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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】プロゾーン現象の抑制方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20240325BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240325BHJP
   G01N 33/553 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
G01N33/543 521
G01N33/543 515J
G01N33/53 Q
G01N33/553
G01N33/543 541Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019154388
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021032760
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504233638
【氏名又は名称】株式会社森永生科学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 康史
(72)【発明者】
【氏名】榎本 靖
(72)【発明者】
【氏名】杉田 慶
(72)【発明者】
【氏名】小山 由利子
(72)【発明者】
【氏名】黒田 和彦
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6526810(JP,B2)
【文献】国際公開第2009/069779(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/095469(WO,A1)
【文献】特開2017-110936(JP,A)
【文献】特開2015-230221(JP,A)
【文献】特開2017-120242(JP,A)
【文献】国際公開第2019/005694(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48~33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品中に含まれる食物アレルゲンと標識抗体との抗原抗体反応を含む、イムノクロマトグラフィーによる免疫学的検査方法におけるプロゾーン現象の抑制方法であって、 前記標識抗体として、樹脂粒子に複数の白金粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した標識抗体を用いることを特徴とする、プロゾーン現象の抑制方法。
【請求項2】
前記免疫学的検査方法に供する被検サンプルが、前記食物アレルゲンの最大シグナル値が得られる濃度以上の濃度範囲で前記食物アレルゲンを含む試料であることを特徴とする、請求項1に記載のプロゾーン現象の抑制方法。
【請求項3】
前記食物アレルゲンがタンパク質であり、前記免疫学的検査方法に供する被検サンプルに含まれる総タンパク質濃度が、100ng/mL以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のプロゾーン現象の抑制方法。
【請求項4】
食品中に含まれる食物アレルゲンと標識抗体との抗原抗体反応を含む、イムノクロマトグラフィーによる免疫学的検査において、前記食物アレルゲンの最大シグナル値が得られる濃度以上の濃度範囲で前記食物アレルゲンを含む可能性のある試料を被検サンプルとして供する場合における偽陰性判定の発生を抑制する方法であって、 前記標識抗体として、樹脂粒子に複数の白金粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した標識抗体を用いることを特徴とする、免疫学的検査における偽陰性判定の発生を抑制する方法。
【請求項5】
前記食物アレルゲンがタンパク質であり、 前記被検サンプルに含まれる総タンパク質濃度が、100ng/mL以上であることを特徴とする、請求項4に記載の免疫学的検査における偽陰性判定の発生を抑制する方法。
【請求項6】
