(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】FeGa合金単結晶の製造方法および蓋
(51)【国際特許分類】
C30B 29/52 20060101AFI20240321BHJP
C30B 11/02 20060101ALI20240321BHJP
C30B 11/00 20060101ALI20240321BHJP
B22D 27/04 20060101ALI20240321BHJP
B22D 27/15 20060101ALI20240321BHJP
F27B 14/04 20060101ALI20240321BHJP
F27B 14/12 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C30B29/52
C30B11/02
C30B11/00 C
B22D27/04 B
B22D27/15
F27B14/04
F27B14/12
(21)【出願番号】P 2020039900
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】泉 聖志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 昌明
(72)【発明者】
【氏名】干川 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】太子 敏則
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-163187(JP,A)
【文献】特開2006-016242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/52
C30B 11/02
C30B 11/00
B22D 27/04
B22D 27/15
F27B 14/04
F27B 14/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向凝固結晶成長法を用いるFeGa合金単結晶の製造方法であって、
蓋を被せた坩堝中のFeとGaとの混合物の融解物を減圧し、当該融解物中の気泡を取り除く気泡除去工程を含み、
前記蓋は、当該蓋を被せた前記坩堝の内部と外部とを通気する通気孔を
1ヶ所のみ備
え、
前記通気孔の水平断面積は、1.5~5.0mm
2
である、
FeGa合金単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記蓋は座繰り形状の蓋である、請求項
1に記載のFeGa合金単結晶の製造方法。
【請求項3】
単結晶育成装置を清掃することなくFeGa合金単結晶を繰り返し育成する、請求項1
または2に記載のFeGa合金単結晶の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の一方向凝固結晶成長法を用いるFeGa合金単結晶の製造方法に用いる坩堝に被せる蓋であって、
前記蓋を被せた前記坩堝の内部と外部とを通気する通気孔を
1ヶ所のみ備え、
前記通気孔の水平断面積は、1.5~5.0mm
2
である、蓋。
【請求項5】
座繰り形状の蓋である、請求項
4に記載の蓋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄ガリウム合金(以下、「FeGa合金」とする場合がある)単結晶の製造方法および当該方法に用いる坩堝に被せる蓋に関する。特に、垂直ブリッジマン法(Vertical Bridgman method、以下「VB法」と略記する場合がある)や垂直温度勾配凝固法(Vertical Gradient Freeze method、以下「VGF法」と略記する場合がある)に代表される、融液を坩堝中で固化させる、一方向凝固結晶成長法を用いる、超磁歪特性を有するFeGa合金単結晶の製造方法、および当該方法に用いる坩堝に被せる蓋に関する。
【背景技術】
【0002】
FeGa合金は、機械加工が可能であり、100~350ppm程度の大きな磁歪を示すため、磁歪式振動発電やアクチュエータ等に用いられる素材として好適であり、近年、注目されている。
【0003】
さらに、FeGa合金は、結晶の特定方位に大きな磁気歪みを現出させることができるため、磁歪部材の磁歪を必要とする方向と結晶の磁気歪みが最大となる方位を一致させた単結晶の部材としての用途が最適であると考えられる。
【0004】
FeGa合金の多結晶の製造方法においては、粉末冶金法や、急冷凝固法(例えば、特許文献1)、液体急冷凝固法により製造した薄片状や粉末状の原料を加圧焼結して製造する方法(例えば、特許文献2)等が提案されている。しかし、これらの種々の製造方法は、いずれも部材内は単結晶にならず多結晶となり、部材内の全ての結晶方位を磁気歪みが最大となる方位に一致させることは不可能で、単結晶の部材より磁歪特性が劣る。
【0005】
一方で、単結晶の製造には、引き上げ法があるが、この単結晶製造方法は極めて製造コストが高いという問題がある。例えば、特許文献3には、引き上げ法(チョクラルスキー法)による単結晶の育成方法が記載されている。しかしながら、この方法は、高周波誘導加熱方式により原料融解を行うため、電源コストが高くなる。また、装置構成が複雑であり、装置コストが高いため、引き上げ法では結果的に製造コストが高くなってしまう。
