(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療における抗FLT-1抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240319BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240319BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240319BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240319BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240319BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240319BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240319BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20240319BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
A61P15/00
A61P13/12
A61P21/00
A61P43/00 105
A61K39/395 N
C12N15/63 Z
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2021200631
(22)【出願日】2021-12-10
(62)【分割の表示】P 2017552899の分割
【原出願日】2016-04-07
【審査請求日】2021-12-10
(32)【優先日】2015-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】デニス キーフ
(72)【発明者】
【氏名】ハンス デ ハールド
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー デ ヨング
(72)【発明者】
【氏名】ソフィ ガブリエルス
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/117160(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号83のアミノ酸配列を含む軽鎖および配列番号70のアミノ酸配列を含む重鎖を含む抗Flt-1抗体と、ヒトFlt-1結合に関して競合する単離抗体またはその抗原結合断片であって、前記
単離抗体またはその抗原結合断片が、
(a)配列番号76と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、および配列番号71と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖であって、前記
単離抗体が、
配列番号21のアミノ酸配列によって定義される可変軽鎖(VL)CDR1、配列番号24のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR2、配列番号32のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR3、配列番号3のアミノ酸配列によって定義される可変重鎖(VH)CDR1、配列番号12のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR2、および配列番号17のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR3を含む、重鎖および軽鎖、
(b)配列番号85と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、および配列番号72と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖
であって、前記単離抗体が、配列番号21のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR1、配列番号24のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR2、配列番号27のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR3、配列番号2のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1、配列番号7のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR2、および配列番号17のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR3を含む、重鎖および軽鎖、
(c)配列番号84と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、および配列番号71と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖
であって、前記単離抗体が、配列番号21のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR1、配列番号24のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR2、配列番号26のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR3、配列番号3のアミノ酸配列で定義されるVH CDR1、配列番号12のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR2、および配列番号17のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR3を含む、重鎖および軽鎖、または
(d)配列番号86と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、および配列番号73と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖
であって、前記単離抗体が、配列番号21のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR1、配列番号24のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR2、配列番号28のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR3、配列番号2のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1、配列番号8のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR2、および配列番号17のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR3を含む、重鎖および軽鎖、
を含み、前記
単離抗体またはその抗原結合断片が、ヒトFlt-1に結合する、
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
前記
単離抗体またはその抗原結合断片が、配列番号90の139~148位、139~153位、178~206位、199~204位、および128~138位に対応するアミノ酸配列を含むペプチドまたは断片を認識する、請求項1に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記
単離抗体またはその抗原結合断片が、配列番号95および配列番号96のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する、請求項2に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
前記
単離抗体またはその抗原結合断片が、IgG、F(ab’)
2、F(ab)
2、Fab’、Fab、ScFv、二重特異性抗体、三重特異性抗体、および四重特異性抗体からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
前記
単離抗体またはその抗原結合断片がIgGである、請求項4に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
前記
単離抗体またはその抗原結合断片がIgGlである、請求項5に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
前記
単離抗体またはその抗原結合断片がモノクローナル抗体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
前記
単離抗体がヒト化モノクローナル抗体である、請求項7に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
前記ヒト化モノクローナル抗体がヒトFc領域を含む、請求項8に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項10】
前記Fc領域が、前記
単離抗体のインビボ半減期が延長されるように、前記Fc領域とFcRn受容体との間の結合親和性を高める1つまたはそれ以上の変異を含む、請求項9に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項11】
前記Fc領域が、ヒトIgGlのLeu234、Leu235、および/またはGly237に対応する位置で1つまたはそれ以上の変異を含む、請求項10に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項12】
前記
単離抗体またはその抗原結合断片が、
(a)配列番号76のアミノ酸配列を含む軽鎖、および配列番号71のアミノ酸配列を含む重鎖;
(b)配列番号85のアミノ酸配列を含む軽鎖、および配列番号72のアミノ酸配列を含む重鎖;
(c)配列番号84のアミノ酸配列を含む軽鎖、および配列番号71のアミノ酸配列を含む重鎖;または
(d)配列番号86のアミノ酸配列を含む軽鎖、および配列番号73のアミノ酸配列を含む重鎖
を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項13】
前記
単離抗体またはその抗原結合断片が、VEGF R2および/またはVEGF R3に結合しない、請求項1~12のいずれか一項に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項14】
前記
単離抗体またはその抗原結合断片が、約0.5×10
-9Mを超える親和性でヒトFlt-1に結合する、請求項1~13のいずれか一項に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項15】
前記親和性が表面プラズモン共鳴アッセイで測定される、請求項14に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項16】
前記親和性がBIACOREアッセイで測定される、請求項15に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項17】
前記
単離抗体またはその抗原結合断片が、Flt-1受容体におけるVEGFの結合および/または活性を阻害する、請求項1~16のいずれか一項に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項18】
前記
単離抗体またはその抗原結合断片が、競合アッセイにおけるVEGFのヒトFlt-1との結合の阻害に関して、約25pM未満のIC50によって特徴づけられる、請求項17に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項19】
前記
単離抗体またはその抗原結合断片が、バイオアッセイにおいて、前記
単離抗体またはその抗原結合断片の非存在下でのVEGF-R2のリン酸化レベルに対して、約90%を超えるVEGF-R2のリン酸化の救済を提供する、請求項1~18のいずれか一項に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項20】
前記バイオアッセイが、sFlt-1および前記
単離抗体またはその抗原結合断片の存在下で、VEGFによって刺激されるヒト主要静脈内皮細胞(HUVEC)を含む、請求項19に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片。
【請求項21】
Flt-1介在性の疾患、障害、または病態を治療するための、請求項1~20のいずれか一項に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片を含む組成物であって、前記Flt-1介在性の疾患、障害、または病態が、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、気管支肺異形成症、子癇前症、または慢性腎疾患である、組成物。
【請求項22】
請求項1~20のいずれか一項に記載の
単離抗体またはその抗原結合断片と、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2015年4月7日出願の米国特許仮出願第62/144,251号、及び2016年3月14日出願の米国特許仮出願第62/307,645号に対する優先権を主張するものであり、そのそれぞれの開示は本明細書に参照により取り込まれる。
【背景技術】
【0002】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、約1:3600で男児出生に影響を及ぼし、全世界で約50,000人の罹患個人がいる、X連鎖劣性疾患である。前記疾患は筋肉の進行性の衰弱を特徴とし、罹患児童は13歳になる頃には車椅子生活者になる。罹患個人は通常3歳で症状を示し、このような個人の平均生存期間は25歳と30歳の間である。横隔膜衰弱による呼吸不全及び心筋症が一般的な死因である。
【0003】
DMDは、ジストロフィン遺伝子の突然変異によって生じる。ジストロフィン遺伝子はX染色体に存在し、タンパク質ジストロフィンをコードしている。ジストロフィンタンパク質は、筋線維の収縮機構(アクチン-ミオシン複合体)を周囲の細胞外マトリックスにジストログリカン複合体により接続する役割を果たす。ジストロフィン遺伝子の突然変異は、ジストロフィンタンパク質及び異常な筋線維膜機能の変質または欠如をもたらす。男性及び女性の両方がジストロフィン遺伝子の突然変異をもたらすことができるが、女性がDMDに罹患するのは稀である。
【0004】
DMDの1つの特徴は、罹患した組織の虚血である。虚血は組織もしくは臓器への血液供給の制限または減少であり、細胞代謝に必要な酸素及び栄養分の不足を引き起こす。虚血は一般的に、組織または臓器への損傷またはその機能不全をもたらす血管の収縮または閉塞によって生じる。虚血の治療は、罹患した組織または臓器に血流量を増加させるために行われる。
【0005】
現在、DMDに対する治療法はない。いくつかの治療手段は、遺伝子治療及び副腎皮質ホルモン投与を含んで検討されてきたが、DMD患者のための代替物の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はとりわけ、抗Flt-1抗体治療に基づいて、筋ジストロフィー、特にデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)及び/またはベッカー型筋ジストロフィーを治療するための改善された方法及び組成物を提供する。下記の実施例に記載されるように、本発明はある程度は、VEGF及び他のリガンドがFlt-1受容体と結合するのを抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片が阻止することができ、それによってVEGF受容体と結合するのに利用可能なVEGF及び/または他のリガンドの量を増加させるという発見に基づく。増大したVEGFの有効性は、筋肉への増加した血流量を備えた血管新生を促進して機能的虚血と闘い、DMDの構造及び機能的特徴の改善をもたらす。実際に本実施例に示すように、抗Flt-1抗体の投与が筋病理の程度を改善する(例えば、改良した血管新生、減少した線維症、減少した壊死)ことを、本発明の発明者は立証した。したがって本発明は、DMDの治療のための安全かつ効果的な抗体を用いた治療法を提供する。
【0007】
一態様で本発明は、配列番号19~配列番号21のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義される可変軽(VL)鎖CDR1、配列番号22~配列番号24のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVL CDR2、配列番号25~配列番号34のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVL CDR3、配列番号1~配列番号4のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義される可変重(VH)鎖CDR1、配列番号5~配列番号14のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVH CDR2、及び配列番号15~配列番号18のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVH CDR3からなる群から選択される、1つ以上の相補性決定領域(CDR)を含むヒトFlt-1に特異的に結合する、抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態において、1つ以上のCDRは、配列番号25~配列番号34のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVL CDR3、及び配列番号15~配列番号18のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVH CDR3を含む。
【0009】
別の実施形態において、1つ以上のCDRは、配列番号19~配列番号21のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVL CDR1、配列番号22~配列番号24のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVL CDR2、及び配列番号25~配列番号34のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVL CDR3を含む。特定の実施形態において、VL鎖は、それぞれ配列番号19、配列番号22及び配列番号25のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR1、VL CDR2ならびにVL CDR3を含む。更に別の実施形態において、VL鎖は、それぞれ配列番号20、配列番号23及び配列番号25のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR1、VL CDR2ならびにVL CDR3を含む。別の実施形態において、VL鎖は、それぞれ配列番号21及び配列番号24のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR1ならびにVL CDR2、ならびに配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33または配列番号34のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR3を含む。特定の実施形態において、VL鎖は、それぞれ配列番号21、配列番号24及び配列番号32のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR1、VL CDR2ならびにVL CDR3を含む。
【0010】
他の実施形態において、1つ以上のCDRは、配列番号1~配列番号4のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1、配列番号5~配列番号14のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVH CDR2、及び配列番号15~配列番号18のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVH CDR3を含む。特定の実施形態において、VH鎖は、それぞれ配列番号1、配列番号5及び配列番号15のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1、VH CDR2ならびにVH CDR3を含む。別の実施形態において、VH鎖は、それぞれ配列番号2、配列番号6及び配列番号16のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1、VH CDR2ならびにVH CDR3を含む。更に別の実施形態において、VH鎖は、それぞれ配列番号2、配列番号10及び配列番号18のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1、VH CDR2ならびにVH CDR3を含む。別の実施形態において、VH鎖は、それぞれ配列番号2及び配列番号17のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1ならびにVH CDR3、ならびに配列番号7、配列番号8、配列番号13または配列番号14のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR2を含む。別の実施形態において、VH鎖は、それぞれ配列番号3及び配列番号17のアミノ酸配列によって定義されるVH
CDR1ならびにVH CDR3、ならびに配列番号9、配列番号11または配列番号12のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR2を含む。更に別の実施形態において、VH鎖は、それぞれ配列番号4、配列番号9及び配列番号17のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1、VH CDR2ならびにVH CDR3を含む。特定の実施形態において、VH鎖は、それぞれ配列番号3、配列番号12及び配列番号17のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1、VH CDR2ならびにVH CDR3を含む。
【0011】
別の態様で本発明は、(i)配列番号49~配列番号61のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、軽鎖可変(VL)領域、及び/または(ii)配列番号35~配列番号48のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、重鎖可変(VH)領域、を含むヒトFlt-1に特異的に結合する、抗体またはその抗原結合断片を提供する。特定の実施形態において、VL領域は配列番号60のアミノ酸配列を含み、及びVH領域は配列番号45のアミノ酸配列を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、抗体は、配列番号87~配列番号89のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、重鎖定常領域を更に含む。
【0013】
別の態様で本発明は、(i)配列番号75~配列番号86のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、及び/または(ii)配列番号62~配列番号74のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖を含む、ヒトFlt-1に特異的に結合する、抗体またはその抗原結合断片を提供する。特定の実施形態において、軽鎖は配列番号76のアミノ酸配列を含み、及び重鎖は配列番号71のアミノ酸配列を含む。
【0014】
別の実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、IgG、F(ab’)2、F(ab)2、Fab’、Fab、ScFv、二重特異性抗体、三重特異性抗体及び四重特異性抗体からなる群から選択される。一実施形態において、抗体またはその抗原結合断片はIgGである。別の実施形態では、抗体またはその抗原結合断片はIgG1である。更に別の実施形態においては、抗体またはその抗原結合断片は、モノクローナル抗体である。特定の実施形態において、抗体は、ヒト化モノクローナル抗体である。更に別の実施形態においては、ヒト化モノクローナル抗体は、ヒトFc領域を含有する。いくつかの実施形態では、Fc領域は、抗体のin vivo半減期が長くなるように、Fc領域とFcRn受容体の間の結合親和性を強化する、1つ以上の突然変異を含む。別の実施形態では、Fc領域は、ヒトIgGlのLeu234、Leu235及び/またはGly237に対応する位置において、1つ以上の突然変異を含む。
【0015】
一実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は、VEGF R2及び/またはVEGF R3と結合しない。別の実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、マウスまたはサルFlt-1と結合しない。
【0016】
