IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

特許7459593セラミック蛍光材料、シンチレータアレイ、放射線検出器および放射線コンピュータ断層撮影装置
<>
  • 特許-セラミック蛍光材料、シンチレータアレイ、放射線検出器および放射線コンピュータ断層撮影装置 図1
  • 特許-セラミック蛍光材料、シンチレータアレイ、放射線検出器および放射線コンピュータ断層撮影装置 図2
  • 特許-セラミック蛍光材料、シンチレータアレイ、放射線検出器および放射線コンピュータ断層撮影装置 図3
  • 特許-セラミック蛍光材料、シンチレータアレイ、放射線検出器および放射線コンピュータ断層撮影装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】セラミック蛍光材料、シンチレータアレイ、放射線検出器および放射線コンピュータ断層撮影装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/80 20060101AFI20240326BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20240326BHJP
   C01G 15/00 20060101ALI20240326BHJP
   G21K 4/00 20060101ALI20240326BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C09K11/80
C09K11/00 E
C01G15/00 D
G21K4/00 B
G01T1/20 B
G01T1/20 G
G01T1/20 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020049000
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021147508
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 慎祐
(72)【発明者】
【氏名】平野 武志
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-219879(JP,A)
【文献】特開2013-002882(JP,A)
【文献】特開2012-066994(JP,A)
【文献】国際公開第2012/105202(WO,A1)
【文献】特開2013-043960(JP,A)
【文献】特表2018-536153(JP,A)
【文献】特開2011-153200(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0234587(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
G21K 4/00
G01T 1/00-7/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光元素としてのCeと、Y、GdおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも一種と、AlおよびGaからなる群から選ばれる少なくとも一種と、Oとを含有し、ガーネット結晶構造を有する主成分と、Sとを含むセラミック蛍光材料であって、
前記主成分は、下記一般式:
(L 1-x-z Gd Ce 3+a (Al 1-u Ga 5-a 12
(ただし、LはYおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、0<a≦0.1、0.15≦x≦0.3、0.002≦z≦0.015、および0.35≦u≦0.55)
により表される組成を有し、
前記Sの含有量は、前記主成分に対し0より大きく40質量ppm以下である、セラミック蛍光材料。
【請求項2】
1GyのX線を照射した後の発光ドリフトが0%よりも大きく1%以下である、請求項1に記載のセラミック蛍光材料。
【請求項3】
前記Sの含有量は、前記主成分に対して0より大きく15質量ppm以下である、請求項1に記載のセラミック蛍光材料。
【請求項4】
1GyのX線を照射した後の発光ドリフトが0%よりも大きく0.3%以下である、請求項3に記載のセラミック蛍光材料。
【請求項5】
