(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】表面処理気相法シリカ粒子の製造方法、表面処理気相法シリカ粒子、及び静電荷像現像用トナー外添剤
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20240319BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20240319BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C01B33/18 C
C01B33/12 E
G03G9/097 371
G03G9/097 375
(21)【出願番号】P 2021024701
(22)【出願日】2021-02-18
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】松村 和之
(72)【発明者】
【氏名】西峯 正進
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄佑
(72)【発明者】
【氏名】八木 寿
(72)【発明者】
【氏名】中村 勉
(72)【発明者】
【氏名】坂詰 功晃
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-528134(JP,A)
【文献】特開2014-201461(JP,A)
【文献】特開2016-056280(JP,A)
【文献】特開2013-064090(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101481549(CN,A)
【文献】特表2010-533236(JP,A)
【文献】特開平09-194753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/18
C01B 33/12
G03G 9/097
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理気相法シリカ粒子の製造方法であって、
(A1):原料気相法シリカ粒子に1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザンを添加し、前記原料気相法シリカ粒子の表面にビニルジメチルシリル基を導入して予備処理シリカ粒子を得る工程、及び
(A2):前記予備処理シリカ粒子にヘキサメチルジシラザンを添加し、前記予備処理シリカ粒子の表面にトリメチルシリル基を導入して表面処理気相法シリカ粒子を得る工程
を有することを特徴とする表面処理気相法シリカ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記原料気相法シリカ粒子のBET比表面積を40~400m
2/gとすることを特徴とする請求項1に記載の表面処理気相法シリカ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記工程(A1)において、前記1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザンの添加量(g)を、
{前記工程(A1)に用いる前記原料気相法シリカ粒子の量(g)×前記原料気相法シリカ粒子のBET比表面積(m
2/g)}/B (Bは、5,000~100,000の数である。)
で表される量とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の表面処理気相法シリカ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記工程(A2)において、前記ヘキサメチルジシラザンの添加量(g)を、
{前記工程(A2)に用いる前記予備処理シリカ粒子の量(g)×前記原料気相法シリカ粒子のBET比表面積(m
2/g)}/C (Cは、150~3,000の数である。)
で表される量とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の表面処理気相法シリカ粒子の製造方法。
【請求項5】
1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン及びヘキサメチルジシラザンにより気相法シリカ粒子の表面が処理されたものである表面処理気相法シリカ粒子であって、
前記表面処理気相法シリカ粒子のBET比表面積が30m
2/g以上400m
2/g未満であり、
前記表面処理気相法シリカ粒子のレーザー回析法による体積基準粒度分布から求められる1.5μm以上の粒子の割合が10%未満であり、
