(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】乳酸菌の生菌数の減少抑制剤および乳成分未含有酸性飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/38 20210101AFI20240321BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240321BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
A23L2/38 G
A23L2/52
C12N1/20 A
(21)【出願番号】P 2020509170
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013111
(87)【国際公開番号】W WO2019189321
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2018063616
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【氏名又は名称】山内 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 悟
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-127829(JP,A)
【文献】特開2015-080434(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107361275(CN,A)
【文献】特開2018-033334(JP,A)
【文献】特開2003-116497(JP,A)
【文献】特開2001-252012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00- 2/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸およびその塩を有効成分とする、乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料における乳酸菌の生菌数の減少抑制剤。
【請求項2】
前記塩には、カルシウム塩が含まれない
請求項1に記載の乳酸菌の生菌数の減少抑制剤。
【請求項3】
前記塩はナトリウム塩である
請求項1に記載の乳酸菌の生菌数の減少抑制剤。
【請求項4】
乳酸およびその塩(カルシウム塩を除く)の少なくとも一方を有効成分とする、乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料における乳酸菌の生菌数の減少抑制剤。
【請求項5】
乳酸およびそのナトリウム塩の少なくとも一方を有効成分とする、乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料における乳酸菌の生菌数の減少抑制剤。
【請求項6】
乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳成分未含有酸性飲料であって、
乳酸菌の生菌と、
乳酸およびその塩から成る酸味料と
を含有する、乳成分未含有酸性飲料。
【請求項7】
前記乳酸およびその塩の濃度が、合計で0.05wt%以上1.0wt%以下の範囲内である
請求項
6に記載の乳成分未含有酸性飲料。
【請求項8】
前記乳酸の添加量は、0.10wt%以上0.40wt%以下の範囲内であり、
前記塩の添加量は0.01wt%以上0.30wt%以下の範囲内である
請求項
6に記載の乳成分未含有酸性飲料。
【請求項9】
前記塩にはカルシウム塩が含まれない
請求項
6から
8のいずれか1項に記載の乳成分未含有酸性飲料。
【請求項10】
前記塩はナトリウム塩である
請求項
6から
8のいずれか1項に記載の乳成分未含有酸性飲料。
【請求項11】
pHが3.0~6.0である
請求項
6から
10のいずれか1項に記載の乳成分未含有酸性飲料。
【請求項12】
容器詰めされている
請求項
6から
11のいずれか1項に記載の乳成分未含有酸性飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌の生菌数の減少抑制剤に関する。また、本発明は、その乳酸菌の生菌数の減少抑制剤の有効成分を含む酸性飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は生菌でヒトに摂取されることによって、ヒトに様々な健康効果をもたらす。生きた乳酸菌を摂取することができる飲食品としてヨーグルト、乳酸菌飲料が知られている。ヨーグルトおよび乳酸菌飲料は乳成分を含む。乳成分は乳酸菌に対して保護効果を有する。このため、ヨーグルトおよび乳酸菌飲料を保存した際には、乳酸菌は死滅しにくい。したがって、ヨーグルトや乳酸菌飲料では、数週間の賞味期限中、健康効果をもたらすために必要な乳酸菌の生菌数を維持することが比較的容易である。
【0003】
