(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】高密度人造黒鉛電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/532 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
C04B35/532
(21)【出願番号】P 2021512034
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014151
(87)【国際公開番号】W WO2020203825
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019066900
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】川野 陽一
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-088404(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109687013(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108328613(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107369823(CN,A)
【文献】国際公開第2017/159769(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104085883(CN,A)
【文献】特開2014-197496(JP,A)
【文献】特表2011-522104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/532
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニードルコークスを粉砕し、バインダーピッチを混練した後、押出成型し、次いで焼成及び黒鉛化処理することにより電気製鋼用人造黒鉛電極を製造する方法であって、ニードルコークスを粉砕後、粉砕ニードルコークスの一部又は全部について、コークス形状の変更処理を行うことにより、形状変更処理後のニードルコークスの包絡周囲長/周囲長の比(E
A/L
A)を、形状変更処理前の数値(E
0/L
0)を基準にして、1%以上大きくすることを特徴とする高密度電気製鋼用人造黒鉛電極の製造方法。
ここで、包絡周囲長はニードルコークス粒子の凸部の頂点を最短の距離で結んだときの周囲の長さであり、周囲長はニードルコークス粒子の周囲の長さである。
【請求項4】
バインダーピッチが、軟化点70~150℃、βレジン量15~30wt%である請求項1又は2記載の高密度電気製鋼用人造黒鉛電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度人造黒鉛電極の製造方法、特に電気製鋼により電炉鋼を製造するときに使用する高密度電気製鋼用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人造黒鉛電極は、石炭系又は石油系ニードルコークスを骨材とし、これを粘結材としてのバインダーピッチで固めたものであり、電気製鋼用電極として汎用されている。こうした人造黒鉛電極は、通常、ニードルコークスを篩い分け更に粉砕して所定粒度に調製した後、バインダーピッチと混練し、次いで押出成型し、その後、焼成及び黒鉛化処理することにより製造される。
【0003】
近年、大型高負荷電気炉の普及に伴い、直流電流炉および交流電気炉では人造黒鉛電極の直径が24~32インチのものが主流となっている。人造黒鉛電極が大型化すると電極使用中の半径方向の温度差が大きくなるため、熱衝撃による割れが発生し易い。割れの原因の一つとして電極内部の組織構造、特に空隙の形態などが考えられる。
【0004】
特許文献1には、人造黒鉛電極からサンプルを切り出し、断面の画像解析から骨材間で出来る空隙の周囲長と面積から、形状係数というパラメータを算出し、空隙の状態と割れの発生しにくい人造黒鉛電極の関係が開示されている。
【0005】
人造黒鉛電極の製造方法において、ニードルコークスとバインダーピッチとを混練し、押出成型した直後の成形体の出来栄えが人造黒鉛電極の最終品質を決める。また、人造黒鉛電極は外周部に比べて中心部の密度が低い傾向にあり、特に大径になるほどその傾向は強い。そのため、骨材間で出来る空隙を極力小さくするために、ニードルコークスを粉砕した後に分級し、種々の粒度のニードルコークスを選択して所望の配合量にて使用されることが多い。
【0006】
非特許文献1には、骨材の充填密度と成形体の密度には密接な関係があり、密度を上げるために骨材自身の密度を高いものを使用し、充填密度を高くする様な粒度分布に調整することが開示されている。この場合使用するニードルコークスは、20~40メッシュ(0.8~0.4mm)の粒、20~150メッシュ(0.8~0.1mm)の粉末、10μm以下の微粉を組み合わせて使用したり、10μm以下の微粉のかわりにカーボンブラックを使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】炭素,1977,No.91 P138-144
【発明の概要】
【0009】
上述のとおり先行技術においては、大径化に伴う人造黒鉛電極の熱衝撃による割れを防止するため、人造黒鉛電極の製造方法において骨材間で出来る空隙を減らすために、ニードルコークスを粉砕した後、分級により粒度選別した後に、複数の粒度のニードルコークスを組み合わせてバインダーピッチと混練している。これらは、充填密度を高くするために種々の粒度を組み合わせて隙間を埋める考えから実施されている。
