(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20240326BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20240326BHJP
H04N 23/55 20230101ALI20240326BHJP
【FI】
G02B5/22
H01L27/146 D
H04N23/55
(21)【出願番号】P 2020128628
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】塩野 和彦
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-164269(JP,A)
【文献】国際公開第2019/168090(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/059509(WO,A1)
【文献】特開2016-045372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を備える光学フィルタであって、
前記基材は樹脂層を有し、
前記樹脂層は近赤外線吸収色素A及び樹脂を含有し、
前記近赤外線吸収色素Aは、
下記式(2)で表される色素化合物である、光学フィルタ
。
【化1】
式(2)中の記号は以下のとおりである。
X
-
は1価のアニオン種である。
R
1
は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~13のアルアリール基、又は-NR
9
R
10
である。
R
2
~R
5
は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、又は置換基を有してもよい炭素数7~13のアルアリール基である。R
2
~R
5
は、隣り合う2つが互いに連結して5~8員環を形成してもよい。
R
9
、R
10
は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、又は置換基を有してもよい炭素数1~12のカルボニル基である。
R
11
、R
12
は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基、又は炭素数1~12のアルコキシ基である。
R
13
は、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、又は炭素数1~12のアルコキシ基である。
【請求項2】
前記近赤外線吸収色素Aは、ジクロロメタンに溶解して測定される波長350~1200nmの分光透過率曲線において、さらに下記(i-4)を満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(i-4)前記
近赤外線吸収色素Aの吸収極大波長λmax(A)における吸光度を1に合わせたときに、波長500nm以下の範囲において吸光度が0.002を超える波長λ
ε0.002が下記の条件を満たす。
λ
ε0.002≦455nm
【請求項3】
前記近赤外線吸収色素Aは、ジクロロメタンに溶解して測定される波長350~1200nmの分光透過率曲線において、さらに下記(i-5)を満たす、請求項1又は2に記載の光学フィルタ。
(i-5)前記
近赤外線吸収色素Aの吸収極大波長λmax(A)の透過率を10%に合わせたときに、波長650~700nmの範囲における透過率の平均値が60%以上である。
【請求項4】
前記樹脂が透明樹脂であり、
前記透明樹脂が、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記近赤外線吸収色素Aは、前記近赤外線吸収色素A及び前記樹脂のみを含有する樹脂層において、下記(ii-1)及び(ii-2)を満たす、請求項1~
4のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(ii-1)前記近赤外線吸収色素Aの吸収極大波長λmax(pA)の内部透過率を10%に合わせたとき、波長450~550nmの平均内部透過率が97.0%以上であり、波長450~550nmの最小内部透過率が96.5%以上である。
(ii-2)前記近赤外線吸収色素Aの吸収極大波長λmax(pA)の内部透過率を10%に合わせたとき、内部透過率が80%となる最も短い波長の値(Xa)と、内部透過率が80%となる最も長い波長の値(Xb)との差の絶対値|Xa-Xb|が140nm以上である。
【請求項6】
前記樹脂層が近赤外線吸収色素Bをさらに含有し、
前記近赤外線吸収色素Bは、ジクロロメタンに溶解して測定される波長350~1200nmの分光透過率曲線において、下記(iii-1)及び(iii-2)を満たす、請求項1~
5のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(iii-1)前記近赤外線吸収色素Bの吸収極大波長λmax(B)は波長670~730nmの範囲にある。
(iii-2)前記吸収極大波長λmax(B)と前記
近赤外線吸収色素Aの吸収極大波長λmax(A)が以下の条件を満たす。
λmax(B)<λmax(A)
【請求項7】
前記樹脂層は、下記(iv-1)~(iv-6)の全てを満たす、請求項
6に記載の光学フィルタ。
(iv-1)内部透過率が50%となる最も短い波長の値(Ya)と、内部透過率が50%となる最も長い波長の値(Yb)との差の絶対値|Ya-Yb|が100~150nmの範囲にある。
(iv-2)内部透過率が50%となる最も短い波長の値(Ya)が630~680nmの範囲にある。
(iv-3)波長750nmの内部透過率が30%以下である。
(iv-4)波長730~780nmの内部透過率の平均値が40%以下である。
(iv-5)波長680~740nmの内部透過率の平均値が10%以下であり、前記内部透過率の最小値が5%以下である。
(iv-6)波長450~550nmの内部透過率の平均値が97%以上であり、前記内部透過率の最小値が94%以上ある。
【請求項8】
下記(vi-1)~(vi-6)を全て満たす、請求項
6または7に記載の光学フィルタ。
(vi-1)入射角0°における波長450~550nmの平均透過率が90%以上であり、最小透過率が88.5%以上である。
(vi-2)入射角0°における波長600~700nmの平均透過率が25%以上である。
(vi-3)入射角0°における波長710~1100nmの平均透過率が2%以下である。
(vi-4)入射角0°における波長700~800nmの平均透過率が1.5%以下である。
(vi-5)入射角0°における波長700~800nmの最大透過率が2%以下である。
(vi-6)入射角0°の分光透過率曲線の波長600~700nmの光における透過率と入射角30°の分光透過率曲線の波長600~700nmの光における透過率との差の絶対値が7%/nm以下である。
【請求項9】
前記基材が、前記樹脂層及び支持体を有し、
前記樹脂層が前記支持体の少なくとも一方の主面に積層されている、請求項1~
8のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の光学フィルタを備える撮像装置。
【請求項11】
下記式(2)で表される色素化合物。
【化2】
式(2)中の記号は以下のとおりである。
X
-は1価のアニオン種である。
R
1は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~13のアルアリール基、又は-NR
9R
10である。
R
2~R
5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、又は置換基を有してもよい炭素数7~13のアルアリール基である。R
2~R
5は、隣り合う2つが互いに連結して5~8員環を形成してもよい。
R
9、R
10は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、又は置換基を有してもよい炭素数1~12のカルボニル基である。
R
11、R
12は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基、又は炭素数1~12のアルコキシ基である。
R
13は、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、又は炭素数1~12のアルコキシ基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子を用いた撮像装置には、色調を良好に再現し鮮明な画像を得るため、可視域の光(可視光)を透過し近赤外域の光(近赤外光)を遮断する光学フィルタが用いられる。光学フィルタとしては、例えば、ガラス基材上に、色素と樹脂を含む基材と、誘電体多層膜とを設けた近赤外光カットフィルタが知られている。
【0003】
光学フィルタに用いる色素は、フレア現象及びゴースト現象を抑制する観点から、近赤外光(波長720~760nm)の遮光性に優れている近赤外線吸収色素が好ましい。また、近年、青色帯域(波長450~550nm)の透過率が高い色素が求められている。青色帯域の透過率が改善された近赤外線吸収色素として、例えば、特許文献1では、下記化合物が開示されている。
【0004】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献1に記載の色素は、青色帯域の透過率が十分でなく、また樹脂への溶解性も乏しいため、用途や光学フィルタの構成に制限が生じてしまうという欠点があった。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、近赤外光の遮光性に優れ、かつ青色帯域の透過率が充分に高い近赤外線吸収色素、及び当該色素を含有する光学フィルタを提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る光学フィルタは、下記に存する。
基材を備える光学フィルタであって、
