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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】水性顔料インクの評価方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20240326BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240326BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C09D11/322
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020107642
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2022003108
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】川原田 雪彦
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-226760(JP,A)
【文献】特開2009-301938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-54
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスNMR測定によって水性顔料インクのT2緩和時間を求め、
前記T2緩和時間から短時間成分の緩和時間(T2S)と長時間成分の緩和時間(T2L)とを求め、
〔(短時間成分の緩和時間(T2S))/(長時間成分の緩和時間(T2L))〕を算出し、前記〔(短時間成分の緩和時間(T2S))/(長時間成分の緩和時間(T2L))〕の値に基づいて、前記水性顔料インクの連続吐出性を評価する方法。
【請求項2】
前記水性顔料インクが、顔料と顔料分散樹脂と水とバインダー樹脂とを含有するものである請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記連続吐出性が、ヘッドを用い、ノズルから駆動周波数20kHzで前記水性顔料インクを最大30分間吐出する際の連続吐出性である請求項1または2に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性顔料インクの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット印刷分野では、高速印刷及び高解像度化が進み、より微小な吐出ノズルから微小のインクの液滴を高周波数で長期間安定して吐出させることが要求されている。しかし、インクを高周波数で吐出させると、インク吐出時に高速で多数回加圧、減圧を繰り返すこととなり、インク吐出時に吐出抜け、着弾位置ずれ等の吐出特性の低下が生じる場合がある。
【0003】
また、顔料を含有するインクは、染料を用いたインクとは異なり、経時的な顔料が凝集するなどして粗大粒子を形成する場合がある。このような粗大粒子を含有する水性顔料インクも、保存安定性の低下やヘッドの微小なノズル孔の目詰まりを引き起こし、吐出性を損なう恐れもあった。
【0004】
前記吐出性の評価方法としては、インクを吐出ヘッドから長時間吐出させ評価する方法がある。しかし、インクの開発過程では、前記した長時間に及ぶ吐出性の評価試験を複数回行うことが多いため、吐出性に優れたインクを完成させるまでに長時間を要する場合があった。インクの開発効率を低下させる場合があった。前記評価方法以外の方法としては、例えばインク粘度の経時測定により増粘速度を検査する方法が知られている(例えば特許文献1参照。)。
【0005】
しかし、この方法では、粘度の上昇速度を測定するために日単位の期間を要し、短時間での評価が困難であるという課題があった。また、粘度と粘度以外の物性値(表面張力、静的接触角など)を合わせても、安定吐出しないインクが存在するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-193112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、従来よりも簡便で、かつ、短時間でインクの吐出性を評価する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、パルスNMR測定によって水性顔料インクのT2緩和時間を求め、前記T2緩和時間から短時間成分の緩和時間(T2S)と長時間成分の緩和時間(T2L)とを求め、〔(短時間成分の緩和時間(T2S))/(長時間成分の緩和時間(T2L))〕を算出し、前記〔(短時間成分の緩和時間(T2S))/(長時間成分の緩和時間(T2L))〕の値に基づいて、前記水性顔料インクの性能を評価する方法によって前記課題を解決した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の評価方法によれば、従来よりも簡便で、かつ、短時間でインクの吐出性を評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の水性顔料インクの評価方法について詳細に説明する。以下の説明は、本発明の一実施態様としての一例であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0011】
本発明の水性顔料インクの性能を評価する方法は、パルスNMR測定によって水性顔料インクのT2緩和時間を求め、前記T2緩和時間から短時間成分の緩和時間(T2S)と長時間成分の緩和時間(T2L)とを求め、〔(短時間成分の緩和時間(T2S))/(長時間成分の緩和時間(T2L))〕を算出し、前記〔(短時間成分の緩和時間(T2S))/(長時間成分の緩和時間(T2L))〕の値に基づいて、前記水性顔料インクの性能を評価する方法である。本発明によれば、従来よりも簡便で、かつ、短時間でインクの吐出性を評価することができる。
【0012】
はじめに、パルスNMR測定によって水性顔料インクのT2緩和時間を求める工程について説明する。
【0013】
パルスNMR測定法(Nuclear Magnetic Resonance)は、分子運動性の評価指標である1H核の緩和時間(スビン-格子緩和時間:T1緩和時間)及びスピン-スピン緩和時間(T2緩和時間)を取得することに特化した手法である。
【0014】
そのため、パルスNMR測定法は、水性顔料インクに含まれる成分の分子運動に対して非常に敏感で、例えば水性顔料インクに含まれる顔料と溶媒との複雑な相互作用の全体像を、定量化して把握する測定手法として好適である。
【0015】
前記パルスNMR測定は、測定試料が固体、液体、または、それらの混合物であっても適用することができる。そのため、前記パルスNMR測定は、水や有機溶剤を含む溶媒中に顔料や顔料分散樹脂等が溶解または分散した水性顔料インクの分子運動性を評価する方法として好適である。
