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特許7459867分岐鎖状ジオレフィンの分離方法及び製造方法
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  • 特許-分岐鎖状ジオレフィンの分離方法及び製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】分岐鎖状ジオレフィンの分離方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 7/144 20060101AFI20240326BHJP
   C07C 11/18 20060101ALI20240326BHJP
   C01B 39/20 20060101ALI20240326BHJP
   B01D 61/36 20060101ALI20240326BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20240326BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C07C7/144
C07C11/18
C01B39/20
B01D61/36
B01D71/02 500
B01D69/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021509133
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2020011804
(87)【国際公開番号】W WO2020196110
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019058893
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴博
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/098417(WO,A1)
【文献】米国特許第7041616(US,B1)
【文献】特開2015-174081(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0194902(US,A1)
【文献】特開2012-236155(JP,A)
【文献】特開2002-348579(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169195(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22、61/36、69/12、71/00-02
C07C 7/12-13、144、11/12-20
C01B 39/20-24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト膜複合体を用いて、炭素数nが等しい、分岐鎖状ジオレフィンと、少なくとも一種の、炭素-炭素二重結合の数が1以下である分岐鎖状炭化水素とを含む分岐鎖状炭化水素混合物から前記分岐鎖状ジオレフィンを分離する分離工程を含み、
前記ゼオライト膜複合体が、多孔性支持体と、該多孔性支持体の少なくとも一つの表面に形成されたFAU型ゼオライト膜とを含み、さらに、該FAU型ゼオライト膜が、表面にシリル基を有するシリル化FAU型ゼオライト膜である、ゼオライト膜複合体である、
分岐鎖状ジオレフィンの分離方法。
【請求項2】
前記炭素数nが4又は5である、請求項1に記載の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法。
【請求項3】
前記シリル基がトリメチルシリル基である、請求項1又は2に記載の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法。
【請求項4】
前記ゼオライト膜複合体が、水及びイソプロピルアルコールの混合物を分離した場合に、下式(A)により算出される分離係数αWが270以下である、請求項1~3の何れかに記載の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法。
αW=(Yw/YI)/(Xw/XI)・・・(A)
〔なお、式(A)中、Ywは、透過側サンプル中の水の含有割合[質量%]であり、YIは、透過側サンプル中のイソプロピルアルコールの含有割合[質量%]であり、Xwは、分離対象物中の水の含有割合[質量%]であり、XIは、分離対象物中のイソプロピルアルコールの含有割合[質量%]である。〕
