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特許7459387高電圧絶縁用成形品、高電圧絶縁用成形品の製造方法および高電圧絶縁用成形品による耐トラッキング性向上方法
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  • 特許-高電圧絶縁用成形品、高電圧絶縁用成形品の製造方法および高電圧絶縁用成形品による耐トラッキング性向上方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】高電圧絶縁用成形品、高電圧絶縁用成形品の製造方法および高電圧絶縁用成形品による耐トラッキング性向上方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 3/00 20060101AFI20240325BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240325BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240325BHJP
【FI】
H01B3/00 A
C08L101/00
C08K3/013
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023536984
(86)(22)【出願日】2022-09-08
(86)【国際出願番号】 JP2022033790
(87)【国際公開番号】W WO2023038094
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2021148699
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 尚信
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-270015(JP,A)
【文献】特開2011-063029(JP,A)
【文献】特開平06-041389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/00
C08L 101/00
C08K 3/013
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、熱可塑性樹脂A、無機フィラーBおよび前記熱可塑性樹脂A以外の前記無機フィラーBと親和性を有する熱可塑性樹脂Cを含む樹脂組成物からなる高電圧絶縁用成形品であって、
前記無機フィラーBは、板状充填剤であり、
前記熱可塑性樹脂Cは、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体であり、
前記無機フィラーBが前記熱可塑性樹脂Cにより被覆されている高電圧絶縁用成形品。
【請求項2】
少なくとも、熱可塑性樹脂A、無機フィラーBおよび前記熱可塑性樹脂A以外の前記無機フィラーBと親和性を有する熱可塑性樹脂Cを含む樹脂組成物からなる高電圧絶縁用成形品であって、
前記熱可塑性樹脂Cは、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体であり、
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂Cにより被覆されている、板状充填剤である無機フィラーB、および前記熱可塑性樹脂Cにより被覆されていない、繊維状充填剤である無機フィラーBを含む、高電圧絶縁用成形品。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂Cにより被覆されていない、繊維状充填剤である無機フィラーBがガラス繊維である請求項2に記載の高電圧絶縁用成形品。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂Cにより被覆されている、板状充填剤である無機フィラーBがマイカである請求項2に記載の高電圧絶縁用成形品。
【請求項5】
前記高電圧絶縁用成形品が、コネクタ、イグニッション部品、コイル部品、電池部品、回路部材のいずれかである請求項1または2に記載の高電圧絶縁用成形品。
【請求項6】
熱可塑性樹脂A、無機フィラーBおよび前記熱可塑性樹脂A以外の前記無機フィラーBと親和性を有する熱可塑性樹脂Cを含む樹脂組成物からなる耐トラッキング性を有する高電圧絶縁用成形品の製造方法であって、
前記無機フィラーBは、板状充填剤であり、
前記熱可塑性樹脂Cは、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体であり、
前記無機フィラーBと前記熱可塑性樹脂Cとをあらかじめ溶融混練することで得られる樹脂組成物と、前記熱可塑性樹脂Aと、を溶融混練する、耐トラッキング性を有する高電圧絶縁用成形品の製造方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂A、無機フィラーBおよび前記熱可塑性樹脂A以外の前記無機フィラーBと親和性を有する熱可塑性樹脂Cを含む樹脂組成物からなる耐トラッキング性を有する高電圧絶縁用成形品の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂Cは、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体であり、
板状充填剤である前記無機フィラーBと前記熱可塑性樹脂Cとをあらかじめ溶融混練することで得られる樹脂組成物と、前記熱可塑性樹脂Cで被覆されていない繊維状充填剤である無機フィラーBと、前記熱可塑性樹脂Aと、を溶融混練する、耐トラッキング性を有する高電圧絶縁用成形品の製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂A、無機フィラーBおよび前記熱可塑性樹脂A以外の前記無機フィラーBと親和性を有する熱可塑性樹脂Cを含む樹脂組成物からなる高電圧絶縁用成形品の耐トラッキング性向上方法であって、
前記無機フィラーBは、板状充填剤であり、
前記熱可塑性樹脂Cは、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体であり、
前記無機フィラーBと前記熱可塑性樹脂Cとをあらかじめ溶融混練することで得られる樹脂組成物と、前記熱可塑性樹脂Aと、を溶融混練する、耐トラッキング性向上方法。
【請求項9】
熱可塑性樹脂A、無機フィラーBおよび前記熱可塑性樹脂A以外の前記無機フィラーBと親和性を有する熱可塑性樹脂Cを含む樹脂組成物からなる高電圧絶縁用成形品の耐トラッキング性向上方法であって、
前記熱可塑性樹脂Cは、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体であり、
板状充填剤である前記無機フィラーBと前記熱可塑性樹脂Cとをあらかじめ溶融混練することで得られる樹脂組成物と、前記熱可塑性樹脂Cで被覆されていない繊維状充填剤である無機フィラーBと、前記熱可塑性樹脂Aと、を溶融混練する、耐トラッキング性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧絶縁用成形品、高電圧絶縁用成形品の製造方法および高電圧絶縁用成形品による耐トラッキング性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂からなる高電圧絶縁用成形品は、優れた機械的特性、電気的特性、耐熱性、耐候性、耐水性、耐薬品性および耐溶剤性に優れる等の理由により、自動車部品、電気・電子部品、産業用機械等の種々の用途に広く利用されている。
【0003】
