(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】米飯食品及び米飯食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20240321BHJP
【FI】
A23L7/10 B
A23L7/10 E
(21)【出願番号】P 2019137594
(22)【出願日】2019-07-26
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】野口 由里香
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-099295(JP,A)
【文献】特開平04-112759(JP,A)
【文献】特開2009-118760(JP,A)
【文献】特開2001-178384(JP,A)
【文献】特開昭57-118762(JP,A)
【文献】特開2003-023982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料米にリパーゼを添加し、油脂の存在下で炊飯する炊飯工程と、
前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を凍結する、または、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を調理する調理工程で得た調理済み米飯食品を凍結する、冷凍工程と、
前記冷凍工程で得た凍結した米飯食品を、チルド温度帯で解凍する解凍工程と、
を有
し、
リパーゼの添加量が、原料米1gあたり2.0~4000ユニットである、米飯食品の製造方法。
【請求項2】
解凍工程が、前記冷凍工程で得た凍結した米飯食品を、チルド温度帯で保存、流通及び/又は販売する工程である、請求項1に記載の米飯食品の製造方法。
【請求項3】
チルド温度帯が-5~10℃である、請求項1又は2に記載の米飯食品の製造方法。
【請求項4】
前記炊飯工程において、前記油脂を、前記原料米100gに対して3g以上用いる、請求項1~3のいずれかに記載の米飯食品の製造方法。
【請求項5】
炊飯工程において、米の品温が70℃に達温するまでの時間が、5~30分間である、請求項1~
4のいずれかに記載の米飯食品の製造方法。
【請求項6】
炊飯工程の前に、原料米とリパーゼを水の存在下で、4~40℃で5分間~10時間浸漬する浸漬工程を有する、請求項1~
5のいずれかに記載の米飯食品の製造方法。
【請求項7】
リパーゼの添加量が、原料米1gあたり
4~
2000ユニットである、請求項1~
6のいずれかに記載の米飯食品の製造方法。
【請求項8】
リパーゼに加えグルコースオキシダーゼを添加する、請求項1~
7のいずれかに記載の米飯食品の製造方法。
【請求項9】
グルコースオキシダーゼの添加量が、原料米1gあたり0.15~5.0ユニットである、請求項
8に記載の米飯食品の製造方法。
【請求項10】
リパーゼ1ユニットに対して、グルコースオキシダーゼを0.000375~0.75ユニット添加する、請求項
8又は
9に記載の米飯食品の製造方法。
【請求項11】
原料米にリパーゼを添加し、油脂の存在下で炊飯する炊飯工程を有する、凍結した米飯食品のチルド温度帯での解凍後における食感の劣化抑制方法
であって、リパーゼの添加量が、原料米1gあたり2.0~4000ユニットである、方法。
【請求項12】
凍結した米飯食品のチルド温度帯での解凍後における食感の劣化抑制のための、炊飯におけるリパーゼおよび油脂の使用
であって、リパーゼを、原料米1gあたり2.0~4000ユニット添加する、使用。
【請求項13】
原料米にリパーゼを添加し、油脂の存在下で炊飯する炊飯工程と、
前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を凍結する、または、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を調理する調理工程で得た調理済み米飯食品を凍結する、冷凍工程と、
前記冷凍工程で得た凍結した米飯食品を、チルド温度帯で解凍する解凍工程と、
により得られ
、
前記炊飯工程におけるリパーゼの添加量が、原料米1gあたり2.0~4000ユニットである、米飯食品。
【請求項14】
解凍工程が、前記冷凍工程で得た凍結した米飯食品を、チルド温度帯で保存、流通及び/又は販売する工程である、請求項
13に記載の米飯食品。
【請求項15】
チルド温度帯が-5~10℃である、請求項
13又は
14に記載の米飯食品。
【請求項16】
前記炊飯工程において、前記油脂を、前記原料米100gに対して3g以上用いる、請求項
13~
15のいずれかに記載の米飯食品。
【請求項17】
炊飯工程において、米の品温が70℃に達温するまでの時間が、5~30分間である、請求項
13~
16のいずれかに記載の米飯食品。
【請求項18】
炊飯工程の前に、原料米とリパーゼを水の存在下で、4~40℃で5分間~10時間浸漬する浸漬工程を有する、請求項
13~
17のいずれかに記載の米飯食品。
【請求項19】
前記炊飯工程におけるリパーゼの添加量が、原料米1gあたり
4~
2000ユニットである、請求項
13~
18のいずれかに記載の米飯食品。
【請求項20】
前記炊飯工程において、リパーゼに加えグルコースオキシダーゼを添加する、請求項
