(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】撮像装置
(51)【国際特許分類】
H04N 25/62 20230101AFI20240321BHJP
H04N 25/76 20230101ALI20240321BHJP
H04N 23/76 20230101ALI20240321BHJP
H04N 23/45 20230101ALI20240321BHJP
【FI】
H04N25/62
H04N25/76
H04N23/76
H04N23/45
(21)【出願番号】P 2020081319
(22)【出願日】2020-05-01
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】安江 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 宏平
(72)【発明者】
【氏名】船津 良平
(72)【発明者】
【氏名】菊地 幸大
(72)【発明者】
【氏名】松原 智樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 誉行
【審査官】三沢 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-296122(JP,A)
【文献】特開2013-102312(JP,A)
【文献】特開2018-033101(JP,A)
【文献】特開昭63-288575(JP,A)
【文献】特開平11-112840(JP,A)
【文献】国際公開第2009/096168(WO,A1)
【文献】特開2013-009207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 25/62
H04N 25/76
H04N 23/76
H04N 23/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素からの信号線
に対して、前記信号線の電圧振幅を抑制するクリップ回路
とアナログゲイン回路とA/D変換回路が配置された読み出し回路を有する撮像素子を備えた撮像装置において、
前記クリップ回路のホワイトクリップ電圧を、前記撮像素子のアナログゲイン設定値、ホワイトバランス調整値、
及びデジタルゲイン設定値
の変化に従って調整
し、
画素リセット時の出力電圧の基準電圧をV
Ref
、リセット電圧のマージンをV
MGNB
、A/D変換回路の入力電圧範囲をV
Range
、撮像素子のアナログゲイン設定値をG
A
、ホワイトバランス調整値をG
W
、デジタルゲイン設定値をG
D
、クリップ回路の動作マージンをV
MGNW
として、前記ホワイトクリップ電圧を、V
Ref
-V
MGNB
-(V
Range
-V
MGNB
)/(G
A
*G
W
*G
D
)-V
MGNW
に従って決定することを特徴とする、撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の撮像装置において、
前記撮像素子のアナログゲイン設定値をG
A、ホワイトバランス調整値をG
W、デジタルゲイン設定値をG
Dとして、前記ホワイトクリップ電圧は、前記信号線の電圧振幅が、基準の設定の時に必要な信号振幅の1/(G
A*G
W*G
D)の信号振幅が確保されるように調整することを特徴とする、撮像装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の撮像装置において、
前記クリップ回路は、ソースとドレインが定電圧源と前記信号線に接続され、ゲートにホワイトクリップ設定電圧が入力された電界効果トランジスタを備えることを特徴とする、撮像装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の撮像装置において、
ホワイトクリップ設定信号に基づいてホワイトクリップ設定電圧を発生するホワイトクリップ設定電圧発生回路を前記撮像装置内に備え、前記撮像素子に前記ホワイトクリップ設定電圧を入力することを特徴とする、撮像装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の撮像装置において、
