(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】非水系電解液及び該非水系電解液を含む非水系電解液電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20240321BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20240321BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240321BHJP
C07F 5/04 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/0568
C07F5/04 Z
(21)【出願番号】P 2020164547
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八重樫 諒
(72)【発明者】
【氏名】大橋 洋一
(72)【発明者】
【氏名】西尾 晃一
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-196250(JP,A)
【文献】特表2014-529601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/0569
H01M 10/0568
C07F 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジヒドロキシオキサラートボレート塩と非水系溶媒とを含有することを特徴とする非水系電解液。
【請求項2】
前記ジヒドロキシオキサラートボレート塩を、前記非水系電解液中に10質量ppm以上、0.1質量%以下含有する、請求項1に記載の非水系電解液。
【請求項3】
前記非水系溶媒が飽和環状カーボネート類を含有する、請求項1又は2に記載の非水系電解液。
【請求項4】
さらにオキサラート塩(ただし、ジヒドロキシオキサラートボレート塩を除く)を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の非水系電解液。
【請求項5】
前記オキサラート塩の含有量(質量%)に対する、前記ジヒドロキシオキサラートボレート塩の含有量(質量%)の比が、5×10
-4以上2×10
-2以下である、請求項4に記載の非水系電解液。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の非水系電解液を含有する、非水系電解液電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液及び該非水系電解液を含む非水系電解液電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン等のいわゆる民生用の電源から自動車用等の駆動用車載電源まで広範な用途に、リチウム二次電池等の非水系電解液電池が実用化されつつある。しかしながら、近年の非水系電解液電池に対する高性能化の要求はますます高くなっており、特に、高容量、低温使用特性、高温保存特性、サイクル特性、過充電時安全性等の種々の電池特性の改善が要望されている。
これまで、非水系電解液二次電池の高温保存試験やサイクル試験を改善するための手段として、正極や負極の活物質や、非水系電解液を始めとする様々な電池の構成要素について、数多くの技術が検討されている。
特許文献1には、特定の正極活物質と、オキサラート錯体をアニオンとするリチウム塩と、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、エチレンサルファイト、フルオロエチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種の被膜形成剤とを添加した非水系電解液を用いることで、高温環境下で保存した場合において非水系電解液二次電池の各種の特性が低下するのを防止することを目的とした技術が開示されている。
非特許文献1には、負極としてLi/グラファイト又はLi/石油コークスを用い、非水系溶媒としてプロピレンカーボネート(PC)/エチレンカーボネート(EC)又はPC用いたLi/グラファイトセル及びLi/石油コークスセルの電気化学的挙動に関する研究が報告されている。エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの混合物の電解液は、LixC負極と反応し負極の炭素表面に被膜を形成し、電極と電解液成分の分解反応が抑制されること、当該セルのサイクル特性が改善されたことが記載されている。
また、非特許文献2には、リチウムビスオキサラートボレートが非水系電解液二次電池のグラファイト負極表面上で形成する被膜の構造についての研究が報告されている。非特許文献2によると、リチウムビスオキサラートボレートは、形式的負電荷を持つ原子と、それに結合した配位子(すなわちオキサラート骨格)との結合が、電気化学的還元により開裂し、さらに他の分子と再結合することが考えられる(非特許文献2のScheme3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Fong et al.,J. Electrochem. Soc. 137, 2009(1990).
【文献】Xu et al.,Electrochemical and Solid-State Lett. 6, A144(2003).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが上記文献に記載の方法を検討したところ、非水系溶媒又は被膜形成剤に由来する被膜に係る電池において初期出力抵抗の増加という課題があることを見出した。
そこで、本発明は、非水系電解液二次電池の初期出力抵抗の低減を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、ジヒドロキシオキサラート塩を非水系電解液に含有させることにより上記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の要旨は、以下に存する。
[1]ジヒドロキシオキサラートボレート塩と非水系溶媒とを含有することを特徴とする非水系電解液。
[2]前記ジヒドロキシオキサラートボレート塩を、前記非水系電解液中に10質量ppm以上、0.1質量%以下含有する、[1]に記載の非水系電解液。
[3]前記非水系溶媒が飽和環状カーボネート類を含有する、[1]又は[2]に記載の非水系電解液。
[4]さらにオキサラート塩(ただし、ジヒドロキシオキサラートボレート塩を除く)を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の非水系電解液。
[5]前記オキサラート塩の含有量(質量%)に対する、前記ジヒドロキシオキサラートボレート塩の含有量(質量%)の比が、5×10-4以上2×10-2以下である、[4]に記載の非水系電解液。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の非水系電解液を含有する、非水系電解液電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、初期出力抵抗が低い電池を提供できる非水系電解液、及びそれを用いた非水系電解液電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の非水系電解液は、ジヒドロキシオキサラートボレート塩と非水系溶媒とを含有する。
本発明の作用機構については、以下のように推察する。ただし、本発明が該推察に縛られるものではない。
被膜形成剤により特に負極表面に形成された被膜は、電池保存時の特性低下を抑制し得る。一方で、被膜形成剤を含む非水系電解液を備える電池では、負極表面の被膜が過剰に成長を続け、電池の初期抵抗を増加させると考えられる。