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法に従って、前記分岐鎖状ジオレフィンを分離することを含む、分岐鎖状ジオレフィンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐鎖状ジオレフィンの分離方法及び製造方法に関し、特に、ゼオライト膜複合体を用いた膜分離により、分岐鎖状炭化水素混合物から分岐鎖状ジオレフィンを分離する、分岐鎖状ジオレフィンの分離方法、及びかかる分離方法を含む製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の炭化水素を含有する炭化水素混合物から特定の炭化水素を低エネルギーで分離する方法として、膜分離法が用いられている。そして、分離膜としては、支持体上にゼオライトを膜状に形成してなるゼオライト膜が広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、多孔性支持体上にX型ゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体によりオレフィン/パラフィン混合流体からオレフィンを選択的に分離する方法が開示されている。特許文献1では、X型ゼオライトとして、X型ゼオライト中のイオン交換可能なカチオンをAgイオンでイオン交換したAg-X型ゼオライトを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-174081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のAg-X型ゼオライトによれば、上記特許文献1にて検証がなされたように、オレフィン/パラフィン混合流体として、エチレン/エタン混合流体、エチレン/プロパン混合流体、プロピレン/エタン混合流体、プロピレン/プロパン混合流体等の、モノオレフィン/パラフィン混合流体から、パラフィンを良好に分離することができる。ここで、近年、炭素-炭素不飽和結合を2つ含む分岐鎖状炭化水素、即ち、分岐鎖状ジオレフィンを、炭素数は等しいが、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から分離することができる膜分離技術が必要とされている。
【0006】
しかし、上記従来のAg-X型ゼオライトによっては、炭素数は等しいが、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することが出来なかった。
【0007】
そこで、本発明は、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することが可能な、分岐鎖状ジオレフィンの分離方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明の分離方法に従って分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することを含む、分岐鎖状ジオレフィンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、表面にシリル基を有するシリル化FAU型ゼオライト膜を、多孔性支持体上に成膜させてなる、ゼオライト膜複合体によれば、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することが可能となることを新たに見出した。そして、本発明者は、上述した新たな知見に基づき、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法は、ゼオライト膜複合体を用いて、炭素数nが等しい、分岐鎖状ジオレフィンと、少なくとも一種の、炭素-炭素二重結合の数が1以下である分岐鎖状炭化水素とを含む分岐鎖状炭化水素混合物から前記分岐鎖状ジオレフィンを分離する分離工程を含み、前記ゼオライト膜複合体が、多孔性支持体と、該多孔性支持体の少なくとも一つの表面に形成されたFAU型ゼオライト膜とを含み、さらに、該FAU型ゼオライト膜が、表面にシリル基を有するシリル化FAU型ゼオライト膜である、ゼオライト膜複合体であることを特徴とする。
このように、本発明の分離方法において、表面にシリル基を有するシリル化FAU型ゼオライト膜を備えるゼオライト膜複合体を用いることで、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することができる。
【0010】
また、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法においては、炭素数nが4又は5であることが好ましい。本発明の分離方法において、炭素数nが共に4又は5で等しいが、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物を分離対象とした場合にも、本発明の分離方法により分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することができる。
【0011】
さらに、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法においては、前記シリル基がトリメチルシリル基であることが好ましい。本発明の分離方法において、表面にトリメチルシリル基を有するシリル化FAU型ゼオライト膜を備えるゼオライト膜複合体を用いることで、分岐鎖状ジオレフィンを一層選択的に分離することができる。
【0012】
