(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】振動モータ用基板およびその製造方法、ならびに振動モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 13/00 20060101AFI20240322BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20240322BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20240322BHJP
C25D 7/06 20060101ALI20240322BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240322BHJP
H02K 23/00 20060101ALI20240322BHJP
B06B 1/04 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
H02K13/00 G
C25D5/12
C25D7/00 G
C25D7/06 A
B32B15/08 D
H02K23/00 A
H02K13/00 Q
B06B1/04 S
(21)【出願番号】P 2020013904
(22)【出願日】2020-01-30
【審査請求日】2022-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592181602
【氏名又は名称】古河精密金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】北河 秀一
(72)【発明者】
【氏名】葛原 颯己
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/118627(WO,A1)
【文献】特開昭55-161386(JP,A)
【文献】特開2006-314191(JP,A)
【文献】特開2015-175049(JP,A)
【文献】特開平07-059299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 13/00
C25D 5/12
C25D 7/00
C25D 7/06
B32B 15/08
H02K 23/00
B06B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板からなる基材と、
前記基材の少なくとも一方の面に、CuまたはCu合金からなるCu系箔層が形成され、かつ振動モータのブラシが摺接する最表層に、Au合金からなるAu合金層が形成された基板であって、
前記Au合金層の表面は、摺動前の初期状態において、ISO 25178-2:2012に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以上
0.5μm以下であり、かつ山の頂点密度Spdが10000~1000000個/mm
2であることを特徴とする、振動モータ用基板。
【請求項2】
前記Cu系箔層と前記Au合金層との間に、厚さが0.1μm以上のCuめっき層を有することを特徴とする、請求項1に記載の振動モータ用基板。
【請求項3】
前記Au合金層の直下に、Niめっき層が存在することを特徴とする、請求項1または2に記載の振動モータ用基板。
【請求項4】
前記Au合金がAu-Cu合金またはAu-Ni合金であることを特徴とする、請求項1、2または3に記載の振動モータ用基板。
【請求項5】
導電性基板とブラシとを含むモータであって、
前記導電性基板は、
樹脂基板からなる基材と、
前記基材の少なくとも一方の面に、CuまたはCu合金からなるCu系箔層が形成され、かつ、振動モータのブラシが摺接する最表層にAu合金からなるAu合金層が形成された基板であって、
前記Au合金層の表面は、摺動前の初期状態において、ISO 25178-2:2012に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以上
0.5μm以下であり、かつ山の頂点密度Spdが10000~1000000個/mm
2であることを特徴とする、振動モータ。
【請求項6】
前記ブラシは、CuまたはCu合金からなるCu系基材と、前記Cu系基材の表面を被覆するPdめっき層とを有することを特徴とする、請求項5に記載の振動モータ。
【請求項7】
前記導電性基板は、摺動前の初期状態において、少なくともブラシとの接触部の表面粗さRaが0.1~1.0μmであることを特徴とする、請求項5または6に記載の振動モータ。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載の振動モータ用基板を製造する方法であって、
