(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】送信装置および送信方法
(51)【国際特許分類】
H04B 1/04 20060101AFI20240322BHJP
H03F 3/24 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
H04B1/04 A
H03F3/24
(21)【出願番号】P 2020058934
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 竜太
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 禎央
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05564087(US,A)
【文献】特開2006-246304(JP,A)
【文献】特開平08-307286(JP,A)
【文献】特開2002-009641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/02-1/04
H03F 1/00-3/45
H03F 3/50-3/52
H03F 3/62-3/64
H03F 3/68-3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を増幅して増幅信号を生成し、該増幅信号をインピーダンスが変動し得る負荷に出力する増幅器を有する送信装置であって、
前記増幅器と前記負荷との間の信号経路に設けられた、前記負荷からの反射信号の一部を分配信号として取り出す分配部と、
前記分配部で取り出された前記反射信号に基づいて、前記反射信号を打ち消す打消し信号を生成する打消し信号生成部と、
前記入力信号と前記打消し信号とを前記増幅器に入力する入力部と、
を備える送信装置。
【請求項2】
前記打消し信号は、前記打消し信号生成部が取得した前記反射信号に基づいて、前記増幅器と前記負荷との間の信号経路の所定の位置にて前記反射信号と反対向きに進行し該反射信号を前記位置で打ち消すように構成されている
請求項1に記載の送信装置。
【請求項3】
前記打消し信号生成部は、前記位置で前記反射信号と同一振幅かつ逆位相となるように、前記打消し信号を生成する
請求項2に記載の送信装置。
【請求項4】
前記位置と前記負荷との間の信号経路における前記反射信号の電力を検出する検出部を備え、
前記打消し信号生成部は、前記検出部で検出された前記電力に応じた振幅を有する前記打消し信号を生成する
請求項2に記載の送信装置。
【請求項5】
前記検出部は、前記位置と前記負荷との間の信号経路における前記反射信号と前記増幅信号との位相差を検出し、
前記打消し信号生成部は、前記検出部で検出された前記位相差に応じた位相を有する前記打消し信号を生成する
請求項4に記載の送信装置。
【請求項6】
前記打消し信号生成部は、前記検出部で検出された電力の情報が反映されたデジタル打消し信号を生成し、生成したデジタル打消し信号をアナログ変換して前記打消し信号を生成する
請求項4または5に記載の送信装置。
【請求項7】
前記打消し信号生成部は、前記検出された位相差の情報が反映された前記デジタル打消し信号を生成する
請求項6に記載の送信装置。
【請求項8】
前記打消し信号生成部は、生成したデジタル打消し信号とデジタル入力信号とを重畳してアナログ変換し、前記入力信号と前記打消し信号とを生成する
請求項6または7に記載の送信装置。
【請求項9】
前記分配部によって取り出された前記分配信号の電力を制御する電力制御部と、
前記位置と前記分配部との間の信号経路に設けられた、前記反射信号の前記位置への到達時間を遅延させる遅延部と、
を備え、
前記入力部は、前記電力制御部によって電力が制御された前記分配信号を前記打消し信号として前記入力信号とともに前記増幅
器に入力する
請求項
2に記載の送信装置。
【請求項10】
前記分配部と前記入力部と間の信号経路に設けられるとともに、前記分配信号を通過させ、少なくとも前記分配信号の2倍以上の周波数の電気信号を減衰させるフィルタを備える
請求項1に記載の送信装置。
【請求項11】
前記増幅器の温度を検出する温度検出部と、検出された前記温度をもとに前記電力制御部を制御する制御部とを備える
請求項
9に記載の送信装置。
【請求項12】
前記分配部によって取り出された前記分配信号の電力を制御する電力制御部と、
前記分配部によって取り出された前記分配信号を時間的に遅延させる遅延部と、
前記電力制御部によって電力が制御されるとともに、前記遅延部によって時間的に遅延された前記分配信号を前記打消し信号として前記入力信号とともに前記増幅器に入力させる入力部とを備える
請求項1~3のいずれか一つに記載の送信装置。
【請求項13】