第1標識抗体(但し、下記第2標識抗体とは異なる)が抗体保持部に保持された、第1イムノクロマトグラフィー装置を用いた一次免疫学的検査工程と、 樹脂粒子に複数の白金粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した第2標識抗体が抗体保持部に保持された、第2イムノクロマトグラフィー装置を用いた二次免疫学的検査工程と、を含み、 前記一次免疫学的検査工程において陰性と判断された被検サンプルを、二次免疫学的検査工程に供し、 前記一次免疫学的検査工程による陰性の結果が、プロゾーン現象による偽陰性判定を含んでいるか否かを前記二次免疫学的検査工程により確認することを特徴とする、免疫学的検査方法。
【請求項7】
前記第1標識抗体が、金属コロイドにより標識された標識抗体であることを特徴とする、請求項に記載の免疫学的検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマトグラフィーに関する技術である。
【背景技術】
【0002】
食物アレルギーは、皮膚炎、喘息、アナフィラキシーショックなどの有害な免疫応答を誘発し、死亡事故につながる危険性もはらんでいる。実際米国では年間約150人もの人が食物アレルギーにより亡くなっていると報告されている。このような状況に鑑み、食物中のアレルゲンを検出するための技術が多数提案されている。
【0003】
現在、アレルゲンの検出方法としては、抗体を用いたイムノアッセイが一般的に使用されている。例えば特許文献1にはELISAやイムノクロマト法によってそばアレルゲンを検出する方法が開示されている。
また、特許文献2には、金コロイドで標識したモノクローナル抗体を用いた、イムノクロマト法によるアレルゲンの検出方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-271092号公報
【文献】特開2016-211967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、イムノクロマトグラフィーにおいては、サンプル中に抗原が過剰に存在することが原因で、見かけの測定値が減少する、プロゾーン現象が確認されることがある。
食品検査において、検査溶液中に高濃度のアレルゲン物質が含まれる場合に、プロゾーン現象による偽陰性判定が生じると、重大な事故につながる可能性がある。
しかし、上記特許文献1や特許文献2に開示されているアレルゲン検出方法のうち、イムノクロマトグラフィーを用いた検出方法では、プロゾーン現象を抑制することができず、プロゾーン現象の発生に起因する偽陰性判定であることが疑われる場合には、サンプルを希釈して再検査する必要がある。
【0006】
上記状況に鑑み、本発明は、プロゾーン現象の抑制のための新規の技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する、本発明に係るプロゾーン現象の抑制方法は、食品中に含まれる食物アレルゲンと標識抗体との抗原抗体反応を含む、イムノクロマトグラフィーによる免疫学的検査方法におけるプロゾーン現象の抑制方法であって、
上記標識抗体として、樹脂粒子に複数の白金粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した標識抗体を用いることを特徴とする、プロゾーン現象の抑制方法である。
上記構成とすることによって、プロゾーン現象を抑制することができる。
【0008】
本発明の好ましい形態では、上記免疫学的検査方法に供する被検サンプルが、上記食物アレルゲンの最大シグナル値が得られる濃度以上の濃度範囲で上記食物アレルゲンを含む試料である。
通常、最大シグナル値が得られる濃度以上に抗原を含む場合にはプロゾーン現象の影響を強く受けるが、本発明の適用によりこれを抑制することができる。
【0009】
本発明の好ましい形態では、上記食物アレルゲンが、タンパク質であり、上記免疫学的検査方法に供する被検サンプルに含まれる総タンパク質濃度が、100ng/mL以上である。
100ng/mL以上の濃度のような高濃度で抗原を含む場合にはプロゾーン現象の影響を強く受けるが、本発明の適用によりこれを抑制することができる。
【0010】
また、上記課題を解決する、本発明に係る免疫学的検査方法は、食品中に含まれる食物アレルゲンと標識抗体との抗原抗体反応を含む、イムノクロマトグラフィーによる免疫学的検査方法であって、
上記標識抗体が、樹脂粒子に複数の白金粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した標識抗体であり、
上記食物アレルゲンの最大シグナル値が得られる濃度以上の濃度範囲で上記対象成分を含む可能性のある試料を被検サンプルとして供することを特徴とする、免疫学的検査方法である。
