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特許7459715磁気記録媒体用基板、磁気記録媒体及び磁気記憶装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】磁気記録媒体用基板、磁気記録媒体及び磁気記憶装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/738 20060101AFI20240326BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20240326BHJP
   G11B 5/65 20060101ALI20240326BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
G11B5/738
G11B5/73
G11B5/65
G11B5/84 C
G11B5/84 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020131784
(22)【出願日】2020-08-03
(65)【公開番号】P2022028409
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100108187
【弁理士】
【氏名又は名称】横山 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 亘
(72)【発明者】
【氏名】友末 英樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 典久
【審査官】松元 伸次
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-056624(JP,A)
【文献】特開2012-142060(JP,A)
【文献】特開平05-266457(JP,A)
【文献】特開2018-106777(JP,A)
【文献】特開平05-094614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B5/62-5/858
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金基板と、前記アルミニウム合金基板の少なくとも一方の主面に設けられたニッケル合金被膜とを備え、
前記ニッケル合金被膜が、Moを0.5wt%~3wt%、Pを11wt%~15wt%、Feを0.0001wt%~0.001wt%含む磁気記録媒体用基板。
【請求項2】
320℃、20分の加熱条件で加熱した後に前記ニッケル合金被膜の表面に現れるうねりの高さが、0.100nm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体用基板。
【請求項3】
320℃、20分の加熱条件で加熱した後に前記ニッケル合金被膜の表面に現れる高さ1nm以上の膨れが、0.060個/cm未満である請求項1又は2に記載の磁気記録媒体用基板。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の磁気記録媒体用基板と、
前記磁気記録媒体用基板の前記ニッケル合金被膜が形成されている側の表面に設けられ、L1型結晶構造を有するFePt合金又はL1型結晶構造を有するCoPt合金を含む磁性層と、
を備える磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気記録媒体を備える磁気記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体用基板、磁気記録媒体及び磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体用の基板(磁気記録媒体用基板)として、例えば、アルミニウム基板、ガラス基板等が広く使用されている。このうち、磁気記録媒体用基板としてアルミニウム基板を用いる場合、磁気記録媒体用基板の表面硬度及び剛性等を高めるため、アルミニウム基板の表面にはNiP系合金皮膜等の非磁性皮膜が形成されている。
【0003】
アルミニウム基板上に非磁性皮膜を形成した磁気記録媒体用基板として、例えば、非磁性基体上に、ニッケル85.2~89.1重量%、リン10.7~13重量%、モリブデン0.2~1.8重量%の組成を有する非晶質のNi-P-Mo合金皮膜を形成したものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2848103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、近年の磁気記録媒体の小型化、薄板化、高記録密度化に伴い、記憶容量を高めることができる次世代の磁気記録媒体として、1Tbit/inchクラスの面記録密度を実現することが可能なアシスト磁気記録媒体が注目されている。アシスト磁気記録媒体は、磁気記録媒体用基板の表面に、FePt合金、CoPt合金等のL1型結晶構造を有する合金を含む磁性層を形成している。磁気記録媒体用基板の表面に磁性層を形成するためには、磁気記録媒体用基板を300℃よりも高い温度に加熱する必要がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、Ni-P-Mo合金皮膜を300℃よりも高い温度で加熱した場合、Ni-P-Mo合金皮膜の組成が変化し易く、耐熱性が十分でないといえる。そのため、Ni-P-Mo合金皮膜の表面に生じる微少な膨れの数が増加したり、表面のうねりが大きくなり、Ni-P-Mo合金皮膜の表面の平滑性が低くなる可能性が高い。磁気記録培媒体用基板の表面の平滑性が低いと、磁気記憶装置の使用時に磁気ヘッドと磁気記録媒体とが接触し易くなるという問題がある。