ところで、乳成分を含有しない清涼飲料等は、ヨーグルトや乳酸菌飲料に比べ、配合の設計の自由度が大きい。このため、乳酸菌の生菌を清涼飲料に添加することで、例えば、ノンカロリー飲料や低カロリー飲料など、ヨーグルトや乳酸菌飲料では不可能であった消費者の幅広いニーズに応えられる商品に対して、乳酸菌の健康効果を付与した飲料を製造販売することが可能となる。
【0004】
しかしながら、ヨーグルトや乳酸菌飲料に比べ、乳成分などを実質的に含まない液体中では、乳酸菌が冷蔵保存中でも死滅しやすい。このため、今までは、清涼飲料など乳成分を実質的に含まない飲料において乳酸菌を生きた状態で数週間維持することは困難であった。また、通常、清涼飲料では、風味の向上および雑菌汚染の防止のため、酸味料としてクエン酸が用いられることが多い。クエン酸は一般に抗菌効果を有するため、クエン酸の添加により、清涼飲料中での乳酸菌の死滅はさらに促進される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-089511号公報
【文献】特開2012-228218号公報
【文献】国際公開第2014/192905号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料において、できるだけ長期に亘って乳酸菌の生菌を存在させることができる剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に係る乳酸菌の生菌数の減少抑制剤は、乳成分を全く含まないか実質的に含まないか清涼飲料等の飲料に乳酸菌の生菌を添加した際においてその生菌数の減少を抑制するための添加剤であって、乳酸およびその塩の少なくとも一方を有効成分とする。なお、この乳酸菌の生菌数の減少抑制剤は、乳酸およびその塩の少なくとも一方のみから構成されていてもよいし、乳酸およびその塩の少なくとも一方以外の成分を含んでいてもよい。また、上述の「乳成分を全く含まない」とは、例えば、飲料中の乳成分の含有濃度が0.1質量%未満であることを意味し、「乳成分を実質的に含まない」とは、例えば、飲料中の乳成分の含有濃度が1質量%未満であることを意味する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料において、乳酸および乳酸の塩が、乳酸菌の生菌数の減少を抑制する効果を有することを見出した。具体的には、「酸味料としてクエン酸およびそのナトリウム塩を加えた乳酸菌含有・乳成分未含有清涼飲料」および「酸味料として乳酸およびそのナトリウム塩を加えた乳酸菌含有・乳成分未含有清涼飲料」を調製して、両乳酸菌含有・乳成分未含有清涼飲料中の乳酸菌の生菌数の経時変化を調べたところ、前者よりも後者の方が乳酸菌の生菌数の減少速度が緩和されることが見出された。すなわち、この乳酸菌の生菌数の減少抑制剤は「乳酸菌の生菌数の減少速度を緩和する剤」と称することもできる。このため、上述の乳酸菌の生菌数の減少抑制剤は、乳酸菌の生菌数の減少を抑制する効果を有する。したがって、この乳酸菌の生菌数の減少抑制剤は、乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料において、できるだけ長期に亘って乳酸菌の生菌を存在させることができる。
【0009】
また、当然であるが乳酸は酸である。このため、この乳酸菌の生菌数の減少抑制剤は、上述の効果のみならず、風味の向上および雑菌汚染の防止にも寄与することができる。
【0010】
なお、上述の発明は、「乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料において、乳酸およびその塩の少なくとも一方を乳酸菌の生菌数の減少抑制剤として使用する方法」、「乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料における乳酸菌の生菌数の減少抑制剤としての使用のための乳酸およびその塩の少なくとも一方」、「乳酸およびその塩の少なくとも一方を、乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料に添加して乳酸菌の生菌数の減少を抑制する方法」、「乳酸およびその塩の少なくとも一方を、乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料に添加して乳酸菌の生菌数の減少速度を緩和する方法」とも表現することができる。また、別の観点から「乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料において乳酸菌の生菌数の減少を抑制させるための剤の製造のための乳酸およびその塩の少なくとも一方の使用」、「乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料において乳酸菌の生菌数の減少速度を緩和させるための剤の製造のための乳酸およびその塩の少なくとも一方の使用」とも表現することができる。
【0011】
本発明の他の局面に係る乳成分未含有酸性飲料は、乳酸菌の生菌、ならびに、乳酸およびその塩の少なくとも一方を含有する。なお、ここで、「乳成分未含有酸性飲料」とは、乳成分を全く含まないか実質的に含まない酸性飲料である。なお、この乳成分未含有酸性飲料は、容器詰めの飲料であることが好ましい。容器詰めの飲料においてその効果を発揮しやすいからである。
