの少なくとも2個はアルケニル基であり、kは20~10,000の数である)
で表される直鎖状ジオルガノポリシロキサンである。好適には、分子鎖両末端に各々1個ずつアルケニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0163】
式中、各Rは独立して1~10個の炭素原子を有する一価炭化水素基、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、又は類似のアルキル基;ビニル、アリル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、又は類似のアルケニル基;フェニル、トリル、キシリル、又は類似のアリール基;ベンジル、フェネチル、又は類似のアラルキル基;及びクロロメチル、3-クロロプロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、又は類似のハロゲン化アルキル基等である。更に、1分子中のRの少なくとも2個がアルケニル基、好ましくはビニル基である。また、各Rはメチル基等の炭素原子数1~10のアルキル基およびビニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基から選ばれる官能基であることが好ましく、全てのRのうち、少なくとも2個がアルケニル基であり、残りのRがメチル基であることが好ましい。なお、発明の技術的効果の見地から、Rはフェニル基等のアリール基を実質的に含まないことが好ましい。フェニル基等のアリール基を大量に含む場合、硬化物の高温下での耐着色性が悪化する場合がある。特に好適には、分子鎖両末端に一つずつビニル基等のアルケニル基を有し、他のRがメチル基であるものが好ましい。
【0164】
式中、kは、20~10,000、好ましくは30~9,000、特に好ましくは45~8,000の数である。kが前記の範囲の下限以上であれば、室温でべたつきの少ない粒状組成物を得ることができる。他方、kが前記の範囲の上限以下であれば、組成物全体として良好なホットメルト性能を実現できる。
【0165】
[非ホットメルト性のオルガノポリシロキサン樹脂を含む混合物]
上記の非ホットメルト性のオルガノポリシロキサン樹脂である、(A1-2-1)成分または(A1-2-2)成分を本発明の(A)成分として使用する場合、(A1-2-1)成分および(A1-2-2)成分の和 100質量部に対して、(A2)成分の使用量が3~100質量部の範囲内であり、4~75質量部の範囲が好ましく、5~50質量部の範囲が特に好ましい。
【0166】
好適には、オルガノポリシロキサン樹脂粒子である(A1-2-1,2)成分と、直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンである(A2)成分との分子量が異なる組み合わせを選択することが好ましい。なお、特許文献3に開示された高分子量のMQ樹脂と分子量の大きい(長鎖)ビニルポリシロキサンの組み合わせにおいては、混合物の溶融粘度が高くなる傾向にあるので、溶融粘度の低い組成物が必要な場合は、後述の無機フィラーの添加量を少なくするか、全く含まない必要がある。一方で、ダイアタッチフィルムなどの用途で、ある程度高い溶融粘度が好まれる場合はこの組み合わせが適している。
【0167】
(A)成分は、ホットメルト性を示し、具体的には、25℃において非流動性であり、100℃の溶融粘度が8000Pa・s以下であることが好ましい。非流動性とは、無負荷の状態で流動しないことを意味し、例えば、JIS K 6863-1994「ホットメルト接着剤の軟化点試験方法」で規定されるホットメルト接着剤の環球法による軟化点試験方法で測定される軟化点未満での状態を示す。すなわち、25℃において非流動性であるためには、軟化点が25℃よりも高い必要がある。
【0168】
(A)成分は、100℃の溶融粘度が8000Pa・s以下、5000Pa・s以下、あるいは10~3000Pa・sの範囲内であることが好ましい。100℃の溶融粘度が上記の範囲内であると、ホットメルト後、25℃に冷却した後の密着性が良好である。
【0169】
(A)成分は微粒子状であれば、粒子径は限定されないが、平均一次粒子径は1~5000μmの範囲内、1~500μmの範囲内、1~100μmの範囲内、1~20μmの範囲内、あるいは1~10μmの範囲内であることが好ましい。この平均一次粒子径は、例えば、光学顕微鏡またはSEMで観察することにより求めることができる。(A)成分の形状は限定されず、球状、紡錘状、板状、針状、不定形状が例示され、均一に溶融することから、球状あるいは真球状であることが好ましい。特に(A)成分を1~10μmの真球状とすることで本配合物の溶融特性及び硬化後の機械的物性を良好に改善できる
【0170】
(A)成分を製造する方法は限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、(A)成分を単に微粒子化する方法、あるいは少なくとも2種類のオルガノポリシロキサンを架橋させる工程と、その反応物を微粒子化する工程を同時にまたは別々に行う方法が挙げられる。なお、微粒子状の(A)成分を得る際に、後述する(C)成分の一部、例えば、ヒドロシリル化反応触媒等を(A)成分と共に微粒子化してもよく、かつ、好ましい。
【0171】
少なくとも2種類のオルガノポリシロキサンを架橋させた後、得られたオルガノポリシロキサンを微粒子化する方法としては、例えば、前記オルガノポリシロキサンを、粉砕機を用いて粉砕する方法や、溶剤存在下において直接微粒子化する方法が挙げられる。粉砕機は限定されないが、例えば、ロールミル、ボールミル、ジェットミル、ターボミル、遊星ミルが挙げられる。また、前記シリコーンを溶剤存在下において直接微粒子化する方法としては、例えば、スプレードライヤーによるスプレー、あるいは2軸混練機やベルトドライヤーによる微粒子化が挙げられる。本発明においては、スプレードライヤーによるスプレーにより得られた真球状のホットメルト性オルガノポリシロキサン樹脂微粒子を用いることが、粒状配合物の溶融特性、硬化物の柔軟性、(B)成分の配合量、製造時の効率および組成物の取扱い作業性の見地から特に好ましい。
【0172】
また、(A1-2-1,2)成分をオルガノポリシロキサン樹脂微粒子として用いる場合、(A2)成分は微粒子化する際に(A1-2-1,2)成分と混ぜて混合物の微粒子としても良いし、後から(B)成分や(C)成分と一緒に加えても良い。
【0173】
スプレードライヤー等の使用により、真球状で、かつ、平均一次粒子径が1~500μmである(A)成分を製造することができる。なお、スプレードライヤーの加熱・乾燥温度は、オルガノポリシロキサン樹脂微粒子の耐熱性等に基づいて適宜設定する必要がある。なお、オルガノポリシロキサン樹脂微粒子の二次凝集を防止するため、オルガノポリシロキサン樹脂微粒子の温度をそのガラス転移温度以下に制御することが好ましい。このようにして得られたオルガノポリシロキサン樹脂微粒子は、サイクロン、バッグフィルター等で回収できる。
【0174】
