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特許7457586研磨用組成物の濃縮液およびこれを用いた研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】研磨用組成物の濃縮液およびこれを用いた研磨方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20240321BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20240321BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020105176
(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公開番号】P2021195501
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井澤 由裕
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-063805(JP,A)
【文献】特開2001-332517(JP,A)
【文献】特開2018-159033(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167540(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
H01L 21/463
B24B 3/00 - 3/60
B24B 21/00 - 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状アルミナと、
アスペクト比が5より大きく800以下のコロイダルアルミナと、
リン酸およびその縮合物、有機リン酸、ホスホン酸ならびに有機ホスホン酸からなる群から選択される少なくとも1種のリン含有酸と、
水と、
を含み、
pHが2以上4.5以下である、研磨用組成物の濃縮液。
【請求項2】
電気伝導度が1.5mS/cm以上3.0mS/cm以下である、請求項1に記載の濃縮液。
【請求項3】
前記コロイダルアルミナの形状が羽毛状である、請求項1または2に記載の濃縮液。
【請求項4】
前記コロイダルアルミナの平均長径が50nm以上5000nm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の濃縮液。
【請求項5】
前記粒子状アルミナの平均粒子径が0.5μm以上5μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の濃縮液。
【請求項6】
前記コロイダルアルミナの平均長径に対する前記粒子状アルミナの平均粒子径の比が0.5以上50以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の濃縮液。
【請求項7】
前記粒子状アルミナの濃度が2質量%以上40質量%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の濃縮液。
【請求項8】
前記コロイダルアルミナの濃度が0.01質量%以上20質量%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の濃縮液。
【請求項9】
前記粒子状アルミナの含有量100質量部に対する前記コロイダルアルミナの量が0.1質量部以上70質量部以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の濃縮液。
【請求項10】
前記リン含有酸が有機ホスホン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~9のいずれか1項に記載の濃縮液。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の濃縮液を、分散媒を用いて質量基準で2~20倍に希釈してなる、研磨用組成物。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の濃縮液または請求項11に記載の研磨用組成物を用いて、樹脂および金属を含む研磨対象物を研磨する工程を有する、研磨方法。
【請求項13】
請求項12に記載の研磨方法を有する、電子回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨用組成物の濃縮液およびこれを用いた研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIの高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(以下、「CMP」とも略称する)法もその1つであり、LSI製造工程、特に多層配線形成工程において頻繁に利用される技術である。
【0003】
また、このCMP法は、樹脂の表面の研磨にも用いられ、CMP法を適用することにより、表面の欠陥が少ない樹脂製品を得ることができる。これより、樹脂を含む種々の材料の研磨用途の研磨用組成物として、種々の検討がなされている。
【0004】
特許文献1には、高剛性および高強度を有する樹脂を含む研磨対象物の研磨用途の研磨用組成物が開示されている。より具体的には、特許文献1には、所定値以上のモース硬度および表面酸量を有する砥粒と、分散媒とを含む研磨用組成物によって、高剛性および高強度を有する樹脂であっても高い研磨速度で研磨できることが開示されている。また、特許文献1には、研磨速度の観点から、砥粒としてはα-アルミナを主成分とするものが好ましいことも開示されている。