ホワイトクリップ設定信号に基づいてホワイトクリップ設定電圧を発生するホワイトクリップ設定電圧発生回路を前記撮像素子内に備え、前記撮像素子
内の前記ホワイトクリップ設定電圧発生回路に前記ホワイトクリップ設定信号を入力することを特徴とする、撮像装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の撮像装置において、
前記ホワイトクリップ設定信号を前記ホワイトクリップ設定電圧のデジタル値とし、前記ホワイトクリップ設定電圧発生回路を、D/A(デジタル/アナログ)変換回路として構成することを特徴とする、撮像装置。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の撮像装置において、
単一のカラー撮像素子を備え、前記カラー撮像素子の前記クリップ回路に、色信号毎に調整されたホワイトクリップ設定電圧が入力されることを特徴とする、撮像装置。
【請求項8】
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の撮像装置において、
分光プリズムと複数の撮像素子を備え、各撮像素子の前記クリップ回路に、各撮像素子の色信号に対応するホワイトクリップ設定電圧が入力されることを特徴とする、撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の映像の高品質化・高解像度化に伴い、撮像装置の低ノイズ化が求められている。
図6は、従来の撮像装置の回路構成の例である。撮像装置100は、内部に撮像素子110を備え、さらに撮像素子110の出力信号を処理するホワイトバランス調整回路40、デジタルゲイン回路50、その他信号処理を行う諸回路60を備えている。
【0003】
撮像素子110は、例えば、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型撮像素子110であり、二次元アレイ状に配置された複数の画素10と、各列の信号線に配置されたアナログゲイン回路20と、A/D(アナログ/デジタル)変換回路30を備えている。各画素10は、光電変換素子(一般には、フォトダイオード)11と画素内アンプ12を備えている。画素10に設けられたフォトダイオード11により光電変換された信号は、画素内アンプ12を経由して画素アレイ外に設けられた読み出し回路に電圧として出力される。一般的な構成の読み出し回路では、ゲインが調整可能に設計されたアナログゲイン回路20において信号レベルが調整された後に、A/D変換回路30において信号がデジタル値に変換される。
【0004】
デジタル値に変換された信号は、色毎にゲインを調整するホワイトバランス調整回路40、デジタル的に信号増幅を行うデジタルゲイン回路50、及び、その後の信号処理を行う諸回路60などによって処理された後に、映像信号として撮像装置から出力される。これらのデジタルドメインでの信号処理は、撮像素子110から出力された後に撮像装置100内部で行うことができるが、撮像素子110内部で行われる場合もある。
【0005】
図7は、各回路の出力信号のレベルダイアグラムの模式図である。画素10からは、画素内アンプ12を経由してアナログ電圧の出力信号V
1が出力される。この出力信号V
1は、アナログゲイン回路20で増幅(増幅率:G
A)され、アナログ電圧の出力信号V
2(=G
A*V
1)となる。次に、A/D変換回路30は、アナログ出力信号V
2を、デジタル信号に変換する。なお、一般にA/D変換回路30にはA/D変換が可能な入力電圧範囲(V
Range)があり、この入力電圧範囲を超える入力電圧はデジタル信号に反映されない。この結果、入力電圧範囲を上限としたデジタル信号(D
R
1,D
G
1,D
B
1)が出力される。ホワイトバランス調整回路40は、A/D変換回路30から出力されたデジタル信号を、最適な色調となるように色ごとにそれぞれゲイン調整し、ホワイトバランスされたデジタル信号(D
R
2,D
G
2,D
B
2)を出力する。なお、ホワイトバランス調整値をG
Wとして、D
R
2=G
R
W*D
R
1、D
G
2=G
G
W*D
G
1、D
B
2=G
B
W*D