樹脂基板からなる基材の少なくとも一方の面に、CuまたはCu合金からなるCu系箔層を形成するCu系箔層形成工程と、
Au合金からなるAu合金層を形成するAu合金層形成工程と、
ISO 25178-2:2012に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以上
0.5μm以下であり、かつ山の頂点密度Spdが10000~1000000個/mm
2である前記Au合金層の表面性状になるように、Cu系箔層形成工程後のCu系箔層の表面、またはAu合金層形成工程後の前記Au合金層の表面を研磨する表面粗さ調整工程と
を含むことを特徴とする、振動モータ用基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動モータ用基板およびその製造方法、ならびに振動モータに関する。
【背景技術】
【0002】
振動モータに使用される導電性基板は、樹脂基板の上に銅または銅合金からなる銅箔層を張り付け、その上にAu、Ni、Rhのような導電性に優れるめっきを施して形成されるものである。
【0003】
このような導電性基板においては、ブラシと摺動する箇所において摩耗が生じることが知られており、例えばAuめっきを用いる場合には、Auめっきにコバルトなどを添加して硬質めっきとし、基板側の表面粗度を下げて耐摩耗性を向上させる技術が知られている。
【0004】
また、耐摩耗性を向上させる技術として、特許文献1には、樹脂基板の上にCu層と、Au-Cu合金層を形成してなる導電性基板が、耐摩耗性および電気伝導性に優れることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、振動モータでは一般に、ユーザがモータの回転を確認するため、導電性基板とブラシとの接点が切り替わる際に発生する振動に伴って発生する振動音を聞き取って感知する。振動モータが通常発生する振動音の周波数は、100Hz程度の低周波数レベルであり、かかる低周波数レベルの振動音の聞き取りの可否は、個人差があることから、振動モータで発生する振動音は、個人差なく、誰もが聞き取れる可聴域の周波数レベルの振動音にする(周波数を上げる)ことが求められる場合があった。
【0007】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、優れた耐摩耗性を有しながらも、振動モータが発する振動音の聞き取りやすさをより高めることができる振動モータ用基板およびその製造方法、ならびにそれを用いた振動モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述した目的を達成するため、鋭意検討を重ねた。その結果、振動モータ用基板が、樹脂基板からなる基材と、基材の少なくとも一方の面に、CuまたはCu合金からなるCu系箔層が形成され、かつ最表層に、Au合金からなるAu合金層が形成された基板であって、Au合金層の表面は、ISO 25178-2:2012に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以上であり、かつ山の頂点密度Spdが10000~1000000個/mm2であることにより、優れた耐摩耗性を有しながらも、この振動モータ用基板を用いた振動モータが、可聴域の振動音を発生させることができ、振動音の聞き取りやすさをより高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)樹脂基板からなる基材と、前記基材の少なくとも一方の面に、CuまたはCu合金からなるCu系箔層が形成され、かつ最表層に、Au合金からなるAu合金層が形成された基板であって、前記Au合金層の表面は、ISO 25178-2:2012に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以上であり、かつ山の頂点密度Spdが10000~1000000個/mm2であることを特徴とする、振動モータ用基板。
(2)前記Cu系箔層と前記Au合金層との間に、厚さが0.1μm以上のCuめっき層を有することを特徴とする、(1)に記載の振動モータ用基板。
(3)前記Au合金層の直下に、Niめっき層が存在することを特徴とする、(1)または(2)に記載の振動モータ用基板。
(4)前記Au合金がAu-Cu合金またはAu-Ni合金であることを特徴とする、上記(1)、(2)または(3)に記載の振動モータ用基板。