【0012】
上述の通り、乳酸およびその塩は、乳酸菌の生菌数の減少を抑制する効果を有する。このため、この乳成分未含有酸性飲料では、乳酸菌の生菌数が減少するのを抑制することができる。したがって、この乳成分未含有酸性飲料は、従前の「乳成分は未含有であるが乳酸菌を含有する酸性飲料」よりも長く乳酸菌の生菌由来の効能を享受することができる。
【0013】
なお、上述の他の局面に係る乳成分未含有酸性飲料において、乳酸およびその塩の濃度は、合計で0.05wt%以上1.0wt%以下の範囲内であることが好ましく、0.05wt%以上0.5wt%以下の範囲内であることがより好ましい。なお、ここで、乳酸が含有されるが乳酸塩が含有されない場合、乳酸の濃度は当然に0.05wt%以上1.0wt%以下の範囲内であることが好ましく、0.05wt%以上0.5wt%以下の範囲内であることがより好ましく、乳酸塩が含有されるが乳酸が含有されない場合、乳酸塩の濃度は当然に0.05wt%以上1.0wt%以下の範囲内であることが好ましく、0.05wt%以上0.5wt%以下の範囲内であることがより好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、本発明の実施の形態を示すことにより本発明を詳細に説明するが、本発明は、以下に記載する個々の形態には限定されることはない。
【0015】
-乳酸菌の生菌数の減少抑制剤-
本発明の実施の形態に係る乳酸菌の生菌数の減少抑制剤は、乳成分を全く含まないか実質的に含まない清涼飲料等の飲料に乳酸菌の生菌を添加した際においてその生菌数の減少を抑制するための添加剤であって、乳酸およびその塩の少なくとも一方を有効成分とする。乳酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩が挙げられる。
【0016】
本発明の実施の形態に係る乳酸菌の生菌数の減少抑制剤に、その用途、効能、機能、有効成分の種類、使用方法などの説明を表示することが好ましい。ここにいう「表示」には、需要者に対して上記説明を知らしめるための全ての表示が含まれる。この表示は、上述の表示内容を想起・類推させ得るような表示であればよく、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体などの如何に拘わらない全てのあらゆる表示を含み得る。例えば、製品の包装・容器に上記説明を表示すること、製品に関する広告・価格表もしくは取引書類に上記説明を表示して展示もしくは頒布すること、またはこれらを内容とする情報を電磁気的(インターネットなど)方法により提供することが挙げられる。
【0017】
本発明の実施の形態に係る乳酸菌の生菌数の減少抑制剤を包装してなる製品が例えば飲料添加剤である場合、その飲料添加剤には、例えば「乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料における乳酸菌の生菌数の減少抑制」・「乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料における乳酸菌の生菌数の減少速度の緩和」等との表示が付されることが好ましい。
【0018】
なお、以上のような表示を行うために使用する文言は、上述の例に限定されず、そのような意味と同義である文言であってもかまわない。そのような文言としては、例えば、需要者に対して、「乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料において乳酸菌の生菌数が減少するのを抑制する」、「乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料において乳酸菌の生菌数が減少する速度を緩和する」、「乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料において乳酸菌の生菌数が減少するのを抑制するのに役立つ」あるいは「乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料において乳酸菌の生菌数が減少する速度を緩和するのに役立つ」等の種々の文言が許容され得る。
【0019】
-乳成分未含有酸性飲料-
また、本発明の別の実施の形態に係る乳成分未含有酸性飲料は、乳酸菌の生菌、乳酸およびその塩の少なくとも一方ならびに水を含有する。以下、これらの成分および組成について詳述する。
【0020】
(1)成分
(1-1)乳酸菌の生菌
乳酸菌の生菌は、生きている乳酸菌である。本発明の実施の形態において、この乳酸菌は、特に限定されず、どのような乳酸菌であってもかまわない。乳酸菌の一例としては、ラクトバチルス属(Lactobacillus)の乳酸菌、カルノバクテリウム(Carnobacterium)の乳酸菌、ストレプトコッカス属(Streptococcus)の乳酸菌、ラクトコッカス属(Lactococcus)の乳酸菌、エンテロコックス(Enterococcus)の乳酸菌、ペディオコッカス属(Pediococcus)の乳酸菌、テトラゲノコックス(Tetragenococcus)の乳酸菌、ロイコノストック属(Leuconostoc)の乳酸菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)の乳酸菌等の乳酸菌が挙げられる。