例えば、エチレンカーボネートに代表される飽和環状カーボネート類を用いることで、負極表面に被膜を形成して電極と電解液成分の副反応を抑制することで電池の各種特性を改善することが試みられている。しかし、飽和環状カーボネート類は非水系溶媒として使用されるため、非水系電解液に占める濃度が多く、被膜の過剰な成長が避けられない。
また、リチウムビスオキサラートボレートに代表されるオキサラート塩は、形式的負電荷を持つ原子と、それに結合した配位子(すなわちオキサラート骨格)との結合が、電気化学的還元により開裂し、さらに他の分子と再結合を繰り返すことで、特に負極表面に被膜を形成すると考えられる。リチウムビスオキサラートボレートは、上記の反応が二つのオキサラート骨格において発生するため、あたかも重合反応のように被膜が過剰に成長を続け、特に負極の抵抗が増加すると考えられる。
ここで、オキサラート骨格が一つのみであるジヒドロキシオキサラートボレート塩を導入することで、上記の開裂および再結合を起こさないヒドロキシ基があたかも末端官能基のように機能して被膜の過剰な成長を抑制し、負極の抵抗の増加が抑制されるものと推察される。
【0009】
[1.非水系電解液]
{1-1.ジヒドロキシオキサラートボレート塩}
本実施形態に係る非水系電解液はジヒドロキシオキサラートボレート塩を含有する。ジヒドロキシオキサラートボレート塩のカウンターカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属が挙げられる。ジヒドロキシオキサラートボレート塩とし
ては、リチウムジヒドロキシオキサラートボレート、ナトリウムジヒドロキシオキサラートボレート、及びカリウムジヒドロキシオキサラートボレート等が挙げられる。なかでも、リチウムジヒドロキシオキサラートボレート、及びナトリウムジヒドロキシオキサラートボレートが好ましく、特に好ましくは、非水系溶媒への溶解性の点で、リチウムジヒドロキシオキサラートボレートである。ジヒドロキシオキサラートボレート塩は、公知の方法(例えば、Yang et al.,Journal of power sources.195,1698(2010).参照。)により合成することができる。
ジヒドロキシオキサラートボレート塩は、非水系電解液中に10質量ppm以上含有することが好ましく、より好ましくは20質量ppm以上、特に好ましくは50質量ppm以上であり、一方で、上限に特段の制限はないが、0.1質量%以下含有することが好ましく、より好ましくは0.05質量%以下、特に好ましくは0.02質量%以下である。ジヒドロキシオキサラートボレート塩が前記非水系電解液中に上述の範囲で含有されることにより、ジヒドロキシオキサラートボレート塩の末端官能基としての機能を良好に発現させることができる。ジヒドロキシオキサラートボレート塩は、非水系電解液に含まれていればよく、添加した場合のほか、非水系電解液内、もしくは電池動作中において非水系電解液電池内で発生するものも含む。ジヒドロキシオキサラートボレート塩の同定や含有量の測定は、核磁気共鳴(NMR)分光法により行う。
【0010】
{1-2.オキサラート塩(ただし、ジヒドロキシオキサラートボレート塩を除く)}
本発明においては、非水系電解液にさらに、ジヒドロキシオキサラートボレート塩以外のオキサラート塩(以下、単に「オキサラート塩」とも表記することがある。)が含有されていることが、好ましい。オキサラート塩はジヒドロキシオキサラートボレート塩と同様にオキサラート骨格を持ち、ジヒドロキシオキサラートボレート塩と併用することで被膜の耐久性が向上するからである。オキサラート塩のカウンターカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属が挙げられる。
オキサラート塩(ただし、ジヒドロキシオキサラートボレート塩を除く)としては、リチウムビスオキサラートボレート、リチウムジフルオロオキサラートボレート、リチウムジフルオロオキサラートフォスフェート、及びリチウムテトラフルオロオキサラートフォスフェート等が挙げられる。
これらの中でも、リチウムビスオキサラートボレート、リチウムジフルオロオキサラートボレート、及びリチウムジフルオロオキサラートフォスフェートが、初期出力、ハイレート充放電特性、高温保存後及びサイクル後の出力を向上させる効果が高いため、好ましい。
非水系電解液中の、オキサラート塩(ただし、ジヒドロキシオキサラートボレート塩を除く)の含有量(質量%)に対するジヒドロキシオキサラートボレート塩の含有量(質量%)の比(以下、「オキサラート塩(ただし、ジヒドロキシオキサラートボレート塩を除く)に対するジヒドロキシオキサラートボレート塩の比」又は「(ジヒドロキシオキサラートボレート塩(質量%))/(オキサラート塩(ただし、ジヒドロキシオキサラートボレート塩を除く)(質量%))」ともいう。)は、本発明の効果が得られる限り特段の制限はないが、5×10-4以上が好ましく、1×10-3以上がより好ましく、2×10-3以上が特に好ましく、一方で、上限は特段の制限はないが、2×10-2以下が好ましく、1.5×10-2以下がより好ましく、1×10-2以下がさらに好ましく、0.60×10-2以下がことさらに好ましく、0.40×10-2以下が特に好ましい。オキサラート塩(ただし、ジヒドロキシオキサラートボレート塩を除く)に対するジヒドロキシオキサラートボレート塩の比が上述の範囲にあることで、オキサラート塩(ただし、ジヒドロキシオキサラートボレート塩を除く)の被膜形成を適度に維持しつつ、ジヒドロキシオキサラートボレート塩の末端官能基としての機能を良好に発現させることができる。オキサラート塩は、非水系電解液に含まれていればよく、添加した場合のほか、非水系電解液内、もしくは電池動作中において非水系電解液電池内で発生するものも含む。オキサラート塩の同定や含有量の測定は、核磁気共鳴(NMR)分光法により行う。
【0011】
{1-3.電解質}
本実施形態の非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様、通常はその成分として、電解質を含有する。本実施形態の非水系電解液に用いられる電解質について特に制限は無く、公知の電解質を用いることができる。
上記ジヒドロキシオキサラートボレート塩及びオキサラート塩(ただし、ジヒドロキシオキサラートボレート塩を除く)は電解質として機能し得るが、通常は、上記ジヒドロキシオキサラートボレート塩及びオキサラート塩(ただし、ジヒドロキシオキサラートボレート塩を除く)以外の電解質を、使用する。
非水系電解液における電解質としては、通常、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、この用途に用いることが知られているものであれば特に制限がなく、任意のものを用いることができ、具体的には以下のものが挙げられる。
リチウム塩としては、例えば、フルオロホウ酸リチウム塩類、フルオロホウ酸リチウム塩類、フルオロタンタル酸リチウム塩類、フルオロリン酸リチウム塩類、タングステン酸リチウム塩類、カルボン酸リチウム塩類、スルホン酸リチウム塩類、リチウムイミド塩類、リチウムメチド塩類及び含フッ素有機リチウム塩類等が挙げられる。
中でも、フルオロホウ酸リチウム塩類としてLiBF4;フルオロホウ酸リチウム塩類として、LiSbF6;フルオロタンタル酸リチウム塩類として、LiTaF6;フルオロリン酸リチウム塩類としてLiPF6、Li2PO3F、LiPO2F2;スルホン酸リチウム塩類としてLiFSO3、CH3SO3Li;リチウムイミド塩類としてLiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド;リチウムメチド塩類として、LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3;含フッ素有機リチウム塩類として、LiCF3SO3;等が、低温出力特性やハイレート充放電特性、インピーダンス特性、高温保存特性、サイクル特性等を向上させる効果がある点からより好ましい。特に好ましくは、LiPF6、LiN(FSO2)2又はLiFSO3である。また、上記電解質塩は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