【0005】
特許文献2には、合成樹脂製の研磨対象物の研磨用途の研磨用組成物が開示されている。より具体的には、特許文献2には、特定構造のポリウレタン系高分子界面活性剤を含み、所定の粘度範囲を有する研磨用組成物を用いることによって、合成樹脂の研磨における研磨用組成物の減少および研磨能力の低下の抑制が可能となることが開示されている。また、特許文献2には、研磨速度の観点から、研磨用組成物が砥粒としてα-アルミナをさらに含むことが好ましいことも開示されている。
【0006】
また、アルミナ等の無機粒子は液体分散媒中で凝集しやすいことが知られており、無機粒子を安定的に分散させる技術についても検討がなされている。
【0007】
特許文献3には、無機粒子および液状分散媒体を含む分散組成物において、特定のセルロースを分散安定化剤として用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-183212号公報
【文献】特開2007-063442号公報
【文献】特開2001-049031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、研磨用組成物は、利便性やコスト低減等の観点から、濃縮液の形態で製造、流通、保存等がなされ、必要に応じて水などの分散媒で希釈された後、研磨に用いられうる。
【0010】
しかしながら、濃縮液にはアルミナ等の砥粒が比較的高い濃度で含まれているため、砥粒が凝集しやすく、一旦凝集した後に再度攪拌しても十分に分散できない(再分散性が低い)という問題点があった。再分散性が低いと、均一に希釈された研磨用組成物を調製することが困難となることから、改善が望まれていた。
【0011】
そこで本発明は、砥粒としてアルミナを含む研磨用組成物の濃縮液において、再分散性を向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、特定のアスペクト比を有するコロイダルアルミナと、特定のリン含有酸とを組み合わせて添加することにより、濃縮液の再分散性が有意に向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明の上記課題は、以下の手段により解決されうる。
【0014】
粒子状アルミナと、アスペクト比が5より大きく800以下のコロイダルアルミナと、リン酸およびその縮合物、有機リン酸、ホスホン酸ならびに有機ホスホン酸からなる群から選択される少なくとも1種のリン含有酸と、水とを含み、pHが2以上4.5以下である、研磨用組成物の濃縮液。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、砥粒としてアルミナを含む研磨用組成物の濃縮液において、再分散性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0017】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下の範囲)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定する。
【0018】
<研磨用組成物の濃縮液>
本発明の一形態は、粒子状アルミナと、アスペクト比が5より大きく800以下のコロイダルアルミナと、リン酸およびその縮合物、有機リン酸、ホスホン酸ならびに有機ホスホン酸からなる群から選択される少なくとも1種のリン含有酸と、水とを含み、pHが2以上4.5以下である、研磨用組成物の濃縮液に関する。本明細書において、「研磨用組成物の濃縮液」を単に「濃縮液」とも称する。
【0019】
本発明者は、本発明によって上記課題が解決されうるメカニズムを以下のように推測している。
【0020】
本発明では、砥粒である粒子状アルミナの再分散性を向上させるために、2種類の成分を分散化安定剤として配合している。第1の分散安定化剤は、アスペクト比が5より大きく800以下のコロイダルアルミナである。上記範囲内のアスペクト比を有するコロイダルアルミナは、粒子状アルミナの粒子間に入り込み、スペーサーとして働くことで、粒子状アルミナの凝集が抑制されると考えられる。その結果、濃縮液の再分散性が向上しうる。第2の分散安定化剤は、リン酸およびその縮合物、有機リン酸、ホスホン酸ならびに有機ホスホン酸からなる群から選択される少なくとも1種のリン含有酸である。本発明者の検討によると、これらのリン含有酸を用いてpHを2以上4.5以下とすることにより、アルミナ(粒子状アルミナおよびコロイダルアルミナ)の凝集が著しく抑制されることを見出した。一方で、他の酸を用いた場合は、凝集抑制効果が得られないことも確認された。さらに、本発明者が検討を進めたところ、通常、アルミナは酸性水溶液中(他の酸を用いてpH2~6に調整した水溶液中)においてプラスのゼータ電位を有するところ、上記のリン含有酸を含む酸性水溶液中ではアルミナ(粒子状アルミナおよびコロイダルアルミナ)のゼータ電位がマイナス(-)に改質する(陰転する)ことが判明した。詳しいメカニズムは不明であるが、ゼータ電位がマイナス(-)に改質する(陰転する)ことにより、アルミナが静電反発を起こし、凝集が抑制されると推測される。特に、第1の分散安定化剤と第2の分散安定剤とを組み合わせて使用することにより、粒子状アルミナ同士の静電反発に加え、粒子状アルミナの粒子間に入り込んだコロイダルアルミナと粒子状アルミナとの間でも静電反発が起き、顕著な凝集抑制効果が発揮されると考えられる。本発明におけるコロイダルアルミナはアスペクト比が5より大きく800以下であることから、単位体積当たりの表面積が大きく、静電反発が効果的に発揮されうる。その結果、砥粒としてアルミナを含む研磨用組成物の濃縮液において、再分散性が著しく向上することとなる。