リレー、スイッチ、コネクタ等の電気電子部品の電源近傍で使用される樹脂製の部品は、使用される過程で表面に水分や埃等が付着して微小放電が繰り返されると、表面に導電性の経路が生成され絶縁破壊現象(トラッキング)が発生し電極間を短絡してしまうことがある。そのため、電気電子部品の近傍で使用される部品を構成する樹脂は、耐トラッキング性を有することが求められている。
【0004】
例えば、上記電気電子部品としては、ICT装置への給電信頼性用のバックアップ用の蓄電池部品、太陽光発電・燃料電池等のパワーコンデショナー部品、電気自動車のインバーターや高電圧コネクタ等が挙げられる。また、部品の小型化が進む中で、高電圧部品の表面において十分に長い絶縁距離を確保することが難しくなっており、トラッキング現象が従来よりも発生しやすくなっている。そのため、そのような高電圧部品に使用する熱可塑性樹脂には、より高い耐トラッキング性が要求されているが、従来の熱可塑性樹脂からなる高電圧絶縁用成形品では、十分な耐トラッキング性を示すことができなかった。
【0005】
そこで、耐トラッキング性を、材料面から改善するための検討が行われている。例えば、特許文献1には、電気自動車部品用樹脂組成物であって、ポリフェニレンサルファイド樹脂、無機充填剤およびエラストマーの混合物において、ポリフェニレンサルファイド樹脂の構造を所定の構造にすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-147960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この技術では特定の樹脂については効果が見られるものの、汎用性に劣るため、汎用的な方法によるさらなる改善が求められている。
【0008】
本発明の目的は、機械的物性を維持しながらも、汎用的に耐トラッキング性を発揮する熱可塑性樹脂を含有する高電圧絶縁用成形品、高電圧絶縁用成形品の製造方法および高電圧絶縁用成形品による耐トラッキング性向上方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、下記1~7によって達成された。
1. 少なくとも、熱可塑性樹脂A、無機フィラーBおよび前記無機フィラーBと親和性を有する熱可塑性樹脂Cを含む樹脂組成物からなる高電圧絶縁用成形品であって、前記無機フィラーBが前記熱可塑性樹脂Cにより被覆されている高電圧絶縁用成形品。
2. 前記熱可塑性樹脂Cが脂肪族熱可塑性樹脂である前記1に記載の高電圧絶縁用成形品。
3. 前記無機フィラーBが板状充填剤である前記1または2に記載の高電圧絶縁用成形品。
4. 前記無機フィラーBが炭素繊維である前記1または2に記載の高電圧絶縁用成形品。
5. 前記高電圧絶縁用成形品が、コネクタ、イグニッション部品、コイル部品、電池部品、回路部材のいずれかである前記1~4のいずれかに記載の高電圧絶縁用成形品。
6. 熱可塑性樹脂A、無機フィラーBおよび前記熱可塑性樹脂A以外の前記無機フィラーBと親和性を有する熱可塑性樹脂Cを含む樹脂組成物からなる耐トラッキング性を有する高電圧絶縁用成形品の製造方法であって、前記無機フィラーBと熱可塑性樹脂Cとをあらかじめ溶融混練することで、前記無機フィラーBを前記熱可塑性樹脂Cで被覆してから、前記熱可塑性樹脂Aと溶融混練する、耐トラッキング性を有する高電圧絶縁用成形品の製造方法。
7. 熱可塑性樹脂A、無機フィラーBおよび前記熱可塑性樹脂A以外の前記無機フィラーBと親和性を有する熱可塑性樹脂Cを含む樹脂組成物からなる高電圧絶縁用成形品の耐トラッキング性向上方法であって、前記無機フィラーBと熱可塑性樹脂Cとをあらかじめ溶融混練することで、前記無機フィラーBを前記熱可塑性樹脂Cで被覆してから、前記熱可塑性樹脂Aと溶融混練する、耐トラッキング性向上方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機械的特性を維持しながらも、汎用的に耐トラッキング性を発揮する熱可塑性樹脂からなる高電圧絶縁用成形品、高電圧絶縁用成形品の製造方法および高電圧絶縁用成形品による耐トラッキング性向上方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物を製造するための押出機の概略図である。
図2図2は、本発明の実施例における評価用の成形片の断面の電子顕微鏡写真である。
図3図3は、本発明の比較例における評価用の試験片の断面の電子顕微鏡写真である。
図4図4は、本発明の比較例における評価用の成形片の断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の高電圧絶縁用成形品は、少なくとも、熱可塑性樹脂A、無機フィラーBおよび上記熱可塑性樹脂A以外の上記無機フィラーBと親和性を有する熱可塑性樹脂Cを含む樹脂組成物からなる高電圧絶縁用成形品であって、上記無機フィラーBが上記熱可塑性樹脂Cにより被覆されていることを特徴とする。
【0013】
<熱可塑性樹脂A>
本発明の熱可塑性樹脂Aとしては、結晶性熱可塑性樹脂や非晶性熱可塑性樹脂等、溶融加工性を有する樹脂が好適に用いられる。
【0014】
[結晶性熱可塑性樹脂]
結晶性熱可塑性樹脂の例には、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)等のポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等のポリアリーレンサルファイド樹脂(PAS)、ポリアミド樹脂(PA)等が含まれる。
【0015】
≪ポリアセタール樹脂≫
本発明のポリアセタール樹脂とは、オキシメチレン基(-CHO-)を主たる構成単位とする高分子化合物のことをいい、オキシメチレン基のみを構成単位とするポリオキシメチレンホモポリマー、またはオキシメチレン基を主たる繰り返し単位とし、これ以外に他の構成単位、例えば、エチレンオキサイド、1,3-ジオキソラン、1,4-ブタンジオール等のコモノマーに由来する構成単位を少量含有するコポリマーのいずれも使用可能である。
【0016】
本発明のポリアセタール樹脂は、機構部品としての機械的物性を維持する観点から、ポリアセタールホモポリマー及び/又はオキシメチレンユニットを主たる構成単位とする重合体中に、炭素数が2以上のオキシアルキレンユニットを0.1~2.8%含有して成るポリアセタールコポリマーであることが好ましい。
【0017】
また、上記ポリアセタール樹脂は、ポリアセタール樹脂の一部もしくは全部がターポリマー、ブロックポリマーであっても良い。また、線状構造のみならず、分岐または架橋構造を有するものであってもよく、他の有機基を導入した公知の変性ポリオキシメチレンであってもよい。なお、重合度に関しては特に制限はなく、溶融成形加工性を有するものであればよい。
【0018】
≪ポリエステル樹脂≫
本発明のポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸化合物及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分と、ジオール化合物及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジオール成分との反応により得られるポリエステル樹脂のことをいう。また、上記ジカルボン酸成分およびジオール成分の少なくとも1種は、芳香族化合物を含むものである。
【0019】
