(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】イオン分析装置及び燃料電池評価システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20240321BHJP
【FI】
H01M8/04 N
(21)【出願番号】P 2022550239
(86)(22)【出願日】2022-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2022022465
(87)【国際公開番号】W WO2022255446
(87)【国際公開日】2022-12-08
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2021094607
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】田中 義則
(72)【発明者】
【氏名】笹井 浩平
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 駿太
(72)【発明者】
【氏名】宮村 和宏
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-059265(JP,A)
【文献】特開2014-209431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の排ガス流路を流れる排ガスの凝縮液
の一部を
前記排ガス流路の外にサンプリングするサンプリング部と、
前記排ガス流路の外に設けられて、前記サンプリング部によってサンプリングされた前記凝縮液のイオン濃度を測定するセンサ部とを備え、
前記サンプリング部は、前記排ガス流路に形成され、前記排ガスの凝縮液を貯留する第1貯留部から前記凝縮液
の一部をサンプリング
する、又は、前記排ガス流路から排ガス
の一部を
取得し、当該取得した排ガスの凝縮液を貯留する第2貯留部
から前記凝縮液の一部をサンプリングするものであり、
前記サンプリング部は、前記第1貯留部又は前記第2貯留部から前記凝縮液を前記センサ部に導入する導入路を備えた、イオン分析装置。
【請求項2】
前記第1貯留部、または第2貯留部は、気液分離機能を有するものである、請求項1に記載のイオン分析装置。
【請求項3】
前記第1貯留部は、前記排ガス流路に設けられたL字状の配管の角部に形成されたものである、請求項1
又は2に記載のイオン分析装置。
【請求項4】
前記第1貯留部又は前記第2貯留部の容量が0.01ml以上10ml以下である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のイオン分析装置。
【請求項5】
前記第1貯留部内又は前記第2貯留部内の液量を検知する液量センサと、
前記液量センサからの出力信号に基づいて前記第1貯留部又は前記第2貯留部に貯留される凝縮液の液量を制御する液量制御部とをさらに備える、請求項1~
4のいずれか一項に記載のイオン分析装置。
【請求項6】
前記液量制御部が、前記第1貯留部又は第2貯留部に貯留される凝縮液の液量が過剰であると判断した場合に、前記第1貯留部又は第2貯留部から前記凝縮液を排出するものである、請求項
5に記載のイオン分析装置。
【請求項7】
前記排ガス流路と前記センサ部との間に配置されて、前記センサ部に供給される凝縮液中の気泡を除去する気液分離部をさらに備える、請求項1~
6のいずれか一項に記載のイオン分析装置。
【請求項8】
前記気液分離部には、該気液分離部の内部から外部に向けて気体を排出する排気口が形成されている、請求項
7に記載のイオン分析装置。
【請求項9】
燃料電池の排ガス流路を流れる排ガスの凝縮液の一部を前記排ガス流路の外にサンプリングするサンプリング部と、
前記排ガス流路の外に設けられて、前記サンプリング部によってサンプリングされた前記凝縮液のイオン濃度を測定するセンサ部とを備え、
前記サンプリング部は、前記排ガス流路に形成され、前記排ガスの凝縮液を貯留する第1貯留部から前記凝縮液の一部をサンプリングする、又は、前記排ガス流路から排ガスの一部を取得し、当該取得した排ガスの凝縮液を貯留する第2貯留部から前記凝縮液の一部をサンプリングするものであり、
前記排ガス流路と前記センサ部との間に配置されて、前記センサ部に供給される凝縮液中の気泡を除去する気液分離部をさらに備え、
前記気液分離部には、該気液分離部の内部から外部に向けて気体を排出する排気口が形成されており、
前記排気口と、前記排ガス流路における前記サンプリング部との接続部よりも下流側の前記排ガス流路と、を接続する還流路と、
