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特許7458802カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維を製造する方法、及びカルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維を製造する方法、及びカルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/20 20060101AFI20240325BHJP
   C08B 15/04 20060101ALI20240325BHJP
   D21C 9/00 20060101ALI20240325BHJP
   D21C 5/02 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
D21H11/20
C08B15/04
D21C9/00
D21C5/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020015469
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021123807
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】小西 孝義
(72)【発明者】
【氏名】坂東 健司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】栗田 範朋
(72)【発明者】
【氏名】市浦 英明
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108178802(CN,A)
【文献】国際公開第2019/003655(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/176102(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111206449(CN,A)
【文献】特開2020-109224(JP,A)
【文献】国際公開第2012/115115(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B1/00-37/18
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維を製造する方法であって、
木材パルプ繊維を浸漬している、6.5以下のpHを有する処理液に、オゾン含有ガスを、前記オゾン含有ガス中のオゾン濃度及び処理時間の積であるCT値が6,000ppm・分超となるように供給して、前記木材パルプ繊維からカルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維を形成する繊維形成ステップ、
を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記処理液が、酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸が、クエン酸である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記処理液が、前記クエン酸を、3.0~10.0質量%の濃度で含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記繊維形成ステップの開始から60分後において、前記カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維の重合度:DP60及びカルボキシル基量:C60(mmol/g)の積により表される重合度・カルボキシル基量指数:I60が、
58≦I60
の要件を満たす、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記繊維形成ステップの開始から120分後において、前記カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維の重合度:DP120及びカルボキシル基量:C120(mmol/g)の積により表される重合度・カルボキシル基量指数:I120が、
46≦I120
の要件を満たす、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維が、8.0質量%未満のヘミセルロース含有率を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維が、0.10質量%以下のリグニン含有率を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記木材パルプ繊維が、使用済の衛生用品に由来する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記使用済の衛生用品が、高吸水性ポリマーをさらに含んでおり、前記木材パルプ繊維が、前記高吸水性ポリマーを含んでいる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記繊維形成ステップの前に、前記高吸水性ポリマーを不活化する不活化ステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記不活化ステップにおいて、酸を添加することにより前記高吸水性ポリマーを不活化する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記繊維形成ステップにおいて、前記オゾン含有ガスを用いて前記高吸水性ポリマーを分解し、前記処理液に可溶化させる、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維を製造する方法、及びカルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプ繊維から、セルロースナノファイバー(以下、「CNF」と省略する場合がある)化用のパルプ繊維、及びCNFを製造する検討が行われている。