【0016】
前記パルスNMR測定であれば、前記水性顔料インクの固形分濃度によらず、短時間(約5分)でかつ精度よく測定が可能である。前記水性顔料インクの固形分濃度は、パルスNMR測定の原理からして上限はなく、下限は1~2質量%であることが好ましい。
【0017】
また、前記パルスNMR測定であれば、測定前に水性顔料インクを脱気したり、水性顔料インクを用いて塗膜等の試験片を作成する必要がなく、水性顔料インクをそのまま測定試料として適用することができるため、前記評価を短時間で行うことができる。
【0018】
前記T2緩和時間は、水性顔料インクの分散状態を評価する指標として好適である。とりわけ水等の溶媒の含有量が他の成分と比較して多い水性顔料インクの分散状態は、下記のように、溶媒分子の運動性に着目することでより適切に評価することができる。
【0019】
水性顔料インクにおける顔料の表面には、顔料と強く相互作用する溶媒分子が存在する。前記強く相互作用する溶媒分子は顔料との相互作用により非常に短いT2緩和時間を有する。前記強く相互作用する溶媒分子は、前記強い相互作用を伴わない溶媒分子、いわゆるフリーの溶媒分子と非常に短い時間で交換するため、本発明においてパルスNMR測定では、前記強く相互作用する溶媒分子等の成分と、前記強い相互作用を伴わない溶媒分子等の成分とが平均化されたT2緩和時間が観測される。
【0020】
このように、顔料と強く相互作用する溶媒分子が多い場合や、顔料と相互作用する成分のT2緩和時間が短い場合は、顔料との相互作用を伴わない溶媒分子のみの場合よりも、T2緩和時間が短くなる。すなわち、水性顔料インクにおける顔料と強く相互作用する溶媒分子が多い、すなわち、顔料の分散状態が良好な場合には、T2緩和時間が短くなると考えられる。この現象をもとに、T2緩和時間を指標に水性顔料インクの分散状態を評価することができる。
【0021】
前記パルスNMR測定でのパルス系列としては、例えばハーンエコー法、ソリッドエコー法、CPMG法(カー・パーセル・メイブーム・ギル法)、90゜パルス法等のなかから適宜選択することができる。前記水性顔料インクのように、顔料や溶媒をはじめとする複数の成分を含有するためT2緩和時間が長くなることが予想され、かつ、前記成分の分子の拡散の影響が大きいと予想される場合には、CPMG法を適用することが好ましい。
【0022】
前記パルスNMR測定は、例えば、以下の条件で行うことができる。
【0023】
・測定装置:Acorn Area(XiGo Nanotools社製、測定核種は1H核)
・パルス系列:CPMG法
・共鳴周波数:13MHz
・測定温度:30℃
・測定試料の量:1.0cm
【0024】
次に、前記T2緩和時間から短時間成分の緩和時間(T2S)と長時間成分の緩和時間(T2L)とを求める工程について説明する。
【0025】
前記T2緩和時間は、測定試料である水性顔料インクの柔剛性と相関がある。前記T2緩和時間は、測定試料が単一成分からなるものであっても、複数の緩和時間成分を有していることが多い。そのため、前記水性顔料インクのように複数の成分を含有する測定試料もまた、前記同様に複数の緩和時間成分を有していると考えられる。
【0026】
前記水性顔料インクのT2緩和時間は、具体的には、前記水性顔料インクに含まれる顔料等の固い成分のT2緩和時間は短く(短時間成分の緩和時間(T2S)に相当)、溶媒等の柔らかい成分のT2緩和時間は長く(長時間成分の緩和時間(T2L)に相当)なるため、短時間成分の緩和時間(T2S)と(長時間成分の緩和時間(T2L)とに分けることができる。
【0027】
ここで、前記短時間成分の緩和時間(T2S)は、分子運動性の低さを表しており、例えば水性顔料インクに多く含まれる溶媒であれば、顔料等と強く相互作用することで運動性が低下した溶媒の運動性を表す。また、長時間成分の緩和時間(T2L)は、分子運動性の高さを表しており、例えば水性顔料インクに多く含まれる溶媒であれば、顔料等との強い相互作用を伴わない、いわゆるバルク状態の溶媒の運動性を表す。
【0028】
前記顔料等と強く相互作用する溶媒が多い場合には、水性顔料インク中の顔料等の流体力学的半径が増大すると考えられる。前記流体力学的半径が増大した水性顔料インクは、ろ過しにくくなる場合や、インク吐出ヘッドから水性顔料インクを吐出しにくくなる場合がある。
【0029】
前記短時間成分の緩和時間(T2S)と長時間成分の緩和時間(T2L)とは、前記工程で求めたT2緩和時間と下記式(1)とをから求めることができる。
【0030】
T2緩和時間=A21exp(-x/T2S)+A22exp(-x/T2L) 式(1)
(式(1)中のA21は緩和時間(T2S)と緩和時間(T2L)の合計に対する緩和時間(T2S)の割合を表し、A22は緩和時間(T2S)と緩和時間(T2L)の合計に対する緩和時間(T2L)の割合を表す。xはパルスNMR測定時間を表す。)
【0031】
前記T2緩和時間から短時間成分の緩和時間(T2S)と長時間成分の緩和時間(T2L)とを求める工程では、例えばパルスNMR測定装置Acorn Area(XiGo Nanotools社製、測定核種は1H核)に付属する解析ソフトを使用することができ、前記解析ソフトとしては、リリース0.9.2を使用することができる。
【0032】
例えば水性顔料インクの顔料濃度が4質量%の場合、前記方法で求めた前記短時間成分の緩和時間(T2S)が好ましくは100ms~160msの範囲であり、かつ、前記方法で求めた前記長時間成分の緩和時間(T2L)が好ましくは500ms~700msの範囲であると、吐出性に優れた水性顔料インクであると評価することができる。
【0033】
次に、〔(短時間成分の緩和時間(T2S))/(長時間成分の緩和時間(T2L))〕を算出する工程について説明する。
【0034】
〔(短時間成分の緩和時間(T2S))/(長時間成分の緩和時間(T2L))〕の値は、前記工程で求めた短時間成分の緩和時間(T2S)と(長時間成分の緩和時間(T2L)の値から算出する。
【0035】
前記方法で算出された前記〔(短時間成分の緩和時間(T2S))/(長時間成分の緩和時間(T2L))〕の値が、0.16未満である水性顔料インクは、吐出性に優れると評価することができる。一方、前記〔(短時間成分の緩和時間(T2S))/(長時間成分の緩和時間(T2L))〕の値が、0.16以上である水性顔料インクは、吐出性の点で十分でないと評価することができる。
【0036】
本発明の評価方法は、水性顔料インクの性能の評価に適用できる。なかでも、本発明の評価方法は、顔料と水性媒体等の溶媒とを含有する水性顔料インクの評価に好適に使用することができ、顔料と顔料分散樹脂と水性媒体とバインダー樹脂とを含有する水性顔料インクの評価に好適に使用することができる。
【0037】
前記顔料としては、特に制限されず、通常使用される有機顔料または無機顔料を使用することができる。
【0038】
また、顔料としては、未酸性処理顔料、酸性処理顔料のいずれも使用することができ、ドライパウダー及びウェットケーキ状のどちらであっても使用することができる。
