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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】ろ過カートリッジ及び微生物検査方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/26 20060101AFI20240325BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
C12M1/26
C12Q1/04
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020094439
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021185825
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 英之
(72)【発明者】
【氏名】石丸 真子
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-007998(JP,A)
【文献】特表2010-500036(JP,A)
【文献】特表2011-505550(JP,A)
【文献】特開2017-201969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を捕捉するフィルタを有するフィルタカップと、
前記フィルタカップの下部を覆い、底面部に少なくとも1つの貫通孔を有する第1のフィルタカップアタッチメントと、
前記第1のフィルタカップアタッチメントと接続され、前記フィルタカップの上部を覆い、前記フィルタカップの開口面から離れた位置に設置された蓋を有する第2のフィルタカップアタッチメントと、を備えることを特徴とするろ過カートリッジ。
【請求項2】
前記貫通孔は、吸引ろ過アタッチメントと連結可能であり、前記吸引ろ過アタッチメントは、吸引装置と接続可能な接続構造部を有することを特徴とする請求項1記載のろ過カートリッジ。
【請求項3】
前記吸引ろ過アタッチメントは、前記貫通孔と前記接続構造部とを連通させる流路をさらに有し、前記接続構造部は、前記流路の開通及び遮断を制御するバルブを有することを特徴とする請求項2記載のろ過カートリッジ。
【請求項4】
前記貫通孔は、遠心ろ過アタッチメントと連結可能であることを特徴とする請求項1記載のろ過カートリッジ。
【請求項5】
前記遠心ろ過アタッチメントは、前記貫通孔と連通する容器を有することを特徴とする請求項4記載のろ過カートリッジ。
【請求項6】
前記第2のフィルタカップアタッチメントの前記蓋の閉状態は、隙間が形成される第1の閉状態と、密閉状態となる第2の閉状態とを含むことを特徴とする請求項1記載のろ過カートリッジ。
【請求項7】
前記蓋は、前記フィルタカップの開口面に対して平行に移動することを特徴とする請求項1記載のろ過カートリッジ。
【請求項8】
前記蓋は、ヒンジ機構で開閉することを特徴とする請求項1記載のろ過カートリッジ。
【請求項9】
前記貫通孔は、前記フィルタの上部から下部へ液体の通過が可能なろ過ノズルであることを特徴とする請求項1記載のろ過カートリッジ。
【請求項10】
前記貫通孔の開放部は、シーリング材でシーリングされることを特徴とする請求項1記載のろ過カートリッジ。
【請求項11】
前記フィルタカップは、前記フィルタを固定する支持板を備え、
前記支持板は、前記フィルタを通過した液体を通過させる貫通孔を有することを特徴とする請求項1記載のろ過カートリッジ。
【請求項12】
使い捨てであることを特徴とする請求項1記載のろ過カートリッジ。
【請求項13】
少なくとも2重に包装されることを特徴とする請求項1記載のろ過カートリッジ。
【請求項14】
請求項1に記載のろ過カーリッジと、吸引ろ過アタッチメントとを無菌操作区域内で接続することと、
前記吸引ろ過アタッチメントを吸引装置に接続することと、
前記第2のフィルタカップアタッチメントの前記蓋を開けて前記フィルタカップに試料を添加することと、
前記蓋を閉めて、前記吸引装置を駆動して前記試料をろ過し、前記フィルタに微生物を捕捉することと、を含む微生物検査方法。
【請求項15】
前記微生物の捕捉後に、前記無菌操作区域内で前記蓋を開けて、第1の試薬を前記フィルタカップに添加した後、前記蓋を閉めて反応させることと、
前記反応後に、前記吸引装置を駆動して前記第1の試薬をろ過することと、
前記無菌操作区域内で前記蓋を開けて、第2の試薬を前記フィルタカップに添加した後、前記蓋を閉めて反応させることと、
前記無菌操作区域内で前記蓋を開けて、前記第2の試薬と前記微生物との反応液を前記フィルタカップの前記フィルタの上方から分取することと、をさらに含む請求項14記載の微生物検査方法。
【請求項16】
請求項1に記載のろ過カーリッジと、第1の遠心ろ過アタッチメントとを無菌操作区域内で接続することと、
前記第2のフィルタカップアタッチメントの前記蓋を開けて前記フィルタカップに試料を添加することと、
前記蓋を閉めて、前記第1の遠心ろ過アタッチメントが接続された前記ろ過カートリッジを無菌操作区域の周辺区域に設置された遠心機にセットして、前記試料を遠心ろ過し、前記フィルタに微生物を捕捉することと、を含む微生物検査方法。
【請求項17】
前記微生物の捕捉後に、前記無菌操作区域内で前記蓋を開けて、第1の試薬を前記フィルタカップに添加した後、前記蓋を閉めて反応させることと、
前記反応後に、前記遠心機にセットして、前記第1の試薬と前記微生物との第1の反応液を遠心ろ過によりろ過することと、
前記無菌操作区域内で、前記第1の遠心ろ過アタッチメントを取り外し、第2の遠心ろ過アタッチメントを前記ろ過カートリッジに接続することと、
前記蓋を開けて、第2の試薬を前記フィルタカップに添加した後、前記蓋を閉めて反応させることと、
前記反応後に、前記第2の遠心ろ過アタッチメントが接続された前記ろ過カートリッジを前記遠心機にセットして、前記第2の試薬と前記微生物との第2の反応液を遠心ろ過によりろ過して、前記第2の遠心ろ過アタッチメントに備えられた容器に回収することと、をさらに含む請求項16記載の微生物検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ろ過カートリッジ及び微生物検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞治療薬や遺伝子治療薬を含む近年の再生医療等製品の分野では、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)、及び、再生医療等の安全性の確保等に関する法律が施行されている。薬機法において、再生医療等製品の製造管理と品質管理の基準となる省令(GCTP省令:Good Gene, Cellular, and Tissue-based Products Manufacturing Practice)が施行され、「無菌操作等区域」と「清浄度管理区域」が環境区域として定義されている。ここで、「無菌操作等区域」とは、作業所のうち、無菌操作により取り扱う必要のある製品等の調製作業を行う場所、滅菌された容器等が作業所内の空気に触れる場所及び「無菌試験」等の無菌操作を行う場所をいう、と定義されている。具体的に、ここでの場所とは、重要区域:グレードA(安全キャビネット内、クリーンベンチ内、アイソレータ内など)、直接支援区域:グレードB、その他の支援区域:グレードC又はDと分類され、無菌試験の際には、グレードBに無菌操作員、滅菌済み材料などが所在し、グレードAにて、検査試料や試薬類の無菌的分注操作が実施される。なお、グレードC/Dは、製品汚染の影響が少ない区域として、滅菌前材料を取り扱うエリアである。
【0003】
これまで、製造施設の清浄度や製造に用いる水(製薬用水)や製品自体の無菌性を保証するための微生物検査や無菌試験において培養法が用いられている。特に、メンブレンフィルタ法(MF法)が一般的に採用されている。MF法は、採取した試料をメンブレンフィルタでろ過した後、寒天培地に試料をろ過したメンブレンフィルタに乗せて、恒温機中にて最大14日間培養し、生育した菌のコロニー数を目視で計数する方法である。しかしながら、コロニーの目視検出に至るまでに増殖の比較的早い菌においても少なくとも数日の期間を要するだけでなく、従来の培地ではコロニー形成能が低いため、培養法のみでは検出及び定量が困難な菌が存在することが、多種多様な微生物の研究の進展により明らかとなってきている。これらの課題を解決する手段として、MF法などの従来の培養法とは異なる、培養を必ずしも必要としない様々な測定原理を利用した迅速微生物検査技術に期待が寄せられている。
【0004】