(5)導電性基板とブラシとを含むモータであって、前記導電性基板は、樹脂基板からなる基材と、前記基材の少なくとも一方の面に、CuまたはCu合金からなるCu系箔層が形成され、かつ、Au合金からなるAu合金層が形成された基板であって、前記Au合金層の表面は、ISO 25178-2:2012に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以上であり、かつ山の頂点密度Spdが10000~1000000個/mm2であることを特徴とする、振動モータ。
(6)前記ブラシは、CuまたはCu合金からなるCu系基材と、前記Cu系基材の表面を被覆するPdめっき層とを有することを特徴とする、上記(5)に記載の振動モータ。
(7)前記導電性基板は、少なくともブラシとの接触部の表面粗さRaが0.1~1.0μmであることを特徴とする、上記(5)または(6)に記載の振動モータ。
(8)上記(1)~(4)のいずれかに記載の振動モータ用基板を製造する方法であって、樹脂基板からなる基材の少なくとも一方の面に、CuまたはCu合金からなるCu系箔層を形成するCu系箔層形成工程と、Au合金からなるAu合金層を形成するAu合金層形成工程と、ISO 25178-2:2012に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以上であり、かつ山の頂点密度Spdが10000~1000000個/mm2である前記Au合金層の表面性状になるように、Cu系箔層形成工程後のCu系箔層の表面、またはAu合金層形成工程後の前記Au合金層の表面を研磨する表面粗さ調整工程とを含むことを特徴とする、振動モータ用基板の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた耐摩耗性を有しながらも、振動モータが発する振動音の聞き取りやすさをより高めることができる振動モータ用基板およびその製造方法、ならびにそれを用いた振動モータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一の実施形態の振動モータ用基板の縦断面を模式的に示したものである。
【
図2】一の実施形態の振動モータの分解斜視図を模式的に示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0013】
1.振動モータ用基板
本発明の振動モータ用基板は、樹脂基板からなる基材と、基材の少なくとも一方の面に、CuまたはCu合金からなるCu系箔層が形成され、かつ最表層に、Au合金からなるAu合金層が形成された基板であって、Au合金層の表面は、ISO 25178-2:2012に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以上であり、かつ山の頂点密度Spdが10000~1000000個/mm2であることを特徴とするものである。
【0014】
本明細書において「算術平均高さSa」とは、ISO 25178-2:2012に準拠して測定される、表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値の平均を表すパラメータである。つまり、粗さ曲線の算術平均高さRaを面に拡張したパラメータに相当する。算術平均高さSaは、粗化処理面における所定の測定面積の表面プロファイルを市販のレーザー顕微鏡で測定することにより算出することができる。
【0015】
本明細書において「山の頂点密度Spd」とは、ISO25178に準拠して測定される、単位面積当たりの山頂点の数を表すパラメータである。この値が大きいと他の物体との接触点の数が多いことを示唆する。山の頂点密度Spdは、粗化処理面における所定の測定面積の表面プロファイルを市販のレーザー顕微鏡で測定することにより算出することができる。
【0016】
図1は、一の実施形態の振動モータ用基板の縦断面を模式的に示したものである。
図1に示す振動モータ用基板10は、樹脂基板からなる基材1と、基材1の少なくとも一方の面に、CuまたはCu合金からなるCu系箔層2が形成され、かつ最表層に、Au合金からなるAu合金層3が形成された基板であって、Au合金層3の表面は、ISO 25178-2:2012に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以上であり、かつ山の頂点密度Spdが10000~1000000個/mm
2であることを特徴とするものである。また、図示の振動モータ用基板10は、Cu系箔層2とAu合金層3との間に、厚さが0.1μm以上のCuめっき層4を有し、かつAu合金層3の直下に、Niめっき層5が存在する構成の場合を示している。
