(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物、その製造方法及びそれを含む成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20240325BHJP
C08L 55/02 20060101ALI20240325BHJP
C08L 25/16 20060101ALI20240325BHJP
C08L 25/12 20060101ALI20240325BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L55/02
C08L25/16
C08L25/12
C08L67/00
(21)【出願番号】P 2022556237
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 KR2021010998
(87)【国際公開番号】W WO2022075579
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0128801
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ソクヒ・ジョ
(72)【発明者】
【氏名】ホ・ナムグン
(72)【発明者】
【氏名】ジュンホ・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ソン・リョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】デ・サン・ジュン
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-068301(JP,A)
【文献】特表2020-503407(JP,A)
【文献】特開2019-119888(JP,A)
【文献】特開平03-263453(JP,A)
【文献】特開平02-245054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/222
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビニルシアン化合物-共役ジエンゴム-芳香族ビニル化合物のグラフト共重合体20~40重量%と、
(B)α-メチルスチレン-ビニルシアン化合物-芳香族ビニル化合物共重合体10~35重量%と、
(C)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体5~30重量%と、
(D)ポリカーボネート樹脂23~47重量%と、
(E)ポリエステル樹脂3~17重量%とを含み、
前記(B)共重合体の重量は、(C)共重合体の重量よりも大きいか又は同一であり、
前記(B)共重合体は、α-メチルスチレン、ビニルシアン化合物、及びα-メチルスチレンを除く芳香族ビニル化合物の共重合体であり、
前記(C)共重合体は、α-メチルスチレンを除く芳香族ビニル化合物及びビニルシアン化合物の共重合体であり、
前記(D)ポリカーボネート樹脂と(E)ポリエステル樹脂との重量比は2:1~6:1であることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂組成物は、200mm×12.7mm×3.2mmのサイズの試験片を1.1%の応力を有する曲率ジグに固定し、シンナー1ccを塗布した後、試験片の表面にクラックが発生する時間として測定される耐化学性が600秒以上であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)グラフト共重合体は、共役ジエンゴム50~80重量%、ビニルシアン化合物5~20重量%及び芳香族ビニル化合物10~40重量%を含んでなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記共役ジエンゴムは、平均粒径が2,000~5,000Åであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)共重合体は、α-メチルスチレン50~80重量%、ビニルシアン化合物10~30重量%及び芳香族ビニル化合物(但し、α-メチルスチレンを除く)5~25重量%を含んでなることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)共重合体は、ビニルシアン化合物20~40重量%及び
α-メチルスチレンを除く芳香族ビニル化合物60~80重量%を含んでなることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記(D)ポリカーボネート樹脂は、線状ポリカーボネート樹脂、分岐状(branched)ポリカーボネート樹脂及びポリエステルカーボネート共重合体樹脂からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記(D)ポリカーボネート樹脂は、ASTM D1238に準拠して300℃、1.2kgの荷重条件下で測定した溶融指数が10g/10分以上であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記(D)樹脂は、重量平均分子量が15,000~40,000g/molであることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記(E)ポリエステル樹脂は、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)及びポリエチレンナフタレート(PEN)からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
前記(E)ポリエステル樹脂は、20℃及びメチレンクロライド溶媒の条件下で測定した固有粘度が0.5~2dl/gであることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
前記熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D1238に準拠して250℃、10kgの荷重条件下で測定した溶融指数が55.0g/10分以上であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
(A)ビニルシアン化合物-共役ジエンゴム-芳香族ビニル化合物のグラフト共重合体20~40重量%と、(B)α-メチルスチレン-ビニルシアン化合物-芳香族ビニル化合物共重合体10~35重量%と、(C)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体5~30重量%と、(D)ポリカーボネート樹脂23~47重量%と、(E)ポリエステル樹脂3~17重量%とを含んで、200~280℃で混練及び押出するステップを含み、前記(B)共重合体の重量は、(C)共重合体の重量よりも大きいか又は同一であり、
