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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】複合フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240319BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20240319BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20240319BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20240319BHJP
【FI】
B32B27/00 101
C08L83/05
C08L83/07
C08K3/11
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021053280
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150604
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】水梨 友之
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-110752(JP,A)
【文献】特開2020-193260(JP,A)
【文献】特開2014-169412(JP,A)
【文献】国際公開第2019/225178(WO,A1)
【文献】特開2005-054168(JP,A)
【文献】特開2015-214637(JP,A)
【文献】特開2014-138999(JP,A)
【文献】シリコーンオイル KF-96 性能試験結果
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
B32B 1/00- 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状シリコーン樹脂硬化物からなる硬化物層と、少なくとも1種の有機高分子フィルム層を含む複合フィルムであって、
前記シート状シリコーン樹脂硬化物の厚みが10μm以上500μm以下のものであり、
前記シート状シリコーン樹脂硬化物が、下記(A)から(D)成分を含む硬化性シリコーン樹脂組成物であって、
(A)1分子中に2個以上6個未満の炭素数2~10のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)下記式(1)で示されるオルガノポリシロキサン、
【化1】
(上記式中、Rは独立して、炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基であり、Rは独立して、炭素数2~10のアルケニル基、であり、nおよびmは0≦n、0≦m、10≦n+m≦10,000を満たす整数である。)
(C)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記硬化性シリコーン樹脂組成物中のケイ素原子に結合したアルケニル基量の合計1モルに対して、(C)成分のヒドロシリル基が0.1~4.0モルとなる量、及び
(D)白金族金属系触媒(ただし、光活性を有する錯体を除く)
を含み、前記(B)成分の量が、前記(A)成分と前記(B)成分との合計質量に対して0.1~50質量%である硬化性シリコーン樹脂組成物を硬化してなるものであることを特徴とする複合フィルム
【請求項2】
前記(A)成分が、(A1)ケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を1分子中に2個以上有する直鎖状オルガノポリシロキサンと、(A2)ケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を1分子中に2個以上有し、ケイ素原子に結合した水酸基を1分子中に1個以上有し、前記水酸基の量が0.001~1.0mol/100gであるレジン構造を有するオルガノポリシロキサンとを含むものであることを特徴とする請求項1に記載の複合フィルム
【請求項3】
前記硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物のJIS K 6253-3に記載の方法で測定したタイプA硬度が40~95の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合フィルム
【請求項4】
前記硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物の厚さ1mmでの波長450nmにおける直達光透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複合フィルム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性シリコーン樹脂組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のスマートフォンやタブレット端末等などディスプレイを有する電子機器においては、フォルダブルデバイスが増加しており、従来よりも伸縮性、衝撃吸収性が求められてきている。従来の衝撃吸収フィルムとしては、非常に柔らかいゲル状エラストマーの使用が一般的であり、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などのゲル状エラストマーが広く使用されている(特許文献1~3)。しかしながら、ゲル状エラストマーを使用した衝撃吸収材料では、ある程度の衝撃吸収性を有しているものの、より厳しい衝撃吸収性を求められる場合には、衝撃吸収特性が不十分になる場合があった。
【0003】
また衝撃吸収層を多層化することによって、衝撃吸収性を改善する検討もされているが、多層化することによって光透過性が減少してしまい、光の取り出し効率が減少してしまうという問題があった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-93388号公報
【文献】特開2009-242541号公報
【文献】特許6555921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、機械特性、衝撃吸収性、透明性に優れたシリコーン樹脂硬化物、及び該硬化物を与える硬化性シリコーン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明では、下記(A)から(D)成分を含む硬化性シリコーン樹脂組成物であって、
(A)1分子中に2個以上6個未満の炭素数2~10のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)下記式(1)で示されるオルガノポリシロキサン、
【化1】
(上記式中、Rは独立して、炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基であり、Rは独立して、炭素数2~10のアルケニル基、であり、nおよびmは0≦n、0≦m、10≦n+m≦10,000を満たす整数である。)