【0006】
また、特許文献4には、一方向凝固法による多結晶の育成方法が記載されている。この方法では、比較的安価である一般的な溶解設備や鋳造設備を使用できる。しかしながら、特許文献4は多結晶の育成方法であるため、単結晶を得るためには多結晶から単結晶部分を分離することとなるため、非常に生産効率が低い。また、出発原料にFeGa合金を使用するため、まず、FeGa合金を作製する必要があり、原料コストも高く、製造コストの増加に繋がってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4053328号公報
【文献】特許第4814085号公報
【文献】特開2016-28831号公報
【文献】特開2016-138028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、特許文献1~4等に記載の従来の方法では、鉄ガリウム合金の単結晶を廉価かつ大量に製造することは困難である。
【0009】
これらと比較し、VB法やVGF法に代表される、融液を坩堝中で固化させる一方向凝固結晶成長法により、超磁歪特性を有するFeGa合金単結晶を廉価に製造することができる。
【0010】
FeGa合金単結晶の磁歪量は結晶組成に依存するため、FeGa合金単結晶を製造する場合には、単結晶中のガリウム含有量を制御することが重要である。例えば、単結晶中のガリウム含有量が原子量%で17.0%~19.0%の場合、FeGa合金単結晶は300ppm以上の高い磁歪量となる。
【0011】
FeGa合金単結晶中のガリウム含有量は、原料中のガリウム含有量を調整することにより制御することができる。しかしながら、一方向凝固結晶成長法によりFeGa合金単結晶を製造した場合、原料中のガリウム含有量を同量に調整したとしても、単結晶の直胴部においてガリウム含有量が原子量%で2%程度変動することがあり、同一単結晶内においても磁歪量が大きく異なるものが製造されてしまう、という問題があった。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑み、同一単結晶中のガリウム含有量の濃度差を原子量%で1%以下に制御することができる、FeGa合金単結晶の製造方法および蓋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明のFeGa合金単結晶の製造方法は、一方向凝固結晶成長法を用いるFeGa合金単結晶の製造方法であって、蓋を被せた坩堝中のFeとGaとの混合物の融解物を減圧し、当該融解物中の気泡を取り除く気泡除去工程を含み、前記蓋は、当該蓋を被せた前記坩堝の内部と外部とを通気する通気孔を備える。
【0014】
前記蓋は、前記通気孔を1ヶ所のみ備えてもよい。
【0015】
前記通気孔の水平断面積は、1.5~5.0mm2であってもよい。
【0016】
前記蓋は座繰り形状の蓋であってもよい。
【0017】
本発明のFeGa合金単結晶の製造方法は、単結晶育成装置を清掃することなくFeGa合金単結晶を繰り返し育成してもよい。
【0018】
また、上記課題を解決するため、本発明の蓋は、一方向凝固結晶成長法を用いるFeGa合金単結晶の製造方法に用いる坩堝に被せる蓋であって、前記蓋を被せた前記坩堝の内部と外部とを通気する通気孔を備える。
【0019】
前記蓋は、前記通気孔を1ヶ所のみ備え、前記通気孔の水平断面積は、1.5~5.0mm2であってもよい。
【0020】
本発明の蓋は、座繰り形状の蓋であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のFeGa合金単結晶の製造方法および蓋によれば、同一単結晶中のガリウム含有量の濃度差を原子量%で1%以下に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】FeGa合金単結晶を育成する育成装置の概略断面図である。
【
図2】本発明の蓋の形態の一例を示す概略図である。
【
図3】本発明の蓋の形態として、
図2の蓋とは異なる蓋の一例を示す概略図である。
【
図4】蓋を被せた坩堝を備える、FeGa合金単結晶を育成する育成装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態にかかるFeGa合金単結晶の製造方法について、
図1、4に示す単結晶育成装置を参照して、より具体的に説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
【0024】
[単結晶育成装置]
図1は、FeGa合金単結晶を育成する単結晶育成装置の概略断面図である。この
図1では、単結晶育成装置100における単結晶育成用坩堝10とFeGa合金種結晶16、原料となる鉄とガリウムの混合物17との位置関係を模式的に示している。
【0025】
単結晶育成装置100は、断熱材11、上段ヒーター12a、中段ヒーター12b、下段ヒーター12c、可動用ロッド13、坩堝受け14、熱電対15、真空ポンプ18および、チャンバー19を備えている。チャンバー19内の上部が高温、下部が低温となる温度分布を実現可能な構成となっており、VB法やVGF法等の一方向凝固結晶成長法により、鉄とガリウムの混合物の融解物17を坩堝10中で固化させることで、FeGa合金単結晶を育成することができる。