迅速微生物検査法は、直接的検出法と間接的検出法に大別される。前者には固相サイトメトリー、フローサイトメトリーなどがあり、後者には免疫学的方法、核酸増幅法、生物発光、蛍光(染色)法などがある。迅速化に要求される性能において最も優先させるべき性能は、感度であるが、感度の向上は特異性の低下につながるのが常である。例えば、Adenosine triphosphate(ATP)生物発光法(以下、ATP法という)は、ホタルの発光反応を利用して、菌体内に存在するATPを光に変換して測定する方法である。ATP法では細胞1個あたりに含まれるATP分子の存在を数万個相当のフォトンとして検出できるため、細胞1個相当の光をフォトンカウンティング光計測により高感度に検出する。
【0005】
ATP法において、検体に混入した極微量(数個レベル)の菌を高感度、高精度で検出するためには、発光計測装置の性能が高感度であると同時に、環境中に存在するATPや菌、ヒトが保有している微生物、ATPを吸着した塵などのコンタミネーションによる偽発光要因を抑制しなければならない。また、一般に、検体には死菌由来のATPや遊離ATPが混在しているため、検体をそのまま発光計測に用いた場合には、正確な生菌数を見積もることが難しい。
【0006】
特許文献1には、検体中の遊離ATPを除去するために、検体液をろ過することや、アピラーゼなどのATP分解酵素を用いて微生物や死菌を予め分解することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2016/147313号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ATP法に限らず、あらゆる迅速微生物検査法において、高い感度と高い特異性を両立させるための試みがなされており、検査対象に含まれる夾雑物からの偽陽性要因の物質を排除する特別な前処理工程が付加される場合がある。そのため、複数回の試薬による反応や、ろ過、遠心などを用いた物質の分離及び洗浄などの煩雑な操作の工程が増え、環境中(浮遊、付着、ヒト由来)からのコンタミネーションが発生して偽陽性が生じ、やはり特異性が低下してしまうという課題がある。
【0009】
そこで、迅速検査法を適用する際には、しばしば、安全キャビネットやアイソレータなどの無菌操作区域に代表されるグレードAレベルのエリアに遠心機やインキュベータなどの機器を持ち込む必要性が生じてしまう。これにより、機器の持ち込みによるグレードAの環境ブレイクのリスクが高まり、グレードAの水準が保証されていることを証明するための妥当性試験(バリデーション)が必要となる。これにより、作業者は新しい技術を導入するために多大な労力を要することになり、迅速検査のメリットは理解しつつも導入を断念する場合がある。
【0010】
そのため、操作性に優れ、かつ環境からの汚染物質の侵入を抑制できる微生物検査の前処理キット、前処理用の専用反応容器若しくはカートリッジ、及び完全閉鎖系ベースの自動化が望まれている。
【0011】
そこで、本開示は、環境由来のコンタミネーションによる偽陽性を抑制し、高感度かつ高精度な微生物検査を容易に実施する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示のろ過カートリッジは、微生物を捕捉するフィルタを有するフィルタカップと、前記フィルタカップの下部を覆い、底面部に少なくとも1つの貫通孔を有する第1のフィルタカップアタッチメントと、前記第1のフィルタカップアタッチメントと接続され、前記フィルタカップの上部を覆い、前記フィルタカップの開口面から離れた位置に設置された蓋を有する第2のフィルタカップアタッチメントと、を備えることを特徴とする。
【0013】
本開示に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、本開示の態様は、要素及び多様な要素の組み合わせ及び以降の詳細な記述と添付される特許請求の範囲の様態により達成され実現される。
本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味に於いても限定するものではない。
【発明の効果】
【0014】
本開示のろ過カートリッジによれば、環境由来のコンタミネーションによる偽陽性を抑制し、高感度かつ高精度な微生物検査を容易に実施することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施形態に係るろ過カートリッジを示す概略断面図である。
図2A】第1の実施形態に係るフィルタカップの側面図である。
図2B】第1の実施形態に係るフィルタカップの底面図である。
図3A】第1の実施形態に係る第1のフィルタカップアタッチメントの構成例を示す概略断面図である。
図3B】第1の実施形態に係る第1のフィルタカップアタッチメントの他の構成例を示す概略断面図である。
図3C】第1の実施形態に係る第1のフィルタカップアタッチメントの他の構成例を示す概略断面図である。
図3D】第1の実施形態に係る第1のフィルタカップアタッチメントの他の構成例を示す概略断面図である。
図4A】第1の実施形態に係る第2のフィルタカップアタッチメントの概略正面図である。
図4B】第1の実施形態に係る第2のフィルタカップアタッチメントの概略側面図である。
図4C】第1の実施形態に係る第2のフィルタカップアタッチメントの他の構成例を示す概略正面図である。
図5】吸引ろ過アタッチメントとろ過カートリッジとを接続した状態を示す概略図である。
図6A】第1の遠心ろ過アタッチメントとろ過カートリッジとを接続した状態を示す概略図である。
図6B】第2の遠心ろ過アタッチメントとろ過カートリッジとを接続した状態を示す概略図である。
図6C】第1の遠心ろ過アタッチメントが胴体部を兼用する変形例を示す概略図である。
図6D】第2の遠心ろ過アタッチメントが胴体部を兼用する変形例を示す概略図である。
図7】バイオロジカルクリーンルームを示す概略図である。
図8】迅速微生物検査方法を示すフローチャートである。
図9】ろ過カートリッジ及び吸引ろ過アタッチメントを用いたフォトンカウンティングタイムコースを示す図である。
図10】ろ過カートリッジ及び遠心ろ過アタッチメントを用いた迅速微生物検査方法を示すフローチャートである。
図11】ろ過カートリッジ、吸引ろ過アタッチメント及び遠心ろ過アタッチメントを用いた迅速微生物検査方法を示すフローチャートである。
図12】第5の実施形態に係る微生物検査装置を示す概略図である。
図13】第6の実施形態に係る微生物検査装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態について説明する。ただし、各実施形態は本開示の技術を実現するための一例に過ぎず、本開示の技術を限定するものではない。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0017】
[第1の実施形態]
<ろ過カートリッジの全体構成例>
図1は、第1の実施形態に係る微生物検査に用いるろ過カートリッジ1を示す概略断面図である。図1に示すように、ろ過カートリッジ1は、フィルタカップ2、第1のフィルタカップアタッチメント3及び第2のフィルタカップアタッチメント4を備える。
【0018】
フィルタカップ2の底部には、細菌、真菌、古細菌などの菌(微生物)の通過を基本的には許さない孔径を有するフィルタ21が設けられている。フィルタカップ2に液体の検査試料を添加してフィルタ21を通過させることで、検査試料がろ過されてフィルタ21に菌を捕捉し、ろ液を排除することにより濃縮することができる。
【0019】
フィルタカップ2の上部には、つば22が設けられている。つば22の開口部が、フィルタカップ2への検査試料及び試薬類の導入口となる。
【0020】
第1のフィルタカップアタッチメント3は、フィルタカップ2の下部を覆い、フィルタカップ2の外壁及びフィルタ21の汚染を防止する。第1のフィルタカップアタッチメント3は、作業者の指や、作業エリア内のベンチトップ、天井、側壁やガラス窓のような表面が、フィルタカップ2に直接触れないようにするためのコンタミネーション防御カバーとして機能する。
【0021】
第1のフィルタカップアタッチメント3の底部には、ろ過ノズル31(貫通孔)が設けられている。これにより、フィルタカップ2に加えられた検査試料や試薬などの液体試料がフィルタ21を通過して、フィルタ21の上部から下部への強制的な通過が可能となる。
【0022】
第2のフィルタカップアタッチメント4は、第1のフィルタカップアタッチメント3に接続され、フィルタカップ2の上部、特につば22を覆い、蓋41がフィルタカップ2の開口面からある一定の距離だけ離れた位置に設けられている。これにより、フィルタカップ2の内部への粉塵の侵入やフィルタカップ2に作業者の手や腕が触れることを防止することができる。通常、ろ過カートリッジ1を使用する作業者は、粉塵の侵入や、作業者又は作業エリア内からのコンタミネーションのリスクを避けるために、蓋41を閉めた状態で操作し、フィルタカップ2へ検査対象の試料や検査用の試薬類を分注する作業のときには、一時的に蓋41を開けて使用する。蓋41は、フィルタカップ2の開口面に対して平行に移動可能に構成されている。