(C)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記硬化性シリコーン樹脂組成物中のケイ素原子に結合したアルケニル基量の合計1モルに対して、(C)成分のヒドロシリル基が0.1~4.0モルとなる量、及び
(D)白金族金属系触媒
を含み、前記(B)成分の量が、前記(A)成分と前記(B)成分との合計質量に対して0.1~50質量%であることを特徴とする硬化性シリコーン樹脂組成物を提供する。
【0007】
このような硬化性シリコーン樹脂組成物であれば、優れた機械特性、伸縮性、衝撃吸収性、透明性を有するシリコーン樹脂硬化物を得ることができる。
【0008】
この場合、(A)成分が、(A1)ケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を1分子中に2個以上有する直鎖状オルガノポリシロキサンと、(A2)ケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を1分子中に2個以上有し、ケイ素原子に結合した水酸基を1分子中に1個以上有し、前記水酸基の量が0.001~1.0mol/100gであるレジン構造を有するオルガノポリシロキサンとを含むものであることができる。
【0009】
このような(A)成分を含む硬化性シリコーン樹脂組成物であれば、より優れた機械特性、伸縮性、衝撃吸収性、透明性を有するシリコーン樹脂硬化物を得ることができる。
【0010】
また、前記硬化性シリコーン樹脂組成物は、その硬化物のJIS K 6253-3に記載の方法で測定したタイプA硬度が40~95の範囲内であることが好ましい。
【0011】
このような硬化性シリコーン樹脂組成物は、優れた衝撃吸収性、伸縮性、透明性を備えると共に、十分な硬さを有するシリコーン樹脂硬化物となるので、これらの特性が要求されるフォルダブルデバイス等において利用価値が高い。
【0012】
また、前記硬化性シリコーン樹脂組成物は、その硬化物の厚さ1mmでの波長450nmにおける直達光透過率が80%以上であることが好ましい。
【0013】
このような硬化性シリコーン樹脂組成物は、優れた衝撃吸収性、伸縮性に加えて、より高い透明性を備えたシリコーン樹脂硬化物となるので、光学用途に好適である。
【0014】
また、本発明は、上記硬化性シリコーン樹脂組成物を硬化してなるシリコーン樹脂硬化物を提供する。
【0015】
このようなシリコーン樹脂硬化物は、優れた衝撃吸収性、伸縮性、透明性を有する。
【0016】
上記シリコーン樹脂硬化物はシート状シリコーン樹脂硬化物とすることができる。
【0017】
このようなシート状シリコーン樹脂硬化物は、優れた衝撃吸収性、伸縮性、透明性を有するので、小型電子機器の透光性衝撃緩衝材料として、好適に使用することができる。
【0018】
この場合、上記シート状シリコーン樹脂硬化物からなる硬化物層と、少なくとも1種の有機高分子フィルム層を含む複合フィルムであって、前記シート状シリコーン樹脂硬化物の厚みが10μm以上500μm以下の複合フィルムとすることができる。
【0019】
このような複合フィルムは、上記シート状シリコーン樹脂硬化物の衝撃吸収性、伸縮性、透明性を利用して、制振材料、吸音材料、ウェアラブルデバイス封止材、伸縮基板用封止材、ディスプレイ材料、光記録媒体材料、光学機器材料、光部品材料、光ファイバー材料、光・電子機能有機材料、半導体集積回路周辺材料等の光学用途などに使用することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明の硬化性シリコーン樹脂組成物であれば、特定の(A)から(D)成分、特に(A)及び(B)成分として特定のオルガノポリシロキサンの組み合わせを含むため、透明性が高く、十分な硬さ、切断時伸び、及び引張強さと、耐衝撃性、伸縮性及び耐久性を兼ね備えた硬化物とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(A)1分子中に2個以上6個未満の炭素数2~10のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、(B)特定の式で示されるオルガノポリシロキサン、(C)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、及び(D)白金族金属系触媒を特定の比率で含む硬化性シリコーン樹脂組成物を使用することで、機械特性、伸縮性、衝撃吸収性、透明性に優れたシリコーン樹脂硬化物が得られることを見出し、本発明を成すに至った。
【0022】
即ち、本発明は、下記(A)から(D)成分を含む硬化性シリコーン樹脂組成物であって、
(A)1分子中に2個以上6個未満の炭素数2~10のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)下記式(1)で示されるオルガノポリシロキサン、
【化2】
(上記式中、Rは独立して、炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基であり、Rは独立して、炭素数2~10のアルケニル基、であり、nおよびmは0≦n、0≦m、10≦n+m≦10,000を満たす整数である。)
(C)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記硬化性シリコーン樹脂組成物中のケイ素原子に結合したアルケニル基量の合計1モルに対して、(C)成分のヒドロシリル基が0.1~4.0モルとなる量、及び
(D)白金族金属系触媒
を含み、前記(B)成分の量が、前記(A)成分と前記(B)成分との合計質量に対して0.1~50質量%であることを特徴とする硬化性シリコーン樹脂組成物である。
【0023】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
[(A)オルガノポリシロキサン]
本発明における(A)成分は1分子中に2個以上6個未満の炭素数2~10のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンである。(A)成分は、このようなアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンであれば特に限定されず、1種でも2種以上の組み合わせでもよい。好ましくは、1分子中に2個以上6個未満のケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンである。
オルガノポリシロキサン1分子中のアルケニル基が2個未満では架橋しない。また、アルケニル基が6個未満であるから、(A)成分は後述の(B)成分と明確に区別される。
例えば、(A)成分のオルガノポリシロキサンは、直鎖状のオルガノポリシロキサンである(A1)成分と、レジン構造を有するオルガノポリシロキサンである(A2)成分のいずれか又は両方を用いることができる。
【0025】
((A1)成分)
(A1)成分は、1分子中に2個以上6個未満の炭素数2~10のアルケニル基を有する直鎖状オルガノポリシロキサンであり、ケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を1分子中に2個以上6個未満有することが好ましい。