ジカルボン酸成分の例には、脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドテカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ダイマー酸等のC4-40のジカルボン酸、好ましくはC4-14のジカルボン酸)、脂環式ジカルボン酸(例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ハイミック酸等のC4-40のジカルボン酸、好ましくはC8-12のジカルボン酸)、芳香族ジカルボン酸(例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、メチルイソフタル酸、メチルテレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエーテルジカルボン酸、4,4’-ジオキシ安息香酸、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸等のC8-16のジカルボン酸)、またはこれらの誘導体(例えば、低級アルキルエステル、アリールエステル、酸無水物等のエステル形成可能な誘導体)等が含まれる。これらのジカルボン酸成分は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0020】
これらのジカルボン酸成分の中では、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が特に好ましい。また、ジカルボン酸成分中には、芳香族ジカルボン酸が50モル%以上含まれていることが好ましく、80モル%以上含まれていることがより好ましく、90モル%以上含まれていることがさらに好ましい。
【0021】
なお、必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体(アルコールエステル等)等を併用してもよい。このような多官能性化合物を併用することにより、分岐状のポリエステル樹脂を得ることができる。
【0022】
ジオール成分の例には、脂肪族アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール等のC2-12の脂肪族ジオール、好ましくはC2-10の脂肪族ジオール)、ポリオキシアルキレングリコール(C2-4のアルキレン基であり、複数のオキシアルキレン単位を有するグリコール、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等)、脂環族ジオール(例えば、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等)等が含まれる。これらのジオール成分の中では、C2-10アルキレングリコール(エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等の直鎖状アルキレングリコール)等が好ましい。
【0023】
また、ジオール成分として、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、キシリレングリコール等の芳香族ジオールを併用してもよい。これらのジオール成分は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0024】
ジオール成分中には、C2-10アルキレングリコールが50モル%以上含まれていることが好ましく、80モル%以上含まれていることがより好ましく、90モル%以上含まれていることが特に好ましい。
【0025】
なお、必要に応じて、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等のポリオールまたはそのエステル形成性誘導体を併用してもよい。このような多官能性化合物を併用することにより、分岐状のポリエステル樹脂を得ることができる。
【0026】
ポリエステル樹脂としては、上述のジカルボン酸成分とジオール成分を2種以上組み合せたコポリエステルや、他の共重合可能なモノマー(以下、「共重合性モノマー」ともいう)として、オキシカルボン酸成分、ラクトン成分等を組み合わせたコポリエステルも使用できる。
【0027】
オキシカルボン酸(またはオキシカルボン酸成分、またはオキシカルボン酸類)の例には、オキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ヒドロキシフェニル酢酸、グリコール酸、オキシカプロン酸等のオキシカルボン酸またはこれらの誘導体等が含まれる。ラクトンの例には、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(例えば、ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン等が含まれる。
【0028】
なお、コポリエステルにおいて、共重合性モノマーの割合は、0.01モル%以上30モル%以下であることが好ましく、1モル%以上30モル%以下であることがより好ましく、3モル%以上25モル%以下がさらに好ましく、5モル%以上20モル%以下が特に好ましい。また、ホモポリエステルとコポリエステルとを組み合わせて使用する場合、ホモポリエステルとコポリエステルとの割合は、共重合性モノマーの割合が、全単量体に対して0.1モル%以上30モル%以下であることが好ましく、1モル%以上25モル%以下であることがより好ましく、5モル%以上25モル%以下がさらに好ましい。また、これらの質量比は、ホモポリエステル/コポリエステル=99/1~1/99(質量比)が好ましく、95/5~5/95(質量比)がより好ましく、90/10~10/90(質量比)がさらに好ましい。
【0029】
ポリエステル樹脂の例には、アルキレンテレフタレート、アルキレンナフタレート等のアルキレンアリレート単位を主成分(例えば、50~100モル%、好ましくは75~100モル%)とするホモポリエステルまたはコポリエステル[例えば、ポリアルキレンテレフタレート(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリC2-4アルキレンテレフタレート)、1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリアルキレンナフタレート(例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリC2-4アルキレンナフタレート)等のホモポリエステル;アルキレンテレフタレート及び/又はアルキレンナフタレート単位を主成分(例えば、50モル%以上)として含有するコポリエステル]が含まれる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0030】
これらのポリエステル樹脂の中では、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、テトラメチレン-2,6-ナフタレート等のC2-4アルキレンアリレート単位を80モル%以上(特に90モル%以上)含むホモポリエステル樹脂またはコポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等)が好ましい。
【0031】
本発明のポリエステル樹脂の固有粘度(IV)は、1.2dL/g以下であることが好ましく、0.6dL/g以上であることがより好ましく、0.7~1.0dL/gであることがさらに好ましく、0.7~0.9dL/gであることが特に好ましい。
【0032】
固有粘度が0.6よりも低いと加水分解による強度や靭性の低下が大きく、また1.2dL/gを超えると混練時に、熱可塑性樹脂Cで被覆した無機フィラーBの熱可塑性樹脂Cを剥がしてしまい、効果を損なう場合がある。異なる固有粘度を有するポリエステル樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。
【0033】
例えば、固有粘度1.0dL/gのポリエステル樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリエステル系樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリエステル系樹脂を調製することができる。なお、ポリエステル樹脂の固有粘度(IV)は、o-クロロフェノール中で35℃の条件で測定することができる。
