(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】流体制御弁用診断装置、流体制御装置、及び流体制御弁用診断プログラム
(51)【国際特許分類】
G05D 7/06 20060101AFI20240321BHJP
F16K 37/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
F16K37/00 D
(21)【出願番号】P 2018547217
(86)(22)【出願日】2017-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2017035040
(87)【国際公開番号】W WO2018079173
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-08-17
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2016211660
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】西川 正巳
【合議体】
【審判長】渋谷 善弘
【審判官】刈間 宏信
【審判官】大山 健
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-186179(JP,A)
【文献】特開平1-244330(JP,A)
【文献】特開2015-121898(JP,A)
【文献】特開平10-332040(JP,A)
【文献】特開2016-142286(JP,A)
【文献】特開2001-271962(JP,A)
【文献】特開2010-43962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/06 F16K 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体を変位させて流体を制御する流体制御弁と、
前記流体の流量を測定する流量測定機構と、
前記流量測定機構により測定された流量に基づいて前記流体制御弁を制御する制御回路と、
前記流体制御弁に用いられる流体制御弁用診断装置とを備える流体制御装置であり、
前記流体制御弁用診断装置が、
前記流体制御弁を全閉又は全開するために外部から入力される全開信号及び前記全開信号とは別の全閉信号を受け付ける全開/全閉信号受付部と、
前記全開信号又は前記全閉信号に基づいて、前記弁体の変位を検知する変位検知部と、
前記変位検知部により検知された変位の回数を記憶する変位回数記憶部とを備え、
前記変位検知部が、前記全開/全閉信号受付部が前記全開信号を受け付けた場合に、そのことを前記弁体の変位として検知して1回の変位回数としてカウントし、前記全開/全閉信号受付部が前記全開信号とは別の前記全閉信号を受け付けた場合に、そのことを前記弁体の変位として検知して1回の変位回数としてカウントするものであり、
前記制御回路を構成する回路基板の一部が、前記流体制御弁用診断装置に兼用されている流体制御装置。
【請求項2】
前記弁体の変位に関連して入出力される弁体関連値を受け付ける弁体関連値受付部をさらに備え、
前記変位検知部が、前記弁体関連値の変動量が所定の閾値を超えた場合に、そのことを前記弁体の変位として検知する請求項1記載の流体制御装置。
【請求項3】
前記変位回数記憶部により記憶された変位回数と所定回数とを比較して、前記変位回数が前記所定回数を超えた場合に、そのことを示す報知信号を出力する報知部をさらに備えている請求項1記載の流体制御装置。
【請求項4】
前記弁体関連値が、前記流体の算出流量、前記流体の設定流量、前記弁体を変位させる駆動電圧、又は、前記弁体の位置に応じて出力される電流或いは電圧である請求項
2記載の流体制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体制御弁用診断装置、流体制御装置、及び流体制御弁用診断プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体制御弁としては、特許文献1に示すよう、弁座に対して弁体を変位させることで例えば流体の流量を制御するものがある。このような流体制御弁を備える流体制御装置は、例えば耐久年数を決めて管理されており、その耐久年数を超えたものについてはメンテナンスや交換が行われる。
【0003】
ところで、定期的にメンテナンスを行っていたとしても、或いは耐久年数を超えていなかったとしても流体制御装置に不具合が生じることがある。本願発明者は、この原因として、流体制御弁の動作に伴う劣化が挙げられることに着目し、これが原因で流体制御装置に不具合が生じる前に、流体制御装置を交換できるようにすることを検討した。
【0004】