前記還流路から前記排ガス流路に気体を送り込む還流ポンプと、を備える、イオン分析装置。
【請求項10】
前記排ガス流路と前記センサ部との間を流れる排ガス又は凝縮液の温度を調節する温度調節部をさらに備える、
請求項1~
9のいずれか一項に記載のイオン分析装置。
【請求項11】
前記センサ部が、複数のイオン種の濃度を検出するものである、請求項1~
10のいずれか一項に記載のイオン分析装置。
【請求項12】
前記第1貯留部又は前記第2貯留部から前記センサ部に凝縮液を導入する導入路の前記センサ部側の端が分岐して分岐端を形成しており、前記各分岐端に、それぞれ異なるイオン種の濃度を検出するセンサ部を有する、請求項1~
11のいずれか一項に記載のイオン分析装置。
【請求項13】
前記第1貯留部又は前記第2貯留部から前記センサ部に凝縮液を導入する導入路の前記センサ部側の端が分岐して分岐端を形成しており、前記分岐端の少なくとも1つに他の分析装置に送液するための送液配管を接続することができる接続口を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載のイオン分析装置。
【請求項14】
請求項1~
13に記載のイオン分析装置と、
前記イオン分析装置による分析結果に基づいて、前記燃料電池の状態を判断する判断部とをさらに備える燃料電池評価システム。
【請求項15】
燃料電池から排出される排ガスから生じて、該排ガスが流れる排ガス流路内に貯留された後にサンプリングされた凝縮液、又は、前記排ガス流路からサンプリングされた排ガスから生じて貯留された凝縮液のイオン濃度を
請求項1又は9に記載されたイオン分析装置を用いて測定することを特徴とする、イオン分析方法。
【請求項16】
請求項
15に記載のイオン分析方法によって得られた分析結果に基づいて、前記燃料電池の状態を判断する、燃料電池評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池評価システム及び燃料電池評価システムに用いられるイオン分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の状態を評価する方法として、燃料電池から排出される排ガスに含まれる成分のうち水に溶解しているイオンの濃度を分析することによって、燃料電池からどのようなイオン種が排出されているかを調べる方法がある。
【0003】
この評価方法においては、従来、特許文献1及び2に記載されているように、燃料電池から排出される排ガスから凝縮させた主に水からなる凝縮液を、排ガス流路上に設けた貯留部内に一定量貯留し、凝縮液中のイオン濃度を前記貯留部内の凝縮液に接するように配置したイオン濃度センサによって測定している。
【0004】
しかしながら、燃料電池からの排ガスに含まれる水分量は燃料電池の内部における反応及び温度分布等の様々な発電状況に応じて変化するために、排ガス流路上に設けられた貯留部に一定量貯留された凝縮液のイオン濃度からは燃料電池の劣化傾向などの大まかな状態の評価ができるにとどまる。
【0005】
また、排ガス流路を流れる排ガス全体から生じる凝縮液を測定するので、排ガスの流量変化や水分量の影響を大きく受けてしまうことが考えられる。例えば、水分量が少ない排ガスが排出されている場合に貯留部に十分な量の凝縮液が貯留されずイオン濃度を正確に測定できなかったり、一時的に水分量が多い排ガスが排出されている場合に貯留部内に貯留した凝縮液が薄まってしまい貯留部に貯留された凝縮液のイオン濃度に燃料電池の状態変化がすぐに反映されない状態となってしまったりする恐れもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-78226号公報
【文献】特開2006-49146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、刻々と変化する燃料電池の状態をイオン濃度測定によってできるだけ応答良く評価でき、かつ燃料電池から排出される排出水のイオン濃度を測定する燃料電池の評価において、凝縮液が不足して測定精度が下がったり、凝縮液の量が一時的に増えたりすることによるイオン濃度測定への影響をできるだけ減らすことができる燃料電離評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係るイオン分析装置は、燃料電池の排ガス流路を流れる排ガスの凝縮液をサンプリングするサンプリング部と、前記凝縮液のイオン濃度を測定するセンサ部とを備え、前記サンプリング部は、前記排ガス流路に形成され、前記排ガスの凝縮液を貯留する第1貯留部から前記凝縮液をサンプリングし、又は、前記排ガス流路から排ガスをサンプリングし、サンプリングした排ガスの凝縮液を第2貯留部に貯留することを特徴とするものである。