1次元または2次元に配列された複数のシンチレータ素子を備え、
各シンチレータ素子は、請求項1からのいずれかに記載のセラミック蛍光材料を含む、シンチレータアレイ。
【請求項6】
請求項に記載のシンチレータアレイと、
前記シンチレータアレイの複数のシンチレータ素子に対向して配置された複数の光検出素子と、
を備えた放射線検出器。
【請求項7】
放射線源と、
請求項に記載の放射線検出器と、
前記放射線源と、前記放射線検出器から出力される検出信号を処理する制御ユニットとを備えた、放射線コンピュータ断層撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、セラミック蛍光材料、シンチレータアレイ、放射線検出器および放射線コンピュータ断層撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線画像システムは、被写体にα線、β線、γ線、X線等の放射線を照射し、被写体を透過した放射線を画像化する。放射線画像システムは断層撮影などの医療分野、非破壊検査などの工業分野、手荷物検査などのセキュリティ分野、高エネルギー物理学などの学術分野等の多様な応用分野で利用されている。特に、医療分野で使用される放射線画像システムは、放射線コンピュータ断層撮影装置と呼ばれ、被写体の任意の位置での断層画像を取得したり、取得した断層画像から3次元画像を形成することが可能である。
【0003】
現在、主として商業的に利用されている放射線画像システムは、放射線の強度を電気信号に変換する放射線検出器を用いる。放射線検出器は、放射線の強度を光に変換するためのシンチレータと、光を電気信号に変換する為のCCD等の光検出器とを含む。
【0004】
シンチレータに用いる蛍光材料としては、従来、Ce添加GdSiO(GSO)などの単結晶蛍光材料が用いられていたが、近年セラミックからなる多結晶蛍光材料が用いられるようになってきている。多結晶蛍光材料は、材料の組成を調整しやすく、大型のシンチレータを歩留まりよく製造することが可能であるなどの利点を備える。例えば、特許文献1は、Ceがドープされたガーネット蛍光体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2010-507008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
より高精細な画像を表示することが可能な放射線画像システムが求められている。このため、より安定して高感度で放射線を検出できるシンチレータが求められている。本開示は、安定した感度を有するセラミック蛍光材料、シンチレータアレイ、ならびに、これらを用いた放射線検出器および放射線コンピュータ断層撮影装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態にかかるセラミック蛍光材料は、発光元素としてのCeと、Y、GdおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも一種と、AlおよびGaからなる群から選ばれる少なくとも一種と、Oとを含有し、ガーネット結晶構造を有する主成分と、Sとを含み、
前記主成分は、下記一般式:
(Y,Gd,Lu,Ce)3+a(Al,Ga)5-a12 (0≦a≦0.1)
により表される組成を有し、
前記Sの含有量は、前記主成分に対し0より大きく40質量ppm以下である。
【0008】
セラミック蛍光材料の1GyのX線を照射した後の発光ドリフトが0%よりも大きく1%以下であってもよい。
【0009】
前記Sの含有量は、前記主成分に対して0より大きく15質量ppm以下であってもよい。
【0010】
セラミック蛍光材料の1GyのX線を照射した後の発光ドリフトが0%よりも大きく0.3%以下であってもよい。
【0011】
前記主成分は、下記一般式:
(L1-x-zGdCe3+a(Al1-uGa5-a12
(ただし、LはYおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、0≦a≦0.1、0.15≦x≦0.3、0.002≦z≦0.015、および0.35≦u≦0.55)
により表される組成を有していてもよい。
【0012】
本開示の一実施形態にかかるシンチレータアレイは、1次元または2次元に配列された複数のシンチレータ素子を備え、各シンチレータ素子は、上記いずれかに記載のセラミック蛍光材料を含む。