【0023】
ろ過カートリッジ1は、後述する吸引ろ過アタッチメントや遠心ろ過アタッチメントと共に、微生物検査キットとしてユーザに提供することができる。また、ろ過カートリッジ1は、使い捨てとすることができる。
【0024】
<フィルタカップの構成例>
図2Aは、フィルタカップ2の側面図である。図2Aに示すように、フィルタカップ2は、フィルタ21、つば22、容器部23及び支持板24を有する。フィルタ21は、容器部23の底部に設けられ、支持板24により支持される。
【0025】
容器部23及び支持板24は、例えばポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンなどの樹脂製とすることができ、射出成型又は機械加工などで製造することができる。フィルタ21、容器部23及び支持板24は、例えば超音波溶着を用いた接着によりこれらを固定することができる。流体的観点から、容器部23の形状は円筒形状とすることができるが、用途に応じて、角を有する四角筒状又は多角筒状とすることもできる。
【0026】
容器部23の上部には、第2のフィルタカップアタッチメント4により支持するためのつば22が設けられている。フィルタカップ2を第2のフィルタカップアタッチメント4に差し込むと、つば22がストッパとなり、予め定められた位置でフィルタカップ2が固定される。
【0027】
フィルタ21は、検査対象の微生物を捕捉可能なものであればよく、例えばメンブレンフィルタを用いることができる。フィルタ21の材質としては、例えばセルロース混合エステル、PTFE、PVDF(Polyvinylidene Floride)、ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0028】
フィルタ21の孔径は、検査対象の微生物のサイズや、微生物検査の諸条件に応じて適宜選択することができ、例えば0.20μm以上とすることができる。具体的には、フィルタ21として、孔径が0.22μmや0.45μm等のメンブレンフィルタが挙げられる。
【0029】
フィルタ21の大きさ(径)と容器部23の径とを同径とし、容器部23の内壁と、フィルタ21の側面とをいずれもストレートにすることにより、ろ過後の液残存を極力少なくすることができる。あるいは、フィルタ21の側面の形状と、容器部23の底部の形状とを同じにすることによっても、ろ過後の液残存を極力少なくすることができる。もちろん、容器部23が上部から底部に向かって細くなるテーパー状に形成されていてもよい。用途に応じて、容器部23は上部から底部に向かって太くなるテーパー状であってもよいが、吸引又は遠心によるろ過の際にフィルタ21のろ過面を通過する単位時間あたりの液体量に分布が大きく生じてしまう可能性があるため、詰まりの原因になる。さらに、用途に応じて、容器部23は途中で屈曲した構造であってもよいが、ろ過面に通過する液体量の均一性が崩れ、分布が大きく生じてしまう可能性があるため、詰まりの原因になる。
【0030】
フィルタ21の直径は、例えば数mm~47mmとすることができる。容器部23の底部の径は、フィルタ21の径と概ね同等である。容器部23の高さは、検査試料の液量に合わせて設計され、例えば、数μLから、数100mLが収容できるように設計することができる。
【0031】
ただし、フィルタ21の直径を可能な限り小さくし、微生物を捕捉する面積及び体積を小さくすることは、計測に利用する試料濃度(単位面積あたり、又は、単位リットルあたり)が高められることから、感度向上において有用である。フィルタ21の面積を小さくした場合には、フィルタカップ2の開口部にファンネルを取付けることで、大容量の検査試料をろ過することができる。
【0032】
図2Bは、フィルタカップ2の底面図である。図2Bの左図に示すように、支持板24は、十字形状に代表される、中心から放射線状に伸びる複数の支持棒で構成することができる。また、図2Bの中央の図に示すように、支持板24は、数mm~数cmレベルの貫通孔を複数個有するメッシュ構造によりフィルタ21を支持することもできる。さらに、図2Bの右図に示すように、支持板24は、フィルタ21の端部のみを支持する形状であってもよい。以上のように、支持板24は、フィルタ21を通過した液体を通過可能な貫通孔を有する。
【0033】
<第1のフィルタカップアタッチメントの構成例>
図3Aは、第1のフィルタカップアタッチメント3の構成例を示す概略断面図である。上述したように、第1のフィルタカップアタッチメント3は、フィルタカップ2の外壁及びフィルタ21の汚染を防止するアタッチメントである。第1のフィルタカップアタッチメント3は、例えばポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンなどの樹脂製とすることができ、射出成型又は機械加工などで製造することができる。
【0034】
図3Aに示すように、第1のフィルタカップアタッチメント3は、ろ過ノズル31、アタッチメント接合孔33及びフィルタカップ挿入部34が形成された胴体部32を有し、胴体部32の下面にはシーリング材35が設けられている。
【0035】
アタッチメント接合孔33及びフィルタカップ挿入部34は、フィルタカップ2の容器部23の外形に合わせたくぼみであり、これらの内部にフィルタカップ2が挿入される。フィルタカップ挿入部34は、ろ過ノズル31と連結している。フィルタカップ2と第1のフィルタカップアタッチメント3とは、例えば押し込みによる圧着により固定される。また、後述する第2のフィルタカップアタッチメント4の胴体部の一部も、第1のフィルタカップアタッチメント3内に内包される。
【0036】
作業者によるろ過カートリッジ1を用いた微生物検査の工程中に、第1のフィルタカップアタッチメント3からフィルタカップ2を取り外すことがあるため、第1のフィルタカップアタッチメント3の内径は、フィルタカップ2の容器部23の外径より大きく形成される。
【0037】
アタッチメント接合孔33に第2のフィルタカップアタッチメント4のコネクタ(後述する爪状コネクタ又は筒状コネクタ)を嵌合することにより、第1のフィルタカップアタッチメント3がフィルタカップ2と密着した状態で保持される。これにより、第1のフィルタカップアタッチメント3と第2のフィルタカップアタッチメント4内にフィルタカップ2がさらに安定して格納される。図3Aに示すアタッチメント接合孔33は、押し込みによる圧着や、筒状コネクタを備えた第2のフィルタカップアタッチメント4に適した形態である。筒状コネクタが雄ねじの場合、アタッチメント接合孔33の壁面はメスタップ形状とすることができる。
【0038】
第1のフィルタカップアタッチメント3は、後述する吸引ろ過アタッチメント、第1の遠心ろ過アタッチメント、第2の遠心ろ過アタッチメントと接続して使用される。そのため、胴体部32の底部は、吸引ろ過アタッチメント、第1の遠心ろ過アタッチメント、第2の遠心ろ過アタッチメントに設けられたくぼみに挿入される。
【0039】
ろ過ノズル31の内径は、フィルタ21を通過した物質を捕捉することなく通過させ、かつ、効率よく液体を排出するという観点から、少なくとも0.5mm以上とすることができ、可能な限り大きくすることができる。ろ過ノズル31の内径を例えば0.5mm~10mmとすることにより、吸引に用いる汎用的なチューブの内径との適合性に優れる。
【0040】
ろ過ノズル31の開放部は、作業者による使用直前までシーリング材35によりシーリングされた状態で作業者に提供され、これにより第1のフィルタカップアタッチメント3の内部が外気と接触したり、作業者や物体の表面と接触したりすることを防止する。シーリング材35は、作業者により取り外すことができる。シーリング材35は、例えば金属製又は樹脂製のテープとすることができる。
【0041】
図3Bは、第1のフィルタカップアタッチメント3の他の構成例を示す概略断面図である。図3Bに示す例においては、アタッチメント接合孔33は、爪状コネクタを備えた第2のフィルタカップアタッチメント4に適した構造となっている。
【0042】
また、図3Bに示す例においては、フィルタカップ挿入部34は、ろ過ノズル31の方向に沿って、内径が小さくなる若干のテーパー構造を有している。これにより、より容易にフィルタカップ2を第1のフィルタカップアタッチメント3から取り出すことができる。
【0043】
図3Bに示す例においては、ろ過ノズル31の形成部は、胴体部32よりも外径が小さくなっており、ろ過ノズル31の開放部は、キャップ(例えば樹脂製)の形態のシーリング材35でシーリングされている。
【0044】
図3C及び3Dは、第1のフィルタカップアタッチメント3の他の構成例を示す概略断面図である。図3Cに示す例においては、胴体部32の外周面に凹部36が設けられており、図3Dに示す例においては、胴体部32の外周面に凸部37が設けられている。これにより、例えば吸引ろ過アタッチメント、第1の遠心ろ過アタッチメント又は第2の遠心ろ過アタッチメントと、第1のフィルタカップアタッチメント3との脱着における作業者の掴みやすさが向上する。