前記(B)共重合体は、α-メチルスチレン、ビニルシアン化合物、及びα-メチルスチレンを除く芳香族ビニル化合物の共重合体であり、前記(C)共重合体は、α-メチルスチレンを除く芳香族ビニル化合物及びビニルシアン化合物の共重合体であり、
前記(D)ポリカーボネート樹脂と(E)ポリエステル樹脂との重量比は2:1~6:1であることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とする、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願との相互参照〕
本出願は、2020年10月06日付の韓国特許出願第10-2020-0128801号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物、その製造方法及びそれを含む成形品に関し、より詳細には、ビニルシアン化合物-共役ジエンゴム-芳香族ビニル化合物のグラフト共重合体、α-メチルスチレン-ビニルシアン化合物-芳香族ビニル化合物共重合体、及び芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体を含むベース樹脂に、ポリカーボネート樹脂及びポリエステル樹脂を所定の組成比で配合することによって、機械的物性、成形加工性、耐熱性及び耐化学性が大きく改善された熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
共役ジエン系ゴムをベースとするアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(以下、「ABS樹脂」という)は、加工性、機械的物性及び外観特性に優れているので、電気・電子製品の部品、自動車、小型玩具、家具、建築資材などに広範囲に用いられている。しかし、ABS樹脂は、エンジニアリングプラスチックに比べて耐熱性が不十分であるため、耐熱度、高強度及び耐化学性を求める電気・電子製品の部品や自動車内装材などには使用が制限的である。
【0004】
ポリカーボネート(以下、「PC樹脂」という)及びABS樹脂のアロイ素材は、優れた機械的物性及び経済的な価格により自動車、電気・電子製品など様々な用途に広く使用されており、自動車用途としては内蔵材に主に使用されるが、特に、センターフェイシア(center fascia)、ドアトリム(door trim)などに多く適用されている。しかし、PC/ABSの場合、素材自体の非結晶性特性により耐化学性が脆弱であるため、用途に制限を受けており、自動車内装材において化学製品による耐環境応力亀裂性(Environmental Stress Cracking;ESC)の問題は慢性的であり、深刻な品質問題として代表される。特に、自動車の内部で使用頻度が高い化学物質に対してクラック(crack)の問題が多く発生し、このような問題を未然に防止できる耐化学性素材に対する要求がますます増加している。
【0005】
そのため、自動車内装材のように高い耐熱性、耐化学性及び剛性だけでなく、成形品として適切な成形加工性の全てを満足させることができる素材の開発が必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような従来技術の問題点を解決するために、本発明は、機械的物性、成形加工性、耐熱性及び耐化学性がいずれも優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、前記熱可塑性樹脂組成物の製造方法及びそれを含んで製造された成形品を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の上記目的及びその他の目的は、以下で説明する本発明によって全て達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、(A)ビニルシアン化合物-共役ジエンゴム-芳香族ビニル化合物のグラフト共重合体20~40重量%と、(B)α-メチルスチレン-ビニルシアン化合物-芳香族ビニル化合物共重合体10~35重量%と、(C)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体5~30重量%と、(D)ポリカーボネート樹脂23~47重量%と、(E)ポリエステル樹脂3~17重量%とを含み、前記(B)共重合体の重量は、(C)共重合体の重量よりも大きいか又は同一であり、前記(D)ポリカーボネート樹脂と(E)ポリエステル樹脂との重量比は2:1~6:1であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、(A)ビニルシアン化合物-共役ジエンゴム-芳香族ビニル化合物のグラフト共重合体20~40重量%と、(B)α-メチルスチレン-ビニルシアン化合物-芳香族ビニル化合物共重合体10~35重量%と、(C)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体5~30重量%と、(D)ポリカーボネート樹脂23~47重量%と、(E)ポリエステル樹脂3~17重量%とを含んで、200~280℃で混練及び押出するステップを含み、前記(B)共重合体の重量は、(C)共重合体の重量よりも大きいか又は同一であり、前記(D)ポリカーボネート樹脂と(E)ポリエステル樹脂との重量比は2:1~6:1であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、前記熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とする成形品を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ビニルシアン化合物-共役ジエンゴム-芳香族ビニル化合物のグラフト共重合体(以下、「ABS系樹脂」という)にα-メチルスチレン-ビニルシアン化合物共重合体(以下、「耐熱SAN系樹脂」という)及びビニルシアン化合物-芳香族ビニル化合物共重合体(以下、「SAN系樹脂」という)を所定の重量比で含むベース樹脂に、ポリカーボネート樹脂及びポリエステル樹脂を特定の比率で配合するように調節することによって、機械的物性、成形加工性、耐熱性及び耐化学性がいずれも優れた熱可塑性樹脂組成物、その製造方法及びそれから製造された成形品を提供する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例及び比較例の耐化学性試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物、その製造方法及びそれを含む成形品を詳細に説明する。