B
1である。デジタルゲイン回路50は、ホワイトバランス調整回路40からの出力信号に対して、デジタル処理により信号増幅(増幅率:G
D)する処理を行い、増幅されたデジタル信号(D
R
3,D
G
3,D
B
3)を出力する。デジタルゲイン回路50からの出力信号は、それ以降も様々な信号処理回路60によって信号処理が加えられ、最終的な映像信号(D
R
OUT,D
G
OUT,D
B
OUT)が撮像装置から出力される。
【0006】
このように、撮像装置100の内部においては、複数段にわたって信号にゲインが加えられる。しかし、上述のとおり、まずA/D変換回路30の処理の段階でその入力電圧範囲(VRange)を超える電圧は使用されずに失われる。また、A/D変換後に更にゲインが加えられた後の信号は、自然な色再現のために信号の上限値を色毎で同一とするため、もしくは所望するダイナミックレンジの信号を得るために、最終的には映像信号として処理できる信号値の上限にクリップ処理を行うことが一般的である。したがって、映像信号が出力されるまでの過程でクリップが加えられるために、画素から電圧として出力される信号の範囲は全てが映像信号として出力されるわけではなく、高輝度領域の信号は上記クリップが行われるために使用されずに失われることとなる。特に近年では、照明環境の多様化を背景としてホワイトバランス調整値を大きく設定したり、雑音除去技術を背景としてデジタルゲインを高く設定する事が多く、ホワイトバランス調整回路やデジタルゲイン回路においてクリップされて失われる信号はより大きくなっている。
【0007】
一方で、クリップにより失われる信号(例えば、高輝度領域を撮影した画像信号)は、信号レベルの高い信号であることから、画素外に読み出される信号電圧は、リセット時電圧と映像信号出力時の電圧との差(信号振幅)が大きくなり、アナログゲイン回路20やA/D変換回路30の動作に与える影響は、信号レベルの低い領域を撮影した場合に比較して大きくなる。その結果として、画面の横方向に影響が伝搬することによるストリーキングの発生や、回路内のトランジスタの動作状態が変わることによる雑音の増大など、映像品質を悪化させるアーティファクトを発生する。すなわち、クリップにより失われるレベルの信号は、有効な映像信号として利用されず、むしろ映像品質を劣化させる原因となる。したがって、撮像装置内でクリップにより失われる信号に関しては、画素外に読み出される時点で予めクリップして除いておくことが望ましい。
【0008】
画素外への信号読み出しの時点で電圧の振幅を制限する回路として、撮像素子の信号線にクリップ回路を設けることが提案されている(特許文献1)。例えば、特許文献1には、サンプルホールド回路にフローティングノードをリセットした時のリセット信号を保持する際は、信号線を高い電位にクリップし、フォトダイオードの電荷がフローティングノードに転送された時の信号を取得する際には、信号線を低い電位でクリップすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術によれば、撮像素子の信号線の電圧振幅を制限することにより、強い光が入射していない他の画素セルの出力変動をある程度抑制することができる。しかしながら、従来技術では、画素から出力される信号が制限される電圧値であるホワイトクリップ電圧は、撮像装置のゲイン設定が基準設定の場合に必要とする信号振幅を確保できるように一定値に予め設定されている。そのために、撮像装置を運用する際のホワイトバランス調整回路やデジタルゲイン回路の設定に応じて調整することが不可能であり、アーティファクトを防ぐ効果には限界があった。特に、大幅なゲインアップの必要となる暗い環境下では、アーティファクトもゲインアップして出力されるために、映像品質の著しい劣化として知覚される場合があった。