13~
19のいずれかに記載の米飯食品。
【請求項21】
前記炊飯工程におけるグルコースオキシダーゼの添加量が、原料米1gあたり0.15~5.0ユニットである、請求項
20に記載の米飯食品。
【請求項22】
前記炊飯工程において、リパーゼ1ユニットに対して、グルコースオキシダーゼを0.000375~0.75ユニット添加する、請求項
20又は
21に記載の米飯食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米飯食品の食感を良好に維持する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、核家族化や個食化の進展などを背景に、スーパーやコンビニエンスストア等で販売される調理済み米飯食品の需要が伸びている。調理済み米飯食品の多くは、流通前に冷凍又は冷蔵の冷却工程を有する。調理直後の米飯食品に比べ、冷却工程を経た米飯食品は、硬くぼそぼそとした食感や、ふっくら感の欠ける食感になるため、食感向上が望まれている。
【0003】
米飯食品の食感向上を目的として、米の主成分である澱粉やタンパク質に作用する酵素を添加することが検討されてきた。例えば、炊飯後の米飯に糖化型アミラーゼの水溶液を噴霧添加すること(特許文献1)、トランスグルタミナーゼ、α―グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼからなる酵素製剤を添加すること(特許文献2)等が開示されている。また、リパーゼを米の浸漬時に添加して炊飯すること(特許文献3)、精白米にアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ等の酵素と、食塩及びサイクロデキストリンを混合して炊飯すること(特許文献4)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭60-199355号
【文献】特許第5582308号
【文献】特開2003-23982
【文献】特開昭58-86050号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、冷却工程を有する米飯食品、特に、冷却工程が冷凍工程であり、前記冷凍工程後に解凍工程を有する米飯食品の食感を良好に維持することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、原料米にリパーゼを添加し、油脂の存在下で炊飯する炊飯工程と、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を冷却する冷却工程とを有する、米飯食品の製造方法である。
【0007】
また本発明は、原料米にリパーゼを添加し、油脂の存在下で炊飯する炊飯工程と、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を冷却する冷却工程により得られる、米飯食品である。
【0008】
本発明は、(1)~(26)を要旨とする。
(1)原料米にリパーゼを添加し、油脂の存在下で炊飯する炊飯工程と、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を冷却する冷却工程とを有する、米飯食品の製造方法。
(2)炊飯工程の後に、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を調理する調理工程を有し、前記調理工程で得た調理済み米飯食品を冷却する冷却工程を有する、(1)に記載の米飯食品の製造方法。
(3)冷却工程が、前記炊飯済み米飯食品または前記調理済み米飯食品の品温が-5℃以上5℃以下になるまで冷却する冷蔵工程である、(1)又は(2)に記載の米飯食品の製造方法。
(4)冷却工程が、前記炊飯済み米飯食品または前記調理済み米飯食品を凍結する冷凍工程である、(1)又は(2)に記載の米飯食品の製造方法。
(5)冷凍工程で得た凍結した米飯食品を、チルド温度帯で解凍する解凍工程を有する、(4)に記載の米飯食品の製造方法。
(6)解凍工程が、前記冷凍工程で得た凍結した米飯食品を、チルド温度帯で保存、流通及び/又は販売する工程である、(5)に記載の米飯食品の製造方法。
(7)チルド温度帯が-5~10℃である(5)又は(6)に記載の米飯食品の製造方法。
(8)炊飯工程において、米の品温が70℃に達温するまでの時間が、5~30分間である、(1)~(7)に記載の米飯食品の製造方法。
(9)炊飯工程の前に、原料米とリパーゼを水の存在下で、4~40℃で5分間~10時間浸漬する浸漬工程を有する、(1)~(8)に記載の米飯食品の製造方法。
(10)リパーゼに加えグルコースオキシダーゼを添加する、(1)~(9)に記載の米飯食品の製造方法。
(11)リパーゼの添加量が、原料米1gあたり2.0~4000ユニットである、(1)~(10)に記載の米飯食品の製造方法。
(12)グルコースオキシダーゼの添加量が、原料米1gあたり0.15~5.0ユニットである、(10)又は(11)に記載の米飯食品の製造方法。
(13)リパーゼ1ユニットに対して、グルコースオキシダーゼを0.000375~0.75ユニット添加する、(10)~(12)に記載の米飯食品の製造方法。