【0007】
本発明の一態様は、このような事情に鑑みてなされたものであり、耐熱性が高い磁気記録媒体用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る磁気記録媒体用基板は、アルミニウム合金基板と、前記アルミニウム合金基板の少なくとも一方の主面に設けられたニッケル合金被膜とを備え、前記ニッケル合金被膜が、Moを0.5wt%~3wt%、Pを11wt%~15wt%、Feを0.0001wt%~0.001wt%含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、耐熱性が高い磁気記録媒体用基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る磁気記録媒体用基板の一例を示す斜視図である。
図2】磁気記録媒体用基板の一例を示す部分断面図である。
図3】研磨加工工程で用いることができる研磨盤の一例を示す斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係るアシスト磁気記録媒体の一例を示す断面模式図である。
図5】本発明の実施形態に係る磁気記憶装置の一例を示す斜視図である。
図6図5の磁気ヘッドの一例を示す模式図である。
図7】基板表面に現れる高さ1nm以上の膨れを測定した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。本明細書において数値範囲を示すチルダ「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0012】
<磁気記録媒体用基板>
本発明の実施形態に係る磁気記録媒体用基板について説明する。図1は、本実施形態に係る磁気記録媒体用基板の一例を示す斜視図であり、図2は、磁気記録媒体用基板の一例を示す部分断面図である。図1及び図2に示すように、本実施形態に係る磁気記録媒体用基板1は、磁気記録媒体用アルミニウム合金基板(以下、単に、「アルミニウム合金基板」という)11と、アルミニウム合金基板11の表面に形成されているニッケル合金被膜12とを有する。磁気記録媒体用基板1は、円板状に形成され、平面視においてその中心部分に開口部を有している。
【0013】
[アルミニウム合金基板]
アルミニウム合金基板11は、Mg及びCrを含む添加元素と、残部Alとを含有し、不可避不純物を含有してもよい。
【0014】
Mgは、アルミニウム合金基板11の機械的強度を向上させる機能を有する。Mgの含有量は、好ましくは2wt%~7wt%であり、より好ましくは3.5wt%~5.0wt%である。Mgの含有量が上記の好ましい範囲内であれば、高温での材質強化の効果を有し、熱間押出等の加工を容易に行うことができる。また、延性及び靭性の低下を抑えることができるため、押出加工を確実に行うことができる。
【0015】
Crは、高温での強度を向上させると共に、押出加工を改善させる機能を有する。Crの含有量は、好ましくは0.02wt%~0.3wt%であり、より好ましくは0.05wt%~0.25wt%である。Crの含有量が上記の好ましい範囲内であれば、高温での強度向上の効果が得られると共に、押出加工を行い易くすることができる。
【0016】
アルミニウム合金基板11は、添加元素として、Mg及びCrの他に、Zn、Mn、Ti、Cr、V、Zr、Mo及びCoからなる群から選択される1種以上を含むことができる。アルミニウム合金基板11は、Znを0.01wt%~0.5wt%含んでいてもよいし、Znの他に、さらに、Mn、Ti、Cr、V、Zr、Mo及びCoのうちの1種以上を0.01wt%~0.5wt%含んでいてもよい。
【0017】
不可避不純物は、原料及び製造工程から不回避的に混入する不純物であり、B、P等が挙げられる。本実施形態において、例えば、不可避不純物として、BやPを含む場合、Bを0.01wt%未満含んでもよいし、Pを0.1wt%未満含んでもよい。
【0018】
アルミニウム合金基板11は、円板状に形成され、平面視においてその中心部分に開口部を有している。
【0019】
アルミニウム合金基板11は、規格化された磁気記憶装置(ハードディスクドライブ)等に収納できることが好ましい。そのため、アルミニウム合金基板の直径、開口部及び厚さは、磁気記憶装置の大きさ等に応じて適宜任意に選択する。
【0020】
アルミニウム合金基板11の直径は、例えば、53mm~97mmであることが好ましい。アルミニウム合金基板11は、磁気記憶装置の磁気記録媒体に使用される。磁気記録媒体は、規格化された磁気記憶装置、即ち2.5インチの磁気記憶装置、3.5インチの磁気記憶装置等に収納することができる必要がある。例えば、2.5インチの磁気記憶装置では、最大直径で約67mmの磁気記録媒体が用いられ、3.5インチの磁気記憶装置では、最大直径で約97mmの磁気記録媒体が用いられる。そのため、アルミニウム合金基板11の直径が53mm~97mmであれば、任意の規格化された磁気記憶装置内に収容することができる。
【0021】