【0026】
図1に示すように単結晶育成装置100では、断熱材11の内側にカーボン製の抵抗加熱ヒーター12が配置される。FeGa合金単結晶の育成時に、抵抗加熱ヒーター12によりホットゾーンが形成される。抵抗加熱ヒーター12は、上段ヒーター12a、中段ヒーター12bおよび下段ヒーター12cとで構成され、これらのヒーター12a~12cへの投入電力を調整することにより、ホットゾーン内の温度勾配を制御することが可能となっている。
【0027】
抵抗加熱ヒーター12の内側には、単結晶育成用坩堝10が配置され、上下方向に移動可能な可動用ロッド13が設けられた坩堝受け14(支持台)に載置されている。単結晶育成用坩堝10内の下部に、FeGa合金種結晶16が充填され、このFeGa合金種結晶16の上に、鉄とガリウムの混合物17が充填される。
【0028】
育成炉には、チャンバー19と真空ポンプ18が設置されており、原料を真空雰囲気に調整して単結晶を育成することができる。さらに、アルゴンや窒素等の不活性ガスをチャンバー19へ導入することができ、原料を不活性雰囲気にも調整できる。
【0029】
単結晶育成用坩堝10の材質は、FeGa合金単結晶と化学的反応性が低く、高融点材料であるアルミナが好ましい。また、マグネシア、熱分解窒化ホウ素(Pyrolitic Boron Nitride)でもよい。
【0030】
上方側が開放された単結晶育成用坩堝10には、
図4に示すように本発明の蓋の一態様である蓋30を被せる。本発明の蓋についての詳細は後述する。単結晶育成用坩堝10は、上述したように単結晶育成装置100内で可動用ロッド13が設けられた坩堝受け14上に載置され、可動用ロッド13を上下させることにより、単結晶育成用坩堝10を育成炉内で上下させることができる。また、単結晶育成用坩堝10には、坩堝の温度をモニタリングできる熱電対15が取り付けられている。
【0031】
[FeGa合金単結晶の製造方法]
次に、本発明の一実施形態にかかるFeGa合金単結晶の製造方法について
図4を参照しつつ、説明する。
【0032】
超磁歪特性を有するFeGa合金単結晶は、例えば鉄とガリウムの融解物を坩堝中で固化させて育成することができ、本発明では、VB法やVGF法に代表される、一方向凝固結晶成長法により育成することができる。
【0033】
まず、単結晶育成用坩堝10の下部に主面方位が<100>方位のFeGa合金種結晶16を配置する。そして、FeGa合金種結晶16の上には、原料である鉄とガリウムの混合物17を必要量配置し、その後坩堝10に蓋30を被せる。
【0034】
次に、チャンバー19内にアルゴンや窒素等の不活性ガスを流し、チャンバー19内を不活性雰囲気に調整する。窒化ガリウム等が生成するおそれがある場合には、アルゴンガスを導入することが好ましい。チャンバー19内が不活性雰囲気となった後、単結晶育成用坩堝10を囲むように配置された上段ヒーター12a、中段ヒーター12bおよび下段ヒーター12cを作動して、昇温し、鉄とガリウムの混合物17の融解を開始する(融解工程)。
【0035】
鉄とガリウムの混合物17がほぼ融解して融解物となったら、真空ポンプ18を作動して、チャンバー19内を減圧し、融解物中の気泡を取り除く(気泡除去工程)。
【0036】
気泡除去工程後、チャンバー19内にアルゴンや窒素等の不活性ガスを流し、再びチャンバー19内を不活性雰囲気に調整した後、単結晶育成用坩堝10の内部でFeGa合金単結晶を育成する(育成工程)。具体的には、抵抗加熱ヒーター12を用いて、FeGa合金種結晶16および融解物(鉄とガリウムの混合物17)が収納され、蓋30を被せられた単結晶育成用坩堝10を、高さ方向の上方の温度が高く、下方の温度が低い温度分布となるように加熱する。この状態で、チャンバー19内の温度を、FeGa合金種結晶16が高さ方向の上半分位まで融解するまで可動ロッド13を可動させて坩堝10を上昇させてシーディングを行う。その後、そのままのチャンバー19内の温度勾配を維持しながら、可動ロッド13を可動させ坩堝10を下降させてFeGa合金結晶16を育成し、すべての融解物を固化させた後、所定速度で冷却を行ってFeGa合金単結晶を得る。
【0037】
次に、チャンバー19内の温度が室温程度になったことを確認した後、育成された単結晶が入った単結晶育成用坩堝10を坩堝受け14から取り外し、さらに蓋30を取って単結晶育成用坩堝10から育成された単結晶を取り出す。
【0038】
上記では、単結晶育成装置100を用いたVB法によるFeGa合金単結晶の育成方法について説明したが、同じ単結晶育成装置100を用いて、単結晶育成中に単結晶育成用坩堝10を上下に移動させることに替えて、抵抗加熱ヒーター12を調整して温度制御するVGF法によっても、FeGa合金単結晶を育成することができる。
【0039】
本発明のFeGa合金単結晶の製造方法では、単結晶育成装置を清掃することなくFeGa合金単結晶を繰り返し育成することができる。坩堝10に蓋30が被せられていないと、気泡除去工程において減圧によりガリウムが揮発し、チャンバー19内にある断熱材11、ヒーター12、坩堝受け14等にガリウムが付着してしまう。付着したガリウムを放置してFeGa合金単結晶の育成を開始すると、付着したガリウムの坩堝10内への混入や、原料融液からのガリウムの蒸発量の変化により、単結晶中のガリウム濃度に影響してロットごとにガリウム濃度がばらつくおそれがある。そこで、FeGa合金単結晶の育成を終えた後は、次にFeGa合金単結晶の育成を開始するまでに、付着したガリウムをウエス等で除去する清掃が必要である。