【0034】
また、本発明のポリエステル樹脂のカルボン酸末端濃度は、0.5~30meq/kgであることが好ましく、0.5~25meq/kgであることがより好ましく、0.5~12meq/kgであることがさらに好ましい。カルボン酸末端濃度をこの範囲とするためには、ポリエステル樹脂の末端基が少ない高分子量のポリマーを使用しても良いし、固有粘度(IV)=0.1~0.8dL/gの溶融重合品を固相重合により高分子化して使用しても良い。
【0035】
固相重合を用いる場合、処理温度が高いと末端カルボキシル基が増加するため、低温で長時間処理することが望ましい。処理温度としては、減圧下もしくは不活性ガス雰囲気下で、120~220℃であることが好ましく、140~200℃であることがより好ましく、150~190℃であることがさらに好ましい。
【0036】
なお、カルボン酸末端濃度は、重合により得られたポリエステル樹脂ペレットの粉砕試料を、ベンジルアルコール中、215℃で10分間溶解後、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液にて滴定することにより求めることができる。
【0037】
≪ポリアミド樹脂≫
本発明のポリアミド樹脂とは、ジアミンとジカルボン酸とから誘導されるポリアミド樹脂;アミノカルボン酸とジアミン及び/又はジカルボン酸とを併用して得られるポリアミド樹脂;ラクタムと、ジアミン及び/又はジカルボン酸との併用により誘導されたポリアミド樹脂のことをいう。また、ポリアミド樹脂の例には、少なくとも2種の異なったポリアミド形成成分により形成されるコポリアミドも含まれる。
【0038】
ジアミンの例には、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;フェニレンジアミン、メタキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン;ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタンなどの脂環族ジアミンが含まれる。これらのジアミンは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0039】
ジカルボン酸の例には、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸やテレフタル酸、ナフタレンカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸やシクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、オクタデカン二酸などのC4-20脂肪族ジカルボン酸;二量体化脂肪酸(ダイマー酸)などが含まれる。
【0040】
アミノカルボン酸の例には、アミノヘプタン酸、アミノノナン酸、アミノウンデカン酸などのC4-20アミノカルボン酸が含まれる。ラクタムの例には、ブチロラクタム、ビバロラクタム、カプロラクタム、カプリルラクタム、エナントラクタム、ウンデカノラクタム、ドデカラクタムなどのC4-20ラクタムが含まれる。これらのラクタムは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0041】
ポリアミド樹脂の例には、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、などの脂肪族ポリアミド、芳香族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸)と脂肪族ジアミン(例えば、ヘキサメチレンジアミン)とから得られるポリアミド、脂肪族ジカルボン酸(例えば、アジピン酸)と芳香族ジアミン(例えば、メタキシリレンジアミン)とから得られるポリアミド、芳香族および脂肪族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸とアジピン酸)と脂肪族ジアミン(例えば、ヘキサメチレンジアミン)とから得られるポリアミドなどが含まれる。なお、これらのポリアミドは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0042】
≪ポリアリーレンサルファイド樹脂≫
本発明のポリアリーレンサルファイド樹脂とは、主として、繰返し単位として(-Ar-S-)(但しArはアリーレン基)で構成された高分子化合物のことをいう。本実施の形態では、一般的に知られている分子構造のポリアリーレンサルファイド樹脂を使用することができる。なお、ポリアリーレンサルファイド樹脂は、上記繰返し単位のみからなるホモポリマーでもよいし、加工性等の点から、後述する異なる繰返し単位を含んだコポリマーが好ましい場合もある。
【0043】
上記アリーレン基の例には、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’-ジフェニレンスルフォン基、p,p’-ビフェニレン基、p,p’-ジフェニレンエーテル基、p,p’-ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基などが含まれる。
【0044】
ホモポリマーとしては、アリーレン基として、p-フェニレン基に含まれるp-フェニレンサルファイド基を繰返し単位とするポリフェニレンサルファイド樹脂が好ましい。また、コポリマーとしては、上記アリーレン基に含まれるアリーレンサルファイド基の中で、異なる2種以上のアリーレン基の組み合わせが可能である。これらの中では、上記p-フェニレンサルファイド基と、m-フェニレンサルファイド基との組み合わせが特に好ましい。
【0045】
また、耐熱性、成形性、機械的特性等の物性上の観点から、ポリアリーレンサルファイド樹脂中、p-フェニレンサルファイド基を70モル%以上含むものが好ましく、80モル%以上含むものがより好ましい。また、ポリアリーレンサルファイド樹脂の中では、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる直鎖状構造を有するポリアリーレンサルファイド樹脂が特に好ましい。
【0046】
なお、本実施の形態に用いるポリアリーレンサルファイド樹脂は、分子量の異なる2種以上のポリアリーレンサルファイド樹脂を混合したものを用いてもよい。
【0047】
直鎖状構造のポリアリーレンサルファイド樹脂以外にも、縮重合させるときに、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造または架橋構造を有するポリマーや、低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素等の存在下、高温で加熱して酸化架橋又は熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマー等がある。
【0048】
[非晶性熱可塑性樹脂]
非晶性熱可塑性樹脂の例には、ポリカーボネート樹脂(PC)、スチレン系樹脂、環状オレフィン(共)重合体(COP、COC)等が含まれる。これらの中では、耐熱性の観点から、ポリカーボネート樹脂、環状オレフィン(共)重合体が特に好ましい。本発明の非晶性熱可塑性樹脂は、公知の方法により製造できる。
【0049】
≪ポリカーボネート樹脂≫
本発明のポリカーボネート樹脂とは、ジヒドロキシ化合物と、ホスゲンまたはジフェニルカーボネート等の炭酸エステルと、の反応により得られる重合体のことをいう。ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。
【0050】