別の態様で本発明は、配列番号90の位置139~148、位置139~153、位置178~206、位置199~204及び位置128~138に対応するアミノ酸配列を含む、ペプチドもしくはこれらの断片を認識する、単離された抗体またはその抗原結合断片を提供する。一実施形態において、ペプチドは、配列番号90の位置130~138、位置141~148、位置141~153及び位置193~206に対応するアミノ酸配列からなる。
【0017】
別の態様で本発明は、任意の抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片と競う、単離された抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0018】
別の態様で本発明は、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0019】
更に別の態様では、本発明は、本発明の抗体またはその抗原結合断片のCDR、VL領域、VH領域、軽鎖及び/または重鎖をコードするポリヌクレオチドを提供する。一実施形態において、本発明は、ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。更に別の実施形態においては、本発明は、ポリヌクレオチドまたは発現ベクターを含む、宿主細胞を提供する。特定の実施形態において、本発明は、宿主細胞を培養することを含むヒトFlt-1に特異的に結合する、抗体またはその抗原結合断片の製造方法を提供する。別の実施形態では、ハイブリドーマ細胞は、抗体またはその抗原結合断片を生成する。
【0020】
別の態様において、本発明は、治療を必要とする対象に、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片を投与することを含む、Flt-1介在性疾患、障害または病態を治療する方法を提供する。特定の実施形態において、Flt-1介在性疾患、障害または病態は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、気管支肺異形成症、子癇前症または慢性腎疾患である。
【0021】
別の態様において、本発明はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療方法を提供し、前記方法は、DMDの少なくとも1つの症状または特徴が、強度、重症度もしくは頻度において減少されるように、または発症を遅延させるように、DMDを患っている対象またはDMDに罹患しやすい対象に、有効量の抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片を投与することを含む。一実施形態では、本方法は、対象に1つ以上の追加の治療薬を投与することを含む。特定の実施形態において、追加の治療薬は、プレドニゾン、デフラザコート、フォリスタチン、RNA調節療法、エキソンスキッピング療法及び遺伝子治療からなる群から選択される。
【0022】
一実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は非経口的に投与される。いくつかの実施形態では、非経口投与は、静脈内、皮内、髄腔内、吸入、経皮(局所)、眼球内、筋肉内、皮下及び/または経粘膜投与から選択される。特定の実施形態では、非経口投与は静脈内投与である。更に別の実施形態では、非経口投与は皮下投与である。
【0023】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、毎日、週2回、毎週または毎月投与される。特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合断片は週2回投与される。
【0024】
別の実施形態では、有効量の抗体またはその抗原結合断片は、約1mg/kg~50mg/kgの投与量である。特定の実施形態において、投与量は、約1mg/kg、3mg/kgまたは10mg/kgである。
【0025】
一実施形態において、抗体またはその抗原結合断片の投与は、対照と比較して、減少した線維症及び/または壊死をもたらす。別の実施形態では、抗体またはその抗原結合断片の投与は、対照と比較して、対象の筋肉の改善した血管新生をもたらす。別の実施形態では、改善した血管新生は、筋病理の増加した血流量、血清の増大したVEGFレベル、血清の低下したクレアチンキナーゼ(CK)濃度、IHCによる増加したCD31スコア、及び/または血清の減少したsFlt-1レベルに反映される。更に別の実施形態においては、抗体またはその抗原結合断片は、対照と比較して、改善した筋機能をもたらす。更に別の実施形態においては、改善した筋機能は、改善した筋力及び/または疲労に対する耐性に反映される。
【0026】
別の態様において、本発明は、治療を必要とする対象に、有効量の抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片を投与することを含む、組織の線維症を治療する方法を提供する。
【0027】
本明細書に記載の本教示は、添付図面と共に読む場合、種々の例示的実施形態の以下の説明からより完全に理解される。以下に述べる図面は単に例示目的のためであり、いかなる場合であっても本教示の範囲を制限することを意図していないと理解すべきである。
特定の実施形態において、例えば、以下が提供される:
(項目1)
配列番号19~配列番号21のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義される可変軽(VL)鎖CDR1、
配列番号22~配列番号24のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVL CDR2、
配列番号25~配列番号34のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVL CDR3、
配列番号1~配列番号4のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義される可変重(VH)鎖CDR1、
配列番号5~配列番号14のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVH CDR2、
配列番号15~配列番号18のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVH CDR3、
からなる群から選択される、1つ以上の相補性決定領域(CDR)を含むヒトFlt-1に特異的に結合する、抗体またはその抗原結合断片。
(項目2)
前記1つ以上のCDRが、配列番号25~配列番号34のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有する前記アミノ酸配列によって定義される前記VL CDR3、及び配列番号15~配列番号18のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有する前記アミノ酸配列によって定義される前記VH CDR3を含む、項目1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目3)
前記1つ以上のCDRが、配列番号19~配列番号21のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有する前記アミノ酸配列によって定義される前記VL CDR1、配列番号22~配列番号24のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有する前記アミノ酸配列によって定義される前記VL CDR2、及び配列番号25~配列番号34のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有する前記アミノ酸配列によって定義される前記VL CDR3を含む、項目1または2に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目4)
前記1つ以上のCDRが、配列番号1~配列番号4のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有する前記アミノ酸配列によって定義される前記VH CDR1、配列番号5~配列番号14のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有する前記アミノ酸配列によって定義される前記VH CDR2、及び配列番号15~配列番号18のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有する前記アミノ酸配列によって定義される前記VH CDR3を含む、先行項目のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目5)
それぞれ配列番号19、配列番号22及び配列番号25のアミノ酸配列によって定義される前記VL CDR1、VL CDR2ならびにVL CDR3を含む、VL鎖を含む、先行項目のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目6)
それぞれ配列番号20、配列番号23及び配列番号25のアミノ酸配列によって定義される前記VL CDR1、VL CDR2ならびにVL CDR3を含む、VL鎖を含む、項目1~4のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目7)
それぞれ配列番号21及び配列番号24のアミノ酸配列によって定義される前記VL CDR1ならびにVL CDR2、ならびに配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33または配列番号34のアミノ酸配列によって定義される前記VL CDR3を含む、VL鎖を含む、項目1~4のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目8)
前記VL鎖は、それぞれ配列番号21、配列番号24及び配列番号32のアミノ酸配列によって定義される前記VL CDR1、VL CDR2ならびにVL CDR3を含む、項目1~4のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目9)
それぞれ配列番号1、配列番号5及び配列番号15のアミノ酸配列によって定義される前記VH CDR1、VH CDR2ならびにVH CDR3を含む、VH鎖を含む、先行項目のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目10)
それぞれ配列番号2、配列番号6及び配列番号16のアミノ酸配列によって定義される前記VH CDR1、VH CDR2ならびにVH CDR3を含む、VH鎖を含む、項目1~8のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目11)
それぞれ配列番号2、配列番号10及び配列番号18のアミノ酸配列によって定義される前記VH CDR1、VH CDR2ならびにVH CDR3を含む、VH鎖を含む、項目1~8のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目12)
それぞれ配列番号2及び配列番号17のアミノ酸配列によって定義される前記VH CDR1ならびに前記VH CDR3、ならびに配列番号7、配列番号8、配列番号13または配列番号14のアミノ酸配列によって定義される前記VH CDR2を含む、VH鎖を含む、項目1~8のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目13)
それぞれ配列番号3及び配列番号17のアミノ酸配列によって定義される前記VH CDR1ならびに前記VH CDR3、ならびに配列番号9、配列番号11または配列番号12のアミノ酸配列によって定義される前記VH CDR2を含む、VH鎖を含む、項目1~8のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目14)
それぞれ配列番号4、配列番号9及び配列番号17のアミノ酸配列によって定義される前記VH CDR1、VH CDR2ならびにVH CDR3を含む、VH鎖を含む、項目1~8のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目15)
それぞれ配列番号3、配列番号12及び配列番号17のアミノ酸配列によって定義される前記VH CDR1、VH CDR2ならびにVH CDR3を含む、VH鎖を含む、項目1~8のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目16)
(i)配列番号49~配列番号61のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、軽鎖可変(VL)領域、及び/または(ii)配列番号35~配列番号48のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、重鎖可変(VH)領域、を含む、ヒトFlt-1に特異的に結合する、抗体またはその抗原結合断片。
(項目17)
前記VL領域が配列番号60のアミノ酸配列を含み、及び前記VH領域が配列番号45のアミノ酸配列を含む、項目16に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目18)
前記抗体が、配列番号87~配列番号89のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、重鎖定常領域を更に含む、先行項目のいずれか一項に記載の抗体。
(項目19)
(i)配列番号75~配列番号86のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、及び/または(ii)配列番号62~配列番号74のいずれか一つに少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖、を含む、ヒトFlt-1に特異的に結合する、抗体またはその抗原結合断片。
(項目20)
前記軽鎖が配列番号76のアミノ酸配列を含み、及び前記重鎖が配列番号71のアミノ酸配列を含む、項目19に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目21)
前記抗体またはその抗原結合断片が、IgG、F(ab’)2、F(ab)2、Fab’、Fab、scFv、二重特異性抗体、三重特異性抗体及び四重特異性抗体からなる群から選択される、先行項目のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目22)
前記抗体またはその抗原結合断片がIgGである、項目21に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目23)
前記抗体またはその抗原結合断片がIgG1である、項目22に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目24)
前記抗体またはその抗原結合断片がモノクローナル抗体である、先行項目のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目25)
前記抗体がヒト化モノクローナル抗体である、先行項目のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目26)
前記ヒト化モノクローナル抗体がヒトFc領域を含有する、項目25に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目27)
前記抗体のin vivo半減期が長くなるように、前記Fc領域とFcRn受容体の間の結合親和性を強化する1つ以上の突然変異を、前記Fc領域が含む、項目26に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目28)
前記Fc領域が、ヒトIgGlのLeu234、Leu235及び/またはGly237に対応する位置において、1つ以上の突然変異を含む、先行項目のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目29)
前記抗体またはその抗原結合断片がVEGF R2及び/またはVEGF R3と結合しない、先行項目のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目30)
前記抗体またはその抗原結合断片がマウスまたはサルFlt-1と結合しない、先行項目のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
(項目31)
配列番号90の位置139~148、位置139~153、位置178~206、位置199~204及び位置128~138に対応するアミノ酸配列を含む、ペプチドもしくはその断片を認識する、単離した抗体またはその抗原結合断片。
(項目32)
前記ペプチドが、配列番号90の位置130~138、位置141~148、位置141~153及び位置193~206に対応する前記アミノ酸配列からなる、項目31に記載の単離した抗体またはその抗原結合断片。
(項目33)
先行項目のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片と競う、単離した抗体またはその抗原結合断片。
(項目34)
先行項目のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片、及び薬学的に許容できる担体、を含む医薬組成物。
(項目35)
項目1~33のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片のCDR、VL領域、VH領域、軽鎖及び/または重鎖をコードするポリヌクレオチド。
(項目36)
項目35に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
(項目37)
項目35に記載のポリヌクレオチド、及び項目36に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
(項目38)
項目37に記載の宿主細胞を培養することを含む、ヒトFlt-1に特異的に結合する、抗体またはその抗原結合断片を製造する方法。
(項目39)
項目1~33のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片を生成する、ハイブリドーマ細胞。
(項目40)
治療を必要とする対象に、項目1~33のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片を投与することを含む、Flt-1介在性疾患、障害または病態を治療する方法。(項目41)
前記Flt-1介在性疾患、障害または病態が、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、子癇前症または慢性腎疾患である、項目40に記載の方法。(項目42)
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を治療する方法であって、前記方法が、
DMDの少なくとも1つの症状または特徴が強度、重症度もしくは頻度において減少されるように、または発症を遅延させるように、DMDを患っている対象またはDMDに罹患しやすい対象に、項目1~35のいずれか一項に記載の有効量の抗体またはその抗原結合断片を投与することを含む、前記方法。
(項目43)
前記方法が、前記対象に1つ以上の追加の治療薬を投与することを含む、項目42に記載の方法。
(項目44)
前記1つ以上の追加の治療薬が、プレドニゾン、デフラザコート、フォリスタチン、RNA調節療法、エキソンスキッピング療法及び遺伝子治療からなる群から選択される、項目43に記載の方法。
(項目45)
前記抗体またはその抗原結合断片が非経口的に投与される、項目42~44のいずれか一項に記載の方法。
(項目46)
前記非経口投与が、静脈内、皮内、髄腔内、吸入、経皮(局所)、眼球内、筋肉内、皮下及び/または経粘膜投与から選択される、項目45に記載の方法。
(項目47)
前記非経口投与が静脈内投与である、項目46に記載の方法。
(項目48)
前記非経口投与が皮下投与である、項目46に記載の方法。
(項目49)
前記抗体またはその抗原結合断片が、毎日、週2回、毎週または毎月投与される、項目42~48のいずれか一項に記載の方法。
(項目50)
前記抗体またはその抗原結合断片が週2回投与される、項目49に記載の方法。
(項目51)
前記抗体またはその抗原結合断片の前記有効量が、約1mg/kg~50mg/kgの投与量である、項目42~48のいずれか一項に記載の方法。
(項目52)
前記投与量が約1mg/kgである、項目51に記載の方法。
(項目53)
前記投与量が約3mg/kgである、項目51に記載の方法。
(項目54)
前記投与量が約10mg/kgである、項目51に記載の方法。
(項目55)
前記抗体またはその抗原結合断片の前記投与が、対照と比較して減少した線維症及び/または壊死をもたらす、項目42~54のいずれか一項に記載の方法。
(項目56)
前記抗体またはその抗原結合断片の前記投与が、対照と比較して前記対象の筋肉の改善した血管新生をもたらす、項目42~54のいずれか一項に記載の方法。
(項目57)
前記改善した血管新生が、筋病理の増加した血流量、血清の増大したVEGFレベル、血清の低下したクレアチンキナーゼ(CK)濃度、IHCによる増加したCD31スコア、及び/または血清の減少したsFlt-1レベルに反映される、項目56に記載の方法。
(項目58)
前記抗体またはその抗原結合断片の前記投与が、対照と比較して改善した筋機能をもたらす、項目42~54のいずれか一項に記載の方法。
(項目59)
前記改善した筋機能が、改善した筋力及び/または疲労に対する耐性に反映される、項目58に記載の方法。
(項目60)
治療を必要とする対象に、有効量の項目1~33のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片を投与することを含む、組織の線維症を治療する方法。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1A】マウスに抗体を10mg/kgの投与量で静脈内投与した後、抗Flt-1抗体13B4の消失を表す例示的な結果を示す。
【
図1B】マウスに抗体を10mg/kgの投与量で静脈内投与した後、抗Flt-1抗体10G12の消失を表す例示的な結果を示す。
【
図2A】抗Flt-1抗体の最高血清中濃度を表す例示的な結果を示す。
【
図2B】抗Flt-1抗体の最低血清中濃度を表す例示的な結果を示す。
【
図3】抗Flt-1抗体(13B4または10G12)、アイソタイプ対照抗体、市販の抗体(Angio)または溶媒単独を、mdxマウスに投与した後の、血清中の遊離可溶性Flt-1(sFlt-1)濃度の減少を表す例示的な結果を示す。
【
図4】抗Flt-1抗体(13B4または10G12)、アイソタイプ対照抗体、市販の抗体(Angio)または溶媒単独を、mdxマウスに投与した後の、VEGFの血清中濃度の増加を表す例示的な結果を示す。
【
図5】
図5A~5Dは、抗Flt-1抗体(13B4または10G12)、アイソタイプ対照抗体または市販の抗体(Angio)を投与したmdxマウスの横隔膜筋から得た組織切片のCD31染色の例示的な結果を示す。
【
図6A】横隔膜筋から得た組織切片のすべての着色領域の割合として、CD31陽性領域の定量の例示的な結果を示す。
【
図6B】前脛骨(TA)筋から得た組織切片のすべての着色領域の割合として、CD31陽性領域の定量の例示的な結果を示す。
図6Bは、抗Flt-1抗体を投与したmdxマウスの前脛骨(TA)筋から得た組織切片のすべての着色領域の割合として、CD31陽性領域の定量の例示的な結果を示す。
【
図7】ELISAアッセイによって、組換えsFlt-1への抗Flt-1抗体の結合を表す例示的な結果を示す。
【
図8】競合的ELISAアッセイにおいて、抗Flt-1抗体によるVEGFへのsFlt-1の結合の阻害を表す例示的な結果を示す。
【
図9】抗Flt-1抗体によるVEGF R2のリン酸化の救済を表す例示的な結果を示す。ヒト主要静脈内皮細胞(HUVEC)は、sFlt-1及び抗Flt-1抗体の存在下でVEGFで処置されて、VEGF R2のリン酸化のレベルが判定された。救済%は、HUVECがVEGF及びsFlt-1だけで処置された場合(すなわち、抗Flt-1抗体はない)のVEGF R2のリン酸化のレベルと比較したVEGF R2のリン酸化のレベルを示す。
【
図10】競合的ELISAアッセイにおいて、抗Flt-1抗体によるVEGFへの可溶なFlt-1の結合の阻害を表す例示的な結果を示す。
【
図11】マウスに抗Flt-1抗体を10mg/kgの投与量で静脈内投与した後、672時間における血清からの抗Flt-1抗体の消失を表す例示的な結果を示す。
【
図12】
図12A~12Cは、横隔膜筋からの組織切片のCD31染色の例示的な結果を示す。
図12D~12Fは、前脛骨筋から得た組織切片のCD31染色の例示的な結果を示す。
【
図13A】抗体投与後、256時間の経時変化で、マウスの横隔膜、脛骨及び腓腹筋における、抗Flt-1抗体27H9、13B4ならびに21B3の例示的な体内分布を示す。
【
図13B】抗体投与後、256時間の経時変化で、マウスの横隔膜、脛骨及び腓腹筋における、抗Flt-1抗体27H9、13B4ならびに21B3の例示的な体内分布を示す。
【
図13C】抗体投与後、256時間の経時変化で、マウスの横隔膜、脛骨及び腓腹筋における、抗Flt-1抗体27H9、13B4ならびに21B3の例示的な体内分布を示す。
【
図14A】最大曝露での最高抗Flt-1抗体21B3濃度を表す例示的な結果を示す。
【
図14B】最低抗Flt-1抗体21B3濃度を表す例示的な結果を示す。
【
図15】mdxマウスへの抗Flt-1抗体21B3の投与後、遊離sFlt-1を表す例示的な結果を示す。
【
図16】mdxマウスへの抗Flt-1抗体21B3の投与後、VEGF濃度を表す例示的な結果を示す。
【
図17】
図17A~17Eは、抗Flt-1抗体21B3またはアイソタイプ対照抗体を投与したmdxマウスの横隔膜筋から得た組織切片のCD31染色の例示的な結果を示す。
