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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 163/00 20060101AFI20240321BHJP
   C10M 159/24 20060101ALN20240321BHJP
   C10M 135/10 20060101ALN20240321BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20240321BHJP
   C10M 135/18 20060101ALN20240321BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20240321BHJP
   C10M 133/04 20060101ALN20240321BHJP
   C10M 133/16 20060101ALN20240321BHJP
   C10M 129/54 20060101ALN20240321BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20240321BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20240321BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240321BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20240321BHJP
【FI】
C10M163/00
C10M159/24
C10M135/10
C10M139/00 Z
C10M135/18
C10M137/10 A
C10M133/04
C10M133/16
C10M129/54
C10N10:04
C10N10:12
C10N30:06
C10N40:25
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021511524
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013226
(87)【国際公開番号】W WO2020203524
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2019065480
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 翔一郎
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-140354(JP,A)
【文献】国際公開第2007/114260(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/159006(WO,A1)
【文献】特開2017-105886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/04
C10N 10/12
C10N 30/06
C10N 40/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、
有機モリブデン化合物と、
金属系清浄剤と、を含有し、
前記金属系清浄剤はカルシウム系清浄剤およびマグネシウム系清浄剤を含み、
前記カルシウム系清浄剤は、カルシウムスルホネートを含み、前記カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量が組成物基準で0.12質量%以上であり、
金属系清浄剤に由来する石鹸基に対する、前記有機モリブデン化合物由来のモリブデン原子の潤滑油組成物基準の含有量比〔Mo/石鹸基〕が、質量比で、0.06以上であり、
150℃におけるHTHS粘度が1.3mPa・s以上2.3mPa・s未満である、
潤滑油組成物。
【請求項2】
前記有機モリブデン化合物のモリブデン原子換算の含有量が、組成物基準で0.02質量%以上0.10質量%未満である、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
マグネシウム系清浄剤のマグネシウム原子換算の含有量が、組成物基準で0.05質量%未満である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記有機モリブデン化合物は、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、モリブデンアミン錯体、およびモリブデンイミド錯体からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
度指数向上剤の含有量が、組成物基準で、2質量%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
中性カルシウムサリシレートのカルシウム原子換算の含有量が組成物基準で0.01質量%未満である、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が、2.0~7.1mm/sである、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
ii)カルシウム系清浄剤は過塩基性カルシウムスルホネートのみを含む
iv)カルシウム系清浄剤は過塩基性カルシウムスルホネートおよび中性カルシウムスルホネートのみを含む、
のいずれかである、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記潤滑油組成物の塩基価が、6.mgKOH/g以上11.0mgKOH/g以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の組成物を用いた、内燃機関。
【請求項11】
内燃機関の摩耗低減方法であって、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物を用いて内燃機関を作動させることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、自動車等の低燃費化が重要課題となっており、自動車等の内燃機関用潤滑油に対しても燃費向上が求められている。一般に、自動車等の内燃機関用潤滑油は、摺動面の間に潤滑油膜を形成することにより、摺動面どうしの直接接触を防止し、潤滑性を付与する。潤滑油の粘度が低いほど摺動抵抗が減少し、低燃費化につながる。そのため、潤滑油の低粘度化が進んでおり、SAE粘度グレード0W-4~0W-12といった低粘度潤滑油の利用が検討されている。
しかし、潤滑油の粘度が低いほど摺動面に形成される潤滑油膜が薄くなる傾向があるため、単純に潤滑油を低粘度化させるだけでは、油膜破断による摺動面間の接触頻度が増加して、潤滑性不良(摩擦摩耗増加)が生じる懸念がある。このように、低粘度および潤滑性は両立が難しい特性であり、両立を図るべく検討が行われている。例えば、特許文献1および2には、モリブデンコハク酸イミド化合物や有機モリブデン化合物を配合した低粘度潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国出願公開第2018/0258365号明細書
【文献】米国出願公開第2018/0258366号明細書
【発明の概要】
【0004】
このような状況において、低粘度および優れた潤滑性を有する潤滑油組成物が依然として求められている。
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のカルシウム系清浄剤を有機モリブデン化合物とともに特定の比率で配合することにより、潤滑油の油膜形成能が向上し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、下記の実施形態を含む。
【0006】
[1] 基油と、
有機モリブデン化合物と、
金属系清浄剤と、を含有し、
前記金属系清浄剤はカルシウムスルホネートを含み、前記カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量が組成物基準で0.12質量%以上であり、
金属系清浄剤に由来する石鹸基に対する、前記有機モリブデン化合物由来のモリブデン原子の潤滑油組成物基準の含有量比〔Mo/石鹸基〕が、質量比で、0.02以上であり、
150℃におけるHTHS粘度が1.3mPa・s以上2.3mPa・s未満である、
潤滑油組成物。
[1a] 基油と、
有機モリブデン化合物と、
金属系清浄剤と、を含有し、
前記金属系清浄剤はカルシウムスルホネートを含み、前記カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量が組成物基準で1200質量ppm以上であり、
金属系清浄剤に由来する石鹸基に対する、前記有機モリブデン化合物由来のモリブデン原子の潤滑油組成物基準の含有量比〔Mo/石鹸基〕が、質量比で、0.02以上であり、
150℃におけるHTHS粘度が1.3mPa・s以上2.3mPa・s未満である、
潤滑油組成物。
[2] 基油と、
有機モリブデン化合物と、
金属系清浄剤と、を含有し、
前記金属系清浄剤は、過塩基性カルシウムサリシレートを含み、