均一な(A)成分を得る目的で、上記工程において、硬化反応を阻害しない範囲内で溶剤を用いてもよい。溶剤は限定されないが、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン、ジプロピルエーテル等のエーテル類;ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン等のシリコーン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類が例示される。
【0175】
[揮発性の低分子量成分の除去]
上記の通り、(A)成分を構成するオルガノポリシロキサン樹脂として、特定の分岐シロキサン単位(SiO4/2)の含有量が高いオルガノポリシロキサン樹脂(具体的には、A1-2-1,2)成分等)を使用する場合、その生産工程において、揮発性の低分子量成分が生成し、樹脂中に混入しやすいが、これらの揮発成分は、本発明で定義する組成物から得られる硬化物の硬度を大きく落とす効果がある。さらに、揮発性の低分子量成分を多量含む硬化物を150℃を越える温度に長時間暴露すると、当該低分子量成分が揮発し、結果的に硬化物の硬度が著しく上昇してしまう。また、シリコーン硬化物のネットワークの中にSiO4/2で表されるシロキサン単位を多量に含む場合、硬化物の硬度が高いものは極端に脆くなるという傾向にあるため、結果的に脆化も発生する。
【0176】
このため、これらのオルガノポリシロキサン樹脂成分から、当該低分子量成分を可能な限り除去しておくことが好ましい。具体的にはこれらのオルガノポリシロキサン樹脂成分を200℃下で1時間暴露した時の質量減少率が2.0質量%以下であることが必要であり、1.5質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0177】
揮発性の低分子量成分の種類は特に制限されるものではないが、本発明のオルガノポリシロキサン樹脂は、SiO4/2表される分岐シロキサン単位(Q単位)を多数含むことから、RSiO1/2表されるシロキサン単位(M単位)との反応により、MQとして表現される揮発性のシロキサン成分が副生しやすく、本発明において当該揮発性のシロキサン成分を主たる成分とする揮発性の低分子量成分をオルガノポリシロキサン樹脂から除去することで、上記の質量減少率が実現されていることが特に好ましい。
【0178】
なお、(A)成分はオルガノポリシロキサン樹脂微粒子であり、当該微粒子の原料であるオルガノポリシロキサン樹脂または得られたオルガノポリシロキサン樹脂微粒子を200℃以上の温度で処理することで、オルガノポリシロキサン樹脂中に含まれる低分子量成分を同時に除去することが可能である。
【0179】
[(B)成分]
本発明の(B)成分は機能性無機フィラーであり、どの様なサイズの粒子を用いても良いが、ギャップフィル性を改善したい場合、平均粒子径10.0μm以上の粗大粒子を実質的に含まない無機フィラーが好適である。かかる粗大粒子を含まない無機フィラーを前記の(A)成分と共に用いる場合、特に、溶融時のギャップフィル性に優れ、硬化して室温から高温で柔軟な硬化物を与える硬化性粒状シリコーン組成物を提供することができる。ここで、平均粒子径10.0μm以上または5.0μm以上の粗大粒子を実質的に含まないとは、電子顕微鏡等で(B)成分を観察した場合に粒子の長径において平均粒子径10.0μm以上または5.0μm以上の粗大粒子が観察されないか、レーザー回折散乱式粒度分布測定等により(B)成分の粒子径分布を測定した場合に平均粒子径10.0μm以上または5.0μm以上の粗大粒子の体積比率が1%未満であることをいう。
【0180】
他方で、熱伝導率の付与や線膨張係数の低減など、高体積%となる充填量が必要となる場合は、平均粒子径10.0μm以上の無機フィラーを含有しても良い。比較的大粒子径の無機フィラーを用いることで、著しい増粘を発生させずに、無機フィラーの高充填が可能となる。
【0181】
このような、(B)成分は、軟化点を有さないか又は50℃以下では軟化しない少なくとも1種のフィラーであることが好ましく、本組成物の取扱い作業性を向上し、本組成物の硬化物に機械的特性やその他の特性を付与する成分であってもよい。(B)成分としては、無機フィラー、有機フィラー、およびこれらの混合物が例示され、無機フィラーが好ましい。この無機フィラーとしては、補強性フィラー、白色顔料、熱伝導性フィラー、導電性フィラー、蛍光体、およびこれらの少なくとも2種の混合物が例示され、特に、平均粒子径5μm以上の粗大粒子を実質的に含まない補強性フィラーを含有することが好ましい。また、有機フィラーとしては、シリコーン樹脂系フィラー、フッ素樹脂系フィラー、ポリブタジエン樹脂系フィラーが例示される。なお、これらのフィラーの形状は特に制限されるものではなく、球状、紡錘状、扁平状、針状、不定形等であってよい。
【0182】
本組成物を封止剤、保護剤、接着剤、光反射材等の用途で使用する場合には、硬化物に機械的強度を付与し、保護性または接着性を向上させることから、(B)成分として補強性フィラーを配合することが好ましい。この補強性フィラーとしては、ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、溶融シリカ、焼成シリカ、ヒュームド二酸化チタン、石英、炭酸カルシウム、ケイ藻土、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、炭酸亜鉛が例示される。また、これらの補強性フィラーを、メチルトリメトキシシラン等のオルガノアルコキシシラン;トリメチルクロロシラン等のオルガノハロシラン;ヘキサメチルジシラザン等のオルガノシラザン;α,ω-シラノール基封鎖ジメチルシロキサンオリゴマー、α,ω-シラノール基封鎖メチルフェニルシロキサンオリゴマー、α,ω-シラノール基封鎖メチルビニルシロキサンオリゴマー等のシロキサンオリゴマー等により表面処理してもよい。さらに、補強性フィラーとして、メタケイ酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、セピオライト、ゾノライト、ホウ酸アルミニウム、ロックウール、ガラスファイバー等の繊維状フィラーを用いてもよい。
【0183】
本発明の硬化性粒状シリコーン組成物は、光反射材、特に光半導体(LED)用途に用いる光反射材として用いることができ、硬化物の白色度を付与し、光反射性を向上させることから、(B)成分として、白色顔料を用いてもよい。この白色顔料としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物;ガラスバルーン、ガラスビーズ等の中空フィラー;その他、硫酸バリウム、硫酸亜鉛、チタン酸バリウム、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、酸化アンチモンが例示される。光反射率と隠蔽性が高いことから、酸化チタンが好ましい。また、UV領域の光反射率が高いことから、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、チタン酸バリウムが好ましい。また、この白色顔料をシランカップリング剤、シリカ、酸化アルミニウム等で表面処理してもよい。特に好適な白色顔料は、平均粒子径が0.5μm以下の酸化チタン微粒子であり、組成物中に高充填することにより、硬化物に可視波長領域における高い光反射率と隠蔽性を与え、さらに、可視波長領域における光反射率が低波長側と高波長側を比較した場合にほとんど変化しないという実益がある。