【
図18】抗Flt-1抗体21B3またはアイソタイプ対照抗体を投与したmdxマウスの横隔膜筋から得た組織切片の正規化したCD31の陽性割合の定量の例示的な結果を示す。
【
図19】
図19A~19Eは、抗Flt-1抗体21B3またはアイソタイプ対照抗体を投与したmdxマウスの前脛骨筋から得た組織切片のCD31染色の例示的な結果を示す。
【
図20】抗Flt-1抗体21B3またはアイソタイプ対照抗体を投与したmdxマウスの前脛骨筋から得た組織切片の正規化したCD31の陽性割合の定量の例示的な結果を示す。
【
図21A】脱グリコシルした21B3抗体の分子量を判定するための逆相液体クロマトグラフィー/質量分析(RP-LC/MS)分析の例示的な結果を示す。
【
図21B】重鎖のグリコシル化パターンの分析の例示的な結果を示す。
【
図22A】抗Flt-1抗体による、VEGF R2のリン酸化の救済を表す例示的な結果を示す。ヒト主要静脈内皮細胞(HUVEC)は、sFlt-1及び抗Flt-1抗体の存在下でVEGFで処置されて、VEGF R2のリン酸化のレベルが判定された。救済%は、HUVECがVEGF及びsFlt-1だけで処置された場合(すなわち、抗Flt-1抗体はない)のVEGF R2のリン酸化のレベルと比較したVEGF R2のリン酸化のレベルを示す。
【
図22B】抗Flt-1抗体による、VEGF R2のリン酸化の救済を表す例示的な結果を示す。ヒト主要静脈内皮細胞(HUVEC)は、sFlt-1及び抗Flt-1抗体の存在下でVEGFで処置されて、VEGF R2のリン酸化のレベルが判定された。救済%は、HUVECがVEGF及びsFlt-1だけで処置された場合(すなわち、抗Flt-1抗体はない)のVEGF R2のリン酸化のレベルと比較したVEGF R2のリン酸化のレベルを示す。
【
図23】ELISAアッセイによって、組換えsFlt-1への抗Flt-1抗体の結合を表す例示的な結果を示す。
【
図24】mdxマウスにおける遊離抗Flt-1抗体21B3及びアイソタイプ対照抗体の血清中濃度を表す例示的な結果を示す。
【
図25】抗Flt-1抗体21B3またはアイソタイプ対照抗体のいずれかで処置したmdxマウスの遊離sFlt-1の血清中濃度を表す例示的な結果を示す。
【
図26】抗Flt-1抗体21B3またはアイソタイプ対照抗体のいずれかで処置したmdxマウスのVEGFの血清中濃度を表す例示的な結果を示す。
【
図27】
図27A~27Hは、6週間(27A~27D)または12週間(27E~27H)、抗Flt-1抗体21B3または溶媒対照を投与したmdxマウスの横隔膜筋から得た組織切片のCD31染色の例示的な結果を示す。
【
図28】
図28A~28Hは、6週間(28A~28D)または12週間(28E~28H)、抗Flt-1抗体21B3または溶媒対照を投与したmdxマウスの腓腹筋から得た組織切片のCD31染色の例示的な結果を示す。
【
図29】
図29A~29Hは、6週間(29A~29D)または12週間(29E~29H)、抗Flt-1抗体21B3または溶媒対照を投与したmdxマウスの脛骨筋から得た組織切片のCD31染色の例示的な結果を示す。
【
図30A】6週間または12週間、抗Flt-1抗体21B3または溶媒対照抗体を投与したmdxマウスの横隔膜筋、腓腹筋及び脛骨筋から得た組織切片のCD31染色の陽性%の定量の例示的な結果を示す。
【
図30B】6週間または12週間、抗Flt-1抗体21B3または溶媒対照抗体を投与したmdxマウスの横隔膜筋、腓腹筋及び脛骨筋から得た組織切片のCD31染色の陽性%の定量の例示的な結果を示す。
【
図30C】6週間または12週間、抗Flt-1抗体21B3または溶媒対照抗体を投与したmdxマウスの横隔膜筋、腓腹筋及び脛骨筋から得た組織切片のCD31染色の陽性%の定量の例示的な結果を示す。
【
図31】
図31A~31Hは、6週間(31A~31D)または12週間(31E~31H)、抗Flt-1抗体21B3または溶媒対照を投与したmdxマウスの横隔膜筋から得た組織切片のI型コラーゲン免疫組織化学的染色の例示的な結果を示す。
【
図32】
図32A~32Hは、6週間(32A~32D)または12週間(32E~32H)、抗Flt-1抗体21B3または溶媒対照を投与したmdxマウスの腓腹筋から得た組織切片のI型コラーゲン免疫組織化学的染色の例示的な結果を示す。
【
図33】
図33A~33Hは、6週間(33A~33D)または12週間(33E~33H)、抗Flt-1抗体21B3または溶媒対照を投与したmdxマウスの脛骨筋から得た組織切片のI型コラーゲン免疫組織化学的染色の例示的な結果を示す。
【
図34A】6週間または12週間、抗Flt-1抗体21B3または溶媒対照抗体を投与したmdxマウスの横隔膜筋、腓腹筋及び脛骨筋から得た組織切片のI型コラーゲン染色の陽性%の定量の例示的な結果を示す。
【
図34B】6週間または12週間、抗Flt-1抗体21B3または溶媒対照抗体を投与したmdxマウスの横隔膜筋、腓腹筋及び脛骨筋から得た組織切片のI型コラーゲン染色の陽性%の定量の例示的な結果を示す。
【
図34C】6週間または12週間、抗Flt-1抗体21B3または溶媒対照抗体を投与したmdxマウスの横隔膜筋、腓腹筋及び脛骨筋から得た組織切片のI型コラーゲン染色の陽性%の定量の例示的な結果を示す。
【
図35】
図35Aおよび35Bは、6週間または12週間、抗Flt-1抗体21B3または溶媒対照抗体を投与したmdxマウスの腓腹筋の壊死%の定量の例示的な結果を示す。
【
図36-1】
図36は、ヒトsFlt-1単独の水素/重水素交換をヒトsFlt-1及び抗Flt-1抗体(21B3)混合物のそれと比較する差次的ヒートマップを表す例示的な結果を示す。灰色:重水素保護なし、青:Fab結合時の重水素保護。
【
図36-2】
図36は、ヒトsFlt-1単独の水素/重水素交換をヒトsFlt-1及び抗Flt-1抗体(21B3)混合物のそれと比較する差次的ヒートマップを表す例示的な結果を示す。灰色:重水素保護なし、青:Fab結合時の重水素保護。
【
図36-3】
図36は、ヒトsFlt-1単独の水素/重水素交換をヒトsFlt-1及び抗Flt-1抗体(21B3)混合物のそれと比較する差次的ヒートマップを表す例示的な結果を示す。灰色:重水素保護なし、青:Fab結合時の重水素保護。
【
図37-1】
図37は、ヒトsFlt-1単独の水素/重水素交換をヒトsFlt-1及び抗Flt-1抗体(21C6)混合物のそれと比較する差次的ヒートマップを表す例示的な結果を示す。灰色:重水素保護なし、青:Fab結合時の重水素保護。
【
図37-2】
図37は、ヒトsFlt-1単独の水素/重水素交換をヒトsFlt-1及び抗Flt-1抗体(21C6)混合物のそれと比較する差次的ヒートマップを表す例示的な結果を示す。灰色:重水素保護なし、青:Fab結合時の重水素保護。
【
図37-3】
図37は、ヒトsFlt-1単独の水素/重水素交換をヒトsFlt-1及び抗Flt-1抗体(21C6)混合物のそれと比較する差次的ヒートマップを表す例示的な結果を示す。灰色:重水素保護なし、青:Fab結合時の重水素保護。
【
図38A】エピトープ領域からアミノ酸残基を含有する同定したペプチドについてのMS/MSスペクトルを表す例示的な結果を示す。
【
図38B】エピトープ領域からアミノ酸残基を含有する同定したペプチドについてのMS/MSスペクトルを表す例示的な結果を示す。
【
図38C】エピトープ領域からアミノ酸残基を含有する同定したペプチドについてのMS/MSスペクトルを表す例示的な結果を示す。
【
図38D】エピトープ領域からアミノ酸残基を含有する同定したペプチドについてのMS/MSスペクトルを表す例示的な結果を示す。
【
図38E】エピトープ領域からアミノ酸残基を含有する同定したペプチドについてのMS/MSスペクトルを表す例示的な結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
定義
本発明をより容易に理解するために、特定の用語を最初に以下に定義する。以下の用語及び他の用語についての追加の定義は、本明細書を通して記載する。
【0030】
親和性:当該分野において周知のように「親和性」とは、特定のリガンドがそのパートナーと結合する際の堅固さの程度である。いくつかの実施形態では、リガンドまたはパートナーはFlt-1である。いくつかの実施形態では、リガンドまたはパートナーは可溶なFlt-1である。いくつかの実施形態では、リガンドまたはパートナーは組換えFlt-1である。特定の実施形態では、リガンドまたはパートナーはヒトsFlt-1である。特定の実施形態では、リガンドまたはパートナーは組換えsFlt-1である。他の実施形態では、リガンドまたはパートナーは抗Flt-1抗体である。親和性は様々な方法で測定することができる。いくつかの実施形態では、親和性は定量的アッセイで測定される。いくつかのこのような実施形態において、結合パートナーの濃度は、生理学的条件を模倣するようにリガンド濃度を上回って固定できる。代替的にまたは追加的に、いくつかの実施形態において、結合パートナー濃度及び/またはリガンド濃度は変化できる。いくつかのこのような実施形態において、親和性は、同様の条件下にて(例えば、濃度)、参照と比較することができる。
【0031】
親和性成熟(または、親和性成熟抗体):本明細書で使用する場合「親和性成熟」または「親和性成熟抗体」という用語は、変質(複数可)を有さない親抗体と比較して、抗原についての抗体の親和性に改善をもたらす、その1つ以上のCDRにおける1つ以上のその変質を有する抗体を意味する。いくつかの実施形態では、親和性成熟抗体は、標的抗原に関してナノモル濃度の親和性またはピコモル濃度の親和性さえも有する。親和性成熟抗体は、当該分野において周知の種々の手法の任意のものにより産生され得る。Marks
et al.,BioTechnology10:779-783(1992)に、VH及びVLドメインシャッフリングによる親和性成熟が記載されている。CDR及び/またはフレームワーク残基のランダム突然変異誘発は、Barbas et al.,Proc Nat.Acad.Sci,USA91:3809-3813(1994)、Schier et al.Gene169:147-155(1995)、Yelton et al.,J.Immunol.155:1994-2004(1995)、Jackson et al.,J.Immunol.154(7):3310-9(1995)、及び、Hawkins et al.,J.Mol.Biol.226:889-896(1992)に記載されている。
【0032】
回復:本明細書で使用する場合「回復」という用語は、対象の状態の予防、軽減もしくは緩和、または状態の改善を意味する。回復は、疾患病態の完全な回復または完全な予防を含むが、必要とはしない。
【0033】
動物:本明細書で使用する場合「動物」という用語は、動物界に属する任意のものを指す。いくつかの実施形態では、「動物」は、任意の発達段階におけるヒトを指す。いくつかの実施形態では、「動物」は、任意の発達段階における非ヒト動物を指す。特定の実施形態では、非ヒト動物は哺乳動物(例えば、げっ歯類、マウス、ラット、ウサギ、サル、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、霊長類、及び/またはブタ)である。いくつかの実施形態では、動物には、哺乳動物、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫類、及び/または寄生虫類が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、動物は、遺伝子導入動物、遺伝子操作した動物、及び/またはクローンであり得る。
【0034】
抗体:本明細書で使用する場合「抗体」という用語は、自然の、または全面的にもしくは部分的に合成的に作成した、任意の免疫グロブリンを指す。特異的結合能力を維持するすべてのその誘導体も、その用語に含まれる。前記用語は、免疫グロブリン結合ドメインと相同である、または大部分は相同である結合ドメインを有する、任意のタンパク質も対象とする。このようなタンパク質は、自然源に由来できる、または部分的にもしくは全面的に合成的に作成することができる。抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであり得る。抗体は、ヒトアイソタイプ:IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEのいずれかを含む、任意の免疫グロブリンアイソタイプのメンバーでもあり得る。特定の実施形態で、抗体は、IgGの免疫グロブリンクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3など)のメンバーであり得る。いくつかの実施形態では、抗体はヒト抗体であり得る。いくつかの実施形態では、抗体はヒト化抗体であり得る。
【0035】
当業者に周知のように、自然に生成する抗体は通常、4つのポリペプチド鎖、ジスルフィド結合により相互接続する2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖からなる。各重鎖及び軽鎖は、可変領域(それぞれHCVR、VHまたはVH及びLCVR、VLまたはVLとして本明細書で略記される)及び定常領域からなる。重鎖の定常領域は、CH1、CH2及びCH3ドメイン(及び所望によりIgM及びIgEの場合CH4ドメイン)を含む。軽鎖の定常領域は、1つのドメインCLからなる。VH及びVL領域が、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性領域を更に含み、それはフレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域が散在する。各VH及びVLは3つのCDR及び4つのFRからなり、以下の順序FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端まで配置される。重鎖及び軽鎖の結合領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は免疫グロブリンの宿主組織または因子への結合を媒介でき、それは免疫系(例えば、エフェクター細胞)の種々の細胞及び旧来の補体系の第1成分(Clq)を含む。
【0036】
抗原結合部分:本明細書で使用する場合「抗原結合部分」または「抗原結合断片」という用語は、抗原(例えば、Flt-1)と特異的に結合する能力を保持する、抗体の1つ以上の断片または部分を意味する。抗原結合部分の例としては、(i)VH、VL、CH1及びCLドメインからなる一価の断片である、Fab断片、(ii)ヒンジ領域中ジスルフィド架橋で結合した2つのFab断片を含む2価の断片であるF(ab’)2断片、(iii)VH及びCH1ドメインからなるFdフラグメント、(iv)抗体の単一アームのVH及びVLドメインからなるFv断片、(v)単一可変ドメインを含むdAb断片(Ward et al.,(1989)Nature341:544-546)、(vi)単離相補性決定領域(CDR)、(vii)ヒンジ領域の部分を持つ本質的にFabであるFab’断片、(viii)単一可変ドメイン及び2つの定常領域を含む、重鎖可変領域であるナノボディが、挙げられる。更に、Fv断片の2つのドメインであるVL及びVHは別々の遺伝子によりコードされているが、それらは、組換え法を用いてそれらを単一のタンパク質鎖として作製できる合成リンカーにより結合でき、この鎖中でVL及びVH領域が対となって1価の分子を形成する(単一鎖のFv(scFv)として周知。例えば、Bird et al.,(1988)Science242:423-426、及びHuston et al.,(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA85:5879-5883参照)。抗体の抗原結合断片は、所望により単鎖の抗体断片を含むことができる。代替的にまたは追加的に、抗体の抗原結合断片は、例えばジスルフィド結合によって結合される複数の鎖を含むことができる。抗体の抗原結合断片は、所望により多分子複合体を含むことができる。機能性抗体断片は通常少なくとも約50のアミノ酸を含み、及びより一般的には少なくとも約200のアミノ酸を含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、親抗体のように、それが同じ抗原と結合する断片である親抗体の十分な配列を、抗体断片は含む。いくつかの実施形態において、断片は、親抗体に相当する親和性を有する抗原と結合して及び/または抗原との結合において親抗体と競う。
【0038】
「抗体断片」という用語が生成のいかなる特定の状態も意味せず、かつ限定されていないことを、当業者は理解するであろう。抗体断片は任意の適切な方法を用いることにより調製することができ、それは完全な抗体の開裂、化学合成及び組換え体生成を含むが、これらに限定されない。断片は、完全抗体と同様に使用するためスクリーニングされる。
【0039】
およそまたは約:本明細書で使用する場合、1つ以上の目的とする値に適用される「およそ」または「約」という用語は、記載された参照値に類似する値を指す。特定の実施形態では、用語「およそ」または「約」は、特に明記しない限りまたは文脈から明白でない限り、記載された参照値のいずれかの方向(超または未満)において、25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、またはそれ未満内に入る値の範囲を指す(このような数値が可能性のある値の100%を超える場合を除く)。
【0040】
と関連する:その用語が本明細書で使用される場合、1つのものの存在、レベル及び/または形状が他のものと相関していれば、2つの事象または実体は互いと「関連する」。例えば、特定の実体の存在、レベル及び/または形状が特定の疾患、障害または病態の発現率及び/またはそれに対する感染性と相関する場合(例えば、関連集団全体で)、その特定の実体(例えば、ポリペプチド)はその疾患、障害または病態と関連していると考慮される。いくつかの実施形態では、直接または間接的に相互作用する場合、2つ以上の実体は互いに物理的に「関連」しており、その結果、それらは互いに物理的な近接しており、その状態に留まる。いくつかの実施形態では、互いに物理的に関連する2つ以上の実体は、互いに共有結合される。いくつかの実施形態において、互いに物理的に関連する2つ以上の実体は、互いに共有結合されていないが、例えば水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用、磁気及びこれらの組み合わせによって、非共有結合的に関連している。
【0041】
担体または希釈剤:本明細書で使用する場合「担体」及び「希釈剤」という用語は、医薬製剤の調製のために有用な薬学的に許容される(例えば、ヒトへの投与において安全かつ非毒性)担体または希釈剤を指す。例示的な希釈剤としては、滅菌水、注射用静菌水(BWFI)、pH緩衝溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)、滅菌生理食塩水、リンゲル溶液、またはデキストロース溶液が挙げられる。
【0042】
CDR:本明細書で使用する場合、抗体の可変領域内の相補性決定領域を意味する。重鎖及び軽鎖の可変領域のそれぞれには、3つのCDRが存在しており、可変領域のそれぞれについて、CDR1、CDR2及びCDR3と名付けられる。「CDRのセット」または「CDRセット」は、抗原と結合可能な単一の可変領域、または抗原と結合可能な同種の重鎖及び軽鎖の可変領域のCDRのいずれかにおいて生じる、3つまたは6つのCDRの群を意味する。特定のシステムは、CDR境界(例えば、Kabat、Chothiaなど)を定めるために、当該技術分野において確立されている。当業者はこれらのシステム間の及びこれらのシステムの中の違いを認識しており、特許請求された発明を理解して、実施するのに必要とする範囲でCDR境界を理解できる。
【0043】
キメラ抗体:本明細書で使用する場合、そのアミノ酸配列が、第1種中に見出されるVH及びVL領域配列、ならびに第1種と異なる第2種中に見出される定常領域配列を含む、抗体を意味する。多くの実施形態において、キメラ抗体は、ヒト定常領域に結合するマウスVH及びVL領域を有する。いくつかの実施形態では、非ヒト定常領域(例えば、マウス定常領域)に結合するヒトVH及びVL領域を有する抗体は、「リバースキメラ抗体」と呼ばれる。
【0044】
投与剤形:本明細書で使用する場合「投与剤形」及び「単位投与剤形」という用語は、治療を受ける患者のための治療用タンパク質(例えば、抗体)の物理的に個別の単位を意味する。各単位は、所望の治療効果を生成するために計算された活性物質の所定量を含む。しかし、組成物の全投与量は、健全な医学的判断の範囲内で、担当医師によって決定されることを理解されたい。
【0045】
機能不全:本発明で使用する場合「機能不全」という用語は、異常な機能を意味する。分子(例えば、タンパク質)の機能不全は、このような分子と関連する活動の増加または減少によって生じることがあり得る。分子の機能不全は、分子と直接的もしくは間接的に相互作用するまたはそれを調整する、分子自体または他の分子に関連した欠陥によって生じることがあり得る。
【0046】
エピトープ:本明細書で使用する場合、免疫グロブリン(例えば、抗体、その抗体断片、受容体)結合成分によって特に認識される、任意の部分を含む。いくつかの実施形態では、エピトープは、抗原上の複数の化学原子または基からなる。いくつかの実施形態では、このような化学原子または基は、抗原が関連する3次元構造をとるとき、表面に露出する。いくつかの実施形態では、このような化学原子または基は、抗原がこのような構造をとるとき、間隙を介して互いに物理的に近い。いくつかの実施形態では、少なくともいくつかのそのような化学原子及び群は、抗原が他の構造(例えば、線形化)をとるとき、互いから物理的に分離される。
【0047】
Fc領域:本明細書で使用する場合「Fc領域」という用語は、2つの「Fcポリペプチド」の二量体を指し、各「Fcポリペプチド」は、第1の定常領域の免疫グロブリンドメインを除く、抗体の定常領域を含む。いくつかの実施形態では、「Fc領域」は、1つ以上のジスルフィド結合、化学リンカーまたはペプチドリンカーにより結合した2つのFcポリペプチドを含む。「Fcポリペプチド」は、IgA、IgD及びIgGの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメイン、ならびにIgE及びIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメインを指し、これらの領域に対するN末端の可撓性ヒンジの一部または全体を含むこともできる。IgGにおいて、「Fcポリペプチド」は、免疫グロブリンドメインCガンマ2(Cγ2)及びCガンマ3(Cγ3)、ならびにCガンマ1(Cγ1)とCγ2の間のヒンジの下部を含む。Fcポリペプチドの境界は変化できるが、ヒトIgG重鎖Fcポリペプチドは、そのカルボキシル末端に対してT223またはC226またはP230から開始する残基を含むように、通常定義され、番号付けはKabatらのEUインデックスに従う(1991,NIH Publication91-3242,National Technical Information Services,Springfield,VA)。IgAにおいて、Fcポリペプチドは、免疫グロブリンドメインCアルファ2(Cα2)及びCアルファ3(Cα3)、ならびにCアルファ1(Cα1)とCα2の間のヒンジの下部を含む。Fc領域は、IVIGなどの自然源から合成される、組換えされる、または生成されることができる。
【0048】
フレームワークまたはフレームワーク領域:本明細書で使用する場合、CDRを除いた可変領域の配列を意味する。CDR配列が異系統により決定され得るため、同様にフレームワーク配列もそれに相応して種々の解釈の対象である。6つのCDRは、重鎖及び軽鎖上のフレームワーク領域を、各鎖上において4つのサブ領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)に分割する。その中で、CDR1はFR1とFR2との間に位置し、CDR2はFR2とFR3との間に位置し、CDR3はFR3とFR4との間に位置する。特定のサブ領域をFR1、FR2、FR3またはFR4として特定することなく、他のものにより言及されるフレームワーク領域は、単鎖の天然由来の免疫グロブリン鎖の可変領域内の組み合わせられたFRを表す。本明細書で使用する場合、FRは4つのサブ領域の1つを表す。例えばFR1は、可変領域のアミノ末端及びCDR1に関する5’に最も近い第1のフレームワーク領域を表し、FRは、フレームワーク領域を構築する2つ以上のサブ領域を表す。
【0049】
半減期:本明細書で使用する場合「半減期」という用語は、タンパク質濃度または活性などの量が、期間の開始時に測定されたその値の半分まで低下するのに必要な時間である。
【0050】
高親和性:本明細書で使用する場合「高親和性」という用語は、IgG型抗体を言及するとき、Flt-1ドメインにおいて、10-8M以下、より好ましくは10-9M以下、更により好ましくは10-10M以下のKDを有する抗体を指す。しかし「高親和性」結合は、他の抗体アイソタイプにおいて異なり得る。例えばIgMアイソタイプにおける「高親和性」結合とは、10-7M以下、より好ましくは10-8M以下、更により好ましくは10-9M以下のKDを有する抗体を指す。
【0051】
ヒト抗体:本明細書で使用する場合、ヒト免疫グロブリン配列から生成した(またはアセンブリされた)可変領域及び定常領域を有する、抗体を含むことを意図する。いくつかの実施形態では、例えば1つ以上のCDR、特にCDR3において、そのアミノ酸配列が、ヒト生殖系の免疫グロブリン配列によりコードされない残基またはエレメントを含んでも(例えば、in vitroランダムもしくは部位特異的突然変異誘発、またはin vivo体細胞突然変異により(最初から)導入され得る配列変異などを含んでも)、抗体(または抗体成分)は「ヒト」であるとみなされ得る。
【0052】