前記表面処理気相法シリカ粒子のメタノール疎水化度が68%以上78%以下であり、かつ、
前記表面処理気相法シリカ粒子1質量部と体積メジアン径が5~8μmであるポリエステル樹脂粒子100質量部とを混合して混合物とした場合に、該混合物の凝集度が20%以下となるものであることを特徴とする表面処理気相法シリカ粒子。
【請求項6】
請求項5に記載の表面処理気相法シリカ粒子を含有するものであることを特徴とする静電荷像現像用トナー外添剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理気相法シリカ粒子、その製造方法及び電子写真法、静電記録法等における静電荷像を現像するために使用する静電荷像現像用トナー外添剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法等で使用する乾式現像剤は、結着樹脂中に着色剤を分散したトナーそのものを用いる一成分現像剤と、そのトナーにキャリアを混合した二成分現像剤とに大別でき、そしてこれらの現像剤を用いてコピー操作を行う場合、プロセス適合性を有するためには、現像剤が流動性、耐ケーキング性、定着性、帯電性、クリーニング性等に優れていることが必要である。そして特に、流動性、耐ケーキング性、定着性、クリーニング性を高めるために、無機微粒子をトナー外添剤として使用することがしばしば行われている。
【0003】
しかしながら、無機微粒子の分散性がトナー特性に大きな影響を与え、分散性が不均一な場合、流動性、耐ケーキング性、定着性に所望の特性が得られなかったり、クリーニング性が不十分になって、感光体上にトナー固着等が発生し、黒点状の画像欠陥が生じる原因となることがあった。これらの点を改善する目的で、無機微粒子の表面を疎水化処理したものが種々提案されている。
【0004】
このような用途に用いられる無機微粒子のうち、気相法シリカは、一次粒子径が小さく、その表面処理による帯電性の制御により、トナー外添剤として優れた機能を持つものとして知られている(特許文献1、2、3)。
【0005】
しかし、気相法シリカは、一次粒子径が小さいものの凝集し易く、その凝集粒子径は通常10μmから200μm以上にもなるものがあった。このような凝集粒子は、トナーへの分散工程において、強い摩擦力を受けて解されながらトナー中に分散していくものであるが、大きな凝集体を形成しているものは、トナーへの分散性が悪く、このような凝集粒子がトナー中に存在することで、流動性を低下させたり、トナーからの脱落が起こったりして、印刷画像中に白点が出るなどの問題を引き起こすことがあった。
【0006】
そのような観点から疎水化処理後発生する凝集粒子を粉砕分級してその微粉のみを使用するという方法が提案されている(特許文献4)。しかし上記のような分級粉砕は製造効率が悪く、またコストも掛かるため好ましい方法ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-145325号公報
【文献】特開2006-99006号公報
【文献】特開2007-34224号公報
【文献】特開2010-085837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、粗大凝集粒子が少なく、トナーに添加された場合に良好な流動性を付与できる表面処理気相法シリカ粒子及びその製造方法、及び該表面処理気相法シリカ粒子からなるトナー用外添剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、
表面処理気相法シリカ粒子の製造方法であって、
(A1):原料気相法シリカ粒子に1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザンを添加し、前記原料気相法シリカ粒子の表面にビニルジメチルシリル基を導入して予備処理シリカ粒子を得る工程、及び
(A2):前記予備処理シリカ粒子にヘキサメチルジシラザンを添加し、前記予備処理シリカ粒子の表面にトリメチルシリル基を導入して表面処理気相法シリカ粒子を得る工程
を有する表面処理気相法シリカ粒子の製造方法を提供する。
【0010】
このような表面処理気相法シリカ粒子の製造方法であれば、粗大凝集粒子が少なく、トナーに添加された場合に良好な流動性を付与できる表面処理気相法シリカ粒子を製造することができる。
【0011】
また、前記原料気相法シリカ粒子のBET比表面積を40~400m2/gとすることが好ましい。
【0012】
このような原料気相法シリカ粒子であれば、分散性に優れ、シラザン化合物による表面処理の際に凝集し難い。
【0013】