【0184】
(B)成分は、(A)成分に該当しないシリコーン微粒子を含んでもよく、応力緩和特性等を改善、あるいは所望により調整することができる。シリコーン微粒子は、非反応性のシリコーンレジン微粒子およびシリコーンエラストマー微粒子が挙げられるが、柔軟性または応力緩和特性の改善の見地から、シリコーンエラストマー微粒子が好適に例示される。
【0185】
シリコーンエラストマー微粒子は、主としてジオルガノシロキシ単位(D単位)からなる直鎖状ジオルガノポリシロキサンの架橋物である。シリコーンエラストマー微粒子は、ヒドロシリル化反応やシラノール基の縮合反応等によるジオルガノポリシロキサンの架橋反応により調製することができ、中でも、側鎖又は末端に珪素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと側鎖又は末端にアルケニル基等の不飽和炭化水素基を有するジオルガノポリシロキサンを、ヒドロシリル化反応触媒下で架橋反応させることによって好適に得ることができる。シリコーンエラストマー微粒子は、球状、扁平状、及び不定形状等種々の形状を取りうるが、分散性の点から球状であることが好ましく、中でも真球状であることがより好ましい。こうしたシリコーンエラストマー微粒子の市販品としては、例えば、東レ・ダウコーニング社製の「トレフィルEシリーズ」、「EPパウダーシリーズ」、信越化学工業社製の「KMPシリーズ」等を挙げることができる。
なお、シリコーンエラストマー微粒子は、表面処理がされていてもよい。表面処理剤の例としては、例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサン、シリコーンレジン、金属石鹸、シランカップリング剤、シリカ、酸化チタン等の無機酸化物、パーフルオロアルキルシラン、及びパーフルオロアルキルリン酸エステル塩等のフッ素化合物等が挙げられる。
【0186】
また、本組成物をLEDの波長変換材料に用いる場合には、光半導体素子からの発光波長を変換するため、(B)成分として蛍光体を配合してもよい。この蛍光体としては、平均粒子径5μm以上の粗大粒子を実質的に含まないかぎり、特に制限はなく、発光ダイオード(LED)に広く利用されている、酸化物系蛍光体、酸窒化物系蛍光体、窒化物系蛍光体、硫化物系蛍光体、酸硫化物系蛍光体等からなる黄色、赤色、緑色、および青色発光蛍光体が例示される。酸化物系蛍光体としては、セリウムイオンを包含するイットリウム、アルミニウム、ガーネット系のYAG系緑色~黄色発光蛍光体;セリウムイオンを包含するテルビウム、アルミニウム、ガーネット系のTAG系黄色発光蛍光体;セリウムやユーロピウムイオンを包含するシリケート系緑色~黄色発光蛍光体が例示される。また、酸窒化物系蛍光体としては、ユーロピウムイオンを包含するケイ素、アルミニウム、酸素、窒素系のサイアロン系赤色~緑色発光蛍光体が例示される。窒化物系蛍光体としては、ユーロピウムイオンを包含するカルシウム、ストロンチウム、アルミニウム、ケイ素、窒素系のカズン系赤色発光蛍光体が例示される。硫化物系蛍光体としては、銅イオンやアルミニウムイオンを包含するZnS系緑色発色蛍光体が例示される。酸硫化物系蛍光体としては、ユーロピウムイオンを包含するYS系赤色発光蛍光体が例示される。本組成物では、これらの蛍光体を2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0187】
さらに、本組成物には、硬化物に熱伝導性または電気伝導性を付与するため、熱伝導性フィラーまたは導電性フィラーを含有してもよい。この熱伝導性フィラーまたは導電性フィラーとしては、金、銀、ニッケル、銅、アルミニウム等の金属微粉末;セラミック、ガラス、石英、有機樹脂等の微粉末表面に金、銀、ニッケル、銅等の金属を蒸着またはメッキした微粉末;酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛等の金属化合物;グラファイト、およびこれらの2種以上の混合物が例示される。本組成物に電気絶縁性が求められる場合には、金属酸化物系粉末、または金属窒化物系粉末が好ましく、特に、酸化アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、または窒化アルミニウム粉末が好ましい。
【0188】
(B)成分の含有量は限定されないが、組成物全体の10~70体積%であることが好ましく、特に好適には10~50体積%の範囲内である。(B)成分の含有量が前記上限以上になると得られる硬化物が硬くなる傾向にあり、組成物の取り扱い作業性やホットメルト時のギャップフィル性が低下し、かつ、得られる硬化物の室温~高温下における柔軟性と機械的強度が不十分となり、硬化物の応力緩和特性が低下する場合がある。
【0189】
[(C)成分]
(C)成分は、(A)成分を硬化するための硬化剤であり、(A)成分を硬化できるものであれば限定されない。(A)成分がアルケニル基を有する場合には、(C)成分は、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとヒドロシリル化反応用触媒であり、(A)成分がアルケニル基を含有し、ヒドロシリル化反応用触媒を含有する場合には、(C)成分は、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンのみでよいが、ヒドロシリル化反応用触媒を併用してもよい。また、(A)成分がアルケニル基を有する場合には、(C)成分は有機過酸化物でもよく、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンを併用してもよい。一方、(A)成分がケイ素原子結合水素原子を有する場合には、(C)成分は、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンとヒドロシリル化反応用触媒であり、(A)成分がケイ素原子結合水素原子を有し、ヒドロシリル化反応用触媒を含有する場合には、(C)成分は、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンのみでよいが、ヒドロシリル化反応用触媒を併用してもよい
【0190】
(C)成分中のオルガノポリシロキサンとしては、前記(a)および/または前記(a)で表されるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、あるいは前記(a)および/または前記(a)で表されるケイ素原子結合水素原子含有オルガノポリシロキサンが例示される。
【0191】
(C)成分としてオルガノポリシロキサンを使用する場合、その含有量は限定されないが、本組成物が硬化するためには、本組成物中のアルケニル基1モルに対してケイ素原子結合水素原子が0.5~20モルとなる範囲内の量、あるいは1.0~10モルとなる範囲内の量であることが好ましい。
【0192】
