(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】高耐熱性粘着性樹脂架橋体
(51)【国際特許分類】
C09J 163/00 20060101AFI20240322BHJP
C08G 59/22 20060101ALI20240322BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240322BHJP
【FI】
C09J163/00
C08G59/22
C09J7/38
(21)【出願番号】P 2021130307
(22)【出願日】2021-08-06
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】池田 英行
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 匠
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/112104(WO,A1)
【文献】特開2021-073352(JP,A)
【文献】特開平11-021282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
C08G 59/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子構造中に芳香族環を有する多価エポキシ化合物と、多価活性水素化合物と、モノエポキシ化合物とを含む混合物の反応生成物であり、
表面のOH基濃度が
0.30~6.00atm
%であり、Si原子濃度が5.00atm%以下であり、50~230℃の温度範囲の全体に亘って、温度上昇に伴い貯蔵弾性率が上昇する、高耐熱性粘着性樹脂架橋体。
【請求項2】
ガラス転移温度が30℃以下である、請求項1に記載の高耐熱性粘着性樹脂架橋体。
【請求項3】
25℃における貯蔵弾性率が1.0×10
4~1.0×10
9Paである、請求項1又は2に記載の高耐熱性粘着性樹脂架橋体。
【請求項4】
前記芳香族環が縮合環を形成している、請求項1~3のいずれか1項に記載の高耐熱性粘着性樹脂架橋体。
【請求項5】
前記多
価活性水素化合物がポリアミン化合物を含む、請求項
1~4
のいずれか1項に記載の高耐熱性粘着性樹脂架橋体。
【請求項6】
260℃で5分間の熱処理前後において、フーリエ変換赤外分光法による910cm
-1のピーク面積が下記式(A)を満たす、請求項1~5のいずれか1項に記載の高耐熱性粘着性樹脂架橋体。
(A)0.70≦熱処理後のピーク面積/熱処理前のピーク面積≦1.30
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐熱性粘着性樹脂架橋体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程には、種々の段階で粘着テープが使用されている。半導体製造工程に用いる粘着テープとして、特許文献1には、ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂で被覆されたシリコーンゴム微粒子を配合した層を有する半導体ウェハ用保護フィルムが記載されている。また、特許文献2には、アクリル系粘着剤を用いた粘着剤層を有する半導体ウェハ用粘着テープが記載されている。
【0003】
近年、半導体パッケージのマルチチップ化が進み、半導体チップを多段に積層したマルチチップパッケージ(スタックドMCP(Multi Chip Package))が普及している。マルチチップパッケージの製造過程では、高耐熱性の粘着テープに多段積層化された半導体チップを仮固定し、200℃を超えるリフロー工程(例えば260℃のリフロー工程)を経て各チップ間が半田で導通される。このような高耐熱性の粘着テープの粘着剤として、シリコーン系の粘着性樹脂架橋体が提案されている。また、アクリル樹脂やブタジエン系ゴムを主成分とした粘着性樹脂架橋体も知られている。
【0004】
高耐熱性粘着性樹脂架橋体は、上述したマルチチップパッケージの製造工程に用いる粘着テープの粘着剤としての用途に限らず、種々の用途に使用することができる。例えば、高耐熱性粘着性樹脂架橋体は、高い使用環境温度が要求される、金属、プラスチック又はガラス等の異種材料の接合用の柔軟粘着剤又は接着剤として用いたり、オイル、圧空又は真空用のシール材として用いたり、仮固定用のシートとして用いたりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-283927号公報