増幅器が、入力信号を増幅して増幅信号を生成し、該増幅信号をインピーダンスが変動し得る負荷に出力する増幅ステップと、
前記増幅器と前記負荷との間の信号経路に設けられた分配部が、前記負荷からの反射信号の一部を分配信号として取り出す取出ステップと、
打消し信号生成部が、前記分配部で取り出された前記反射信号に基づいて、前記反射信号を打ち消す打消し信号を生成する打消し信号生成ステップと、
前記入力信号と前記打消し信号とを前記増幅器に入力する入力ステップと、
を含む送信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信装置および送信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波信号である無線信号を送信する送信装置において、増幅器の出力段にアイソレータやサーキュレータ(以下、アイソレータ等と記載する場合がある)を設けた構成が開示されている。送信装置と、その出力側に接続される外部負荷、たとえばアンテナ等との間で高周波におけるインピーダンス不整合が生じると、外部負荷から増幅器側に反射信号が戻ってくる。アイソレータ等は反射信号が増幅器に到達することを阻止する機能を有し、増幅器の劣化や性能(効率、利得、出力電力など)の低下を防止している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アイソレータ等は一般的に大型であり、かつ高価であるため、小型化、低価格化のためには構成から削除することが好ましい。送信装置と外部負荷との間でインピーダンス整合(たとえば特性インピーダンスとして50Ωで整合)させれば、反射信号の発生を防止できるので、アイソレータ等を省略することが可能である。
【0005】
しかしながら、外部負荷が、インピーダンスが変動し得る負荷である場合、インピーダンス整合をさせることは困難である。なお、インピーダンスが変動し得る負荷としてはアンテナがある。アンテナは、天候などの環境に応じてインピーダンスが変動し得るものである。その他の負荷であっても、その周囲の環境の変動に応じて、インピーダンスが変動する場合がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、小型化、低価格化に適するとともに、負荷からの反射信号の影響を低減できる送信装置および送信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様は、入力信号を増幅して増幅信号を生成し、該増幅信号をインピーダンスが変動し得る負荷に出力する増幅器を有する送信装置であって、前記増幅器と前記負荷との間の信号経路に設けられた、前記負荷からの反射信号の一部を分配信号として取り出す分配部と、前記分配部で取り出された前記反射信号に基づいて、前記反射信号を打ち消す打消し信号を生成する打消し信号生成部と、前記入力信号と前記打消し信号とを前記増幅器に入力する入力部と、を備える送信装置である。
【0008】
前記打消し信号は、前記打消し信号生成部が取得した前記反射信号に基づいて、前記増幅器と前記負荷との間の信号経路の所定の位置にて前記反射信号と反対向きに進行し該反射信号を前記位置で打ち消すように構成されているものでもよい。
【0009】
前記打消し信号生成部は、前記位置で前記反射信号と同一振幅かつ逆位相となるように、前記打消し信号を生成するものでもよい。
【0010】
前記位置と前記負荷との間の信号経路における前記反射信号の電力を検出する検出部を備え、前記打消し信号生成部は、前記検出部で検出された前記電力に応じた振幅を有する前記打消し信号を生成するものでもよい。
【0011】
前記検出部は、前記位置と前記負荷との間の信号経路における前記反射信号と前記増幅信号との位相差を検出し、前記打消し信号生成部は、前記検出部で検出された前記位相差に応じた位相を有する前記打消し信号を生成するものでもよい。
【0012】
前記打消し信号生成部は、前記検出部で検出された電力の情報が反映されたデジタル打消し信号を生成し、生成したデジタル打消し信号をアナログ変換して前記打消し信号を生成するものでもよい。
【0013】
前記打消し信号生成部は、前記検出された位相差の情報が反映された前記デジタル打消し信号を生成するものでもよい。
【0014】
前記打消し信号生成部は、生成したデジタル打消し信号とデジタル入力信号とを重畳してアナログ変換処理し、前記入力信号と前記打消し信号とを生成するものでもよい。
【0015】
前記分配部によって取り出された前記分配信号の電力を制御する電力制御部と、前記位置と前記分配部との間の信号経路に設けられた、前記反射信号の前記位置への到達時間を遅延させる遅延部と、を備え、前記入力部は、前記電力制御部によって電力が制御された前記分配信号を前記打消し信号として前記入力信号とともに前記増幅部に入力するものでもよい。