ヒドロシリル化反応用触媒としては、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒が例示され、本組成物の硬化を著しく促進できることから白金系触媒が好ましい。この白金系触媒としては、白金微粉末、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金-アルケニルシロキサン錯体、白金-オレフィン錯体、白金-カルボニル錯体、およびこれらの白金系触媒を、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂で分散あるいはカプセル化した触媒が例示され、特に、白金-アルケニルシロキサン錯体が好ましい。このアルケニルシロキサンとしては、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのメチル基の一部をエチル基、フェニル基等で置換したアルケニルシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのビニル基をアリル基、ヘキセニル基等で置換したアルケニルシロキサンが例示される。特に、この白金-アルケニルシロキサン錯体の安定性が良好であることから、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンであることが好ましい。加えて、取扱作業性および組成物のポットライフの改善の見地から、熱可塑性樹脂で分散あるいはカプセル化した微粒子状の白金含有ヒドロシリル化反応触媒を用いてもよい。なお、ヒドロシリル化反応を促進する触媒としては、鉄、ルテニウム、鉄/コバルトなどの非白金系金属触媒を用いてもよい。
なお、本発明の製造方法では短時間とは言え、混錬工程中にある程度の温度が組成物に掛かってしまうので、組成物の保存安定性の観点から熱可塑性樹脂で分散あるいはカプセル化した微粒子状の白金含有ヒドロシリル化反応触媒を用いてもよく、かつ、好ましい。
【0193】
ヒドロシリル化反応用触媒の添加量は、(A)成分に対して、金属原子が質量単位で0.01~500ppmの範囲内となる量、0.01~100ppmの範囲内となる量、あるいは、0.01~50ppmの範囲内となる量であることが好ましい。
【0194】
有機過酸化物としては、過酸化アルキル類、過酸化ジアシル類、過酸化エステル類、および過酸化カーボネート類が例示される。
【0195】
過酸化アルキル類としては、ジクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、tert-ブチルクミル、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1,4,7-トリパーオキソナンが例示される。
【0196】
過酸化ジアシル類としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイドが例示される。
【0197】
過酸化エステル類としては、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ヘキシルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-アミルパーオキシル-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、ジ-tert-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、tert-アミルパーオキシ-3,5,5―トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5―トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-ブチルパーオキシトリメチルアディペートが例示される。
【0198】
過酸化カーボネート類としては、ジ-3-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジセチルパーオキシジカーボネート、ジミリスチルパーオキシジカーボネートが例示される。
【0199】
この有機過酸化物は、その半減期が10時間である温度が90℃以上、あるいは95℃以上であるものが好ましい。このような有機過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジ-(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1,4,7-トリパーオキソナンが例示される。
【0200】
有機過酸化物の含有量は限定されないが、(A)成分100質量部に対して、0.05~10質量部の範囲内、あるいは0.10~5.0質量部の範囲内であることが好ましい。
【0201】
また、本組成物には、本発明の目的を損なわない限り、その他任意の成分として、(A)成分以外のホットメルト性の微粒子、硬化遅延剤や接着付与剤を含有してもよい。
【0202】
(A)成分以外のホットメルト性の微粒子としては、各種のホットメルト性の合成樹脂、ワックス類、脂肪酸金属塩等から選ばれる1種類以上が使用できる。当該ワックス成分は、高温(150℃)において低い動粘度を呈し、流動性に優れた溶融物を形成する。また、前記(A)~(C)成分と併用することにより、本組成物からなる溶融物内のワックス成分は、高温下で組成物全体に速やかに広がることにより、溶融した組成物が適用された基材面と組成物全体の粘度を低下させると共に、基材および溶融組成物の表面摩擦を急激に低下させ、組成物全体の流動性を大幅に上昇させる効果を呈する。このため、他の成分の総量に対して、ごく少量添加するだけで、溶融組成物の粘度および流動性を大きく改善することができる。
【0203】
ワックス成分は、上記の滴点及び溶融時の動粘度の条件を満たす限り、パラフィン等の石油系ワックス類であってもよいが、本発明の技術的効果の見地から、脂肪酸金属塩からなるホットメルト成分であることが好ましく、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、イソノナン酸等の高級脂肪酸の金属塩が特に好ましい。ここで、上記の脂肪酸金属塩の種類も特に制限されるものではないが、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属塩;または亜鉛塩が好適に例示される。
【0204】
ワックス成分として、特に好適には、遊離脂肪酸量が5.0%以下の脂肪酸金属塩であり、4.0%以下であり、0.05~3.5%の脂肪酸金属塩がより好ましい。このような成分として、例えば、少なくとも1種以上のステアリン酸金属塩が例示される。本発明の技術的効果の見地から、本成分は、実質的に1種以上のステアリン酸金属塩のみからなることが好ましく、ステアリン酸カルシウム(融点150℃)、ステアリン酸亜鉛(融点120℃)、およびステアリン酸マグネシウム(融点130℃)から選ばれる、融点が150℃以下のホットメルト成分の使用が最も好ましい。
【0205】
ワックス成分の使用量は、組成物全体を100質量部とした場合、その含有量が0.01~5.0質量部の範囲であり、0.01~3.5質量部、0.01~3.0質量部であってよい。ワックス成分の使用量が前記の上限を超えると、本発明の粒状硬化性シリコーン組成物から得られる硬化物の接着性および機械的強度が不十分となる場合がある。また、使用量が前記の下限未満では、加熱溶融時の十分な流動性が実現できない場合がある。
【0206】