【0021】
ラクトバチルス属の乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)等が挙げられる。ストレプトコッカス属の乳酸菌としては、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等が挙げられる。ラクトコッカス属の乳酸菌としては、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)等が挙げられる。
【0022】
(1-2)乳酸およびその塩
乳成分未含有酸性飲料には、乳酸のみが添加されてもかまわないし、乳酸菌の塩のみが添加されてもかまわないし、乳酸およびその塩の両方が添加されてもかまわない。ここで、乳酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩が挙げられる。
【0023】
(1-3)水
水は、飲料用に使用し得る通常の水である。
【0024】
(1-4)その他の成分
本発明の別の実施の形態に係る乳成分未含有酸性飲料には、本発明の趣旨を損なわない範囲で上記成分以外の成分が含まれていてもかまわない。上記成分以外の成分としては、例えば、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機塩基、果汁、フレーバー、機能性成分、食品添加物等、通常の飲料に含まれる成分が挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロテン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。機能性成分として、例えば、オリゴ糖、グルコサミン、コラーゲン、セラミド、ローヤルゼリー、ポリフェノールなどが挙げられる。食品添加物として、例えば乳化剤、安定剤、増粘剤、甘味剤、保存料、抗酸化剤、着色剤、香料などが挙げられる。なお、これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができる。また上記成分は、天然物、天然物加工品、合成品のいずれであってもよい。
【0025】
(2)組成
健康効果の高い乳酸菌は、飲料としての機能を失わない限り、多量に添加されるのが好ましいが、乳酸およびその塩の少なくとも一方の添加量との関係において乳成分未含有酸性飲料の酸味が強くなりすぎない程度に添加されるのが好ましい。
【0026】
乳酸およびその塩の少なくとも一方の添加量は、乳成分未含有酸性飲料の酸味が強くなりすぎない程度、すなわち、乳成分未含有酸性飲料のpHが3.0~6.0になる程度に添加されるのが好ましい。また、この添加量は、乳酸およびその塩の合計で0.05wt%以上1.0wt%以下の範囲程度であることが好ましい。乳酸の添加量は、0.10wt%以上0.40wt%以下の範囲程度であることが好ましい。乳酸の塩の添加量は、0.01wt%以上0.30wt%以下の範囲程度であることが好ましい。
【0027】
乳酸を含有する乳成分未含有酸性飲料における乳酸菌の生菌数は、保存開始後6日経過時に、クエン酸を含有する乳成分未含有酸性飲料における乳酸菌の生菌数の2倍以上であることが好ましく、4倍以上であることがより好ましく、7倍以上であることがさらに好ましい。また、乳酸を含有する乳成分未含有酸性飲料における乳酸菌の生菌数は、保存開始後5日経過時に、クエン酸を含有する乳成分未含有酸性飲料における乳酸菌の生菌数の1.1倍以上であることが好ましく、1.4倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることがさらに好ましく、4倍以上であることがさらに好ましく、20倍以上であることがさらに好ましく、30倍以上であることが特に好ましい。
【0028】
乳酸を含有する乳成分未含有酸性飲料における乳酸菌の生存率は、保存開始後6日経過時に、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。また、乳酸を含有する乳成分未含有酸性飲料における乳酸菌の生存率は、保存開始後5日経過時に、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
以下の表1に示される実施例1の組成を有する清涼飲料を調製した。そして、この清涼飲料を110℃で1分間オートクレーブ殺菌した後、その清涼飲料を10℃以下に冷却した。次いで、その冷却済みの清涼飲料に対してラクトバチルス・ガセリOLL2959の濃縮菌液(2.5×1011cfu/mL)を0.36wt%の比率で添加した。なお、ラクトバチルス・ガセリOLL2959添加後の清涼飲料のpHは3.5であった。
【0031】