【0016】
本発明者らは、ABS系樹脂に耐熱SAN系樹脂及び一般のSAN系樹脂をコンパウンディングして耐熱性及び成形加工性を改善すると共に、これに、ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂を特定の重量比で投入することによって、機械的物性、耐熱性と共に耐化学性が大きく改善されることを確認し、これに基づいて本発明を完成するようになった。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)ビニルシアン化合物-共役ジエンゴム-芳香族ビニル化合物のグラフト共重合体20~40重量%と、(B)α-メチルスチレン-ビニルシアン化合物-芳香族ビニル化合物共重合体10~35重量%と、(C)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体5~30重量%と、(D)ポリカーボネート樹脂23~47重量%と、(E)ポリエステル樹脂3~17重量%とを含み、前記(B)共重合体の重量は、(C)共重合体の重量よりも大きいか又は同一であり、前記(D)ポリカーボネート樹脂と(E)ポリエステル樹脂との重量比は2:1~6:1であることを特徴とし、この場合に、機械的物性、成形加工性、耐熱性及び耐化学性がいずれも優れるという利点がある。
【0018】
本発明において、(共)重合体の組成比は、前記(共)重合体を構成する単位体の含量を意味するか、または前記(共)重合体の重合時に投入される単位体の含量を意味することができる。
【0019】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物を構成する各成分を詳細に説明すると、次の通りである。
【0020】
(A)ビニルシアン化合物-共役ジエンゴム-芳香族ビニル化合物のグラフト共重合体
前記(A)ビニルシアン化合物-共役ジエンゴム-芳香族ビニル化合物のグラフト共重合体(以下、「(A)グラフト共重合体」という)は、前記熱可塑性樹脂組成物の総重量に対して20~40重量%含まれ、この場合に、機械的物性、成形加工性及び外観品質に優れるという利点がある。前記熱可塑性樹脂組成物の総100重量%中に含まれる前記(A)グラフト共重合体の含量は、好ましい一例として20~35重量%、より好ましくは20~30重量%であってもよく、この範囲内で、機械的物性、成形加工性、外観品質及び物性バランスがより優れるという利点がある。
【0021】
前記(A)グラフト共重合体は、一例として、共役ジエン化合物を含んでなる共役ジエンゴム50~80重量%、ビニルシアン化合物5~20重量%及び芳香族ビニル化合物10~40重量%を含んでなるものであってもよく、この場合に、機械的物性、成形加工性、外観品質及び物性バランスに優れるという利点がある。前記(A)グラフト共重合体は、好ましい一例として、共役ジエンゴム50~70重量%、ビニルシアン化合物5~15重量%及び芳香族ビニル化合物20~40重量%を含んでなるものであってもよく、より好ましくは、共役ジエンゴム55~65重量%、ビニルシアン化合物10~15重量%及び芳香族ビニル化合物20~30重量%を含んでなるものであってもよく、この範囲内で、耐衝撃性及び物性バランスがより優れるという効果がある。
【0022】
前記(A)グラフト共重合体に含まれる共役ジエンゴムの平均粒径は、一例として2,000~5,000Å、好ましくは2,000~4,000Å、より好ましくは2,500~3,500Åであってもよく、この範囲内で、他の物性の低下なしに、衝撃強度がより優れるという効果がある。
【0023】
本発明において、共役ジエンゴムの平均粒径は、動的光散乱法(dynamic light scattering)を用いて測定することができ、詳細には、Nicomp380装備(製品名、製造社:PSS)を用いて、ガウス(Gaussian)モードでインテンシティ(intensity)値で測定することができる。
【0024】
前記(A)グラフト共重合体は、一例としてグラフト率が20~70%、好ましくは20~55%、より好ましくは20~45%であってもよく、この範囲内で、相溶性及び成形加工性を適切に確保すると共に、他の機械的物性とのバランスに優れるという効果がある。
【0025】
本発明において、グラフト率は、グラフト(共)重合体ラテックスを凝固、洗浄及び乾燥して粉末状を得、この粉末1gをアセトン30mlに入れて24時間撹拌して得た溶液を、超遠心分離機を用いて14,000rpmで4時間遠心分離して不溶分のみを採取した後、85℃で4時間乾燥させた後、重量を測定して、下記数式1によって求めることができる。
【0026】
[数式1]
グラフト率(%)=[{乾燥された不溶分の重量(g)-グラフト重合に投入されたゴムの重量(g)}/グラフト重合に投入されたゴムの重量(g)]×100
【0027】
前記乾燥は、これ以上重量の変化がなくなるまで行われ得る。
【0028】
前記(A)グラフト共重合体は、一例として重量平均分子量が500,000~1,000,000g/molであってもよく、好ましくは650,000~900,000g/molであってもよく、この範囲内で、流動性が適切であるので加工性に優れ、耐衝撃性に優れるという効果がある。
【0029】
本発明において、重量平均分子量は、カラム充填物質として多孔性シリカが充填されたゲルクロマトグラフィー(GPC)を介して、温度40℃で、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いて、標準PS(標準ポリスチレン:Standard polystyrene)試料に対する相対値として測定することができる。
【0030】
前記(A)グラフト共重合体は、一例として、乳化重合、懸濁重合、塊状重合などを含む公知の重合方法により製造可能であり、好ましくは乳化重合により製造されたものであってもよい。
【0031】
前記(A)グラフト共重合体は、一例として、前記グラフト共重合体に含まれる共役ジエンゴム、芳香族ビニル化合物及びビニルシアン化合物の総100重量部を基準として、共役ジエンゴム50~80重量部(固形分基準)、乳化剤0.1~5重量部、分子量調節剤0.1~3重量部及び開始剤0.05~1重量部からなる混合溶液に、ビニルシアン化合物5~20重量部と芳香族ビニル化合物10~40重量部を含む単量体混合物を連続又は一括投入して重合するステップを含んで製造されたものであってもよい。
【0032】