【0016】
前記分配部と前記入力部と間の信号経路に設けられるとともに、前記分配信号を通過させ、少なくとも前記分配信号の2倍以上の周波数の電気信号を減衰させるフィルタを備えるものでもよい。
【0017】
前記送信装置は、前記増幅器の温度を検出する温度検出部と、検出された前記温度をもとに前記電力制御部を制御する制御部とを備えるものでもよい。
【0018】
前記分配部によって取り出された前記分配信号の電力を制御する電力制御部と、前記分配部によって取り出された前記分配信号を時間的に遅延させる遅延部と、前記電力制御部によって電力が制御されるとともに、前記遅延部によって時間的に遅延された前記分配信号を前記打消し信号として前記入力信号とともに前記増幅器に入力させる入力部とを備えるものでもよい。
【0019】
本発明の一態様は、増幅器が、入力信号を増幅して増幅信号を生成し、該増幅信号をインピーダンスが変動し得る負荷に出力する増幅ステップと、前記増幅器と前記負荷との間の信号経路に設けられた分配部が、前記負荷からの反射信号の一部を分配信号として取り出す取出ステップと、打消し信号生成部が、前記分配部で取り出された前記反射信号に基づいて、前記反射信号を打ち消す打消し信号を生成する打消し信号生成ステップと、前記入力信号と前記打消し信号とを前記増幅器に入力する入力ステップと、を含む送信方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る送信装置および送信方法は、小型化、低価格化に適するとともに、負荷からの反射信号の影響を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る送信装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態2に係る送信装置の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態3に係る送信装置の構成を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態4に係る送信装置の構成を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態5に係る送信装置の構成を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態6に係る送信装置の構成を示す図である。
【
図7】
図7は、シミュレーション計算を行った構成を示す図である。
【
図8】
図8は、シミュレーション計算を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではない。さらに、図面の記載において、同一の部分には適宜同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実と異なる場合がある。さらに、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0023】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る送信装置の構成を示す図である。送信装置100は、アンテナAに高周波信号を出力する。アンテナAは、高周波信号を無線信号として送信する。
【0024】
送信装置100は、増幅器1と、分配器2と、デジタル処理部3と、DA変換器であるDAC4と、検出部5と、AD変換器であるADC6とを備えている。分配器2、デジタル処理部3、DAC4、検出部5、およびADC6は打消し信号生成部7を構成する。打消し信号生成部7は打消し信号生成ステップを実行する部分である。
【0025】
増幅器1は、たとえばトランジスタを備えており、高周波信号である入力信号を増幅して増幅信号S1を生成し、該増幅信号S1をアンテナAに出力する。アンテナAは、インピーダンスが変動し得る負荷の一例であり、当該インピーダンスの変動に応じ、増幅信号S1の一部を反射信号S2として増幅器1に向けて反射する。
【0026】
分配器2は、増幅器1とアンテナAとの間の信号経路において、位置P1よりもアンテナA側に設けられた分配部である。位置P1は増幅器1と分配器2との間の信号経路において任意の位置に設定できるが、分配器2よりも増幅器1に近い方が好ましい。分配器2は、端子2a、2b、および2cを少なくとも有する。分配器2は、増幅器1から端子2aに入力された増幅信号S1を通過させて、端子2bからアンテナAに出力する。また分配器2は、アンテナAから端子2bに入力された反射信号S2を通過させて、端子2aから増幅器1に出力する。また分配器2は、反射信号S2を通過させる際に、反射信号S2の一部を分配信号として取り出して端子2cから出力する。分配器2はたとえば方向性結合器を用いて構成できる。この場合、方向性結合器の未使用の端子は、たとえばインピーダンスが50Ωの抵抗器を介してグラウンドに接続され、無反射処理される。