【0011】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、映像に応じてゲイン回路やホワイトバランス調整回路を調整した場合であっても、撮像素子の信号線の電圧振幅を最適に制御し、ノイズやアーティファクトを抑制することが可能な撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る撮像装置は、画素からの信号線に対して、前記信号線の電圧振幅を抑制するクリップ回路とアナログゲイン回路とA/D変換回路が配置された読み出し回路を有する撮像素子を備えた撮像装置において、前記クリップ回路のホワイトクリップ電圧を、前記撮像素子のアナログゲイン設定値、ホワイトバランス調整値、及びデジタルゲイン設定値の変化に従って調整し、画素リセット時の出力電圧の基準電圧をV
Ref
、リセット電圧のマージンをV
MGNB
、A/D変換回路の入力電圧範囲をV
Range
、撮像素子のアナログゲイン設定値をG
A
、ホワイトバランス調整値をG
W
、デジタルゲイン設定値をG
D
、クリップ回路の動作マージンをV
MGNW
として、前記ホワイトクリップ電圧を、V
Ref
-V
MGNB
-(V
Range
-V
MGNB
)/(G
A
*G
W
*G
D
)-V
MGNW
に従って決定することを特徴とする。
【0013】
また、前記撮像装置は、前記撮像素子のアナログゲイン設定値をGA、ホワイトバランス調整値をGW、デジタルゲイン設定値をGDとして、前記ホワイトクリップ電圧を、前記信号線の電圧振幅が、基準の設定の時に必要な信号振幅の1/(GA*GW*GD)の信号振幅が確保されるように調整することが望ましい。
【0014】
また、前記撮像装置は、前記クリップ回路が、ソースとドレインが定電圧源と前記信号線に接続され、ゲートにホワイトクリップ設定電圧が入力された電界効果トランジスタを備えることが望ましい。
【0015】
また、前記撮像装置は、ホワイトクリップ設定信号に基づいてホワイトクリップ設定電圧を発生するホワイトクリップ設定電圧発生回路を前記撮像装置内に備え、前記撮像素子に前記ホワイトクリップ設定電圧を入力することが望ましい。
【0016】
また、前記撮像装置は、ホワイトクリップ設定信号に基づいてホワイトクリップ設定電圧を発生するホワイトクリップ設定電圧発生回路を前記撮像素子内に備え、前記撮像素子内の前記ホワイトクリップ設定電圧発生回路に前記ホワイトクリップ設定信号を入力することが望ましい。
【0017】
また、前記撮像装置は、前記ホワイトクリップ設定信号を前記ホワイトクリップ設定電圧のデジタル値とし、前記ホワイトクリップ設定電圧発生回路を、D/A(デジタル/アナログ)変換回路として構成することが望ましい。
【0019】
また、前記撮像装置は、単一のカラー撮像素子を備え、前記カラー撮像素子の前記クリップ回路に、色信号毎に調整されたホワイトクリップ設定電圧が入力されることが望ましい。
【0020】
また、前記撮像装置は、分光プリズムと複数の撮像素子を備え、各撮像素子の前記クリップ回路に、各撮像素子の色信号に対応するホワイトクリップ設定電圧が入力されることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明における撮像装置によれば、映像に応じてゲイン回路やホワイトバランス調整回路を調整した場合であっても、撮像素子の信号線の電圧振幅を最適に制御し、ノイズやアーティファクトを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1の実施形態の単板式撮像装置の回路構成の例を示す図である。
【
図2】ホワイトクリップ回路の一例を示す図である。
【
図3】ホワイトクリップ回路を設けたときの信号線の電圧変化の例を示す図である。
【
図4】ホワイトクリップ電圧の設定方法の一例を示す図である。
【
図5】第2の実施形態の3板式撮像装置の回路構成の例を示す図である。
【
図6】従来の撮像装置の回路構成の例を示す図である。
【
図7】各回路の出力信号のレベルダイアグラムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0024】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態の単板式撮像装置の回路構成の例である。単板式撮像装置200は、各画素上に色選択フィルタを形成してカラー画像を撮影する撮像素子(カラー撮像素子)210を備えている。さらに、撮像装置200は、ホワイトバランス調整回路40、デジタルゲイン回路50、その他信号処理を行う諸回路60、演算回路80、センサ設定回路82、タイミング生成回路84、ホワイトクリップ設定電圧発生回路86を備えている。また、撮像素子210は、画素10と、クリップ回路70と、アナログゲイン回路20と、A/D変換回路30を備えている。