【0021】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。また、本明細書における他の推測事項についても同様に、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0022】
[砥粒]
本発明に係る濃縮液は、砥粒として粒子状アルミナを含む。砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨し、研磨速度を向上させる。粒子状アルミナは、十分な硬度を有することから、研磨速度の向上効果、特に樹脂を含む種々の材料の研磨速度の向上効果が高い。本明細書において、粒子状アルミナとは、真球度((平均短径/平均長径)×100)が30%以上であるアルミナを意味する。粒子状アルミナの真球度は、後述の実施例に記載された測定方法により求められる。
【0023】
粒子状アルミナの真球度は、特に制限されないが、60%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましく、50%以下であることがさらに好ましい。粒子状アルミナの真球度が60%以下であると研磨時の摩擦が大きくなり、高い研磨レートを得ることができる。
【0024】
粒子状アルミナの平均粒子径(平均二次粒子径)は、特に制限されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましく、1μm以上であることがより特に好ましい。上記範囲であると、研磨速度がより向上する。また、粒子状アルミナの平均粒子径は、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることがよりさらに好ましく、5μm以下であることが特に好ましい。上記範囲であると、研磨対象物上のスクラッチなどの欠陥がより減少する。粒子状アルミナの平均粒子径の好ましい一例は、0.01μm以上100μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以上20μm以下であり、特に好ましくは0.5μm以上5μm以下であり、最も好ましくは1μm以上5μm以下である。粒子状アルミナの平均粒子径は、後述の実施例に記載された測定方法により求められる。
【0025】
粒子状アルミナの結晶形態は特に制限されず、α-アルミナ、γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ、η-アルミナおよびκ-アルミナから適宜選択される。これらの中でも、研磨速度をより向上させる観点から、結晶相としてα相を含む粒子状アルミナ(α-アルミナを含む粒子状アルミナ)であることが好ましく、主となる結晶相としてα相を含む粒子状アルミナ(主成分としてα-アルミナを含む粒子状アルミナ)であることがより好ましい。
【0026】
粒子状アルミナのα化率は、特に制限されないが、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、75%以上であることが特に好ましい(上限100%)。上記範囲であると、樹脂(例えばエポキシ樹脂)の研磨速度がより向上する。これはα相が高い硬度を有するためであると考えられる。粒子状アルミナのα化率は、後述の実施例に記載された測定方法により求められる。
【0027】
なお、真球度、平均粒子径およびα化率の値は、濃縮液を調製する前の原料の粒子状アルミナを測定しても、調製された濃縮液から取り出した粒子状アルミナを測定しても、同等となる。
【0028】
粒子状アルミナの濃度(含有量)は、特に制限されないが、濃縮液の総質量に対して2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。また、アルミナ粒子の含有量は、濃縮液の総質量に対して40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以下であることがよりさらに好ましい。粒子状アルミナの濃度の好ましい一例は、2質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上35質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以上30質量%以下であり、特に好ましくは15質量%以上25質量%以下である。上記範囲であると、本発明の効果である濃縮液の再分散性を向上させる効果がより顕著に発揮される。
【0029】
粒子状アルミナは、公知の製造方法を適宜参照することにより容易に製造することができる。また、粒子状アルミナは市販品を用いても構わない。
【0030】
なお、粒子状アルミナは、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0031】
[第1の分散安定化剤]
本発明に係る濃縮液は、第1の分散安定化剤としてコロイダルアルミナを含む。一般に「コロイダルアルミナ」とは、アルミナ微粒子が分散媒である水中にコロイド状に分散した分散液を指すが、本明細書では特に上記アルミナ微粒子のみを指すものとする。すなわち、以下で説明するコロイダルアルミナの物性や含有量は、実際にはアルミナ微粒子の物性や含有量と解釈される。コロイダルアルミナに含まれるアルミナ微粒子は、きわめて小さく、粉体のまま取り扱うことが困難であることから、水に分散させたコロイダルアルミナとして使用される。本明細書では、砥粒としての粒状アルミナと、コロイダルアルミナに含まれるアルミナ微粒子とを区別する観点から、後者についてはあえて「コロイダルアルミナ」と称することとする。
【0032】