アルミニウム合金基板11の開口部の内径は、19mm~26mmとすることが好ましい。磁気記録媒体用基板1の開口部は、磁気記憶装置の駆動シャフトが挿入される部分である。磁気記録媒体用基板1の開口部の内径が19mm~26mmであれば、任意の規格化された磁気記憶装置の駆動シャフトが挿入することができる。
【0022】
アルミニウム合金基板11の厚さは、0.2mm~0.9mmとすることが好ましい。磁気記憶装置では、記録容量を増加させるために、ケース内に収納する磁気記録媒体の枚数を増やすることが有効である。例えば、通常の3.5インチの磁気記憶装置では、厚さ1.27mmの磁気記録媒体が最大で5枚収納されているが、磁気記録媒体を6枚以上収納することができれば、記録容量を増加させることが可能となる。そのため、アルミニウム合金基板11の厚さが、0.2mm~0.9mmであれば、磁気記憶装置のケース内に多くの枚数の磁気記録媒体を収容することができる。
【0023】
(アルミニウム合金基板の製造方法)
アルミニウム合金基板11は、公知の方法で製造することができる。アルミニウム合金基板11は、例えば、アルミニウム合金鋳塊を作製する鋳造工程と、アルミニウム合金鋳塊を板状に圧延してアルミニウム合金板材を得る圧延工程と、アルミニウム合金板材をアルミニウム合金基板11に成形する加工工程とを含む方法によって製造することができる。
【0024】
鋳造工程では、成分の分量を調整したアルミニウム合金材料を加熱溶融してアルミニウム合金を鋳造し、アルミニウム合金鋳塊を作製する。
【0025】
アルミニウム合金を鋳造する方法としては、例えば、ダイレクトチル鋳造法(DC鋳造法)、連続鋳造法(CC)等のアルミニウム合金の鋳塊方法として用いられている公知の方法を用いることができる。DC鋳造法は、アルミニウム合金の溶湯を鋳型に注湯した後、鋳型を直接冷却水に接触させて、アルミニウム合金鋳塊を鋳造する方法である。CC法は、アルミニウム合金の溶湯を連続的に鋳型に注湯して、鋳型内で急速冷却する方法である。
【0026】
圧延工程では、上記の鋳造工程で得られたアルミニウム合金鋳塊を板状に圧延してアルミニウム合金板材を得る。
【0027】
圧延方法としては、特に制限はなく、熱間圧延法及び冷間圧延法を用いることができる。圧延の条件には、特に制限はなく、アルミニウム合金鋳塊の圧延で行われている通常の条件とすることができる。
【0028】
加工工程では、圧延工程で得られたアルミニウム合金板材を加工して、アルミニウム合金基板11に成形する。
【0029】
まず、圧延工程で得られたアルミニウム合金板材を円盤状に打ち抜いて、アルミニウム合金円盤を得る。次いで、アルミニウム合金円盤を、300℃~500℃で、0.5時間~5時間加熱して、焼鈍する。焼鈍することによって、アルミニウム合金円盤に内在する歪が緩和し、得られるアルミニウム合金基板の剛性を適正な範囲内に調整することができる。
【0030】
その後、焼鈍したアルミニウム合金円盤の表面、端面を、切削工具を用いて切削加工する。これにより、規定の寸法の中心に開口部を有する円盤状のアルミニウム合金基板11が得られる。
【0031】
切削工具としては、例えば、ダイヤモンドバイトを用いることができる。
【0032】
なお、加工工程では、焼鈍は切削加工後に行ってもよい。
【0033】
[ニッケル合金被膜]
ニッケル合金被膜12は、上述の通り、アルミニウム合金基板11の表面に形成されている。すなわち、ニッケル合金被膜12は、アルミニウム合金基板11の、両方の主面(上面及び下面)とその端面とに形成されている。なお、ニッケル合金被膜12は、一方の主面にのみ形成されていてもよい。
【0034】
ニッケル合金被膜12は、磁気記録媒体用基板1の表面の硬さを高めて、磁気記録媒体用基板1の強度を向上させると共に、磁気記録媒体用基板1の表面を平坦化する機能を有する。
【0035】
ニッケル合金被膜12は、Mo、P及びFeを添加成分として含み、かつ残部Niを有するNiMoP系合金めっき被膜である。ニッケル合金被膜12をNiMoP系合金めっき被膜で形成することで、磁気記録媒体用基板1の表面の硬さと平坦とを向上させることができる。
【0036】
ニッケル合金被膜12は、添加元素として、Mo、P及びFeの他に、Cr、Zn、Ba、Pb等を1種以上含んでもよい。これらの添加元素は、0.001wt%未満含んでもよい。
【0037】
ニッケル合金被膜12は、添加成分及び残部Niの他に、不可避不純物を含んでもよい。
【0038】
Moの含有量は、0.5wt%~3wt%であり、より好ましくは0.5wt%~1.5wt%である。Moの含有量が0.5wt%未満であると、ニッケル合金被膜12の耐熱性が低下する。一方、Moの含有量が3wt%を超えると、ニッケル合金被膜12のアモルファス化が阻害される。Moの含有量は、0.5wt%~3wt%であれば、ニッケル合金被膜12の耐熱性を向上させることができると共に、ニッケル合金被膜12のアモルファス化を促進することができる。
【0039】
Pの含有量は、11wt%~15wt%であり、より好ましくは12wt%~13wt%である。Pの含有量が11wt%未満であると、ニッケル合金被膜12のアモルファス化が阻害される。一方、Pの含有量が15wt%を超えると、ニッケル合金被膜12の耐熱性が低下する。Pの含有量が11wt%~15wt%であれば、ニッケル合金被膜12のアモルファス化を促進しつつ、耐熱性を向上させることができる。
【0040】