2種類以上の電解質塩の組み合わせとして、特段の制限はないが、LiPF6及びLiFSO3、LiPF6及びLiPO2F2、LiPF6及びLiN(FSO2)2、又はLiBF4、LiPF6及びLiN(FSO2)2の組み合わせが挙げられる。なかでも、LiPF6及びLiFSO3並びにLiPF6及びLiPO2F2の組み合わせが好ましい。
【0012】
非水系電解液中のジヒドロキシオキサラートボレート塩及びオキサラート塩(ただし、ジヒドロキシオキサラートボレート塩を除く)以外のこれらの電解質の総濃度は、特に制限はないが、非水系電解液の全量に対して、通常8質量%以上、好ましくは8.5質量%以上、より好ましくは9質量%以上であり、また、通常18質量%以下、好ましくは17質量%以下、より好ましくは16質量%以下である。電解質の総濃度が上記範囲内であると、電気伝導率が電池動作に適正となるため、十分な出力特性が得られる傾向にある。
以上に挙げたリチウム塩等の電解質の同定や含有量の測定は、核磁気共鳴(NMR)分光法により行う。
【0013】
{1-4.非水系溶媒}
本発明の非水系電解液は、非水系溶媒を含有する。非水系溶媒としては、一般的な非水系電解液と同様、通常はその主成分として、上述した電解質やジヒドロキシオキサラートボレート塩を溶解すれば特に制限はなく、公知の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、飽和環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル、エーテル系化合物、及びスルホン系化合物等が挙げられる。な
かでも、飽和環状カーボネート類が、ジヒドロキシオキサラートボレート塩による効果をより得られる点で好ましい。有機溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
2種以上の有機溶媒の組み合わせとして、特段の制限はないが、飽和環状カーボネート類及び鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル及び鎖状カーボネート類、並びに飽和環状カーボネート類、鎖状カーボネート類及び鎖状カルボン酸エステルの組み合わせが挙げられる。なかでも、飽和環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類、並びに飽和環状カーボネート類、鎖状カーボネート類及び鎖状カルボン酸エステルの組み合わせが好ましい。
【0014】
(1-4-1.飽和環状カーボネート類)
飽和環状カーボネー類トとしては、例えば、炭素数2~4のアルキレン基を有するものが挙げられ、リチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から炭素数2~3の飽和環状カーボネートが好ましく用いられる。
飽和環状カーボネート類としては、具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。中でも、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネートが好ましく、酸化・還元されにくいエチレンカーボネートがより好ましい。飽和環状カーボネート類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
飽和環状カーボネート類の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、1種を単独で用いる場合の含有量の下限は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常3体積%以上、好ましくは5体積%以上であり、一方、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。この範囲とすることで、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなり、非水系電解液の酸化・還元耐性が向上し、高温保存時の安定性が向上する傾向にある。
なお、本実施形態における体積%とは25℃、1気圧における体積を意味する。
【0015】
(1-4-2.鎖状カーボネート類)
鎖状カーボネート類としては、例えば、炭素数3~7のものが用いられ、電解液の粘度を適切な範囲に調整するために、炭素数3~5の鎖状カーボネート類が好ましく用いられる。
鎖状カーボネート類としては、具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネートが挙げられる。特に好ましくはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。
また、フッ素原子を有する鎖状カーボネート類(以下、「フッ素化鎖状カーボネート」と略記する場合がある。)も好適に用いることができる。フッ素化鎖状カーボネートが有するフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下であり、好ましくは4以下である。フッ素化鎖状カーボネートが複数のフッ素原子を有する場合、当該複数のフッ素原子は互いに同一の炭素に結合していてもよく、異なる炭素に結合していてもよい。フッ素化鎖状カーボネートとしては、フルオロメチルメチルカーボネート等のフッ素化ジメチルカーボネート誘導体、2-フルオロエチルメチルカーボネート等のフッ素化エチルメチルカーボネート誘導体;エチル-(2-フルオロエチル)カーボネート等のフッ素化ジエチルカーボネート誘導体;等が挙げられる。
鎖状カーボネート類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
鎖状カーボネート類の含有量は特に限定されないが、非水系電解液の非水系溶媒全量に
対して、通常15体積%以上であり、好ましくは20体積%以上、より好ましくは25体積%以上であり、また、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。鎖状カーボネートの含有量を上記範囲とすることによって、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水系電解液二次電池の出力特性を良好な範囲としやすくなる。
さらに、特定の鎖状カーボネート類に対して、エチレンカーボネートを特定の含有量で組み合わせることにより、電池性能を著しく向上させることができる。
例えば、特定の鎖状カーボネート類としてジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを選択した場合、エチレンカーボネートの含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常15体積%以上、好ましくは20体積%以上、また、通常45体積%以下、好ましくは40体積%以下であり、ジメチルカーボネートの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また、通常50体積%以下、好ましくは45体積%以下であり、エチルメチルカーボネートの含有量は非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また、通常50体積%以下、好ましくは45体積%以下である。含有量を上記範囲内とすることで、高温安定性に優れ、ガス発生が抑制される傾向がある。