【0017】
振動モータにおいて、ブラシと摺動するのは、最表層に配置されているAu合金層3である。そこで、最表層を、硬質のAu合金により形成するとともに、その表面について算術平均高さSaを0.1μm以上、山の頂点密度Spdを10000~1000000個/mm2に調整して、表面の凹凸を増加させることにより、その表面がブラシと摺動したときに、可聴域の振動音を発生させることができ、振動音の聞き取りやすさをより高めることができる。
【0018】
以下、本発明の振動モータ用基板の各部について詳細に説明する。
【0019】
(基材)
基材1は、紙やガラス布、ガラス不織布と樹脂を組み合わせた樹脂基板からなるものである。
【0020】
樹脂基板を構成する樹脂としては、特に限定されず、フェノール樹脂やエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などからなる群からなる1種以上を用いることができる。その中でも、成形性が良く、耐熱性も高いエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0021】
基材1の厚さとしては、特に限定されないが、100~500μmであることが好ましく、200~400μmであることがより好ましい。
【0022】
(Cu系箔層)
Cu系箔層2は、CuまたはCu合金からなり、基材の少なくとも一方の面に形成されるものである。
【0023】
Cu合金としては、特に限定されないが、例えば、Cu-Sn合金、Cu-Ag合金などを用いることができる。
【0024】
Cu系箔層2の厚さとしては、特に限定されないが、20~100μmであることが好ましく、30~50μmであることがより好ましい。
【0025】
(Au合金層)
Au合金層3は、Au合金からなり、かかる振動モータ用基板の最表層に形成されるものである。そして、このAu合金層3の表面は、ISO 25178-2:2012に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以上であり、かつ山の頂点密度Spdが10000~1000000個/mm2である。このようなAu合金層3によれば、可聴域の振動音を発生させることができ、振動音の聞き取りやすさをより高めることができる。
【0026】
Au合金層3を構成するAu合金としては、特に限定されないが、例えばAu-Cu合金またはAu-Ni合金であることが好ましい。Au合金として、Au-Cu合金またはAu-Ni合金を用いることにより、従来使用されているAu-Co合金よりも接触抵抗が低く、モータの長寿命化ができる。
【0027】
Au合金層3の厚さとしては、特に限定されないが、0.01~1μmであることが好ましく、0.1~0.5μmであることがより好ましい。
【0028】
(Cuめっき層)
本発明の必須の構成要素ではないが、図示の振動モータ用基板10は、Cu系箔層2とAu合金層3との間に、厚さが0.1μm以上のCuめっき層4を有する。
【0029】
このCuめっき層4を設けることにより、Au合金層の密着力を向上させ、めっき剥離を防止することができる。
【0030】
Cuめっき層4の厚さとしては、0.1μm以上であれば特に限定されないが、0.10.5μmであることが好ましく、0.1~0.3μmであることがより好ましい。
【0031】
(Niめっき層)
本発明の必須の構成要素ではないが、図示の振動モータ用基板10は、Au合金層3の直下に、Niめっき層5が存在する。
【0032】
Cu系箔層2とAu合金層3が直接接触していると、高温下や硫化水素雰囲気下などにおいて、Cu系箔層2に含まれるCu原子がAu合金層3中を拡散し、Au合金層3の表面に現れて酸化銅を形成し、接触抵抗が上昇することがある。したがって、これらのような環境下での使用が想定される場合には、Niめっき層5を設けてCuの拡散を防止し、接触抵抗の上昇を抑えることが好ましい。
【0033】
Niめっき層5の厚さとしては、特に限定されないが、0.1~1.0μmであることが好ましく、0.2~0.5μmであることがより好ましい。
【0034】
2.振動モータ
以上で詳述した振動モータ用基板は、従来公知の振動モータ(例えば、特許文献1参照)が備える導電性基板と置き換えて用いることができる。具体的に、このような振動モータは、導電性基板とブラシとを含むモータであって、導電性基板は、樹脂基板からなる基材と、基材の少なくとも一方の面に、CuまたはCu合金からなるCu系箔層が形成され、かつ、Au合金からなるAu合金層が形成された基板であって、Au合金層の表面は、ISO 25178-2:2012に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以上であり、かつ山の頂点密度Spdが10000~1000000個/mm2であることを特徴とするものである。