【0009】
このようなイオン分析装置によれば、前記排ガス流路に形成され、前記排ガスの凝縮液を貯留する第1貯留部から前記凝縮液をサンプリングし、又は、前記排ガス流路から排ガスをサンプリングし、サンプリングした排ガスの凝縮液を第2貯留部に貯留するものであるので、排ガス流路を流れる排ガスの一部から生じる少量の凝縮液をサンプリングしてセンサ部に供給することができる。その結果、排ガス流路を流れる排ガスの流量や水分量に影響を受けることなく、燃料電池の状態変化を従来よりも応答良く反映する凝縮液であって、かつイオン濃度の測定に十分な量の凝縮液をセンサ部に供給し続けることができる。
【0010】
また、前述したように排ガス流路を流れる排ガスから生じる凝縮液の一部を少量サンプリングして、又は排ガス流路を流れる排ガスの一部をサンプリングし、サンプリングした排ガスから生じる少量の凝縮液をセンサ部に供給することができるので、センサ部に安定した流量の凝縮液を供給することができる。その結果、センサ部に供給される凝縮液が不足して測定精度が下がったり、センサ部に供給される凝縮液の量が一時的に増えたりすることによるイオン濃度測定への影響をできるだけ減らすことができる。
【0011】
具体的な実施態様としては、前記サンプリング部が、前記第2貯留部から前記凝縮液を前記センサ部に導入する導入路を有しているものを挙げることができる。
【0012】
前記第2貯留部が、気液分離機能を有する気液分離部であるものであれば、イオン分析装置の構成をできるだけ簡単にすることができるので好ましい。
【0013】
前記第1貯留部の具体例としては、前記排ガス流路に設けられたL字状の配管の角部に形成されたものなどを挙げることができる。
【0014】
燃料電池の状態をできるだけ応答良く検出するには、前記第1貯留部又は前記第2貯留部の容量が0.01ml以上10ml以下であることが好ましい。
【0015】
水分量が少ない排ガスが排出されているために貯留部に十分な量の凝縮液が貯留されずイオン濃度を正確に測定できなかったり、一時的に水分量が多い排ガスが排出されて貯留部内に貯留した凝縮液が薄まってしまったりすることを避けるためには、前記第1貯留部内又は前記第2貯留部内の液量を検知する液量センサと、前記液量センサからの出力信号に基づいて前記第1貯留部又は前記第2貯留部に貯留される凝縮液の液量を制御する液量制御部とをさらに備えるものとすることが好ましい。
【0016】
前記液量制御部が、前記第1貯留部又は第2貯留部に貯留される凝縮液の液量が過剰であると判断した場合に、前記第1貯留部又は第2貯留部から前記凝縮液を排出するものとすれば、一時的に排ガス中の水分が多くなった場合などであっても、前記第1貯留部又は第2貯留部に貯留される凝縮液の量が過剰になることを抑えることができる。その結果、前記第1貯留部又は第2貯留部に貯留された凝縮液が薄まってしまい凝縮液のイオン濃度に燃料電池の状態変化が反映されない状態となることをできるだけ避けることができる。
【0017】
前記排ガス流路と前記センサ部との間に配置されて、前記センサ部に供給される凝縮液中の気泡を除去する気液分離部をさらに備えるものとすれば、前記センサ部に気泡が入りにくいので気泡によるイオン濃度測定への影響をできるだけ小さく抑えることができる。
【0018】
例えば、前記排ガス流路の下流側に別途ガス分析装置などを備え、排ガス分析を行う場合等には、サンプリング部によってサンプリングされた凝縮液又は排ガス中に含まれるガスをできるだけ含めて分析できることが好ましい。そこで、前記気液分離部に、該気液分離部の内部から外部に向けて気体を排出する排気口が形成されており、前記排気口と、前記排ガス流路における前記サンプリング部との接続部よりも下流側であって前記ガス分析装置よりも上流側の前記排ガス流路と、を接続する還流路と、前記還流路から前記排ガス流路に気体を送り込む還流ポンプと、を備えるものとしてもよい。
【0019】
前記排ガス流路と前記センサ部との間を流れる排ガス又は凝縮液の温度を調節する温度調節部をさらに備えるものとすれば、前記排ガス流路から前記センサ部までの流路などにおける排ガスや排ガスの凝縮液の温度変化を小さく抑えて、前記センサ部に導入される凝縮液中の気泡をできるだけ抑えることができる。
【0020】
前記センサ部が、複数のイオン種の濃度を検出するものであることが好ましい。
【0021】
前述したように複数のイオン種の濃度を検出する具体的な構成としては、例えば、前記第1貯留部又は前記第2貯留部から前記センサ部に凝縮液を導入する導入路の前記センサ部側の端が分岐して分岐端を形成しており、前記各分岐端に、それぞれ異なるイオン種の濃度を検出するセンサ部を有するものを挙げることができる。