硬化遅延剤としては、2-メチル-3-ブチン-2-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2-フェニル-3-ブチン-2-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール等のアルキンアルコール;3-メチル-3-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等のエンイン化合物;テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラヘキセニルシクロテトラシロキサン等のアルケニル基含有低分子量シロキサン;メチル-トリス(1,1-ジメチルプロピニルオキシ)シラン、ビニル-トリス(1,1-ジメチルプロピニルオキシ)シラン等のアルキニルオキシシランが例示される。この硬化遅延剤の含有量は限定されないが、本組成物に対して、質量単位で、10~10000ppmの範囲内であることが好ましい。
【0207】
接着付与剤としては、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を一分子中に少なくとも1個有する有機ケイ素化合物が好ましい。このアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基が例示され、特に、メトキシ基が好ましい。また、有機ケイ素化合物中のアルコキシ基以外のケイ素原子に結合する基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基等のハロゲン置換もしくは非置換の一価炭化水素基;3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基等のグリシドキシアルキル基;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル基等のエポキシシクロヘキシルアルキル基;3,4-エポキシブチル基、7,8-エポキシオクチル基等のエポキシアルキル基;3-メタクリロキシプロピル基等のアクリル基含有一価有機基;水素原子が例示される。この有機ケイ素化合物は本組成物中のアルケニル基またはケイ素原子結合水素原子と反応し得る基を有することが好ましく、具体的には、ケイ素原子結合水素原子またはアルケニル基を有することが好ましい。また、各種の基材に対して良好な接着性を付与できることから、この有機ケイ素化合物は一分子中に少なくとも1個のエポキシ基含有一価有機基を有するものであることが好ましい。こうした有機ケイ素化合物としては、オルガノシラン化合物、オルガノシロキサンオリゴマー、アルキルシリケートが例示される。このオルガノシロキサンオリゴマーあるいはアルキルシリケートの分子構造としては、直鎖状、一部分枝を有する直鎖状、分枝鎖状、環状、網状が例示され、特に、直鎖状、分枝鎖状、網状であることが好ましい。有機ケイ素化合物としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシラン化合物;一分子中にケイ素原子結合アルケニル基もしくはケイ素原子結合水素原子、およびケイ素原子結合アルコキシ基をそれぞれ少なくとも1個ずつ有するシロキサン化合物、ケイ素原子結合アルコキシ基を少なくとも1個有するシラン化合物またはシロキサン化合物と一分子中にケイ素原子結合ヒドロキシ基とケイ素原子結合アルケニル基をそれぞれ少なくとも1個ずつ有するシロキサン化合物との混合物、アミノ基含有オルガノアルコキシシランとエポキシ基含有オルガノアルコキシシランとの反応混合物、一分子中に少なくとも二つのアルコキシシリル基を有し,かつそれらのシリル基の間にケイ素-酸素結合以外の結合が含まれている有機化合物、一般式: R Si(OR)4-n
(式中、Rは一価のエポキシ基含有有機基であり、Rは炭素原子数1~6のアルキル基または水素原子である。nは1~3の範囲の数である)
で表されるエポキシ基含有シランまたはその部分加水分解縮合物、ビニル基含有シロキサンオリゴマー(鎖状または環状構造のものを含む)とエポキシ基含有トリアルコキシシランとの反応混合物、メチルポリシリケート、エチルポリシリケート、エポキシ基含有エチルポリシリケートが例示される。この接着付与剤は低粘度液状であることが好ましく、その粘度は限定されないが、25℃において1~500mPa・sの範囲内であることが好ましい。また、この接着付与剤の含有量は限定されないが、本組成物の合計100質量部に対して0.01~10質量部の範囲内であることが好ましい。
【0208】
本発明において、特に好適な接着付与剤として、アミノ基含有オルガノアルコキシシランとエポキシ基含有オルガノアルコキシシランとの反応混合物が例示される。このような成分は、硬化途上で接触している各種基材に対する初期接着性、特に未洗浄被着体に対しても低温接着性を改善する成分である。また、本接着促進剤を配合した硬化性シリコーン組成物の硬化系によっては、架橋剤としても作用する場合もある。このような反応混合物は、特公昭52-8854号公報や特開平10-195085号公報に開示されている。
【0209】
このような成分を構成するアミノ基含有有機基を有するアルコキシシランとしては、アミノメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)アミノメチルトリブトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アニリノプロピルトリエトキシシランが例示される。
【0210】
また、エポキシ基含有オルガノアルコキシシランとしては、3-グリシドキシプロリルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシランが例示される。
【0211】
これらアミノ基含有有機基を有するアルコキシシランとエポキシ基含有有機基を有するアルコキシシランとの比率はモル比で、(1:1.5)~(1:5)の範囲内にあることが好ましく、(1:2)~(1:4)の範囲内にあることが特に好ましい。この成分(e1)は、上記のようなアミノ基含有有機基を有するアルコキシシランとエポキシ基含有有機基を有するアルコキシシランとを混合して、室温下あるいは加熱下で反応させることによって容易に合成することができる。
【0212】
特に、本発明においては、特開平10-195085号公報に記載の方法により、アミノ基含有有機基を有するアルコキシシランとエポキシ基含有有機基を有するアルコキシシランとを反応させる際、特に、アルコール交換反応により環化させてなる、一般式:
【化1】
{式中、R1はアルキル基、アルケニル基またはアルコキシ基であり、R2は同じかまたは異なる一般式:
【化2】
(式中、R4はアルキレン基またはアルキレンオキシアルキレン基であり、R5は一価炭化水素基であり、R6はアルキル基であり、R7はアルキレン基であり、R8はアルキル基、アルケニル基、またはアシル基であり、aは0、1、または2である。)
で表される基からなる群から選択される基であり、R3は同じかまたは異なる水素原子もしくはアルキル基である。}
で表されるカルバシラトラン誘導体を含有することが特に好ましい。このようなカルバシラトラン誘導体として、以下の構造で表される1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基またはケイ素原子結合アルケニル基を有するカルバシラトラン誘導体が例示される。