Feの含有量は、0.0001wt%~0.001wt%であり、より好ましくは0.0002wt%~0.0005wt%である。Feの含有量が0.0001wt%未満では、ニッケル合金被膜12の耐熱性を高められない。一方、Feの含有量が0.001wt%超えると、ニッケル合金被膜12の結晶化が進行し過ぎて、基板表面に生じる微小な膨れが大きくなり、高さ1nm以上の膨れが多く形成され易くなる。Feの含有量は、0.0001wt%~0.001wt%であれば、ニッケル合金被膜12の耐熱性をより高めることができる。この理由について、発明者は、次のように考えている。即ち、ニッケル合金被膜12中のMoは主に酸素との結合を介してFeと結合するため、磁気記録媒体用基板1の表面に磁気記録媒体の磁性層を形成する際に300℃を超える温度で加熱しても、ニッケル合金被膜12内にMoが拡散することを抑制することができる。これにより、ニッケル合金被膜12を構成するNiMoP系合金の結晶化を抑制することができるため、加熱に伴うNiMoP系合金が磁化することを低減し、ニッケル合金被膜12の飽和磁束密度が上昇することを抑えることができる。また、ニッケル合金被膜12を構成するNiMoP系合金が結晶化すると、ニッケル合金被膜12の表面に微小な膨れが生じると共に微少なうねり(微小うねり)が大きくなり易い。本実施形態の磁気記録媒体用基板1は、ニッケル合金被膜12を構成するNiMoP系合金の結晶化を抑制することができるため、ニッケル合金被膜12の表面に微小な膨れが生ずることを低減すると共に、微少うねりを小さく抑えることができる。なお、微少うねりは、原子間力顕微鏡(AFM)等の公知の測定装置により測定することができる。
【0041】
本実施形態では、磁気記録媒体用基板1を、320℃、20分の加熱条件で加熱した後にニッケル合金被膜12の表面に現れる高さ1nm以上の膨れは、0.060個/cm未満とすることが好ましく、より好ましくは0.050個/cm2以下である。また、加熱時は、真空中でもよいし、真空以外の中でもよい。
【0042】
ニッケル合金被膜12の厚さは、5μm~20μmであることが好ましく、10μm~17μmであることがより好ましい。ニッケル合金被膜の厚さを上記の好ましい範囲内とすることにより、ニッケル合金被膜12の硬度を向上させ、磁気記録媒体用基板1の強度を高めることができる。また、アルミニウム合金基板11の表面の凹凸を吸収して、ニッケル合金被膜12の表面の平滑化を図ることができるため、フラッタリングを抑制することができる。さらに、磁気記録媒体用基板1の軽量化を図ることができる。
【0043】
[磁気記録媒体用基板の製造方法]
本実施形態に係る磁気記録媒体用基板1の製造方法について説明する。本実施形態に係る磁気記録媒体用基板1の製造方法は、アルミニウム合金基板11にニッケル合金被膜12をめっき法によって形成する被膜形成工程と、ニッケル合金被膜付きアルミニウム合金基板の表面に対して研磨加工を施す研磨加工工程とを含む。
【0044】
(被膜形成工程)
アルミニウム合金基板11の表面にめっき法によってニッケル合金被膜12を形成する。
【0045】
めっき法としては、公知のめっき法を用いることができ、無電解めっき法を用いることが好ましい。
【0046】
まず、NiPめっき液にMo塩を添加して、NiMoPめっき液を作製する。
【0047】
NiPめっき液として、例えば、ニッケル源として硫酸ニッケルを含み、リン源として次亜リン酸塩を含むめっき液を用いることができる。
【0048】
Mo塩としては、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウム等を用いることができる。
【0049】
次に、NiMoPめっき液にFe塩を添加して、NiMoP系合金めっき被膜形成用めっき液を作製する。
【0050】
Fe塩としては、酢酸鉄、硫酸鉄、硫酸アンモニウム鉄等を用いることができる。
【0051】
ニッケル合金被膜12の厚さは、NiMoP系合金めっき被膜形成用めっき液のpH及び温度、NiMoP系合金めっき被膜形成用めっき液へのアルミニウム合金基板11の浸漬時間(めっき時間)等のめっき条件によって調整することができる。
【0052】
NiMoP系合金めっき被膜形成用めっき液のpHは、5.0~8.6とすることが好ましい。pHが5.0~8.6であれば、MoとPとFeとを非結晶の状態でNi内に含むニッケル合金被膜12を安定して形成することができる。
【0053】
NiMoP系合金めっき被膜形成用めっき液の温度は、70℃~100℃とすることが好ましく、85℃~95℃とすることがより好ましい。温度が70℃~100℃であれば、ニッケル合金被膜12の成長のばらつきが抑えられ、厚さのばらつきが抑えられたニッケル合金被膜12を安定して形成することができる。
【0054】
めっき時間は、90分~150分とすることが好ましい。めっき時間が90分~150分であれば、ニッケル合金被膜12の厚さを5μm~20μmの範囲内に十分成長させることができる。
【0055】
ニッケル合金めっき被膜が形成されたアルミニウム合金基板は、加熱処理を施すことが好ましい。これにより、ニッケル合金被膜12の硬度をより高め、磁気記録媒体用基板1の剛性(ヤング率)をさらに高めることができる。加熱温度は、300℃以上とすることが好ましい。
【0056】
(研磨加工工程)
めっき工程で得られたニッケル合金めっき被膜が形成されたアルミニウム合金基板の表面を研磨する。研磨加工工程は、平滑で、傷が少ないといった表面品質の向上と生産性の向上との両立を図る点から、複数の独立した研磨盤を用いた2段階以上の研磨工程を有する多段階研磨方式を採用することが好ましい。例えば、第1の研磨盤を用いて、アルミナ砥粒を含む研磨液を供給しながら研磨する粗研磨工程と、研磨されたアルミニウム合金基板を洗浄した後に、第2の研磨盤を用いて、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を供給しながら研磨する仕上げ研磨工程を行う。
