(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】空気分離装置及び酸素ガス製造方法
(51)【国際特許分類】
F25J 3/04 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
F25J3/04 101
(21)【出願番号】P 2020062733
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 新
(72)【発明者】
【氏名】湯澤 茂
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-112022(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102013002835(DE,A1)
【文献】米国特許第04732597(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25J1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料空気を低温で蒸留し、少なくとも高圧窒素ガスと高圧酸素富化液化空気とに分離する高圧塔と、
少なくとも前記高圧酸素富化液化空気を低温で蒸留し、低圧窒素ガスと低圧液化酸素とに分離する低圧塔と、
前記高圧窒素ガスと前記低圧液化酸素とを間接的に熱交換し、前記高圧窒素ガスを液化して高圧液化窒素を生成し、前記低圧液化酸素を気化して低圧酸素ガスを生成する第1凝縮器と、
前記原料空気の一部をさらに昇圧する空気昇圧機と、
前記低圧塔から抜き出した前記低圧液化酸素の一部を昇圧する液化酸素ポンプと、
前記空気昇圧機で昇圧された昇圧原料空気と、前記液化酸素ポンプによって昇圧された高圧液化酸素とを間接的に熱交換し、前記昇圧原料空気を液化して昇圧液化原料空気を生成し、前記高圧液化酸素を気化して高圧酸素ガスを生成する主熱交換器と、
前記低圧塔から抜き出した前記低圧液化酸素の一部と、前記原料空気の一部とを間接的に熱交換し、前記原料空気を液化して原料液化空気を生成し、前記低圧液化酸素を気化して低圧酸素ガスを生成する第2凝縮器と
、前記第2凝縮器を収容する気液分離器とを備え
、
前記低圧塔から前記低圧液化酸素の一部を抜き出す経路として、前記空気昇圧機及び前記液化酸素ポンプが共に稼動しているときに、前記気液分離器を介することなく、前記低圧液化酸素の一部を前記液化酸素ポンプによって加圧した後に回収する経路と、前記空気昇圧機及び前記液化酸素ポンプの少なくとも一方が停止しているときに、前記低圧液化酸素の一部を前記気液分離器に導入した後に回収する経路とが、別々に設けられている、空気分離装置。
【請求項2】
前記第1凝縮器が、流下液膜式の凝縮器である、請求項1に記載の空気分離装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の空気分離装置を用いて、酸素ガスを製造する方法であって、
前記空気昇圧機及び前記液化酸素ポンプの少なくとも一方が停止している場合、前記低圧塔から抜き出した前記低圧液化酸素を前記第2凝縮器で気化させ、低圧酸素ガスとして供給する、酸素ガス製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気分離装置及び酸素ガス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高圧酸素を直接採取可能な空気分離装置が開示されている。
図2は、従来の空気分離装置の構成を示す系統図である。
図2に示すように、従来の空気分離装置60では、低圧塔106の底部から経路L109に抜き出された低圧液化酸素が液化酸素ポンプ111で昇圧された後、主熱交換器104において経路L102を流れる昇圧原料空気との熱交換により、高圧製品酸素ガスが製造される。なお、経路L102には空気昇圧機112が配設されており、空気圧縮機101によって高圧にされた原料空気をさらに昇圧する。また、経路L102を流れる昇圧された原料空気は、主熱交換器104により冷却されて液化原料空気となり、バルブV101により減圧された後に高圧塔105の中間部に導入される。
【0003】