金属系清浄剤に由来する石鹸基に対する、前記有機モリブデン化合物由来のモリブデン原子の潤滑油組成物基準の含有量比〔Mo/石鹸基〕が、質量比で、0.02以上であり、
150℃におけるHTHS粘度が1.3mPa・s以上2.3mPa・s未満である、
潤滑油組成物。
[3] 前記有機モリブデン化合物のモリブデン原子換算の含有量が、組成物基準で0.02質量%以上0.10質量%未満である、[1]、[1a]または[2]に記載の組成物。
[3a] 前記有機モリブデン化合物のモリブデン原子換算の含有量が、組成物基準で200質量ppm以上1000質量ppm未満である、[1]、[1a]または[2]に記載の組成物。
[4] マグネシウム系清浄剤のマグネシウム原子換算の含有量が、組成物基準で0.05質量%未満である、[1]~[3]、[1a]、[3a]のいずれかに記載の組成物。
[4a] マグネシウム系清浄剤のマグネシウム原子換算の含有量が、組成物基準で500質量ppm未満である、[1]~[3]、[1a]、[3a]のいずれかに記載の組成物。
[5] 前記有機モリブデン化合物は、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、モリブデンアミン錯体、およびモリブデンイミド錯体からなる群から選択される少なくとも一種を含む、[1]~[4]、[1a]、[3a]、[4a]のいずれかに記載の組成物。
[6] 前記粘度指数向上剤の含有量が、組成物基準で、2質量%以下である、[1]~[5]、[1a]、[3a]、[4a]のいずれかに記載の組成物。
[7] 中性カルシウムサリシレートのカルシウム原子換算の含有量が組成物基準で0.01質量%未満である、[1]~[6]、[1a]、[3a]、[4a]のいずれかに記載の組成物。
[7a] 中性カルシウムサリシレートのカルシウム原子換算の含有量が組成物基準で100質量ppm未満である、[1]~[6]、[1a]、[3a]、[4a]のいずれかに記載の組成物。
[8] 前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が、2.0~7.1mm/sである、[1]~[7]、[1a]、[3a]、[4a]、[7a]のいずれかに記載の組成物。
[9] (i)カルシウム系清浄剤は過塩基性カルシウムサリシレートのみを含む、
(ii)カルシウム系清浄剤は過塩基性カルシウムスルホネートのみを含む、
(iii)カルシウム系清浄剤は過塩基性カルシウムサリシレートおよび中性カルシウムサリシレートのみを含む、または
(iv)カルシウム系清浄剤は過塩基性カルシウムスルホネートおよび中性カルシウムスルホネートのみを含む、
のいずれかである、[1]~[8]、[3a]、[4a]、[7a]のいずれかに記載の組成物。
[10] 前記潤滑油組成物の塩基価が、6.0mgKOH/g以上11.0mgKOH/g以下である、[1]~[9]、[3a]、[4a]、[7a]のいずれかに記載の組成物。
[11] [1]~[10]、[3a]、[4a]、[7a]のいずれかに記載の組成物を用いた、内燃機関。
[12] 内燃機関の摩耗低減方法であって、[1]~[10]、[3a]、[4a]、[7a]のいずれかに記載の組成物を用いて内燃機関を作動させることを含む、方法。
【0007】
本発明によれば、低粘度および優れた潤滑性(特に低摩擦摩耗性)を有する潤滑油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、「A~B」および「C~D」が記載されている場合、「A~D」および「C~B」の範囲も数値範囲として、本発明に範囲に含まれる。また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は下限値以上、上限値以下であることを意味する。
【0009】
以下に本明細書において記載する用語等の意義を説明する。
「炭化水素基」とは、指定された数の炭素原子を有する直鎖状、環状または分岐状の飽和または不飽和の炭化水素から水素原子を1個または2個以上除いた基を意味する。具体的には、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキレン基、アルケニレン基などが挙げられる。
「アルキル基」とは、指定された数の炭素原子を有する直鎖状または分岐状の1価の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。
「シクロアルキル基」とは、指定された数の炭素原子を有する環状の1価の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。
「アルキレン基」とは、指定された数の炭素原子を有する直鎖状、環状または分岐状の2価の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。
「アルケニル基」とは、指定された数の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分岐の1価の炭化水素基を意味する。「シクロアルケニル基」とは、指定された数の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する環状の1価の炭化水素基を意味する。「アルケニレン基」とは、指定された数の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分岐の2価の炭化水素基を意味する。「アルケニル」や「アルケニレン」としては例えば、モノエン、ジエン、トリエンおよびテトラエンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「アリール基」とは、芳香族性の炭化水素環式基を意味する。
「アルキルアリール基」とは、1以上のアルキルが結合したアリールを意味する。
「アリールアルキル基」とは、アリール環に結合したアルキルを意味する。
【0010】
本発明の一形態は潤滑油組成物に関する。該潤滑油組成物は、以下の成分:(A)基油、(B)有機モリブデン化合物、および(C)金属系清浄剤、ならびに必要に応じて、(D)その他の成分を含有する。
【0011】
本発明の一実施形態の潤滑油組成物において、金属系清浄剤はカルシウムスルホネートを含み、前記カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量が組成物基準で0.12質量%以上であり、金属系清浄剤に由来する石鹸基に対する、前記有機モリブデン化合物由来のモリブデン原子の潤滑油組成物基準の含有量比〔Mo/石鹸基〕が、質量比で、0.02以上であり、150℃におけるHTHS粘度が1.3mPa・s以上2.3mPa・s未満である。
本発明の他の一実施形態の潤滑油組成物において、金属系清浄剤は、過塩基性カルシウムサリシレートを含み、金属系清浄剤に由来する石鹸基に対する、前記有機モリブデン化合物由来のモリブデン原子の潤滑油組成物基準の含有量比〔Mo/石鹸基〕が、質量比で、0.02以上であり、150℃におけるHTHS粘度が1.3mPa・s以上2.3mPa・s未満である。
従来より有機モリブデン化合物とカルシウム系清浄剤とを含有する潤滑油組成物が知られていたが(例えば特許文献1および2)、カルシウム系清浄剤の種類やカルシウム系清浄剤および有機モリブデン化合物の配合比率と潤滑油膜形成能との関係については検討されていなかった。本発明者らは、カルシウム系清浄剤の種類およびカルシウム系清浄剤および有機モリブデン化合物の配合比率が潤滑油膜形成能に影響を与えることを見出した。そして、上記形態の潤滑油組成物により、低粘度と優れた潤滑性(低摩擦摩耗性)とを両立しうること見出した。
【0012】
潤滑油組成物は、場合によって、配合された成分の少なくとも一部が変性または反応等することで生じる別の化合物を含有していてもよく、このような形態も本発明の潤滑油組成物に包含されるものとする。
以下、各成分について詳細に説明する。
【0013】
[成分(A):基油]
基油としては、従来潤滑油の基油として使用されている鉱油および合成油の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。基油は、例えば、潤滑油組成物が所望の性状(例えば、後述する所望のHTHS粘度)となるように選択されることが好ましい。
【0014】
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、および水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる精製油等が挙げられる。これらの鉱油は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、またはα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリアルキレングリコール;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等のエステル系油;ポリフェニルエーテル等のエーテル系油;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる油(GTL)等が挙げられる。これらの合成油は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