また、前記工程(A1)において、前記1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザンの添加量(g)を、
{前記工程(A1)に用いる前記原料気相法シリカ粒子の量(g)×前記原料気相法シリカ粒子のBET比表面積(m2/g)}/B (Bは、5,000~100,000の数である。)
で表される量とすることが好ましい。
【0014】
1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザンの添加量をこのような範囲とすれば、コストの面で好ましく、かつ、(A2)工程におけるヘキサメチルジシラザンによる疎水化処理効率を高めることができる。
【0015】
また、前記工程(A2)において、前記ヘキサメチルジシラザンの添加量(g)を、
{前記工程(A2)に用いる前記予備処理シリカ粒子の量(g)×前記原料気相法シリカ粒子のBET比表面積(m2/g)}/C (Cは、150~3,000の数である。)
で表される量とすることが好ましい。
【0016】
ヘキサメチルジシラザンの添加量をこのような範囲とすれば、反応時の凝集物の発生を抑えることができ、かつ、シリカ粒子の疎水化度をより高めることができる。
【0017】
また本発明では、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン及びヘキサメチルジシラザンにより気相法シリカ粒子の表面が処理されたものである表面処理気相法シリカ粒子であって、
前記表面処理気相法シリカ粒子のBET比表面積が30m2/g以上400m2/g未満であり、
前記表面処理気相法シリカ粒子のレーザー回析法による体積基準粒度分布から求められる1.5μm以上の粒子の割合が10%未満であり、
前記表面処理気相法シリカ粒子のメタノール疎水化度が68%以上78%以下であり、かつ、
前記表面処理気相法シリカ粒子1質量部と体積メジアン径が5~8μmであるポリエステル樹脂粒子100質量部とを混合して混合物とした場合に、該混合物の凝集度が20%以下となるものである表面処理気相法シリカ粒子を提供する。
【0018】
本発明では、このような特性を有する表面処理気相法シリカ粒子とすることができる。
【0019】
また本発明では、上記の表面処理気相法シリカ粒子を含有するものである静電荷像現像用トナー外添剤を提供する。
【0020】
本発明の表面処理気相法シリカ粒子は、トナー外添剤として用いた場合、トナーに良好な流動性および印刷特性を与えることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明によれば、外添剤として従来の小粒径フュームドシリカを用いた場合に発生していた印刷画像欠陥や低トナー流動性を改善できる表面処理気相法シリカ粒子、並びに、これを用いた静電荷現像用トナー、静電荷現像用トナー外添剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上述のように、凝集粒子が少なくトナーに添加された場合に良好な流動性を付与できる、表面処理気相法シリカ粒子からなるトナー用外添剤の開発が求められていた。
【0023】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、気相法シリカ粒子をビニルテトラメチルジシラザン及びヘキサメチルジシラザンにより表面処理することにより、凝集が少なく、更にトナー添加時においても分散性が優れ、印刷画像欠陥のない表面処理気相法シリカ粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0024】
即ち、本発明は、
表面処理気相法シリカ粒子の製造方法であって、
(A1):原料気相法シリカ粒子に1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザンを添加し、前記原料気相法シリカ粒子の表面にビニルジメチルシリル基を導入して予備処理シリカ粒子を得る工程、及び
(A2):前記予備処理シリカ粒子にヘキサメチルジシラザンを添加し、前記予備処理シリカ粒子の表面にトリメチルシリル基を導入して表面処理気相法シリカ粒子を得る工程
を有する表面処理気相法シリカ粒子の製造方法である。
【0025】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
(原料気相法シリカ粒子)
本発明において原料とされる気相法シリカ粒子(気相法シリカ微粒子)は、乾式法シリカとも呼ばれ、その製法は珪素化合物の火炎加水分解、火炎中燃焼法による酸化、あるいはこれらの反応の併用による方法で製造されたものであれば特に制限されない。その中でも火炎加水分解法により製造された気相法シリカ粒子が好適に用いられる。市販されている製品としては、日本アエロジル社製あるいはエボニックデグサ社製の「アエロジル」、キャボット社製の「キャボジル」、ワッカー社製の「HDK」、トクヤマ社製の「レオロシール」等がある。