例えば、特許文献1には、加水分解処理した後にクラフト蒸解を行なうことにより得られるパルプを準備する工程(A)、該パルプを(1)N-オキシル化合物(例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル,TEMPO)、及び、(2)臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化して酸化セルロースを調製する工程(B)、及び、該酸化セルロースを解繊及び分散してセルロースナノファイバーを製造する工程(C)を含むセルロースナノファイバーの製造方法が開示されている。特許文献1によると、当該製造方法は、高濃度であっても低い粘度を有し、流動性に優れたセルロースナノファイバー分散液を提供することができるとされている。
【0003】
また、特許文献2には、セルロース原料を化学変性して得た化学変性パルプと液体媒体との混合物を、20~80℃で乾燥させる工程を含む、化学変性パルプ乾燥固形物の製造方法が記載されている。特許文献2によると、上記化学変性パルプ乾燥固形物は、分散性に優れるCNFを製造することができるとされている。
【0004】
特許文献2の段落[0016]には、セルロース原料のカルボキシル化方法の一例として、N-オキシル化合物(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル,TEMPO)を用いた方法が記載されている。
また、特許文献2の段落[0024]には、セルロース原料のカルボキシル化方法の「その他の例」として、オゾン濃度50~250g/m3で、1~360分処理することが記載されている。
【0005】
また、特許文献2の段落[0021]には、上記その他の例において、セルロースの酸化を効率よく進行させるために、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持すべきことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/047218号
【文献】特開2018-95761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、TEMPOを用いてCNFを製造すると、形成されるCNFの重合度及び粘度が高くなり、CNFの取扱い性に劣ることから、CNFの粘度を下げるために追加の工程を必要とする。従って、特許文献1に記載の方法は、取扱い性に優れるCNFを製造することができるものの、その工程が煩雑であり、改良の余地がある。
また、特許文献1において、セルロース原料をカルボキシル化するためにTEMPOを用いた場合には、製造されるCNFにTEMPOが残存する可能性があり、安全上、心理上の観点から懸念がある。
【0008】
本願発明者が、特許文献2の「その他の例」を追試したところ、セルロース原料にカルボキシル基が導入されるに伴って、セルロース原料の重合度(分子量)が大きく低下し、形成されるカルボキシル化CNFが、取扱い性には優れるものの、物性に懸念を有する可能性があることが分かった。
従って、本開示は、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化セルロースナノファイバーを形成可能な、カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示者らは、カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維を製造する方法であって、木材パルプ繊維を浸漬している、6.5以下のpHを有する処理液に、オゾン含有ガスを、上記オゾン含有ガス中のオゾン濃度及び処理時間の積であるCT値が6,000ppm・分超となるように供給して、上記木材パルプ繊維からカルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維を形成する繊維形成ステップを含むことを特徴とする方法を見出した。
【発明の効果】
【0010】
本開示の方法は、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化セルロースナノファイバーを形成可能なカルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例を説明するための図である。
図2図2は、実施例を説明するための図である。
図3図3は、実施例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
具体的には、本開示は以下の態様に関する。
[態様1]
カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維を製造する方法であって、
木材パルプ繊維を浸漬している、6.5以下のpHを有する処理液に、オゾン含有ガスを、上記オゾン含有ガス中のオゾン濃度及び処理時間の積であるCT値が6,000ppm・分超となるように供給して、上記木材パルプ繊維からカルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維を形成する繊維形成ステップ、
を含むことを特徴とする、上記方法。
【0013】
上記方法では、繊維形成ステップにおいて、所定のpHを有する処理液中で、所定のオゾン条件の下、木材パルプ繊維からカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を形成するので、木材パルプ繊維を構成するセルロースの重合度の低下を抑制しつつ、セルロースの6位の-CH2OH基をカルボキシル基に酸化することができる。従って、上記方法では、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化CNFを形成可能なカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を製造することができる。
【0014】
[態様2]
上記処理液が、酸を含む、態様1に記載の方法。
上記方法では、処理液が酸を含むため、処理液のpHを所定の範囲に保持しやすく、上記方法は、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化CNFを形成可能なカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を製造することができる。
【0015】
[態様3]
上記酸が、クエン酸である、態様2に記載の方法。
上記方法では、上記酸がクエン酸であるため、処理液のpHを所定の範囲に保持しやすく、上記方法は、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化CNFを形成可能なカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を製造することができる。