本発明において、コロイダルアルミナは、アスペクト比が5より大きく800以下であることを必須とする。アスペクト比が5以下であると、十分な再分散性が得られないおそれがある。これは前述したようにスペーサーとしての機能や静電反発が十分に働かないためであると考えられる。また、アスペクト比が800よりも大きいと、コロイダルアルミナが研磨性能に悪影響を及ぼし、十分な研磨速度が得られないおそれがある。当該アスペクト比は、好ましくは10以上750以下であり、より好ましくは50以上500以下であり、さらに好ましくは100以上300以下である。
【0033】
コロイダルアルミナの平均長径は、特に制限されないが、好ましくは50nm以上5000nm以下であり、より好ましくは70nm以上2000nm以下であり、さらに好ましくは100nm以上1000nm以下である。上記範囲であると、粒子状アルミナの粒子間の距離を適度に保つことができると考えられる。コロイダルアルミナの平均短径は、特に制限されないが、好ましくは0.1nm以上10nm以下であり、より好ましくは0.2nm以上5nm以下であり、さらに好ましくは0.5nm以上2nm以下である。上記範囲であると、コロイダルアルミナが粒子状アルミナの粒子間に入り込みやすくなると考えられる。
【0034】
コロイダルアルミナの平均長径に対する粒子状アルミナの平均粒子径の比(粒子状アルミナの平均粒子径/コロイダルアルミナの平均長径)は、好ましくは0.5以上50以下であり、より好ましくは5以上40以下であり、さらに好ましくは10以上30以下である。上記範囲であると、コロイダルアルミナが粒子状アルミナの粒子間に入り込みやすくなるとともに粒子状アルミナの粒子間の距離を適度に保つことができるため、粒子状アルミナの凝集がより抑制されると考えられる。その結果、濃縮液の再分散性がより向上しうる。
【0035】
コロイダルアルミナの形状は、上記のアスペクト比を有している限り特に制限されず、棒状、針状、繊維状、羽毛状といった形状でありうる。これらの中でも、本発明の効果をより一層発揮させる観点から、繊維状および羽毛状が好ましく、羽毛状がより好ましい。本明細書において「繊維状」とは、アスペクト比が50以上であることを意味する。また、本明細書において「羽毛状」とは、コロイダルアルミナを走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテク製 製品名:SU8000)で測定した画像において、繊維状のコロイダルアルミナが10本以上集まって集合体を形成している状態を意味する。
【0036】
なお、アスペクト比、平均長径、平均短径および形状は、濃縮液を調製する前の原料のコロイダルアルミナを測定しても、調製された濃縮液から取り出したコロイダルアルミナを測定しても、同等となる。
【0037】
コロイダルアルミナの濃度(含有量)は、特に制限されないが、濃縮液の総質量に対して0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましく、3質量%以上であることが特に好ましい。上記範囲であると、本発明の効果である濃縮液の再分散性を向上させる効果がより顕著に発揮される。また、アルミナ粒子の含有量は、濃縮液の総質量に対して20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることがよりさらに好ましい。上記範囲であると、砥粒の研磨性能を妨げずに高い研磨速度を発揮することができる。コロイダルアルミナの濃度の好ましい一例は、0.01質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、特に好ましくは3質量%以上5質量%以下である。
【0038】
粒子状アルミナの含有量100質量部に対するコロイダルアルミナの量は、特に制限されないが、0.1質量部以上70質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上50質量部以下であることがより好ましく、1質量部以上40質量部以下であることがさらに好ましく、10質量部以上30質量部以下であることが特に好ましい。上記範囲であると、濃縮液の再分散性の向上と、十分な研磨速度とを両立することができる。
【0039】
コロイダルアルミナは、公知の製造方法(例えば、特開平7-291621号公報)を適宜参照することにより容易に製造することができる。また、コロイダルアルミナは後述の実施例に記載されているような市販品を用いても構わない。
【0040】
なお、コロイダルアルミナは、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0041】
[第2の分散安定化剤]
本発明に係る濃縮液は、第2の分散安定化剤として、リン酸およびその縮合物、有機リン酸、ホスホン酸ならびに有機ホスホン酸からなる群から選択される少なくとも1種のリン含有酸を含む。本明細書において、「有機リン酸」とは、リン酸基(-OP(=O)(OH))を少なくとも1つ有する有機化合物を指し、「有機ホスホン酸」とは、ホスホン酸基(-P(=O)(OH))を少なくとも1つ有する有機化合物を指す。また、本明細書において、「リン酸およびその縮合物ならびに有機リン酸」を、単に「リン酸系の酸」とも称し、「ホスホン酸および有機ホスホン酸」を、単に「ホスホン酸系の酸」とも称する。これらのリン含有酸は、アルミナ(粒子状アルミナおよびコロイダルアルミナ)のゼータ電位をマイナス(-)に改質する(陰転する)機能を有する。そして、ゼータ電位がマイナス(-)となったアルミナが互いに静電反発することにより、凝集が抑制され、濃縮液の再分散性が向上しうる。
【0042】