通常、最大シグナル値が得られる濃度以上の濃度範囲で抗原を含む可能性がある場合、陰性の結果が得られたとしてもこれが偽陰性である可能性が非常に高い。
しかし、本発明の適用により、上述したような高濃度で抗原を含む可能性がある場合において、プロゾーン現象による偽陰性判定が生じる可能性を低減することができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、上記食物アレルゲンがタンパク質であり、
上記被検サンプルに含まれる総タンパク質濃度が、100ng/mL以上である。
上記構成とすることによって、検出対象のタンパク質を高濃度で含む可能性がある被検サンプルでも、偽陰性の判定をすることなく、検査することができる。
【0012】
また、上記課題を解決する、本発明に係る免疫学的検査方法は、食品中に含まれる食物アレルゲンと標識抗体との抗原抗体反応を含む、イムノクロマトグラフィーによる免疫学的検査方法であって、
上記標識抗体が、樹脂粒子に複数の白金粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した標識抗体であり、
食品組成物の抽出液を希釈せずに、被検サンプルとして供することを特徴とする、免疫学的検査方法である。
食品組成物の抽出液を希釈せずに、被検サンプルとして供する場合、抗原が多量に含まれていることによりプロゾーン現象が生じて偽陰性判定がなされる可能性が高い。
本発明はこのような場合に適用することにより、プロゾーン現象を抑制し偽陰性判定がなされることを抑止することができる。
【0013】
また、上記課題を解決する、本発明に係る免疫学的検査方法は、食品中に含まれる食物アレルゲンと標識抗体との抗原抗体反応を含む、イムノクロマトグラフィーによる免疫学的検査方法であって、
上記標識抗体が、樹脂粒子に複数の白金粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した標識抗体であり、
食品組成物の抽出液又はその希釈物を被検サンプルとして供することを特徴とする、免疫学的検査方法である。
本発明によれば、製造過程において誤って食物アレルゲンを含む原料を規定以上に添加した食品組成物を、被検サンプルとして検査に供することができる。
【0014】
また、上記課題を解決する、本発明に係るイムノクロマトグラフィー装置は、食品中に含まれる食物アレルゲンと標識抗体との抗原抗体反応を含む、イムノクロマトグラフィーによる免疫学的検査方法に用いるイムノクロマトグラフィー装置であって、
樹脂粒子に複数の白金粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した、上記食物アレルゲンに特異的に結合する標識抗体が、抗体保持部に溶出可能に保持されている、イムノクロマトグラフィー装置である。
上記構成とすることによって、プロゾーン現象を抑制したイムノクロマトグラフィー装置を提供することができる。
【0015】
また、上記課題を解決する、本発明に係る免疫学的検査方法は、第1標識抗体(但し、下記第2標識抗体とは異なる)が抗体保持部に保持された、第1イムノクロマトグラフィー装置を用いた一次免疫学的検査工程と、
樹脂粒子に複数の白金粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した第2標識抗体が抗体保持部に保持された、第2イムノクロマトグラフィー装置を用いた二次免疫学的検査工程と、を含み、
上記一次免疫学的検査工程において陰性と判断された被検サンプルを、二次免疫学的検査工程に供することを特徴とする、免疫学的検査方法である。
一次免疫学的検査工程による陰性の検査結果はプロゾーン現象による偽陰性判定を含んでいる可能性がある。本発明は、一次免疫学的検査工程における陰性の判定結果が偽陰性でないことを二次免疫学的検査工程により確認する構成を採るため、非常に精度の高い検査結果を提供することができる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、上記第1標識抗体が、金属コロイドにより標識された標識抗体である。
上記構成とすることによって、従来の免疫学的検査方法で陰性と判定された被検サンプルに対して、プロゾーン現象の発生が抑制された免疫学的検査方法で、検査することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、イムノクロマトグラフィーにおけるプロゾーン現象を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明で使用する、樹脂-金属複合体の断面を表す図である。