さらに、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法においては、前記ゼオライト膜複合体が、水及びイソプロピルアルコールの混合物を分離した場合に、下式(A)により算出される分離係数αWが270以下であることが好ましい。
αW=(Yw/YI)/(Xw/XI)・・・(A)
〔なお、式(A)中、Ywは、透過側サンプル中の水の含有割合[質量%]であり、YIは、透過側サンプル中のイソプロピルアルコールの含有割合[質量%]であり、Xwは、分離対象物中の水の含有割合[質量%]であり、XIは、分離対象物中のイソプロピルアルコールの含有割合[質量%]である。〕
本発明の分離方法において、上記所定の分離係数αWが270以下であるゼオライト膜複合体を用いることで、分岐鎖状ジオレフィンを一層選択的に分離することができる。なお、分離係数αWの測定にあたり用いる、水及びイソプロピルアルコールの混合物の混合比率は、質量基準で、水:イソプロピルアルコール=23:77である。また、分離係数αWの測定の際の温度条件は、70℃である。
【0013】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの製造方法は、上述した何れかの分岐鎖状ジオレフィンの分離方法に従って、前記分岐鎖状ジオレフィンを分離することを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することが可能な、分岐鎖状ジオレフィンの分離方法を提供することができる。
また、本発明によれば、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法に従って分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することにより、分岐鎖状ジオレフィンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例及び比較例で用いた試験装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の分離方法は、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを分離する際に用いられる。
【0017】
(分岐鎖状ジオレフィンの分離方法)
本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法は、ゼオライト膜複合体を用いて、炭素数nが等しい、分岐鎖状ジオレフィンと、少なくとも一種の、炭素-炭素二重結合の数が1以下である分岐鎖状炭化水素とを含む分岐鎖状炭化水素混合物から分岐鎖状ジオレフィンを分離する分離工程を含む、分離方法である。かかる工程において用いられるゼオライト膜複合体は、多孔性支持体と、該多孔性支持体の少なくとも一つの表面に形成されたFAU型ゼオライト膜とを含み、さらに、該FAU型ゼオライト膜が、表面にシリル基を有するシリル化FAU型ゼオライト膜である、ゼオライト膜複合体であることを特徴とする。
【0018】
そして、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法は、表面にシリル基を有するシリル化FAU型ゼオライト膜を含むゼオライト膜複合体を用いるため、炭素数nが等しい、分岐鎖状ジオレフィンと、少なくとも一種の、炭素-炭素二重結合の数が1以下である分岐鎖状炭化水素とを含む分岐鎖状炭化水素混合物から分岐鎖状ジオレフィンを分離することができる。その理由は明らかではないが、以下の通りであると推察される。
【0019】
従来から膜分離に使用されてきた種々のタイプのゼオライト膜は、分離対象物に含まれる特定の物質はゼオライトの細孔を透過させ、分離対象物に含まれるその他の物質は透過させないことで、分離性能を発揮するものであった。ここで、本発明の分離方法にて採用したゼオライト膜複合体は、表面にシリル基を有するものである。かかるシリル基は、ゼオライト膜複合体に撥水性を付与するのみならず、それ自体が、複合体表面及びゼオライトの細孔及びその近傍等において、立体障害となり得るものである。そして、シリル基がゼオライト膜複合体に対して付与し得る撥水性という属性、及び、FAU型の結晶構造を有するゼオライト膜表面のシリル基の存在によりもたらされる構造的な特徴等が組み合わせられたことに起因して、分岐鎖状ジオレフィンが、上記所定のゼオライト膜複合体を選択的に透過するようになったと考えられる。
【0020】
<分離工程>
分離工程では、ゼオライト膜複合体を用いて、炭素数nが等しい、分岐鎖状ジオレフィンと、少なくとも一種の、炭素-炭素二重結合の数が1以下である分岐鎖状炭化水素とを含む分岐鎖状炭化水素混合物から分岐鎖状ジオレフィンを分離する。
【0021】
<<分岐鎖状炭化水素混合物>>
