(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】多層構造体およびその製造方法、それを用いた包装材および製品、ならびに電子デバイスの保護シート
(51)【国際特許分類】
B32B 9/04 20060101AFI20240322BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240322BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240322BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240322BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20240322BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20240322BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
B32B9/04
B32B27/36
B32B27/30 102
B05D7/24 302V
B05D7/24 302M
B05D7/24 303B
B05D3/02 Z
B05D1/36 Z
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2021562763
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2020045348
(87)【国際公開番号】W WO2021112252
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2019221263
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】久詰 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 良一
(72)【発明者】
【氏名】森原 靖
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-124272(JP,A)
【文献】特開2016-55560(JP,A)
【文献】国際公開第2016/103719(WO,A1)
【文献】特開2018-001574(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141226(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/103069(WO,A1)
【文献】特開2003-128888(JP,A)
【文献】特表2001-510110(JP,A)
【文献】特開2000-71395(JP,A)
【文献】特開平10-156996(JP,A)
【文献】特表2015-520793(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0227439(US,A1)
【文献】米国特許第6436544(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 9/04
B32B 27/36
B32B 27/30
B05D 7/24
B05D 3/02
B05D 3/00
B05D 1/36
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(X)と、基材(X)上に積層された層(Z)と、層(Z)上に積層された層(Y)とを含み、層(Y)がアルミニウムを含む金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)との反応生成物(D)を含み、層(Z)がポリビニルアルコール系樹脂(C)及びポリエステル系樹脂(L)を含む、多層構造体。
【請求項2】
ポリエステル系樹脂(L)がカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂である、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂(C)とポリエステル系樹脂(L)との質量比((C)/(L))が、1/99~50/50である、請求項1または2に記載の多層構造体。
【請求項4】
JIS K 6726(1994年)に準拠して測定される、ポリビニルアルコール系樹脂(C)の4質量%濃度水溶液の粘度が1mPa・s以上100mPa・s以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項5】
層(Z)の厚みが1~100nmの範囲にある、請求項1~4のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項6】
125℃で30分間レトルト処理後に剥離界面に水を滴下しながら測定した基材(X)と層(Y)間の剥離強度が100gf/15mm以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項7】
ポリビニルアルコール系樹脂(C)、ポリエステル系樹脂(La)、および溶媒を含むコーティング液(R)を基材(X)上に塗工した後溶媒を除去し層(Z)を形成する工程(I)と、アルミニウムを含む金属酸化物(A)、無機リン化合物(BI)、および溶媒を含むコーティング液(S)を層(Z)上に塗工した後溶媒を除去し層(Y)前駆体を形成する工程(II)と、前記層(Y)前駆体を熱処理することで層(Y)を形成する工程(III)とを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の多層構造体を含む、包装材。
【請求項9】
縦製袋充填シール袋、真空包装袋、パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、紙容器、ストリップテープ、容器用蓋材、またはインモールドラベル容器である、請求項8に記載の包装材。
【請求項10】
請求項8または9に記載の包装材が少なくとも一部に用いられている、製品。
【請求項11】
前記製品が内容物を含み、前記内容物が芯材であり、前記製品の内部が減圧されており、真空断熱体として機能する、請求項10に記載の製品。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか1項に記載の多層構造体を含む、電子デバイスの保護シート。
【請求項13】
請求項12に記載の保護シートを有する電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造体およびその製造方法、それを用いた包装材および製品、ならびに電子デバイスの保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムや酸化アルミニウムを構成成分とするガスバリア層をプラスチックフィルム上に形成した多層構造体は従来からよく知られており、酸素によって変質しやすい物品(例えば、食品)を保護するための包装材として用いられている。それらのガスバリア層は、物理気相成長法や化学気相成長法といったドライプロセスによってプラスチックフィルム上に形成される場合や、酸化アルミニウム粒子とリン化合物との反応生成物を、プラスティック上にコーティングすることで形成される場合等がある。また、そのような多層構造体は、電子デバイスの特長を保護することを目的として、ガスバリア性および水蒸気バリア性が要求される電子デバイスの保護シートの構成部材としても用いられる。
【0003】
特許文献1には、酸化アルミニウム粒子とリン化合物との反応生成物によって構成される透明ガスバリア層を有する複合構造体が記載されており、該ガスバリア層を形成する方法の1つとして、プラスチックフィルム上に酸化アルミニウム粒子とリン化合物を含むコーティング液を塗工し、次いで乾燥および熱処理を行う方法が記載されている。
【0004】
一方、特許文献2には、基材層と蒸着層との間にポリウレタンを主鎖とした水系のディスパージョン液と溶剤系イソシアネート硬化剤との混合物を主成分とするコート剤を用いたアンカーコート層を設けることで、高温高湿下保管後におけるバリア性低下が抑制されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2011/122036号
【文献】特開2013-199066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の多層構造体を備える包装材を、応力存在下でレトルト処理した場合、基材とガスバリア層との層間が剥離し、外観不良が生じる場合があることがわかった。また、応力存在下でのレトルト処理後の外観不良の抑制を目的とした構成を検討した場合において、基材とガスバリア層との間の剥離強度が低下する場合があった。剥離強度が低下すると、例えば、包装容器の内面と外面の両方向への外力が加わった場合、基材とガスバリア層との間の層間剥離が起こり易くなり、結果として外観不良やガスバリア性の低下が起こり得る。
【0007】
したがって、本発明の目的は、レトルト処理後においてガスバリア性及び基材とガスバリア層との間の剥離強度に優れ、応力存在下でのレトルト処理後においても層間剥離が起こらず良好な外観を維持できる多層構造体およびそれを用いた包装材ならびに製品を提供することにある。また、長期間の使用やそれを想定した高温高湿下における加速試験後にも層間剥離が起こらず良好な外観を維持できる電子デバイスの保護シートを提供することにある。以下、応力存在下でのレトルト処理後において良好な外観を維持できる点を「応力存在下レトルト耐性」と表現する場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は
[1]基材(X)と、基材(X)上に積層された層(Z)と、層(Z)上に積層された層(Y)とを含み、層(Y)がアルミニウムを含む金属酸化物(A)(以下「金属酸化物(A)」と略記する場合がある)と無機リン化合物(BI)との反応生成物(D)を含み、層(Z)がポリビニルアルコール系樹脂(C)(以下「PVA系樹脂(C)」と略記する場合がある)及びポリエステル系樹脂(L)を含む、多層構造体;
[2]ポリエステル系樹脂(L)がカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂である、[1]の多層構造体;
[3]PVA系樹脂(C)とポリエステル系樹脂(L)との質量比((C)/(L))が、1/99~50/50である、[1]または[2]の多層構造体;
[4]JIS K 6726(1994年)に準拠して測定される、PVA系樹脂(C)の4質量%濃度水溶液の粘度が1mPa・s以上100mPa・s以下である、[1]~[3]のいずれかの多層構造体;
[5]層(Z)の厚みが1~100nmの範囲にある、[1]~[4]のいずれかの多層構造体;
[6]125℃で30分間レトルト処理後に剥離界面に水を滴下しながら測定した基材(X)と層(Y)間の剥離強度が100gf/15mm以上である、[1]~[5]のいずれかの多層構造体;
[7]PVA系樹脂(C)、ポリエステル系樹脂(La)、および溶媒を含むコーティング液(R)を基材(X)上に塗工した後溶媒を除去し層(Z)を形成する工程(I)と、アルミニウムを含む金属酸化物(A)、無機リン化合物(BI)、および溶媒を含むコーティング液(S)を層(Z)上に塗工した後溶媒を除去し層(Y)前駆体を形成する工程(II)と、前記層(Y)前駆体を熱処理することで層(Y)を形成する工程(III)とを含む、[1]~[6]のいずれかの多層構造体の製造方法;
[8][1]~[6]のいずれかの多層構造体を含む、包装材;
[9]縦製袋充填シール袋、真空包装袋、パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、紙容器、ストリップテープ、容器用蓋材、またはインモールドラベル容器である、[8]の包装材;
[10][8]または[9]の包装材が少なくとも一部に用いられている、製品;
[11]前記製品が内容物を含み、前記内容物が芯材であり、前記製品の内部が減圧されており、真空断熱体として機能する、[10]の製品;
[12][1]~[6]のいずれかの多層構造体を含む、電子デバイスの保護シート;
[13][12]の保護シートを有する電子デバイス;
を提供することで達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レトルト処理後においてガスバリア性及び基材とガスバリア層間の剥離強度に優れ、良好な応力存在下レトルト耐性を有する多層構造体およびそれを用いた包装材ならびに製品を提供できる。また、長期間の使用やそれを想定した高温高湿下における加速試験後にも層間剥離が起こらず良好な外観を維持できる電子デバイスの保護シートを提供できる。
【0010】
本発明の多層構造体は、基材(X)と、基材(X)上に積層された層(Z)と、層(Z)上に積層された層(Y)とを含み、層(Y)がアルミニウムを含む金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)との反応生成物(D)を含み、層(Z)がPVA系樹脂(C)及びポリエステル系樹脂(L)を含む。
【0011】
[基材(X)]
基材(X)の材質は、特に制限されず、様々な材質からなる基材を使用できる。基材(X)の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂;布帛、紙類等の繊維集合体;木材;ガラス;金属;金属酸化物等が挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂および繊維集合体を含むことが好ましく、熱可塑性樹脂を含むことがより好ましい。基材(X)の形態は、特に制限されず、フィルムまたはシート等の層状であってもよい。基材(X)としては、熱可塑性樹脂フィルム、紙層および無機蒸着層(X’)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましく、熱可塑性樹脂フィルムを含むものがより好ましく、熱可塑性樹脂フィルムであることがさらに好ましい。
【0012】
基材(X)に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートあるいはこれらの共重合体等のポリエステル系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12等のポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の水酸基含有ポリマー;ポリスチレン;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ポリ酢酸ビニル;ポリカーボネート;ポリアリレート;再生セルロース;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルエーテルケトン;アイオノマー樹脂等が挙げられる。基材(X)に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン-6、およびナイロン-66からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0013】
前記熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合、基材(X)は延伸フィルムであってもよいし無延伸フィルムであってもよい。得られる多層構造体の加工適性(印刷やラミネート等)が優れることから、延伸フィルム、特に二軸延伸フィルムが好ましい。二軸延伸フィルムは、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、およびチューブラ延伸法のいずれかの方法で製造された二軸延伸フィルムであってもよい。