【文献】特許第6053909号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したシリコーン系の粘着性樹脂架橋体は耐熱性に優れるが、高温下で低分子量シロキサンを生じやすく、また、その合成反応において生じた低分子量シロキサン化合物も少なからず含んでいる。このような低分子量のシロキサンは、例えば、シリコーン系の粘着性樹脂架橋体をマルチチップパッケージの製造における粘着テープの粘着剤として用いた場合に、例えばシリコーンウェハ表面などを汚染し、絶縁不良などの不具合を引き起こす原因となる。この不具合を回避するにはリフロー工程後に洗浄工程を組み込む必要が生じ、これは製造スループットや製品の歩留まりの低下に繋がる。
また、アクリル樹脂やブタジエン系ゴムを主成分とした高耐熱性粘着剤はある程度の耐熱性を実現できるものの、耐熱レベルの向上には制約があり、200℃を超える高温下に晒されると主骨格の分解反応が進みやすい。それゆえ、例えばマルチチップパッケージの製造における粘着テープの粘着剤として適用すると、リフロー工程後に剥離不良が生じやすい問題がある。
【0007】
そこで、耐熱信頼性を得る観点から、エポキシ化合物とその硬化剤とを反応させて用いられる接着剤が従来から提案されている。しかし、この硬化物は性状が硬く、常温では粘着剤として機能しないのが通常である。このため、エポキシ化合物の硬化反応においてフェノキシ樹脂を配合して架橋点間分子量を向上させ、柔軟性と粘着性とを合わせ持つ硬化物とすることも提案されている。しかし、この硬化物は、常温では柔軟性と粘着性を示しても、200℃を越えるような高温に晒されると、さらなる硬化反応が生じて接着剤のように作用し、剥離不良が生じやすいものとなる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、粘着剤として機能し、且つ、200℃を越える高温下においても粘着物性を維持することができ、さらに、シロキサン化合物による汚染も生じない、新たな高耐熱性粘着性樹脂架橋体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者の上記課題は下記手段により解決される。
[1]
表面のOH基濃度が0.15atm%以上であり、Si原子濃度が5.00atm%以下であり、50~230℃の温度範囲の全体に亘って、温度上昇に伴い貯蔵弾性率が上昇する、高耐熱性粘着性樹脂架橋体。
[2]
ガラス転移温度が30℃以下である、[1]に記載の高耐熱性粘着性樹脂架橋体。
[3]
25℃における貯蔵弾性率が1.0×104~1.0×109Paである、[1]又は[2]に記載の高耐熱性粘着性樹脂架橋体。
[4]
多価エポキシ化合物と、多価活性水素化合物と、モノエポキシ化合物との反応生成物である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の高耐熱性粘着性樹脂架橋体。
[5]
前記多価活性水素化合物がポリアミン化合物を含む、[4]に記載の高耐熱性粘着性樹脂架橋体。
[6]
260℃で5分間の熱処理前後において、フーリエ変換赤外分光法による910cm-1のピーク面積が下記式(A)を満たす、[1]~[5]のいずれか1つに記載に高耐熱性粘着性樹脂架橋体。
(A)0.70≦熱処理後のピーク面積/熱処理前のピーク面積≦1.30
【0010】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。例えば、「A~B」と記載されている場合、その数値範囲は、「A以上B以下」である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の高耐熱性粘着性樹脂架橋体は、粘着剤として機能し、且つ、200℃を超える高温下においても粘着物性を維持することができ、さらに、シロキサン化合物による汚染も生じさせないものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[高耐熱性粘着性樹脂架橋体]