【0027】
火炎加水分解法による気相法シリカ粒子の製造方法は、例えば、四塩化ケイ素等の原料珪素化合物のガスを不活性ガスと共に燃焼バーナーの混合室に導入し、水素及び空気と混合して所定比率の混合ガスとし、この混合ガスを反応室で1,000~3,000℃の温度で燃焼させて生成させ、冷却後、生成したシリカをフィルターで捕集する方法である。
【0028】
気相法シリカ粒子の原料として用いられる珪素化合物としては、各種の無機珪素化合物、有機珪素化合物が挙げられる。例えば、四塩化珪素、三塩化珪素、二塩化珪素などの無機珪素化合物、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサンなどのシロキサン、メチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、トリメチルブトキシシランなどのアルコキシシラン、テトラメチルシラン、ジエチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、或いはこれらのオリゴマー、ポリマーなどの有機珪素化合物が挙げられる。
【0029】
このような珪素化合物の火炎中での加水分解及び燃焼分解は、この珪素化合物を必要に応じて蒸留などで精製した後、加熱蒸発させてこれを窒素ガスなどの不活性ガスに伴流させる気流伴送法や、珪素化合物を霧化させて火炎中に供給する方法で、酸水素火炎などの火炎中に導入し、この火炎中で反応させて行えばよいが、この際には、水素ガス、メタンガスなどのような可燃性ガスを助燃ガスとしてもよい。この助燃ガスとしては残渣の残らないものであればいずれも使用することができ、特に制限はない。これら珪素化合物の加水分解又は燃焼分解で生成したシリカは、バグフィルター、サイクロンなど公知の方法で捕集される。
【0030】
本発明における原料気相法シリカ粒子は、BET比表面積が40~400m2/gのものが好ましい。このような範囲であれば、分散性に優れ、後述するシラザン化合物による表面処理の際に凝集し難い。
【0031】
原料気相法シリカ粒子は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0032】
(表面処理気相法シリカ粒子の製造方法)
本発明の表面処理気相法シリカ粒子の製造方法は、下記工程(A1)および工程(A2)を有する。
工程(A1):シリカ表面にビニルジメチルシリル単位を導入する工程
工程(A2):シリカ表面にトリメチルシリル単位を導入する工程
【0033】
工程(A1):シリカ表面にビニルジメチルシリル単位を導入する工程
工程(A1)は、原料気相法シリカ粒子に1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン(以下、ジビニルテトラメチルジシラザンと表記する)を添加し、原料気相法シリカ粒子の表面にビニルジメチルシリル基を導入して予備処理シリカ粒子を得る工程である。本工程により、下記工程(A2)における表面処理がより均一に、且つ高度に進行する。
【0034】
原料気相法シリカ粒子としては、上述の気相法シリカ粒子を用いればよい。
【0035】
工程(A1)における原料気相法シリカ粒子のジビニルテトラメチルジシラザンによる表面処理方法は、一般的な粉体の表面処理に用いられる乾式法および湿式法を用いることができる。生産性の点から乾式法を用いることが好ましく、乾式法におけるジビニルテトラメチルジシラザンの添加方法としては、原料気相法シリカ粒子を反応器内で撹拌しながら、滴下、スプレーによる噴霧等により行うことができる。なお、ジビニルテトラメチルジシラザンはそのまま使用してもよく、トルエン、キシレン、ヘキサンなどの溶媒で希釈したものを用いてもよい。
【0036】
原料気相法シリカ粒子に対して表面処理を行う際に、予め水をシリカ表面に含ませておくことにより表面処理効率が高くなるため好ましく、この場合、水を添加した後0.5時間~2.0時間程度撹拌することが好ましい。
【0037】
水の添加方法は、原料気相法シリカ粒子を反応器内で撹拌しながら、水を滴下または噴霧する方法の他、スチームとして添加してもよい。
【0038】
原料気相法シリカ粒子に対する水の添加量は、以下の式で算出される量とすることが好ましい。
水の添加量(g)={工程(A1)に用いる原料気相法シリカ粒子の量(g)×原料気相法シリカ粒子のBET比表面積(m2/g)}/A
【0039】