【0016】
[態様4]
上記処理液が、上記クエン酸を、3.0~10.0質量%の濃度で含む、態様3に記載の方法。
【0017】
上記方法では、処理液がクエン酸を所定の濃度で含むため、処理液のpHを所定の範囲に保持しやすく、上記方法は、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化CNFを形成可能なカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を製造することができる。
【0018】
[態様5]
上記繊維形成ステップの開始から60分後において、上記カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維の重合度:DP60及びカルボキシル基量:C60(mmol/g)の積により表される重合度・カルボキシル基量指数:I60が、
58≦I60
の要件を満たす、態様1~4のいずれか一項に記載の方法。
【0019】
上記方法では、繊維形成ステップの開始から60分後において、重合度・カルボキシル基量指数:I60が所定の値を有する、すなわち、所定の重合度と、カルボキシル基量とを有する。従って、上記方法は、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化CNFを形成可能なカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を製造することができる。
【0020】
[態様6]
上記繊維形成ステップの開始から120分後において、上記カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維の重合度:DP120及びカルボキシル基量:C120(mmol/g)の積により表される重合度・カルボキシル基量指数:I120が、
46≦I120
の要件を満たす、態様1~5のいずれか一項に記載の方法。
【0021】
上記方法では、繊維形成ステップの開始から120分後において、重合度・カルボキシル基量指数:I120が所定の値を有する、すなわち、所定の重合度と、カルボキシル基量とを有する。従って、上記方法は、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化CNFを形成可能なカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を製造することができる。
【0022】
[態様7]
上記カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維が、8.0質量%未満のヘミセルロース含有率を有する、態様1~6のいずれか一項に記載の方法。
【0023】
木材パルプ繊維、例えば、針葉樹パルプ繊維には、約50~約60質量%のセルロースに加え、約10~約25質量%のヘミセルロースが含まれていることが知られている。ヘミセルロースは、植物の細胞壁に多く含まれている。針葉樹パルプ繊維を、例えば、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維として用いる場合には、針葉樹パルプ繊維中に存在するヘミセルロースが、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維に残存し、残存するヘミセルロースが、カルボキシル化CNFの機能を阻害する場合がある。
【0024】
上記方法では、上記カルボキシル化CNF化用パルプ繊維が所定のヘミセルロース含有率を有することから、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維から、カルボキシル化CNFを製造しやすくなる。
【0025】
[態様8]
上記カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維が、0.10質量%以下のリグニン含有率を有する、態様1~7のいずれか一項に記載の方法。
【0026】
木材パルプ繊維、例えば、針葉樹パルプ繊維には、約20~約30質量%のリグニンが含まれていることが知られている。針葉樹パルプ繊維を、例えば、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維として用いる場合には、針葉樹パルプ繊維中に存在するリグニンが、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維に残存し、残存するリグニンが、カルボキシル化CNFの機能を阻害する場合がある。
【0027】
上記方法では、上記カルボキシル化CNF化用パルプ繊維が所定のリグニン含有率を有することから、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維から、カルボキシル化CNFを製造しやすくなる。
【0028】
[態様9]
上記木材パルプ繊維が、使用済の衛生用品に由来する、態様1~8のいずれか一項に記載の方法。
【0029】
上記方法では、上記木材パルプ繊維が、使用済の衛生用品に由来することから、繊維形成ステップにおいて、オゾン含有ガスが、使用済の衛生用品に含まれるパルプ繊維を、洗浄、殺菌、漂白等しつつ、そして上記処理液が高吸水性ポリマーを含む場合には、高吸水性ポリマーを分解しつつ、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維を製造することができる。
【0030】
[態様10]
上記使用済の衛生用品が、高吸水性ポリマーをさらに含んでおり、上記木材パルプ繊維が、上記高吸水性ポリマーを含んでいる、態様9に記載の方法。
【0031】
上記方法では、上記木材パルプ繊維が、上記高吸水性ポリマーを含んでいることから、繊維形成ステップにおいて、オゾン含有ガスが、高吸水性ポリマーを分解しつつ、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維を製造することができる。
【0032】
[態様11]
上記繊維形成ステップの前に、上記高吸水性ポリマーを不活化する不活化ステップをさらに含む、態様10に記載の方法。
【0033】
使用済の衛生用品においては、木材パルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む吸収体等において、(i)高吸水性ポリマーが体液等の液体を吸収するにつれて肥大化し、木材パルプ繊維を巻き込む、(ii)肥大化した高吸水性ポリマー同士が、木材パルプ繊維を巻き込みつつゲルブロッキングを生じさせる等により、複数の高吸水性ポリマーと、複数の木材パルプ繊維とが、連結構造体を形成する場合が多い。