【化3】
(式中、Rcはメトキシ基、エトキシ基、ビニル基、アリル基およびヘキセニル基から選ばれる基)
【0213】
また、本発明においては、下記構造式で表される、シラトラン誘導体を接着付与剤として利用してもよい。
【化4】
式中のR1は同じかまたは異なる水素原子もしくはアルキル基であり、特に、R1としては、水素原子、またはメチル基が好ましい。また、上式中のR2は水素原子、アルキル基、および一般式:-R4-Si(OR5)x6 (3-x)で表されるアルコキシシリル基含有有機基からなる群から選択される同じかまたは異なる基であり、但し、R2の少なくとも1個はこのアルコキシシリル基含有有機基である。R2のアルキル基としては、メチル基等が例示される。また、R2のアルコキシシリル基含有有機基において、式中のR4は二価有機基であり、アルキレン基またはアルキレンオキシアルキレン基が例示され、特に、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、メチレンオキシプロピレン基、メチレンオキシペンチレン基であることが好ましい。また、式中のR5は炭素原子数1~10のアルキル基であり、好ましくは、メチル基、エチル基である。また、式中のR6は置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、好ましくは、メチル基である。また、式中のxは1、2、または3であり、好ましくは、3である。
【0214】
このようなR2のアルコキシシリル基含有有機基としては、次のような基が例示される。
-(CH2)2Si(OCH3)3-(CH2)2Si(OCH3)2CH3
-(CH2)3Si(OC2H5)3-(CH2)3Si(OC2H5)(CH3)2
-CH2O(CH2)3Si(OCH3)3
-CH2O(CH2)3Si(OC2H5)3
-CH2O(CH2)3Si(OCH3)2CH3
-CH2O(CH2)3Si(OC2H5)2CH3
-CH2OCH2Si(OCH3)3-CH2OCH2Si(OCH3)(CH3)2
【0215】
上式中のR3は置換もしくは非置換の一価炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、グリシドキシアルキル基、オキシラニルアルキル基、およびアシロキシアルキル基からなる群から選択される少なくとも一種の基であり、R3の一価炭化水素基としては、メチル基等のアルキル基が例示され、R3のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が例示され、R3のグリシドキシアルキル基としては、3-グリシドキシプロピル基が例示され、R3のオキシラニルアルキル基としては、4-オキシラニルブチル基、8-オキシラニルオクチル基が例示され、R3のアシロキシアルキル基としては、アセトキシプロピル基、3-メタクリロキシプロピル基が例示される。特に、R3としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基であることが好ましく、さらには、アルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、メチル基、ビニル基、アリル基およびヘキセニル基から選ばれる基が特に好適に例示される。
【0216】
さらに、本組成物には、本発明の目的を損なわない限り、その他任意の成分として、酸化鉄(ベンガラ)、酸化セリウム、セリウムジメチルシラノレート、脂肪酸セリウム塩、水酸化セリウム、ジルコニウム化合物等の耐熱剤;その他、染料、白色以外の顔料、難燃性付与剤等を含有してもよい。
【0217】
上記の組成物は、白色顔料、熱伝導性フィラー、導電性フィラー、蛍光体等の無機フィラーを、(A)成分であるオルガノポリシロキサン樹脂微粒子又はそれを含む混合物と併用することにより、光反射率や熱伝導性の向上の機能性を付与した、溶融(ホットメルト)時のギャップフィル性に優れ、硬化物が室温から高温、具体的には、25℃~150℃において柔軟であり、応力緩和特性に優れ、かつ、室温で折り曲げ等の変形が生じても破損しにくいという優れた特性を有する。
【0218】
[硬化物の貯蔵弾性率]
具体的には、上記組成物を硬化してなる硬化物は、25℃における貯蔵弾性率(G')の値が2000MPa以下であり、かつ、150℃における貯蔵弾性率(G')の値が100MPa以下である。かかる硬化物は室温(25℃)および高温(150℃)のいずれにおいても柔軟であり、半導体基盤等の基材への密着性と追従性に優れ、かつ、近年導入が進んでいるフレキシブル半導体基盤のように変形を前提とした半導体素子の封止用途であっても、封止した半導体素子の破損あるいは剥離、ボイド等の欠陥の発生が抑制される。なお、特に高い伸びおよび変形に対する追従性が求められる用途にあっては、25℃における貯蔵弾性率(G')の値が1500MPa以下、1000MPa以下にしてもよく、かつ、150℃における貯蔵弾性率(G')の値が50MPa以下または40MPa以下にしてもよい。
【0219】
[硬化物の損失正接(tanδ)のピーク値およびピーク温度]
さらに、本発明の組成物を硬化してなる硬化物は、周波数1.0Hzにおける損失弾性率(G'')に対する貯蔵弾性率(G')の比、すなわち、G’/G''により定義される損失正接(tanδ)のピーク値が0.40以上であることが必要であり、0.50以上であることが好ましく、0.50~0.80の範囲にあることが特に好ましい。当該tanδのピーク値が0.40未満では、特に薄膜状、あるいは、アルミリードフレーム等と一体成型した場合に、成型物の反りまたは破損が発生する場合がある。なお、tanδのピーク値を与えるピーク温度は特に制限されるものではないが、30~200℃の範囲にあることが好ましく、40~150℃の範囲にピーク温度があることが特に好ましい。
【0220】
本発明の組成物においては、上記のtanδのピーク値を0.4以上とすることで応力緩和能力に優れた硬化物を形成するものであるが、特に、好適には上記の成分を選択することによって、無機フィラーの含有量が比較的多い組成でも高いtanδを実現することができる。この様な硬化物は近年導入が進んでいる半導体の大面積一括封止プロセスにおいて優れた低反り能力を実現するものである。
【0221】
また、本発明の組成物においては、オルガノポリシロキサン樹脂微粒子、硬化剤および機能性フィラーの混合物が、硬化により、
室温から200℃までの成型温度におけるMDR(Moving Die Rheom eter)により測定される(1)最大トルク値が50dN・m未満であり、(2)最大トルク値に到達したときに、貯蔵トルク値/損失トルク値の比で表される損失正接(tanδ)の値が0.2未満である硬化物を与えることが特に好ましい。
【0222】
特に、一般的な成型温度である150℃に設定したMDRにより測定される(1)最大トルク値が50dN・m未満であり、(2)最大トルク値に到達したときに、貯蔵トルク値/損失トルク値の比で表される損失正接(tanδ)の値が0.2未満であることが特に好ましい。なお、上記の硬化挙動を充足し、特定の温度(例えば、150℃)におけるMDRの物性値を充足する限り、本発明のトランスファー成型用の硬化性シリコーン組成物は、室温から200℃までの所望の成型温度(例えば、150℃以外の成型温度)を所望により選択することができ、使用することができることは言うまでもない。