【0057】
図3は、研磨加工工程で用いることができる研磨盤の一例を示す斜視図である。図3に示すように、第1の研磨盤30A(第2の研磨盤30B)は、上下一対の定盤31及び32を備える。一対の定盤31及び32の間に、複数枚の、ニッケル合金めっき被膜が形成されたアルミニウム合金基板1Aを挟み込んで一対の定盤31及び32を軸回りに互いに逆向きに回転させることで、これらニッケル合金めっき被膜が形成されたアルミニウム合金基板1Aの両面を一対の定盤31及び32に設けられた研磨パッド33により研磨することができる。
【0058】
ニッケル合金めっき被膜が形成されたアルミニウム合金基板1Aの表面を研磨することにより、図1及び図2に示すように、本実施形態に係る磁気記録媒体用基板1が得られる。
【0059】
このように、磁気記録媒体用基板1は、アルミニウム合金基板11と、ニッケル合金被膜12とを備え、ニッケル合金被膜12が、Moを0.5wt%~3wt%、Pを11wt%~15wt%、Feを0.0001wt%~0.001wt%含んでいる。Feを0.0001wt%~0.001wt%含むことで、磁気記録媒体用基板1を300℃を超える温度で加熱してもニッケル合金被膜12内に含まれるMoが拡散することを抑制することができるため、ニッケル合金被膜12の結晶化を抑制し、加熱に伴うニッケル合金被膜12の磁化を低減することができる。よって、磁気記録媒体用基板1は、飽和磁束密度を例えば0.500ガウス以下に小さくすることができる。なお、飽和磁束密度は、振動試料型磁力計(VSM)等の公知の測定装置により測定することができる。
【0060】
また、磁気記録媒体用基板1は、300℃を超える温度で加熱することで、磁気記録媒体用基板1の表面に生じる微少うねりの高さを低くすることができると共に、膨れの数を低減することができる。磁気記録媒体用基板1を磁気記録媒体に用いるに当り、磁気記録媒体の記録密度の高密度化を図るためには、磁気記憶装置の使用時に磁気ヘッドの磁気記録媒体に対する浮上高さを非常に小さくする必要があるため、磁気記録媒体用基板1の表面の平滑性を高くすることが重要である。磁気記録媒体用基板1は、表面に生じる微少うねりの高さを低くすると共に、膨れの数を低減することができるため、磁気記録媒体の記録密度が高められる。
【0061】
よって、磁気記録媒体用基板1は、300℃を超える温度で加熱しても、磁化を低減しつつ、微少うねりの高さを低くすることができると共に、膨れの密度を小さくすることができるため、高い耐熱性を有することができる。なお、膨れの密度は、公知の方法で求めることができ、例えば、AFMで得た画像を解析することにより求めることができる。
【0062】
したがって、磁気記録媒体用基板1は、例えば、製造時に高温(例えば、320℃)に加熱する必要があるアシスト磁気記録媒体の製造に適した高い耐熱性を有することができるため、アシスト磁気記録媒体に用いる磁気記録媒体用基板として好適に用いることができる。
【0063】
磁気記録媒体用基板1は、320℃、20分の加熱条件で加熱した後にニッケル合金被膜12の表面に現れるうねりの高さを0.100nm以下とすることができる。これにより、磁気記録媒体用基板1は、ニッケル合金被膜12の表面の平滑性をより高くすることができるため、磁気記録媒体用基板1を用いた磁気記録媒体の記録密度を高めることができる。
【0064】
磁気記録媒体用基板1は、320°、20分の加熱条件で加熱した後にニッケル合金被膜12の表面に現れる高さ1nm以上の膨れを0.050個/cm未満とすることができる。これにより、磁気記録媒体用基板1は、ニッケル合金被膜12の表面の平滑性をより高くすることができるため、磁気記録媒体用基板1を用いた磁気記録媒体の記録密度を高めることができる。
【0065】
<磁気記録媒体>
本実施形態に係る磁気記録媒体用基板を適用した磁気記録媒体について説明する。なお、本実施形態では、磁気記録媒体がアシスト磁気記録媒体である場合について説明するが、それ以外の磁気記録媒体でも同様に適用することができる。
【0066】
アシスト磁気記録媒体は、1Tbit/inchクラスの面記録密度を有するため、高い記憶容量を有することができる。アシスト磁気記録媒体では、近接場光、マイクロ波等をアシスト磁気記録媒体に照射して表面を局所的にアシストして、アシスト磁気記録媒体の保磁力を低下させることで、書き込みが行われる。
【0067】
図4は、本実施形態に係る磁気記録媒体用基板1を適用したアシスト磁気記録媒体の一例を示す断面模式図である。図4に示すように、アシスト磁気記録媒体40は、磁気記録媒体用基板1、シード層41、第1の下地層42、第2の下地層43、磁性層44、保護層45及び潤滑剤層46を磁気記録媒体用基板1側からこの順に積層して備える。
【0068】
シード層41、第1の下地層42及び第2の下地層43は、磁性層44と格子整合していることが好ましい。これにより、磁性層44の(001)配向性がさらに向上する。
【0069】
シード層41、第1の下地層42及び第2の下地層43としては、例えば、(100)配向したCr、W、MgO等を用いることができる。シード層41、第1の下地層42及び第2の下地層43を、(100)配向したCr、W、MgO等で形成し、これらの層を多層構造とすることで、シード層41、第1の下地層42及び第2の下地層43の各層の間の格子ミスフィットは10%以下とすることができる。