しかしながら、従来、流体制御装置から流体制御弁の動作に関する情報を得ることはできておらず、流体制御弁の動作に伴う劣化の影響を評価することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであって、流体制御装置から流体制御弁の動作に関する情報を得ることができるようにすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の流体制御弁用診断装置は、弁体を変位させて流体を制御する流体制御弁の診断装置であり、前記弁体の変位に関連して入出力される弁体関連値を受け付ける弁体関連値受付部と、前記弁体関連値に基づいて、前記弁体の変位を検知する変位検知部と、前記変位検知部により得られた変位の回数を記憶する変位回数記憶部とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
このような流体制御弁用診断装置であれば、弁体の変位回数を検知するとともにその変位回数を記憶しているので、流体制御装置から流体制御弁の動作に関する情報を得ることができる。これにより、流体制御弁の動作に伴う劣化の影響を評価することができ、ひいては流体制御弁の動作に伴う劣化による影響で流体制御装置に不具合が生じてしまう前にユーザにメンテナンスを促すことが可能となる。
【0009】
前記変位検知部の具体的な実施態様としては、前記弁体関連値の変動量が所定の閾値を超えた場合に、そのことを前記弁体の変位として検知する構成や、前記流体制御弁が全開位置又は全閉位置に移動した場合に、そのことを前記弁体の変位として検知する構成が挙げられる。
このような構成であれば、例えばノイズなどの影響で弁体が動いた場合など、弁体の動きが僅かであれば、その動きは変位といて検知されないようにすることができるので、流体制御弁の動作に伴う劣化の影響をより正しく評価することが可能となる。
【0010】
流体制御弁の動作に伴う劣化によって流体制御装置の交換やメンテナンスが必要であることをユーザに報知するためには、前記変位回数記憶部により記憶された変位回数と所定回数とを比較して、前記変位回数が前記所定回数を超えた場合に、そのことを示す報知信号を出力する報知部をさらに備えていることが好ましい。
【0011】
前記弁体関連値としては、前記流体の算出流量、前記流体の設定流量、前記弁体を変位させる駆動電圧、又は、前記弁体の位置に応じて出力される電流或いは電圧などを挙げることができる。
【0012】
また、本発明に係る流体制御装置は、上述した流体制御弁及び流体制御弁用診断装置を備えることを特徴とするものである。
さらに、本発明に係る流体制御装置用診断プログラムは、弁体を変位させて流体を制御する流体制御弁の診断に用いられるプログラムであり、前記弁体の変位に関連して入出力される弁体関連値を受け付ける弁体関連値受付部と、前記弁体関連値に基づいて、前記弁体の変位を検知する変位検知部と、前記変位検知部により得られた変位の回数を記憶する変位回数記憶部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とするプログラムである。
このような流体制御装置や流体制御装置用診断プログラムによれば、上述した流体制御弁用診断装置と同様の作用効果を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0013】
このように構成した本発明によれば、流体制御装置の流体制御弁の動作に関する情報を得ることができ、流体制御弁の動作に伴う劣化の影響を評価することで流体制御装置に不具合が生じてしまう前にユーザにメンテナンスを促すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の流体制御装置の回路構成を模式的に示す図。
【
図2】同実施形態の流体制御装置の全体構成を模式的に示す図。
【
図3】同実施形態の診断装置の機能を示す機能ブロック図。
【
図4】同実施形態の診断装置の動作を説明するための図。
【符号の説明】
【0015】
200・・・診断装置
100・・・流体制御装置
20 ・・・流体制御弁
22 ・・・弁体
40 ・・・診断装置
41 ・・・弁体関連値受付部
42 ・・・変位検知部
43 ・・・変位回数記憶部
44 ・・・報知部
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る流体制御弁用診断装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
本実施形態の流体制御弁用診断装置40は、流体制御装置100を構成する流体制御弁20を診断するためのものである。まず始めに流体制御装置100について簡単に説明する。
【0018】
本実施形態に係る流体制御装置100は、例えばガスパネルに搭載されて半導体製造装置の材料供給ラインの一部を構成するもので、
図1に流体回路図、