前記基材は樹脂層を有し、
前記樹脂層は近赤外線吸収色素A及び樹脂を含有し、
前記近赤外線吸収色素Aは、ジクロロメタンに溶解して測定される波長350~1200nmの分光透過率曲線において、下記(i-1)~(i-3)を全て満たす、光学フィルタ。
(i-1)波長720~760nmの範囲に吸収極大波長λmax(A)を有する。
(i-2)前記吸収極大波長λmax(A)における吸光度を1に合わせたときに、波長450~550nmの範囲における吸光度の最大値εAが以下の条件を満たす。
1/εA≧400
(i-3)前記吸収極大波長λmax(A)における吸光度を1に合わせたときに、波長450~470nmの範囲における吸光度の平均値εBが以下の条件を満たす。
1/εB≧800
【発明の効果】
【0009】
本発明の近赤外線吸収色素は、近赤外光の遮光性に優れ、かつ青色帯域の透過率が充分に高い。また、本発明の近赤外線吸収色素は、樹脂への溶解性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、試験例5の複合塗工膜の分光透過率曲線を示す図である。
【
図3】
図3は、試験例5の複合塗工膜の分光透過率曲線を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本明細書において、近赤外線吸収色素Aを「色素A」、近赤外線吸収色素Bを「色素B」、紫外線吸収色素を「UV色素」と略記することもある。
本明細書において、式(1)で示される化合物を化合物(1)という。他の式で表される化合物も同様である。また、式(1)で表される基を基(1)とも記し、他の式で表される基も同様である。
【0012】
本明細書において、「内部透過率」とは、{実測透過率/(100-反射率)}×100の式で示される、実測透過率から界面反射の影響を引いて得られる透過率である。
本明細書において、基材または樹脂層の透過率は、「透過率」と記載されている場合も全て「内部透過率」である。一方、色素をジクロロメタン等の溶媒に溶解して測定される透過率、光学フィルタの透過率は、実測透過率である。
【0013】
本明細書において、特定の波長域について、透過率が例えば90%以上とは、その全波長領域において透過率が90%を下回らない、すなわちその波長領域において最小透過率が90%以上であることをいう。同様に、特定の波長域について、透過率が例えば1%以下とは、その全波長領域において透過率が1%を超えない、すなわちその波長領域において最大透過率が1%以下であることをいう。内部透過率においても同様である。特定の波長域における平均透過率及び平均内部透過率は、該波長域の1nm毎の透過率及び内部透過率の相加平均である。
本明細書において、数値範囲を表す「~」では、上下限を含む。
【0014】
[光学フィルタ]
本発明の一実施形態の光学フィルタ(以下、「本フィルタ」ともいう)は、基材を備える。基材は樹脂層を有し、樹脂層は近赤外線吸収色素A及び樹脂を含有する。
【0015】
また、
図1に示すように、光学フィルタ10は、例えば支持体11上に樹脂層12を備えることができる。
【0016】
<基材>
(樹脂)
本フィルタが備える基材が有する樹脂層は、樹脂を含有する。
樹脂は、透明樹脂(透明性を有する樹脂)であることが好ましい。
透明樹脂としては、例えば、ノルボルネン樹脂等のシクロオレフィンポリマー(COP)又はシクロオレフィンコポリマー(COC);ポリイミド樹脂(PI);ポリカーボネート樹脂(PC);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂;ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂;フッ素樹脂;ポリビニルブチラール樹脂;ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。
【0017】
なかでも可視光域の透明性(波長400~700nm)、耐熱性、ガラス転移温度を両立できる観点から、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の透明樹脂が好ましい。
【0018】
なかでも可視光域の透明性(波長400~700nm)、耐熱性に加え、多層膜との密着性を両立できる観点から、ポリエチレンテレフタレートとポリイミドが特に好ましい。
これらの樹脂は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0019】
(近赤外線吸収色素Aの特性)
本フィルタが備える基材が有する樹脂層は、近赤外線吸収色素Aを含有する。
近赤外線吸収色素Aは、ジクロロメタンに溶解して測定される波長350~1200nmの分光透過率曲線において、下記(i-1)~(i-3)を全て満たす、光学フィルタ。
(i-1)波長720~760nmの範囲に吸収極大波長λmax(A)を有する。
(i-2)前記吸収極大波長λmax(A)における吸光度を1に合わせたときに、波長450~550nmの範囲における吸光度の最大値εAが以下の条件を満たす。
1/εA≧400
(i-3)前記吸収極大波長λmax(A)における吸光度を1に合わせたときに、波長450~470nmの範囲における吸光度の平均値εBが以下の条件を満たす。
1/εB≧800
【0020】
色素Aは、上記(i-1)を満たすことで、近赤外光の遮光性に優れる色素となる。
【0021】
色素Aは、上記(i-2)を満たすことで、青色帯域の透過率が高い色素となる。
1/εAは、好ましくは450以上、より好ましくは480以上である。
【0022】
色素Aは、上記(i-3)を満たすことで、青色帯域の透過率がより高い色素となる。
1/εBは、好ましくは900以上、より好ましくは1000以上である。
【0023】
色素Aは、ジクロロメタンに溶解して測定される波長350~1200nmの分光透過率曲線において、さらに下記(i-4)を満たすことが好ましい。
(i-4)前記吸収極大波長λmax(A)における吸光度を1に合わせたときに、波長500nm以下の範囲において吸光度が0.002を超える波長λε0.002が下記の条件を満たす。
λε0.002≦455nm
【0024】
色素Aは、上記(i-4)を満たすことで、より短波長域まで透過率が高くなるため、青色帯域の光の取り込み量を増やすことができる。これによって色素Aは、青色帯域の透過率がより高い色素となる。
λε0.002は、好ましくは453nm以下、より好ましくは450nm以下である。
【0025】
色素Aは、ジクロロメタンに溶解して測定される波長350~1200nmの分光透過率曲線において、さらに下記(i-5)を満たすことが好ましい。
(i-5)前記吸収極大波長λmax(A)の透過率を10%に合わせたときに、波長650~700nmの範囲における透過率の平均値が60%以上である。
【0026】
色素Aは、上記(i-5)を満たすことで、青色帯域の透過率が高いだけでなく、赤色帯域(波長650~700nm)の透過率も高い色素となる。
上記(i-5)における透過率の平均値は、好ましくは65%以上、より好ましくは68%以上である。
【0027】
ここで、色素Aは、色素A及び前記樹脂のみを含有する樹脂層において、下記(ii-1)及び(ii-2)を満たすことが好ましい。
(ii-1)前記近赤外線吸収色素Aの吸収極大波長λmax(pA)の内部透過率を10%に合わせたとき、波長450~550nmの平均内部透過率が97.0%以上であり、波長450~550nmの最小内部透過率が96.5%以上である。
(ii-2)前記近赤外線吸収色素Aの吸収極大波長λmax(pA)の内部透過率を10%に合わせたとき、内部透過率が80%となる最も短い波長の値(Xa)と、内部透過率が80%となる最も長い波長の値(Xb)との差の絶対値|Xa-Xb|が140nm以上である。
【0028】
上記(ii-1)が満たされることで、樹脂層の青色帯域の透過率を高めることができる。
上記(ii-1)における波長450~550nmの内部平均透過率は、好ましくは97.5%以上、より好ましくは98.0%以上である。また、波長450~550nmの最小内部透過率は、好ましくは96.8%以上、より好ましくは97.0%以上である。
【0029】
上記(ii-2)が満たされることで、樹脂層の近赤外光の遮蔽性を高めることができる。
上記(ii-2)における絶対値|Xa-Xb|は、好ましくは145nm以上、より好ましくは150nm以上である。
【0030】
色素Aは、有機溶媒に対する溶解性が良好で、したがって、樹脂への相溶性も良好である。その結果、基材の厚さを薄くしても優れた分光特性を有し、光学フィルタを小型化、薄型化できる。また、基材の厚さを薄くできるため、加熱による基材の熱膨張を抑制でき、反射層や反射防止層を形成する際の、それらの層の割れ等の発生を抑制できる。すなわち、反射層や反射防止層等を形成する際、それらの材質によっては熱処理が施されることがあり、基材の厚さが厚いと、熱処理時の基材の膨張によってそれらの層に割れ等が発生するおそれがある。また、色素Aは、樹脂への溶解性に優れることから、樹脂層の形成方法を自由に選択できる。例えば、樹脂中に色素Aを含有させた単一の層を基材としてもよく、
図1に示すように支持体11上に樹脂に色素Aを含有させた樹脂層12を形成することで基材とすることも可能で、樹脂層の膜厚の自由度が高い。
【0031】
色素Aは、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0032】
【0033】
式(1)中の記号は以下のとおりである。
【0034】
X-は1価のアニオン種である。1価のアニオン種としては、例えば、PF6
-、BF4
-、N(SO2CF3)2
-、CF3SO3
-、ReO4
-、ClO4
-、Cl-、Br-、I-、BPh4
-、B(C6F5)4
-、CF3COO-、C(SO2CF3)3
-、p-トルエンスルホニルアニオン等を挙げることができる。
なお、Phはフェニル基を意味する。
【0035】
これらの中でも、色素Aの光耐性を高める観点から、X-は、PF6
-、BF4
-、N(SO2CF3)2