【0070】
第1の下地層42及び第2の下地層43を確実に(100)配向とするため、シード層41、第1の下地層42又は第2の下地層43の下に、bcc構造を有するCr層若しくはCrを主成分としたCr合金層、又はB2構造を有する合金層をさらに形成してもよい。
【0071】
Cr合金層を形成するCr合金としては、Cr-Mn合金、Cr-Mo合金、Cr-W合金、Cr-V合金、Cr-Ti合金、Cr-Ru合金等が挙げられる。
【0072】
B2構造を有する合金としては、Ru-Al合金、Ni-Al合金等が挙げられる。
【0073】
また、磁性層44との格子整合性を向上させるために、シード層41、第1の下地層42及び第2の下地層43の少なくとも1層に酸化物を添加してもよい。
【0074】
酸化物としては、例えば、Ni、Cr、Mo、Nb、Ta、V及びWからなる群より選択される1種以上の金属の酸化物等が挙げられる。これらの中でも、好ましい金属の酸化物として、NiO、CrO、Cr、CrO、MoO、MoO、Nb、Ta、V、VO、WO、WO、WO等が挙げられる。
【0075】
シード層41、第1の下地層42及び第2の下地層43の少なくとも1層中の酸化物の含有量は、2mol%~30mol%の範囲内であることが好ましく、10mol%~25mol%の範囲内であることがより好ましい。シード層41、第1の下地層42及び第2の下地層43の少なくとも1層中の酸化物の含有量が上記の好ましい範囲内であれば、磁性層44の(001)配向性をさらに向上させることができると共に、シード層41、第1の下地層42及び第2の下地層43の少なくとも1層の(100)配向性をさらに向上させることができる。
【0076】
第1の下地層42を形成する材料として、例えば、Tiの含有量が50at%、残部がCoであるCoTi系合金を用いることができる。第1の下地層42の厚さは、例えば、30nm~100nmが好ましく、50nm程度がより好ましい。
【0077】
第2の下地層43を形成する材料として、例えば、NiOを用いることができる。第2の下地層43の厚さは、例えば、3nm~10nmが好ましく、5nm程度がより好ましい。
【0078】
シード層41、第1の下地層42及び第2の下地層43の形成方法としては、スパッタリング法等の公知の方法を用いることができる。
【0079】
磁性層44は、第2の下地層43の上に設けられ、L1型結晶構造を有する合金を含み、(001)配向している磁性膜である。
【0080】
L1型構造を有する合金は、高い磁気異方性定数Kuを有している。L1型構造を有する合金としては、Fe-Pt合金、Co-Pt合金等が挙げられる。
【0081】
磁性層44のL1型構造を有する合金の規則化を促進するために、磁性層44の成膜時に、加熱処理することが好ましい。
【0082】
磁性層44に含まれるL1型構造を有する合金の結晶粒子は、磁気的に孤立していることが好ましい。そのため、磁性層44は、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、GeO、MnO、TiO、ZnO、B、C、B及びBNからなる群より選択される1種以上の物質をさらに含むことが好ましい。これにより、結晶粒子間の交換結合をより確実に分断し、アシスト磁気記録媒体40のシグナルノイズ比(SNR)をさらに向上させることができる。
【0083】
磁性層44は、具体的には、例えば、(Fe-45at%Pt)-8mol%SiO-4mol%Cr系合金(SiOの含有量が8mol%、Crの含有量が4mol%、残部(Ptの含有量が45at%、残部がFe)である合金)を用いることができる。
【0084】
磁性層44に含まれる磁性粒子の平均粒径は、記録密度を増大させる観点から、10nm以下であることが好ましい。一般に、磁性粒子の平均粒径が小さくなると、磁性層44に磁気情報を書き込んだ直後の熱ゆらぎの影響を受け易くなる。
【0085】
なお、磁性粒子の平均粒径は、TEM観察画像を用いて決定することができる。例えば、TEMの観察画像から、200個の磁性粒子の粒径(円相当径)を測定し、積算値50%における粒径を平均粒径とすることができる。ここで、磁性粒子の平均粒界幅は、0.3nm~2.0nmであることが好ましい。
【0086】
磁性層44は、多層構造を有していてもよい。磁性層44は、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、GeO、MnO、TiO、ZnO、B、C、B及びBNからなる群より選択される1種以上の物質を含む層を2層以上積層して構成され、各層に含まれる物質がそれぞれ異なることが好ましい。
【0087】
磁性層44の厚さは、1nm~20nmであることが好ましく、3nm~15nmであることがより好ましい。磁性層44の厚さが好ましい範囲内であれば、再生出力を向上させることができると共に、結晶粒子の肥大化を抑制することができる。なお、磁性層44が多層構造を有する場合、磁性層44の厚さは、全ての層の合計の厚さを意味する。
【0088】
磁性層44の形成方法としては、シード層41、第1の下地層42及び第2の下地層43と同様、スパッタリング法等の公知の方法を用いることができる。
【0089】
保護層45は、磁性層44の上に接して設けられ、磁性層44を保護する層である。
【0090】
保護層45を形成する材料として、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)等の炭素材料を用いることができる。
【0091】