リン含有酸としては、具体的には、リン酸(オルトリン酸)、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、フィチン酸(myo-イノシトール-1,2,3,4,5,6-六リン酸)、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTMP)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTMP)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタンヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸等が挙げられる。これらの中でも、再分散性、研磨速度およびエッチング速度のバランスを良好とする観点から、ホスホン酸系の酸が好ましく、有機ホスホン酸がより好ましく、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTMP)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTMP)がさらに好ましい。
【0043】
なお、リン含有酸は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0044】
濃縮液に含まれるリン含有酸の量は、特に制限されない。好ましい一例によると本発明に係る濃縮液はリン含有酸以外の酸を含まない。この場合、濃縮液に含まれるリン含有酸の量は、濃縮液のpHが2以上4.5以下となるような量である。
【0045】
[分散媒]
本発明に係る濃縮液は、分散媒として水を含む。分散媒は、各成分を分散または溶解させる。
【0046】
不純物による研磨用組成物の他の成分への影響を防ぐ観点から、できる限り高純度な水を使用することが好ましい。具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水が好ましい。
【0047】
また、分散媒として、研磨用組成物の他の成分の分散性などを制御する目的で、有機溶媒などをさらに含んでもよい。
【0048】
[pH]
本形態に係る濃縮液は、pHが2以上4.5以下であることを特徴とする。pHが2未満であると、銅などの金属の溶出が促進し、エッチング速度が高くなりすぎるおそれがある。また、pHが4.5よりも大きいと、十分な再分散性が得られない恐れがある。これは、リン含有酸によるアルミナのゼータ電位が十分に改質されない(陰転されない)ことによると考えられる。pHは、好ましくは2より大きく4.0未満であり、より好ましくは2.2以上3以下である。濃縮液のpHは、後述の実施例に記載された測定方法により求められる。
【0049】
[電気伝導度(EC)]
本形態に係る濃縮液は、再分散性をより向上させるために、特定の範囲の電気伝導度を有することが好ましい。具体的には、濃縮液の電気伝導度は、1.5mS/cm以上3.0mS/cm以下であることが好ましく、1.7mS/cm以上2.5mS/cm以下であることがより好ましく、2.0mS/cm以上2.3mS/cm以下であることがさらに好ましい。電気伝導度が1.5mS/cm以上であると、濃縮液中にリン含有酸由来のアニオンが十分な量存在する。これによりアルミナのゼータ電位の改質(陰転)が十分になされ、再分散性がより一層向上しうる。また、電気伝導度が3.0mS/cm以下であると、濃縮液中にリン含有酸由来のアニオン以外のイオン(以下、「他のイオン」と称する)の量が少ない状態となる。本発明者の検討によると、他のイオン(特に、NaやKなどのカチオン)の存在は、アルミナのゼータ電位の改質(陰転)を妨げる方向に働くと考えられるため、他のイオン(特に、NaやKなどのカチオン)の量を少なくすることにより、結果的に再分散性をより一層向上させることができる。濃縮液の電気伝導度は、後述の実施例に記載された測定方法により求められる。
【0050】
[他の成分]
濃縮液は、本発明の効果を損なわない範囲において、上記以外の砥粒、pH調整剤、キレート剤、増粘剤、酸化剤、分散剤、表面保護剤、濡れ剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤等の公知の成分をさらに含有してもよい。他の成分の含有量は、その添加目的に応じて適宜設定すればよい。
【0051】
[研磨用組成物の濃縮液の製造方法]
研磨用組成物の濃縮液の製造方法(調製方法)は、特に制限されず、例えば、粒子状アルミナと、コロイダルアルミナと、リン含有酸と、水とを、攪拌混合することを含む製造方法が適宜採用されうる。当該製造方法において、他の成分を、さらに攪拌混合してもよい。
【0052】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10~40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0053】
<研磨用組成物>
本発明に係る研磨用組成物の濃縮液は、希釈して研磨液として使用されてもよく、そのまま研磨液として使用されてもよい。
【0054】
本発明の他の一形態によると、上記で説明した研磨用組成物の濃縮液を、分散媒を用いて質量基準で2~20倍に希釈してなる、研磨用組成物が提供される。換言すると、研磨用組成物は、上記で説明した研磨用組成物の濃縮液1質量部と、分散媒1~19質量部とを含む。
【0055】
[分散媒]
分散媒は、特に制限されず、上記の濃縮液に含まれる分散媒と同様のものを使用することができるが、水を含むことが好ましい。さらに、不純物による研磨用組成物の他の成分への影響を防ぐ観点から、できる限り高純度な水を使用することが好ましい。具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水が好ましい。また、分散媒として、研磨用組成物の他の成分の分散性などを制御する目的で、有機溶媒などをさらに含んでもよい。