【0040】
ただし、本発明のFeGa合金単結晶の製造方法は、坩堝10に蓋30を被せるため、育成に影響が出る程度にガリウムが揮発して断熱材11、ヒーター12、坩堝受け14等に付着することを防止できる。そのため、清掃を必要とせず、FeGa合金単結晶を繰り返し育成することができる。
【0041】
[蓋]
次に、本発明の一実施形態にかかる蓋について、
図2、3等を参照しつつ、説明する。
【0042】
上述のように、FeGa合金単結晶中のガリウム含有量は、一般的に原料中のガリウム含有量を調整することにより制御する。しかしながら、一方向凝固結晶成長法によりFeGa合金単結晶を製造した場合、原料中のガリウム含有量を同量に調整したとしても、単結晶の直胴部においてガリウム含有量が原子量%で2%程度変動することがあり、同一単結晶内においても磁歪量が大きく異なるものが製造されてしまう、という問題があった。
【0043】
そこで、本発明者らは、
図1の単結晶育成装置100を使用し、垂直ブリッジマン法にて種結晶の配置部分から直胴部にかけて内径が大きくなる増径坩堝10を用い、坩堝10の降下速度を5mm/hで固定して、直径2インチの円柱状のFeGa合金単結晶を育成し、原料組成、単結晶組成、および坩堝10に充填したガリウムと鉄からなる原料の重量と、育成したFeGa合金単結晶の重量の差(以下、「原料ロス重量」とする場合がある)の関係を調査した。この結果、単結晶中のガリウム含有量のばらつきに、融液からのガリウムの蒸発量が関係していることを見出した。元素分析により、ガリウムが蒸発してチャンバー19内の断熱材11、ヒーター12、坩堝受け14等に付着していることを突き止めた。また、そればかりでなく、原料ロス重量が、蒸発したガリウム重量に一致することを突き止めた。
【0044】
充填した原料を融解して融液としたときに、融液表面よりガリウムが蒸発する。融液表面とガリウム蒸気圧が平衡状態になるまでガリウムの蒸発は続く。従って、チャンバー19内の条件によってガリウムの蒸発量は決定される。また、チャンバー19内の清掃を怠ると、チャンバー19内に付着したガリウムも蒸発するために、原料融液からのガリウム蒸発量が変化してしまう。
【0045】
また、充填したガリウムと鉄からなる原料の重量濃度とFeGa合金単結晶の濃度CSには高い相関があり、充填したガリウムと鉄からなる原料の重量濃度により、単結晶の組成が決定されることが分かった。
【0046】
また、原料ロス重量のばらつきを低減するためには、ガリウム蒸気の蒸発を抑制することが有効である。この蒸発を抑制するための方法には、炉内空間を狭めることが挙げられる。例えば、蓋30を被せて、単結晶育成用坩堝10の上部を覆うのが、蒸発を抑制するための方法として一番有効である。
【0047】
本発明のFeGa合金単結晶の製造方法では、上述したように、原料を融解後、真空ポンプ18を作動して、チャンバー19内を減圧し、融解物中の気泡を取り除く気泡除去工程を行う。この気泡除去工程では、鉄とガリウムを出発原料とし、酸化物や窒化物が生じないよう、不活性雰囲気下でこれらの混合物を融解させて、融解物内には気泡が混入するため、融解物を減圧して気泡を除去する。減圧にすることで、鉄やガリウムよりも比重の小さい空気等の気泡が融解物の液面から脱気される。
【0048】
気泡除去工程における融解物の減圧は、当該融解物中の気泡を除去できれば、如何なる態様もとることができるが、減圧時は、融解物が揮発しやすくなるため、処理時間や圧力は適宜選択することが好ましい。例えば、融解物が凝固しないように高温を維持しつつ、真空ポンプ等を用いて、融解物を100Pa~500Paの減圧下に5分~30分程度保持することができる。この時、坩堝10に、坩堝10の内部と外部とを通気する通気孔を備えていない蓋をした場合、内部圧力の上昇により蓋が押し上げられ、あるいは、蓋が飛んでしまう現象が発生することがある。これらの場合、蓋による融解物の揮発抑制効果は得られなくなる。
【0049】
そこで、本発明の蓋は、一方向凝固結晶成長法を用いるFeGa合金単結晶の製造方法に用いる坩堝に被せるべく、例えば
図2、3のように、上記のように気泡除去を妨げないように、坩堝の内部と外部との圧力バランスを取るために、内部と外部とを通気する通気孔31として小さな穴を開けておくことが重要となる。この通気孔31があることで、融解時のガリウムの蒸発は完全には抑制できないが、大幅にガリウムの蒸発を低減できる。また、蓋を被せることにより、坩堝へのゴミの落下を防止することができる。
【0050】
本発明の蓋は、通気孔311つのみ備えることが好ましい。蓋をした坩堝の内部圧力の上昇を抑えるためには、通気孔31が1つ開いていれば足りる。なお、通気孔が2つ以上あってもよいが、細かい通気孔31が複数あっても、揮発したガリウムによって孔が塞がってしまうおそれがあり、大きい通気孔31が複数ある場合には、ガリウムの揮発を十分に抑制できないおそれがある。
【0051】
本発明の蓋の一態様として、蓋30a-1、30a-2を