【0039】
無機顔料としては、例えば、酸化鉄や、コンタクト法、ファーネス法またはサーマル法等の方法で製造されたカーボンブラック等を使用することができる。
【0040】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、レーキ顔料(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等を使用することができる。
【0041】
顔料の具体例を下記に例示する。ただし、これらに例示した具体例に限定されるものではない。これらの顔料は、単独または2種類以上を組み合わせ使用することができる。
【0042】
黒インクに使用される顔料の具体例としては、三菱化学社製のNo.2300、No.2200B、No.900、No.980、No.960、No.33、No.40、No,45、No.45L、No.52、HCF88、MCF88、MA7、MA8、MA100、等が、コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等が、キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Mogul 700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400等が、デグサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同1400U、Special Black 6、同5、同4、同4A、NIPEX150、NIPEX160、NIPEX170、NIPEX180のカーボンブラック等が挙げられる。
【0043】
イエローインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等が挙げられる。
【0044】
マゼンタインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、168、176、184、185、202、209及びこれらの顔料から選ばれる少なくとも2種以上の顔料の混合物もしくは固溶体等が挙げられる。
【0045】
シアンインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:3、15:4、15:6、16、22、60、63、66等が挙げられる。
【0046】
レッドインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド17、49:2、112、149、150、177、178、179、188、254、255及び264等が挙げられる。
【0047】
オレンジインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントオレンジ1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63、64、71、73、81等が挙げられる。
【0048】
グリーンインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントグリーン7、10、36、58、59等が挙げられる。
【0049】
バイオレットインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50等が挙げられる。
【0050】
また、白インクに使用可能な顔料の具体例としては、アルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸塩、微粉ケイ酸、合成珪酸塩、等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等が挙げられる。これらは、表面処理されていてもよい。
【0051】
顔料は、インク中に安定に存在させるために、水性媒体に良好に分散させる手段を講じてあることが好ましい。
【0052】
上記手段としては、例えば
(i)顔料を顔料分散樹脂と共に、後述する分散方法で水性媒体中に分散させる方法
(ii)顔料の表面に分散性付与基(親水性官能基および/またはその塩)を直接またはアルキル基、アルキルエーテル基またはアリール基等を介して間接的に結合させた自己分散型顔料を水性媒体に分散および/または溶解させる方法が挙げられる。
【0053】
自己分散型顔料としては、例えば、顔料に物理的処理または化学的処理を施し、分散性付与基または分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させたものを使用することができる。自己分散型顔料は、例えば、真空プラズマ処理、次亜ハロゲン酸および/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、またはオゾンによる酸化処理等や、水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、p-アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法によって製造することができる。
【0054】
自己分散型顔料を含有する水性インクは、顔料分散剤を含む必要がないため、顔料分散剤に起因する発泡等がほとんどなく、吐出安定性に優れたインクを調製しやすい。また、自己分散型顔料を含有する水性インクは、取り扱いが容易で、顔料分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるため顔料をより多く含有することが可能となり、印字濃度の高い印刷物の製造に使用することができる。
【0055】
自己分散型顔料としては、市販品を利用することも可能であり、そのような市販品としては、マイクロジェットCW-1(商品名;オリヱント化学工業(株)製)、CAB-O-JET200、CAB-O-JET300(以上商品名;キャボット社製)が挙げられる。
【0056】
前期顔料は、スジの発生を防止するとともに、顔料の優れた分散安定性を維持し、かつ、印刷物の印字濃度や耐洗濯性を向上させるうえで、インクの全量に対して1質量%~20質量%の範囲で使用することが好ましく、2質量%~10質量%の範囲で使用することがより好ましい。
【0057】
前記顔料分散樹脂としては、例えばポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体などのスチレン-アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体の水性樹脂、及び、水性樹脂の塩を使用することができる。顔料分散剤としては、味の素ファインテクノ(株)製品)のアジスパーPBシリーズ、ビックケミー・ジャパン(株)のDisperbykシリーズ、BASF社製のEFKAシリーズ、日本ルーブリゾール株式会社製のSOLSPERSEシリーズ、エボニック社製のTEGOシリーズ等を使用することができる。
【0058】