【0016】
(1-4-3.鎖状カルボン酸エステル)
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、吉草酸メチル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、及びピバル酸メチルが挙げられる。なかでも、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルが電池特性向上の点から好ましい。上述の化合物の水素の一部をフッ素で置換した鎖状カルボン酸エステル(例えば、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル等)も好適に使える。鎖状カルボン酸エステル化合物の含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常1体積%以上、好ましくは2体積%以上、より好ましくは3体積%以上、また、通常30体積%以下、好ましくは25体積%以下、より好ましくは20体積%以下である。
【0017】
(1-4-4.環状カルボン酸エステル)
環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン、及びγ-バレロラクトンが挙げられる。これらの中でも、γ-ブチロラクトンがより好ましい。上述の化合物の水素の一部をフッ素で置換した環状カルボン酸エステルも好適に使える。環状カルボン酸エステル化合物の含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常1体積%以上、好ましくは2体積%以上、より好ましくは3体積%以上、また、通常30体積%以下、好ましくは25体積%以下、より好ましくは20体積%以下である。
【0018】
(1-4-5.エーテル系化合物)
エーテル系化合物としては、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタン、エチレングリコールジ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等の炭素数3~10の鎖状エーテル;及びテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、2-メチル-1,3-ジオキサン、4-メチル-1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン等炭素数3~6の環状エーテル;が好ましい。
なかでも、炭素数3~10の鎖状エーテルとして、リチウムイオンへの溶媒和能力が高く、イオン解離性を向上させ、粘性が低く、高いイオン伝導度を与えることから、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタンが好ましく、炭素数3~6の環状エーテルとして、高いイオン電導度を与えることから、テトラヒドロフラン、1,3-
ジオキサン、1,4-ジオキサン等が好ましい。
エーテル系化合物の含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常1体積%以上、好ましくは2体積%以上、より好ましくは3体積%以上、また、通常30体積%以下、好ましくは25体積%以下、より好ましくは20体積%以下である。エーテル系化合物の含有量が上記の範囲内であれば、エーテル系化合物によるリチウムイオン解離度の向上と非水系電解液の粘度低下に由来するイオン伝導度の向上効果を確保しやすい。また、負極活物質が炭素質材料の場合、鎖状エーテルがリチウムイオンと共に共挿入される現象を抑制できることから、入出力特性や充放電レート特性を適正な範囲とすることができる。
【0019】
(1-4-6.スルホン系化合物)
スルホン系化合物としては、特に制限されず、環状スルホンであってもよく、鎖状スルホンであってもよい。環状スルホンの場合、炭素数が通常3~6、好ましくは3~5であり、鎖状スルホンの場合、炭素数が通常2~6、好ましくは2~5である。また、スルホン系化合物1分子中のスルホニル基の数は、特に制限されないが、通常1又は2である。
環状スルホンとしては、モノスルホン化合物であるトリメチレンスルホン類、テトラメチレンスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類;ジスルホン化合物であるトリメチレンジスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類等が挙げられる。中でも誘電率と粘性の観点から、テトラメチレンスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類がより好ましく、テトラメチレンスルホン類(スルホラン類)が特に好ましい。
スルホラン類としては、スルホラン及びスルホラン誘導体が好ましい。スルホラン誘導体としては、スルホラン環を構成する炭素原子上に結合した水素原子の1以上がフッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基で置換されたものが好ましい。
中でも、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、2-フルオロスルホラン、3-フルオロスルホラン、2,3-ジフルオロスルホラン、2-トリフルオロメチルスルホラン、3-トリフルオロメチルスルホラン等が、イオン伝導度が高く入出力が高い点で好ましい。
また、鎖状スルホンとしては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホン、ジフルオロメチルメチルスルホン、トリフルオロメチルメチルスルホン、ペンタフルオロエチルメチルスルホン等が挙げられる。なかでも、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホンが電解液の高温保存安定性が向上する点で好ましい。
スルホン系化合物の含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常0.3体積%以上、好ましくは0.5体積%以上、より好ましくは1体積%以上であり、また、通常40体積%以下、好ましくは35体積%以下、より好ましくは30体積%以下である。スルホン系化合物の含有量が上記範囲内であれば、高温保存安定性に優れた電解液が得られる傾向にある。
【0020】
{1-5.添加剤}
非水系電解液には、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、各種の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、従来公知のものを任意に用いることができる。なお、添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
非水系電解液に添加することのできる従来公知の添加剤としては、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素含有環状カーボネート、イソシアナト基(イソシアネート基)を有する化合物、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、シアノ基を有する有機化合物、ケイ素含有化合物、芳香族化合物、フッ素非含有カルボン酸エステル、複数のエーテル結合を有する環状化合物、イソシアヌル酸骨格を有する化合物、ホウ酸塩、
フルオロスルホン酸塩、{1-2.オキサラート塩(ただし、ジヒドロキシオキサラートボレート塩を除く)}の項で説明したオキサラート塩(ただし、ジヒドロキシオキサラートボレート塩を除く)等が例示できる。具体的には、例えば、国際公開第2015/111676号に記載の化合物等が挙げられる。