【0056】
研磨用組成物の製造方法(調製方法)は、特に制限されず、例えば、上記研磨用組成物の濃縮液と、分散媒とを、攪拌混合することを含む製造方法が適宜採用されうる。
【0057】
混合する際の温度は特に制限されないが、10~40℃が好ましい。また、混合時間は特に制限されない。
【0058】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨用組成物によって研磨される研磨対象物は、特に制限されず、公知のCMP工程における研磨対象物を適宜選択することができる。
【0059】
Si元素含有材料としては、特に制限されないが、例えば、ポリシリコン、アモルファスシリコン、単結晶シリコン、n型ドープ単結晶シリコン、p型ドープ単結晶シリコン、SiGe等のSi系合金、酸化ケイ素(SiO)、BD(ブラックダイヤモンド:SiOCH)、FSG(フルオロシリケートグラス)、HSQ(水素シルセスキオキサン)、CYCLOTENE、SiLK、MSQ(Methylsilsesquioxane)、窒化ケイ素(SiN)、炭窒化ケイ素(SiCN)等が挙げられる。ここで、酸化ケイ素としては、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)由来の酸化ケイ素であることが好ましい。
【0060】
樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル-アクリル酸メチル共重合体、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂等のアクリル樹脂;エポキシ樹脂;超高分子量ポリエチレン(UHPE)等のオレフィン樹脂;フェノール樹脂;ポリアミド樹脂(PA);ポリイミド樹脂(PI);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、不飽和ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂(PC);シンジオタクチックポリスチレン(SPS)等のポリスチレン樹脂;ポリノルボルネン樹脂;ポリベンゾオキサゾール(PBO);ポリアセタール(POM);変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE);非晶ポリアリレート(PAR);ポリスルホン(PSF);ポリエーテルスルホン(PES);ポリフェニレンスルフィド(PPS);ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);ポリエーテルイミド(PEI);フッ素樹脂;液晶ポリマー(LCP)等が挙げられる。なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸またはメタクリル酸、ならびにアクリル酸およびメタクリル酸の両方を指す。同様に、本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートまたはメタクリレート、ならびにアクリルレートおよびメタクリレートの両方を指す。
【0061】
また、樹脂には、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維を複合して強度を向上させた強化プラスチックも含まれるものとする。
【0062】
これらの中でも、研磨対象物は、研磨面にSi元素含有材料または樹脂を含む研磨対象物であることが好ましく、研磨面に酸化ケイ素または樹脂を含む研磨対象物であることがより好ましい。さらに、研磨面に樹脂を含む研磨対象物であることがさらに好ましく、研磨面にエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂またはアクリル樹脂を含む研磨対象物であることがよりさらに好ましく、研磨面にエポキシ樹脂を含む研磨対象物であることが特に好ましい。研磨面に樹脂を含む研磨対象物を研磨する用途で使用される場合、特に研磨面にエポキシ樹脂を含む研磨対象物を研磨する用途で使用される場合、研磨速度が向上する。
【0063】
また、研磨面に樹脂を含む研磨対象物において、樹脂は、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、酸化チタン、アルミナ、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、カオリン、タルク、ガラスビーズ、セリサイト活性白土、ベントナイト、窒化アルミニウム等の無機フィラーや、ポリエステル微粒子、ポリウレタン微粒子、ゴム微粒子等の有機フィラー等をさらに含んでいてもよい。
【0064】
これらSi元素含有材料または樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0065】
さらに、研磨対象物は、研磨面として、Si元素含有材料または樹脂以外に、これらとは異なる材料を含むものであってもよい。かような材料として、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、窒化タンタル(TaN)、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、タングステン(W)、窒化タングステン(WN)等が挙げられる。研磨面にこれらの金属材料を含む研磨対象物を研磨する用途で使用される場合、特に研磨面に銅(Cu)を含む研磨対象物を研磨する用途で使用される場合、エッチング速度を低く抑えることができる。