【0035】
図2は、一の実施形態の振動モータの分解斜視図を模式的に示したものである。この
図2に示すように、振動モータ100は、金属性の上部ケース20と下部ケース21とが圧入結合されて内部に空いた空間を提供し、電極23の一部が上部ケース20、下部ケース21の外部に延びた外形を有する。上部ケース20および下部ケース21の内部の中心には直立した回転軸24が固定されて、これら上部ケース20、下部ケース21を支持する。下部ケース21の底には、電流を伝達するための電極23が載せられる。その電極23の上には回転軸24を中心とするリング形状の永久磁石22が配置される。導電性基板25が回転軸24に回転可能な状態で支持されて、その永久磁石22の上に配置される。導電性基板25は、略半円板型の胴体27、その胴体27と一体をなすベアリング29、コイル26、振動子28、及び印刷回路(図示せず)などを含む。ベアリング29には回転軸24が内挿され、2つ以上のコイル26が回転軸24を中心として胴体27の左右両側に対称となるように配置される。また、振動子28はそのコイル26の間の胴体27の縁の付近に配置される。振動子28は強い振動力を得るために高比重の物質から構成される。
【0036】
ブラシ30は、その一端が電極23に連結固定されており、他端が、導電性基板25に接している。外部電源(図示せず)から電極23に供給された電流は、ブラシ30と導電性基板25を介してコイル26へ伝達される。
【0037】
ここで、コイル26に流れる電流の方向を交互に変更させれば、そのコイル26に表れる磁極の方向もそれによって交互に変わるようになる。そのような磁極の変化は、永久磁石22による磁極と相互作用して、そのコイル26を一方向に回転するようにする力を発生させる。これによってコイル26と一体をなす導電性基板25が回転軸24を中心として回転する。
【0038】
[導電性基板]
導電性基板25としては、以上で詳述した振動モータ用基板と同様のものを用いることができる。
【0039】
導電性基板25としては、少なくともブラシとの接触部の表面粗さRaが0.1~1.0μmであることが好ましく、0.1~0.7μmであることがより好ましい。ブラシとの接触部の表面粗さRaが0.1~1.0μmであることにより、可聴域の振動音をより効率的に発生させることができ、振動音の聞き取りやすさをさらに高めることができる。
【0040】
[ブラシ]
ブラシ30としては、特に限定されず、例えば振動モータに通常使用されるものを用いることができるが、好ましくは、CuまたはCu合金からなるCu系基材と、Cu系基材の表面を被覆するPdめっき層とを有するものを用いる。このようにブラシを構成することにより、優れた耐摩耗性、電気伝導性、耐食性などを確保することができる。
【0041】
3.振動モータ用基板の製造方法
本発明の振動モータ用基板の製造方法は、上述した振動モータ用基板を製造する方法である。具体的に、この振動モータ用基板の製造方法は、樹脂基板からなる基材の少なくとも一方の面に、CuまたはCu合金からなるCu系箔層を形成するCu系箔層形成工程と、Au合金からなるAu合金層を形成するAu合金層形成工程と、ISO 25178-2:2012に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以上であり、かつ山の頂点密度Spdが10000~1000000個/mm2であるAu合金層の表面性状になるように、Cu系箔層形成工程後のCu系箔層の表面、またはAu合金層形成工程後のAu合金層の表面を研磨する表面粗さ調整工程とを含むことを特徴とするものである。
【0042】
[Cu系箔層形成工程]
Cu系箔層形成工程は、樹脂基板からなる基材の少なくとも一方の面に、CuまたはCu合金からなるCu系箔層を形成する工程である。具体的には、例えば基材の一方の面にCu系箔層を張り付けることにより行うことができる。
【0043】
[Au合金層形成工程]
Au合金層形成工程は、Au合金からなるAu合金層を形成する工程である。
【0044】
Au合金層を形成するためのめっき法としては、特に限定されないが、例えば電解めっきや無電解めっきのような湿式めっき、蒸着やスパッタのような乾式めっき等を用いることができる。これらの中でも、湿式めっきを用いることが好ましく、電解めっきを用いることがより好ましい。この際、めっき条件としては、めっき方法や、めっき層の種類やその厚さ、その後の熱処理の温度や保持時間などに応じて適宜調整すればよい。なお、後述するCuめっき層形成工程およびNiめっき層形成工程についても同様である。