しかし、ニードルコークスは結晶構造が針状に発達しており、粉砕した際に長形の形態となり且つ、結晶構造由来の細かい凹凸が発生する。そのため、骨材としてのニードルコークスの充填密度を上げるために複数粒度の粉砕品を組み合わせても、形態由来から生じる空隙が残る。
そこで、本発明の目的は、従来とは異なる手法によって、密度の高い人造黒鉛電極の製造方法を提供することにある。すなわち、先行技術で開示されているような、使用するニードルコークスの粒度や割合を大きく変化させたり、バインダーピッチの量を増やしたり、高い成型圧力で押出し成型することなく、高密度人造黒鉛電極を得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、骨材として使用する粉砕ニードルコークスの一部又は全部に追加処理を行い、骨材のニードルコークスとして特定形状に変更処理したものを使用することで、上述の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、ニードルコークスを粉砕し、バインダーピッチを混練した後、押出成型し、次いで焼成及び黒鉛化処理することにより人造黒鉛電極を製造する方法であって、ニードルコークスを粉砕後、粉砕ニードルコークスの一部又は全部について、コークス形状の変更処理を行うことにより、形状変更処理後のニードルコークスの包絡周囲長/周囲長の比(EA/LA)を、形状変更処理前の数値(E0/L0)を基準にして、1%以上大きくすることを特徴とする高密度人造黒鉛電極の製造方法である。
ここで、包絡周囲長はニードルコークス粒子の凸部の頂点を最短の距離で結んだときの周囲の長さであり、周囲長は粒子の周囲の長さである。
粒子の包絡周囲長と周囲長は画像解析装置により測定する。
【0012】
上記製造方法において、ニードルコークスは、真比重が2.00以上で、CTEが1.30×10-6/℃以下、窒素含有量が0.6wt%以下、硫黄含有量が0.6wt%以下であることが好適である。
この場合、CTEは標準的なテストピースを作成し、室温から500℃の平均熱膨張係数を測定し算出した。窒素分は、JIS M 8819に準拠して測定した。硫黄分は、JIS M 8813に準拠して測定した。
【0013】
上記製造方法において、形状の変更処理を行うニードルコークスは、粉砕ニードルコークスのうち、粒度500μm以下であることが好適である。
【0014】
上記製造方法において、バインダーピッチが、軟化点70℃~150℃で、βレジン量15~30wt%であることが好適である。
この場合、βレジン量は、JIS K2425の溶剤分析法によって測定され、トルエン不溶分とキノリン可溶分の差で示す。
【0015】
本発明によれば、使用するニードルコークスの粒度や割合を大きく変化させたり、バインダーピッチの量を増やしたり、高い成型圧力で押出し成型することなく、密度の高い人造黒鉛電極の製造が可能となる。よって、本発明は、大型高負荷電気炉に対応した大型人造黒鉛電極(例えば直径24~32インチ)の製造にも十分に適用できる。
また、本発明は、ニードルコークスとバインダーピッチの量や割合を変化しない場合でも押出成型工程の圧力を従来条件より下げて、密度の高い人造黒鉛電極を生産することが可能となり、多大な省エネにも貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の製造方法は、バインダーピッチと混練するニードルコークス粉砕物の全部又は一部について、コークス形状の変更処理を行うことにより、形状変更処理後のニードルコークスの包絡周囲長/周囲長の比(EA/LA)を、形状変更処理前の数値(E0/L0)を基準にして、1%以上大きくしたニードルコークスを使用することを特徴とする。
この際、形状を変更する粉砕ニードルコークスは、全部を対象としてもよいが、その一部だけに変更処理を行ってもよい。粉砕ニードルコークスの1wt%以上、好ましくは5wt%以上、より好ましくは20wt%以上を変更処理するとよい。形状変更処理を行う粉砕ニードルコークスの粒径は特に問わないが、細粒がより有効であり、例えば粒径500μm以下のものに変更処理を行うとよい。好ましくは130μm以下のもの、更に好ましくは75μm以下のものである。
【0017】
コークス形状の変更処理を行うことにより、形状変更処理後の粉砕ニードルコークスの包絡周囲長/周囲長の比(EA/LA)を、形状変更処理前の数値(E0/L0)を基準にして、1%以上大きくする方法を説明する。
塊状のニードルコークスを、粉砕機、例えばジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー又はダブルロールクラッシャーで微粒に粉砕した後に、粒度ごとに分級する。更に、ローラーミルやチューブボールで微粉砕した後に、粒度ごとに分級する。
分級された微粒や微粉粒のニードルコークスの一部又は全部に、コークス形状の変更処理を行う。この形状変更処理においては、所望の形状変更処理を行える限り、各種の装置を利用できる。形状変更処理のために、例えば市販の球状化装置を使用でき、球状化装置は気流式や機械式や高速攪拌式が市販されているが、任意に選ぶことが出来る。
なお、形状を変更処理されたニードルコークスの微粒や微粉粒の包絡周囲長及び周囲長の測定は、微粒や微粉粒の包絡周囲長及び周囲長が測定出来る形状画像解析装置又は、粒子分布画像解析装置又は、画像解析粒度分布計を用いて行う。
【0018】
本発明では、コークス形状変更処理をした粉砕ニードルコークスの包絡周囲長/周囲長(E
A/L
A)は、形状変更処理を行う前の数値(E
0/L
0)を基準にして、1%以上大きくすることを特徴とする。これによって、成形体のかさ密度(BD)、ひいては焼成後や黒鉛化後のかさ密度を著しく高めることが可能となる。かさ密度や成型圧力を鑑みると、前記比率は、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上大きくすることが望ましい。
