(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】固体撮像素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 27/146 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
H01L27/146 E
(21)【出願番号】P 2020006924
(22)【出願日】2020-01-20
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100213333
【氏名又は名称】鹿山 昌代
(72)【発明者】
【氏名】峰尾 圭忠
(72)【発明者】
【氏名】為村 成亨
(72)【発明者】
【氏名】宮川 和典
(72)【発明者】
【氏名】大竹 浩
(72)【発明者】
【氏名】久保田 節
(72)【発明者】
【氏名】難波 正和
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-208376(JP,A)
【文献】特開2017-034039(JP,A)
【文献】特許第5828568(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号読み出し回路基板上に第1アモルファスセレン膜を形成する工程と、
透明基板上に不純物が添加された酸化ガリウム膜を形成する工程と、
前記酸化ガリウム膜に第1熱処理を施して、前記酸化ガリウム膜を結晶化させる工程と
、
結晶化した前記酸化ガリウム膜上に第2アモルファスセレン膜を形成する工程と、
前記第1アモルファスセレン膜と前記第2アモルファスセレン膜とを接合する工程と、
接合したアモルファスセレン膜に第2熱処理を施して、前記アモルファスセレン膜を結
晶化させる工程と、
を含むことを特徴とする固体撮像素子の製造方法。
【請求項2】
前記酸化ガリウム膜を結晶化させる工程は、
前記酸化ガリウム膜に、酸素を含む雰囲気中で、700度以上1200度以下、10分
以上3時間以下の前記第1熱処理を施す工程である、
ことを特徴とする請求項
1に記載の固体撮像素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体撮像素子およびその製造方法に関し、特に、光電変換部が結晶セレンおよび酸化ガリウムのPN接合からなる接合型の固体撮像素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、固体撮像素子の多画素化が進み、それに伴って画素面積が縮小したことにより、固体撮像素子の感度低下が課題となっている。そこで、
図9に示すように、光電変換材料として、従来のシリコンに変えて可視光において吸収係数の高い結晶セレンなどを使用する積層型撮像素子が検討されている。積層型撮像素子において、高吸収係数材料を使用することで、薄膜でも十分な光吸収が可能となり、電圧印加によるキャリア増倍が可能となるため、高感度化が期待される(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。一方で、積層型撮像素子において、走行キャリアが電子であること、入射した光が空乏層へ届く前にセレン膜中で吸収されてしまうことなどにより感度が不十分となることも懸念される。
【0003】
そこで、信号読み出し回路基板、画素電極、結晶セレン膜、酸化ガリウム膜、透明電極、透明基板を、この順に備える接合型撮像素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。上述の積層型撮像素子は、信号読み出し回路基板上に光電変換部が直接積層されるため、信号読み出し回路基板の耐熱温度(概ね350度)以上で光電変換部を加熱することができない。一方、
図10に示すように、接合型撮像素子は、信号読み出し回路基板上に第1アモルファスセレン膜が形成され、透明基板上に酸化ガリウム膜および第2アモルファスセレン膜が形成された後に、各アモルファスセレン膜が接合されるため、信号読み出し回路基板の耐熱温度以上で透明基板側の光電変換部を加熱することができる。これにより、結晶化などによる光電変換部の特性向上が見込まれるため、接合型撮像素子のさらなる高感度化が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
【文献】S. Imura, K. Kikuchi, K. Miyakawa, H. Ohtake, M. Kubota, T. Okino, Y. Hi-rose, Y. Kato, N. Teranishi, IEEE Trans. Electron Devices 63, 86 (2016)
【文献】S. Imura et al., "Low-voltage-operation avalanche photodiode based on n-gallium oxide/p-crystalline selenium heterojunction", Applied Physics Letters, Vol. 104, No. 24, pp. 242101-242101-4 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、キャリア増倍による高感度化を図るために、従来の接合型撮像素子に高電圧を印加すると、信号読み出し回路が破壊されてしまうことがあった。そこで、光電変換部に不純物を添加することで、低電圧でのキャリア増倍を実現することが検討されているが、不純物の添加による暗電流の増加が懸念される。