ヒトモノクローナル抗体:本明細書で使用する場合、フレームワーク及びCDR領域がヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する、単一の結合特異性を示す抗体を指すことを意図する。一実施形態において、不死化細胞に融合したヒト重鎖導入遺伝子及び軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有する、トランスジェニック非ヒト動物(例えば、トランスジェニックマウス)から得られたB細胞を含む、ハイブリドーマによってヒトモノクローナル抗体は作成される。
【0053】
ヒト化:当該分野において周知のように「ヒト化」という用語は、アミノ酸配列が、非ヒト種(例えば、マウス、ラマ)において生じる参照抗体からのVH及びVL領域の配列を含むが、それらをより「ヒト様」、すなわちヒト生殖系の可変配列により類似するようにすることを意図した前記参照抗体に対するそれらの配列における修飾も含む、抗体(または抗体成分)を意味するのに一般的に使用される。いくつかの実施形態では、「ヒト化」抗体(または、抗体成分)は、目的の抗原に免疫特異的に結合し、ヒト抗体のそれと同じアミノ酸配列を実質的に有するフレームワーク(FR)領域、及び非ヒト抗体(例えば、マウス、ラマ)のそれと同じアミノ酸配列を実質的に有する相補性決定領域(CDR)を有するものである。ヒト化抗体は、少なくとも1つ、通常は2つの可変ドメイン(Fab、Fab’、F(ab’)2、FabC、Fv)のすべてを実質的に含み、CDR領域のすべてまたは実質的にすべては非ヒト免疫グロブリン(すなわち、ドナー免疫グロブリン)のCDR領域に対応し、フレームワーク領域のすべてまたは実質的にすべてはヒト免疫グロブリン共通配列のフレームワーク領域である。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体は、少なくとも一部の免疫グロブリンの定常領域(Fc)、通常はヒト免疫グロブリンの定常領域のそれも含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体は、軽鎖及び少なくとも重鎖の可変ドメインの両方を含む。抗体は、重鎖の定常領域のCH1、ヒンジ、CH2、CH3、及び所望によりCH4領域も含み得る。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体は、ヒト化VL領域のみを含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体は、ヒト化VH領域のみを含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体は、ヒト化VH及びVL領域を含む。
【0054】
肥大:本明細書で使用する場合「肥大」という用語は、器官または組織の構成細胞の拡大に起因する、器官または組織の体積の増加を指す。
【0055】
改善する、増加させる、または減少させる:本明細書で使用する場合、用語「改善する」「増加させる」もしくは「低下させる」または文法上の等価物は、ベースライン測定、例えば本明細書に記載の処置の開始前の同じ個体における測定、または本明細書に記載の処置を行わない対照個体(または複数の対照個体)における測定に対する値を示す。「対照個体」は、治療を受けている個体と同じ形態の疾患に苦しむ個体であり、(治療を受けている個体と対照個体(複数可)の疾患のステージを確実に比較できるように)治療を受けている個体とほぼ同じ年齢である。
【0056】
阻害:本明細書で使用する場合「阻害」「阻害する」及び「阻害すること」という用語は、目的のタンパク質もしくは遺伝子の活性及び/または発現を減らす、または低減する工程ならびに方法を指す。通常、タンパク質または遺伝子を阻害することは、本明細書に記載するまたは当業者が認識する1つ以上の方法によって測定した際、タンパク質または遺伝子の少なくとも10%以上、例えば20%、30%、40%もしくは50%、60%、70%、80%、90%以上の発現もしくは関連する活性の低減、または1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、50倍、100倍以上の発現もしくは関連する活性の低下を意味する。
【0057】
In Vitro:本明細書で使用する場合「in vitro」という用語は、多細胞生物内よりはむしろ人工的な環境、例えば試験管内または反応容器内、細胞培養中などで起こる事象を指す。
【0058】
In Vivo:本明細書で使用する場合「in vivo」という用語は、ヒト及び非ヒト動物などの多細胞生物内で発生する事象を指す。細胞ベースのシステムとの関係においては、前記用語は、生細胞内で(例えば、インビトロ系とは対照的に)発生する事象を指すよう使用され得る。
【0059】
単離された抗体:本明細書で使用する場合「単離された抗体」という用語は、異なる抗原特異性(例えば、Flt-1と特異的に結合する単離された抗体)を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指すことを意図する。更に、単離された抗体は、他の細胞材料及び/または化学薬品を実質的に含まなくてもよい。
【0060】
Ka:本明細書で使用する場合、特定の抗体-抗原相互作用の結合速度を指し、本明細書で使用する場合「Kd」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を指すことを意図する。本明細書で使用する場合「KD」という用語は解離定数を指すことを意図しており、それはKd対Kaの比(すなわち、Kd/Ka)から得られて、モル濃度(M)として表される。抗体におけるKD値は、当該技術分野において十分に確立されている方法を使用して決定することができる。抗体のKDを決定するための好ましい方法は、表面プラズモン共鳴を用いる、好ましくはバイオセンサーシステム(例えばBIAcore(登録商標)システム)を用いることによる。
【0061】
軽鎖の再シャッフル:本明細書で使用する場合「軽鎖の再シャッフル」という用語は、重鎖配列が一定に保たれ、及び軽鎖配列のライブラリが生成される、親和性成熟ステップを指すことを意図する。軽鎖ライブラリは重鎖に対してスクリーニングされて、改善された結合親和性を備える抗体を識別する。改善された結合親和性は、ナノモルまたはピコモルの範囲内であり得る。
【0062】
モノクローナル抗体:本明細書で使用する場合「モノクローナル抗体」という用語は、単一分子組成物の抗体分子の調製を指すことを意図する。モノクローナル抗体組成物は、特定エピトープの単一の結合特異性及び親和性を示す。
【0063】
薬学的に許容される:本明細書で使用する場合「薬学的に許容される」という用語は、健全な医学的判断の範囲内で、妥当な利益/リスク比に見合う、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を有さずに、ヒト及び動物の組織と接触して使用するのに好適な物質を指す。
【0064】
ポリペプチド:本明細書で使用する場合「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合を介して結合されたアミノ酸の連続的な鎖を指す。前記用語は、任意の長さのアミノ酸鎖を指すよう使用されるが、当業者であれば、この用語が長大な鎖に限定されるものではなく、ペプチド結合を介して結合される2つのアミノ酸を含む最小の鎖を指すこともできることを理解するであろう。当業者には周知のように、ポリペプチドは加工及び/または修飾され得る。
【0065】
予防する:本明細書で使用する場合「予防する」または「予防」という用語は、疾患、障害及び/または病態の発生に関連して使用される場合、疾患、障害及び/または病態を発症するリスクを減少させることを指す。「リスク」の定義を参照のこと。
【0066】
タンパク質:本明細書で使用する場合「タンパク質」という用語は、個別単位として機能する1つ以上のポリペプチドを指す。単一のポリペプチドが別個に機能する単位であり、別個の機能する単位を形成するために、他のポリペプチドとの永久的または一時的な物理的結合を必要としないならば、用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は同じ意味で使用され得る。別個の機能的単位が、互いに物理的に結合する2つ以上のポリペプチドからなる際、用語「タンパク質」は、物理的にカップリングされて、別個の単位として一緒に機能する複数のポリペプチドを指す。
【0067】
リスク:文脈から理解されるように、疾患、障害及び/または病態の「リスク」は、特定の個体が疾患、障害及び/または病態(例えば、DMD)を発症する可能性を含む。いくつかの実施形態では、リスクは百分率として表される。いくつかの実施形態では、リスクは0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90%から最大100%である。いくつかの実施形態では、リスクは、参照試料または参照試料の群に関連するリスクに対するリスクとして表される。いくつかの実施形態では、参照試料または参照試料の群は、疾患、障害、病態及び/または事象(例えば、DMD)の既知のリスクを有する。いくつかの実施形態では、参照試料または参照試料の群は、特定の個体と比較できる個体から得られる。いくつかの実施形態では、相対的リスクは、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上である。
【0068】
選択結合性:本明細書で使用する場合「選択結合性」「選択的に結合する」「特異的結合」または「特異的に結合する」は、結合部分及び標的に関して、標的でない実体ではなく、標的に対する結合部分の優先的結合を指す。ある程度の非特異的結合は、結合部分と非標的の間に発生する場合がある。いくつかの実施形態では、結合部分と標的の間の結合が、結合部分と非標的の結合と比較して2倍超、5倍超、10倍超または100倍超の場合、結合部分は標的と選択的に結合する。いくつかの実施形態では、結合親和性が約10-5M未満、約10-6M未満、約10-7M未満、約10-8M未満、または約10-9M未満の場合、結合部分は標的と選択的に結合する。
【0069】
横紋筋:本明細書で使用する場合「横紋筋」という用語は、顕微鏡を用いると横紋状の外観をもたらす筋組織の細胞内収縮性単位、サルコメアの規則的配列を有する多核性筋組織で、随意制御下にあるものを指す。通常、横紋筋は、心筋、骨格筋及び鰓弓筋であり得る。
【0070】
平滑筋:本明細書で使用される用語「平滑筋」は、単元性及び多元性筋を含む不随意に制御される非横紋筋を指す。
【0071】
対象:本明細書で使用する場合「対象」という用語は、ヒトまたは任意の非ヒト動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマまたは霊長類)を指す。ヒトは、出生前及び出生後の状態を含む。多くの実施形態では、対象はヒトである。対象は患者であることができ、前記患者は、疾患の診断または処置のために医療提供者を受診するヒトを意味する。「対象」という用語は、本明細書において「個体」または「患者」と区別なく使用される。対象は、疾患または障害を罹患し得る、または患いやすいが、疾患または障害の徴候を示しても、示さなくてもよい。
【0072】
実質的に:本明細書で使用する場合「実質的に」という用語は、目的の特徴もしくは特性の全体的もしくはほぼ全体的な範囲または程度を示す、質的な条件を指す。生物学的分野における当業者であれば、生物学的及び化学的現象は、完結することならびに/もしくは完結まで進むことがあるにしてもごく稀であること、または絶対的結果を成し遂げるもしくは回避することがあるとしてもごく稀であることを理解するであろう。したがって用語「実質的に」は、多くの生物学的及び化学的現象において固有の潜在的な完結性の欠如をとらえるために本明細書で使用される。
【0073】
実質的に相同性:語句「実質的に相同性」は、本明細書ではアミノ酸または核酸配列間の比較を指すために使用される。当業者であれば理解されるように、2つの配列は、それらが対応する位置において相同の残基を含有する場合、一般的に「実質的に相同性」であるとみなされる。相同の残基は、同一残基であり得る。あるいは相同の残基は、適切に類似した構造的及び/または機能的特徴を有する非同一残基であり得る。例えば当業者には周知であるように、特定のアミノ酸は通常「疎水性」もしくは「親水性」アミノ酸として、及び/または「極性」もしくは「非極性」側鎖を有するものとして分類される。1つのアミノ酸による同一のタイプの別のものの置換は、多くの場合「相同な」置換とみなされ得る。
【0074】
当該技術分野において周知であるように、アミノ酸または核酸配列は、ヌクレオチド配列についてはBLASTN、ならびにアミノ酸配列についてはBLASTP、gapped BLAST及びPSI-BLASTなどの市販のコンピュータプログラム中で利用可能なものを含む、種々のアルゴリズムのいずれかを用いて比較され得る。例示のこのようなプログラムは、Altschul,et al.,basic local alignment search tool,J.Mol.Biol.,215(3):403-410,1990、Altschul,et al.,Methods in Enzymology、Altschul,et al.,“Gapped BLAST and PSI-BLAST:a new generation of protein database search programs”,Nucleic Acids Res.25:3389-3402,1997、Baxevanis,et al.,Bioinformatics:A Practical Guide to the Analysis of Genes and Proteins,Wiley,1998、及びMisener,et al.,(eds.),Bioinformatics Methods and Protocols(Methods in Molecular Biology,Vol.132),Humana Press,1999に記載されている。相同配列を同定することに加えて、上述のプログラムは通常、相同性の程度の表示を提供する。いくつかの実施形態では、2つの配列は、それらの対応する残基の少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上が、残基の関連する並びにわたって相同である場合、実質的に相同であるとみなされる。いくつかの実施形態では、関連する並びは完全な配列である。いくつかの実施形態では、関連する並びは、少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500個以上の残基である。
【0075】
実質的な同一性:語句「実質的な同一性」は、アミノ酸または核酸配列間の比較を指すために本明細書で使用される。当業者であれば理解するように、2つの配列は、それらが対応する位置で同一の残基を含有する場合、一般的に「実質的に同一性」であるとみなされる。当該技術分野において周知であるように、アミノ酸または核酸配列は、ヌクレオチド配列についてはBLASTN、ならびにアミノ酸配列についてはBLASTP、gapped BLAST及びPSI-BLASTなどの市販のコンピュータプログラム中で利用可能なものを含む、種々のアルゴリズムのいずれかを用いて比較され得る。例示のこのようなプログラムは、Altschul,et al.,Basic local alignment search tool,J.Mol.Biol.,215(3):403-410,1990、Altschul,et al.,Methods in Enzymology、Altschul,et al.,Nucleic Acids Res.25:3389-3402,1997、Baxevanis,et al.,Bioinformatics:A Practical Guide to the Analysis of Genes and Proteins,Wiley,1998、及びMisener,et al.,(eds.),Bioinformatics Methods and Protocols(Methods in Molecular Biology,Vol.132),Humana Press,1999に記載されている。同一配列を同定することに加えて、上述のプログラムは通常、同一性の程度の表示を提供する。いくつかの実施形態では、2つの配列は、それらの対応する残基の少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上が、残基の関連のある並びにわたって同一である場合、実質的に同一であるとみなされる。いくつかの実施形態では、関連する並びは完全な配列である。いくつかの実施形態では、関連する並びは、少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500個以上の残基である。
【0076】
表面プラズモン共鳴:本明細書で使用する場合、例えばBiacoreシステム(Pharmacia Biosensor AB,Uppsala,Sweden and Piscataway,N.J.)を使用することによってなどバイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の変化の検出による、リアルタイムの特異的結合の相互作用の分析を可能にする、光学現象を指す。更なる説明については、Jonsson,U.,et
al.(1993)Ann.Biol.Clin.51:19-26、Jonsson,U.,et al.(1991)Biotechniques11:620-627、Johnsson,B.,et al.(1995)J.Mol.Recognit.8:125-131、及びJohnnson,B.,et al.(1991)Anal.Biochem.198:268-277を参照のこと。
【0077】
患う:疾患、障害及び/または病態を「患う」個体は、疾患、障害及び/または病態、例えばDMDの1つ以上の徴候により診断されている、またはその徴候を示す。
【0078】
患いやすい:疾患、障害及び/または病態を「患いやすい」個体は、疾患、障害及び/または病態を診断されていない。いくつかの実施形態では、疾患、障害及び/または病態を患いやすい個体は、疾患、障害及び/または病態の徴候を示していなくてもよい。いくつかの実施形態では、疾患、障害、病態または事象(例えば、DMD)を患いやすい個体は、以下(1)疾患、障害及び/または病態の発症に関連する遺伝子突然変異、(2)疾患、障害及び/または病態の発症に関連する遺伝子多型、(3)疾患、障害及び/または病態に関連するタンパク質の発現及び/または活性の増加及び/または減少、(4)疾患、障害、病態及び/または事象の発症に関連する習慣及び/または生活様式、(5)移植を行ったことがあること、移植を行う予定があること、または移植を必要としていること、のうちの1つ以上によって特徴付けられ得る。いくつかの実施形態では、疾患、障害及び/または病態を患いやすい個体は、疾患、障害及び/または病態を発症する。いくつかの実施形態では、疾患、障害及び/または病態を患いやすい個体は、疾患、障害及び/または病態を発症しない。
【0079】
標的組織:本明細書で使用する場合「標的組織」という用語は、DMDなどの治療されることになる疾患に罹患している任意の組織を指す。いくつかの実施形態では、標的組織は、筋消耗、骨格変形、心筋症、筋虚血、認知障害及び呼吸機能の障害を含むがこれらに限定されない疾患に関連する病変、症状または特徴を表す組織を含む。いくつかの実施形態において、標的組織は、平滑筋、横紋筋または心筋である。
【0080】
治療に有効な量:本明細書で使用する場合、治療薬の「治療に有効な量」という用語は、疾患、障害及び/または病態を患う対象または、疾患、障害及び/または病態を患いやすい対象に投与されるとき、疾患、障害及び/または病態の症状(複数可)の発症を治療、診断、予防及び/または遅延するのに十分な量を意味する。治療に有効な量は通常、少なくとも1つの単位用量を含む投与レジメンによって投与されることを、当業者であれば理解するであろう。
【0081】
治療:本明細書で使用する場合「治療する」「治療」または「治療すること」という用語は、特定の疾患、障害及び/または病態、例えばDMDの1つ以上の症状もしくは特徴を部分的にもしくは完全に緩和し、改善し、軽減し、抑制し、予防し、その発症を遅延し、その重篤度を減少させ、及び/またはその発症率を減少させるために用いられる任意の方法を指す。治療は、疾患に関連する病状を発達させるリスクを減少させる目的で、疾患の徴候を示さない対象及び/または疾患の初期徴候のみを示す対象に適用され得る。
【0082】
詳細な説明
本発明はとりわけ、筋ジストロフィーの治療のための治療薬として、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の使用に基づいて、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)及び/またはベッカー型筋ジストロフィーを含む筋ジストロフィーを治療するための方法及び組成物を提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、DMDの少なくとも1つの症状または特徴が強度、重症度もしくは頻度において減少するように、またはその発症が遅延するように、DMDを患っているまたはそれを患いやすい個体に、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の治療に有効な量を投与することを含む、DMDを治療する方法を提供する。
【0083】
本発明の種々の態様は、下記の項において詳細に説明される。項の使用は、本発明を限定することを意味しない。各項は、本発明の任意の態様に適用し得る。本出願では特に明記しない限り、「または」の使用は「及び/または」を意味する。
【0084】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)
DMDは、体全体にわたる進行性の筋肉の低下及び筋肉関連機能の喪失によって特徴付けられる疾患である。本発明は、筋肉の低下を遅くする、遅延させるまたは防止する、筋肉を再生する、ならびに線維症、炎症ならびにDMD及び種々の筋組織における他の筋ジストロフィーに関連する他の症状または特徴を後退させる、排除する、遅延させる、予防するまたは最小化するための、方法及び組成物を提供することが企図される。
【0085】
筋組織
動物には2つの主要なタイプの筋組織、横紋筋及び平滑筋が存在する。本明細書で使用する場合「横紋筋」という用語は、連続するサルコメアを含有する筋組織を指す。横紋筋は、随意制御下にあり、骨格に付着する傾向がある。横紋筋は身体の随意運動を可能にし、四頭筋、腓腹筋、二頭筋、三頭筋、僧帽筋、三角筋及び他多数を含有する、主要な筋肉群を含む。横紋筋は非常に長い傾向があり、多くの横紋筋は独立して機能することができる。しかしいくつかの横紋筋は、口、肛門、心臓及び食道の上部にあるものを含めて、骨格に付着しない。
【0086】
一方で平滑筋は、非常に異なる構造を有する。別個の骨格付着部分を有する一連の長い筋肉というよりは、平滑筋は、平滑筋細胞間の機械的結合を有する連続シート内に構築される傾向にある。平滑筋は多くの場合、中空器官の壁内に位置し、通常、随意制御下にはない。特定の器官の内側を覆っている平滑筋は、同一の荷重を支持し、同時に収縮せねばならない。平滑筋は少なくともある程度は、運動及び/または位置もしくは圧力の変化によって引き起こされる中空器官上の荷重における変化を処理するよう機能する。この二元的役割は、平滑筋が横紋筋のように収縮することが可能であるべきのみならず、持続する荷重に対して器官の寸法を維持するために、平滑筋が持続して収縮可能でなければならないことを意味する。平滑筋の例は、血管、細気管支、膀胱及び直腸などの胃腸管の内側を覆っているものである。
【0087】
筋肉の強度は、筋肉の細胞の数及びサイズ、ならびにそれらの解剖学的配置に依存する。新しい筋原線維の合成(肥大)及び/またはより多くの筋細胞の形成(肥厚化)のいずれかによる筋線維の直径の増加は、筋肉の力生成能力を増加させる。
【0088】
筋肉は、位置または機能によって分類され得る。いくつかの実施形態では、Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、1つ以上の顔の筋肉、1つ以上の咀嚼のための筋肉、1つ以上の舌及び頸部の筋肉、1つ以上の胸部の筋肉、1つ以上の肩帯及び腕の筋肉、1つ以上の腕及び肩の筋肉、1つ以上の腹側及び背側前腕の筋肉、1つ以上の手の筋肉、1つ以上の脊柱起立筋、1つ以上の骨盤帯及び脚の筋肉、ならびに/または1つ以上の前脚及び足の筋肉を標的とする。
【0089】
いくつかの実施形態では、顔の筋肉としては、毛様体筋、瞳孔散大筋、虹彩括約筋などの内眼筋、耳介、側頭頭頂筋、アブミ骨筋、鼓膜張筋などの耳筋、鼻根筋、鼻筋、鼻孔開大筋、鼻中隔下制筋、上唇尾翼挙筋などの鼻筋、口角挙筋、口角下制筋、口輪筋、頬筋、大頬骨筋及び小頬骨筋、広頸筋、上唇挙筋、下唇下制筋、笑筋、オトガイ筋、ならびに/または皺眉筋などの口の筋肉が挙げられるが、これらに限定されない。
【0090】
いくつかの実施形態では、咀嚼の筋肉としては、咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、舌及び頚の筋肉としては、オトガイ舌筋、茎突舌筋、口蓋舌筋、舌骨舌筋、顎二腹筋、茎突舌骨筋、顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋、肩甲舌骨筋、胸骨舌骨筋、胸骨甲状筋、甲状舌骨筋、胸鎖乳突筋、前斜角筋、中斜角筋、及び/または後斜角筋が挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
いくつかの実施形態では、胸部、胸帯及び腕部の筋肉としては、鎖骨下筋、大胸筋、小胸筋、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋、横隔膜、外肋間筋、内肋間筋、前鋸筋、僧帽筋、肩甲挙筋、大菱形筋、小菱形筋、広背筋、三角筋、肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、大円筋、小円筋、及び/または烏口腕筋が挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