【0013】
本開示の一実施形態にかかる放射線検出器は、上記シンチレータアレイと、前記シンチレータアレイの複数のシンチレータ素子に対向して配置された複数の光検出素子とを備える。
【0014】
本開示の一実施形態にかかる放射線コンピュータ断層撮影装置は、放射線源と、上記放射線検出器と、前記放射線源と、前記放射線検出器から出力される検出信号を処理する制御ユニットとを備える。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、安定した感度を有するセラミック蛍光材料、シンチレータアレイ、ならびに、これらを用いた放射線検出器および放射線コンピュータ断層撮影装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】放射線検出器の実施形態を示す平面図である。
図2】放射線検出器の実施形態を示す断面図である。
図3】実施例1~19および比較例の蛍光材料中のSの含有量と発光ドリフトとの関係を示すグラフである。
図4】実施例1~19の蛍光材料中のSの含有量と発光ドリフトとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明者は、シンチレータに用いるセラミック蛍光材料の検出感度の安定性について種々の観点から検討した。その結果、ガーネット系のセラミック蛍光材料からなるシンチレータを備えた放射線検出器では、多量の放射線がシンチレータに照射されると感度変化が生じることが分かった。例えば、医療用のCT装置が、ガーネット系のセラミック蛍光材料からなるシンチレータを含む場合、連続して短い間隔で撮影を行うと、感度が増大し、被写体とは無関係に白い領域がノイズとして生じる場合があることが分かった。こうした感度の増大は一時的であり、X線を照射せずにシンチレータを放置すれば感度は元にもどる。このため、例えば、CT装置の1日あたりの撮影回数が低ければ、感度変化の影響は小さい。
【0018】
しかし、1日あたりの撮影回数が多くなると感度変化は無視し得ない。この場合、例えば、感度変化を低減するために、ゲイン(感度)補正を行うことが考えられるが、ゲイン補正には時間を要する。また、感度変化がCT装置に配置された多数のシンチレータのうち、一部に生じる場合、ゲイン補正によって、コントラストの低下を招き得る。
【0019】
このような、シンチレータの一時的な感度変化は、発光ドリフト、ブライトバーン、ポジティブヒステリシスなどと呼ばれ、単結晶蛍光材料では知られた現象である。例えば、特開2003-107163号公報および特開2015-094736号公報には、加熱または可視光の照射によって、CsI単結晶シンチレータのブライトバーンを低減する方法が開示されている。
【0020】
しかし、多結晶シンチレータでこのような感度変化が生じることは報告されていない。また、上述した特許文献に開示された加熱または可視光の照射は、ブライトバーンの消去方法であって、ブライトバーンが生じにくい蛍光材料を提供する方法ではない。さらに、ブライトバーンを消去するために、加熱装置や可視光の照射装置をCT装置に設ける必要がある。このような課題に鑑み、本願発明者は多量の放射線が照射されても感度変化が生じにくい新規なガーネット系のセラミック蛍光材料を想到した。
【0021】
本開示のセラミック蛍光材料は、主成分とSとを含む。主成分は、発光元素としてのCeと、Y、GdおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも一種と、AlおよびGaからなる群から選ばれる少なくとも一種と、Oとを含有し、ガーネット結晶構造を有する。主成分は、下記一般式(1)
(Y,Gd,Lu,Ce)3+a(Al,Ga)5-a12 (0≦a≦0.1) ・・(1)
により表される組成を有する。Sの含有量は、主成分に対して0より大きく40質量ppm以下である。
【0022】
以下において詳細に説明するように、本願発明者は、ガーネット系のセラミック蛍光材料において、多量の放射線が照射されることによる一時的な感度変化が、セラミック蛍光材料に含まれるSの量と関連していることを見出し、Sの量を所定の値以下に制御することによって、感度変化を抑制できることを見出した。このため、本実施形態のセラミック蛍光材料は、上記一般式(1)を満たす限り、種々の組成であってよい。Y、Gd、Lu、Ceはガーネット結晶構造の2価の金属のサイトに、Al、Gaは3価金属のサイトに位置している。