【0022】
さらに言えば、前記第1貯留部又は前記第2貯留部から前記センサ部に凝縮液を導入する導入路の前記センサ部側の端が分岐して分岐端を形成しており、前記分岐端の少なくとも1つに他の分析装置に送液するための送液配管を接続することができる接続口を有するものとしてもよい。
【0023】
本発明は、前記イオン分析装置による分析結果に基づいて、前記燃料電池の状態を判断する判断部をさらに備える燃料電池評価システムをも含むものである。
【発明の効果】
【0024】
以上に説明したように、本発明によれば、排ガス流路上に設けられた貯留部に一定量貯留された凝縮液のイオン濃度を測定する場合に比べて燃料電池の状態変化を応答良く評価することができる。
また、排ガス流路上に設けられた貯留部にたまった凝縮液を直接イオン濃度センサで測定する場合に比べて、イオン濃度センサに一定量の凝縮液を供給しやすい。その結果、凝縮液が不足して測定精度が下がったり、凝縮液の量が一時的に増えたりすることによるイオン濃度測定への影響をできるだけ減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る燃料電池評価システムの全体模式図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るイオン分析装置の全体模式図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係るイオン分析装置の第1貯留部を表す模式図である。
【
図4】本発明の第2実施形態にイオン分析装置の全体模式図である。
【
図5】本発明の第3実施形態にイオン分析装置の全体模式図である。
【
図6】本発明の第4実施形態にイオン分析装置の全体模式図である。
【
図7】本発明の第5実施形態にイオン分析装置の全体模式図である。
【
図8】本発明の第6実施形態にイオン分析装置の全体模式図である。
【
図9】本発明の他の実施形態に係る燃料電池評価システムの全体模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1実施形態>
以下に、本発明の第1実施形態に係る燃料電池評価システムについて、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において重複する構成については、同じ符号を付して、説明を省略するものとする。
【0027】
本実施形態に係る燃料電池評価システム100は、例えば
図1に示すように、少なくとも燃料電池FCから排出されるガスに含まれるイオンを分析するイオン分析装置1と、イオン分析装置1による分析結果に基づいて、燃料電池FCの状態を評価する判断部2とを備えるものである。
【0028】
イオン分析装置1は、例えば、
図2に示すように、燃料電池FCから排出される排ガスの凝縮液Sをサンプリングするサンプリング部11と、サンプリング部11によって採取された凝縮液Sのイオン濃度を測定するセンサ部12とを備えるものである。
【0029】
サンプリング部11は、本実施形態においては、
図2に示すように、燃料電池FCのアノード側及び/又はカソード側の排ガス流路L1上に形成された第1貯留部111に貯留した凝縮液Sをサンプリングしてセンサ部12に供給するものであり、第1貯留部に貯留した凝縮液をセンサ部に導入する導入路112を備えるものである。
【0030】
第1貯留部111は、本実施形態では
図3に示すように、排ガス流路L1の一部を形成するL字状の配管の角部に形成されているものである。第1貯留部111の位置や形状は特に限定されるものではないが、例えば、凝縮液Sを重力によって第1貯留部111の最も低い(下側の)位置に集めることができるようにテーパー状の底面を備えていることが好ましい。第1貯留部111の容量は特に限定されないが、例えば、0.01ml以上10ml以下であることがより好ましい。
【0031】
導入路112は、例えば、排ガス流路L1から分岐するように設けられたものであり、例えば、第1貯留部111のテーパー状の底面の最も低い位置から下方に向けて形成された採取口112aとセンサ部12とを接続するキャピラリー状の配管によって形成されたものである。
【0032】
センサ部12は、例えば、導入路112に接続された測定流路と、この測定流路を流れる凝縮液のイオン濃度を測定するための測定電極及び比較電極を備える電極ユニット121を少なくとも備えるものである。
【0033】
測定流路は、例えば、キャピラリー状のものであり、この測定流路を流れる凝縮液Sの流量が、例えば、0.01ml/min以上0.5ml/min以下のものであることが好ましい。
【0034】