図2】本発明に係るイムノクロマトグラフィー装置を表す図である。
図3】実施例における、卵アレルゲン検出実験の結果を示すグラフである。
図4】実施例における、牛乳アレルゲン検出実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において、「食品組成物」には、液体の食品組成物及び固体の食品組成物のいずれも含まれる。
本発明において、「被検サンプル」とは、実際にイムノクロマトグラフィー装置に滴下するサンプルを意味し、食品組成物、食品組成物の抽出液及びこれらの希釈物のいずれも含まれる。
【0020】
本発明は食品中に含まれる食物アレルゲンと標識抗体との抗原抗体反応を含む、イムノクロマトグラフィーに関する。本発明の特徴は、樹脂粒子に複数の金属粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した標識抗体を用いる点にある。かかる特徴を有することにより、プロゾーン現象を抑制することができ、より信頼性の高いイムノクロマトグラフィー技術を提供することができる。
【0021】
上記樹脂-金属複合体について、図1を参照して説明する。
樹脂-金属複合体10は、樹脂粒子11と、樹脂粒子11に固定化された複数の白金粒子12からなる複合体である。特に、本発明に係るプロゾーン現象の抑制方法には、特開2017-120242号公報に記載の複合体を好適に用いることができる。
金属として白金を用いることで、高いプロゾーン現象の抑制効果を得ることができる。
【0022】
樹脂粒子11は、含窒素モノマーと多価ビニル化合物の共重合体である。含窒素モノマーは例えば芳香族アミン、脂肪族アミンが挙げられ、好ましくは、ビニルピリジンである。
また多価ビニル化合物は、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル等が挙げられ、好ましくはo-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼンである。
白金粒子12は、樹脂粒子11に内包されていても、その一部が樹脂粒子11から露出していても、また樹脂粒子11の表面に吸着していてもよい。
【0023】
樹脂-金属複合体10は、特開2017-120242号公報に記載の方法で製造することができる。具体的には、まず、乳化重合法により樹脂粒子11を製造する。次に、樹脂粒子11に白金イオンを吸着させる。最後に、白金イオンが吸着した樹脂粒子11を還元剤溶液に入れ、白金粒子12を生成し、樹脂-金属複合体10を得る。
【0024】
上記樹脂-金属複合体10で標識する抗体は、検出対象の食物アレルゲンを検出することができれば、特に制限されない。
また、標識抗体は、例えば特開2017-120242号公報に記載の方法で得られる。
具体的には、まず、樹脂-金属複合体10を、結合用緩衝液に分散させ、複合体分散液を得る。このとき、上記結合用緩衝液のpHは、pH2~10の範囲が好ましく、pH5~9の範囲内がより好ましい。
次に、上記複合体分散液に抗体を添加し、十分に攪拌、混合し、標識抗体分散液を得る。該標識抗体分散液を、遠心分離等の固液分離手段で処理することにより、標識抗体を得ることができる。
また、上記方法は、好ましくは、上記とは異なるpH条件で処理するブロッキング工程を含む。また、より好ましくは、洗浄処理や保存処理を行う。
また、その他本発明の属する分野で通常行われている方法によっても、標識抗体を得ることができる。
【0025】
本発明は、プロゾーン現象が起こる可能性がある濃度、すなわち、イムノクロマトグラフィーにおいて最大シグナル値が得られる濃度以上の濃度で、抗原である食物アレルゲンを含む可能性がある被検サンプルをイムノクロマトグラフィーに供する場合に特に有効である。本発明の適用によりプロゾーン現象を抑制することができる。
【0026】
具体的には、本発明は、食物アレルゲンの濃度が、好ましくは50ng/mL、より好ましくは60ng/mLであり、さらに好ましくは70ng/mL以上である被検サンプルを検査する場合に特に有効である。
【0027】
例えば、上記食物アレルゲンがオボアルブミンの場合、被験サンプル中のオボアルブミンの濃度が、好ましくは60ng/mL以上であり、より好ましくは120ng/mL以上であり、より好ましくは180ng/mL以上であり、さらに好ましくは240ng/mL以上であり、さらに好ましくは300ng/mL以上であり、さらに好ましくは360ng/mL以上であり、さらに好ましくは390ng/mL以上である場合に、特に有効である。