他の一例として、前記(A)グラフト共重合体は、共役ジエンゴム、芳香族ビニル化合物及びビニルシアン化合物の総100重量部を基準として、共役ジエンゴムラテックス50~80重量部(固形分基準)及びイオン交換水60~150重量部に、別途の混合装置で混合されたビニルシアン化合物5~20重量部、芳香族ビニル化合物10~40重量部、イオン交換水10~50重量部、開始剤0.09~1.5重量部、乳化剤0.1~2重量部及び分子量調節剤0.05~1.5重量部を含む混合溶液を65~75℃で2~4時間投入した後、開始剤0.01~0.5重量部を投入し、30分~90分かけて75~80℃に昇温させた後、重合転化率93~99重量%でグラフト重合を終了して製造されてもよく、この場合に、耐衝撃性、機械的強度及び成形加工性に優れるという効果がある。
【0033】
本発明において、重合転化率は、重合終了時まで投入される単量体の総重量100%を基準として、測定時点まで重合体に転化された単量体の重量%として定義することができ、前記重合転化率の測定方法は、このような定義に従って測定する重合転化率の測定方法であれば、特に制限されず、具体例として、製造された(共)重合体ラテックス1.5gを150℃の熱風乾燥機内で15分間乾燥させた後、重量を測定し、下記数式2で総固形分含量(Total Solid Content;TSC)を求め、これを下記数式3に代入して算出することができる。前記数式3は、投入された単量体の総重量が100重量部であることを基準とする。
【0034】
【0035】
[数式3]
重合転化率(%)=[総固形分含量(TSC)×(投入された単量体、イオン交換水及び副原料を合わせた総重量)/100]-(単量体及びイオン交換水以外に投入された副原料の重量)
【0036】
前記数式3において、副原料は、開始剤、乳化剤及び分子量調節剤を指し、電解質を使用した場合、電解質を含む。
【0037】
前記共役ジエン化合物は、一例として、1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、イソプレン及びクロロプレンからなる群から選択された1種以上であってもよい。
【0038】
前記ビニルシアン化合物は、一例として、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチルアクリロニトリル及びイソプロピルアクリロニトリルからなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくはアクリロニトリルである。
【0039】
前記芳香族ビニル化合物は、一例として、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、t-ブチルスチレン、o-ブロモスチレン、p-ブロモスチレン、m-ブロモスチレン、o-クロロスチレン、p-クロロスチレン、m-クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、フルオロスチレン及びビニルナフタレンからなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくは、スチレン及びα-メチルスチレンからなる群から選択された1種以上、さらに好ましくはスチレンであってもよく、この場合に、流動性が適切であるので加工性に優れ、耐衝撃性などの機械的物性に優れるという効果がある。
【0040】
本発明において、誘導体は、原化合物の水素原子又は原子団が他の原子又は原子団で置換された化合物であり、一例として、ハロゲン又はアルキル基で置換された化合物を意味する。
【0041】
前記乳化剤は、一例として、アリルアリールスルホネート、アルカリメチルアルキルスルホネート、スルホン化アルキルエステル、脂肪酸石鹸及びロジン酸アルカリ塩からなる群から選択された1種以上であってもよく、この場合に、重合反応の安定性に優れるという効果がある。
【0042】
前記分子量調節剤は、一例として、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン及び四塩化炭素からなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくはt-ドデシルメルカプタンであってもよい。
【0043】
前記開始剤は、一例として、水溶性過硫酸重合開始剤、脂溶性重合開始剤、または酸化-還元系触媒などを使用することができ、前記水溶性過硫酸重合開始剤としては、一例として、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム及び過硫酸アンモニウムからなる群から選択された1種以上であってもよく、前記脂溶性重合開始剤としては、一例として、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、アゾビスイソブチロニトリル、t-ブチルヒドロペルオキシド、パラメンタンヒドロペルオキシド及びベンゾイルペルオキシドからなる群から選択された1種以上であってもよい。
【0044】
前記乳化重合により収得されたラテックスは、一例として、硫酸、MgSO4、CaCl2またはAl2(SO4)3などの凝集剤で凝集した後、熟成、脱水及び乾燥して粉末状態で得ることができる。
【0045】
前記(A)グラフト共重合体は、一例として、酸化-還元系触媒をさらに含んで製造されてもよく、前記酸化-還元系触媒は、一例として、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、ナトリウムエチレンジアミンテトラアセテート、硫酸第一鉄、デキストロース、ピロリン酸ナトリウム及び亜硫酸ナトリウムからなる群から選択された1種以上であってもよいが、これに限定されるものではなく、一般的にABS系グラフト共重合体の製造時に使用される種類であれば限定されず、必要に応じて選択して使用することができる。
【0046】
本発明で具体的に言及していない電解質などのその他の添加物は、必要に応じて適宜選択することができ、ビニルシアン化合物-共役ジエンゴム-芳香族ビニル化合物グラフト共重合体ラテックスの製造に通常適用される範囲であれば、特に制限されない。
【0047】
上述した記載以外に、グラフト共重合体の製造方法における反応時間、反応温度、圧力、反応物の投入時点などのその他の反応条件は、本発明の属する技術分野で通用されている範囲内であれば、特に制限されず、必要に応じて適宜選択して行うことができる。
【0048】
(B)α-メチルスチレン-ビニルシアン化合物-芳香族ビニル化合物共重合体