しかしながら、従来の空気分離装置60では、液化酸素ポンプ111及び空気昇圧機112の少なくとも一方が停止した場合に製品高圧酸素ガスを採取できない。以後、液化酸素ポンプ111、空気昇圧機112の少なくとも一方が停止しているときをを「回転機械停止時」と言い、液化酸素ポンプ111及び空気昇圧機112共に稼動しているときを「通常運転時」と言う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の空気分離装置60において、液化酸素ポンプ111が何らかの理由で停止すると、低圧塔106の底部から経路L109に抜き出しされた低圧液化酸素を液化酸素ポンプ111で昇圧することができなくなる。従来の空気分離装置60において物質収支を考慮すると、低圧塔106から低圧酸素ガスを抜き出して製品酸素ガスとする方法もある。通常運転時では、経路L102によって液化状態で高圧塔105に導入されていた昇圧原料空気(液化原料空気)は、回転機械停止時では、経路L102によって供給される昇圧原料空気は、気化する対象(液化酸素)が無いために自身は液化することが無く、ガス状態で高圧塔105に導入されることになる。
【0006】
すなわち、従来の空気分離装置60では、液化酸素ポンプ111あるいは空気昇圧機112の停止時に、高圧塔105に導入される原料空気は、略全量ガス状態なので、高圧塔105を上昇する原料空気が多くなり、高圧塔105の負荷が通常運転時を超過するため、高圧塔105に供給する原料空気の供給量を減量する必要があり、製品酸素ガスの製造量も減少するという課題があった。
【0007】
一方、従来の空気分離装置60において、空気昇圧機112が何らかの理由で停止すると、低圧塔106の底部から経路L109に抜き出しされた低圧液化酸素を気化させる熱源がないので、液化酸素を液化酸素ポンプ111で昇圧することができなくなる。
【0008】
その場合であっても、従来の空気分離装置60において物質収支を考慮すると、低圧塔106から低圧酸素ガスを抜き出して製品酸素ガスとして抜き出す方法もある。その場合であっても、所定の酸素流量を確保する為には、所定の原料空気を高圧塔に導入する必要があり、前述の問題が生じる。
【0009】
一方、これを回避するために、液化酸素ポンプ111あるいは空気昇圧機112の停止時に備え、高圧塔105の径を大きく設計することも考えられる。しかし、精留塔の一般的な運転範囲が100(設計運転)~60%負荷運転であり、高圧塔105を通常の内部昇圧プロセスの運転をする場合、従来プロセスでは精留塔にとっては70%程度負荷の減量運転となり、減量運転範囲が小さくなり無駄となるデメリットがある。
【0010】
また、低圧塔106の液溜部には原料空気中に含まれる炭化水素が溜まる傾向があるが、通常運転時は低圧塔106の液溜部から液化酸素と同伴されるため、液溜部の炭化水素の濃度は一定となる。一方、液化酸素ポンプ111あるいは空気昇圧機112の停止時に、低圧塔106より酸素ガスを採取する場合、低圧塔106の液溜部に炭化水素が濃縮される傾向なので、何らかの対策が必要となる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、空気昇圧機及び液化酸素ポンプのいずれかが停止した場合でも連続運転が可能であり、製品酸素ガスを供給可能な空気分離装置、及びこれを用いる酸素ガス製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の構成を有する。
[1] 原料空気を低温で蒸留し、少なくとも高圧窒素ガスと高圧酸素富化液化空気とに分離する高圧塔と、
少なくとも前記高圧酸素富化液化空気を低温で蒸留し、低圧窒素ガスと低圧液化酸素とに分離する低圧塔と、
前記高圧窒素ガスと前記低圧液化酸素とを間接的に熱交換し、前記高圧窒素ガスを液化して高圧液化窒素を生成し、前記低圧液化酸素を気化して低圧酸素ガスを生成する第1凝縮器と、
前記原料空気の一部をさらに昇圧する空気昇圧機と、
前記低圧塔から抜き出した前記低圧液化酸素の一部を昇圧する液化酸素ポンプと、
前記空気昇圧機で昇圧された昇圧原料空気と、前記液化酸素ポンプによって昇圧された高圧液化酸素とを間接的に熱交換し、前記昇圧原料空気を液化して昇圧液化原料空気を生成し、前記高圧液化酸素を気化して高圧酸素ガスを生成する主熱交換器と、
前記低圧塔から抜き出した前記低圧液化酸素の一部と、前記原料空気の一部とを間接的に熱交換し、前記原料空気を液化して原料液化空気を生成し、前記低圧液化酸素を気化して低圧酸素ガスを生成する第2凝縮器とを備える、空気分離装置。
[2] 前記第1凝縮器が、流下液膜式の凝縮器である、前項[1]に記載の空気分離装置。