分岐鎖状炭化水素混合物は、互いに炭素数nの等しい、分岐鎖状ジオレフィン、分岐鎖状モノオレフィン、及び分岐鎖状アルカン、並びに、その他の炭化水素を含みうる。なお、炭素数nは整数であり、好ましくは4又は5であり、より好ましくは5である。より詳細には、分岐鎖状炭化水素混合物は、炭素数nの分岐鎖状ジオレフィンと、炭素数nの分岐鎖状モノオレフィン及び炭素数nの分岐鎖状アルカンの少なくとも一方と、を主成分として含み、任意の炭素数の炭化水素を更に含む場合がある。なお、本明細書において、分岐鎖状炭化水素混合物が「炭素数nの分岐鎖状ジオレフィンと、炭素数nの分岐鎖状モノオレフィン及び炭素数nの分岐鎖状アルカンの少なくとも一方と、を主成分として含む」とは、炭素数nの分岐鎖状ジオレフィンと、炭素数nの分岐鎖状モノオレフィン及び炭素数nの分岐鎖状アルカンの少なくとも一方と、を合計で50質量%以上含有することを指す。例えば、分岐鎖状炭化水素混合物の炭素数nが5である場合には、分岐鎖状炭化水素混合物は、イソプレン(炭素-炭素二重結合の数:2)を含み、イソペンタン(炭素-炭素二重結合の数:0)、並びに、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチル-1-ブテン等の炭素-炭素二重結合の数が1つの化合物の何れか、の少なくとも一方をさらに含み、これらの合計割合が、分岐鎖状炭化水素混合物全体の50質量%以上であり得る。
【0022】
<<ゼオライト膜複合体>>
上記のような分岐鎖状炭化水素混合物の分離に用いるゼオライト膜複合体は、多孔性支持体と、該多孔性支持体の少なくとも一つの表面に形成されたFAU型ゼオライト膜とを含むゼオライト膜である。さらに、かかるFAU型ゼオライト膜が、表面にシリル基を有するシリル化FAU型ゼオライト膜であることを特徴とする。
【0023】
-多孔性支持体-
ゼオライト膜複合体において、ゼオライト膜を少なくとも一つの表面上に支持する多孔性支持体は、複数の細孔を有する多孔質体である。多孔性支持体の形状は、特に限定されることなく、例えば、平膜状、平板状、管状、ハニカム状などの任意の形状とすることができる。また、多孔性支持体の材質は、特に限定されることなく、アルミナ、ムライト、ジルコニア、コージライト、シリコンカーバイド等の多孔質セラミックス;シラスポーラスガラス等のガラス;及びステンレス鋼等の多孔質焼結金属からなる多孔質体である支持体上に配置されてなる。そして、多孔性支持体の平均細孔径は、例えば、100nm以上5μm以下でありうる。
【0024】
-ゼオライト膜-
ゼオライト膜は、FAU型ゼオライト膜がシリル化されてなる膜である。即ち、ゼオライト膜は、シリル化FAU型ゼオライト膜である。FAU型ゼオライトは、フォージャサイト(faujasite:FAU)型の結晶構造を有するゼオライトである。FAU型の結晶構造は、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)の提供するデータベースにて定義されている。本明細書において、「FAU型ゼオライト膜」とは、ゼオライト膜がFAU型ゼオライトを含むことを意味し、好ましくは、ゼオライト膜を構成するゼオライトの50質量%超がFAU型ゼオライトであり、より好ましくはゼオライト膜を構成する全てのゼオライトが、FAU型ゼオライトであることを意味する。
【0025】
そして、ゼオライト膜の膜厚は、例えば、1μm以上50μm以下でありうる。ゼオライト膜の膜厚が上記範囲内であるゼオライト膜複合体によれば、分岐鎖状ジオレフィンを一層選択的に分離することができる。
ここで、「ゼオライト膜の膜厚」は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。また、ゼオライト膜の膜厚は、例えば、ゼオライト膜の形成に用いる種結晶の平均粒子径や、ゼオライトの合成条件(例えば、温度及び時間)等を調整することにより制御することができる。
【0026】
なお、ゼオライト膜複合体は、多孔性支持体に対してゼオライト種結晶を付着させて、種結晶付着済支持体を得る種結晶付着工程と、種結晶付着済支持体上にゼオライトからなるゼオライト膜を形成するゼオライト膜形成工程と、ゼオライト膜をシリル化処理するシリル化工程と、を経て製造することができる。
各工程における操作は、特に限定されることなく、既知のゼオライト膜の製膜方法に従うことができる。
【0027】
種結晶付着工程では、塗布又は擦り込み等の既知の手法を用いてゼオライト種結晶を多孔性支持体に付着(担持)させることができる。より具体的には、種結晶付着工程では、FAU型ゼオライト種結晶を水中に分散させて得た分散液を多孔性支持体に塗布し、塗布した分散液を乾燥することにより、FAU型ゼオライト種結晶を多孔性支持体に付着させることができる。
【0028】
なお、FAU型ゼオライト種結晶は、市販のFAU型ゼオライトを用いても良いし、既知の方法に従って調製しても良い。なお、必要に応じて、FAU型ゼオライトを微粉化する等しても良い。
【0029】
ゼオライト膜形成工程では、FAU型ゼオライト種結晶を付着させた多孔性支持体を、シリカ源、鉱化剤、及びアルミニウム源等を含む水性ゾルに浸漬し、水熱合成によりFAU型ゼオライトを含むゼオライト膜を合成する。なお、ゼオライト膜形成工程において得られたゼオライト膜を有する多孔性支持体には、任意に、煮沸洗浄操作及び焼成操作を施してもよい。
【0030】