ジヒドロキシ化合物の例には、脂環族化合物(例えば、脂環式ジオール)およびビスフェノール化合物が含まれる。これらの中では、ビスフェノール化合物が好ましい。
【0051】
ビスフェノール化合物の例には、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパン、2,2,2’,2’-テトラヒドロ3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビ-[1H-インデン]-6,6’-ジオール等のビス(ヒドロキシアリール)C1-10アルカン、好ましくはビス(ヒドロキシアリール)C1-6アルカン;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)C4-10シクロアルカン;4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル等のジヒドロキシアリールエーテル;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシアリールスルホン;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシアリールスルフィド;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフォキシド等のジヒドロキシアリールスルフォキシド;4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルケトン等のジヒドロキシアリールケトンが含まれる。
【0052】
ポリカーボネート樹脂は、ホモポリカーボネートであってもよいし、コポリカーボネートであってもよい。また、これらのポリカーボネート樹脂は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0053】
≪スチレン系樹脂≫
本発明のスチレン系樹脂とは、スチレン系単量体(スチレン、ビニルトルエンなど)の単独または共重合体;スチレン系単量体とビニル系単量体[(メタ)アクリル系単量体(例えば、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸など)]のことをいう。
【0054】
これらのスチレン系樹脂の中では、ポリスチレン(GPPS)、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、ゴム成分(ポリブタジエン、アクリルゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、EPDM、EVAなど)にスチレン系単量体と、必要により共重合性単量体(アクリロニトリル、メタクリル酸メチルなど)とが重合したグラフト共重合体[耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ABS樹脂など]が好ましい。
【0055】
≪環状オレフィン(共)重合体≫
環状オレフィン(共)重合体は、環状オレフィン成分を共重合成分として含むものであり、環状オレフィン成分を主鎖に含むポリオレフィン系樹脂であれば、特に限定されるものではない。環状オレフィン(共)重合体の例には、環状オレフィンの付加重合体またはその水素添加物、環状オレフィンとα-オレフィンとの付加共重合体またはその水素添加物等が含まれる。
【0056】
環状オレフィン(共)重合体は、さらに極性基を有する不飽和化合物をグラフト及び/または共重合したものを含んでもよい。
【0057】
上記極性基の例には、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等が含まれる。極性基を有する不飽和化合物の例には、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1~10)エステル、マレイン酸アルキル(炭素数1~10)エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル等が含まれる。
【0058】
本発明において、環状オレフィン(共)重合体は、環状オレフィンとα-オレフィンとの付加共重合体またはその水素添加物が好ましい。
【0059】
また、本発明に用いられる環状オレフィン成分を共重合成分として含む環状オレフィン(共)重合体としては、市販の樹脂を用いることも可能である。市販品の例には、TOPAS(登録商標)(Topas Advanced Polymers社製)、アペル(登録商標)(三井化学社製)、ゼオネックス(登録商標)(日本ゼオン社製)、ゼオノア(登録商標)(日本ゼオン社製)、アートン(登録商標)(JSR社製)等が含まれる。
【0060】
<無機フィラーB>
本発明の無機フィラーBとは、繊維状充填剤、板状充填剤、または粉粒状充填剤のことをいう。
【0061】
繊維状充填剤の例には、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ-アルミナ繊維、アルミニウムシリケート繊維、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、ウィスカー(炭化ケイ素、アルミナ、窒化珪素等のウィスカー)の無機質繊維が含まれる。
【0062】
板状充填剤の例には、タルク、マイカ、ガラスフレーク、グラファイト等が含まれる。粉粒状充填剤の例には、ガラスビーズ、ガラス粉、ミルドファイバー(例えば、ミルドガラスファイバー等)、ウォラストナイト(珪灰石)が含まれる。これらの中では、反り変形の観点から、板状充填剤のマイカであることが好ましい。
【0063】
繊維状充填剤の平均径は、1μm~30μmが好ましく、5μm~20μmがより好ましく、10~15μmがさらに好ましい。繊維状充填剤の平均長は、100μm~5mmが好ましく、300μm~4mmがより好ましく、500μm~3.5mmがさらに好ましい。
【0064】
また、板状または粉粒状充填剤の平均一次粒子径は、0.1μm~500μmが好ましく、1μm~100μmがより好ましい。これらの無機充填剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0065】
なお、繊維状充填剤の平均径および平均長、並びに板状、または粉粒状充填剤の平均一次粒子径は、樹脂組成物中に配合される前の繊維状充填材、板状、または粉粒状充填剤を、CCDカメラで撮影した画像を解析し、加重平均により算出した値である。これらは、例えば、動的画像解析法/粒子(状態)分析計「PITA-3」(株式会社セイシン企業製)を用いて算出することができる。なお、板状または粉状充填材のアスペクト比は、特に限定されず、例えば、1以上10以下とすることができる。
【0066】
無機フィラーの繊維長(溶融混練などにより組成物に調製する前の状態)は0.01~10mmが好ましく、直径は5~20μmが好ましい。
【0067】
なお、無機フィラーBとして、炭素繊維も使用することができる。炭素繊維は導電性物質であり、トラッキング性を悪化させることが知られているが、炭素繊維であっても各繊維の表面を後述する熱可塑性樹脂Cで被覆することにより、絶縁性を付与することができる。
【0068】
<熱可塑性樹脂C>
本発明の熱可塑性樹脂Cは、無機フィラーBを被覆することができれば特に制限はない。熱可塑性樹脂Cの例には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、エラストマー等が含まれる。エラストマーの例には、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、シリコーン系エラストマー等が含まれる。熱可塑性樹脂Cは、高電圧の印加による局所発熱しても炭化しにくいという観点から、脂肪族熱可塑性樹脂であることが好ましく、オレフィン系エラストマーであることが最も好ましい。