[3] 前項[1]又は2に記載の空気分離装置を用いて、酸素ガスを製造する方法であって、
前記空気昇圧機及び前記液化酸素ポンプの少なくとも一方が停止している場合、前記低圧塔から抜き出した前記低圧液化酸素を前記第2凝縮器で気化させ、低圧酸素ガスとして供給する、酸素ガス製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の空気分離装置及び酸素ガス製造方法は、空気昇圧機及び液化酸素ポンプのいずれかが停止した場合でも連続運転が可能であり、製品酸素ガスを供給可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態である空気分離装置の構成を示す系統図である。
【
図2】従来の空気分離装置の構成を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した一実施形態である空気分離装置の構成について、通常運転時の空気分離方法(空気分離装置の運転方法)と併せて、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、各構成要素のレイアウトは実際と異なる場合がある。
【0016】
本発明において、「経路」とは、内側の空間に流体を流通可能な流路(ライン)をいう。経路には、供給経路、導入経路、導出経路、排出経路、回収経路等が含まれる。経路には、1以上の分岐や合流が含まれていてもよい。経路は、金属製又は樹脂製の、1以上の配管から構成される。
また、経路を流れる流体は、1種類の気体(ガス)、2種以上の混合気体(ガス)、1種類の液体、2種以上の混合液体、及びこれらの混合流体を含む。
バルブは、開閉バルブ、減圧バルブ、流量調整バルブ等を含む。
【0017】
<空気分離装置>
図1は、本発明の一実施形態である空気分離装置の構成の一例を示す系統図である。
図1に示すように、本実施形態の空気分離装置50は、空気圧縮機1、空気予冷器2、空気精製器3、主熱交換器4、高圧塔5、低圧塔6、第1凝縮器7、気液分離器8、第2凝縮器9、過冷器10、液化酸素ポンプ11、空気昇圧機12、空気予冷器13、膨張タービン14、経路L1~L13、バルブV1~V4、及びコールドボックスCLを備える。
【0018】
本実施形態の空気分離装置50は、コールドボックスCLの内側に、主熱交換器4、高圧塔5、低圧塔6、第1凝縮器7、気液分離器8、第2凝縮器9、過冷器10、及び液化酸素ポンプ11を収容する。
本実施形態の空気分離装置50は、通常運転時には経路L9より製品高圧酸素ガスを取り出し、空気昇圧機12及び液化酸素ポンプ11のいずれかが停止した場合には、経路L11より製品低圧酸素ガスを取り出すことが可能な装置である。
【0019】
空気圧縮機1は、原料空気を圧縮し、圧縮された原料空気は、空気予冷器2に供給される。
【0020】
空気予冷器2によって圧縮熱が取り除かれた原料空気は、経路L1を介して、空気精製器3に供給される。
【0021】
空気精製器3は、圧縮熱が取り除かれた原料空気中に含まれる不純物(具体的には、水、二酸化炭素等)を除去する。空気精製器3には、不純物を吸着除去するための吸着剤が充填されている。
【0022】
空気精製器3によって不純物が除去された原料空気は、一部が経路L1Bに供給され、残部が経路L2,L3にそれぞれ分岐される。また、経路L1Bに供給された原料空気は、主熱交換器4に供給されて冷却された後、その一部が経路L1Aを介して高圧塔5の下部に導入され、残部が経路L1から分岐された経路L4Aに供給される。
【0023】
経路L2を介して導入された原料空気は、空気昇圧機12によってさらに圧縮され(昇圧原料空気)、空気予冷器13に導入される。
【0024】
空気予冷器13によって圧縮熱が取り除かれた昇圧原料空気は、主熱交換器4及びバルブV1を経由した後、経路L2Aを介して、昇圧液化原料空気として高圧塔5の中間部~下部に供給される。
【0025】
主熱交換器4は、経路L1B,L2,L3,L8,L9,L11に亘るように配置されている。主熱交換器4には、経路L1B,L2,L3,L8,L9,L11がそれぞれ通過する。主熱交換器4では、経路L1B,L2,L3を流れる高温流体と、経路L8,L9,L11を流れる低温流体と、が間接的に熱交換することで、各高温流体が冷却され、各低温流体が加温される。
【0026】