【0027】
検出部5は、たとえばダイオードを備えており、端子2cから出力された分配信号の入力を受け付ける。これにより、検出部5は、位置P1とアンテナAとの間の信号経路における反射信号S2の振幅を検出し、これを用いて反射信号S2の電力を検出する。検出部5は、検出した電力の情報を含む電気信号をADC6に出力する。ADC6は、アナログ信号である電流信号をデジタル信号(たとえば電圧信号)に変換してデジタル処理部3に出力する。
【0028】
デジタル処理部3は、高周波信号のデジタル処理を行う。デジタル処理部3は、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)などのプロセッサと、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)などの、プログラムやデータを記憶する半導体メモリとを用いて構成できる。
【0029】
デジタル処理部3は、ハードウェアとソフトウェアとが協働して実現される機能部として、信号入力部3aと、分配部3bと、遅延部3cと、振幅制御部3dと、減算部3eと、制御部3fとを備えている。
【0030】
信号入力部3aは、デジタル信号の入力を受け付け、分配部3bに出力する。分配部3bは、デジタル信号を遅延部3cと減算部3eとに分配する。遅延部3cは、入力されたデジタル信号を時間的に遅延させ、振幅制御部3dに出力する。振幅制御部3dは、入力されたデジタル信号の振幅(たとえば電圧値)を制御し、減算部3eに出力する。制御部3fは、ADC6から入力されたデジタル信号に基づいて、振幅制御部3dを制御する。その結果、振幅制御部3dによって振幅が制御されたデジタル信号は、検出部5によって検出された反射信号S2の電力の情報が反映されたデジタル信号である。
【0031】
減算部3eは、分配部3bから入力されたデジタル信号に、振幅制御部3dから入力されたデジタル信号を、符号を反転させて加算する減算処理を行う。分配部3bから入力されたデジタル信号は、増幅器1で増幅すべき入力信号に対応するデジタル入力信号である。振幅制御部3dから入力されたデジタル信号を、符号を反転させて生成されたデジタル信号は、デジタル打消し信号に相当する。デジタル打消し信号も、検出部5によって検出された反射信号S2の電力の情報が反映されたデジタル信号である。
【0032】
DAC4は、減算部3eから出力されたデジタル信号をアナログ変換処理して増幅器1に出力する。減算部3eから出力されたデジタル信号は、デジタル入力信号とデジタル打消し信号とが重畳されたデジタル信号といえる。したがって、DAC4は、デジタル打消し信号とデジタル入力信号とを重畳してアナログ変換処理し、入力信号と打消し信号とを生成する。
【0033】
増幅器1は、入力信号を増幅して増幅信号を生成して出力する増幅ステップを行うとともに、打消し信号を増幅して増幅した打消し信号を出力する。増幅信号S1と、増幅された打消し信号S3とは、増幅器1とアンテナAとの間の信号経路をアンテナAに向かって進行する。
【0034】
打消し信号S3は、増幅器1とアンテナAとの間の信号経路を反射信号S2とは反対向きに進行し、位置P1において反射信号S2と所定の時刻において同時に到達する。ここで、打消し信号S3が波形W3のような波形を有し、反射信号S2が波形W2のような波形を有するとすると、波形W3は、位置P1で波形W2と同一振幅かつ逆位相の波形である。その結果、打消し信号S3は位置P1で反射信号S2を打ち消す。その結果、反射信号S2が増幅器1に入力されることが阻止される。
【0035】
打消し信号S3は、反射信号S2をもとに生成される。具体的には、打消し信号S3の振幅は、検出部5で検出された、反射信号S2の電力に応じて、制御部3fが振幅制御部3dを制御して増減し、反射信号S2の振幅と同一になるように制御されたものである。また、打消し信号S3の位相は、遅延部3cにより与えられる時間遅延によって設定される。遅延部3cにより与えられる遅延時間は、打消し信号S3の位相が位置P1において反射信号S2と逆位相になるように、送信装置100とアンテナAとにおける信号経路の特性や打消し信号生成部7の特性に応じて予め設定される。
【0036】
たとえば、増幅器1の利得をA[dB]とし、分配器2における反射信号S2に対する分配信号の電力比をC1[dB]とし、検出部5が検出した分配信号の電力値をPref[dBm]とし、振幅制御部3dに入力されるデジタル信号の電力に相当する値をPin[dBm]とすると、制御部3fは、振幅制御部3dが入力されるデジタル信号に対して、下記式(1)の電力減衰量ATT[dB]を設定する。
ATT=Pref-Pin-A-C1 ・・・ (1)
【0037】