【0007】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、低電圧でのキャリア増倍を可能としつつ、不純物の添加による暗電流の増加を抑制可能な固体撮像素子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討し、接合型撮像素子において、不純物が添加された酸化ガリウム膜を高温熱処理し、結晶化させることに着想した。そして、この接合型撮像素子は、低電圧でのキャリア増倍が可能でありながら、不純物の添加による暗電流の増加を抑制可能であることを本発明者らは実験的に確認した。本発明は、上述知見に基づいて完成されたものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
【0009】
一実施形態に係る固体撮像素子は、不純物を含み結晶化した酸化ガリウム膜と、結晶セレン膜と、を備えることを特徴とする。
【0010】
さらに、一実施形態に係る固体撮像素子において、信号読み出し回路基板と、第1電極と、接合膜と、前記結晶セレン膜と、前記酸化ガリウム膜と、第2電極と、透明基板と、をこの順に備える、ことを特徴とする。
【0011】
一実施形態に係る固体撮像素子の製造方法は、信号読み出し回路基板上に第1アモルファスセレン膜を形成する工程と、透明基板上に不純物が添加された酸化ガリウム膜を形成する工程と、前記酸化ガリウム膜に第1熱処理を施して、前記酸化ガリウム膜を結晶化させる工程と、結晶化した前記酸化ガリウム膜上に第2アモルファスセレン膜を形成する工程と、前記第1アモルファスセレン膜と前記第2アモルファスセレン膜とを接合する工程と、接合したアモルファスセレン膜に第2熱処理を施して、前記アモルファスセレン膜を結晶化させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
さらに、一実施形態に係る固体撮像素子の製造方法において、前記酸化ガリウム膜を結晶化させる工程は、前記酸化ガリウム膜に、酸素を含む雰囲気中で、700度以上1200度以下、10分以上3時間以下の前記第1熱処理を施す工程である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低電圧でのキャリア増倍を可能としつつ、不純物の添加による暗電流の増加を抑制可能な固体撮像素子およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る固体撮像素子の構成の一例を示す模式断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る逆バイアス電圧と暗電流密度との関係を示す図である。
【
図3A】本発明の一実施形態に係る固体撮像素子の製造方法の一例を示す模式断面図である。
【
図3B】本発明の一実施形態に係る固体撮像素子の製造方法の一例を示す模式断面図である。
【
図3C】本発明の一実施形態に係る固体撮像素子の製造方法の一例を示す模式断面図である。
【
図3D】本発明の一実施形態に係る固体撮像素子の製造方法の一例を示す模式断面図である。
【
図3E】本発明の一実施形態に係る固体撮像素子の製造方法の一例を示す模式断面図である。
【
図3F】本発明の一実施形態に係る固体撮像素子の製造方法の一例を示す模式断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る固体撮像素子の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図6】実験例1に係る試料1、試料2、および試料3における電圧―電流特性の一例を示す図である。
【
図7】実験例2に係るAFM測定により得られる試料1、試料2、および試料3における結晶セレン膜の表面の一例を示す図である。
【
図8A】実験例3に係るXRD測定により得られる試料1、試料2、および試料3における回折角度と強度との関係の一例を示す図である。
【
図8B】実験例3に係るXRD測定により得られる試料1、試料2、および試料3における回折角度と強度との関係の一例を示す拡大図である。
【
図9】従来に係る積層型撮像素子の構成の一例を示す模式断面図である。
【
図10】従来に係る接合型撮像素子の構成の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、重複する説明を省略する。各図において、説明の便宜上、各構成の縦横の比率を実際の比率から誇張して示している。
【0016】
<固体撮像素子>
図1および
図2を参照して、本実施形態に係る固体撮像素子100の構成の一例について説明する。
【0017】
固体撮像素子100は、信号読み出し回路基板60と、第1電極40と、接合膜30と、結晶セレン膜20と、不純物を含み結晶化した酸化ガリウム膜10と、第2電極50と、透明基板70と、をこの順に備える。不純物を含み結晶化した酸化ガリウム膜10、結晶セレン膜20、および接合膜30は、光電変換部200として機能する。第1電極40には電源の負極が、第2電極50には電源の正極が、接続されている。
【0018】
以下、本明細書では、酸化ガリウム膜に添加される不純物としてスズを用いる場合を一例に挙げて説明するが、酸化ガリウム膜に添加される不純物は、スズに限定されない。酸化ガリウム膜に添加される不純物として、例えば、シリコン、ゲルマニウムなどを用いてもよい。
【0019】
〔酸化ガリウム膜〕
スズを含み結晶化した酸化ガリウム膜10は、固体撮像素子100における光電変換部200であって、n型半導体として機能する。スズを含み結晶化した酸化ガリウム膜10は、スズが添加された酸化ガリウム膜を高温熱処理し、結晶化させることで形成される。ここで、スズが添加された酸化ガリウム膜が結晶化したことは、例えば、XRDパターンにおいて、回折角度38.4°、59.2°、および82.4°に回折ピークが観察されることにより確かめられる(