-の中から選択されることが好ましい。
【0036】
mは0又は1であり、1であることが好ましい。
R1は、mが0のとき、1価のアニオン性基である。1価のアニオン性基としては、例えば、下記(C1)~(C6)のいずれかで示されるアニオン性基等を挙げることができる。
【0037】
【0038】
式(C1)~(C6)中、R201~R214はそれぞれ独立に水素原子、炭素数5~20のアリール基、または、置換基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基を示す。置換基としてはハロゲン原子または炭素数1~10のアルコキシ基が挙げられる。
【0039】
R1は、mが1のとき、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7~13のアルアリール基、又は-NR9R10である。
【0040】
R1におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等を挙げることができる。
【0041】
R1におけるアルキル基の炭素数は1~10が好ましく、1~6がより好ましい。炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
中でも合成上の観点からメチル基が特に好ましい。
【0042】
R1における炭素数6~12のアリール基としては、例えば、芳香族化合物が有する芳香環(例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル、フラン環、チオフェン環、ピロール環等)を構成する炭素原子を介して結合する基等を挙げることができる。
中でも青帯域の透過率を損なわない観点からフェニル基が好ましい。
【0043】
R1における炭素数7~13のアルアリール基としては、例えば、1以上のアリール基で置換された、飽和環構造を含んでもよい直鎖状もしくは分枝状の飽和もしくは不飽和炭化水素基または飽和環状炭化水素基等を挙げることができる。
中でも青帯域の透過率を損なわない観点からフェニル基を有するアルアリール基が好ましい。
【0044】
R1が有してもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、アミノ基、N-置換アミノ基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、N-置換カルバモイル基、イミド基等を挙げることができる。
【0045】
R9、R10は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、又は置換基を有してもよい炭素数1~12のカルボニル基である。
【0046】
R9、R10におけるアルキル基、アリール基の具体例及びR9、R10が有してもよい置換基の具体例は、R1と同様である。
【0047】
R9、R10における炭素数1~12のカルボニル基としては、例えば、アセチル基、エタノイル基、プロパノイル基、ベンゾイル基、トリフルオロアセチル基、ペンタフルオロエタノイル基等を挙げることができる。
【0048】
これらの中でも、R1は、青色帯域の透過率を損なわないという観点と合成上の観点から、水素原子、メチル基、フェニル基、ジフェニルアミノ基、N-エチルアミド基、N-エチル-2,2,2-トリフルオロアセトアミド基であることが好ましく、水素原子、メチル基、フェニル基であることがより好ましい。
【0049】
R2~R7は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基、又は置換基を有してもよい炭素数7~13のアルアリール基である。R2~R7は、隣り合う2つが互いに連結して5~8員環を形成してもよい。
【0050】
R2~R7におけるハロゲン原子、アルキル基、炭素数6~12のアリール基、アルアリール基の具体例及びR2~R7が有してもよい置換基の具体例は、R1と同様である。
【0051】
R2~R7におけるシクロアルキル基の炭素数は3~10が好ましく、6~10がより好ましい。炭素数6~10のシクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、アダマンチル基などが挙げられる。
【0052】
これらの中でも、R2~R5は、青色帯域の透過率を損なわないという観点と合成上の観点から、水素原子又は炭素数1~12のアルキル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0053】
また、R6~R7は、青色帯域の透過率を高める観点から、炭素数1~12のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、炭素数1~12の2級アルキル基、炭素数1~12の3級アルキル基、又は2位と6位に置換基を有するフェニル基であることがより好ましく、イソプロピル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、2,6-ジメチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、2,6-ジイソプロピルフェニル基、又は2,4,6-トリイソプロピルフェニル基であることがさらに好ましい。
【0054】
また、色素Aは、下記式(2)で表される化合物であることがより好ましい。
【0055】
【0056】
式(2)中の記号は以下のとおりである。
【0057】
X-、R1~R5の定義は、式(1)と同様である。
【0058】
R11、R12は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基、又は炭素数1~12のアルコキシ基である。
【0059】
R11、R12におけるアルキル基の炭素数は1~8が好ましく、1~5がより好ましい。炭素数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基が挙げられる。
【0060】
R11、R12におけるアルコキシ基の炭素数は1~8が好ましく、1~6がより好ましい。炭素数1~6のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基が挙げられる。
【0061】
R11、R12が炭素数1~12のアルキル基、又は炭素数1~12のアルコキシ基であることにより、色素Aはπ共役平面に対してフェニル基が直交するような配座をとる。これによって、フェニル基と色素Aの間のπ共役が切れ、フェニル基は誘起的な電子吸引効果をもたらすようになる。この電子吸引効果によって、化合物(2)は720~760nmの近赤外域に吸収を有するとともに、青色帯域の透過率を高くすることが可能になる。
【0062】
これらの中でも、R11、R12は、合成上の観点から、炭素数1~12のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~5のアルキル基であることがより好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基であることがさらに好ましい。
【0063】
R13は、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、又は炭素数1~12のアルコキシ基である。
【0064】
R13におけるアルキル基の炭素数は1~8が好ましく、1~5がより好ましい。炭素数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基が挙げられる。
【0065】
R13におけるアルコキシ基の炭素数は1~8が好ましく、1~6がより好ましい。炭素数1~6のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基挙げられる。
【0066】
これらの中でも、R13は、合成上の観点から、炭素数1~12のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~5のアルキル基であることがより好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基であることがさらに好ましい。
【0067】
また、R13が水素原子以外である場合、R13は、R11、R12と同じであることが、合成上の観点から好ましい。
【0068】
化合物(2)としては、より具体的には、各骨格に結合する原子または基が、以下の表1に示される原子または基である式(2)-1~(2)-24で表される化合物が挙げられる。
【0069】
【0070】
これらの中でも、合成の簡便さの観点から、式(2)-1~式(2)-2で表される化合物が好ましい。
また、色素Aの耐光性を高める観点から、X-は、PF6
-、BF4
-、N(SO2CF3)2
-の中から選択されることが好ましい。
【0071】
(色素Aの製造方法)
色素Aの製造方法について、化合物(2)中のR1~R5が水素原子である化合物(2)-30の製造方法を用いて説明するが、色素Aの製造方法はこれらに限定されない。
化合物(2)-30を得る経路を以下に示す。
【0072】
【0073】
<ステップ1>
ナスフラスコに、出発原料、トリメチルシリルアセチレン、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ヨウ化銅、ジエチルアミンを加える。フラスコ内を脱気後、窒素で置換し加熱撹拌する。反応終了後、溶媒を減圧留去し、水を加えてジクロロメタンで抽出する。ジクロロメタンを減圧留去し、精製を行い、中間体1を得る。
【0074】
<ステップ2>
ナスフラスコに、中間体1とメタノールを加え、氷冷する。そこへ炭酸カリウムを加え、窒素気流下、撹拌する。反応終了後、ろ過することで反応系中の炭酸カリウムを除き、ろ液を減圧留去する。得られる液体に水を加え、ジクロロメタンで抽出する。ジクロロメタンを減圧留去し、精製を行い、中間体2を得る。
【0075】
<ステップ3>
