(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】生体組織の電極配置推定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/276 20210101AFI20240325BHJP
A61B 5/287 20210101ALN20240325BHJP
A61B 5/282 20210101ALN20240325BHJP
【FI】
A61B5/276 200
A61B5/276 100
A61B5/287
A61B5/282
(21)【出願番号】P 2020567714
(86)(22)【出願日】2020-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2020002483
(87)【国際公開番号】W WO2020153468
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2019010999
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富井 直輝
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 一郎
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正俊
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ ジャミン
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-140954(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0301102(US,A1)
【文献】国際公開第2018/180796(WO,A1)
【文献】特開2018-171194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05 - 5/0538
A61B 5/24 - 5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
興奮波が組織内に伝播することにより興奮に伴って活動する生体組織の前記興奮波を検出するために前記生体組織に取り付けるべき電極の数と配置を推定する生体組織の電極配置推定方法であって、
前記興奮波を検出するのに十分な数の電極を平面に整列配置した初期電極アレイを第1電極アレイとし、前記初期電極アレイを用いて前記生体組織に取り付けたときに各電極により得られる検出信号を取得する信号取得ステップと、
前記第1電極アレイから所定数の電極をランダムに削除した複数の第2電極アレイの各電極により得られた検出信号に基づく複数の入力データに対して前記初期電極アレイを用いて各電極の検出信号を得る際の興奮波の画像を教師データとして用いて深層学習により前記入力データと前記興奮波の画像との関係を学習して学習済モデルを取得する学習済モデル取得ステップと、
前記複数の入力データを前記学習済モデルに適用して得られる複数の解析画像のうち前記教師データの画像に対して最も適合する画像に対応する第2電極アレイを選択電極アレイとして選択する電極アレイ選択ステップと、
前記選択電極アレイを最適電極アレイとし、該最適電極アレイの電極の数と配置を前記生体組織に取り付けるべき電極の数と配置として推定する電極配置推定ステップと、
を備える生体組織の電極配置推定方法。
【請求項2】
請求項1記載の生体組織の電極配置推定方法であって、
前記複数の入力データは、電極間では電極の検出信号を最近傍法で補間した信号に基づいて調整される、
生体組織の電極配置推定方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の生体組織の電極配置推定方法であって、
前記電極アレイ選択ステップにより選択した前記選択電極アレイを前記第1電極アレイとして用いて前記学習済モデル取得ステップと前記電極アレイ選択ステップとを繰り返し実行する、
生体組織の電極配置推定方法。
【請求項4】
請求項3記載の生体組織の電極配置推定方法であって、
前記電極配置推定ステップは、前記選択電極アレイにより得られた解析画像が前記教師データの画像に対して許容範囲外となったときに前回実行された前記電極アレイ選択ステップで選択された選択電極アレイを前記最適電極アレイとする、