いくつかの実施形態では、腕及び肩の筋肉としては、上腕二頭筋長頭、上腕二頭筋短頭、上腕三頭筋長頭、上腕三頭筋外側頭、上腕三頭筋内側頭、肘筋、円回内筋、回外筋、及び/または上腕筋が挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
いくつかの実施形態では、腹側及び背側前腕筋としては、腕橈骨筋、橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、長掌筋、尺側手根伸筋、長橈側手根伸筋、短橈側手根伸筋、指伸筋、小指伸筋が挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
いくつかの実施形態では、手の筋肉としては、母指球筋、短母指外転筋、短母指屈筋、母指対立筋、小指球筋、小指外転筋、短小指屈筋、小指対立筋、掌側骨間筋、背側骨間筋、及び/または虫様筋などの手の内筋が挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
いくつかの実施形態では、脊柱起立筋としては、頸部筋肉、棘筋、最長筋、及び/または腸肋筋が挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
いくつかの実施形態では、骨盤帯及び脚部の筋肉としては、大腰筋、腸骨筋、大腿方形筋、長内転筋、短内転筋、大内転筋、薄筋、縫工筋、大腿直筋、外側広筋、内側広筋、中間広筋などの大腿四頭筋、腓腹筋、長腓側(腓骨)筋、ヒラメ筋、大臀筋、中臀筋、小臀筋、膝屈曲筋:大腿二頭筋長頭、膝屈曲筋:大腿二頭筋短頭、膝屈折筋:半腱様筋、膝屈曲筋:半膜様筋、大腿筋膜張筋、恥骨筋、及び/または前脛骨筋が挙げられるが、これらに限定されない。
【0097】
いくつかの実施形態では、前脚及び足の筋肉としては、長指伸筋、長母指伸筋、短腓骨筋、足底筋、後脛骨筋、長母指屈筋、短指伸筋、短母指伸筋、母指外転筋、短母指屈筋、小指外転筋、短小指屈筋、小指対立筋、短指伸筋、足の虫様筋、足底方形筋もしくは副趾屈筋、短指屈筋、背側骨間筋、及び/または底側骨間筋が挙げられるが、これらに限定されない。
【0098】
例示的な筋肉標的を表1にまとめる。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0099】
筋ジストロフィー
筋ジストロフィーは、虚弱かつ障害性の運動に至る筋肉の変性を引き起こす一群の遺伝性疾患である。すべての筋ジストロフィーの主要な特徴は、これらが本質的に進行性であることである。筋ジストロフィーとしては、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、エメリー-ドレーフス型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、ならびに筋強直性ジストロフィー1型の先天的な型を含む筋強直性ジストロフィー1型及び2型が挙げられるが、これらに限定されない。一部の筋肉またはすべての筋肉が罹患している筋ジストロフィーのタイプによって、症状は異なり得る。筋ジストロフィーの例示的な症状としては、筋肉運動技能の発達の遅延、1つ以上の筋群の使用の難しさ、嚥下、発語もしくは飲食の難しさ、よだれ落ち、眼瞼下垂、頻繁な転倒、筋もしくは筋群の成人としての強度の低下、筋サイズの低下、身体の虚弱もしくは変更された生体力学に起因する歩行障害、及び/または認知機能障害もしくは行動障害/精神遅滞が挙げられる。
【0100】
筋ジストロフィーのための既知の治療法はないが、対症療法及び疾患修飾治療法の両方を含むいくつかの支持療法が使用されている。コルチコステロイド、ACE阻害剤、アンギオテンシン受容体拮抗剤、理学療法、装着装具、車椅子、またはADLならびに肺機能のための他の補助的医療装置が、筋ジストロフィーにおいて通常使用される。筋強直性ジストロフィーでは、心不整脈からの突然死を予防するために、心臓ペースメーカーが使用される。筋強直症(弛緩不能)の症状を改善する抗筋強直剤はメキシレチンを含み、場合によってはフェニトイン、プロカインアミド及びキニーネを含む。
【0101】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は筋ジストロフィーのX連鎖劣性遺伝型であり、結果として筋肉変性及び最終的に死をもたらす。DMDは、近位筋力の低下、異常歩行、腓腹(下腿)筋の肥大、及びクレアチンキナーゼの上昇によって特徴付けられる。多くのDMD患者は5歳頃に診断され、この時点で症状/徴候が通常はより明白になる。罹患した個体は通常、10~13歳頃に歩行できなくなり、呼吸器合併症及び心筋症のために、20代の半ばから後半にまたはその前に死亡する。
【0102】
DMDに罹患した個人では、血清クレアチンキナーゼ濃度は、非罹患の個人と比較して10倍超増加し得る。いくつかの実施形態では、提供される組成物を罹患した個人に投与することは、治療前のベースラインレベルと比較して、減少した血清クレアチンキナーゼ濃度をもたらす。通常ベースラインレベルは、治療の直前に測定される。いくつかの実施形態では、提供される組成物を投与することは、治療直前のベースライン血清クレアチンキナーゼ濃度と比較して、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%減少した血清クレアチンキナーゼ濃度をもたらす。いくつかの実施形態では、提供される組成物を投与することは、約3500IU/L未満、3000IU/L、2500IU/L、2000IU/L、1500IU/L、1000IU/L、750IU/L、500IU/L、250IU/L、100IU/L、90IU/L、80IU/L、70IU/Lまたは60IU/Lまで減少した血清クレアチンキナーゼ濃度をもたらす。いくつかの実施形態では、提供される組成物を投与することは、治療されない対象の血清クレアチンキナーゼ濃度と比較して、減少した血清クレアチンキナーゼ濃度をもたらす。
【0103】
疾患DMDは、細胞膜のジストログリカン複合体(DGC)に構造的安定性を提供する筋組織内の重要な構造成分であるタンパク質ジストロフィンをコードする、ヒトX染色体上に位置するジストロフィン遺伝子における、突然変異によって引き起こされる。ジストロフィンは、内部細胞質のアクチンフィラメントネットワーク及び細胞外マトリックスを連結し、筋線維に物理的な強度を提供する。したがって、ジストロフィンの変質または不在は、異常な筋線維膜の引裂き及び筋線維の壊死をもたらす。男女共に突然変異を保有し得るが、女性が、疾患の重度の徴候を示すことは稀である。
【0104】
DMDの主な症状は通常は、随意筋が最初に冒されることを伴い、特に股、骨盤領域、大腿、肩の筋肉及び下腿筋を冒す、筋消耗に関連する筋力低下である。筋力低下は、腕、頸部及び他の領域でも生じる。下腿は多くの場合腫大する。徴候及び症状は、通常6歳前に現れ、乳児期という早期に現れる場合もある。心筋症は、通常18歳の後、DMDの個人に生じる。他の身体的症状としては、自分自身で歩行するための能力の遅延、歩行、足踏み、または走ることの進行性の困難、ならびに歩行する能力の最終的な喪失(通常、12歳まで)、頻繁な転倒、疲労感、運動機能(走ること、ホッピング、ジャンプ)の困難、臀部屈筋の短縮に至る腰椎前弯の増加、アキレス腱及び膝屈曲筋の機能障害、結合組織の線維症、筋線維変形、脂肪及び結合組織による筋線維の置換えによって引き起こされる舌筋及び下腿筋の偽肥大(腫大)、神経行動障害(例えば、ADHD)、学習障害(失読症)、ならびに特定の認知機能(特に、短期言語性記憶)における非進行性の低下のより高いリスク、骨格変形(場合によっては脊柱側弯症を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
DMDに見られる筋肉の変化は、結合組織の増加、すなわち線維症の発現を伴い、ならびに機械的、体液性及び/または細胞性因子を含有する反応または修復工程からもたらされる。機能的なジストロフィンの欠乏は筋線維膜の不安定性をもたらし、その結果、細胞は機械的剪断力に対する耐性がより少なくなり、組織破壊をもたらす電解質を過剰流入する傾向がある。DMDの筋組織が損傷を受けると、回復は増殖する衛星細胞の能力により制限される。これにより、壊死、炎症、線維症及び脂肪細胞置換となる。結合組織の増加は、疾患過程の早期に、各筋細胞を鞘で覆い筋繊維鞘(すなわち筋内膜)のを覆う疎性結合組織が観察可能な筋肉損傷の前に増加するために生じる。膠原性結合組織の増加は、罹患した筋細胞への栄養分の供給に悪影響を及ぼし、歩行運動の筋力及びその損失の年齢に二次的に影響を及ぼす、DMDの筋肉病理の要因である。
【0106】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片のin vivo投与は、筋組織の線維症を減少させる。いくつかの実施形態では、筋肉は骨格筋である。特定の実施形態において、筋肉は、心筋、横隔膜筋、腓腹筋及び/または前脛骨(TA)筋である。いくつかの実施形態では、減少した線維症は減少したコラーゲン染色により示される。いくつかの実施形態において、前記コラーゲンはI型コラーゲンである。いくつかの実施形態では、減少した線維症は、例えば抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片を投与したマウスの筋肉のコラーゲン陽性領域%を測定することによって判定できる。例えば、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片を投与したマウスの横隔膜筋のコラーゲン陽性領域%は、全組織領域の少なくとも約3.0%、約3.5%、約4.0%、約4.5%、約5.0%、約5.5%、約6.0%、約6.5%、約7.0%、約7.5%、約8.0%、約8.5%または約9.0%であり得る。特定の実施形態において、抗Flt-1抗体を投与したマウスの横隔膜筋のコラーゲン陽性領域%は、アイソタイプ対照抗体を投与したマウスの横隔膜筋のコラーゲン陽性領域%より著しく低いことがあり得る。
【0107】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片のin vivo投与は、筋組織の壊死を減少させる。いくつかの実施形態では、筋肉は骨格筋である。特定の実施形態において、筋肉は、心筋、横隔膜筋、腓腹筋及び/または前脛骨(TA)筋である。いくつかの実施形態では、減少した壊死は、例えば抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片を投与したマウスの筋肉の壊死陽性領域%を測定することによって判定できる。例えば、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片を投与したマウスの横隔膜筋の壊死陽性領域%は、全組織領域の少なくとも約0.5%、約0.45%、約0.4%、約0.35%、約0.3%、約0.25%、約0.2%、約0.15%、約0.1%、約0.05%または約0.025%であり得る。特定の実施形態において、抗Flt-1抗体を投与したマウスの腓腹筋の壊死陽性領域%は、アイソタイプ対照抗体を投与したマウスの腓腹筋の壊死陽性領域%より著しく低いことがあり得る。
【0108】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片のin vivo投与は、増加した筋力及び/または疲労に対する耐性になる。
【0109】
Flt-1受容体
血管内皮増殖因子受容体1(VEGFR-1)またはFlt-1としても既知のFlt-1受容体は、FLT1遺伝子によってコードされて、内皮細胞及び単球細胞膜で発現する受容体である。シグナルグリコプロテインの血管内皮増殖因子(VEGF)の群は、胚形成及び生後の発育中、血管新生の強力なプロモータとして作用する。具体的には、VEGF-AリガンドとVEGF受容体の結合は、血管透過性を促進して、更に内皮細胞の遊走、増殖及び生存を惹起することを示しており、新しく形成された内皮細胞は、新しい脈管構造の基本構造を提供する。血管新生のためのドミナントVEGFシグナル分子(VEGF-A)は、VEGF受容体-1(VEGFR-l、別名Flt-1)及びVEGF受容体-2(VEGFR-2、別名Flk-1)を通してその信号を仲介する。Flt-1(sFlt-1)の可溶性形態も存在するが、細胞内シグナル伝達ドメインを欠いており、したがってVEGF-Aまたはそれに結合する他のリガンドを隔離することにより制御能力で役割を果たすだけであると考えられている。細胞内シグナル伝達経路に連結されていないFlt-1結合部位を含有するsFlt-1及び他の分子は「おとり受容体」と呼ばれる。Flt-1及びFlk-1受容体は細胞外VEGF-A結合ドメイン及び細胞内チロシンキナーゼドメインを含有し、両方とも血管芽細胞及び内皮細胞系譜の発達段階及び組織再生中に、発現を示す。Flt-1は、Flk-1と比較してVEGF-A(Kd約2-10pM)について約10倍超の結合親和性を有するが、より弱いチロシンキナーゼ活性は、VEGF-AのFlt-1への結合後の血管新生シグナル伝達がVEGF-AのFlk-1への結合から生じるものに比べて比較的弱いことを示す。したがってホモ接合型Flt-1遺伝子ノックアウトマウスは、内皮細胞過剰産生及び血管組織崩壊から胎児期で死ぬ。逆に、ホモ接合型Flk-1遺伝子ノックアウトマウスは、胚形成中の卵黄嚢血島形成の不足のため、器質化血管の発現の障害が原因で死ぬ。Flt-1及びFlk-1受容体の両方は正常な発育のために必要とされている。しかし、VEGF-A濃度の選択的増大は、Flk-1受容体へのより大きな結合を可能にさせることができ、毛細血管密度を上昇させて、筋肉の再生、線維症及び炎症の減少、ならびに種々の筋組織のDMD及び他の筋ジストロフィーと関連した症状及び特徴の緩和を容易にする、血管新生促進効果を誘発できる。
【0110】
本明細書で使用する場合「Flt-1受容体」という用語は、可溶性及び膜結合性の両方のFlt-1受容体またはその機能的断片を指す。
【0111】
抗Flt-1抗体
本明細書で使用する場合「抗Flt-1抗体」という用語は、Flt-1受容体(例えば、可溶性または膜結合性Flt-1受容体)に結合する任意の抗体またはその抗原結合断片を指す。いくつかの実施形態において、高親和性でFlt-1受容体に結合する抗Flt-1抗体を作成する。理論に束縛されるものではないが、抗Flt-1抗体のFlt-1受容体への結合は、1つ以上の内在性リガンドがFlt-1に結合するのを阻害して、それによってより大量の利用可能なリガンドが、Flk-1受容体などの他のVEGF受容体と関連するのを可能にすると考えられている。増大したVEGFの有効性は、筋肉への増加した血流量を備えた血管新生を促進して機能的虚血と闘い、DMDの構造及び機能的特徴の改善をもたらす。いくつかの実施形態では、抗体のFlt-1受容体への結合は、他のVEGF受容体に結合できるVEGFの量を増加させる。
【0112】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、表2に提供する配列を含む。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
【表2-8】
【表2-9】
【表2-10】
【表2-11】
【表2-12】
【表2-13】
【表2-14】
【0113】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、配列番号19~配列番号21のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVL CDR1、配列番号22~配列番号24のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVL CDR2、配列番号25~配列番号34のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVL CDR3、配列番号1~配列番号4のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVH鎖CDR1、配列番号5~配列番号14のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVH CDR2、及び配列番号15~配列番号18のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVH CDR3からなる群から選択される、1つ以上の相補的決定領域(CDR)を含む。いくつかの実施形態では、VL CDR3は配列番号25ではない。いくつかの実施形態では、VH CDR3は配列番号15ではない。
【0114】
いくつかの実施形態において、1つ以上のCDRは、配列番号25~配列番号34のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVL CDR3、及び配列番号15~配列番号18のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVH CDR3を含む。いくつかの実施形態では、VL CDR3は配列番号25ではない。いくつかの実施形態では、VH CDR3は配列番号15ではない。
【0115】
いくつかの実施形態において、1つ以上のCDRは、配列番号19~配列番号21のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVL CDR1、配列番号22~配列番号24のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVL CDR2、及び配列番号25~配列番号34のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVL CDR3を含む。いくつかの実施形態では、VL CDR3は配列番号25ではない。
【0116】
いくつかの実施形態において、1つ以上のCDRは、配列番号1~配列番号4のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1、配列番号5~配列番号14のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVH CDR2、及び配列番号15~配列番号18のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列によって定義されるVH CDR3を含む。いくつかの実施形態では、VH CDR3は配列番号15ではない。
【0117】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、それぞれ配列番号19、配列番号22及び配列番号25のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR1、VL CDR2ならびにVL CDR3を含む、VL鎖を含む。別の実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、それぞれ配列番号20、配列番号23及び配列番号25のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR1、VL CDR2ならびにVL CDR3を含む、VL鎖を含む。更に別の実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、それぞれ配列番号21及び配列番号24のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR1ならびにVL CDR2、ならびに配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33または配列番号34のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR3を含む、VL鎖を含む。特定の実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、配列番号21のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR1、配列番号24のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR2、及び配列番号32のアミノ酸配列によって定義されるVL CDR3を含む、VL鎖を含む。いくつかの実施形態では、VL CDR3は配列番号25ではない。
【0118】
別の実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、それぞれ配列番号1、配列番号5及び配列番号15のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1、VH
CDR2ならびにVH CDR3を含む、VH鎖を含む。別の実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、それぞれ配列番号2、配列番号6及び配列番号16のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1、VH CDR2ならびにVH CDR3を含む、VH鎖を含む。別の実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、それぞれ配列番号2、配列番号10及び配列番号18のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1、VH CDR2ならびにVH CDR3を含む、VH鎖を含む。別の実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、それぞれ配列番号2及び配列番号17のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1ならびにVH CDR3、ならびに配列番号7、配列番号8、配列番号13または配列番号14のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR2を含む、VH鎖を含む。別の実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、それぞれ配列番号3及び配列番号17のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1ならびにVH CDR3、ならびに配列番号9、配列番号11または配列番号12のアミノ酸配列によって定義されるVH
CDR2を含む、VH鎖を含む。別の実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、それぞれ配列番号4、配列番号9及び配列番号17のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1、VH CDR2ならびにVH CDR3を含む、VH鎖を含む。特定の実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、配列番号3のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR1、配列番号12のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR2、及び配列番号17のアミノ酸配列によって定義されるVH CDR3を含む、VH鎖を含む。いくつかの実施形態では、VH CDR3は配列番号15ではない。
【0119】
別の実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、配列番号49~配列番号61のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖VL領域、及び/または配列番号35~配列番号48のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖VH領域を含む。特定の実施形態において、VL領域は配列番号60のアミノ酸配列を含み、及びVH領域は配列番号45のアミノ酸配列を含む。別の実施形態において、抗体は、配列番号87~配列番号89のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、重鎖定常領域を更に含む。いくつかの実施形態では、VL領域は配列番号49または配列番号50ではない。いくつかの実施形態では、VH領域は配列番号35または配列番号36ではない。
【0120】
別の実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、配列番号75~配列番号86のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、及び/または配列番号62~配列番号74のいずれか一つに少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖を含む。特定の実施形態において、軽鎖は配列番号76のアミノ酸配列を含み、及び重鎖領域は配列番号71のアミノ酸配列を含む。
【0121】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の重鎖は、アミノ酸配列
MGWSCIILFLVATATGVHSELQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSDYSASWVRQAPGKGLEWVSAISWSGDSTYYAESVKGRFTIFRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKSWATPIESLYYYGSDYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGKX(配列番号108)を含む。いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の重鎖は、アミノ酸配列
ELQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSDYSASWVRQAPGKGLEWVSAISWSGDSTYYAESVKGRFTIFRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKSWATPIESLYYYGSDYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(配列番号109)を含む。