【0023】
セラミック蛍光材料の主成分は、シンチレータとしてより優れた蛍光特性を備えるため、下記式(2)で表される組成を有することが好ましい。
(L1-x-zGdCe3+a(Al1-uGa5-a12 ・・・・(2)
ここで、LはYおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、0≦a≦0.1、0.15≦x≦0.3、0.002≦z≦0.015、および0.35≦u≦0.55を満たす。
【0024】
zは発光元素であるCeの含有比率を示す。zが0.002未満である場合、主成分中のCe量が少なすぎ、入射したX線のエネルギーを効率よく光エネルギーに変換することができない。また、zが0.015を超える場合、ガーネット結晶構造中のCe量が増え、Ce原子間の距離が小さくなることによって、エネルギーの回遊(いわゆる濃度消光)が生じる。このため、発光出力の観点からzは上記範囲であることが好ましい。
【0025】
xは、Gdの含有比率を示す。Gdは原子番号が大きく、X線の吸収係数を調整し得る。特に、セラミック蛍光材料が医療用CT装置に用いられる場合、Gdの添加量によって、撮影に用いるX線に含まれる硬X線(例えは代表エネルギが100eV)および軟X線(例えは代表エネルギが50eV)の吸収比率を好適に調整にすることができる。一般に被検体中の血管や筋肉などの部位は、骨などの部位に比べて、エネルギーの相対的に小さい軟X線を吸収し、エネルギーの相対的に大きい硬X線を透過しやすい。一方、骨などの部位は、血管や筋肉などの部位に比べてエネルギーの相対的に大きい硬X線を吸収しやすい。このため、軟X線および硬X線のシンチレータでの吸収比率を適切に調整することによって、被写体中の密度の異なる組織を明瞭に区別し得る画像を取得することが可能である。この観点から、xは、0.15≦x≦0.3の範囲にあることが好ましい。
【0026】
LはYおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも一種である。YはGdよりも原子番号が小さく、LuはGdよりも原子番号が大きい。このため、L元素として含む元素の種類によって、セラミック蛍光材料の有効原子番号およびX線の吸収係数を調整し得る。また、L元素は、蛍光強度、焼結温度、得られるセラミック蛍光材料の密度の調整にも寄与し得る。
【0027】
uはAlとGaの組成比を決定し、セラミック蛍光材料の発光出力に影響し得る。uが、0.35≦u≦0.55を満たすことによって高い発光出力を実現し得る。
【0028】
aは、発光出力および残光に影響し、aが負の値でないことによって残光を低減し得る。aが、0≦a≦0.1の範囲を満たすことによって、高い発光出力を実現し得る。
【0029】
次にSの含有量を説明する。一般にセラミック蛍光材料の発光は、金属元素の軌道が主として関係するため、アニオンサイトであるOを他の元素で置換することは一般的ではない。例えば、特許文献1は、ガーネット系蛍光体のOを、F、Cl、NおよびSで置換することを開示しているが、Sがどのような効果を奏するのかについて説明はない。つまり、ガーネット構造を有し、Sを含むセラミック蛍光材料は一般的ではない。一方、Sは、蛍光材料中の金属元素に比べ軽いため、不純物としてSが含まれていても、蛍光特性には大きな影響は与えないと考えられる。このため、従来のセラミック蛍光材料では、Sが意図的に添加されることはほとんどなく、また、不純物としてSが少量含まれていても問題とは考えられていなかった。
【0030】
しかし、本願発明者の検討によれば、一般的なセラミック蛍光材料に含まれる不純物レベルのSが、多量の放射線が照射されることによる一時的な感度変化を生じさせる原因の1つとなることが分かった。
【0031】
詳細な検討によれば、従来のセラミック蛍光材料の製造には、3N程度の純度の原料が用いられる。この場合、製造されたセラミック蛍光材料には数百ppm程度のSが含まれる。この程度のSがセラミック蛍光材料の一時的な感度変化を生じさせることが分かった。
【0032】
本実施形態のセラミック蛍光材料において、Sの含有量は、主成分に対し0より大きく40質量ppm以下である。これにより、セラミック蛍光材料の一時的な感度変化を抑制することができる。具体的には、セラミック蛍光材料の発光ドリフトを0%よりも大きく1%以下にすることができる。
【0033】