測定電極及び比較電極としては、例えば、pHを測定するものを挙げることができるが、これに限られない。測定対象となるイオンは、燃料電池FCの種類によって適宜変更可能であるが、例えば、pH、フッ素イオン、炭酸イオンなどからなる群より選ばれる1種以上を測定するものとしてもよい。
【0035】
できるだけ少量の凝縮液Sで測定が可能なように、測定電極は、測定流路に接続され、内部に凝縮液Sを流通させることができるキャピラリー状の電極や測定流路を妨げないフラット状の電極を備えるものであることが好ましい。
【0036】
このように構成したイオン分析装置1によって、排ガスに含まれるイオンを分析する方法としては、例えば、以下のようなものを挙げることができる。
第1貯留部111に貯留された凝縮液Sは、サンプリング部によって例えば、その一部がサンプリングされてセンサ部12に送られ、イオン濃度が測定された後、センサ部に接続された排出路114から外部に排出されるように構成されている。センサ部12によって測定されたイオン濃度の情報が判断部2に送られ、判断部2はセンサ部12から受け取ったイオン濃度の情報から燃料電池FCの状態を判断する。例えば、センサ部12によって測定されるpH値などの各種イオン濃度について、あらかじめ燃料電池FCの状態を判断するための閾値などを前記判断部又は該判断部とは別に設けられた記憶部などに記憶させておいて、判断部2が各イオン濃度について閾値を超えているか否かによって燃料電池FCの劣化状態等を判断するようにしてもよい。
【0037】
このように構成したイオン分析装置1及び燃料電池評価システム100によれば、以下のような効果を奏することができる。
イオン分析装置1が第1貯留部111から凝縮液Sをサンプリングするサンプリング部11を備えているので、燃料電池FCから排出される排ガス中の流量や水分量が少ない場合や多い場合であっても、センサ部12に安定して凝縮液Sを供給することができる。
本実施形態の場合には、サンプリング部が備える導入路112がキャピラリー状のものであるので、キャピラリーの内径に応じた量の凝縮液Sを排ガス流路L1内部の圧力又は凝縮液S自体の自重によってセンサ部12の測定流路に0.01ml/min以上0.5ml/min以下の範囲の流量で導入することができる。
【0038】
また、センサ部12が0.01ml/min以上0.5ml/min以下などの微小流量の凝縮液Sのイオン濃度測定が可能なものであるので、燃料電池FCの単セルごとに排ガス中に含まれるイオン分析を行うことも可能である。
【0039】
また、第1貯留部111の底面の最も低い地位から下方に向けて形成された採取口112aから凝縮液Sをサンプリングするので、第1貯留部111に直接センサ部12を配置する場合に比べて、イオン濃度測定における気泡の影響を抑えることができる。
【0040】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る燃料電池評価システムについて、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において重複する構成については、同じ符号を付して、説明を省略するものとする。
【0041】
本実施形態に係る燃料電池評価システム100が備えるイオン分析装置1aは、
図4に示すように燃料電池FCのアノード側及び/又はカソード側の排ガス流路L1から排ガスをサンプリングし、サンプリングした排ガスの凝縮液Sを第2貯留部111aに貯留するものである。
なお、本明細書において、第1実施形態における凝縮液の貯留部を第1貯留部、第2実施形態における貯留部を第2貯留部としているが、この場合の第1、第2という文言は、あくまでこれらを見分けるために便宜上付されたものであり、これら第1、第2という文言に順序等の特定の意味はない。
【0042】
このイオン分析装置1aが備えるサンプリング部11’は、例えば、排ガス流路L1から排ガスをサンプリングするサンプリング流路117と、サンプリング流路117によってサンプリングされた排ガスの凝縮液Sを貯留する第2貯留部111aと、第2貯留部111aに貯留された凝縮液Sをセンサ部12に導入する導入路112’とを備えるものである。
【0043】
本実施形態におけるサンプリング流路117は、燃料電池FCからの排ガスが流れる排ガス流路L1から分岐するように設けられたものであり、第2貯留部111aは、本実施形態においては、サンプリング流路117に設けられて、センサ部12に供給される凝縮液S中から気泡を分離して除去する気液分離部13がその役割を果たすように構成されている。
気液分離部13は、内部に凝縮液Sととともに気体を収容するスペースを備えたものである。このスペースの上部には気体をその天井部から排出する排気口13aを備え凝縮液から分離した気泡を外部に排出するものである。この気液分離部13は、その内部に収容できる凝縮液Sの量が、0.01ml以上4ml以下であることが好ましい。