ナスフラスコに、中間体2、テトラヒドロフランを加え、窒素気流下、撹拌する。n-ブチルリチウムを添加し、撹拌する。その後テトラヒドロフランに溶かしたギ酸エチルを添加し、撹拌する。反応終了後、水を加えて反応を停止し、ジクロロメタンで抽出する。ジクロロメタンを減圧留去し、得られる固体を洗浄し、中間体3を得る。
【0076】
<ステップ4>
ナスフラスコに、中間体3、ジクロロメタン、酸化マンガンを加え、窒素気流下、撹拌する。反応終了後、反応溶液をろ過して、酸化マンガンを除き、ろ液を減圧留去する。得られる粉末を洗浄し、中間体4を得る。
【0077】
<ステップ5>
ナスフラスコに、中間体4、p-トルエンスルホン酸一水和物、メタノール、トルエンを加え、撹拌する。その後、溶媒を減圧留去し、そこへメタノール、濃塩酸を加え、撹拌する。反応終了後、反応溶液を氷冷し、水を加えて反応を停止させたのちに、ジクロロメタンで抽出する。ジクロロメタンを減圧留去し、トルエンとトリフルオロメタンスルホン酸を加え、撹拌する。反応終了後、反応溶液を氷冷し、水を加えて反応を停止し、トルエン層を抽出する。トルエンを減圧留去し、精製を行い、得られる粉末を洗浄し、中間体5を得る。
【0078】
<ステップ6>
ナスフラスコに、中間体5とテトラヒドロフランを加え、撹拌し、そこへメチルマグネシウムブロミドを加え、窒素気流下、加熱撹拌する。反応終了後、10質量%の酸性水溶液中へ反応溶液を少しずつ注ぎ、撹拌することで反応を停止する。この溶液をジクロロメタンで抽出し、ジクロロメタン層を水で洗浄後、ジクロロメタンを減圧留去する。得られる粉末を洗浄することで、中間体6を得る。
【0079】
10質量%の酸性水溶液としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸水溶液、テトラフルオロホウ酸水溶液、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド水溶液、トリフルオロメタンスルホン酸水溶液、過レニウム酸水溶液、過塩素酸水溶液、塩化水素酸水溶液、臭化水素酸水溶液、ヨウ化水素酸水溶液等を挙げることができる。
【0080】
<ステップ7>
ナスフラスコに、中間体6、マロンアルデヒドジアニリド塩酸塩、酢酸ナトリウム、酢酸、無水酢酸を加え、窒素気流下、加熱撹拌する。反応終了後、反応溶液を氷冷し、水を加えたのち、反応溶液をろ過することで、粉末を回収する。粉末を精製後、得られる固体を洗浄することにより、化合物(2)-30を得る。
【0081】
(近赤外線吸収色素B)
樹脂層は、近赤外線吸収色素Bをさらに含有することが好ましい。
色素Bは、ジクロロメタンに溶解して測定される波長350~1200nmの分光透過率曲線において、下記(iii-1)及び(iii-2)を満たすことが好ましい。
(iii-1)前記近赤外線吸収色素Bの吸収極大波長λmax(B)は波長670~730nmの範囲にある。
(iii-2)前記吸収極大波長λmax(B)と前記吸収極大波長λmax(A)が以下の条件を満たす。
λmax(B)<λmax(A)
【0082】
樹脂層が、上記(iii-1)及び(iii-2)を満たす色素Bを含有すると、基材の近赤外光の遮光性が高くなる。
【0083】
色素A及び色素Bを含有する樹脂層は、下記(iv-1)~(iv-6)の全てを満たすことが好ましい。
(iv-1)内部透過率が50%となる最も短い波長の値(Ya)と、内部透過率が50%となる最も長い波長の値(Yb)との差の絶対値|Ya-Yb|が100~150nmの範囲にある。
(iv-2)内部透過率が50%となる最も短い波長の値(Ya)が630~680nmの範囲にある。
(iv-3)波長750nmの内部透過率が30%以下である。
(iv-4)波長730~780nmの内部透過率の平均値が40%以下である。
(iv-5)波長680~740nmの内部透過率の平均値が10%以下であり、前記内部透過率の最小値が5%以下である。
(iv-6)波長450~550nmの内部透過率の平均値が97%以上であり、前記内部透過率の最小値が94%以上ある。
【0084】
上記(iv-1)~(iv-6)が全て満たされることで、色素A及び色素Bを基材中に十分量含有させることができるため、近赤外光を十分に遮蔽しつつ、青帯域の透過率を高くできる。
【0085】
上記(iv-1)における絶対値|Ya-Yb|は、好ましくは105~150nm、より好ましくは110~150nmである。絶対値|Ya-Yb|がこの範囲にあることで、基材が近赤外域の幅広い範囲を遮蔽できる。
【0086】
上記(iv-2)における波長の値(Ya)は、好ましくは635~675nm、より好ましくは640~670nmである。
【0087】
上記(iv-3)における内部透過率は、好ましくは28%以下、より好ましくは27%以下である。内部透過率がこの範囲にあることで、基材が750nmの長波長領域の光を遮蔽できる。
【0088】
上記(iv-4)における内部透過率の平均値は、好ましくは37%以下、より好ましくは35%以下である。内部透過率の平均値がこの範囲にあることで、基材が近赤外域の幅広い範囲で遮蔽性を有することができる。
【0089】
上記(iv-5)における内部透過率の平均値は、好ましくは9%以下、より好ましくは8%以下である。上記(iv-5)における内部透過率の最小値は、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下である。内部透過率の最小値がこの範囲にあることで、基材が680~740nmの波長範囲については十分に光を遮蔽できる。
【0090】
上記(iv-6)における内部透過率の平均値は、好ましくは97.5%以上、より好ましくは98.0%以上である。上記(iv-6)における内部透過率の最小値は、好ましくは94.1%以上、より好ましくは94.2%以上である。内部透過率がこの範囲にあることで、基材の青色帯域の透過率を高くできる。
【0091】
なお、色素Bとしては、式(BI)または式(BII)で示されるスクアリリウム系色素が挙げられる。本明細書において、式(BI)で示される色素を、色素(BI)、式(BII)で示される色素を、色素(BII)ともいい、他の色素についても同様である。
【0092】
【0093】
ただし、式(BI)及び式(BII)中の記号は以下のとおりである。
Yは、独立して、1つ以上の水素原子がハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい式(101)または式(102)で示される2価の有機基である。
【0094】
-(CH2)n1- (101)
式(101)中、n1は2または3である。
【0095】
-(CH2)n2-O-(CH2)n3- (102)
式(102)中、n2とn3はそれぞれ独立して0~2の整数であり、n2+n3は1または2である。
【0096】
R101は、独立して、飽和環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1~12の飽和もしくは不飽和炭化水素基、炭素数3~12の飽和環状炭化水素基、炭素数6~12のアリール基または炭素数7~13のアルアリール基を示す。
【0097】
R102は、独立して、1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1~25の炭化水素基である。
【0098】
R103、R104、R105及びR106は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
nは2または3である。
【0099】
なお、本明細書において、飽和もしくは不飽和の環構造とは、炭化水素環及び環構成原子として酸素原子を有するヘテロ環をいう。さらに、環を構成する炭素原子に炭素数1~10のアルキル基が結合した構造もその範疇に含むものとする。
【0100】
また、アリール基は芳香族化合物が有する芳香環、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル、フラン環、チオフェン環、ピロール環等を構成する炭素原子を介して結合する基をいう。アルアリール基は、1以上のアリール基で置換された、飽和環構造を含んでもよい直鎖状もしくは分枝状の飽和もしくは不飽和炭化水素基または飽和環状炭化水素基をいう。
【0101】
色素(BI)及び色素(BII)は、分子構造の中央にスクアリリウム骨格を有し、スクアリリウム骨格の左右に各1個のベンゼン環が結合し、そのベンゼン環は4位で窒素原子と結合し、該窒素原子とベンゼン環の4位と5位の炭素原子を含む複素環が形成された縮合環構造を左右に有する。
【0102】
さらに、色素(BI)は、左右に各1個あるベンゼン環の2位で、それぞれ式(b1)で示されるスルホンアミド基と結合し、色素(BII)は、左右に各1個あるベンゼン環の2位で、それぞれ式(b2)で示されるスルホンアミド基と結合する。
【0103】
【0104】
色素(BI)及び色素(BII)において、左右に1個ずつ存在する縮合環構造を構成するベンゼン環以外の環の構成は、Yにより決定され、それぞれ独立して員数が5または6の複素環である。前記複素環の一部を構成する2価の基Yは、式(101)で示されるように骨格が炭素原子のみで構成されてもよく、式(102)で示されるように酸素原子を含んでもよい。式(102)において、酸素原子の位置は特に制限されない。すなわち、窒素原子と酸素原子が結合してもよく、ベンゼン環に酸素原子が直接結合してもよい。また、炭素原子に挟まれるように酸素原子が位置してもよい。
【0105】
左右のYは同一であっても異なってもよいが、生産性の観点から同一が好ましい。またR101~R106についても、スクアリリウム骨格を挟んで左右で同一であっても異なってもよいが、生産性の観点から同一が好ましい。
【0106】
色素(BI)及び色素(BII)は上記のように、スクアリリウム骨格の左右に結合するベンゼン環の2位にスルホンアミド基が結合しており、これにより、従来のスクアリリウム系色素と同等の、近赤外域での分光透過率特性を有しながら、可視域、特に波長430~550nmの光の透過率がより高められる。これは、ベンゼン環への結合基をスルホンアミド基とすることで、窒素原子の電子密度の低下を抑制できるからと考えられる。また、スルホンアミド基は安定な結合基であるため、熱や光に対する安定性も高められる。さらに、樹脂への溶解性も損なわれないため、染料としての使用も可能になる。