図2に、蓋30b-1、30b-2を
図3に示す。
図2の蓋30a-1、30a-2は、坩堝10の開口部10aの外形側壁の一部を覆うようにすっぽりと被さる形状のかぶせ蓋である。
図2(a)は円柱状のFeGa合金単結晶を育成する坩堝用の蓋30a-1の斜視図であり、
図2(b)は角柱状のFeGa合金単結晶を育成する坩堝用の蓋30a-2の斜視図である。蓋30a-1、30a-2は、それぞれ中心に直径2mmの通気孔31を1つ備え、角が丸みのある形状をしている。蓋30a-1、30a-2と坩堝10の外径には全周にわたり1mm程度のクリアランスを設けている。蓋30a-1、30a-2は、坩堝10の開口部10aの外形側壁の一部を覆うように形成されるため、坩堝10を囲うヒーター12が大きい場合に使用できる。また、蓋30a-1、30a-2の厚みは坩堝10の厚みと同様の厚みとすることができ、例えば、2mm~5mm程度であり、好ましくは2~3mmである。
【0052】
また、
図3の蓋30b-1、30b-2は、坩堝10の開口部10aに載せる様式のものであり、坩堝10に載せてもズレないよう、蓋30b-1、30b-2の内側に坩堝10の開口部10aの開口断面形状と略同一の凸状に張り出した形状とする座繰り形状の蓋である。
図3(a)は円柱状のFeGa合金単結晶を育成する坩堝用の蓋30b-1の斜視図であり、
図3(b)は角柱状のFeGa合金単結晶を育成する坩堝用の蓋30b-2の斜視図である。蓋30b-1、30b-2は、中心に直径2mmの通気孔31を1つ備えており、厚みは凸状に張り出した部分を含めて10mm程度である。凸状に張り出した部分の厚みは特に限定はないが、例えば6mmである。また、蓋30b-1、30b-2の凸状に張り出した形状と坩堝10の内壁には全周にわたり1mm程度のクリアランスを設けている。蓋30b-1、30b-2の外形は、坩堝外径と同等もしくは、1mm程度大きく設定する。蓋30b-1、30b-2の形状であれば、蓋30a-1、30a-2と比べて坩堝の側面からはみ出す部分が少ないため、坩堝10を囲うヒーター12が大きい場合のみならず、小さい場合においても使用できる。なお、本発明において、使用する単結晶用坩堝の開口断面形に特に限定はない。
図2、3に示す蓋のように、円柱状坩堝や角柱状坩堝に対応して蓋の形状も合わせて、FeGa合金単結晶を作成すことが出来る。
【0053】
なお、
図2、3に示す蓋30a、30bの他にも、さん蓋やのせ蓋等、任意の形状の蓋を用いてもよい。また、通気孔の位置も、蓋30を被せた坩堝10の内部と外部とを通気することができれば、蓋30の中心以外の場所に設けられていてもよい。さらに、通気孔31の直径は、1.5mm~2.5mmであればよく、好ましくは2.0mmである。通気孔31の大きさが3mmを超えると原料融液中のガリウムの揮発を防止する効果が小さくなるおそれがある。また、通気孔31の大きさが1mm未満の場合、原料融液より揮発したガリウムが通気孔の内側面に付着し通気孔31を塞ぐことがある。
【0054】
蓋30の通気孔31の形状は、円形に限定されず、任意に楕円系、多角形等、通気孔を形成するための加工作業の容易な形状にすることができる。なお、上記した原料融液中のガリウムの揮発を防止する効果を保持し、また揮発したガリウムに通気孔が塞がれないよう、通気孔31の水平断面積は1.5~5.0mm2であることが好ましい。
【0055】
蓋30の素材としては、一方向凝固結晶成長法を用いるFeGa合金単結晶の製造条件に適応できるものであれば、特に限定されない。例えばアルミナの焼結物やサファイアを蓋として用いることができる。
【0056】
例えば、
図2に示すかぶせ蓋形状の蓋30aは、焼結法により得られる緻密質のアルミナにより形成することができる。緻密質のアルミナ製の蓋30aの場合、その重量は、
図2に示す寸法の蓋30aで50g程度である。
【0057】
また、
図3に示す座繰り形状の蓋30bは、例えばサファイア結晶を切り出して作製することができる。焼結法により得られるアルミナよりも蓋の厚みを大きくすることができるため、厚みの制約が少なく、10mm程度の厚みの蓋30を作製することが可能である。このため、蓋の重量を
図2の蓋30aに比べ重くすることが可能である。例えば、
図3に示す寸法の蓋30bをサファイアにより形成した場合、重量を100g程度と、
図2の蓋30aと比べて2倍の重さにすることができる。このように、蓋30の重量を重くすることで、気泡除去工程でにおける坩堝10の内部と外部の圧力差による蓋30の飛び出しを防止することができ、FeGa合金単結晶の製造過程において坩堝10を安定して蓋30で押さえることが可能となる。また、サファイア製の坩堝30は焼結法により得られる緻密質のアルミナ製の坩堝30よりも耐久性があり、FeGa合金単結晶の製造に繰り返し使用しても蓋の変形が無く、長期間使用できる。
【0058】
本発明によれば、通気孔を有する蓋の追加により、原料ロス重量は坩堝に蓋を被せない従来方法の2~3重量%に対し、1重量%に抑えられ、より低いガリウム含有量で原料を充填することが可能となる。また、揮発する原料ロスを抑えることで、FeGa合金単結晶を繰り返し育成しても、安定した濃度の単結晶を得ることが出来る。
【0059】
なお、FeGa合金単結晶の育成は一方向凝固結晶成長法を用いればよく、VB法およびVGF法のいずれを採用してもよい。