前記(B)α-メチルスチレン-ビニルシアン化合物-芳香族ビニル化合物共重合体(以下、「(B)共重合体」という)は、前記熱可塑性樹脂組成物の総重量に対して15~35重量%含まれ、この場合に、耐熱性及び機械的物性に優れるという利点がある。前記熱可塑性樹脂組成物の総100重量%中に含まれる前記(B)共重合体の含量は、好ましい一例として10~30重量%、より好ましくは15~30重量%であってもよく、この範囲内で、外観品質の低下なしに、耐熱性がより優れ得る。
【0049】
前記(B)共重合体は、一例として、α-メチルスチレン50~80重量%、ビニルシアン化合物10~30重量%及び芳香族ビニル化合物(但し、α-メチルスチレンを除く)5~25重量%を含んでなるものであってもよく、好ましくは、α-メチルスチレン50~75重量%、ビニルシアン化合物15~30重量%及び芳香族ビニル化合物(但し、α-メチルスチレンを除く)5~25重量%、より好ましくは、α-メチルスチレン55~75重量%、ビニルシアン化合物15~25重量%及び芳香族ビニル化合物(但し、α-メチルスチレンを除く)5~20重量%を含んでなるものであってもよい。この範囲内で、他の物性の低下なしに、耐熱性がさらに優れるという効果がある。
【0050】
前記(B)共重合体は、一例として重量平均分子量が50,000~200,000g/mol、好ましくは60,000~180,000g/mol、より好ましくは70,000~160,000g/molであってもよく、この範囲内で、耐熱性がより優れるという効果がある。
【0051】
前記(B)共重合体は、一例としてガラス転移温度(Tg)が100~140℃、好ましくは110~130℃であってもよく、この範囲内で、他の物性の低下なしに、耐熱性がさらに優れるという効果がある。
【0052】
本発明において、ガラス転移温度(Tg)は、パーキンエルマー(Perkin Elmer)社のPyris 6 DSCを用いて、昇温速度10℃/分で測定することができる。
【0053】
前記(B)共重合体の製造方法は、本発明の属する技術分野で通常用いられる製造方法であれば、特に制限されず、具体例として、α-メチルスチレン50~80重量%、ビニルシアン化合物10~30重量%及び芳香族ビニル化合物(但し、α-メチルスチレンを除く)5~25重量%を含む単量体混合物100重量部に多官能性開始剤0.05~0.5重量部を投入して重合させるステップを含むことができる。ここで、重合は、一例として、懸濁重合、乳化重合、溶液重合または塊状重合であってもよく、好ましくは塊状重合であり、この場合に、耐熱性及び流動性などに優れるという効果がある。
【0054】
前記(B)共重合体は、本発明の定義に従う限り、市販の製品を用いることもできる。
【0055】
(C)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体
前記(C)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(以下、「(C)共重合体」という)は、前記熱可塑性樹脂組成物の総重量に対して5~30重量%含まれ、この場合に、機械的物性、成形加工性及び外観品質に優れるという利点がある。前記熱可塑性樹脂組成物の総100重量%中に含まれる前記(C)共重合体の含量は、好ましい一例として10~30重量%、より好ましくは15~30重量%であってもよく、この範囲内で、耐化学性、機械的物性、成形加工性、外観品質及び物性バランスがより優れ得る。
【0056】
前記(C)共重合体は、一例として、ビニルシアン化合物20~40重量%及び芳香族ビニル化合物(但し、α-メチルスチレンを除く)60~80重量%を含んでなるものであってもよく、好ましくは、ビニルシアン化合物20~35重量%及び芳香族ビニル化合物(但し、α-メチルスチレンを除く)65~80重量%、より好ましくは、ビニルシアン化合物23~33重量%及び芳香族ビニル化合物(但し、α-メチルスチレンを除く)67~77重量%を含んでなるものであってもよく、この範囲内で、流動性が適切であるので成形加工性に優れるという効果がある。
【0057】
前記(C)共重合体は、一例として重量平均分子量が70,000~200,000g/mol、好ましくは80,000~180,000g/mol、より好ましくは90,000~160,000g/molであってもよく、この範囲内で、耐化学性に優れると共に、加工性及び物性バランスに優れるという効果がある。
【0058】
前記(C)共重合体に含まれる芳香族ビニル化合物は、一例として、スチレン、エチルスチレン、o-ブロモスチレン、p-ブロモスチレン、m-ブロモスチレン、o-クロロスチレン、p-クロロスチレン、m-クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、フルオロスチレン及びビニルナフタレンからなる群から選択される1種以上であってもよく、好ましくはスチレンであってもよい。
【0059】
前記ビニルシアン化合物は、一例として、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチルアクリロニトリル及びイソプロピルアクリロニトリルからなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくはアクリロニトリルであってもよい。
【0060】
前記(C)共重合体は、一例として、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物及びマレイミド系単量体からなる群から選択された1種以上を0~30重量%、好ましくは1~20重量%、より好ましくは5~10重量%さらに含んでなるものであってもよく、このような共単量体が追加されて重合された共重合体の場合に、耐熱性及び加工性がより優れるという効果がある。
【0061】
前記不飽和カルボン酸は、一例として、マレイン酸、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選択された1種以上であってもよく、前記不飽和カルボン酸無水物は、一例として、前記不飽和カルボン酸の無水物であってもよく、マレイミド系単量体は、一例として、炭素数1~5のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基でN置換されたマレイミドであってもよく、具体例としては、N-フェニルマレイミド、マレイミドまたはこれらの混合であってもよい。
【0062】
前記(C)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、連続塊状重合などの方法により製造することができ、特に乳化重合又は懸濁重合により製造されたものを使用することが好ましい。
【0063】
前記(C)共重合体は、本発明の定義に従う限り、市販の製品を用いることもできる。
【0064】
(D)ポリカーボネート樹脂