本発明の高耐熱性粘着性樹脂架橋体(以下、単に「本発明の架橋体」と称す)は、表面のOH基濃度が0.15atm%以上であり、Si原子濃度が5.00atm%以下であり、50~230℃の温度範囲の全体に亘って、温度上昇に伴い貯蔵弾性率が上昇する。すなわち、粘着性を有し、200℃を超える高温下においても粘着物性を維持することができる高耐熱性を有し、さらに、シロキサン化合物による汚染も生じさせないものである。
【0013】
<表面OH基濃度>
本発明の架橋体は、表面のOH基濃度が0.15atm以上であり、十分な粘着性を示すものである。架橋体表面のOH基濃度は、OH基の水素原子がトリフルオロアセチル基に置換された架橋体をXPS(X-ray photoelectron spectroscopy)測定することにより決定することができる。具体的には、後述する[実施例]の項に記載の方法により決定することができる。
本発明の架橋体表面のOH基濃度は、0.15~10.00atm%が好ましく、0.30~9.00atm%がより好ましく、0.45~8.00atm%がさらに好ましく、0.60~7.00atm%がさらに好ましく、0.75~6.00atm%がさらに好ましく、1.00~5.00atm%がさらに好ましく、1.50~4.00atm%とすることがさらに好ましく、0.50~4.00atm%とすることも好ましい。
架橋体表面のOH基濃度が上記範囲内であることにより、目的の粘着物性を十分に発現させることができる。
【0014】
<Si原子濃度>
本発明の架橋体は、表面のSi原子濃度が5.00atm%以下である。架橋体表面のSi原子濃度は、XPSによる原子濃度測定により決定することができる。具体的には、後述する[実施例]の項の記載の方法により決定することができる。
本発明の架橋体の表面のSi原子濃度は、4.50atm%以下が好ましく、4.00atm%以下がより好ましく、3.50atm%以下がさらに好ましく、3.00atm%以下がさらに好ましく、2.50atm%以下がさらに好ましく、2.00atm%以下がさらに好ましく、1.50atm%以下がさらに好ましく、1.00atm%以下がさらに好ましく、0.50atm%以下がさらに好ましい。本発明の架橋体表面のSi原子濃度は、上述の検出方法によっては検出できない(検出限界以下)レベルであることがさらに好ましい。
つまり、本発明の架橋体はシリコーン系の粘着性樹脂架橋体とは組成が異なり、シロキサン等による被着体の汚染を生じにくいものである。
【0015】
<貯蔵弾性率>
本発明の架橋体の貯蔵弾性率は、50~230℃の温度範囲の全体に亘って、温度上昇に伴い貯蔵弾性率が上昇する特性を有している。すなわち、架橋体は50~230℃の温度範囲でエントロピー弾性を示していると考えられる。この特性により、高温になるほど被着体表面をグリップする効果が高まり、高温下において、被着体表面と架橋体との剥離が抑制される。
本発明の架橋体の貯蔵弾性率は、回転式動的粘弾性測定装置(商品名:MCR301、Auton Paar社製)により決定することができる。具体的には、後述する[実施例]の項に記載の方法により決定することができる。
本発明の架橋体の常温(25℃)における貯蔵弾性率は、1.0×104~1.0×109Paが好ましく、1.0×105~1.0×108Paがより好ましく、1.2×106~1.0×108であることも好ましい。
常温の貯蔵弾性率が上記範囲内であることによって、常温下において、被着体表面に速やかに架橋体を密着させることができ、凝集破壊を起こすことなく、被着体表面と架橋体との剥離を行うことが可能となる。
【0016】
<ガラス転移温度>
本発明において、架橋体のガラス転移温度(Tg)は、昇温速度5℃/分で示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimeter)により測定されたガラス転移温度である。具体的には、後述する[実施例]の項に記載の方法により決定することができる。
本発明の架橋体のガラス転移温度は、低温において架橋体に粘着性を発現させ、貼合を容易にする観点から、温度が低い方が好ましい。具体的には、30℃以下が好ましく、25℃以下がより好ましく、20℃以下がさらに好ましく、15℃以下がさらに好ましく、10℃以下がさらに好ましく、5℃以下がさらに好ましい。また、上記ガラス転移温度は-40℃以上が実際的である。
【0017】
<熱処理前後の特性変化>
本発明では、架橋体を260℃で5分間(300秒間)の熱処理に付した場合に、この熱処理の前後において、フーリエ変換赤外分光法(以下、FTIR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)と称す)による910cm-1のピーク面積が下記式(A)を満たすことが好ましい。