(14)原料米にリパーゼを添加し、油脂の存在下で炊飯する炊飯工程と、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を冷却する冷却工程により得られる米飯食品。
(15)炊飯工程の後に、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を調理する調理工程を有し、前記調理工程で得た調理済み米飯食品を冷却する冷却工程により得られる、(14)に記載の米飯食品。
(16)冷却工程が、前記炊飯済み米飯食品または前記調理済み米飯食品の品温が-5℃以上5℃以下になるまで冷却する冷蔵工程である、(14)又は(15)に記載の米飯食品。
(17)冷却工程が、前記炊飯済み米飯食品または前記調理済み米飯食品を凍結する冷凍工程である、(14)又は(15)に記載の米飯食品。
(18)冷凍工程で得た凍結した米飯食品を、チルド温度帯で解凍する解凍工程を有する、(17)に記載の米飯食品。
(19)解凍工程が、前記冷凍工程で得た凍結した米飯食品を、チルド温度帯で保存、流通及び/又は販売する工程である、(18)に記載の米飯食品。
(20)チルド温度帯が-5~10℃である(18)又は(19)に記載の米飯食品。
(21)炊飯工程において、米の品温が70℃に達温するまでの時間が、5~30分間である、(14)~(20)に記載の米飯食品。
(22)炊飯工程の前に、原料米とリパーゼを水の存在下で、4~40℃で5分間~10時間浸漬する浸漬工程を有する、(14)~(21)に記載の米飯食品。
(23)リパーゼに加えグルコースオキシダーゼを添加する、(14)~(22)に記載の米飯食品。
(24)リパーゼの添加量が、原料米1gあたり2.0~4000ユニットである、(14)~(23)に記載の米飯食品。
(25)グルコースオキシダーゼの添加量が、原料米1gあたり0.15~5.0ユニットである、(23)又は(24)に記載の米飯食品。
(26)リパーゼ1ユニットに対して、グルコースオキシダーゼを0.000375~0.75ユニット添加する、(23)~(25)に記載の米飯食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷却工程を有する調理済み米飯食品の食感を良好に維持することが可能な、米飯食品の製造方法を提供することができる。本発明によって得られた米飯食品は、冷凍~冷蔵の温度帯での保存、流通/及び販売に適している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における米飯食品の製造方法は、原料米にリパーゼを添加し、油脂の存在下で炊飯する炊飯工程と、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を冷却する冷却工程とを有する、米飯食品の製造方法である。
【0011】
本発明における米飯食品の製造方法は、前記炊飯工程の後に、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を調理する調理工程を有し、前記調理工程で得た調理済み米飯食品を冷却する冷却工程を有する、米飯食品の製造方法である。
【0012】
本発明の米飯食品の製造方法は、上記構成とすることにより、冷却工程後の米飯食品の食感を良好に維持することができる。
すなわち、本発明者らは、冷却工程後の米飯食品の経時に伴う食感の劣化を抑制し、米飯食品の食感を良好に維持するために、原料米にリパーゼを添加し、油脂の存在下で炊飯することが意外にも有効であることを見出した。本発明の米飯食品の製造方法は、この知見に基づくものである。
【0013】
本発明において炊飯工程は、原料米にリパーゼを添加し、油脂の存在下で炊飯することにより行われる。リパーゼと油脂は、炊飯の直前または一定時間前に添加することができる。リパーゼと油脂を添加する順序に制限はなく、リパーゼを先に添加し、一定時間経過後、油脂を添加してもよく、油脂を先に添加し、一定時間経過後、リパーゼを添加してもよい。また、リパーゼと油脂を同時に添加してもよい。原料米にリパーゼを添加し、油脂の存在下で炊飯することにより、油脂の非存在下で炊飯した場合と比べて、冷却工程を有する米飯食品の食感を良好に維持することができた。特に、冷却工程が冷凍工程であり、冷凍工程後に解凍工程を有する米飯食品の食感を良好に維持することができた。
【0014】
本発明において炊飯工程は、原料米の重量に対して、1.0~1.5倍の水を加え、炊飯することができる。また、原料米を洗米後、吸水のため水に浸漬した後に、炊飯することができる。炊飯窯を用いて炊飯する場合は、一つの窯に対して約150g~10kgの原料米を用いることができる。コンベアを用いて連続的に炊飯する場合は、約50kg~1t/時間の原料米を用いることができる。また、炊飯工程は、調味料及び/又は具材を伴い調理を含む工程としてもよい。炊飯工程は、加熱工程を含むことができる。加熱工程としては、例えば、煮る工程、炊く工程、蒸す工程が挙げられる。炊飯工程において引き起こされる、原料米の澱粉の糊化は米飯食品の食感の向上に寄与し得る。
【0015】
リパーゼは油脂に作用する酵素であり、油脂の存在下で、安定に反応し得る。原料米の食感に関係する構造は、リパーゼによる反応で変化する場合がある。原料米の表層に存在する性質が変化することは、米飯食品の食感の向上に寄与しやすい。
【0016】