なお、本実施形態の空気分離装置50では、定常運転時、主熱交換器4において、経路L2を流れる昇圧原料空気と、経路L9を流れる高圧液化酸素とが間接的に熱交換される。これにより、主熱交換器4において、経路L2では、昇圧原料空気が液化して昇圧液化原料空気が生成し、経路L9では、高圧液化酸素が気化して高圧酸素ガスが生成する。
【0027】
経路L3に分岐した原料空気は、膨張タービンブロワ15に導入され昇圧される。昇圧された原料空気は、図示しない膨張タービンブロワクーラー冷却され、主熱交換器4に導入される。主熱交換器4に導入された原料空気は、主熱交換器4の中間部分から抜き出され膨張タービン14に導入される。膨張タービン14によって断熱膨張した原料空気は、装置の運転に必要な寒冷を発生させ、低圧塔6の中間部に供給される。
【0028】
高圧塔5には、経路L1A,L2A,L5,L6,L7が、それぞれ接続されている。
高圧塔5は、経路L1Aから供給される高圧の原料空気と、経路L2Aから供給される昇圧液化原料空気と、経路L5から供給される高圧液化窒素とを低温で蒸留して、高圧窒素ガスと高圧酸素富化液化空気とに分離する。この低温での蒸留により、高圧塔5の上部には高圧窒素ガスが濃縮され、高圧塔5の下部には高圧酸素富化液化空気が濃縮される。
【0029】
高圧塔5の上部に濃縮した高圧窒素ガスは、経路L5に抜き出され、低圧塔6の低部に設置された第1凝縮器7に供給され、後述する液化酸素との熱交換によって冷却、液化されて高圧液化窒素となる。高圧液化窒素は、経路L13に一部が分岐し、高圧液化窒素の残部は経路L5によって高圧塔5の上部に導入される。
【0030】
なお、本実施形態の空気分離装置50は、後述するように、空気昇圧機及び液化酸素ポンプのいずれかが停止した場合でも低圧塔6の下部~底部から低圧液化酸素を抜き出して製品低圧酸素ガスとして供給する。このため、本実施形態の空気分離装置50では、低圧塔6の下部~底部に貯留される低圧液化酸素中に炭化水素が濃縮されにくい。したがって、本実施形態の空気分離装置50によれば、第1凝縮器7として流下液膜式の凝縮器を適用することが可能である。第1凝縮器7として流下液膜式の凝縮器を適用することで、高圧塔の運転圧力を低くする効果が得られる。
【0031】
経路L13に導入された高圧液化窒素は、過冷器10に導入され、後述する低圧窒素ガスとの熱交換によって、冷却される。過冷器10からの高圧液化窒素はバルブV4によって減圧され、低圧塔6に供給される。
【0032】
高圧塔5の中間部から高圧液化空気は、経路L6から抜き出され、過冷器10で冷却され、バルブV2で減圧した後に低圧塔6に供される。
【0033】
高圧塔5の底部の高圧酸素富化液化空気は、経路L7に抜き出され、過冷器10で冷却され、バルブV3で減圧した後に低圧塔6に供される。
【0034】
低圧塔6には、経路L3,L6,L7,L8,L9,L10,L13が、それぞれ接続されている。
低圧塔6は、経路L3から供給される流体と、経路L6から供給される流体と、経路L7から供給される流体と、経路L13から供給される流体を低温で蒸留して、低圧窒素ガスと低圧液化酸素とに分離する。この低温での蒸留により、低圧塔6の上部~頂部(塔頂部)には低圧窒素ガスが濃縮され、低圧塔6の下部~底部(塔底部)には低圧液化酸素が濃縮される。
【0035】
低圧窒素ガスは、経路L8に導入され、過冷器10に導入される。低圧窒素ガスは、過冷器10において、前述した高圧液化窒素、高圧液化空気及び高圧酸素富化液化空気との熱交換によって加温され、更に主熱交換器4によって熱回収された後、常温の製品低圧窒素ガス(LPGN2)として回収される。
【0036】
低圧液化酸素は、経路L9から抜き出され、液化酸素ポンプ11によって加圧され、主熱交換器4によって気化された後、常温の製品高圧酸素ガス(HPGO2)として回収される。
【0037】
従って、定常運転状態では、高圧液化酸素は、主熱交換器4において、主に経路L2に導入された昇圧原料空気との熱交換によって気化される。一方、その熱交換によって、昇圧原料空気自身は液化し、バルブV1、経路L2Aから高圧塔5に導入される。つまり、通常運転時では、高圧塔5に導入される原料空気の中で、経路L1Aを通じて導入される原料空気は略ガス状態であり、経路L2Aを通じて導入される原料空気は略液状態である。
【0038】
気液分離器8には、経路L10、L11、L12がそれぞれ接続されている。気液分離器8は、第2凝縮器9を収容する。気液分離器8は、低圧塔6の下部から経路L10を介して供給される低圧液化酸素を、第2凝縮器9によって気化した低圧酸素ガスと、第2凝縮器9によって気化しなかった低圧液化酸素に分離する。但し、通常運転時では、経路L10、L11、L12、L4A,L4Bに流体が流れる事はなく、第2凝縮器9において熱交換は生じていない。