【0034】
上記方法では、繊維形成ステップの前に所定の不活化ステップを含むことから、繊維形成ステップの前に、高吸水性ポリマーが保持している排泄物等の液体をあらかじめ排出させるとともに、高吸水性ポリマーと、木材パルプ繊維とが連結構造体を形成している場合であっても、オゾン含有ガス中のオゾンが、連結構造体を構成する高吸水性ポリマーを除去することができるとともに、オゾン含有ガス中のオゾンが、連結構造体を構成するパルプ繊維に作用し、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維を製造することができる。
【0035】
[態様12]
上記不活化ステップにおいて、酸を添加することにより上記高吸水性ポリマーを不活化する、態様11に記載の方法。
【0036】
上記方法では、不活化ステップにおいて、酸を添加することにより上記高吸水性ポリマーを不活化するので、次の繊維形成ステップにおいて、処理液のpHを所定の範囲に調整しやすくなる。
【0037】
[態様13]
上記繊維形成ステップにおいて、上記オゾン含有ガスを用いて上記高吸水性ポリマーを分解し、上記処理液に可溶化させる、態様10~12のいずれか一項に記載の方法。
【0038】
上記方法では、繊維形成ステップにおいて、上記オゾン含有ガスを用いて高吸水性ポリマーを分解し、上記処理液に可溶化させるので、不純物の少ないカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を製造することができる。
【0039】
[態様14]
木材パルプ繊維から形成されたカルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維であって、
上記カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維の重合度:DP及びカルボキシル基量:C(mmol/g)の積により表される重合度・カルボキシル基量指数:Iが、
46≦I
の要件を満たす、
ことを特徴とする、上記カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維。
【0040】
上記カルボキシル化CNF化用パルプ繊維は、重合度・カルボキシル基量指数:I120が所定の値を有する。従って、上記カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維は、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化CNFを形成することができる。
【0041】
[態様15]
カルボキシル基量:C(mmol/g)が、0.11~0.60mmol/gの範囲にある、態様14に記載のカルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維。
上記カルボキシル化CNF化用パルプ繊維は、所定のカルボキシル基量を有するので、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化CNFを形成することができる。
【0042】
[態様16]
ニトロキシラジカル種、その酸化物及びその還元物を含まない、態様14又は15に記載のカルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維。
上記カルボキシル化CNF化用パルプ繊維は、ニトロキシラジカル種、例えば、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル)、その酸化物及びその還元物を含まないので、安全性の観点から好ましい。
【0043】
本開示のカルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維を製造する方法、及びカルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維について、以下、詳細に説明する。
本開示のカルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維を製造する方法は、以下のステップを含む。
・木材パルプ繊維を浸漬している、6.5以下のpHを有する処理液に、オゾン含有ガスを、上記オゾン含有ガス中のオゾン濃度及び処理時間の積であるCT値が6,000ppm・分超となるように供給して、上記木材パルプ繊維からカルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維を形成する繊維形成ステップ(以下、単に「繊維形成ステップ」と称する場合がある)
【0044】
なお、以下、「カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維」を『カルボキシル化CNF化用パルプ繊維』と称する場合があり、「カルボキシル化セルロースナノファイバー化用パルプ繊維を製造する方法」を、『カルボキシル化CNF化用パルプ繊維の製造方法』、『本開示の製造方法』等と称する場合がある。
【0045】
上記木材パルプ繊維が高吸水性ポリマーを含む場合には、本開示のカルボキシル化CNF化用パルプ繊維の製造方法は、上記繊維形成ステップの前に、以下の工程をさらに含むことができる。
・上記高吸水性ポリマーを不活化する不活化ステップ(以下、単に「不活化ステップ」と称する場合がある)
【0046】
[繊維形成ステップ]
繊維形成ステップでは、木材パルプ繊維を浸漬している、6.5以下のpHを有する処理液に、オゾン含有ガスを供給する。
上記木材パルプ繊維としては、特に制限されず、例えば、針葉樹パルプ繊維、広葉樹パルプ繊維が挙げられる。
なお、上記木材パルプ繊維は、バージンパルプ繊維、リサイクルパルプ繊維、使用済の衛生用品に由来するパルプ繊維であってもよい。
【0047】
上記処理液は、6.5以下のpHを有し、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下、そしてさらに好ましくは2.5以下のpHを有する。それにより、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化CNFを形成可能なカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を製造しやすくなる。
なお、上記pHは、20℃におけるpHを意味する。
【0048】