【0122】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の軽鎖は、アミノ酸配列
MGWSCIILFLVATATGVHSSYELTQPLSVSVALRQAAKITCGGNNIGSQTAQWYQQKPGQAPVLVIYANNRRPSGIPERFSGSKSGNTATLTISRAQAGDEADYYCQVWDASTQAIVFGGGTKLTVLGQPKAAPSVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKADSSPVKAGVETTTPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECSX(配列番号110)を含む。
【0123】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、配列番号108または配列番号109の重鎖、及び配列番号110または配列番号76の軽鎖を含む。
【0124】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、約10-7M超、約0.5×10-7M超、約10-8M超、約0.5×10-8M超、約10-9M超、約0.5×10-9M超、約10-10M超、約0.5×10-10M超、約10-11M超、約0.5×10-11M超、約10-12M超、または約0.5×10-12M超の親和性でヒトFlt-1と結合する。他の実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、約10-7M超、約0.5×10-7M超、約10-8M超、約0.5×10-8M超、約10-9M超、約0.5×10-9M超、約10-10M超、約0.5×10-10M超、約10-11M超、約0.5×10-11M超、約10-12M超、または約0.5×10-12M超の親和性でマウスFlt-1と結合する。Flt-1抗体の親和性は、例えばBIACOREアッセイなどの表面プラズモン共鳴アッセイで測定することができる。
【0125】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、ヒトFlt-1との競合アッセイにおいて、約500pM未満、約400pM未満、約300pM未満、約200pM未満、約100pM未満、約50pM未満、約25pM未満、約10pM未満、約5pM未満または約1pM未満のIC50を特徴とする。いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、マウスFlt-1との競合アッセイにおいて、約500pM未満、約400pM未満、約300pM未満、約200pM未満、約100pM未満、約50pM未満、約25pM未満、約10pM未満、約5pM未満または約1pM未満のIC50を特徴とする。
【0126】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、Flt-1受容体でのVEGFの結合及び/または活動を阻害する。いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、競合アッセイにおけるVEGFのヒトFlt-1との結合の阻害に関して、約500pM未満、約400pM未満、約300pM未満、約200pM未満、約100pM未満、約50pM未満、約25pM未満、約10pM未満、約5pM未満または約1pM未満のIC50を特徴とする。
【0127】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、可溶性Flt-1に対するVEGFの結合と競合する及び/またはそれを阻害する。他の実施形態において、前記競合及び/または阻害は、用量依存的である。特定の実施形態において、Flt-1に対するVEGFの結合の阻害は、VEGF R2の増大したリン酸化をもたらす。理論に束縛されるものではないが、Flt-1に対する抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の結合は、Flt-1に対するVEGFの結合を阻害する。結合しなかったVEGFは、VEGF R2に結合し、これはVEGF R2のリン酸化を測定することによって示され得る。特定の実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、用量依存的にVEGF R2のリン酸化を救済する。例えばVEGF R2のリン酸化は、少なくとも約100%、約95%、約90%、約85%、約80%、約75%、約70%、約65%、約60%、約55%、約50%、約45%、約40%、約35%、約30%、約25%、約20%、約15%、約10%または約5%救済され得る。
【0128】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、バイオアッセイにおいて、約95%超、約90%超、約85%超、約80%超、約75%超、約70%超、約65%超、約60%超、約55%超、約50%超、約45%超、約40%超、約35%超、約30%超、約25%超、約20%超、約15%超または約10%超の救済を提供する。特定の実施形態において、前記バイオアッセイは、sFlt-1及び抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の存在下で、VEGFによって刺激されるヒト主要静脈内皮細胞(HUVEC)を含む。細胞のVEGF誘発性活性化は、VEGF R2受容体のリン酸化状態を判定することによって試験できる。データは、sFlt-1のみの存在下で(例えば、抗Flt-1抗体なしで)、VEGF R2受容体のリン酸化に対して、VEGF R2受容体のリン酸化の救済%として表され得る。
【0129】
いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、約200時間超、約150時間超、約100時間超、約95時間超、約90時間超、約85時間超、約80時間超、約75時間超、約70時間超、約65時間超、約60時間超、約55時間超、約50時間超または約45時間超、及びその範囲の半減期を有する。いくつかの実施形態では、半減期はマウスで測定される。
【0130】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、約400ug/mL超、375ug/mL超、約350ug/mL超、約325ug/mL超、約300ug/mL超、約275ug/mL超、約250ug/mL超、約225ug/mL超、約200ug/mL超、約175ug/mL超、約150ug/mL超、約125ug/mL超、約100ug/mL超、約75ug/mL超または約50ug/mL超、及びその範囲の最大血清中濃度を有する。いくつかの実施形態において、最大血清中濃度はマウスで測定される。
【0131】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は選択的にFlt-1に結合して、他のVEGF受容体には最小の結合を有する、またはその結合は強くはない。いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は選択的にFlt-1に結合して、VEGF R2(Flk-1)及び/またはVEGF R3(Flt-4)には最小の結合を有する、またはその結合は強くはない。
【0132】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、ヒトFlt-1に結合するとき、約1×10-3M-1秒-1超、約1×10-4M-1秒-1超、約1×10-5M-1秒-1超、約1×10-6M-1秒-1超、または約1×10-7M-1秒-1超のkaを有する。
【0133】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、ヒトFlt-1に結合するとき、約1×10-3秒-1超、約1×10-4秒-1超、約1×10-5秒-1超、または約1×10-6秒-1超のkdを有する。
【0134】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、ヒトFlt-1に結合するとき、約1×10-8M超、約1×10-9M超、約1×10-10M超、約1×10-11M超、または約1×10-12M超のKDを有する。
【0135】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、可溶性Flt-1に結合する。特定の実施形態において、前記結合は投与量に依存しており、抗体またはその抗原結合断片の濃度が高ければ、より大量の可溶性Flt-1に結合する。
【0136】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、約99%超、約98%超、約97%超、約96%超、約95%超、約94%超、約93%超、約92%超、約91%超、約90%超または約80%超のヒト識別%を有する。
【0137】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、約99%超、約98%超、約97%超、約96%超、約95%超、約94%超、約93%超、約92%超、約91%超、約90%超または約80%超のヒト相同性%を有する。
【0138】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、Flt-1タンパク質に結合する。いくつかの実施形態では、Flt-1タンパク質は組換えタンパク質、例えば組換えsFlt-1である。特定の実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、ヒトFlt-1アイソフォーム1(NP_002010.2 GI:156104876、配列番号90)に結合する(表13)。別の実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、ヒトFlt-1アイソフォームX1(XP_01153316.1 GI:767977511、配列番号91)に結合する。別の実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、ヒトFlt-1アイソフォーム2前駆体(NP_001153392.1 GI:229892220、配列番号92)に結合する。更に別の実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、ヒトFlt-1アイソフォーム3前駆体(NP_001153502.1 GI:229892300、配列番号93)に結合する。別の実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、ヒトFlt-1アイソフォーム4前駆体(NP_001153503.1 GI:229892302、配列番号94)に結合する。
【0139】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、Flt-1タンパク質の特定のエピトープに結合する。例えば抗Flt-1抗体またはその抗原結合部分は、表3に示すようにアミノ酸配列に結合する。
【表3】
【0140】
いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片のin vivo投与は、少なくとも約700ug/mL、少なくとも約650ug/mL、少なくとも約600ug/mL、少なくとも約550ug/mL、少なくとも約500ug/mL、少なくとも約450ug/mL、少なくとも約400ug/mL、少なくとも約350ug/mL、少なくとも約300ug/mL、少なくとも約250ug/mL、少なくとも約200ug/mL、少なくとも約150ug/mL、少なくとも約100ug、少なくとも約50ug/mL、少なくとも約40ug/mL、少なくとも約30ug/mL、少なくとも約20ug/mL、少なくとも約10ug/mLまたは少なくとも約5ug/mL、及びその範囲の最高血清中抗体濃度になる。いくつかの実施形態では、最高血清中抗体濃度は投与量に依存している。
【0141】
いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片のin vivo投与は、少なくとも約450ug/mL、少なくとも約400ug/mL、少なくとも約350ug/mL、少なくとも約300ug/mL、少なくとも約250ug/mL、少なくとも約200ug/mL、少なくとも約150ug/mL、少なくとも約100ug、少なくとも約50ug/mLまたは少なくとも約25ug/mL、及びその範囲の最低血清中抗体濃度になる。いくつかの実施形態では、最低血清中抗体濃度は投与量に依存している。
【0142】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片のin vivo投与は、ベースライン濃度と比較して、または溶媒のみを投与した対象の濃度と比較して、可溶性Flt-1の減少した血清中濃度になる。通常ベースライン濃度は、投与の直前に測定される。いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の投与は、投与直前の可溶性Flt-1のベースライン血清中濃度と比較して、少なくとも約95%、約90%、約80%、約70%、約60%、約50%、約40%、約30%、約20%または約10%の可溶性Flt-1の減少した血清中濃度になる。いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の投与は、約4000pg/mL未満、約3500pg/mL、約3000pg/mL、約2500pg/mL、約2000pg/mL、約1750pg/mL、約1500pg/mL、約1250pg/mL、約1000pg/mL、約900pg/mL、約800pg/mL、約700pg/mL、約600pg/mL、約500pg/mL、約450pg/mL、約400pg/mL、約350pg/mL、約300pg/mL、約250pg/mL、約200pg/mL、約150pg/mL、約100pg/mL、約50pg/mLまたは約10pg/mL、及びその範囲の可溶性Flt-1の減少した血清中濃度になる。いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の投与は、抗体またはその抗原結合断片を投与されない対象の可溶性Flt-1の血清中濃度と比較して、可溶性Flt-1の減少した血清中濃度になる。いくつかの実施形態では、可溶性Flt-1の減少した血清中濃度は、投与量に依存している。
【0143】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片のin vivo投与は、ベースライン濃度と比較して、または溶媒のみを投与した対象の濃度と比較して、VEGFの増加した血清中濃度になる。通常ベースライン濃度は、治療の直前に測定される。いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の投与は、投与直前のVEGFのベースライン血清中濃度と比較して、少なくとも約95%、約90%、約80%、約70%、約60%、約50%、約40%、約30%、約20%または約10%のVEGFの増加した血清中濃度になる。いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の投与は、約500pg/mL超、約450pg/mL、約400pg/mL、約350pg/mL、約300pg/mL、約250pg/mL、約200pg/mL、約150pg/mL、約100pg/mL、約50pg/mLまたは約25pg/mL、及びその範囲のVEGFの増加した血清中濃度になる。いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の投与は、治療していない対象のVEGFの血清中濃度と比較して、VEGFの増加した血清中濃度になる。いくつかの実施形態では、VEGFの増加した血清中濃度は、投与量に依存している。
【0144】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片のin vivo投与は、筋組織の増加した血管新生になる。いくつかの実施形態では、筋肉は骨格筋である。特定の実施形態において、筋肉は、横隔膜筋、腓腹筋及び/または前脛骨(TA)筋である。いくつかの実施形態では、増加した血管新生は、内皮細胞マーカー、例えばCD31の増大したCD31染色によって示される。いくつかの実施形態では、増大した染色は、例えば抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片を投与したマウスの筋肉のCD31陽性領域%を測定することによって判定できる。例えば、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片を投与したマウスの横隔膜筋のCD31陽性領域%は、全組織領域の少なくとも約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1.0%、約1.1%、約1.2%、約1.3%、約1.4%、約1.5%、約1.6%、約1.7%、約1.8%、約1.9%、約2.0%、約2.1%、約2.2%、約2.3%、約2.4%または約2.5%であり得る。更なる例において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片を投与したマウスのTA筋のCD31陽性領域%は、全組織領域の少なくとも約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%または約1.0%であり得る。特定の実施形態において、抗Flt-1抗体を投与したマウスの横隔膜筋またはTA筋のCD31陽性領域%は、アイソタイプ対照抗体を投与したマウスの横隔膜筋またはTA筋のCD31陽性領域%より著しく高いことがあり得る。
【0145】
いくつかの実施形態では、内皮細胞マーカーの増大した染色は、例えば抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片を投与したマウスの筋肉の正規化CD31陽性%を測定することによって測定できる。特定の実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片を投与したマウスの筋肉の増加したCD31染色は、アイソタイプ対照抗体を投与したマウスの筋肉で測定したCD31染色と比較したものである。例えば、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片を投与したマウスの横隔膜筋の正規化CD31陽性%は、少なくとも約200%、約190%、約180%、約170%、約160%、約150%、約140%、約130%、約120%または約110%であり得る。更なる実施例において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片を投与したマウスのTA筋の正規化CD31陽性%は、少なくとも約300%、約290%、約280%、約270%、約260%、約250%、約240%、約230%、約220%、約210%、約200%、約190%、約180%、約170%、約160%、約150%、約140%、約130%、約120%または約110%、及びその範囲であり得る。
【0146】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、選択的にヒトFlt-1に結合して、他の哺乳動物のFlt-1受容体には最小の結合を有する、またはその結合は強くはない(例えば、10-7Mまたは10-6M未満の結合親和性で)。いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は選択的にヒトFlt-1に結合して、サルFlt-1に結合しない。いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は選択的にヒトFlt-1に結合して、マウスFlt-1に結合しない。
【0147】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、ヒトFlt-1及びサルFlt-1に結合する。いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、カニクイザルFlt-1に結合する。いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、ヒトFlt-1及びマウスFlt-1に結合する。
【0148】
いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、IgG、F(ab’)2、F(ab)2、Fab’、Fab、ScFv、二重特異性抗体、三重特異性抗体及び四重特異性抗体からなる群から選択される。
【0149】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、IgGである。いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、IgG1である。
【0150】
遺伝子操作した定常領域
いくつかの実施形態では、好適な抗Flt-1抗体は、FcRn受容体に結合するFcドメインまたはその一部分を含有する。非限定的な例として、好適なFcドメインは、IgGなどの免疫グロブリンサブクラス由来であり得る。いくつかの実施形態では、好適なFcドメインは、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4由来である。特に好適なFcドメインは、ヒトまたはヒト化抗体由来のものを含む。
【0151】
FcドメインとFcRn受容体の間の改善された結合は、長期の血清半減期をもたらすことが企図される。したがって、いくつかの実施形態では、好適なFcドメイン(配列番号104)は、FcRnへの結合の改善に導く1つ以上のアミノ酸突然変異を含む。FcRnへの結合の改善をもたらすFcドメイン内の種々の突然変異は当該技術分野において周知であり、本発明の実施に適応することができる。いくつかの実施形態において、好適なFcドメインは、ヒトIgG1のLeu234、Ler235、Gly237、Thr250、Met252、Ser254、Thr256、Thr307、Glu380、Met428、His433及び/またはAsn434に対応する1つ以上の位置において1つ以上の突然変異を含む。
【0152】
Fcドメインのいくつかの突然変異は、IgGとFcRn受容体の結合の減少をもたらして、それによってエフェクター機能を阻害する。いくつかの実施形態において、好適なFcドメイン(配列番号104)は、ヒトIgG1のLeu234、Ler235及びGly237に対応する1つ以上の位置において1つ以上の突然変異を含む。特定の実施形態において、Leu234はAlaに変異する。別の実施形態では、Leu235はAlaに変異する。更に別の実施形態では、Gly237はAlaに変異する。
【0153】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片はスペーサーを含有する、及び/または別の実体に連結する。いくつかの実施形態において、リンカーまたはスペーサーは
【化1】
(配列番号105)(GAGリンカー)に少なくとも50%(例えば、少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%)同一の配列を含む。いくつかの実施形態において、リンカーまたはスペーサーは
【化2】
(配列番号106)(GAG2リンカー)に少なくとも50%(例えば、少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%)同一の配列を含む。いくつかの実施形態において、リンカーまたはスペーサーは
【化3】
(配列番号107)(GAG3リンカー)に少なくとも50%(例えば、少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%)同一の配列を含む。
【0154】
抗Flt-1抗体及び抗原結合断片の作成
本発明の好適な組換え抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、任意の利用可能な方法によって産生されることができる。例えば組換え抗Flt-1抗体または抗原結合断片は、組換え抗Flt-1抗体または抗原結合断片をコードする核酸を発現するよう操作された宿主細胞系を利用することによって組換え的に産生され得る。
【0155】
したがって本発明は、本明細書に記載の種々のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列を更に提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書に記載の抗Flt-1抗体重鎖または軽鎖アミノ酸配列、例えば配列番号62~86または配列番号108~110のいずれか一つをコードするポリヌクレオチド配列を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書に記載の抗Flt-1抗体重鎖または軽鎖アミノ酸配列、例えば配列番号35~61のいずれか一つの可変領域をコードするポリヌクレオチド配列を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書に記載の抗Flt-1抗体重鎖または軽鎖アミノ酸配列、例えば配列番号1~34のいずれか一つのCDR領域をコードするポリヌクレオチド配列を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書に記載の抗Flt-1抗体定常領域アミノ酸配列、例えば配列番号87~89のいずれか一つをコードするポリヌクレオチド配列を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書に記載の抗Flt-1抗体Fc領域アミノ酸配列、例えば配列番号104をコードするポリヌクレオチド配列を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書に記載の抗Flt-1抗体リンカーアミノ酸配列、例えば配列番号105~107をコードするポリヌクレオチド配列を提供する。