上記計算式において、Aは、300~200,000の数であることが好ましく、より好ましくは500~2,500の数である。Aが300以上であると、原料気相法シリカ粒子の水による凝集を抑制できるため好ましく、Aが200,000以下であるとシラザン化合物の反応性をより高めることができるため好ましい。
【0040】
ジビニルテトラメチルジシラザンの添加量は、原料気相法シリカ粒子に対して以下の式で算出される量とすることが好ましい。
ジビニルテトラメチルジシラザンの添加量(g)={工程(A1)に用いる原料気相法シリカ粒子の量(g)×原料気相法シリカ粒子のBET比表面積(m2/g)}/B
【0041】
上記計算式において、Bは、5,000~100,000の数であることが好ましく、より好ましくは10,000~80,000の数である。Bが5,000以上であるとコストの面で好ましく、Bが100,000以下であると工程(A2)におけるヘキサメチルジシラザンによる疎水化処理効率を高めることができるため好ましい。
【0042】
工程(A1)における原料気相法シリカ粒子とジビニルテトラメチルジシラザンとの反応は、一般的なシラザン化合物によるシリカの表面処理条件が適用でき、室温においても反応が進行するが、ジビニルテトラメチルジシラザンを添加した後、混合物を50~70℃で0.5時間~3時間撹拌し、反応を進行させることが好ましい。
【0043】
工程(A2):シリカ表面にトリメチルシリル単位を導入する工程
工程(A2)は、工程(A1)において得られた予備処理シリカ粒子にヘキサメチルジシラザンを添加し、予備処理シリカ粒子の表面にトリメチルシリル基を導入して疎水化された表面処理気相法シリカ粒子を得る工程である。
【0044】
工程(A2)における予備処理シリカ粒子のヘキサメチルジシラザンによる表面処理方法は、一般的な粉体の表面処理に用いられる乾式法および湿式法を用いることができる。生産性の点から乾式法を用いることが好ましく、乾式法におけるヘキサメチルジシラザンの添加方法としては、予備処理シリカ粒子を反応器内で撹拌しながら、滴下、スプレーによる噴霧等により行うことができる。なお、ヘキサメチルジシラザンはそのまま使用してもよく、トルエン、キシレン、ヘキサンなどの溶媒で希釈したものを用いてもよい。
【0045】
また工程(A1)と同様、工程(A2)においてもシリカ表面に水が含まれている方がより表面処理効率が高くなるため好ましい。水は上述のように工程(A1)で添加しておけば十分であるが、工程(A2)において別途添加してもよい。
【0046】
ヘキサメチルジシラザンの添加量は、予備処理シリカ粒子に対して以下の式で算出される量とすることが好ましい。
ヘキサメチルジシラザンの添加量(g)={工程(A2)に用いる予備処理シリカ粒子の量(g)×原料気相法シリカ粒子のBET比表面積(m2/g)}/C
【0047】
上記計算式において、Cは、150~3,000の数であることが好ましく、より好ましくは200~1,000の数であることが好ましい。Cが150以上であると反応時の凝集物の発生を抑えることができ、Cが3,000以下であるとシリカ粒子の疎水化度をより高めることができる。
【0048】
工程(A2)における予備処理シリカ粒子とヘキサメチルジシラザンとの反応は、一般的なシラザン化合物によるシリカの表面処理条件が適用でき、室温においても反応が進行するが、ヘキサメチルジシラザンを添加した後、混合物を50~100℃で0.5時間~3時間撹拌し、反応を進行させることが好ましい。
【0049】
工程(A3):表面処理気相法シリカ粒子を乾燥する工程
本発明の表面処理気相法シリカ粒子の製造方法は、工程(A2)後、そのまま表面処理気相法シリカ粒子を風乾、放冷等とすることができるが、更に工程(A3):表面処理気相法シリカ粒子を乾燥する工程を有することが好ましい。乾燥条件は特に限定されないが、140℃~250℃にて0.5時間~3時間程度窒素気流下で乾燥することが好ましい。
【0050】
(表面処理気相法シリカ粒子)
本発明の表面処理気相法シリカ粒子の製造方法により得られる表面処理気相法シリカ粒子は、
1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン及びヘキサメチルジシラザンにより気相法シリカ粒子の表面が処理されたものである表面処理気相法シリカ粒子であって、
(1)表面処理気相法シリカ粒子のBET比表面積が30m2/g以上400m2/g未満であり、
(2)表面処理気相法シリカ粒子のレーザー回析法による体積基準粒度分布から求められる1.5μm以上の粒子の割合が10%未満であり、
(3)表面処理気相法シリカ粒子のメタノール疎水化度が68%以上78%以下であり、かつ、