【0066】
<研磨方法>
本発明の他の一形態は、上記の研磨用組成物を用いて、研磨対象物を研磨する工程を有する、研磨方法に関する。本形態に係る研磨対象物の好ましい例は、上記の研磨用組成物の説明で挙げたものと同様である。例えば、研磨面に樹脂および金属を含む研磨対象物を研磨することが好ましい。すなわち、本発明に係る研磨方法の好ましい形態は、上記の研磨用組成物を用いて、樹脂および金属を含む研磨対象物を研磨する工程を有する。
【0067】
研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する際には、通常の研磨に用いられる装置や条件を用いて行うことができる。一般的な研磨装置としては、片面研磨装置や両面研磨装置が挙げられる。片面研磨装置では、一般的に、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、上方より研磨用組成物を供給しながら、研磨対象物の片面に研磨パッドが貼付された定盤を押し付けて定盤を回転させることにより研磨対象物の片面を研磨する。両面研磨装置では、一般的に、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、上方より研磨用組成物を供給しながら、研磨対象物の対向面に研磨パッドが貼付された定盤を押しつけ、それらを相対方向に回転させることにより研磨対象物の両面を研磨する。このとき、研磨パッドおよび研磨用組成物と、研磨対象物との摩擦による物理的作用と、研磨用組成物が研磨対象物にもたらす化学的作用とによって研磨される。前記研磨パッドとしては、不織布、ポリウレタン、スウェード等の多孔質体を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような加工が施されていることが好ましい。
【0068】
研磨条件としては、例えば、研磨荷重、定盤回転数、キャリア回転数、研磨用組成物の流量、研磨時間等が挙げられる。これらの研磨条件に特に制限はないが、例えば、研磨荷重については、研磨対象物の単位面積当たり0.1psi(0.69kPa)以上10psi(69kPa)以下であることが好ましく、より好ましくは0.5psi(3.5kPa)以上8.0psi(55kPa)以下であり、さらに好ましくは1.0psi(6.9kPa)以上6.0psi(41kPa)以下である。一般に荷重が高くなればなるほど砥粒による摩擦力が高くなり、機械的な加工力が向上するため研磨速度が上昇する。この範囲であれば、十分な研磨速度が発揮され、荷重による研磨対象物の破損や、表面に傷などの欠陥が発生することを抑制することができる。定盤回転数、およびキャリア回転数は、10rpm(0.17s-1)~500rpm(8.3s-1)であることが好ましい。研磨用組成物の供給量は、研磨対象物の全体が覆われる供給量(流量)であればよく、研磨対象物の大きさなどの条件に応じて調整すればよい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。また、加工時間は、所望の加工結果が得られる時間であれば特に制限されないが、高い研磨速度に起因してより短い時間とすることが好ましい。
【0069】
また、本発明のさらなる他の一形態は、上記の研磨方法で研磨対象物を研磨する工程を有する、研磨済研磨対象物の製造方法に関する。本形態に係る研磨対象物の好ましい例は、上記の研磨用組成物の説明で挙げたものと同様である。好ましい一例としては、上記研磨方法によって、樹脂および金属を含む研磨対象物を研磨することを含む、電子回路基板の製造方法が挙げられる。
【実施例
【0070】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0071】
<物性の測定方法>
[α化率]
粒子状アルミナ(砥粒)のα化率〔%〕は、粉末X線回折装置を用いて得た粉末X線回折スペクトルにおける、2θ=25.6°の位置に現れるα相(012)面のピーク高さ(I25.6)と、2θ=46°の位置に現れるγ相のピーク高さ(I46)とから、下記式によって算出した。
【0072】
【数1】
【0073】
[真球度]
粒子状アルミナ(砥粒)について、走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテク製 製品名:SU8000)で測定した画像からランダムで100個の粒子を選び、それぞれ長径および短径を測定し、平均長径および平均短径を算出した。続いて、得られた平均長径および平均短径の値を用いて、下記式に従い、真球度を算出した。
【0074】
【数2】
【0075】
[平均粒子径]
粒子状アルミナ(砥粒)について、粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3000II)を用いて測定を行い、平均粒子径(平均二次粒子径)を評価した。
【0076】
[平均長径、平均短径、アスペクト比]
コロイダルアルミナ(第1の分散安定化剤)について、走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテク製 製品名:SU8000)で測定した画像からランダムで100個のサンプルを選び、それぞれ長径および短径を測定し、平均長径および平均短径を算出した。続いて、得られた平均長径および平均短径の値を用いて、下記式に従い、コロイダルアルミナのアスペクト比を算出した。
【0077】
【数3】
【0078】
[pH]
研磨用組成物の濃縮液のpH値は、pHメーター(株式会社 堀場製作所製 型番:LAQUA(登録商標))によって確認した。
【0079】
[電気伝導度(EC)]