シリカ源としては、特に限定されることなく、例えば、コロイダルシリカ、湿式シリカ、無定形シリカ、ヒュームドシリカ、ケイ酸ナトリウム、シリカゾル、シリカゲル、カオリナイト、珪藻土、ホワイトカーボン、テトラブトキシシラン、テトラブチルオルソシリケート、テトラエトキシシラン等が挙げられる。中でも、コロイダルシリカを好適に用いることができる。
【0031】
鉱化剤としては、特に限定されることなく、例えば、NaOH等が挙げられる。
【0032】
アルミニウム源としては、特に限定されることなく、例えば、NaAlO2及びAl(OH)3が挙げられる。中でも、NaAlO2を好適に用いることができる。
【0033】
ゼオライト膜形成工程において用いる水性ゾルを調製する際の各種配合剤の配合比は、特に限定されないが、中でも、シリカ源:アルミニウム源の配合比が、モル比で、「1:0.08~1.0」であることが好ましい。
【0034】
FAU型ゼオライト種結晶を付着させた多孔性支持体を水性ゾルに浸漬する方法は、特に限定されないが、例えば、FAU型ゼオライト種結晶を付着させた多孔性支持体を収容した耐圧容器に水性ゾルを入れる方法などが挙げられる。或いは、水性ゾルを収容した耐圧容器にFAU型ゼオライト種結晶を付着させた多孔性支持体を入れる方法を採用してもよい。
【0035】
FAU型ゼオライト種結晶を付着させた多孔性支持体が浸漬された水性ゾルを加熱し、水熱合成によりFAU型ゼオライトを合成して多孔性支持体上にゼオライト膜を形成する際の加熱温度は、好ましくは50℃以上250℃以下、より好ましくは70℃以上200℃以下である。また、加熱時間は、好ましくは1時間以上50時間以下、より好ましくは2時間以上20時間以下である。なお、耐圧容器中の水性ゾル及び多孔性支持体を加熱する方法としては、耐圧容器を熱風乾燥器に入れて加熱する方法や、耐圧容器にヒーターを直接取り付けて加熱する方法などが挙げられる。なお、水熱合成が完了した後に、得られたゼオライト膜を有する多孔性支持体を、ブラッシングしても良い。ブラッシングにより、水熱合成の結果得られたゼオライト膜に付着している非晶質体を除去することができる。ブラッシングを行うことで、ゼオライト膜による分離の選択性を一層高めることができる。
【0036】
上記のようにして得られたゼオライト膜を有する多孔性支持体を煮沸洗浄する際の洗浄液としては、たとえば、蒸留水を用いることができる。また、煮沸洗浄時間は、好ましくは10分以上2時間以下であり、より好ましくは30分以上1.5時間以下である。また、煮沸洗浄は、複数回(例えば、2~3回)行ってもよく、煮沸洗浄を複数回実施する場合における煮沸洗浄条件は、互いに同一としてもよいし、それぞれ異なるものとしてもよい。更に、煮沸洗浄を行った後、必要に応じて乾燥処理を行ってもよく、煮沸洗浄後のゼオライト膜を有する多孔性支持体の乾燥温度は、好ましくは70℃以上であり、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは180℃以下である。また、乾燥時間は、例えば、1時間以上48時間以下であり得る。
【0037】
シリル化工程では、多孔性支持体上に形成されたゼオライト膜をシリル化剤で処理する。シリル化剤としては、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン等が挙げられる。また、シリル化剤は、ハロゲン原子を非含有であることが好ましく、上記列挙にかかるシリル化剤の中でも、ヘキサメチルジシラザンが特に好ましい。シリル化剤として、ヘキサメチルジシラザンを用いた場合には、得られるシリル化ゼオライト膜は、シリル基として、トリメチルシリル基を有するものとなる。シリル化剤がハロゲン原子を非含有であれば、ゼオライト膜がシリル化処理によって劣化することを抑制することができるからである。そして、シリル化処理の方法としては、特に限定されることなく、蒸気状態としたシリル化剤に対してゼオライト膜を接触させることを含む気相シリル化法、及び液体状態のシリル化剤に対してゼオライト膜を接触させることを含む液相シリル化法が挙げられる。
【0038】
より具体的には、気相シリル化法では、シリル化剤をバブリング等の既知の気化方法に従って気化する気化工程と、気化工程で得られたシリル化剤の蒸気に対して、ゼオライト膜を接触させる蒸気接触工程とを実施する。そして、気相シリル化法における接触時間は、例えば、12時間以上24時間以下であり得る。
【0039】
また、液相シリル化法では、シリル化剤を含む液体に対してゼオライト膜を浸漬させる浸漬工程を実施する。シリル化剤を含む液体は、液状のシリル化剤のみからなる液体であっても良いし、シリル化剤と、溶媒とを含む溶液であっても良い。溶媒としては、特に限定されることなく、既知の溶媒を用いることができる。液相シリル化法における浸漬時間は、例えば、12時間以上24時間以下であり得る。
【0040】
ゼオライト膜をシリル化処理するにあたり、シリル化処理の方法として、液相シリル化法を採用することが好ましい。液相中にてシリル化したシリル化ゼオライト膜を用いて膜分離工程を実施することで、ゼオライト膜を交換、清浄、又は再生等することなく使用可能な期間を長期化することができ、高い持続性で、膜分離を実施することができるようになる。
【0041】