【0060】
以上のとおり、本発明のFeGa合金単結晶の製造方法および蓋によれば、同一単結晶中のガリウム含有量の濃度差を原子量%で1%以下に制御することができ、所定の単結晶組成のFeGa合金単結晶を廉価かつ大量に製造することができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明について、実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0062】
[実施例1]
まず、室温20℃の環境下で、化学量論比で鉄とガリウムの比率が82:18になるように、すなわちガリウム含有量が原子量%で18.0%となるように、メディアン径が約1mmの粒状鉄原料(純度:99.9%)とガリウム原料(純度:99.99%)を秤量した。秤量したガリウム原料をテフロン(登録商標)容器に投入し、湯煎により融解した。さらに、融解したガリウム原料へ鉄原料を投入し、容器内で攪拌を行った後、室温まで冷却し、混合原料である鉄とガリウムの混合物17を作製した。
【0063】
そして、厚さ3mm、内径52mm、高さ200mmの緻密質アルミナ製の単結晶育成用坩堝10内の下部に、あらかじめ調整したFeGa合金種結晶16(ガリウム含有量が原子量%で17%、円柱形状)を充填し、かつ、当該FeGa合金種結晶16の上に鉄とガリウムの混合物17を充填した。このとき、FeGa合金種結晶16には、主面方位が<100>方位である結晶を使用した。
【0064】
次に、単結晶育成用坩堝10の開口部10aに、
図2(a)に示す緻密質アルミナの焼結物製の蓋30a-1を被せた。蓋30a-1は、中心に直径2mmの通気孔31を1つ備え、外形はφ66mm、厚み3mmとし、坩堝10外形とに1mmのクリアランスを設けた。また、角部が丸みのある形状とした。そして、FeGa合金種結晶16と鉄とガリウムの混合物17が充填された単結晶育成用坩堝10を、
図4に示すように、多孔質アルミナ製の坩堝受け14上に載置し、熱電対15の先端部を単結晶育成用坩堝10の側面に接触させた。
【0065】
次に、可動用ロッド13を駆動させて坩堝受け14をチャンバー19内の最下部にセットした。その後、チャンバー19内にアルゴンガスを導入し、チャンバー19内を大気圧のアルゴン雰囲気に調整した。また、カーボン製の抵抗加熱ヒーターからなる上段ヒーター12a、中段ヒーター12bおよび下段ヒーター12cとしては、独立に制御可能なものを使用した。
【0066】
そして、上段ヒーター12aの温度を1450℃、中段ヒーター12bの温度を1400℃、下段ヒーター12cの温度を1300℃の温度幅で設定し、チャンバー19内の昇温を行った。昇温が終了してチャンバー19内の温度が安定した後、可動用ロッド13を駆動させて坩堝受け14を上昇させることにより、単結晶育成用坩堝10を緩やかな速度で上昇させた。チャンバー19内には上部の温度が高く、下部の温度が低い温度勾配がつくられているので、チャンバー19の上部に移動するに従って単結晶育成用坩堝10内の温度が上昇し、鉄とガリウムの混合物17が融解してその融解物が形成された。
【0067】
混合原料がほぼ融解して融解物となったら、チャンバー19内へのアルゴンガスの導入を抑え、真空ポンプを使用して350Paまでチャンバー19内を減圧し、そのまま、約30分間保持した。次に200Pa以下となるまで2.5Pa/分の勾配で60分かけて徐々に減圧し、融解物中の気泡を除去した(気泡除去工程)。気泡除去工程後、アルゴンガスの導入を再開し、チャンバー19内を1気圧の不活性雰囲気に調整した。
【0068】
上記融解物が形成された単結晶育成用坩堝10の位置する付近で、熱電対15の接触点位置の温度をモニターしながら、可動用ロッド13を駆動させて単結晶育成用坩堝10の位置を数mm上昇させて温度を安定させた。この工程を繰り返して、熱電対15の温度が安定した状態で1350~1400℃の範囲になるよう単結晶育成用坩堝10を上昇させた。単結晶育成用坩堝10を保持する位置が定まったら、3時間保持してシーディングを行った後、可動用ロッド13を駆動させて5mm/hで単結晶育成用坩堝10を降下させ、FeGa合金単結晶の育成を開始した。単結晶育成用坩堝10の降下距離が150mmとなった後、育成を終了した。
【0069】
上記単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝10から育成したFeGa合金単結晶のインゴットを取り出したところ、直径52mm、直胴部40の長さ100mmのFeGa合金の単結晶が得られた。さらに、育成されたFeGa合金の単結晶を切断し、結晶内部を観察したが、目視で確認できるような空孔等の欠陥は確認されなかった。
【0070】
FeGa合金単結晶の直胴開始部41における単結晶中のガリウム含有量(結晶濃度CS)は、原子量%で17.0%となった。そして、直胴開始部41から80mm高い直胴部分42での結晶中ガリウム含有量は、原子量%で18.0%となり、その後直胴部の上に向かって急激にガリウム含有量が増加していた。
【0071】