【0045】
[表面粗さ調整工程]
表面粗さ調整工程は、ISO 25178-2:2012に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以上であり、かつ山の頂点密度Spdが10000~1000000個/mm2であるAu合金層の表面性状になるように、Cu系箔層形成工程後のCu系箔層の表面、またはAu合金層形成工程後のAu合金層の表面を研磨する工程である。
【0046】
すなわち、表面粗さ調整工程は、Cu系箔層形成工程後またはAu合金層形成工程後に行うものであり、その時点で最表層の表面粗さを調整する。なお、表面粗さ調整工程を、Cu系箔層形成工程後に行う場合、その後表層側に形成される層は全てCu系箔層の表面粗さを反映したものとなる。
【0047】
表面粗さの調整方法としては、特に限定されないが、例えば研磨剤を用いて調整することができる。なお、研磨剤の粒度、番手については特に限定されず、目的とする算術平均高さSaおよび山の頂点密度Spdに応じて適宜調整すればよい。
【0048】
[Cuめっき層形成工程]
本発明の必須の構成要素ではないが、Cu系箔層形成工程とAu合金層形成工程との間に、Cuめっき層形成工程を設けることができる。
【0049】
[Niめっき層形成工程]
本発明の必須の構成要素ではないが、Au合金層形成工程の前(Cuめっき層形成工程を行う場合には、Cuめっき層形成工程の後かつAu合金層形成工程の前)に、Niめっき層形成工程を設けることができる。
【0050】
[その他の工程]
本発明の振動モータ用基板の製造方法は、本発明の効果を阻害しない範囲において、上述した各工程以外の工程を含み得ることができる。これらの例としては、電解銅箔の電解脱脂や酸洗浄、エッチングによる電極パターン形成などが挙げられる。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
[試料の調製]
以下に示す製造方法により、実施例1~6および比較例1~5の試料を作製した。
【0053】
(実施例1)
PCB基板の上に電解銅箔を貼付し、電解脱脂、酸洗浄を施した。電解銅箔上にCuの厚めっきを施し、さらにCuの円周方向に対して研磨剤によって研磨を行い、凹凸を設けた。エッチングによって電極パターンを形成した後、電解脱脂、酸洗浄を施した。次いで、Au-Cuの合金めっきを用いて表層を形成して基板試料を得た。
【0054】
(実施例2)
PCB基板の上に電解銅箔を貼付し、エッチングによって電極パターンを形成した。Cuの円周方向に対して研磨剤によって研磨を行い、凹凸を設けた。その後、電解脱脂、酸洗浄を施し、Cuの厚めっきを施し、次いでAu-Cuの合金めっきを用いて表層を形成して基板試料を得た。
【0055】
(実施例3)
PCB基板の上に電解銅箔を貼付し、エッチングによって電極パターンを形成した。Cuの円周方向に対して研磨剤によって研磨を行い、凹凸を設けた。その後、電解脱脂、酸洗浄を施し、Cuの厚めっきを施し、次いでNiめっき層を設けた。さらに、Niめっき層上にAu-Cuの合金めっきを用いて表層を形成して基板試料を得た。
【0056】
(実施例4)
PCB基板の上に電解銅箔を貼付し、エッチングによって電極パターンを形成した。電解脱脂、酸洗浄を施した後、Cuの厚めっきを施し、次いでNiめっき層を設けた。さらに、Niめっき層上にAu-Cuの合金めっきを用いて表層を形成した後、表面からCuの円周方向に対して研磨剤によって研磨を行い、凹凸を設け基板試料を得た。
【0057】
(実施例5)
FPC基板の上に電解銅箔を貼付し、エッチングによって電極パターンを形成した。電解脱脂、酸洗浄を施した後、Cuの厚めっきを施し、次いでNiめっき層を設けた。さらに、Niめっき層上にAu-Cuの合金めっきを用いて表層を形成した後、表面からCuの円周方向に対して研磨剤によって研磨を行い、凹凸を設け基板試料を得た。
【0058】
(実施例6)
FPC基板の上に電解銅箔を貼付し、エッチングによって電極パターンを形成した。Cuの円周方向に対して研磨剤によって研磨を行い、凹凸を設けた。その後、電解脱脂、酸洗浄を施し、Cuの厚めっきを施し、次いでNiめっき層を設けた。さらに、Niめっき層上にAu-Cuの合金めっきを用いて表層を形成して基板試料を得た。
【0059】
(比較例1)
PCB基板の上に電解銅箔を貼付し、電解脱脂、酸洗浄を施した。電解銅箔上にCuの厚めっきを施し、次いでエッチングによって電極パターンを形成した。その後、電解脱脂、酸洗浄を施し、Au-Cuの合金めっきを用いて表層を形成して基板試料を得た。