水性媒体としては、水を単独、または、水と後述する有機溶剤(F)との混合溶媒を使用することができる。
【0059】
水としては、具体的にはイオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を使用することができる。
【0060】
水性媒体は、水性顔料インク全量に対し1質量%~50質量%の範囲で使用することが好ましく、10質量%~30質量%の範囲で使用することが、インクジェット方式で吐出する場合に求められる高い吐出安定性を備えた、鮮明な印刷物を製造可能なインクを得るうえで特に好ましい。
【0061】
有機溶剤(F)としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2-プロパノール、2-メチル-1-プロパノール、1-ブタノール、2-メトキシエタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールおよびこれらと同族のジオール等のジオール類;ラウリン酸プロピレングリコール等のグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、および、トリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブ等のグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノールや2-ブタノール等のブチルアルコール、ペンチルアルコール、およびこれらと同族のアルコールなどのアルコール類;スルホラン;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン等のラクタム類などを、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0062】
また、有機溶剤(F)としては、上述したものの他に、沸点が100℃以上200℃以下であり、かつ、20℃での蒸気圧が0.5hPa以上である水溶性有機溶剤(f1)を使用することが、吐出液滴が布帛の表面に着弾した後、布帛上で素早く乾燥する速乾効果を得るうえで好ましい。
【0063】
水溶性有機溶剤(f1)としては、例えば3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコール-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、4-メトキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチルラクテート等が挙げられ、これらのものを2種以上組み合わせ使用することができる。
【0064】
なかでも、水溶性有機溶剤(f1)としては、インクの良好な分散安定性の維持や、例えばインクジェット装置が備えるインク吐出ノズルの、インクに含まれる溶剤の影響による劣化を抑制するうえで、HSP(ハンセン溶解度パラメータ)の水素結合項δHが6~20の範囲であるような水溶性有機溶剤を使用することが好ましい。
【0065】
上記範囲のHSPの水素結合項を有する水溶性有機溶剤としては、具体的には、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコール-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルが好ましく、より好ましくは3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノールである。
【0066】
水性媒体と組み合わせ使用可能な有機溶剤としては、上述した水溶性有機溶剤(f1)のほかに、または、水溶性有機溶剤(f1)とともに、プロピレングリコール(f2)と、グリセリン、グリセリン誘導体、ジグリセリン及びジグリセリン誘導体からなる群より選ばれる1種以上の有機溶剤(f3)とを組み合わせ使用することが、布帛上でのインク速乾効果と、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を両立するうえで好ましい。
【0067】
有機溶剤(f3)としては、例えばグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ジグリセリン脂肪酸エステル、一般式(2)で表されるポリオキシプロピレン(n)ポリグリセリルエーテル、一般式(3)で表されるポリオキシエチレン(n)ポリグリセリルエーテル等を、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0068】
なかでも、有機溶剤(f3)としては、グリセリン及びn=8~15のポリオキシプロピレン(n)ポリグリセリルエーテルを使用することが、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を奏するうえで特に好ましい。
【0069】
【化1】
【0070】
一般式(2)及び一般式(3)中のm、n、o及びpは、各々独立して1~10の整数を示す。
【0071】
有機溶剤(F)としては、インク全量に対し1質量%~30質量%の範囲で使用することが好ましく、5質量%~25質量%の範囲で使用することが、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を奏するうえで特に好ましい。
【0072】
水溶性有機溶剤(f1)とプロピレングリコール(f2)と有機溶剤(f3)とは、それらの質量割合[水溶性溶剤(f1)/プロピレングリコール(f2)]が1/25~1/1の範囲で使用することが好ましく、1/20~1/1の範囲で使用することが、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を奏するうえで特に好ましい。
【0073】
また、水溶性有機溶剤(f1)とプロピレングリコール(f2)と有機溶剤(f3)とは、それらの質量割合[プロピレングリコール(f2)/有機溶剤(f3)]が1/4~8/1の範囲で使用することが好ましく、1/2~5/1の範囲で使用することが、印刷物のセット性に優れ、インク吐出口におけるインクの乾燥や凝固を防止する効果を奏するうえで特に好ましい。
【0074】
前記バインダー樹脂は、顔料を被記録媒体上に固着するためのものである。特に布帛への印刷の場合、バインダー樹脂の含有量が多い水性顔料インクを用いると、印刷物の耐洗濯性や耐摩擦性(湿式、乾式)が向上する一方、布帛の風合いが若干硬くなる傾向にある。したがって、バインダー樹脂の含有量は、水性顔料インクの全量に対し50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、1質量%以上が好ましく、5質量%以上が、耐洗濯性や耐摩擦性に優れた印刷物を得るうえでより好ましい。
【0075】