【0026】
(A1)成分はJIS K 7117-1:1999記載の方法で測定した25℃での絶対粘度が1,000~10,000,000mPa・sであり、好ましくは5,000~5,000,000mPa・s、より好ましくは8,000~3,000,000mPa・sである。
(A1)成分の絶対粘度が1,000mPa・s以上であれば、硬化物が脆くなるおそれがなく、10,000,000mPa・s以下であれば、作業性が悪くなるおそれがない。
【0027】
(A1)成分が有する炭素数2~10のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基及びオクテニル基等が挙げられ、特にビニル基が好ましい。また、トリアルケニル基は含まないことが好ましい。
【0028】
上述したアルケニル基以外に、(A1)成分が有するケイ素原子に結合した基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基及びナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子、臭素原子及び塩素原子等のハロゲン原子やシアノ基で置換した基、例えば、クロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基やシアノエチル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。
【0029】
(A1)成分として具体的には、以下のものを例示できる。
【化3】
(式中、x、y、zはそれぞれ0以上の整数であり、かつx+y+z≧1を満たす数である)
【0030】
((A2)成分)
(A2)成分は、レジン構造を有するオルガノポリシロキサンであって、1分子中に2個以上6個未満の炭素数2~10のアルケニル基を有する。前記アルケニル基は、ケイ素原子に結合していることが好ましい。例えば、SiO4/2単位及びRSiO3/2単位(Rは独立に、炭素数1~10の1価炭化水素基)の少なくとも一方を含み、ケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を1分子中に2個以上有し、ケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)を1分子中に1個以上有し、前記水酸基の量が0.001~1.0mol/100gであるレジン構造のオルガノポリシロキサンである。
【0031】
(A2)成分中、SiO4/2単位(Q単位)及びRSiO3/2単位(T単位)は合計で40~95mol%含むものが好ましく、50~90mol%含むものがより好ましい。また、(A2)成分はR SiO2/2単位(D単位)及び/又はR SiO1/2単位(M単位)を含んでもよい。
【0032】
このような組成の(A2)成分は、以下例示する各単位源となる材料を、所望のモル比となるように混合し、例えば、酸触媒若しくは塩基触媒の存在下で共加水分解縮合反応又は金属塩若しくは金属水酸化物による脱アルコキシ反応を行い縮合させることによって、合成することができる。
【0033】
T単位中のRは、炭素数1~10の、好ましくは炭素数1~6の1価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基;及びこれらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子やシアノ基等で置換した基、例えばクロロメチル基、シアノエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等が挙げられる。中でも、メチル基、フェニル基が好ましい。
【0034】
D単位中のR及びM単位中のRは、炭素数1~10の、好ましくは炭素数1~6の1価炭化水素基であり、具体的には、上記Rで例示したものと同様の基が挙げられる。
【0035】
SiO4/2単位(Q単位)源としては、例えば、ケイ酸ソーダ、テトラアルコキシシラン及びその縮合反応物を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
SiO3/2単位(T単位)源としては、例えば、下記構造式で表されるオルガノトリクロロシラン、オルガノトリアルコキシシラン等の有機ケイ素化合物、又はこれらの縮合反応物、脱水素反応可能なHSiO2/2単位を含有する有機ケイ素化合物等を例示できるが、これらに限定されない。
【化4】
(式中、Meはメチル基、Etはエチル基を示す。)
【0037】
SiO2/2単位(D単位)源としては、例えば、下記構造式で表されるジオルガノジクロロシラン、ジオルガノジアルコキシシラン等の有機ケイ素化合物等を例示できるが、これらに限定されない。
【0038】
【化5】
(式中、Meはメチル基を示す。)
【0039】
SiO1/2単位(M単位)源としては、例えば、下記構造式で表されるトリオルガノクロロシラン、トリオルガノアルコキシシラン、ヘキサオルガノジシロキサン等の有機ケイ素化合物等を例示できるが、これらに限定されない。
【0040】
【化6】
(式中、Meはメチル基を示す。)
【0041】
(A2)成分が有する炭素数2~10のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基及びオクテニル基等が挙げられ、特にビニル基が好ましい。また、トリアルケニル基は含まないことが好ましい。
【0042】
(A2)成分が有するアルケニル基は、上記T単位、D単位及びM単位のいずれの単位に含まれていてもよい。
【0043】
(A2)成分は、ケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)を1分子中に1個以上有し、前記水酸基の量が0.001~1.0mol/100gであり、好ましくは0.005~0.8mol/100gである。
(A2)成分中のケイ素原子に結合した水酸基の量が0.001mol/100g以上であれば、接着性が低下するおそれがなく、1.0mol/100g以下であれば硬化後の表面タックによる埃の吸着を招くおそれがない。
【0044】
なお、本発明におけるケイ素原子に結合した水酸基量はH-NMR及び、29Si-NMRによって測定された値を指す。
【0045】
本発明の(A2)成分であるオルガノポリシロキサンは重量平均分子量(Mw)が1,500~20,000であり、好ましくは2,000~10,000である。分子量が1,500以上であれば、組成物が硬化しないおそれがなく、分子量が0,000以下であれば組成物が必要以上に高粘度になり流動しなくなるおそれがない。
【0046】
なお、本発明における重量平均分子量(Mw)とは、下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした重量平均分子量を指す。
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.6mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-L