【0060】
(比較例2)
PCB基板の上に電解銅箔を貼付し、電解脱脂、酸洗浄を施した。電解銅箔上にCuの厚めっきを施し、次いでエッチングによって電極パターンを形成した。その後、電解脱脂、酸洗浄を施し、Au-Cuの合金めっきを用いて表層を形成した後Cuの円周方向に対して研磨剤によって研磨を行い、凹凸を設けて基板試料を得た。
【0061】
(比較例3)
PCB基板の上に電解銅箔を貼付し、電解脱脂、酸洗浄を施した。電解銅箔上にCuの厚めっきを施し、次いでNiめっき層を設けた。さらに、Niめっき層上にAu-Cuの合金めっきを用いて表層を形成した後、次いでエッチングによって電極パターンを形成し基板試料を得た。
【0062】
(比較例4)
FPC基板の上に電解銅箔を貼付し、エッチングによって電極パターンを形成した。電解脱脂、酸洗浄を施した後、Cuの厚めっきを施し、次いでNiめっき層を設けた。さらに、Niめっき層上にAu-Cuの合金めっきを用いて表層を形成しけ基板試料を得た。
【0063】
(比較例5)
FPC基板の上に電解銅箔を貼付し、エッチングによって電極パターンを形成した。電解脱脂、酸洗浄を施し、Cuの厚めっきを施し、次いでNiめっき層を設けた。さらに、Niめっき層上にAu-Cuの合金めっきを用いて表層を形成して基板試料を得た。
【0064】
[試料の評価]
以上のようにして作製した試料について、その構造および特性について評価した。
【0065】
(層の厚さの測定)
JIS H8501:1999の蛍光X線式試験方法にしたがい、作製した各試料の表面から蛍光X線分析を行い測定した。また、層の厚さの確認のため、断面について画像解析法によっても厚さの測定を行った。画像解析法はJIS H8501:1999の走査型電子顕微鏡試験方法にしたがい行った。
【0066】
(算術平均高さSaおよび山の頂点密度Spdの測定)
ISO 25178-2:2012に準拠した測定機器を用いて、作製した各試料の表面の算術平均高さSaおよび山の頂点密度Spdを測定した。
【0067】
(算術平均粗さRaおよび十点平均粗さRzの測定)
JIS B 0601に準拠して、触針式の表面粗さ計にて円周方向の表面粗さを測定した。
【0068】
(モータ動作音の評価)
モータ動作音はJIS C 1509-1:2017に準拠した騒音計(サウンドレベルメータ)を使用し、防音箱等に入れた測定対象のモータに対し騒音測定用マイクロホンを15cm以内に近づけて設置し、モータ動作時の音圧および周波数を測定した。測定データのうち1000±100Hzの周波数の音を分析し、その時の音圧をモータの動作音とし、以下の基準で評価した。なお、モータ動作時と非動作時の差が10dB以内の場合には、測定データをJIS C 1509-1:2017に定められた手法によって補正した。
◎:1000±100Hzの周波数の音が発生した
×:1000±100Hzの周波数の音が発生しなかった
【0069】
(耐摩耗性の評価)
各試料を整流子片およびブラシ材形状にプレス加工し、小型モータに組み込んで評価を行った。印加電圧2.5V、負荷電流0.1A、負荷時回転数2000回転/分の条件でモータ試験を行い、モータ停止時間を測定し、以下の基準で評価した。
◎:7200時間超
○:5000時間以上7200時間未満
×:5000時間未満
【0070】
[結果]
評価結果を下記表1に示す。
【0071】
【0072】
上記表1から分かるように、実施例1~6の基板試料は、これらを用いてモータを構成した場合、可聴域の音を発生させることができ、かつ発生耐摩耗性に優れていた。
【0073】
これに対し、表面粗さ調整工程を行わないため、算術平均高さSaが本発明の適正範囲よりも小さく、山の頂点密度Spdが本発明の適正範囲よりも小さい比較例1の基板試料は、可聴域の音を発生しなかった。
【0074】
山の頂点密度Spdが本発明の適正範囲よりも大きい比較例2の試料は、耐摩耗性に劣っていた。
【0075】
算術平均高さSaが本発明の適正範囲よりも小さく、山の頂点密度Spdが本発明の適正範囲よりも小さい比較例3の基板試料は、可聴域の音を発生しなかった。
【0076】
Au合金層の変わりにAu層を備える比較例4の基板試料は、可聴域の音を発生しなかった。
【0077】
Au合金層を備えず、最表面にCuを備える比較例5の基板試料は、耐摩耗性に劣っていた。
【符号の説明】
【0078】
1 基材
2 Cu系箔層
3 Au合金層
4 Cuめっき層
5 Niめっき層
10 振動モータ用基板
20 上部ケース
21 下部ケース
22 永久磁石
23 電極
24 回転軸
25 導電性基板
26 コイル
27 胴体
28 振動子
29 ベアリング
30 ブラシ