本発明において調理工程は、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を調理することにより行われる。該調理工程において、炊飯済み米飯食品に、調味料及び/又は具材を添加することができる。また、該調理工程には、炊飯済み米飯食品を加熱する、加熱工程を含むことができる。加熱工程としては、例えば、蒸し工程、炒め工程、焼成工程が挙げられる。
【0017】
前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品または、前記調理工程で得た調理済み米飯食品は、米を主原料とする米飯食品であれば良い。例えば、ピラフ、炊き込みご飯、おこわ、チャーハン、リゾット、オムライス、ドリア、ドライカレー、パエリア、焼きおにぎり等が挙げられる。
【0018】
本発明において冷却工程は、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品または前記調理工程で得た調理済み米飯食品を冷却することにより行われる。冷却工程は、前記炊飯済み米飯食品または前記調理済み米飯食品の品温が-5℃以上5℃以下に冷却する冷蔵工程、又は、前記炊飯済み米飯食品または前記調理済み米飯食品を凍結させる冷凍工程である。冷凍工程は、米飯食品の品温が、好ましくは-18℃以下、さらに好ましくは-20℃以下になるように凍結処理する。また、凍結処理は急速冷凍が好ましい。
【0019】
本発明において解凍工程は、冷却工程が冷凍工程である場合に、凍結した米飯食品をチルド温度帯で解凍することにより行われる。凍結した米飯食品をチルド温度帯で一定時間以上放置することで、該米飯食品の品温がチルド温度帯まで上昇し、該米飯食品は、当初の凍結状態からチルド温度帯で冷蔵された状態に変化する。本発明に係るチルド温度帯は、-5~10℃、より好ましくは0~10℃、さらに好ましくは5~10℃である。
【0020】
本発明において解凍工程が、前記冷凍工程で得た凍結した米飯食品のチルド温度帯での保存、流通及び/又は販売である場合、その保存、流通及び/又は販売の時期と、前記解凍工程の時期は、重複し得る。すなわち、該凍結した米飯食品をチルド温度帯で解凍し、解凍済みの米飯食品を得る工程は、該凍結した米飯食品のチルド温度帯での保存、流通及び/又は販売の時期と重複し得る。したがって、本発明において、該凍結した米飯食品をチルド温度帯に置いておく時間は、該凍結した米飯食品がチルド温度帯に置かれてから販売されるまでに要する時間と一致し得る。該凍結した米飯食品をチルド温度帯に置く時間は、通常20時間以上、好ましくは22時間以上、より好ましくは24時間以上、通常6日以内、好ましくは5日以内、より好ましくは3日以内である。
【0021】
本発明において「原料米」とは炊飯前の米である。原料米には、玄米、玄米から糠層を一定の割合でとった分づき米、玄米から糠層のみを取り除いて胚芽を残した胚芽精米、精白して糠層と胚芽を取り除いた精白米、精白米の表面に付着している糠の粉を取り除いた無洗米を適宜利用できる。
【0022】
本発明で用いるリパーゼは、特に制限されるものではなく、例えば、アスペルギルス属、リゾムコール属、リゾープス属、ペニシリウム属、キャンディダ属、ピキア属、クロモバクテリウム属、アルカリゲネス属、ストレプトマイセス属、アクチノマデュラ属、バチラス属等の微生物由来、豚の膵臓等の動物由来のものを使用することができる。また、市販品としては、ニューラーゼF3G、リパーゼR「アマノ」、リパーゼA「アマノ」6、リパーゼAY「アマノ」30SD、リパーゼMER「アマノ」、リパーゼG「アマノ」50、リパーゼDF「アマノ」15、リパーゼMH「アマノ」10SD(以上、天野エンザイム(株)社製);リパーゼMY、リパーゼOF、リパーゼPL、リパーゼQLM、リパーゼTL(以上、名糖産業(株)社製);リパーゼA-10D(ナガセケムテックス(株)社製);パタラーゼ20000L、リポパン50BG(ノボザイムズジャパン(株)社製);スミチームNLS(新日本化学(株)社製);ピカンターゼA、ピカンターゼR800、パナモアゴールデン、パナモアスプリング、ベイクザイムL80.000B(以上、ディー・エス・エムジャパン(株)社製);エンチロンLP(洛東化成工業(株)社製)などを例示することができる。これらのリパーゼは単独または数種組み合わせて利用することもできる。リパーゼは、本発明の効果が得られる限り、粗精製品として酵素以外の成分を含んでいるものを用いても良く、精製品として含んでいないものを用いてもよい。リパーゼは、本発明の効果が得られる限り、例えば、他の酵素を含有していてもよい。リパーゼは、反応により脂肪酸を生成し得る。リパーゼによる反応により生成した脂肪酸は、アミロースと複合体を形成することで米飯食品の食感向上に寄与し得る。
【0023】
リパーゼの添加量は酵素製品特有の力価に依存して決めることができる。生米1質量部に対して、通常2ユニット以上、好ましくは3ユニット以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは10以上であり、また、通常4000ユニット以下、好ましくは2000ユニット以下、より好ましくは1000ユニット以下、さらに好ましくは500以下である。これらの上限と下限はいずれの組み合わせでもよい。また、リパーゼの添加量は、通常2ユニット以上4000ユニット以下、好ましくは2ユニット以上2000ユニット以下、より好ましくは4ユニット以上2000ユニット以下である。添加する酵素が2ユニットよりも少ないと、酵素による食感改善効果が十分得られず、また、4000ユニットよりも多いと、酵素の反応が進みすぎ、却って食感が劣る傾向となる。