前記(D)ポリカーボネート樹脂は、前記熱可塑性樹脂組成物の総重量に対して23~47重量%含まれ、この場合に、他の物性の低下なしに、機械的物性及び耐熱性に優れるという利点がある。前記熱可塑性樹脂組成物の総100重量%中に含まれる前記(D)共重合体の含量は、好ましい一例として25~47重量%、より好ましくは25~45重量%であってもよく、より一層好ましくは30~40重量%であってもよく、この範囲内で、耐熱性及び機械的物性がより優れるという効果がある。
【0065】
前記(D)ポリカーボネート樹脂の種類は、特に制限しないが、一例として、ビスフェノール系モノマーとカーボネート前駆体を含んで重合された樹脂であってもよい。
【0066】
前記ビスフェノール系モノマーは、一例として、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA;BPA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ;BPZ)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-クロロフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、及びα,ω-ビス[3-(ο-ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサンからなる群から選択された1種以上であってもよい。
【0067】
前記カーボネート前駆体は、一例として、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレシルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、カルボニルクロライド(ホスゲン)、トリホスゲン、ジホスゲン、カルボニルブロマイド及びビスハロホルメートからなる群から選択された1種以上であってもよい。
【0068】
前記(D)ポリカーボネート樹脂は、一例として、線状ポリカーボネート樹脂、分岐状(branched)ポリカーボネート樹脂及びポリエステルカーボネート共重合体樹脂からなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくは線状ポリカーボネート樹脂であってもよく、この場合に、流動性が向上して外観特性がより優れるという効果がある。
【0069】
前記線状ポリカーボネート樹脂は、具体的な一例として、ビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0070】
前記(D)ポリカーボネート樹脂は、一例として重量平均分子量が15,000~40,000g/mol、好ましくは20,000~35,000g/molであってもよく、この範囲内で、衝撃強度などの機械的物性に優れると共に、外観品質に優れるという効果がある。
【0071】
前記(D)ポリカーボネート樹脂は、一例として、ASTM D1238に準拠して300℃、1.2kgの荷重条件下で測定した溶融指数が10g/10分以上であるものを使用することができ、好ましくは10~30g/10分、より好ましくは15~25g/10分であるものを使用することができ、この範囲内で、相溶性及び成形加工性がより優れると共に、物性バランスに優れるという利点がある。
【0072】
前記(D)ポリカーボネート樹脂は、一例として、ASTM D256に準拠して1/8”の厚さの条件下で測定したアイゾット衝撃強度が60kg・cm/cm以上、好ましくは60~80kg・cm/cmであるものを使用することができ、この範囲内で、他の物性の低下なしに、機械的物性がより優れるという利点がある。
【0073】
前記(D)ポリカーボネート樹脂は、この技術分野で通常適用される製造方法によって製造されてもよく、本発明の定義に従う限り、市販の製品を用いることもできる。
【0074】
(E)ポリエステル樹脂
前記(E)ポリエステル樹脂は、前記熱可塑性樹脂組成物の総重量に対して3~17重量%含まれ、この場合に、他の物性の低下なしに、機械的物性及び耐化学性に優れるという利点がある。前記熱可塑性樹脂組成物の総100重量%中に含まれる前記(E)ポリエステル樹脂の含量は、好ましい一例として3~15重量%、より好ましくは5~15重量%であってもよく、より一層好ましくは5~10重量%であってもよく、この範囲内で、耐化学性及び機械的物性がより優れるという効果がある。
【0075】
前記(E)ポリエステル樹脂の20℃及びメチレンクロライド溶媒の条件下で測定した固有粘度は、一例として0.5~2dl/gであってもよく、好ましくは0.5~1.5dl/g、より好ましくは0.5~1.0dl/gであってもよく、この範囲内で、機械的物性及び加工性がより優れるという利点がある。
【0076】
本発明において、固有粘度は、特に言及がない限り、測定しようとする試料をメチレンクロライド溶媒に完全に溶解させた後、フィルターを使用して濾過させた濾過液を、ウベローデ粘度計を用いて20℃で測定した値である。
【0077】
前記(E)ポリエステル樹脂は、一例として、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)及びポリエチレンナフタレート(PEN)からなる群から選択された1種以上であり、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートからなる群から選択された1種又は2種であってもよく、この場合に、組成物の全体的な機械的物性及び成形加工性が良好であり、物性バランスが優れながらも、耐化学性がより優れるという利点がある。
【0078】
前記(E)ポリエステル樹脂は、一例として、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)及び低分子量脂肪族ポリアミドからなる群から選択された1種以上を含んで重合された共重合体を使用することができ、この場合に、機械的物性がより優れるという利点があるが、これに制限されるものではない。
【0079】
前記(E)ポリエステル樹脂は、この技術分野で通常適用される製造方法によって製造されてもよく、本発明の定義に従う限り、商業的に入手可能な製品を使用することができる。
【0080】
熱可塑性樹脂組成物