【0014】
基材(X)に用いられる紙としては、例えば、クラフト紙、上質紙、模造紙、グラシン紙、パーチメント紙、合成紙、白板紙、マニラボール、ミルクカートン原紙、カップ原紙、アイボリー紙等が挙げられる。基材(X)に紙を用いることで、紙容器用の多層構造体が得られる。
【0015】
基材(X)が層状である場合、その厚さは、得られる多層構造体の機械的強度および加工性が良好になる観点から1~1,000μmが好ましく、5~500μmがより好ましく、9~200μmがさらに好ましい。
【0016】
[無機蒸着層(X’)]
無機蒸着層(X’)は、通常、酸素や水蒸気に対するバリア性を有する層であり、透明性を有することが好ましい。無機蒸着層(X’)は無機物を蒸着することで形成できる。無機物としては、金属(例えば、アルミニウム)、金属酸化物(例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム)、金属窒化物(例えば、窒化ケイ素)、金属窒化酸化物(例えば、酸窒化ケイ素)、または金属炭化窒化物(例えば、炭窒化ケイ素)等が挙げられる。中でも、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、または窒化ケイ素で形成される無機蒸着層(X’)が、バリア性に優れる観点から好ましい。
【0017】
無機蒸着層(X’)の形成方法は、特に限定されず、真空蒸着法(例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、分子線エピタキシー法、イオンプレーティング法等)、スパッタリング法(デュアルマグネトロンスパッタリング等)等の物理気相成長法;熱化学気相成長法(例えば、触媒化学気相成長法)、光化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法(例えば、容量結合プラズマ法、誘導結合プラズマ法、表面波プラズマ法、電子サイクロトロン共鳴プラズマ法等)、原子層堆積法、有機金属気相成長法等の化学気相成長法が挙げられる。
【0018】
無機蒸着層(X’)の厚さは、無機蒸着層を構成する成分の種類によって異なるが、0.002~0.5μmが好ましく、0.005~0.2μmがより好ましく、0.01~0.1μmがさらに好ましい。この範囲で、多層構造体のバリア性や機械的物性が良好になる厚さを選択すればよい。無機蒸着層(X’)の厚さが0.002μm以上であると、酸素や水蒸気に対する無機蒸着層(X’)のバリア性が良好になる傾向となる。また、無機蒸着層(X’)の厚さが0.5μm以下であると、無機蒸着層(X’)の屈曲後のバリア性が維持される傾向となる。
【0019】
[層(Z)]
層(Z)は、基材(X)上に積層された層であり、PVA系樹脂(C)とポリエステル系樹脂(L)を含む。基材(X)と層(Y)との間に層(Z)を備えることで、本発明の多層構造体の層間の剥離強度が向上し、応力存在下レトルト耐性が良好なものとなる。層(Z)は、剥離強度の観点から基材(X)と直接積層されていることが好ましい。
【0020】
[ポリビニルアルコール系樹脂(C)]
層(Z)がPVA系樹脂(C)を含むことで、応力存在下レトルト耐性が良好になる傾向となる。また、後述するポリエステル系樹脂(L)に起因するレトルト処理後のガスバリア性の低下を抑制できる傾向となる。PVA系樹脂(C)としては、例えば、ポリビニルアルコール(以下「PVA」と略記する場合がある)樹脂やエチレン-ビニルアルコール共重合体(以下「EVOH」と略記する場合がある)樹脂等が挙げられ、中でも基材(X)と層(Y)との密着性が良好となる観点から、PVA系樹脂(C)はPVA樹脂であることが好ましい。PVA樹脂としては、例えばビニルエステルを単独重合し、ケン化して得られるPVA樹脂や、その他の変性基を有する変性PVA樹脂が挙げられる。変性PVA樹脂は、共重合変性であっても後変性であってもよい。また、EVOH樹脂としては、例えばビニルエステル及びエチレンを共重合し、ケン化して得られるEVOH樹脂や、その他の変性基を有する変性EVOH樹脂が挙げられる。変性EVOH樹脂は、共重合変性であっても後変性であってもよい。これらのPVA系樹脂(C)は、単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。なお、本明細書においてエチレン単位含有率20モル%以上はEVOH樹脂、エチレン単位含有率20モル%未満はPVA樹脂とする。
【0021】
PVA樹脂のケン化度は40モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましい。また、PVA樹脂のケン化度は99.9モル%以下が好ましく、99.0モル%以下であってもよく、98モル%以下であってもよい。ケン化度が40モル%以上であると、基材(X)と層(Y)との密着性がより良好になる傾向となる。また、ケン化度が99.9モル%以下であると、後述するコーティング液(R)の調製が容易となる傾向となる。
【0022】
EVOH樹脂のケン化度は70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましい。また、EVOH樹脂のケン化度は99.9モル%以下であってもよい。ケン化度を上記範囲に調整することで、基材(X)と層(Y)との密着性がより良好になる傾向となる。
【0023】
EVOH樹脂のエチレン単位含有率は20モル%以上60モル%以下であってもよく、40モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましい。EVOH樹脂のエチレン単位含有率が60モル%以下であることで、親水性が向上し、基材(X)と層(Y)との密着性が向上する傾向となる。
【0024】
PVA系樹脂(C)が変性基を有する場合、変性基としては、シラノール基、チオール基、アルデヒド基、カルボキシ基、アセトアセチル基、スルホン酸基、ニトリル基、アミノ基等が挙げられ、シラノール基を有することが好ましい。変性基を有することで基材(X)および層(Y)との化学結合により密着性が向上する場合がある。PVA系樹脂が上記変性基を有する場合、その変性基の含有率は20モル%以下であっても、10モル%以下であっても、5モル%以下であっても、1モル%以下であっても、前記変性基を含まない(0モル%)態様であってもよい。
【0025】
PVA系樹脂(C)が共重合変性される場合、ビニルエステルとの共重合に供される他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキンラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類;塩化ビニリデン;1,4-ジアセトキシ-2-ブテン;ビニレンカーボネート等が挙げられる。PVA系樹脂(C)が上記他の単量体を含む場合、その含有率は20モル%未満であっても、10モル%以下であっても、5モル%以下であっても、3モル%以下であってもよい。
【0026】
JIS K 6726(1994年)に準拠して測定される、PVA系樹脂(C)の濃度4質量%水溶液の、20℃における粘度は1mPa・s以上100mPa・s以下が好ましく、3mPa・s以上90mPa・s以下がより好ましく、5mPa・s以上80mPa・s以下がさらに好ましい。前記範囲内であると層(Z)を均一な厚さに調整しやすく、得られる多層構造体の密着性を安定的に再現できる傾向となる。
【0027】
[ポリエステル系樹脂(L)]
層(Z)がポリエステル系樹脂(L)を含むことで、PVA系樹脂(C)に起因する、レトルト処理後の基材(X)と層(Y)間の剥離強度の低下を抑制できる傾向となる。ポリエステル系樹脂(L)は、エステル結合を有する重合体であり、公知の方法を用いて、多価カルボン酸とポリオールとの重縮合等によって得ることができる。前記多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、スルホイソフタル酸ナトリウム等が挙げられる。前記ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、ペンタエリストリール、またはビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0028】
ポリエステル系樹脂(L)は、PVA系樹脂(C)との親和性の観点からカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂であることが好ましい。ポリエステル系樹脂(L)の原料であるポリエステル系樹脂(La)はポリエステル系樹脂(L)と同一であってもよいし、ポリエステル系樹脂(L)の前駆体であってもよい。ポリエステル系樹脂(La)は水や有機溶剤等の溶媒に溶解あるいは分散された状態であることが好ましく、水性分散体であることがより好ましい。ポリエステル系樹脂(La)が水性分散体であることで、PVA系樹脂(C)との親和性が、より良好になる傾向となる。
【0029】
ポリエステル系樹脂(La)は水媒体に分散させる際、塩基性化合物で中和されることが好ましい。塩基性化合物としては被膜形成時、或いは硬化剤配合による焼付硬化時に揮散する化合物が好ましく、このような化合物としてはアンモニア、沸点が250℃以下の有機アミン化合物等が挙げられる。好ましい有機アミン化合物の例としては、トリエチルアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン等を挙げることができる。塩基性化合物は、ポリエステル系樹脂(L)中に含まれるカルボキシル基に応じて、少なくとも部分中和し得る量、すなわち、カルボキシル基に対して0.2~1.5倍当量であることが好ましく、0.4~1.3倍当量であることがより好ましい。0.2倍当量未満では塩基性化合物添加の効果が認められず、1.5倍当量を超えると、ポリエステル系樹脂の水分散体が著しく増粘する場合がある。
【0030】
ポリエステル系樹脂(La)が水性分散体である場合、ポリエステル系樹脂(La)の分散液の酸価は8mgKOH/g以上が好ましく、10mgKOH/g以上がより好ましい。また、分散液の酸価は70mgKOH/g以下が好ましく、50mgKOH/g以下がより好ましい。分散液の酸価が上記範囲であると、後述するコーティング液(R)での分散性が良好となると同時に、得られる多層構造体における応力存在下レトルト耐性が良好となる傾向となる。
【0031】
ポリエステル系樹脂(La)としては、公知の材料を用いることができ、ポリエステル系樹脂(La)の水分散体の市販品としては、例えば、エリーテル(登録商標)KT-0507、KT-8701、KT-8803、KT-9204、KA-5034、KA-3556、KA-1449、KA-5071S、KZA-1449S、(以上、ユニチカ株式会社製)、バイロナール(登録商標)MD-1200、バイロナールMD-1480(以上、東洋紡績株式会社製)、ペスレジンA-124GP、ペスレジンA-684G(高松油脂株式会社製)等が挙げられる。ポリエステル系樹脂(La)の水分散体と適宜溶媒やその他の成分を混合することにより、後述するコーティング液(R)を作製することができる。
【0032】
PVA系樹脂(C)とポリエステル系樹脂(L)との質量比((C)/(L))は、1/99以上が好ましく、3/97以上がより好ましく、5/95以上がさらに好ましい。また、質量比((C)/(L))は50/50以下が好ましく、45/55以下がより好ましく、40/60以下がさらに好ましい。質量比((C)/(L))は、1/99以上であると、応力存在下レトルト耐性が良好となる傾向となる。また、質量比((C)/(L))は50/50以下であると、レトルト処理後において基材(X)と層(Y)間の剥離強度の低下を抑制できる傾向となる。
【0033】
PVA系樹脂(C)及びポリエステル系樹脂(L)が層(Z)を占める割合は50質量%超が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましく、99質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。層(Z)において、PVA系樹脂(C)及びポリエステル系樹脂(L)が50質量%超であると、レトルト処理後において基材(X)と層(Y)間の剥離強度の低下をより抑制できる傾向となる。
【0034】
層(Z)は、アクリル系樹脂を含んでいてもよい。アクリル系樹脂を含有することで、PVA系樹脂(C)とポリエステル系樹脂(L)との相溶性が向上する場合があり、レトルト処理後において基材(X)と層(Y)間の剥離強度の低下をより抑制できる場合がある。層(Z)がアクリル系樹脂の含有量は50質量%未満が好ましく、45質量%未満がより好ましく、0質量%(樹脂成分を含まない)であってもよい。
【0035】
層(Z)がアクリル系樹脂を含む場合、ポリエステル系樹脂(L)に対するアクリル系樹脂の質量比(アクリル/L)は、20/80以上が好ましく、30/70以上がより好ましい。また、前記質量比(アクリル/L)は、60/40以下が好ましく、50/50以下がより好ましい。前記質量比(アクリル/L)が上記範囲であると、レトルト処理後において基材(X)と層(Y)間の剥離強度の低下をより抑制できる場合がある。
【0036】
層(Z)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、さらに他の成分を含有してもよい。層(Z)に含まれ得る他の成分としては、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩等の無機酸金属塩、シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩、シクロペンタジエニル金属錯体(例えば、チタノセン)、シアノ金属錯体(例えば、プルシアンブルー)等の金属錯体、層状粘土化合物、架橋剤、PVA系樹脂(C)及びポリエステル系樹脂(L)以外の高分子化合物、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤等が挙げられる。層(Z)における前記他の成分の含有率は50質量%未満が好ましく、20質量%未満がより好ましく、10質量%未満がさらに好ましく、5質量%未満が特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。
【0037】
層(Z)の厚さは1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。また、層(Z)の厚さは100nm以下が好ましく、70nm以下がより好ましく、30nm以下がさらに好ましい。層(Z)の厚さが1nm以上100nm以下であると、応力存在下でのレトルト処理後の外観不良が良好かつ、高透明性のフィルムが得られる傾向となる。(Z)の厚さは、後記する実施例に記載の方法で測定できる。
【0038】
[層(Y)]
層(Y)は、層(Z)上に積層された層であり、アルミニウムを含む金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)との反応生成物(D)を含む。密着性の観点から、層(Y)は層(Z)上に直接積層されていることが好ましい。
【0039】
[アルミニウムを含む金属酸化物(A)]
金属酸化物(A)を構成する金属原子(それらを総称して「金属原子(M)」という場合がある)は、周期表の2~14族に属する金属原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子であるが、少なくともアルミニウム原子を含む。金属原子(M)は、アルミニウム原子単独であってもよいし、アルミニウム原子とそれ以外の金属原子とを含んでもよい。なお、金属酸化物(A)として、2種以上の金属酸化物(A)を混合して用いてもよい。アルミニウム原子以外の金属原子としては、例えば、マグネシウム、カルシウムなどの周期表第2族の金属;亜鉛などの周期表第12族の金属;周期表第13属の金属;ケイ素などの周期表第14族の金属;チタン、ジルコニウムなどの遷移金属などを挙げることができる。なお、ケイ素は半金属に分類される場合があるが、本明細書ではケイ素を金属に含めるものとする。アルミニウムと併用され得る金属原子(M)としては、取扱性や得られる多層構造体のガスバリア性が優れる観点から、チタン及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0040】
