(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】光触媒システム
(51)【国際特許分類】
B01J 31/28 20060101AFI20240325BHJP
B01J 23/22 20060101ALI20240325BHJP
B01J 31/38 20060101ALI20240325BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20240325BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20240325BHJP
C01C 1/04 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
B01J31/28 M
B01J23/22 M
B01J31/38 M
B01J35/39
C01B3/04 A
C01C1/04 E
(21)【出願番号】P 2022033816
(22)【出願日】2022-03-04
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】毛利 登美子
(72)【発明者】
【氏名】森川 健志
(72)【発明者】
【氏名】工藤 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 友一
(72)【発明者】
【氏名】吉野 隼矢
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-151291(JP,A)
【文献】特開2019-084527(JP,A)
【文献】特開2020-179346(JP,A)
【文献】特開2016-150889(JP,A)
【文献】特開昭56-169124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01B 3/00 - 3/58
C01C 1/00 - 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素源を含む水性媒体と、酸化反応を呈する酸化光触媒と、還元反応を呈する還元光触媒と、を備え、
前記還元光触媒は、半導体と、金属錯体と、を有し、
光照射によって前記酸化光触媒に生じた励起電子が、前記半導体に移動すると共に、光照射によって前記半導体に生じた励起電子が、前記金属錯体に移動することにより、前記水性媒体中の前記窒素源がアンモニアに還元されることを特徴とする光触媒システム。
【請求項2】
電子メディエータを含み、
前記酸化光触媒の前記励起電子は、前記電子メディエータを介して前記半導体に移動することを特徴とする請求項1に記載の光触媒システム。
【請求項3】
前記酸化光触媒は、BiVO
4を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の光触媒システム。
【請求項4】
前記半導体は、銅、ガリウム、亜鉛のうち少なくともいずれか1つの元素を含む硫化物を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光触媒システム。
【請求項5】
前記半導体は、チタン、タンタルのうち少なくともいずれか1つの元素を含む酸化物を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の光触媒システム。
【請求項6】
前記金属錯体は、コバルト、ルテニウム、銅、鉄、ニッケル、モリブデンからなる群から選択される少なくとも1つの金属を含む錯体であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の光触媒システム。
【請求項7】
前記半導体の伝導帯最下端のエネルギー準位は、前記金属錯体の最低空軌道のエネルギー準位よりも卑であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の光触媒システム。
【請求項8】
前記酸化光触媒の伝導帯最下端のエネルギー準位が、前記半導体の価電子帯上端のエネルギー準位よりも卑であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の光触媒システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒システムに関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは、窒素系の肥料、食品、医薬品等の原料、合成樹脂や繊維の製造において幅広く利用され、世界全体の需要は、現在、年間で1.7億トンを超えている。また、アンモニアは貴金属フリー(非白金)の燃料電池であるアニオン型燃料電池の燃料や炭素フリーの燃料としても大いに注目されている。
【0003】
一見、アンモニアは炭素を含まないクリーンな燃料であるように考えられる。しかし、現在の工業的なアンモニア合成は、空気中の窒素と水素を触媒存在下で、高温高圧(400~500°、100~300気圧)で反応させるハーバーボッシュ法が使用され、その水素は天然ガス由来のものである。従って、石油が枯渇する将来においては、ハーバーボッシュ法に代わるアンモニア合成の開発が求められ、国際的な問題となっている。
【0004】
一方、近年では、環境中への窒素の流出及び蓄積が、生態系への悪影響が懸念されるとして問題となっている。なお、窒素含有排水中に含まれる硝酸イオンや亜硝酸イオン等の窒素酸化物イオンは水質汚濁防止法で排出基準が定められている。
【0005】