なかでも、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素含有環状カーボネート、硫黄含有有機化合物、及び上述のオキサラート塩(ただし、ジヒドロキシオキサラートボレート塩を除く)が、ジヒドロキシオキサラートボレート塩による、被膜形成剤としての効果が向上する点で好ましい。添加剤の含有量は特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液全量に対して、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、特に好ましくは1質量%未満である。複数のエーテル結合を有する環状化合物は、非水系溶媒としても用いることができるものも含まれる。複数のエーテル結合を有する環状化合物を添加剤として用いる場合は、1質量%未満の量で用いることが好ましい。また、ホウ酸塩等、電解質として用いることができるものも含まれる。これら化合物を添加剤として用いる場合は、1質量%未満で用いることが好ましい。
【0021】
[2.非水系電解液二次電池]
本発明の別の実施態様である非水系電解液二次電池は、金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵及び放出しうる負極活物質を有する負極とを備える非水系電解液二次電池であって、上述の非水系電解液を含む。
【0022】
{2-1.非水系電解液}
非水系電解液としては、上述の非水系電解液を用いる。なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において上述の非水系電解液に対し、その他の非水系電解液を混合して用いることも可能である。
【0023】
{2-2.負極}
負極は、負極活物質を集電体表面の少なくとも一部に有する。
【0024】
(2-2-1.負極活物質)
負極に使用される負極活物質としては、電気化学的に金属イオンを吸蔵及び放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、炭素質材料、Liと合金化可能な金属を含有する粒子、リチウム含有金属複合酸化物材料、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でもサイクル特性及び安全性が良好でさらに連続充電特性も優れている点で、炭素質材料、Liと合金化可能な金属を含有する粒子又はLiと合金化可能な金属粒子と黒鉛粒子との混合物を使用するのが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0025】
(2-2-2.炭素質材料)
炭素質材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素、炭素被覆黒鉛、黒鉛被覆黒鉛及び樹脂被覆黒鉛等が挙げられる。なかでも、天然黒鉛が好ましい。炭素質材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び/又はこれらの黒鉛に球形化や緻密化等の処理を施した黒鉛粒子等が挙げられる。これらの中でも、粒子の充填性又は充放電レート特性の観点から、球形化処理を施した球状もしくは楕円体状の黒鉛粒子が特に好ましい。
黒鉛粒子の平均粒子径(d50)は、通常1μm以上、100μm以下である。
【0026】
(2-2-3.炭素質材料の物性)
負極活物質としての炭素質材料は、以下の(1)~(4)に示した物性及び形状等の特徴の内、少なくとも1項目を満たしていることが好ましく、複数の項目を同時に満たすことが特に好ましい。
【0027】
(1)X線回折パラメータ
炭素質材料の学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)は、通常0.335nm以上0.360nm以下である。また、学振法によるX線回折で求めた炭素質材料の結晶子サイズ(Lc)は、1.0nm以上である。
【0028】
(2)体積基準平均粒径
炭素質材料の体積基準平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)であり、通常1μm以上、100μm以下である。
【0029】
(3)ラマンR値、ラマン半値幅
炭素質材料のラマンR値は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法を用いて測定した値であり、通常0.01以上、1.5以下である。
また、炭素質材料の1580cm-1付近のラマン半値幅は特に制限されないが、通常10cm-1以上、100cm-1以下である。
【0030】
(4)BET比表面積
炭素質材料のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値であり、通常0.1m2・g-1以上、100m2・g-1以下である。
負極活物質中に性質の異なる炭素質材料が2種以上含有していてもよい。ここでいう性質とは、X線回折パラメータ、体積基準平均粒径、ラマンR値、ラマン半値幅及びBET比表面積の群から選ばれる1つ以上の特性を示す。
好ましい例としては、体積基準粒度分布がメジアン径を中心としたときに左右対称とならないこと、ラマンR値が異なる炭素質材料を2種以上含有していること、及びX線パラメータが異なること等が挙げられる。
【0031】
(2-2-4.Liと合金化可能な金属を含有する粒子)
Liと合金化可能な金属を含有する粒子は、従来公知のいずれのものも使用可能であるが、容量とサイクル寿命の点から、例えば、Sb、Si、Sn、Al、As、及びZnからなる群から選ばれる金属又はその化合物の粒子であることが好ましい。また、Liと合金化可能な金属を含有する粒子が金属を2種以上含有する場合、当該粒子は、これらの金属の合金からなる合金粒子であってもよい。
また、Liと合金化可能な金属の化合物としては、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等が挙げられる。該化合物は、Liと合金化可能な金属を2種以上含有していてもよい。
なかでも、金属Si(以下、Siと記載する場合がある)又はSi含有無機化合物が高容量化の点で、好ましい。
本明細書では、Si又はSi含有無機化合物を総称してSi化合物と呼ぶ。Si化合物としては、具体的には、SiOx,SiNx,SiCx、SiZxOy(Z=C、N)等が挙げられる。Si化合物としては、Si酸化物(SiOx)が、黒鉛と比較して理論容量が大きい点で好ましく、非晶質Si又はナノサイズのSi結晶が、リチウムイオン等のアルカリイオンの出入りがしやすく、高容量を得ることが可能である点で好ましい。
この一般式SiOxは、二酸化珪素(SiO2)とSiとを原料として得られるが、そのxの値は通常0<x<2である。
Liと合金化された金属化合物としては、具体的には、LiySi(0<y≦4.4)、Li2zSiO2+z(0<z≦2)等が挙げられる。
Liと合金化可能な金属を含有する粒子の平均粒子径(d50)は、サイクル寿命の観
点から、通常0.01μm以上、10μm以下である。
【0032】
(2-2-5.Liと合金可能な金属を含有する粒子と黒鉛粒子との混合物)
負極活物質として用いられるLiと合金化可能な金属を含有する粒子と黒鉛粒子との混合物は、前述のLiと合金化可能な金属を含有する粒子と前述の黒鉛粒子が互いに独立した粒子の状態で混合されている混合体でもよいし、Liと合金化可能な金属を含有する粒子が黒鉛粒子の表面又は内部に存在している複合体でもよい。
Liと合金化可能な金属を含有する粒子と黒鉛粒子との合計に対するLiと合金化可能な金属を含有する粒子の含有割合は、通常1質量%以上、99質量%以下である。
【0033】
(2-2-6.リチウム含有金属複合酸化物材料)