【0028】
また、上記食物アレルゲンがカゼインの場合、被験サンプル中のカゼインの濃度が、好ましくは80ng/mL以上であり、より好ましくは120ng/mL以上であり、さらに好ましくは160ng/mL以上であり、さらに好ましくは240ng/mL以上であり、さらに好ましくは320ng/mL以上であり、さらに好ましくは400ng/mL以上であり、さらに好ましくは480ng/mL以上であり、さらに好ましくは560ng/mL以上であり、さらに好ましくは640ng/mL以上であり、さらに好ましくは720ng/mL以上であり、さらに好ましくは800ng/mL以上であり、さらに好ましくは960ng/mL以上であり、さらに好ましくは1000ng/mL以上である場合に、特に有効である。
【0029】
本発明において、検出対象となる食物アレルゲンは、特に制限されない。例えば、国際食品規格(CODEX)委員会の包装食品の表示に関するコーデックス一般規格(CODEX STAN 1-1985)の表示の対象であるグルテンを含む穀類・甲殻類・卵・魚・ピーナッツ・大豆・乳・木の実・亜硫酸塩、日本の消費者庁の食品表示基準(平成27年3月30日消食表第139号)の表示の対象である卵・乳・小麦・そば・落花生・えび・かに・あわび・いか・いくら・オレンジ・キウイフルーツ・牛肉・くるみ・さけ・さば・大豆・鶏肉・豚肉・まつたけ・もも・やまいも・りんご・ゼラチン・バナナ・ごま・カシューナッツ、米国のFDAの食品アレルゲン表示および消費者保護法(FALCPA)の表示の対象である牛乳・卵・魚・甲殻類・ナッツ類・小麦・ピーナッツ・大豆などの食品に含まれるアレルゲンを例示することができる。
本発明は、特に卵アレルゲン及び牛乳アレルゲンの検出時に有効である。
【0030】
食物アレルゲンがタンパク質である場合、被検サンプルに含まれる総タンパク質量が多いと、それに比例するようにプロゾーン現象が生じる可能性が高まる。そのため、被検サンプルの総タンパク質量が多い場合に、本発明を適用することが好ましい。
具体的には、本発明は、被検サンプルに含まれる総タンパク質の濃度が、好ましくは100ng/mL以上であり、より好ましくは140ng/mL以上であり、より好ましくは200ng/mL以上であり、より好ましくは300ng/mL以上であり、さらに好ましくは400ng/mL以上であり、さらに好ましくは500ng/mL以上であり、さらに好ましくは600ng/mL以上であり、さらに好ましくは650ng/mL以上であり、さらに好ましくは700ng/mL以上であり、さらに好ましくは800ng/mL以上であり、さらに好ましくは900ng/mL以上であり、さらに好ましくは1000ng/mL以上であり、さらに好ましくは1.2μg/mL以上であり、さらに好ましくは1.3μg/mL以上であり、さらに好ましくは1.4μg/mLである場合に特に有効である。
【0031】
上記検出対象の食物アレルゲンが卵アレルゲンの場合、被検サンプル中の卵総タンパク質の濃度が、好ましくは100ng/mL以上であり、より好ましくは200ng/mL以上であり、より好ましくは300ng/mL以上であり、さらに好ましくは400ng/mL以上であり、さらに好ましくは500ng/mL以上であり、さらに好ましくは600ng/mL以上であり、さらにより好ましくは650ng/mL以上であるときに本発明を適用することが有効である。
なお、卵総タンパク質のうち、約60%が卵アレルゲン(オボアルブミン)である。
【0032】
また、上記検出対象の食物アレルゲンが牛乳アレルゲンの場合、被検サンプル中の牛乳総タンパク質の濃度が、好ましくは100ng/mL以上であり、より好ましくは140ng/mL以上であり、さらに好ましくは200ng/mL以上であり、さらに好ましくは300ng/mL以上であり、さらに好ましくは400ng/mL以上であり、さらに好ましくは500ng/mL以上であり、さらに好ましくは600ng/mL以上であり、さらに好ましくは700ng/mL以上であり、さらに好ましくは800ng/mL以上であり、さらに好ましくは900ng/mL以上であり、さらに好ましくは1000ng/mL以上であり、さらに好ましくは1.2μg/mL以上であり、さらに好ましくは1.3μg/mL以上であり、さらに好ましくは1.4μg/mLであるときに本発明を適用することが有効である。