【0025】
なお、
図1では、撮像素子210内に、画素10、クリップ回路70、アナログゲイン回路20、及びA/D変換回路30が、それぞれ1つずつ記載されているが、実際はアレイ状に配置された多数の画素10を備えている。また、読み出し回路については、例えば、
図6のように、列方向に配列された画素に対して共通の信号線が設けられ、各信号線に対してクリップ回路70とアナログゲイン回路20とA/D変換回路30がそれぞれ配置された列並列読み出し回路として構成される。さらに、これ以外にも、画素ごとに読み出し回路を設けた画素並列読み出し回路として構成してもよく、また、撮像素子全体で共通の読み出し回路を設ける構成としてもよい。以下、各回路について説明するが、
図6の従来技術に含まれる回路は説明を簡略化する。
【0026】
撮像素子210の画素10は、光電変換素子(フォトダイオード)11と画素内アンプ12を備えており、光電変換された信号を信号線に電圧として出力する。また、各画素上にはカラーフィルタ(例えば、R,G,B)が設けられ、各画素はそれぞれRch,Gch,Bchの信号を出力する。
【0027】
クリップ回路(ホワイトクリップ回路)70は、信号線に設けられ、映像信号の一番明るい部分の信号値を規制するホワイトクリップ設定電圧(VR
CLP_SET,VG
CLP_SET,VB
CLP_SET)が与えられて、信号線の電圧をホワイトクリップ電圧(VR
CLP,VG
CLP,VB
CLP)に制限する。なお、ホワイトクリップ設定電圧は、所望のホワイトクリップ電圧を生成するためにクリップ回路70に入力される電圧である。クリップ回路70で制限された電圧信号が、アナログゲイン回路20に入力される。
【0028】
図2は、ホワイトクリップ回路70の一例である。ホワイトクリップ回路70は、ソースとドレインが信号線と定電圧源VDDを接続され、ゲートにホワイトクリップ設定電圧が入力された電界効果トランジスタ71により構成される。一般的には、ホワイトクリップ電圧(V
CLP)は、ホワイトクリップ設定電圧(V
CLP_SET)から、用いる電界効果トランジスタ71の閾値電圧を引いた値となる。このように、ホワイトクリップ設定電圧とホワイトクリップ電圧に差異が発生する場合には、ホワイトクリップ設定電圧はそれを考慮した値とすることが望ましい。
【0029】
信号線には、最初は画素10のリセット電圧が出力されているが、画素10のフォトダイオード11に光が照射されると光電変換により電子が生成され、画素内アンプ12の出力電圧が次第に低下していく。光電荷量が少ない段階では、信号線の電圧がホワイトクリップ電圧よりも高いため、電界効果トランジスタ71はオフ(非導通状態)であり、内部抵抗RSDが高抵抗となる。このため、定電圧源VDDと信号線は切り離されて、信号線には画素10からの出力信号(出力電圧)がそのまま伝送されて、アナログゲイン回路20に入力される。
【0030】
その後、照射光量が多くなりフォトダイオード11で生成された光電荷が蓄積され、画素10の出力電圧が、一般的にはホワイトクリップ設定電圧からトランジスタ71の閾値電圧だけ低い、ホワイトクリップ電圧を超えると(信号線の電圧がホワイトクリップ電圧より低くなると)、電界効果トランジスタ71が導通し、その内部抵抗RSDが低くなり、信号線に電源電圧VDDが印加され、それ以上の電圧の低下を防ぐ。また、電源電圧VDDにより信号線の電圧がホワイトクリップ電圧よりも高くなろうとすると電界効果トランジスタが非導通状態となることから、結局、画素信号が大きいとき、信号線の電圧はホワイトクリップ電圧(VCLP)にクリップされることとなる。
【0031】
なお、最適なホワイトクリップ電圧はRch,Gch,Bchの各信号で異なるから、各チャンネルの信号でホワイトクリップ設定電圧を切り換えることが望ましい。また、本発明の実施形態では、光電変換による信号電荷を電子として説明するが、正孔を信号電荷としてもよく、その場合は電源及び信号の+-を適宜変更すればよい。