上記処理液は、酸を含むことにより、上記pHを達成することが好ましい。上記酸としては、例えば、有機酸及び無機酸が挙げられる。
上記有機酸としては、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸、アスコルビン酸等が挙げられる。
上記無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸が挙げられ、塩素を含まないこと、コスト等の観点から硫酸が好ましい。
【0049】
後述のように、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維、並びにカルボキシル化CNFにおいて、カルボキシル基が中和されていない状態を採ることが好ましく、そのためには、上記酸が、カルボキシル基(セルロースの6位のカルボキシル基)の酸解離定数(pKa,水中)よりも小さい酸解離定数(pKa,水中)を有する酸であることが好ましい。
【0050】
なお、上記酸が複数の酸基を有する場合、例えば、上記酸が二塩基酸又は三塩基酸である場合には、上記酸の酸解離定数(pKa,水中)のうち最も大きな酸解離定数(pKa,水中)が、カルボキシル基(セルロースの6位のカルボキシル基)の酸解離定数(pKa,水中)よりも小さいことが好ましい。上記酸の効率の観点からである。
【0051】
本明細書では、酸解離定数(pka,水中)は、電気化学会編集の電気化学便覧に記載の値を採用することができる。
電気化学便覧によると、主要な化合物の酸解離定数(pka,水中,25℃)は、以下の通りである。
[有機酸]
・酒石酸:2.99(pKa1),4.44(pKa2
・リンゴ酸:3.24(pKa1),4.71(pKa2
・クエン酸:2.87(pKa1),4.35(pKa2),5.69(pKa3
【0052】
電気化学便覧に記載されていない酸の酸解離定数(pka,水中)は、測定により求めることができる。酸解離定数(pka,水中)を測定することができる機器としては、例えば、Sirius社製の化合物物性評価分析システム,T3が挙げられる。
【0053】
上記処理液が、上記酸としてクエン酸を含む場合には、上記処理液は、クエン酸を、好ましくは3.0~10.0質量%、より好ましくは3.5~8.0質量%、そしてさらに好ましくは4.0~6.0質量%の濃度で含む。それにより、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化CNFを形成可能なカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を製造しやすくなる。
【0054】
上記オゾン含有ガスの気泡のサイズは、特に制限されず、例えば、小気泡(例えば、マイクロバブル又はナノバブル)として、上記処理液に供給される。
オゾン含有ガスを、所定のpHを有する処理液に供給することにより、オゾンが、セルロースの6位の-CH2OH基をカルボキシル基に酸化するとともに、カルボキシル化CNFの重合度を所定の範囲に低下させることができる。
【0055】
オゾン含有ガスは、上記処理液に、上記オゾン含有ガス中のオゾン濃度及び処理時間の積であるCT値が6,000ppm・分超となるように、好ましくは8,000ppm・分以上、より好ましくは9,000ppm・分以上、さらに好ましくは10,000ppm・分以上、そしてさらにいっそう好ましくは12,000ppm・分以上となるように供給される。また、オゾン含有ガスは、上記処理液に、上記オゾン含有ガス中のオゾン濃度及び処理時間の積であるCT値が、好ましくは40,000ppm・分以下、より好ましくは30,000ppm・分以下、そしてさらに好ましくは24,000ppm・分以下となるように供給される。それにより、重合度及びカルボキシル基量が所定の範囲にあるカルボキシル化CNF化用パルプ繊維であって、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化CNFを形成可能なカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を製造しやすくなる。
【0056】
上記オゾン含有ガス中のオゾン濃度は、好ましくは40~200ppm(g/m3)、より好ましくは80~200ppm(g/m3)、そしてさらに好ましくは100~200ppm(g/m3)である。それにより、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化CNFを形成可能なカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を製造しやすくなる。
なお、オゾン含有ガス中のオゾン濃度は、例えば、紫外線吸収式のオゾン濃度計(例えば、エコデザイン株式会社製:オゾンモニタOZM-5000G)により測定することができる。
【0057】
なお、上記処理液中のオゾン濃度は、好ましくは1~50ppm(g/m3)、より好ましくは2~40ppm(g/m3)、そしてさらに好ましくは3~30ppm(g/m3)である。
【0058】
処理液中のオゾン濃度は、以下の方法で測定される。
(1)ヨウ化カリウム約0.15g及び10%のクエン酸溶液5mLを入れた100mLメスシリンダーに、オゾンが溶解した処理液を85mL入れて反応させる。
(2)反応後の処理液を、200mLの三角フラスコに移動し、三角フラスコ内にデンプン溶液を加え、紫色に着色させた後、0.01mol/Lのチオ硫酸ナトリウムで無色になるまで撹拌しながら滴定し、添加量a(mL)を記録する。
(3)以下の式を用いて、水溶液中のオゾン濃度を算出する。
処理液中のオゾン濃度(質量ppm)を以下の式:
処理液中のオゾン濃度(質量ppm)
=a(mL)×0.24×0.85(mL)
により算出する。
【0059】
上記繊維形成ステップにおいて、上記処理液の温度は、特に限定されず、例えば、室温(25℃)でもよく、そして室温(25℃)より高くてもよい。
また、上記繊維形成ステップにおいて、上記処理時間は、好ましくは30分~210分、より好ましくは45分~180分、そしてさらに好ましくは60分~120分である。それにより、重合度及びカルボキシル基量が所定の範囲にあるカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を効率よく製造しやすくなる。
【0060】