【0044】
導入路112’は、前記気液分離部13の底面に形成された採取口112aとセンサ部12とを接続するキャピラリー状の配管によって形成されている。
【0045】
このように構成したイオン分析装置1aによれば、気液分離部13を第2貯留部111aとして使用しているので、別途第2貯留部111aを形成する必要がなく、イオン分析装置1aをできるだけ簡単な構成のものとすることができる。
【0046】
<第3実施形態>
以下に、本発明の第3実施形態に係る燃料電池評価システムについて、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において重複する構成については、同じ符号を付して、説明を省略するものとする。
【0047】
本実施形態に係る燃料電池評価システム100が備えるイオン分析装置1bは、
図5に示すように、前述した第1実施形態に係るイオン分析装置1の構成に加えて、導入路112に凝縮液Sを流通させる流通機構113と、第1貯留部111に貯留されている液量を検知する液量検知手段115と、液量検知手段115によって検知された凝縮液Sの液量に基づいて、第1貯留部111に貯留されている凝縮液Sの液量を制御する液量制御部116とをさらに備えるものである。
【0048】
流通機構113は、例えば、導入路112又は排出路114上に配置されたポンプP1と、このポンプP1の動作を制御するサンプリング制御部113aとを備えるものである。サンプリング制御部113aは、例えば導入路112を流れる凝縮液Sの流量が、例えば、0.01ml/min以上0.5ml/min以下となるようにポンプP1を連続的又は間欠的に動作させるものであることが好ましい。
サンプリング制御部113aは、たとえば、CPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ等を備えた情報処理装置がその機能を担うものであり、前記メモリの所定領域に格納されたプログラムに従ってCPUや周辺機器が協働することによりサンプリング制御部113aとしての機能を発揮するように構成されている。
【0049】
液量検知手段115は、例えば、第1貯留部111内に配置された汎用の液量センサである。
液量制御部116は、例えば、液量検知手段115によって検知された第1貯留部111の液量があらかじめ設定された液量よりも多い場合に、前述したサンプリング制御部113aに指令を出し、ポンプP1を駆動させて第1貯留部111から導入路112及び排出路114を経由して凝縮液Sを排出させるものであり、前述した情報処理回路がその機能を担うものである。
【0050】
センサ部12は、例えば、導入路112に接続された測定流路と、この測定流路を流れる凝縮液のイオン濃度を測定するための測定電極及び比較電極を備える電極ユニット121と、イオン濃度算出部122などを備えるものである。
【0051】
イオン濃度算出部122は、電極ユニット121からの出力値に基づいて、イオン濃度やpHなどを算出するものであり、前述した情報処理回路がその機能を担うものである。
【0052】
本実施形態に係るイオン分析装置1は、サンプリング部11によってサンプリングされた凝縮液Sの温度を調節する温度調節部14をさらに備える。
温度調節部14は、例えば、前述した導入路112を覆うように配置された保温部材であり、導入路112を流れる凝縮液Sの温度が第1貯留部111内の温度から大きく変化しないようにするものである。
【0053】
このように構成したイオン分析装置1bを備えた燃料電池評価システム100によれば、以下のような効果を奏することができる。
第1貯留部111からポンプP1を用いて凝縮液Sをサンプリングするので、第1貯留部111に貯留される凝縮液Sを常に新しいものに置き換えることができる。その結果、第1貯留部111に貯留されサンプリングされる凝縮液Sをできるだけ燃料電池FCの状態を反映するものとすることができる。イオン分析装置1bにおいて算出されるイオン濃度の値には、センサ部12に供給される凝縮液の温度が影響を与えることが考えられる。そこで、温度調整部14を備えることによって、センサ部に供給される凝縮液の温度が変動しにくくなれば、イオン分析装置1bによるイオン濃度の測定結果の精度をさらに向上させることができる。
【0054】
第1貯留部111内の液量を検出する液量センサ115を備えているので、液量があらかじめ決められた液量よりも少ない場合には、サンプリングを停止することができる。また、第1貯留部111内の液量があらかじめ決められた液量よりも多い場合には、第1貯留部111から凝縮液Sを排出することによって、第1貯留部111に貯留される凝縮液Sが燃料電池FCの状態変化をできるだけ応答良く反映するものとなるようにすることができる。