(A) 0.70≦熱処理後のピーク面積/熱処理前のピーク面積≦1.30
FTIRによる910cm-1のピーク面積は、グリシジル基の存在を示すものである。したがって、本発明の架橋体が上記式(A)を満たすことは、本発明の架橋体において硬化反応(三次元架橋反応)はすでに十分に進んでおり、200℃を越える温度下でもさらなる硬化反応は実質的に生じず、耐熱性に優れていることを示す。
FTIRによる910cm-1のピーク面積は、後述する[実施例]の項に記載の方法により決定することができる。
本発明の架橋体は、260℃で5分間の熱処理前後において、FTIRによる910cm-1のピーク面積が下記式(A1)を満たすことがより好ましく、下記式(A2)を満たすことがさらに好ましい。
(A1) 0.80≦熱処理後のピーク面積/熱処理前のピーク面積≦1.20
(A2) 0.90≦熱処理後のピーク面積/熱処理前のピーク面積≦1.20
【0018】
[高耐熱性粘着性樹脂架橋体の製造方法]
本発明の架橋体の製造方法は、本発明の架橋体を得ることができれば特に制限されない。例えば、エポキシ化合物とその硬化剤との反応生成物を含む架橋体は、目的の高耐熱性と粘着性とを合わせ持つ特性とすることができ、好ましい。例えば、多価エポキシ化合物と、多価活性水素化合物と、モノエポキシ化合物とを含む混合物を調製し、これを硬化反応させて高度な三次元架橋構造を形成することにより、本発明の架橋体を得ることができる。この形態を例にとって、本発明の架橋体の製造方法を以下に説明する。
【0019】
<多価エポキシ化合物>
上記の多価エポキシ化合物は、分子内に複数のエポキシ基を有する化合物である。多価エポキシ化合物のエポキシ当量は特に制限されず、例えば、100~1500g/eqの範囲で、目的に応じて適宜に設定することができる。
多価エポキシ化合物の骨格としては、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、クレゾールノボラック型、ジシクロペンタジエン型、ビフェニル型、フルオレン型、フルオレンビスフェノール型、トリアジン型、ナフトール型、ナフタレンジオール型、トリフェニルメタン型、テトラフェニル型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、トリメチロールメタン型等が挙げられる。目的の架橋体を得るために、これらを組合せて用いることもできる。
【0020】
多価エポキシ化合物は、耐熱性向上の観点から、その分子構造中に芳香族環(芳香族炭化水素環又は芳香族複素環)を有することが好ましい。多価エポキシ化合物が有する芳香族環は単環でもよく、縮合環を形成していることも好ましい(縮合環の場合、縮合環を構成する少なくとも1つの環が芳香族環である。縮合環の形態としては、例えば、ナフタレン環、フルオレン環、アントラセン環、フェナトレン環、チオフェン環、又はビフェニレン環などが挙げられる。なかでも、多価エポキシ化合物はフルオレン環を有することが好ましい。
【0021】
多価エポキシ化合物は、後述する多価活性水素化合物と反応して、高度な三次元構造を形成する。本発明の架橋体の製造方法において、1種又は2種以上の多価エポキシ化合物を用いることができる。
【0022】
<多価活性水素化合物>
多価活性水素化合物は、分子内に活性水素含有基を複数有する化合物であり、多価エポキシ化合物の硬化剤として作用する。活性水素含有基は、ヒドロキシ基(-OH)、アミノ基(-NH2)、チオール基(-SH)などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を含む化合物を用いることができる。多価活性水素化合物が有する活性水素含有基の数は2~20が好ましく、3~10がより好ましく、3~8がさらに好ましく、3~6がさらに好ましい。なかでも多価活性水素化合物はポリアミン化合物及び/又は多価フェノール化合物を含むことが好ましく、多価活性水素化合物はポリアミン化合物及び/又は多価フェノール化合物であることがより好ましい。また、多価活性水素化合物はポリアミン化合物を含むことが好ましく、ポリアミン化合物であることがさらに好ましい。
多価活性水素化合物は、分子内に芳香族環(芳香族炭化水素環又は芳香族複素環)を有することが好ましい。