ここで、発光ドリフトは、厚さ1.5mmのセラミック蛍光材料からなる板に1GyのX線を曝射する前および曝射後に発光出力を測定し、曝射後の発光出力を曝射前の発光出力で除した値の百分率で示される。発光出力の測定には、別途測定用のX線を曝射し、フォトダイオードなどの光検出器で発光出力を測定する。曝射前の測定とX線の曝射、および、X線曝射と曝射後の測定は連続して(例えば10分以上の間隔をあけずに)行う。本実施形態のセラミック蛍光材料において、発光ドリフトは正の値である。つまり、多量のX線が照射されると、セラミック蛍光材料の感度は高くなり、多量のX線照射の前と同じ強度でX線が照射されても、多量のX線照射後には、セラミック蛍光材料はより強く発光する。
【0034】
セラミック蛍光材料において、Sの含有量は、少ないほうが好ましい。より好ましくは、Sの含有量は、主成分に対し0より大きく15質量ppm以下である。この場合、1GyのX線を照射した後の発光ドリフトは、0%よりも大きく0.3%以下である。
【0035】
セラミック蛍光材料におけるSの含有量は理想的にはゼロである。しかし、不純物として含まれるSの含有量を一定の値以下にするのには大きなコストを要する。本願発明者の検討によれば、商業的なセラミック蛍光材料の製造の観点からは、不純物として含まれるSの含有量の下限は、4質量ppm程度である。つまり、より好ましいSの含有量は、主成分を1質量として、4質量ppm以上15質量ppm以下である。
【0036】
Sの含有量を上述した範囲で低減させることによって、セラミック蛍光材料の一時的な感度変化を抑制できる詳細な理由は、現段階では明らかではない。しかし、CsI単結晶シンチレータにおいて一時的な感度変化が生じるメカニズムと、セラミック蛍光材料の一時的な感度変化が生じるメカニズムとは、異なることが考えられる。CsI単結晶は、単結晶構造を有することによって、不純物の含有が極端に少なく、そもそもSの含有量のレベルが異なるからである。
【0037】
本実施形態のセラミック蛍光材料は、例えば、Sの含有量の少ない高純度の原料を用いることによって製造することが可能である。例えば、原料として、4N以上の純度を有し、かつ、Sを構成元素として含まない材料を用いることによって、上記特性を有するセラミック蛍光材料を製造することが可能である。この場合、製造工程中に使用する器、装置などからSの混入が抑制されていることが好ましい。これらの条件を満たす限り、例えば、一般的な製造方法を用いて本実施形態のセラミック蛍光材料を製造することができる。ただし、原料の純度は、全不純物量に対する純度を示しており、純度と原料中のSの含有量と比例しない場合もある。つまり、4N、5N等のグレードで規定される不純物量以上にSが不純物として原料に含まれることはないが、全不純物に含まれるSの割合は、例えば、原料のメーカやロットなどによって変わり得る。
【0038】
例えば、一般式(1)で示される金属元素を含む酸化物の5Nグレードの原材料を用意し、ボールミルなどを用いて、原材料を粉砕、混合し、プレス成形によって成形体を得る。その後、成形体を酸素雰囲気下で焼成することによって、セラミック蛍光材料を得ることができる。
【0039】
このように本実施形態のセラミック蛍光材料によれば、Sの含有量が主成分に対し0より大きく40質量ppm以下であることによって、多量の放射線が照射されることによる一時的な感度変化を抑制することが可能である。従って、本実施形態のセラミック蛍光材料からなるシンチレータを用いて医療用のCT装置を実現すれば、高い頻度で連続的に撮影を行っても、安定した感度で撮影をすることが可能となる。
【0040】
(他の形態)
本実施形態のセラミック蛍光材料は、種々の形態で実施可能である。まず、上記実施形態で説明したように、セラミック蛍光材料を製造する際、所望の形状にプレス成形することによって、成形した形状を有するシンチレータを得ることができる。また、例えば、本実施形態のセラミック蛍光材料は、シンチレータアレイ、放射線検出器および放射線コンピュータ断層撮影装置の形態で好適に実施可能である。
【0041】
図1および図2は、本実施形態のシンチレータアレイ101および放射線検出器103の一例を示す平面図および断面図である。
【0042】
放射線検出器103は、シンチレータアレイ101と、検出素子アレイ102とを含む。シンチレータアレイ101は、1次元または2次元に配置された複数のシンチレータ素子11を含む。図1および図2に示す形態では、複数のシンチレータ素子11は、x軸およびy軸の2次元に配置されている。