TSKgel SuperH4000(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH3000(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH2000(6.0mmI.D.×15cm×2)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:20μL(濃度0.5重量%のTHF溶液)
【0047】
(A1)成分は、(A)成分中、20~100質量%の範囲で配合され、30質量%以上の割合で配合されることが好ましく、40質量%以上の割合で配合されることがより好ましい。(A2)成分は、含んでも含まなくても良いが、(A1)成分と組み合わせて(A)成分とすることが好ましい。レジン構造を有する(A2)成分を配合することにより、硬化物の接着強さや、物理的強度及び表面のタック性を改善することができるとともに、組成物の粘度を調整することができる。
【0048】
[(B)オルガノポリシロキサン]
(B)成分は下記式(1)で示されるオルガノポリシロキサンである。(B)成分は1分子中に6個のアルケニル基を持つ、上記(A)成分とは異なるオルガノポリシロキサンである。
【化7】
(上記式中、Rは独立して、炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基であり、Rは独立して、炭素数2~10のアルケニル基、であり、nおよびmは0≦n、0≦m、10≦n+m≦10,000を満たす整数である。)
【0049】
(B)成分が有する炭素数2~10のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基及びオクテニル基等が挙げられ、特にビニル基が好ましい。
上述したアルケニル基以外に、(B)成分が有するケイ素原子に結合した基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基及びナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子、臭素原子及び塩素原子等のハロゲン原子やシアノ基で置換した基、例えば、クロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基やシアノエチル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。
【0050】
(B)成分の長さであるnおよびmは0≦n、0≦m、10≦n+m≦10,000を満たす整数である。n+mが10未満では、伸びが低下し、耐衝撃性、伸縮性、耐久性が悪化する。一方、n+mが10,000を超えると、架橋が不十分となり耐衝撃性、伸縮性が悪化する。n+mは、好ましくは100以上5,000以下である。
【0051】
(B)成分として具体的には、以下のものを例示できる。
【化8】
(式中、nおよびmは0≦n、0≦m、10≦n+m≦10,000の整数である。)
【0052】
(B)成分の量が、(A)成分と(B)成分との合計質量に対して0.1~50質量%であることが必要であり、0.5~40質量%であることが好ましい。
(B)成分の量が、0.1質量%未満の場合は伸縮性が悪化し、50質量%を超えると、硬化物が固くなり伸びが低下する。
【0053】
[(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(C)成分は、1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
例えば、(C)成分は下記平均組成式(2)で示されるものである。
SiO(4-h-i)/2 ・・・ (2)
前記式中、Rは同一または異種の非置換もしくは置換の炭素原子数が1~10の1価炭化水素基であり、hおよびiは、好ましくは0.7≦h≦2.1、0.001≦i≦1.0、かつ0.8≦h+i≦3.0、より好ましくは1.0≦h≦2.0、0.01≦i≦1.0、かつ1.5≦h+i≦2.5を満足する正数である。
【0054】
上記Rとしては、例えば、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等の飽和脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の飽和環式炭化水素基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などの芳香族炭化水素基、これらの基の炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子で置換したもの、例えば、トリフルオロプロピル基、クロロプロピル基等のハロゲン化炭化水素基などが挙げられる。これらの中では、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~5の飽和炭化水素基、並びにフェニル基が好ましい。
【0055】
なお、前記Rとしては、1分子中に1個以上のケイ素原子結合アリール基を有することが好ましく、1~100個であることがより好ましい。(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、ケイ素原子に結合した水素原子(ヒドロシリル基)を少なくとも2個(通常、2~200個)、好ましくは3個以上(通常、3~100個)含有する。(C)成分は、(A)成分、(B)成分と反応し、架橋剤として作用する。
【0056】
(C)成分の分子構造は特に制限されず、例えば、線状、環状、分岐状、三次元網目状(レジン状)等の、いずれの分子構造でも(C)成分として使用することができる。(C)成分が線状構造を有する場合、ヒドロシリル基は、分子鎖末端および分子鎖側鎖のどちらか一方でのみケイ素原子に結合していても、その両方でケイ素原子に結合していてもよい。また、1分子中のケイ素原子の数(または重合度)が、通常、2~200個、好ましくは3~100個程度であり、室温(25℃)において液状又は固体状であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが使用できる。
【0057】
上記平均組成式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンの具体例としては、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(CSiO1/2単位とからなる共重合体などが挙げられる。
【0058】
また、下記構造で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンも用いることができるが、これらだけに限定されるものではない。
【0059】
【化9】
(p、q、rはそれぞれ0以上の整数である)
【0060】
(C)成分の添加量は、硬化性シリコーン樹脂組成物中のケイ素原子に結合したアルケニル基量の合計1モル当たり、(C)成分中のヒドロシリル基の量が0.1~4.0モルであり、好ましくは0.5~3.0モル、より好ましくは0.8~2.0モルとなる量である。
【0061】