本発明の架橋体を得るに当たり、1種又は2種以上の多価活性水素化合物を用いることができる。
【0023】
<その他の硬化剤>
本発明の架橋体の製造方法では、上記の多価活性水素化合物に加えて、又は多価活性水素化合物に代えて、多価活性水素化合物以外の硬化剤を含んでもよい。このような硬化剤としては、第三級アミン化合物、酸無水物化合物、イミダゾール化合物などを用いることもできる。
【0024】
<モノエポキシ化合物>
モノエポキシ化合物は、分子内にエポキシ基を1つ有する化合物である。モノエポキシ化合物は、多価エポキシ化合物と多価活性水素化合物との反応生成物が触媒として作用して重合反応を生じるものである。モノエポキシ化合物の重合反応により、得られる架橋体はより複雑に絡み合うようにして、高度な三次元架橋構造が形成される。モノエポキシ化合物としては、フェニルグリシジルエーテル、アルキルフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエステル、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル、α-オレフィンオキサイド、モノエポキシ脂肪酸アルキルエステル等が好ましく挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
<その他の成分>
本発明の架橋体の製造方法では、硬化反応前の上記混合物中には、上述した各成分に加え、本発明の効果を損なわない範囲において、有機溶媒(MEK(メチルエチルケトン)、PGMAC(プロピレングリコールメチルアセテート)等)、イオントラップ剤(イオン捕捉剤)、粘度調整剤、酸化防止剤、難燃剤、着色剤、ブタジエン系ゴムやシリコーンゴム等の応力緩和剤等の添加剤をさらに含有していてもよい。
【0026】
硬化反応前の上記混合物中において、上記の各成分の配合量は、粘着性の程度を考慮し、また化合物の種類に応じて適宜に設定することができる。例えば、多価エポキシ化合物100質量部に対し、多価活性水素化合物を1~100質量部用いることができ、2~80質量部用いることも好ましく、5~60質量部用いることも好ましく、10~40質量部用いることも好ましい。また、多価エポキシ化合物100質量部に対し、モノエポキシ化合物を1~100質量部とすることができ、2~60質量部とすることも好ましく、3~30質量部とすることも好ましく、4~20質量部とすることも好ましい。
【0027】
硬化反応前の上記混合物を、所望の形状となるように型に入れたり、塗膜状にしたりして、100~200℃程度で数分~数時間反応させることにより、本発明の架橋体を得ることができる。この硬化反応は十分に行わせることが好ましい。十分に硬化反応を行わせることにより、50~230℃の温度範囲の全体に亘って、温度上昇に伴い貯蔵弾性率が上昇する物性とすることができ、高耐熱性粘着剤を得ることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
[粘着性架橋体の作製]
<実施例1>
フルオレン骨格エポキシ樹脂(多価エポキシ化合物、商品名:EG280、大阪ガスケミカル社製)100質量部と、モノグリシジルエーテル(アルキルモノグリシジルエーテル、商品名:M1230、共栄社化学社製)10質量部と、アミン系エポキシ硬化剤(ポリアミン化合物、商品名:EH-5057 PK、ADEKA社製)25質量部とを室温で撹拌/混練した後、この混合物を50μmの塗工厚でポリイミドフィルム(商品名:100EN、厚み:25μm、東レ社製)の片面に塗布し、塗膜を形成した。次に、この塗膜を150℃で10分間の硬化反応に付した。その後、より穏やかな加熱条件で24時間以上エージングした。こうして、ポリイミドフィルム上に厚さ30μm、縦300mm、横100mmのシート状の粘着性架橋体を得た。
【0030】
<実施例2>
モノグリシジルエーテルの配合量を5質量部とし、アミン系エポキシ硬化剤の配合量を23質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の粘着性架橋体を得た。
【0031】
<実施例3>
モノグリシジルエーテルの配合量を17.5質量部とし、アミン系エポキシ硬化剤の配合量を27質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の粘着性架橋体を得た。
【0032】