【0043】
複数のシンチレータ素子11のそれぞれは、上記実施形態のセラミック蛍光材料を含む。このため、各シンチレータ素子11のセラミック蛍光材料中のSの含有量は、主成分に対して0より大きく40質量ppm以下であり、多量の放射線が照射されることによる一時的な感度変化が抑制されている。また、複数のシンチレータ素子11間のこのような感度変化のばらつきも抑制されている。複数のシンチレータ素子11は、例えば、板状にプレス成形して焼成することによって作製した上記実施形態のセラミック蛍光材料からなるシンチレータを分割することによって作製することができる。
【0044】
本実施形態では、シンチレータアレイ101は、反射部材12を更に備えている。反射部材12は、複数のシンチレータ素子11間および各シンチレータ素子11の第1面11a上に位置している。反射部材31はシンチレータ素子11が発する光を反射する特性を有する。例えば、反射部材12は、白色の酸化チタン粉末と、エポキシなどの樹脂とを含む。反射部材12によって各シンチレータ素子11に放射線が入射することによって生じた光が隣接するシンチレータ素子11に入射し、隣接するシンチレータ素子11に設けられる光検出素子で検出されるのを抑制する。つまり、シンチレータアレイ101におけるクロストークを抑制する。
【0045】
検出素子アレイ102は、複数の光検出素子13を含む。光検出素子13は、入射する光を電気信号に変換する光電変換素子であり、例えば、シリコンフォトダイオード等のフォトダイオードであってもよいし、フォトンカウンターであってもよい。
【0046】
複数の光検出素子13は、シンチレータアレイ101のシンチレータ素子11の第2面11bに対向して配置されている。例えば、各シンチレータ素子11の第2面11bが光検出素子13の受光面13aと対向し、かつ、接するように、複数の光検出素子13は、シンチレータ素子11とxy平面のx方軸およびy軸に同じ配列ピッチで配置されている。本実施形態では、検出素子アレイ102は、反射部材12を更に備えている。反射部材12は、複数の光検出素子13間および各光検出素子13の底面13bを覆っており、シンチレータアレイ101と同様、検出素子アレイ102におけるクロストークを抑制する。
【0047】
放射線検出器103において、複数のシンチレータ素子11の第1面11aから入射するX線などの放射線は、複数のシンチレータ素子11のそれぞれにおいて、セラミック蛍光材料を励起し、シンチレータ素子11が発光する。発光は、各シンチレータ素子11に対応して配置された光検出素子13で検出される。このため、被写体を透過することによって内部組織の差異に応じた吸収を受け減衰した放射線が2次元で検出され、放射線の強度に応じた検出信号が各光検出素子13から出力される。
【0048】
放射線検出器103によれば、セラミック蛍光材料は、多量の放射線曝射を受けても、一時的な感度変化が抑制される。このため、短いサイクルで放射線の検出を行っても、安定した感度で放射線の検出を行うことが可能である。また、上述した一時的な感度変化が小さいため、検出感度の面内均一性の低下も抑制される。
【0049】
また、本実施形態の放射線コンピュータ断層撮影装置は、複数の放射線検出器103と、放射線源と、放射線検出器103から出力される検出信号を処理する制御ユニットとを備える。本実施形態の放射線コンピュータ断層撮影装置によれば、短い間隔で連続して撮影を行ってもブライトバーンが生じにくく、安定した感度で画像を取得できる。このため、例えば1日当たりの放射線コンピュータ断層撮影装置の稼働率を高め、撮影コストおよび医療コストの低減に寄与し得る。
【0050】
また、コンピュータ断層撮影装置のような大型の放射線画像システムは、多数の放射線検出器103を備えている。このため、従来技術によれば、多数の放射線検出器103間における感度変化の程度にはばらつきが生じ得る。この場合、感度変化をキャンセルさせるために、ゲイン(感度)補正を行うこと、感度変化が大きかった放射線検出器103において、より大きなコントラストの低下が生じることになり、断層画像中のコントラストの低下が不均一になることによって正確な組織の弁別が困難になる可能性がある。これに対し、本実施形態の放射線コンピュータ断層撮影装置によれば、多数の放射線検出器103を備えていても、均一に感度変化が小さくなるため、ゲイン補正を行っても、コントラストの低下は小さくまた、画像内において均一に生じ得る。