金属原子(M)に占めるアルミニウム原子の割合は50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、95モル%以上であっても、100モル%であってもよい。金属酸化物(A)の例には、液相合成法、気相合成法、固体粉砕法等の方法によって製造された金属酸化物が含まれる。
【0041】
金属酸化物(A)は、加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(E)の加水分解縮合物であってもよい。該特性基としては、例えば、ハロゲン原子、NO3、置換基を有していてもよい炭素数1~9のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6~9のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2~9のアシロキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3~9のアルケニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数5~15のβ-ジケトナト基、または置換基を有していてもよい炭素数1~9のアシル基を有するジアシルメチル基等が挙げられる。化合物(E)の加水分解縮合物は、実質的に金属酸化物(A)とみなすことが可能である。そのため、本明細書では、化合物(E)の加水分解縮合物を「金属酸化物(A)」という場合がある。すなわち、本明細書において、「金属酸化物(A)」は「化合物(E)の加水分解縮合物」と読み替えることができ、また、「化合物(E)の加水分解縮合物」を「金属酸化物(A)」と読み替えることもできる。
【0042】
[加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(E)]
無機リン化合物(BI)との反応の制御が容易になり、得られる多層構造体のガスバリア性が優れることから、化合物(E)は後述するアルミニウムを含む化合物(Ea)を含むことが好ましい。
【0043】
化合物(Ea)としては、例えば、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ-n-プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ-n-ブトキシアルミニウム、トリ-sec-ブトキシアルミニウム、トリ-tert-ブトキシアルミニウム等が挙げられ、中でも、トリイソプロポキシアルミニウムおよびトリ-sec-ブトキシアルミニウムが好ましい。化合物(E)として、2種以上の化合物(Ea)を併用してもよい。
【0044】
また、化合物(E)はアルミニウム以外の金属原子(M)を含む化合物(Eb)を含んでいてもよく、化合物(Eb)としては、例えば、テトラキス(2,4-ペンタンジオナト)チタン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタン等のチタン化合物;テトラキス(2,4-ペンタンジオナト)ジルコニウム、テトラ-n-プロポキシジルコニウム、テトラ-n-ブトキシジルコニウム等のジルコニウム化合物等が挙げられる。これらは、1種単独で使用しても、2種以上の化合物(Eb)を併用してもよい。
【0045】
化合物(E)に占める化合物(Ea)の割合は特に限定されず、例えば80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、100モル%であってもよい。
【0046】
化合物(E)が加水分解されることで、化合物(E)が有する加水分解可能な特性基の少なくとも一部が水酸基に変換される。さらに、その加水分解物が縮合することで、金属原子(M)が酸素原子(O)を介して結合された化合物が形成される。この縮合が繰り返されると、実質的に金属酸化物とみなしうる化合物が形成される。なお、このようにして形成された金属酸化物(A)の表面には、通常、水酸基が存在する。
【0047】
本明細書においては、[金属原子(M)のみに結合している酸素原子(O)のモル数]/[金属原子(M)のモル数]の比が0.8以上である化合物を金属酸化物(A)に含めるものとする。ここで、金属原子(M)のみに結合している酸素原子(O)は、M-O-Mで表される構造における酸素原子(O)であり、M-O-Hで表される構造における酸素原子(O)のように金属原子(M)と水素原子(H)に結合している酸素原子は除外される。金属酸化物(A)における前記比は、0.9以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、1.1以上がさらに好ましい。この比の上限は特に限定されないが、金属原子(M)の原子価をnとすると、通常、n/2で表される。
【0048】
前記加水分解縮合が起こるためには、化合物(E)が加水分解可能な特性基を有していることが重要である。それらの基が結合していない場合、加水分解縮合反応が起こらないもしくは極めて緩慢となるため、目的とする金属酸化物(A)の調製が困難になる。
【0049】
化合物(E)の加水分解縮合物は、例えば、公知のゾルゲル法で採用される手法によって特定の原料から製造してもよい。該原料には、化合物(E)、化合物(E)の部分加水分解物、化合物(E)の完全加水分解物、化合物(E)が部分的に加水分解縮合してなる化合物、および化合物(E)の完全加水分解物の一部が縮合してなる化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用できる。
【0050】
なお、後述の無機リン化合物(BI)との混合に供される金属酸化物(A)は、リン原子を実質的に含有しないことが好ましい。
【0051】
[無機リン化合物(BI)]
無機リン化合物(BI)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有し、典型的には、かかる部位を複数含有し、好適には2~20個含有する。かかる部位には、金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)と縮合反応可能な部位が含まれ、例えば、リン原子に直接結合したハロゲン原子、リン原子に直接結合した酸素原子等が挙げられる。金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)は、通常、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)に結合している。
【0052】
無機リン化合物(BI)としては、例えば、リン酸、二リン酸、三リン酸、4分子以上のリン酸が縮合したポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸、ホスフィン酸、亜ホスフィン酸等のリンのオキソ酸、およびこれらの塩(例えば、リン酸ナトリウム)、ならびにこれらの誘導体(例えば、ハロゲン化物(例えば、塩化ホスホリル)、脱水物(例えば、五酸化二リン))等が挙げられ、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。中でも、後述するコーティング液(S)の安定性および得られる多層構造体のガスバリア性が向上する観点から、リン酸を単独で使用するか、リン酸とそれ以外の無機リン化合物(BI)を併用することが好ましい。リン酸とそれ以外の無機リン化合物(BI)とを併用する場合、無機リン化合物(BI)の50モル%以上がリン酸であることが好ましい。
【0053】
[反応生成物(D)]
反応生成物(D)は、金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)との反応で得られる。金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)とさらに他の化合物とが反応することで生成する化合物も反応生成物(D)に含まれる。層(Y)が反応生成物(D)を含むことで、レトルト処理後の基材(X)と層(Y)間の剥離強度の低下を抑制できる傾向となる。また、層(Y)が反応生成物(D)を含み、層(Z)がPVA系樹脂(C)を含むことで、多層構造体はレトルト処理後においてガスバリア性に優れる傾向となる。
【0054】
層(Y)の赤外吸収スペクトルにおいて、800~1400cm-1の領域における最大吸収波数は1080~1130cm-1の範囲にあることが好ましい。例えば、金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)とが反応して反応生成物(D)となる過程において、金属酸化物(A)に由来する金属原子(M)と無機リン化合物(BI)に由来するリン原子(P)とが酸素原子(O)を介してM-O-Pで表される結合を形成する。その結果、反応生成物(D)の赤外吸収スペクトルにおいて該結合由来の特性吸収帯が生じる。M-O-Pの結合に基づく特性吸収帯が1080~1130cm-1の領域に見られる場合には、得られた多層構造体が優れたガスバリア性を発現する。特に、該特性吸収帯が、一般に各種の原子と酸素原子との結合に由来する吸収が見られる800~1400cm-1の領域において最も強い吸収である場合には、得られた多層構造体がさらに優れたガスバリア性を発現する。
【0055】
これに対し、金属アルコキシドあるいは金属塩等の金属化合物と無機リン化合物(BI)とを予め混合した後に加水分解縮合させた場合には、金属化合物に由来する金属原子と無機リン化合物(BI)に由来するリン原子とがほぼ均一に混ざり合い反応した複合体が得られる。その場合、赤外吸収スペクトルにおいて、800~1400cm-1の領域における最大吸収波数が1080~1130cm-1の範囲から外れるようになる。
【0056】
層(Y)の赤外吸収スペクトルにおいて、800~1400cm-1の領域における最大吸収帯の半値幅は、得られる多層構造体のガスバリア性の観点から200cm-1以下が好ましく、150cm-1以下がより好ましく、100cm-1以下がさらに好ましく、50cm-1以下が特に好ましい。
【0057】
層(Y)の赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計(パーキンエルマー株式会社製Spectrum One)を用い、800~1400cm-1を測定領域として、減衰全反射法で測定できる。ただし、前記方法で測定できない場合には、反射吸収法、外部反射法、減衰全反射法等の反射測定、多層構造体から層(Y)をかきとり、ヌジョール法、錠剤法等の透過測定という方法で測定してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0058】
また、層(Y)は、反応に関与していない金属酸化物(A)および/または無機リン化合物(BI)を部分的に含んでいてもよい。
【0059】
層(Y)において、金属酸化物(A)を構成する金属原子と無機リン化合物(BI)に由来するリン原子とのモル比は、[金属酸化物(A)を構成する金属原子]:[無機リン化合物(BI)に由来するリン原子]=1.0:1.0~3.6:1.0の範囲にあることが好ましく、1.1:1.0~3.0:1.0の範囲にあることがより好ましい。この範囲内では優れたガスバリア性能が得られる。層(Y)における該モル比は、層(Y)を形成するためのコーティング液(S)における金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)との混合比率によって調整できる。層(Y)における該モル比は、通常、コーティング液(S)における比と同じである。
【0060】
層(Y)の厚さ(多層構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)は、0.05~4.0μmが好ましく、0.1~2.0μmがより好ましい。層(Y)を薄くすることで、印刷、ラミネート等の加工時における多層構造体の寸法変化を低く抑えることができる。また、多層構造体の柔軟性が増すため、その力学的特性を基材自体の力学的特性に近づけることもできる。本発明の多層構造体が2層以上の層(Y)を有する場合、ガスバリア性の観点から、層(Y)1層当たりの厚さは0.05μm以上が好ましい。層(Y)の厚さは、層(Y)の形成に用いられる後述するコーティング液(S)の濃度またはその塗工方法によって制御できる。層(Y)の厚さは、多層構造体の断面を走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡で観察することで測定できる。
【0061】
層(Y)は、上述した成分の他に有機リン化合物(BO)及び重合体(F)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0062】
[有機リン化合物(BO)]
有機リン化合物(BO)は、複数のリン原子を有する重合体(BOa)または有機リン化合物(BOb)であることが好ましい。
【0063】
[複数のリン原子を有する重合体(BOa)]
重合体(BOa)が有するリン原子を含む官能基としては、例えば、リン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、亜ホスホン酸基、ホスフィン酸基、亜ホスフィン酸基、およびこれらから誘導される官能基(例えば、塩、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物(例えば、塩化物)、脱水物)等が挙げられ、中でもリン酸基およびホスホン酸基が好ましく、ホスホン酸基がより好ましい。
【0064】
重合体(BOa)としては、例えば、アクリル酸6-[(2-ホスホノアセチル)オキシ]ヘキシル、メタクリル酸2-ホスホノオキシエチル、メタクリル酸ホスホノメチル、メタクリル酸11-ホスホノウンデシル、メタクリル酸1,1-ジホスホノエチル等のホスホノ(メタ)アクリル酸エステル類の重合体;ビニルホスホン酸、2-プロペン-1-ホスホン酸、4-ビニルベンジルホスホン酸、4-ビニルフェニルホスホン酸等のビニルホスホン酸類の重合体;ビニルホスフィン酸、4-ビニルベンジルホスフィン酸等のビニルホスフィン酸類の重合体;リン酸化デンプン等が挙げられる。重合体(BOa)は、少なくとも1種のリン原子を含む官能基を有する単量体の単独重合体であってもよいし、2種以上の単量体の共重合体であってもよい。また、重合体(BOa)として、単一の単量体からなる重合体を2種以上併用してもよい。中でも、ホスホノ(メタ)アクリル酸エステル類の重合体およびビニルホスホン酸類の重合体が好ましく、ビニルホスホン酸類の重合体がより好ましい。すなわち、重合体(BOa)としては、ポリ(ビニルホスホン酸)が好ましい。また、重合体(BOa)は、ビニルホスホン酸ハロゲン化物またはビニルホスホン酸エステル等のビニルホスホン酸誘導体を単独または共重合した後、加水分解することでも得ることができる。
【0065】
また、重合体(BOa)は、少なくとも1種のリン原子を含む官能基を有する単量体と他のビニル単量体との共重合体であってもよい。リン原子を含む官能基を有する単量体と共重合できる他のビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、核置換スチレン類、アルキルビニルエーテル類、アルキルビニルエステル類、パーフルオロアルキルビニルエーテル類、パーフルオロアルキルビニルエステル類、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイミド、フェニルマレイミド等が挙げられ、中でも(メタ)アクリル酸エステル類、アクリロニトリル、スチレン、マレイミド、およびフェニルマレイミドが好ましい。