<実施例4>
モノグリシジルエーテルの配合量を30質量部とし、アミン系エポキシ硬化剤の配合量を28質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の粘着性架橋体を得た。
【0033】
<実施例5>
フルオレン骨格エポキシ樹脂の配合量を70質量部とし、アミン系エポキシ硬化剤の配合量を26質量部とし、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:RE310S、日本化薬社製)30質量部をさらに添加したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5の粘着性架橋体を得た。
【0034】
<比較例1>
モノグリシジルエーテルの配合量を10質量部とし、アミン系エポキシ硬化剤の配合量を18質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の粘着性架橋体を得た。
【0035】
<比較例2>
モノグリシジルエーテルの配合量を10質量部とし、アミン系エポキシ硬化剤に代えて、イミダゾール系硬化剤(商品名:2MZA-PW、四国化成社製)を1質量部配合としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の粘着性架橋体を得た。
【0036】
<比較例3>
エージング工程を省略したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3の粘着性架橋体を得た。
【0037】
[測定・分析]
【0038】
<表面OH基濃度の測定>
実施例1~5及び比較例1~3において得られた粘着性架橋体の表面のOH基濃度を測定した。具体的には、各実施例及び比較例に係る粘着性架橋体の表面におけるOH基の水素原子をトリフルオロアセチル基に置換し、X線光電子分光法(XPS)により測定することによって、架橋体表面のOH基濃度を決定した。より詳細には、気相法修飾により各粘着性架橋体の表面のOH基の水素原子をトリフルオロアセチル基に置換し、XPS測定(入射X線:単色またはAl-Kα(hν=1486.6eV)、測定面積:100μmφ、脱出角:45°、商品名:PHIQuantes、アルバックファイ社製)により観測されたF1sスペクトルからF原子濃度を算出した。次いで、算出されたF原子濃度に基づき、置換前のOH基濃度を算出した。OH基の水素原子をトリフルオロアセチル基に置換する処理では、密閉されたガラス容器の中で、粘着性架橋体の表面と無水トリフルオロ酢酸とを十分に反応させた。その後、ガラス容器を所定時間真空引きすることによってガラス容器中に残存する無水トリフルオロ酢酸を除去した。
なお、OH基濃度はOH基を1つの原子に見立てて(OH基全体を1原子と仮定して)atm%として示している。
【0039】
<Si原子濃度の測定>
実施例1~5及び比較例1~3において得られた粘着性架橋体の表面のSi原子濃度をXPS測定により求めた。具体的には、各実施例及び比較例に係る粘着性架橋体の表面に対してX線を照射し、光電効果によって放出される電子の数とエネルギースペクトルとからSi原子濃度を求めた。より詳細には、当該スペクトルの各ピークの位置と強度からSi原子のピークを特定し、特定したピークを積分処理することによってSi原子の電子数(A1)を算出した。そして、当該スペクトルの全ピークを積分処理することにより得られた電子数の合計値(A2)に対する、Si原子の電子数(A1)の割合(A1/A2)をSi原子濃度として算出した。
【0040】
<貯蔵弾性率の測定>
実施例1~5及び比較例1~3において得られた粘着性架橋体の貯蔵弾性率を回転式動的粘弾性測定装置(商品名:MCR301、Auton Parr社製)を用いて測定した。具体的には、8mm径のパラレルプレート間に、各実施例及び比較例に係る粘着性架橋体を設置し、窒素雰囲気下、歪み率γを1%、加振周波数を1Hzとする測定条件において、25℃から280℃にかけて5℃上昇する毎に貯蔵弾性率を測定した。
ここで、後述する[表1]の「貯蔵弾性率上昇温度範囲」とは、温度上昇に伴い貯蔵弾性率が上昇する温度範囲の最大域を意味する。すなわち、「貯蔵弾性率上昇温度範囲」が50~260℃であるとは、50~260℃の温度範囲全体に亘り温度上昇に伴い貯蔵弾性率が上昇し、[260℃の貯蔵弾性率]≧[265℃の貯蔵弾性率]であることを意味する。