バインダー樹脂は、上述したとおり、顔料を被記録媒体上に固着するためのものである。バインダー樹脂としては、特にガラス転移温度が0℃以下のものを使用することが、水性顔料インクや印刷物を低温地域で使用した場合であっても良好な風合いと耐洗濯性を保持するうえで好ましい。
【0076】
バインダー樹脂と顔料との比率は、通常、水性顔料インクに使用する範囲の比率であればよく、例えばバインダー樹脂と顔料との比率=1:3~8:1の範囲が好ましく、1:2~3.5:1の範囲が、より一層優れた耐摩擦性を備えた印刷物を得るうえでより好ましい。
【0077】
バインダー樹脂としては、より一層優れた耐摩擦性を備えた印刷物を得る観点からは、10000以上の重量平均分子量を有するバインダー樹脂を使用することが好ましく、30000以上の重量平均分子量を有するバインダー樹脂を使用することがより好ましい。また、バインダー樹脂としては、より一層優れた吐出性を付与する観点からは、200000以下の重量平均分子量を有するバインダー樹脂を使用することが好ましい。
【0078】
バインダー樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸カリウム-アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体などのアクリル共重合体;スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体などのスチレン-アクリル酸樹脂;スチレン-マレイン酸;スチレン-無水マレイン酸;ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体;ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体;酢酸ビニル-エチレン共重合体、酢酸ビニル-脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル-マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル-クロトン酸共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びこれらの塩を使用することができる。
【0079】
なかでも、バインダー樹脂としては、ウレタン樹脂またはアクリル樹脂を使用することが、入手しやすく、かつ、印刷物の耐摩擦性を向上させるうえで好ましく、特に布帛への印刷物の耐洗濯性(洗濯堅牢度)、耐摩擦性(乾式摩擦堅牢度や湿式摩擦堅牢度)をより一層向上させるうえで好ましい。
【0080】
ウレタン樹脂としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上のポリオールと、アニオン性基、カチオン性基、ポリオキシエチレン基またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン基である親水性基を有するポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させて得られるウレタン樹脂を使用する。
【0081】
ウレタン樹脂の重量平均分子量は、印刷物の耐摩擦性をより一層向上させるうえで、5000~200000のものを使用することが好ましく、20000~150000がより好ましい。
【0082】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、ショ糖、アコニット糖、フェミメリット酸、燐酸、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリイソプロパノールアミン、ピロガロール、ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタール酸、1,2,3-プロパントリチオール等の活性水素基を2個以上有する化合物にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロフェキシレン等の環状エーテル化合物を付加重合したもの、又は、環状エーテル化合物をカチオン触媒、プロトン酸、ルイス酸等を触媒として開環重合したものが挙げられる。
【0083】
ポリエステルポリオールは、ジオール化合物、ジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸化合物等の脱水縮合反応、ε-カプロラクトン等の環状エステル化合物の開環重合反応、及びこれらの反応によって得られるポリエステルを共重合させることによって得られる。このポリエステルポリオールの原料となるジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン、及びこれらのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0084】
また、ポリエステルポリオールの原料となるジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-p,p’-ジカルボン酸等が挙げられる。
【0085】
ポリエステルポリオールの原料となるヒドロキシカルボン酸としては、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸、p-(2-ヒドロキシエトキシ)安息香酸等が挙げられる。
【0086】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、炭酸エステルと、低分子量のポリオール、好ましくは直鎖脂肪族ジオールとを反応させて得られるものを使用することができる。
【0087】
炭酸エステルとしては、例えば、メチルカーボネートや、ジメチルカーボネート、エチルカーボネート、ジエチルカーボネート、シクロカーボネート、ジフェニルカーボネ-ト等を使用することできる。
【0088】
炭酸エステルと反応しうる低分子量のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノール-A、ビスフェノール-F、4,4’-ビフェノール等の比較的低分子量のジヒドロキシ化合物や、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオールや、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリカプロラクトン等のポリエステルポリオール等を使用することができる。
【0089】
ポリカーボネート構造を持つポリオールは、ポリカーボネート系ウレタン樹脂の製造に使用するポリオール及びポリイソシアネートの合計質量に対して、10質量%~90質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0090】
また、ウレタン樹脂は、インク中における分散安定性を付与するうえで親水性基を有する。
【0091】
親水性基としては、一般にアニオン性基やカチオン性基、ノニオン性基といわれるものを使用することができるが、なかでもアニオン性基やカチオン性基を使用することが好ましい。