【0024】
本発明において、リパーゼとグルコースオキシダーゼを併用することができる。リパーゼとグルコースオキシダーゼを併用することにより、凍結した米飯食品をチルド温度帯で解凍する場合に、リパーゼ単独使用の場合よりも長期間、良好な食感を維持することができるという効果が得られる。
【0025】
本発明で用いるグルコースオキシダーゼは、特に制限されるものではなく、例えば、麹菌等の微生物由来、植物由来のものを使用することができる。また、市販品としては、グルザイム10000BG(ノボザイムズジャパン(株)社製);スミチームGOP(新日本化学工業(株)社製);ハイデラーゼ、ハイデラーゼ15(天野エンザイム(株)社製);ベイクザイムGO1500、マキサパールGO4(以上、ディー・エス・エムジャパン(株)社製)などを例示することができる。これらのグルコースオキシダーゼは単独または数種組み合わせて利用することもできる。グルコースオキシダーゼは、本発明の効果が得られる限り、粗精製品として酵素以外の成分を含んでいるものを用いても良く、精製品として含んでいないものを用いてもよい。グルコースオキシダーゼは、本発明の効果が得られる限り、例えば、他の酵素を含有していてもよい。グルコースオキシダーゼは、グルコース、酵素、水を基質としてグルコン酸と過酸化水素を生成する反応を触媒する酸化酵素である。この反応により生産された過酸化水素は、タンパク中のSH基を酸化することでSS結合(ジスルフィド結合)生成を促進し、タンパク中に架橋構造を作る。
【0026】
グルコースオキシダーゼの添加量は酵素製品特有の力価に依存して決めることができる。生米1質量部に対して、通常0.15ユニット以上、好ましくは0.5ユニット以上、より好ましくは0.6以上、さらに好ましくは0.7以上であり、また、通常5.0ユニット以下、好ましくは4.0ユニット以下、より好ましくは3ユニット以下、さらに好ましくは2.0ユニット以下である。これらの上限と下限はいずれの組み合わせでもよい。また、グルコースオキシダーゼの添加量は、通常0.15ユニット以上5.0ユニット以下、好ましくは0.5ユニット以上3ユニット以下、より好ましくは0.6ユニット以上3ユニット以下、さらに好ましくは0.7ユニット以上2.0ユニット以下である。
リパーゼとグルコースオキシダーゼの添加量の比率は、リパーゼ1ユニットに対して、グルコースオキシダーゼを0.000375~0.75ユニット、好ましくは0.0075~0.75ユニット、さらに好ましくは0.0375~0.375ユニットとすることができる。上記範囲内でリパーゼとグルコースオキシダーゼを併用することにより、リパーゼ単独使用の場合よりも長期間、良好な食感を維持することができるという効果が得られる。
【0027】
米とリパーゼまたは、米とリパーゼ及びグルコースオキシダーゼの反応は、炊飯中に行うことができる。リパーゼ及びグルコースオキシダーゼは約70℃で失活する。炊飯開始から米の品温が70℃に達温するまでの時間は、通常5~30分間、好ましくは5~20分間、より好ましくは5~10分間である。上記範囲内とすることで、炊飯中に米と酵素が反応し、米飯食品の食感維持という効果を発揮することができる。
【0028】
炊飯工程の前に、米とリパーゼまたは、米とリパーゼ及びグルコースオキシダーゼを、水の存在下で浸漬する、浸漬工程を有することができる。浸漬温度は、4℃以上40℃以下、好ましくは4℃以上25℃以下である。反応時間は、製造効率及び静菌の観点から、必要以上に長くする必要はないが、通常5分間以上、好ましくは10分間以上、通常10時間以下、好ましくは6時間以下、より好ましくは3時間以下である。浸漬工程における、原料米の吸水は米飯食品の食感の向上に関係し得る。
【0029】
本発明において油脂は、特に制限されるものではなく、例えば、植物油脂、動物油脂を使用することができる。植物油脂としては、例えば、アマニ油、エゴマ油、オリーブオイル、グレープシードオイル、コーン油、ココナッツ油、ごま油、こめ油、大豆油、なたね油、ひまわり油、べに花油、綿実油、落花生油等の常温で液体の油脂、カカオバター、ピーナッツバター、パーム油等の常温で固体の油脂があげられる。動物油脂としては、例えば、魚油等の常温で液体の油脂、牛脂、豚脂、バター、マーガリンやショートニングなどの硬化油等の常温で固体の油脂があげられる。本発明における油脂は、炊飯時に添加する畜肉、魚介類、乳製品等の具材由来の油脂も含む。油脂の量は、調理済み米飯のメニューによって、食味の観点から適切な範囲で設定でき、原料米100gに対して、通常0.5g以上、好ましくは3g以上、より好ましくは5g以上、通常50g以下、好ましくは 30g以下である。
【0030】
また、本発明の効果を妨げない範囲で、炊飯中にリパーゼ及び油脂以外の他の任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、食塩、醤油、砂糖、酢、味噌、香料等の調味料、野菜等の具材があげられる。これらの任意成分としては、一般に食品に使用されているものを用いることができる。
【0031】