そこで、最近では、こうした問題を解決すべく、光触媒を用いて水中の有害な窒素酸化物イオンを還元反応により低減させ、且つ化学工業等で必要不可欠な窒素源であるアンモニアを合成する試みがなされている。
【0006】
例えば、非特許文献1には、金属助触媒を担持したTiO2を用いて、窒素酸化物イオンを光還元して、アンモニア(アンモニウムイオン)を合成する技術が提案されている。また、例えば、非特許文献2には、NiをドープしたZnSを用いて、窒素酸化物イオンを光還元して、アンモニアを合成する技術が提案されている。
【0007】
しかしながら、従来の技術では、窒素酸化物イオン等の窒素源からアンモニアへの変換率は低いため、十分な量のアンモニアを生成することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-84527号公報
【文献】特開2020-179346号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】A. Kudo, et al., J. Catal., 135, 300-303(1992)
【文献】A. Kudo, et al., Chem. Lett., 8, 838-839(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、窒素源からアンモニアへの還元反応を促進させ、アンモニアの生成量を向上させることを可能とする光触媒システムを提供することである。なお、生成するアンモニアは水中に溶け込むとアンモニウムイオン(NH4+)として存在するため、アンモニウムイオンの生成量向上とアンモニアの生成量の向上とは同じ意味である。後述する実施例では、アンモニウムイオンを定量している。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態に係る光触媒システムは、窒素源を含む水性媒体と、酸化反応を呈する酸化光触媒と、還元反応を呈する還元光触媒と、を備え、前記還元光触媒は、半導体と、金属錯体と、を有し、光照射によって前記酸化光触媒に生じた励起電子が、前記半導体に移動すると共に、光照射によって前記半導体に生じた励起電子が、前記金属錯体に移動することにより、前記水性媒体中の前記窒素源がアンモニアに還元されることを特徴とする。
【0012】
また、前記光触媒システムにおいて、電子メディエータを含み、前記酸化光触媒の前記励起電子は、前記電子メディエータを介して前記半導体に移動することが好ましい。
【0013】
また、前記光触媒システムにおいて、前記酸化光触媒は、BiVO4を含むことが好ましい。
【0014】
また、前記光触媒システムにおいて、前記半導体は、銅、ガリウム、亜鉛のうち少なくともいずれか1つの元素を含む硫化物を含むことが好ましい。
【0015】
また、前記光触媒システムにおいて、前記半導体は、チタン、タンタルのうち少なくともいずれか1つの元素を含む酸化物を含むことが好ましい。
【0016】
また、前記光触媒システムにおいて、前記金属錯体は、コバルト、ルテニウム、銅、鉄、ニッケル、モリブデンからなる群から選択される少なくとも1つの金属を含む錯体であることが好ましい。
【0017】
また、前記光触媒システムにおいて、前記半導体の伝導帯最下端のエネルギー準位は、前記金属錯体の最低空軌道のエネルギー準位よりも卑であることが好ましい。
【0018】
また、前記光触媒システムにおいて、前記酸化光触媒の伝導帯最下端のエネルギー準位が、前記半導体の価電子帯上端のエネルギー準位よりも卑であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、窒素源からアンモニアへの還元反応を促進させ、アンモニアの生成量を向上させることを可能とする光触媒システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る光触媒システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る光触媒システムの構成の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0022】
[光触媒システム]
図1に、本実施形態に係る光触媒システムの構成を示す。光触媒システム1は、酸化反応を呈する酸化光触媒6と、還元反応を呈する還元光触媒7と、窒素源を含む水性媒体と、を含んで構成される。還元光触媒7は、半導体2及び金属錯体3を含む。光触媒システム1は、例えば、酸化光触媒6と、半導体2及び金属錯体3を含む還元光触媒7とを、窒素源を含む水性媒体中に添加することにより形成される。
図1では、半導体2と金属錯体3とが接合された状態を示しているが、半導体2と金属錯体3とは接合していなくてもよく、半導体2と金属錯体3が接触するように、水性媒体中にそれぞれ分散していればよい。
【0023】
本実施形態の光触媒システム1は、酸化光触媒6に光5が照射されると、水性媒体中の基質(
図1では水を例にしているが、水に限定されず、例えば、窒素源等でもよい)が酸化され、この酸化反応により得られた電子が励起されて、酸化光触媒6の伝導帯に移動する。そして、酸化光触媒6の励起電子は、還元光触媒7を構成する半導体2の価電子帯に移動する。また、半導体2に光5が照射されると、価電子帯の電子が励起されて、伝導帯に移動する。そして、半導体2の励起電子は、金属錯体3に移動して、水性媒体中の窒素源が還元され、アンモニアが生成される。
【0024】
図2に、本実施形態に係る光触媒システムの構成の他の例を示す。
図2に示す光触媒システム2において、