なお、ここで、ラクトバチルス・ガセリOLL2959は、2006年3月31日付(原寄託日)で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、受託番号:NITE BP-224として、ブタペスト条約に基づき国際寄託されている(2007年11月21日に原寄託よりブダペスト条約に基づく寄託へ移管)。
【0032】
そして、上述のラクトバチルス・ガセリOLL2959を含有する清涼飲料をペットボトルに充填し、4℃で6日間および9日間保存した際のラクトバチルス・ガセリOLL2959の生菌数を常法により測定したところ、表2の実施例1の行に示される通りとなった。
【0033】
(比較例1)
以下の表1に示される比較例1の組成を有する清涼飲料を調製した。そして、この清涼飲料を110℃で1分間オートクレーブ殺菌した後、その清涼飲料を10℃以下に冷却した。次いで、その冷却済みの清涼飲料に対してラクトバチルス・ガセリOLL2959の濃縮菌液(2.5×1011cfu/mL)を0.36wt%の比率で添加した。なお、ラクトバチルス・ガセリOLL2959添加後の清涼飲料のpHは3.5であった。
【0034】
そして、上述のラクトバチルス・ガセリOLL2959を含有する清涼飲料をペットボトルに充填し、4℃で6日間および9日間保存した際のラクトバチルス・ガセリOLL2959の生菌数を常法により測定したところ、表2の比較例1の行に示される通りとなった。
【0035】
【0036】
【0037】
(実施例2・比較例2)
1.乳酸菌の培養
ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリクスOLL1255を37℃の温度環境下、MRS培地でそれぞれ3回、賦活培養した。
【0038】
なお、ここで、ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスOLL1255は、2005年2月10日付(原寄託日)で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、受託番号:NITE BP-76として、ブタペスト条約に基づき国際寄託されている(2009年4月1日に原寄託よりブダペスト条約に基づく寄託へ移管)。
【0039】
2.酸液の調製
0.5wt%のクエン酸水溶液および0.5wt%の乳酸水溶液を調製した後、各酸水溶液のpHを、水酸化ナトリウム水溶液で3.5に調整した。そして、その得られたpH調整済みの酸水溶液を0.22μmフィルターで濾過滅菌した。
【0040】
3.保存試験
上記1.で得られた賦活培養液を遠心分離して培養液を除去し、残った乳酸菌を、除去した培養液と等量の生理食塩水で懸濁した後、その乳酸菌懸濁液0.5mLを上述の各酸水溶液5mLに接種した。そして、その接種直後の乳酸菌の生菌数と、その乳酸菌接種酸水溶液を5℃で5日間保存した後の生菌数とを常法により測定したところ、表3の実施例2(乳酸水溶液)および比較例2(クエン酸水溶液)の行に示される通りとなった。
【0041】
(実施例3・比較例3)
1.乳酸菌の培養
ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリクスOLL1255をラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリクスOLL1171に代えた以外は、実施例2と同様にして乳酸菌を賦活培養した。
【0042】
なお、ここで、ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリクスOLL1171は、2013年3月13日付(原寄託日)で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、受託番号:NITE BP-01569として、ブタペスト条約に基づき国際寄託されている。
【0043】
2.酸液の調製
実施例2で示された方法と同じ方法で、pH3.5のクエン酸水溶液および乳酸水溶液を調製した。
【0044】
3.保存試験
実施例2で示された方法と同じ方法で乳酸菌懸濁液を調製した後、その乳酸菌懸濁液0.5mLを上述の各酸水溶液5mLに接種した。そして、その接種直後の乳酸菌の生菌数と、その乳酸菌接種酸水溶液を5℃で5日間保存した後の生菌数とを常法により測定したところ、表3の実施例3(乳酸水溶液)および比較例3(クエン酸水溶液)の行に示される通りとなった。
【0045】
(実施例4・比較例4)
1.乳酸菌の調製
ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリクスOLL1255をラクトバチルス・プランタラムOLL2712に代えた以外は、実施例2と同様にして乳酸菌を賦活培養した。
【0046】
なお、ここで、ラクトバチルス・プランタラムOLL2712は、2010年7月2日付で、独立行政法人産業総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)(後に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に一元化)に、受託番号:FERM BP-11262として、ブタペスト条約に基づき国際寄託されている。