以上のように構成された送信装置100では、打消し信号S3によって、アンテナAで生じた反射信号S2が増幅器1に入力されることが抑制される。また、送信装置100では、打消し信号生成部7が反射信号S2の電力を検出して打消し信号S3の振幅に反映させる。その結果、アンテナAのインピーダンスが変動して反射信号S2の電力が変動したとしても、その変動に関わらず反射信号S2が増幅器1に入力されることが抑制される。
【0038】
(実施形態2)
図2は、実施形態2に係る送信装置の構成を示す図である。送信装置100Aは、実施形態1に係る送信装置100において、分配器2を分配器2Aに置き換え、デジタル処理部3をデジタル処理部3Aに置き換え、検出部5を検出部5Aに置き換えた構成を有する。分配器2A、デジタル処理部3A、DAC4、検出部5A、およびADC6は打消し信号生成部7Aを構成する。以下の説明では、送信装置100と送信装置100Aとで共通の構成については、説明を適宜省略する。
【0039】
分配器2Aは、端子2a、2b、2c、および2dを有する。分配器2Aは、増幅器1から端子2aに入力された増幅信号S1を通過させて、端子2bからアンテナAに出力する。また分配器2Aは、アンテナAから端子2bに入力された反射信号S2を通過させて、端子2aから増幅器1に出力する。また分配器2Aは、反射信号S2を通過させる際に、反射信号S2の一部を分配信号である第1分配信号として取り出して端子2cから出力する。また分配器2Aは、増幅信号S1を通過させる際に、増幅信号S1の一部を分配信号である第2分配信号として取り出して端子2dから出力する。分配器2Aはたとえば方向性結合器を用いて構成できる。
【0040】
検出部5Aは、端子2c、2dのそれぞれから出力された第1、第2分配信号の入力を受け付ける。これにより、検出部5は、位置P1とアンテナAとの間の信号経路における反射信号S2の電力および増幅信号S1と反射信号S2との位相差を検出する。検出部5Aは、検出した電力および位相差の情報を含む電気信号をADC6に出力する。ADC6は、アナログ信号である電流信号をデジタル信号に変換してデジタル処理部3Aに出力する。
【0041】
デジタル処理部3Aは、デジタル処理部3において、遅延部3cを遅延制御部3Acに置き換え、制御部3fを制御部3Afに置き換えた構成を有する。デジタル処理部3Aは、デジタル処理部3と同様に、プロセッサと半導体メモリとを用いて構成できる。
【0042】
デジタル処理部3Aは、デジタル処理部3の機能に加えて、遅延制御部3Acが、入力されたデジタル信号の時間的な遅延量を制御可能に構成されている。遅延量は、検出部5Aで検出された位相差に応じて、制御部3Afが遅延制御部3Acを制御することによって決定される。その結果、打消し信号生成部7Aは、検出された位相差の情報が反映されたデジタル打消し信号を生成し、これをもとに、検出された位相差に応じた位相を有する打消し信号S3を生成する。
【0043】
その結果、打消し信号S3は、振幅が検出部5Aで検出された反射信号S2の電力に応じて振幅制御部3dにより反射信号S2の振幅と同一になるように制御されたものであり、位相が検出部5Aで検出された反射信号S2の位相に応じて遅延制御部3Acにより反射信号S2の位相と逆位相になるように、より正確に制御されたものである。打消し信号S3の位相は、遅延部3cにより与えられる時間遅延によって設定される。
【0044】
以上のように構成された送信装置100Aでは、送信装置100と同様に、アンテナAのインピーダンスが変動して反射信号S2の電力が変動したとしても、その変動に関わらず反射信号S2が増幅器1に入力されることが抑制される。さらには、遅延制御部3Acに遅延時間を予め初期設定したとして、仮に与えるべき遅延時間が初期設定から変動したとしても、遅延制御部3Acが遅延時間を制御して増減し、打消し信号S3の位相が位置P1において反射信号S2と逆位相になる状態をより確実に実現できる。
【0045】
(実施形態3)
図3は、実施形態3に係る送信装置の構成を示す図である。送信装置100Bは、増幅器1と、分配器2と、入力部8と、電力合成器9と、遅延部10と、ループ部11と、電力制御部12とを備えている。分配器2、ループ部11および電力制御部12は打消し信号生成部7Bを構成する。以下の説明では、送信装置100と送信装置100Bとで共通の構成については、説明を適宜省略する。
【0046】
入力部8は、高周波信号である入力信号を受け付けて電力合成器9に出力する。電力合成器9は、端子9a、9b、および9cを備え、端子9aに入力された入力信号を端子9cから増幅器1に出力する。
【0047】
増幅器1は、入力信号を増幅して増幅信号S1を生成し、該増幅信号S1をアンテナAに出力する。アンテナAは、増幅信号S1の一部を反射信号S2として増幅器1に向けて反射する。
【0048】