【0069】
≪ポリエチレン樹脂≫
本発明のポリエチレン樹脂は、エチレン単独重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体である。エチレン-α-オレフィン共重合体の例には、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体などが含まれる。また、α-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンが好ましい。
【0070】
なお、ポリエチレン樹脂を密度もしくは形状で分類した場合には、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)のいずれでも構わない。
【0071】
≪ポリプロピレン樹脂≫
本発明のポリプロピレン樹脂とは、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレンブロック共重合体(プロピレン単独重合体成分または主にプロピレンからなる共重合体成分と、エチレンおよびα-オレフィンから選択されるモノマーの少なくとも1種と、プロピレンとを共重合して得られる共重合体とからなる)のことをいう。これらのポリプロピレン樹脂は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0072】
ポリプロピレン樹脂に用いられるα-オレフィンの中では、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセンが好ましく、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンがより好ましい。
【0073】
プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体の例には、プロピレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-1-ヘキセンランダム共重合体、プロピレン-1-オクテンランダム共重合体などが含まれる。
【0074】
プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体の例には、例えば、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-エチレン-1-オクテン共重合体などが含まれる。
【0075】
プロピレンブロック共重合体の例には、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン)共重合体、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)共重合体、(プロピレン)-(プロピレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン)-(プロピレン-1-ヘキセン)共重合体、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン)共重合体、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)共重合体、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-1-ヘキセン)共重合体、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン)共重合体、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)共重合体、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-ブテン)共重合体、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-ヘキセン)共重合体などが含まれる。
【0076】
≪ポリスチレン系樹脂≫
本発明のポリスチレン系樹脂とは、スチレン系単量体(スチレン、ビニルトルエンなど)の単独または共重合体;スチレン系単量体とビニル系単量体[(メタ)アクリル系単量体(例えば、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸など)のことをいう。
【0077】
ポリスチレン系樹脂の中では、ポリスチレン(GPPS)、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、ゴム成分(ポリブタジエン、アクリルゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、EPDM、EVAなど)にスチレン系単量体と必要により共重合性単量体(アクリロニトリル、メタクリル酸メチルなど)が重合したグラフト共重合体[耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ABS樹脂など]が好ましい。
【0078】
≪オレフィン系エラストマー≫
本発明のオレフィン系エラストマーとは、エチレン及び/又はプロピレンを成分として含む共重合体のことをいう。オレフィン系エラストマーの例には、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等が含まれる。オレフィン系エラストマーは、これらに限定されるものではないが、特に無機フィラーとの反応性基を有する、エポキシ基含有オレフィン系共重合体が最も好ましい。
【0079】
また、オレフィン系エラストマーとして、エチレン-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、またはα-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとから成るオレフィン系共重合体に、下記一般式(1)で示される繰返し単位で構成された重合体または共重合体の一種または二種以上が、分岐または架橋構造的に化学結合したグラフト共重合体を用いてもよい。
【0080】
【化1】
(但し、Rは水素または低級アルキル基、Xは-COOCH、-COOC、-COOC、-COOCHCH(C)C、-C、-CNから選択される基を示す)
【0081】
α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン等のC2~4のオレフィンが好ましく、エチレン、プロピレンがより好ましい。α,β-不飽和酸グリシジルエステルとしては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートが好ましい。その他、C1~12の(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル等の第3成分を共重合させてもよい。
【0082】
オレフィンおよびグリシジルエステルは、共重合体中にそれぞれ30~90モル%、70~10モル%の範囲で含まれるように調整することができ、第3成分は0~30モル%の範囲で含まれるように調整することができる。
【0083】
本発明では、オレフィン系エラストマーはエチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(以下、「EGMA」ともいう)であることが好ましい。エチレンに対するグリシジルメタクリレートの割合は特に制限されるものではないが、共重合体の変性部位を各単量体質量に換算し、共重合体100質量部に対する割合として1~30質量部が好ましく、3~20質量部がより好ましく、8~15質量部が特に好ましい。
【0084】
≪スチレン系エラストマー≫