【0092】
アニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基等を使用することができ、なかでも、一部または全部が塩基性化合物等によって中和されたカルボキシレート基やスルホネート基を使用することが、良好な水分散性を維持するうえで好ましい。
【0093】
アニオン性基としてのカルボキシル基やスルホン酸基の中和に使用可能な塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミンや、モノエタノールアミン等のアルカノールアミンや、Na、K、Li、Ca等を含む金属塩基化合物等が挙げられるが、なかでも、乾燥皮膜への残留を少なくする観点から、沸点100℃以下の有機アミンを選択することが好ましい。
【0094】
また、カチオン性基としては、例えば3級アミノ基等を使用することができる。3級アミノ基の一部又は全てを中和する際に使用することができる酸としては、例えば、蟻酸、酢酸等を使用することができる。また、3級アミノ基の一部又は全てを4級化する際に使用することができる4級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等のジアルキル硫酸類を使用することができる。
【0095】
また、ノニオン性基としては、例えばポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、ポリ(オキシエチレン-オキシプロピレン)基、及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン基等のポリオキシアルキレン基を使用することができる。なかでもオキシエチレン単位を有するポリオキシアルキレン基を使用することが、親水性をより一層向上させるうえで好ましい。
【0096】
親水性基は、ウレタン樹脂全体に対して0.5質量%~30質量%存在することがより一層良好な水分散性を付与し、1質量%~20質量%の範囲であることがより好ましい。
【0097】
また、本実施形態に係るインクは、耐摩擦性をより一層向上することを目的として、後述する架橋剤を使用することができる。架橋剤を使用する場合、ウレタン樹脂としては、架橋剤の有する官能基と架橋反応しうる官能基を有するものを使用することが好ましい。
【0098】
架橋剤と架橋反応しうる官能基としては、親水性基として使用可能なカルボキシル基やカルボキシレート基等が挙げられる。カルボキシル基等は、水性媒体中においてウレタン樹脂の水分散安定性に寄与し、それらが架橋反応する際には、官能基としても作用し、架橋剤の一部架橋反応しうる。
【0099】
架橋剤と架橋反応しうる官能基としてカルボキシル基等を使用する場合、ウレタン樹脂としては、5~50の酸価を有するものであることが好ましく、10~40の酸価を有するものを使用することが、堅牢性を向上するうえで好ましい。なお、本実施形態でいう酸価は、ウレタン樹脂の製造に使用したカルボキシル基含有ポリオール等の酸基含有化合物の使用量に基づいて算出した理論値である。
【0100】
ウレタン樹脂は、例えばポリオールとポリイソシアネートと、必要に応じて鎖伸長剤とを反応させることによって製造することができる。
【0101】
鎖伸長剤としては、ポリアミンや、その他活性水素原子含有化合物等を使用することができる。
【0102】
ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン等のジアミン類;N-ヒドロキシメチルアミノエチルアミン、N-ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、N-ヒドロキシプロピルアミノプロピルアミン、N-エチルアミノエチルアミン、N-メチルアミノプロピルアミン;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン;ヒドラジン、N,N’-ジメチルヒドラジン、1,6-ヘキサメチレンビスヒドラジン;コハク酸ジヒドラジッド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド;β-セミカルバジドプロピオン酸ヒドラジド、3-セミカルバジッド-プロピル-カルバジン酸エステル、セミカルバジッド-3-セミカルバジドメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサンを使用することができ、なかでもエチレンジアミンを使用することが好ましい。
【0103】
その他活性水素含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等のグリコール類;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン等のフェノール類、及び水等を使用することができる。
【0104】
鎖伸長剤は、例えば鎖伸長剤の有するアミノ基及び活性水素原子含有基の当量が、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られたウレタンプレポリマーの有するイソシアネート基の当量に対して、1.9以下(当量比)となる範囲で使用することが好ましく、0.0~1.0(当量比)の範囲で使用することがより好ましく、より好ましくは0.5質量%である。
【0105】
鎖伸長剤は、ポリオールとポリイソシアネートを反応させる際、または、反応後に使用することができる。また、上記で得たウレタン樹脂を水性媒体中に分散させ水性化する際に、鎖伸長剤を使用することもできる。
【0106】
また、上記以外のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン及びそれらのアルキレンオキシド付加物、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、ペンタエリスリトール等の比較的低分子量のポリオールが挙げられる。これらのポリオールは、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0107】
ポリオールと反応しウレタン樹脂を形成するポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族または脂肪族環式構造含有ジイソシアネート等を、単独で使用または2種以上を併用して使用することができる。
【0108】
バインダー樹脂に使用可能なアクリル樹脂としては、特に制限はなく、(メタ)アクリレートの単独重合または共重合、及び(メタ)アクリレートと共重合しうるビニルモノマーとを共重合させた樹脂があげられる。
【0109】