図8A参照)。
【0020】
酸化ガリウム膜に添加されるスズの原子百分率は、6.0atom%以上9.0atom%以下であることが好ましい。酸化ガリウム膜に添加されるスズの原子百分率は、例えば、ラザフォード後方散乱分析法(RBS)により測定され、後述の実施例では当該ラザフォード後方散乱分析法により測定した値を採用した。
【0021】
スズが添加された酸化ガリウム膜に施される熱処理の条件は、酸素を含む雰囲気中で、700度以上1200度以下、10分以上3時間以下であることが好ましい。また、スズが添加された酸化ガリウム膜に施される熱処理の条件は、酸素を含む雰囲気中で、700度以上1100度以下、45分以上2時間以下であることがより好ましい。また、スズが添加された酸化ガリウム膜に施される熱処理の条件は、酸素を含む雰囲気中で、800度以上1000度以下、1時間以上2時間以下であることがさらに好ましく、酸素を含む雰囲気中で、800度、1時間であることが最も好ましい。
【0022】
酸化ガリウム膜に添加されるスズの原子百分率を、上記範囲とすることが好ましい理由について説明する。
【0023】
酸化ガリウム膜にスズを添加すると、価電子帯のエネルギーを維持したまま、伝導帯のエネルギーが低減して、バンドギャップが小さくなることを本発明者らは実験的に確認した。そのため、スズの添加量を適正化することにより、酸化ガリウムと結晶セレンとで伝導帯のバンドオフセットを小さくできる。そこで、酸化ガリウム膜に添加されるスズの原子百分率を6.0atom%以上とすると、固体撮像素子100の動作電圧を低減できる。また、酸化ガリウム膜に添加されるスズの原子百分率を9.0atom%以下とすると、スズの添加による過剰なキャリア生成を抑制して、固体撮像素子100の暗電流増加を抑制できる。したがって、酸化ガリウム膜に添加されるスズの原子百分率は、6.0atom%以上9.0atom%以下であることが好ましい。
【0024】
スズが添加された酸化ガリウム膜に施される熱処理の条件を、上記条件とすることが好ましい理由について説明する。
【0025】
酸化ガリウム膜にスズを添加することで、低電圧でのキャリア増倍が可能となる一方で、結晶セレン膜の表面が粗くなり光電変換部の結晶性が悪化すること、また、固体撮像素子の暗電流が増加することを本発明者らは実験的に確認した。一方で、スズが添加された酸化ガリウム膜を高温熱処理し、結晶化させることで、スズの添加により悪化した光電変換部の結晶性を改善できること、スズの添加により増加した固体撮像素子の暗電流を抑制できること、加えて、当該処理が低電圧でのキャリア増倍に悪影響を及ぼさないことも本発明者らは実験的に確認した。そのため、熱処理の条件を適正化することにより、低電圧でのキャリア増倍を可能としつつ、スズの添加による暗電流の増加を抑制可能な固体撮像素子を実現できると考えられる。
【0026】
図2は、熱処理の条件を変化させた場合における固体撮像素子100の逆バイアス電圧と暗電流密度との関係の一例を示す図である。横軸は逆バイアス電圧[V]である。縦軸は暗電流密度[nA/cm
2]である。
【0027】
グラフ201は、スズが添加された酸化ガリウム膜に、酸素を含む雰囲気中で、400度、1時間の熱処理を施した場合の電圧―電流特性である。グラフ202は、スズが添加された酸化ガリウム膜に、酸素を含む雰囲気中で、600度、1時間の熱処理を施した場合の電圧―電流特性である。グラフ203は、スズが添加された酸化ガリウム膜に、酸素を含む雰囲気中で、800度、10分の熱処理を施した場合の電圧―電流特性である。グラフ204は、スズが添加された酸化ガリウム膜に、酸素を含む雰囲気中で、800度、30分の熱処理を施した場合の電圧―電流特性である。グラフ205は、スズが添加された酸化ガリウム膜に、酸素を含む雰囲気中で、800度、1時間の熱処理を施した場合の電圧―電流特性である。
【0028】
グラフ201、グラフ202、グラフ205を比較すると、グラフ205が、最も暗電流密度が小さいことがわかる。すなわち、熱処理の時間が一定である場合、熱処理の温度が800度であると、暗電流の低減効果が大きく、熱処理の温度が600度であると、暗電流の低減効果が小さいことがわかる。したがって、熱処理の温度は、700度以上が好ましく、800度以上がより好ましいことが示唆される。
【0029】
グラフ203、グラフ204、グラフ205を比較すると、グラフ205が、最も暗電流密度が小さいことがわかる。すなわち、熱処理の温度が一定である場合、熱処理の時間が1時間であると、暗電流の低減効果が大きく、熱処理の時間が30分であると、暗電流の低減効果が小さいことがわかる。したがって、熱処理の温度は、45分以上が好ましく、1時間以上がより好ましいことが示唆される。
【0030】
したがって、スズが添加された酸化ガリウム膜に施される熱処理の条件は、酸素を含む雰囲気中で、700度以上1200度以下、10分以上3時間以下であることが好ましい。また、スズが添加された酸化ガリウム膜に施される熱処理の条件は、酸素を含む雰囲気中で、700度以上1100度以下、45分以上2時間以下であることがより好ましい。また、スズが添加された酸化ガリウム膜に施される熱処理の条件は、酸素を含む雰囲気中で、800度以上1000度以下、1時間以上2時間以下であることがさらに好ましく、酸素を含む雰囲気中で、800度、1時間であることが最も好ましい。
【0031】
スズを含み結晶化した酸化ガリウム膜10の膜厚は特に制限されないが、1nm以上100nm以下とすることが好ましい。スズを含み結晶化した酸化ガリウム膜10の膜厚が1nm以上であれば、電極からの正孔注入電荷を効率良く阻止することができる。また、スズを含み結晶化した酸化ガリウム膜10の膜厚が100nm以下、より好ましくは50nm以下であれば、外部印加電圧が効率良く結晶セレン膜20側に加わることとなる。