【0051】
(実施例)
本実施形態のセラミック蛍光材料を作製し、Sの含有量および発光ドリフトを測定した結果を説明する。
【0052】
<実施例1>
原材料として、73.79gのY粉、29.80gのGd粉、0.77gのCeO粉、38.16gのAl粉および57.48gのGa粉を秤量し、秤量した原材料と、1300gの直径5mmの高純度アルミナボールと、200ccのエタノールとを容量1リットルの樹脂製ポットに入れた。原材料は合計で200gであり、原材料の量は、アルミナボールからのAlの混入を考慮した。原材料には5Nグレードのものを用いた。
【0053】
粉砕機を用いて、原材料を粉砕し、得られた粉砕粉を500kg/cmの圧力で一軸プレス成形し、次いで3ton/cmの圧力で冷間静水圧プレスし、相対密度54%の成形体を得た。この成形体をアルミナこう鉢に入れ、酸素中1700℃で12時間焼結し、相対密度99.9%の焼結体を得た。
【0054】
この焼結体を、1.5mmの厚さに研磨加工することによって、実施例1の試料を作製し、発光ドリフトを測定した。発光ドリフトは、(X線曝射後の発光出力/X線曝射前の発光出力)×100(%)で定義した。
【0055】
発光出力は以下の手順で測定した。
(1)試料にX線を照射しその発光出力を測定(=曝射前の発光出力)
(2)試料にX線を曝射量1Gyで連続照射
(3)連続照射の完了直後に、再度試料の発光出力を測定(=曝射後の発光出力)
(4)曝射前後の発光出力から発光ドリフトを算出
発光出力測定には、パルスX線管を用い、30kVの管電圧でX線を発生させ、試料にX線を照射させた後、シリコンフォトダイオード(浜松ホトニクス製S2281)を用いて発光出力を測定した。また、1Gyの曝射にも同じパルスX線管を用いた。
【0056】
試料の組成およびS量は、グロー放電質量分析(GDMS)によって行った。
【0057】
<実施例2~18>
実施例1とは異なるロット、または、異なるメーカの5Nグレードの原料を用いて、実施例1と同様にして、試料を作製し、S量の測定および発光ドリフトの算出を行った。
【0058】
<実施例19>
原材料として4Nグレードの原料を用い、実施例1と同様にして、試料を作製し、S量の測定および発光ドリフトの算出を行った。
【0059】
<比較例>
原材料として3Nグレードの原料を用い、実施例1と同様にして、試料を作製し、S量の測定および発光ドリフトの算出を行った。
【0060】
<結果及び考察>
作製した試料の組成式は、(Y0.797Gd0.198Ce0.0053.01(Al0.581Ga0.4194.9912であった。表1に、実施例1~18、19および比較例のSの含有量と発光ドリフトの値とを示す。また、図3および図4に、実施例1~18、19および比較例のSの含有量と発光ドリフトの値を、それぞれ横軸および縦軸に取ったグラフを示す。図4に示すグラフは、図3に示すグラフ一部を拡大している。図3に示すように、実施例によれば、セラミック蛍光材料中のSの含有量と、発光ドリフトの値とは破線で示すように比例していると考えられる。
【0061】
【表1】
【0062】
図3および図4に示されるように、組成式(1)のガーネット構造を有するセラミック蛍光材料は、多量の放射線が照射されることによって、感度が高くなる方向に感度変化が生じ、X線曝射後の発光出力が曝射前より大きくなる。3Nグレードの原料を用いた場合、200ppm程度のSがセラミック蛍光材料に含まれ、発光ドリフトの値は3.4%程度である。さらに、5Nグレードの原料を用いた場合、4~14ppm程度のSがセラミック蛍光材料に含まれ、発光ドリフトの値は0.1~0.3%程度である。
【0063】
発光ドリフトの値が1%程度以下であれば、十分に感度変化が抑制されていると判断するとすれば、セラミック蛍光材料に含まれるSの量を40ppm以下であれば、一時的な感度変化が十分に抑制されたセラミック蛍光材料を実現し得る。また、セラミック蛍光材料におけるSの含有量を15ppm以下にすれば、発光ドリフトの値を0.3%以下に抑制することが可能であることが分かる。
【符号の説明】
【0064】
11 シンチレータ素子
11a 第1面
11b 第2面
12 反射部材
13 光検出素子
13a 受光面
13b 底面
101 シンチレータアレイ
102 検出素子アレイ
103 放射線検出器
図1
図2
図3
図4