【0039】
<空気分離方法>
以下、本実施形態の空気分離装置50の運転方法(空気分離方法)、すなわち、上述した空気分離装置50を用いる酸素ガスの製造方法の一例について、詳細に説明する。
以下、上述した空気分離装置50の回転機械が停止した際(回転機械停止時)の空気分離方法(酸素ガスの製造方法)について、説明する。
【0040】
液化酸素ポンプ11、空気昇圧機12の少なくとも一方が停止し、回転機械停止時となった場合、正常に稼働中の液化酸素ポンプ11、空気昇圧機12があれば、直ちに停止する。その後、経路L9を遮断し、経路L9から抜き出されていた低圧液化酸素を経路L10から気液分離器8に導入する。更に、定常運転状態では、経路L1から経路L2に分岐されていた原料空気を遮断し、その原料空気を経路L1B経由で主熱交換器4に導入して冷却する。
【0041】
L10から気液分離器8に導入さた低圧液化酸素は、気液分離器8内に貯液される。気液分離器8内に貯液された低圧液化酸素は、後述する経路L4Aに分岐された原料空気と熱交換し、大部分が気化する。気化した低圧酸素ガスは、経路L11から主熱交換器4に導入され、加熱されて常温の製品酸素ガスとなる。L10から気液分離器8に導入さた低圧液化酸素の一部は、経路L12から抜き出される。
【0042】
主熱交換器4で冷却された原料空気の一部は、経路L4Aに分岐される。L4Aに分岐された原料空気は、温流体として第2凝縮器9に導入され、前述した低圧液化酸素との熱交換によって液化し、経路L4B、L2Aを経由して高圧塔5に導入される。
尚、上記以外の部分については、通常運転時と基本的に、同じである。
【0043】
次に、従来の空気分離装置60、本実施形態の空気分離装置50において、通常運転時、及び回転機械停止時の、高圧塔5に導入される原料空気の状態を比較し、以下の表1に示す。
【0044】
(従来の空気分離装置60)
通常運転時、空気圧縮機101から経路L101に供給される原料空気量を100とする。経路L109により、低圧塔106の底部から導出され、液化酸素ポンプ111に導入される低圧液化酸素の量は、20とする。通常運転時、経路L101により高圧塔105の下部に導入されるガス状の原料空気量は、60である。
一方、液化酸素との熱交換によって液化し、経路L102により高圧塔105の中間部に導入される液化原料空気量は、30である。
また、経路L103により、低圧塔106の中間部に導入されるガス状の原料空気は、10となる。
【0045】
一方、回転機械停止時、物質集収支により、低圧塔106から経路L114により低圧酸素ガスが導出され、主熱交換器4に導出され得る。
この場合、経路109を流れる液化酸素を気化する必要はないので、通常運転時に経路L102により高圧塔105の中間部に導入されていた液化原料空気は、空気昇圧機112で昇圧される必要が無く、経路L101から、ガス状態で高圧塔105に導入されることになる。従って、高圧塔下部から導入される原料空気量は、90となる。つまり、高圧塔105における上昇ガス量(原料空気)は、最大90となる。
【0046】
従って、従来の空気分離装置60において、高圧塔105を計画する場合、最大上昇ガス量は、90として設計する必要がある。一般的に、蒸留塔は計画に対して、60%負荷運転(40%減量運転)が可能である。従って、従来の空気分離装置60の高圧塔105の運転可能範囲は、原料空気量としては90(設計点)~54(=90×60%)となる。よって、通常運転時、高圧塔105の設計点に対して、67%(=60/90)負荷運転(33%減量運転)となる。
【0047】
(本実施形態の空気分離装置50)
通常運転時、回転機械停止時において、高圧塔5に導入される原料空気の状態を説明する。通常運転時においては、高圧塔5に導入される原料空気の状態は、従来の空気分離装置60と同じである。
【0048】
一方、回転機械停止時、経路L9に導入される低圧の液化酸素は無いが、経路L10から気液分離器8に導入される液化酸素量は、20となる。一方、経路L1Aに導入された原料空気の内、流量30分の原料空気が経路4Aに分岐し、気液分離器8内の第2凝縮器9に導入され、前述の低圧液化酸素との熱交換によって液化し、経路L4B、経路L2Aによって、高圧塔5に導入される。
【0049】