(C)成分の添加量が、(C)成分中のヒドロシリル基の量が0.1モルより少なくなる量であると、本発明の組成物の硬化反応が進行せず、シリコーン硬化物を得ることが困難である。また得られる硬化物も架橋密度が低くなりすぎ、機械強度が不足し、耐熱性が悪影響を受ける。一方、添加量が上記ヒドロシリル基の量が4.0モルより多くなる量であると、未反応のヒドロシリル基が硬化物中に多数残存するために、物性の経時変化の発現や硬化物の耐熱性の低下などを引き起こす。更に、硬化物中に脱水素反応による発泡が生じる原因となる。
【0062】
[(D)白金族金属系触媒]
(D)成分の白金族金属系触媒は、本発明の組成物の付加硬化反応を生じさせるため配合されるものであり、白金系、パラジウム系、ロジウム系のものがある。該触媒としてはヒドロシリル化反応を促進するものとして従来公知であるいずれのものも使用することができる。コスト等を考慮して、白金、白金黒、塩化白金酸などの白金系のもの、例えば、HPtCl・pHO,KPtCl,KHPtCl・pHO,KPtCl,KPtCl・pHO,PtO・pHO,PtCl・pHO,PtCl,HPtCl・pHO(ここで、pは、正の整数)等や、これらと、オレフィン等の炭化水素、アルコール又はビニル基含有オルガノポリシロキサンとの錯体、トリメチル(メチルシクロペンタジエニル)白金等の光活性を有する錯体等を例示することができる。これらの触媒は1種単独でも、2種以上の組み合わせでも使用することができる。
【0063】
(D)成分の配合量は、硬化のための有効量でよく、通常、前記(A)、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して白金族金属として質量換算で0.1~500ppm、特に好ましくは0.5~100ppmの範囲である。
【0064】
[添加剤]
本発明の硬化性シリコーン樹脂組成物には、上記の(A)~(D)成分以外に、必要に応じて、公知の接着付与剤や硬化抑制剤、白色顔料などの添加剤を配合することができる。
【0065】
接着付与剤としては、例えば、フェニルトリメトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-シアノプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン、及びそれらのオリゴマー等が挙げられる。なお、これらの接着付与剤は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。
また、接着付与剤は、上記の(A)、(B)成分の合計質量に対し、0~10質量%、特に0~5質量%となる量で配合するのが好ましい。
【0066】
硬化抑制剤としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート、アルキルマレエート、アセチレンアルコール類及びそのシラン変性物及びシロキサン変性物、ハイドロパーオキサイド、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール及びこれらの混合物からなる群から選ばれる化合物等が挙げられる。前記硬化抑制剤は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
硬化抑制剤は(A)成分及び(B)成分の合計100質量部当り通常0.001~1.0質量部、好ましくは0.005~0.5質量部添加される。
【0067】
その他の添加剤としては、例えば、シリカ、グラスファイバー、ヒュームドシリカ等の補強性無機充填材、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、酸化第二鉄、カーボンブラック、セリウム脂肪酸塩、バリウム脂肪酸塩、セリウムアルコキシド、バリウムアルコキシド等の非補強性無機充填材、二酸化ケイ素(シリカ:SiO)、酸化アルミニウム(アルミナ:Al)、酸化鉄(FeO)、四酸化三鉄(Fe)、酸化鉛(PbO)、酸化すず(SnO)、酸化セリウム(Ce3、CeO)、酸化カルシウム(CaO)、四酸化三マンガン(Mn)、酸化バリウム(BaO)などのナノフィラーが挙げられ、これらを、上記の(A)~(D)成分の合計100質量部当たり600質量部以下(例えば0~600質量部、通常、1~600質量部、好ましくは10~400質量部)の量で適宜配合することができる。
【0068】
このような硬化性シリコーン樹脂組成物は、後述するように、JIS K 6253-3に記載の方法で測定したタイプA硬度が40~95の範囲内である硬化物を与えることができる。
また、硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物の厚さ1mmでの波長450nmにおける直達光透過率が80%以上である硬化物を与えることができる。
【0069】
<シリコーン樹脂硬化物>
本発明は、上記硬化性シリコーン樹脂組成物を硬化してなるシリコーン樹脂硬化物を提供する。シリコーン樹脂硬化物の形状は特に限定されないが、例えば、シート状シリコーン樹脂硬化物とすることができる。
【0070】
本発明の硬化性シリコーン樹脂組成物は、用途に応じて所定の基材に塗布した後、硬化させることができる。硬化条件は、常温(25℃)でも十分に硬化するが、必要に応じて加熱して硬化してもよい。加熱する場合の温度は、例えば、60~200℃とすることができる。
【0071】
前記硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物のJIS K 6253-3に記載の方法で測定したタイプA硬度が40~95の範囲内であることが好ましい。
【0072】
また、本発明の硬化性シリコーン樹脂組成物は、透明性に優れているが、厚さ1mmで加熱硬化して、波長400~800nm、特には波長450nmにおける直達光透過率が70%以上、好ましくは80%以上の硬化物を与えるものであることが好ましい。なお、直達光透過率の測定には、例えば日立製分光光度計U-4100を用いることができる。
【0073】
また、本発明の硬化性シリコーン樹脂組成物は、有機高分子フィルムに塗工することによってシート化することができる。例えば、上記硬化性シリコーン樹脂組成物を加熱処理にてシート状態に加工してシート状シリコーン樹脂硬化物とすることができる。シート化したシリコーン樹脂は有機高分子フィルムから剥がして単独フィルムとして使用することもできるし、有機高分子フィルムに搭載したまま使用することもできる。
【0074】
本発明のシリコーン樹脂硬化物を用いて、例えば、シート状シリコーン樹脂硬化物からなる硬化物層と、少なくとも1種の有機高分子フィルム層を含む複合フィルムであって、前記シート状シリコーン樹脂硬化物の厚みが10μm以上500μm以下のものである複合フィルムを得ることができる。
また単独フィルムまたは高分子フィルムとシリコーンフィルムとの複合フィルムに両面粘着剤を塗布または貼り合わせることで、別の基材に貼り合わせて使用することもできる。シリコーンフィルムの厚みとしては10~500μmが好ましく、30~200μmがさらに好ましい。厚みが10μm以上であれば、衝撃吸収性が悪化する恐れがなく、厚みが500μm以下であれば厚み制限のある電子材料部材としても使用できる。
【0075】