磁歪材料として使用するのは、FeGa合金単結晶のインゴットの長さが100mmある直胴部40のうち、直胴開始部41と直胴開始部41から80mm高い直胴部分42との間である。実施例1によれば、この間におけるガリウム含有量の濃度差を原子量%で1.0%以内に制御することができた。また、当初の原料におけるガリウム含有量(原子量%で18.0%)との濃度差も、1.0%以内となった。
【0072】
また、単結晶育成装置100を清掃することなく、上記を5回繰り返し、FeGa合金単結晶のインゴットを5本製造した。いずれのインゴットにおいても、上記と同様の結果となり、磁歪材料として使用するインゴットの所定部分におけるガリウム含有量の濃度差を、原子量%で1.0%以内に制御することができ、当初の原料におけるガリウム含有量(原子量%で18.0%)との濃度差も、1.0%以内となった。なお、蓋30aは、3回目のFeGa合金単結晶のインゴットを育成後、冷却時において割れが発生したため、同等の蓋30aに交換し、4回目および5回目のFeGa合金単結晶の育成を行った。
【0073】
[実施例2]
鉄とガリウムの混合物の化学量論比について、鉄とガリウムの比率を81:19(ガリウム含有量が原子量%で19.0%)としたことと、
図3に示すサファイア製の蓋30b-1を坩堝10に被せたこと以外は、実施例1と同様に鉄とガリウムの混合物17を作製し、単結晶の育成を行った。蓋30b-1は、中心に直径2mmの通気孔31を1つ備えており、外径が62mm、凸状に張り出した部分の直径50mm、厚みは凸状に張り出した部分を含めて10mm、凸状に張り出した部分の厚み6mmとした。単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝10から育成したFeGa合金単結晶のインゴットを取り出したところ、直径52mm、直胴部40の長さ100mmのFeGa合金の単結晶が得られた。さらに、育成されたFeGa合金単結晶を切断し、結晶内部を観察したが、目視で確認できるような空孔等の欠陥は確認されなかった。
【0074】
FeGa合金単結晶の直胴開始部41における単結晶中のガリウム含有量(結晶濃度CS)は、原子量%で18.0%となった。直胴開始部41から80mm高い直胴部分42での結晶中ガリウム含有量は、原子量%で19.0%となり、その後直胴部の上に向かって急激にガリウム含有量が増加していた。実施例2によれば、インゴットのうち磁歪材料として使用する部分におけるガリウム含有量の濃度差を、原子量%で1.0%以内に制御することができた。
【0075】
また、単結晶育成装置100を清掃することなく、上記を5回繰り返し、FeGa合金単結晶のインゴットを5本製造した。いずれのインゴットにおいても、上記と同様の結果となり、磁歪材料として使用するインゴットの所定部分におけるガリウム含有量の濃度差を、原子量%で1.0%以内に制御することができた。なお、蓋30bの割れの発生はなく、5回とも同一の蓋30bを用いてFeGa合金単結晶のインゴットを製造することができた。
【0076】
[実施例3]
鉄とガリウムの混合物の化学量論比について、鉄とガリウムの比率を80:20(ガリウム含有量が原子量%で20.0%)としたことと、
図3に示すサファイア製の蓋30b-1を坩堝10に被せたこと以外は、実施例1と同様に鉄とガリウムの混合物17を作製し、単結晶の育成を行った。蓋30b-1は、実施例2と同様の蓋を使用した。単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝10から育成したFeGa合金単結晶のインゴットを取り出したところ、直径52mm、直胴部40の長さ100mmのFeGa合金の単結晶が得られた。さらに、育成されたFeGa合金単結晶を切断し、結晶内部を観察したが、目視で確認できるような空孔等の欠陥は確認されなかった。
【0077】
FeGa合金単結晶の直胴開始部41における単結晶中のガリウム含有量(結晶濃度CS)は、原子量%で19.0%となった。直胴開始部41から80mm高い直胴部分42での結晶中ガリウム含有量は、原子量%で20.0%となり、その後直胴部の上に向かって急激にガリウム含有量が増加していた。実施例3によれば、インゴットのうち磁歪材料として使用する部分におけるガリウム含有量の濃度差を原子量%で1.0%以内に制御することができた。また、当初の原料におけるガリウム含有量(原子量%で20.0%)との濃度差も、1.0%以内となった。
【0078】
また、単結晶育成装置100を清掃することなく、上記を5回繰り返し、FeGa合金単結晶のインゴットを5本製造した。いずれのインゴットにおいても、上記と同様の結果となり、磁歪材料として使用するインゴットの所定部分におけるガリウム含有量の濃度差を、原子量%で1.0%以内に制御することができ、当初の原料におけるガリウム含有量(原子量%で20.0%)との濃度差も、1.0%以内となった。なお、蓋30bの割れの発生はなく、5回とも同一の蓋30bを用いてFeGa合金単結晶のインゴットを製造することができた。
【0079】
[実施例4]
鉄とガリウムの混合物の化学量論比について、鉄とガリウムの比率を81:19(ガリウム含有量が原子量%で19.0%)、10mm/hで単結晶育成用坩堝10を降下させたことと、