負極活物質として用いられるリチウム含有金属複合酸化物材料としては、リチウムを吸蔵及び放出可能であれば、特に制限されないが、高電流密度充放電特性の点からチタンを含むリチウム含有複合金属酸化物材料が好ましく、リチウムとチタンの複合酸化物(以下、「リチウムチタン複合酸化物」と略記する場合がある)がより好ましく、スピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物が出力抵抗を大きく低減するので特に好ましい。
また、リチウムチタン複合酸化物のリチウム及び/又はチタンが、他の金属元素、例えば、Al、Ga、Cu及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で置換されていてもよい。
リチウムチタン複合酸化物として、Li4/3Ti5/3O4、Li1Ti2O4及びLi4/5Ti11/5O4が好ましい。また、リチウム及び/又はチタンの一部が他の元素で置換されたリチウムチタン複合酸化物として、例えば、Li4/3Ti4/3Al1/3O4が好ましい。
【0034】
(2-2-7.負極の構成と製造方法)
負極の製造は、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のいずれの方法を用いることができる。例えば、負極活物質に、バインダー、溶媒、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスして負極活物質層を形成することによって作製することができる。
【0035】
<2-2-7-1.集電体>
負極活物質を保持させる集電体としては、公知のものを任意に用いることができる。負極の集電体としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられるが、加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。負極の集電体の形状が板状や膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上、1mm以下である。
【0036】
<2-2-7-2.バインダー>
負極活物質を結着するバインダーとしては、非水系電解液及び電極製造時に用いる溶媒に対して安定な材料であれば、特に制限されない。
具体例としては、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
負極活物質に対するバインダーの割合は、通常0.1質量%以上、20質量%以下である。
特に、バインダーがSBRに代表されるゴム状高分子を主要成分に含有する場合には、負極活物質に対するバインダーの割合は、通常0.1質量%以上、5質量%以下である。
また、バインダーがポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分に含有する場合には負極活物質に対する割合は、通常1質量%以上、15質量%以下である。
【0037】
[2-1-7-3.溶媒]
スラリーを形成するための溶媒としては、負極活物質、バインダー、並びに必要に応じて使用される増粘剤、導電材及び充填剤等を溶解または分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。
【0038】
<2-2-7-4.増粘剤>
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調整するために使用される。増粘剤としては、特に制限されないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
さらに増粘剤を用いる場合には、負極活物質に対する増粘剤の割合は、通常0.1質量%以上5質量%以下である。
【0039】
<2-2-8.電極密度>
負極活物質を電極化した際の電極構造は特に制限されないが、集電体上に存在している負極活物質層の密度は、通常1g・cm-3以上、2.2g・cm-3以下である。
【0040】
<2-2-9.負極板の厚さ>
負極(「負極板」ともいう。)の厚さは用いられる正極(「正極板」ともいう。)に合わせて設計されるものであり、特に制限されないが、負極板の厚さから集電体の厚さを差し引いた負極活物質層の厚さは、通常15μm以上、300μm以下である。
【0041】
<2-2-10.負極板の表面被覆>
また、上記負極板は、その表面に、負極活物質とは異なる組成の物質が付着したもの(表面付着物質)を用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0042】
{2-3.正極}
正極は、正極活物質を集電体表面の少なくとも一部に有する。以下に正極に使用される正極活物質であるリチウム遷移金属系化合物について述べる。
【0043】
(2-3-1.リチウム遷移金属系化合物)
リチウム遷移金属系化合物とは、リチウムイオンを脱離、挿入することが可能な構造を有する化合物であり、例えば、硫化物やリン酸塩化合物、ケイ酸化合物、ホウ酸化合物、リチウム遷移金属複合酸化物などが挙げられる。なかでも、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
リチウム遷移金属複合酸化物としては、三次元的拡散が可能なスピネル構造や、リチウムイオンの二次元的拡散を可能にする層状構造に属するものが挙げられる。スピネル構造を有するものは、一般的にLix1M2O4(Mは少なくとも1種以上の遷移金属、x1は通常1以上1.5以下)と表され、具体的にはLiMn2O4、LiCoMnO4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiCoVO4などが挙げられる。層状構造を有するものは、一般的にLix2MO2(Mは少なくとも1種以上の遷移金属、x2は通常1以上1.5以下)と表される。具体的にはLiCoO2、LiNiO2、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2、Li1.05Ni0.33Mn0.33Co0.33O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、Li1.05Ni0.50Mn0.29Co0.21O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8C
o0.1Mn0.1O2などが挙げられる。なかでも、以下の組成式(I)で表されるリチウム遷移金属系化合物を含むことが好ましい。
Li1+xM3O2 ・・・(I)
組成式(I)中、M3は、少なくともNiを含む複数の元素であり、Co及び/又はMnを含んでいてもよい。Ni/M3のモル比(以下、「Ni/M3モル比」ともいう。)は、通常0.2以上、1.0以下である。Ni/M3モル比の下限は0.30以上であることが好ましく、0.45以上であることがより好ましく、0.55以上であることがさらに好ましく、0.65以上であることが特に好ましく、0.75以上であることが最も好ましい。また、Ni/M3モル比の上限は0.95以下であってよく、0.85以下が好ましく、0.80以下がより好ましい。Ni/M3のモル比が上記の範囲内であれば、充放電に関与するNiの比率が十分大きくなり、電池が高容量となるため好ましい。
M3がCoを含む場合、Co/M3のモル比(以下、「Co/M3モル比」ともいう。)は特に限定されないが、0.05以上が好ましく、0.08以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましい。また、0.35以下が好ましく、0.30以下がより好ましく、0.25以下がさらに好ましく、0.20以下が特に好ましく、0.15以下が最も好ましい。上記Co/M3モル比が上記の範囲内であれば、充放電容量が大きくなるため好ましい。