【0055】
<第4実施形態>
以下に、本発明の第4実施形態に係る燃料電池評価システムについて、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において重複する構成については、同じ符号を付して、説明を省略するものとする。
【0056】
本実施形態に係る燃料電池評価システム100が備えるイオン分析装置1cは、
図6に示すように、前述した第2実施形態に係るイオン分析装置1aに加えて、導入路112’を流れる凝縮液Sの流れを制御する流通機構113をさらに備えるものである。
【0057】
前記流通機構113は、導入路112’又は導入路112’の下流に接続されてセンサ部12で測定した後の凝縮液Sを外部に排出する排出路114上に配置されたポンプP1と、このポンプP1の動作を制御するサンプリング制御部113aとを備えるものである。
サンプリング制御部113aは、例えば導入路112’を流れる凝縮液Sの流量が、例えば、0.01ml/min以上0.5ml/min以下となるようにポンプP1を連続的又は間欠的に動作させるものであることが好ましい。
【0058】
本実施形態に係るイオン分析装置1cは、前述した以外にも例えば、前述した第3実施形態において説明した、液量検出手段115、液量制御部116、イオン濃度算出部122、温度調節部14などをさらに備えるものとしても良い。
【0059】
このように構成したイオン分析装置1cを備えた燃料電池評価システム100によれば、以下のような効果を奏することができる。
第2貯留部111aからポンプP1を用いて凝縮液Sをサンプリングするので、第2貯留部111aに貯留される凝縮液Sを常に新しいものに置き換えることができる。その結果、第2貯留部111aに貯留されサンプリングされる凝縮液Sをできるだけ燃料電池FCの状態を反映するものとすることができる。
【0060】
<第5実施形態>
以下に、本発明の第5実施形態に係る燃料電池評価システムについて、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において重複する構成については、同じ符号を付して、説明を省略するものとする。
【0061】
本実施形態に係る燃料電池評価システム100が備えるイオン分析装置1dは、
図7に示すように、前述した第2実施形態又は第4実施形態に係るイオン分析装置1a,1cの構成に加えて、前記気液分離部13の排気口13aと、前記排ガス流路L1における前記サンプリング部11との接続部よりも下流側の前記排ガス流路L1と、を接続する還流路15と、前記還流路15から前記排ガス流路L1に気体を送り込む還流ポンプP2と、を備えるものである。この還流ポンプP2は、例えば、前述した情報処理回路がその役割を担うリターンガス制御部16によって制御されるものとしてもよい。
【0062】
このようなイオン分析装置1dによれば、例えば、前記排ガス流路L1の下流側に別途ガス分析装置などを備え、排ガス分析を行う場合等に、サンプリング部11によってサンプリングされた凝縮液S又は排ガス中に含まれるガスをできるだけ含めた、排ガスの全量をガス分析装置などによって分析することができる。
【0063】
<第6実施形態>
以下に、本発明の第6実施形態に係る燃料電池評価システムについて、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において重複する構成については、同じ符号を付して、説明を省略するものとする。
【0064】
本実施形態に係る燃料電池評価システム100が備えるイオン分析装置1eは、
図7に示すように、前述した第1~第5実施形態に係るイオン分析装置1、1a、1b、1c又は1dの構成に加えて、導入路112、112’のセンサ部12側の端が分岐して複数の分岐端を形成しており、前記各分岐端に、それぞれ異なるイオン種の濃度を検出する電極ユニット121a、121b、121c等を有するものである。
【0065】
このように構成したイオン分析装置1eを備えた燃料電池評価システム100によれば、凝縮液S中に含まれる複数のイオン種の濃度変化を同時に並行して検出することができるので、燃料電池FCの状態変化をより詳細に評価することができる。
【0066】
<その他の実施形態>
本発明は前述した実子形態に限定されるものではない。
例えば、前述した第6実施形態のように、導入路112、112’のセンサ部12側の端が分岐して複数の分岐端を形成しており、この分岐端の少なくとも1つに他の分析装置に送液するための送液配管を接続することができる接続口を有するものとしてもよい。