図2に全体構成の断面図を示すように、流体が流れる内部流路1aを有するボディユニット1と、内部流路1a上に設けられて内部流路1aを流れる流体の質量流量を測定する流量測定機構10と、この流量測定機構10よりも上流側に設けられた流体制御弁20と、流量測定機構10による測定流量が予め定めた目標流量になるように流体制御弁20を制御する制御回路30(
図2には示していない)とから構成されたマスフローコントローラである。
【0019】
流量測定機構10は、いわゆる差圧式のものであり、流体回路的にいえば、
図1に示すように、内部流路1a上に設けた抵抗流路3と、該抵抗流路3の上流側及び下流側における内部流路1a内の流体圧力を計測する一対の圧力センサ2A、2Bとからなるものである。そして、圧力センサ2A、2Bによる圧力計測値と抵抗流路3の抵抗値とに基づいて、内部流路1aを流れる流体の流量を測定可能に構成してある。
【0020】
流体制御弁20は、
図2に示すように、弁座21及び弁体22と、積層圧電素子23とを備え、積層圧電素子23に駆動電圧を印加して積層圧電素子23を伸縮させることで、弁座21に対して弁体22が変位して、流体の流量などが制御されるように構成されたものである。弁体22は、積層圧電素子23の伸縮に伴って変位するものであり、ここでは少なくともダイアフラムを有したものである。
なお、流体制御弁20は、ノーマルクローズタイプのものであっても良いし、ノーマルオープンタイプのものであっても良い。
【0021】
図1に示す制御回路30は、CPU、メモリ、I/Oチャネル、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、その他のアナログ乃至デジタル電気回路を搭載した回路基板により構成されており、前記メモリに格納されたプログラムにしたがってCPUやその他周辺機器が協働することによって、流体制御弁20を制御し、内部流路1aの流体流量を、外部から指示した設定流量となるように制御する。
より具体的に説明すると、この制御回路30は、少なくとも流量算出部31及び弁制御部32としての機能を備えており、ここでは流体制御弁20を強制的に全開または全閉するために外部から入力される全開信号及び全閉信号を受け付ける全開/全閉信号受付部33としての機能をさらに備えている。
【0022】
流量算出部31は、各圧力センサ2A、2Bからの出力信号値を受信すると、それら出力信号値から、オフセットや係数などを考慮した所定の変換式に基づいて、抵抗流路3の上流側及び下流側における流体の圧力を算出し、それら圧力と予め測定してある抵抗流路3での流体抵抗値(抵抗係数)や流体粘性等に基づいて、抵抗流路3を流れる流体の流量を算出する。
【0023】
そして、オペレータや外部の他の機器から設定流量が与えられると、弁制御部32がその設定流量と前記算出流量との偏差を算出し、その偏差に基づいて、前記算出流量が設定流量に近づくように、積層圧電素子23に印加される駆動電圧を制御して弁体22を変位させ、内部流路1aを流れる流体の流量を制御する。
【0024】
しかして、本実施形態の流体制御装置100は、流体制御弁用診断装置40(以下、診断装置40という)をさらに備えている。
診断装置40は、上述した制御回路30とは別にCPU、メモリ、その他のアナログ乃至デジタル電気回路を搭載した回路基板を備えたものであっても良いが、ここでは制御回路30を構成する回路基板の一部を診断装置40に兼用している。この診断装置40は、機能的には前記メモリに格納されたプログラムにしたがってCPUやその他周辺機器が協働することによって、
図3に示すように、弁体関連値受付部41、変位検知部42、変位回数記憶部43、及び報知部44を備えたものである。
【0025】
弁体関連値受付部41は、弁体22の変位に関連して入出力される弁体関連値を受け付ける。
弁体関連値は、その値が変動することで弁体22が変位する値や、弁体22が変位することで変動する値であり、流体の制御内容が変わることで変動する値である。前者の例としては、外部から入力される設定流量や、弁体22を変位させるために積層圧電素子23に入力される駆動電圧などが挙げられる。一方、後者の例としては、弁体22の位置を検出する位置センサから出力される電流又は電圧や、制御回路30により算出される算出流量などが挙げられる。
本実施形態の弁体関連値受付部41は、少なくとも上述した算出流量を流量算出部31から受け付けるように構成されている。
【0026】
変位検知部42は、弁体関連値受付部41により受け付けられた弁体関連値に基づいて、弁体の変位を検知する。
具体的にこの変位検知部42は、弁体22が劣化につながる程度に変位した場合に、その変位を1回の変位回数としてカウントするものであり、例えばノイズなどの影響で弁体22が僅かに変位する場合には、そのことを変位回数としてカウントしないように構成されている。
ここでの変位検知部42は、