【0066】
より優れた耐屈曲性を有する多層構造体を得るために、リン原子を含む官能基を有する単量体に由来する構成単位が重合体(BOa)の全構成単位に占める割合は、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、40モル%以上がさらに好ましく、70モル%以上が特に好ましく、100モル%であってもよい。
【0067】
重合体(BOa)の分子量に特に制限はないが、数平均分子量が1000~100000の範囲にあることが好ましい。数平均分子量がこの範囲にあると、層(Y)を積層することによる耐屈曲性の改善効果と、後述するコーティング液(S)を使用する場合にコーティング液(S)の粘度安定性とを、高いレベルで両立できる。
【0068】
多層構造体の層(Y)において、無機リン化合物(BI)と重合体(BOa)とを含む場合、層(Y)における無機リン化合物(BI)の質量WBIと重合体(BOa)の質量WBOaの比WBOa/WBIが0.01/99.99≦WBOa/WBI<6.00/94.00の関係を満たすものが好ましく、バリア性能に優れる点から、0.10/99.90≦WBOa/WBI<4.50/95.50の関係を満たすものがより好ましく、0.20/99.80≦WBOa/WBI<4.00/96.00の関係を満たすものがさらに好ましく、0.50/99.50≦WBOa/WBI<3.50/96.50の関係を満たすものが特に好ましい。すなわち、WBOaは0.01以上6.00未満の微量であるのに対して、WBIは94.00より多く99.99以下という多量に用いるのが好ましい。なお、層(Y)において無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BOa)が反応している場合でも、反応生成物(D)を構成する無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BOa)の部分を無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BOa)とみなす。この場合、反応生成物(D)の形成に用いられた無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BOa)の質量(反応前の無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BOa)の質量)を、層(Y)中の無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BOa)の質量に含める。
【0069】
[有機リン化合物(BOb)]
有機リン化合物(BOb)は、炭素数3以上20以下のアルキレン鎖またはポリオキシアルキレン鎖を介して、少なくとも1つの水酸基が結合したリン原子と、極性基とが結合されている。有機リン化合物(BOb)は金属酸化物(A)、無機リン化合物(BI)、およびそれらの反応生成物(D)と比較して表面自由エネルギーが低く、層(Y)の前駆体形成過程において表面側に偏析する。有機リン化合物(BOb)は、層(Y)に含まれる成分と反応可能な少なくとも1つの水酸基が結合したリン原子と、他の部材(例えば、接着層(I)、他の層(J)(例えば、インク層))と反応可能な極性基とを有するため、密着性が向上し、応力存在下でのレトルト処理後も層間接着力を維持できる点から、層間剥離等の外観不良を抑制することが可能となる。
【0070】
有機リン化合物(BOb)としては、例えば3-ヒドロキシプロピルホスホン酸、4-ヒドロキシブチルホスホン酸、5-ヒドロキシペンチルホスホン酸、6-ヒドロキシヘキシルホスホン酸、7-ヒドロキシヘプシルホスホン酸、8-ヒドロキシオクチルホスホン酸、9-ヒドロキシノニルホスホン酸、10-ヒドロキシデシルホスホン酸、11-ヒドロキシウンデシルホスホン酸、12-ヒドロキシドデシルホスホン酸、13-ヒドロキシドトリデシルホスホン酸、14-ヒドロキシテトラデシルホスホン酸、15-ヒドロキシペンタデシルホスホン酸、16-ヒドロキシヘキサデシルホスホン酸、17-ヒドロキシヘプタデシルホスホン酸、18-ヒドロキシオクタデシルホスホン酸、19-ヒドロキシノナデシルホスホン酸、20-ヒドロキシイコシルホスホン酸、3-ヒドロキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-ヒドロキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-ヒドロキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-ヒドロキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-ヒドロキシヘプシルジハイドロジェンホスフェート、8-ヒドロキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-ヒドロキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-ヒドロキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-ヒドロキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-ヒドロキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、13-ヒドロキシドトリデシルジハイドロジェンホスフェート、14-ヒドロキシテトラデシルジハイドロジェンホスフェート、15-ヒドロキシペンタデシルジハイドロジェンホスフェート、16-ヒドロキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、17-ヒドロキシヘプタデシルジハイドロジェンホスフェート、18-ヒドロキシオクタデシルジハイドロジェンホスフェート、19-ヒドロキシノナデシルジハイドロジェンホスフェート、20-ヒドロキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、3-カルボキシプロピルホスホン酸、4-カルボキシブチルホスホン酸、5-カルボキシペンチルホスホン酸、6-カルボキシヘキシルホスホン酸、7-カルボキシヘプシルホスホン酸、8-カルボキシオクチルホスホン酸、9-カルボキシノニルホスホン酸、10-カルボキシデシルホスホン酸、11-カルボキシウンデシルホスホン酸、12-カルボキシドデシルホスホン酸、13-カルボキシドトリデシルホスホン酸、14-カルボキシテトラデシルホスホン酸、15-カルボキシペンタデシルホスホン酸、16-カルボキシヘキサデシルホスホン酸、17-カルボキシヘプタデシルホスホン酸、18-カルボキシオクタデシルホスホン酸、19-カルボキシノナデシルホスホン酸、20-カルボキシイコシルホスホン酸等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0071】
多層構造体の層(Y)において、無機リン化合物(BI)と有機リン化合物(BOb)とを含む場合、層(Y)における有機リン化合物(BOb)のモル数MBObと無機リン化合物(BI)のモル数MBIとの比MBOb/MBIが1.0×10-4≦MBOb/MBI≦2.0×10-2の関係を満たすものが好ましく、密着性がより良好になる観点から、3.5×10-4≦MBOb/MBI≦1.0×10-2の関係を満たすものがより好ましく、密着性およびバリア性能ともにより良好になる点から、5.0×10-4≦MBOb/MBI≦6.0×10-3の関係を満たすものがさらに好ましい。なお、MBOb/MBIにおける無機リン化合物(BI)のモル数MBIは、反応生成物(D)の形成に用いられる無機リン化合物(BI)を意味する。
【0072】
層(Y)が有機リン化合物(BOb)を含む場合、X線光電子分光分析法(XPS法)により測定される多層構造体の層(Y)の、層(Z)を介して接している基材(X)と接していない側の表面~5nmにおけるC/Al比は0.1~15.0の範囲にあることが好ましく、0.3~10.0の範囲にあることがより好ましく、0.5~5.0の範囲にあることがさらに好ましい。有機リン化合物(BOb)が層(Y)の表面に存在する場合に良好な密着性を示す。
【0073】
[重合体(F)]
層(Y)はカルボニル基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体(F)を含んでいてもよい。重合体(F)は、水酸基およびカルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する重合体であることが好ましい。
【0074】
重合体(F)としては、ポリエチレングリコール;PVA、炭素数4以下のα-オレフィン単位を1~50モル%含有する変性PVA、ポリビニルアセタール(ポリビニルブチラールなど)などのPVA系重合体;セルロース、デンプンなどの多糖類;ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸、エチレン-アクリル酸共重合体などの(メタ)アクリル酸系重合体;エチレン-無水マレイン酸共重合体の加水分解物、スチレン-無水マレイン酸共重合体の加水分解物、イソブチレン-無水マレイン酸交互共重合体の加水分解物などのマレイン酸系重合体などが挙げられる。中でも、ポリエチレングリコール、PVA系重合体が好ましい。重合体(F)として用いられるPVA系重合体の好適な態様は、層(Z)に含まれるPVA系樹脂(C)と同様である。
【0075】
重合体(F)は、重合性基を有する単量体の単独重合体であってもよいし、2種以上の単量体の共重合体であってもよいし、水酸基および/またはカルボキシ基を有する単量体と該基を有しない単量体との共重合体であってもよい。なお、重合体(F)として、2種以上の重合体(F)を混合して用いてもよい。
【0076】
重合体(F)の分子量は特に制限されないが、より優れたガスバリア性および機械的強度を有する多層構造体を得るために、重合体(F)の重量平均分子量は5000以上が好ましく、8000以上がより好ましく、10000以上がさらに好ましい。重合体(F)の重量平均分子量の上限は特に限定されず、例えば、1500000以下である。
【0077】
多層構造体の外観を良好に保つ観点から、層(Y)における重合体(F)の含有量は、層(Y)の質量を基準として、50質量%未満が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、0質量%であってもよい。重合体(F)は、層(Y)中の成分と反応していても、反応していなくてもよい。
【0078】
層(Y)は、他の成分をさらに含んでいてもよい。層(Y)に含まれ得る他の成分としては、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩等の無機酸金属塩、シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩、シクロペンタジエニル金属錯体(例えば、チタノセン)、シアノ金属錯体(例えば、プルシアンブルー)等の金属錯体、層状粘土化合物、架橋剤、重合体(BOa)及び重合体(F)以外の高分子化合物、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤等が挙げられる。多層構造体中の層(Y)における前記他の成分の含有率は50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。
【0079】
[層(W)]
本発明の多層構造体は有機リン化合物(BO)及び重合体(F)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む層(W)を層(Y)上に備えていてもよい。本発明の多層構造体が層(W)を備える場合、層(W)は層(Y)と直接積層していることが好ましい。層(W)に含まれ得る有機リン化合物(BO)及び重合体(F)の好適な態様は、上述した通りである。本発明の多層構造体が層(W)を備えることで、耐屈曲性が向上したり、後述する他の層(J)との密着性が向上する傾向となる。
【0080】
層(W)は、他の成分をさらに含んでいてもよく、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩等の無機酸金属塩、シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩、シクロペンタジエニル金属錯体(例えば、チタノセン)、シアノ金属錯体(例えば、プルシアンブルー)等の金属錯体、層状粘土化合物、架橋剤、重合体(BOa)及び重合体(F)以外の高分子化合物、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤等が挙げられる。層(W)における前記他の成分の含有率は50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。
【0081】
本発明の多層構造体は、基材(X)ではない配置で無機蒸着層を含んでもよい。好適な態様は前述した無機蒸着層(X’)の好適な態様と同様である。
【0082】
本発明の多層構造体は、125℃で30分間レトルト処理を行った後に、剥離界面に水を滴下しながら測定した基材(X)と層(Y)間の剥離強度が100gf/15mm以上であることが好ましく、200gf/15mm以上であることがより好ましく、260gf/15mm以上であることがさらに好ましい。剥離界面に水を滴下しながら測定した剥離強度は、例えば、層(Z)におけるPVA系樹脂(C)とポリエステル系樹脂(L)との質量比によって調整できる。剥離強度の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
【0083】
[多層構造体の製造方法]
本発明の多層構造体について説明した事項は本発明の製造方法に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。また、本発明の製造方法について説明した事項は、本発明の多層構造体に適用できる。
【0084】
本発明の多層構造体の製造方法としては、例えば、PVA系樹脂(C)、ポリエステル系樹脂(La)及び溶媒を含むコーティング液(R)を基材(X)上に塗工した後溶媒を除去し層(Z)を形成する工程(I)、アルミニウムを含む金属酸化物(A)、無機リン化合物(BI)及び溶媒とを含むコーティング液(S)を層(Z)上に塗工した後、溶媒を除去し層(Y)前駆体層を形成する工程(II)、および層(Y)前駆体層を熱処理することによって、反応生成物(D)を含む層(Y)を形成する工程(III)を含む製造方法が挙げられる。また、有機リン化合物(BO)または重合体(F)を含む多層構造体を製造する場合、工程(II)に用いるコーティング液(S)に有機リン化合物(BO)または重合体(F)を含ませてもよく、有機リン化合物(BO)または重合体(F)を含むコーティング液(T)を用意し、工程(II)で得られた層(Y)前駆体層表面に塗工する工程(IV)を含んでいてもよい。
【0085】
[工程(I)]
工程(I)では、PVA系樹脂(C)、ポリエステル系樹脂(La)及び溶媒を含むコーティング液(R)を基材(X)上に塗工後溶媒を除去し層(Z)を形成する。層(Z)が形成された場合、ポリエステル系樹脂(La)はポリエステル系樹脂(L)とみなす。この際、ポリエステル系樹脂(La)は溶媒を除去する工程でポリエステル系樹脂(L)を生成する前駆体であってもよいし、ポリエステル系樹脂(La)とポリエステル系樹脂(L)が同一のポリエステル系樹脂であってもよい。コーティング液(R)は、PVA系樹脂(C)、ポリエステル系樹脂(La)及び溶媒を混合することで得られる。
【0086】