なお、牛乳総タンパク質のうち、約80%が牛乳アレルゲン(カゼイン)である。
【0033】
上記の場合、検出対象の食物アレルゲンが多量に被検サンプル中に含まれるため、プロゾーン現象による偽陰性判定が起こる確率が高まる。この場合に本発明を適用することで、偽陰性判定の発生を抑制することができる。
【0034】
なお、本明細書でいう「濃度(g/mL)」は、溶質を秤量して溶液を調製した場合には、当該溶質の質量と溶液の体積に基づく計算値を含む。
また、溶質がタンパク質である場合、「濃度(g/mL)」には、比色法や吸光度測定による測定値が含まれる。
【0035】
本来はプロゾーン現象の抑制のため、検査対象である食品組成物の抽出液を相当程度希釈したものを被検サンプルとしてイムノクロマトグラフィーに供する必要がある。しかし、本発明はイムノクロマトグラフィーにおけるプロゾーン現象を抑制することができるため、検査対象である食品組成物の抽出液を希釈せずに被検サンプルとして検査に供することもできる。
上記形態にすることによって、食品組成物の抽出液を希釈する手間が省け、より簡便に検査を行うことができる。
【0036】
食品の試験ないし製造の現場においては、食物アレルゲンを含む原料を誤って規定以上に添加してしまうケースがまれにみられる。この場合、イムノクロマトグラフィーにより当該食物アレルゲンを検出しようと試みても、プロゾーン現象により偽陰性判定が出る可能性が高い。
本発明はこのような問題を解消するものである。食品組成物又はその希釈物を被検サンプルとして供するような食品検査に本発明を適用することが有効である。
【0037】
従来の免疫学的検査方法による陰性の検査結果は、プロゾーン現象による偽陰性判定を含んでいる可能性がある。本発明は、従来の免疫学的検査方法による陰性の結果が、プロゾーン現象による偽陰性判定を含んでいるか否かを確認する手段として利用することができる。
すなわち、本発明は、一次免疫学的検査工程と、二次免疫学的検査工程と、を含み、一次免疫学的検査工程において陰性と判断された食品組成物を、二次免疫学的検査工程に供する、免疫学的検査方法にも関する。
【0038】
上記一次免疫学的検査工程では、第1標識抗体が抗体保持部に保持された、第1イムノクロマトグラフィー装置を用いる。この第1標識抗体は後述する第2標識抗体とは異なる。
第1標識抗体としては公知の標識抗体を制限なく用いることができるが、金コロイドなどの金属コロイドにより標識された抗体を挙げることができる。
【0039】
また、上記二次免疫学的検査工程では、樹脂粒子に複数の白金粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した第2標識抗体が抗体保持部に保持された、第2イムノクロマトグラフィー装置を用いる。
【0040】
一次免疫学的検査工程による陰性の検査結果はプロゾーン現象による偽陰性判定を含んでいる可能性がある。本発明は、一次免疫学的検査工程における陰性の判定結果が偽陰性でないことを二次免疫学的検査工程により確認する構成を採るため、非常に精度の高い検査結果を提供することができる。
【0041】
別の観点で評価すれば、本発明は、プロゾーン現象が抑制された免疫学的検査方法(上記二次免疫学的検査工程)に供するべき食品組成物を、上記一次免疫学的検査工程によって、スクリーニングするものであるともいえる。本形態は、食品組成物が大量である場合に特に有用である。
【0042】
本発明を実現するためのイムノクロマトグラフィー装置の構成は特に限定されない。以下、一例として本発明を適用したイムノクロマトグラフィー装置20を、図2を参照して説明する。
【0043】
本発明のイムノクロマトグラフィー装置20は、メンブレン21を備え、メンブレン21上には、試料の展開する方向に、滴下部22、抗体保持部23、及び判定部24を備える。また、必須ではないが、吸水部25及び、コントロール部26を備えていてもよい。
【0044】
メンブレン21は、イムノクロマトグラフィー装置において一般的に用いられる素材であれば、特に制限されない。例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、セルロース、誘導体等で構成される繊維状又は不織繊維状マトリクス、膜、濾紙、ガラス繊維濾紙、布、綿等が挙げられる。中でも、ニトロセルロース膜、混合ニトロセルロースエステル(ニトロセルロースと酢酸セルロースの混合物)膜、ナイロン膜、又は濾紙が好ましく用いられる。
【0045】