前記有機高分子フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミド、芳香族ポリイミド、脂環式ポリイミド、フッ化ポリイミド、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリレート、ポリフェノール、ポリスチレン、フッ素樹脂などのフィルムを用いることができる。
有機高分子フィルムの厚みとしては30~300μmが好ましく、50~200μmがさらに好ましい。
【0076】
前記、両面粘着剤としては、ウレタン樹脂、ポリアクリレート、シリコーン樹脂などの粘着フィルム、粘着剤を用いることができる。
粘着層の厚みとしては1~200μmが好ましく、5~100μmがさらに好ましい。
【0077】
有機高分子フィルム、シリコーン樹脂硬化物の多層化方法は、両層に接着の問題が生じなければ特に限定されるものではないが、表面活性化処理、熱処理によって有機高分子フィルムとシリコーンフィルムの接着を向上させることができる。
【0078】
表面活性化処理としては、紫外線、電子線、X線、コロナ処理、真空プラズマ処理、常圧プラズマ処理などを用いることができる。
【0079】
熱処理としては常温、または30℃から300℃の温度範囲で任意の時間加熱することによって、シリコーン樹脂硬化物と有機高分子フィルムおよび両面粘着層の接着を向上させることができる。
【0080】
以上のような硬化性シリコーン樹脂組成物および硬化物であれば、優れた機械特性、衝撃吸収性、透明性を得ることができる。
【0081】
<半導体装置>
また、本発明では、上述の本発明の硬化性シリコーン樹脂組成物をシート化することで、例えば、タブレット、スマートフォンなどの小型電子機器の透光性衝撃緩衝材料として、好適に使用することができる。
また衝撃吸収性、伸縮性、透明性を利用して、例えば、制振材料、吸音材料、ウェアラブルデバイス封止材、伸縮基板用封止材、ディスプレイ材料、光記録媒体材料、光学機器材料、光部品材料、光ファイバー材料、光・電子機能有機材料、半導体集積回路周辺材料等の光学用途などにも使用することができる。
【実施例
【0082】
以下、実施例、及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、部は質量部を示し、Meはメチル基、Viはビニル基、Phはフェニル基を示す。重量平均分子量(Mw)は、上述のとおりGPCによりポリスチレンを標準物質として測定した。ケイ素原子に結合した水酸基量とアルコキシ基量は、H-NMR及び、29Si-NMRによって測定した。
【0083】
[実施例1]
(A1)成分として、下記式(8)で表される直鎖状オルガノポリシロキサン(A-1)
【化10】
を50部、
(A2)成分として、SiO4/2単位50mol%、ViMeSiO1/2単位25mol%、MeSiO1/2単位25mol%からなる分岐鎖状のメチルポリシロキサン(A-2;Mw=5,000、ケイ素原子に結合した水酸基量、0.001mol/100g、ケイ素原子に結合したアルコキシ基量0.01mol/100g)を50部、
【0084】
(B)成分として、下記式(9)で表されるオルガノポリシロキサン(B-1)
【化11】
を1.5部、
【0085】
(C)成分として、下記式(10)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(C-1);(A)及び(B)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(モル比;以下、SiH/SiVi比と表す場合がある。)が1.0となる量、
【化12】
【0086】
(D)成分として塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.1部、
を加え、よく撹拌して、シリコーンゴム組成物を調製した。後述の方法で、この組成物、及びこの組成物から得られる硬化物の物性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0087】
[実施例2]
実施例1で用いた(C)成分の代わりに、
下記式(10)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(C-1);(A)および(B)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する(C-1)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi)が0.6となる量、
【化13】
【0088】
下記式(11)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(C-2);(A)および(B)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する(C-2)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi)が0.4となる量、
【化14】
を用いたこと以外は、実施例1と同様にして硬化物を形成し、物性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0089】
[実施例3]
(A1)成分として、下記式(8)で表される直鎖状オルガノポリシロキサン
【化15】
を60部、
(A2)成分として、SiO4/2単位50mol%、ViMeSiO1/2単位25mol%、MeSiO1/2単位25mol%からなる分岐鎖状のメチルポリシロキサン(A-2;Mw=5,000、ケイ素原子に結合した水酸基量、0.001mol/100g、ケイ素原子に結合したアルコキシ基量0.01mol/100g)を50部、
【0090】
(B)成分として、下記式(9)で表されるオルガノポリシロキサン
【化16】
を50部、
【0091】
(C)成分として、下記式(10)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン;(A)および(B)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対するこの(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi)が0.6となる量、
【化17】
【0092】
下記式(11)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン;(A)および(B)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対するこの(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi)が0.4となる量、
【化18】
【0093】
(D)成分として塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.15部、
を加え、よく撹拌して、シリコーンゴム組成物を調製した。後述の方法で、この組成物、及びこの組成物から得られる硬化物の物性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0094】