【0032】
〔結晶セレン膜〕
結晶セレン膜20は、固体撮像素子100における光電変換部200であって、p型半導体として機能する。結晶セレン膜20は、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)測定により得られる表面粗さが、結晶セレン膜20の膜厚を0.3μmとしたときに、10nm以上50nm以下であることが好ましく、10nm以上20nm以下であることがより好ましい。結晶セレン膜20の表面粗さは、光電変換部200の結晶性を判断するための1つの指標であり、酸化ガリウム膜に対するスズの添加量、および、スズが添加された酸化ガリウム膜に施される熱処理の条件に依存して変化する。これは、結晶セレン膜20の結晶が、下側に形成されるスズを含み結晶化した酸化ガリウム膜10の結晶の具合に依存して、成長していくためである(後述する
図3D参照)。したがって、酸化ガリウム膜に対するスズの添加量、および、スズが添加された酸化ガリウム膜に施される熱処理の条件を上述のように適正化することで、結晶セレン膜20の表面粗さを当該範囲とすることができる。これにより、結晶セレン膜20の表面を滑らかにし、スズの添加による光電変換部200の結晶性の悪化を改善することができる。また、スズの添加による固体撮像素子100の暗電流の増加を抑制することができると考えられる。
【0033】
結晶セレン膜20は、X線回折(XRD:X‐ray diffraction)測定により得られるXRDパターンにおけるSe(100)面の回折ピークのピーク強度が、結晶セレン膜20の膜厚を0.3μmとしたときに、5000count以上10000count以下であることが好ましく、8000count以上10000count以下であることがより好ましい。XRDパターンにおけるSe(100)面の回折ピークのピーク強度は、光電変換部200の結晶性を判断するための1つの指標であり、酸化ガリウム膜に対するスズの添加量、および、スズが添加された酸化ガリウム膜に施される熱処理の条件に依存して変化する。したがって、酸化ガリウム膜に対するスズの添加量、および、スズが添加された酸化ガリウム膜に施される熱処理の条件を上述のように適正化することで、XRDパターンにおけるSe(100)面の回折ピークのピーク強度を当該範囲とすることができる。これにより、XRDパターンにおけるSe(100)面の回折ピークのピーク強度を大きくし、スズの添加による光電変換部200の結晶性の悪化を改善することができる。また、スズの添加による固体撮像素子100の暗電流の増加を抑制することができると考えられる。
【0034】
結晶セレン膜20の膜厚は特に制限されないが、0.1μm以上であることが好ましい。結晶セレン膜20の膜厚が0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上であれば、その膜厚は十分であるため、固体撮像素子100は可視光全域で十分な感度を得ることができる。また、結晶セレン膜20の膜厚の上限は特に制限されないが、5μm以下、好ましくは2μm以下であると結晶セレン膜20を効率良く形成することができ、生産性の観点で好ましい。
【0035】
〔接合膜〕
接合膜30は、固体撮像素子100における光電変換部200であって、第1電極40が設けられた信号読み出し回路基板60と結晶セレン膜20とを接合する。接合膜30は、信号読み出し回路基板60と結晶セレン膜20とを接合できればその材料は特に制限されないが、テルル(Te)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)からなる群から選択される一種からなることが好ましく、信号読み出し回路基板60と結晶セレン膜20とを確実に接合するためには、テルルを用いることがより好ましい。
【0036】
接合膜30の膜厚は特に制限されないが、0.1nm以上10nm以下とすることができる。接合膜30の膜厚が0.1nm以上であると、信号読み出し回路基板60と結晶セレン膜20との接着力を効果的に高くでき、好ましい。また、接合膜30の膜厚が10nm以下、より好ましくは3nm以下であると、接合膜30により結晶セレン膜20中への欠陥形成を防止できるため、暗電流増加を抑制することができ、好ましい(例えば、非特許文献1参照)。
【0037】
なお、接合膜30は、信号読み出し回路基板60と結晶セレン膜20と間の全域に連続して形成されていてもよい。あるいは、接合膜30は、面内方向の一部に孔が設けられ、信号読み出し回路基板60と結晶セレン膜20と間の一部領域に形成されていてもよい。いずれの場合であっても、信号読み出し回路基板60と結晶セレン膜20との接合が確保されていればよい。
【0038】
〔第1電極〕
第1電極40は、信号読み出し回路基板60の表面に各画素と対応して設けられ、光電変換部200と信号読み出し回路基板60との間に設けられる。第1電極40には電源の負極が接続されている。第1電極40としては、例えば、金(Au)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)などの金属膜を用いることができる。なお、
図1では、信号読み出し回路基板60の一部が、第1電極40と同じ層に第1電極40とは異なるハッチで示されている。
【0039】
〔第2電極〕
第2電極50は、光の入射側であり、光電変換部200を介して第1電極40と反対側に設けられ、光電変換部200と透明基板70との間に設けられる。第2電極50には電源の正極が接続されている。第2電極50は、透光性を有する材料で形成されることが好ましい。第2電極50としては、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化亜鉛スズ)、AZO(アルミニウム添加参加亜鉛)などの透明酸化物導電膜を用いることができる。第2電極50は、第1電極40と同じ材料で形成されてもよいし、第1電極40と異なる材料で形成されてもよい。第2電極50の膜厚は特に制限されないが、5nm以上30nm以下とすることが好ましい。