【0032】
図3に、ホワイトクリップ回路70を設けたときの信号線の電圧変化の例を示す。画素内アンプの出力電圧(破線)は、始めはリセット電圧であるが、光照射により時間と共に次第に電圧値が下がる。この出力電圧(振幅V
1)は、フォトダイオードで生成され蓄積された電荷量に比例する。電荷量が少ないときは、信号線の電圧(実線)は画素の出力電圧となる。そして、光照射時間と共に光電荷が増加し、画素内アンプ出力電圧がホワイトクリップ電圧よりも低くなったとき、
図2のホワイトクリップ回路70の動作により、信号線の電圧はホワイトクリップ電圧にクリップされる。したがって、画素の出力電圧振幅V
1が大きくなった場合でも、信号線はホワイトクリップ電圧にクリップ(制限)され、クリップされた電圧がアナログゲイン回路20に入力される。
【0033】
本発明では、後述のとおり、ホワイトクリップ電圧(したがって、これを設定するホワイトクリップ設定電圧)を、ゲイン回路やホワイトバランス調整回路等の設定に応じて、適応的に制御する。なお、クリップ回路70は
図2の回路に限定されるものではなく、信号線の電圧を正確にクリップできる任意の回路構成であってよい。
【0034】
図1に戻って、撮像装置200の他の回路とホワイトクリップ電圧の設定について説明する。
【0035】
アナログゲイン回路20は、クリップ回路70でクリップされた信号線の電圧(画素の出力電圧)をアナログ的に増幅し、増幅した電圧信号V2をA/D変換回路30に出力する。なお、増幅処理の際に、光信号の大きいときが高電圧となるように、信号電圧の正負を反転することが望ましい。アナログゲイン回路20のアナログゲイン設定値(増幅率)は、センサ設定回路82で設定され、Rch,Gch,Bchの各チャンネルで異なるアナログゲイン設定値(GR
A,GG
A,GB
A)とすることができる。
【0036】
A/D変換回路30は、アナログ出力信号V2を、デジタル信号に変換し、変換したデジタル信号(DR
1,DG
1,DB
1)をホワイトバランス調整回路40に出力する。
【0037】
ホワイトバランス調整回路40は、A/D変換回路30から出力されたデジタル信号を、最適な色調となるように色信号ごとにそれぞれゲイン調整し、ホワイトバランスされたデジタル信号(DR
2,DG
2,DB
2)を、デジタルゲイン回路50へ出力する。さらに、ホワイトバランス調整回路40は、RGB各チャンネルのホワイトバランス調整値(GR
W,GG
W,GB
W)を、演算回路80へ出力する。
【0038】
デジタルゲイン回路50は、ホワイトバランス調整回路40からのデジタル出力信号に対して、デジタル処理により信号増幅する処理を行い、増幅されたデジタル信号(DR
3,DG
3,DB
3)を、後段のその他信号処理を行う諸回路60に出力する。さらに、デジタルゲイン回路50は、デジタルゲイン設定値(増幅率:GD)を、演算回路80へ出力する。
【0039】
デジタルゲイン回路50からの出力信号は、それ以降も様々な処理回路60によって信号処理が加えられ、最終的な映像信号(DR
OUT,DG
OUT,DB
OUT)が撮像装置から出力される。
【0040】
なお、
図1の回路構成では、撮像素子210の出力についてホワイトバランス調整をした後、デジタルゲイン回路50による増幅を行ったが、ホワイトバランス調整回路40とデジタルゲイン回路50の配置を反対にして、撮像素子210の出力についてデジタルゲイン回路50による増幅を行った後、ホワイトバランス調整回路40による調整を行ってもよい。
【0041】
センサ設定回路(素子駆動設定回路)82は、撮像素子(イメージセンサ)210の動作の様々な設定をする回路である。例えば、撮像素子210の動作モード、フレームレート、出力フォーマット等、様々な設定を行い、設定信号を撮像素子210に与えており、アナログゲイン回路20のアナログゲイン設定値(増幅率)も設定している。そして、センサ設定回路82は、RGB各色のアナログゲイン設定値(GR
A,GG
A,GB
A)を演算回路80へ出力する。
【0042】
タイミング生成回路84は、撮像素子210の動作タイミングを設定するクロック信号を生成し、撮像素子210の動作を制御する。
【0043】