本発明において、米飯の良好な食感とは、適度な硬さであり、ふっくら感があり、ぼそぼそ感の少ない食感の何れか又はその組み合わせとすることができる。特に、凍結した調理済み米飯食品をチルド温度帯で解凍した後であっても、これらの食感を良好な状態で維持することができる。チルド温度帯で保存後、加熱調理することなくそのままの状態、あるいは電子レンジなどの加熱調理器で温めた状態で、良好な食感が感じられる。
【0032】
「硬さ」とは、米粒を噛み潰す際に感じる応力の強さである。米飯食品の場合は、経時により硬く変化するため、軟らかい食感が好ましい。
「ふっくら感」とは、米粒がべたついて軟らかいのとは異なり、米粒一粒一粒ずつが、粒感を残した状態で、適度な軟らかさと弾力があり、適度に脆い食感である。粒感とは、米粒同士が結着することなく(かたまり状にならず)、食べたときに米粒一粒一粒を感覚することのできる食感を意味し、ふっくら感が強い食感が好ましい。
「ぼそぼそ感」とは、舌触りのざらつきや粉っぽさ、飲み込みにくさであり、これらを強く感じるほどぼそぼそ感が強く、好ましくない。
【0033】
本発明において得られる米飯食品は、原料米にリパーゼを添加し、油脂の存在下で炊飯する炊飯工程と、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を冷却する冷却工程により直接的に得られる米飯食品である。本発明において得られる米飯食品は、原料米にリパーゼを添加し、油脂の存在下で炊飯する炊飯工程と、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を冷却する冷却工程のみにより、作製してもよい。
【0034】
本発明において得られる米飯食品は、炊飯工程の後に、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を調理する調理工程を有し、前記調理工程で得た調理済み米飯食品を冷却する冷却工程により直接的に得られる米飯食品である。本発明において得られる米飯食品は、炊飯工程の後に、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を調理する調理工程を有し、前記調理工程で得た調理済み米飯食品を冷却する冷却工程のみにより、作製してもよい。
【0035】
また、本発明において得られる米飯食品は、本発明の効果が発揮できる範囲で、他の工程を有することができる。
【0036】
本発明の米飯食品を得るための炊飯工程は、原料米にリパーゼを添加し、油脂の存在下で炊飯することにより行われる。リパーゼと油脂は、炊飯の直前または一定時間前に添加することができる。リパーゼと油脂を添加する順序に制限はなく、リパーゼを先に添加し、一定時間経過後、油脂を添加してもよく、油脂を先に添加し、一定時間経過後、リパーゼを添加してもよい。また、リパーゼと油脂を同時に添加してもよい。
米飯食品を得るための工程において、原料米にリパーゼを添加し、油脂の存在下で炊飯することにより、油脂の非存在下で炊飯した場合と比べて、冷却工程を有する米飯食品の食感を良好に維持することができた。特に、冷却工程が冷凍工程であり、冷凍工程後に解凍工程を有する米飯食品の食感を良好に維持することができた。
【0037】
本発明の米飯食品を得るための炊飯工程において、炊飯方法は特に限定されない。本発明の米飯食品を得るための炊飯工程は、原料米の重量に対して、1.0~1.5倍の水を加え、炊飯することができる。また、原料米を洗米後、吸水のため水に浸漬した後に、炊飯することができる。炊飯窯を用いて炊飯する場合は、一つの窯に対して約150g~10kgの原料米を用いることができる。コンベアを用いて連続的に炊飯する場合は、約50kg~1t/時間の原料米を用いることができる。また、炊飯工程は、調味料及び/又は具材を伴い調理を含む工程としてもよい。炊飯工程は、加熱工程を含むことができる。加熱工程としては、例えば、煮る工程、炊く工程、蒸す工程が挙げられる。炊飯工程において引き起こされる、原料米の澱粉の糊化は米飯食品の食感の向上に寄与し得る。
【0038】
米飯食品を得るための工程において、リパーゼは油脂に作用する酵素であり、油脂の存在下で、安定に反応し得る。原料米の食感に関係する構造は、リパーゼによる反応で変化する場合がある。原料米の表層に存在する性質が変化することは、米飯食品の食感の向上に寄与しやすい。
【0039】
米飯食品を得るための工程において、本発明の米飯食品を得るための調理工程は、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品を調理することにより行われる。該調理工程において、炊飯済み米飯食品に、調味料及び/又は具材を添加することができる。また、該調理工程には、炊飯済み米飯食品を加熱する、加熱工程を含むことができる。加熱工程としては、例えば、蒸し工程、炒め工程、焼成工程が挙げられる。
【0040】
米飯食品を得るための工程において、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品または、前記調理工程で得た調理済み米飯食品は、米を主原料とする米飯食品であれば良い。例えば、ピラフ、炊き込みご飯、おこわ、チャーハン、リゾット、オムライス、ドリア、ドライカレー、パエリア、焼きおにぎり等が挙げられる。
【0041】