【0156】
いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体重鎖、軽鎖、可変領域、CDR領域、Fc領域またはリンカー領域アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列は、シグナルペプチドをコードする配列を更に含む。非限定的な例として、好適なシグナルペプチドは、アミノ酸配列MGWSCIILFLVATATGVHS(配列番号:111)を含む。
【0157】
本明細書に記載の種々のポリヌクレオチド配列は、組換え抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の発現において種々のベクター系で具現化され得る。
【0158】
抗体が組換え的に産生される場合、任意の発現系を使用することができる。少しではあるが例を挙げれば、既知の発現系は、例えば卵子、バキュロウイルス、植物、酵母または哺乳動物細胞を含む。
【0159】
いくつかの実施形態では、本発明に好適な組換え抗Flt-1抗体または抗原結合断片は、哺乳動物細胞中で産生される。本発明に従って使用できる哺乳動物細胞の非限定例は、BALB/cマウス骨髄腫株(NSO/l、ECACC番号:85110503)、ヒト網膜芽細胞(PER.C6、CruCell、Leiden、The Netherlands)、及びSV40により形質転換されたサル腎臓CV1系(COS-7、ATCC CRL 1651)を含む。
【0160】
いくつかの実施形態では、本発明は、ヒト細胞から産生される組換え抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、CHO細胞から産生される組換え抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0161】
本発明の抗体を含有する医薬品組成物
本発明は、本発明に従った治療的活性成分(例えば、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片)と共に1つ以上の薬学的に許容される担体または賦形剤を含む、医薬組成物を更に提供する。このような医薬組成物は所望により、1つ以上の追加の治療的活性物質を含むことができる。
【0162】
本明細書にて提供される医薬組成物の説明は、ヒトへの倫理的投与に好適な医薬組成物を主に目的としているが、このような組成物が一般的に、あらゆる種類の動物への投与に適していることは当業者なら理解するであろう。組成物を種々の動物への投与に好適にするため、ヒトへの投与に好適な医薬組成物の改変は十分に理解されており、通常の知識を有する獣医薬理学者はもし必要ならば、このような改変を単に通常の実験で設計及び/または実施することができる。
【0163】
本明細書に記載の医薬組成物の製剤は、薬理学の当該技術分野において周知または以後開発された任意の方法により調製され得る。広くはこのような調製法は、希釈剤または別の賦形剤もしくは担体及び/または1つ以上の他の補助成分と、活性成分を調和させるステップ、次いで必要に応じて及び/または望ましくは、生成物を所望の単回投与単位または多回投与単位に成形及び/または包装するステップを含む。
【0164】
本発明に従う医薬組成物は、バルク状態で、単回単位用量及び/または複数の単回単位用量として調製、包装及び/または販売され得る。本明細書で使用する場合「単位用量」は、所定量の活性成分を含む医薬組成物の個々の量である。活性成分の量は一般的には、対象に投与されるであろう活性成分の用量、及び/またはこのような用量の都合の良い分量、例えばこのような用量の1/2もしくは1/3に等しい。
【0165】
本発明による医薬組成物における活性成分、薬学的に許容される賦形剤または担体及び/または任意の追加成分の相対量は、処置される対象の同一性、大きさ及び/または病態に応じて、ならびに組成物が投与される経路に応じて変動する。例として前記組成物は、0.1%と100%(w/w)の間で活性成分を含み得る。
【0166】
医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤または担体を追加的に含むことができ、それは本明細書で使用する場合、所望の特定の投与剤形に適するように、あらゆる溶媒、分散媒、希釈剤または他の液体溶媒、分散または懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤または乳化剤、保存剤、固体結合剤、滑沢剤などを含む。Remington’s The Science and Practice of Pharmacy,21st Edition,A.R.Gennaro,(Lippincott,Williams&Wilkins,Baltimore,MD, 2006、参照により本明細書に組み込まれる)に、医薬組成物を配合するのに使用される種々の賦形剤及びそれを調製するための周知の技術が開示されている。例えば任意の望ましくない生物学的効果を生じることにより、またはそれ以外に有害な方法で医薬組成物の任意の他の成分(複数可)と相互作用することにより、任意の従来の賦形剤媒体または担体が、物質またはその誘導体と不適合である場合を除いて、その使用は本発明の範囲内にあることが企図される。
【0167】
いくつかの実施形態において、薬学的に許容される賦形剤または担体は、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%純粋である。いくつかの実施形態において、賦形剤または担体は、ヒトに対して使用するために、及び獣医学使用のために承認される。いくつかの実施形態において、賦形剤または担体は、米国食品医薬品局に承認される。いくつかの実施形態において、賦形剤及び担体は医薬品グレードである。いくつかの実施形態において、賦形剤または担体は、米国薬局方(USP)、欧州薬局方(EP)、英国薬局方及び/または国際薬局方の基準を満たす。
【0168】
医薬品組成物の製造に使用する薬学的に許容される賦形剤または担体は、不活性希釈剤、分散剤及び/または造粒剤、界面活性剤及び/または乳化剤、崩壊剤、結合剤、防腐剤、緩衝剤、滑沢剤及び/または油を含むが、これらに限定されない。このような賦形剤または担体は所望により、医薬組成物に含まれることができる。賦形剤または担体(例えばカカオバター及び座剤用ワックス、着色剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤及び/または香料)は、配合者の判断に従って組成物中に存在できる。
【0169】
好適な薬学的に許容される賦形剤または担体には、水、塩溶液(例えばNaCl)、生理食塩水、緩衝化生理食塩水、アルコール、グリセロール、エタノール、アラビアゴム、植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、炭水化物(例えばラクトース、アミロースまたはデンプン)、糖類(例えばマンニトール、スクロースなど)、デキストロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、芳香油、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなど、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。医薬品は所望する場合、活性化合物と有害に反応しない、またはその活性を妨げない補助剤(例えば、滑沢剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響する塩、緩衝剤、着色剤、香味剤及び/または芳香物質など)と混合することができる。好ましい実施形態において、静脈内投与に好適な水溶性担体が使用される。
【0170】
好適な医薬組成物または薬剤は所望する場合、少量の湿潤剤または乳化剤またはpH緩衝剤も含有できる。組成物は、溶液、懸濁液、エマルション、錠剤、丸剤、カプセル、徐放性製剤、または粉剤であり得る。組成物は、トリグリセリドなどの従来の結合剤または担体と共に座剤として調製することもできる。経口製剤は、例えば医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準担体を含むことができる。
【0171】
医薬組成物または薬剤は、ヒトに投与するのに適合した医薬組成物として常法に従って製剤化することができる。例えばいくつかの実施形態において、静脈内投与用の組成物は通常、無菌の等張性緩衝剤の水溶液である。必要に応じて組成物は更に、可溶化剤及び局所麻酔剤を含んで注射の部位で痛みを緩和し得る。一般的に成分は、別途に供給される、または例えば活性剤の量を示すアンプルもしくはサシェなどの気密封止した容器にて凍結乾燥粉末もしくは水を含まない濃縮物として、単位投与形態で一緒に混合される。組成物が注入により投与される場合、無菌の医薬品グレードの水、生理食塩水またはデキストロース/水を含有する輸液瓶でそれを調剤することができる。組成物が注射で投与される場合、投与する前に成分が混合され得るように無菌の注射用水または生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0172】
医薬品の配合及び/または製造の一般的事項は、例えばRemington:The Science and Practice of Pharmacy 21st ed.,Lippincott Williams&Wilkins,2005に見出すことができる(参照により本明細書に組み込まれる)。
【0173】
投与経路
本明細書に記載の抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片(または本明細書に記載の抗Flt-1抗体もしくはその抗原結合断片を含有する組成物もしくは薬剤)は、任意の適切な経路によって投与される。いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体もしくは抗原結合断片タンパク質、またはこれを含有する医薬組成物は、非経口的に投与される。非経口投与は、静脈内投与、皮内投与、髄腔内投与、吸入投与、経皮(局所)投与、眼球内投与、筋肉内投与、皮下投与、筋肉内投与及び/または経粘膜投与であり得る。いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体もしくはその抗原結合断片、またはこれを含有する医薬組成物は、皮下に投与される。本明細書で使用する場合「皮下組織」という用語は、皮膚のすぐ下の疎性の不規則な結合組織の層として定義される。例えば皮下投与は、大腿部、腹部、臀部または肩甲骨部を含む領域内に組成物を注射することによって実施することができるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体もしくはその抗原結合断片、またはこれを含有する医薬組成物は、静脈内に投与される。いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体もしくはその抗原結合断片、またはこれを含有する医薬組成物は、経口投与される。所望する場合、2つ以上の経路を同時に使用することができる。
【0174】
いくつかの実施形態では、投与は個体に局所的効果のみをもたらすが、他の実施形態では、個体の複数の部分にわたる効果、例えば全身的効果をもたらす。通常投与は、心筋、横紋筋及び平滑筋を含む腎臓、肝臓、脳、脊髄、腸管、目、肺、脾臓、心臓を含む1つ以上の標的組織に、抗Flt-1抗体または抗原結合断片の送達をもたらすが、これらに限定されない。
【0175】
いくつかの実施形態では、横紋筋は、三頭筋、前脛骨、ヒラメ筋、腓腹筋、四頭筋及び横隔膜からなる群から選択される。
【0176】
いくつかの実施形態において、平滑筋は、血管、細気管支、膀胱及び直腸などの胃腸管の内側を覆っている筋肉である。
【0177】
投与形態及び投与レジメン
いくつかの実施形態では、組成物は、特定の所望の転帰に(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーなどの筋ジストロフィーを治療するまたはそのリスクを減少させることに)関連付けられている、治療に有効な量で及び/または投与レジメンに従って投与される。
【0178】
本発明に従って投与される特定の投与量または量は、例えば所望の転帰の性質及び/または程度に、投与の経路及び/またはタイミングの詳細に、及び/または1つ以上の特性(例えば体重、年齢、既往歴、遺伝的特徴、生活習慣パラメータ、心臓欠陥の重症度及び/または心臓欠陥のリスクのレベルなど、またはこれらの組み合わせ)に依存して変化し得る。このような投与量または量は、当業者によって決定されることができる。いくつかの実施形態では、適切な投与量または量は標準臨床技術に従って決定される。代替的にまたは追加的に、いくつかの実施形態では、適切な投与量または量は、投与される望ましいまたは最適な投与量範囲または量を特定する助けとなるために、1つ以上のin vitroまたはin vivoアッセイの使用により決定される。
【0179】
様々な実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、治療に有効な量で投与される。一般的に治療に有効な量は、対象にとって意味のある効果(例えば、根底にある疾患または病態を治療すること、調節すること、治癒すること、予防すること及び/または緩和すること)を達成するのに十分である。いくつかの特定の実施形態では、投与される適切な投与量または量は、in vitroまたは動物モデル試験系由来の用量反応曲線から推定され得る。
【0180】
いくつかの実施形態では、提供される組成物は、医薬製剤として提供される。いくつかの実施形態では、医薬製剤は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーなどの筋ジストロフィーの発生率またはリスクの低下の達成に相関性がある投与レジメンに従う投与のための単位用量の量である、またはその量を含む。
【0181】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗Flt-1抗体または抗原結合断片を含む製剤は、単回投与量として投与される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗Flt-1抗体または抗原結合断片を含む製剤は、規則的な間隔で投与される。本明細書で使用する場合「間隔」での投与は、治療に有効な量が定期的に(1回投与量とは区別されて)投与されることを示す。間隔は、標準臨床技術によって決定され得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗Flt-1抗体または抗原結合断片を含む製剤は、隔月、毎月、月2回、3週間毎、隔週、毎週、週2回、週3回、毎日、1日2回、または6時間毎に投与される。1つの個体に対する投与間隔は、一定の間隔である必要はないが、個体の必要性に応じて時間経過とともに変更することができる。特定の実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は週2回投与される。
【0182】
本明細書で使用する場合「隔月」という用語は2か月につき1回(すなわち2か月毎に1回)の投与を意味し、用語「毎月」は1か月につき1回の投与を意味し、用語「3週間毎」は3週間につき1回(すなわち3週間毎に1回)の投与を意味し、用語「隔週」は2週間につき1回(すなわち2週間毎に1回)の投与を意味し、用語「毎週」は1週間につき1回の投与を意味し、用語「毎日」は1日につき1回の投与を意味する。
【0183】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗Flt-1抗体または抗原結合断片を含む製剤は、規則的な間隔で無期限に投与される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗Flt-1抗体または抗原結合断片を含む製剤は、規則的な間隔で所定の期間、投与される。
【0184】
本明細書に記載されるように「治療に有効な量」という用語は、本発明の医薬組成物に含有される治療剤の総量に基づいて主に決定される。治療に有効な量は一般に、複数の単位用量を含む投与レジメンで投与される。特定の組成物については、治療に有効な量(及び/または有効な投与レジメンの範囲内での適切な単位用量)は、例えば投与経路、他の医薬品との組み合わせに応じて変化し得る。
【0185】
いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、約0.1mg/kg~約50mg/kgの範囲の投与量で投与される。他の実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、約0.1mg/kg~約40mg/kg、約0.1mg/kg~約30mg/kg、約0.1mg/kg~約20mg/kg、約0.1mg/kg~約10mg/kg、約0.1mg/kg~約5mg/kg、約0.1mg/kg~約3mg/kg、約0.1mg/kg~約1mg/kg、約1.0mg/kg~約40mg/kg、約1.0mg/kg~約30mg/kg、約1.0mg/kg~約20mg/kg、約1.0mg/kg~約10mg/kg、約1.0mg/kg~約5mg/kg、約1.0mg/kg~約3mg/kgの範囲の投与量で投与される。特定の実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、約1.0mg/kg、3.0mg/kg、10mg/kgまたは約20mg/kgの投与量で投与される。
【0186】
いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の投与は、少なくとも1つのDMDの徴候もしくは症状の強度、重篤度もしくは頻度を低減する、またはその発症を遅延させる。いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の投与は、筋消耗、骨格変形、心筋症、筋虚血、認知障害及び呼吸機能の障害からなる群から選択される、少なくとも1つのDMDの徴候もしくは症状の強度、重篤度もしくは頻度を低減する、またはその発症を遅延させる。
【0187】
いくつかの実施形態において、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片の投与は、6分の歩行試験、定量的筋力試験、定期運動能力試験、Brooke及びVignosの肢機能スケール、肺機能試験(努力性肺活量、1秒間努力呼気容量、最大呼気流量、最大吸気圧及び最大呼気圧)、健康関連の生活の質、膝及び肘屈筋、肘伸筋、肩の外転、握力、仰向けからの起き上がり時間、North Start Ambulatory評価、10メートル歩行/走行計測、Egen-Klassificationスケール、Gowersスコア、Hammersmith運動能力、握力筋力、可動域、角度測定、過炭酸症、乳児及び幼児の発育のNayleyスケール及び/または介護者負担スケールによって測定されるように、臨床転帰を改善する。
【0188】
併用療法
いくつかの実施形態では、抗Flt-1抗体またはその抗原結合断片は、1つ以上の追加の治療薬と組み合わせて投与される。一実施形態において、追加の治療薬はコルチコステロイド、例えばプレドニゾンである。別の実施形態では、追加の治療薬はグルココルチコイド、例えばデフラザコートである。別の実施形態では、追加の治療薬は、フォリスタチンまたはその組換えタンパク質である。別の実施形態では、追加の治療薬はRNA調節療法である。RNA調節療法は、エキソンスキッピング療法または遺伝子治療であり得る。RNA調節療法は、例えば、Drispersen、PRO044、PRO045、Eteplirsen(AVI-4658)、SRP-4053、SRP-4045、SRP-4050、SRP-4044、SRP-4052、SRP-4055またはSRP-4008であり得る。いくつかの実施形態において、追加の治療薬は現在、筋ジストロフィーの治療のために使用される。他の実施形態において、追加の治療薬は、他の疾患または障害を治療するためにも使用することができる。いくつかの実施形態では、既知の治療薬(複数可)は、その標準的なまたは承認された投与レジメン及び/またはスケジュールに従って投与される。いくつかの実施形態では、既知の治療薬(複数可)は、その標準的なまたは承認された投与レジメン及び/またはスケジュールと比較した場合、変更されているレジメンに従って投与される。いくつかの実施形態では、このような変更されたレジメンは、1つ以上の単位用量が量で変更されている(例えば、減少または増加されている)という点で、及び/または投与が頻度で変更されている点で(例えば、単位投与量間の1つ以上の間隔が広げられ、結果的により低い頻度をもたらす、または間隔が狭められ、結果的により高い頻度をもたらすという点で)、標準的なまたは承認された投与レジメンとは異なる。
【実施例】
【0189】
実施例1。高親和性抗Flt-1抗体の生成及び特性評価
抗体の生成
モノクローナル抗体は、ラマモノクローナル抗体方法を用いた可溶性Flt-1に対して作成された。簡潔に説明すると、ラマは組換えヒト可溶性Flt-1(ABCAMから購入)により免疫感作して、血清を収集した。
【0190】
抗体の特性評価
ヒト及びマウスFlt-1と結合した抗体は、1)VHファミリー、2)Flt-1に対する親和性、3)IC50、4)Biacoreアッセイによる解離速度スクリーニング、5)カニクイザルFlt-1に対する交差反応性、及び6)VEGF R2及びVEGF R3への結合について更に特性決定した。ヒトFlt-1(hFl-1)及びマウスFlt-1(mFlt-1)に対する候補抗体は、表4に示すように特性評価された。
【表4】
【0191】
抗体13B4及び10G12の薬物動態学的特性は、各抗体10mg/kgの静脈内投与によりマウスで試験した(表5)。データは抗体10G12が288時間過ぎても検出できず、その一方で抗体13B4は672時間で検出できることを示した(
図1A~
図1B)。
【表5】
【0192】
抗体のin vivo有効性
Mdxマウス(すなわち、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのマウスモデル)を、生後4週間から開始して、週2回1か月間、静脈内投与によって抗体13B4または抗体10G12のいずれか20mg/kgで処置した。対照マウスは、溶媒のみ、Flt-1と結合しないアイソタイプ対照抗体だけ、またはFlt-1として既知の市販の抗Flt-1抗体:VEGFアンタゴニスト(Angio Proteomie、カタログ番号AP-MAB0702)で処置した。最低曝露点で血清中抗体濃度を評価するために、5回目の静脈内投与の4日後に血液を収集した。最大曝露点で血清中抗体濃度を評価するために、最後の投与の24時間後に血液を収集した。抗体13B4及び10G12の最高及び最低濃度を、
図2A及び
図2Bに示す。血液中の遊離抗体13B4及び遊離抗体10G12の濃度は、最大及び最低曝露時点の両方で、アイソタイプ対照抗体及び市販の対照抗体より高かった。
【0193】
血清中遊離sFlt-1濃度及びVEGF濃度を評価するために、5回目の静脈内投与後の24時間後及び屠殺前に、血液を収集した。抗体13B4及び抗体10G12、ならびに市販の対照抗体の投与は、アイソタイプ対照抗体と比較して、sFlt-1の血清中濃度を著しく低下させた(p<0.0001)(
図3)。抗体13B4及び抗体10G12の投与は、アイソタイプ対照抗体と比較して、VEGFの血清中濃度を著しく増加させた(p<0.001)(
図4)。市販の対照抗体の投与も、アイソタイプ対照抗体と比較して、VEGFの血中濃度を著しく増加させた(p<0.05)(
図4)。
【0194】
組織病理学的検査
マウスは30日の処置期間の終了時に屠殺され、横隔膜筋及び前脛骨(TA)筋を収集して、抗Flt-1抗体が骨格筋の血管新生を誘発したか判定するために切断した。筋肉切片を内皮細胞マーカーCD31で染色した。毛細血管密度の著しい増大は、アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの横隔膜と比較して、抗体13B4、10G12または市販の対照抗体で処置したマウスの横隔膜で見られた(
図5A~
図5D)。データは、
図6A~
図6Bに示すように自動定量的イメージングソフトウェアを使用して定量化された。アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの横隔膜と比較して、市販の対照抗体(p<0.05)、抗体13B4(p<0.01)及び抗体10G12(p<0.0001)で処置したマウスの横隔膜のCD31陽性領域で著しい増大が見られた。アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの前脛骨筋と比較して、抗体10G12(p<0.01)で処置したマウスの前脛骨(TA)筋のCD31陽性領域での著しい増大も、示された。
【0195】
mdxマウスに対するFlt-1抗体(例えば10G12及び13B4)の投与が、内皮細胞増殖の著しい増加、ならびに血清中可溶性Flt-1の減少及び血清中VEGF濃度の増加になることを、この実験は示した。これらの抗体は、pM範囲のFlt-1標的における結合親和性(表4を参照)、100pM未満のFlt-1結合におけるIC50(表4を参照)、及びバイオアッセイのVEGFシグナル伝達の50%超の救済を示した。
【0196】
実施例2。高親和性抗Flt-1抗体の生成及び特性評価
追加の抗Flt-1モノクローナル抗体は、上述のとおり作製された。これらの抗体は、sFlt-1抗原に対する結合親和性(ELISA及びBiacoreによって)、sFlt-l:VEGF競合ELISAにおけるVEGFについての競合、及び細胞系アッセイでの性能を更に特性評価した。
【0197】
抗体の特性評価-標的との結合
モノクローナル抗Flt-1抗体を、ELISAアッセイにおいて組換えsFlt-1抗原との結合について分析した(