図1に示す光触媒システム1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。光触媒システム2は、酸化光触媒6と、還元光触媒7と、電子メディエータ8と、窒素源を含む水性媒体と、を含んで構成される。光触媒システム2は、例えば、酸化光触媒6と、還元光触媒7と、電子メディエータ8とを、窒素源を含む水性媒体中に添加することにより形成される。
【0025】
本実施形態の光触媒システム2は、酸化光触媒6に光が照射されると、前述したように、酸化反応によって得られる電子が励起されて伝導帯に移動するが、この励起電子は、電子メディエータ8を介して、還元光触媒7を構成する半導体2の価電子帯に移動する。そして、半導体2に光5が照射されると、価電子帯の電子が励起されて、伝導帯に移動し、さらに、金属錯体3に移動して、水性媒体中の窒素源が還元され、アンモニアが生成される。
【0026】
本実施形態の光触媒システムにより還元される窒素源は、硝酸イオンや亜硝酸イオン等の窒素酸化物イオン、窒素等である。また、本実施形態の光触媒システムでは、可視光においても触媒活性が得られるが、実際の使用では、紫外線も含む光や紫外線も利用し得る。本実施形態の光触媒システムでは、例えば、波長λが400nm以上の光においても触媒活性が得られるため、太陽光等の光エネルギーを効果的に利用できる。
【0027】
本実施形態の光触媒システムは、アルコールや化学物質等の電子供与剤を水性媒体中に添加してもよいが、電子供与剤を添加しなくても、常温常圧で、窒素源を還元してアンモニアを合成することが可能である。
【0028】
[酸化光触媒]
酸化光触媒6は、例えば、光の照射によって光触媒機能を発揮し、水性媒体中の基質の酸化反応を生起し、アンモニア生成に必要な電子を得る半導体化合物( 以下「酸化半導体」とも記載する)である。酸化光触媒6を構成する酸化半導体のバンドギャップは特に制限されないが、例えば、4 .0eV以下が好ましい。4 . 0 e V 以下のバンドギャップを有する半導体粒子は、波長λ が400nm以上の光を吸収して、電子と正孔を形成することができる。また、酸化半導体は、n型半導体であってもp型半導体であってもよい。
【0029】
酸化半導体として、例えば、各種金属の酸化物(金属が部分的に酸化されているものを含む)、複合酸化物(金属が部分的に酸化されているものを含む)、窒化物(金属が部分的に窒化されているものを含む)、酸窒化物(金属酸化物が部分的に窒化されているもの、金属窒化物が部分的に酸化されているものを含む)、硫化物(金属が部分的に硫化されているものを含む)、酸硫化物(金属酸化物が部分的に硫化されているもの、金属硫化物が部分的に酸化されているものを含む)、窒弗化物(金属窒化物が部分的に弗化されているもの、金属弗化物が部分的に窒化されているものを含む)、酸弗化物(金属酸化物が部分的に弗化されているもの、金属弗化物が部分的に酸化されているものを含む)、酸窒素弗化物(金属酸窒化物が部分的に弗化されているもの、金属酸弗化物が部分的に窒化されているもの、金属窒弗化物が部分的に酸化されているものを含む)、炭化物(金属が部分的に炭化されているものを含む)、炭素含有酸化物(金属が部分的に酸化されているものを含む)、リン化合物、シリサイド化合物等が挙げられる。また、酸化半導体には、窒素、硫黄、炭素、リン及び金属元素のうち少なくとも1種の元素がドープされていてもよい。
【0030】
更に具体的な酸化半導体としては、バナジウム化合物、チタン化合物、タンタル化合物、鉄化合物、亜鉛化合物、銅化合物等が挙げられる。
【0031】
バナジウム化合物としては特に制限されないが、例えば、酸化バナジウム(V2O5)、バナジン酸ビスマス(BiVO4)、Ag3VO4、AgVO3、Bi4V2O11、CuV2O6、Fe2VO4、Cu3V2O8、FeV2O4等が挙げられる。また、これら以外のBiV、AgV、CuV、CoV、MnV、NiV、FeV、CrVの酸化物であってもよい。
【0032】
チタン化合物としては特に制限はないが、例えば、TiO2、M-TiO2(元素MをドープしたTiO2を表し、元素Mとしては、N、S、F、Ni、Ru、Rh、Fe、Cu、Co等が挙げられる。)、SrTiO3、M-SrTiO3(元素MをドープしたSrTiO3を表し、元素Mとしては、Cr、Mn、Ru、Rh、Ir等が挙げられる。)、CaTiO3、Sr3Ti2O7、Sr4Ti3O7、K2La2Ti3O10、Rb2La2Ti3O10、Cs2La2Ti3O10、CsLaTi2NbO10、La2TiO5、La2Ti3O9、La2Ti2O7、Na2Ti6O13、K2Ti6O13、KTiNbO5等が挙げられる。
【0033】
タンタル化合物としては特に制限はないが、例えば、Ta2O5、N-Ta2O5(窒素ドープ酸化タンタル)、TaON、Ta3N5、CaTaO2N、SrTaO2N、BaTaO2N、LaTaO2N、Y2Ta2O5N、InTaO4、Ni-TaO4(ニッケルドープTaO4)等が挙げられる。
【0034】
鉄化合物としては特に制限はないが、例えば、Fe2O3、M-Fe2O3(元素MをドープしたFe2O3を表し、元素Mとしては、N、Zn、(N,Zn)、Cu、Ni、Ti、Si、Nb等が挙げられる。)、CaFe2O4、CuFe2O4、CuFeO2、ZnFe2O4、BiFeO3等が挙げられる。
【0035】
亜鉛化合物としては特に制限はないが、例えば、ZnS、Ni-ZnS(ニッケルドープ硫化亜鉛)、Cu-ZnS(銅ドープ硫化亜鉛)等が挙げられる。
【0036】
銅化合物としては特に制限はないが、例えばCu2O、CuO、CuBi2O4、CuI、Cu(InGa)S2、Cu(InGa)Se2、CuGaS2、CuGaSSe、CuGaSe2等が挙げられる。また、銅化合物としては、例えばCu-Zn-S系化合物、Cu-Zn-Sn-S系化合物、Cu-Sn-S系化合物、Cu-In-Ga-Se系化合物、Cu-In-Ga-S系化合物、Cu-In-Se系化合物等が挙げられる。