基油として、前記鉱油1種以上と前記合成油1種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0016】
中でも、基油としては、API(米国石油協会)基油カテゴリーのグループ2およびグループ3に分類される鉱油、並びに合成油から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0017】
基油は潤滑油組成物の主成分であり、通常、基油の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは60~99.5質量%、より好ましくは70~99.0質量%、さらに好ましくは80~98.0質量%、特に好ましくは85~97.0質量%である。
【0018】
基油の100℃における動粘度は、特に制限はないが、低燃費化の点から、好ましくは2~10mm/s、より好ましくは2~6mm/s、更に好ましくは3~5mm/sである。
基油(A)の粘度指数は、温度変化による粘度変化を抑えるとともに、省燃費性を向上させる観点から、好ましくは80以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは100以上である。基油の粘度指数が当該範囲であることで、潤滑油組成物の粘度特性を良好なものとしやすい。
なお、本明細書において、基油および潤滑油組成物の40℃における動粘度、100℃における動粘度および粘度指数の値は、JIS K2283:2000に準じて測定される。
【0019】
[成分(B):有機モリブデン化合物]
有機モリブデン化合物は、潤滑油組成物に耐摩擦性を付与することを目的として添加される。
有機モリブデン化合物としては、潤滑油組成物において摩擦調整剤として機能し得るものであれば特に制限されないが、例えば、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)、モリブデンアミン錯体(Moアミン錯体)、およびモリブデンイミド錯体(Moイミド錯体)から選択される少なくとも一種が挙げられる。中でも好ましくは、潤滑油組成物の潤滑油膜の形成能を向上しやすい点で、MoDTCおよびMoアミン錯体が好ましく、MoDTCがより好ましい。
【0020】
有機モリブデン化合物は、潤滑油組成物の潤滑油膜の形成能を向上しやすい点で、有機モリブデン化合物に含まれるモリブデン原子の質量割合(モリブデン含有率)が1~30質量%の範囲にあるものが好ましく、4~15質量%の範囲にあるものがより好ましく、5~12質量%の範囲にあるものがさらに好ましい。
【0021】
(MoDTC)
ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)としては、一分子中に2つのモリブデン原子を含む二核のジチオカルバミン酸モリブデン、および、一分子中に3つのモリブデン原子を含む三核のジチオカルバミン酸モリブデンが挙げられる。なお、ジチオカルバミン酸モリブデンは、単独でまたは2種以上を併用してもよい。
【0022】
二核のジチオカルバミン酸モリブデンとしては、例えば、特開2017-149830号に記載される一分子中に2つのモリブデン原子を含むジチオカルバミン酸モリブデン化合物等が例示できる。二核のジチオカルバミン酸モリブデンは、例えば、下記一般式(i)で表される化合物、および、下記一般式(ii)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】
【0023】
上記一般式(i)および(ii)中、X11~X18は、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子を示す。X11~X18は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。ただし、式(i)中のX11~X18の少なくとも2つは硫黄原子である。本発明の一実施形態においては、式(i)中のX11およびX12が酸素原子であり、X13~X18が硫黄原子であることが好ましい。
式(ii)中のX11~X14が酸素原子であることが好ましい。
【0024】
上記一般式(i)において、基油に対する溶解性を向上させる観点から、X11~X18中の硫黄原子と酸素原子とのモル比〔硫黄原子/酸素原子〕が、好ましくは1/4~4/1、より好ましくは1/3~3/1である。
上記一般式(ii)において、上記と同様の観点から、X11~X14中の硫黄原子と酸素原子とのモル比〔硫黄原子/酸素原子〕が、好ましくは1/3~3/1、より好ましくは1.5/2.5~2.5/1.5である。
【0025】
上記一般式(i)および(ii)中、R11~R14は、それぞれ独立に、炭化水素基を示し、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
11~R14としての炭化水素基の炭素数は、好ましくは7~22、より好ましくは7~18、更に好ましくは7~14、より更に好ましくは8~13である。
上記式(i)および(ii)中のR11~R14として選択し得る具体的な当該炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ベンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ベンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基;オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ベンタデ、セニル基等のアルケニル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、へプチルシクロヘキシル基等の、アルキル置換シクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基、ターフェニル基等のアリール基;トリル基、ジメチルフェニル基、プチルフェニル基、ノニルフェニル基、メチルベンジル基、ジメチルナフチル基等のアルキルアリール基;フェニルメチル基、フェニルエチル基、ジフェニルメチル基等のアリールアルキル基等が挙げられる。
【0026】
三核のジチオカルバミン酸モリブデンとしては、例えば、特開2017-149830号の段落〔0052〕~〔0066〕に記載される、一分子中に3つのモリブデン原子を含むジチオカルバミン酸モリブデン化合物等が例示できる。
【0027】
(MoDTP)
ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)としては、例えば、下記式(iv)で表される化合物、および、下記式(v)で表される化合物が挙げられる。
【化2】
【0028】
上記式(iv)および(v)中、R21~R24は、それぞれ独立に、炭化水素基を示し、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。R21~R24として選択し得る炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~20、より好ましくは5~18、更に好ましくは5~16、より更に好ましくは5~12である。なお、式(iv)および(v)中のR21~R24として選択し得る炭化水素基としては、前述の一般式(i)または(ii)中のR11~R14として選択し得る炭化水素基と同様のものが挙げられる。
【0029】
上記式(iv)および(v)中、X21~X28は、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子を示し、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。ただし、式(iv)中のX21~X28の少なくとも2つは硫黄原子である。
上記式(iv)において、基油に対する溶解性を向上させる観点から、X21~X28中の硫黄原子と酸素原子とのモル比〔硫黄原子/酸素原子〕が、好ましくは1/4~4/1、より好ましくは1/3~3/1である。
また、上記式(v)において、上記と同様の観点から、X21~X24中の硫黄原子と酸素原子とのモル比〔硫黄原子/酸素原子〕が、好ましくは1/3~3/1、より好ましくは1.5/2.5~2.5/1.5である。
【0030】
(Moアミン錯体)
モリブデンアミン錯体(Moアミン錯体)としては、例えば、6価のモリブデン化合物(例えば三酸化モリブデンおよび/またはモリブデン酸)とアミン化合物とを反応させてなるモリブデンアミン錯体等が挙げられる。例えば、特開2003-252887号公報に記載の製造方法で得られる化合物を用いることができる。