図7)。すべての抗体は、結合において投与量依存的な増加を示した。マウス及びヒトFlt-1抗原に対する抗Flt-1抗体の結合親和性は、表面プラズモン共鳴方法論(すなわち、Biacore)で測定した(表6)。抗体は、ナノモル範囲でヒトFlt-1と結合し、抗体11A11がヒトFlt-1に対して最も高い結合親和性を示した。抗体がVEGF R2またはVEGF R3と交差反応しなかった(表6)が、すべての抗体はカニクイザルFlt-1と交差反応したことも、Biacore分析は示した。
【表6】
【0198】
抗体の特性評価-競合作用/拮抗作用
抗体の効力を推定するために、抗体を、ヒトsFlt-1及びVEGFを用いた競合ELISAで分析した。試験した抗体濃度は、0.1mg/mL~10,000ng/mLの範囲であった。市販の抗Flt-1抗体を、対照として使用した。11A11を除き、すべての抗体は、sFlt-1へのVEGFの結合を阻止することができた(
図8)。
【0199】
抗体の特性評価-細胞系アッセイ
ヒト主要静脈内皮細胞(HUVEC)は、sFlt-1及びモノクローナル抗体02G07、11A11及び13B4の存在下で、VEGFによって刺激された。細胞のVEGF誘発性活性化は、VEGF R2受容体のリン酸化状態を判定することによって試験した。データは、sFlt-1のみの存在下で(例えば、抗Flt-1抗体なしで)、VEGF R2受容体のリン酸化に対して、VEGF R2受容体のリン酸化の救済%として表した。モノクローナル抗体は、可溶性Flt-1に拮抗することにより、細胞の活性化(すなわちリン酸化)を救済した。
【0200】
実施例3。軽鎖シャッフルによって生成した、高親和性抗Flt-1抗体の特性評価
実施例2に記載の抗体18B6、11A11及び13B4の軽鎖シャッフルを、候補抗体の親和性及び効力を増加させるために実施した。
【0201】
抗体の特性評価-標的との結合
得られた抗体は、Flt-1抗原に対する増大した親和性を示した。例えば抗体21C6のK
Dは、親抗体11A11より約10倍増加した。同様に抗体21B3のK
Dは、親抗体13B4より約5倍増加した(表7)。
【表7】
【0202】
抗体の特性評価-競合作用/拮抗作用
軽鎖シャッフル後、抗体の効力を推定するために、抗体を、ヒトsFlt-1及びVEGFを用いた競合ELISAで分析した。試験した抗体濃度は、0.2mg/mL~200ng/mLの範囲であった。sFlt-1に競合的に結合する親抗体13B4の能力を、軽鎖シャッフルによって生成した抗体のものと比較した。すべての抗体は、最も有効な競合者であるクローン21B3によるヒトsFlt-1へのVEGFの結合の用量依存的な阻害を示した(
図10)。
【0203】
in vivo有効性
軽鎖シャッフルした抗体の血清半減期及び薬物動態学的特性を判定するために、それぞれI
125で標識した、軽鎖シャッフルした抗体27H9及び21B3ならびに親抗体13B4の単回投与量10mg/kgをマウスに投与した。血清を0.083、0.25、0.5、1、4、8及び24時間、ならびに3、5、7、14、21及び28日目に収集して、抗体の血清中濃度を確定した。血清半減期は、親抗体と比較して、軽鎖シャッフルした抗体で減少した(
図11)。しかし軽鎖シャッフルした抗体は、親と比較して、改善した薬力学的特性を示した。例えば抗体27H9は、0.083時間で最大濃度222.4μg/mLに達したのに対して、親抗体13B4は0.5時間で最大濃度217μg/mLに達した(表8)。
【表8】
【0204】
組織病理学的検査
軽鎖がシャッフルされたか、及び親抗体が内皮細胞増殖を誘発できるか判定するために、mdxマウスを、静脈内投与によって4週間隔週で20mg/kgの抗体で処置した。マウスは処置期間の終了時に屠殺され、横隔膜筋及び前脛骨筋を収集して、抗体が骨格筋の血管新生を誘発したか判定するために切断した。筋肉切片を内皮細胞マーカーCD31で染色した。横隔膜の毛細血管密度の著しい増大は、アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの横隔膜と比較して、抗体13B4及び21B3で処置したマウスで見られた(
図12A~
図12C)。更に、アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの前脛骨筋と比較して、軽鎖シャッフルした抗体21B3で処置したマウスの前脛骨筋の毛細血管密度の著しい増大もあった(
図12D~
図12F)。
【0205】
横隔膜、脛骨及び腓腹筋における抗体27H9、13B4ならびに21B3の体内分布を、
125Iで標識した抗体を使用して判定した。横隔膜は、経時的にすべての抗体において最も高い曝露を示した(
図13A~
図13C)。
【0206】
mdxマウスに対するFlt-1抗体(すなわち13B4及び21B3)の投与が、内皮細胞増殖の著しい増加になることを、これらの実験は示した。
【0207】
実施例4。高親和性抗Flt-1抗体21B3のin vivo有効性
Mdxマウスを、生後4週間から開始して、週2回1か月間、静脈内投与によって抗体21B3の1、3、10もしくは20mg/kg、またはアイソタイプ対照抗体の20mg/kgで処置した。最低曝露点で血清中抗体濃度を評価するために、5回目の静脈内投与の4日後に血液を収集した。最大曝露点で血液中抗体濃度を評価するために、最後の投与の24時間後に血液を収集した。抗体21B3及びアイソタイプ対照抗体の最高及び最低血清中濃度を、
図14A及び
図14Bに示す。抗体21B3の最大及び最低濃度は用量依存的であり、アイソタイプ対照抗体より高かった。
【0208】
遊離sFlt-1の血清中濃度を評価するために、血液を、0、14及び28日目に収集した。抗体21B3の投与は、血清中遊離sFlt-1濃度の用量依存的減少を誘発した。前記反応は、14日目及び28日目の両方で見られるように、10及び20mg/kgの用量でより持続的だった。しかし統計学的に有意な減少は、溶媒のみで処置したマウスの遊離sFlt-1と比較して、3、10及び20mg/kgの投与量での遊離sFlt-1濃度で観察された(
図15)。
【0209】
VEGFの血清中濃度を評価するために、血液を、0、14及び28日目に収集した。抗体21B3の投与は、血清中VEGF濃度の用量依存的増加を誘発した。遊離sFlt-1について観察されたように、前記反応は、10及び20mg/kgの用量で、ならびに14日目及び28日目の両方でより持続的だった。事実、血清中VEGFの統計学的に有意な増加は、溶媒のみで処置したマウスの血清中VEGF濃度と比較して、抗体21B3の10及び20mg/kgの投与量で観察された(
図16)。
【0210】
組織病理学的検査
マウスは30日の処置期間の終了時に屠殺され、横隔膜筋及び前脛骨筋を収集して、抗Flt-1抗体が骨格筋の血管新生を誘発したか判定するために切断した。筋肉切片を内皮細胞マーカーCD31で染色した。抗体21B3で処置したマウスの横隔膜筋の毛細血管密度の著しい増大は、アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの横隔膜筋の毛細血管密度と比較して、見られた(
図17A~
図17E)。データは、
図18に示すように自動定量的イメージングソフトウェアを使用して定量化された。アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの横隔膜のCD31陽性領域と比較して、10mg/kgまたは20mg/kg(p<0.0001)で処置したマウスの横隔膜筋のCD31陽性領域で著しい増大があった。
【0211】
前脛骨筋の毛細血管密度の著しい増大も、アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの前脛骨筋と比較して、抗体21B3で処置したマウスで見られた(
図19A~
図19E)。データは、
図20に示すように自動定量的イメージングソフトウェアを使用して定量化された。アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの前脛骨筋のCD31陽性領域と比較して、10mg/kgまたは20mg/kg(p<0.0001)で処置したマウスの前脛骨筋のCD31陽性領域で著しい増大があった。
【0212】
RP-LC/MS特性評価
脱グリコシルした21B3抗体の分子量を、逆相液体クロマトグラフィー/質量分析(RP-LC/MS)によって測定した(
図21A)。還元反応の後、軽鎖及び重鎖の分子量を測定した。重鎖のグリコシル化パターンも測定した(
図21B)。
【0213】
mdxマウスに対するFlt-1抗体(すなわち21B3)の投与が、内皮細胞増殖の著しい増加、ならびに血清中可溶性Flt-1の減少及び血清中VEGF濃度の増加になることを、これらの結果は示した。
【0214】
実施例5。ヒト化高親和性抗Flt-1抗体の特性評価
実施例3に記載されている軽鎖シャッフルした抗体を、CDR領域及びまたはFcエフェクター領域に配列変異を導入するために更に改質した。これらの抗体を、結合特性を判定するために表面プラズモン共鳴方法(例えば、Biacore)により評価した(表9)。抗体27H9 NG/NA AAAは、Flt-1に対する約2倍の減少した結合親和性を示した。
【表9-1】
【表9-2】
【0215】
抗体を、sFlt-1に拮抗することにより細胞活性化を救済する能力についても、細胞系アッセイで評価した。ヒト主要静脈内皮細胞(HUVEC)は、sFlt-1及びモノクローナル抗体の存在下で、VEGFによって刺激された。細胞のVEGF誘発性活性化は、VEGF R2受容体のリン酸化状態を判定することによって試験した。モノクローナル抗体は、可溶性Flt-1に拮抗することにより、細胞の活性化(すなわちリン酸化)を救済し(
図22A)、及び抗体27H9 NG/NA AAA(NA+AAA)は、非変異の親抗体(wt)と比較して同等の能力を有した。
【0216】
実施例6。抗体最適化
最も近いヒトVH及びVL生殖細胞系配列を同定し、ならびにフレームワーク領域内の異なる残基及びCDR内の酸化/異性化部位を同定するために、候補抗体を分析した。ヒト及び野生型残基を含有するFabライブラリが構築されて、ヒト定常ドメインに融合した。Fabを同一または親抗体(21B3)より高い解離速度(すなわち、親和性を失わない)と識別するために、ファージディスプレイを適用した。所望の解離速度を有するFabを配列決定して、ヒト生殖系配列と比較し、最も高い同一性(例えば、VH+VL同一性>95%)及び相同性(例えば、相同性>96%)を有するものを、ヒトモノクローナル抗体への転換のために選択した。Fabは、不必要なアミノ酸についても分析される。表10は、最高97.6%のヒト同一性及び98.8%の相同性を有するいくつかのクローンとのヒト同一性パーセントによって順位付けしたFabを提供する。
【表10】
【0217】
実施例7。抗Flt-1モノクローナル抗体の特性評価
モノクローナル抗体の熱耐性を、Biacore方法を使用して分析した。100μg/mLの濃度で、各モノクローナル抗体を、異なる温度にてリン酸緩衝生理食塩水中で1時間インキュベートした。1時間のインキュベート後、抗体をゆっくり2時間かけて25℃に冷却して、それから4℃にて一晩インキュベートした。それから機能性抗体の割合を、BiocoreによってヒトFlt-1への結合を判定することで測定した(表11を参照)。野生型抗体における熱耐性は、以前の実験と一致した。しかし、27H6 DG/DAクローンを除いて、VHまたはVL領域の突然変異は、約2℃融解温度を低下させた。Fc領域のAAA突然変異は、抗体の熱耐性に影響を及ぼさなかった。
【表11-1】
【表11-2】
【0218】
ヒト化クローンの結合親和性をBiacoreにて分析した(表12)。VEGF:sFlt-1細胞系アッセイのVEGFシグナル伝達を救済する能力を、抗体27H4、27H6及び27H9について測定した(
図22B)。簡潔に言うと、ヒト主要静脈内皮細胞(HUVEC)は、sFlt-1及びモノクローナル抗体27H4、27H6及び27H9の存在下で、VEGFによって刺激された。細胞のVEGF誘発性活性化は、VEGF R2受容体のリン酸化状態を判定することによって試験した。データは、sFlt-1のみの存在下で(例えば、抗Flt-1抗体なしで)、VEGF R2受容体のリン酸化に対して、VEGF R2受容体のリン酸化の救済%として表した。VEGF及びsFlt-1の結合に拮抗する能力(
図23)は、ELISAによって抗体27H4、27H6及び27H9について測定された。
【表12】
【0219】
実施例8。筋病理における抗Flt-1抗体のin vitro試験
Mdxマウスを、生後3週間から開始して、週2回6または12週間、静脈内投与によって抗Flt-1抗体21B3の1、3、10もしくは10mg/kg、またはIgG1アイソタイプ対照抗体の10mg/kgで処置した。
【0220】
遊離抗体濃度の血清中レベルを評価するために、2、4、7及び10週目の静脈内投与の4日後に、血液をマウスから収集した。屠殺試料は、最後の投与の24時間後に収集した(
図24)。10mg/kgの投与量で、アイソタイプ対照抗体を投与したマウスの遊離抗体の血清中濃度と比較して、遊離抗体の血清中濃度の統計学的な有意差がすべての時点であった。3mg/kgの投与量で、アイソタイプ対照抗体を投与したマウスの遊離抗体の血清中濃度と比較して、遊離抗体の血清中濃度の統計学的な有意差が4、7及び10週目ならびに屠殺時点であった。1mg/kgの投与量で、アイソタイプ対照抗体を投与したマウスの遊離抗体の血清中濃度と比較して、遊離抗体の血清中濃度の統計学的な有意差が屠殺時点であった。
【0221】
遊離sFlt-1の血清中濃度を評価するために、2、4、7及び10週目の静脈内投与の4日後に、血液をマウスから収集した。屠殺試料は、最後の投与の24時間後に収集した(
図25)。10mg/kgの投与量で、アイソタイプ対照抗体を投与したマウスの遊離sFlt-1の血清中濃度と比較して、遊離sFlt-1の血清中濃度の統計学的な有意差がすべての時点であった。3mg/kgの投与量で、アイソタイプ対照抗体を投与したマウスの遊離sFlt-1の血清中濃度と比較して、遊離sFlt-1の血清中濃度の統計学的な有意差が4、7及び10週目ならびに屠殺時点であった。1mg/kgの投与量で、アイソタイプ対照抗体を投与したマウスの遊離sFlt-1の血清中濃度と比較して、遊離sFlt-1の血清中濃度の統計学的な有意差が屠殺時点であった。
【0222】
VEGFの血清中濃度を評価するために、2、4、7及び10週目の静脈内投与の4日後に、血液をマウスから収集した。屠殺試料は、最後の投与の24時間後に収集した(
図26)。抗体21B3の投与は、血清中VEGF濃度の用量依存的増加を誘発した。10mg/kgの投与量で、アイソタイプ対照抗体を投与したマウスのVEGFの血清中濃度と比較して、VEGFの血清中濃度の統計学的な有意差がすべての時点であった。3mg/kgの投与量で、アイソタイプ対照抗体を投与したマウスのVEGFの血清中濃度と比較して、VEGFの血清中濃度の統計学的な有意差が7週目及び屠殺時点であった。1mg/kgの投与量で、アイソタイプ対照抗体を投与したマウスのVEGFの血清中濃度と比較して、VEGFの血清中濃度の統計学的な有意差が屠殺時点であった。
【0223】
組織病理学的検査
マウスは処置期間の6及び12週目に屠殺され、横隔膜筋、腓腹筋及び前脛骨筋を収集して、抗Flt-1抗体による処置が血管新生を誘発して、骨格筋の線維症及び壊死を防いだか判定するために切断した。
【0224】
血管新生
筋肉切片を内皮細胞マーカーCD31で染色した(
図27A~
図27H、
図28A~
図28H及び
図29A~
図29H)。毛細血管密度の著しい増大は、アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの筋肉と比較して、抗体21B3で処置したマウスの試験したすべての筋肉群で見られた。データは、自動定量的イメージングソフトウェアを使用して定量化された。アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの横隔膜筋のCD31陽性領域と比較して、抗体21B3の3mg/kg(p<0.01)及び10mg/kg(p<0.0001)で処置したマウスの横隔膜筋の6及び12週目にてCD31陽性領域で統計学的に有意な増大があった。アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの腓腹筋のCD31陽性領域と比較して、抗体21B3の10mg/kg(p<0.05)で処置したマウスの腓腹筋の6及び12週目にてCD31陽性領域で統計学的に有意な増大があった。アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの前脛骨筋のCD31陽性領域と比較して、抗体21B3の3mg/kgで処置したマウスの6週目(p<0.05)及び12週目(p<0.0001)にて、ならびに抗体21B3の10mg/kg(p<0.0001)で処置したマウスの6週目及び12週目にて、前脛骨筋のCD31陽性領域で統計学的に有意な増大があった。(
図30A~
図30C)。
【0225】
線維症
筋肉切片を更にI型コラーゲンについて免疫組織化学によって染色した(
図31A~
図31H、
図32A~
図32H及び
図33A~
図33H)。I型コラーゲン染色の著しい減少は、アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの横隔膜筋及び腓腹筋と比較して、抗体21B3で処置したマウスの横隔膜筋及び腓腹筋で見られた。アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの横隔膜筋のI型コラーゲン染色と比較して、抗体21B3の1mg/kg(p<0.0001)、3mg/kg(p<0.001)及び10mg/kg(p<0.0001)で処置したマウスの横隔膜筋の12週目にて、I型コラーゲン染色で統計学的に有意な減少があった。アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの腓腹筋のI型コラーゲン染色と比較して、抗体21B3の1mg/kg(p<0.01)、3mg/kg(p<0.05)及び10mg/kg(p<0.001)で処置したマウスの腓腹筋の12週目にて、I型コラーゲン染色で統計学的に有意な減少があった。(
図34A~
図34C)。
【0226】
壊死
抗体21B3で処置したマウスの腓腹筋中に存在する壊死の割合は、アイソタイプ対照抗体で処置したマウスの腓腹筋中に存在する壊死の割合と比較して判定した。壊死が改善する傾向が見られた(
図35A~
図35B)。
【0227】
実施例9。抗Flt-1抗体21B3及び21C6に標的とされるヒトsFlt-1のエピトープのマッピング
抗ヒトsFlt-1モノクローナル抗体(mAb)21B3及び21C6によって標的とされるヒトsFlt-1のペプチドレベルでのエピトープは、水素重水素交換(HDX)質量分析によって確定された。
【0228】
ペプシン消化及びLC-MS
ペプシン消化において、10μgのsFlt-1、またはsFlt-1と抗体(21B3)の混合物(10μg:20μg)、またはsFlt-1と抗体(21C6)の混合物(10μg:20μg)を、0.365MのTCEP及び1.7Mの塩酸グアニジン酸(pH2.5)中で変性させた。混合物にオンラインペプシン消化を行い、得られたペプチドを、MicroTOF-Q2質量分析計(Bruker)に連結するWaters Acquity UPLCからなるUPLC-MSシステムを使用して分析した。ペプチドは、5~28.5%溶媒B(アセトニトリル中0.1%ギ酸)から19分の勾配による50mm×1mmC8カラムで分離した。溶媒Aは、水中0.1%ギ酸である。溶媒混合弁、注入弁、C8カラム及びすべての接続ステンレス鋼管を、0℃に維持した冷却した循環水浴に浸した。ペプチド同定は、MascotでsFlt-1配列に対してMS/MSデータを検索することによって行った。前駆体及び生成イオンにおける質量許容差は、それぞれ0.1Da及び0.2Daであった。
【0229】
脱グリコシル処理
200μgのヒトsFlt-1組換え型タンパク質を、10μlのPNGaseFによって37℃にて4時間インキュベートした。
【0230】
Fabの調製
Fabを、パパイン消化及びPierce Fab調製キットを使用するタンパク質A捕捉により、2つの抗sFlt-1 mAb(21B3及び21C6)から調製した。
【0231】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
SECの天然または脱グリコシルしたヒトsFlt-1のいずれかと2つの抗ヒトsFlt-1 mAb(21B3及び21C6)の間の結合を確認するために、10μgのsFlt-1(天然または脱グリコシルのいずれか)を、40μgの抗sFlt-1 mAbと混合した。移動位相及びタンパク質を280nmでモニタする際、天然または脱グリコシルしたsFlt-1単独、抗sFlt-1 mAb単独または複合体を、PBSと共に0.35ml/分の流量でSECカラムに注入した。抗sFlt-1 mAb(21B3及び21C6)から生成したFab及び抗sFlt-1 FabとsFlt-1の間の結合も、SECを使用して評価した。
【0232】
HDX
10μLのヒトsFlt-1(10μg)、またはsFlt-1とmAb(21B3)の混合物(10μg:20μg)、またはsFlt-1とmAb(21C6)の混合物(10μg:20μg)を、0秒、30秒、2分、10分、1時間または4時間、90μLの酸化重水素で標識した緩衝剤(pH7.4の50mMのリン酸塩、100mMの塩化ナトリウム)でインキュベートした。重水素交換を、最終的なpH2.5にて100μLの3.4Mの塩酸グアニジン、0.73MのTCEP緩衝剤を添加することによってクエンチして、それから上述のペプシン消化及びLC-MS分析を行った。質量スペクトルは、MSのみのモードで記録した。未加工のMSデータを、HDExaminerソフトウェア(Sierra Analytics、CA)を使用して処理した。重水素濃度を、重水素化されたペプチドとその天然型(t0)の間の平均質量差を使用して計算した。
【0233】
結果
グリカン除去がヒトsFlt-1の抗体への結合を変えないことを検証するために、天然型及び脱グリコシルしたsFlt-1タンパク質を、抗ヒトsFlt-1 IgG(21B3及び21C6)と混合して、複合体形成をサイズ排除クロマトグラフィーでモニタした。天然型ヒトsFlt-1が2つの抗ヒトsFlt-1 IgG(21B3及び21C6)に完全に結合する一方で、脱グリコシルしたヒトsFlt-1が抗ヒトsFlt-1 mAb(21B3)に不完全に結合する、または抗ヒトsFlt-1 mAb(21C6)に結合しないことを、データは証明し、脱グリコシルはヒトsFlt-1と抗体の間の相互作用を乱すことを示した。したがって天然型ヒトsFlt-1は、HD交換実験を実施するために選択された。不均質なグリコシル化及び12つのN-結合型グリコシル化部位の高度の複雑性が原因で、不良な配列包括度は、天然型ヒトsFlt-1において最初に達成された。配列包括度を改善するために、各グリコシル化部位のグリカン質量を同定して、高い配列包括度(85.2%)を天然型ヒトsFlt-1において達成した。
【0234】
天然型ヒトsFlt-1を、酸化重水素のみにおいて、または抗ヒトsFlt-1 mAb(21B3)もしくは抗ヒトsFlt-1 mAb(21C6)のいずれかとの複合体でインキュベートした。重水素交換を、0秒、30秒、2分、10分、60分及び240分間、室温にて実施した。交換反応を低pHでクエンチして、タンパク質をペプシンで消化した。同定したペプチドの重水素濃度を、LC-MS上の質量シフトからモニタした。すべてのペプチドについて交換時間の重水素蓄積曲線を記入した。大部分のヒトsFlt-1ペプチドが、抗ヒトsFlt-1 mAb(21B3及び21C6)を含む及びそれを含まない、同一または類似した重水素濃度を示した一方で、いくつかのペプチド部分は、mAb 21B3またはmAb 21C6結合における著しく減少した重水素取り込みを有した。残基117~129(配列番号90のアミノ酸141~153に対応)及び169~182(配列番号90のアミノ酸193~206に対応)は、抗ヒトsFlt-1 mAb 21B3との結合の際、強力な重水素保護を受けたが、一方で残基106~114(配列番号90のアミノ酸130~138に対応)及び117~124(配列番号90のアミノ酸141~148に対応)は抗ヒトsFlt-1 mAb 21C6との結合の際、強力な重水素保護を受けた。これらの強く保護された領域は、抗ヒトsFlt-1 mAb(21B3及び21C6)においてエピトープペプチドとして割り当てられており、
図36及び
図37に示す差示的なヒートマップにおいて青で強調された。エピトープ領域からアミノ酸残基を含有する同定したペプチドについてのMS/MSスペクトルを、
図38A~
図38Eに示す。ペプチド115~124は配列番号90のアミノ酸139~148に対応し、ペプチド115~129は配列番号90のアミノ酸139~153に対応し、ペプチド154~182は配列番号90のアミノ酸178~206に対応し、ペプチド175~180は配列番号90のアミノ酸119~204に対応し、及びペプチド104~114は配列番号90のアミノ酸128~138に対応する。
【0235】
結論
85.2%の配列包括度が、ヒトsFlt-1において得られた。残基117~129及び169~180は、抗ヒトsFlt-1 mAb 21B3との結合の際、強力な重水素保護を受けたが、一方で残基106~114及び117~124は、抗ヒトsFlt-1 mAb 21C6との結合の際、強力な重水素保護を受けた。これらの強く保護された領域は、対応する抗ヒトsFlt-1 mAbにおいてエピトープペプチドとして割り当てられた。
【0236】
等価物及び範囲
当業者は、一般的な実験のみを使用して、本明細書に記載の本発明の具体的な実施形態の多数の等価物を認識する、または確認することができる。本発明の範囲は、上述の発明の詳細な説明に限定することを意図するものではなく、むしろ以下の特許請求の範囲に記載されているものである。
【表13-1】
【表13-2】
【表13-3】
【表13-4】
【表13-5】
【表14】
【配列表】