演算回路80は、撮像素子のアナログゲイン設定値と、ホワイトバランス調整値と、デジタルゲイン設定値の各設定値を基にして、各色チャンネルのホワイトクリップを行う信号レベル(ホワイトクリップ電圧)を決定し、ホワイトクリップ設定電圧発生回路86に、ホワイトクリップ設定信号を出力する。
【0044】
ホワイトクリップ設定電圧発生回路86は、演算回路80から入力されたホワイトクリップ設定信号に基づいて、各色チャンネルのホワイトクリップ設定電圧(V
R
CLP_SET,V
G
CLP_SET,V
B
CLP_SET)を発生し、クリップ回路70に出力する。例えば、ホワイトクリップ設定信号をホワイトクリップ設定電圧のデジタル値の信号とし、ホワイトクリップ設定電圧発生回路86をD/A(デジタル/アナログ)変換回路として、アナログ電圧のホワイトクリップ設定電圧を発生させることができる。発生したホワイトクリップ設定電圧は、例えば、
図2のホワイトクリップ回路70のホワイトクリップ設定電圧入力端子に入力される。そして、ホワイトクリップ回路70が、信号線をホワイトクリップ電圧(V
R
CLP,V
G
CLP,V
B
CLP)にクリップする。
【0045】
図1に示す単板カラー撮像装置200では、1個の撮像素子210の画素アレイ上にカラーフィルタを形成してカラー画像を撮像するために、同一の読み出し回路が、複数色の信号を交互に読み出すことが必要となる。それに対応するために、ホワイトクリップ設定電圧はR,G,Bそれぞれの色信号毎に調整されたものを撮像素子に入力し、読み出す色によって適宜切り替えて回路に入力することが望ましい。
【0046】
なお、
図1では、ホワイトクリップ設定電圧発生回路86が撮像素子210の外に配置されているが、ホワイトクリップ設定電圧発生回路86を撮像素子210のチップ内に設けてもよい。このとき、撮像素子210にはホワイトクリップ設定信号が入力される。また、ホワイトバランス調整回路40、デジタルゲイン回路50についても、これらの回路を撮像素子210と同一のチップ上に形成する構成も可能である。
【0047】
図4に、ホワイトクリップ電圧の設定方法の一例を示す。通常、画素の動作では相関2重サンプリングが利用され、最初に画素をリセットした電圧が出力され、その後にフォトダイオードに光電変換後に蓄積された電荷が読み出されて、電荷量に応じた電圧の変動が出力される。一般的には、フォトダイオードでは電子が蓄積されるために、電圧の変動は負方向となる。この変動幅が、撮影された画像の信号レベル(V
1)を表す。撮像装置においては、基準の設定の時に必要な信号振幅が得られるようにホワイトクリップ電圧(V
CLPINI)を設定し、ホワイトクリップ設定電圧を調整する。以降では、この基準の設定の時を各ゲインが1の状態と考える(G
A
R,G,B=1,G
W
R,G,B=1,G
D=1)。従来技術では、各ゲインの調整値によらず、ホワイトクリップ電圧をV
CLPINIに固定して撮像装置を運用していた。
【0048】
本発明による構成では、GA,GW,GDの設定値に応じてVCLPを調整することが可能となる。設定値の一例としては、通常(基準の設定の時)は、画素リセット時の出力電圧に対してリセット電圧の揺らぎに対するマージン(VMGNB)を確保したVRefを基準電圧として、そこからA/D変換回路30の入力電圧範囲(VRange)と、クリップ回路70の動作特性による影響を防ぐマージン(VMGNW)を確保することにより、基準となるホワイトクリップ電圧VCLPINIをVRef-VRange-VMGNWに設定し、ホワイトクリップ設定電圧を調整する。この時出力電圧の振幅は、VRange-VMGNBが確保される。
【0049】
対して、各段でのゲインがGA,GW,GDとなった場合には、信号線の出力電圧の振幅は、基準の設定の時に必要な(許容される)信号振幅の1/(GA*GW*GD)の信号振幅が確保されるようにし、VCLPの設定値は、VRef-VMGNB-(VRange-VMGNB)/(GA*GW*GD)-VMGNWとする。そして、ホワイトクリップ電圧VCLPがこの修正された設定値となるように、ホワイトクリップ設定電圧を調整する。
【0050】
なお、出力電圧が上記の振幅を確保できる範囲においては、VCLPは他の手法を用いて決定してもよい。例えば、動作マージンが十分小さくてよいときは、マージンに関する項を省略してもよい。