コーティング液(R)を得る手段としては、例えば、PVA系樹脂(C)、ポリエステル系樹脂(La)及び溶媒をそのまま混合してもよいし、PVA系樹脂(C)を含む溶液または分散液とポリエステル系樹脂(La)を含む溶液または分散液とを混合してもよい。中でも溶液の均一性の観点から、PVA系樹脂(C)の水溶液とポリエステル系樹脂(La)の分散液とを混合してコーティング液(R)を得ることが好ましい。
【0087】
コーティング液(R)に用いる溶媒としては、特に限定されないが、水を主成分とすることが好ましく、水のみであってもよい。また水を主成分とした場合に用いる他の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類が好ましく用いられる。
【0088】
コーティング液(R)の固形分濃度は、該コーティング液の保存安定性および基材に対する塗工性の観点から、0.01~10質量%が好ましい。前記固形分濃度は、例えば、コーティング液(R)の溶媒留去後に残存した固形分の質量を、処理に供したコーティング液(R)の質量で除して算出できる。
【0089】
コーティング液(R)の塗工は、特に限定されず、公知の方法を採用できる。塗工方法としては、例えば、キャスト法、ディッピング法、ロールコーティング法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キスコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法、バーコート法等が挙げられる。
【0090】
コーティング液(R)を基材(X)に塗工後形成された層(Z)の厚さは、コーティング液(R)の固形分濃度もしくは塗工方法によって制御できる。例えば、グラビアコート法の場合、グラビアロールのセル容積を変えればよい。
【0091】
基材(X)上に塗工後のコーティング液(R)の溶媒の除去方法に特に制限はなく、公知の乾燥方法を適用できる。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等が挙げられる。
【0092】
[工程(II)]
工程(II)では、アルミニウムを含む金属酸化物(A)と無機リン化合物(BI)と溶媒とを含むコーティング液(S)を層(Z)上に塗工した後、溶媒を除去し層(Y)前駆体層を形成する。コーティング液(S)は、アルミニウムを含む金属酸化物(A)、無機リン化合物(BI)および溶媒を混合することで得られる。
【0093】
コーティング液(S)を調整する具体的手段としては、金属酸化物(A)の分散液と、無機リン化合物(BI)を含む溶液とを混合する方法;金属酸化物(A)の分散液に無機リン化合物(BI)を添加し、混合する方法等が挙げられる。これらの混合時の温度は、50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下がさらに好ましい。コーティング液(S)は、他の化合物(例えば、有機リン化合物(BO)や重合体(F))を含んでいてもよく、必要に応じて、酢酸、塩酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、およびトリクロロ酢酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化合物(Q)を含んでいてもよい。
【0094】
金属酸化物(A)の分散液は、例えば、公知のゾルゲル法で採用されている手法に従い、例えば、化合物(E)、水、および必要に応じて酸触媒や有機溶媒を混合し、化合物(E)を縮合または加水分解縮合することによって調製できる。化合物(E)を縮合または加水分解縮合することによって金属酸化物(A)の分散液を得た場合、必要に応じて、得られた分散液に対して特定の処理(前記酸化合物(Q)の存在下の解膠等)を行ってもよい。金属酸化物(A)の分散液の調製に使用する溶媒は特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;水;またはこれらの混合溶媒が好ましい。
【0095】
無機リン化合物(BI)を含む溶液に用いる溶媒としては、無機リン化合物(BI)の種類に応じて適宜選択すればよいが、水を含むことが好ましい。無機リン化合物(BI)の溶解の妨げにならない限り、溶媒は有機溶媒(例えば、メタノール等のアルコール類)を含んでいてもよい。
【0096】
コーティング液(S)の固形分濃度は、該コーティング液の保存安定性および基材に対する塗工性の観点から1~20質量%が好ましく、2~15質量%がより好ましく、3~10質量%がさらに好ましい。前記固形分濃度は、例えば、コーティング液(S)の溶媒留去後に残存した固形分の質量を、処理に供したコーティング液(S)の質量で除して算出できる。
【0097】
コーティング液(S)は、ブルックフィールド形回転粘度計(SB型粘度計:ローターNo.3、回転速度60rpm)で測定された粘度が、塗工時の温度において3,000mPa・s以下であることが好ましく、2,500mPa・s以下であることがより好ましく、2,000mPa・s以下であることがさらに好ましい。当該粘度が3,000mPa・s以下であることによって、コーティング液(S)のレベリング性が向上し、外観により優れる多層構造体を得ることができる。また、コーティング液(S)の粘度としては、50mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましく、200mPa・s以上がさらに好ましい。
【0098】
コーティング液(S)において、アルミニウム原子とリン原子とのモル比は、アルミニウム原子:リン原子=1.0:1.0~3.6:1.0の範囲にあることが好ましく、1.1:1.0~3.0:1.0の範囲にあることがより好ましく、1.11:1.00~1.50:1.00の範囲にあることがさらに好ましい。アルミニウム原子とリン原子とのモル比は、コーティング液(S)の乾固物の蛍光X線分析を行い、算出できる。
【0099】
コーティング液(S)の塗工は、特に限定されず、公知の方法を採用できる。塗工方法としては、例えば、キャスト法、ディッピング法、ロールコーティング法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キスコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法、バーコート法等が挙げられる。
【0100】
コーティング液(S)塗工後の溶媒の除去方法(乾燥処理)に特に制限はなく、公知の乾燥方法を適用できる。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等が挙げられる。
【0101】
乾燥温度は、基材(X)の流動開始温度より低いことが好ましい。コーティング液(S)の塗工後の乾燥温度は、例えば、60~180℃程度であってもよく、60℃以上140℃未満がより好ましく、70℃以上130℃未満がさらに好ましく、80℃以上120℃未満が特に好ましい。乾燥時間は、特に限定されないが、1秒以上1時間未満が好ましく、5秒以上15分未満がより好ましく、5秒以上300秒未満がさらに好ましい。特に、乾燥温度が100℃以上の場合(例えば、100~140℃)は、乾燥時間は1秒以上4分未満が好ましく、5秒以上4分未満がより好ましく、5秒以上3分未満がさらに好ましい。乾燥温度が100℃を下回る場合は(例えば、60~99℃)、乾燥時間は3分以上1時間未満が好ましく、6分以上30分未満がより好ましく、8分以上25分未満がさらに好ましい。コーティング液(S)の乾燥処理条件が上記範囲にあると、より良好なガスバリア性を有する多層構造体が得られる傾向となる。
【0102】
[工程(III)]
工程(III)では、工程(II)で形成された層(Y)前駆体層を熱処理して層(Y)を形成する。工程(III)では、反応生成物(D)が生成する反応が進行する。該反応を充分に進行させるため、熱処理の温度は140℃以上が好ましく、170℃以上がより好ましく、180℃以上がさらに好ましく、190℃以上が特に好ましい。熱処理温度が低いと、充分な反応率を得るのにかかる時間が長くなり、生産性が低下する原因となる。熱処理の温度は、基材(X)の種類等によって異なるが、例えば、ポリアミド系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は270℃以下が好ましい。また、ポリエステル系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は240℃以下が好ましい。熱処理は、空気雰囲気下、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下等で実施してもよい。熱処理時間は、1秒~1時間が好ましく、1秒~15分がより好ましく、5~300秒がさらに好ましい。
【0103】
より良好なバリア性能を発現する観点から、工程(III)は、第1熱処理工程(III-1)と第2熱処理工程(III-2)を含むことが好ましい。熱処理を2段階以上で行う場合、2段階目の熱処理(以下、第2熱処理)の温度は、1段階目の熱処理(以下、第1熱処理)の温度より高いことが好ましく、第1熱処理の温度より15℃以上高いことがより好ましく、20℃以上高いことがさらに好ましく、30℃以上高いことが特に好ましい。
【0104】
また、工程(III)の熱処理温度(2段階以上の熱処理の場合は、第1熱処理温度)は、良好な特性を有する多層構造体が得られる点から、工程(II)の乾燥温度より高いことが好ましく、30℃以上高いことが好ましく、50℃以上高いことがより好ましく、55℃以上高いことがさらに好ましく、60℃以上高いことが特に好ましい。
【0105】
工程(III)の熱処理を2段階以上で行う場合、第1熱処理の温度が140℃以上200℃未満であることが好ましく、かつ第2熱処理の温度が180℃以上270℃以下であることがより好ましい。第2熱処理の温度は第1熱処理温度よりも高いことが好ましく、15℃以上高いことがより好ましく、25℃以上高いことがさらに好ましい。特に、熱処理温度が200℃以上の場合、熱処理時間は0.1秒~10分が好ましく、0.5秒~5分がより好ましく、1秒~3分がさらに好ましい。熱処理温度が200℃を下回る場合は、熱処理時間は1秒~15分が好ましく、5秒~10分がより好ましく、10秒~5分がさらに好ましい。
【0106】
[工程(IV)]
前記製造方法において有機リン化合物(BO)、重合体(F)および/またはその他成分を用いる場合、有機リン化合物(BO)、重合体(F)および/またはその他成分並びに溶媒を混合することによって得たコーティング液(T)を工程(II)で得た層(Y)前駆体、工程(III)で得た層(Y)または工程(III-1)後の層(Y)前駆体層上に塗工し、乾燥処理を経る工程(IV)を有してもよい。工程(IV)を工程(III)の後に行う場合、工程(IV)の乾燥処理後に工程(III)と同様の条件にて熱処理を行うことが好ましい。また、工程(IV)を工程(III-1)の後に行う場合は、工程(IV)の乾燥処理後に工程(III-2)を行うことが好ましい。
【0107】
コーティング液(T)に用いられる溶媒は、有機リン化合物(BO)の種類に応じて適宜選択すればよいが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;水;またはそれらの混合溶媒であることが好ましい。
【0108】
コーティング液(T)における固形分濃度は、溶液の保存安定性や塗工性の観点から、0.01~60質量%が好ましく、0.1~50質量%がより好ましく、0.2~40質量%がさらに好ましい。固形分濃度は、コーティング液(S)に関して記載した方法と同様の方法によって求めることができる。
【0109】
コーティング液(S)の塗工と同様に、コーティング液(T)を塗工する方法は特に限定されず、公知の方法を採用できる。
【0110】
工程(IV)におけるコーティング液(T)塗工後の溶媒の除去方法(乾燥処理)の条件は、工程(II)におけるコーティング液(S)塗工後の乾燥処理条件と同様の方法を適用できる。
【0111】
[他の層(J)]
本発明の多層構造体は、様々な特性(例えば、ヒートシール性、バリア性、力学物性)を向上させるために、他の層(J)を含んでもよい。このような本発明の多層構造体は、例えば、基材(X)に層(Z)を介して層(Y)(及び必要に応じて層(W))を積層させた後に、さらに該他の層(J)を直接または接着層を介して接着または形成することによって製造できる。他の層(J)としては、例えば、インク層;ポリオレフィン層、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層等の熱可塑性樹脂層等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0112】
本発明の多層構造体は、商品名または絵柄等を印刷するためにインク層を含んでもよい。インク層としては、例えば、溶剤に顔料(例えば、二酸化チタン)を包含したポリウレタン樹脂を分散した液体を乾燥した皮膜が挙げられるが、顔料を含まないポリウレタン樹脂、その他の樹脂を主剤とするインクや電子回路配線形成用レジストを乾燥した皮膜でもよい。インク層の塗工方法としては、グラビア印刷法のほか、ワイヤーバー、スピンコーター、ダイコーター等各種の塗工方法が挙げられる。インク層の厚さは0.5~10.0μmが好ましく、1.0~4.0μmがより好ましい。
【0113】
本発明の多層構造体の最表面層をポリオレフィン層とすることによって、多層構造体にヒートシール性を付与したり、多層構造体の力学的特性を向上させたりできる。ヒートシール性や力学的特性の向上等の観点から、ポリオレフィンはポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。また、多層構造体の力学的特性を向上させるために、ポリエステルからなるフィルム、ポリアミドからなるフィルム、および水酸基含有ポリマーからなるフィルムからなる群より選ばれる少なくとも1つのフィルムを積層することが好ましい。力学的特性の向上の観点から、ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレートが好ましく、ポリアミドとしてはナイロン-6が好ましく、水酸基含有ポリマーとしてはエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0114】
他の層(J)は押出しコートラミネートにより形成された層であってもよい。本発明で使用できる押出しコートラミネート法に特に限定はなく、公知の方法を用いてもよい。典型的な押出しコートラミネート法では、溶融した熱可塑性樹脂をTダイに送り、Tダイのフラットスリットから取り出した熱可塑性樹脂を冷却することによって、ラミネートフィルムが製造される。
【0115】
前記シングルラミネート法以外の押出しコートラミネート法としては、サンドイッチラミネート法、タンデムラミネート法等が挙げられる。サンドイッチラミネート法は、溶融した熱可塑性樹脂を一方の基材に押出し、別のアンワインダー(巻出し機)から第2基材を供給して貼り合わせて積層体を作製する方法である。タンデムラミネート法は、シングルラミネート機を2台つないで一度に5層構成の積層体を作製する方法である。
【0116】
[接着層(I)]
本発明の多層構造体において、接着層(I)を用いて、層(Y)と他の部材(例えば、他の層(J)等)との接着性を高めることができる場合がある。接着層(I)は、接着性樹脂から構成されていてもよい。該接着性樹脂としては、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる2液反応型ポリウレタン系接着剤が好ましい。また、アンカーコーティング剤または接着剤に、公知のシランカップリング剤等の少量の添加剤を加えることによって、さらに接着性を高めることができる場合がある。シランカップリング剤としては、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基等の反応性基を有するシランカップリング剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。層(Y)と他の部材とを接着することによって、本発明の多層構造体に対して印刷またはラミネート等の加工を施す際に、ガスバリア性または外観の悪化をより効果的に抑制でき、さらに、本発明の多層構造体を用いた包装材の落下強度を高めることができる。接着層(I)の厚さは0.01~10.0μmが好ましく、0.03~5.0μmがより好ましい。