生体組織の電極配置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織の電極配置推定方法に関し、興奮波が組織内に伝播することにより興奮に伴って活動する生体組織の興奮波を検出するために生体組織に取り付けるべき電極の数と配置を推定する生体組織の電極配置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、興奮波が組織内を伝播することにより興奮に伴って活動する生体組織の各位置における興奮波の位相に基づいて各位置における周囲の位相の分散の程度を示す位相分散値を演算し、各位置における位相分散値の少なくとも一部の時系列に基づいて解析マップを作成するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。位相分散値は、周囲の位相の分散の程度を示すから、周囲の位相の分散の程度が大きい位置を旋回興奮波の旋回中心として認定することができ、周囲の位相の分散の程度は、その時刻より前に旋回中心であったか、或いは、その時刻より後に旋回中心になり得るか、の可能性を見いだすことができるから、これらの結果、解析マップは、旋回興奮波に関する解析を行なうためのマップとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の技術では、生体組織の各位置における興奮波を検出するために生体組織の各位置に電極を配置する必要があるが、生体組織への電極の取り付けは生体組織への負荷となるため、同じ大きさの計測範囲を計測するのに必要な電極数はできる限り少ない方が望ましい。このため、興奮波を検出するために必要な生体組織に取り付けるべき電極の数と配置とを求めることが課題となる。
【0005】
本発明の生体組織の電極配置推定方法は、生体組織の興奮波を検出する電極のより適正な配置を推定することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の生体組織の電極配置推定方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の生体組織の電極配置推定方法は、
興奮波が組織内に伝播することにより興奮に伴って活動する生体組織の前記興奮波を検出するために前記生体組織に取り付けるべき電極の数と配置を推定する生体組織の電極配置推定方法であって、
前記興奮波を検出するのに十分な数の電極を平面に整列配置した初期電極アレイを第1電極アレイとし、前記初期電極アレイを用いて前記生体組織に取り付けたときに各電極により得られる検出信号を取得する信号取得ステップと、
前記第1電極アレイから所定数の電極をランダムに削除した複数の第2電極アレイの各電極により得られた検出信号に基づく複数の入力データに対して前記初期電極アレイを用いて各電極の検出信号を得る際の興奮波の画像を教師データとして用いて深層学習により前記入力データと前記興奮波の画像との関係を学習して学習済モデルを取得する学習済モデル取得ステップと、
前記複数の入力データを前記学習済モデルに適用して得られる複数の解析画像のうち前記教師データの画像に対して最も適合する画像に対応する第2電極アレイを選択電極アレイとして選択する電極アレイ選択ステップと、
前記選択電極アレイを最適電極アレイとし、該最適電極アレイの電極の数と配置を前記生体組織に取り付けるべき電極の数と配置として推定する電極配置推定ステップと、
を備える生体組織の電極配置推定方法。
【0008】
本発明の生体組織の電極配置推定方法では、まず、興奮波を検出するのに十分な数の電極を平面に整列配置した初期電極アレイを用いて生体組織に取り付けたときに各電極により得られる検出信号を取得する。次に、初期電極アレイを第1電極アレイとし、第1電極アレイから所定数の電極をランダムに削除した複数の第2電極アレイの各電極により得られた検出信号に基づく複数の入力データに対して初期電極アレイを用いて各電極の検出信号を得る際の興奮波の画像を教師データとして用いて深層学習により複数の入力データと興奮波の画像との関係を学習して学習済モデルを取得する。続いて、複数の入力データを取得した学習済モデルに適用して得られる複数の解析画像のうち教師データの画像に対して最も適合する画像に対応する第2電極アレイを選択電極アレイとして選択する。そして、選択した選択電極アレイを最適電極アレイとし、この最適電極アレイの電極の数と配置を生体組織に取り付けるべき電極の数と配置として推定する。これにより、初期電極アレイから所定数の電極を削除したときの複数の第2電極アレイのうち生体組織の興奮波を検出する電極アレイとして最も適正な電極の配置の電極アレイを最適電極アレイとして選択することができる。これにより、生体組織の興奮波を検出する電極のより適正な配置を推定することができる。
【0009】
こうした本発明の生体組織の電極配置推定方法において、前記複数の入力データは、電極間では電極の検出信号を最近傍法で補間した信号に基づいて調整されるものとしてもよい。こうすれば、入力データに電極間の信号を含めることができ、より適正な学習済モデルを得ることができる。この結果、生体組織の興奮波を検出する電極のより適正な配置を推定することができる。