6価のモリブデン化合物と反応させるアミン化合物としては特に制限されない。具体的には、モノアミン、ジアミン、ポリアミンおよびアルカノールアミンが挙げられる。より具体的には、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン等の炭素数1~30のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルキルアミン;エテニルアミン、プロペニルアミン、ブテニルアミン、オクテニルアミン、およびオレイルアミン等の炭素数2~30のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルケニルアミン;メタノールアミン、エタノールアミン、メタノールエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン等の炭素数1~30のアルカノール基(これらのアルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルカノールアミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、およびブチレンジアミン等の炭素数1~30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン;ウンデシルジエチルアミン、ウンデシルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、オレイルプロピレンジアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン等の上記モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8~20のアルキル基またはアルケニル基を有する化合物やイミダゾリン等の複素環化合物;これらの化合物のアルキレンオキシド付加物;およびこれらの混合物等が例示できる。
【0031】
(Moイミド錯体)
モリブデンイミド錯体(Moイミド錯体)としては、例えば、硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルキルコハク酸イミドまたはアルケニルコハク酸イミドとの錯体、6価のモリブデン化合物(例えば三酸化モリブデンおよび/またはモリブデン酸)とアルキルコハク酸イミドまたはアルケニルコハク酸イミドとの錯体が挙げられる。例えば、特公平3-22438号公報、特開2004-2866公報に記載されているコハク酸イミドの硫黄含有モリブデン錯体、米国出願公開第2018/0258365号明細書に記載されているモリブデンコハク酸イミド錯体等が例示できる。
【0032】
有機モリブデン化合物の含有量は、有機モリブデン化合物由来のモリブデン原子含有量(Mo)として換算できる。好ましくは、潤滑油組成物中の有機モリブデン化合物由来のモリブデン原子換算の含有量(以下単に「モリブデン含有量」ともいう)は、潤滑油組成物の潤滑油膜の形成能を向上しやすい点から、組成物全量基準で、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.025質量%以上、さらに好ましくは0.03質量%以上である。また、モリブデン含有量は、添加剤の溶解性の面から、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.09質量%以下、さらに好ましくは0.08質量%以下である。例えば、モリブデン含有量は、組成物全量基準で、0.02質量%以上0.10質量以下が好ましく、0.025質量%以上0.09質量%以下がより好ましく、0.03質量%以上0.08質量%以下がさらに好ましい。
あるいは、モリブデン含有量を質量ppmで表記することもでき、その場合、モリブデン含有量は、好ましくは200質量ppm以上、より好ましくは250質量ppm以上、さらに好ましくは300質量ppm以上である。また、モリブデン含有量は、1000質量ppm以下、より好ましくは900質量ppm以下、さらに好ましくは800質量ppm以下である。また、モリブデン含有量は、組成物全量基準で、200質量ppm以上1000質量ppm以下が好ましく、250質量ppm以上900質量ppm以下がより好ましく、300質量ppm以上800質量ppm以下がさらに好ましい。
【0033】
有機モリブデン化合物の含有量としては、モリブデン原子換算での前記モリブデン含有量が前記範囲となることが好ましい。例えば、潤滑油組成物の潤滑油膜の形成能を向上しやすい点で、有機モリブデン化合物の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.05~5質量%、より好ましくは0.1~3質量%、更に好ましくは0.2~2質量%である
【0034】
[成分(C):金属系清浄剤]
(カルシウム系清浄剤)
潤滑油組成物は、金属系清浄剤として、下記の形態(i)および/または(ii)のカルシウム系清浄剤を含む。
(i)カルシウム系清浄剤はカルシウムスルホネートを含み、前記カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量が組成物基準で0.2質量%以上(または1200質量ppm以上)である。
(ii)カルシウム系清浄剤は過塩基性カルシウムサリシレートを含む。
上記(i)および/または(ii)を満たすカルシウム系清浄剤を有機モリブデン化合物とともに含有することで、摺動面における潤滑油膜の形成能が向上し、これにより、油膜破断による潤滑性不良(摩擦摩耗増加)を防止できる。
【0035】
<形態(i)>
上記(i)において、カルシウムスルホネートとしては、特に制限されず、中性塩、塩基性塩、もしくは過塩基性塩、またはこれらの混合物を使用することができる。例えば、アルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキルベンゼンスルホン酸等のアルキル芳香族スルホン酸を、直接、カルシウムの酸化物や水酸化物等の塩基と反応させたり、または一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからカルシウムと置換させること等により得られるカルシウム塩(中性カルシウムスルホネート);前記中性カルシウム塩を酸化カルシウムおよび/または水酸化カルシウムと反応させることにより得られる塩基性カルシウム塩(塩基性カルシウムスルホネート);炭酸ガスまたはホウ酸もしくはホウ酸塩の存在下で前記中性カルシウム塩または前記塩基性カルシウム塩を過剰の酸化カルシウムおよび/または水酸化カルシウムと反応させることにより得られる過塩基性カルシウム塩(過塩基性カルシウムスルホネート)が挙げられる。スルホン化剤としては特に制限はないが、通常、発煙硫酸や硫酸が用いられる。
【0036】
中でも、潤滑油組成物の潤滑油膜の形成能を向上しやすい点で、過塩基性カルシウムスルホネート、中性カルシウムスルホネートが好ましく、過塩基性カルシウムスルホネート単独、または、過塩基性カルシウムスルホネートおよび中性カルシウムスルホネートの併用がより好ましい。
【0037】
過塩基性カルシウムスルホネートを用いる場合、その塩基価は150mgKOH/g以上であることが好ましく、150~500mgKOH/gであることがより好ましく、150~450mgKOH/gであることがさらに好ましい。
中性カルシウムスルホネートの場合、その塩基価は80mgKOH/g以下であることが好ましく、5~50mgKOH/gであることがより好ましく、10~30mgKOH/gであることがさらに好ましい。
【0038】
カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量は、潤滑油組成物の潤滑油膜の形成能向上の観点から、組成物全量基準で、0.12質量%以上、より好ましくは0.13質量%以上である。また、上限値は特に限定されないが、潤滑油組成物の灰分を低減する点で、好ましくは0.20質量%以下、より好ましくは0.19質量%以下、さらに好ましくは0.18質量%以下である。例えば、カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量は、組成物全量基準で、0.12質量%以上0.20質量%以下が好ましく、0.12質量%以上0.19質量%以下がより好ましく、0.13質量%以上0.18質量%以下がさらに好ましい。
あるいは、カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量を、質量ppmで表記することもでき、その場合の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは1200質量ppm以上、より好ましくは1300質量ppm以上である。また、上限値は好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1900質量ppm以下、さらに好ましくは1800質量ppm以下である。また、カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量は、組成物全量基準で、1200質量ppm以上2000質量ppm以下が好ましく、1200質量ppm以上1900質量ppm以下がより好ましく、1300質量ppm以上1800質量ppm以下がさらに好ましい。
【0039】
過塩基性カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量は、潤滑油組成物の潤滑油膜の形成能向上の観点から、組成物全量基準で、好ましくは0.12質量%以上、より好ましくは0.13質量%以上である。また、潤滑油組成物の灰分を低減する点で、好ましくは0.20質量%以下、より好ましくは0.19質量%以下、さらに好ましくは0.18質量%以下である。例えば、過塩基性カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量は、組成物全量基準で、0.12質量%以上0.20質量%以下が好ましく、0.12質量%以上0.19質量%以下がより好ましく、0.13質量%以上0.18質量%以下がさらに好ましい。