[実施例4]
(A1)成分として、下記式(8)で表される直鎖状オルガノポリシロキサン
【化19】
を50部、
【0095】
(B)成分として、下記式(9)で表されるオルガノポリシロキサン
【化20】
を50部、
【0096】
(C)成分として、下記式(10)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン;(A)および(B)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対するこの(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi)が0.6となる量、
【化21】
【0097】
下記式(11)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン;(A)および(B)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対するこの(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi)が0.4となる量、
【化22】
【0098】
(D)成分として塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.1部、
を加え、よく撹拌して、シリコーンゴム組成物を調製した。後述の方法で、この組成物、及びこの組成物から得られる硬化物の物性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0099】
[実施例5]
実施例1で用いた(B)成分の配合量を0.11部に変更した以外は、実施例1と同様にして硬化物を形成し、物性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0100】
[比較例1]
(A1)成分として、下記式(8)で表される直鎖状オルガノポリシロキサン
【化23】
を50部、
(A2)成分として、SiO4/2単位50mol%、ViMeSiO1/2単位25mol%、MeSiO1/2単位25mol%からなる分岐鎖状のメチルポリシロキサン(Mw=5,000、ケイ素原子に結合した水酸基量、0.001mol/100g、ケイ素原子に結合したアルコキシ基量0.01mol/100g)を50部、
【0101】
(C)成分として、下記式(10)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン;(A)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する()成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi)が1.0となる量、
【化24】
【0102】
(D)成分として塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.1部、
を加え、よく撹拌して、シリコーンゴム組成物を調製した。後述の方法で、この組成物、及びこの組成物から得られる硬化物の物性の測定を行った。結果を表2に示す。
【0103】
[比較例2]
(A1)成分として、下記式(8)で表される直鎖状オルガノポリシロキサン
【化25】
を5部、
(A2)成分として、SiO4/2単位50mol%、ViMeSiO1/2単位25mol%、MeSiO1/2単位25mol%からなる分岐鎖状のメチルポリシロキサン(Mw=5,000、ケイ素原子に結合した水酸基量、0.001mol/100g、ケイ素原子に結合したアルコキシ基量0.01mol/100g)を40部、
【0104】
(B)成分として、下記式(9)で表されるオルガノポリシロキサン
【化26】
を55部、
【0105】
(C)成分として、下記式(10)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン;(A)および(B)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する()成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi)が1.0となる量、
【化27】
【0106】
(D)成分として塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.1部、
を加え、よく撹拌して、シリコーンゴム組成物を調製した。後述の方法で、この組成物、及びこの組成物から得られる硬化物の物性の測定を行った。結果を表2に示す。
【0107】
[比較例3]
(A1)成分として、下記式(8)で表される直鎖状オルガノポリシロキサン
【化28】
を100部、
【0108】
(B)成分として、下記式(9)で表されるオルガノポリシロキサン
【化29】
を0.1部、
【0109】
(C)成分として、下記式(10)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン;(A)および(B)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対するこの(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi)が0.6となる量、
【化30】
【0110】
下記式(11)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン;(A)および(B)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対するこの(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi)が0.4となる量、
【化31】
【0111】
(D)成分として塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.1部、
を加え、よく撹拌して、シリコーンゴム組成物を調製した。後述の方法で、この組成物、及びこの組成物から得られる硬化物の物性の測定を行った。結果を表2に示す。
【0112】
[比較例4]
(A1)成分として、下記式(8)で表される直鎖状オルガノポリシロキサン
【化32】
を60部、
(A2)成分として、SiO4/2単位50mol%、ViMeSiO1/2単位25mol%、MeSiO1/2単位25mol%からなる分岐鎖状のメチルポリシロキサン(Mw=5,000、ケイ素原子に結合した水酸基量、0.001mol/100g、ケイ素原子に結合したアルコキシ基量0.01mol/100g)を50部、
【0113】
(B)成分として、下記式(12)で表されるオルガノポリシロキサン
【化33】
を50部、
【0114】
(C)成分として、下記式(10)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン;(A)および(B)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対するこの(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi)が0.6となる量、