【0010】
本発明の生体組織の電極配置推定方法において、前記電極アレイ選択ステップにより選択した前記選択電極アレイを前記第1電極アレイとして用いて前記学習済モデル取得ステップと前記電極アレイ選択ステップとを繰り返し実行するものとしてもよい。なお、学習済モデル取得ステップにおける「所定数」は、繰り返す毎に同じ値でもよいし異なる値でもよい。こうすれば、より電極数の少ない電極アレイを最適電極アレイとして選択することができ、生体組織の興奮波を検出するのにより少ない電極のより適正な配置を推定することができる。この場合、前記電極配置推定ステップは、前記選択電極アレイにより得られた解析画像が前記教師データの画像に対して許容範囲外となったときに前回実行された前記電極アレイ選択ステップで選択された選択電極アレイを前記最適電極アレイとするものとしてもよい。こうすれば、教師データの画像に対して許容範囲内となる解析画像に対応する電極アレイのうち最も電極数の少ない電極アレイを最適電極アレイとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態の生体組織の電極配置推定処理の概略の一例を示すフローチャートである。
【
図2】電極数が400の電極アレイの一例を示す説明図である。
【
図3】
図2の電極アレイの各電極で得られる検出信号の一例を示す説明図である。
【
図4】電極を削除した電極アレイの一例を示す説明図である。
【
図6】信号マップ(動画)と興奮波マップ(動画)との対応づけを説明するための模式図である。
【
図7】入力データと教師データとを用いて学習済モデルを取得する深層学習の概念を示す説明図である。
【
図8】信号マップを入力データとして学習済モデルに適用して解析画像を作成する際の概念を示す説明図である。
【
図9】電極アレイの電極数と推定エラーとの関係の一例を示す説明図である。
【
図10】25個の電極を5行5列に平面に整列配置した電極アレイから5個ずつ電極数を削減したときの様子の一例を示す説明図である。
【
図11】25個の電極を整列配置した電極アレイから5個ずつ電極数を削減したときの電極アレイと信号マップと解析画像とを教師データの画像と共に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、実施形態の生体組織の電極配置推定処理の概略の一例を示すフローチャートである。電極配置推定処理では、まず、生体組織の興奮波を検出するには十分な数の複数の電極を平面に整列配置した電極アレイ(初期電極アレイ)を生体組織に取り付けて各電極により得られる興奮波の検出信号を取得する(ステップS100)。電極数が400の初期電極アレイの一例を
図2に示し、この初期電極アレイの各電極で得られる検出信号の一例を
図3に示す。
図2の例では、初期電極アレイの中央が旋回興奮波の旋回中心に一致するように初期電極アレイが取り付けられている。各電極で得られる検出信号は、伝播する興奮波を各電極点で時間の経過に伴って検出される電圧変化の信号である。
【0013】
続いて、初期電極アレイを第1電極アレイとして、第1電極アレイからM個の電極をランダムに削除した異なる電極配置のN個の第2電極アレイを作成する(ステップS110)。すなわち、第2電極アレイはN個(N通り)のパターンが作成される。初期電極アレイ(第1電極アレイ)からM個の電極を削除した第2電極アレイの一例を
図4に示す。Mは値1或いは2以上の複数であり、Nは2以上の複数である。こうしたM個の電極を削除したN個の第2電極アレイの各電極による検出信号を用いて各電極アレイにおける電極間の補間信号を調整し(ステップS120)、各電極の検出信号と補間信号とを用いて各電極アレイの信号マップを作成する(ステップS130)。実施例では、電極間の補間信号は最近傍法により調整した。信号マップの一例を
図5に示す。
図5の例の信号マップでは、検出信号の強度を濃淡として表わしている。なお、検出信号も補間信号も時間の経過に伴って変化する時系列データであるから、信号マップも時間の経過に伴って変化する時系列マップ(動画)となる。
【0014】
後述のとおり、ステップS140において、訓練データを用いて、深層学習により学習済モデルを取得し、ステップS150において、テストデータを用いて、学習済モデルの最終的な推論結果を評価する。ここで、これらのステップの前提として、
図6を用いて、訓練データ、テストデータ等のデータセット(信号マップ(時系列マップ:動画)と興奮波の画像(時系列画像:動画)が対応付けられたデータセット)を作成する方法について説明する。これは、本発明においては、深層学習において入力層となる信号マップ(動画)と、出力層となる興奮派の画像(動画)との対応関係を規定することが重要になるからである。なお、以下では、興奮波の画像(時系列画像:動画)を「興奮波マップ」と呼ぶことがある。