あるいは、過塩基性カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量を、質量ppmで表記することもでき、その場合の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは1200質量ppm以上、より好ましくは1300質量ppm以上である。また、好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1900質量ppm以下、さらに好ましくは1800質量ppm以下である。また、過塩基性カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量は、組成物全量基準で、1200質量ppm以上2000質量ppm以下が好ましく、1200質量ppm以上1900量ppm以下がより好ましく、1300質量ppm以上1800質量ppm以下がさらに好ましい。
【0040】
中性カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量は、潤滑油組成物の潤滑油膜の形成能向上の観点から、組成物全量基準で、0質量%以上であり、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上である。また、潤滑油組成物の潤滑油膜の形成能を向上しやすい点で、好ましくは0.20質量%以下、より好ましくは0.14質量%以下、さらに好ましくは0.08質量%以下である。例えば、中性カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量は、組成物全量基準で、0質量%以上0.20質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.14質量%以下がより好ましく、0.02質量%以上0.08質量%以下がさらに好ましい。
あるいは、中性カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量を、質量ppmで表記することもでき、その場合の含有量は、組成物全量基準で、0質量ppm以上であり、好ましくは100質量ppm以上、より好ましくは200質量ppm以上である。また、好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1400質量ppm以下、さらに好ましくは800質量ppm以下である。また、中性カルシウムスルホネートのカルシウム原子換算の含有量は、組成物全量基準で、0質量ppm以上2000質量ppm以下が好ましく、100質量ppm以上1400質量ppm以下がより好ましく、200質量ppm以上800質量ppm以下がさらに好ましい。
【0041】
過塩基性カルシウムスルホネートおよび中性カルシウムスルホネートの両方を含む場合、そのカルシウム原子換算の含有量の質量比は、潤滑油組成物の潤滑油膜の形成能を向上しやすい点で、10:90~60:40の範囲が好ましく、20:80~70:20の範囲がより好ましく、55:45~80:20の範囲がさらに好ましい。
【0042】
<形態(ii)>
上記(ii)において、過塩基性カルシウムサリシレートは、ジアルキルサリチル酸等のアルキルサリチル酸を直接カルシウムの酸化物や水酸化物等の塩基と反応させたり、または一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからカルシウムと置換させること等により得られるカルシウム塩(中性カルシウムサリシレート)または該中性カルシウム塩を酸化カルシウムおよび/または水酸化カルシウムと反応させることにより得られる塩基性カルシウム塩(塩基性カルシウムサリシレート)を、炭酸ガスまたはホウ酸もしくはホウ酸塩の存在下で、過剰の酸化カルシウムおよび/または水酸化カルシウムと反応させることにより過塩基化して得られる過塩基性カルシウム塩(過塩基性カルシウムサリシレート)が挙げられる。
過塩基性カルシウムサリシレートの塩基価は150mgKOH/g以上であることが好ましく、150~400mgKOH/gであることがより好ましく、200~300mgKOH/gであることがさらに好ましい。
【0043】
過塩基性カルシウムサリシレートのカルシウム原子換算の含有量は、潤滑油組成物の潤滑油膜の形成能向上の観点から、組成物全量基準で、好ましくは0.11質量%以上、より好ましくは0.12質量%以上、さらに好ましくは0.13質量%以上である。また、低灰化の面から、好ましくは0.20質量%以下、より好ましくは0.19質量%以下、さらに好ましくは0.18質量%以下である。例えば、過塩基性カルシウムサリシレートのカルシウム原子換算の含有量は、組成物全量基準で、0.11質量%以上0.20質量%以下が好ましく、0.12質量%以上0.19質量%以下がより好ましく、0.13質量%以上0.18質量%以下がさらに好ましい。
あるいは、過塩基性カルシウムサリシレートのカルシウム原子換算の含有量を、質量ppmで表記することもでき、その場合の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは1100質量ppm以上、より好ましくは1200質量ppm以上、さらに好ましくは1300質量ppm以上である。また、好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1900質量ppm以下、さらに好ましくは1800質量ppm以下である。また、過塩基性カルシウムサリシレートのカルシウム原子換算の含有量は、組成物全量基準で、1100質量ppm以上2000質量ppm以下が好ましく、1200質量ppm以上1900質量ppm以下がより好ましく、1300質量ppm以上1800質量ppm以下がさらに好ましい。
【0044】
上記(i)の形態において、カルシウム系清浄剤は、カルシウムスルホネート以外のカルシウム系清浄剤(例えば、中性、塩基性、および/または過塩基性のカルシウムサリシレートおよび/またはカルシウムフェネート)を含んでもよい。
また、上記(ii)の形態において、カルシウム系清浄剤は、過塩基性カルシウムサリシレート以外のカルシウム系清浄剤(例えば、中性、塩基性、および/または過塩基性のカルシウムフェネートおよび/またはカルシウムスルホネート、または中性または塩基性のカルシウムサリシレート)を含んでもよい。
カルシウムフェネートとしては、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、またはアルキルフェノールのマンニッヒ反応物等を、直接、カルシウムの酸化物や水酸化物等の塩基と反応させること、または、一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩とした後にカルシウムと置換させること等により得られる中性カルシウム塩(中性カルシウムフェネート);前記中性カルシウム塩を酸化カルシウムおよび/または水酸化カルシウムと反応させることにより得られる塩基性カルシウム塩(塩基性カルシウムフェネート);炭酸ガスまたはホウ酸もしくはホウ酸塩の存在下で前記中性カルシウム塩または前記塩基性カルシウム塩を過剰の酸化カルシウムおよび/または水酸化カルシウムと反応させることにより得られる過塩基性カルシウム塩(過塩基性カルシウムフェネート)が挙げられる。
【0045】
以下に、カルシウム系清浄剤の構造の例を挙げる。下記式(I-1)が中性カルシウムスルホネートの例を表し、下記式(I-2)が過塩基性カルシウムスルホネートを表す。また、下記式(II-1)が中性カルシウムサリシレートの例を表し、下記式(II-2)が過塩基性カルシウムサリシレートを表す。また、下記式(III-1)が中性カルシウムフェネートの例を表し、下記式(III-2)が過塩基性カルシウムフェネートを表す。
【化3】
上記式(I-1)、(I-2)、(II-1)、(II-2)、(III-1)、および(III-2)中、Rは炭素数3~36の炭化水素基を表す。例えば、炭素数10~36のアルキル基、炭素数10~36のアルケニル基、環形成炭素数3~18のシクロアルキル基、環形成炭素数6~18のアリール基、炭素数10~36のアルキルアリール基、炭素数7~18のアリールアルキル基等が挙げられる。
上記式(I-2)、(II-2)、および(III-2)中、nは0を超える数を表す。
上記式中、yは0以上の整数であり、好ましくは0~3の整数である。
【0046】
なお、過塩基性カルシウム塩(例えば、過塩基性カルシウムサリシレート、過塩基性カルシウムスルホネート、過塩基性カルシウムフェネート)は、通常、潤滑油組成物中で、中性カルシウムサリシレート、中性カルシウムスルホネート、中性カルシウムフェネートなどの清浄剤分子(石鹸基)が過塩基成分である炭酸カルシウムの微粒子を取り囲みミセルを形成している。
【0047】
カルシウム系清浄剤の塩基価は、通常5~450mgKOH/g、好ましくは10~400mgKOH/g、より好ましくは15~350mgKOH/gである。なお、当該「塩基価」は、JIS K2501:2003に準拠して、電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)により測定される。
【0048】
カルシウム系清浄剤は、前記したものを単独で用いてもよく、前記した性状または構造の異なるものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0049】