【0040】
〔第1基板〕
信号読み出し回路基板60は、例えば、シリコン基板上にCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補型金属酸化膜半導体)構造が形成された基板である。信号読み出し回路基板60は、表面に第1電極40が設けられている。信号読み出し回路基板60は、接合膜30を介して、光電変換部200における結晶セレン膜20と接合されている。
【0041】
〔第2基板〕
透明基板70は、光の入射側であり、光電変換部200を介して信号読み出し回路基板60と反対側に設けられる。透明基板70は、透光性を有する材料で形成されることが好ましい。透明基板70としては、例えば、ガラス基板、サファイア基板、シリコン基板などを用いることができる。透明基板70の材料は、第2電極50の材料に応じて適宜選択されることが好ましい。
【0042】
本実施形態に係る固体撮像素子100は、光電変換部200が、不純物を含み結晶化した酸化ガリウム膜10と、結晶セレン膜20と、を少なくとも備える。すなわち、結晶性が良好であり、従来技術には無い物性を有する光電変換部200を備える。これにより、低電圧でのキャリア増倍を可能としつつ、不純物の添加による暗電流の増加を抑制可能な固体撮像素子100を実現できる。
【0043】
<固体撮像素子の製造方法>
図3A~
図3Fおよび
図4を参照して、本実施形態に係る固体撮像素子100の製造方法の一例について説明する。
【0044】
固体撮像素子100の製造方法は、信号読み出し回路基板60上に第1アモルファスセレン膜20Aを形成する工程(S101)と、透明基板70上にスズが添加された酸化ガリウム膜10Aを形成する工程(S102)と、スズが添加された酸化ガリウム膜10Aに第1熱処理を施して、スズが添加された酸化ガリウム膜10Aを結晶化させる工程(S103)と、スズを含み結晶化した酸化ガリウム膜10上に第2アモルファスセレン膜20Bを形成する工程(S104)と、第1アモルファスセレン膜20Aと第2アモルファスセレン膜20Bとを接合する工程(S105)と、接合したアモルファスセレン膜20A、20Bに第2熱処理を施して、接合したアモルファスセレン膜20A、20Bを結晶化させる工程(S106)と、を含む。
【0045】
以下、各工程の詳細を順次説明する。なお、同一の構成要素に同一の参照番号を付しており、各構成要素の材料、膜厚などの説明は既述のとおりであり、重複する説明を省略する。また、ステップS101と、ステップS102~S104とは、平行して行われてもよいし、順番に行われてもよい。
【0046】
〔第1アモルファスセレン膜20Aの形成工程:ステップS101〕
まず、
図3Aに示すように、第1電極40が設けられた信号読み出し回路基板60上に、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法などにより、接合膜30を形成する。信号読み出し回路基板60上に接合膜30を形成することで、後述する第2の熱処理工程において、信号読み出し回路基板60と結晶セレン膜20との接着力を向上させることができる。これにより、結晶セレン膜20の膜剥れを防止することができる。
【0047】
次に、接合膜30上に、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法などにより、膜厚が10nm以上500nm以下の第1アモルファスセレン膜20Aを形成する。第1アモルファスセレン膜20Aの膜厚は、結晶セレン膜20の膜厚の半分、又は、結晶セレン膜20の膜厚の半分以下であることが好ましい。
【0048】
〔スズが添加された酸化ガリウム膜10Aの形成工程:ステップS102〕
次に、
図3Bに示すように、透明基板70上に、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法などにより、第2電極50を形成する。
【0049】
次に、第2電極50上に、例えば、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法、真空蒸着法などにより、スズが添加された酸化ガリウム膜10Aを形成する。例えば、酸化ガリウム膜に添加されるスズの原子百分率が、6.0atom%以上9.0atom%以下となるように、スパッタ装置により、金属スズ又は酸化スズ含有の酸化ガリウムからなる単一のターゲットを用いてスパッタリングし、第2電極50上に、スズが添加された酸化ガリウム膜10Aを成膜する。例えば、酸化ガリウム膜に添加されるスズの原子百分率が、6.0atom%以上9.0atom%以下となるように、スパッタ装置により、スズの金属ターゲット又は酸化スズ焼結体のターゲット、および酸化ガリウムからなるターゲットを用いて共スパッタリングし、第2電極50上に、スズが添加された酸化ガリウム膜10Aを成膜する。
【0050】
なお、スズが添加された酸化ガリウム膜10Aにおけるスズ含有量は、ターゲット中のスズ含有量に概ね比例するものの線形ではない。そのため、出力条件(RFパワーなど)および雰囲気ガス条件(酸素分圧など)並びにターゲットのスズ含有量などに応じて、成膜後のスズが添加された酸化ガリウム膜10Aにおけるスズ含有量は定まる。
【0051】
〔第1熱処理工程:ステップS103〕
次に、
図3Cに示すように、スズが添加された酸化ガリウム膜10Aに、第1の熱処理を施して、スズが添加された酸化ガリウム膜10Aを結晶化させる。
【0052】