【0015】
図6は、信号マップ(動画)と興奮波マップ(動画)との対応づけを説明するための模式図である。1つの興奮波の画像(静止画)は、所定区間の信号マップのうち最後の1つの画像(静止画)と対応づける。具体的には、
図6に示すとおり、時刻Tの興奮波の画像(静止画)は、時刻0から時刻Tの区間の信号マップ(
図6の太線で示す4枚の連続する静止画で構成される動画a)と対応させる。同様に、時刻T+tの興奮波の画像(静止画)は、時刻0から時刻Tの区間の信号マップから所定時間tずらした区間(時刻tから時刻T+tの区間)の信号マップ(
図7のb)に対応させる。このように一定区間長さTの信号マップ(動画)と、興奮波の画像(静止画)とを対応づけ、これを続けることによって、信号マップ(動画)と興奮波マップ(動画)とを対応づけることができる。なお、この例では、1つの興奮波の画像(静止画)の時刻を、所定区間の信号マップのうち最後の1つの画像(静止画)の時刻に対応させる例について説明したが、これに限定されるものではなく、所定区間の信号マップのうちのいずれの時刻の画像(静止画)を対応させてもよい。また、所定時間tの下限は、電極で得られる検出信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換する際のサンプリングレートfの逆数(1/f)である。
【0016】
以上を踏まえ、まず、深層学習による学習済モデルの取得について説明する。
図1に戻って説明すると、
図1のステップS140に示すように、信号マップ(時系列マップ)を入力データとし、初期電極アレイにより検出信号を検出したときの各電極の検出信号に基づく興奮波の画像(時系列画像:動画)あるいは光学計測等の電気計測以外の方法で計測された信号に基づく興奮波の画像(時系列画像:動画)を教師データとして深層学習(ディープラーニング)により入力データと興奮波の伝播を示す画像(動画)との関係の学習結果を学習済モデルとして取得する(ステップS140)。入力データと教師データとを用いて学習済モデルを取得する深層学習の概念を
図7に示す。前述のとおり、第2電極アレイはN個(N通り)のパターンがあるため、取得する学習済モデルは、各パターンに対応するN個の学習済みモデルである。
【0017】
次に、テストデータを用いて学習済モデルの最終的な推論結果を評価することについて説明する。ステップS130で作成したN個の第2電極アレイの信号マップ(時系列マップ)の入力データをステップS140で取得した対応する各学習済モデルに適用してN個の解析画像(時系列画像:動画)を作成する(ステップS150)。入力データを学習済モデルに適用して解析画像を作成する際の概念の一例を
図8に示す。そして、作成したN個の解析画像を教師データの画像と比較し、N個の解析画像のうち教師データの画像に最も適合する解析画像に対応する電極アレイを選択電極アレイとして選択する(ステップS160)。解析画像と教師データの画像との適合度合いは、例えば、興奮波を検知可能な程度の画素に画像を分割し、各分割画像の輝度の許容範囲を定めておき、解析画像の各分割画像の輝度と教師データの画像の各分割画像の輝度とを比較し、許容範囲を超えるもの(推定エラー)の数として求めたり、目視によって定めたりすることができる。ステップS160では、推定エラーの最も小さい解析画像に対応する電極アレイを選択電極アレイとして選択するのである。なお、ステップS140とステップS150との間に、S140において使用していない検証データを用いて、学習の結果を評価してもよい。この場合、ステップS150で用いるテストデータは、訓練データ及び検証データとして使用していないデータセットである。
【0018】
続いて、選択電極アレイにより得られた解析画像は興奮波を検出するのに許容範囲内の画像であるか否かを判定する(ステップS170)。この処理は上述の推定エラーを用いれば、推定エラーの数が閾値以下であるか否かにより判定することができる。
図9に、電極アレイの電極数と推定エラーとの関係の一例を示す。図示するように、推定エラーは電極アレイの電極数が小さくなるほど大きくなる。閾値は、興奮波のうち検出する事象に必要な精度により異なるものとなり、例えば興奮波の有無の検出では比較的大きな値となり、旋回興奮波の旋回中心の位置を特定するような検出では比較的小さな値となると考えられる。なお、電極アレイの電極数と推定エラーの曲線と閾値との交点の電極数Mminが許容範囲内となる電極アレイの最小電極数となる。
【0019】