【化34】
【0115】
下記式(11)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン;(A)および(B)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対するこの(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi)が0.4となる量、
【化35】
【0116】
(D)成分として塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.15部、
を加え、よく撹拌して、シリコーンゴム組成物を調製した。後述の方法で、この組成物、及びこの組成物から得られる硬化物の物性の測定を行った。結果を表2に示す。
【0117】
[比較例5]
(A1)成分として、下記式(8)で表される直鎖状オルガノポリシロキサン
【化36】
を60部、
(A2)成分として、SiO4/2単位50mol%、ViMeSiO1/2単位25mol%、MeSiO1/2単位25mol%からなる分岐鎖状のメチルポリシロキサン(Mw=5,000、ケイ素原子に結合した水酸基量、0.001mol/100g、ケイ素原子に結合したアルコキシ基量0.01mol/100g)を50部、
【0118】
(B)成分として、下記式(13)で表されるオルガノポリシロキサン
【化37】
を10部、
【0119】
(C)成分として、下記式(10)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン;(A)および(B)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対するこの(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi)が0.6となる量、
【化38】
【0120】
下記式(11)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン;(A)および(B)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対するこの(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(SiH/SiVi)が0.4となる量、
【化39】
【0121】
(D)成分として塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.1部、
を加え、よく撹拌して、シリコーンゴム組成物を調製した。後述の方法で、この組成物、及びこの組成物から得られる硬化物の物性の測定を行った。結果を表2に示す。
【0122】
<評価>
実施例及び比較例で調製した組成物、及びその硬化物の物性は下記の方法で測定した。
(1)外観
各組成物を150℃で4時間硬化して得られた硬化物(厚さ1mm)の色調と透明性を目視にて確認した。
【0123】
(2)性状
硬化前の各組成物の流動性を確認した。100mlのガラス瓶に50gの組成物を加え、ガラスビンを横に倒して25℃で10分間静置した。その間に樹脂が流れ出せば液状であると判断した。
【0124】
(3)粘度
25℃における硬化前の各組成物の絶対粘度をJIS K 7117-1:1999記載の方法で東機産業社製回転粘度計TVB-10を用いてスピンドルNo.H7、回転速度6rpmの条件で測定した。
【0125】
(4)光透過率(直達光透過率)
各組成物を150℃で1時間硬化して得られた硬化物(厚さ1mm)の波長450nmにおける光透過率を、日立製分光光度計U-4100を用いて23℃で測定した。
【0126】
(5)硬さ(タイプA)
各組成物を150℃で1時間硬化して得られた硬化物の硬さを、JIS K 6249:2003に準拠して、デュロメータA硬度計を用いて測定した。
【0127】
(6)引張強さ及び切断時伸び
各組成物を150℃で4時間硬化して得られた硬化物の引張強さ(MPa)及び切断時伸び(%)を、JIS K 6249:2003に準拠して測定した。
【0128】
(7)伸縮性
各組成物を150℃で1時間硬化させ、10cm(縦)×1cm(横)×0.15mm(厚み)の硬化物を作製し、縦方向に樹脂を40%引き延ばして1分間固定した後に、樹脂フィルムを解放し、1分以内に樹脂の形状がどの程度回復するか確認した。以下に示す基準で伸縮性を評価した。
(判定基準)
○:縦方向長さが元の大きさの1.05倍未満
×:縦方向長さが元の大きさの1.05倍以上
【0129】
(8)衝撃試験
東洋紡株式会社製のPETフィルムTN-010(厚み50μm)上に各組成物を200μm厚みで塗工し、150℃1時間の条件で硬化した。硬化したシリコーンフィルム側に富士フィルム社製感圧紙(プレスケール高圧用)を張り合わせ、SUS基板上に、下から感圧紙、シリコーン樹脂硬化物、PETフィルムの順になるように設置した。その後、鋼鉄柱(直径9mm×長さ46mm、先端曲率3/16)を20cmの高さから落下させ、感圧紙が変色した面積を画像処理により読み取って解析した。以下に示す基準で衝撃吸収性を評価した。
(判定基準)
シリコーン樹脂硬化物がない条件での着色面積を100%とした際の、各硬化物での相対着色面積について
○:50%未満
×:50%以上
【0130】
(9)耐久試験
各組成物を150℃で1時間硬化して得られたシリコーン樹脂硬化物(10cm×1cm×1mm)をFlex crackingTesterにセットし100%までの引き延ばし試験を10万回繰り返して、樹脂が破断しないかどうか確認した。以下に示す基準で衝撃吸収性を評価した。
(判定基準)
○:樹脂破断なし
×:途中で樹脂破断あり
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】
【0133】
表1に示されるように、(A)及び(B)成分として本発明のオルガノポリシロキサンの組み合わせを使用した実施例1~5では、透明性が高く、十分な硬さ、切断時伸び、及び引張強さと、耐衝撃性、伸縮性及び耐久性を有する硬化物が得られた。これに対し、(B)成分を含まない比較例1では、伸縮試験において樹脂戻りが不十分であった。更に、(B)成分の量が、(A)成分と(B)成分との合計質量に対して50質量%を超える比較例2では、架橋密度が上がったため伸びが低下し、衝撃試験、耐久性試験が悪化した。更に、(B)成分の量が、(A)成分と(B)成分との合計質量に対して0.1質量%を下回る比較例3では、硬度が低下し、衝撃試験が悪化した。(B)成分の長さnが10未満の比較例4では、伸びが低下し、衝撃試験、伸縮試験、耐久試験が悪化した。更に、(B)成分の長さnが10,000を超える比較例5では、架橋が不十分となり衝撃試験、伸縮試験が悪化した。
【0134】
以上のように、本発明の硬化性シリコーン樹脂組成物であれば、機械特性、伸縮性、衝撃吸収性、透明性に優れたシリコーン樹脂硬化物を与えることができる。
【0135】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。