【0037】
また、WO3、Bi2MoO6、Nb2O5、NiO、ZnO、SnO2、ZrO2、CeO2、ZrO2/CeO2固溶体等の金属酸化物や、InP、InAs、GaP、GaAs、GaAsP、GaN、GaInAsP、GaSb、CdS、CdSe、Si、SiC、Ge、SiC、各種金属(Mo、W、Ti、Co、Ni、Fe等)のシリサイド等の半導体化合物も、酸化光触媒6を構成する酸化半導体として使用できる。
【0038】
本実施形態では、より高い光触媒活性が発現する観点から、酸化光触媒6を構成する酸化半導体が、バナジウム、タンタル、チタン、タングステン、ビスマス及び鉄からなる群から選択される少なくとも1種を含む化合物であることが好ましく、上記の群から選択される少なくとも1種を含む酸化物であることがより好ましい。好適な酸化半導体の具体的な例としては、例えば、BiVO4、TiO2、Fe2O3、Bi2WO6、Bi2MoO6、TaON、N-TiO2及びWO3等が挙げられ、特に、BiVO4が好ましい。
【0039】
酸化光触媒6は、半導体2への電子移動の点で、酸化光触媒6の伝導帯最下端のエネルギー準位が、半導体2の価電子帯上端のエネルギー準位よりも卑であることが好ましい。
【0040】
酸化光触媒6は、公知の方法により合成した半導体粒子であってもよく、市販の半導体粒子を使用してもよい。酸化光触媒6に粉砕、研磨等の処理を施して粒子径を調整してもよい。
【0041】
[半導体]
還元光触媒7を構成する半導体2は、例えば、還元光触媒7を構成する金属錯体3への電子の移動等の点で、半導体2の伝導帯最下端のエネルギー準位は、金属錯体3の最低空軌道のエネルギー準位より卑であることが好ましい。また、半導体2のバンドギャップは、例えば、3.1eV以下であることが好ましい。3.1eV以下のバンドギャップを有する半導体は、例えば、波長λが400nm以上の光を吸収して、電子と正孔を効率的に形成することができる。また、半導体2は、n型半導体であってもp型半導体であってもよい。
【0042】
半導体2としては、例えば、各種金属の硫化物(金属が部分的に硫化されているものを含む)、酸硫化物(金属酸化物が部分的に硫化されているもの、金属硫化物が部分的に酸化されているものを含む)、酸化物(金属が部分的に酸化されているものを含む)、複合酸化物(金属が部分的に酸化されているものを含む)、窒化物(金属が部分的に窒化されているものを含む)、酸窒化物(金属酸化物が部分的に窒化されているもの、金属窒化物が部分的に酸化されているものを含む)、窒弗化物(金属窒化物が部分的に弗化されているもの、金属弗化物が部分的に窒化されているものを含む)、酸弗化物(金属酸化物が部分的に弗化されているもの、金属弗化物が部分的に酸化されているものを含む)、酸窒素弗化物(金属酸窒化物が部分的に弗化されているもの、金属酸弗化物が部分的に窒化されているもの、金属窒弗化物が部分的に酸化されているものを含む)、炭化物(金属が部分的に炭化されているものを含む)、炭素含有酸化物(金属が部分的に酸化されているものを含む)、リン化合物、シリサイド化合物等が挙げられる。また、半導体2には、窒素、硫黄、炭素、リン並びに金属元素(銀、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びランタノイド等)のうち、1種又は2種以上の元素がドープされていてもよい。
【0043】
半導体2の好適な例としては、硫化物半導体が挙げられる。硫化物半導体は、銅、ガリウム、亜鉛のうちの少なくともいずれか1つの元素を含有することが好ましい。このような硫化物半導体は伝導帯最下端の電位が比較的卑電位側であることから、例えば、金属錯体への電子移動に有利である。銅、ガリウム、亜鉛のうちの少なくともいずれか1つの元素を含有する硫化物半導体としては、例えば、組成式が(CuGa)1-xZn2xS2、(AgIn)1-xZn2xS2、又は、(CuIn)1-xZn2xS2(いずれも0≦x≦1)で表される化合物が好ましい。
【0044】
硫化物半導体の製造方法は特に制限されず、公知の方法で製造すればよい。また、硫化物半導体として、市販の硫化物半導体の粒子を使用してもよい。硫化物半導体は、例えば、硫化物半導体を構成する金属の化合物を溶媒に溶解させ、その溶液に硫黄化合物を含有する溶液を投入して攪拌した後、遠心分離及び再分散を行い、上澄みを除去した上で乾燥させることによって、合成することができる。使用する金属化合物としては、用いる金属によって異なるが、例えば、金属の塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、過塩素酸塩等が挙げられる。また、複数の金属を含有する複合金属硫化物半導体を製造する場合、各金属の硫化物を使用してもよい。硫化物半導体の合成に使用する硫黄化合物としては、例えば、硫化水素、硫化ナトリウム水和物、SCl2、SBr2、SI2、チオ酢酸、チオ尿素、チオアセトアミド、チオシナミン等が挙げられる。
【0045】
また、硫化物半導体は、上記の金属化合物の溶液中で硫化水素ガスをバブリングさせた後、得られた沈殿物を洗浄及び乾燥し、次いで焼成することにより、製造してもよい。加えて、複数の金属を含有する金属硫化物の固溶体を製造する場合は、各金属硫化物を目的とする組成比で混合して得た混合物を焼成することにより、製造してもよい。製造された硫化物半導体の粒子に粉砕、研磨等の処理を施して粒子径を調整してもよい。
【0046】
また、半導体2としては、上記の硫化物半導体以外に、タンタル、チタンのうち少なくともいずれか1つの元素を含む酸化物半導体が好ましい。このような酸化物半導体は、伝導帯最下端の電位が比較的卑電位側であることから、例えば、金属錯体への電子移動に有利である。