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)ビニルシアン化合物-共役ジエンゴム-芳香族ビニル化合物のグラフト共重合体20~40重量%と、(B)α-メチルスチレン-ビニルシアン化合物-芳香族ビニル化合物共重合体10~35重量%と、(C)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体5~30重量%と、(D)ポリカーボネート樹脂23~47重量%と、(E)ポリエステル樹脂3~17重量%とを含み、かつ、前記(B)共重合体の重量は、(C)共重合体の重量よりも大きいか又は同一であり、前記(D)ポリカーボネート樹脂と(E)ポリエステル樹脂との重量比は2:1~6:1であることを特徴とし、この場合に、機械的物性、成形加工性、耐熱性及び耐化学性が大きく改善されるという効果がある。
【0081】
前記熱可塑性樹脂組成物は、前記のような限定された組成比内で、一例として、200mm×12.7mm×3.2mmのサイズの試験片を、1.1%の応力を有する曲率ジグに固定し、シンナー1ccを塗布した後、試験片の表面にクラックが発生する時間として測定される耐化学性が600秒以上であって、耐化学性(Environmental Stress-Cracking Resistance、ESCR)に優れるという効果がある。耐化学性が前記範囲を満たす場合、一例として、塗装や蒸着のような後加工工程で有機溶媒及び洗剤の使用によるクラックの発生を防止することができ、他の一例としては、車両のエアベント部品として使用時に、車両用芳香剤などの使用によるクラックの発生を防止することができるので、様々な分野に適用可能であり、使用中にも製品の変質を防止する効果がある。
【0082】
前記(D)ポリカーボネート樹脂と(E)ポリエステル樹脂との重量比は2:1~6:1であり、好ましくは2:1~5:1、より好ましくは2:1~4.5:1であってもよく、他の好ましい一例としては2.5:1~6:1、より好ましくは3:1~5.5:1であってもよく、さらに他の好ましい一例としては2.2:1~4.8:1、より好ましくは2.7:1~4.6:1、さらに好ましくは3:1~4.5:1、より一層好ましくは3:1~4:1であってもよく、この範囲内で、他の物性の低下なしに、機械的物性及び耐化学性がより優れるという効果がある。
【0083】
前記(B)共重合体の重量は、(C)共重合体の重量よりも大きいか又は同一であることが好ましく、この場合に、他の物性の低下なしに成形加工性に優れるので、外観品質がより向上するという利点がある。
【0084】
前記熱可塑性樹脂組成物は、一例として、ASTM D1238に準拠して250℃、10kgの荷重条件下で測定した溶融指数が55g/10分以上であってもよく、好ましくは55~80g/10分、より好ましくは58~80g/10分、さらに好ましくは58~75g/10分であってもよく、この範囲内で、他の物性の低下なしに、成形加工性及び外観品質がより優れるという効果がある。
【0085】
前記熱可塑性樹脂組成物は、一例として、ASTM D648-7に準拠した熱変形温度(HDT)が100℃以上であってもよく、好ましくは100~120℃、より好ましくは100~110℃であってもよく、この範囲内で、他の物性の低下なしに、耐熱性がより優れるという効果がある。また、一例として、車両用内蔵材として使用する際に、夏季に車両の内部の温度が50℃以上の高温になっても製品の変質を防止することができる。
【0086】
前記熱可塑性樹脂組成物は、一例として、ASTM D256に準拠して、厚さ1/8”の試験片を用いて測定したアイゾット衝撃強度が40kgf・cm/cm以上であってもよく、好ましくは40~70kgf・cm/cm、より好ましくは45~65kgf・cm/cmであってもよく、この範囲内で、他の物性の低下なしに、機械的強度に優れるという効果がある。
【0087】
熱可塑性樹脂組成物の製造方法
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)ビニルシアン化合物-共役ジエンゴム-芳香族ビニル化合物のグラフト共重合体20~40重量%と、(B)α-メチルスチレン-ビニルシアン化合物-芳香族ビニル化合物共重合体10~35重量%と、(C)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体5~30重量%と、(D)ポリカーボネート樹脂23~47重量%と、(E)ポリエステル樹脂3~17重量%とを含んで、200~280℃で混練及び押出するステップを含んで製造されてもよく、このとき、前記(B)共重合体の重量は、(C)共重合体の重量よりも大きいか又は同一であり、前記(D)ポリカーボネート樹脂と(E)ポリエステル樹脂との重量比は2:1~6:1であることを特徴とする。この場合に、機械的物性、成形加工性、耐熱性及び耐化学性がいずれも優れるという効果がある。
【0088】
前記方法を通じて製造された熱可塑性樹脂組成物は、200mm×12.7mm×3.2mmのサイズの試験片を1.1%の応力を有する曲率ジグに固定し、シンナー1ccを塗布した後、試験片の表面にクラックが発生する時間として測定される耐化学性が600秒以上であって、耐化学性に優れるという効果がある。
【0089】
前記混練及び押出するステップは、一例として、温度及び押出機のスクリュー回転速度が、それぞれ200~280℃及び500~700rpm、好ましくは220~260℃及び550~650rpm下で行われてもよく、この場合に、機械的物性、耐化学性、耐熱性及び外観品質に優れるという効果がある。
【0090】
前記混練及び押出するステップは、一例として、一軸押出機、二軸押出機及びバンバリーミキサーからなる群から選択された1種以上を用いて行われてもよく、これを用いて組成物を均一に混合した後、押出して、一例としてペレット状の熱可塑性樹脂組成物を収得することができ、この場合に、機械的物性の低下及び耐熱性の低下が発生することを防止し、外観品質に優れるという効果がある。
【0091】
前記熱可塑性樹脂組成物は、前記混練及び押出させる過程において、必要に応じて選択的に滑剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、染料、顔料、着色剤、離型剤、帯電防止剤、抗菌剤、加工助剤、相溶化剤、金属不活性化剤、難燃剤、煙抑制剤、滴下防止剤、発泡剤、可塑剤、補強剤、充填剤、艶消し剤、耐摩擦剤及び耐摩耗剤からなる群から選択された1種以上の添加剤をさらに含むことができる。前記添加剤は、前記(A)グラフト共重合体、(B)共重合体、(C)共重合体、(D)ポリカーボネート樹脂及び(E)ポリエステル樹脂の合計100重量部に対して、一例として0.01~5重量部、好ましくは0.05~3重量部、0.05~2重量部または0.05~1重量部さらに含むことができ、この範囲内で、前記熱可塑性樹脂組成物本来の物性を低下させないながらも、必要な物性が良好に実現されるという効果がある。
【0092】
前記滑剤は、一例として、エチレンビスステアロアミド、酸化ポリエチレンワックス、ステアリン酸マグネシウム、カルシウムステアレート、ステアリン酸及びシリコーンオイルから選択された1種以上であってもよいが、これに限定されない。