そして、シリル化FAU型ゼオライト膜を含むゼオライト膜複合体は、水及びイソプロピルアルコールの混合物を分離した場合に、下式(A)により算出される分離係数αWが270以下であることが好ましい。
αW=(Yw/YI)/(Xw/XI)・・・(A)
〔なお、式(A)中、Ywは、透過側サンプル中の水の含有割合[質量%]であり、YIは、透過側サンプル中のイソプロピルアルコールの含有割合[質量%]であり、Xwは、分離対象物中の水の含有割合[質量%]であり、XIは、分離対象物中のイソプロピルアルコールの含有割合[質量%]である。〕
【0042】
さらに、分離係数αWが、250以下であることがより好ましく、230以下であることがさらに好ましい。ゼオライト膜複合体について測定した分離係数αWが、270以下、ひいては、250以下又は230以下であれば、分岐鎖状ジオレフィンを一層選択的に分離することができる。分離係数αWの値が小さい程、ゼオライト膜複合体の撥水性が高いことを意味する。
【0043】
<<その他>>
なお、分離工程は、特に限定されることなく、蒸気透過法(Vapor Permeation法:VP法)及び浸透気化法(PerVaporation法:PV法)等に従って実施することができる。中でも、分離係数を高める観点からは、PV法が好ましい。また、分離工程は、加温条件下で行うことが好ましい。具体的には、分離工程は、好ましくは20℃以上300℃以下、より好ましくは25℃以上250℃以下、さらに好ましくは50℃以上200℃以下の条件下で行うことができる。
【0044】
さらに、分離工程は、繰り返し実施してもよい。即ち、m回めの分離工程により得られた分離物を、(m+1)回めの分離工程に供してもよい。このように、得られた分離物を更なる分離工程の分離対象物として供することで、単回の分離工程にて達成可能な分離選択性よりも、総合して高い分離選択性を発揮することが可能となる。分離工程を繰り返し実施する回数は、例えば、本明細書の実施例に記載した方法により算出可能な分離係数αdに応じて、任意に設定することができる。
【0045】
(分岐鎖状ジオレフィンの製造方法)
本発明の分岐鎖状ジオレフィンの製造方法は、上述した本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法に従って、所定の分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを分離することを含む。本発明の分岐鎖状ジオレフィンの製造方法では、膜分離により分岐鎖状ジオレフィンを分離することができるので、従来的な方法よりも低エネルギーで、即ち、効率的に分岐鎖状ジオレフィンを製造することが可能になる。所定の分岐鎖状炭化水素混合物は、上述したように、炭素数nが等しい、分岐鎖状ジオレフィンと、少なくとも一種の、炭素-炭素二重結合の数が1以下である分岐鎖状炭化水素とを含む混合物である。また、かかる混合物の詳細は、<分岐鎖状炭化水素混合物>の項目にて詳述した通りである。さらに、分岐鎖状ジオレフィンの分離にあたり、<分離工程>の項目にて詳述した操作を好適に実施することができる。そして、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの製造方法は、分離工程の後段に、得られた分岐鎖状ジオレフィンを精製する精製工程を実施しても良い。実施し得る精製工程としては、特に限定されないが、例えば、蒸留法又はクロマト分離法に従う工程が挙げられる。
【実施例
【0046】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」等は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例及び比較例において、得られたゼオライト膜複合体の解析は下記の方法で実施し、分離性能は下記の方法で算出した。
【0047】
<ゼオライト膜複合体の解析>
<<X線回折パターン>>
X線回折装置(Bruker AXS製、Discover D8)を使用して多孔性分離層のX線回折パターンを得た。測定条件は、X線源:Cu-Kα線、波長λ:1.54Å、管電圧:30kV、管電流:15mA、出力:0.9kW、入光スリット:縦1.0mm×横1.0mm、受光スリット:ソラースリット(角度分解能0.35deg)、検出器:シンチレーションカウンター、測定速度:0.01deg/秒、である。
【0048】
<分離性能>
分離試験の結果から、下記式(I)を用いて透過流束Fを算出した。また、下記式(II)を用いて分離係数αdを算出した。なお、分離対象物としては、イソペンタン(炭素数5の分岐鎖状アルカン)とイソプレン(炭素数5の分岐鎖状ジオレフィン)とを含む炭化水素混合物を用いた。
F=W/(A×t) ・・・(I)
αd=(Yd/Ya)/(Xd/Xa)・・・(II)
なお、式(I)中、Wは、ゼオライト膜複合体を透過した成分の質量[kg]であり、Aは、ゼオライト膜複合体の有効面積[m2]であり、tは、処理時間[時間]である。また、式(II)中、Ydは、透過側サンプル中のイソプレンの含有割合[質量%]であり、Yaは、透過側サンプル中のイソペンタンの含有割合[質量%]であり、Xdは、分離対象物中のイソプレンの含有割合[質量%]であり、Xaは、分離対象物中のイソペンタンの含有割合[質量%]である。