本発明のスチレン系エラストマーとは、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル単量体の単独または共重合体で構成されたハードセグメントと、α-オレフィン(エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどのα-C2-12オレフィンなど)、ジエン系単量体(ブタジエン、イソプレンなど)などから選択された少なくとも一種の単量体の単独または共重合体で構成されたソフトセグメントとのブロックまたはグラフト共重合体(またはその水素添加物)のことをいう。
【0085】
また、上記スチレン系エラストマーは、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸などの酸または酸無水物で変性された酸変性エラストマー、グリシジル基やエポキシ基を有する共重合性モノマー(グリシジル(メタ)アクリレートなど)を用いたり、エラストマーの不飽和結合をエポキシ化したりして得られたエポキシ変性エラストマーなどの反応性官能基を有するエラストマーであってもよい。
【0086】
代表的なスチレン系エラストマーの例には、スチレン-ジエン-スチレンブロック共重合体[スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)など]、水素添加ブロック共重合体[スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(または水添(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS))、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(または水添(スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SEPS))、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、ランダムスチレン-ブタジエン共重合体の水素添加重合体など]、これらの共重合体に官能基(エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基など)が導入された変性共重合体[ジエンの不飽和結合がエポキシ化されたエポキシ化スチレン-ジエン共重合体(エポキシ化スチレン-ジエン-スチレンブロック共重合体またはその水素添加重合体など)など]が含まれる。
【0087】
≪シリコーン系エラストマー≫
本発明のシリコーン系エラストマーとは、ポリジメチルシロキサン系、ポリメチルフェニルシロキサン系、およびポリジフェニルシロキサン系に分けられる、オルガノポリシロキサンを主成分として含むエラストマーのことをいう。オルガノポリシロキサンの一部は、ビニル基、アルコキシ基等で変性されていてもよい。シリコーン系エラストマーの例には、シリコーンゴム(ポリ(ジメチルシロキサン)およびポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルビニルシロキサン))等が含まれる。
【0088】
シリコーン系エラストマーの市販品の例には、KEシリーズ(信越化学社製)、SEシリーズ、CYシリーズおよびSHシリーズ(東レダウコーニングシリコーン社製)等が含まれる。
【0089】
本発明の無機フィラーBは、その表面が熱可塑性樹脂Cによって被覆されていることを特徴とする。被覆されているか否かは、高電圧絶縁用成形品(以下、「成形品」ともいう)の断面を走査電子顕微鏡(SEM)によって、もしくはフーリエ変換型赤外分光法(FT-IR)によって確認することができる。
【0090】
熱可塑性樹脂Cによって被覆された無機フィラーBは、熱可塑性樹脂Cと無機フィラーBとを溶融混錬する被覆処理工程によって製造することができる。熱可塑性樹脂Cで被覆処理された無機フィラーBを、熱可塑性樹脂Aに溶融混練する。
【0091】
上記被覆処理された無機フィラーBは、例えば、走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製)を用いて、その断面を20000倍率で観察することにより確認できる。
【0092】
また、FT-IR測定では、あらかじめ測定した熱可塑性樹脂Cの吸収ピークを参照して、上記被覆処理された無機フィラーBの吸収ピークに熱可塑性樹脂C由来の吸収ピークが表れている否かで、無機フィラーBが熱可塑性樹脂Cによって被覆されているかを確認できる。
【0093】
高電圧絶縁用成形品の樹脂組成物は、無機フィラーの表面に熱可塑性樹脂Cを被覆させる製造工程を経たのち、熱可塑性樹脂Aを添加し、さらに溶融混錬することによって製造することができる。
【0094】
上記樹脂組成物の製造方法の例には、押出機にて無機フィラーBと熱可塑性樹脂Cとを溶融混練し、ペレット(マスターバッチ)を製造した後、熱可塑性樹脂Aと上記マスターバッチを再び溶融混練してペレット化したものを、射出成形機により作製する方法、上記マスターバッチおよび熱可塑性樹脂Aを任意の比率でブレンド後、直接射出成形機に投入して作製する方法が含まれる。
【0095】
また、上記樹脂組成物の製造方法の別の例には、無機フィラーBと熱可塑性樹脂Cとを押出機に投入し溶融混練した後、熱可塑性樹脂Aを投入して溶融混練し、ペレット化後、射出成型を行う方法が含まれる。この場合、いわゆるタンデム型押出機を用いて混練してもよい。タンデム型押出機は、各バレルでの使用スクリュー数、混練パターン、混練温度などを細かく設定することが可能である。このような方法を用いて、熱可塑性樹脂Cにより被覆されている無機フィラーBが、熱可塑性樹脂A中に分散された状態の成形品を得ることができる。
【0096】
なお、熱可塑性樹脂Cを、無機フィラーBを被覆するために添加された熱可塑性樹脂Cに追加して、熱可塑性樹脂Aとの溶融混錬時に添加してもよい。
【0097】
本発明において、無機フィラーBの含有量は、熱可塑性樹脂A(100質量部)に対して20~200質量部であることが好ましく、30~160質量部であることがより好ましい。
【0098】
本発明においては、熱可塑性樹脂Cで被覆処理された無機フィラーB以外に、被覆処理されていない無機フィラーBNを配合することもできる。配合量は、所望の機械的物性により適宜選択されるが、100質量部の熱可塑性樹脂Aに対して0~200質量部であることが好ましい。
【0099】
本発明においては、熱可塑性樹脂Cは無機フィラーBと親和性を有することが好ましい。本発明において、「親和性を有する」とは、樹脂組成物の成形時等の溶融混練時に熱可塑性樹脂Cが無機フィラーBの表面から剥離しないことをいう。
【0100】
熱可塑性樹脂Cと無機フィラーBとの間に親和性を持たせるために、無機フィラーBと反応性を有する官能基を含む熱可塑性樹脂Cを用いてもよいし、疎水性を減少するように表面処理された無機フィラーBを用いてもよいし、熱可塑性樹脂Cの官能基と反応性を有する官能基や、熱可塑性樹脂Cの官能基と水素結合可能な官能基を有する無機フィラーBを用いてもよい。また、熱可塑性樹脂Aよりも高粘度の熱可塑性樹脂Cを選択し、熱可塑性樹脂Aとの溶融混練時に、熱可塑性樹脂Cのせん断組成変形を減じるものであってもよい。
【0101】
<その他の成分>
本発明においては、上述の各成分の他、滑剤、酸化防止剤を含むことが好ましい。
【0102】
また、本発明においては、バリ抑制剤、離型剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、熱安定剤、耐候性安定剤、腐食防止剤等の一般に熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤を配合してもよい。
【0103】
<高電圧絶縁用成形品>