繊維形成ステップの開始からn分後における、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維の重合度をDPnとし、カルボキシル基量をCn(mmol/g)とし、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維の重合度(DPn)及びカルボキシル基量(Cn)の積により表される重合度・カルボキシル基量指数をInとした場合に、重合度・カルボキシル基量指数:Inは、以下の範囲にあることが好ましい。
【0061】
上記繊維形成ステップでは、繊維形成ステップの開始から60分後(n=60)において、重合度・カルボキシル基量指数:I60が、好ましくは58以上、より好ましくは60以上、さらに好ましくは61以上、そしてさらにいっそう好ましくは62以上である。また、上記繊維形成ステップでは、繊維形成ステップの開始から60分後において、重合度・カルボキシル基量指数:I60が、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、さらに好ましくは100以下、そしてさらにいっそう好ましくは80以下である。それにより、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化CNFを形成可能なカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を製造しやすくなる。
【0062】
上記繊維形成ステップでは、繊維形成ステップの開始から120分後において、重合度・カルボキシル基量指数:I120が、好ましくは46以上、より好ましくは49以上、さらに好ましくは52以上、そしてさらにいっそう好ましくは54以上である。また、上記繊維形成ステップでは、繊維形成ステップの開始から120分後において、重合度・カルボキシル基量指数:I120が、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、さらに好ましくは100以下、そしてさらにいっそう好ましくは80以下である。それにより、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化CNFを形成可能なカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を製造しやすくなる。
【0063】
本明細書では、繊維形成ステップの開始からn分後における、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維のカルボキシル基量:Cn(mmol/g)は、以下の通り測定される。
(1)繊維形成ステップの開始からn分後のカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を採取する。
(2)蒸留水170mLを添加した容器に、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維約0.4gを添加し、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維を分散させる。
(3)容器に、0.01M NaCl 10mLを加える。
(4)容器に、0.1M HClを添加し、pH2.8に調整する。
【0064】
(5)容器に、0.05M NaOHを、0.1mL/分~0.2mL/分の速度で、pH11になるまで添加し、容器の内容物の電気伝導度を追跡する。
(6)0.05M NaOHの添加量をX軸にプロットし、電気伝導度をY軸にプロットし、電気伝導度が一定となる点の0.05M NaOHの添加量:V(mL)を求める。
(7)カルボキシル化CNF化用パルプ繊維をろ過により回収し、その絶乾質量:m(g)を測定する。
(8)カルボキシル化CNF化用パルプ繊維のカルボキシル基量:Cn(mmol/g)を、次の式:
n(mmol/L)=(V×0.05/1000)/m
により算出する。
なお、pHは、アズワン株式会社製、pHashion(ファシオン)pHメーター,C-62を用いて測定する。また、電気伝導度は、東亜ディーケーケー株式会社製、ポータブル電気伝導度計(CM-31P型)を用いて測定する。
【0065】
また、本明細書では、繊維形成ステップの開始からn分後における、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維の重合度:DPnは、以下の通り測定される。
(1)繊維形成ステップの開始からn分後のカルボキシル化CNF化用パルプ繊維を採取する。
(2)JIS 8215:1998に規定される「セルロース希薄溶液-極限粘度数測定方法-銅エチレンジアミン法」の「6.4.1 粘度比」に従って、粘度比ηr(=η/η0)を測定する。
(3)以下の式を用いて、重合度:DPnを算出する。
比粘度:ηsp=ηr-1
固有粘度:[η]=ηsp/(100×c(1+0.28ηsp))
重合度:DPn=175×[η]
なお、上述の式は、木質科学実験マニュアル(日本木材学会編、文永堂出版、2000年)第101ページの記載に基づくものであり、cは、セルロース濃度(g/mL)を意味する。
【0066】
本開示では、繊維形成ステップにより形成されるカルボキシル化CNF化用パルプ繊維が、好ましくは8.0質量%未満、好ましくは7.0質量%以下、より好ましくは6.5質量%以下、そしてさらに好ましくは6.0質量%以下のヘミセルロース含有率を有する。それにより、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維から、カルボキシル化CNFを製造しやすくなる。なお、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維のヘミセルロース含有率の下限は、0.0質量%である。
【0067】
本開示では、繊維形成ステップにより形成されるカルボキシル化CNF化用パルプ繊維が、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下、そしてさらに好ましくは0.06質量%以下のリグニン含有率を有する。それにより、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維から、カルボキシル化CNFを製造しやすくなる。なお、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維のリグニン含有率の下限は、0.00質量%である。
【0068】