研磨用組成物の濃縮液(液温:25℃)の電気伝導度は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製 型番:DS-71)により測定した。
【0080】
<研磨用組成物の濃縮液の調製>
[実施例1~20および比較例1~12]
表1に記載の砥粒、第1の分散安定化剤、第2の分散安定化剤および水を攪拌混合して研磨用組成物の濃縮液を得た(混合温度:約25℃、混合時間:約10分間)。この際、第2の分散安定化剤の添加量を、濃縮液のpHが表1に記載の値となる量とした。
【0081】
なお、第1の分散安定化剤は、下記の市販品を使用した。
【0082】
B1:アルミナゾル200(日産化学株式会社製)
B2:アルミゾル-F1000(川研ファインケミカル株式会社製)
B3:アルミゾル-F3000(川研ファインケミカル株式会社製)
B4:アルミナゾル520A(日産化学株式会社製)
B5:アルミゾル-10A(川研ファインケミカル株式会社製)
B6:アルミゾル-10C(川研ファインケミカル株式会社製)
B7:セオラス(登録商標)RC591(旭化成株式会社製)
B8:ポリ塩化アルミニウム300A(多木化学株式会社製)。
【0083】
<評価>
[再分散性]
まず、研磨用組成物の濃縮液を十分に攪拌して、砥粒が均一に分散した状態における濃縮液の比重を測定した。この際の比重の値をXとする。次に、濃縮液を遠心分離(500rpm、30分間)して砥粒を沈殿させた。遠心分離後の濃縮液の入った容器を逆さにした状態で縦型振とう機(KM Shaker;イワキ産業株式会社製)を用いて振とう(70spm (stroke per minuites))し、30分毎に容器上部の液の比重を測定した。そして、振とう開始から比重の値がXに戻るまでの時間を求め、下記の基準で評価した。
【0084】
(評価基準)
◎:30分以内
〇:60分以内
△:90分以内
×:120分以上。
【0085】
[研磨レート]
研磨対象物として、エポキシ樹脂(株式会社スタンダードテストピース製、比重:1.11)を準備した。続いて、研磨用組成物の濃縮液を、水を用いて質量基準で10倍に希釈し、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物を用いて、下記の研磨装置および研磨条件にて基板を研磨し、下記の方法に従ってエポキシ樹脂の研磨速度を評価した。
【0086】
(研磨装置および研磨条件)
研磨装置:小型卓上研磨機(日本エンギス株式会社製 EJ380IN)
研磨パッド:硬質ポリウレタン製パッド(ニッタ・デュポン株式会社製 IC1000)
プラテン(定盤)回転速度:70〔rpm〕
ヘッド(キャリア)回転速度:70〔rpm〕
研磨圧力:4.0〔psi〕
研磨用組成物の流量:100〔ml/min〕
研磨時間:1〔min〕。
【0087】
(研磨速度評価方法)
1.電子天秤GH-202(株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて、研磨前後の研磨対象物の質量を測定して、これらの差から、研磨前後の研磨対象物の質量変化量ΔM〔kg〕を算出した;
2.研磨前後の研磨対象物の質量変化量ΔM〔kg〕を研磨対象物の比重(研磨対象となる材料の比重)で除することで、研磨前後の研磨対象物の体積変化量ΔV〔m〕を算出した;
3.研磨前後の研磨対象物の体積変化量ΔV〔m〕を研磨対象物の研磨面の面積S〔m〕で除することで、研磨前後の研磨対象物の厚み変化量Δd〔m〕を算出した;
4.研磨前後の研磨対象物の厚み変化量Δd〔m〕を研磨時間t〔min〕で除し、さらに単位を〔μm/min〕へと換算した。この値を研磨速度v〔μm/min〕とした。
【0088】
[エッチング速度]
研磨用組成物の濃縮液を、水を用いて質量基準で10倍に希釈し、研磨用組成物を調製した。続いて、銅(Cu)含有材料(大きさ:32mm×32mm×1mm)を下記条件で研磨用組成物に浸漬し、浸漬前後の質量減少速度から銅の比重(8.96)を用いて求めた。エッチング速度が低いほど、銅の溶出を抑制する効果が高く、好ましい。なお、1Å=0.1nmである。
【0089】
(エッチング条件)
スラリー量:500mL
攪拌速度:500rpm
エッチング時間:5分間
スラリー温度:25℃。
【0090】
結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示すように、本発明に係る濃縮液は十分な再分散性を有することが示された。
【0093】
実施例1および9~11を比較すると、濃縮液のpHが低いほど(第2の分散安定化剤としてのリン含有酸の量が多いほど)より良好な再分散性が示されることが分かった。これは、pHが低いほど、粒子状アルミナおよびコロイダルアルミナのゼータ電位がより大きなプラスの値となり、粒子間の静電反発力が大きくなるためであると考えられた。
【0094】
実施例1および15~19を比較すると、第1の分散安定化剤の量が多いほど、より良好な再分散性が示されることが分かった。この結果より、粒子間の静電反発力に加え、コロイダルアルミナのかさ高さも再分散性に寄与していることが示唆された。
【0095】
実施例1、7、8および13~15を比較すると、砥粒の平均粒子径/第1の分散安定化剤の長径(A/B)の値が大きいほどエポキシ樹脂の研磨速度がより向上することが分かった。砥粒の平均粒子径を大きくすることにより研磨速度が向上することは既に知られているが、加えて第1の分散安定化剤の長径を相対的に小さくすることにより、第1の分散安定化剤による研磨性能の低下を防ぐことができると考えられた。
【0096】
実施例1~5を比較すると、第2の分散安定化剤としてホスホン酸系のリン含有酸を用いた場合の方が、再分散性、研磨速度およびエッチング速度のバランスが良好であった。