ステップS170で選択電極アレイにより得られた解析画像は興奮波を検出するのに許容範囲内の画像であると判定されたときには、この選択電極アレイを構成する電極配置よりもさらに電極を少なくした電極配置を有する「新たな」選択電極アレイを採用できる可能性がある。そこで、ステップS110に戻り、選択電極アレイを「新たな」第1電極アレイとしてステップS110~S170の処理を行なう。このとき、MとNは前回ステップS110を実行したときと同じ値としてもよいし、異なる値としてもよい。ステップS110~S170の処理を行った結果、ステップS170において「新たな」選択電極アレイにより得られた解析画像が興奮波を検出するのに許容範囲内の画像であると判定された場合は、さらにこの「新たな」選択電極アレイを、「次の新たな」第1電極アレイとすることができる(以下では、「新たな」第1電極アレイ、「次の新たな」第1電極アレイをまとめて「第1電極アレイ」といい、「新たな」第2電極アレイを「第2電極アレイ」という場合がある。)。
【0020】
このステップS110~S170を繰り返す処理は、選択電極アレイを第1電極アレイとして段階的に電極数を削除して電極数の少ない選択電極アレイを選択する処理を繰り返すものとなる。この処理の一例として、25個の電極を5行5列に平面に整列配置した電極アレイから5個ずつ電極数を削減したときの様子の一例を
図10に示す。
図10では、図中2段目の20個の電極のN個の第2電極アレイでは左から3番目の第2電極アレイが教師データの画像に最も適合する画像に対応する選択電極アレイとして選択され、3段目の15個の電極のN個の第2電極アレイでは左から2番目の第2電極アレイが教師データの画像に最も適合する画像に対応する選択電極アレイとして選択され、4段目の10個の電極のN個の第2電極アレイでは左から2番目の第2電極アレイが教師データの画像に最も適合する画像に対応する選択電極アレイとして選択されている。なお、
図10に示す例では、ステップS170でYESとなった場合にさらにステップS110~S170を繰り返す際に、何度目の繰り返し処理かによらず、所定の値の電極数(この例では、5個)を削除している。もっとも、削除する電極数は、所定の値でなくてもよく、繰り返し処理の回数に応じて変動させてもよい。
図10に示す例とは異なり、繰り返しの回数が増加するごとに、削除する電極数を減少させてもよい。例えば、図中2段目から3段目に移行する際(繰り返し処理の回数が1回目)には、削除する電極数を5個とし、図中3段目から4段目に移行する際(繰り返し処理の回数が2回目)には、削除する電極数を5個よりも少ない3個としてもよい。
【0021】
ステップS110~S170を繰り返す処理において、ステップS170で選択電極アレイにより得られた解析画像は興奮波を検出するのに許容範囲内の画像ではないと判定したときには、ここで選択された第2電極アレイ(N通りの電極配置)では、所望のレベルを得られる電極配置がなかったものと判断されることになる。この場合は、前回のステップS110~S170の処理で選択された選択電極アレイを最適電極アレイとして選択し(ステップS180)、電極配置推定処理を終了する。この最適電極アレイは、ステップS110のMを小さくすると共にNを大きくすることにより、推定エラーが許容範囲となる電極アレイのうち電極数が最小となる電極アレイが選択されることになる。このようにして得られた最適電極アレイは、生体組織の興奮波の検出や旋回興奮波の旋回中心の位置の特定などに用いられる。
【0022】
なお、削除する電極数であるMの値が2以上の複数の場合には、ステップS170でNOとなった場合に、ステップS180に進まず、さらに電極数を調整し、ステップS110~S170を繰り返してもよい。具体的には、
図10の例において、図中2段目の20個の電極のN個の第2電極アレイでは左から3番目の第2電極アレイが教師データの画像に最も適合する画像に対応する選択電極アレイとして選択され、ステップS170で選択電極アレイにより得られた解析画像は興奮波を検出するのに許容範囲内の画像であると判定されたとする(ステップS170でYESの場合)。この場合、ステップS110に戻る。そして、3段目の15個の電極のN個の第2電極アレイでは左から2番目の第2電極アレイが教師データの画像に最も適合する画像に対応する選択電極アレイとして選択されるが、ステップS170で選択電極アレイにより得られた解析画像は興奮波を検出するのに許容範囲内の画像ではないと判定されたとする(ステップS170でNOの場合)。この場合、電極数19個から16個の場合についてはステップS110~S170の処理の対象とはなっていないことから、電極数が19個から16個のいずれかのときに最小電極数になる可能性もある。
【0023】