M3がMnを含む場合、Mn/M3モル比は特に限定されないが、0より大きく、0.05以上が好ましく、0.08以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましい。また、0.35以下であってよく、0.30以下が好ましく、0.25以下がより好ましく、0.20以下がさらに好ましく、0.15以下が特に好ましい。上記Mn/M3モル比が上記の範囲内であれば、充放電に関与しないMnの比率が十分小さくなり、電池が高容量となるため好ましい。
【0044】
(2-3-2.異元素導入)
リチウム遷移金属系化合物は、上述の組成式(I)においてNi、Co及びMn以外の元素(異元素)が導入されてもよい。また、具体的に例示した化合物において、異元素が導入されていてもよい。
【0045】
(2-3-3.表面被覆)
上記正極活物質の表面に、正極活物質とは異なる組成の物質が付着したもの(表面付着物質)を用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加、乾燥する方法等により該正極活物質表面に付着させることができる。
表面付着物質の量としては、該正極活物質に対して、好ましくは1μmol/g以上であり、通常1mmol/g以下で用いられる。
本明細書においては、正極活物質の表面に、上記表面付着物質が付着したものも「正極活物質」という。
【0046】
(2-3-4.ブレンド)
正極活物質は一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0047】
(2-3-5.正極の構成と製造方法)
以下に、正極の構成と製造方法について述べる。本実施形態において、正極活物質を用いる正極の製造は、常法により行うことができる。即ち、正極活物質、バインダー及び導電材、並びに必要に応じて増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、又はこれらの材料を液体媒体に溶解又は分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を集電体上に形成する塗布法に
より正極を得ることができる。また、例えば、上述の正極活物質をロール成形してシート電極としてもよいし、圧縮成形によりペレット電極としたりしてもよい。
以下、正極集電体に順次スラリーの塗布及び乾燥する場合について説明する。
【0048】
<2-3-5-1.活物質含有量>
正極活物質の、正極活物質層中の含有量は、通常80質量%以上、98質量%以下である。
【0049】
<2-3-5-2.正極活物質の充填密度>
塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。正極活物質層の密度は、通常1.5g/cm3以上であり、2.5g/cm3以上であることが好ましく、3.0g/cm3以上であることがより好ましく、また通常3.8g/cm3以下である。
【0050】
<2-3-5-3.導電材>
導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素質材料;等が挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。導電材は、正極活物質層中に、通常0.01質量%以上、50質量%以下含有するように用いられる。
【0051】
<2-3-5-4.バインダー>
正極活物質層の製造に用いるバインダーとしては、特に限定されず、塗布法の場合は、電極製造時に用いる液体媒体に対して溶解又は分散される材料であれば、その種類は特に制限されないが、耐候性、耐薬品性、耐熱性、難燃性等からポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のCN基含有ポリマーなどが好ましい。
また、上記のポリマーなどの混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。なお、バインダーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、バインダーとして樹脂を用いる場合、その樹脂の重量平均分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1万以上300万以下である。分子量がこの範囲であると電極の強度が向上し、電極の形成を好適に行うことができる。
正極活物質層中のバインダーの割合は、通常0.1質量%以上80質量%以下である。
【0052】
<2-3-5-5.溶媒>
スラリーを形成するための溶媒としては、正極活物質、導電材、バインダー、並びに必要に応じて使用される増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。
【0053】
<2-3-5-6.集電体>
正極集電体の材質としては特に制限されず、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料が挙げられる。中でもアルミニウムが好ましい。
集電体の形状としては、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。これらのうち、金属箔又は金属薄膜が好ましい。なお、金属箔又は薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。正極の集電体の形状が板状や膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上、1mm以下である。
【0054】
<2-3-5-7.正極板の厚さ>
正極板の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、正極板の厚さから集電体の厚さを差し引いた正極活物質層の厚さは、集電体の片面に対して通常10μm以上、500μm以下である。
【0055】
<2-3-5-8.正極板の表面被覆>
また、上記正極板は、その表面に、正極板とは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよく、当該物質としては、正極活物質の表面に付着していてもよい表面付着物質と同じ物質が用いられる。
【0056】
{2-4.セパレータ}
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
セパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。
【0057】
(2-4-1.材料)
セパレータの材料としては、非水系電解液に対し安定な材料であれば特に制限されないが、好ましくは、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物類、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物類、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩類、ガラス繊維からなるガラスフィルター等の無機物;、ポリオレフィン等の樹脂が挙げられ、より好ましくはポリオレフィンであり、特に好ましくはポリエチレン又はポリプロピレンである。これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また上記材料を積層させて用いてもよい。
【0058】
(2-4-2.形態)
形態としては特に制限されないが、好ましくは、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01μm~1μm、厚さが1μm~50μmのものが好適に用いられる。独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着剤を用いて無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いてもよい。セパレータの形態は、保液性に優れるため、微多孔性フィルム及び不織布であることが好ましい。