【0107】
色素(BI)及び色素(BII)は、有機溶媒に対する溶解性が良好で、したがって、透明樹脂への相溶性も良好である。その結果、基材の厚さを薄くしても優れた分光特性を有し、光学フィルタを小型化、薄型化できる。また、基材の厚さを薄くできるため、加熱による基材の熱膨張を抑制でき、反射層や例えば反射防止層を形成する際の、それらの層の割れ等の発生を抑制できる。すなわち、反射層や反射防止層等を形成する際、その材質によっては熱処理が施されることがあり、基材の厚さが厚いと、熱処理時の基材の膨張によってそれらの層に割れ等が発生するおそれがある。また、有機溶媒に対する溶解性、透明樹脂への相溶性の観点から、置換基R101は、分岐構造を有する基が好ましい。
【0108】
色素(BI)及び色素(BII)は、スルホンアミド基が含まれることにより、耐熱性も良好であるため、反射層や反射防止層等の熱処理等の際にも、その性能の劣化を抑制できる。また、耐熱性の観点からも、置換基R101は、分岐構造を有する基が好ましい。
【0109】
さらに、色素(BI)及び色素(BII)は、耐光性も良好である。耐光性の観点から、スルホンアミド基のS原子に結合する基は、アルキル基もしくはアルコシキ基が好ましく、特に炭素数1~12のアルキル基またはアルコシキ基が好ましい。
【0110】
色素(BI)及び色素(BII)のYは、式(103)で示される2価の有機基が好ましい。
-CR107
2-(CR108
2)n4- (103)
【0111】
式(103)は、左側がベンゼン環に結合し右側がNに結合する2価の基を示し、n4は1または2である。n4は1が好ましい。R107は、それぞれ独立して、分岐を有してもよい炭素数1~12のアルキル基またはアルコキシ基であり、炭素数1~6の分岐を有してもよいアルキル基またはアルコキシ基が好ましい。R108はそれぞれ独立して、水素原子、または分岐を有してもよい炭素数1~12のアルキル基またはアルコキシ基であり、水素原子、または分岐を有してもよい炭素数1~6のアルキル基またはアルコキシ基が好ましい。
【0112】
Yは、式(11-1)~(12-3)で示される2価の有機基のいずれかであることが特に好ましい。式(11-1)~式(12-3)は、いずれも左側がベンゼン環に結合し右側がNに結合する2価の基を示す。
【0113】
-C(CH3)2-CH(CH3)- (11-1)
-C(CH3)2-CH2- (11-2)
-C(CH3)2-CH(C2H5)- (11-3)
-C(CH3)2-C(CH3)2- (11-4)
-C(CH3)2-C(CH3)(C2H5)- (11-5)
-C(CH3)2-C(CH3)(CH(CH3)2)- (11-6)
-C(CH3)2-CH2-CH2- (12-1)
-C(CH3)2-CH2-CH(CH3)- (12-2)
-C(CH3)2-CH(CH3)-CH2- (12-3)
【0114】
これらのうちでも、Yは、基(11-1)~(11-6)のいずれかが好ましい。
【0115】
以下に、Yが好ましい基からなる色素(Bi)及び色素(Bii)の構造式を示す。式(Bi)、(Bii)中、R101~R106は、式(BI)、(BII)におけるR101~R106と同じ意味である。また、R121、R122は、分岐を有してもよい炭素数1~6のアルキル基またはアルコキシ基、R123、R124は、水素原子、または分岐を有してもよい炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基である。
【0116】
【0117】
色素(BI)及び色素(BII)のR101は、溶解性、耐熱性、さらに分光透過率曲線における可視域と近赤外域の境界付近の変化の急峻性の観点から、独立して、式(4-1)または式(4-2)で示される基がより好ましい。
【0118】
【0119】
式(4-1)及び式(4-2)中、R111、R112、R113、R114及びR115は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4のアルキル基を示す。
【0120】
色素(BI)及び色素(BII)のR103及びR104は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基が好ましく、いずれも水素原子がより好ましい。
【0121】
色素(BI)のR102は、耐光性の点から、独立して、分岐を有してもよい炭素数1~12のアルキル基もしくはアルコキシ基、または不飽和の環構造を有する炭素数6~16の炭化水素基が好ましい。不飽和の環構造としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、フラン、ベンゾフラン等が挙げられる。R102は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1~12のアルキル基もしくはアルコキシ基がより好ましい。
【0122】
色素(BII)のR105及びR106は、分子量を大きく増大させず、添加量、スクアリリウムへの反応性、樹脂への溶解性等の観点から、水素原子、フッ素原子、炭素数1~5のアルキル基がより好ましい。
【0123】
色素(B1)としては、色素(Bi)または色素(Bii)がより好ましい。
【0124】
色素(BI)及び色素(BII)は、従来公知の方法、例えば、米国特許出願公開第2014/0061505号明細書、国際公開第14/088063号明細書に記載された方法で製造可能である。
【0125】
(その他の色素)
樹脂層は、その他の色素としてUV色素をさらに含有できる。
UV色素としては、例えば、メロシアニン系、オキサゾール系、シアニン系、ナフタルイミド系、オキサジアゾール系、オキサジン系、オキサゾリジン系、ナフタル酸系、スチリル系、アントラセン系、環状カルボニル系、トリアゾール系等の色素が挙げられる。
【0126】
(各成分の含有量)
基材における色素Aの含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~30質量部、より好ましくは0.02~25質量部である。
基材における色素Bの含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~30質量部、より好ましくは0.02~25質量部である。
基材におけるUV色素の含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~30質量部、より好ましくは0.02~25質量部である。
【0127】
(基材構成)
基材は、単層構造であっても、複層構造であってもよい。また、基材の材質としては400~700nmの可視光を透過する透明性材料であれば有機材料でも無機材料でもよく、特に制限されない。
【0128】
基材が単層構造の場合、基材は、色素A及び樹脂を含む樹脂基材であることが好ましい。また、樹脂基材は、色素B、UV色素をさらに含有できる。
基材が複層構造の場合、基材は、支持体の少なくとも一方の主面に、色素A及び樹脂を含有する樹脂層を積層した構造であることが好ましい。このとき支持体は、上記透明樹脂又は透明性無機材料からなることが好ましい。また、樹脂層は、色素B、UV色素をさらに含有できる。
【0129】
透明性無機材料としては、ガラスや結晶材料が好ましい。
ガラスとしては、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等に銅イオンを含む吸収型のガラス(近赤外線吸収ガラス)、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。ガラスとしては、目的に応じて吸収ガラスが好ましく、赤外光を吸収する観点ではリン酸系ガラス、沸リン酸系ガラスが好ましい。赤色光(600~700nm)を多く取り込みたい際は、アルカリガラス、無アルカリガラス、石英ガラスが好ましい。なお、「リン酸塩系ガラス」は、ガラスの骨格の一部がSiO2で構成されるケイリン酸塩ガラスも含む。
【0130】
ガラスとしては、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換により、ガラス板主面に存在するイオン半径が小さいアルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、イオン半径のより大きいアルカリイオン(例えば、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオンである。)に交換して得られる化学強化ガラスを使用してもよい。
【0131】
結晶材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイア等の複屈折性結晶が挙げられる。
【0132】
支持体としては、光学特性、機械特性等の長期にわたる信頼性に係る形状安定性の観点、フィルタ製造時のハンドリング性等から、無機材料が好ましく、特にガラス、サファイアが好ましい。
【0133】
基材が、透明樹脂、UV色素、色素B、色素Aを含む単層構造の樹脂基材である場合、例えば、以下の方法で製造できる。
【0134】
樹脂基材は、透明樹脂、または透明樹脂と任意成分の混合物を溶融押出してフィルム状に成形して製造できる。また、透明樹脂及び必要に応じて任意成分を溶媒に溶解させ、塗工液を調製し、これを樹脂基材作製用の剥離性の基材に所望の厚さに塗工し乾燥させ、さらに、必要に応じて硬化させた後、樹脂基材を基材から剥離して、製造できる。
【0135】
塗工液に用いる溶媒は、透明樹脂を安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であればよい。塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。さらに、塗工液の塗工には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、ダイコート法またはスピンコート法等を使用できる。