分配器2は、増幅器1から端子2aに入力された増幅信号S1を通過させて、端子2bからアンテナAに出力する。また分配器2は、アンテナAから端子2bに入力された反射信号S2を通過させて、端子2aから増幅器1に出力する。また分配器2は、反射信号S2を通過させる際に、反射信号S2の一部を分配信号として取り出して端子2cから出力する。
【0049】
ループ部11は、分配器2の端子2cと電力合成器9の端子9bとの間の信号経路である。電力制御部12はループ部11の途中に設けられており、入力された高周波信号の電力を制御する。電力制御部12は、たとえば入力された高周波信号の電力を所定量だけ減衰させて出力する。
【0050】
分配信号は、ループ部11を分配器2から電力合成器9に向かって進行する。分配信号は帰還信号とも呼ばれ得る。電力制御部12は、分配信号の電力を減衰させて電力合成器9に出力する。電力合成器9は、端子9bに入力された分配信号を端子9cから増幅器1に出力する。すなわち、電力合成器9は入力信号と分配信号との電力を合成して出力する。電力合成器9は電力が制御された分配信号を増幅器1に入力させる入力部の一例である。
【0051】
増幅器1は、電力が制御された分配信号を増幅し、打消し信号S4として出力する。打消し信号S4は、増幅器1とアンテナAとの間の信号経路をアンテナAに向かって進行する。
【0052】
打消し信号S4は、増幅器1とアンテナAとの間の信号経路を反射信号S2とは反対向きに進行し、位置P1において反射信号S2と所定の時刻において同時に到達する。なお、反射信号S2は、信号経路としての遅延部10を進行してから位置P1に到達する。遅延部10は、たとえば、反射信号S2が遅延部10に入力してから出力するまでの時間が所定の時間(遅延時間)となるように電気長が設定された伝送路からなる。これにより、遅延部10は、反射信号S2の位置P1への到達時間を遅延させる。
【0053】
ここで、打消し信号S4が波形W4のような波形を有し、反射信号S2が波形W2のような波形を有するとすると、波形W4は、位置P1で波形W2と同一振幅かつ逆位相の波形である。その結果、打消し信号S4は位置P1で反射信号S2を打ち消す。その結果、反射信号S2が増幅器1に入力されることが阻止される。
【0054】
打消し信号S4は、反射信号S2の一部である分配信号を、ループ部11、電力制御部12、電力合成器9、増幅器1を通過させて生成された信号である。打消し信号S4の電力は、検出部5で検出された反射信号S2の電力に応じて、反射信号S2の振幅と同一になるように制御されたものである。また、位置P1における反射信号S2の位相と打消し信号S4の位相との関係は、ループ部11および遅延部10により与えられる時間遅延によって設定される。ループ部11および遅延部10により与えられる時間遅延は、打消し信号S4の位相が位置P1において反射信号S2と逆位相になるように、予め設定される。
【0055】
たとえば、増幅器1の利得をA[dB]とし、分配器2における反射信号S2に対する分配信号の電力比をC1[dB]とし、電力合成器9における電力損失をC2[dB]とすると、電力制御部12は、下記式(2)の電力減衰量ATT[dB]に設定される。
ATT=-A-C1-C2 ・・・ (2)
【0056】
また、たとえば、遅延部10が与える遅延時間に対応する位相をφdelay[degree]で表し、端子2aから見た、反射信号S2の遅延部10に入力する時点での位相をφ0[degree]とし、ループ部11などにより分配信号が打消し信号S4として位置P1に到達するまでに与えられる遅延時間に対応する位相をφFB[degree]で表すと、以下の式(3)の関係が成り立つことが好ましい。
φdelay=-φ0+φFB±180 ・・・ (3)
【0057】
以上のように構成された送信装置100Bでは、打消し信号S4によって、アンテナAで生じた反射信号S2が増幅器1に入力されることが抑制される。また、送信装置100Cは、アナログ回路のみで構成することが可能である。
【0058】
(実施形態4)
図4は、実施形態4に係る送信装置の構成を示す図である。送信装置100Cは、実施形態3に係る送信装置100Bにフィルタ13を追加した構成を有する。分配器2、ループ部11および電力制御部12は打消し信号生成部7Cを構成する。
【0059】
フィルタ13は、分配器2と電力合成器9との間の信号経路に設けられており、本実施形態ではループ部11における電力制御部12よりも分配器2側に設けられているがこれに限られない。即ち、フィルタ13を電力制御部12よりも電力合成器9側に設ける様にしてもよい。
【0060】
フィルタ13は、分配信号を通過させ、少なくとも分配信号の2倍以上の周波数の電気信号を減衰させるフィルタである。
【0061】