【0059】
(2-4-3.空孔率)
セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上、90%以下である。
【0060】
(2-4-4.透気度)
セパレータの非水系電解液二次電池における透気度を、ガーレ値で把握することができる。ガーレ値とは、フィルム厚さ方向の空気の通り抜け難さを示し、100mLの空気が該フィルムを通過するのに必要な秒数で表される。セパレータのガーレ値は、任意ではあるが、通常10~1000秒/100mLである。
【0061】
{2-5.電池設計}
(2-5-1.電極群)
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上、90%以下である。
【0062】
(2-5-2.集電構造)
電極群が前述の積層構造のものでは、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減することも好適に用いられる。電極群が捲回構造のものでは、正極及び負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0063】
(2-5-3.保護素子)
保護素子として、過大電流等による発熱とともに抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)素子、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0064】
(2-5-4.外装体)
非水系電解液二次電池は、通常、上記の非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体(外装ケース)内に収納して構成される。この外装体に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り公知のものを任意に採用することができる。
外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に限定されるものではないが、軽量化の観点から、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属又はラミネートフィルムが好適に用いられる。
上記金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、又は、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。
【0065】
(2-5-5.形状)
また、外装ケースの形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【実施例】
【0066】
次に実施例及び比較例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0067】
[非水系電解液二次電池の作製]
<非水系電解液の調製>
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートの混合物(体積比3:4:3)に、十分に乾燥させたLiPF6を非水系電解液中の濃度として1.0mol/L(12.0質量%、非水系電解液全体に対して)、及びリチウムビスオキサラートボレートを2.0質量%、更にリチウムジヒドロキシオキサラートを表1に記載の濃度溶解させた非水系電解液を調製した。リチウムジヒドロキシオキサラートは、Yang et al.,Journal of power sources.195,1698(2010)のp.1702の右欄5-6行目に記載の方法に基づき合成して、用いた。表1には、リチウムビスオキサラートボレート(LiBOB)の含有量(質量%)に対するリチウムジヒドロキシオキサラートボレートの含有量(質量%)の比も示した。
【0068】
【0069】
<正極の作製>
正極活物質としてLi1.05Ni0.34Mn0.33Co0.33O285質量部と、導電材としてアセチレンブラック10質量部と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量部とを、N-メチル-2-ピロリドン中で混合・スラリー化し、これを厚さ15μmのアルミニウム箔に均一に塗布、乾燥した後、ロールプレスを行い正極とした。なお、正極活物質層の密度は2.6g/cm3であった。
【0070】
<負極の作製>
グラファイト粉末49質量部に、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)50質量部と、バインダーとしてスチレン-ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン-ブタジエンゴムの濃度50質量%)1質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔に均一に塗布して乾燥し、ロールプレスして負極とした。
【0071】
上記の正極、負極、及びポリオレフィン製セパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層した。こうして得られた電池要素をアルミニウムラミネートフィルムで包み込み、前述の非水系電解液を注入した後で真空封止し、シート状の非水系電解液二次電池を作製した。
【0072】
[非水系電解液二次電池の評価]
作製した非水系電解液二次電池は以下のとおり評価した。なお、初期出力抵抗は小さいほど好ましく、容量維持率は大きいほど好ましいと言える。
【0073】
・初期出力抵抗
25℃の恒温槽中、シート状の非水系電解液二次電池を0.05C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする。以下同様。)で3.7Vまで定電流充電し、次いで0.2Cで4.2Vの電圧まで定電流-定電圧充電し、その後0.2Cで2.5Vまでの定電流放電を行った。
さらに、4.1Vまで0.2Cで定電流-定電圧充電した後に、60℃で24時間保管することで初期充放電を行い、非水系電解液二次電池を安定させた。
その後、25℃にて2.5Vまで定電流放電し、次いで3.7Vの電圧まで0.2Cで定電流-定電圧充電を実施した。これを25℃において各々0.25C、0.5C、0.75C、及び1Cで放電させ、各放電過程開始から10秒時点の電圧を測定し、得られた電流-電圧直線の傾きから初期出力抵抗(Ω)を求めた。表2に各非水系電解液二次電池の初期出力抵抗(比較例1の初期出力抵抗値を100とした相対値)を示す。
【0074】
・容量維持率
上述の初期充放電を実施した非水系電解液二次電池を45℃の恒温槽中に設置し、0.2Cで2.5Vまでの定電流放電を行った。次に、4.2Vの電圧まで0.2Cで定電流-定電圧充電を実施した後、0.2Cで2.5Vまでの定電流放電を行ったときの放電容量を容量(A)とした。その後、4.2Vの電圧まで1Cで定電流-定電圧充電し、2.5Vの電圧まで定電流放電を行うことを99回繰り返した。その後、4.2Vの電圧まで0.2Cで定電流-定電圧充電を実施した後、0.2Cで2.5Vまでの定電流放電を行ったときの放電容量を容量(B)とした。容量(A)に対する容量(B)の割合(B/A×100)を「容量維持率」とした。表3に容量維持率を示す。
【0075】
【0076】
【0077】
表2から明らかなように、リチウムジヒドロキシオキサラートボレートを含有することにより、初期出力抵抗が低減し、電池としての性能を向上していることが判る。
また、表3から明らかなように、リチウムジヒドロキシオキサラートボレートを含有することで、容量維持率も良好に維持できる。