なお、こうした形状変更率(R)は、以下の数式で示すこともできる。
【数1】
包絡周囲長/周囲長の変更処理前後での変更率(R)が1%未満の差の場合、ニードルコークスの結晶構造由来の針状形態が多く残存する。それゆえ複数粒度のニードルコークスを組み合わせてバインダーピッチと混練し、押出成型した成型体にはニードルコークスの結晶構造由来の針状形態に起因して生じる空隙が残り、熱衝撃による割れの原因となる。
【0019】
使用するニードルコークスは、特に制限がなく、石炭系のニードルコークスや石油系ニードルコークスを使用することができる。
ニードルコークスの真比重は、2.120~2.170g/cm3、好ましくは2.125~2.165g/cm3、更に好ましくは2.130~2.160g/cm3である。
ニードルコークスのCTEは0.8~1.4×10-6/℃、好ましくは0.85~1.3×10-6/℃、更に好ましくは0.9~1.25×10-6/℃である。
ニードルコークスの見かけ密度は、2.090~2.140g/cm3、好ましくは2.110~2.135g/cm3、更に好ましくは2.125~2.130g/cm3である。
ニードルコークス中に含まれる窒素分は、0.60wt%以下、好ましくは0.55wt%、更に好ましくは0.45wt%以下である。ニードルコークス中に含まれる硫黄分は、0.60wt%以下、好ましくは0.45wt%以下、更に好ましくは0.30wt%以下である。
【0020】
使用する粘結材としてのバインダーピッチは、軟化点が70~150℃であり、βレジンが15~30%であることが望ましい。軟化点が70℃を下回ると、粘度が低くなりすぎ、ニードルコークスの細孔の奥部まで入り込みやすくなるため、本発明の発現効果が不十分となる。軟化点が150℃を超えると、混練するニーダーの温度を上げ、バインダーピッチの粘度を強制的に下げなければならないので、生産効率上不利となる。より好ましい軟化点は、80~130℃である。
バインダーピッチは、同種のバインダーピッチ、例えば軟化点の同じものを少なくとも二段階の分割混練としても良いし、第一段階混練と第二段階混練とで、異種のバインダーピッチ、例えば軟化点の異なるものを使用しても良い。軟化点を変えることで、バインダーピッチが浸入するニードルコークスの細孔径やバインダーピッチが浸入する量を調製することができる。
なお、必要に応じて、焼成処理後、含浸ピッチを含浸させ、二次焼成処理した後、黒鉛化処理される。
【0021】
ニードルコークスを篩い分けし更に粉砕し、これにバインダーピッチ等を配合し、混練、成形、焼成、ピッチ含浸、二次焼成、2500℃前後の高温で黒鉛化を行うことにより人造黒鉛電極を得ることができる。本発明の製造方法によれば、成型圧力を高めることなく、空隙が少なく高密度の人造黒鉛電極が得られる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例及び比較例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1~7
ニードルコークスとして、真比重2.15、水銀ポロシメーターで測定した細孔容積0.136cc/gの石炭系ニードルコークスを用いた。
このニードルコークスをジョークラッシャーで粉砕し、8-16メッシュ(Me')(2.38-1.0mm)を篩とった後、篩上と篩下を混合し、ハンマークラッシャーで粉砕し、48-200Me'(325-74μm)と200Me'以下(74μm以下)に篩分けした。
これらの粒度のうち、200Me'以下の粉体をセイシン企業製の高速攪拌型粉体球状化装置を使用して形状変更処理を行った。形状処理は、同一コークスの配合割合で、4つの条件下で行った(実施例1、3、4、5)。さらに、実施例2と実施例6、7については、形状変更処理していない同粒径のコークスを配合し、形状変更処理の効果について比較した。
形状変更処理の程度は、セイシン企業製の粒子形状画像解析装置PITA-04を使用して測定した。どの程度形状変更処理が行われたかを示すために、形状変更処理後の200Me’下の包絡周囲長/周囲長の比(EA/LA)を、形状変更処理前の200Me’下の包絡周囲長/周囲長の比(E0/L0)を基準として算出した形状変更率(R)を表1に示す。
それぞれの粒度分布が、粒子径の大きい方から、40%(8-16Me')、35%(48-200Me')、25%(200Me'以下)で粒度配合した後、このニードルコークス100部に対し、バインダーピッチ(BP)27部と混練した。使用したバインダーピッチは、軟化点97℃、βレジン20%である。
混練物を押出成型機で、20mmφ×100mmの大きさに押出速度が7cm/分と一定になるように、成形圧力を調整し、その圧力を成型圧力とした。
押出成形物を900℃で焼成し、その後2500℃で黒鉛化した。
押出成形物、900℃焼成後、黒鉛化後のサンプルそれぞれについて、かさ密度(BD)を測定した。
それらの結果を表2に示す。
【0024】
比較例1
高速撹拌型粉体球状化装置による表面変更処理を行わなかった以外は、実施例と同様にして、黒鉛電極を製造した。その結果も表1と表2に示す。
【0025】
【0026】
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の製法によれば、大径化に伴う人造黒鉛電極の熱衝撃による割れを防止するため、原因となる空隙を減らすために、分級により粒度選別した後に、複数の粒度のニードルコークスを組み合わせること以上に、空隙を減らせることが可能になりその結果、人造黒鉛電極を高密度化することに貢献でき、かつ押出成型工程の圧力を下げることが可能となり、多大な省エネにも貢献できる。よって、本発明の製法により作成された人造黒鉛電極は大型高負荷電気炉に対応した大型人造黒鉛電極にも好適に利用できる。