(4)表面処理気相法シリカ粒子1質量部と体積メジアン径が5~8μmであるポリエステル樹脂粒子100質量部とを混合して混合物とした場合に、該混合物の凝集度が20%以下となるものである表面処理気相法シリカ粒子である。
【0051】
上記物性(1)~(4)を併せ持つことで、トナー外添剤として用いた場合、トナーに良好な流動性および印刷特性を与える。
【0052】
(1)BET比表面積
BET比表面積は、一次粒子径に依存し、特には40~200m2/gが好ましい。BET比表面積が30m2/gより小さいと、静電荷像現像用トナー外添剤としてトナーに添加した場合、トナーへの分散性が悪く、流動性向上効果に劣るものとなり、400m2/g以上であると凝集し易いものとなる。
【0053】
(2)凝集粒子割合
レーザー回析法による体積基準粒度分布は、表面処理気相法シリカ粒子の0.5質量%メタノール分散液(出力30W/Lの超音波を10分間照射して分散させたもの)のレーザー回析法による体積基準粒度分布とすることができる。1.5μm以上の粒子の割合が10%以上では、大きな凝集粒子が多いことにより、静電荷像現像用トナー外添剤としてトナーに添加した場合、トナーへの分散性が劣り、トナーの流動性および印刷画質に劣るものとなる。この割合は8%以下がより好ましく、特に5%以下が好ましい。
【0054】
(3)メタノール疎水化度
表面処理気相法シリカ粒子のメタノール疎水化度が68%未満であると、シリカ表面の残存シラノール基によりシリカ粒子同士の凝集が起きやすくなり、静電荷像現像用トナー外添剤としてトナーに添加した場合、トナーへの分散性が劣り、トナーの流動性および印刷画質に劣るものとなる。メタノール疎水化度が78%を超えると、トナーに添加した場合、トナーの帯電量が高くなりすぎる場合がある。なお、本発明におけるメタノール疎水化度は、以下の条件で測定したものを指す。
【0055】
<メタノール疎水化度の測定方法>
体積濃度50%(温度25℃)のメタノール水溶液60mlに表面処理気相法シリカ粒子を0.2g添加し、撹拌子で攪拌し、次いでシリカ粒子が表面に浮遊した液中にメタノールを滴下しながら、メタノール水溶液に波長780nmの光を照射して透過率を測定し、球状シリカ粒子が懸濁・沈降して、透過率が80%になったときのメタノール水溶液中のメタノール体積濃度(%)をメタノール疎水化度とする。
【0056】
(4)トナー凝集度
ポリエステル樹脂粒子と表面処理気相法シリカ粒子との混合物の凝集度は、トナーにシリカ粒子を分散させた場合のトナーの凝集を表し、該凝集度の値が小さいほど、トナーの凝集量が少なく良好と評価できる。
【0057】
体積メジアン径が5~8μmであるポリエステル樹脂粒子100質量部と表面処理気相法シリカ粒子1質量部との混合物の凝集度が20%より高いと、表面処理気相法シリカ粒子を静電荷像現像用トナー外添剤としてトナーに添加した場合、トナー同士の固着による凝集物発生が多くなったり、トナーの流動性が悪化する。凝集度は好ましくは10%以下である。なお、本発明における凝集度は、以下の条件で測定したものを指す。
【0058】
<凝集度の測定方法>
レーザー回折/散乱法による体積メジアン径が5~8μmであるポリエステル樹脂粒子100質量部に対して、表面処理気相法シリカ粒子1質量部をミキサーにより混合した混合物2gを用い、篩の目開きが上から150μm、75μm、45μm、振動幅1mm、振動数1Hzで60秒間振動させる。振動後、篩上に残った量を測定し、下式にて算出する。
凝集度(%)=(W1+0.6×W2+0.2×W3)/2×100
W1:150μm目開き篩上の残存量(g)
W2:75μm目開き篩上の残存量(g)
W3:45μm目開き篩上の残存量(g)
【0059】
(静電荷像現像用トナー外添剤)
また本発明では、上記の表面処理気相法シリカ粒子を含有するものである静電荷像現像用トナー外添剤を提供する。本発明の表面処理気相法シリカ粒子は、トナー外添剤として用いた場合、トナーに良好な流動性および印刷特性を与えることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
(表面処理気相法シリカ粒子の製造)
[実施例1-1]
撹拌機、噴霧装置、温度計を備えた5リットルの反応装置にBET比表面積50m2/gの気相法シリカ粒子を240g投入した。反応装置内の空気を乾燥窒素にて置換した後、撹拌しながら水18gを噴霧装置により噴霧した。25℃で1時間撹拌した後、ジビニルテトラメチルジシラザン0.6gを噴霧し、60℃で1時間撹拌した。一旦25℃まで冷却した後、ヘキサメチルジシラザン60gを噴霧し、60℃で1時間撹拌後、更に150℃、窒素気流下で撹拌しながら3時間乾燥させた。これを冷却することにより表面処理気相法シリカ粒子(I)の白色粉体243gを得た。