【0045】
<第2のフィルタカップアタッチメントの構成例>
図4Aは、第2のフィルタカップアタッチメント4の概略正面図である。図4Bは、第2のフィルタカップアタッチメント4の概略側面図である。図4A及び4Bにおいて、部分的に第2のフィルタカップアタッチメント4の断面が示されている。
【0046】
図4Aに示すように、第2のフィルタカップアタッチメント4は、蓋41、胴体部42及び爪状コネクタ50を備える。胴体部42には、フィルタカップ導入孔43、つば保持部44、第1の固定部材45、蓋固定孔46、第2の固定部材47が設けられている。
【0047】
フィルタカップ導入孔43にはつば保持部44として段差が設けられ、フィルタカップ導入孔43は、つば保持部44より上段の内径よりも下段の内径が小さくなっている。フィルタカップ導入孔43から挿入されたフィルタカップ2のつば22がつば保持部44に当接してストッパとなることで、フィルタカップ2は所定の位置に保持される。フィルタカップ導入孔43の内径とフィルタカップ2の容器部23の外径がほぼ同一の場合、押し込みによって圧着固定される。フィルタカップ導入孔43の段差箇所には第1の固定部材45が挿入されており、つば22の下の容器部23の外周を密着させる。これにより、フィルタカップ2の固定性能が向上する。第1の固定部材45は、例えばOリングやシーリングテープなどである。
【0048】
蓋41を閉めるときは、蓋固定孔46に蓋41の突起部49が入りこみ、蓋固定孔46のテーパー角度が変化する場所で、一旦閉まる。この位置では、外気が流れこむ微小な隙間を有するため、セミクローズ状態(第1の閉状態)である。さらに蓋41を蓋固定孔46内に押し込むと、外気を遮断する密閉状態が形成される。これをフルクローズ状態(第2の閉状態)とする。セミクローズ状態となる蓋41の位置を「セミクローズ位置」とする。セミクローズ位置は、吸引ろ過の際に必要な空気の流れを作るのに必要な閉ポジションである。一方、フルクローズ状態となる蓋41の位置を「フルクローズ位置」とする。フルクローズ位置は、無菌操作区域から周辺区域に持ち出すときに、空中浮遊微生物の混入を防ぐために必要なポジションである。第2の固定部材47は、例えばOリングやシーリングテープなどであり、蓋41の意図しない開放を防止する。このように、蓋41は2段階の閉状態をとることができる。
【0049】
蓋41の上面に設けられたくぼみはつまみ48であり、蓋41の開閉操作のときに、作業者の指をひっかける場所である。図4Aに示すようにつまみ48は凹形状であるが、凸形状であってもよい。
【0050】
爪状コネクタ50は、胴体部42の底面から突出するように設けられている。図4Bに示すように、爪状コネクタ50は、外側に湾曲する略U字形状を有する。第2のフィルタカップアタッチメント4を上述の第1のフィルタカップアタッチメント3に接続する際に、アタッチメント接合孔33に爪状コネクタ50が挿入される。このとき、爪状コネクタ50の湾曲部がひずみ、鍵と鍵穴の関係を用いて、図3Bに示したアタッチメント接合孔33に接合される。
【0051】
図4Cは、第2のフィルタカップアタッチメント4の他の構成例を示す概略正面図である。図4Cに示す例においては、蓋41は、フィルタカップ2の開口面に対して例えば90°以上180°未満の角度で開閉するヒンジ機構52の形態であり、このような形態によっても蓋41の開閉の操作性に優れる。ヒンジ機構52の蓋41には、凸部であるつまみ53が設けられている。また、図4Cに示す例においては、胴体部42の底面に筒状コネクタ51が設けられている。筒状コネクタ51は、筒状の雄ねじとなっており、図3Aに示したアタッチメント接合孔33(メスタップ形状)にねじ止めされる。
【0052】
<第1の実施形態のまとめ>
以上のように、第1の実施形態に係るろ過カートリッジ1は、菌を捕捉するフィルタ21を底部に有するフィルタカップ2と、フィルタカップ2の下部と底面を覆い、底部に少なくとも1つのろ過ノズル31(貫通孔)を有する第1のフィルタカップアタッチメント3と、フィルタカップ2の上部を覆い、フィルタカップ2の最上面からある離れた位置に空間を設けて設置された蓋41を有する第2のフィルタカップアタッチメント4と、を備える。このような構成により、作業者の使用時や運搬時に蓋41を閉じておくことができ、かつ蓋41はフィルタカップ2の開口部に接触しないので、外部からフィルタカップ2へのコンタミネーションを防止することができる。また、作業者がフィルタカップ2に検査試料や試薬を添加する際には蓋41を開ければよいので、操作も簡便である。
【0053】
ろ過カートリッジ1の製造時に、上述の無菌操作区域のグレードAの環境下で、フィルタカップ2、第1のフィルタカップアタッチメント3及び第2のフィルタカップアタッチメント4を組み立てることができる。さらに、作業者への提供時には蓋41が密閉され、ろ過ノズル31がシーリング材35で密閉された状態であるので、ろ過カートリッジ1をグレードBなどの区域からグレードAの区域に運搬した場合にも、内部に配置されるフィルタカップ2についてはグレードAの水準を維持することができる。結果として、グレードA内に遠心機やインキュベータなどの機器を持ち込む必要がなく、機器を持ち込ことによるグレードA内の完全な無菌環境の劣化による環境ブレイクのリスクを高めることがなく、無菌的操作が容易となる。
【0054】
以上のことから、第1の実施形態に係るろ過カートリッジ1によれば、環境由来のコンタミネーションによる偽陽性を抑制し、高感度かつ高精度な微生物検査(特にMF法)を容易に実施することができる。
【0055】
[第2の実施形態]
第2の実施形態においては、ろ過カートリッジに接続される吸引ろ過アタッチメントについて説明する。
【0056】
<吸引ろ過アタッチメントの構成例>
図5は、吸引ろ過アタッチメント100とろ過カートリッジ1とを接続した状態を示す概略図である。図5において、部分的に断面が示されている。図5に示すように、吸引ろ過アタッチメント100は、支持ブロック101、開閉バルブ102及び配管コネクタ103(接続構造部)を備える。吸引ろ過アタッチメント100は、例えばポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンなどの樹脂製とすることができる。
【0057】
支持ブロック101には、第1のフィルタカップアタッチメント3が嵌合され、これを支持する。支持ブロック101の内部には流路104が設けられ、流路104の一端部は、第1のフィルタカップアタッチメント3のろ過ノズル31と接続される。流路104の他端部は、開閉バルブ102と配管コネクタ103を介して不図示の吸引装置と接続される。換言すれば、流路104は、ろ過ノズル31と配管コネクタ103とを接続する。これにより、フィルタカップ2に添加された液体試料は、ろ過カートリッジ1のフィルタ21を通過してろ過され、フィルタ21に捕捉された微生物以外の液体(ろ液)は、吸引ろ過アタッチメント100の流路104を通過して配管コネクタ103から排出される。
【0058】
[第3の実施形態]
第3の実施形態においては、ろ過カートリッジに接続される遠心ろ過アタッチメントについて説明する。
【0059】
<遠心ろ過アタッチメントの構成例>
図6Aは、第1の遠心ろ過アタッチメント200とろ過カートリッジ1とを接続した状態を示す概略図である。図6Aにおいて、部分的に断面が示されている。図6Aに示すように、第1の遠心ろ過アタッチメント200は、第1の嵌合部201及び廃液チューブ202(容器)を備える。第1の遠心ろ過アタッチメント200は、例えばポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンなどの樹脂製とすることができる。第1の嵌合部201には、第1のフィルタカップアタッチメント3の胴体部32が嵌合される。また、胴体部32が嵌合された側とは反対側において、第1の嵌合部201に廃液チューブ202が挿入されている。
【0060】
第1の遠心ろ過アタッチメント200とろ過カートリッジ1とを接続した状態で遠心機にセットし、遠心分離を行うことで、フィルタカップ2に添加された液体試料は、フィルタ21を通過してろ過され、ろ液が廃液チューブ202に回収される。
【0061】
図6Bは、第2の遠心ろ過アタッチメント300とろ過カートリッジ1とを接続した状態を示す概略図である。図6Bにおいて、部分的に断面が示されている。図6Bに示すように、第2の遠心ろ過アタッチメント300は、第2の嵌合部301及び測定チューブ302(容器)を備える。第2の嵌合部301には、ろ過カートリッジ1の胴体部32が嵌合される。また、胴体部32が嵌合された側とは反対側において、第2の嵌合部301に測定チューブ302が挿入されている。
【0062】