【0047】
タンタルを含む酸化物半導体としては、例えば、Ta2O5、TaON、CaTaO2N、SrTaO2N、BaTaO2N、LaTaO2N、Y2Ta2O5N、InTaO4、LiTaO3、KTaO3、AgTaO3、RbTaO3、CSTaO3、Na2Ta2O6、K2Ta2O6、CaTa2O6、SrTa2O6、BaTa2O6、NiTa2O6、Ca2Ta2O7、Sr2Ta2O7及びLaTaO4、並びに、これらの化合物に窒素、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びランタノイドからなる群より選択される1種又は2種以上の元素がドープされた化合物(例えばN-Ta2O5、Ni-TaO4、Na‐TaO3、La-TaO7等)が挙げられる。
【0048】
チタンを含む酸化物半導体としては、例えば、TiO2、SrTiO3、BaTiO3並びに、元素MをドープしたM‐TiO2及びM‐SrTiO3、M-BaTiO3(元素Mとしては、Rh、Sb、Al、Cr、Ni、Cu、Nb、Ru、In、Ga、等が挙げられる)が挙げられる。
【0049】
硫化物半導体以外の半導体の製造方法は特に制限されず、公知の方法で製造すればよい。また、市販の半導体化合物を使用してもよい。例えば、N-Ta2O5は、酸化タンタルをアンモニアガスを含む雰囲気で加熱処理することによって生成することができる。
【0050】
(金属錯体)
還元光触媒7を構成する金属錯体3は、例えば、金属と非金属の配位子とを有し、電子を利用することにより、窒素源に対して還元活性を示す化合物あればよい。なお、前述したように、電子移動の効率の観点から、半導体の伝導帯最下端のエネルギー準位は金属錯体の最低空軌道のエネルギー準位よりも卑であることが好ましい。
【0051】
金属錯体3は、例えば、周期表の第6族から第12族のいずれかに属する金属から選ばれる少なくとも1種の金属と配位子との錯体であることが好ましい。金属錯体3を構成する金属としては、例えば、Co、Ru、Cu、Fe、Ni、Mo、Cr、W、Re、Mn、Os、Rh、Ir、Pd、Pt等が好ましく、Co、Ru、Cu、Fe、Ni、Mo等がより好ましい。このような錯体は、単核であっても2核以上の多核であってもよい。また、2種以上の金属が含まれていてもよい。
【0052】
金属錯体3における配位子としては、特に制限はなく、例えば、典型的な主配位子としては、含窒素複素環化合物、含酸素複素環化合物、含酸素化合物、含硫黄複素環化合物等が挙げられ、補助配位子としては、CO、ハロゲン、シアン、ホスフィン類等が挙げられる。補助配位子は、反応の過程で、塩基、又は水と接触して一部解離し、副配位子へ変換されてもよい。副配位子としては、例えば-CO、-CO2、-COOH、-COH、-(CO2)-、-OH、-OH2等が挙げられる。これらの配位子は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの配位子において、金属に配位する元素としては特に制限はないが、例えば、O、N、C、P、S、Si、ハロゲン等が挙げられる。このような元素は、1種が配位していても2種以上が配位していてもよい。
【0053】
主配位子となる含窒素複素環化合物としては、例えば、ピリジン、ビピリジン、ジホスホネートビピリジン、フェナントロリン、ターピリジン、クアテルピリジン、ピロール、インドール、カルバゾール、イミダゾール、ピラゾール、キノリン、イソキノリン、アクリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン及びそれらの誘導体等が挙げられる。主配位子となる含酸素複素環化合物としては、フラン、ベンゾフラン、オキサゾール、ピラン、ピロン、クマリン、ベンゾピロン及びそれらの誘導体等が挙げられる。主配位子となる含酸素化合物としては、ポリオキソメタレート及びその誘導体が挙げられる。主配位子となる含硫黄複素環化合物としては、チオフェン、チオナフテン、チアゾール及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0054】
金属錯体3の具体例としては、ビピリジン(bpy)、ターピリジン(tpy)、ターピリジンホスホニックアシッド(ptpy)、メチルターピリジン(mtpy)、ジメチルビピリジン(dmbpy)、ビス(ホスホネート)ビピリジン(dpbpy)、ビス(ホスホネートエチル)ビピリジン(dpebpy)、ビス(メチルホスホネート)ビピリジン(dmpbpy)、ビス(ジエチルメチルホスホネート)ビピリジン(dmpebpy)、ビス(ジメチルメチルホスホネート)ビピリジン(dmpmbpy)、ビス(ジエチルエチルホスホネート)ビピリジン(depebpy)、(ピロリルプロピルカーボネート)ビピリジン(pypcbpy)、ビス(カルボキシル)ビピリジン(dcbpy)、ビス(メチルカルボキシ)ビピリジン(dmcbpy)、ビス(ジメチルメチルカルボキシ)ビピリジン(dmcmbpy)等からなる群より選択される少なくとも一つを主配位子として有するRu、Co、Cu、Fe、Ni、Mo等の金属錯体が挙げられる。また、これらを重合させた金属錯体ポリマーであっても構わない。
【0055】
還元光触媒7を構成する半導体2と金属錯体3とは接合されていることが好ましい。接合方法としては特に制限はなく、例えば、吸着担持法、光析出法(光電着法、光電析法等ともいう)、沈着沈殿法、ナノ粒子担持法、物理的気相成長法(PVD法)等が挙げられる。例えば、金属錯体3に対応する金属錯体イオンを含有する溶液に半導体2を含浸させ、所定の時間(例えば6時間以上、好ましくは12時間以上)攪拌した後、洗浄及び乾燥することにより、金属錯体3が半導体2に接合(担持)された複合粒子が得られる。これらの接合方法は2種以上を併用してもよい。また、半導体2に上述の配位子を吸着させた後、金属錯体3を合成してもよい。