(メタ)アクリレートや(メタ)アクリレートと共重合しうるビニルモノマーの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;2-ヒドロドキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のアルキルポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;パーフルオロアルキルエチル(メタ)アクリレート等のフッ素系(メタ)アクリレート;スチレン、スチレン誘導体(p-ジメチルシリルスチレン、(p-ビニルフェニル)メチルスルフィド、p-ヘキシニルスチレン、p-メトキシスチレン、p-tert-ブチルジメチルシロキシスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン等)、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1-ジフェニルエチレン等の芳香族ビニル化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールテトラ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジアクリロキシプロパン、2,2-ビス[4-(アクリロキシメトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(アクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートトリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリレート;2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、ナフチルビニルピリジン等のビニルピリジン化合物;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-シクロヘキサジエン等の共役ジエンなどが挙げられる。これらのモノマーは、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0110】
本実施形態で使用するアクリル樹脂は、上記モノマーの他に特定の官能基を有するモノマーを共重合させて得られたものを使用することが、印刷物の風合い等を向上させるうえで好ましい。このような官能基を有するモノマーとしては、カルボキシル基を有するモノマーや、エポキシ基を有するモノマー、加水分解性シリル基を有するモノマー、アミド基を有するモノマー等が挙げられる。
【0111】
カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、無水マレイン酸、シトラコン酸等を用いることができる。
【0112】
加水分解性シリル基を有するモノマーとしては、例えば、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物;3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルシラン化合物などを用いることができる。これらのモノマーは、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0113】
アミド基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド化合物等を用いることが出来る。
【0114】
アクリル樹脂の水中での分散形態は特に限定はなく、例えば乳化剤で強制乳化させたエマルジョンや、樹脂中にノニオン性基または中和されたイオン性基を有したディスパージョン等が挙げられる。特に上記アクリル樹脂としては、カルボキシル基を有するアクリル樹脂を、塩基性化合物で中和して得たディスパージョンが好ましい。塩基性化合物は、ウレタン樹脂が有するカルボキシル基等の中和に使用可能なものとして例示した塩基性化合物と同様のものを使用することができる。
【0115】
水性顔料インクは、顔料を高濃度で含有する水性顔料分散体を製造し、さらに水性媒体や、必要に応じてバインダー樹脂や界面活性剤などとを混合することによって製造することができる。
【0116】
水性顔料分散体の製造方法としては、例えば以下の(1)~(3)の方法が挙げられる。
(1)分散樹脂及び水を含有する混合物に、顔料を添加した後、攪拌分散装置を用いて顔料を混合物中に分散させることにより水性顔料分散体を調製する方法。
(2)顔料及び分散樹脂を2本ロールやミキサー等の混練機を用いて混練し、得られた混練物を、水、および必要に応じて水と混和する有機溶剤を添加し、攪拌分散装置を用いて水性顔料分散体を調製する方法。
(3)メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等のような水と相溶性を有する有機溶剤中に分散樹脂を溶解して得られた溶液に顔料を添加した後、攪拌分散装置を用いて顔料を有機溶液中に分散させ、次いで水性媒体を用いて転相乳化させた後、有機溶剤を留去し水性顔料分散体を調製する方法。
【0117】
混練機としては、特に限定されることなく、例えば、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、インテンシブミキサー、プラネタリーミキサー、バタフライミキサー等が用いることができる。
【0118】
攪拌分散装置としては、例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等を単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0119】
水性顔料分散体としては、水性顔料分散体の全量に対して顔料を5質量%~60質量%含有するものを使用することが、画像濃度の高い印刷物を形成可能で分散安定性に優れたインクを得るうえで好ましく、10質量%~50質量%である水性顔料分散体を使用することがより好ましい。
【0120】
また、水性顔料分散体に含まれる粗大粒子は、画像特性を劣化させる原因になるため、インクを製造する前後に、遠心分離または濾過処理等により粗大粒子を除去した水性顔料分散体を使用することが好ましい。
【0121】
水性顔料分散体を製造する際には、分散工程の後にイオン交換処理や限外処理による不純物除去工程を経て、その後に後処理を行っても良い。イオン交換処理によって、カチオン、アニオンといったイオン性物質(2価の金属イオン等)を除去することができ、限外処理によって、不純物溶解物質(顔料合成時の残留物質、分散液組成中の過剰成分、有機顔料に吸着していない樹脂、混入異物等)を除去することができる。イオン交換処理は、公知のイオン交換樹脂を用いる。限外処理は、公知の限外ろ過膜を用い、通常タイプ又は2倍能力アップタイプのいずれでもよい。
【0122】
上記の製造方法により得られたインクは、もっぱらインクジェット印刷法によって布帛の表面に吐出される。また、インクは、布帛への印刷に使用するから、いわゆる捺染剤として好適に使用することができる。
【実施例
【0123】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。
【0124】
(分散樹脂(P-1)の調製)