【0223】
上記の最大トルク値について説明する。本発明において、トルク値とは本組成物を硬化(=加硫)してなる硬化物につて、JIS K 6300-2「未加硫ゴム-物理特性-第2部:振動式加硫試験機による加硫特性の求め方」に準拠したMDRによる測定で得られるトルク値であり、最大トルク値とは、成型温度、好適には150℃における加硫後の600秒間に測定されるトルク値の最大値である。ここで、硬化物の成型温度における最大トルク値が50dN・m未満であるとは、成型後の硬化物が高温でも柔らかいこと、すなわち、硬化物が低モジュラスかつ柔軟であって、弾性率が低く、応力緩和特性に優れることを意味するものであり、本発明において、硬化物の成型温度における最大トルク値は、40dN・m未満であってよく、35dN・m未満であることが好ましく、5~30dN・mの範囲であることが特に好ましい。当該範囲であると、硬化物の十分な応力緩和特性が実現でき、かつ、後述する損失正接(tanδ)と両立させることが可能であるためである。一方、硬化物の成型温度における最大トルク値が上記上限を超えると、硬化物が過度に硬質で、応力緩和性が実現できないため、特に基材との一体成型時に成型物の反りや欠陥を生じる場合がある。
【0224】
次に、本発明における組成物の損失正接(tanδ)の条件について説明する。損失正接(tanδ)は、上記のMDRを用いる測定により、最大トルク値に到達した際に、貯蔵トルク値/損失トルク値の比で表される損失正接(tanδ)の値を読み取ることで、測定される値である。ここで、組成物の損失正接(tanδ)が、0.2未満であるとは、組成物を硬化してなる硬化物のゴム弾性が低く、その表面が適度に硬質であることを意味するものであり、当該硬化物は成型工程における離型時に金型に硬化物が付着/吸着しにくく、脱型性に優れる。脱型性の見地から、最大トルク値に到達した際の、硬化物の損失正接(tanδ)が0.01~0.19の範囲であることが好ましく、0.03~0.18の範囲であることが特に好ましい。一方、組成物の損失正接(tanδ)が0.2を超えると、得られる硬化物のゴム弾性が高くなり、その表面が粘着性を帯びてくるので、離型時に金型に硬化物が付着/吸着しやすくなり、スムーズに金型から分離しにくく、脱型性が不十分となる場合がある。
【0225】
硬化物につて、上記の(1)最大トルク値の条件および(2)最大トルク値に到達したときに、貯蔵トルク値/損失トルク値の比で表される損失正接(tanδ)の値の条件を共に充足することで、硬化性シリコーンシートは、その硬化物の応力緩和特性に優れ、硬化物の反りや欠陥を生じにくく、かつ、良好な脱型性を実現するものである。
【実施例
【0226】
本発明のホットメルト性の硬化性シリコーンシートの製造方法を実施例と比較例により詳細に説明する。なお、式中、Me、Ph、Viは、それぞれメチル基、フェニル基、ビニル基を表す。また、硬化性シリコーンシートを構成する硬化性粒状シリコーン組成物の軟化点は以下の方法で測定した。
【0227】
[硬化性粒状シリコーン組成物の軟化点]
硬化性粒状シリコーン組成物をφ14mm×22mmの円柱状のペレットに成型した。このペレットを25℃~100℃に設定したホットプレート上に置き、100グラム重の荷重で上から10秒間押し続け、荷重を取り除いた後、該ペレットの変形量を測定した。高さ方向の変形量が1mm以上となった温度を軟化点とした。
【0228】
以下、参考例に示す方法で、ヒドロシリル化反応触媒を含むオルガノポリシロキサン樹脂を調製し、そのホットメルト性の有無を軟化点/溶融粘度の有無により評価し、さらに当該オルガノポリシロキサン樹脂微粒子を調製した。なお、参考例において、ヒドロシリル化反応触媒である白金錯体に用いる1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサンは、「1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン」と記述する。
【0229】
[参考例1:非ホットメルト性のオルガノポリシロキサン樹脂微粒子]
1Lのフラスコに、25℃において白色固体状で、平均単位式:
(MeSiO1/2)0.44(SiO4/2)0.56(HO1/2)0.02
で表されるオルガノポリシロキサン樹脂の55質量%-キシレン溶液 270.5g、および白金の1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体の1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン溶液(白金金属の含有量=約4000ppm) 0.375gを投入し、室温(25℃)で均一に攪拌して、白金金属として質量単位で10ppm含有するオルガノポリシロキサン樹脂のキシレン溶液を調製した。また、このオルガノポリシロキサン樹脂は200℃まで加熱しても軟化/溶融せず、ホットメルト性を有していなかった。
【0230】
上記で調製したオルガノポリシロキサン樹脂のキシレン溶液を50℃においてスプレードライヤーを用いたスプレー法によりキシレンを除去しながら粒子化し、真球状の非ホットメルト性のオルガノポリシロキサン樹脂微粒子を調製した。この微粒子を光学顕微鏡で観測したところ、粒子径が5~10μmであり、平均粒子径は7.4μmであった。
【0231】
[実施例1]
(a+c(pt)) 参考例1で得た非ホットメルト性のオルガノポリシロキサン樹脂微粒子(ビニル基含有量=0質量%) 69.8g、
(b1)式:
ViMeSiO(MeSiO)800SiViMe
で表される、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(ビニル基の含有量=0.09質量%) 29.9g、
(c4(SiH))式:
MeSiO(MeHSiO)(MeSiO)6.5SiMe
で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン 0.2g、
{分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン中のビニル基1モルに対して、上記オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子が1.4モルとなる量}、
(d1)平均粒子径0.44μmのアルミナ(住友化学製のAES-12)234.4g、
1-エチニル-1-シクロヘキサノール(本組成物に対して質量単位1000ppmとなる量を小型粉砕機に一括投入し、室温(25℃)で1分間攪拌を行い、均一な硬化性粒状シリコーン組成物を調製した。本組成物はシリコーン成分100g中に0.10モル%のビニル基を含有していた。また、この組成物の軟化点は80℃である。
【0232】
上記実施例1の硬化性粒状シリコーン組成物を80℃に加熱しながら、二軸押出機を用いて加熱溶融混練し、半固体状の軟化物の形態で、剥離性フィルム(株式会社タカラインコーポレーション社製、ビワライナーFL3-01)上に供給量5kg/時間となるように供給し、2枚の剥離性フィルム間に積層した。続いて、当該積層体を、ロール間で延伸することで、厚さ500μmのホットメルト性の硬化性シリコーンシートが2枚の剥離性フィルム間に積層された積層体を形成させ、-15℃に設定した冷却ロールにより全体を冷却した。当該製造装置の構成を、図1に示す。