【0056】
半導体2と金属錯体3とは連結基によって化学的に接合(結合)していてもよい。この連結基は、化学的に結合可能な官能基であれば特に限定されず、例えば、カルボキシル基、ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、ホスホリル基、スルホン酸基、シラノール基、メルカプト基及びこれらの誘導体が挙げられる。ここで、連結基は、半導体2と連結した状態では、プロトンが脱離した構造、又は金属と酸素原子が配位している構造を有し得る。これらの連結基は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せを用いてもよい。
【0057】
連結基による半導体2と金属錯体3との接合方法は、両者が連結基を介して化学的に結合するものであれば、特に制限されない。例えば、(1)配位子に連結基を導入した金属錯体3を半導体2に吸着させる、(2)連結基を導入した配位子を半導体2に吸着させた後に直接金属錯体3を形成させる、(3)連結基を導入した半導体2に金属錯体3を結合させる等の方法が挙げられる。
【0058】
金属錯体3の含有量は、例えば、100質量部の半導体2に対して0.01質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0.03質量部以上40質量部以下がより好ましい。金属錯体3の含有量が少なすぎると、金属錯体3の触媒活性が低下する場合がある。金属錯体3の含有量が多すぎると、半導体2の光吸収を妨げ、或いは、再結合中心として作用することにより金属錯体3の触媒活性が低下する場合がある。
【0059】
[電子メディエータ]
電子メディエータ8は、酸化光触媒6と還元光触媒7の半導体2との間で電子を伝達可能な化合物であれば、特に制限されない。換言すれば、電子メディエータ8としては、水性媒体中において、酸化光触媒6から電子を受け取ることで酸化体から還元体となり、且つ、還元光触媒7の半導体2に電子を引き渡すことで還元体から酸化体に戻ることができる化合物であれば、いずれも使用できる。
【0060】
電子メディエータ8は、水性媒体中において、酸化光触媒6及び還元光触媒7の両者と接触可能な形態で存在していればよい。電子メディエータ8としては、例えば、水性媒体に溶解又は懸濁している溶液系メディエータ、酸化光触媒6又は還元光触媒7のいずれか一方と接合している固体型メディエータが挙げられる。なお、電子メディエータ8は、金属錯体3と同一であっても構わない。
【0061】
溶液系メディエータに用いられる化合物としては、水性媒体に溶解又は懸濁可能なメディエータであれば特に制限されず、例えば溶液系メディエータとして公知の鉄イオン、ヨウ素系化合物及び金属含有化合物等が挙げられる。鉄イオンとしては、例えばFe3+/Fe2+レドックス等が挙げられる。ヨウ素系化合物としては、例えば、ヨウ素酸イオン/ヨウ化物イオン(IO3-/I-)、三ヨウ化物イオン/ヨウ化物イオン(I3-/I-)等が挙げられる。金属含有化合物は、金属の錯体化合物であってもよい。金属錯体化合物に含まれる金属(中心金属) としては、例えば周期表の第6族から第13族のいずれかに属する金属であってよく、具体的にはFe、Co、Cu、Cr、Mo、W、Ru、Re、Mn、Os、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Zn等が挙げられ、Fe、Co及びCuが好ましい。
【0062】
電子メディエータ8としては、金属錯体化合物を使用してもよい。金属錯体化合物の中心金属としては、上記の周期表の第6族から第13族のいずれかに属する金属が挙げられ、コバルト、鉄及び銅からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。金属錯体化合物は、単核であっても2核以上の多核であってもよく、また、2種以上の金属が含まれていてもよい。金属錯体化合物における配位子としては、特に制限はなく、例えば上述の金属錯体3の説明において配位子として記載した各化合物が挙げられる。より具体的には、例えばCO、ハロゲン、シアン、ホスフィン、ピリジン、ビピリジン、ジホスホネートビピリジン、フェナントロリン、ターピリジン、クアテルピリジン、ピロール、インドール、カルバゾール、イミダゾール、ピラゾール、キノリン、イソキノリン、アクリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、フラン、ベンゾフラン、オキサゾール、ピラン、ピロン、クマリン、ベンゾピロン、ポリオキソメタレート、チオフェン、チオナフテン、チアゾール及びそれらの誘導体等が挙げられる。これらの配位子において、金属に配位する元素としては特に制限はなく、例えば、O 、N 、C 、P 、S 、S i 、ハロゲン等が挙げられる。このような元素は、1種が配位していても2種以上が配位していてもよい。金属錯体化合物の配位子としては、ターピリジン(tpy)、ビピリジン(bpy)及びフェナントロリン(phen)からなる群より選択される少なくとも一つが好ましい。
【0063】