以上のように構成された送信装置100Cでは、打消し信号S4によって、アンテナAで生じた反射信号S2が増幅器1に入力されることが抑制される。また、送信装置100Cでは、送信装置100CやアンテナAで2倍波のような高次成分が発生した場合に、全ての高次成分については反射信号が打消し信号によって打ち消されるような位相関係となる構成とはなっていない。しかしながら、フィルタ13が、分配信号の2倍以上の周波数の電気信号を減衰させるので、高次成分が、ループ部11を含んで構成された帰還回路によって発振する、というようなことが抑制される。
【0062】
(実施形態5)
図5は、実施形態5に係る送信装置の構成を示す図である。送信装置100Dは、実施形態3に係る送信装置100Bにおいて、電力制御部12を可変電力制御部12Dに置き換え、制御部14および温度検出部16を追加した構成を有する。分配器2、ループ部11、可変電力制御部12D、制御部14および温度検出部16は打消し信号生成部7Dを構成する。
【0063】
可変電力制御部12Dは、分配器2から出力された分配信号の電力を減衰させて電力合成器9に出力する。温度検出部16は、たとえばサーミスタを備えており、増幅器1の温度を検出し、温度の情報を含む電気信号を制御部14に出力する。
【0064】
制御部14は、温度検出部16から入力された電気信号をもとに、可変電力制御部12Dにおける分配信号の電力の減衰量を制御する。制御部14は、ADCと、DACと、プロセッサと、半導体メモリとを用いて構成できる。ADCは温度検出部16から入力された電気信号をAD変換する。DACは制御部14の演算結果として得られる可変電力制御部12Dに対する指示信号をDA変換し、可変電力制御部12Dに出力する。
【0065】
ここで、増幅器1は、その温度が変動すると利得も変動する。そこで、送信装置100Dでは、検出された増幅器1の温度をもとに、可変電力制御部12Dにおける分配信号の電力の減衰量を制御することで、増幅器1の温度に応じて、反射信号S2を打ち消すのに好適な電力の打消し信号S4を生成できる。
【0066】
たとえば、増幅器1の利得を温度Tの関数であるA(T)[dB]とし、式(2)と同様にして、可変電力制御部12Dは、下記式(4)の電力減衰量ATT(T)[dB]に設定される。したがって電力減衰量ATT(T)はA(T)の変動に応じて制御される。
ATT(T)=-A(T)-C1-C2 ・・・ (4)
【0067】
以上のように構成された送信装置100Dでは、打消し信号S4によって、アンテナAで生じた反射信号S2が増幅器1に入力されることが抑制される。また、増幅器1の温度変動に応じた好適な打消し信号S4を生成できる。
【0068】
(実施形態6)
図6は、実施形態6に係る送信装置の構成を示す図である。送信装置100Eは、実施形態3に係る送信装置100Bにおいて、電力合成器9、ループ部11、および電力制御部12を削除し、検出部5、可変電力制御部12E、遅延部13E、制御部14E、電力分配器17、電力合成器18、およびループ部19を追加した構成を有する。検出部5、可変電力制御部12E、遅延部13E、制御部14E、電力分配器17、電力合成器18、およびループ部19は打消し信号生成部7Dを構成する。
【0069】
電力分配器17は、端子17a、17b、および17cを備える。電力合成器18は、端子18a、18b、および18cを備える。
【0070】
電力分配器17は、入力部8から端子17aに入力された入力信号を端子17bから電力合成器18の端子18aに出力し、入力信号の一部を分配信号として端子17cから遅延部13Eに出力する。
【0071】
遅延部13Eは、たとえば、分配信号が遅延部13Eに入力してから出力するまでの時間が所定の遅延時間となるように電気長が設定された伝送路からなる。これにより、遅延部13Eは、分配信号を時間的に遅延させる。
【0072】
ループ部19は、遅延部13Eと可変電力制御部12Eとの間の信号経路である。可変電力制御部12Eは、ループ部19から入力された分配信号の電力を制御し、可変の量だけ減衰させて電力合成器18の端子18cに出力する。
【0073】
電力合成器18は、電力が制御された分配信号の電力と入力信号の電力とを合成して端子18cから増幅器1に出力する。増幅器1は、電力が制御された分配信号を増幅し、打消し信号S4として出力する。
【0074】
検出部5は、分配器2の端子2cから出力された分配信号の入力を受け付ける。これにより、検出部5は、位置P1とアンテナAとの間の信号経路における反射信号S2の振幅を検出し、これを用いて反射信号S2の電力を検出する。検出部5は、検出した電力の情報を含む電気信号を制御部14Eに出力する。制御部14Eはアナログ回路で構成できる。
【0075】
制御部14は、入力された電気信号における、検出部5が検出した電力の情報をもとに、可変電力制御部12Eが分配信号に与える減衰量を制御する。
【0076】