【0136】
基材が、支持体と、支持体の少なくとも一方の主面に積層したUV色素、色素B、色素Aを含有する樹脂層とを有する複層構造である場合、樹脂層の厚さは、0.3~15μmが好ましい。樹脂層が複数層からなる場合、樹脂層の合計の厚さは、0.3~15μmが好ましい。
【0137】
樹脂層は、UV色素、色素B、色素Aと、樹脂または樹脂の原料成分と、必要に応じて配合される各成分とを、溶媒に溶解または分散させて塗工液を調製し、これを基材に塗工し乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させて形成できる。基材は、本フィルタに含まれる支持体でもよいし、樹脂層を形成する際にのみ使用する剥離性の基材でもよい。また、溶媒は、安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であればよい。
【0138】
また、塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。さらに、塗工液の塗工には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、またはスピンコート法等を使用できる。上記塗工液を基材上に塗工後、乾燥させることにより樹脂層が形成される。また、塗工液が透明樹脂の原料成分を含有する場合、さらに熱硬化、光硬化等の硬化処理を行う。
【0139】
また、樹脂層は、押出成形によりフィルム状に製造可能でもあり、このフィルムを他の部材に積層し熱圧着等により一体化させてもよい。例えば、このフィルムを支持体上に貼着してもよい。
【0140】
本フィルタは、樹脂を1層有してもよく、2層以上有してもよい。本フィルタが樹脂を2層以上有する場合、各層は同じ構成であっても異なってもよい。
【0141】
基材の形状は特に限定されず、ブロック状、板状、フィルム状でもよい。
【0142】
また、基材が単層構造の場合、基材の厚さは、本フィルタの低背化の観点から好ましくは500μm以下、より好ましくは400μm以下である。また、基材が単層構造の場合、基材の厚さは、プロセス上のハンドリングの観点から好ましくは30μm以上、より好ましくは50μm以上である。
【0143】
基材が複層構造の場合、基材の厚さは、本フィルタの低背化の観点から好ましくは500μm以下、より好ましくは400μm以下である。また、基材が複層構造の場合、基材の厚さは、プロセス上のハンドリングの観点から好ましくは30μm以上、より好ましくは50μm以上である。
【0144】
<誘電体多層膜>
本フィルタは、誘電体多層膜を有することができる。誘電体多層膜は、基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層されることができる。
【0145】
誘電体多層膜が、基材の両方の主面側に最外層として積層される場合、誘電体多層膜の少なくとも一方は近赤外線反射層(以下、NIR反射層とも記載する。)として設計されることが好ましい。誘電体多層膜の他方はNIR反射層、近赤外域以外の反射域を有する反射層、または反射防止層として設計されることが好ましい。
【0146】
なお、基材が単層構造の場合、反りを防止する観点から、基材の両面にNIR反射層を形成することが好ましい。
【0147】
NIR反射層は、近赤外域の光を遮蔽するように設計された誘電体多層膜である。NIR反射層は、例えば、可視光を透過し、吸収層の遮光域以外の近赤外域の光を主に反射する波長選択性を有する。なお、NIR反射層の反射領域は、吸収層の近赤外域における遮光領域を含んでもよい。NIR反射層は、NIR反射特性に限らず、近赤外域以外の波長域の光、例えば、近紫外域をさらに遮断する仕様に適宜設計してよい。
【0148】
NIR反射層は、例えば、低屈折率の誘電体膜(低屈折率膜)と高屈折率の誘電体膜(高屈折率膜)とを交互に積層した誘電体多層膜から構成される。高屈折率膜は、好ましくは、屈折率が1.6以上であり、より好ましくは2.2~2.5である。高屈折率膜の材料としては、例えばTa2O5、TiO2、Nb2O5が挙げられる。これらのうち、成膜性、屈折率等における再現性、安定性等の点から、TiO2が好ましい。
【0149】
一方、低屈折率膜は、好ましくは、屈折率が1.6未満であり、より好ましくは1.45以上1.55未満である。低屈折率膜の材料としては、例えばSiO2、SiOxNy等が挙げられる。成膜性における再現性、安定性、経済性等の点から、SiO2が好ましい。
【0150】
さらに、NIR反射層は、透過域と遮光域の境界波長領域で透過率が急峻に変化することが好ましい。この目的のためには、反射層を構成する誘電体多層膜の合計積層数は、15層以上が好ましく、25層以上がより好ましく、30層以上がさらに好ましい。ただし、合計積層数が多くなると、反り等が発生したり、膜厚が増加したりするため、合計積層数は100層以下が好ましく、75層以下がより好ましく、60層以下がより一層好ましい。また、反射層の膜厚は、全体として2~10μmが好ましい。
【0151】
誘電体多層膜の合計積層数や膜厚が上記範囲内であれば、NIR反射層は小型化の要件を満たし、高い生産性を維持しながら入射角依存性を抑制できる。また、誘電体多層膜の形成には、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の真空成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。
【0152】
NIR反射層は、1層(1群の誘電体多層膜)で所定の光学特性を与えたり、2層で所定の光学特性を与えたりしてもよい。NIR反射層を2層以上有する場合、各反射層は同じ構成でも異なる構成でもよい。NIR反射層を2層以上有する場合、通常、反射帯域の異なる複数のNIR反射層で構成される。2層のNIR反射層を設ける場合、一方を、近赤外域のうち短波長帯の光を遮蔽する近赤外反射層とし、他方を、該近赤外域の長波長帯及び近紫外域の両領域の光を遮蔽する近赤外・近紫外反射層としてもよい。
【0153】
反射防止層としては、誘電体多層膜や中間屈折率媒体、屈折率が漸次的に変化するモスアイ構造などが挙げられる。中でも光学的効率、生産性の観点から誘電体多層膜が好ましい。反射防止層は、反射層と同様に誘電体膜を交互に積層して得られる。
【0154】
また、誘電体多層膜は、下記(v-1)~(v-4)を全て満たすことが好ましい。
(v-1)入射角0°におけるIR50が波長650~800nmの範囲にある。
(v-2)入射角0°におけるUV50が波長385~425nmの範囲にある。
(v-3)入射角0°及び30°の各分光透過率曲線において、波長435~650nmの領域の光の平均透過率が88%以上である。
(v-4)入射角0°及び30°の各分光透過率曲線において、波長750~1000nmの領域の光の平均透過率が10%以下である。
【0155】
ここで、IR50とは650~800nmの波長領域において透過率が50%になる波長を指し、UV50とは385~425nmの波長領域において透過率が50%になる波長を指す。
【0156】
上記(v-1)~(v-4)を満たす誘電体多層膜と上記(iv-1)~(iv-6)を満たす樹脂層を有する基材とを用いることで、近赤外域の光を十分に遮蔽でき、青色帯域の光の透過率を高めた光学フィルタを得ることができる。
【0157】
<光学フィルタの特性>
また、樹脂層が色素Aと色素Bを含有するとき、本フィルタは、下記(vi-1)~(vi-6)の全てを満たすことが好ましい。
(vi-1)入射角0°における波長450~550nmの平均透過率が90%以上であり、当該波長範囲における最小透過率が88.5%以上である。
(vi-2)入射角0°における波長600~700nmの平均透過率が25%以上である。
(vi-3)入射角0°における波長710~1100nmの平均透過率が2%以下である。
(vi-4)入射角0°における波長700~800nmの平均透過率が1.5%以下である。
(vi-5)入射角0°における波長700~800nmの最大透過率が2%以下である。
(vi-6)入射角0°の分光透過率曲線の波長600~700nmの光における透過率と入射角30°の分光透過率曲線の波長600~700nmの光における透過率との差の絶対値が7%/nm以下である。
【0158】
上記(vi-1)~(vi-6)が全て満たされると、本フィルタが近赤外域の光を十分に遮蔽できるとともに、青色帯域の光の透過率を高めた光学フィルタとなる。
【0159】
上記(vi-1)における平均透過率は、好ましくは90.5%以上、より好ましくは91.0%以上である。上記(vi-1)における最小透過率は、好ましくは88.6%以上、より好ましくは88.7%以上である。
上記(vi-2)における平均透過率は、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上である。
上記(vi-3)における平均透過率は、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.0%以下である。
上記(vi-4)における平均透過率は、好ましくは1.3%以下、より好ましくは1.2%以下である。
上記(vi-5)における最大透過率は、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.0%以下である。
上記(vi-6)における差の絶対値は、好ましくは5%/nm以下、より好ましくは4%/nm以下である。
【0160】
[撮像装置]
本フィルタは、例えば、デジタルスチルカメラ等の撮像装置に使用できる。
本フィルタを撮像装置に使用した場合に、色再現性に優れる。
【0161】
当該撮像装置は、固体撮像素子と、撮像レンズと、本フィルタとを備える。本フィルタは、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間に配置されたり、撮像装置の固体撮像素子、撮像レンズ等に粘着剤層を介して直接貼着されたりして使用できる。