図3に示すサファイア製の蓋30b-1を坩堝10に被せたこと以外は、実施例1と同様に鉄とガリウムの混合物17を作製し、単結晶の育成を行った。蓋30b-1は、実施例2と同様の蓋を使用した。単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝10から育成したFeGa合金単結晶のインゴットを取り出したところ、直径52mm、直胴部40の長さ100mmのFeGa合金の単結晶が得られた。さらに、育成されたFeGa合金単結晶を切断し、結晶内部を観察したが、目視で確認できるような空孔等の欠陥は確認されなかった。
【0080】
FeGa合金単結晶の直胴開始部41における単結晶中のガリウム含有量(結晶濃度CS)は、原子量%で18.0%となった。直胴開始部41から85mm高い直胴部分42での結晶中ガリウム含有量は、原子量%で19.0%となり、その後直胴部の上に向かって急激にガリウム含有量が増加していた。実施例4によれば、インゴットのうち磁歪材料として使用する部分におけるガリウム含有量の濃度差を原子量%で1.0%以内に制御することができた。また、当初の原料におけるガリウム含有量(原子量%で19.0%)との濃度差も、1.0%以内となった。
【0081】
また、単結晶育成装置100を清掃することなく、上記を5回繰り返し、FeGa合金単結晶のインゴットを5本製造した。いずれのインゴットにおいても、上記と同様の結果となり、磁歪材料として使用するインゴットの所定部分におけるガリウム含有量の濃度差を、原子量%で1.0%以内に制御することができ、当初の原料におけるガリウム含有量(原子量%で19.0%)との濃度差も、1.0%以内となった。なお、蓋30bの割れの発生はなく、5回とも同一の蓋30bを用いてFeGa合金単結晶のインゴットを製造することができた。
【0082】
[比較例1]
鉄とガリウムの混合物の化学量論比について、鉄とガリウムの比率を80:20(ガリウム含有量が原子量%で20.0%)としたこと、単結晶育成用坩堝10の上部に緻密質アルミナ製の坩堝蓋30aを被せずに開口部10aを開放状態としたこと以外は、実施例1と同様に鉄とガリウムの混合物17を作製し、単結晶の育成を行った。単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝10から育成したFeGa合金単結晶のインゴットを取り出したところ、直径52mm、直胴部40の長さ100mmのFeGa合金の単結晶が得られた。さらに、育成されたFeGa合金単結晶を切断し、結晶内部を観察したが、目視で確認できるような空孔等の欠陥は確認されなかった。
【0083】
FeGa合金単結晶の直胴開始部41における単結晶中のガリウム含有量(結晶濃度CS)は、原子量%で17.0%となった。直胴開始部41から80mm高い直胴部分42での結晶中ガリウム含有量は、原子量%で18.0%となり、その後直胴部の上に向かって急激にガリウム含有量が増加していた。比較例1によれば、インゴットのうち磁歪材料として使用する部分におけるガリウム含有量の濃度差を原子量%で1.0%以内に制御することができた。ただし、当初の原料におけるガリウム含有量(原子量%で20%)との濃度差が、2.0~3.0%となり、原料としてはガリウムが揮発することを考慮して、ガリウムを多めにしておく必要があることが示唆された。
【0084】
次に、チャンバー19内に揮発したガリウム付着物をウエスでふき取って除去する清掃を行い、上記を5回繰り返し、FeGa合金単結晶のインゴットを5本製造した。いずれのインゴットにおいても、上記と同様の結果となった。
【0085】
次に、FeGa合金単結晶の製造後、チャンバー19内の清掃をせずに、上記と同条件でFeGa合金単結晶の製造を行ったところ、ガリウムの蒸発量が減少した。FeGa合金単結晶の直胴開始部41における単結晶中のガリウム含有量(結晶濃度CS)は、原子量%で18.0%となった。直胴開始部41から80mm高い直胴部分42での結晶中ガリウム含有量は、原子量%で19.0%となり、その後直胴部の上に向かって急激にガリウム含有量が増加していた。比較例1によれば、インゴットのうち磁歪材料として使用する部分におけるガリウム含有量の濃度差を原子量%で1.0%以内に制御することができた。ただし、当初の原料におけるガリウム含有量(原子量%で20%)との濃度差が、1.0~2.0%となり、原料としてはガリウムを多めにしておく必要があることが示唆された。また、FeGa合金単結晶の製造後はチャンバー19内の清掃をしないと、製造後のFeGa合金単結晶のガリウム含有量がロットごとにばらつくことが示唆された。
【0086】
[まとめ]
以上の実施例1~4、比較例1の結果より、原料融液からのガリウム蒸発量を制御することで、育成後のFeGa合金の単結晶の組成が決定されることが分かる。すなわち、本発明であれば、FeGa合金単結晶の組成を再現性よく制御することが可能となり、安定した品質のFeGa合金単結晶を廉価かつ大量に製造できることは、明らかである。
【符号の説明】
【0087】
10 単結晶育成用坩堝、10a 開口部、11 断熱材、12 抵抗加熱ヒーター、12a 上段ヒーター、12b 中段ヒーター、12c 下段ヒーター、13 可動用ロッド、14 坩堝受け、15 熱電対、16 鉄ガリウム合金種結晶、17 鉄とガリウムの混合物、18 真空ポンプ、19 チャンバー、30 蓋、30a-1 蓋、30a-2 蓋、30b-1 蓋、30b-2 蓋、31 通気孔、40 直胴部、41 直胴開始部、42 直胴部分、100 単結晶育成装置