本発明の高電圧絶縁用成形品は、上述した成形品用の樹脂組成物を成形してなる。本発明の成形品を作製する方法としては、特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。公知の方法の例には、上述した樹脂組成物を押出機に投入し、溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入して、射出成形する方法が含まれる。
【0104】
本発明の高電圧絶縁用成形品は、コネクタ、イグニッション部品、コイル部品、電池部品、回路部材である場合に、特に効果を発揮することができる。
【実施例
【0105】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。評価は、特に断りのない限り、23℃で50%RHの雰囲気下で行った。
【0106】
<材料>
以下の材料を使用し、評価用の成形片および試験片を作製した。使用量(質量部)は、表1に示す。
(熱可塑性樹脂A)
A1:ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT、固有粘度0.69dL/g、カルボン酸末端濃度23meq/k)
(無機フィラーB)
B:マイカ(ミカレット21PU)
BN:ガラス繊維(T187、直径13μm、長径3.0mm)
(熱可塑性樹脂C)
C:エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(ボンドファースト7L)
(樹脂組成物)
R:「B:C=10:10(質量部)」でブレンド後、溶融混練しマスターバッチ化したもの
(その他の成分)
P:酸化防止剤(イルガノックス1010)
Q:滑剤(サンワックス161-P)
【0107】
ここで、上記A1はポリプラスチックス社製である。上記Bは株式会社ヤマグチマイカ製(ミカレットは同社の登録商標)であり、上記BNは日本電気硝子株式会社製である。上記Cは住友化学株式会社製(ボンドファーストは同社の登録商標)である。上記PはBASFジャパン社製(イルガノックスは同社の登録商標)であり、上記Qは三洋化成工業株式会社製(サンワックスは同社の登録商標)である。
【0108】
(装置)
図4は、評価用の樹脂組成物の製造するための装置の概略図である。当該装置は、COフィードX、サイドフィードY、ホッパー1、モーター2、スクリュー3、シリンダー4、ストランドバス5およびカッター6を備える。カッター6で、熱可塑性樹脂組成物がペレット状となって排出口から排出される。なお、装置の各構成要素についての説明は省略する。
【0109】
<樹脂組成物Rの製造>
シリンダー4の温度190℃で、BとCとを表1に記載の配合量で溶融混練後、ペレタイズすることにより樹脂組成物Rを得た。なお、樹脂組成物Rをマスターバッチともいう。
【0110】
(実施例1)
熱可塑性樹脂Aと上記ペレタイズしたマスターバッチ(R)およびその他の成分である酸化防止剤Pと、滑剤Qとをホッパー1に投入し、次いで、ガラス繊維BNをサイドフィードYに投入し、シリンダー4の温度260℃で混練後、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(Pelet)を得た。
【0111】
上記熱可塑性樹脂組成物を用いて、射出成形機「S-2000i100B」(ファナック株式会社製)にてシリンダー温度260℃、金型温度80℃で、70×50×3mmの耐トラッキング評価用の成形片を作製した。
また、同様の熱可塑性樹脂組成物を用いて、射出成形機「EC40」(東芝機械株式会製)にてシリンダー温度260℃、金型温度80℃で、ISO3167に準拠したISO多目的試験片 Type-1A(引張特性評価用試験片)を作製した。
【0112】
図1に示されるように、上記耐トラッキング評価用の成形片の断面を電子顕微鏡(×20000倍)で観察したところ、無機フィラーBが熱可塑性樹脂Cにより被覆されていることを確認した。
【0113】
(比較例1)
熱可塑性樹脂A、熱可塑性樹脂C、無機フィラーBおよびその他の成分である酸化防止剤Pと、滑剤Qとをホッパー1に投入し、ガラス繊維BNをサイドフィードYに投入し、シリンダー4の温度260℃で混練後、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(Pelet)を得た。
【0114】
上記樹脂組成物を用いて射出成形機「S-2000i100B」にてシリンダー温度260℃、金型温度80℃で、70×50×3mmの耐トラッキング評価用の成形片を作製した。
また、引張特性評価用に上記樹脂組成物を用いて、射出成形機「EC40」にてシリンダー温度260℃、金型温度80℃で、ISO3167に準拠したISO多目的試験片Type-1A(引張特性評価用試験片)を作製した。
【0115】
図2に示されるように、上記耐トラッキング評価用の成形片の断面を電子顕微鏡(×20000倍)で観察したところ、無機フィラーBは熱可塑性樹脂Cにより被覆されていないことを確認した。
【0116】
(比較例2)
熱可塑性樹脂A、無機フィラーBおよびその他の成分である酸化防止剤Pと、滑剤Qとをホッパー1から投入し、熱可塑性樹脂Cとガラス繊維BNとをサイドフィードYから投入し、シリンダー4の温度260℃で混練後、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(Pelet)を得た。
【0117】
上記樹脂組成物を用いて、射出成形機「S-2000i100B」にてシリンダー温度260℃、金型温度80℃で、70×50×3mmの耐トラッキング評価用の成形片を作製した。
また、同様の樹脂組成物を用いて、射出成形機「EC40」にてシリンダー温度260℃、金型温度80℃で、ISO3167に準拠したISO多目的試験片Type-1A(引張特性評価用試験片)を作製した。
【0118】
図3に示されるように、上記耐トラッキング評価用の成形片の断面を電子顕微鏡(×20000倍)で観察したところ、無機フィラーBは熱可塑性樹脂Cにより被覆されていないことを確認した。
【0119】
<評価>
<耐トラッキング性評価>
耐トラッキング性の評価では、IEC60112第3版に準拠して、0.1質量%塩化アンモニウム水溶液と白金電極を用いて、実施例1、比較例1および2の熱可塑性樹脂組成物で作製した耐トラッキング評価用の成形片にトラッキングが生じる印加電圧(V:ボルト)を測定した。25Vごとに印加電圧を上げて試験した際にトラッキング破壊が生じなかった最大の電圧を評価した。
【0120】
<機械的物性>
機械的物性の評価では、ISO527-1,2に準拠して、実施例1、比較例1および2の樹脂組成物で作製した引張特性評価用試験片を用いて、引張強さおよび引張破壊ひずみの値を万能試験機「テンシロンRTC-1325A」(株式会社オリエンテック製)で測定した。
【0121】
上記評価結果を表1に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
表1に示すように、本発明は、機械的特性は維持し、汎用性のある、耐トラッキング性に優れた高電圧絶縁用成形品であることがわかった。本発明では、高電圧絶縁用成形品の製造方法および高電圧絶縁用成形品による耐トラッキング性向上方法も提供することができた。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の高電圧絶縁用成形品は、良好な耐トラッキング性を有するので、太陽光発電・燃料電池等のパワーコンデショナー部品、電気自動車のインバーターや高電圧コネクタ等の電気電子部品の電源近傍で使用される樹脂製の部品として有用である。
【符号の説明】
【0125】
A 熱可塑性樹脂
B 無機フィラー
BN 表面被覆しない無機フィラー(ガラス繊維)
C 被覆した熱可塑性樹脂
X COフィード
Y サイドフィード
1 ホッパー
2 モーター
3 スクリュー
4 シリンダー
5 ストランドバス
6 カッター
Pelet ペレット
図1
図2
図3
図4