第1の熱処理の条件は、酸素を含む雰囲気中で、700度以上1200度以下、10分以上3時間以下であることが好ましい。また、第1の熱処理の条件は、酸素を含む雰囲気中で、700度以上1100度以下、45分以上2時間以下であることがより好ましい。また、第1の熱処理の条件は、酸素を含む雰囲気中で、800度以上1000度以下、1時間以上2時間以下であることがさらに好ましい。第1の熱処理の条件を適正化することにより、後に形成される光電変換部200の結晶性を向上させることができる。また、第1の熱処理の条件を適正化することにより、後に形成される固体撮像素子100の暗電流の増加を抑制することができる。なお、上述の第1の熱処理の条件は、一例であり、この条件に特に限定されるものではない。
【0053】
〔第2アモルファスセレン膜20Bの形成工程:ステップS104〕
次に、
図3Dに示すように、スズを含み結晶化した酸化ガリウム膜10上に、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法などにより、膜厚が10nm以上500nm以下の第2アモルファスセレン膜20Bを形成する。第2アモルファスセレン膜20Bの膜厚は、結晶セレン膜20の膜厚の半分、又は、結晶セレン膜20の膜厚の半分以上であることが好ましい。
【0054】
〔接合工程:ステップS105〕
次に、
図3Eに示すように、信号読み出し回路基板60上に形成された第1アモルファスセレン膜20Aと透明基板70上に形成された第2アモルファスセレン膜20Bとを向かい合わせて接合する。
【0055】
例えば、第1アモルファスセレン膜20Aと第2アモルファスセレン膜20Bとを接触させ、0.01MPa~100MPaの圧力で加圧することにより、第1アモルファスセレン膜20Aと第2アモルファスセレン膜20Bとを接合する。この際、第1アモルファスセレン膜20Aおよび第2アモルファスセレン膜20Bを軟化させるために、あらかじめ、第1アモルファスセレン膜20Aおよび第2アモルファスセレン膜20Bを加熱処理してもよい。ただし、加熱処理における温度は50度以下とすることが好ましい。
【0056】
〔第2熱処理工程:ステップS106〕
次に、
図3Fに示すように、接合した第1アモルファスセレン膜20Aおよび第2アモルファスセレン膜20Bに、第2の熱処理を施して、接合した第1アモルファスセレン膜20Aおよび第2アモルファスセレン膜20Bを結晶化させる。これにより、光電変換部200が形成される。
【0057】
第2の熱処理の条件は、100度以上220度以下、30秒以上1時間以下であることが好ましい。なお、第2の熱処理の条件は、一例であり、この条件に特に限定されるものではない。
【0058】
以上の任意工程を含む各工程を経ることにより、本実施形態に係る固体撮像素子100を製造することができる。本実施形態に係る固体撮像素子100は、光電変換部200が、不純物を含み結晶化した酸化ガリウム膜10と、結晶セレン膜20と、を少なくとも備える。すなわち、結晶性が良好であり、従来技術には無い物性を有する光電変換部200を備える。これにより、低電圧でのキャリア増倍を可能としつつ、不純物の添加による暗電流の増加を抑制可能な固体撮像素子100を実現できる。
【実施例】
【0059】
<実施例>
以下、
図5A乃至
図8Bを参照して、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、説明の便宜状、
図5A~
図5Cの符号は、
図1および
図3A~
図3Fで用いた構成要素を参照する。
【0060】
〔試料の作製〕
以下に示す方法により、評価試料として、比較例に係る試料1、比較例に係る試料2、実施例に係る試料3を作製した。試料1、試料2、および試料3は、接合型撮像素子において、接合前の透明基板側に形成される素子(
図3D参照)を模したものである。したがって、試料1、試料2、および試料3を用いて得られた評価結果は、実際の固体撮像素子(接合型撮像素子)を用いて得られる評価結果と略一致すると考えてよい。
【0061】
《試料1》
図5Aに示すように、サファイア基板201上に、スパッタリング法により膜厚10nmのITO膜からなる第1透明電極202を形成した。次に、第1透明電極202上に、スパッタリング法により膜厚20nmの酸化ガリウム膜10Bを形成した。ターゲットとして、スズが添加されていない酸化ガリウムからなるターゲットを使用した。次に、酸化ガリウム膜10B上に、真空蒸着法により膜厚1nmのテルル膜からなる接合膜30を形成した。次に、接合膜30上に、真空蒸着法により膜厚0.5μmのアモルファスセレン膜を形成した。次に、第1透明電極202、酸化ガリウム膜10B、接合膜30、およびアモルファスセレン膜が形成されたサファイア基板201に対して、200度で1分間の熱処理を施すことにより膜厚0.5μmの結晶セレン膜20を形成した。最後に、結晶セレン膜20上に、スパッタリング法により膜厚30nmのITO膜からなる第2透明電極203を形成し、試料1を得た。
【0062】
《試料2》
図5Bに示すように、サファイア基板201上に、スパッタリング法により膜厚10nmのITO膜からなる第1透明電極202を形成した。次に、第1透明電極202上に、スパッタリング法により膜厚20nmのスズが添加された酸化ガリウム膜10Aを形成した。ターゲットとして、スズが6.0atom%添加されたスズ添加酸化ガリウムからなるターゲットを使用した。次に、スズが添加された酸化ガリウム膜10A上に、真空蒸着法により膜厚1nmのテルル膜からなる接合膜30を形成した。次に、接合膜30上に、真空蒸着法により膜厚0.5μmのアモルファスセレン膜を形成した。次に、第1透明電極202、スズが添加された酸化ガリウム膜10A、接合膜30、およびアモルファスセレン膜が形成されたサファイア基板201に対して、200度で1分間の熱処理を施すことにより膜厚0.5μmの結晶セレン膜20を形成した。最後に、結晶セレン膜20上に、スパッタリング法により膜厚30nmのITO膜からなる第2透明電極203を形成し、試料2を得た。