保護層45の形成方法としては、例えば、炭化水素からなる原料ガスを高周波プラズマで分解して成膜するRF-CVD(Radio Frequency-Chemical Vapor Deposition)法、フィラメントから放出された電子で原料ガスをイオン化して成膜するIBD(Ion Beam Deposition)法、原料ガスを用いずに、固体炭素ターゲットを用いて成膜するFCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)法等が挙げられる。
【0092】
保護層45の厚さは、特に限定されるものではないが、1nm~6nmであることが好ましい。保護層45の厚さがこの範囲内であれば、磁気ヘッドの浮上特性を良好とすることができると共に、磁気スペーシングロスの増大を抑制して、アシスト磁気記録媒体のSNRの低下を抑制することができる。
【0093】
保護層45は、一層からなるものであってもよいし、複数層からなるものであってもよい。
【0094】
潤滑剤層46は、保護層45の上に接して設けられ、アシスト磁気記録媒体40の汚染を防止すると共に、アシスト磁気記録媒体40上を摺動する磁気記録再生装置の磁気ヘッドの摩擦力を低減させて、アシスト磁気記録媒体40の耐久性を向上させるものである。
【0095】
潤滑剤層46は、例えば、パーフルオロポリエーテル系フッ素樹脂、脂肪族炭化水素系樹脂等を含む。潤滑剤層46は、例えば、パーフルオロポリエーテル系フッ素樹脂や脂肪族炭化水素等を含む潤滑膜組成物を用いて形成することができる。
【0096】
本実施形態に係るアシスト磁気記録媒体40は、上述の磁気記録媒体用基板1を用いることで、磁化を低減しつつ、表面の微少うねりの高さを低くすることができると共に、表面の膨れの密度を小さくすることができるため、高い記録密度を有することができる。
【0097】
<磁気記憶装置>
本実施形態に係る磁気記録媒体を用いた磁気記憶装置について説明する。なお、ここでは、磁気記録媒体が図5に示すアシスト磁気記録媒体40である場合について説明する。
【0098】
本実施形態に係る磁気記憶装置は、例えば、アシスト磁気記録媒体を回転させるための磁気記録媒体駆動部と、先端部に近接場光発生素子を備えた磁気ヘッドと、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部と、記録再生信号処理部を有することができる。
【0099】
また、磁気ヘッドは、例えば、アシスト磁気記録媒体を加熱するためのレーザー光発生部と、レーザー光発生部から発生したレーザー光を近接場光発生素子まで導く導波路を有する。
【0100】
図5は、本実施形態に係る磁気記録媒体を用いた磁気記憶装置の一例を示す斜視図である。図5に示すように、磁気記憶装置50は、アシスト磁気記録媒体40と、アシスト磁気記録媒体40を回転させるための磁気記録媒体駆動部51と、磁気ヘッド52と、磁気ヘッド52を移動させるためのヘッド移動部53と、記録再生信号処理部54とを備える。
【0101】
図6に、磁気ヘッド52の一例を示す。図6に示すように、磁気ヘッド52は、記録ヘッド61と、再生ヘッド62とを有する。
【0102】
記録ヘッド61は、主磁極611と、補助磁極612と、磁界を発生させるコイル613と、レーザー光発生部であるレーザーダイオード(LD)614と、LD614から発生したレーザー光Lを近接場光発生素子615まで伝送する導波路616とを有する。
【0103】
再生ヘッド62は、シールド621で挟まれている再生素子622を有する。
【0104】
図5に示すように、磁気記憶装置50は、アシスト磁気記録媒体40の中心部をスピンドルモータの回転軸に取り付けて、スピンドルモータにより回転駆動されるアシスト磁気記録媒体40の面上を磁気ヘッド52が浮上走行しながら、アシスト磁気記録媒体40に対して情報の書き込み又は読み出しを行う。
【0105】
本実施形態に係る磁気記憶装置50は、本実施形態に係るアシスト磁気記録媒体40を用いることで、アシスト磁気記録媒体40を高記録密度化することができるため、記録密度を高めることができる。
【実施例
【0106】
以下、実施例及び比較例を示して実施形態を具体的に説明するが、実施形態はこれらの実施例及び比較例により限定されるものではない。
【0107】
<アルミニウム合金基板の製造>
Al塊、Mg、Mn、Cr、Si、Fe及びZnを用意した。なお、Al塊、Mg、Mn、Cr、Si、Fe及びZnの各原料は、純度が99.9wt%以上のものを用いた。
【0108】
用意した各元素の原料を、鋳造後の組成が、Al-4.0wt%Mg-0.5wt%Mn-0.1wt%Cr-0.2wt%Si-0.3wt%Fe-0.2wt%Zn(Mg含有量:4wt%、Mn含有量:0.5wt%、Cr含有量:0.1wt%、Si含有量:0.2wt%、Fe含有量:0.3wt%、Zn含有量:0.2wt%、残部Al)となるように秤量したアルミニウム合金材料を準備した。アルミニウム合金材料を、大気中、820℃で溶解し、ダイレクトチル鋳造法(DC鋳造法)を用いて、アルミニウム合金鋳塊を作製した。なお、鋳造温度は700℃、鋳造速度は80mm/分とした。
【0109】
次に、得られたアルミニウム合金鋳塊を520℃で10時間保持して均質化処理した。その後、圧延して厚さ1.2mmのアルミニウム合金板材とした。
【0110】
得られたアルミニウム合金板材を中央に開口部を有する直径97mmの円盤状に打ち抜いた後、380℃で1時間焼鈍した。その後、アルミニウム合金円盤の表面、端面をダイヤモンドバイトにより旋削加工することで、直径96mm、厚さ0.8mmのアルミニウム合金基板を得た。