図4に示すように、弁体関連値受付部41が受け付けた算出流量の経時変化に基づき変位を検知してその変位回数をカウントする。より詳細には、算出流量の変動量が閾値を超えた場合に、そのことを1回の変位回数としてカウントする。
より具体的に説明すると、例えば設定流量がQ1からQ2に変更された場合、その変更に伴って算出流量はQ1からQ2に向かって変動する。そして、この算出流量のQ1からの変動量が、閾値として設定された一定流量(例えばフルスケールの10%の流量)を超えた状態が一定時間(例えば10msec)続いた場合に、そのことが1回の変位回数としてカウントされる。なお、前記一定流量や前記一定時間の設定値は、適宜変更して構わない。
【0027】
さらに本実施形態では、流体制御弁20を強制的に全開または全閉にした場合に弁体22が大きく変位する可能性が高いことから、変位検知部42は、全開/全閉信号受付部33が受け付けた全開信号及び全閉信号の受付回数、言い換えれば外部から全開信号及び全閉信号が入力された入力回数を、それぞれ1回の変位回数としてカウントする。
【0028】
変位回数記憶部43は、前記メモリの所定領域に形成されており、前記変位検知部42によりカウントされた変位回数を記憶するものであり、ここでは所定時間(例えば1時間)経過するたびに変位回数が変位回数記憶部43に積算して記憶されるようにしてある。なお、変位回数記憶部43は、SDカード等の外部メモリに形成されていても良い。
【0029】
報知部44は、変位回数記憶部43に積算して記憶された変位回数が所定の警告回数を超えた場合に、そのことを示す報知信号を出力する。
この報知部44の具体的な態様としては、変位回数が所定の警告回数を超えた場合に、音や光などを発したり、診断装置40に付帯させた或いは接続させたディスプレイに警告表示を出力したり、種々考えられる。
なお、警告回数は予め設定された回数であるが、ある1つの回数に設定されていても良いし、段階的に複数の回数に設定されていても良い。後者の場合、例えば第1の警告回数によって流体制御弁の劣化によるメンテナンス時期が近いことを示し、第2の警告回数によって流体制御弁の劣化によるメンテナンスが必要であることを示すようにしても良い。
【0030】
このように構成された本実施形態に係る流体制御装置100によれば、診断装置40が弁体22の変位を検知してその変位回数をカウントするとともに、その変位回数を記憶しているので、流体制御弁20の動作に関する情報を得ることができ、流体制御弁20の動作に伴う劣化が流体制御装置の動作にどのような影響を及ぼすかを評価することができる。
【0031】
また、変位回数記憶部43に記憶されている変位回数が所定の警告回数を超えた場合に、報知部44がそのことを報知するので、流体制御弁20の動作に伴う劣化によって流体制御装置100に不具合が生じてしまう前に、ユーザに流体制御装置100のメンテナンスや交換を促すことができる。
【0032】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0033】
例えば、前記実施形態の変位検知部は、算出流量の変動量が閾値を超えた場合に弁体の変位を検知していたが、積層圧電素子に入力される駆動電圧の変動量や、弁体の位置に応じて出力される電流又は電圧の変動量や、設定流量の変動量が閾値を超えた場合に、そのことを弁体の変位として検知しても良い。
この場合、変位回数記憶部は、上述した変位回数を全て積算して記憶しても良いし、変位回数を場合毎に積算して記憶しても良い。
【0034】
また、前記実施形態の診断装置は報知部としての機能を備えていたが、報知部は必ずしも備えさせていなくても良い。
このような場合であっても、変位回数記憶部に記憶されている変位回数を確認することで、流体制御弁の動作に伴う劣化の影響を評価することができる。
【0035】
そのうえ、前記実施形態では診断装置を流体制御装置に備えさせていたが、診断装置は流体制御装置と別体であっても良い。具体的には、例えばMOCVD等の気相成長装置が、材料ガスやキャリアガス等を制御する複数の流体制御装置と、これらの流体制御装置とは別に設けられた本発明に係る診断装置とを備え、この診断装置が各流体制御装置の流体制御弁の動作に関する情報を得るように構成されたものが挙げられる。
このような構成であれば、診断装置が複数の流体制御装置の流体制御弁の動作に関する情報を得るので、気相成長装置において、複数の流体制御装置を一元管理することができる。
【0036】
さらに、前記実施形態の流量測定機構は、差圧式のものであったが、熱式やコリオリ式や超音波式のものであっても良い。
【0037】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
このように本発明によれば、流体制御装置の流体制御弁の動作に関する情報を得ることができ、流体制御弁の動作に伴う劣化の影響を評価することで流体制御装置に不具合が生じてしまう前にユーザにメンテナンスを促すことが可能となる。