【0062】
[実施例1-2]
実施例1-1において、ジビニルテトラメチルジシラザンの添加量を1.2gとした以外は実施例1-1と同様の手順を行い、表面処理気相法シリカ粒子(II)の白色粉体244gを得た。
【0063】
[実施例1-3]
実施例1-1において、BET比表面積50m2/gの気相法シリカ粒子に代えてBET比表面積90m2/gの気相法シリカ粒子を用いた以外は実施例1-1と同様の手順を行い、表面処理気相法シリカ粒子(III)の白色粉体242gを得た。
【0064】
[実施例1-4]
撹拌機、噴霧装置、温度計を備えた5リットルの反応装置にBET比表面積130m2/gの気相法シリカ微粒子を148g投入した。反応装置内の空気を乾燥窒素にて置換した後、撹拌しながら水13gを噴霧装置により噴霧した。25℃で1時間撹拌した後、ジビニルテトラメチルジシラザン0.4gを噴霧し、60℃で1時間撹拌した。一旦25℃まで冷却した後、ヘキサメチルジシラザン60gを噴霧し、60℃で1時間撹拌後、更に150℃、窒素気流下で撹拌しながら3時間乾燥させた。これを冷却することにより表面処理気相法シリカ粒子(IV)の白色粉体51gを得た。
【0065】
[実施例1-5]
実施例1-4において、BET比表面積130m2/gの気相法シリカ微粒子に代えてBET比表面積200m2/gの気相法シリカ微粒子を用いた以外は実施例1-4と同様の手順を行い、表面処理気相法シリカ粒子(V)の白色粉体153gを得た。
【0066】
[比較例1-1]
撹拌機、噴霧装置、温度計を備えた5リットルの反応装置にBET比表面積50m2/gの気相法シリカ粒子を240g投入した。反応装置内の空気を乾燥窒素にて置換した後、撹拌しながら水18gを噴霧装置により噴霧した。25℃で1時間撹拌した後、ヘキサメチルジシラザン60gを噴霧し、60℃で1時間撹拌後、更に150℃、窒素気流下で撹拌しながら3時間乾燥させた。これを冷却することにより表面処理気相法シリカ粒子(VI)の白色粉体243gを得た。
【0067】
[比較例1-2]
撹拌機、噴霧装置、温度計を備えた5リットルの反応装置にBET比表面積130m2/gの気相法シリカ微粒子を148g投入した。反応装置内の空気を乾燥窒素にて置換した後、撹拌しながら水13gを噴霧装置により噴霧した。25℃で1時間撹拌した後、ヘキサメチルジシラザン60gを噴霧し、60℃で1時間撹拌後、更に150℃、窒素気流下で撹拌しながら3時間乾燥させた。これを冷却することにより表面処理気相法シリカ粒子(VII)の白色粉体51gを得た。
【0068】
[比較例1-3]
撹拌機、噴霧装置、温度計を備えた5リットルの反応装置にBET比表面積50m2/gの気相法シリカ粒子を240g投入した。反応装置内の空気を乾燥窒素にて置換した後、撹拌しながら水18gを噴霧装置により噴霧した。25℃で1時間撹拌した後、ジビニルテトラメチルジシラザン60gを噴霧し、60℃で1時間撹拌後、更に150℃、窒素気流下で撹拌しながら3時間乾燥させた。これを冷却することにより表面処理気相法シリカ粒子(VIII)の白色粉体247gを得た。
【0069】
上記工程により得られた表面処理気相法シリカ粒子(I)~(VIII)について、下記の測定方法(1)~(4)に従って測定を行った結果を表1に示す。
【0070】
[測定方法]
(1)BET比表面積
全自動BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製Macsorb HM model-1201)を用い、窒素を使用したBET1点法により測定した。
【0071】
(2)凝集粒子割合
表面処理気相法シリカ粒子0.1g及びメタノール19.9gをガラス瓶に入れ、超音波洗浄機に入れて、出力30W/Lの超音波を10分間照射させてメタノール中にシリカ粒子を分散させた。その分散液をレーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製LA-950V2)を用いて測定した体積基準の粒度分布において、粒子径1.5μm以上の凝集粒子の割合を算出した。
【0072】
(3)メタノール疎水化度
粉体濡れ性試験機(株式会社レスカ製WET101P)を用い、体積濃度50%(温度25℃)のメタノール水溶液60mlに表面処理気相法シリカ粒子を0.2g添加し、撹拌子で攪拌した。次いでシリカ粒子が表面に浮遊した液中にメタノールを滴下しながら、メタノール水溶液に波長780nmの光を照射して透過率を測定した。球状シリカ粒子が懸濁・沈降して、透過率が80%になったときのメタノール水溶液中のメタノール体積濃度(%)をメタノール疎水化度とした。
【0073】
(4)トナー凝集度