滴下部22は、実際に被検サンプルを添加する部分である。滴下部22は、イムノクロマトグラフィー装置において一般的に用いられる素材であれば、特に制限されない。
【0046】
抗体保持部23には、標識抗体231が、溶出可能に保持されている。ここで、標識抗体231は、検出対象の食物アレルゲンを検出する抗体を、上記樹脂-金属複合体で標識したものである。
抗体保持部23は、標識抗体231を、乾燥によりグラスファイバー上に担持させて、作製する。
また抗体は、検出対象のアレルゲン物質を検出できるものを、適宜選択する。また、ポリクローナル抗体でも、モノクローナル抗体でもよい。
【0047】
判定部24には、検出対象の食物アレルゲンを捕捉することができる、捕捉抗体241が、メンブレン21上に、直接的に又は間接的に担持されている。捕捉抗体241は、物理的な結合により担持されていても、化学的な結合で担持されていてもよい。
捕捉抗体241の、メンブレンへの担持方法は、公知の方法を適宜選択することができる。
【0048】
吸液部25を備える場合、吸液部25は、吸水性材料からなり、展開された試料を吸収する。例えば、セルロース濾紙、不織布、布、セルロースアセテート等が挙げられる。
【0049】
コントロール部26を備える場合、コントロール部26には、検出対象のアレルゲン物質を捕捉することができる、第二捕捉抗体261が、メンブレン21上に、直接的に又は間接的に担持されている。第二捕捉抗体261は、物理的な結合により担持されていても、化学的な結合で担持されていてもよい。なお、第二捕捉抗体261は、上記捕捉抗体241とは異なる抗体である。
コントロール部26を備えることで、検査が正常に終了したことを確認することができる。
【0050】
なお、コントロール部26における、検査が正常に終了したことを確認する確認方法は、上記第二補足抗体261をメンブレン上に担持する方法以外の、本発明が属する分野で公知の方法を用いることもできる。
この場合、コントロール部26には、採用した確認方法に適した試薬等が、常法によって担持されている。
【実施例
【0051】
以下、実施例及び試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は、以下の実施形態に限定されない。
【0052】
<実施例>イムノクロマトグラフィー装置の作製
以下の方法で、本発明に係る卵アレルゲン検出イムノクロマトグラフィー装置及び、牛乳アレルゲン検出イムノクロマトグラフィー装置を作製した。
【0053】
(1)抗体及び標識試薬
抗体は、卵アレルゲン特異的ポリクローナル抗体、及び、牛乳アレルゲン特異的ポリクローナル抗体(いずれも株式会社森永生科学研究所製)を用いた。
標識試薬は、樹脂-金粒子複合体、樹脂-白金粒子複合体(いずれも日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、及び、金ナノコロイド(直径40nm、田中貴金属工業株式会社製)を用いた。
【0054】
上記樹脂-金複合体粒子は、直径350nmのラテックス微粒子に、直径約25nmの金粒子が固定化されており、全体の直径(図1中Dで示した長さ)は、370nmである。
上記樹脂-白金複合体粒子は、直径430nmのラテックス微粒子に、直径約5nmの白金微粒子が固定化されており、全体の直径(図1中Dで示した長さ)は、450nmである。
いずれの複合体も、特開2017-120242号公報に記載の方法で調製した。
【0055】
(2)標識抗体の調製
上記各抗体を、上記各標識試薬によって標識し、標識抗体を得た。
樹脂-金粒子複合体及び樹脂-白金粒子複合体は、各1.0wt%の濃度のもの、金ナノコロイドは、OD523=1.0の濃度のものをそれぞれ用い、常法に従って抗体を標識した。
【0056】
(3)イムノクロマトグラフィー装置の作製
まず、上記(2)で調製した各標識抗体を、それぞれ乾燥によりグラスファイバー上に担持させて、抗体保持部23を作製した。
次に、各抗体保持部23を用いて、図2に示す構成のイムノクロマトグラフィー装置を作製した(下記表1参照)。
【0057】
【表1】
【0058】
<試験例1>卵タンパク質の検出
上記実施例で作製した卵タンパク質検出イムノクロマトグラフィー装置A1~A3の、検出感度を試験した。
(1)サンプルの調製
サンプルは、検体抽出液(卵総タンパク質0ng/mL、株式会社森永生科学研究所製)、卵標準溶液(卵総タンパク濃度250ng/mL、株式会社森永生科学研究所製)、及び卵抽出液をサンプル原液として、下記表2の濃度となるように調製した。