BuLiのヘキサン溶液と、スチレンを予めテトラヒドロフランに溶解したスチレン溶液とをチューブリアクターP1及びP2から、T字型マイクロミキサーM1に導入し、リビングアニオン重合させることによって重合体を得た。
【0125】
次に、上記工程で得られた重合体をすチューブリアクターR1を通じてT字型マイクロミキサーM2に移動させ、前記重合体の成長末端を、チューブリアクターP3から導入した反応調整剤(α-メチルスチレン(α-MeSt))によりトラップした。
【0126】
次いで、tert-ブチルメタクリレートを予めテトラヒドロフランに溶解したtert-ブチルメタクリレート溶液をチューブリアクターP4からT字型マイクロミキサーM3に導入し、チューブリアクターR2を通じて移動させた前記トラップされた重合体と、連続的なリビングアニオン重合反応を行った。その後、メタノールを供給することによって前記リビングアニオン重合反応をクエンチすることによってブロック共重合体(PA-1)組成物を製造した。
【0127】
上記ブロック共重合体(PA-1)組成物を製造する際、マイクロリアクター全体を恒温槽に埋没させることで、反応温度を24℃に設定した。
【0128】
上記方法で得られたブロック共重合体(PA-1)を構成するモノマーのモル比は、
(BuLi/スチレン/α-メチルスチレン/tert-ブチルメタクリレート)=1.0/12.0/1.3/8.1であった。
【0129】
得られたブロック共重合体(PA-1)組成物を、陽イオン交換樹脂で処理することで加水分解した後減圧下で留去し、得られた固体を粉砕することによって、重量平均分子量2710、酸価145の、粉状の分散樹脂(P-1)を得た。
【0130】
(水性顔料分散体の調製)
顔料として三菱カーボンブラック#960を150質量部、分散樹脂(P-1)を45質量部、トリエチレングリコールを150質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液17質量部を、1.0Lのインテンシブミキサー(日本アイリッヒ株式会社)に仕込み、ローター周速2.94m/s、パン周速1m/sで、60分間混練した。
【0131】
次に、インテンシブミキサー容器内の混練物に、撹拌を継続しながらイオン交換水450質量部を徐々に加えた後、イオン交換水208.5質量部をさらに加え混合することによって、顔料濃度15.0質量%の水性顔料分散体を得た。
【0132】
(ウレタン樹脂組成物(1)の調製)
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、1,6-ヘキサンジオールとメチルカーボネートとを反応して得られるポリカーボネートポリオール(数平均分子量2000)500質量部、2,2―ジメチロールプロピオン酸36.5質量部及びメチルエチルケトン436質量部を加え、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを183.5質量部使用し、80℃で3時間反応させることによって、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。上記で得られたウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液にトリエチルアミン41.3質量部を加え、前記ウレタンプレポリマー中のカルボキシル基を中和した後、水1504質量部を加えた。次いで、ヒドラジン5.2質量部を加えて反応させた。反応終了後、減圧下、40℃~60℃の温度下でメチルエチルケトンを除去し、水を加えて濃度調節を行うことによって、前記ウレタン樹脂が水性媒体中に分散された不揮発分35質量%の重量平均分子量が150000で酸価21mgKOH/gのポリウレタンを含有するウレタン樹脂組成物(1)を得た。
[実験例1]
<水性顔料インクの調製>
上記水性顔料分散体26.7質量部、ウレタン樹脂組成物(1)20質量部、サーフィノール440(EVONIK製、アセチレン系界面活性剤)1質量部、プロピレングリコール5質量部、グリセリンを23質量部、トリエチレングリコールを1質量部、3-メチル-1,5-ペンタンジオール1質量部、防腐剤としてACTICIDE B-20(ソー・ジャパン(株)製)0.2質量部、イオン交換水22.1質量部を混合することによって水性顔料インクを得た。
【0133】
得られた水性顔料インクをポリプロピレンの孔径0.5μmカートリッジフィルターでろ過したものを、実験例1の水性顔料インクとした。
【0134】
[実験例2]
実験例1で得た水性顔料インクを、60℃に設定した恒温器内に3日間放置したものを実験例2の水性顔料インクとした。
【0135】
<パルスNMR測定>
得られた水性顔料インクのパルスNMR測定を以下の条件で10回測定しその平均値から、減衰曲線を求めた。
【0136】
<パルスNMR測定条件>
・測定装置:Acorn Area(XiGo Nanotools社製、測定核種は1H核)
・パルス系列:CPMG法
・共鳴周波数:13MHz
・測定温度:30℃
・測定試料の量:1.0cm
【0137】
前記T2緩和時間から短時間成分の緩和時間(T2S)と長時間成分の緩和時間(T2L)とを求める工程では、パルスNMR測定装置Acorn Area(XiGo Nanotools社製、測定核種は1H核)に付属する解析ソフト(リリース0.9.2)を使用した。
【0138】
(体積平均粒径の測定)
得られた水性顔料インクの体積平均粒径を以下の方法により測定した。
【0139】
・測定装置:マイクロトラックMT3000II(マイクロトラック・ベル社製)
・測定溶媒:水
・溶媒屈折率:1.333
・存在比率:体積基準
・粒子透過性:透過
・粒子形状:非球形
・粒子屈折率:1.81
・解析モード:ロジン・ラムラー分布(±2σ)(装置付属ソフト:DMS ver.11.0.0-246V)
[連続吐出性の評価]
RICOH社製ヘッド(MH5421)を用い、4列のうち1列分の320ノズルから駆動周波数20kHzで水性顔料インクを最大30分間吐出し、飛翔液滴観察した際の吐出抜け、ヨレを引き起こしたノズルの割合を、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
【0140】
〇:吐出抜け、ヨレを引き起こしたノズルの割合が10%未満
△:吐出抜け、ヨレを引き起こしたノズルの割合が10%以上20%未満
×:吐出抜け、ヨレを引き起こしたノズルの割合が20%以上
【0141】
前記方法で算出した[緩和時間(T2S)/緩和時間(T2L)]の値が、0.16未満であった実験例2の水性顔料インクは、上記連続吐出性の評価も〇であった。一方、[緩和時間(T2S)/緩和時間(T2L)]の値が0.16を超えた実験例1の水性顔料インクは、上記連続吐出性の評価×であった。したがって、[緩和時間(T2S)/緩和時間(T2L)]の値に基づいて水性顔料インクの連続吐出性を評価できることが分かった。
【0142】
【表1】
【0143】
測定n=10、顔料濃度=4質量%
参考)水のT2緩和時間 2668.6ミリ秒 (実測値)