【0047】
2.酸液の調製
実施例2で示された方法と同じ方法で、pH3.5のクエン酸水溶液および乳酸水溶液を調製した。
【0048】
3.保存試験
実施例2で示された方法と同じ方法で乳酸菌懸濁液を調製した後、その乳酸菌懸濁液0.5mLを上述の各酸水溶液5mLに接種した。そして、その接種直後の乳酸菌の生菌数と、その乳酸菌接種酸水溶液を5℃で5日間保存した後の生菌数とを常法により測定したところ、表3の実施例4(乳酸水溶液)および比較例4(クエン酸水溶液)の行に示される通りとなった。
【0049】
(実施例5・比較例5)
1.乳酸菌の調製
ラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリクスOLL1255をラクトバチルス・プランタラムOLL203071に代えた以外は、実施例2と同様にして乳酸菌を賦活培養した。
【0050】
なお、ここで、ラクトバチルス・プランタラムOLL203071は、受託番号:NCIMB11974TでNCIMBに寄託されており、そこで入手することができる。
【0051】
2.酸液の調製
実施例2で示された方法と同じ方法で、pH3.5のクエン酸水溶液および乳酸水溶液を調製した。
【0052】
3.保存試験
実施例2で示された方法と同じ方法で乳酸菌懸濁液を調製した後、その乳酸菌懸濁液0.5mLを上述の各酸水溶液5mLに接種した。そして、その接種直後の乳酸菌の生菌数と、その乳酸菌接種酸水溶液を5℃で5日間保存した後の生菌数とを常法により測定したところ、表3の実施例5(乳酸水溶液)および比較例5(クエン酸水溶液)の行に示される通りとなった。
【0053】
(実施例6・比較例6)
1.乳酸菌の調製
ストレプトコッカス・サーモフィラスOLS3289を37℃の温度環境下、グルコースを2wt%添加したM-17培地で3回、賦活培養した。
【0054】
なお、ここで、ストレプトコッカス・サーモフィラスOLS3289(受託番号:ATCC19258)は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection; ATCC)から、ATCC(R)カタログ番号19258の下で入手することができる。
【0055】
2.酸液の調製
0.5wt%のクエン酸水溶液および0.5wt%の乳酸水溶液を調製した後、各酸水溶液のpHを、水酸化ナトリウム水溶液で4.5に調整した。そして、その得られたpH調整済みの酸水溶液を0.22μmフィルターで濾過滅菌した。
【0056】
3.保存試験
実施例2で示された方法と同じ方法で乳酸菌懸濁液を調製した後、その乳酸菌懸濁液0.5mLを上述の各酸水溶液5mLに接種した。そして、その接種直後の乳酸菌の生菌数と、その乳酸菌接種酸水溶液を5℃で5日間保存した後の生菌数とを常法により測定したところ、表3の実施例6(乳酸水溶液)および比較例6(クエン酸水溶液)の行に示される通りとなった。
【0057】
(実施例7・比較例7)
1.乳酸菌の調製
ストレプトコッカス・サーモフィラスOLS3289をラクトコッカス・ラクティスOLS3310に代えると共に、培養温度を37℃から30℃に代えた以外は、実施例6と同様にして乳酸菌を賦活培養した。
【0058】
なお、ここで、ラクトコッカス・ラクティスOLS3310(受託番号:JCM 5805T)は、理化学研究所バイオリソースセンター、American type culture collection (米国)、財団法人発酵研究所(日本国大阪府大阪市淀川区十三本町2丁目17番85号)、東京農業大学・菌株保存室(日本国東京都世田谷区桜丘1丁目1番1号)等から入手することができる。
【0059】
2.酸液の調製
実施例6で示された方法と同じ方法で、pH4.5のクエン酸水溶液および乳酸水溶液を調製した。
【0060】
3.保存試験
実施例2で示された方法と同じ方法で乳酸菌懸濁液を調製した後、その乳酸菌懸濁液0.5mLを上述の各酸水溶液5mLに接種した。そして、その接種直後の乳酸菌の生菌数と、その乳酸菌接種酸水溶液を5℃で5日間保存した後の生菌数とを常法により測定したところ、表3の実施例7(乳酸水溶液)および比較例7(クエン酸水溶液)の行に示される通りとなった。
【0061】
(実施例8・比較例8)
1.乳酸菌の調製
ラクトバチルス・ガセリOLL2959を35℃の温度環境下、ホエイ分解培地で培養した。
【0062】
なお、ここで、ラクトバチルス・ガセリOLL2959は、2006年3月31日付(原寄託日)で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、受託番号:NITE BP-224として、ブタペスト条約に基づき国際寄託されている(2007年11月21日に原寄託よりブダペスト条約に基づく寄託へ移管)。
【0063】
2.酸液の調製
実施例2で示された方法と同じ方法で、pH3.5のクエン酸水溶液および乳酸水溶液を調製した。
【0064】
3.保存試験