【0041】
<ガラス転移温度の測定>
ガラス転移温度は、示差走査型熱量分析装置(島津製作所製、DSC-60)を用いて測定した。より詳細には、-100℃~100℃まで昇温速度5℃/分で昇温し、JISK 121:2012「プラスチックの転移温度測定方法」の、補外ガラス転移開始温度をガラス転移温度とした。
【0042】
<耐熱性試験>
-FTIR測定(グリシジル基の量の変化)-
実施例1~5及び比較例1~3において得られた粘着性架橋体について、260℃で5分間の熱処理前後において、FTIRにより得られる、グリシジル基を示す910cm-1におけるピーク面積の変化を調べた。このピーク面積は、エチレン基を示す2850cm-1のピークに基づきFTIRスペクトルを規格化した後、熱処理前(25℃)に得られた910cm-1のピーク面積(E1)に対する、熱処理後に得られた910cm-1のピーク面積(E2)の割合(E2/E1)として算出した。ピーク面積は、910cm-1のピークのピーク底部の変曲点を基準としてベースラインを設定し、当該ピークとベースラインの間の領域とした。
-ピール強度試験-
実施例1~5及び比較例1~3において得られた粘着性架橋体について、260℃で5分間の熱処理前後に、JIS Z 0237:2009「粘着テープ・粘着シート試験方法」に基づく90°剥離試験を実施し、熱処理前後のピール強度の変化を調べた。この剥離試験では、粘着性架橋体に被着する被着体(粘着性架橋体のポリイミドフィルム側とは反対の面に被着する被着体)にはガラス板を用い、ピール強度の単位はN/10mmとし、ピール速度は50mm/分とした。ピール強度の変化は、熱処理前の架橋体表面のピール強度をP1とし、熱処理後の架橋体表面のピール強度をP2とした場合に、下記式(1)により算出した。
ピール強度の変化(%)={(P2-P1)/P1}×100・・・(1)
-気泡の発生・糊残り-
実施例1~5及び比較例1~3において得られた粘着性架橋体の、ポリイミドフィルム側とは反対の面をスライドガラスに貼り付け、260℃で5分間熱処理し、下記の評価基準に基づき耐熱性を評価した。また、この熱処理後、粘着性架橋体を剥がした後のスライドガラス表面への糊残りについても、目視で評価した。
(評価基準)
〇:粘着性架橋体とスライドガラスとの間に気泡が発生せず、スライドガラスから粘着性架橋体が剥離していない。
×:粘着性架橋体とスライドガラスとの間に気泡が発生し、スライドガラスから粘着性架橋体が剥離している。
【0043】
実施例1~5及び比較例1~3の粘着性架橋体について、それらの物性ないし評価結果を下表に示す。
【0044】
【0045】
<表の注>
「ND」は、測定不能を意味する。
【0046】
比較例1の粘着性架橋体は、表面OH基濃度及びSi原子濃度が本発明の規定を満たすが、貯蔵弾性率上昇温度範囲が200℃に留まり、本発明の規定を満たさない。比較例1の粘着性架橋体の「ピール強度の変化」が「ND」である要因としては、260℃で5分間の熱処理によって、スライドガラスから粘着性架橋体が剥離してしまい、ピール強度の測定ができなくなったためである。また、「糊残り」が「ND」である要因としては、上述の剥離により糊残りを評価する意味がなくなったためである。
また、比較例2の粘着性架橋体は、Si原子濃度が本発明の規定を満たすが、表面OH基濃度と貯蔵弾性率上昇温度範囲の両方が本発明の規定を満たさない。比較例2の粘着性架橋体の「ピール強度の変化」及び「糊残り」が「ND」である要因としては、比較例1と同様である。
比較例1及び比較例2に係る粘着性架橋体は、260℃で5分間の熱処後において、スライドガラスとの間に気泡が確認され、スライドガラスから剥離していた。
比較例3の粘着性架橋体は、表面OH基濃度が本発明の規定を満たすが、200℃を越える高温下に晒すと硬化反応を生じ、粘着剤として機能しなかった。また、この比較例3に係る粘着性架橋体は、260℃で5分間の熱処後において、スライドガラスとの間に気泡が確認され、スライドガラスから剥離しており、かつ、糊残りも生じていた。
これに対し、本発明の規定を満たす実施例1~5の粘着性架橋体は、260℃で5分間の熱処後においてスライドガラスとの間に気泡が存在せず、それゆえスライドガラスからの剥離も生じず、優れた耐熱性を示した。また、実施例1~5の粘着性架橋体は、260℃で5分間の熱処理によっても、粘着物性の変化が小さく、この高温下においても粘着剤として機能するものであった。