溶液系メディエータとして使用される金属錯体化合物の好適な具体例としては、例えば、ビス(2,2’:6’,2”-ターピリジン)コバルトイオン([Co(tpy)2]3+/2+)、ビス(2,2’:6’,2”-ターピリジン)鉄イオン( [Fe(tpy)2]3+/2+)、ビス(2,2’:6’,2”-ターピリジン) 銅イオン([Cu(tpy)2]2+/1+)、トリス(2,2’-ビピリジン)コバルトイオン([Co(bpy)3]3+/2+)、トリス(4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジン)コバルトイオン([Co(dmbpy)3]3+/2+)、及びトリス(1,10-フェナントロリン)コバルトイオン([[Co(phen)3]3+/2+)等が挙げられる。また、金属錯体化合物が錯イオンである場合の対イオンは、光触媒システム において生じる反応を阻害しないものであれば、任意のものを用いることができる。
【0064】
電子メディエータ8が溶液系メディエータである場合、水性媒体に含まれる溶液系メディエータの含有量は、例えば水性媒体の総量に対して0.005mM(mmol/L)以上であればよい。溶液系メディエータの含有量の上限は、水性媒体における飽和濃度でよい。
【0065】
固体型メディエータとしては、例えば、還元型酸化グラフェン(RGO)等のカーボン系材料が挙げられる。RGOは、酸化グラフェンを還元する公知の方法により調製すればよい。例えば、酸化グラフェン及び酸化光触媒6が懸濁する懸濁液に可視光を照射して、酸化グラフェンの光還元反応を行うことにより、酸化光触媒6に接合したRGOを調製することができる。RGOの原料となる酸化グラフェンも特に制限されず、例えば過マンガン酸カリウムを酸化剤として用いてグラファイトを酸化させるHummers法等の公知の方法により調製された酸化グラフェンを使用すればよい。
【0066】
電子メディエータ8が固体型メディエータである場合、固体型メディエータの使用量は、例えば、接合する酸化光触媒6又は還元光触媒7の総量に対して、0.05質量%以上50質量%以下であればよい。
【0067】
[水性媒体]
水性媒体としては、水を主成分として含有する媒体中に窒素源が含まれるものであれば適宜使用可能である。水性媒体は、例えば、水に、硝酸塩や亜硝酸塩等を所定量添加することにより調製することができる。水性媒体は、例えば、メタノール及びエタノール等の水溶性有機溶媒を含有していてもよい。水性媒体中の窒素源の濃度は、例えば水性媒体の総量に対する窒素源のモル濃度は、0.01M以上であることが好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
[酸化光触媒の調製]
20mmolの硝酸ビスマス水和物(Bi(NO3)3・5H2O、関東化学株式会社製)、及び、10mmolの五酸化バナジウム(V2O5、富士フィルム和光純薬社製)を0.5mol/Lの硝酸水溶液100mLに添加し、得られた混合液を室温で72時間撹拌した。生成した粒子をろ過した後、水で洗浄し、120℃で乾燥することにより、バナジン酸ビスマス半導体(BiVO4)からなる酸化光触媒を得た。
【0070】
[半導体の調製]
(1)半導体粒子A:(CuGa)0.3Zn1.4S2
硫化銅(II)(Cu2S、株式会社高純度化学研究所製)、硫化ガリウム(III)(Ga2S3、株式会社高純度化学研究所製)、及び硫化亜鉛(ZnS、株式会社高純度化学研究所製)を、モル比がCu:Ga:Zn=0.3:0.36:1.4となる量で混合した。得られた混合物を石英管に入れ密封した後、1073Kで10時間焼成することにより結晶化させて、組成式(CuGa)0.3Zn1.4S2で表される半導体粒子Aを得た。
【0071】
(2)半導体粒子B:Rh-SrTiO3
J. Mater. Chem. A, 3, 13283-13290(2015)に記載の方法に従って、Rhを1%ドープしたSrTiO3(以下、Rh-SrTiO3)からなる半導体粒子Bを得た。具体的には、SrCO3(関東化学)、TiO2(添川化学)、Rh2O3(富士フィルム和光純薬)を、モル比がSr:Ti:Rh=1.07:0.99:0.01となる量で混合した。この混合物をアルミナるつぼに入れて、大気中、1173Kで1時間、1273Kで10時間焼成することにより、Rhを1%ドープしたStTiO3(Rh-SrTiO3)を得た。
【0072】
[金属錯体の調製]
(1)金属錯体A:[Ru-dmpebpy]
Inorganic Chemistry, 1995, Vol.34, No.24, p.6145-6157に記載の方法に従って、[Ru(CO)2Cl2]n とジエチルメチルホスホネートビピリジンとを、メタノール中、N2気流下にて80℃で3時間還流することにより、ジエチルメチルホスホネートビピリジン配位子を有するルテニウム錯体([Ru(4,4’-bis(diethylm ethyl phosphonate)-2,2’-bipyridine)(CO)2Cl2])(以下、[Ru-dmpebpy])からなる金属錯体Aを得た。
【0073】
(2)金属錯体B:[Ru-dpbpy]
Inorganic Chemistry, 1995, Vol.34, No.24, p.6145-6157に記載の方法に従って、[Ru(CO)2Cl2]nとジホスホネートビピリジンとを、メタノール中、N2気流下にて80℃で3時間還流することにより、ジホスホネートビピリジン配位子を有するルテニウム錯体([Ru(4,4’-diphosphonate-2,2’-bipyridine)(CO)2Cl2])(以下、[Ru-dpbpy])からなる金属錯体Bを得た。
【0074】
(3)金属錯体C:[Co-tpy]
硝酸コバルト(II)六水和物(Co(NO3)2・6H2O、富士フィルム和光純薬社製)1.5mmol、および、2,2’:6’,2’’-ターピリジン(東京化成工業株式会社製)3.0mmolをメタノールに溶解し、撹拌および減圧濃縮した。次いで、得られた残渣を再結晶化することにより、[Co(2,2’:6’,2’’-terpyridine)2](NO3)2([Co(tpy)2](NO3)2)(以下、[Co-tpy])で表される金属錯体Cを得た。