本発明の一実施形態において、カルシウム系清浄剤は下記(i)~(iv)のいずれかである。
(i)カルシウム系清浄剤は過塩基性カルシウムサリシレートのみを含む。
(ii)カルシウム系清浄剤は過塩基性カルシウムスルホネートのみを含む。
(iii)カルシウム系清浄剤は過塩基性カルシウムサリシレートおよび中性カルシウムサリシレートのみを含む。
(iv)カルシウム系清浄剤は過塩基性カルシウムスルホネートおよび中性カルシウムスルホネートのみを含む。
【0050】
本発明の一実施形態において、中性カルシウムサリシレートのカルシウム原子換算の含有量が組成物基準で0.10質量%(または100質量ppm)未満である。中性カルシウムサリシレートの含有量を当該範囲とすることにより、摺動面における潤滑油膜の形成能が向上し、これにより、油膜破断による潤滑性不良(摩擦摩耗増加)を防止できる。
本発明の一実施形態において、潤滑油組成物の潤滑油膜の形成能向上の観点から、中性カルシウムサリシレートのカルシウム原子換算の含有量は好ましくは0.08質量%以下であり、より好ましくは0.04質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以下であり、一層好ましくは0.01質量%未満であり、特に好ましくは0質量%である。
中性カルシウムサリシレートのカルシウム原子換算の含有量を質量ppmで表記することもでき、その場合の含有量は、好ましくは800質量ppm以下であり、より好ましくは400質量ppm以下であり、さらに好ましくは100質量ppm以下であり、一層好ましくは100質量ppm未満であり、特に好ましくは0質量ppmである。
【0051】
カルシウム系清浄剤は、潤滑油組成物の塩基価を向上させる点から、カルシウム原子換算の含有量が、組成物全量基準で、好ましくは0.11質量%以上、より好ましくは0.12質量%以上、さらに好ましくは0.13質量%以上である。また、潤滑油組成物の灰分を低減する点で、好ましくは0.20質量%以下、より好ましくは0.19質量%以下、さらに好ましくは0.18質量%以下である。カルシウム系清浄剤のカルシウム原子換算の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0.11~0.20質量%、より好ましくは0.12~0.19質量%、さらに好ましくは0.13~0.18質量%である。
あるいは、カルシウム原子換算の含有量を質量ppmで表記することもでき、その場合の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは1100質量ppm以上、より好ましくは1200質量ppm以上、さらに好ましくは1300質量ppm以上である。また、好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1900質量ppm以下、さらに好ましくは1800質量ppm以下である。また、カルシウム系清浄剤のカルシウム原子換算の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは1100~2000質量ppm、より好ましくは1200~1900質量ppm、さらに好ましくは1300~1800質量ppmである。
【0052】
(マグネシウム系清浄剤)
潤滑油組成物は、潤滑油組成物の塩基価を向上させる点から、マグネシウム系清浄剤を含んでもよい。具体的には、マグネシウムサリシレート、マグネシウムフェネートおよびマグネシウムスルホネート等が挙げられる。マグネシウム系清浄剤は、塩基性、過塩基性のものが好ましく使用され、その塩基価が10~500mgKOH/gであることが好ましい。また、塩基価は、200~500mgKOH/gがより好ましく、250~450mgKOH/gがさらに好ましい。当該「塩基価」は、JIS K2501:2003に準拠して、電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)により測定される。
【0053】
マグネシウム系清浄剤は、潤滑油組成物の灰分を低減する点から、マグネシウム原子換算の含有量が、組成物全量基準で、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.04質量%以下、さらに好ましくは0.03質量%以下である。潤滑油組成物はマグネシウム系清浄剤を含まなくてもよいが、潤滑油組成物の塩基価を向上させる点から、マグネシウム原子換算の含有量が、組成物全量基準で、好ましくは0質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上である。マグネシウム系清浄剤のマグネシウム原子換算の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0~0.05質量%、より好ましくは0.005~0.04質量%、さらに好ましくは0.01~0.03質量%である。
あるいは、マグネシウム原子換算の含有量を質量ppmで表記することもでき、その場合の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは500質量ppm以下、より好ましくは400質量ppm以下、さらに好ましくは300質量ppm以下である。また、好ましくは0質量ppm以上、より好ましくは50質量ppm以上、さらに好ましくは100質量ppm以上である。また、マグネシウム系清浄剤のマグネシウム原子換算の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは0~500質量ppm、より好ましくは50~400質量ppm、さらに好ましくは100~300質量ppmである。
【0054】
(その他の金属系清浄剤)
潤滑油組成物は、カルシウム系清浄剤およびマグネシウム系清浄剤以外の金属系清浄剤(その他の金属系清浄剤)を含んでもよい。その他の金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属原子およびカルシウムおよびマグネシウム以外のアルカリ土類金属原子から選ばれる金属原子を含有する有機金属系化合物が挙げられ、具体的には、金属サリシレート、金属フェネートおよび金属スルホネート等が挙げられる。金属原子としては、高温での清浄性の向上の観点から、ナトリウム原子またはバリウム原子が挙げられる。具体的には、ナトリウム系清浄剤、バリウム系清浄剤がある。その他の金属系清浄剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
その他の金属系清浄剤は、塩基性、過塩基性のものが好ましく使用され、その塩基価が10~500mgKOH/gであることが好ましい。また、塩基価は、200~500mgKOH/gがより好ましく、250~450mgKOH/gがさらに好ましい。当該「塩基価」は、JIS K2501:2003に準拠して、電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)により測定される。
その他の金属系清浄剤由来の金属原子量は、組成物全量基準で、0~0.20質量%が好ましく、0~0.18質量%がより好ましく、0~0.16質量%がさらに好ましい。質量ppmで表記した場合、その他の金属系清浄剤由来の金属原子量は、組成物全量基準で、0~2000質量ppmが好ましく、0~1800質量ppmがより好ましく、0~1600質量ppmがさらに好ましい。
【0055】
本発明において、金属系清浄剤に由来する石鹸基に対する、前記有機モリブデン化合物由来のモリブデン原子の潤滑油組成物基準の含有量比〔Mo/石鹸基〕(以下単に「Mo/石鹸基の比」ともいう)は、質量比で、0.02以上である。本明細書において、「金属系清浄剤に由来する石鹸基」とは、金属系清浄剤の構成成分のうち炭酸塩成分以外の清浄剤成分を指す。例えば、金属系清浄剤がカルシウム系清浄剤およびマグネシウム系清浄剤から構成されている場合、炭酸塩成分は炭酸カルシウムおよび炭酸マグネシウムであり、石鹸基は、当該炭酸塩以外の清浄剤成分(すなわち、カルシウムもしくはマグネシウムサリシレート、カルシウムもしくはマグネシウムスルホネート、またはカルシウムもしくはマグネシウムフェネートなどの清浄剤分子)のうち、アルキルサリチル酸基、アルキルスルホン酸基、アルキルフェネート基を指す。「金属系清浄剤に由来する石鹸基」の含有量は、カルシウム系清浄剤に対してゴム膜透析を行い、透析後のゴム膜残分を塩酸で処理した後、ジエチルエーテルにより抽出された成分を石鹸分として定量することができる。
Mo/石鹸基の比が0.02以上であることにより、潤滑油組成物の潤滑油膜の形成能が向上し得る。潤滑油組成物の潤滑油膜の形成能を向上しやすい点から、Mo/石鹸基の比は、0.03以上がより好ましく、0.04以上がさらに好ましく、0.06以上がよりさらに好ましい。また、溶解性の点から、Mo/石鹸基の比は、0.20以下が好ましく、0.16以下がより好ましく、0.14以下がさらに好ましい。Mo/石鹸基の比は例えば、0.02~0.20が好ましく、0.04~0.16がより好ましく、0.06~0.14がさらに好ましい。
【0056】
潤滑油組成物における金属原子換算での金属系清浄剤の合計含有量は、金属系清浄剤由来の硫酸灰分が、組成物全量基準で、0.4~1.0質量%の範囲になる含有量であることが好ましく、0.4~0.9質量%の範囲になる含有量であることがより好ましく、0.5~0.8質量%の範囲になる含有量であることがよりさらに好ましい。