以上のように構成された送信装置100Eでは、打消し信号S4によって、アンテナAで生じた反射信号S2が増幅器1に入力されることが抑制される。また、検出した反射信号S2の電力に応じて可変電力制御部12Eにおける減衰量を制御するので、反射信号S2の電力に応じた好適な打消し信号S4を生成できる。
【0077】
上述した実施形態6では、実施形態3乃至5と同様に遅延部10を有する構成としているが、実施形態1および2の例と同様に、電力が制御された分配信号と入力信号とを合成して端子18cから増幅器1に出力することができる。このため、
図1、
図2等で既に示したように、遅延部10を設けずに増幅器1と分配器2の端子2aとが接続される様にしてもよい。
【0078】
(シミュレーション計算)
ここで、入力信号が、インピーダンスが変動し得る負荷に直接入力される構成と、打消し信号が生成される構成とで電力のシミュレーション計算を行った。
【0079】
図7は、シミュレーション計算を行った構成を示す図である。この装置1000は、入力部1001と、負荷1002と、要素部1100とを備える。要素部1100は、電力合成器1110と、方向性結合器1120と、抵抗器1130と、増幅器1140と、ループ部1150とを備える。
【0080】
入力部1001から入力された高周波信号は、端子1111から電力合成器1110に入力され、端子1113から方向性結合器1120に入力される。方向性結合器1120は、端子1121から入力された高周波信号を端子1122から負荷1002に出力する。負荷1002はインピーダンスが変動し得る負荷に相当し、一端がグラウンドに接続されている。また方向性結合器1120は、負荷1002から端子1122に入力された反射信号を端子1121へ通過させる。また分配器2は、反射信号を通過させる際に、反射信号の一部を分配信号として取り出して端子1123からループ部1150に出力する。方向性結合器1120の未使用の端子1124は、インピーダンスが50Ωの抵抗器1130を介してグラウンドに接続され、無反射処理される。
【0081】
ループ部1150は、方向性結合器1120の端子1123と電力合成器1110の端子1112との間に設けられた信号経路であり、途中に増幅器1140が設けられている。ループ部1150を進行し増幅器1140で増幅された分配信号は、電力合成器1110の端子1112から入力し、端子1113から出力する。すなわち、この装置1000は、
図3に示す送信装置100Bの増幅器1と電力制御部12とを増幅器1140として一体化した構成ということができる。
【0082】
図7に示す装置1000と、装置1000において要素部1100を削除して入力部1001と負荷1002とを直接接続した装置(直結装置)において、入力部1001から周波数が1.8GHzの高周波信号を入力したときのSパラメータを計算し、|S11|であるリターンロスを求めた。なお、負荷1002のインピーダンスZ
Lは5Ωから500Ωの間で変化させた。装置1000の各要素の特性パラメータは、周波数が1.8GHzで最適に動作するように設定した。
【0083】
図8は、シミュレーション計算を示す図であり、Z
Lに対するリターンロスを示している。線L1は直結装置の特性、線L2は装置1000の特性を示している。
図8に示すように、直結装置では、インピーダンスが50Ω以外ではリターンロスが非常に高かったが、装置1000ではインピーダンスが5~500Ωの広範囲にわたって低いリターンロスであった。
【0084】
なお、上記実施形態において、打消し信号は反射信号と同一振幅、逆位相であるが、振幅は完全に同一に限られず、位相は完全に逆であるものに限られない。たとえば、増幅器に入力される反射信号の電力が許容範囲程度であれば、振幅は完全に同一に限られず、位相は完全に逆であるものに限られない。
【0085】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。たとえば、
図5に示す送信装置100Dに対して、
図4に示すようなフィルタ13を設けてもよい。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 増幅器
2、2A 分配器
2a、2b、2c、2d、9a、9b、9c、17a、17b、17c、18a、18b、18c 端子
3、3A デジタル処理部
3a 信号入力部
3b 分配部
3c、10、13E 遅延部
3d 振幅制御部
3e 減算部
3f、3Af、14、14E 制御部
3Ac 遅延制御部
5、5A 検出部
7、7A、7B、7C、7D 打消し信号生成部
8 入力部
9 電力合成器
11、19 ループ部
12 電力制御部
12D、12E 可変電力制御部
13 フィルタ
16 温度検出部
17 電力分配器
18 電力合成器
100、100A、100B、100C、100D、100E 送信装置
A アンテナ
S1 増幅信号
S2 反射信号
S3、S4 打消し信号
W2、W3、W4 波形