【実施例】
【0162】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
なお、例1~6が実施例であり、例7~13が比較例である。
【0163】
[例1]
以下の経路により、例1の色素を合成した。
【0164】
【0165】
<ステップ1>
1000mLのナスフラスコに、メシチルヨージド(100g、406.4mmol)、トリメチルシリルアセチレン(59.9g、609.5mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(6.1g、5.28mmol)、ヨウ化銅(2.0g、10.6mmol)、ジエチルアミン(500mL)を加えた。フラスコ内を脱気後、窒素で置換し50℃で6時間加熱撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去し、水を加えてジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタンを減圧留去したのち、フラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)にて精製を行い、中間体1(90.1g、quant.)を得た。
【0166】
<ステップ2>
1000mLのナスフラスコに中間体1(90.1g、416.4mmol)とメタノール(600mL)を加え、氷冷した。そこへ炭酸カリウム(167.9g、1214.8mmol)を加え、窒素気流下、室温で1時間撹拌した。反応終了後、反応溶液をセライトろ過することで反応系中の炭酸カリウムを除き、ろ液を減圧留去した。得られた橙黄色液体に水を加え、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタンを減圧留去したのち、フラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)にて精製を行い、中間体2(58.5g、quant.)を得た。
【0167】
<ステップ3>
1000mLのナスフラスコに中間体2(22.0g、152.6mmol)、テトラヒドロフラン(125mL)を加え、窒素気流下、-78℃で撹拌した。滴下ロートを用いてn-ブチルリチウム(1.6mol/L in ヘキサン)(100mL)を添加し、-78℃で1時間撹拌した。その後20mLのテトラヒドロフランに溶かしたギ酸エチル(5.7g、76.3mmol)を滴下ロートを用いて添加し、-78℃で5時間、0℃で1.5時間撹拌した。反応終了後、水を加えて反応を停止し、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタンを減圧留去したのち、得られた黄土色固体をヘキサンで洗浄し、中間体3(13.4g、収率55.6%)を得た。
【0168】
<ステップ4>
1000mLのナスフラスコに中間体3(25.9g、83.7mmol)、ジクロロメタン(500mL)、酸化マンガン(36.4g、418.7mmol)を加え、窒素気流下、室温で1時間撹拌した。反応終了後、反応溶液をろ過して、酸化マンガンを除き、ろ液を減圧留去した。得られた黄色粉末をヘキサンで洗浄し、中間体4(23.6g、収率91.8%)を得た。
【0169】
<ステップ5>
1000mLのナスフラスコに中間体4(21.9g、69.7mmol)、p-トルエンスルホン酸一水和物(2.4g、13.9mmol)、メタノール(230mL)、トルエン(230mL)を加え、110℃で8時間撹拌した。その後、溶媒を減圧留去し、そこへメタノール(280mL)、濃塩酸(70mL)を加え、70℃で一晩撹拌した。反応終了後、反応溶液を氷冷し、水を加えて反応を停止させたのちに、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタンを減圧留去したのち、トルエン(350mL)とトリフルオロメタンスルホン酸(21.0g、139.9mmol)を加え、100℃で2.5時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を氷冷し、水を加えて反応を停止し、トルエン層を抽出した。トルエンを減圧留去したのち、フラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ジクロロメタン)にて精製を行い、ピンク色の粉末を得た。得られたピンク色粉末をヘキサンで洗浄し、中間体5(15.5g、収率66.9%)を得た。
【0170】
<ステップ6>
500mLのナスフラスコに中間体5(6.0g、18.0mmol)とテトラヒドロフラン(75mL)を加え、0℃で撹拌し、そこへメチルマグネシウムブロミド(13%テトラヒドロフラン溶液)(49.7g、54.1mmol)を加え、窒素気流下、70℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、0℃の10%ヘキサフルオロリン酸水溶液(350mL)中へ反応溶液を少しずつ注ぎ、0℃で10分間撹拌することで反応を停止した。この溶液をジクロロメタンで抽出し、ジクロロメタン層を水で洗浄後、ジクロロメタンを減圧留去した。得られた黄色粉末をヘキサンで洗浄することで、中間体6(8.2g、収率95.3%)を得た。
【0171】
<ステップ7>
200mLのナスフラスコに中間体6(1.75g、3.7mmol)、マロンアルデヒドジアニリド塩酸塩(0.47g、1.84mmol)、酢酸ナトリウム(0.72g、8.82mmol)、酢酸(15mL)、無水酢酸(15mL)を加え、窒素気流下、80℃で45分間加熱撹拌した。反応終了後、反応溶液を氷冷し、水を加えたのち、反応溶液をろ過することで、濃緑色粉末を回収した。回収した粉末をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/酢酸エチル)にて精製後、得られた固体をヘキサン:酢酸エチル=1:1の溶媒で洗浄することにより、以下の例1の色素(1.4g、収率87.7%)を得た。
【0172】
【0173】
[例2]
ステップ6における10%ヘキサフルオロリン酸水溶液を10%テトラフルオロホウ酸水溶液に変更した以外は例1と同様にして、以下の例2の色素を合成した。
【0174】
【0175】
[例3]
ステップ6における10%ヘキサフルオロリン酸水溶液を10%ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド水溶液に変更した以外は例1と同様にして、以下の例3の色素を合成した。
【0176】
【0177】
[例4]
ステップ6における10%ヘキサフルオロリン酸水溶液を10%トリフルオロメタンスルホン酸水溶液に変更した以外は例1と同様にして、以下の例4の色素を合成した。
【0178】
【0179】
[例5]
ステップ6における10%ヘキサフルオロリン酸水溶液を10%過レニウム酸水溶液に変更した以外は例1と同様にして、以下の例5の色素を合成した。
【0180】
【0181】
[例6]
ステップ6における10%ヘキサフルオロリン酸水溶液を10%過塩素酸水溶液に変更した以外は例1と同様にして、以下の例6の色素を合成した。
【0182】
【0183】
[例7]
国際公開第2017/135359号を参考に、以下の例7の色素を合成した。
【0184】
【0185】
[例8]
特許第6452247号公報を参考に、以下の例8の色素を合成した。
【0186】
【0187】
[例9]
特許第6452247号公報を参考に、以下の例9の色素を合成した。
【0188】
【0189】
[例10]
山田化学社製「FDR-026」を例10の色素とした。
【0190】
[例11]
以下に示される、Few Cheicals社製「S2137」を例11の色素とした。
【0191】
【0192】
[例12]
J. Am. Chem. Soc., 139, 2053 (2017)及び特許第1526450号公報を参考に、以下の例12の色素を合成した。
【0193】
【0194】
[例13]
J. Am. Chem. Soc., 139, 2053 (2017)及びJ. Org. Chem., 68, 1804 (2003)を参考に、以下の例13の色素を合成した。
【0195】
【0196】
[色素B]
国際公開第2016/133099号を参考に、以下の色素Bを合成した。
【0197】
【0198】
<試験例1>
色素をジクロロメタン中に溶解し、紫外可視分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製「紫外可視近赤外分光光度計UH4150)を用いて分光透過率曲線を測定した。
吸収極大波長λmax(A)、吸収極大波長λmax(A)における吸光度を1としたときの波長450~550nmにおける吸光度の最大値εA、波長450~470nmにおける吸光度の平均値εB、波長500nm以下の範囲において吸光度が0.002を超える波長λε0.002を測定し、前述のεAとεBを用いて、1/εA、1/εBを算出した。
さらに、吸収極大波長における透過率を10%としたときの波長650~700nmの範囲における透過率の平均値を求めた。結果を表2に示す。
【0199】
【0200】
表2より、例1~6の色素は、青色帯域の透過率が充分に高いことが分かった。また、例1~6の色素と同様にピリリウム骨格を有する例12及び例13の色素はλmax(A)が720nmに満たず、近赤外遮蔽性に劣った。これに対し、例1~6の色素は、λmax(A)が720~760nmの範囲にあり、近赤外遮蔽性にも優れることが分かった。
【0201】
<試験例2>
色素について、樹脂溶液に対する溶解性試験を行った。
溶解性試験では樹脂溶液として、ポリイミド樹脂(三菱ガス化学株式会社製「C3G30G」(商品名))をγ-ブチロラクトン(GBL):シクロヘキサノン=1:1(質量比)の溶液に溶かして調製した樹脂濃度8.5質量%のポリイミド樹脂溶液と、シクロオレフィン樹脂(JSR株式会社製、商品名ARTON(登録商標))をシクロヘキサノンに溶かして調整した15質量%のシクロオレフィン樹脂溶液の2種類を用いた。