米飯食品を得るための工程において、本発明の米飯食品を得るための冷却工程は、前記炊飯工程で得た炊飯済み米飯食品または前記調理工程で得た調理済み米飯食品を冷却することにより行われる。冷却工程は、前記炊飯済み米飯食品または前記調理済み米飯食品の品温が-5℃以上5℃以下に冷却する冷蔵工程、又は、前記炊飯済み米飯食品または前記調理済み米飯食品を凍結させる冷凍工程である。冷凍工程は、米飯食品の品温が、好ましくは-18℃以下、さらに好ましくは-20℃以下になるように凍結処理する。また、凍結処理は急速冷凍が好ましい。
【0042】
米飯食品を得るための工程において、本発明の米飯食品を得るための解凍工程は、冷却工程が冷凍工程である場合に、凍結した米飯食品をチルド温度帯で解凍することにより行われる。凍結した米飯食品をチルド温度帯で一定時間以上放置することで、該米飯食品の品温がチルド温度帯まで上昇し、該米飯食品は、当初の凍結状態からチルド温度帯で冷蔵された状態に変化する。本発明に係るチルド温度帯は、-5~10℃、より好ましくは0~10℃、さらに好ましくは5~10℃である。
【0043】
米飯食品を得るための工程において、本発明において解凍工程が、前記冷凍工程で得た凍結した米飯食品のチルド温度帯での保存、流通及び/又は販売である場合、その保存、流通及び/又は販売の時期と、前記解凍工程の時期は、重複し得る。すなわち、該凍結した米飯食品をチルド温度帯で解凍し、解凍済みの米飯食品を得る工程は、該凍結した米飯食品のチルド温度帯での保存、流通及び/又は販売の時期と重複し得る。したがって、本発明において、該凍結した米飯食品をチルド温度帯に置いておく時間は、該凍結した米飯食品がチルド温度帯に置かれてから販売されるまでに要する時間と一致し得る。
米飯食品を得るための工程において、該凍結した米飯食品をチルド温度帯に置く時間は、通常20時間以上、好ましくは22時間以上、より好ましくは24時間以上、通常6日以内、好ましくは5日以内、より好ましくは3日以内である。
【0044】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また本明細書において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示すものとする。
【0045】
本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。本明細書において、パーセントに関して「以下」又は「未満」との用語は、下限値を特に記載しない限り、0%又は、現状の手段では検出不可の値を含む範囲を意味する。
【実施例】
【0046】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
精白米「まっしぐら」300gを洗米し、生米重量に対して、1.35倍の水を加え、22℃で1時間浸漬した。浸漬後、水を捨て、実施例1には、リパーゼ(リパーゼAY「アマノ」30SD、天野エンザイム株式会社製)を、生米1gに対し、200Uになるよう添加し、350gの水を加え、溶解させた。次いで、大豆白絞油(株式会社J-オイルミルズ製)10.33g、無塩バター(雪印メグミルク株式会社製)4.87g、フュメドポワソン(日本水産株式会社製)54.48gを添加した。その後、炊飯器(NP-VD10、象印マホービン株式会社製)の白米炊飯モードで炊飯し、炊飯済み米飯食品を得た。前記炊飯済み米飯食品を50gずつ小分けにし、急速冷凍庫(RB-121A、オリオン機械株式会社製)で-23℃まで急速凍結し、一晩以上-23℃以下で冷凍保管し、凍結した米飯食品を作製した。
(実施例2)
生米1gに対し、リパーゼ(リパーゼAY「アマノ」30SD、天野エンザイム株式会社製)を200U、グルコースオキシダーゼ(ハイデラーゼ15、天野エンザイム株式会社製)を1.5Uになるよう添加した以外は実施例1と同様にして、凍結した米飯食品を作製した。
【0048】
(比較例1)
リパーゼを添加しない以外は実施例1と同様にして、凍結した米飯食品を作製した。
【0049】
(試験例1)
実施例1および比較例1の凍結した米飯食品を、4℃の低温室で静置し、解凍した。解凍開始1日後と3日後に、電子レンジ(ER-D5(WT)、東芝コンシューマーマーケティング株式会社)で600W、30秒加熱し、中心温度を85℃±5℃まで加温した後、室温で静置し、中心温度を65±5℃に調整し、官能評価を行った。
官能評価を行うパネリストには、特別に訓練され、米飯の食感として特徴的な各項目(硬さ、ふっくら感、ぼそぼそ感)を正しく識別でき、表現できるパネリスト5人を選抜した。選抜したパネリストに対しては、最初に、米飯の食感として特徴的な各項目(硬さ、ふっくら感、ぼそぼそ感)について、パネリスト間の評価が一致するよう事前に訓練を行った。事前訓練は、比較例1の炊飯直後と解凍開始3日後の米飯食品を使用した。
【0050】
米飯の硬さ、ふっくら感、ぼそぼそ感、総合評価について評価した。実施例1の方が、硬くないと感じた場合は〇、硬いと感じた場合は×の評価とした。実施例1の方が、ふっくら感が強く感じた場合は〇、弱く感じた場合は×の評価とした。実施例1の方が、ぼそぼそ感が弱いと感じた場合は〇、ぼそぼそ感が強いと感じた場合は×の評価とした。総合評価については、比較例1と実施例1を比べて、米飯の食感として良好と感じた方に〇を付けることとした。結果を表1に示す。ふっくら感、ぼそぼそ感、総合評価は5人全員が、実施例1の方が好ましいと評価した。硬さは、解凍開始1日後は5人中4人、解凍開始3日後は5人中3人が、実施例1の方が好ましいと評価した。