【0075】
(4)金属錯体D:[Co-dmbpy]
Co(NO3)2・6H2O(富士フィルム和光純薬社製)1.5mmol、及び、4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジン(東京化成工業株式会社製)4.5mmolをメタノールに溶解し、撹拌及び減圧濃縮した。次いで、得られた残渣を再結晶化することにより、[Co(4,4’-dimethyl-2,2’-bipyridine)3](NO3)2(以下、[Co-dmbpy])で表される金属錯体Dを得た。
【0076】
上記金属錯体A~Dの化学構造式を以下に示す。
【化1】
【0077】
(実施例1)
半導体粒子A200mgに、金属錯体Aのメタノール溶液5mLを添加し、16時間撹拌することにより、半導体粒子Aの表面に金属錯体Aが担持(接合)された粒子を得た。得られた粒子をろ過し、乾燥することにより、半導体粒子A/金属錯体Aの還元光触媒粒子を得た。ろ液の吸収スペクトル測定により、金属錯体Aの担持量は0.03質量%と定量された。
【0078】
実施例1における光触媒性能を以下のようにして評価した。まず、8mlの試験官に、0.05mmol/Lの金属錯体C(電子メディエータ)を含む0.01mol/LのNaNO2水溶液を4ml添加し、そして、半導体粒子A/金属錯体Aの還元光触媒粒子を2.7mg添加し、また、酸化光触媒であるBiVO4を2.7mg添加した後に、Arガスを溶液中に15分間通液し、溶液中に飽和させ、ゴム栓で密閉した。
【0079】
次に、スターラーで内部溶液を撹拌しながら、メリーゴーランド方式の照射装置により、Xeランプ(ウシオ電機製)の放射光の内、可視光(λ>390nm)を熱線吸収フィルタ(旭硝子製)を通して16時間照射した。光照射後、溶液上の気相部分のガスはガスクロマトグラフィーで、また、液相部分をインドフェノールブルー法でアンモニウムイオンの分析・定量を行った。
【0080】
<実施例2>
0.05mmol/Lの金属錯体C(電子メディエータ)を含む0.01mol/LのNaNO2水溶液に代えて、0.1mmol/Lの金属錯体D(電子メディエータ)を含む0.01mol/LのKNO3水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、光触媒性能を評価した。なお、KNO3水溶液中の金属錯体Dは電子メディエータとしてだけでなく、還元光触媒の金属錯体としても作用していると思われる。
【0081】
<実施例3>
半導体粒子Bを用いたこと、及び金属錯体Bを5mL用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、半導体粒子B/金属錯体Bの還元光触媒粒子を得た。ろ液の吸収スペクトル測定により、金属錯体Bの担持量は0.12質量%と定量された。そして、半導体粒子B/金属錯体Bの還元光触媒粒子を2.7mg使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、光触媒性能を評価した。
【0082】
<比較例1>
金属錯体Aを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で、光触媒性能を評価した。
【0083】
<比較例2>
酸化光触媒であるBiVO4を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で、光触媒性能を評価した。
【0084】
<比較例3>
0.05mmol/Lの金属錯体C(電子メディエータ)を含む0.01mol/LのNaNO2水溶液に代えて、0.2mmol/Lの金属錯体C(電子メディエータ)を含む水溶液(すなわち、窒素源を含まない水溶液)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、光触媒性能を評価した。
【0085】
<比較例4>
光照射を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で、光触媒性能を評価した。
【0086】
表1に、各実施例における光触媒性能の評価結果を示す。
【0087】
【0088】
実施例1~3のように、半導体及び金属錯体を含む還元光触媒と酸化光触媒とを組み合わせた系では、光照射によって、水溶液中のNO2
-やNO3
-等の窒素酸化物イオンが還元され、アンモニア(アンモニウムイオン)が生成された。なお、実施例1,2のように、電子メディエータが存在していても、実施例3のように、電子メディエータが存在していなくても、窒素源の還元反応は進行し、アンモニアが生成された。実施例3の結果より、酸化光触媒と還元光触媒との間で電子のやり取りが直接可能であることが分かる。一方、比較例1のように、金属錯体を含まない系では、金属錯体以外は同じ条件である実施例1と比較して、アンモニアの生成量が減少した。また、比較例2のように、酸化光触媒を含まない系では、酸化光触媒以外は同じ条件である実施例1と比較して、アンモニアの生成量が著しく減少した。また、比較例3,4の結果から、光照射及び窒素源も、窒素源からアンモニアへの還元反応を進行させるのに必須の構成であることが示された。これらの結果から、窒素源を含む水性媒体と、酸化光触媒と、半導体及び金属錯体を有する還元光触媒と、を備える光触媒システムにおいて、光を照射することにより、水性媒体中の窒素源をアンモニアへ還元する反応が促進され、アンモニアの生成量を向上させることができると言える。
【符号の説明】
【0089】
1,2 光触媒システム、2 半導体、3 金属錯体、5 光、6 酸化光触媒、7 還元光触媒、8 電子メディエータ。