従って、本実施形態の空気分離装置50では、ガスとして高圧塔5に導入される原料空気最大量は、通常運転時、回転機械停止時を問わず、60であり、液として高圧塔5に導入される原料空気最大量は、通常運転時、回転機械停止時を問わず、30である。従って、その場合の高圧塔5の運転可能範囲は、原料空気量は60(設計点)~36(60×60%)となる。
【0050】
すなわち、従来の空気分離装置60と本実施形態の空気分離装置50とにおいて、高圧塔を比較すると、処理すべき最大原料空気量の差により、本実施形態における高圧塔5の方が小型となる(60<90)。また、原料空気流量の減量運転の下限界は、本実施形態における高圧塔5の方が少なくなる(36<54)。
【0051】
また、一般的に、各種の装置は、設計点で運転する場合最も効率が良い傾向がある。本実施形態の空気分離装置50における高圧塔5は、基本的に設計点で運転することになり、蒸留塔としてのより高い効率が期待できる。一方、従来の空気分離装置60における高圧塔105は、常に設計点に対して67%運転(60/90)となり、蒸留塔として最高の効率が期待し難い。
【0052】
このように、本実施形態の空気分離装置50、及びこれを用いる酸素ガスの製造方法では、回転機械停止時において低圧塔6から低圧酸素ガスを抜き出すことなく製品酸素ガスを供給できるため、流体の供給バランスを損なうことがない。
【0053】
【0054】
表1に示すように、本実施形態の空気分離装置50、及びこれを用いる酸素ガスの製造方法によれば、非常運転時において低圧塔6から低圧酸素ガスを抜き出すことなく製品酸素ガスを供給でき、流体の供給バランスを損なわない。
【0055】
以上説明したように、本実施形態の空気分離装置50及びこれを用いる酸素ガス製造方法によれば、低圧塔6から抜き出した低圧液化酸素の一部と、原料空気の一部とを間接的に熱交換し、原料空気を液化して原料液化空気を生成し、低圧液化酸素を気化して低圧酸素ガスを生成する第2凝縮器9と、第2凝縮器9を収容し、第2凝縮器9によって気化した低圧酸素ガスと気化しなかった低圧液化酸素とを、気相と液相とに分離する気液分離器8と、を備える構成であるため、空気昇圧機12及び液化酸素ポンプ11のいずれかが停止した場合でも連続運転が可能であり、製品酸素ガスを供給可能である。
【0056】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。上述した実施形態の空気分離装置50では、高圧塔5、及び低圧塔6のみを精留塔として備える構成を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、精留塔として、高圧塔5、及び低圧塔6以外に、アルゴン塔を設けて、アルゴンを採取する構成であってもよい。
【0057】
また、上述した実施形態の空気分離装置50では、経路L4が第2凝縮器9の二次側において経路L2と合流する構成を一例として説明したが、これに限定されない。経路L4は、経路L2と合流せずに、高圧塔5の中間部と接続されている構成であってもよい。
【0058】
また、上述した実施形態の空気分離装置50では、経路L10が低圧塔6の下部と気液分離器8との間に位置する構成を一例として説明したが、これに限定されない。経路L10は、経路L9から分岐する構成であってもよい。
【0059】
また、上述した実施形態の空気分離装置50では、主熱交換器4に、経路L2を流れる昇圧原料空気、経路L9、経路L11を流れる酸素を導入する構成を一例として説明したが、これに限定されない。経路L2を流れる昇圧原料空気と、経路L9又は経路L11を流れる酸素との熱交換を行なう熱交換器を、主熱交換器から分岐する構成としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の空気分離装置は、空気から窒素、及び酸素を分離、回収する装置であり、蒸留技術、気液分離技術などの分野において、産業上利用が可能である。
【符号の説明】
【0061】
50,60・・・空気分離装置
1・・・空気圧縮機
2・・・空気予冷器
3・・・空気精製器
4・・・主熱交換器
5・・・高圧塔
6・・・低圧塔
7・・・第1凝縮器
8・・・気液分離器
9・・・第2凝縮器
10・・・過冷器
11・・・液化酸素ポンプ
12・・・空気昇圧機
13・・・空気予冷器(空気昇圧機アフタークーラ)
14・・・膨張タービン
L1~L13・・・経路
V1~V4・・・バルブ
CL・・・コールドボックス