上記卵抽出液は、まず全卵(タンパク質濃度12%(日本食品標準成分表より))から、上記検体抽出液を用いて、卵タンパク質を20倍抽出した。これを、上記検体抽出液を用いて、更に1倍、10倍、10倍、10倍、10倍に段階希釈した。
上記検体抽出液、卵標準溶液、各種濃度の卵抽出液を、検体希釈液(株式会社森永生科学研究所製)でそれぞれ10倍希釈し、サンプルとして用いた(表2参照)。
【0059】
各サンプル中の卵総タンパク質濃度は、2-D Quant Kit(GEヘルスケア社)を用いて、キットの指示に従って測定した。
【0060】
【表2】
【0061】
(2)試験
上記(1)で調製した各サンプル200μLを、上記実施例で作成した卵タンパク質検出イムノクロマトグラフィー装置A1~A3の滴下部に滴下し、15分間室温で静置した。15分後、目視で陽性又は陰性であるかの判定を行った。
また、イムノクロマトリーダ(C10066、浜松ホトニクス株式会社製)による測定も行った。これを3回繰り返した。
結果を下記表3及び図3に示す。なお、表3及び後述する表4中、「+」は陽性判定であることを表し、「-」は陰性判定であることを表す。また、吸光度のリーダ値の単位はmABSである。
【0062】
【表3】
【0063】
(3)結果
表3及び図3に示すように、樹脂-金粒子複合体で抗体を標識したイムノクロマトグラフィー装置(A1)では、サンプル中のアレルゲン濃度が65μg/mLを超えると、目視では陰性の判定となった。また、リーダ値は顕著に低下した。
また、従来のイムノクロマトで標識物質として用いられてきた金ナノコロイド粒子で抗体を標識したイムノクロマトグラフィー装置(A3)では、サンプル中の卵総タンパク質濃度が650μg/mLの場合に、目視で陰性の判定となった。また、リーダ値は顕著に低下した。
一方、樹脂-白金粒子複合体で抗体を標識したイムノクロマトグラフィー装置(A2)では、サンプル中の卵総タンパク質濃度が650μg/mLでも、目視で陽性の判定となった。リーダ値も、陽性判定がでる程度にしか低下していない。
【0064】
<試験例2>牛乳タンパク質の検出
サンプル原液を、検体抽出液、牛乳標準品溶液(株式会社森永生科学研究所製)、及び牛乳抽出液とした以外は、試験例1と同様にして、上記実施例で作製した牛乳タンパク質検出イムノクロマトグラフィー装置B1~B3の、検出感度を試験した。
なお、牛乳抽出液は、牛乳(タンパク質濃度約3%(日本食品成分表より))を用いて、上記卵抽出液と同様に抽出した。
また、牛乳標準品の希釈前の牛乳総タンパク質濃度は250ng/mLである。
各サンプルの牛乳総タンパク質濃度を、下記表4に示す。
結果を表5及び図4に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
表5及び図4に示す通り、樹脂-金粒子複合体で抗体を標識したイムノクロマトグラフィー装置(B1)は、牛乳総タンパク質の濃度が140μg/mLの時に、目視で陰性判定となった。また、リーダ値は顕著に低下した。
また、従来のイムノクロマトで標識物質として用いられてきた金ナノコロイド粒子で抗体を標識したイムノクロマトグラフィー装置(B3)では、サンプル中の牛乳総タンパク質濃度が140μg/mLのとき、3回中1回、目視で陰性判定となった。また、リーダ値は顕著に低下した。目視で陽性判定となった2回もリーダ値は顕著に低下している。
一方、樹脂-白金粒子複合体で抗体を標識したイムノクロマトグラフィー装置(B2)では、サンプル中の牛乳総タンパク質濃度が140μg/mLでも、目視で陽性の判定となった。リーダ値も、陽性判定がでる程度にしか低下していない。
【0068】
以上より、樹脂-白金粒子複合体で抗体を標識することで、プロゾーン現象を抑制することができることがわかった。
また、樹脂-白金粒子複合体で抗体を標識したイムノクロマトグラフィー装置を用いることで、高濃度に抗原を含有するサンプルに対しても、正確に判定することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、食品のアレルギー検査に応用することができる。特に、抗原が高濃度で含まれる可能性のある食品に対して、正確に試験を実施することができる。
【符号の説明】
【0070】
10 樹脂-金属複合体
11 樹脂粒子
12 白金粒子
20 イムノクロマトグラフィー装置
21 メンブレン
22 滴下部
23 抗体保持部
231 標識抗体
24 判定部
241 補足抗体
25 吸水部
26 コントロール部
261 第二補足抗体
D 樹脂-金属複合体の全体の直径

図1
図2
図3
図4