【0117】
[多層構造体の構成]
本発明の多層構造体の構成の具体例を以下に示すが、それぞれの具体例は複数組み合わされた構成であってもよい。なお、具体例において基材(X)および他の層(J)は具体的な樹脂名で記載する。また、具体的な樹脂名が記載された層(基材(X)および他の層(J))の間に層(Y)/層(Z)が位置する場合には、層(Z)/層(Y)との積層順に置き換えてもよい。ここで、「/」とは、接着層を介してまたは直接積層していることを意味する。
(1)層(Y)/層(Z)/ポリエステル層、
(2)層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/層(Z)/層(Y)、
(3)層(Y)/層(Z)/ポリアミド層、
(4)層(Y)/層(Z)/ポリアミド層/層(Z)/層(Y)、
(5)層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層、
(6)層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層/層(Z)/層(Y)、
(7)層(Y)/層(Z)/水酸基含有ポリマー層、
(8)層(Y)/層(Z)/水酸基含有ポリマー層/層(Z)/層(Y)、
(9)層(Y)/層(Z)/紙層、
(10)層(Y)/層(Z)/紙層/層(Z)/層(Y)、
(11)層(Y)/層(Z)/無機蒸着層/ポリエステル層、
(12)層(Y)/層(Z)/無機蒸着層/ポリアミド層、
(13)層(Y)/層(Z)/無機蒸着層/ポリオレフィン層、
(14)層(Y)/層(Z)/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層、
(15)層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(16)層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/層(Z)/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(17)ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/層(Z)/層(Y)/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層/ポリオレフィン層、
(18)ポリエステル層/層(Z)/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(19)層(Y)/層(Z)/ポリアミド層/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(20)層(Y)/層(Z)/ポリアミド層/層(Z)/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(21)ポリアミド層/層(Z)/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(22)層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(23)層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層/層(Z)/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(24)ポリオレフィン層/層(Z)/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(25)層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層/ポリオレフィン層、
(26)層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層/層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層、
(27)ポリオレフィン層/層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層、
(28)層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(29)層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層、
(30)ポリエステル層/層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層、
(31)層(Y)/層(Z)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(32)層(Y)/層(Z)/ポリアミド層/層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層、
(33)ポリアミド層/層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層、
(34)層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/紙層、
(35)層(Y)/層(Z)/ポリアミド層/紙層、
(36)層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層/紙層、
(37)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Z)/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(38)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Z)/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(39)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Z)/層(Y)/ポリオレフィン層、
(40)紙層/ポリオレフィン層/層(Z)/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(41)ポリオレフィン層/紙層/層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層、
(42)紙層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(43)紙層/層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層、
(44)層(Y)/層(Z)/紙層/ポリオレフィン層、
(45)層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/紙層/ポリオレフィン層、
(46)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層/水酸基含有ポリマー層、
(47)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層/ポリアミド層、
(48)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層/ポリエステル層、
(49)無機蒸着層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層、
(50)無機蒸着層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/層(Z)/層(Y)/無機蒸着層、
(51)無機蒸着層/層(Y)/層(Z)/ポリアミド層、
(52)無機蒸着層/層(Y)/層(Z)/ポリアミド層/層(Z)/層(Y)/無機蒸着層、
(53)無機蒸着層/層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層、
(54)無機蒸着層/層(Y)/層(Z)/ポリオレフィン層/層(Z)/層(Y)/無機蒸着層
上記した例示において、無機蒸着層はアルミニウムの蒸着層および/または酸化アルミニウムの蒸着層であることが好ましい。上記した例示において、水酸基含有ポリマー層はエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。上記した例示において、ポリオレフィン層はポリエチレンフィルム、またはポリプロピレンフィルムであることが好ましい。上記した例示において、ポリエステル層はPETフィルムであることが好ましい。また、上記した例示において、ポリアミド層はナイロンフィルムであってもよい。
【0118】
本発明の多層構造体は、基材(X)/層(Z)/層(Y)が直接積層している構成を有していることが、応力存在下レトルト耐性を良好とする観点から好ましい。また、基材(X)/層(Z)/層(Y)との構成を複数有する多層構造体は、よりガスバリア性に優れるため好ましい。本発明の多層構造体においてガスバリア性の層を複数層用いる場合、少なくとも1つの基材(X)/層(Z)/層(Y)の層構成が他のガスバリア層よりも外層側に存在すると、内層のガスバリア層(例えば無機蒸着層)の外気(例えば水蒸気)等による劣化を抑制できるため好ましい。
【0119】
[用途]
本発明の多層構造体は、酸素バリア性及び水蒸気バリア性が良好であるため、包装材料、電子デバイス保護シート、防湿シートの様々な用途に適用できる。応力存在下でのレトルト処理後においても良好な外観とガスバリア性を有する点から、包装材料として好適に用いられる。ここで、応力存在下レトルト耐性を有するということは、応力が存在する状況で過酷条件にさらされても、良好な外観およびガスバリア性を維持できる、すなわち優れた耐久性を有するとみなすことができる。したがって、本特性を利用して、包装材料の内部が減圧されることによる応力存在下で過酷な外部環境でも優れた耐久性を有する点から真空断熱体の外包材に好適に用いられる。さらに、本発明の多層構造体は、ダンプヒート試験後においても優れたガスバリア性および水蒸気バリア性を維持できるため、電子デバイスの保護シートとしても好適に用いられる。
【0120】
[包装材]
本発明の包装材は、本発明の多層構造体のみによって構成されてもよく、本発明の多層構造体と他の部材とによって構成されてもよい。
【0121】
本発明の好ましい実施形態による包装材は、無機ガス(例えば、水素、ヘリウム、窒素、酸素、二酸化炭素)、天然ガス、水蒸気および常温常圧で液体状の有機化合物(例えば、エタノール、ガソリン蒸気)に対するバリア性を有する。
【0122】
本発明の包装材が包装袋である場合、その包装袋のすべてに多層構造体が用いられていてもよいし、その包装袋の一部に多層構造体が用いられていてもよい。例えば、包装袋の面積の50%~100%が、多層構造体によって構成されていてもよい。包装材が包装袋以外のもの(例えば、容器、蓋材)である場合も同様である。
【0123】
本発明の包装材は、様々な方法で作製できる。例えば、シート状の多層構造体または該多層構造体を含むフィルム材(以下、単に「フィルム材」という)を接合して所定の容器の形状に成形することによって、容器(包装材)を作製してもよい。成形方法は、熱成形、射出成形、押出ブロー成形等が挙げられる。また、所定の容器の形状に成形された基材(X)の上に層(Z)および層(Y)を形成することによって、容器(包装材)を作製してもよい。
【0124】
本発明による包装材は、食品用包装材として好ましく用いられる。また、本発明による包装材は、食品用包装材以外にも、農薬、医薬等の薬品;医療器材;機械部品、精密材料等の産業資材;衣料等を包装するための包装材として好ましく使用できる。
【0125】
本発明の包装材を用いた製品としては、例えば、縦製袋充填シール袋、真空包装袋、パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、容器用蓋材、紙容器、ストリップテープ、インモールドラベル容器または真空断熱体等が挙げられる。
【0126】
縦製袋充填シール袋は、本発明の多層構造体(フィルム材)を縦型製袋充填機(縦型製袋充填包装機などとも呼ばれる)により製袋して得られる袋である。縦型製袋充填機は、例えば、供給されたフィルム材を相対する面が形成されるように保持しながらその側部および底部をシール(接合)して上方が開口した袋を形成し、内容物を袋の上方から供給してその内部に充填する。引き続き、縦型製袋充填機は、袋の上部をシールしてからその上方を切断し、縦製袋充填シール袋として排出する。
【0127】
真空包装袋は、本発明の多層構造体を用いて製袋して得られた袋の内部が減圧された状態で使用される袋である。袋内部が減圧されているため、真空包装袋では、通常、袋内部と袋外部とを隔てるフィルム材が袋に収容される内容物に接するように変形している。内容物は、典型的には、軸付きコーン(とうもろこし)、豆類、筍、芋、栗、茶葉、肉、魚、菓子等の食品である。
【0128】
パウチは、内容物を収容する内部と外部とを隔てる隔壁として本発明の多層構造体(フィルム材)を備えた容器である。パウチは、液状またはスラリー状である内容物の収容に適しているが、固形の内容物の収容にも使用できる。内容物は、典型的には、飲料、調味料、流動食その他の食品、および洗剤、液体石鹸その他の日用品である。
【0129】
ラミネートチューブ容器は、容器の内部と外部とを隔てる隔壁として本発明の多層構造体(ラミネートフィルム)を備えた胴体部と、容器の内部に収容された内容物を取り出すための注出部と、を備えている。ラミネートチューブ容器の胴体部は、例えば、一方の端部が閉じた筒状形状を有し、他方の端部側に注出部が配置されている。
【0130】
輸液バッグは、アミノ酸輸液剤、電解質輸液剤、糖質輸液剤、輸液用脂肪乳剤などの輸液類を内容物として収容するためのバッグ(袋)である。輸液バッグは、内容物を収容するバッグ本体に加え、口栓部材を備えていてもよい。また、輸液バッグは、バッグを吊り下げるための吊り下げ孔を備えていてもよい。輸液バッグでは、輸液を収容するための内部と外部とを隔てるフィルム材が本発明の多層構造体を備えている。
【0131】
容器用蓋材は、容器本体と組み合わされて容器を形成した状態で容器の内部と容器の外部とを隔てる隔壁の一部として機能するフィルム材(本発明の多層構造体)を備えている。容器用蓋材は、ヒートシール、接着剤を用いた接合(シール)などにより、容器本体の開口部を封止するように容器本体と組み合わされ、内部に密閉された空間を有する容器(蓋付き容器)を形成する。容器用蓋材は、通常、その周縁部において容器本体と接合される。この場合、周縁部に囲まれた中央部が容器の内部空間に面することになる。容器本体は、例えば、カップ状、トレー状、その他の形状を有する成形体であり、容器用蓋材をシールするためのフランジ部、壁面部などを備えている。
【0132】
紙容器は、内容物を収容する内部と外部とを隔てる隔壁が紙層を含む容器である。紙容器は、例えば、ゲーブルトップ型、ブリック型などの形状を有する。これらの形状は、紙容器に自立するための底壁部を備えている。
【0133】
真空断熱体は、被覆材と、被覆材により囲まれた内部に配置された芯材とを備え、芯材が配置された内部が減圧された断熱体である。芯材としては、例えば、パーライト粉末などの粉末、ガラスウールなどの繊維材、ウレタンフォームなどの樹脂発泡体、中空容器、ハニカム構造体などを使用できる。真空断熱体では、隔壁として機能する被覆材が多層構造体を備えている。
【0134】
真空断熱体に好適な多層構造体の層構成としては、例えば下記が挙げられる。