第2の遠心ろ過アタッチメント300とろ過カートリッジ1とを接続した状態で遠心機にセットし、遠心分離を行うことで、フィルタカップ2に添加された液体試料は、フィルタ21を通過してろ過され、ろ液が測定チューブ302に回収される。
【0063】
図6Cは、第1の遠心ろ過アタッチメント200が胴体部32を兼用する変形例を示す概略図である。図6Cに示すように、第2のフィルタカップアタッチメント4の胴体部42が第1の遠心ろ過アタッチメント200の第1の嵌合部201に接続されている。この場合、第1の嵌合部201には、胴体部42の爪状コネクタ又は筒状コネクタを接続するためのアタッチメント接合孔が設けられる。図6Cに示す状態は、例えば、作業者がろ過カートリッジ1の第1のフィルタカップアタッチメント3を取り外した後に第1の遠心ろ過アタッチメント200を接続することにより実現される。
【0064】
図6Dは、第2の遠心ろ過アタッチメント300が胴体部32を兼用する変形例を示す概略図である。図6Dに示すように、第2のフィルタカップアタッチメント4の胴体部42が第2の遠心ろ過アタッチメント300の第2の嵌合部301に接続されている。その余の点については図6Cと同様である。
【0065】
[第4の実施形態]
第4の実施形態では、上述のろ過カートリッジを用いた微生物検査方法について説明する。ここでは、本開示のろ過カートリッジを製薬用水管理に適用することとする。製薬用水の微生物管理基準は、各国の薬局方に基づいて、水に含まれる微生物量の許容量で処置基準値として管理されている。日本薬局方においては、常水は100CFU/mL、精製水は10CFU/mL、注射用水は10CFU/100mLを超えたときに、製薬用水製造ラインのメンテナンスが必要となる。米国薬局方における処置基準値は、飲料水が500CFU/mL、精製水が100CFU/mL、注射用水が10CFU/100mLであり、欧州薬局方における処置基準値は、精製水が100CFU/mL、高度精製水が10CFU/100mL、注射用水が10CFU/100mLと定められている。
【0066】
そこで、以下においては、日本薬局方の検査に準拠した製薬用水の微生物検査を行うため、常水、精製水及び注射用水の3種類を検査試料とする。常水と精製水は1mLを検査容量とし、注射用水のみ100mLとする。
【0067】
製薬用水の微生物検査において、蛍光染色法など、様々な微生物迅速試験法が適用できるが、本実施形態では、高感度ATP検査キット(Lumione(登録商標)微生物迅速検査用試薬キット(日立ハイテクソリューションズ社製))と、高感度のATP計測装置(Lumione BL-2000(日立ハイテクソリューションズ社製))とを用いたATP発光法による迅速試験法を用いることとする。高感度ATP検査キットは、活性消去液、洗浄液、発光液、抽出液、ポジティブコントロール(ATP 100amol/50μL抽出液)、測定チューブとその専用ラックを含むものである(医薬品の品質を担保する微生物迅速検査装置Lumione BL-2000、2018 vol.100 No.6)。
【0068】
<微生物検査環境>
図7は、バイオロジカルクリーンルーム70を示す概略図である。ATP発光法による迅速試験法は、バイオロジカルクリーンルーム70にて実施することができる。図7に示すように、バイオロジカルクリーンルーム70には、重要区域グレードAである安全キャビネット71と、グレードBの無菌操作区域79が設けられている。無菌操作区域79には、吸引ポンプ72(吸引装置)及びその周辺ツール(廃液トラップ73、吸引ポンプチューブ74)、インキュベータ75、遠心機76、計測装置77が設置されている。無菌操作区域79にいる作業者は、安全キャビネット71、吸引ポンプ72及びその周辺ツール(廃液トラップ73、吸引ポンプチューブ74)、インキュベータ75、遠心機76、計測装置77に任意にアクセスできる。
【0069】
ここで、グレードAとは、製品への汚染リスクを高いレベルで防ぐ必要のある作業を行う局所的な無菌操作区域のことである。一方、グレードBとは、製品への汚染リスクを比較的高いレベルで防ぐ必要のある作業を行う多目的な区域である。つまり、無菌を維持できるように収納された滅菌後の容器、原料及び中間製品の搬入、無菌操作区域に直接介入する人、器具、装置などが所在する区域である。一般的な無菌室では、グレードAの周辺環境である。
【0070】
なお、図7の配置は一例に過ぎず、実現場では、図7に図示した以外のインフラ設備が設置されており、清浄度が保たれている。バイオロジカルクリーンルーム70内の清浄と環境モニタリングは適宜行われ、例えば空中浮遊菌は、グレードAである安全キャビネット71内は、1CFU/m未満で管理され、グレードBは、10CFU/m以下で管理されている検査エリアである。
【0071】
作業者は、検査試料、ろ過カートリッジ1、吸引ろ過アタッチメント100並びに第1の遠心ろ過アタッチメント200及び第2の遠心ろ過アタッチメント300のうち少なくとも一方、検査試薬類、試料/試薬分注ツール(例えばマイクロピペット、ピペットマン)を、パスボックス78を介して、無菌操作区域79に持ち込み、安全キャビネット71内に滅菌梱包された状態で導入することができる。ろ過カートリッジ1は、少なくとも2重に包装され、安全キャビネット71に導入前に1つの包装を除去し、安全キャビネット71への導入後に残りの包装を除去することができる。ろ過カートリッジ1は、ガンマ線滅菌、EOG滅菌、オートクレーブなどの滅菌工程を経て包装されている。
【0072】
検査試薬類は、高感度ATP検査キットに含まれる活性消去液(以下、試薬Aという)、洗浄液(以下、試薬Bという)、抽出液(以下、試薬Cという)である。発光液は、計測装置77の所定の位置にセットされる。
【0073】
<ろ過カートリッジと吸引ろ過アタッチメントを用いた迅速微生物検査>
図8は、ろ過カートリッジ1及び吸引ろ過アタッチメント100(図5)を用いた迅速微生物検査の方法を示すフローチャートである。
【0074】
(ステップS11:菌の捕捉)
ステップS11において、作業者は、ろ過カートリッジ1のフィルタ21に菌を捕捉する。本ステップS11の詳細は以下の通りである。
【0075】
まず、作業者は、検査試料、ろ過カートリッジ1、吸引ろ過アタッチメント100、検査試薬類、試料/試薬分注ツールを安全キャビネット71に導入し、ろ過カートリッジ1と吸引ろ過アタッチメント100を開封し、ろ過ノズル31のシーリング材35を取り外し、ろ過カートリッジ1と吸引ろ過アタッチメント100を接続する。なお、検査試料(常水1mL、精製水1mL、注射用水100mL)のそれぞれに対し、1つのろ過カートリッジ1及び吸引ろ過アタッチメント100が用いられる。
【0076】
次に、検査試料のろ過工程の準備として、作業者は、吸引ろ過アタッチメント100に取り付けられている配管コネクタ103のみを安全キャビネット71の前面シャッターからグレードB区域に引っ張り出し、グレードB区域で、吸引ポンプチューブ74と接続し、吸引ポンプ72を駆動する。
【0077】
次に、作業者は、安全キャビネット71内で、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41を開けて、検査試料を含む容器からピペット操作により、検査試料をフィルタカップ2に注入する。作業者は、検査試料の必要量をフィルタカップ2に注入した後、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41をセミクローズ位置まで閉め、吸引ろ過アタッチメント100の開閉バルブ102を開けることで、検査試料のろ過を開始する。ろ過開始後、作業者は、透明又は半透明の吸引ポンプチューブ74を目視観察し、液体の流れが目視できなくなったところで、蓋41を開け、フィルタ21上に液体が残留していないこと確認した後、蓋41をフルクローズ位置まで閉める。残液が存在しないことから、ろ過が完了したと判断し、吸引ろ過アタッチメント100の開閉バルブ102を閉じ、吸引ろ過アタッチメント100と吸引ポンプ72の接続を遮断し、ろ過をストップする。
【0078】
ここまでの操作により、検査試料(常水1mL、精製水1mL、注射用水100mL)の液体成分は、それぞれフィルタ21を通過し、フィルタ21に菌が存在すれば、フィルタ21に濃縮されて、捕捉される。
【0079】
(ステップS12:ATP活性消去反応)
ステップS12において、作業者は、Lumione検査キットの試薬Aを用いてATPの活性消去反応を実施する。本ステップS12の詳細は以下の通りである。
【0080】