【0051】
このように、映像信号に使用されないレベルの信号を、あらかじめクリップ回路で除去することにより、アーティファクトを抑制した高品質な映像を撮影することが可能となる。また、撮像装置を運用する中で、ホワイトバランスやデジタルゲインは照明環境等の変化に応じて随時変更されるが、本構成をとることにより、変更に追従して最適値を選択し続けることが可能となる。
【0052】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態の3板式撮像装置の回路構成の例である。第2の実施形態は、入力光を分光プリズム220で分光し、各色に対応して撮像素子(R)230、撮像素子(G)240、撮像素子(B)250を用いる3板カラー撮像装置201に、本発明を適用したものである。
【0053】
撮像装置201の各撮像素子230~250は、
図1の撮像素子210と基本構成は同じであるが、それぞれ単一のカラー信号(色信号)を処理する。また、撮像装置201は、ホワイトバランス調整回路40、デジタルゲイン回路50、その他信号処理回路60、演算回路80、センサ設定回路82、タイミング生成回路84、ホワイトクリップ設定電圧発生回路86を備えており、この回路構成と動作は
図1の撮像装置200と基本的に同じであるので、その説明は省略する。
【0054】
ただ、
図5のホワイトバランス調整回路40は、撮像素子230~250から各色信号に対応するデジタル出力信号を受け取り、これら色信号のホワイトバランス調整を行う。また、センサ設定回路82及びタイミング生成回路84は、撮像素子230~250にそれぞれ制御信号を出力する。さらに、ホワイトクリップ設定電圧発生回路86は、各撮像素子230~250に対して、それぞれの撮像素子の色信号に対応した1種類のホワイトクリップ設定電圧(V
R
CLP_SET,V
G
CLP_SET,V
B
CLP_SET)を出力する。
【0055】
なお、
図5の回路構成においても、ホワイトクリップ設定電圧発生回路86、ホワイトバランス調整回路40、デジタルゲイン回路50を、各撮像素子230~250と同一チップに内蔵する構成としてもよい。
【0056】
これまでの説明では、ホワイトクリップ電圧の設定おいては、GA,GW,GDの設定値に応じてクリップ電圧VCLPを調整したが、信号線の電圧振幅を最適に制御し、ノイズやアーティファクトを抑制することが可能な範囲で、クリップ電圧の設定を変更してもよい。例えば、ゲインが1に近い設定値についてはクリップ電圧の導出式から省略し、ゲインの大きい1つ又は2つの設定値に基づいて、クリップ電圧を調整してもよい。
【0057】
また、ホワイトクリップ設定電圧発生回路86は、演算回路80からのホワイトクリップ設定信号をD/A変換してホワイトクリップ電圧を発生することに代えて、例えば、ホワイトクリップ設定信号に基づいて、ステップ状に電圧値が増減するようにホワイトクリップ設定電圧を生成する構成としてもよい。また、ホワイトクリップ電圧の導出を、直線などで近似した特性を用いて行ってもよい。このようにすることにより、計算リソースを節約することができる。
【0058】
上記の実施形態では、撮像装置200,201の構成と動作について説明したが、本発明はこれに限らず、撮像装置の制御方法として構成されてもよい。すなわち、アナログゲイン設定値、ホワイトバランス調整値、デジタルゲイン設定値の少なくとも1つの変化に従ってホワイトクリップ電圧を調整する方法として構成されても良い。
【0059】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 画素
11 光電変換素子
12 画素内アンプ
20 アナログゲイン回路
30 A/D変換回路
40 ホワイトバランス調整回路
50 デジタルゲイン回路
60 その他信号処理回路
70 クリップ回路
80 演算回路
82 センサ設定回路
84 タイミング生成回路
86 ホワイトクリップ電圧発生回路
100 撮像装置
110 撮像素子
200 単板式撮像装置
210 撮像素子
201 3板式撮像装置
220 分光プリズム
230~250 撮像素子