そこで、削除する電極数であるMの値が2以上の複数の場合で、ステップS170でNOとなった場合には、ステップS170でNOとなった際の電極数を基準に電極数を増加させたうえで、ステップS110~S170を繰り返してもよい。具体的には、15個の電極数としたときにステップS170でNOとなった場合、15個の電極数を基準として、電極数を2個増加させたうえで、つまり、電極数を17個としてステップS110~S170を繰り返す。17個の電極数としたときにステップS170でNOとなった場合には、17個の電極数を基準として、電極数を1個又は2個増加させたうえで、ステップS110~S170を繰り返す。他方、削除する電極数であるMの値が2以上の複数の場合で、ステップS170でYESとなった場合には、ステップS170でYESとなった際の電極数を基準に電極数を減少させたうえで、ステップS110~S170を繰り返してもよい。具体的には、17個の電極数としたときにステップS170でYESとなった場合には、ステップS170でYESとなった際の電極数(17個)を基準に電極数を減少したうえで、すなわち、電極数を16個としてステップS110~S170を繰り返してもよい。電極数を16個としてステップS170でNOとなった場合は、17個の電極数が最小電極数となる。このようにステップS170でYES/NOとなった際の電極数を基準として、電極数を減少/増加してステップS110~S170を繰り返すことにより、20個から15個の間で最適な電極数(最小電極数)を求めることが可能となる。また、削除する電極数であるMの値が2以上の複数の場合で、ステップS170でNOとなった場合には、1つ前の電極数(ステップS170で最後にYESとなった際の電極数)を基準として、電極数を1個削除したうえで、ステップS110~S170を繰り返してもよい。最小電極数の求め方は、これらに限定されるものではなく、適宜に設定可能である。
【0024】
図11は、25個の電極を5行5列に平面に整列配置した電極アレイから5個ずつ電極数を削減したときの教師データの画像に最も適合する画像に対応する電極アレイとその信号マップと解析画像とを教師データの画像と共に示す説明図である。解析画像から解るように、興奮波の有無の検出であれば電極数は5個でもよいと考えられるが、旋回興奮波の旋回中心の位置を特定するためには電極数は10個以上必要であると考えられる。
【0025】
以上説明した実施形態の生体組織の電極配置推定方法では、まず、興奮波を検出するのに十分な数の電極を平面に整列配置した初期電極アレイを生体組織に取り付けたときに初期電極アレイの各電極により得られる検出信号を取得する。次に、初期電極アレイを第1電極アレイとすると共に、第1電極アレイからランダムにM個の電極を取り除いたN個の第2電極アレイの各電極により得られる検出信号に基づいて得られるN個の信号マップをN個の入力データ(N個の訓練データ)とすると共に初期電極アレイを用いて各電極の検出信号を得る際の興奮波の画像を教師データとして入力データと興奮波の画像との関係を学習済モデルとして取得する。そして、N個の入力データをN個のテストデータとして学習済モデルに適用してN個の解析画像を作成し、このN個の解析画像のうち教師データの画像に最も適合する解析画像の第2電極アレイを選択電極アレイとして選択する。そして、選択した選択電極アレイを第1電極アレイとして学習済モデルを取得する処理と選択電極アレイと選択する処理とを繰り返し、解析画像が教師データの画像に対して許容範囲となる最小電極数の選択電極アレイを最適電極アレイとして選択する。この最適電極アレイの電極数と電極配置が生体組織の興奮波を検出するためのものとしてより適正なものとなる。これにより、生体組織の興奮波を検出する電極のより適正な配置を推定することができる。また、電極アレイにおける電極間では検出信号を用いて最近傍法により補間信号を調整したので、入力データに電極間の信号を含めることができ、より適正な学習済モデルを得ることができる。
【0026】
実施形態の生体組織の電極配置推定方法では、選択した選択電極アレイを第1電極アレイとして学習済モデルを取得する処理と選択電極アレイと選択する処理とを繰り返し、解析画像が教師データの画像に対して許容範囲となる最小電極数の選択電極アレイを最適電極アレイとして選択するものとした。しかし、初期電極アレイを第1電極アレイとして学習済モデルを取得し、これに基づいて選択した選択電極アレイを最適電極アレイとして選択するものとしてもよい。即ち、繰り返し処理を実行しないものとしてもよい。
【0027】
実施形態の生体組織の電極配置推定方法では、電極アレイにおける電極間では検出信号を用いて最近傍法により補間信号を調整したが、電極間では補間しないものとしても構わない。
【0028】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、生体組織の電極配置推定方法の製造産業などに利用可能である。