レーザー回折/散乱法による体積メジアン径が5~8μmであるポリエステル樹脂粒子100質量部に対して、表面処理気相法シリカ粒子1質量部をミキサーにより混合した。この混合物2gを、粉体特性評価装置(ホソカワミクロン株式会社製パウダーテスターPT-X)を使用して、篩の目開きが上から150μm、75μm、45μm、振動幅1mm、振動数1Hzで60秒間振動させた後、篩上に残った量を測定し、凝集度を下式にて算出した。
凝集度(%)=(W1+0.6×W2+0.2×W3)/2×100
W1:150μm目開き篩上の残存量(g)
W2:75μm目開き篩上の残存量(g)
W3:45μm目開き篩上の残存量(g)
【0074】
【0075】
表1に示されるように、実施例1-1~1-5で得られた表面処理気相法シリカ粒子は、凝集シリカ粒子の割合が少なく、メタノール疎水化度が十分であり、更にトナー凝集度が小さいものであった。一方、ジビニルテトラメチルジシラザンによる表面処理を行っていない比較例1-1,1-2、及びヘキサメチルジシラザンによる表面処理を行っていない比較例1-3で得られた表面処理気相法シリカ粒子は、シリカ粒子同士の凝集が多く見られ、メタノール疎水化度が低く、トナーに添加した際の凝集度が高いものであった。
【0076】
(外添剤混合トナーおよび二成分現像剤の製造)
[実施例2-1~2-5、比較例2-1~2-3]
Tg60℃、軟化点110℃のポリエステル樹脂96重量部と色剤としてカーミン6BC(住化カラー(株)製)4重量部を溶融混練、粉砕、分級後、体積メジアン径7μmのトナーを得た。このトナー10gと実施例1-1~1-5、及び比較例1-1~1-3で得られた表面処理気相法シリカ粒子0.2gとをサンプルミルにて混合し、外添剤混合トナーを得た。
【0077】
上記外添剤混合トナー3質量部と、キャリアである標準フェライトL(日本画像学会)97質量部とを混合して二成分現像剤を調製した。上記工程により得られた二成分現像剤について、下記の方法(5)~(9)に従って測定を行った結果を表2に示す。
【0078】
(5)トナー帯電量
上記二成分現像剤を高温高湿(30℃、90%RH)、中温中湿(25℃、55%RH)及び低温低湿(10℃、15%RH)の各条件下に1日間曝露した後、同一条件下でそれぞれの試料を摩擦帯電した際の帯電量をブローオフ粉体帯電量測定装置(東芝ケミカル(株)製、TB-200)を用いて測定した。
【0079】
(6)感光体へのトナー付着
上記二成分現像剤を、有機感光体を備えた現像機に入れ、25℃、50%RH環境下で30,000枚のプリントテストを実施した。このとき、感光体へのトナーの付着は、全ベタ画像での白抜けとして感知できる。ここで、白抜けの程度は、1cm2あたりの白抜け個所の数が10個以上を「多い」、1~9個を「少ない」、0個を「なし」と評価した。
【0080】
(7)感光体摩耗
上記(6)のプリントテストにおいて、画像の乱れとして検出される感光体摩耗について、下記基準で評価した。
A:画像の乱れのないもの
B:大きな画像の乱れのないもの
C:画像の乱れがあるもの
【0081】
(8) 画像欠損(白点)評価
上記二成分現像剤を30℃、90%RHの環境に1日間曝露し、その後20cm四方のベタ印刷(画像濃度100%)を5,000枚連続印刷を行った後、再び上記二成分現像剤を30℃、90%RH環境下で静置した。これを60回繰返し、合計300,000枚の印刷を行った。初日の10枚目の印刷物を印刷物1、最終日の最終印刷物を印刷物2とした。
【0082】
上記で得られた印刷物2の画像観察による画像欠損(白点)の有無を下記基準で評価した。
A:目視で画像欠損なし(白点なし)
B:目視で白点(粒子状に白く抜けた画像)が1個以上4個以下
C:目視で白点が5個以上9個以下
D:目視で白点が10個以上
【0083】
(9)濃度変化(ΔE)評価
上記印刷物1に対する印刷物2の濃度変化について、反射濃度計X-rite938(X-rite社製)を使用し、JIS Z 8781-5に準拠してCIE1976(L*a*b*)色空間における色差(ΔE)を測定し、下記基準により評価した。
A:ΔE差が1未満
B:ΔE差が1以上2.5未満
C:ΔE差が2.5以上3.0未満
D:ΔE差が3.0以上
【0084】
【0085】
表2に示されるように、実施例1-1~1-5で得られた表面処理気相法シリカ粒子をトナー外添剤として用いた二成分現像剤は、印刷画像欠陥のないものであった。一方、比較例1-1~1-3で得られた表面処理気相法シリカ粒子を用いたものは、トナー帯電量の環境による変動が大きく、印刷特性に劣っていた。
【0086】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。