上記1.で得られた培養液を遠心分離して培養液を除去し、その沈殿物(濃縮乳酸菌)が0.05wt%の濃度となるようにその沈殿物を上述の各酸水溶液5mLに接種した。そして、その接種直後の乳酸菌の生菌数と、その乳酸菌接種酸水溶液を5℃で5日間保存した後の生菌数とを常法により測定したところ、表3の実施例8(乳酸水溶液)および比較例8(クエン酸水溶液)の行に示される通りとなった。
【0065】
(実施例9)
1.乳酸菌の調製
ラクトバチルス・ガセリOLL2959をラクトバチルス・ガセリOLL2716に代えた以外は、実施例8と同様にして乳酸菌を培養した。
【0066】
なお、ここで、ラクトバチルス・ガセリOLL2716は、1999年5月24日付(原寄託日)で、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号)(後に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に一元化)に、受託番号:FERM BP-6999として、ブタペスト条約に基づき国際寄託されている(2000年1月14日に原寄託よりブダペスト条約に基づく寄託へ移管)。
【0067】
2.酸液の調製
実施例2で示された方法と同じ方法で、pH3.5のクエン酸水溶液および乳酸水溶液を調製した。
【0068】
3.保存試験
実施例8で示された方法と同じ方法で沈殿物(濃縮乳酸菌)を得た後、その沈殿物(濃縮乳酸菌)が0.05wt%の濃度となるようにその沈殿物を上述の各酸水溶液5mLに接種した。そして、その接種直後の乳酸菌の生菌数と、その乳酸菌接種酸水溶液を5℃で5日間保存した後の生菌数とを常法により測定したところ、表3の実施例9(乳酸水溶液)および比較例9(クエン酸水溶液)の行に示される通りとなった。
【0069】
【0070】
(考察)
実施例1に係るラクトバチルス・ガセリOLL2959含有清涼飲料の6日間保存後の生菌数は、比較例1に係るラクトバチルス・ガセリOLL2959含有清涼飲料の6日間保存後の生菌数の約7倍であった。また、比較例1に係るラクトバチルス・ガセリOLL2959含有清涼飲料の9日間保存後の生菌数は、検出限界である0.1×108cfu/mL未満であったが、実施例1に係るラクトバチルス・ガセリOLL2959含有清涼飲料の9日間保存後の生菌数は、0.9×108cfu/mLであった。
【0071】
実施例2に係るラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリクスOLL1255含有乳酸水溶液の5日間保存後の生菌数は、比較例2に係るラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリクスOLL1255含有クエン酸水溶液の5日間保存後の生菌数の約2倍であった。
【0072】
実施例3に係るラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリクスOLL1171含有乳酸水溶液の5日間保存後の生菌数は、比較例3に係るラクトバチルス・デルブルエッキー・サブスピーシス・ブルガリクスOLL1171含有クエン酸水溶液の5日間保存後の生菌数の約4倍であった。
【0073】
実施例4に係るラクトバチルス・プランタラムOLL2712含有乳酸水溶液の5日間保存後の生菌数は、比較例4に係るラクトバチルス・プランタラムOLL2712含有クエン酸水溶液の5日間保存後の生菌数の約2倍であった。
【0074】
実施例5に係るラクトバチルス・プランタラムOLL203071含有乳酸水溶液の5日間保存後の生菌数は、比較例5に係るラクトバチルス・プランタラムOLL203071含有クエン酸水溶液の5日間保存後の生菌数の約31倍であった。
【0075】
実施例6に係るストレプトコッカス・サーモフィラスOLS3289含有乳酸水溶液の5日間保存後の生菌数は、比較例6に係るストレプトコッカス・サーモフィラスOLS3289含有クエン酸水溶液の5日間保存後の生菌数の約1.1倍であった。
【0076】
実施例7に係るラクトコッカス・ラクティスOLS3310含有乳酸水溶液の5日間保存後の生菌数は、比較例7に係るラクトコッカス・ラクティスOLS3310含有クエン酸水溶液の5日間保存後の生菌数の約1.4倍であった。
【0077】
実施例8に係るラクトバチルス・ガセリOLL2959含有乳酸水溶液の5日間保存後の生菌数は、比較例6に係るラクトバチルス・ガセリOLL2959含有クエン酸水溶液の5日間保存後の生菌数の約23倍であった。
【0078】
実施例9に係るラクトバチルス・ガセリOLL2716含有乳酸水溶液の5日間保存後の生菌数は、比較例9に係るラクトバチルス・ガセリOLL2716含有クエン酸水溶液の5日間保存後の生菌数の約1.1倍であった。
【0079】
上述の結果から、乳酸は、乳酸菌の生菌数の減少速度を緩和させる機能を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る乳酸菌の生菌数の減少抑制剤は、乳成分を全く含まないか実質的に含まない乳酸菌含有飲料(例えば、低カロリーの乳酸菌含有飲料や、ノンカロリーの乳酸菌含有飲料)に利用することができる。
【受託番号】
【0081】
NITE BP-224
NITE BP-76
NITE BP-01569
FERM BP-6999
FERM BP-11262