作業者は、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41を開けて、定められた添加量の試薬Aをピペット操作により添加した後、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41をフルクローズ位置まで閉める。作業者は、吸引ろ過アタッチメント100が接続されたろ過カートリッジ1を安全キャビネット71内から取り出すために、開閉バルブ102と配管コネクタ103を吸引ろ過アタッチメント100から取り外し、開閉バルブ102と配管コネクタ103は、安全キャビネット71内に保持する。作業者は、吸引ろ過アタッチメント100が接続されたろ過カートリッジ1をインキュベータ75内(グレードB区域)に導入し、40分間、37℃でインキュベートする。作業者は、40分後に、吸引ろ過アタッチメント100が接続されたろ過カートリッジ1をインキュベータ75から取り出し、アルコール洗浄した後に、安全キャビネット71に再導入し、開閉バルブ102と配管コネクタ103を接続する。作業者は、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41をセミクローズ位置まで開けてから、吸引ろ過アタッチメント100の開閉バルブ102を開け、試薬Aをろ過する。作業者は、吸引ポンプチューブ74を目視観察し、液体の流れが目視できなくなったところで、蓋41を開け、フィルタ21上に液体が残留していないこと確認する。その後、吸引ろ過アタッチメント100の開閉バルブ102を閉じ、ろ過をストップする。
【0081】
(ステップS13:洗浄)
ステップS13において、作業者は、Lumione検査キットの試薬Bを用いてフィルタ21の洗浄を実施する。本ステップS13の詳細は以下の通りである。
【0082】
作業者は、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41を開けて、定められた添加量の試薬Bをピペット操作により添加した後、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41をセミクローズ位置にして、吸引ろ過アタッチメント100の開閉バルブ102を開け、試薬Bをろ過する。作業者は、吸引ポンプチューブ74を目視観察し、液体の流れが目視できなくなったところで、蓋41を開け、フィルタ21上に液体が残留していないこと確認し、開閉バルブ102を閉じ、ろ過をストップする。
【0083】
(ステップS14:ATP抽出)
ステップS14において、作業者は、Lumione検査キットの試薬Cを用いてATPを抽出し、ATP測定試料の調製を完了させる。本ステップS14の詳細は以下の通りである。
【0084】
作業者は、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41を開けて、キットのマニュアルに定められた添加量50μLの試薬Cをピペット操作により添加した後、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41をフルクローズ位置にし、試薬Cをフィルタ21に浸漬した状態で、数~10分程度常温で保持する。その後、作業者は、蓋41を開けて、試薬Cと菌との反応後の反応液(以下、「試薬C反応液」という)をピペット操作にてフィルタ21上から全量(50μL)回収し、測定チューブに分注する。作業者は、測定チューブを専用のチューブラックにセットして、チューブラックの蓋をする。
【0085】
最後に、作業者は、チューブラックをグレードBに設置されている計測装置77に導入し、ATP測定する。
【0086】
(ATP発光計測)
計測装置77には、高感度のATP計測装置(Lumione BL-2000(日立ハイテクソリューションズ社製))を用いることとする。作業者は、高感度ATP検査キット(Lumione微生物迅速検査用試薬キット(日立ハイテクソリューションズ社製))の発光液を計測装置77にセットし、専用のチューブラックをセットして、測定をスタートさせると、計測装置77は、最大24個の測定チューブに収められた試薬C反応液を順に測定する。
【0087】
図9は、試薬C反応液が導入された測定チューブに発光液が自動分注されて得られる典型的なフォトンカウンティングタイムコースのグラフである。ATP量は、フォトンカウンティングタイムコースの一定時間の発光量を積算し、発光量の平均値をRLU(Relative Light Unit)として規格化することにより算出される。
【0088】
なお、作業者は、あらかじめ、50μLの試薬Cを測定チューブに直接分注したブランク試料を少なくとも3試料以上用意し、また、検査キットに含まれているポジティブコントロール(ATP 100amol/50μL抽出液)を測定チューブに分注した標準陽性試料を少なくとも1試料以上用意する。そして、これらを実検査試料である試薬C反応液の測定前に測定し、0amolと100amolの2点検量線を作成しておくことで、実検査試料のATP量を定量化する。このATP測定の流れは、Lumione BL-2000の計測装置で実施するマニュアルに沿って行われる標準的なものである。
【0089】
生菌1個相当のATP量を1amol以上とし、それを閾値として測定した場合、1amolを超えるATP量が検出されたときに、試料中に微生物が存在したと判断することができる。
【0090】
<ろ過カートリッジと遠心ろ過アタッチメントを用いた迅速微生物検査>
図10は、ろ過カートリッジ1と、第1の遠心ろ過アタッチメント200(図6A)及び第2の遠心ろ過アタッチメント300(図6B)を用いた迅速微生物検査の方法を示すフローチャートである。
【0091】
(ステップS21:菌の捕捉)
ステップS21において、作業者は、ろ過カートリッジ1のフィルタ21に菌を捕捉する。本ステップS21の詳細は以下の通りである。
【0092】
まず、作業者は、検査試料、ろ過カートリッジ1、第1の遠心ろ過アタッチメント200、第2の遠心ろ過アタッチメント300、検査試薬類、試料/試薬分注ツールを安全キャビネット71に導入し、微生物検査ろ過カートリッジ1と第1の遠心ろ過アタッチメント200を開封し、ろ過ノズル31のシーリング材35を取り外し、ろ過カートリッジ1と第1の遠心ろ過アタッチメント200を接続する。
【0093】
次に、作業者は、安全キャビネット71内で、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41を開けて、検査試料を含む容器からピペット操作により、検査試料をフィルタカップ2に注入する。
【0094】
作業者は、検査試料の必要量をフィルタカップ2に注入した後、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41をフルクローズ位置まで閉め、第1の遠心ろ過アタッチメント200が接続されたろ過カートリッジ1を安全キャビネット71から取り出し、遠心機76(グレードB区域)にセットし、遠心ろ過する。遠心力(×g)は、菌に損傷を加えないように、2000×g以下とすることができる。遠心をかける時間は検査試料の容量と粘性に依存するので、予め検査試料毎に全量がろ過される時間を把握しておく。本実施形態での条件は、1000×gの1分間とする。
【0095】
遠心が停止した後、作業者は、第1の遠心ろ過アタッチメント200が接続されたろ過カートリッジ1を遠心機76から取り出し、第1の遠心ろ過アタッチメント200が接続されたろ過カートリッジ1をアルコールでスプレーし、洗浄した後に、安全キャビネット71に導入する。次に、作業者は、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41を開けて、残液が無いことを確認する。ここで、液が残存していた場合、遠心機76による遠心ろ過を再度実施してもよい。
【0096】
ここまでの操作により、検査試料(常水1mL、精製水1mL、注射用水100mL)の液体成分は、それぞれフィルタ21を通過し、フィルタ21に菌が存在すれば、フィルタ21に濃縮されて、捕捉される。
【0097】
(ステップS22:ATP活性消去反応)
ステップS22において、作業者は、Lumione検査キットの試薬Aを用いてATPの活性消去反応を実施する。本ステップS22の詳細は以下の通りである。
【0098】
作業者は、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41を開けて、定められた添加量の試薬Aをピペット操作により添加した後、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41をフルクローズ位置まで閉める。次に、作業者は、第1の遠心ろ過アタッチメント200が接続されたろ過カートリッジ1をインキュベータ75内(グレードB区域)に導入し、40分間、37℃でインキュベートする。作業者は、40分後に、第1の遠心ろ過アタッチメント200が接続されたろ過カートリッジ1をインキュベータ75から取り出し、遠心機76(グレードB区域)にセットし、遠心ろ過する。遠心力(×g)は、菌に損傷を加えないように、2000×g以下とすることができる。遠心をかける時間は検査試料の成分によるフィルタ21の詰まり具合に依存するので、予め検査対象毎に試薬Aの全量がろ過される時間を把握しておく。本実施形態での条件は、1000×gの1分間とする。