【0067】
燃料電池評価システム100’が、イオン分析装置1以外に、例えば、
図9に示すように、燃料電池FCにおける水素消費量を測定する水素消費量測定装置3や燃料電池からのリーク水素量を測定するリーク水素測定装置4等をさらに備えていてもよく、これら各種測定装置、分析装置の動作を制御する制御部5や、これら各種測定装置及び分析装置から出力される測定データを記憶する記憶部6、前記判断部2が測定データに基づいて燃料電池FCに異常が発生したことを判断した場合に、警報を発する警報発出部7などを備えるものとしてもよい。
この場合には、前記判断部2が、イオン分析装置1だけでなく、水素消費量測定装置3やリーク水素測定装置4等からの情報を統合して、燃料電池FCの稼働状況や劣化状態などを判断することにより、燃料電池FCを評価するものとしてもよい。
【0068】
第2実施形態と同様に、燃料電池からの排ガスが流れる排ガス流路から排ガスをサンプリングしサンプリングした排ガスの凝縮液を第2貯留部に貯留するイオン分析装置において、第2貯留部内に差し込んで使用される形状の測定電極及び比較電極を備えるものとしてもよい。
この場合、第2貯留部には、測定電極及び比較電極をその内部に差し込むための挿入口が形成されており、この挿入口を介して第2貯留部の内部に挿入された測定電極及び比較電極が第2貯留部内に貯留された凝縮液と触れるように配置されることによって、イオン濃度が測定できる。
【0069】
この場合の第2貯留部についても、燃料電池の状態変化をイオン濃度変化として応答良く検出するために、内部に収容する凝縮液の容量としては0.01ml以上10ml以下であることが好ましい。
【0070】
このように構成したイオン分析装置によれば、第2貯留部に直接電極を挿入して使用するので、測定電極や比較電極を第2貯留部から取り外してメンテナンスすることなども可能である。
【0071】
第1貯留部は、貯留部として人工的に形成したものに限られず、単に排ガス中の凝縮液が溜まっている部分を第1貯留部として使用するようにしてもよい。そのため、イオン分析装置がその構成要件として第1貯留部を必ずしも備えるものでなくてもよい。
【0072】
第1実施形態のように第1貯留部から凝縮液をサンプリングするイオン分析装置においても、導入路上に、気液分離部がさらに配置されているものとしてもよい。
【0073】
第2貯留部は、気液分離部とは別に設けられたものであってもよく、イオン分析装置が第2貯留部と気液分離部とを両方備えるものとしてもよい。
【0074】
前述したように第1貯留部と気液分離部を両方備えている場合や、第2貯留部と気液分離部とを別々に設けている場合には、これら複数の貯留部に貯留されている凝縮液の総量が10ml以下であることが好ましい。
【0075】
前記センサ部は、1種類のイオンについてその濃度を測定するものであってもよいし、複数種類のイオン濃度を測定するものであってもよい。センサ部を複数種類のイオン濃度を測定するものとする場合には、前記第1貯留部又は第2貯留部とセンサ部とを接続するサンプリング流路又は導入路を複数備える、又はセンサ部の前段で複数に分岐するようにしてもよい。
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、刻々と変化する燃料電池の状態をイオン濃度測定によってできるだけ応答良く評価でき、かつ燃料電池から排出される排出水のイオン濃度を測定する燃料電池の評価において、凝縮液が不足して測定精度が下がったり、凝縮液の量が一時的に増えたりすることによるイオン濃度測定への影響をできるだけ減らすことができる燃料電離評価システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0077】
FC ・・・燃料電池
L1 ・・・排ガス流路
S ・・・凝縮液
100、100’ ・・・燃料電池評価システム
1、1a、1b、1c、1d、1e ・・・イオン分析装置
11、11’ ・・・サンプリング部
111 ・・・第1貯留部
111a・・・第2貯留部
112、112’ ・・・導入路
112a・・・採取口
113 ・・・流通機構
113a・・・サンプリング制御部
114 ・・・排出路
115 ・・・液量センサ
116 ・・・液量制御部
117 ・・・サンプリング流路
12 ・・・センサ部
121、121a、121b、121c ・・・電極ユニット
122 ・・・イオン濃度算出部
13 ・・・気液分離部
13a ・・・排気口
14 ・・・温度調節部
15 ・・・還流路
16 ・・・リターンガス制御部
2 ・・・判断部
3 ・・・水素消費量測定装置
4 ・・・リーク水素測定装置
5 ・・・記憶部
6 ・・・警報発出部
P1,P2・・・ポンプ