【0233】
実施例1において、剥離性フィルムを分離したところ、平坦かつ均質なホットメルト性の硬化性シリコーンシートを得ることができた。
【0234】
[比較例1]
上記実施例1で使用した硬化性粒状シリコーン組成物と同一の組成物を二軸押出機を用いて加熱溶融混練することなく、室温で2枚の剥離性フィルム間に積層し、実施例1と同一の厚みに設定して圧力30MPaでプレス成型を行った。結果、剥離性フィルムを分離したところ、ホットメルト性の硬化性シリコーンシートは全体に亀裂を生じ、一枚の硬化性シリコーンシートとして実用することができないものであった。
【0235】
[参考例2:ホットメルト性のオルガノポリシロキサン樹脂微粒子(2)]
1Lのフラスコに、25℃において白色固体状で、平均単位式:
(PhSiO3/2)0.80(MeViSiO1/2)0.20
で表される樹脂状オルガノポリシロキサンの55質量%-トルエン溶液 270.5g、式:
HMeSiO(PhSiO)SiMe
で表される、粘度5mPa・sの分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン(ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.6質量%) 21.3g(前記樹脂状オルガノポリシロキサン中のビニル基1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.5モルとなる量)、および白金の1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体の1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン溶液(白金金属の含有量=約4000ppm) 0.43g(本液状混合物に対して白金金属が質量単位で10ppmとなる量)を投入し、室温で均一に攪拌した。その後、オイルバスにてフラスコ内の温度を100℃まで上げて、トルエン還流下、2時間攪拌して、上記樹脂状オルガノポリシロキサンに由来する樹脂状オルガノシロキサンと上記ジフェニルシロキサンに由来する鎖状オルガノシロキサンからなり、上記反応に関与しなかったビニル基を有するオルガノシロキサン架橋物のトルエン溶液を調製した。なお、このオルガノシロキサン架橋物(1)を、FT-IRにて分析したところ、ケイ素原子結合水素原子のピークは観測されなかった。また、このオルガノシロキサン架橋物の軟化点は75℃であり、その100℃での溶融粘度は700Pa・sであった。
【0236】
上記で調製したオルガノシロキサン架橋物のトルエン溶液を40℃のスプレードライによりトルエンを除去しながら微粒子化して、真球状のホットメルト性シリコーン微粒子(2)を調製した。この微粒子を光学顕微鏡で観測したところ、粒子径が5~10μmであり、平均粒子径は7.5μmであった。
【0237】
[実施例2]
ホットメルト性シリコーン微粒子(2) 73.1g、
式:HMeSiO(PhSiO)SiMe
で表される、粘度5mPa・sの分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン(ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.6質量%) 9.5g、
粘度1,000mPa・sであり、
平均式 MeViSiO(MePhSiO)17.5SiMeVi
で表される分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン(ビニル基の含有量=2.1質量%) 17.4g
{シリコーン微粒子(1)と分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン中のビニル基1.0モルに対して、上記ジフェニルシロキサン中のケイ素原子結合水素原子が0.9モルとなる量}、1-エチニル-1-シクロヘキサノール(本組成物に対して質量単位で300ppmとなる量)、平均粒子径2.5μmの溶融シリカ(新日鉄マテリアルズ マイクロン社製のSP60)24.0g、および平均粒子径0.04μmのフュームドシリカ(日本アエロジル社のAEROSIL50)30.0gを小型粉砕機に一括投入し、室温(25℃)で1分間攪拌を行い、均一な硬化性粒状シリコーン組成物を調製した。また、この組成物の軟化点は、60℃であった。
【0238】
上記実施例2の硬化性粒状シリコーン組成物を80℃に加熱しながら、二軸押出機を用いて加熱溶融混練し、T型ダイ(開口寸法:800μm×100mm、80℃加熱)により略シート状に成型しながら、剥離性フィルム(株式会社タカラインコーポレーション社製、ビワライナーFL3-01)上に供給量5kg/時間となるように供給し、-15℃に設定した冷却ロールにより全体を冷却した後に、2枚の剥離性フィルム間に積層した。続いて、当該積層体を、ロール間で延伸することで、厚さ500μmのホットメルト性の硬化性シリコーンシートが2枚の剥離性フィルム間に積層された積層体を形成させた。当該製造装置の構成を、図2に示す。
【0239】
実施例2において、剥離性フィルムを分離したところ、平坦かつ均質なホットメルト性の硬化性シリコーンシートを得ることができた。
【0240】
[実施例3]
実施例1または実施例2の硬化性粒状シリコーン組成物を80℃に加熱しながら、二軸押出機を用いて加熱溶融混練し、二軸押出機の出口温度は80℃で、混合物は半固体状の軟化物の形態で、75μm厚の剥離性フィルム(株式会社タカラインコーポレーション社製、FL2-01)上に供給量5kg/時間となるように供給し、2枚の剥離性フィルム間に積層した。続いて、当該積層体を、90℃に温度制御されたロール間で延伸することで、厚さ300μmのホットメルト性の硬化性シリコーンシートが2枚の剥離性フィルム間に積層された積層体を形成させ、空冷により全体を冷却した。ライン2からロールで延伸するまでに掛かった時間は約2分であった。当該製造装置の構成を、図3に示す。
【0241】
実施例3において、剥離性フィルムを分離したところ、泡がなく平坦かつ均質なホットメルト性の硬化性シリコーンシートを得ることができた。
【符号の説明】
【0242】
図1
1:押出機
2:ガイドロール
3-a:剥離シート
3-b:剥離シート
4-a:延伸ロール(任意で温度調節機能をさらに備えてもよい)
4-b:延伸ロール(任意で温度調節機能をさらに備えてもよい)
5:冷却ロール

図2
1:押出機
2:Tダイ
3:冷却ロール
4-a:剥離シート
4-b:剥離シート
5:ガイドロール
6-a:延伸ロール(任意で温度調節機能をさらに備えてもよい)
6-b:延伸ロール(任意で温度調節機能をさらに備えてもよい)

図3
1:押出機
2:ガイドロール
3-a:剥離シート
3-b:剥離シート
4-a:延伸ロール(任意で温度調節機能をさらに備えてもよい)
4-b:延伸ロール(任意で温度調節機能をさらに備えてもよい)
5:冷却ロール
6:膜厚計
7:異物検査機
8:シートカッター
図1
図2
図3