なお、分離係数αの値が大きい程、ゼオライト膜複合体のイソプレン選択性が高いことを意味する。
【0049】
(実施例1)
<種結晶付着工程>
FAU型ゼオライト種結晶(東ソー社製、HSZ-320NAA)を多孔性支持体としての管状多孔質α-アルミナ支持体(外径:2.5mm、平均細孔径:150nm)に対して塗布法にて塗布し、乾燥させて、FAU型ゼオライト種結晶を付着させた多孔性支持体(以下、「種結晶付き支持体」)を得た。
<ゼオライト膜形成工程>
鉱化剤としてのNaOHを3.29g、アルミニウム源としてのNaAlO2を0.06g、シリカ源としてのコロイダルシリカを7.40g、及び超純水46.39gを25℃で3時間にわたり撹拌した。このような操作を経て、ゼオライト膜形成用の水性ゾルを得た。なお、かかる水性ゾルの組成は、モル比で、SiO2:Al23:Na2O:H2O=12.8:1:17:975であった。
そして、このようにして得られた水性ゾルを耐圧合成容器内に入れた。次に、<種結晶付着工程>で得られた種結晶付き支持体シリカライトを、耐圧合成容器内の水性ゾルに対して浸漬して、85℃で6時間反応(水熱合成)させて、多孔性支持体上にゼオライト膜を形成した。そして、得られたゼオライト膜を有する多孔性支持体をブラッシングした後に、85℃の恒温乾燥器で12時間乾燥させた。
<シリル化工程>
シリル化剤として、ヘキサメチルジシラザンを用いた。上記で得られたゼオライト膜を有する多孔性支持体を、25℃条件下で、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザンの入ったガラス管内に入れ、窒素を封入してガラス管に栓をした。25℃で24時間浸漬させてからゼオライト膜を有する多孔性支持体を引き上げ、マッフル炉にて250℃で12時間乾燥させて、液相中にてシリル化したシリル化FAU型ゼオライト膜を含むゼオライト膜複合体を得た。
【0050】
そして、上記工程を経て得られた、シリル化FAU型ゼオライト膜を含むゼオライト膜複合体について、X線回折測定を行い、X線回折パターンを得た。得られたX線回折パターンより、ゼオライト膜がFAU型構造を有していることが確認された。
【0051】
<分離試験>
また、上記にて得られたシリル化FAU型ゼオライト膜を含むゼオライト膜複合体を使用し、図1に示すような試験装置1を用いて、分離試験を行った。
【0052】
<<試験装置>>
図1に示す試験装置1は、原料タンク2と、ゼオライト膜複合体3と、コールドトラップ4とを備えている。また、試験装置1は、コールドトラップ4の下流に、減圧ポンプ5を備えている。原料タンク2は、外部の温度を調整することにより、内部の圧力が、圧力計6が示す圧力にコントロールされる。さらに、原料タンク2内のゼオライト膜複合体3は、図示しない制御機構により、液相又は気相の炭化水素混合物7の何れかに接するように、移動される。図1に示すゼオライト膜複合体3は管状体であり、ゼオライト膜を選択的に透過してきた成分が管内部に侵入する。
【0053】
ここで、試験装置1においては、減圧ポンプ5によりゼオライト膜複合体3の透過側は減圧状態とされており、ゼオライト膜複合体3を透過した成分は、コールドトラップ4へと送られる。そして、コールドトラップ4にて冷却され再び液相となった透過成分を、透過側のサンプルとして抽出することができる。
【0054】
<<膜分離>>
図1に示す試験装置1を用いた分離試験は、以下のようにして実施した。
具体的には、まず、イソプレン及びイソペンタンをそれぞれ50質量%ずつ含有する炭化水素混合物を、原料タンク2に充填し、図示しない加熱機構により70℃に加温した。また、図示しない制御機構によりゼオライト膜複合体3を移動させて、液相の炭化水素混合物がゼオライト膜複合体3に接触するようにした。そして、コールドトラップ4の下流側に配置された減圧ポンプ5により透過側を減圧状態(3kPaA)とした。即ち、実施例1では、分離工程を浸透気化法(PV法)に従って行った場合の、分離性能について評価した。ゼオライト膜複合体3を透過した透過成分(気相)を、コールドトラップ4にて冷却して再度液相として、分離開始時点から30分間に透過した透過成分をサンプリングした。採取された透過側のサンプルについて、質量を測定するとともに、ガスクロマトグラフにてイソプレン及びイソペンタンの濃度(質量%)を測定した。そして、それらの測定値を用いて分離係数α、及び透過流束Fの値を求めた。結果を表1に示す。
【0055】
<水の分離係数αw
なお、上記の<種結晶付着工程>~<シリル化工程>までの操作を実施して、別途作成したシリル化FAU型ゼオライト膜を含むゼオライト膜複合体について、水及びイソプロピルアルコールの体積比23:77の混合物を膜分離した。分離試験の条件は、分離対象物として、水及びイソプロピルアルコールの体積比23:77の混合物を用いた以外は、上記の<<膜分離>>と同様にした。分離試験の結果から、下記式(A)を用いて分離係数αWを算出した。結果を表1に示す。
αW=(Yw/YI)/(Xw/XI)・・・(A)