なお、潤滑油組成物に含まれる合計硫酸灰分(すなわち他の成分に由来する硫酸灰分も含めた合計硫酸灰分)は、金属系清浄剤由来の硫酸灰分が上記範囲であれば特に限定されないが、潤滑油組成物の全量基準で、0.5~1.2質量%であることが好ましく、0.6~1.0質量%であることがより好ましく、0.7~0.9質量%であることがよりさらに好ましい。
「硫酸灰分」は、JIS K 2272:1998に記載の方法により測定することができる。
【0057】
[成分(D):その他の成分]
潤滑油組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、流動点降下剤、酸化防止剤、無灰系分散剤、消泡剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、帯電防止剤等の潤滑油用添加剤を含む。これらの潤滑油用添加剤は、それぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
(流動点降下剤)
流動点降下剤としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられ、特に、ポリメタクリレートが好ましく用いられる。これらの流動点降下剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。流動点降下剤の含有量は、特に制限されないが、組成物全量基準で、好ましくは0.01~5.0質量%である。
なお、流動点降下剤としてポリ(メタ)アクリレートが用いられる場合、その重量平均分子量は、通常10万未満(例えば、3万~9万の範囲)であり、後述する粘度指数向上剤とは区別される。
【0059】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、従来潤滑油の酸化防止剤として使用されている公知の酸化防止剤の中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。例えば、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、モリブデン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。
これらの酸化防止剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよいが、通常2種以上を組み合わせて使用するのが好ましい。酸化防止剤の含有量は、特に制限されないが、組成物全量基準で、好ましくは0.01~10質量%である。
【0060】
(無灰系分散剤)
無灰系分散剤としては、数平均分子量(Mn)が900~3,500のポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸イミド(ポリブテニルコハク酸モノイミド、ポリブテニルコハク酸ビスイミド等)、ポリブテニルベンジルアミン、ポリブテニルアミン、およびこれらのホウ酸変性物(ポリブテニルコハク酸イミドホウ素化物等)等の誘導体等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。無灰系分散剤の含有量は、特に制限されないが、組成物全量基準で、好ましくは0.10~15質量%である。
【0061】
(消泡剤)
消泡剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、ポリアクリレート等が挙げられる。これらの消泡剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。消泡剤の含有量は、特に制限されないが、組成物全量基準で、好ましくは0.0002~0.15質量%である。
【0062】
(腐食防止剤)
腐食防止剤としては、例えば、ドデセニルコハク酸ハーフエステル、オクタデセニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸アミド等のアルキルまたはアルケニルコハク酸誘導体、ソルビタンモノオレエート、グリセリンモノオレエート、ペンタエリスリトールモノオレエート等の多価アルコール部分エステル、ロジンアミン、N-オレイルサルコシン等のアミン類、ジアルキルホスファイトアミン塩等が使用可能である。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。腐食防止剤の含有量は、特に制限されないが、組成物全量基準で、好ましくは0.01~5.0質量%である。
【0063】
(金属不活性化剤)
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体が挙げられる。これらの金属不活性化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。金属不活性化剤の含有量は、特に制限されないが、組成物全量基準で、好ましくは0.01~3.0質量%である。
【0064】
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油を低粘度化し、省燃費を達成する点から、粘度指数向上剤に由来する樹脂分の含有量が、組成物全量基準で、2質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。一実施形態において、潤滑油組成物は粘度指数向上剤を含有しない。
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリアルキル(メタ)アクリレート、分散型ポリアルキル(メタ)アクリレート等のPMA系;オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体等のOCP系;スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体など)などが挙げられる。なお、本明細書中、「アルキル(メタ)アクリレート」とは、アルキルメタクリレートおよびアルキルアクリレートの両方を含む意味で用いられる。ポリアルキル(メタ)アクリレートを構成するアルキル(メタ)アクリレートは、例えば、炭素数1~18の直鎖アルキル基または炭素数3~34の分岐アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートである。粘度指数向上剤としてのポリアルキル(メタ)アクリレートの場合、重量平均分子量(Mw)は、100,000~1,000,000、より好ましくは300,000~500,000である。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィ(標準ポリスチレン換算)により測定することができる。
なお、重量平均分子量(Mw)が10万未満のポリアルキル(メタ)アクリレートは、本明細書において、「粘度指数向上剤」には含まれない。
【0065】
<潤滑油組成物の性状等>
潤滑油組成物の塩基価(過塩素酸法)は、清浄性の面から、好ましくは6.0mgKOH/g以上、より好ましくは7.0mgKOH/g以上、さらに好ましくは7.1mgKOH/g以上、特に好ましくは7.2mgKOH/g以上である。また、潤滑油組成物の灰分を低減する点から、好ましくは11.0mgKOH/g以下、より好ましくは10.5mgKOH/g以下、さらに好ましくは10.0mgKOH/g以下である。潤滑油組成物の塩基価は、好ましくは6.0~11.0mgKOH/gであり、より好ましくは7.0~11.0mgKOH/gであり、さらに好ましくは7.1~10.5mgKOH/gであり、特に好ましくは、7.2~10.0mgKOH/gである。当該塩基価(過塩素酸法)は、JIS K2501:2003に準拠して、電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)により測定される。
潤滑油組成物の100℃における動粘度としては、省燃費性、の点から、好ましくは3~12mm/s、より好ましくは3~10mm/s、さらに好ましくは3~9mm/s、特に好ましくは3~8mm/sである。
潤滑油組成物の粘度指数は、特に制限はないが、温度変化による粘度変化を抑えるとともに、省燃費性を向上させる観点から、好ましくは80~200、より好ましくは90~180、さらに好ましくは100~180、特に好ましくは110~160である。
潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度(高温高せん断粘度)としては、省燃費性の観点から、1.3mPa・s以上2.3mPa・s未満、好ましくは1.3mPa・s以上2.1mPa・s以下、より好ましくは1.3mPa・s以上1.8mPa・s以下である。「HTHS粘度」は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0066】