(1)ポリオレフィン層/エチレンービニルアルコール共重合体層/無機蒸着層/ポリアミド層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層
(2)ポリオレフィン層/無機蒸着層/ポリエステル層/無機蒸着層/ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層
(3)ポリオレフィン層/エチレンービニルアルコール共重合体層/無機蒸着層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層
(4)ポリオレフィン層/無機蒸着層/ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層
(5)ポリオレフィン層/ポリアミド層/無機蒸着層/ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層
(6)ポリオレフィン層/エチレンービニルアルコール共重合体層/無機蒸着層/無機蒸着層/ポリエステル層/層(Y)/層(Z)/ポリエステル層
無機蒸着層と組み合わせることで、ガスバリア性が向上し、熱伝導率の低下を抑制することができる。また、上記ポリオレフィン層をポリエチレンービニルアルコール共重合体層に変更してもよく、エチレンービニルアルコール共重合体層に変更することで高温での熱伝導率の低下の抑制効果がある。上記層構成を真空断熱体用の外包材として使用する場合、ポリオレフィン層側が内層(ヒートシール層)、ポリエステル層側が外層とすることが好ましい。上述した層構成により、内層側の長期使用による水蒸気等の外気による劣化を抑制できる傾向となるため好ましい。また、上述した層構成で使用できる材料としては、特に限定されないが、本願実施例に記載される樹脂やフィルムを好適に使用できる。
【0135】
上記成形品(たとえば縦製袋充填シール袋など)では、ヒートシールが行われることがある。ヒートシールが行われる場合には、通常、成形品の内側となる側、あるいは成形品の内側となる側および外側となる側の両方に、ヒートシール可能な層を配置することが必要である。ヒートシール可能な層が、成形品(袋)の内側となる側にのみある場合は、通常、胴体部のシールは合掌貼りシールとなる。ヒートシール可能な層が、成形品の内側となる側および外側となる側の両方にある場合は、通常、胴体部のシールは封筒貼りシールとなる。ヒートシール可能な層としては、ポリオレフィン層が好ましい。
【0136】
本発明の電子デバイスの保護シートは、本発明の多層構造体を含み、本発明の多層構造体のみによって構成されてもよい。電子デバイスの保護シートは、電子デバイスを外部環境から保護する目的で使用されるものであり、例えば、電子デバイス本体の表面を覆うように封止する封止材の表面に、本発明の保護シートを配置することができる。すなわち、本発明の保護シートは、通常封止材を介して電子デバイス本体の表面に配置される。電子デバイス本体としては特に限定されず、例えば、光電変換装置、情報表示装置、または照明装置等が挙げられる。
【0137】
本発明の電子デバイスの保護シートは、例えば、多層構造体の一方の表面または両方の表面に配置された表面保護層を含んでもよい。表面保護層としては、傷がつきにくい樹脂からなる層が好ましい。また、太陽電池のように室外で利用されることがあるデバイスの表面保護層は、耐候性(例えば、耐光性)が高い樹脂からなることが好ましい。また、光を透過させる必要がある面を保護する場合には、透光性が高い表面保護層が好ましい。表面保護層(表面保護フィルム)の材料としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられる。保護シートの一例は、一方の表面に配置されたポリ(メタ)アクリル酸エステル層を含む。
【0138】
表面保護層の耐久性を高めるために、表面保護層に各種の添加剤(例えば、紫外線吸収剤)を添加してもよい。耐候性が高い表面保護層の好ましい一例は、紫外線吸収剤が添加されたアクリル樹脂層である。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、ニッケル系、トリアジン系の紫外線吸収剤が挙げられるが、これらに限定されない。また、他の安定剤、光安定剤、酸化防止剤等を併用してもよい。
【0139】
また、本発明の多層積層体は、防湿シートとしても活用できる。例えば、化粧板用途では、室内のドアパネルなどに用いる化粧板の裏面に貼りあわせることで室内での温度や湿度の変化による吸湿・放湿などが原因で発生するそりを防止することができる。
【実施例】
【0140】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想の範囲内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0141】
<実施例及び比較例で使用した材料>
PVA系樹脂(C)
・C-1:「クラレポバール(登録商標)60-98」(株式会社クラレ製、PVA、ケン化度98.0~99.0モル%、粘度(4質量%、20℃)54.0~66.0mPa・s)
・C-2:「クラレポバール(登録商標)5-98」(株式会社クラレ製、PVA、ケン化度98.0~99.0モル%、粘度(4質量%、20℃)5.2~6.0mPa・s)
・C-3:「クラレポバール(登録商標)5-82」(株式会社クラレ製、PVA、ケン化度80.0~83.0モル%、粘度(4質量%、20℃)4.5~5.2mPa・s)
・C-4:「クラレポバール(登録商標)48-80」(株式会社クラレ製、PVA、ケン化度78.5~80.5モル%、粘度(4質量%、20℃)45.0~51.0mPa・s)
ポリエステル系樹脂(La)の水分散体
・La-1:「エリーテル(登録商標)KA-5071S」(ユニチカ株式会社製、ポリエステル系水分散体、固形分濃度30質量%)
・La-2:「ペスレジン(登録商標)A-684G」(高松油脂株式会社製、ポリエステル-アクリル複合樹脂水分散液、アクリル系樹脂成分約40%含有)
フィルム
・PET12:延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー(商標) P60」(商品名)、厚さ12μm
・PET50:エチレン-酢酸ビニル共重合体との接着性を向上させたポリエチレンテレフタレートフィルム;東洋紡株式会社製、「シャインビーム(商標)Q1A15」(商品名)、厚さ50μm
・ONY15:延伸ナイロンフィルム;ユニチカ株式会社製、「エンブレム(商標)ONBC」(商品名)、厚さ15μm
・CPP50:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-22」(商品名)、厚さ50μm
・CPP70:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-22」(商品名)、厚さ70μm
・CPP100:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-22」(商品名)、厚さ100μm
・VM-XL:アルミ蒸着二軸延伸EVOH;株式会社クラレ製、「VM-XL」、厚さ15μm、特に断り書きが無い場合、Al蒸着層/EVOH層の積層順であるものとする
・2液型接着剤:「タケラック」(登録商標)「A-520」(銘柄);三井化学株式会社製と「タケネート」(登録商標)「A-50」(銘柄);三井化学株式会社製
【0142】
<評価方法>
(1)層(Z)の厚さ
収束イオンビーム(FIB)を用いて実施例及び比較例で得られた多層構造体を切削し、断面観察用の切片を作製した。作製した切片を試料台座にカーボンテープで固定し、加速電圧30kVで30秒間白金イオンスパッタを行った。電界放出形透過型電子顕微鏡を用いて多層構造体の断面を観察し、層(Z)の厚さを算出した。測定条件は以下の通りとした。
装置:日本電子株式会社製JEM-2100F
加速電圧:200kV
倍率:250,000倍
【0143】
(2)応力存在下レトルト試験
実施例及び比較例で得られた多層構造体を、CPP50を接触面として2枚重ね、130℃で熱ラミネートした。次に得られた積層体から160mm×40mmの短冊を切り出し、該短冊に、長尺方向において端から20mm間隔で1列7箇所の2列、計14箇所に直径6mmの穴を開けた。該短冊を8.5mmの曲率半径で長尺方向に巻き、端部をホッチキスで固定することで円筒形にした。続いて得られた円筒を以下の条件でレトルト処理(熱水貯湯式)を行った。
レトルト処理装置:株式会社日阪製作所製 フレーバーエースRSC-60
温度:125℃
時間:30分間
圧力:0.17MPaG
レトルト処理後に前記直径6mmの穴の周りの剥離の有無を確認し、剥離が生じた穴の数が2個以下のものをA、3個以上7個以下をB、8個以上をCとした。
【0144】
(3)レトルト処理後の酸素透過度及び剥離強度
実施例及び比較例で得られた多層構造体を120mm×120mmに切り出し、3方をヒートシールすることによって3方パウチを作製した。次に、ヒートシールをしていない1方の側から水100gをパウチ内に充填し、ヒートシールすることで水100gが充填されたパウチを得た。続いて得られたパウチを以下の条件でレトルト処理(熱水貯湯式)した。
レトルト処理装置:株式会社日阪製作所製 フレーバーエースRSC-60
温度:125℃
時間:30分間
圧力:0.17MPaG
【0145】
レトルト処理後のパウチを室温まで冷却し表面の水分を拭き取った後、片面を10mm×10mmに切り出した。キャリアガス側に基材(X)が向くように酸素透過量測定装置に切り出したパウチを取り付け、等圧法により酸素透過度を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:MOCON社製MOCON OX-TRAN2/21
温度:20℃
酸素供給側の湿度:85%RH
キャリアガス側の湿度:85%RH
キャリアガス流量:10mL/分
酸素圧:1.0atm
キャリアガス圧力:1.0atm
【0146】
レトルト処理直後のパウチから多層構造体を切り出し、JIS K 6854-3:1999に準じてT型剥離強度測定(幅15mmあたりの接着力)によって「wet」状態の層間剥離強度を5回測定し、平均値を採用した。「wet」状態の層間剥離強度とは、レトルト処理直後に表面の水分を拭き取った後、すぐに測定した層間剥離強度を指す。測定条件は以下の通りとした。
装置:株式会社島津製作所製オートグラフAGS-H
剥離速度:250mm/分
温度:23℃
湿度:50%RH
また、スポイトでイオン交換水を剥離界面に滴下しながら剥離強度を測定する以外は上記剥離強度測定方法と同様の操作で測定し、「水付」状態の層間剥離強度を上記と同様の手段で測定した。
【0147】
<コーティング液(R-1)の製造例>
PVA「クラレポバール(登録商標)60-98」4.8質量部と水95.2質量部を混合し、80℃のウォーターバス中で5時間撹拌することで「クラレポバール(登録商標)60-98」を溶解しPVA水溶液(1-1)を得た。次に、ポリエステル系水分散体「エリーテル(登録商標)KA-5071S」(ユニチカ株式会社製)0.8質量部、PVA水溶液(1-1)1.2質量部、水68.1質量部、メタノール29.9質量部を混合し、1時間撹拌することでコーティング液(R-1)を得た。
【0148】
<コーティング液(R-2)の製造例>
「クラレポバール(登録商標)60-98」の代わりに「クラレポバール(登録商標)5-98」を用いたこと以外はコーティング液(R-1)の製造例と同様にしてコーティング液(R-2)を得た。
【0149】
<コーティング液(R-3)の製造例>
PVA「クラレポバール(登録商標)5-82」4.8質量部と水95.2質量部を混合し、室温で5時間撹拌することで「クラレポバール(登録商標)5-82」を溶解しPVA水溶液(1-2)を得た。次に、ポリエステル系水分散体「エリーテル(登録商標)KA-5071S」(ユニチカ株式会社製)0.8質量部、PVA水溶液(1-2)1.2質量部、水68.1質量部、メタノール29.9質量部を混合し、1時間撹拌することでコーティング液(R-3)を得た。
【0150】
<コーティング液(R-4)の製造例>
「クラレポバール(登録商標)5-82」の代わりに「クラレポバール(登録商標)48-80」を用いたこと以外はコーティング液(R-3)の製造例と同様にしてコーティング液(R-4)を得た。
【0151】
<コーティング液(R-5)の製造例>
PVA「クラレポバール(登録商標)60-98」4.8質量部と水95.2質量部を混合し、80℃のウォーターバス中で5時間撹拌することで「クラレポバール(登録商標)60-98」を溶解しPVA水溶液(1-1)を得た。次に、エステル系水分散体「ペスレジンA-684G」(高松油脂株式会社製)2.2質量部、PVA水溶液(1-1)1.2質量部、水66.8質量部、メタノール29.8質量部を混合し、1時間撹拌することでコーティング液(R-5)を得た。
【0152】
<コーティング液(R-6)の製造例>
「クラレポバール(登録商標)60-98」の代わりに「クラレポバール(登録商標)5-98」を用いたこと以外はコーティング液(R-5)の製造例と同様にしてコーティング液(R-6)を得た。
【0153】
<コーティング液(R-7)の製造例>
PVA「クラレポバール(登録商標)5-82」4.8質量部と水95.2質量部を混合し、室温で5時間撹拌することで「クラレポバール(登録商標)5-82」を溶解しPVA水溶液(1-2)を得た。次に、エステル系水分散体「ペスレジンA-684G」(高松油脂株式会社製)2.2質量部、PVA水溶液(1-2)1.2質量部、水66.8質量部、メタノール29.8質量部を混合し、1時間撹拌することでコーティング液(R-7)を得た。
【0154】
<コーティング液(R-8)の製造例>
「クラレポバール(登録商標)5-82」の代わりに「クラレポバール(登録商標)48-80」を用いたこと以外はコーティング液(R-7)の製造例と同様にしてコーティング液(R-8)を得た。
【0155】
<コーティング液(CR-1)の製造例>
ポリエステル系水分散体「エリーテル(登録商標)KA-5071S」(ユニチカ株式会社製)1.0質量部、水69.0質量部、メタノール30.0質量部を混合し、1時間撹拌することでコーティング液(CR-1)を得た。
【0156】
<コーティング液(CR-2)の製造例>
次に、エステル系水分散体「ペスレジンA-684G」(高松油脂株式会社製)2.4質量部、水67.8質量部、メタノール29.8質量部を混合し、1時間撹拌することでコーティング液(CR-2)を得た。
【0157】
<コーティング液(CR-3)の製造例>
PVA「クラレポバール(登録商標)60-98」4.8質量部と水95.2質量部を混合し、80℃のウォーターバス中で5時間撹拌することで「クラレポバール(登録商標)60-98」を溶解しPVA水溶液(1-1)を得た。次に、PVA水溶液(1-1)0.3質量部、水69.8質量部、メタノール29.9質量部を混合し、1時間撹拌することでコーティング液(CR-3)を得た。
【0158】
<コーティング液(CR-4)の製造例>
「クラレポバール(登録商標)60-98」の代わりに「クラレポバール(登録商標)5-98」を用いたこと以外はコーティング液(CR-3)の製造例と同様にしてコーティング液(CR-4)を得た。
【0159】
<コーティング液(CR-5)の製造例>
PVA「クラレポバール(登録商標)5-82」4.8質量部と水95.2質量部を混合し、室温で5時間撹拌することで「クラレポバール(登録商標)5-82」を溶解しPVA水溶液(1-2)を得た。次に、PVA水溶液(1-2)0.3質量部、水69.8質量部、メタノール29.9質量部を混合し、1時間撹拌することでコーティング液(CR-5)を得た。
【0160】
<コーティング液(CR-6)の製造例>
「クラレポバール(登録商標)5-82」の代わりに「クラレポバール(登録商標)48-80」を用いたこと以外はコーティング液(CR-5)の製造例と同様にしてコーティング液(CR-6)を得た。