【0093】
前記シリコーンオイルは、一例として、ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロゲンシリコーンオイル、エステル変性シリコーンオイル、ヒドロキシシリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、ビニルシリコーンオイル及びシリコーンアクリレートからなる群から選択された1種以上であってもよい。
【0094】
前記酸化防止剤は、一例として、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0095】
前記帯電防止剤は、一例として、アニオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤などを1種以上用いることができ、これに限定されるものではないことを明示する。
【0096】
前記離型剤は、一例として、グリセリンステアレート、ポリエチレンテトラステアレートなどから選択された1種以上を用いることができ、これに限定されるものではないことを明示する。
【0097】
成形品
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とし、この場合に、機械的物性、成形加工性及び外観品質と同時に、耐熱性及び耐化学性がいずれも優れるという効果がある。
【0098】
前記成形品は、機械的強度、耐熱性及び耐化学性に優れるので、自動車内装材のような素材として使用するのに適しており、具体的な一例として、車両のエアベント、センターフェイシア、ドアトリムまたは塗装品であってもよい。
【0099】
本発明の熱可塑性樹脂組成物、その製造方法及び成形品を説明するにおいて、明示的に記載していない他の条件や装備などは、当業界において通常行われる範囲内で適宜選択することができ、特に制限されないことを明示する。
【0100】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示するが、以下の実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で様々な変更及び修正が可能であることは当業者にとって明らかであり、このような変更及び修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然である。
【0101】
[実施例]
下記の実施例及び比較例で使用された物質は、次の通りである。
【0102】
(A)ビニルシアン化合物-共役ジエンゴム-芳香族ビニル化合物のグラフト共重合体:平均粒径が3,200Åであるブタジエンゴム60重量%、アクリロニトリル10重量%及びスチレン30重量%を含むABSグラフト共重合体(LG化学社のDP270)
(B)α-メチルスチレン-ビニルシアン化合物-芳香族ビニル化合物共重合体:α-メチルスチレン66重量%、アクリロニトリル28重量%及びスチレン6重量%が共重合された耐熱AMS-SAN樹脂(重量平均分子量95,000g/mol;LG化学社の99UH)
(C)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体:アクリロニトリル28重量%及びスチレン72重量%が共重合されたSAN樹脂(重量平均分子量130,000g/mol;LG化学社の92RF)
(D)ポリカーボネート樹脂:重量平均分子量27,000g/mol、固有粘度1.0dl/gであり、ASTM D1238に準拠して300℃及び1.2kgの条件下で測定した溶融指数が30g/分であるビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(LG化学社のPC30)
(E)ポリエステル樹脂:固有粘度0.65dl/gであるポリエチレンテレフタレート(ヒューヴィス社のJSB599)
(F)酸化防止剤:1次酸化防止剤(ELIOKEM社のWingstay-L)
(G)滑剤:酸化ポリエチレンワックス滑剤(FACI社のPETS-AHS)
【0103】
実施例1~4及び比較例1~9
(A)グラフト共重合体、(B)共重合体、(C)共重合体、(D)ポリカーボネート樹脂、(E)ポリエステル樹脂、(F)酸化防止剤及び(G)滑剤を、下記の表1に示した含量でスーパーミキサー(super mixer)を用いて混合し、二軸押出機(twin-screw extruder、スクリュー直径26mm、L/D=40)で押出温度240℃及びスクリュー回転速度600rpmの押出条件で押出してペレット状に製造した。
【0104】
製造されたペレット状の熱可塑性樹脂組成物を80℃で4時間以上乾燥させた後、射出機で射出温度240℃、金型温度60℃及び射出速度30mm/secの条件下で射出成形して試験片を製造し、これを常温(20~26℃)で48時間以上放置した後、物性を測定した。
【0105】
[試験例]
前記実施例及び比較例で製造された試験片の物性を下記のような方法で測定し、その結果を下記表2に示した。
【0106】
*アイゾット衝撃強度(kgf・cm/cm):厚さ1/8”の試験片を用いて、ASTM D256に準拠して測定した。
【0107】
*流動指数(melt flow index、g/10分):ASTM D1238に準拠して、250℃、10kgの荷重下で10分間測定した。
【0108】
*熱変形温度(℃):ASTM D648-7に準拠して、厚さ1/4”の試験片を用いて18.6kgf/cm2の荷重条件下で測定した。
【0109】
*耐化学性:射出試験片を200mm×12.7mm×3.2mmのサイズの試験片に製造し、1.1%の応力を有する曲率ジグ(jig)に固定し、シンナー(NOROOBEE Chemical社、T803)1ccを塗布した後、試験片の表面にクラックが発生する時間を目視で観察して測定した。クラックが発生するまでの経過時間を600秒を基準として評価し、600秒以上である場合に○、600秒未満である場合に×と記載した。
【0110】
【0111】
【0112】
前記表1及び表2に示したように、本発明によって製造された実施例1~4の場合、本発明の範囲を外れた比較例1~9と比較して、衝撃強度、溶融指数、熱変形温度及び耐化学性がいずれも優れることが確認できた。
【0113】
図1は、本発明の実施例及び比較例の耐化学性試験の結果を示すもので、
図1を参照すると、本発明の実施例1及び3の場合、シンナーを塗布した後、600秒が経過してもクラックが発生しなかった反面、比較例1、2及び4の場合、試験片が分離された結果を示しており、本発明によって製造された実施例の耐化学性が大きく改善されたことを確認することができる。