本開示では、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維は、好ましくは87.0質量%以上、より好ましくは90質量%以上、そしてさらに好ましくは93質量%以上のセルロース含有率を有する。それにより、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維から、カルボキシル化CNFを製造しやすくなる。なお、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維のセルロース含有率の上限は、100.0質量%である。
【0069】
本開示では、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維における、セルロース含有率、ヘミセルロース含有率及びリグニン含有率は、公知のデタージェント分析法に従って測定することができる。
【0070】
上述の通り、本開示の製造方法では、繊維形成ステップにおける木材パルプ繊維が、使用済の衛生用品(例えば、紙おむつ、尿取りパッド、生理用ナプキン、ベッドシート、ペットシート)に由来するものであることができる。それにより、繊維形成ステップにおいて、オゾン含有ガスにより、体液等の付着した木材パルプ繊維の殺菌、漂白、消臭等をあわせて行うことができる。
【0071】
また、上記使用済の衛生用品は、体液等の液体を保持するための高吸水性ポリマーを含むことができる。使用済の衛生用品が、例えば、その吸収体に、木材パルプ繊維と、高吸水性ポリマーとを備えている場合には、使用済の衛生用品から回収した木材パルプ繊維には、液体を吸収した高吸水性ポリマーが含まれていることが多い。
【0072】
上記高吸水性ポリマーとしては、特に制限されず、当技術分野で公知のものが含まれ、例えば、デンプン系、セルロース系、合成ポリマー系の高吸水性ポリマーが挙げられる。デンプン系又はセルロース系の高吸水性ポリマーとしては、例えば、デンプン-アクリル酸(塩)グラフト共重合体、デンプン-アクリロニトリル共重合体のケン化物、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの架橋物等が挙げられ、合成ポリマー系の高吸水性ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸塩系、ポリスルホン酸塩系、無水マレイン酸塩系、ポリアクリルアミド系、ポリビニルアルコール系、ポリエチレンオキシド系、ポリアスパラギン酸塩系、ポリグルタミン酸塩系、ポリアルギン酸塩系、デンプン系、セルロース系等の高吸水性ポリマー(SAP,Super absorbent Polymer)等が挙げられ、ポリアクリル酸塩系(特に、ポリアクリル酸ナトリウム系)の高吸水性ポリマーが好ましい。
【0073】
高吸水性ポリマーが体液等の液体を吸収するにつれて肥大化し、木材パルプ繊維を巻き込む、肥大化した高吸水性ポリマー同士が、木材パルプ繊維を巻き込みつつゲルブロッキングを生じさせる等により、複数の高吸水性ポリマーと、複数の木材パルプ繊維とが、連結構造体を形成する場合が多い。その結果、使用済の衛生用品に由来する木材パルプ繊維には、上記連結構造体として、高吸水性ポリマーが含まれるのが一般的である。
【0074】
上記繊維形成ステップでは、上記木材パルプ繊維が、高吸水性ポリマーを、例えば、上記連結構造体として含む場合であっても、オゾン含有ガスが、高吸水性ポリマーを酸化分解し、処理液に可溶化させ、除去することができる。
【0075】
上記木材パルプ繊維が高吸水性ポリマーを含んでいる場合には、本開示の製造方法は、繊維形成ステップの前に、高吸水性ポリマーを不活化する不活化ステップをさらに含むことが好ましい。
本開示の製造方法では、木材パルプ繊維が、使用済の衛生用品に由来する場合において、高吸水性ポリマーをオゾン含有ガスにて分解させるべきときには、上記繊維形成ステップは、特開2019-007119号を参考にして実施することができる。
【0076】
[不活化ステップ]
上記不活化ステップは、当技術分野で用いられているものをそのまま採用することができ、例えば、不活化剤を添加することにより、高吸水性ポリマーを不活化することができる。上記不活化剤としては、例えば、酸(例えば、無機酸及び有機酸)、石灰、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等が挙げられる。なお、上記無機酸及び有機酸としては、上述のものが挙げられる。
【0077】
上記酸は、パルプ繊維に灰分を残留させないことから、好ましい。不活化剤として酸を用いる場合、不活化のためのpHが、好ましくは2.5以下であり、そしてより好ましくは1.3~2.4である。吸水性ポリマーの不活化、設備の保護、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維の殺菌等の観点からである。
【0078】
不活化ステップにおける処理液の温度は、高吸水性ポリマーの不活化が進む限り、特に限定されない。上記温度は、室温でもよいし、室温よりも高くてもよいが、例えば、15~30℃が挙げられる。また、不活化ステップ時間は、高吸水性ポリマーが不活化され、脱水される限り、特に限定されないが、例えば、2~60分が挙げられ、好ましくは5~30分である。
【0079】
上記不活化ステップでは、不活化剤は、酸、例えば、クエン酸であることが好ましい。それにより、繊維形成ステップにおいて、pHの調整が不要となるか、又はpHの調整が簡易になるためである。
【0080】
本開示の製造方法により得られるカルボキシル化CNF化用パルプ繊維、及び本開示のカルボキシル化CNF化用パルプ繊維は、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維の重合度をDPとし、カルボキシル基量をC(mmol/g)とし、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維の重合度(DP)及びカルボキシル基量(C)の積により表される重合度・カルボキシル基量指数をIとした場合に、重合度・カルボキシル基量指数:Iが、以下の範囲にあることが好ましい。
【0081】
上記重合度・カルボキシル基量指数:Iは、好ましくは42以上、より好ましくは46以上、さらに好ましくは52以上、さらにいっそう好ましくは54以上、さらにいっそう好ましくは56以上、さらにいっそう好ましくは58以上、さらにいっそう好ましくは60以上、さらにいっそう好ましくは61以上、そしてさらにいっそう好ましくは62以上である。また、上記重合度・カルボキシル基量指数:Iは、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、さらに好ましくは100以下、さらにいっそう好ましくは80以下、そしてさらにいっそう好ましくは70以下である。それにより、上記カルボキシル化CNF化用パルプ繊維が、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化CNFを形成しやすくなる。