【0063】
《試料3》
図5Cに示すように、サファイア基板201上に、スパッタリング法により膜厚10nmのITO膜からなる第1透明電極202を形成した。次に、第1透明電極202上に、スパッタリング法により膜厚20nmのスズが添加された酸化ガリウム膜10Aを形成した。ターゲットとして、スズが6.0atom%添加されたスズ添加酸化ガリウムからなるターゲットを使用した。次に、第1透明電極202およびスズが添加された酸化ガリウム膜10Aが形成されたサファイア基板201に対して、酸素を含む雰囲気中で、800度で1時間の熱処理を施すことにより膜厚20nmのスズを含み結晶化した酸化ガリウム膜10を形成した。次に、スズを含み結晶化した酸化ガリウム膜10上に、真空蒸着法により膜厚1nmのテルル膜からなる接合膜30を形成した。次に、接合膜30上に、真空蒸着法により膜厚0.5μmのアモルファスセレン膜を形成した。次に、第1透明電極202、スズを含み結晶化した酸化ガリウム膜10、接合膜30、およびアモルファスセレン膜が形成されたサファイア基板201に対して、200度で1分間の熱処理を施すことにより膜厚0.5μmの結晶セレン膜20を形成した。最後に、結晶セレン膜20上に、スパッタリング法により膜厚30nmのITO膜からなる第2透明電極203を形成し、試料3を得た。なお、最初の熱処理が施された時点で、スズが添加された酸化ガリウム膜は、完全には結晶化していない。
【0064】
上述の試料2および試料3において、酸化ガリウム膜に添加されるスズの原子百分率は、ラザフォード後方散乱分析法により測定された値であり、6.0atom%であった。
【0065】
〔実験例1〕
図5A~
図5Cに示す試料1、試料2、および試料3を用いて、第1透明電極202が正極、第2透明電極203が負極となるように電圧を印加した際の光照射時における電圧-光電流特性を測定した。また、
図5A~
図5Cに示す試料1、試料2、および試料3を用いて、第1透明電極202が正極、第2透明電極203が負極となるように電圧を印加した際の暗時における電圧-暗電流特性を測定した。電圧-光電流特性の測定にあたり、光強度2.5μW/cm
2、波長550nmの光源を用いた。
【0066】
〔実験例1における評価〕
図6は、光照射時における電圧-光電流特性、および、暗時における電圧-暗電流特性の一例を示す図である。実線は、光照射時における電圧-光電流特性を示している。点線は、暗時における電圧-暗電流特性を示している。横軸は電圧[V]を示している。縦軸は電流密度[pA/cm
2]を示している。
【0067】
図6の実線グラフから、試料2および試料3は、電圧15V付近で光電流が立ち上がっているのに対して、試料1は、電圧15V付近で光電流が立ち上がっていないことがわかる。すなわち、試料1は、光電流の立ち上がりが遅く、キャリア増倍に非常に高い電圧を必要とするのに対して、試料2および試料3は、光電流の立ち上がりが早く、キャリア増倍のための電圧を低電圧化できていることがわかる。
【0068】
これは、結晶セレンに対してノンドープ酸化ガリウムのキャリア濃度が低く、結晶セレン側に空乏層が効率良く拡がらないのに対して、スズを添加することで酸化ガリウムのキャリア濃度が高まり、効率良く結晶セレン側に空乏層が拡がるためと考えられる。したがって、酸化ガリウム膜にスズを添加することで、低電圧でのキャリア増倍が可能であることが示唆される。
【0069】
また、
図6の実線グラフから、試料2および試料3は、光電流が略変わらないことがわかる。したがって、スズが添加された酸化ガリウム膜に、熱処理を施しても、光電流にはあまり影響を及ぼさず、低電圧でのキャリア増倍の効果は失われていないことが示唆される。
【0070】
図6の点線グラフから、試料1、試料2、および試料3の中で、試料1は、暗電流が全体的に最も小さいことがわかる。また、試料1、試料2、および試料3の中で、試料2は、暗電流が全体的に最も大きいことがわかる。したがって、酸化ガリウム膜にスズを添加することで、暗電流は増加するが、スズが添加された酸化ガリウム膜に、さらに、熱処理を施すことで、スズの添加による暗電流の増加を抑制可能であることが示唆される。
【0071】
実験例1から、酸化ガリウム膜に対するスズの添加量、および、スズが添加された酸化ガリウム膜に施される熱処理の条件を適正化することで、低電圧でのキャリア増倍を可能としつつ、スズの添加による暗電流の増加を抑制可能な固体撮像素子100を実現できることが示唆される。
【0072】
〔実験例2〕
図5A~
図5Cに示す試料1、試料2、および試料3を用いて、原子間力顕微鏡により結晶セレン膜20の表面粗さRaを測定した。
【0073】
〔実験例2における評価〕
図7は、AFM測定により得られる試料1、試料2、および試料3における結晶セレン膜の表面の一例を示す図である。
【0074】
試料1における結晶セレン膜20の表面粗さは、20.8[nm]であった。試料2における結晶セレン膜20の表面粗さは、41.1[nm]であった。試料3における結晶セレン膜20の表面粗さは、17.7[nm]であった。
【0075】
図7から、試料1および試料3における結晶セレン膜20の表面は、凹凸が少なく、ある程度、滑らかであることがわかる。一方、試料2における結晶セレン膜20の表面は、凹凸が多く、粗いことがわかる。
【0076】