【0099】
遠心が停止した後、作業者は、第1の遠心ろ過アタッチメント200が接続されたろ過カートリッジ1を遠心機76から取り出し、アルコールでスプレーし洗浄した後に、安全キャビネット71に導入する。次に、作業者は、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41を開けて残液が無いことを確認する。ここで、液が残存していた場合、蓋41をフルクローズ位置まで閉めてから、遠心機76による遠心ろ過を再度実施しても良い。
【0100】
(ステップS23:洗浄)
ステップS23において、作業者は、Lumione検査キットの試薬Bを用いてフィルタ21の洗浄を実施する。本ステップS23の詳細は以下の通りである。
【0101】
作業者は、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41を開けて、定められた添加量の試薬Bをピペット操作により添加した後、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41をフルクローズ位置まで閉める。作業者は、第1の遠心ろ過アタッチメント200が接続されたろ過カートリッジ1を安全キャビネット71から取り出し、遠心機76(グレードB区域)にセットし、遠心ろ過する。遠心力(×g)は、菌に損傷を加えないように、2000×g以下とすることができる。遠心をかける時間は検査試料の成分によるフィルタの詰まり具合に依存するので、予め検査対象毎に試薬Bの全量がろ過される時間を把握しておく。本実施形態での条件は、1000×gの1分間とする。
【0102】
遠心が停止した後、作業者は、第1の遠心ろ過アタッチメント200が接続されたろ過カートリッジ1を遠心機76から取り出し、アルコールでスプレーして洗浄した後に、安全キャビネット71に導入する。次に、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41を開けて残液が無いことを確認する。ここで、液が残存していた場合、遠心機76による遠心ろ過を再度実施しても良い。
【0103】
(ステップS24:ATP抽出及びATP発光計測)
ステップS24において、作業者は、Lumione検査キットの試薬Cを用いてATPを抽出し、ATP測定試料の調製を完了させる。本ステップS24の詳細は以下の通りである。
【0104】
作業者は、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41を開けて残液が無いことを確認した後、第2の遠心ろ過アタッチメント300を開封する。次に、作業者は、第1の遠心ろ過アタッチメント200を取り外し、第2の遠心ろ過アタッチメント300をろ過カートリッジ1に取り付ける。作業者は、蓋41を開けて、試薬Cをピペット操作によりキットのマニュアルに定められた添加量50μLを添加した後、蓋41をフルクローズ位置まで閉めて、試薬Cをフィルタ21に浸漬した状態で、数~10分程度常温で保持する。
【0105】
試薬Cによる反応後、作業者は、第2の遠心ろ過アタッチメント300が接続されたろ過カートリッジ1を安全キャビネット71内から取り出し、遠心機76(グレードB区域)にセットし、遠心ろ過する。遠心力(×g)は、菌に損傷を加えないように、2000×g以下とすることができる。遠心をかける時間は検査試料の成分によるフィルタの詰まり具合に依存するので、予め検査対象毎に試薬Cの全量(50μL)に対して、40μL以上が遠心で回収できるろ過の所要時間を把握しておく。本実施形態での条件は、1000×gの1分間とする。
【0106】
遠心が停止した後、作業者は、第2の遠心ろ過アタッチメント300が接続されたろ過カートリッジ1を遠心機76から取り出し、満遍なくアルコールでスプレーして洗浄した後に、安全キャビネット71に導入する。次に、作業者は、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41を開けて残液が無いことを確認する。ここで、液が残存していた場合、遠心機76による遠心ろ過を再度実施しても良い。フィルタ21に残液が存在していないことが確認できた後、作業者は、蓋41をフルクローズ位置まで閉め、試薬C反応液を含む測定チューブ302を第2の遠心ろ過アタッチメント300から取り出し、専用のチューブラックに入れて、チューブラックに蓋をする。
【0107】
最後に、作業者は、チューブラックをグレードBに設置されている計測装置77に導入し、ATP測定する。
【0108】
<ろ過カートリッジと吸引ろ過アタッチメントと遠心ろ過アタッチメントを用いた迅速微生物検査>
図11は、ろ過カートリッジ1、吸引ろ過アタッチメント100(図5)、第1の遠心ろ過アタッチメント200(図6A)及び第2の遠心ろ過アタッチメント300(図6B)を用いた迅速微生物検査の方法を示すフローチャートである。
【0109】
本方法は、ファンネルを用いた検査方法でもあり、大容量の検査試料をろ過するのに好適である。また、試薬A、試薬B及び試薬Cによる試薬反応において、遠心ろ過は、吸引ろ過よりも液切れが良く、キャリーオーバーが少ない。そのため、より高精度かつ高感度な検査が可能になる場合が多いという利点がある。一方で、吸引ろ過よりも、遠心ろ過の方がフィルタ21に負荷がかかるため、生菌の損傷や菌が死に至る場合も鑑みなければならない。そのため、遠心力(×g)、遠心時間、検査試料の種類、さらに検出すべき菌体へのダメージについて配慮し、遠心条件を決定する必要がある。
【0110】
(ステップS31:菌の捕捉)
ステップS31において、作業者は、ろ過カートリッジ1のフィルタ21に菌を捕捉する。本ステップS31の詳細は以下の通りである。
【0111】
まず、作業者は、検査試料、ろ過カートリッジ1、吸引ろ過アタッチメント100、第1の遠心ろ過アタッチメント200、第2の遠心ろ過アタッチメント300、ファンネル、検査試薬類、試料/試薬分注ツールを安全キャビネット71に導入し、微生物検査ろ過カートリッジ1、吸引ろ過アタッチメント100及びファンネルを開封し、ろ過ノズル31のシーリング材35を取り外し、ろ過カートリッジ1と吸引ろ過アタッチメント100を接続する。さらに、作業者は、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41を開けて、ファンネルをフィルタカップ2に挿入する。
【0112】
次に、検査試料のろ過工程の準備として、作業者は、吸引ろ過アタッチメント100に取り付けられている配管コネクタ103のみを安全キャビネット71の前面シャッターからグレードB区域に引っ張り出し、グレードB区域で、吸引ポンプチューブ74と接続し、吸引ポンプを駆動する。次に、作業者は、安全キャビネット71内で、ファンネルのキャップを開けて、検査試料を含む容器からピペット操作により、検査試料をファンネルに注入するか、又は、検査試料を含む容器からファンネルに直接注ぎ込む。検査試料を直接注ぎ込む場合は、ファンネルの目盛りを基準に、検査試料の必要量を注ぎ込むと便利である。作業者は、検査試料の必要量をファンネルに注入した後、ファンネルのキャップで差圧を作りつつ、コンタミネーションを防ぐためセミクローズ位置まで閉めて、吸引ろ過アタッチメント100の開閉バルブ102を開けることで、検査試料のろ過を開始する。ろ過開始後、作業者は、ファンネルの透明又は半透明の容器内の試料の減少していく様の目視観察と吸引ポンプチューブ74の液体の流れを目視観察する。
【0113】
検査試料が全量ろ過されたと判断したところで、ファンネルを取り外し、さらに、作業者は、第2のフィルタカップアタッチメント4の蓋41を開け、フィルタ21上に液体が残留していないこと確認した後、蓋41をフルクローズ位置まで閉める。残量が存在しないことから、ろ過が完了したと判断し、吸引ろ過アタッチメント100の開閉バルブ102を閉じ、吸引ろ過アタッチメント100と吸引ポンプ72の接続を遮断し、ろ過をストップする。
【0114】
ここまでが吸引ろ過アタッチメント100を用いた操作であり、検査試料(例えば注射用水100mL以上)の液体成分はフィルタ21を通過し、フィルタ21に菌が存在すれば、フィルタ21に濃縮されて、捕捉される。なお、次のステップS32の試薬Aの反応に移る際に、検査試料の微量液によるキャリーオーバーが起こす試薬濃度の希釈を極力避ける目的で、吸引ろ過アタッチメント100を第1の遠心ろ過アタッチメント200に交換し、遠心力を用いたろ過工程を追加することにより、検査試料の残液量を可能な限り減らしてから試薬Aを添加してもよい。
【0115】
(ステップS32:ATP活性消去反応)
ステップS32において、作業者は、Lumione検査キットの試薬Aを用いてATPの活性消去反応を実施する。本ステップS32の詳細は以下の通りである。
【0116】