【0082】
本開示のカルボキシル化CNF化用パルプ繊維は、カルボキシル基量:C(mmol/g)が、好ましくは0.11~0.60mmol/g、より好ましくは0.15~0.50mmol/g、そしてさらに好ましくは0.17~0.45mmol/gの範囲にある。それにより、取扱い性と、物性とのバランスに優れるカルボキシル化CNFを形成しやすくなる。
【0083】
本開示のカルボキシル化CNF化用パルプ繊維において、カルボキシル基は、中和されていなくともよく、すなわち、-COOHの状態であってもよく、そして中和され、塩、例えば、ナトリウム塩(-COONa)、カリウム塩(-COOK)、リチウム塩(-COOLi)等を形成していてもよい。
【0084】
上記カルボキシル基は、中和されていない、すなわち、-COOHの状態であることが好ましい。それにより、例えば、カルボキシル化CNFと、樹脂とを含む繊維複合強化材料を簡易に製造することができる。カルボキシル基が中和されている場合には、樹脂との混和が難しくなる場合がある。
【0085】
本開示のカルボキシル化CNF化用パルプ繊維は、カルボキシル化CNF前駆体として有用である。例えば、本開示のカルボキシル化CNF化用パルプ繊維は、カルボキシル化CNF前駆体として保管し、必要に応じて、公知の粉砕方法、例えば、ボールミルを用いて粉砕し、カルボキシル化CNFを簡易に製造することができる。
例えば、TEMPO触媒を用いたカルボキシル化CNFの製造方法では、前駆体が存在せず、カルボキシル化CNFとして保管する必要があるが、乾燥したCNFを水等に再分散させることが難しいことはよく知られるところである。
【実施例
【0086】
以下、例を挙げて本開示を説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
[実施例1]
針葉樹パルプ繊維(バージンパルプ繊維)約600gを、処理液として脱イオン水60kgが充填された容器に浸漬し、以下の処理液中のクエン酸濃度、オゾン含有ガス中のオゾン濃度、処理時間にて、繊維形成ステップを実施し、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維を形成した。なお、オゾン含有ガスは、ナノバブルとして処理液に供給された。
【0087】
なお、処理時間0分における重合度、カルボキシル基量及び重合度・カルボキシル基量指数は、それぞれ、繊維形成ステップを実施する前の針葉樹パルプ繊維の重合度、カルボキシル基量及び重合度・カルボキシル基量指数である。
・クエン酸濃度:0質量%,3質量%,5質量%
・オゾン含有ガス中のオゾン濃度:200ppm
・処理時間:0分,60分,120分,210分
【0088】
カルボキシル化CNF化用パルプ繊維における処理時間と、カルボキシル基量との関係を、表1及び図1に示し、処理時間と、重合度との関係を、表2及び図2に示し、そして処理時間と、重合度・カルボキシル基量指数:Inとの関係を、表3及び図3に示す。
なお、クエン酸濃度0質量%,3質量%及び5質量%において、処理液のpHは、それぞれ、6.9,1.8及び1.6であった。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
表1~表3、及び図1図3より、クエン酸濃度が3質量%及び5質量%である場合には、クエン酸濃度が0質量%である場合と比較して、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維の重合度・カルボキシル基量指数:Inが高いことがわかる。これにより、クエン酸を添加した場合に、針葉樹パルプ繊維において、重合度の低下を所定の範囲に抑えつつ、セルロースの6位の-CH2OH基をカルボキシル基に効率よく酸化することができたことが分かる。
【0093】
クエン酸濃度:3質量%及び5質量%、処理時間:60分及び120分の計4種のカルボキシル化CNF化用パルプ繊維のそれぞれに水を添加し、公知の粉砕方法である、ボールミルを用いて粉砕したところ、粉砕後の溶液の粘性、乾燥後の粉砕物の性状等により、カルボシル化CNFが簡易に形成されたことを確認した。
【0094】
[実施例2]
針葉樹パルプ繊維(バージンパルプ繊維)約600gを、処理液として脱イオン水60kgが充填された容器に浸漬し、以下の処理液中のクエン酸濃度、オゾン含有ガス中のオゾン濃度、処理時間にて、繊維形成ステップを実施し、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維を形成した。なお、オゾン含有ガスは、ナノバブルとして処理液に供給された。
【0095】
なお、処理時間0分における重合度、カルボキシル基量及び重合度・カルボキシル基量指数は、それぞれ、繊維形成ステップを実施する前の針葉樹パルプ繊維の重合度、カルボキシル基量及び重合度・カルボキシル基量指数である。
・クエン酸濃度:1質量%
・オゾン含有ガス中のオゾン濃度:200ppm
・処理時間:0分,30分,210分,420分
【0096】
カルボキシル化CNF化用パルプ繊維の結晶化度を、リガク社製広角X線回折装置 RINT2500HLを用いて測定した。
測定条件、X線回折プロファイル、X線回折標準データ集は、以下の通りである。
<測定条件>
・X線源:Cu
・X線出力:50kV-250mA
・光学系:モノクロメータ付集中ビーム
・スリット:DS0.5deg+10mmH
SS0.5deg
RS0.15
・走査軸:2θ/θ連動
・走査法:連続走査
・走査範囲:5≦2θ≦70deg
・走査速度:0.5deg/min
・サンプリング:0.02deg
【0097】
<X線回折プロファイル>
・縦軸:回折強度(cps)
・横軸:回折角度(deg)
・回折条件:2dsinθ=nλ
d:格子面間隔(nm)
θ:回折角度(deg)
n:反射次数
λ:X線波長(0.15406nm)
【0098】
<X線回折標準データ集>
・ICDD:International Centre for Diffraction Data
結果を表4に示す。
【0099】
【表4】
【0100】
カルボキシル化CNF化用パルプ繊維を、バリアン製のFT-IR 3100FT-IR/600UMAにて測定したところ、処理時間の増加に伴い、カルボキシル化CNF化用パルプ繊維のカルボキシル基量が増加することが確認された。
図1
図2
図3