このように、結晶セレン膜20の表面に違いが現れるのは、結晶セレン膜20の結晶が、下側に形成される酸化ガリウム膜の結晶の具合に依存して、成長していくためである。結晶セレン膜20の表面が粗い程、光電変換部全体の結晶性が悪いと評価することができ、評価試料における暗電流は大きくなると考えられる。一方で、結晶セレン膜20の表面が滑らかである程、光電変換部全体の結晶性が良いと評価することができ、評価試料における暗電流は小さくなると考えられる。
【0077】
つまり、試料1における結晶セレン膜20の表面は滑らかであるため、スズが添加されていない酸化ガリウム膜10Bの上に成膜された結晶セレン膜20の結晶性は良好であり、光電変換部の結晶性が良いと評価できる。また、試料2における結晶セレン膜20の表面は粗いため、スズが添加された酸化ガリウム膜10Aの上に成膜された結晶セレン膜20の結晶性は良好ではなく、光電変換部の結晶性が悪いと評価できる。また、試料3における結晶セレン膜20の表面は滑らかであるため、スズを含み結晶化した酸化ガリウム膜10の上に成膜された結晶セレン膜20の結晶性は良好であり、光電変換部の結晶性が良いと評価できる。
【0078】
したがって、酸化ガリウム膜にスズを添加することで、結晶セレン膜の表面が粗くなり、光電変換部の結晶性は悪化するが、スズが添加された酸化ガリウム膜に、さらに、熱処理を施すことで、結晶セレン膜の表面は滑らかになり、スズの添加による光電変換部の結晶性の悪化を改善可能であることが示唆される。
【0079】
実験例2から、酸化ガリウム膜に対するスズの添加量、および、スズが添加された酸化ガリウム膜に施される熱処理の条件を適正化することで、光電変換部の結晶性を向上させ、光電変換部の特性を向上させられることが示唆される。これにより、スズの添加による暗電流の増加を抑制可能な固体撮像素子100を実現できることが示唆される。
【0080】
〔実験例3〕
図5A~
図5Cに示す試料1、試料2、および試料3を用いて、X線回折測定を行った。試料1、試料2、および試料3の表面に対して平行な格子面を評価するOut-of-Plane測定を適用した。
【0081】
測定条件を、以下に示す。
X線源:Cu-Kα線
出力設定:45kV、200mA
測角範囲:2θ=10°~90°
スキャン速度:2°(2θ/min)、連続スキャン
発散スリット:5°
散乱スリット:5°
受光スリット:1mm
【0082】
〔実験例3における評価〕
図8Aおよび
図8Bは、XRD測定により得られる試料1、試料2、および試料3における回折角度と強度との関係の一例を示す図である。
図8Bは、
図8Aの拡大図である。横軸は回折角度2θ[deg.]を示している。縦軸は強度[a.u.]を示している。
【0083】
試料1におけるXRDパターンにおけるSe(100)面の回折ピークのピーク強度は、7975countsであった。また、回折ピークの半値幅は、0.2433deg.であった。試料2におけるXRDパターンにおけるSe(100)面の回折ピークのピーク強度は、4971countsであった。また、回折ピークの半値幅は、0.2499deg.であった。試料3におけるXRDパターンにおけるSe(100)面の回折ピークのピーク強度は、6060countsであった。また、回折ピークの半値幅は、0.2546deg.であった。
【0084】
図8Aから、試料3は、XRDパターンに複数の目立ったピークが存在していることがわかる。また、
図8Bから、試料1におけるピーク強度が最も大きく、試料2におけるピーク強度が最も小さく、試料3におけるピーク強度が試料1におけるピーク強度と試料2におけるピーク強度との間であることがわかる。
【0085】
したがって、酸化ガリウム膜にスズを添加することで、光電変換部の結晶性は悪化するが、スズが添加された酸化ガリウム膜に、さらに、熱処理を施すことで、スズの添加による光電変換部の結晶性の悪化を改善可能であることが示唆される。
【0086】
実験例3から、酸化ガリウム膜に対するスズの添加量、および、スズが添加された酸化ガリウム膜に施される熱処理の条件を適正化することで、光電変換部の結晶性を向上させ、光電変換部の特性を向上させられることが示唆される。これにより、スズの添加による暗電流の増加を抑制可能な固体撮像素子100を実現できることが示唆される。
【0087】
上述の実施例から、スズが添加された酸化ガリウム膜を高温熱処理し、結晶化させることで、スズの添加による光電変換部の結晶性の悪化を改善できることが示唆される。これにより、低電圧でのキャリア増倍を可能としつつ、スズの添加による暗電流の増加を抑制可能な固体撮像素子100を実現できることが示唆される。
【0088】
なお、上述の実施例では、酸化ガリウム膜に添加される不純物として、スズを用いた場合を一例に挙げて説明したが、酸化ガリウム膜に添加される不純物として、例えば、シリコン、ゲルマニウムなどが選択された場合であっても同様の効果が得られることは勿論である。
【0089】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨および範囲内で、多くの変更および置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態のフローチャートに記載の各工程の順序は、上記に限定されず適宜変更可能である。また、複数の工程を1つに組み合わせたり、あるいは1つの工程を分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 試料
2 試料
3 試料
10 スズを含み結晶化した酸化ガリウム膜
10A スズが添加された酸化ガリウム膜
10B 酸化ガリウム膜
20 結晶セレン膜
20A 第1アモルファスセレン膜
20B 第2アモルファスセレン膜
30 接合膜
40 第1電極
50 第2電極
60 信号読み出し回路基板
70 透明基板
100 固体撮像素子
200 光電変換部
201 サファイア基板
202 第1透明電極
203 第2透明電極