【0161】
<コーティング液(S-1)の製造例>
蒸留水230質量部を撹拌しながら70℃に昇温した。その蒸留水に、トリイソプロポキシアルミニウム88質量部を1時間かけて滴下し、液温を徐々に95℃まで上昇させ、発生するイソプロパノールを留出させることで加水分解縮合を行った。得られた液体に、60質量%の硝酸水溶液4.0質量部を添加し、95℃で3時間撹拌することで加水分解縮合物の粒子の凝集体を解膠させた。その後、その液体を、固形分濃度が酸化アルミニウム換算で10質量%になるように濃縮し、溶液を得た。こうして得られた溶液22.50質量部に対して、蒸留水54.29質量部およびメタノール18.80質量部を加え、均一になるように撹拌することで、分散液を得た。続いて、液温を15℃に維持した状態で分散液を撹拌しながら85質量%のリン酸水溶液4.41質量部を滴下して加え、粘度が1500mPa・sになるまで15℃で撹拌を続け、目的のコーティング液(S-1)を得た。該コーティング液(S-1)における、アルミニウム原子とリン原子とのモル比は、アルミニウム原子:リン原子=1.15:1.00であった。
【0162】
[実施例1]
<実施例1-1>
まず、基材(X)として、PET12(以下、「X-1」と略称することがある)を準備した。この基材上に、乾燥後の厚さが10nmとなるようにバーコーターを用いてコーティング液(R-1)を塗工した。塗工後のフィルムを140℃で1分間乾燥させて、基材上に層(Z-1)を形成した。続いて、乾燥後の厚さが0.3μmとなるようにバーコーターを用いてコーティング液(S-1)を塗工した。塗工後のフィルムを、120℃で3分間乾燥させて、層(Z-1)上に層(Y-1)の前駆体を形成した。このようにして、基材(X-1)/層(Z-1)/層(Y-1)前駆体という構造を有する構造体を得た。続いて、前記構造体を180℃で1分間熱処理することによって層(Y-1)を形成した。このようにして、基材(X-1)/層(Z-1)/層(Y-1)という構造を有する多層構造体(1-1-1)を得た。次いで多層構造体(1-1-1)の層(Y)上に接着層を形成し、該接着層上にONY15をラミネートすることによって積層体を得た。次に、ONY15上に接着層を形成した後、該接着層上に、CPP50をラミネートし、40℃で5日間静置してエージングし、基材(X)/層(Z)/層(Y)/接着層/ONY/接着層/CPPという構造を有する多層構造体(1-1-2)を得た。前記2つの接着層はそれぞれ、乾燥後の厚さが3μmとなるようにバーコーターを用いて2液型接着剤(タケラック(登録商標)およびタケネート(登録商標))を塗工し、乾燥させることで形成した。得られた多層構造体(1-1-2)について、上記評価方法(1)~(3)に記載の方法に従って、層(Z)の厚さ、応力存在下レトルト試験、レトルト処理後の酸素透過度及び剥離強度試験を実施した。評価結果を表1に示す。
【0163】
<実施例1-2~1-16および比較例1-1~1-7>
コーティング液の種類、層(Z)の膜厚を表1の通り変更した以外は、実施例1-1と同様の方法で多層構造体(1-2-2)~(1-16-2)および(C1-1-2)~(C1-7-2)を作製し評価した。結果を表1に示す。
【0164】
<比較例1-8>
層(Y)を厚み0.08μmのアルミニウム蒸着層としたこと以外は実施例1-1と同様の方法により多層構造体(C1-8-1)および(C1-8-2)を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0165】
【0166】
[実施例2]縦製袋充填シール袋
<実施例2-1>
実施例1-1で作製した多層構造体(1-1-1)上に接着層を形成し、該接着層上にONY15をラミネートすることによって積層体を得た。次に、該積層体のONY上に接着層を形成した後、該接着層上に、CPP70をラミネートし、40℃で5日間静置してエージングし、多層構造体(2-1-1)を得た。前記2つの接着層はそれぞれ、乾燥後の厚さが3μmとなるようにバーコーターを用いて2液型接着剤を塗工し、乾燥させることによって形成した。多層構造体(2-1-1)を幅400mmに裁断し、CPP層が互いに接触してヒートシールされるように縦型製袋充填包装機(オリヒロ株式会社製)に供給した。縦型製袋充填包装機によって、合掌貼りタイプの縦製袋充填シール袋(2-1-2)(幅160mm、長さ470mm)を作製した。縦製袋充填シール袋(2-1-2)をヒートシールすることによってパウチを作製し、水300mLをパウチ内に充填した。続いて、得られたパウチに対して、下記条件でレトルト試験を行った結果、破袋およびデラミネーションの発生無く良好な外観を保持した。
<レトルト試験>
レトルト処理装置:株式会社日阪製作所製 フレーバーエースRSC-60
温度:125℃
時間:30分間
圧力:0.17MPaG
【0167】
[実施例3]平パウチ
<実施例3-1>
実施例2-1で作製した多層構造体(2-1-1)を幅120mm×120mmに裁断し、CPP層が内側になるように2枚の多層構造体を重ね合わせ、長方形の3辺をヒートシールすることによって平パウチ(3-1-1)を形成した。その平パウチに水100mLを充填した。続いて、得られた平パウチに対して、実施例2-1と同一の条件でレトルト試験を行った結果、破袋およびデラミネーションの発生が無く良好な外観を保持した。
【0168】
[実施例4]輸液バッグ
<実施例4-1>
実施例2-1で作製した多層構造体(2-1-1)から、120mm×100mmの多層構造体を2枚切り出した。続いて、切り出した2枚の多層構造体を、CPP層が内側になるように重ね合わせ、周縁をヒートシールするとともに、ポリプロピレン製のスパウト(口栓部材)をヒートシールによって取り付けた。このようにして、輸液バッグ(4-1-1)を作製した。輸液バッグ(4-1-1)に水100mLを充填し、実施例2-1と同一の条件でレトルト試験を行った結果、破袋およびデラミネーションの発生無く良好な外観を保持した。
【0169】
[実施例5]容器用蓋材
<実施例5-1>
実施例2-1で作製した多層構造体(2-1-1)から、直径100mmの円形の多層構造体を切り取り、容器用の蓋材とした。また、容器本体として、フランジ付きの容器(東洋製罐株式会社製、「ハイレトフレックス」(登録商標)、「HR78-84」(商品名))を準備した。この容器は、上面の直径が78mmで高さが30mmのカップ形状を有する。容器の上面は解放されており、その周縁に形成されたフランジ部の幅は6.5mmである。容器は、オレフィン層/スチール層/オレフィン層の3層の積層体によって構成されている。次に、上記容器本体に水をほぼ満杯に充填し、蓋材をフランジ部にヒートシールすることによって、蓋付き容器(5-1-1)を得た。このとき、蓋材のCPP層がフランジ部に接触するように配置して蓋材をヒートシールした。蓋付き容器(5-1-1)を、実施例2-1と同一の条件でレトルト試験を行った結果、容器の破損およびデラミネーションの発生が無く良好な外観を保持した。
【0170】
[実施例6]インモールドラベル容器
<実施例6-1>
2枚のCPP100のそれぞれに、乾燥後の厚さが3μmとなるようにバーコーターを用いて2液型接着剤を塗工して乾燥させた。2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A-525S」と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A-50」とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を用いた。次に、2枚のCPPと実施例1-1の多層構造体(1-1-1)とをラミネートし、40℃で5日間静置してエージングした。このようにして、CPP/接着層(I)/基材(X-1)/層(Z-1)/層(Y-1)/接着層(I)/CPPという構造を有する多層ラベル(6-1-1)を得た。
【0171】
多層ラベル(6-1-1)を容器成形型のメス型部の内壁表面の形状にあわせて切断し、メス型部の内壁表面に取り付けた。次に、オス型部をメス型部に押し込んだ。次に、溶融させたポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製の「ノバテック」(登録商標)の「EA7A」)をオス型部とメス型部との間のキャビティに220℃で注入した。このようにして、射出成形を実施し、目的の容器(6-1-2)を成形した。容器本体の厚さは700μmであり、表面積は83cm2であった。容器の外側全体が多層ラベル(6-1-1)で覆われ、つなぎ目は多層ラベル(6-1-1)が重なり、多層ラベル(6-1-1)が容器の外側を覆わない箇所はなかった。このとき、容器(6-1-2)の外観は良好であった。
【0172】
[実施例7]押出しコートラミネート
<実施例7-1>
実施例1-1において多層構造体(1-1-1)上の層(Y)上に接着層を形成した後、ポリエチレン樹脂(密度;0.917g/cm3、メルトフローレート;8g/10分)を厚さが20μmになるように該接着層上に295℃で押出しコートラミネートした。このようにして、基材(X-1)/層(Z-1)/層(Y-1)/接着層(I)/ポリエチレン層という構造を有するラミネート体(7-1-1)を得た。上記の接着層(I)は、乾燥後の厚さが0.3μmとなるようにバーコーターを用いて2液型接着剤を塗工し、乾燥させることによって形成した。この2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A-3210」と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A-3070」とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を用いた。ラミネート体(7-1-1)を、実施例2-1と同一の条件でレトルト試験を行った結果、デラミネーションの発生が無く良好な外観を保持した。
【0173】
[実施例8]充填物の影響
<実施例8-1>
実施例3-1で作製した平パウチ(3-1-1)に1.5%エタノール水溶液500mLを充填し、実施例2-1と同一の条件でレトルト試験を行った結果、デラミネーションの発生が無く良好な外観を保持した。
【0174】
<実施例8-2~8-9>
1.5%エタノール水溶液500mLの代わりに他の充填物500mLを平パウチ(3-1-1)に充填したことを除き、実施例8-1と同様にレトルト試験を行った。そして、レトルト試験後の平パウチから測定用サンプルを切り出し、該サンプルの酸素透過度を測定した。他の充填物として、1.0%エタノール水溶液(実施例8-2)、食酢(実施例8-3)、pH2のクエン酸水溶液(実施例8-4)、食用油(実施例8-5)、ケチャップ(実施例8-6)、醤油(実施例8-7)、および、しょうがペースト(実施例8-8)を用いた。いずれの場合も、レトルト試験後のサンプルの酸素透過度は、0.2cc/(m2・day・atm)であった。さらに、実施例5-1で作製した蓋付き容器(5-1-1)にみかんシロップをほぼ満杯に充填し、実施例8-1と同様にレトルト試験を行った(実施例8-9)。レトルト試験後はデラミネーションの発生が無く良好な外観を保持した。
【0175】
実施例8-1~8-9から明らかなように、本発明の包装材は、様々な食品を充填した状態でレトルト試験を行った後でも、良好な外観を保持した。
【0176】
[実施例9]真空断熱体
<実施例9-1>
CPP50上に、実施例6-1で用いた2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。このCPP50と実施例2-1で作製した多層構造体(2-1-1)のPET層とを貼り合せることによって、CPP/接着層(I)/基材(X-1)/層(Z-1)/層(Y-1)/接着層(I)/ONY/接着層(I)/CPPという構造を有する積層体(9-1-1)を得た。続いて、ONY15の上に、前記2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、このONY15と積層体(9-1-1)とを貼り合わせることによって、CPP/接着層(I)/積層体(9-1-1)/接着層(I)/ONY、という構造を有する多層構造体(9-1-2)を得た。
【0177】
多層構造体(9-1-2)を裁断し、サイズが700mm×300mmであるラミネート体を2枚得た。その2枚のラミネート体をCPP層同士が内面となるように重ね合わせ、3方を10mm幅でヒートシールして3方袋を作製した。次に、3方袋の開口部から断熱性の芯材を充填し、真空包装機を用いて20℃、内部圧力10Paの状態で3方袋を密封した。このようにして、真空断熱体(9-1-3)を得た。断熱性の芯材にはシリカ微粉末を用いた。真空断熱体(9-1-3)を40℃、15%RHの条件下において360日間放置した後、ピラニー真空計を用いて真空断熱体の内部の圧力を測定した結果、37.0Paであった。
【0178】
<実施例9-2>
CPP50上に、実施例6-1で用いた2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。このCPP50とVM-XLとを貼り合せることによって、VM-XL/接着層/CPP50という構造を有する積層体(9-2-1)を得た。続いて実施例1-1で作製した多層構造体(1-1-1)の層(Y-1)上に、前記2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、この多層構造体(1-1-1)と積層体(9-2-1)とを貼り合わせることで、基材(X-1)/層(Z-1)/層(Y-1)/接着層/VM-XL/接着層/CPP50という構造を有する多層構造体(9-2-2)を得た。さらに、同様の方法で、多層構造体(1-1-1)をもう一枚貼り合わせることで、基材(X-1)/層(Z-1)/層(Y-1)/接着層/基材(X-1)/層(Z-1)/層(Y-1)/接着層/VM-XL/接着層/CPP50の層構成を有する多層構造体(9-2-3)を得た。多層構造体(9-2-3)を裁断し、サイズが700mm×300mmであるラミネート体を2枚得た。その2枚のラミネート体をCPP層同士が内面となるように重ね合わせ、3方を10mm幅でヒートシールして3方袋を作製した。次に、3方袋の開口部から断熱性の芯材を充填し、真空包装機を用いて20℃、内部圧力10Paの状態で3方袋を密封した。このようにして、真空断熱体(9-2-4)を得た。断熱性の芯材にはシリカ微粉末を用いた。真空断熱体(9-2-4)を40℃、15%RHの条件下において360日間放置した後、ピラニー真空計を用いて真空断熱体の内部の圧力を測定した結果、28.0Paであった。
【0179】
<実施例10-1>
実施例1-1で作製した多層構造体(1-1-1)上に接着層を形成し、該接着層上にアクリル樹脂フィルム(厚さ50μm)をラミネートすることによって積層体を得た。続いて、該積層体の多層構造体(1-1-1)の基材(X-1)側に接着層を形成した後、PET50をラミネートした。このようにして、PET/接着層(I)/基材(X-1)/層(Z-1)/層(Y-1)/接着層(I)/アクリル樹脂フィルム、という構成を有する保護シート(10-1-1)を得た。前記2つの接着層はそれぞれ、2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって形成した。2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A-1102」と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A-3070」とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を用いた。
【0180】
続いて、得られた保護シート(10-1-1)の耐久性試験として、恒温恒湿試験機を用いて、大気圧下、85℃、85%RHの雰囲気下に1,000時間保護シートを保管する試験(ダンプヒート試験)を行った結果、デラミネーションの発生無く良好な外観を保持した。