【0051】
【0052】
(試験例2)
試験例1と同様に加熱した後、室温で静置し、中心温度を48℃に調整し38℃まで、多重積算バイト法により物性測定を行った。多重積算バイト法は連続式微小変形多重バイト試験のことであり、プランジャーを同じ位置で複数回バイトさせる測定法である。測定にはTENSIPRESSER(有限会社タケトモ電機社製)を用い、直径18mmの円柱プランジャー、ロードセル10kg、振幅0.5mm、圧縮後の戻り距離を0.25mmとし,バイトスピード2mm/sの条件で、クリアランス0.5mmまで圧縮を繰り返し、Toughness値(gw/cm2・cm)を測定した。Toughness値が大きいほど硬く崩れにくいゴムのような食感であることを示す。圧縮を繰り返すにつれ、食品の構造が密になるため、Toughness値が上昇するが、Toughness値の上昇の程度は、その食品の物性により異なる。すなわち、食品の物性が脆い程、圧縮を繰り返した後のToughness値は小さい数値を示す。米飯食品のふっくら感は脆さと相関すると考えられる。すなわち、圧縮を繰り返した後のToughness値が小さいほど、その米飯食品はふっくら感があることを示す。
各サンプルについて24粒を測定し、その平均値を求めた。
圧縮開始10回目、30回目のToughness値を表2に示す。統計解析(t検定)において2群との間に統計的有意差(P<0.05)が認められたものに*を付記した。圧縮開始10回目では、実施例1と比較例1に有意差はなかったが、圧縮開始30回目では、実施例1は比較例1と比べ、有意にToughness値が低下した。つまり、比較例1と比べ、実施例1は、ふっくら感があるということが示された。
【0053】
【0054】
(試験例3)
リパーゼの添加量を下記表3の通り変更した以外は、実施例1と同様の手順で、凍結した米飯食品を作製した。得られた凍結した米飯食品を試験例1と同様の手順で解凍、加熱し、サンプルを得た。下記の評価基準にて、米飯の硬さ、ふっくら感、ぼそぼそ感および総合評価を、試験例1と同じパネラー5名に評価させた。その結果(パネラー5名の平均点)を表3に示す。表3に示す通り、原料米1gあたり2~4000ユニットにおいて好ましい効果、4~2000ユニットにおいてより好ましい効果を発揮した。
【0055】
(硬さの評価基準)
2点:基準レベルよりも軟らかい
1点:基準レベルよりもやや軟らかい
0点:基準レベルと同等
-1点:基準レベルよりもやや硬い
-2点:基準レベルよりも硬い
【0056】
(ふっくら感の評価基準)
2点:基準レベルよりもふっくら感が強い
1点:基準レベルよりもふっくら感がやや強い
0点:基準レベルと同等
-1点:基準レベルよりもふっくら感がやや弱い
-2点:基準レベルよりもふっくら感が強い
【0057】
(ぼそぼそ感の評価基準)
2点:基準レベルよりもぼそぼそ感が弱い
1点:基準レベルよりもぼそぼそ感がやや弱い
0点:基準レベルと同等
-1点:基準レベルよりもぼそぼそ感がやや強い
-2点:基準レベルよりもぼそぼそ感が強い
【0058】
(総合評価の評価基準)
2点:基準レベルよりも美味しい
1点:基準レベルよりもやや美味しい
0点:基準レベルと同等
-1点:基準レベルよりもやや不味い
-2点:基準レベルよりも不味い
【0059】
【0060】
(試験例4)
洗米後、水に浸漬せずに、生米1gに対してリパーゼを200Uになるよう添加後、350gの水を加え溶解し、下記表4記載の各温度で各時間浸漬した後に炊飯した以外は、実施例1と同様の手順で、冷凍調理済み米飯を作製した。得られた冷凍調理済み米飯を試験例1と同様の手順で解凍、加熱し、サンプルを得た。米飯の硬さ、ふっくら感、ぼそぼそ感および総合評価を、試験例1と同じパネラー5名に評価させた。その結果(パネラー5名の平均点)を表4に示す。表4に示す通り、炊飯前に、生米とリパーゼを一定時間反応させても、本発明の効果が発揮できることを確認した。浸漬温度が高すぎる場合や、浸漬時間が長すぎる場合は、リパーゼによる反応が進みすぎ、食感のバランスが却って損なわれるため、浸漬温度は4~40℃、浸漬時間は5分間~10時間が適当であることが示された。
【0061】
【0062】
(試験例5)
実施例1~2、比較例1の冷凍調理済み米飯を、4℃の低温室で静置し、解凍した。解凍開始3日後、4日後、6日後に、試験例1と同様の手順で解凍、加熱し、サンプルを得た。米飯の硬さ、ふっくら感、ぼそぼそ感、総合評価については試験例2と同じ評価基準、弾力感については下記の評価基準にて、試験例1と同じパネラー5名に評価させた。その結果(パネラー5名の平均点)を表5に示す。表5に示す通り、リパーゼ単独使用の場合は、解凍開始3日後に比べ、解凍開始4日後、6日後の評価が低くなる傾向であったが、リパーゼとグルコースオキシダーゼを併用した場合は、解凍開始6日後まで、良好な食感を維持しており、経時劣化抑制効果があることが確認された。
【0063】
(弾力感の評価基準)
2点:基準レベルよりも弾力感が強い
1点:基準レベルよりも弾力感がやや強い
0点:基準レベルと同等
-1点:基準レベルよりも弾力感がやや弱い
-2点:基準レベルよりも弾力感が強い
【0064】