一実施形態の潤滑油組成物は、粘度指数が80~200(より好ましくは90~180、さらに好ましくは100~180、特に好ましくは110~160)であり、100℃における動粘度が3~12mm/s(より好ましくは3~10mm/s、さらに好ましくは3~9mm/s、特に好ましくは3~8mm/s)であり、150℃におけるHTHS粘度が1.3mPa・s以上2.3mPa・s未満(好ましくは1.3mPa・s以上2.1mPa・s以下、より好ましくは1.3mPa・s以上1.8mPa・s以下)である。実施形態の潤滑油組成物は、特に、0W-3~0W-12グレード(特に0W-4~0W-12グレード)のエンジン油として好適である。
【0067】
[潤滑油組成物の製造方法]
潤滑油組成物の製造方法は、特に制限されない。成分(A)、成分(B)、成分(C)および必要に応じて成分(D)は、いかなる方法で配合されてもよく、その手法は限定されない。一実施形態において、潤滑油組成物の製造方法は、基油(A)に、有機モリブデン化合物(B)、金属系清浄剤(C)、および、必要に応じてその他の成分(D)を配合する工程を有する。
【0068】
[潤滑油組成物の用途]
実施形態の潤滑油組成物は、省燃費性および潤滑性能(低摩擦摩耗性)に優れる。このため、実施形態の潤滑油組成物は好ましくは二輪車、四輪車等の自動車、発電機、船舶等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン、船外機等の内燃機関用潤滑油(エンジン油)として使用することができ、当該内燃機関に充填し、当該内燃機関に係る各部品間を潤滑する潤滑する潤滑油として使用され得る。
また、潤滑油組成物の上述の特性を考慮すると、本発明の一実施形態は、上記潤滑油組成物を用いた、内燃機関が提供される。また、本発明の一実施形態は、内燃機関の摩耗低減方法であって、上記潤滑油組成物を用いて内燃機関を作動させることを含む、方法が提供される。
【実施例
【0069】
以下、本発明について実施例を参照して詳述するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0070】
実施例および比較例で用いた各原料ならびに各実施例および各比較例の潤滑油組成物の各物性は、以下に示す要領に従って測定したものである。
(1)動粘度
JIS K2283:2000に準じ、ガラス製毛管式粘度計を用いて、40℃における動粘度(KV(40℃))および100℃における動粘度(KV(100℃))を測定した。
(2)粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して粘度指数(VI)を測定した。
(3)HTHS粘度(高温高せん断粘度)
ASTM D 4741に準拠して、潤滑油組成物を、150℃で、せん断速度10/sにてせん断した後の粘度(HTHS150)を測定した。
(4)カルシウム原子(Ca)、マグネシウム原子(Mg)、およびモリブデン原子(Mo)の含有量
JPI-5S-38-2003に準拠して測定した値である。
(5)清浄剤由来の石鹸基の含有量
カルシウム系清浄剤に対してゴム膜透析を行い、透析後のゴム膜残分を塩酸で処理した後、ジエチルエーテルにより抽出された成分を石鹸分として定量することにより潤滑油組成物中の「金属系清浄剤に由来する石鹸基」の含有量(質量%)を算出した。
(6)Mo/石鹸基の比
モリブデン原子(Mo)の含有量(質量%)を清浄剤由来の石鹸基の含有量(質量%)で除することにより「Mo/石鹸基の比」(質量比率)を算出した。
(7)塩基価
JIS K2501:2003に準拠して、電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)により測定した値である。
(8)重量平均分子量(Mw)
ゲル浸透クロマトグラフ装置(アジレント社製、「1260型HPLC」)を用いて、下記の条件下で測定し、標準ポリスチレン換算にて測定した値を用いた。
(測定条件)
・カラム:「Shodex LF404」を2本、順次連結したもの。
・カラム温度:35℃
・展開溶媒:クロロホルム
・流速:0.3mL/min
(9)硫酸灰分
JIS K2272:1998に準拠して測定した。
【0071】
[実施例1~9、比較例1~2]
基油に下記表1に示す各成分を配合して、基油およびこれら各成分を含有する各実施例および各比較例の潤滑油組成物を調製した。
【0072】
表1で使用した成分は、以下のとおりである。
(1)基油(成分(A))
a1:鉱油(水素化精製鉱油;100℃動粘度:4mm/s、粘度指数:125)
a2:鉱油(水素化精製鉱油;100℃動粘度:3mm/s、粘度指数:110)
a3:鉱油(水素化精製鉱油;100℃動粘度:8mm/s、粘度指数:140)
(2)有機モリブデン化合物(成分(B))
b1:MoDTC(ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、モリブデン原子含有量10.0質量%、窒素原子含有量;1.6質量%、硫黄原子含有量11.5質量%、製品名「SAKURA-LUBE 515」(ADEKA Corporation製))
b2:モリブデンアミン錯体(モリブデン原子含有量;8.0質量%、窒素原子含有量;2.4質量%、製品名:HiTEC4716」(Afton Chemical Corporation製)
(3)カルシウム系清浄剤(成分(C))
c1:過塩基性カルシウムサリシレート(カルシウム原子含量:7.9質量%、石鹸基含量:50質量%)
c2:過塩基性カルシウムスルホネート(カルシウム原子含量:11.7質量%、石鹸基含量:23質量%)
c3:中性カルシウムスルホネート(カルシウム原子含量:2.2質量%、石鹸基含量:52質量%)
c4:中性カルシウムサリシレート(カルシウム原子含量:2.3質量%、石鹸基含量:30質量%)
(4)マグネシウム系清浄剤(成分(C))
c5:過塩基性マグネシウムスルホネート(マグネシウム原子含量:9.5質量%、石鹸基含量:30質量%)
(5)その他成分(成分(D))
d1:ポリブテニルコハク酸イミドホウ素化物
d2:ポリブテニルコハク酸イミド
d3:ZnDTP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)
d4:酸化防止剤
d5:流動点降下剤(ポリメタアクリレート(PMA);重量平均分子量(Mw):6万)
【0073】
実施例および比較例で調製した潤滑油組成物を試験油として用いて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
<潤滑性能>
以下の手順により、ECR法による絶縁性を測定し、潤滑油膜形成能の評価を行った。
絶縁性は、ECR法により高周波往復動リグ(HFRR)摩擦試験機を用いて測定した。具体的には、潤滑油組成物2mLの浴中に保持された試験片(ディスクおよびボール)間と直列に配置した10オームのバランス抵抗に15mVの電圧を印加し、試験片の接触部位とバランス抵抗による分圧回路とした。ディスクにボールを摩擦させ、摩擦開始5分後の試験片(ディスクおよびボール)間の接触部位における電圧(Vt)、およびバランス抵抗に印加される電圧(Vb)を測定し、回路全体に加わる電圧(Vb+Vt)とバランス抵抗に印加される電圧との比率(Vt/(Vb+Vt))を計算することで、接触部位の絶縁性を評価した。試験片の接触部位における電圧(Vt)が0であれば、試験片間の金属接触が発生している(油膜が破断している)ことを意味し、15mVであれば潤滑油により試験片間が分離し、接触を生じなくなっている(油膜が形成されている)ことを意味する。

試験装置:HFRR摩擦試験機(PCS instruments社製)
試験片:直径10mmディスク(AISI E-52100 steel)および直径6mmボール(AISI E-52100 steel)
荷重:400g
温度:100℃
試験時間:5分
周波数:50Hz
振幅:1mm

ECR法による絶縁性の測定結果に基づき、以下の基準で潤滑性能を評価した。回路全体に加わる電圧(Vb+Vt)に対するバランス抵抗に印加する電圧(Vb)の比率(電圧比)(Vt/(Vb+Vt))が大きいほど潤滑油膜の形成能(低摩擦摩耗性)に優れるといえる。
A:電圧比が0.85以上である
B:電圧比が0.75以上0.85未満である
C:電圧比が0.74未満である
結果を表1に示す。
【表1】
【0074】
表1に示すとおり、カルシウムスルホネート(c2、c3)を0.12質量%以上含み、Mo/石鹸基が、質量比で0.02以上である潤滑油組成物(実施例1~3,5~9)は、150℃におけるHTHS粘度が1.3mPa・s以上2.3mPa・s未満であるという低粘度と優れた潤滑性能とを有することが確認された。
また、表1に示すとおり、過塩基性カルシウムサリシレート(c1)を含み、Mo/石鹸基が、質量比で0.02以上である潤滑油組成物(実施例4)は、150℃におけるHTHS粘度が1.3mPa・s以上2.3mPa・s未満であるという低粘度と、優れた潤滑性能とを有することが確認された。
一方、カルシウムスルホネートの含有量が0.11質量%である潤滑油組成物(比較例1)やMo/石鹸基が0.02未満である潤滑油組成物(比較例2、比較例3、比較例4)は、潤滑性能に劣っていた。
【0075】
本発明の範囲は以上の説明に拘束されることはなく、上記例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2019-065480号(2020年3月29日出願)の特許請求の範囲、明細書の開示内容を包含する。
【産業上の利用可能性】
【0076】
実施形態の潤滑油組成物は、低粘度および優れた潤滑性能を有するものであり、例えば、内燃機関に用いられる内燃機油として好適に用いられる。