〔なお、式(A)中、Ywは、透過側サンプル中の水の含有割合[質量%]であり、YIは、透過側サンプル中のイソプロピルアルコールの含有割合[質量%]であり、Xwは、分離対象物中の水の含有割合[質量%]であり、XIは、分離対象物中のイソプロピルアルコールの含有割合[質量%]である。〕
【0056】
(実施例2)
分離工程を蒸気透過法(VP法)に従って行った場合の、分離性能について評価した。具体的な操作としては、<<膜分離>>の操作において、図示しない制御機構によりゼオライト膜複合体3を移動させて、気相の炭化水素混合物がゼオライト膜複合体3に接触するようにした。かかる点以外は実施例1と同様にして、分離試験を行い、分離係数α、及び透過流束Fの値を求めた。結果を表1に示す。
【0057】
(比較例1)
<シリル化工程>を行わなかった以外は実施例1と同様にして、ゼオライト膜複合体を得て、得られたゼオライト膜複合体を用いて、実施例1と同様の分離試験を行った。言い換えると、比較例1では、シリル化していないFAU型ゼオライト膜を含むゼオライト膜複合体を用いて、PV法に従う分離試験を行った。得られた分離係数α、及び透過流束Fの値を、表1に示す。
また、<シリル化工程>を行わなかった以外は実施例1と同様にして得たゼオライト膜複合体について、実施例1の<水の分離係数αw>の項目に記載した分離試験を行って、分離係数αwを得た。結果を表1に示す。
【0058】
(比較例2)
<シリル化工程>を行わなかった以外は実施例1と同様にして、ゼオライト膜複合体を得て、得られたゼオライト膜複合体を用いて、実施例2と同様の分離試験を行った。言い換えると、比較例2では、シリル化していないFAU型ゼオライト膜を含むゼオライト膜複合体を用いて、VP法に従う分離試験を行った。得られた分離係数αd、及び透過流束Fの値を、表1に示す。
【0059】
(比較例3)
各工程において、下記の点で異なる操作を行った以外は、実施例1と同様にしてゼオライト膜複合体を得た。そして、得られたゼオライト膜複合体を用いて、実施例2と同様の分離試験を行った。言い換えると、比較例3では、シリル化した、MOR型ゼオライト膜を含むゼオライト膜複合体を用いて、VP法に従う分離試験を行った。得られた分離係数αd、及び透過流束Fの値を、表1に示す。
・各工程で行った実施例1とは異なる操作
<種結晶付着工程>においてゼオライト種結晶として、MOR型ゼオライト種結晶(東ソー社製、NSZ-642NAA)を用いた。
<ゼオライト膜形成工程>において、鉱化剤としてのNaOHを2.16g、アルミニウム源としてのNaAlO2を0.09g、シリカ源としてのコロイダルシリカを20.13g、及び超純水34.77gを50℃で4時間にわたり撹拌し、ゼオライト膜形成用の水性ゾルを得た。なお、かかる水性ゾルの組成は、モル比で、SiO2:NaO2:Al23:H2O=36:10:0.2:960であった。水熱合成温度及び時間を、165℃、6時間とした。さらに、水熱合成を経て得られたゼオライト膜を有する多孔性支持体をブラッシングした後に、沸騰させた蒸留水で60分間煮沸洗浄してから、85℃の恒温乾燥器で12時間乾燥させた。
また、得られたゼオライト膜複合体について、上記に従って分析したところ、MOR型であった。
さらにまた、得られたゼオライト膜複合体について、実施例1の<水の分離係数αw>の項目に記載した分離試験を行って、分離係数αwを得た。結果を表1に示す。
【0060】
(比較例4)
分離試験の際の原料タンクの加温温度を50℃に変更した以外は、比較例3と同様にした。得られた分離係数αd、及び透過流束Fの値を、表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示したように、シリル化FAU型ゼオライト膜を含むゼオライト膜複合体を用いた実施例1及び2の分離方法によれば、分離係数αdの値が大きく、イソプレン及びイソペンタンを含む分岐鎖状炭化水素混合物から、イソプレン(分岐鎖状ジオレフィン)を選択的に分離することができたことが分かる。一方、シリル化していないFAU型ゼオライト膜を含むゼオライト膜複合体を用いた比較例1及び2、及び、シリル化したMOR型ゼオライト膜を含むゼオライト膜複合体を用いた比較例3及び4の分離方法では、分離係数αdの値が実施例よりも小さく、イソプレンを選択的に分離することができなかったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、炭素数が等しい、含有される炭素-炭素不飽和結合の数が異なる複数種の分岐鎖状炭化水素を含有する分岐鎖状炭化水素混合物から、分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することが可能な、分岐鎖状ジオレフィンの分離方法を提供することができる。
また、本発明の分岐鎖状ジオレフィンの分離方法に従って分岐鎖状ジオレフィンを選択的に分離することにより、分岐鎖状ジオレフィンを製造することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 試験装置
2 原料タンク
3 ゼオライト膜複合体
4 コールドトラップ
5 減圧ポンプ
6 圧力計
7 炭化水素混合物
図1