【0202】
上記2種類の樹脂溶液に色素を投入し、50℃の温度で2時間撹拌後、一晩静置した後の溶解の有無を目視で評価した。
また、下記基準により溶解性を評価した。結果を表3に示す。
【0203】
A:樹脂溶液に対する色素の溶解度が7.5質量%超であった。
B:樹脂溶液に対する色素の溶解度が3質量%超7.5質量%以下であった。
C:樹脂溶液に対する色素の溶解度が3質量%以下であった。
【0204】
【0205】
表3より、例1~6の色素は、樹脂溶液に対する溶解性が高いことが分かった。よって、例1~6の色素を使用すると、樹脂選択性及び基材の厚みの自由度が高くなる。また、ピリリウム骨格を有する例13の色素については、シクロオレフィン樹脂溶液に対する溶解性が、同じくピリリウム骨格を有する例1~6の色素よりも悪かった。このことから、従来のピリリウム骨格の色素に比べて、例1~6の色素は樹脂溶解性に優れていることが分かった。
【0206】
<試験例3>
色素をそれぞれポリイミド樹脂(三菱ガス化学株式会社製「C3G30G」(商品名))をγ-ブチロラクトン(GBL):シクロヘキサノン=1:1(質量比)の溶液に溶かして調製した樹脂濃度8.5質量%のポリイミド樹脂溶液に表4に示す濃度で混合し、50℃で2時間撹拌及び溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液をSCHOTT社製のD263ガラスにスピンコート法により塗布し、およそ膜厚が1.0μmになるように塗工膜(樹脂層)を形成した。
【0207】
なお、例10のみ膜厚がおよそ2μmとなるように塗工膜(樹脂層)を形成した。また、例8及び例9の色素についてはポリイミド樹脂溶液への溶解性が低いため塗工膜(樹脂層)を形成できなかった。
【0208】
得られた塗工膜(樹脂層)について、紫外可視分光光度計を用いて350~1200nmの波長範囲における分光透過率曲線を測定した。その測定結果から、色素の吸収極大波長λmax(pA)、λmax(pA)における内部透過率を10%としたときの波長450~550nmの範囲における平均内部透過率と最小内部透過率、λmax(pA)における内部透過率を10%としたときの、内部透過率が80%となる最も短い波長の値(Xa)と、内部透過率が80%となる最も長い波長の値(Xb)と、それらの差の絶対値|Xa-Xb|を算出した。
【0209】
結果を塗工膜(樹脂層)における、樹脂に対する色素濃度とともに表4に示す。なお、表4に示す分光特性については、空気界面とガラス界面での反射の影響を回避するため、内部透過率で評価した。
内部透過率={実測透過率/(100-実測反射率)}×100
【0210】
【0211】
表4より、例1~6の色素は、近赤外光の遮光性に優れ、かつ青色帯域の透過率が充分に高いことが分かった。
【0212】
<試験例4>
色素をそれぞれシクロオレフィン樹脂(ARTON)の15質量%シクロヘキサノン溶液に表5に示す濃度で混合し、50℃で2時間撹拌及び溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液をSCHOTT社製のD263ガラスにスピンコート法により塗布し、およそ膜厚が1.0μmになるように塗工膜(樹脂層)を形成した。
【0213】
なお、例8及び例9の色素についてはARTON樹脂溶液への溶解性が低いため塗工膜(樹脂層)を形成できなかった。
【0214】
得られた塗工膜(樹脂層)について、紫外可視分光光度計を用いて350~1200nmの波長範囲における分光透過率曲線を測定した。その測定結果から、色素の吸収極大波長λmax(pA)、λmax(pA)における内部透過率を10%としたときの波長450~550nmの範囲における平均内部透過率と最小内部透過率、λmax(pA)における内部透過率を10%としたときの、内部透過率が80%となる最も短い波長の値(Xa)と、内部透過率が80%となる最も長い波長の値(Xb)と、それらの差の絶対値|Xa-Xb|を算出した。
【0215】
結果を塗工膜(樹脂層)における、樹脂に対する色素濃度とともに表5に示す。なお、表5に示す分光特性については、空気界面とガラス界面での反射の影響を回避するため、内部透過率で評価した。
内部透過率={実測透過率/(100-実測反射率)}×100
【0216】
【0217】
表5より、例1及び3の色素は、シクロオレフィン樹脂を用いた場合であっても、近赤外光の遮光性に優れ、かつ青色帯域の透過率が充分に高いことが分かった。
【0218】
<試験例5>
試験例3と同様にして色素Bをポリイミド樹脂(三菱ガス化学株式会社製「C3G30G」(商品名))をγ-ブチロラクトン(GBL):シクロヘキサノン=1:1(質量比)の溶液に溶かして調製した樹脂濃度8.5質量%のポリイミド樹脂溶液に色素濃度7.5質量%で混合し、50℃で2時間撹拌及び溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液をSCHOTT社製のD263ガラスにスピンコート法により塗布し、およそ膜厚が1.0μmになるように塗工膜(樹脂層)を形成した。
【0219】
得られた塗工膜(樹脂層)について、紫外可視分光光度計を用いて350~1200nmの波長範囲における分光透過率曲線を測定した。
【0220】
上記で得られた色素Bの測定データと試験例3で得られたポリイミド中の測定データを基に、それぞれの塗工膜(樹脂層)の膜厚が1μmになるようにデータを規格化し、実施例及び比較例の色素と色素Bを表6に記載の添加量で添加した際に得られる複合塗工膜1~6の波長350~1200nmの範囲における内部透過率での分光特性を見積もった。
【0221】
得られた分光特性のデータから内部透過率が50%となる最も短い波長の値(Ya)、内部透過率が50%となる最も長い波長の値(Yb)と、それらの差の絶対値|Ya-Yb|、波長750nmにおける内部透過率の値、波長730~780nmにおける内部透過率の平均値、波長680~740nmにおける内部透過率の平均値と最小値、波長450~550nmにおける内部透過率の平均値と最小値を算出した。結果を表6に示す。
【0222】
また、複合塗工膜3及び4の分光透過率曲線を
図2に示し、その拡大図を
図3に示す。
【0223】
【0224】
表6、
図2及び3より、例1~3の色素を用いた複合塗工膜は、青色帯域の透過率が充分に高いことが分かった。また、例1~3の色素を用いた複合塗工膜は、特に青色帯域の最小透過率が例7、10、11の色素を用いた複合塗工膜に比べて高く、これによって青色帯域の透過率を高くすることが可能になる。
【0225】
<試験例6>
TiO2膜とSiO2膜を交互に積層させた厚み6μmの反射層を設計した。反射層は誘電体多層膜の積層数、TiO2膜の膜厚及びSiO2膜の膜厚をパラメーターとしてシミュレーションし、入射角0°及び30°の各分光透過率曲線において下記条件を満たすように設計した。
【0226】
1.650~800nmの波長範囲に透過率が50%となる波長(IR50)を有する。
2.385~425nmの波長範囲に透過率が50%となる波長(UV50)を有する。
3.入射角0°及び30°の各分光透過率曲線において、435~650nmの波長領域の光の平均透過率が88%以上である。
4.入射角0°及び30°の各分光透過率曲線において、750~1000nmの波長領域の光の平均透過率が10%以下である。
【0227】
上記をもとに設計した反射層の分光データを表7に示す。
【0228】
【0229】
試験例5で得られた複合塗工膜1~4と複合塗工膜6の350~1200nmの波長範囲における内部透過率に対して、上記で設計した反射層の透過率データを各波長で掛け合わせた。そうすることにより、D263ガラス基板の一方の面に複合塗工膜が形成され、もう一方の面に厚さ6μmの反射層が形成された光学フィルタの分光特性を見積もった。結果を表8に示す。
【0230】
【0231】
なお、表8に記載の透過率の数値は、入射角0°における数値である。
【0232】
表8より、例1~3の色素を用いた光学フィルタは、青色帯域の透過率が充分に高いことが分かった。
【0233】
<試験例7>
例1の色素、例2の色素、例12の色素をそれぞれポリイミド樹脂(三菱ガス化学株式会社製「C3G30G」(商品名))をγ-ブチロラクトン(GBL):シクロヘキサノン=1:1(質量比)の溶液に溶かして調製した樹脂濃度8.5質量%のポリイミド樹脂溶液に表9に示す濃度で混合し、50℃で2時間撹拌及び溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液をSCHOTT社製のD263ガラスにスピンコート法により塗布し、およそ膜厚が1.0μmになるように塗工膜(樹脂層)を形成した。この後塗工膜(樹脂層)の表面にTiO2膜とSiO2膜を交互に積層して反射防止層を形成し、耐光性評価用光学フィルタを得た。作製した耐光性評価用光学フィルタについて、下記の耐光性試験を行った。
【0234】
(耐光性試験)
キセノンランプを用いて、波長300~400nmにおける照度を75W/m2に調整し、合計80時間、光学フィルタの反射防止層側から光を照射した。照射前後に、紫外可視分光光度計を用いて入射角0°における分光透過率曲線を測定し、照射前後における吸収極大波長の吸光度を求め、次式より色素残存率を算出し、下記基準に基づき評価した。結果を表9に示す。
【0235】
色素残存率(%)=(照射後の吸収極大波長における吸光度)/(照射前の吸収極大波長における吸光度)×100
【0236】
A:色素残存率が85%超であった。
B:色素残存率が70%超85%以下であった。
C:色素残存率が70%以下であった。
【0237】
【0238】
表9より、例1~2の色素を用いた光学フィルタは、耐光性に優れることが分かった。このことから、例1~2の色素は、従来のピリリウム骨格の色素に比べて耐光性の面でも優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0239】
10 光学フィルタ
11 支持体
12 樹脂層