【0111】
<実施例1>
[磁気記録媒体用基板の作製]
(ニッケル合金被膜の作製)
アルミニウム合金基板をNiMoP系めっき液に浸漬し、無電解めっき法を用いて、アルミニウム合金基板の表面に、NiMoP系めっき被膜として、Ni-0.9wt%Mo-12.4wt%P-0.0003wt%Fe(Moの含有量0.9wt%、Pの含有量12.4wt%、Feの含有量0.0003wt%、残部Ni)膜を形成した。
【0112】
NiMoP系めっき液には、硫酸ニッケル、次亜リン酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、酢酸鉄(II)とを含み、クエン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウムを適宜加えて、上記組成のNiMoP系めっき被膜が得られるように、成分の分量を調整したものを用いた。NiMoP系めっき被膜の形成時のNiMoP系めっき液はpHを6、めっき温度を90℃に調整した。アルミニウム合金基板のNiMoP系めっき液への浸漬時間は2時間とした。
【0113】
次いで、NiMoP系めっき被膜を形成したアルミニウム合金基板を300℃で3分間加熱して、厚さ10μmのNiMoP系めっき被膜付アルミニウム合金基板を得た。
【0114】
(研磨加工)
研磨盤として、上下一対の定盤を備える3段のラッピングマシーンを用いて、NiMoP系めっき被膜付きのアルミニウム合金基板の表面に対して、研磨加工を施し、磁気記録媒体用基板を作製した。このとき、研磨パッドには、スエードタイプ(Filwel社製)を用いた。そして、第1段目の研磨には、D50が0.5μmのアルミナ砥粒を、第2段目の研磨には、D50が30nmのコロイダルシリカ砥粒を、第3段目の研磨には、D50が10nmのコロイダルシリカ砥粒を用いた。また、研磨時間は、各段で5分間とした。
【0115】
[耐熱性の評価]
得られた磁気記録媒体用基板を、真空中で、320℃、20分間加熱した後、磁気記録媒体用基板の飽和磁束密度、波長帯20μm~100μmにおける微小うねり、磁気記録媒体用基板の表面に現れる高さ1nm以上の膨れの密度を測定した。これらの測定結果に基づいて、磁気記録媒体用基板の耐熱性を評価した。磁気記録媒体用基板の耐熱性の評価は、飽和磁束密度が0.10ガウス以下であり、微小うねりが0.100nm以下であり、膨れの密度が0.040個/cm2以下であった場合は、磁気記録媒体用基板の耐熱性は優れていると判断し、○と判定した。飽和磁束密度が0.10ガウスを超えること、微小うねりが0.100nmを超えること、膨れの密度が0.040個/cm2を超えることの少なくとも何れかであった場合は、磁気記録媒体用基板の耐熱性は不良であると判断し、×と判定した。磁気記録媒体用基板の飽和磁束密度、微小うねり及び膨れの密度の測定結果と、耐熱性の評価結果を表1に示す。
【0116】
(飽和磁束密度)
磁気記録媒体用基板の飽和磁束密度は、VSMにより測定した。
【0117】
(微小うねり)
磁気記録媒体用基板の表面の、波長帯20μm~100μmにおける微小うねりは、AFMにより測定した。
【0118】
(膨れの密度)
磁気記録媒体用基板の表面に現れる高さ1nm以上の膨れの密度は、AFMの画像解析により測定した。磁気記録媒体用基板の表面に現れる高さ1nm以上の膨れを測定した図を図7に示す。
【0119】
<実施例2~7、比較例1~6>
実施例1において、NiMoP系めっき被膜の組成を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして行った。測定結果を表1に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
表1より、実施例1~実施例7では、磁気記録媒体用基板の飽和磁束密度は0.60ガウス以下であり、微小うねりは0.10μm以下であり、高さ1nm以上の膨れの密度は、0.050個/cm2以下であった。一方、比較例1~6では、磁気記録媒体用基板の飽和磁束密度は0.70ガウス以上であり、微小うねりは0.11μm以上であり、高さ1nm以上の膨れの密度は、0.060個/cm2以上であった。
【0122】
実施例1~7の磁気記録媒体用基板は、比較例1~6の磁気記録媒体用基板と異なり、NiMoP系めっき被膜の組成をMoを0.5wt%~3wt%、Pを11wt%~12.4wt%、Feを0.0001wt%~0.001wt%とすることで、磁気記録媒体用基板の、飽和磁束密度、微小うねり及び高さ1nm以上の膨れの密度を小さく抑えることができ、耐熱性を向上させることができることが確認された。したがって、本実施形態に係る磁気記録媒体用基板をアシスト磁気記録媒体に有効に用いることができるといえる。
【0123】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更等を行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0124】
1 磁気記録媒体用基板
1A ニッケル合金めっき被膜が形成されたアルミニウム合金基板
11 磁気記録媒体用アルミニウム合金基板(アルミニウム合金基板)
12 ニッケル合金被膜
40 アシスト磁気記録媒体
44 磁性層
50 磁気記憶装置(ハードディスクドライブ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7