作業者は、第1の遠心ろ過アタッチメント200を開封し、吸引ろ過アタッチメント100を取り外し、第1の遠心ろ過アタッチメント200をろ過カートリッジ1に取り付ける。
【0117】
その後の操作は、図10に示したステップS22と同様であるので、説明を省略する。
【0118】
(ステップS33:洗浄)
ステップS33については、図10に示したステップS23と同様であるので、説明を省略する。
【0119】
(ステップS34:ATP抽出及びATP発光計測)
ステップS34については、図10に示したステップS24と同様であるので、説明を省略する。
【0120】
<第4の実施形態のまとめ>
以上のように、ろ過カートリッジ1は容易に蓋41の開閉が可能であり、検査試料や試薬類の分注作業は、グレードA区域内で実施し、検体前処理に用いる遠心機76やインキュベータ75などの機器を用いた作業の際には、蓋41を閉じた密閉状態で、グレードAの直接支援区域グレードB、場合によっては、その他の支援区域(グレードC又はD)に持ち出すことができる。したがって、グレードA内に遠心機76やインキュベータ75などの機器を持ち込む必要がなく、機器を持ち込むことによるグレードA内の完全な無菌環境の劣化による環境ブレイクのリスクを高めることなく、無菌的操作を容易に実施することができる。
【0121】
第4の実施形態においては、ATP発光計測による微生物検査方法について説明したが、ろ過カートリッジ1を用いた微生物検査方法は、他の迅速微生物検査法(固相サイトメトリー、フローサイトメトリー、免疫学的方法、核酸増幅法、蛍光(染色)法など)にも適用することができる。
【0122】
[第5の実施形態]
第5の実施形態においては、図8の微生物検査方法を自動で実施する自動化装置を提案する。
【0123】
図12は、第5の実施形態に係る微生物検査装置500を示す概略図である。図12に示すように、微生物検査装置500は、制御装置501、ステージ502、チューブラック503、蓋開閉レバー504、ディスペンサ505、可動式バルブ廃液ポート506を備える。
【0124】
ステージ502には、吸引ろ過アタッチメント100が接続されたろ過カートリッジ1が載置される。
【0125】
チューブラック503には、試薬が収容される試薬チューブ507と、検査試料が収容される測定チューブ302とが配置される。
【0126】
蓋開閉レバー504は、アクチュエータ508及び509により三軸方向に移動可能に構成され、ろ過カートリッジ1の蓋41を開閉する。
【0127】
ディスペンサ505は、アクチュエータ510及び511により三軸方向に移動可能に構成され、測定チューブ302からろ過カートリッジ1に検査試料を分注し、試薬チューブ507からろ過カートリッジ1に試薬を分注する。
【0128】
吸引ろ過アタッチメント100の開閉バルブ102は、可動式バルブ廃液ポート506に設けられる。可動式バルブ廃液ポート506は、アクチュエータ512により水平方向に移動可能に構成され、アクチュエータ512により開閉バルブ102の開閉も制御される。
【0129】
制御装置501は、所定の指示値に基づき、アクチュエータ508~512の動作を制御する。
【0130】
微生物検査装置500は、例えば上述のグレードA区域に設置することができる。微生物検査装置500は、グレードA区域で実施すべき操作(例えば検査試料及び試薬の分注操作)のみを実施する装置とすることができるが、グレードB区域で行える操作を実施できる装置としてもよい。
【0131】
<微生物検査方法>
本実施形態に係る微生物検査方法は、図8に示した方法とほぼ同様であり、作業者による操作を、制御装置501がアクチュエータ508~512を動作させることにより実行する。
【0132】
<第5の実施形態のまとめ>
以上のように、第5の実施形態の微生物検査装置500は、ろ過カートリッジ1及び吸引ろ過アタッチメント100を用いた微生物検査を自動で実施する。これにより、作業者がマニュアルで操作する作業が削減されるので、微生物検査がより簡便になる。
【0133】
[第6の実施形態]
第6の実施形態においては、図10の微生物検査方法を自動で実施する自動化装置を提案する。
【0134】
図13は、第6の実施形態に係る微生物検査装置600を示す概略図である。図13に示すように、微生物検査装置600は、制御装置501、チューブラック503、蓋開閉レバー504、ディスペンサ505、アクチュエータ508~511については、第5の実施形態の微生物検査装置500(図12)と同様である。
【0135】
微生物検査装置600は、遠心ろ過アタッチメントラック601及びスウィングロータ602を備える。遠心ろ過アタッチメントラック601は、第1の遠心ろ過アタッチメント200(不図示)及び第2の遠心ろ過アタッチメント300を保持し、スウィングロータ602は、ろ過カートリッジ1を保持する。遠心ろ過アタッチメントラック601及びスウィングロータ602は、回転可能に構成される。遠心ろ過アタッチメントラック601は、上下動可能に構成される。スウィングロータ602は、ろ過カートリッジ1の向きを変更可能に構成される。遠心ろ過アタッチメントラック601及びスウィングロータ602の駆動は、制御装置501により制御される。
【0136】
ろ過カートリッジ1を第1の遠心ろ過アタッチメント200及び第2の遠心ろ過アタッチメント300に取り付ける際は、第2のフィルタカップアタッチメント4と、第1の嵌合部201及び第2の嵌合部301とをそれぞれ位置合わせした状態で遠心ろ過アタッチメントラック601が上昇する。
【0137】
ろ過カートリッジ1の遠心操作が必要な際には、第2の遠心ろ過アタッチメント300が取り付けられたろ過カートリッジ1の蓋をフルクローズ位置として、水平方向に向きを変えて、スウィングロータ602により回転させる。これにより、スウィングロータ602の径方向に遠心力が発生するので、ろ過カートリッジ1に添加された液体がろ過される。このように、遠心ろ過を行う際に、ろ過カートリッジ1を遠心機に移動させる必要がないので、移動に伴うコンタミネーションのリスクがなく、また、動作も簡易となる。
【0138】
<微生物検査方法>
本実施形態に係る微生物検査方法は、図10に示した方法とほぼ同様であり、作業者による操作を、制御装置501がアクチュエータ508~511、遠心ろ過アタッチメントラック601及びスウィングロータ602を動作させることにより実行する。
【0139】
<第6の実施形態のまとめ>
以上のように、第6の実施形態の微生物検査装置600は、ろ過カートリッジ1及び第2の遠心ろ過アタッチメント300を用いた微生物検査を自動で実施する。これにより、作業者がマニュアルで操作する作業が削減されるので、微生物検査がより簡便になる。
【0140】
<第5及び第6の実施形態の変形例>
なお、図示は省略しているが、第5の実施形態の構成と、第6の実施形態の構成とをいずれも備える微生物検査装置を使用して、図11に示した微生物検査方法(吸引ろ過アタッチメント100と、遠心ろ過アタッチメント200及び300とを両方用いる方法)を実施することもできる。
【0141】
[変形例]
本開示は、上述した実施形態に限定されるものでなく、様々な変形例を含んでいる。例えば、上述した実施形態は、本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備える必要はない。また、ある実施形態の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることもできる。また、各実施形態の構成の一部について、他の実施形態の構成の一部を追加、削除又は置換することもできる。
【符号の説明】
【0142】
1…ろ過カートリッジ、2…フィルタカップ、21…フィルタ、22…つば、23…容器部、24…支持板、3…第1のフィルタカップアタッチメント、31…ろ過ノズル、32…胴体部、33…アタッチメント接合孔、34…フィルタカップ挿入部、35…シーリング材、36…凹部、37…凸部、4…第2のフィルタカップアタッチメント、41…蓋、42…胴体部、43…フィルタカップ導入孔、44…つば保持部、45…第1の固定部材、46…蓋固定孔、47…第2の固定部材、48…つまみ、49…突起部、50…爪状コネクタ、51…筒状コネクタ、52…ヒンジ機構、53…つまみ、70…バイオロジカルクリーンルーム、71…安全キャビネット、72…吸引ポンプ、73…廃液トラップ、74…吸引ポンプチューブ、75…インキュベータ、76…遠心機、77…計測装置、78…パスボックス、79…無菌操作区域、100…吸引ろ過アタッチメント、101…支持ブロック、102…開閉バルブ、103…配管コネクタ、104…流路、200…第1の遠心ろ過アタッチメント、201…第1の嵌合部、202…廃液チューブ、300…第2の遠心ろ過アタッチメント、301…第2の嵌合部、302…測定チューブ、500…微生物検査装置、600…微生物検査装置。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13